JP4152247B2 - 生体膜モデル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、生体膜モデルに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、安定性が高く、各種の膜作用性物質の構造や作用機構の解明に使用できる生体膜モデルに関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
生体内には、細胞膜と作用する数多くの膜作用性分子が存在することが知られており、それらの構造や作用機構を解明するために、従来より、ベシクルやミセルが生体膜モデルとして用いられている。
【0003】
しかし、ベシクルは、両親媒性化合物の二重膜がシェル状に集合した球体物質であり、二重膜構造を維持できるものの、調製に手間がかかる上、粒径が大きいためにNMRなどの分光学的分析に適用できないという問題があった。また、ベシクル中では膜作用性物質の性質が変化してしまうなどの問題もあった。
【0004】
ミセルは、親水性基と疎水性基を有する界面活性剤からなる集合体であり、調製が容易で安定性が高いことから、膜作用性物質の安定化媒体として広く利用されている。また、多くの膜タンパク質の構造は、ミセル溶液の状態で解明されている。しかし、ミセルは脂質二重膜構造を有さないため、ミセルにおける現象が必ずしも生体内における現象を再現しているとはいえないという問題があった。
【0005】
一方、バイセルは、リン脂質と界面活性剤の組み合わせからなる円板状のミセル状集合体であり、脂質二重膜構造を有すること(非特許文献1および2)や、その直径がリン脂質/界面活性剤の比(q値)に依存すること(非特許文献3)などが知られている。また、バイセルは磁場中で共存するタンパク質を配向させることから、各種の生体分子のNMRによる構造解析にも利用されている(非特許文献4)。さらに、バイセルは、平面状の脂質二重膜構造を有し、比較的小さいため、ベシクルとミセルの両方の利点を有するモデル膜系として注目されている(非特許文献5および6)。
【0006】
しかし、バイセルは、安定性が低く、多くの膜作用性分子によって崩壊してしまうため、これまで、生体膜モデルとして利用されるには至っていなかったのが実情である。
【0007】
【非特許文献1】
Ram, P.and Prestegard, J. H. (1988) Biochim. Biophys. Acta. 9401289-294.
【非特許文献2】
Sanders, C. R. et al. (1994) Prog. NMR Spectrosc. 26, 421-444.
【非特許文献3】
Vold, R. R. and Prosser, R. S. (1996) J. Magn. Reson. 113, 267-271.
【非特許文献4】
De Alba, E. and Tjandra, N. (2002) Prog. NMR Spectrosc 40, 175-197.
【非特許文献5】
Czerski, L. and Sandcrs, C.R. (2000) Anal. Biochem. 284, 327-333.
【非特許文献6】
Faham, S. and Bowie, J. U. (2002) J. Mol. Biol. 316, 1-6.
【非特許文献7】
Habermann, E. (1972) Science 177, 314-322.
【非特許文献8】
Dempsey, C. E. (1990) Biochim, Biophys. Acta. 1031, 143-161.
【非特許文献9】
Dufourcq. J. et al. (1986) Biochim. Biophys. Acta. 859, 33-48.
【非特許文献10】
Pott, T. and Dufourc, E. J. (1995) Biophys. J. 68, 965-977.
【非特許文献11】
Dufourcq, J. and Faucon, J. F. (1977) Biochim. Biophys. Acta. 467, 1-11.
【非特許文献12】
Sessa, G. et al. (1969) J. Biol. Chem. 244, 3575-3582.
【非特許文献13】
Benachir, T. et al. (1997) Eur. Biophys. J. 25, 201-210.
【非特許文献14】
Dufourc, E. J. et al. (1984) Biochemistry 23, 6062-6071.
【非特許文献15】
Demel, R. A. et al. (1972) Biochim. Biophys. Acta. 255, 321-330.
【非特許文献16】
Bittman, R. et al. (1984) Biochim. Biophys. Acta. 772, 117-126.
【非特許文献17】
Naito, A. et al. (2000) Biophys. J. 78, 2405-2417.
【非特許文献18】
De Rosa, M. and Gambacorta, A. (1988) Prog. Lipid Res. 27, 153-175.
【非特許文献19】
Chang, E. L. (1994) Biochem. Biophys. Res. Commun. 202, 673-679.
【非特許文献20】
Elferink, M. G. L. et al. (1994) Biochim. Biophys. Acta. 1193, 247-254.
【非特許文献21】
Redwood, W. R. et al. (1971) Biochim. Biophys. Acta. 233, 1-6.
【非特許文献22】
Garber, S. M., Lorigan, G. A. and Howard K. P. (1999) J. Am. Chem. Soc. 121, 3240.
【0008】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、安定性が高く、膜作用性物質の構造や作用機構を解明するためのモデル膜系として利用可能な生体膜モデルを提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、少なくともリン脂質成分とコレステロールを含有する水分散液と、界面活性剤成分を含有する水溶液を混合、攪拌する生体膜モデルの製造方法であって、リン脂質成分と界面活性剤成分を、リン脂質成分/界面活性剤成分= 1.8 〜 4.0 (モル比)で混合し、コレステロールを、リン脂質成分に対して 2 〜 10 mol% 混合することを特徴とする生体膜モデルの製造方法を提供する。
【0010】
また、この出願の発明は、第2には、リン脂質成分は、炭素数8〜20の脂肪族アシル基を有するホスファチジルコリンである生体膜モデルの製造方法を、第3には、界面活性剤成分は、炭素数2〜8の脂肪族アシル基を有するホスファチジルコリンである生体膜モデルの製造方法を提供する。
【0011】
この出願の発明は、第4には、前記の製造方法によって製造される生体膜モデルを提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
この出願の発明者らは、平面状の脂質二重膜構造を有し、比較的小さいバイセルを生体膜モデルとして用いることを目指し、鋭意研究を進めた。
【0014】
その際、発明者らは、ミツバチ(Apls mellifera)の毒液の主成分であるメリチン(配列番号1に示される26アミノ酸残基からなるポリペプチド;非特許文献7、8)が、膜タンパク質の構造解析に向けたモデル物質として用いられており、その構造がベシクルにおけるNMRにより検討されていることに着目した。
【0015】
具体的に、メリチンの作用機構については、ホスファチジルコリンベシクルを用いて検討されており、これまでに(1)メリチン/リン脂質(P/L) = 3.3 mol%未満では、メリチンとベシクルが安定に共存できること、(2)P/L = 3.3 mol%以上、10 mol%以下の濃度では、ゲル−液晶転移温度(Tm)付近において、メリチンが円板構造とベシクル構造への可逆的な構造変化を起こすこと、および(3)さらに高いメリチン濃度(P/L > 10 mol%)では、ベシクルが完全に崩壊し、ミセル状の複合体が形成されることが報告されている(非特許文献9、10)。
【0016】
膜作用性ペプチドであるメリチンは、細胞の脂質二重膜と自発的に結合し(非特許文献11)、赤血球の溶血(非特許文献12)を起こすことが知られている。また、純脂質ベシクルからの内部マーカーの溶出(非特許文献13)を起こすことが知られているが、溶液NMRにおいて必要な濃度のメリチン存在下でも脂質二重膜構造が保たれるというこれらの報告に対して、本願の発明者らは疑問を抱いたのである。
【0017】
そこで、本願の発明者らは、バイセルにメリチンを共存させることを検討したところ、後述の参考例に示されるとおり、NMR測定に必要な最低量のメリチンを共存させるだけでもバイセルの脂質二重膜構造が崩壊してしまうことを確認した。
【0018】
そして、そのような知見に基づき、バイセルの安定性を向上させるためにさらなる鋭意研究を進めた結果、本願発明に至ったものである。
【0019】
なお、本願において、「安定」とは、膜貫通物質やメリチンのように膜に対して毒性を示す物質に対して耐性を有することを意味する。したがって、この出願の発明の生体膜モデルは、膜貫通物質や膜毒性を示す物質の共存下でも二重膜構造を保持できるものである。
【0020】
この出願の発明の生体膜モデルの製造方法は、少なくともリン脂質成分とコレステロールを含有する水分散液と、界面活性剤成分を含有する水溶液を混合、攪拌する生体膜モデルの製造方法であって、リン脂質成分と界面活性剤成分を、リン脂質成分/界面活性剤成分= 1.8 〜 4.0 (モル比)で混合し、コレステロールを、リン脂質成分に対して 2 〜 10 mol% 混合することを特徴とするものである。
【0021】
このとき、リン脂質成分としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン等が例示される。中でも次式
【0022】
【化1】
【0023】
(ただし、Rは炭素数7〜19のアルキル基である)
で表される、炭素数8〜20の脂肪族アシル基(ここで、「炭素数」とはカルボニル炭素を含む数を表す)を有するホスファチジルコリンが好ましい。
【0024】
具体的には、1,2-ジオクタノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジノナノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジデカノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジラウロイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジミリストイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジマルガロイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジステアロイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジアラキドイル-sn-ホスファチジルコリンが例示される。
【0025】
一方、界面活性剤成分については、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、オクチルグルコシド、CHAPS(3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-1-propanesulfonate)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン等が好ましく例示される。中でも次式
【0026】
【化2】
【0027】
(ただし、R’は炭素数1〜7のアルキル基である)
で表される、炭素数2〜8の脂肪族アシル基(ここで、「炭素数」とはカルボニル炭素を含む数を表す)を有するホスファチジルコリンが好ましく例示される。
【0028】
具体的には、1,2-ジアセチル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジプロパノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジブタノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジバレロイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジヘキサノイル-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジヘプタノイル-sn-ホスファチジルコリン、および1,2-ジオクタノイル-sn-ホスファチジルコリンが例示される。
【0029】
この出願の発明の生体膜モデルの製造方法では、リン脂質成分/界面活性剤成分=1.8〜4.0(モル比)とする。なお、以下、本願明細書において、リン脂質成分/界面活性剤成分を「q値」と呼ぶことがある。q値が1.8よりも小さい場合には、脂質二重膜構造が確認されず、4.0よりも大きい場合には、沈殿を生じて散乱を起こすため分光測定には好ましくないものとなる。
【0030】
さらに、この出願の発明において製造される生体膜モデルは、リン脂質成分と界面活性剤成分に加えてコレステロールを含有するものである。
【0031】
コレステロールは、次式
【0032】
【化3】
【0033】
で表される物質であり、真核細胞の細胞膜に比較的多量に存在し、細胞膜中のアシル鎖の配向を安定化させ、パッキングを強固にしたり(非特許文献14)、リン脂質二重膜への小分子の透過性を減少させたりすることが知られている(非特許文献15、16)。
【0034】
この出願の発明の生体膜モデルにおいて、コレステロールはリン脂質成分と界面活性剤成分からなるバイセルに挿入され、コレステロール中の分枝したメチル基がリン脂質二重膜の配向に関与してバイセルを安定化させていると示唆される。また、この出願の発明の生体膜モデルの製造方法では、十分にバイセルを安定化させるためにリン脂質成分に対する含有量を2〜10 mol%とすることが望ましい。
【0035】
この出願の発明の生体膜モデルの製造方法は、以上のとおりに、少なくともリン脂質成分とコレステロールを含有する水分散液と、界面活性剤成分を含有する水溶液を混合、攪拌する生体膜モデルの製造方法であって、リン脂質成分と界面活性剤成分を、リン脂質成分/界面活性剤成分= 1.8 〜 4.0 (モル比)で混合し、コレステロールを、リン脂質成分に対して 2 〜 10 mol% 混合するものであるが、生体膜モデルとしての作用は、水中で発揮される。すなわち、この出願の発明の生体膜モデルは、リン脂質成分と界面活性剤成分とコレステロールが、水中で集合体を形成してなるものである。このとき、具体的な調製方法はとくに限定されないが、好ましくは、コレステロールを脂質成分と混合し、水分散液とした後、界面活性剤水溶液と混合する。また、攪拌は、マグネチックスターラー、ボルテックスミキサー、超音波攪拌等により行うことができるが、均一な生体膜モデルを得るためには、ボルテックスミキサーにより激しく攪拌することが望ましい。
【0036】
また、この出願の発明の生体膜モデルの構造については、発明者らの研究により、リン脂質成分と界面活性剤成分の親水性基がそれぞれ外部に、疎水性基が内部に配向し、その中にコレステロールが挿入されてなる楕円型平面であることが示唆される(例えば図1)。
【0037】
以上のとおりのこの出願の発明の生体膜モデルは、高い安定性を示し、膜作用性分子の構造や作用機構を解明する上で有用となるものである。
【0038】
具体的には、リン脂質成分や界面活性剤成分の構造を適宜変更したり、特徴的な構造を有する物質を挿入したりすることにより、特定の膜作用性分子(ペプチド、タンパク質、イオン、糖)と相互作用する生体膜モデルとすることが可能である。例えば、レセプターとして作用し得る部位をリン脂質成分や界面活性剤成分の末端に結合させたり、レセプターとなりうる部位を有する物質を、リン脂質成分と界面活性剤成分とコレステロールとともに混合、攪拌することにより、目的に応じた生体膜モデルを構築できるのである。
【0039】
したがって、この出願の発明の製造方法によって得られる生体膜モデルは、汎用性の高い生体膜モデルでもあるといえる。
【0040】
以下、実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0041】
【実施例】
以下の実施例において、各材料としては、次のものを使用した。
リン脂質およびメリチンはSigma社(St Louis, MO, U.S.A)から入手した。
コレステロールは関東化学株式会社から購入した。
リン脂質は市販品を精製せずに使用した。
【0042】
コレステロールとメリチンは市販品を精製した。精製は、各々、再結晶とCOSMOSIL 5C18-AR-11カラム20 X 250 mm(ナカライテスク株式会社)を用いたHPLC(溶出液:0.1 % TFA含有30〜100 % CH3CN、溶出速度:8 ml/min、溶出時間:30分以上)により行った。
<参考例1>
1,2-ジヘキサノイル-3-sn-ホスファチジルコリン(以下DHPC)のクロロホルム溶液を調製し、3時間にわたり真空乾燥した後、得られた粉末を水に溶解した。また、1,2-ジミリストイル-3-sn-ホスファチジルコリン(以下DMPC)を水に懸濁した。得られたDHPC水溶液とDMPC懸濁液を混合した後ボルテックスにかけ、凍結(-78℃)/融解(40℃)サイクルを数回繰り返して均一化した。
【0043】
次にこの分散液を40℃に温め、激しくボルテックスし、さらに0℃に冷却した後、透明液体が得られるまでボルテックスを続けた。
【0044】
多核プローブを装備したBruker DRX-500 NMR分光計を用いた31P NMRスペクトル(スキャン回数:通常128回)およびProtein Solutions DynaPro-MS/X動的光散乱測定器を用いた動的光散乱測定により、バイセル形態の変化を観察した。
【0045】
図2に303 K(ケルビン)におけるメリチン添加(1 mM)前後のDMPC-DHPCバイセル(ただし、[DMPC] + [DHPC] = 80 mM、DMPC/DHPC(モル比)= 3.2(以下q値とする))の31P NMRスペクトルを示した。
【0046】
メリチン添加前には、典型的な二つの異方性単一ピーク(DMPCに対する-3 ppm、およびDHPCに対する-10 ppm)が観察された(図2a)。一方、メリチンの添加後には、これらのシグナルは完全に消失し、代わりに等方性のピークが0 ppm付近に現れた(図2b)。
【0047】
また、図3に、同条件下でのメリチン添加(1 mM)前後のDMPC-DHPCバイセルの動的光散乱測定の結果を示した。
【0048】
メリチンを添加せずに得たバイセルでは、20 nmおよび100 nm付近に流体力学的半径(Rh)の分布が見られた(図3a)。Rh = 20 nmの成分は残余ミセルであったが、Rh = 100 nmの成分はバイセルであった。
【0049】
一方、メリチン添加後には、10μmオーダーのRhが現れた(図3b)。
【0050】
これより、メリチンの添加により、バイセルの脂質二重膜構造が崩壊し、等方的な巨大分子が形成されたことが示された。
<参考例2>
次に、293 K〜318 Kにおけるバイセルの脂質二重膜構造の形成について検討した。なお、測定は、試料を各温度で約15分間保持し、平衡とした後に行った。
【0051】
図4に、各温度におけるメリチン添加(1 mM)前後のバイセル(ただし、[DMPC] + [DHPC] = 80 mM、q = 3.2)の31P NMRスペクトルを示した。
【0052】
メリチン未添加のバイセルでは、303〜308 Kの温度範囲で典型的な2種類のシグナルが見られ、バイセルの形成が確認された(図4a)。しかし、メリチンを添加した場合には、いずれの温度においてもバイセルの形成が観察されなかった(図4b)。
<参考例3>
次に、バイセルの脂質二重膜構造の形成に対するメリチン添加量の影響を検討した。
【0053】
図5に各濃度のメリチンを添加した際の303 Kにおけるバイセル(ただし、[DMPC] + [DHPC] = 80 mM、q = 3.0)の31P NMRスペクトルを示した。
【0054】
q = 3.0の比較的大きなバイセルでは、メリチン添加量が0.24 mM(DMPC量に対して0.4 mol%;以下P/L = 0.4 mol%と記載する)以下の場合、バイセル特有の2種類のシグナルが確認されたが、メリチン添加量が0.30 mM(P/L = 0.50 mol%)以上の場合には、バイセルの崩壊を示す0 ppm付近のシグナルが確認された。
【0055】
一方、q = 1.8の比較的小さなバイセルの場合、メリチンによるバイセルの崩壊がP/L = 0.2 mol%で始まり、メリチン量が増大するに連れてバイセルの脂質二重膜構造がほぼ完全に崩壊することが確認された。
【0056】
また、大きなq値を有するバイセルは、小さなq値を有するものと比較してメリチンに対する安定性が高いことが示された。これより、リン脂質成分の増加(すなわちバイセル直径の増大)によりメリチンに対するバイセルの安定性が高まることが確認された。
【0057】
以上の参考例1〜3より、バイセルは、従来報告されているベシクルに比較してメリチンによる膜分解を受けやすいことが明らかになった。これは、ベシクルが球形構造を有するのに対して、バイセルが円板状の二次元構造をとるためと考えられる。
【0058】
ベシクルにメリチンを添加することにより円盤状から球状への構造変換が起こることが知られている(非特許文献17)。これによれば、Tm以下でベシクルが破砕されて形成される小さなミセル状粒子が、Tm以上では融合し、直径 > 10μmの大きなベシクルに変化する。上記の参考例2においても、破砕されたバイセルの集合体は、303 Kで平均半径が10μm以上のものとなったことから、メリチンによってバイセルが破砕されて生じる構造変化は、ベシクルと同様の機構によるものであることが確認された。すなわち、Tm以下では破砕したバイセルのミセル状粒子が形成され、Tm以上では球状の巨大粒子が形成された。
<実施例1>
コレステロールを含有するDMPCを水に懸濁し、参考例1と同様の方法によりバイセルを形成した。
【0059】
図6に、異なる濃度のメリチンを添加した際の、コレステロール存在下または非存在下におけるバイセル(ただし、[DMPC] + [DHPC] = 120 mM、q = 1.8)の31P NMRスペクトルを示した。なお、コレステロールの含有量は、DMPCに対して6.7 mol%とした。
【0060】
バイセルがコレステロールを含まない場合には、0.16 mMのメリチンを添加するだけでバイセル構造の崩壊が生じた(図6a)。
【0061】
一方、コレステロールを添加したバイセルでは、1.2 mMという高濃度のメリチンを添加した場合でも構造が維持された(図6b)。また、コレステロール添加バイセルでは、このような高濃度のメリチン存在下においても、その二重膜構造が24時間以上保持された。
【0062】
以上の結果から、コレステロールはメリチンによる分解に対して、バイセルの脂質二重膜構造を効果的に安定化させることが確認された。
【0063】
したがって、この出願の発明の生体膜モデルは、メリチン等の膜貫通ペプチドの再構成系として有用であることが示された。
【0064】
前記のとおり、コレステロールは、真核細胞の細胞膜に比較的多量に存在し、細胞膜中のアシル鎖の配向を安定化させ、パッキングを強固にすることが知られている。また、古細菌の原形質膜の主成分は、高度に分枝された疎水性鎖を有する二極性のジ−およびテトラ−エーテル脂質であり(非特許文献18)、これらの脂質は、熱安定性が高く、プロトン透過性の低い単層(テトラエーテル脂質)または二層(ジエーテル脂質)膜を形成することが知られている(非特許文献19、20)。また、1,2-ジフィタノイル-3-sn-ホスファチジルコリン等の高度に分枝した疎水性フィタン酸を有するリン脂質により形成される二重膜は、直鎖状の物質から形成される二重膜よりも安定なことが知られている(非特許文献21)。
【0065】
以上より、この出願の発明の生体膜モデルにおいて、コレステロールは、リン脂質成分と界面活性剤成分からなるバイセルに挿入されており、コレステロール中の分岐メチル基がリン脂質二重膜構造の配向に寄与してバイセルを安定化させているものと示唆される。
【0066】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、生体膜モデルが提供される。この発明の方法によって得られる生体膜モデルは、リン脂質二重膜構造を有し、安定性が高く、膜モデルとして有用である。このような生体膜モデルを用いることにより、各種の膜作用性物質の構造や作用機構に関する重要な知見が得られると期待される。
【0067】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の生体膜モデルの構造の一例を示した概略模式図である。
【図2】この出願の発明の参考例において、303 K(ケルビン)におけるメリチン添加(1 mM)前後のDMPC-DHPCバイセル([DMPC] + [DHPC] = 80 mM、DMPC/DHPC(モル比)= 3.2(以下q値とする))の31P NMRスペクトルを示した図である。(a:メリチン添加前、b:メリチン添加後)
【図3】この出願の発明の参考例において、303 K(ケルビン)におけるメリチン添加(1 mM)前後のDMPC-DHPCバイセル([DMPC] + [DHPC] = 80 mM、DMPC/DHPC(モル比)= 3.2(以下q値とする))の動的光散乱測定の結果を示した図である。(a:メリチン添加前、b:メリチン添加後)
【図4】この出願の発明の参考例において、各温度におけるメリチン添加(1 mM)前後のバイセル([DMPC] + [DHPC] = 80 mM、q = 3.2)の31P NMRスペクトルを示した図である。(a:メリチン添加前、b:メリチン添加後)
【図5】この出願の発明の参考例において、各濃度のメリチンを添加した際の303 Kにおけるバイセル(ただし、[DMPC] + [DHPC] = 80 mM、q = 3.0)の31P NMRスペクトルを示した図である。
【図6】この出願の発明の実施例において、異なる濃度のメリチンを添加した際の、コレステロール存在下または非存在下におけるバイセル([DMPC] + [DHPC] = 120 mM、q = 1.8)の31P NMRスペクトルを示した図である。(a:コレステロール非含有、b:コレステロール含有(DMPCに対して6.7 mol%))
Claims (4)
- 少なくともリン脂質成分とコレステロールを含有する水分散液と、界面活性剤成分を含有する水溶液を混合、攪拌する生体膜モデルの製造方法であって、リン脂質成分と界面活性剤成分を、リン脂質成分/界面活性剤成分= 1.8 〜 4.0 (モル比)で混合し、コレステロールを、リン脂質成分に対して 2 〜 10 mol% 混合することを特徴とする生体膜モデルの製造方法。
- リン脂質成分は、炭素数8〜20の脂肪族アシル基を有するホスファチジルコリンである請求項1の生体膜モデルの製造方法。
- 界面活性剤成分は、炭素数2〜8の脂肪族アシル基を有するホスファチジルコリンである請求項1または2のいずれかの生体膜モデルの製造方法。
- 請求項1ないし3のいずれかの方法によって製造される生体膜モデル。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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