JP4069785B2 - 電子顕微方法及びそれを用いた電子顕微鏡並び生体試料検査方法及び生体検査装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
電子線顕微鏡の画像を用いて焦点や移動量を自動的に補正する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
本出願人は、電子線顕微鏡の画像を用いて焦点や移動量を自動的に補正するか否かを判定して補正する装置また、連続移動する試料ステージでのズレ量の補正に関し、先行技術調査を行った結果、関連しそうなものが3件抽出された。1件目は、市瀬紀彦他による、日本電子顕微鏡学会第51回学術講演会予稿集(1995年5月)161頁記載の位相スペクトル法による透過電子顕微鏡の自動調整のためのドリフト補正があり、焦点・非点・軸ずれを解析する位相スペクトル法において像ドリフトの影響を解析・補正すると開示がある。しかし、ピーク重心計算による解析精度向上や相関値を用いた判定、及び試料ステージの連続移動時の焦点やドリフトの補正については何ら開示がない。2件目は特開平10−187993号であり、異なる条件で撮影した2枚の画像のフーリエ変換像の位相差から前記画像間の位置ずれを解析する装置が開示されている。しかし物体に添付されたマークから物体の姿勢や距離を測定するとした開示のみであり、電子線装置へ帰還することについては技術思想を含めて何ら開示されていない。3件目は特開平09−148932号であり、電子顕微鏡像の視差による位置ずれ量を画像処理で検出し、その結果を電子線装置へ帰還することが開示されている。より具体的には、試料が合焦点面に位置すると電子線入射角度の変化前後での画像間の移動は無いが、試料が合焦点面から外れていれば電子線入射角の変化前後で画像間の移動が発生する。αは入射電子線の振り角、Mは倍率、Csは球面収差係数をすると、位置ずれDと焦点ずれFにはD=Mα(F+Csα2)の関係があり、視差による位置ずれDが測定できれば焦点ずれFが求められる。入射角度変化前後の画像ペアをメモリに記録し、相互相関法や最小2乗法を用いて位置ずれDを解析して焦点ずれFを求め、対物レンズの焦点を補正する装置の記載はある。しかしフーリエ変換像の位相差を利用した位置ずれ解析法に関しては何ら開示されていない。電子顕微鏡の画像を用いて焦点や移動量を自動的に補正する装置では、画像の撮影条件、画像解析法、解析結果の帰還法の設定によってその性能が決定されるが、補正目的、補正精度、補正時間に合せた最適化はなされていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
視差を利用した焦点解析等、電子顕微鏡像間の位置ずれDから電子顕微鏡を自動的に補正する装置の性能は、位置ずれDの解析法に大きく依存する。相互相関法や最小2乗法等、これまで電子顕微鏡像解析に用いられてきた位置ずれ解析法は精度が電子線検出器の1画素の大きさで制限されていた。現在の電子顕微鏡像撮影に使用されるCCDカメラの1画素の一辺の長さは25μm程度である。1画素に対応する焦点ずれFは入射電子線角度及び倍率に依存するが、入射角度変化αは対物絞りの穴径に制限されるため大きくとも0.5°程度であり、倍率は実際の観察倍率でなくてはならない。例えば倍率5,000、入射角度変化0.5°では1画素の位置ずれDに対応する焦点距離は0.6μm程度である。これは熟練したオペレータによる焦点補正精度よりも低い。焦点解析で精度を向上させるために位置ずれ解析に用いる画像を細かくする等の装置性能向上を行うと、解析時間や装置コストが極端に増加するため、実用的では無い。
【0004】
また従来の位置ずれ解析法は解析が正しく実行されたかを数値的に確認する機能が無く、観察者が目測で確認していた。もしくは得られた解析結果を元に焦点補正を行い、正しく補正された事から確認するしかなかった。自動補正装置では解析が全て正しく実行される保証はないため、解析結果の信頼性が乏しい場合は補正を中止する機能が必要である。
【0005】
更に従来位置ずれ解析法はバックグラウンドの変化が大きかったり、また対物絞りの影が像に入ると解析不能になる。上記の現象はTEM観察では日常的に発生する現象であり、これによって動作不能となる事は実用上問題となる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明では電子顕微鏡像間の位置ずれ解析に、以下の解析法を採用する。
【0007】
位置ずれのある画像ペアを第1の電子線の試料への入射角を変える角度偏向手段を用いて画像ペアーを取得し、各々の画像にフーリエ変換を施し、その位相差画像を計算する。該位相差画像に逆フーリエ変換若しくはフーリエ変換を施した解析画像には、位置ずれに対応した位置にδ的なピークが発生する。解析画像にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、δ的なピーク以外は雑音成分と見なす事ができる。従ってδ的なピークの重心位置を計算すれば、δ的なピークの位置が小数点を含んでいても正しく求められる。また解析画像の強度を規格化した後計算されたδ的なピークの強度を画像の一致度を示す相関値として利用する事ができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
実施例1
図19は、本発明の実施例で使用する透過電子顕微鏡(以下略してTEM)の基本構成図である。電子銃11及びその制御回路11’、照射レンズ12及びその制御回路12’、照射系電子偏向コイル13及びその制御回路13’、対物レンズ14及びその制御回路14’、投影レンズ15及びその制御回路15’、結像系電子偏向コイル16及びその制御回路16’、電子線検出器17及びその制御回路17’、試料ステージ18及びその制御回路18’、制御ソフトと画像処理ソフトを搭載した計算機19から構成される。各制御回路は計算機19の制御ソフトから送られる制御コマンドを受信し、制御が終了すると計算機に返り値を送る。電子線検出器17はCCDカメラ等、多数の画素から構成される電子線検出器であり、得られた画像信号は画像送信用のケーブルで計算機19の記録装置もしくはフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に高速に送信される。計算機19はフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20が接続されている。
【0009】
図3にTEM像撮影のフローチャートを示す。まず電子銃11で発生した第1の荷電粒子線である電子線に加速電圧を印加し、電子ビームが光軸上を通過するように角度を偏向する角度偏向手段としての照射系電子線偏向コイル13を用いて調整し、電子線検出器17に電子線が到達する事を確認する。光軸と平行な方向をz方向、光軸と直交する面をx-y平面とする。照射系レンズ12を調整した後、試料21を挿入し、低倍率で試料21のTEM像を確認する。TEM像コントラストを増加させるために光軸に対物絞りを挿入する。投影レンズ15の倍率を増加させながら観察視野を選択し、焦点補正を行い、第2の荷電粒子線である試料を透過した電子線による像を電子線検出器17にて撮影する。
【0010】
この焦点補正における焦点解析に、視差を利用した焦点解析法を適用する。電子線を光軸とほぼ平行な第1の角度から入射して撮影した第1のTEM像と、光軸から角度αだけ傾斜させた第2の角度から入射して撮影した第2のTEM像を用いる。図4に示す様に、焦点がずれていると第1のTEM像と第2のTEM像では画像の位置ずれが発生する。焦点ずれFと視差による位置ずれDにはD=Mα(F+Csα2)の関係がある。倍率M、振り角αは操作者が設定する。球面収差係数Csは装置に固有であるので、画像ペア間の位置ずれDが測定できれば焦点ずれFを特定できる。本発明はこの位置ずれDの解析にフーリエ変換像の位相差解析に基づく解析法を適用した事を特長とする。図1に示す様に、対物レンズ14の上部に設けられた電子偏向コイル13を用いて試料に対する電子線の入射角度を変化させた第1と第2のTEM像を電子線検出器17を用いて撮影する。撮影された第1と第2のTEM像はフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に送信され、解析結果である位置ずれDが計算機19に送られる。計算機19では位置ずれDから焦点ずれFを計算し、目的の焦点に設定するために必要な対物電流Iobjを求め、それを元に対物レンズ14の焦点を補正する。
【0011】
フーリエ変換の位相成分を利用した位置ずれ解析法の説明図を図5に示す。位置ずれD=(dx,dy)のある画像ペア(S1,S2)に対し、S1(n,m)=S2(n+dx,m+dy)を仮定し、S1(n,m), S2(n,m)の2次元離散的フーリエ変換をS1’(k,l),S2’(k,l)とする。
【0012】
フーリエ変換にはF{S(n+dx,m+dy)}=F{S(n,m)}exp(idxk+idyl)の公式があるので、S1’(k,l)=S2’(k,l)exp(idxk+idyl)と変形できる。つまりS1’(k,l)とS2’(k,l)の位置ずれは位相差exp(idxk+idyl)=P’(k,l)で表現される。P’(k,l)は周期が(dx,dy)の波でもあるので、位相差画像P’(k,l)を逆フーリエ変換した画像P (n,m)には(dx,dy)の位置にδ的なピークが発生する。(dx,dy)が小数点を持つ場合、例えば(dx,dy)=(2.5,2.5)ではδ的なピークの強度は(2,2),(2,3),(3,2),(3, 3)に等しく配分される。画像P(n,m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、前記4つの画素強度の重心を計算すれば、δ的なピークの位置が小数点を含んでいても正しく求められる。従来解析法である相互相関法は、|S1’||S2’|を解析画像とし、該解析画像で最大値を持つ位置から位置ずれを解析していた。該解析画像には位置ずれ情報と共に画像強度つまり振幅情報が混在するため、重心計算を行っても位置ずれ解析精度が向上する事はない。なお振幅の情報を全て除去するのではなく、S1’(k,l)・S2’(k,l)*=|S1'||S2'|exp(idxk+idyl)の振幅成分にlog若しくは√の処理を施して振幅成分を抑制した画像を計算し、該画像に逆フーリエ変換を施しても位置ずれベクトルの位置(dx,dy)にδ的なピークが発生するので、該画像で位置ずれ解析を行っても良い。位相差画像P’(k, l)をフーリエ変換しても(−dx,−dy)にδ的なピークが発生するので、位相差画像P’(k,l)のフーリエ変換像で位置ずれ解析を実行しても良い。またフーリエ変換の変わりに、他の直交変換を用いて位置ずれに対応したピークを持つ画像を計算してもよい。
【0013】
なおS1(n,m)とS2(n,m)における差が位置ずれだけではなく、雑音成分やバックグラウンドの変化を含んでいても、また入射電子線角度変化による多少の像変形を含んでいても、S1(n,m)とS2(n,m)における共通部分が十分あれば位置ずれ解析は可能である。この場合δ的なピーク以外は雑音成分と見なされる。画像P(n,m)全体の強度を規格化した後、δ的なピークの強度を計算すると、画像ペア間で一致しない部分つまり雑音成分が多くなるとピーク強度は弱くなる。一致部分が多いとピーク強度は強く、一致部分が少ないとピーク強度は弱くなるので、このピーク強度を画像ペアの一致度を示す相関値として明示すれば、操作者は雑音成分比つまり解析結果の信頼性を同定する事ができる。相関値の下限値を設定し、計算された相関値が下限値以下であれば対物レンズの調整は行わないように設定しておけば、誤動作の防止になる。
【0014】
更に上記位置ずれ解析法は画像の位相成分を利用した解析法であるので、バックグラウンド変化の影響を受け難いという特長もある。従来位置ずれ解析法では画像ペア間で照射電流密度の分布等によるバックグラウンドの差があると解析不能となったが、本発明で用いた位置ずれ解析法では解析可能である。また従来位置ずれ解析法は対物絞りの影等が画像に混入すると、解析不能となったが、本発明で用いた位置ずれ解析法では対物絞りの影が多少混入しても、画像ペアの共通部分が十分存在すれば、解析可能である。自動補正装置はTEM操作に不慣れな人間の利用が考えられるので、TEM調整が多少不備であっても動作可能である事は重要である。
【0015】
上記位置ずれ解析を実行するために、TEM像をCCDカメラ等の電子線検出器17で取り込まれる。電子線検出器17で検出された信号はアンプで増幅された後、量子化され、計算機19もしくはフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に送られる。ここでアンプのゲインとオフセットの設定が不適切であると量子化の際に画像の特徴の多くが除去されてしまう。電子線検出器17には画像強度平均値や分散を計算し、それらが指定された値になるように検出器アンプのゲインとオフセットを用いて自動調整する機能が付加されている。なおゲインとオフセットでは指定された平均値と分散に達しない場合もあるので、コントラスト調整不足の場合は操作者に警告を送り、視野の変更、TEM本体の再調整等の判断を仰ぐ機能も付加されている。
【0016】
図6にTEMで使用する電子線検出器17の基本構成図を示す。シンチレータ71、結合部分72、CCDカメラ73で構成されている。シンチレータ71に照射された電子は光子を発生させる。発生した光子は多数の光ファイバーを束ねた結合部分72を通り、位置情報を保持したままCCDカメラ73に伝達される。CCDカメラ73は2次元に配列された多数の画素から構成されている。CCDカメラ73に到達した光子により生成された電荷が各画素に蓄積される。蓄積された電荷が各画素の出力信号として読み出される。各画素のゲインつまり1個の入射電子による出力信号強度は、シンチレータ71の発光効率、結合部分72の伝達効率、CCDカメラ73の量子効率により決定される。各々の定数は各画素によってバラツキがあるため電子線検出器17には固定パターンが形成されている。
【0017】
固定パターンのある電子線検出器17で取り込まれた画像には、試料構造を反映した第1のコントラスト共に電子線検出器17の固定パターンを反映した第2のコントラストが記録される。固定パターンのある電子線検出器17で記録された画像に上記位置ずれ解析を適用した場合、試料構造を反映した第1のコントラストは画像ペアS1(n,m)とS2(n,m)との間で移動するが、電子線検出器17の固定パターンを反映した第2のコントラストは移動しないため、解析画像P(n,m)には、試料構造による第1のピークが位置ずれに対応した位置に、それと共に固定パターンによる第2のピークが原点に発生する。TEM像の様に試料構造のコントラストが非常に低い画像では、固定パターンによる第2のピーク強度が試料構造による第1のピーク強度よりも大きくなる場合が多い。上記位置ずれ解析法がこれまで適用されてきたのは、光学装置で撮影したシャープネスやコントラストの高い画像であり、固定パターンの影響はほとんど無かったので、解析画像P(n,m)内で強度最大のピークが解析結果であると判定できた。しかしTEM像では固定パターンの影響は無視できず、強度最大のピークを解析結果とする従来のピーク判定法では、固定パターンによる第2のピークを解析結果と判定し、位置ずれ無しのと解析結果を出す場合が多い。
【0018】
CCDカメラ制御ソフトには、予め撮影された固定パターンで画像を除算し、固定パターンの影響を低減するゲインノーマライズ等の前処理が用意されている事がある。しかし固定パターンは径時変化するので定期的に更新する必要がある。固定パターンの影響を低減するためには常にメンテナンスをする必要がある。またメンテナンスを行っていても、電子線照射量等、個々の撮影条件の違いによる固定パターンの変化は避けられない。ゲインノーマライズだけでは固定パターンの影響を低減する事は出来ても、除去する事は困難である。電子顕微鏡像の様に試料構造のコントラストが低い画像では、画像ペアS1(n,m)及びS2(n,m)にゲインノーマライズ等の画像処理を施しても、試料構造による第1のピークよりも固定パターンによる第2のピークの強度が大きくなる場合がある。
【0019】
TEM像の位置ずれ解析では、試料構造による第1のピークと共に固定パターンによる第2のピークを有する解析画像から、試料構造による第1のピークを自動的に判定する工程を付加する必要がある。ピーク自動判定には以下の2つのアルゴリズムがある。いずれも固定パターンによる第2のピークは必ず原点に発生するという特長を利用している。
【0020】
まず、1つの方法は固定パターンによる第2のピークは必ず原点に発生するので、原点の強度を0若しくは他の一定値に置換する原点マスクを適用する方法である。ただし、第1のピークが原点に発生する場合もあるので、原点マスクを適用するか否かの判断が必要である。ここで図7に示す具体例を想定し、ピーク判定のフローを説明する。試料構造による第1のピーク31の位置D1と強度I1、固定パターンによる第2のピーク32の位置D2と強度I2を仮定する。D2=0であるので、想定されるケースとしては|D1|>0かつI1>I2の場合(図7(a))、|D1|>0かつI1<I2の場合(図7(b))、|D1|〜=0の場合(図7(c))がある。夫々の場合について解析画像P(n,m)を規格化して検索された強度最大のピーク33の強度Iと、解析画像P(n,m)に原点マスクを施した後、規格化して検索された強度最大のピーク34の強度I’を比較する。図7(a)の場合、第2ピークの強度が無視出来るほど小さければ、原点マスク適用前後で強度最大のピークの強度は変化しないし、第2ピークの強度が強ければ、原点マスク適用によって第2ピーク32に振り割れられていた強度が第1ピーク31及び雑音成分35に移るので、I≦I’となる。図7(b)の場合、原点マスク適用前には第1ピーク31と第2ピーク32に振り分けられていた強度が第1ピーク31にまとめられるので、I<I’となる。一方図7(c)の場合、原点マスクを施すと第2ピーク32と共に第1ピーク31にまで除去してしまい、雑音成分35のみ増加するため、I>I’となる。以上、原点マスク適用前後の解析結果の比較から第1ピーク31を判定することが出来る。図8(a)にそのピーク判定工程のフローを示す。原点マスク適用前後の強度最大のピークの強度つまり相関値を比較し、原点マスク適用によって相関値が減少した場合は原点マスク適用前の結果を採用し、原点マスク適用によって相関値が増加若しくは変化しなかった場合は原点マスク適用後の結果を用いる。
【0021】
第2の方法として、解析画像P(n,m)内には2つのピークがあると仮定し、2つのピークの位置及び強度を出力するように設定しておく方法がある。なお、ピークが2つあると各々の相関値が小さくなってしまうので、相関値下限は再設定した方が良い。図8(b)に2つのピーク検出工程のフローを示す。図7(a)及び図7(b) では相関値下限より大きいピークは第1ピーク31と第2ピーク32であるので2つのピークが出力される。|D1|>|D2|=0であるので、出力されたピークのうち位置すれ量が大きい方を選択すると、第1のピークを選択する事になる。図7(c)の場合は、第1のピークと第2のピークが重なっているので、P(n,m)内に1つのピークしか存在しない。下限値より相関値の大きいピークが1つしか存在しなければ、そのピークを解析結果とする。
【0022】
次に振り角αの設定であるが、視差による位置ずれDから焦点ずれFを求める際に、試料に入射する電子線の振り角αが用いられるので、該振り角αを正確に設定する必要がある。振り角αの測定は金やシリコン等、格子定数が既知の結晶性試料の回折像を用いて行う。格子定数が既知であるので、入射電子線の波長が分かれば、回折像の1画素当たりの散乱角度が計算できる。第1の入射角度で撮影された第1の回折像と第2の入射角度で撮影された第2の回折像における位置ずれDαを解析し、該位置ずれDαと1画素当たりの散乱角度の積を計算すれば、入射電子線の振り角αの実測値となる。入射電子線の振り角αは照射系電子偏向コイル13の電流値IBTとほぼ比例関係にあるが、図19に示す様に照射系電子偏向コイル13は対物レンズ14の上部に設けられているため、対物レンズ14の電磁界によっても試料に入射する角度は変化してしまう。入射電子線の振り角αの算出式には対物レンズ14の励磁電流Iobj値をパラメータとした補正項を導入する必要がある。例えばα=A*IBH+B*Iobj*IBHを用いる。ここでA及びBは装置固有の定数である。
【0023】
また振り角αの大きさであるが、振り角αが大きいほど画像の位置ずれDに対応する焦点ずれFが小さくなり、焦点ずれFの解析精度向上が期待されるが、画像ペアにおける共通部分の減少は誤動作の原因となる。共通部分が画像全体の半分以下になると相関値が減少し、解析結果の信頼性は極端に減少するので、視差による位置ずれDはCCDカメラの一辺の長さの半分以下に設定する必要がある。なお同じ倍率でも想定焦点ずれ範囲が広い場合、つまり粗調整では振り角αを小さく設定し、想定焦点ずれ範囲が狭い場合、つまり微調整では振り角αを大きく設定する。例えば想定焦点ずれ範囲が20μm範囲、電子線検出器の一辺の大きさが2cm、倍率が50,000であれば振り角αは0.5°以下にする必要がある。
【0024】
なお焦点ずれFが予想以上に大きかったため2枚の画像の共通部分が少なくなり、解析不能となる場合がある。この様な事態に対処するために、ピーク強度の下限値を設け、計算されたピーク強度が前記下限値以下になった場合は倍率を下げ、共通部分を増加させて焦点の予備補正をし、焦点ずれ量Fを小さくした後に元の倍率に戻して再測定を行うフローを設けておく。また共通部分を増加させる方法として振り角αを小さくする方法もある。
【0025】
またTEMでは像コントラストを増加させるために光軸に対物絞りを挿入して観察する場合が多い。電子線の入射方向を変化させると電子線が光軸から外れるため絞りを通らなくなる可能性がある。第1の入射角度の電子線も第2の入射角度の電子線も共に絞りを通過するためには、振り角αは絞りの穴径よりも小さく設定しなければならない。例えば〜10μmの穴径の絞りであれば振り角αは0.5°以下に設定する必要がある。
【0026】
また第2のTEM像は入射電子線を傾斜させた状態で撮影することになるので、入射電子線の振り角αが大きすぎると第2のTEM像は軸ずれの影響で像が歪んでしまい、第1のTEM像との共通部分が極端に減少するため解析不能となる場合がある。この場合振り角αを小さく設定し直す必要がある。
【0027】
倍率Mも焦点ずれFの計算に必要である。TEMには通常5%程度の倍率誤差がある。
【0028】
またシンチレータ71とCCDカメラ73の結合部分72に光学レンズが用いられる場合、光学レンズの倍率誤差も発生する。そこで倍率にM(1+Δ)つまりΔの誤差があった場合の焦点解析誤差への影響を考察する。例えば位置ずれD1が計測されたとする。本来の焦点ずれF1はD1/[M(1+Δ)α]-1−Csα2であるが、焦点ずれF1’=D1/[Mα]-1−Csα2と計算される。倍率誤差による焦点ずれFの解析誤差はF1−F1’ =−ΔD1/(1+Δ)Mαとなる。つまり倍率誤差による焦点解析誤差は位置ずれ量D1に比例する。つまり位置ずれD=0となる時、倍率誤差による焦点解析誤差は最も小さくなる。そこで位置ずれD=0となる、Fs=−Csα2への焦点補正を繰り返してみる。焦点ずれF1’が解析された後、焦点をFsと設定しようとすると、(F1−F1’)+Fsと設定される。この状態で位置ずれD2を測定すると、D2=-ΔD1となる。TEMの倍率誤差Δは5%程度であるので、数回焦点補正を繰り返せば位置ずれD〜=0に収束する。以上、位置ずれD=0になるように対物レンズを補正した後、指定したオプティマムフォーカスに設定するフロートとすれば、倍率誤差による焦点解析誤差が充分小さくなる事が分かる。なお、位置ずれD=0ではなく位置ずれD=0近傍、例えばF=0となるD=MCsα3にした後、オプティマムフォーカスに設定するフローとしても良い。この場合、倍率誤差の影響低減と共に、固定パターンによる第2のピークの影響低減も図られる。また焦点ずれF=0の補正回数が2回目以上に設定されている場合、n回目に解析された焦点ずれFnの方がn-1回目に解析された焦点ずれFn-1より大きくなると、焦点補正を中止しする機能も付加されている。これによって補正回数を必要最小限に抑える事ができる。
以上を考慮し、図9に示すフローチャートに従って焦点補正を実行する。まず焦点解析を行う視野を選択する。この選択には観察倍率や対物絞りなどの設定も含める。次にオプティマムフォーカス、相関値下限、振り角α及び補正回数の設定を図2に示す画面を用いて行う。計算機にはオプティマムフォーカス、相関値下限、振り角α及び補正回数の推奨値つまり初期値が設定されているが、必要に応じて操作者が値を変更できる様になっている。オプティマムフォーカスは通常F=0に設定されているが、試料によってはアンダーフォーカスで観察した方が良い場合もある。また振り角αは、穴径〜10μmの対物絞りを通過できる最大値振り角である0.5°に設定されているが、視野によっては入射電子線角度変化による像歪みの影響が大きく、振り角αを小さく設定した方が良い場合もある。相関値下限も解析画像の画素数などの撮影条件に依存する。振り角αや相関値を最適化するために、焦点解析のみで焦点補正は行わないモードを設けておく必要がある。振り角αは0.2〜0.5度が一般に使用される。振り角αの下限及び許容精度上限は装置の性能で決まる。図2の画面に示した補正回数設定を0にし、焦点補正実行ボタン93をクリックすれば計測のみを行う。また、操作者がパラメータ変更中に推奨値を忘れてしまった場合は、初期設定のボタン92をクリックすると推奨値が呼び出される様になっている。
【0029】
パラメータ設定終了の後、電子線検出器17を用いて画像ペアを撮影する。従来TEMの焦点ずれ検出装置は入射電子線の角度を照射系電子偏向レンズ13を用いて正弦波的に振動させた時のTEM像の振動を操作者が観察するという構成であった。しかしTEM像が常に振動するという従来の回路構成では画像の取り込みが行えない。第1のTEM像取り込みを指示する信号を受信した後、画像の取り込みを開始し、該画像取り込みが終了した事を示す信号を受信した後、入射電子線の角度を第2の角度に変更し、該変更が終了した事を示す信号を電子線検出器が受信した後、第2の画像の取り込みを行う制御系が必要である。上記制御系を用いて撮影した画像ペアから解析画像P(n,m)を計算し、位置ずれに対応したピークを特定する。
【0030】
なお位置ずれによるピークが特定できなかった場合は、焦点補正を中止し、操作者に次の行動の指針を与えるためにその原因を推測するフローが設けてある。位置ずれが解析できなかった原因として、視野内に試料が存在しない、画像が非常にボケている等、各々の画像に問題がある場合と、入射電子線の傾斜角度が大きすぎたために位置ずれDが大きくなり過ぎた、入射電子線角度変化の影響で画像が歪んだ等、画像ペア間での共通部分の減少が原因になる場合がある。その判断のために、入射電子線の角度を第1の角度とし、結像系電子偏向コイル16を用いて画像を既知量だけ平行移動させた第4のTEM像を撮影し、第1のTEM像と第4のTEM像で位置ずれ解析を行う。第1のTEM像と第4のTEM像で位置ずれ解析不能であれば、視野内に試料が存在しない、画像が非常にボケている等、各々の画像に問題があると考えられる。これに対しては倍率を下げ、低倍率で予備補正を実行する指示を出す。倍率を下げれば視野が広がるので、視野内に試料が存在する確率が高くなる。また低倍率では焦点ずれによる像ボケ影響が低減され、像のシャープネスが向上するので、位置ずれ解析が可能となる。第1のTEM像と第4のTEM像で位置ずれ解析可能であれば、画像ペア間での共通部分減少が原因と考えられるので、振り角αを小さくする指示を出す。エラーメッセージは図2(b)の様に画面に表示し、解析できなかった焦点ずれFは表示せず、相関値のみ表示する。
【0031】
位置ずれに対応したピークが特定できたら、該ピークから位置ずれDを求め、D=Mα(F+Csα2)の関係を用いて焦点ずれFを計算し、対物レンズ電流の調整を行う。対物レンズ電流と焦点位置の関係は投影レンズの設定つまり観察倍率によって異なるので、各観察倍率で対物レンズ電流と焦点位置の関係表もしくは関係式が計算機に記録されている。前記関係表もしくは関係式を用い、設定された焦点にするために必要な電流を求め、対物レンズ電流を調整する。焦点補正回数が2回以上に設定されていれば、再び画像ペアを撮影して焦点を解析し、対物レンズ電流を調整する。
【0032】
本発明における自動焦点補正システムはデジタルシグナルプロセッサであるフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20が搭載されており、従来のアプリケーションソフトでは2sec程度かかっていた256×256画素の画像の位置ずれ解析が、30msec以下で実行可能となっている。電子線検出器17による画像取り込み、照射系電子偏向コイル13、及び対物電子レンズ14の変更を含めた一回の補正を1秒以下で実行できる様になっており、連続自動補正が可能になっている。図2に示した連続実行ボタンをクリックすると連続焦点補正が始まり、焦点補正の停止を支持するボタンをクリックすると焦点補正は停止する。もしくは連続実行ボタンをクリックすると連続焦点補正が始まり、再び連続実行ボタンをクリックすると連続焦点補正は停止する。若しくは焦点補正実行ボタン93をダブルクリックすると連続焦点補正が始まり、再び実行ボタン93をクリックすると連続焦点補正は停止する。連続焦点補正実行中は、試料ステージを移動させて視野を変化させてもオプティマムフォーカスに自動的に設定される。なお試料ステージを移動させながら第1のTEM像と第2のTEM像を撮影すると、視差による位置ずれDと共に試料移動による位置ずれDsが混入するため焦点補正解析精度は劣化するが、目的の視野が見つかると試料ステージ移動を停止させて観察を始めるので、試料観察に必要な焦点補正精度を得る事ができる。試料ステージ移動による補正精度劣化が問題となる場合、n回目の焦点解析のために撮影された第1のTEM像と、n-1回目の焦点解析のために撮影されは第1のTEM像の位置ずれから試料ステージの移動速度を測定しn回目の測定における第1のTEM像と第2のTEM像の間の試料移動による位置ずれDsを予測し、第1のTEM像と第2のTEM像の位置ずれD+Dsより試料移動による位置ずれDsを差し引く事によって視差による位置ずれDを抽出し、焦点を解析する。
【0033】
本システムには相関値が下限値以下の場合は焦点を変化させないという誤動作チェック機能が備わっている。TEM像は一般にS/Nが低く、S/Nが低い画像では位置ずれ解析不能となる確率が高くなる。位置ずれ解析不能となった原因が確率的なものであれば、次の解析では正しい解析結果が得られる可能性は高い。そこで焦点解析におけるエラー回数の上限値を設定し、相関値が下限値以下となる回数が上限を超えると、絞りなどで電子線が遮られたため、試料構造のTEM像が電子線検出器に取り込まれていない等のアクシデントがあったと判断し、画面にエラーメッセージが表示する機能が付加されている。
【0034】
焦点補正連続動作中、第1の入射角度による第1のTEM像と第2の入射角度による第2のTEM像が交互に画面に表示されるが、処理が高速化してくると交互表示が画面のチラツキと感じられるようになり、操作者に不快感を与えたり、微細構造の観察の支障となってくる場合がある。そこで、画面に表示するのは第1の入射角度で観察されたTEM像のみとし、第2の入射角度で観察されたTEM像は画面には表示しない回路構成とする。または第1の入射角度で観察されたTEM像と第2の入射角度で観察されたTEM像を別の画面に表示する回路構成とすると、入射電子線の軸ずれによる像歪みの影響を必要に応じて確認することもできる。
実施例2
図19に自動検査装置で用いたTEMの基本構成図を示す。電子銃11及びその制御回路11’、照射レンズ12及びその制御回路12’、照射系電子偏向コイル13及びその制御回路13’、対物レンズ14及びその制御回路14’、投影レンズ15及びその制御回路15’、結像系電子偏向コイル16及びその制御ソフト16’、電子線検出器17及びその制御回路17’、試料ステージ18及びその制御回路18’、制御ソフトと画像処理ソフトを搭載した計算機19から構成される。各制御回路は計算機の制御ソフトから送られる制御コマンドを受信し、制御が終了すると計算機19に返り値を送る。照射電子偏向コイル13及び照射電子偏向コイル16を用いてTEM像を平行移動させるイメージシフト機能が設けられている。電子線検出器17はCCDカメラ等、多数の画素から構成される電子線検出器であり、得られた画像信号は画像送信用のケーブルで計算機19の記録装置もしくはフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に高速に送信される。計算機19にはフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20が接続され、パターン検査・計測用ソフトが搭載されている。
【0035】
図10にTEMを用いた自動検査装置の処理フローを示す。まず電子銃11で発生させた電子に加速電圧を印加し、電子ビームが光軸上を通過するように照射系電子線偏向コイル13を用いて調整し、電子線検出器17に電子線が到達する事を確認する。光軸と平行な方向をz方向、光軸と直交する面をx-y平面とする。照射レンズ12の調整を行った後、試料室に試料21を挿入する。試料21は電子線が通過する様に薄片化した後、メッシュ22と呼ばれる金属製の支持具に固定されている(図11(a))。メッシュ22を試料ホルダーに置き、該試料ホルダを試料ステージに乗せて観察する。メッシュ22の直径は3mm程度であり、方向や位置を正確に指定して試料ホルダーに乗せる事は困難である。そこで低倍率で観察したメッシュ22の像を記録し、図12のフローに従ってメッシュ22の方向、位置及び形状を解析する。電子が通過できるのはホール23と呼ばれる穴の領域である。まず取り込まれた画像を2値化し、連結成分を求め、各領域のラベル付けを行う(図11(b))。次に各ラベル領域の面積を計算する。ホールの大きさはほぼ一定であるので、面積の最頻値をホールの面積と特定できる。具体的には図11(b)の様にラベル付けられた領域のうち、最頻値近傍の面積を持つ領域はホール全体が写っている4,5, 7,8,9,12,13のラベル領域である。メッシュ22の方向を解析するためにホール23全体が写っているラベル領域の重心24を計算する。各領域の重心間の距離が最小となる組み合わせを求める(図11(c))。例えばラベル領域4の重心24と最も近いのはラベル領域5とラベル領域8の重心24である。ラベル領域4とラベル領域5の重心24を結ぶ方向をx方向、ラベル領域4とラベル領域8の重心24を結ぶ方向をy方向と特定する。またホール23の形状は既知であるので、ホール23の面積からホール23の1辺の長さHが計算できる。また最近接重心の間隔からホール23の一辺の長さHを引けば、メッシュ22の幅Mが計算される。以上の工程終了後、メッシュ22のxy方向と画面の水平垂直方向を一致させた画面が表示される。メッシュ22の各ホール23に番号が表示されている。操作者はこの表示にてラベリングが正しく実行されている事が確認できる。またこの番号を用いて試料21が存在する、つまり検査を行うホール23の位置を指定し、それ以外のホールでは検査しないように設定し、検査時間の短縮を図る事もできる。
【0036】
ホール内の試料の有無は画像処理により自動的に判断する事もできる。この判断にはホール内の画像強度のヒストグラムやフーリエ変換像を用いる。フーリエ変換像を用いる判断では、フーリエ変換像における高周波成分の割合で判断する。図17(b)に示す様に解析エリア内に試料が存在しないと、照射電子電流密度の分布等によって画像強度に多少の変動はあるが、そのフーリエ変換像には低周波成分しか存在しない。試料、特に生物試料の様に微細な構造を持つ試料が存在すると、フーリエ変換像における高周波成分の割合が増加する(図17(a))。低周波成分に対する高周波成分の割合が一定値以上になると、解析エリア内に試料が存在すると判断する。画像強度のヒストグラムを用いる判断では、画像強度のヒストグラムに存在するピークの数によって試料の有無を判断する。ホール内に試料が存在しないと照射電子電流密度の分布等によって画像強度に多少の変動はあるが、ピークは1つしか存在しない(図13(b))。一方ホール内に試料が存在する画像強度のヒストグラムに複数のピークが存在する(図13(a))。従って画像強度ヒストグラムにおけるピークが複数個存在するとホール内に試料が存在すると判断する。なお、試料コントラストが非常に低いためピークがオーバーラップしてしまう試料では、ビークの半値幅を元に試料の有無を判断する。
【0037】
メッシュ22の方向や形状を解析する前に、試料ホルダの高さを調整しておいた方が良い。試料ステージ18の設定不備等により、対物レンズが設定可能な焦点範囲外に試料ホルダが置かれている可能性もある。焦点範囲内に置かれていても、対物レンズ電流を大きく変化させるとレンズ条件変化のため倍率等が変化してしまうので、試料ホルダの高さはほぼ一定とした方が良い。後述する焦点解析装置で試料ホルダの高さを解析し、試料ステージ制御機構18’を用いて試料ホルダの高さを自動調整する機能が付加されている。
【0038】
また試料ステージ18の設定不備により、試料ホルダが傾斜して挿入されている場合もある。試料ホルダが大きく傾斜していると、メッシュ22内のホールの位置によって観察条件が変わってしまう。そこでメッシュ22から複数の地点を選択し、その地点の位置と焦点ずれ解析結果から求めた試料高さを記録する。各位置の試料高さから試料ホルダの傾斜角度を計算し、試料ホルダの傾斜角度を調整する。試料ステージ制御機構18’には試料ホルダ傾斜の自動補正機能も付加されている。
【0039】
次に検査項目の設定を行う。生物の自動検査ではウィルスの形状や個数を検索する場合が多い。各ウィルスによって画像前処理や測定すべき幾何的特徴等の検査項目が設定され、計算機19にマクロプログラムとして記録されている。例えば試料内に分散した直径約20nm〜30nmの球形ウィルスの数と各々の直径を測定する場合について考察する。検査すべき情報はウィルスの個数と直径のみであるので、ウィルスを濃く染色した試料のTEM像を電子線検出器17で取り込み、取り込まれた画像を2値化する事によって染色領域つまりウィルスを抽出し、幾何的特徴解析を用いてウィルスの直径を測定する。まず、この目的に合せ、解析エリアの大きさが設定される。ウィルス検査に用いる画像の画素数は512×512であり、直径を1割り程度の誤差で測定する場合、1つのウィルスの直径が10画素程度になるためには解析エリアの1辺の長さは1μm程度が適当である。ホールの1辺の長さが30μmであれば、1つのホールは30×30エリアに、数え落としを防止するためにエリア間に30nm程度の重なり領域を設定すると31×31エリア分割される。エリア分割が終了すると図11(d)の様な画面が表示され、解析エリアが示される。
【0040】
全ての解析エリアに試料が存在するとは限らないので、解析エリア内に試料が存在しなければ、すぐに次の解析エリアに移動した方が検査時間の短縮になる。エリア内の画像強度のヒストグラムやフーリエ変換像を用い、解析エリア内の試料の有無を判断する機能も装備されている。上述の様にウィルスのみが濃く染色される試料作製法を用いたので、試料が存在する領域と存在しない領域の画像強度が異なると仮定できる。解析エリア内に試料が存在すると、図13(a)に示す様に画像強度のヒストグラムは複数のピークを持つ。図13(b)に示す様に解析エリア内に試料が存在しないと、照射電子電流密度の分布等によって画像強度に多少の変動はあるが、ピークは1つしか存在しない。従って画像強度のヒストグラムに存在するピークの数によって、ウィルスの有無を判断できる。フーリエ変換像を用いる判断では、フーリエ変換像における高周波成分の割合で判断する。図17(b)に示す様に解析エリア内に試料が存在しないと、そのフーリエ変換像には低周波成分しか存在しないが、生物試料の様に微細な構造を持つ試料が存在すると、フーリエ変換像における高周波成分の割合が増加する(図17(a))。低周波成分に対する高周波成分の割合が一定値以上になると、解析エリア内に試料が存在すると判断できる。
【0041】
1辺が30μmホールでは対角線の距離が42μmであるので、試料ホルダが1°傾斜していたとするとホール内で0.74μm焦点ずれが発生する。TEM像のコントラストは焦点ずれに敏感であり、サブミクロン焦点ずれがあると画像コントラスト変化や画像ボケが発生するので、ウィルス検査は常に一定のフォーカスで撮影された像で行う必要がある。ウィルス検査を開始する前に、サブミクロン精度の焦点補正を行う必要がある。
【0042】
この焦点補正における焦点解析に、視差を利用した焦点解析法を適用する。電子線を光軸とほぼ平行な第1の角度から入射して撮影した第1のTEM像と、光軸から角度αだけ傾斜させた第2の角度から入射して撮影した第2のTEM像を用いる。図4に示す様に、焦点がずれていると第1のTEM像と第2のTEM像では画像の位置ずれが発生する。焦点ずれFと視差による位置ずれDにはD=Mα(F+Csα2)の関係がある。倍率M、振り角αは操作者が設定する。球面収差係数Csは装置に固定であるので、画像ペア間の位置ずれDが測定できれば焦点ずれFを特定できる。視差による位置ずれ解析法としては、従来、相互相関法や最小2乗法などが用いられてきたが、位置ずれ解析法は解析精度が1画素以下にはならず、十分な焦点解析精度が得られなかった。本発明はこの位置ずれDの解析にフーリエ変換像の位相差解析に基づく解析法を適用した事を特長としている。図1に示す様に、対物レンズ14の上部に設けられた角度偏向手段13を用いて試料に対する電子線の入射角度を変化させた第1と第2のTEM像を電子線検出器17を用いて撮影する。撮影された第1と第2のTEM像はフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に送信され、解析結果である位置ずれDが計算機19に送られる。計算機19では位置ずれDから焦点ずれFを計算し、目的の焦点に設定するために必要な対物電流Iobjを求め、それを元に対物レンズ14の焦点を補正する。
【0043】
図5に本発明に適用した位置ずれ解析法の説明図を示す。位置ずれD=(dx,dy)のある画像ペアS1(n,m)=S2(n+dx,m+dy)を仮定し、S1(n,m), S2(n,m)の2次元離散的フーリエ変換をS1’(k,l), S2’(k,l)とする。フーリエ変換にはF{S(n+dx,m+dy) }=F{S(n,m)}exp(idxk+idyl)の公式があるので、S1’(k,l)=S2’(k,l)exp(idxk+idyl)と変形できる。つまりS1’(k,l)とS2’(k,l)の差は位相差exp(idxk+idyl)=P’(k,l)で表現される。P’(k,l)は周期が(dx,dy)の波でもあるので、位相差画像P’(k,l)を逆フーリエ変換した画像P(n,m)には(dx,dy)の位置にδ的なピークが発生する。画像P(n,m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、δ的なピークの強度の重心を計算すれば、δ的なピークの位置が小数点を含んでいても正しく位置を求められる。
【0044】
画像P(n,m)全体の強度を規格化した後、δ的なピークの強度を計算すると、雑音成分つまり画像ペア間で一致しない部分が多い場合はピーク強度が弱くなる。このピーク強度を相関値として明示すれば、操作者は雑音成分比つまり解析結果の信頼性を同定する事ができる。自動補正装置では全てのエリアで必ず正しい解析が行われる保証はない。そこで相関値の下限値を設定し、計算された相関値が下限値以下であれば対物レンズの調整は行わず、解析エリアの番地と共に相関値を記録しておく。例えば試料ステージ移動中の誤動作によってメッシュの位置がずれた場合、ホール23の端には取り込まれたTEM像の半分以上がメッシュ22になってしまい、画像ペアの共通部分が減少したため、解析不能となる解析エリアの列ができる。操作者は自動検査終了後、解析不能となった解析エリアの分布から、試料ステージの誤動作によって解析エリアにメッシュが混入した事、及びどの時点でステージの誤動作が発生したかを推測する事ができる。位置ずれ量Dが解析できたら、D=Mα(F+Csα2)の関係を用いて焦点Fを計算し、設定されたオプティマムフォーカスにするために必要な電流を求め、対物レンズ電流の調整を行う。対物レンズ補正後、再び視差による焦点解析を行い、その位置ずれ解析における相関値と対物レンズ電流を解析エリアの番地と共に記録すると、検査状態を更に詳しく記録する事ができる。オプティマムフォーカスにおける対物レンズ電流から試料の高さ分布を求める事ができる。また同じ位置ずれDで計算された相関値を用いると、シャープネス等の画質を比較する事もできる。
【0045】
焦点補正終了の後、図14に示すフローに従いウィルス検査を実行する。検査用のTEM像を新たに撮影しても良いが、オプティマムフォーカスで撮影した入射電子線角度1におけるTEM像がすでに記録されているので、これをウィルス検査に用いると撮影時間の短縮になる。ウィルス検査では、まずTEM像を2値化し、連結成分を求め、領域のラベル付けを行う。次に各ラベル領域の面積を計算し、面積一定値以下の領域は雑音と判断し消去する。次に各ラベル領域の円形度やモーメント等の生体試料の特徴量を計算し、真円に近いと判断された領域をウィルスと認定し、その面積から直径(生体情報)を計算する。ウィルスの個数と各々の直径は先程と同様に解析エリアの番地と共に記録する。
【0046】
1つの解析エリアで検査が終了すると、試料ステージ18を用いて試料を移動させ、次の解析エリアの検査を開始する。試料ステージ18の微動精度は位置決め精度とバックラッシュによって記述される。試料ステージ移動方向一定における移動精度が位置決め精度であり、方向転換における滑り距離がバックラッシュである。現在の製品では位置決め精度は約1.2nm、バックラッシュは約0.02μmに達している。解析エリアの大きさが30μmであれば、試料移動は試料ステージ18にて実行可能である。
【0047】
但し試料ステージ18を移動させると、ステージ移動停止の信号を受けた後も、試料ステージ18の惰性による試料ドリフトが発生する。視差を利用した焦点解析では、視差による位置ずれDに試料ドリフトによる位置ずれDsが混入すると、焦点解析精度が低下する。そこで第1のTEM像を撮影した時刻とは異なる第2の時刻において、第1の入射電子線角度で撮影された第3のTEM像を用いる。第1のTEM像と第3のTEM像の位置ずれ量より試料ドリフトを計算する。この位置ずれ解析もフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析法で行う。視差による位置ずれDと同等の解析精度で試料ドリフトによる位置ずれDsを解析しなければ、焦点解析精度の劣化となる。また試料ドリフトの測定は短時間で実行する必要があり、試料ドリフトによる位置ずれ量は非常に小さい。解析精度が1画素の大きさで制限される従来の位置ずれ解析法では、明らかに精度不足である。第1と第2のTEM像における位置ずれ量より、試料ドリフトによる位置ずれDsを差し引くと、視差による位置ずれDを求める事ができる。更に試料ドリフトによる位置ずれDsを相殺するように結像系電子偏向コイル16を動作させる自動ドリフト補正を実行する事により、ドリフトによる取り込み画像のボケも除去できる。
【0048】
焦点解析に障害を与える様な試料ドリフトは、電子顕微鏡の電源投入後、鏡体の温度ムラや電子銃が安定するまでの時間や、移動中の試料ステージ18を停止させた直後等、ある程度予測可能である。取り込み画像枚数を増加させると検査効率が低下するので、ドリフト補正用の第3のTEM像を取り込む観察条件を予め指定しておき、指定された観察条件では第1、第2のTEM像と共に第3のTEM像を撮影し、ドリフトの影響を除去する。ドリフトが低減される、つまり第1のTEM像と第3のTEM像の位置ずれ量が0に近づいた後は、第1と第2のTEMのみ撮影するアルゴリズムとすれば、必要最小限の枚数のTEM像で正確な焦点補正が行える。
【0049】
試料ステージ18の移動の度に試料ドリフト補正用の画像である第3のTEM像を取り込むと検査の効率を劣化させるので、試料ステージ18で移動するのはホール間の移動のみとし、解析エリア間の移動は結像系電子偏向コイル16にて行う。ステージ移動の惰性による試料ドリフトの補正は、ホール間の移動時のみとなるので第3のTEM像の取り込み枚数はかなり削減される。その他、結像系電子偏向コイル16による解析エリア移動が必要な場合としては、解析エリアが小さく分割されているため、試料ステージ18の微動精度では解析エリアの移動に関しては精度不足となる、等がある。
【0050】
なおホールの大きさが結像系電子偏向コイル16で追従できない程広範囲である場合、試料ステージ18をほぼ一定速度で移動させ、結像系電子偏向コイル16を用いて試料ステージ移動速度とほぼ同じ速度で結像系偏向コイル16を用いてイメージシフトさせる方法もある。図18(c)に、解析エリアの移動を試料ステージ移動とイメージシフト移動を併用させた場合の観察視野の位置、結像系電子偏向コイル16設定位置、試料ステージ18設定位置を時間経過を示す。TEM像撮影に要する時間をTC、試料ステージによる視野移動に要する時間をTS,結像系電子偏向コイル16による視野移動に要する時間をTIとする。試料ステージ18による視野移動では、バックラッシュやステージ移動の惰性の影響があるため高速化には上限があり、結像系電子偏向コイル16による視野移動よりも高速化する事は出来ない。試料ステージ18のみで視野移動を行うと、図18(a)に示す様に検査時間が長くなってしまう。一方結像系電子偏向コイル16は移動範囲が狭いという問題点がある。図18(b)に示す様に、結像系電子偏向コイル16の移動範囲を超えた場合は試料ステージ18で試料を移動させる必要がある。そこで図18(c)に示す様に、試料ステージ18をほぼ一定速度で移動させ、結像系電子偏向コイル16によるイメージシフトで試料ステージの移動を相殺させれば、試料ステージ18が移動しているにもかかわらず、各解析エリアの静止画を撮影する事が出来る。広範囲の視野移動を、試料ステージ18のバックラッシュや惰性の影響を受けずに高速に実行する事ができる。
【0051】
各解析エリアの検査が始まる時点における結像系電子偏向コイル16の設定位置がほぼ一定である方が、広範囲の解析を行える(図18参照)。各解析エリアで実行される補正及び検査に要する時間Tを計算し、その時間で試料ステージ18の次の解析エリアへの移動が終了するように、試料ステージ18の移動速度を設定する。決定された試料ステージ18の移動速度を相殺するように、結像系電子偏向コイル16によるイメージシフトを制御する。試料ステージ18による移動速度と結像系電子偏向コイル16による移動速度を一致させるために、観察視野の位置ずれ解析をフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析法で行う。図26に示す様に、第1の時刻と第2の時刻を設定し、第1の時刻における第1のTEM像と第2の時刻における第3のTEM像を、電子線検出器17を用いて撮影する。撮影された第1と第2のTEM像はフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に送信され、解析結果である位置ずれDが計算機19に送られる。計算機19では位置ずれDから観察視野の移動速度を計算し、観察視野の移動速度が0になるために必要が結像系電子偏向コイル16設定値を求め、それを元に結像系電子偏向コイル16を調整補正する。
【0052】
試料ステージ18は移動速度を一定とした方が試料ステージ18の位置設定精度が高くなるので、各解析エリアの検査時間Tは一定としたい。つまり各解析エリアにおける撮影枚数は一定としたい。各解析エリア毎に解析エリアの位置ずれ解析用の第3のTEM像を撮影すると位置ずれ補正精度及び焦点解析精度は向上するが、検査の効率が劣化する。そこで試料ステージ18及び結像系電子偏向コイル16を用いた観察視野移動の調整はウィルス検査前の装置調整の段階で実行しておく。もしくはウィルス検査には不適当な解析エリアを予め指定し、該解析エリアでは焦点補正は行わず、第1のTEM像と第3のTEM像を撮影して観察視野移動の調整を行う。通常の解析エリアでは観察視野はほぼ停止していると仮定し、焦点補正のために第1のTEM像と第2のTEM像を撮影する。
【0053】
検査中の表示項目は操作者が必要に応じて選択する。例えば図15に示す表示項目が用意されている。撮影したメッシュ22の像を解析エリアに分割した画像を表示し、検査終了、検査中、未検査の解析エリアを色分けして表示させ、現在の検査進行状態の把握や終了時間の予測に利用する。また各解析エリアにおける検査結果を順次表示させる表94や、検査結果の累積値を表示するヒストグラム95も設けられている。また焦点解析結果を表示するウィンドウも設けられており、画像ペアの相関値や焦点解析結果を元に計算された試料の高さを表示する。試料高さの基準点は検査前もしくは検査後に試料内で適当な位置を選択し、resetボタン96を押す事によって指定される。またウィルス検査に用いられるTEM像の表示には、特定されたウィルスの位置と大きさを示す円97を表示するレイヤ−が設けられている。操作者はこれらのウィルス検査結果、焦点補正結果及びTEM像を観察し、途中で異常が発見された場合は検査を中止させることが出来る様になっている。また、ウィルス検査結果、焦点補正結果及びTEM像の内、操作者が指定した項目はメモリに記録されているので、検査終了後、相関値や試料高さなどの情報から異常が予想される解析エリアの検査結果を表示させ、検査状態を確認する事もできる。
【0054】
検査終了後の解析結果の表示にもメッシュ22を利用する。計測を行ったホールには解析エリアに分割されており、表示項目を選択する事によって、各解析エリアの解析結果をモノクロ若しくはカラーで色分けして表示する。例えば表示項目としてウィルス個数を選択すると、図16(b)の様に個数に応じて各解析エリアが色分けされる。撮影された各解析エリアのTEM像は解析エリアの番号を指定、例えば解析エリアの位置をダブルクリックすると表示される様になっている。メモリに記録されている項目の内、操作者が指定した表示項目が画面に表示される。例えばTEM像の表示と共に、その解析エリアでのウィルス検査結果、試料の高さ、相関値が表示される(図16(a))。
【0055】
試料の高さ分布や相関値は検査状態の把握や検査結果の信頼性評価に利用できる。生物試料は通常数10nm厚さに薄片化されており、ほぼ平坦と仮定できる。試料高さの変化は試料をのせたメッシュのソリや傾斜に起因するものであり、試料の高さ分布をプロットした場合、ほぼ滑らかな曲面となるはずである。従って試料高さが極端に変化している解析エリアは焦点解析の誤動作が発生した、若しくは何らかの原因で試料薄膜が捲れ上がったと推定される。いずれにしてもその解析エリアの検査結果の信頼性は乏しいと言える。例えば図16(c)に示す試料高さ分布では、領域25のみ試料高さが異なっており、この領域での検査結果の信頼性の乏しいと推定される。この領域の検査結果を除去するために、試料高さが指定された範囲外となった解析エリアの検査結果は用いない様にする事も出来る。つまり試料の高さ分布を検査結果のフィルターとして用いる事が出来る。また、試料の高さを基準にしたフィルターでは無く、高さ分布から得られた曲率でフィルターを設定する事も出来る。また図16(d)に示す相関値分布が得られたとする。相関値はTEM像のシャープネスの評価に利用できる。生物試料では試料作製状態、例えば試料が厚いとオプティマムフォーカスで観察してもボケた画像しか得られない。画像がボケていると相関値が低下すると共に、2値化の際の誤差が大きくなるため、ウィルス直径の測定精度が低下する。試料の高さ分布と同様、相関値分布をフィルターとして利用し、相関値が低かった領域26での解析結果を用いない様にする事もできる。また相関値からウィルス直径の測定誤差を見積り、該測定誤差をウィルス直径分布図作成の際の重み関数として使用することも出来る。
実施例3
図19は、本発明の実施例で使用する透過電子顕微鏡の基本構成図である。電子銃11及びその制御回路11’、照射レンズ12及びその制御回路12’、照射系電子偏向コイル13及びその制御回路13’、対物レンズ14及びその制御回路14’、投影レンズ15及びその制御回路15’、結像系電子偏向コイル16及びその制御回路16’、電子線検出器17及びその制御回路17’、試料ステージ18及びその制御回路18’、制御ソフトと画像処理ソフトを搭載した計算機19から構成される。各制御回路は計算機19の制御ソフトから送られる制御コマンドを受信し、制御が終了すると計算機に返り値を送る。電子線検出器17はCCDカメラ等、多数の画素から構成される電子線検出器17であり、得られた画像信号は画像送信用のケーブルで計算機19の記録装置もしくはフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20に高速に送信される。計算機19にはフーリエ変換像の位相解析に基づく位置ずれ解析用演算器20が接続されている。
【0056】
図3にTEM像撮影のフローチャートを示す。まず電子銃11で発生し電子線に加速電圧を印加し、電子ビームが光軸上を通過するように照射系電子線偏向コイル13を用いて調整し、電子線検出器17に電子線が到達する事を確認する。次に照射系レンズ12を調整した後、試料21を挿入し、低倍で試料21のTEM像を確認した後、TEM像コントラストを増加させるために光軸に対物絞りを挿入する。投影レンズ15の倍率を増加させながら観察視野を選択し、焦点補正を行い、必要なTEM像を撮影する。
【0057】
この焦点補正における焦点解析に、視差を利用した焦点解析法を適用する。電子線を光軸とほぼ平行な第1の角度から入射して撮影した第1のTEM像と、光軸から角度αだけ傾斜させた第2の角度から入射して撮影した第2のTEM像を用いる。図19図示の照射系電子偏向コイル13を用いて故意に試料への電子線の照射角度を変える機能をワブラーといい、これを用いることで焦点ずれを視差に変換できる。そこでまず図24を用い、ワブラーの動作原理と視差が生じるメカニズムを説明する。図24(a)には、試料が正焦点位置にあり(F=0)、電子線が光軸に対し並行(α=0)に入射している場合の電子光学図を示した。図中で電子線は紙面上方から矢印で示した試料に入射している。試料中で電子線の一部は回折され、例えば結晶性試料では図中に示したようにブラッグ条件を満たす特定の方向に散乱され、残りは方向を変えずにそのまま透過する。試料下の対物レンズは通常の光学凸レンズと同様の性質を持ち、電子線を収束する作用を有する。従って、レンズ直下で同一散乱方向電子が1点に収束する、いわゆる回折像面(後方焦点面)が形成される。つぎに同一点で散乱・透過された電子が1点で収束されるTEM像面が形成される。この時、レンズの投影倍率Mに従い、試料はTEM像面ではM倍に拡大されている。F=0、α=0の場合は、図24(a)のようにTEM像面の矢印像は光軸からの位置ずれが起きていない(D=0)。一方、試料は正焦点位置にあるものの(F=0)、ワブラー機能で電子線が角度αで斜め入射した場合、図24(b)のように電子線は対物レンズの中心軸からはずれた位置で収束作用を受けるため、光学レンズ同様凸レンズ固有の球面収差の影響を受け、視野ずれD=CsMα3が発生する。ここでCsはレンズの固有値である球面収差係数である。最後に試料は正焦点位置になく、ワブラー機能で電子線が角度αで斜め入射した場合、図24(c)のように位置ずれは更に増大する。焦点ずれ量をFとしたとき、光軸に対して横方向には試料位置はαFずれるため、TEM像面ではレンズ倍率Mで拡大され、MαF視差が生じることになる。従って、球面収差によるずれ量と合わせ、視差はD=Mα(F+Csα2) で表される量となる。この式から明らかなように、試料が正焦点位置になくても、α=0ならば視差Dはゼロである。従ってこのようにワブラー機能を用いてαの異なる2種の画像ペアを撮影することにより、画像ペアの位置ずれ量Dから焦点ずれFを特定できる。なお、収差による視差(CsMα3)は焦点ずれで生じる視差(MαF)より通常1桁以上小さいため、視差を最小に抑えることで高精度な焦点補正が可能であり、ワブラーでの焦点補正は視差がCsMα3以下に成れば完了と考えて良い。
【0058】
画像ペアの位置ずれDはフーリエ変換の位相成分を利用した解析法にて求める。
この方法の説明図を図5に示す。位置ずれD=(dx,dy)のある画像ペアS1(n,m)=S2(n+dx,m+dy)を仮定し、S1(n,m), S2(n,m)の2次元離散的フーリエ変換をS1’(k,l), S2’(k,l)とする。フーリエ変換にはF{S(n+dx,m+dy)}=F{S(n,m)}exp(idxk+idyl)の公式があるので、S1’(k,l)=S2'(k,l)exp(idxk+idyl)と変形できる。つまりS1’(k,l)とS2’(k,l)の位置ずれは位相差exp(idxk+idyl)=P’(k,l)で表現される。P’(k,l)は周期が(dx,dy)の波でもあるので、位相差画像P’(k,l)を逆フーリエ変換した画像P(n,m)には(dx,dy)の位置にδ的なピークが発生する。画像P(n,m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、δ的なピーク強度の重心を計算すれば、δ的なピークの位置が小数点を含んでいても正しく位置が求められる。
【0059】
画像P(n,m)全体の強度を規格化した後、δ的なピークの強度を計算すると、雑音成分つまり画像ペア間で一致しない部分が多い場合はピーク強度が弱くなる。このピーク強度を相関値として明示すれば、画像ペアの一致度を評価する事ができる。
【0060】
図に5に示した装置を用い、図9に示すフローチャートに従って焦点補正を実行する。まず試料ステージ18に備えられた試料微動機構で焦点解析を行う視野を選択する。この選択には観察倍率や対物絞り径などの設定も含める。次にオプティマムフォーカス、相関値下限、振り角α及び補正回数の設定を図2に示すモニタ画面を用いて行う。パラメータ設定終了の後、電子線検出器17を用いて画像ペアを撮影する。撮影した画像ペアから解析画像P(n,m)を計算し、位置ずれに対応したピークを特定する。位置ずれに対応したピークが特定できたら、該ピークから位置ずれDを求め、算出されたD値を制御ソフト及び画像処置ソフトを搭載した計算機19に転送する。ここで、D=Mα(F+Csα2)の関係を用いて焦点Fを計算し、焦点Fに対応した補正すべき対物電流値Iobjを算出し、この値を対物レンズ制御回路14’へ転送し、対物レンズ電流の調整を行う。
【0061】
ここでは、上記の焦点補正を用いた電子顕微鏡によるウィルスや半導体メモリの不良検査の実施例を示す。電子顕微鏡は原子レベルの分解能を持ち、試料構造に起因した様々なコントラストが得られるため、生物・非生物を問わず様々な対象試料の観察が成されている。そうした中で光学顕微鏡ではサイズが小さいため評価できないエイズやインフルエンザといったウィルスについては、多数の患者についての感染の有無をウィルスの有無を高速に判定する必要がある。こうした要求に対しては従来人間がマニュアルで動作する電子顕微鏡に試料を挿入し、目視にて評価を行っていた。同様の例が、半導体メモリにおける不良検査である。適宜抜き取り、観察可能な形状に加工した試料は、電子顕微鏡にセットされ、観察される。しかし近年の高集積化に伴い、観察視野は飛躍的に増大し、人間がマニュアルで不良を発見するのは限界となってきている。加えて、多くの試料は平坦でないこと、試料が常に電子線に垂直な面に設置されるとは限らないことから、次々と観察視野を変えていくと、焦点が外れていってしまうため、その都度、焦点補正が必要であり、検査工程の自動制御による観察のスループット向上がきわめて重要になってきている。そこで、本出願の自動焦点補正機能を活用し、初めに図20を用い、ウィルスの検査の例を示す。撮影した2枚の画像から実施例1同様位置ずれDが算出され、次いで焦点ずれFと、これに対応した対物電流Iobjが算出される。これらの値を元に、直ちに対物レンズ14に補正が掛けられ、再度画像が撮影される。画像撮影は、試料微動と焦点補正を数回繰り返し、目的の視野が画像に写されるようになってから検査用として改めて画像を撮影してもよい。その後、予め摘出すべきウィルスについての登録してあった画像との比較を行う。
【0062】
ここでも位置ずれDを解析したとき同様、2フーリエ変換像間の位相差解析に基づく画像処理により形状の一致度を評価し、相関値を求め、設定された相関値下限を上回った場合、ウィルスが発見されたものとし、ウィルスの発見された試料ステージ18のx、y座標を登録したり、試料番号を登録する。また、観察視野にウィルスが発見されなかった場合は視野を変更する。この時、視野変更は試料ステージ18におけるx、y、z微動機構を動作させるほか、結像系電子偏向コイル16により電子線位置を移動させてもよい。また、電子線検出器17の電子顕微鏡への取り付け部分に微動機能を設けることにより、電子線検出器17を移動させてもよい。このように、試料位置の変化やドリフト補正は、試料を透過した電子線の照射位置と電子線検出器の相対位置を変化させることに他ならず、場合により使い分けることが可能である。焦点補正についても同様に複数の方法が存在し、前記実施例では、焦点補正は対物電流値を変化させ、焦点距離を変えることで実施したが、位置ずれDを検出した結果、試料ステージ18を用い、試料の位置、例えば焦点位置なら電子線入射軸方向に試料を微動することでも焦点補正が可能である。これは図20中の焦点ずれF算出後、試料ステージzを移動させたフローで示した通りである。また試料ドリフトの場合、位置ずれDに対応して、電子線入射方向に垂直面内で試料ステージ18を移動させてもよいし、電子線検出器17の設置位置を微動してもよい。
【0063】
次ぎに半導体評価例を図21を用いて説明する。電子線検出器17から転送される典型的なメモリセルの上から観察した像(いわゆる平面像)は図中下部のような状態である。半導体パターンは通常このように一定形状のパターンが規則的な配列をしているものが多い。そしてこの中の極一部に不良である欠陥や異物に起因するコントラストが混入している。図21中でも、パターン周辺に線状の欠陥や、丸型異物が観察されている。初めに既に記述してきた方法にて焦点を補正し、次に登録パターンと比較をする。ここで比較法の一例を図22を用いて説明する。検査すべきパターンが規則的に配列していることを利用し、パターン間隔の視野サイズをトリミングして切り出すことにする。従って、登録画像も同一サイズの画像が適当である。ここでウィルス同様の形状の一致度を評価し、相関値が設定下限値を上回った場合、対応するメモリ番地を登録する。次ぎにトリミング位置を変え、同様の形状一致度を評価していく。こうして撮影した像全面の検査が終了したら、試料ステージ18や結像系電子偏向コイル16により視野を変え、焦点を再度補正した後同様の検査を行う。上記では、初めに電子線検出器で撮影した像中には複数のメモリセルパターンが含まれていたが、評価する欠陥が小さい場合や、コントラストが弱いことも考えられ、観察倍率を十分に取る必要があることもある。この時は電子顕微鏡倍率を高め、初めからメモリセル1個分の像を撮影し、トリミングなしに登録画像と1対1で比較しても良い。図22ではトリミング位置は試料左から右に移動しているが、図23のように、様々な検査順番がありえる。
これは試料ステージの微動性能や偏向コイルの偏向精度にあわせて設定すべきである。
【0064】
更に、本明細書実施例は透過電子顕微鏡(TEM)を用いた例について記述したが、走査電子顕微鏡(SEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)、イオン顕微鏡(SIM)等の電子、イオン等の荷電粒子線を用いた像観察装置に広く応用可能である。
実施例4
試料台を連続移動して試料を観察又は検査する装置に於いて、試料台が5m/S以上の高速となると振動、速度ムラレールの精度による誤差により所定の速度で移動することが相当難しくなる。このような場合本願発明の如く、第1の荷電粒子線その物がプローブとなりこのプローブを試料に照射し試料からの第2の荷電粒子線を検出して得られた複数の画像から目的の位置との誤差を位相限定法により算出し次の検査する試料の画像を取得するまでの間に試料台又はプローブを偏向する偏向器にフィードバックすることにより解決を図ることが可能である。これにより連続して移動する試料の検査の誤判定を減少することが可能となる。具体的には、プローブである第1の荷電粒子線を収束し偏向器及び対物レンズを介して試料の所定領域を走査し、試料からの第2の荷電粒子線を検出器で検出しアナログ信号からデジタル信号に変換したのち記憶手段に記憶する。記憶開始点は常に一定とし、時間管理又はステージからの信号又は試料上のマークにより動作させる。第1の画像を取り込んだ後所定時間後第2の画像を取り込む。この第1と第2の画像をフーリエ変換し位相差を求めて逆フーリエ変換して原点位置からのズレを記憶手段のアドレス量から求め試料台の制御部又は偏向器へ帰還する事により試料台の移動時の誤動作による第1の画像と第2の画像との比較時誤判定を減少させることが可能となる。
実施例5
実施例1では、撮像装置としてCCDカメラを用いた例を記載した。ここで用いたCCDカメラの基本構成は図6で説明したとおり、シンチレータ71、結合部分72、CCDカメラ73で構成されており、シンチレータ71上で形成された像は常に一定の投影倍率でCCDカメラ73上に結像されていた。本実施例では、結合部分72にズームレンズを用いることにより、投影倍率を位置ずれ解析結果に合わせて自由に変更できる例を図27を用いて説明する。電子顕微鏡の下部には、図19同様電子線検出器17が取り付けられる。図中に構成の詳細を示した。先ず真空中のシンチレータ101により、電子線像は光増に変換される。シンチレータ101はガラス基板103上に貼り付けられ、最適な厚さ、例えば100kV-400kVの加速電子線に対しては50-120μm程度の厚さに研磨される。シンチレータ101で形成された光像は光学レンズ105により撮像素子106上に結像される。光学レンズ105や撮像素子106はその微細構造から大気中で使用されることが望まれる。従って、シンチレータ101のみ真空シール102により真空中に設置され、光像は真空と大気を遮断しているガラス基板103を通して大気中に取り出される。ここで撮像素子106はCCDの他、各種撮像管等の2次元検出器が広く利用可能である。第1と第2の画像間の位置ずれDに対応した焦点ずれFを求めるまでの手順は実施例1と同様である。一般的に、焦点ずれ量が小さくなると2画像間の位置ずれDも小さくなる。従って、高精度な位置ずれDを算出するためには、位置ずれDがある程度以下になった場合、撮像倍率を拡大し、位置ずれを大きくする方法が有効である。撮像倍率を大きくするためには、電子顕微鏡の倍率を上げればよいが、視野範囲が変化するほか、電子光学系の条件が変化することは像コントラストが変化するなどの点で好ましくない場合が多い。従って、電子顕微鏡側は一切変化させずに撮像倍率を変化させるため、光学レンズ105のズーム倍率を変化させることを考えた。ここでのズームレンズ105には、市販のモータ駆動のレンズを用いることが可能である。図中右下に図示したとおり、位置ずれDが小さくなり、位置ずれを示すピークが原点に接近した場合、例えば光学レンズ105のズーム倍率を1.5倍拡大する。この条件で再度2枚の画像を撮影すると、新たな位置ずれD‘も1.5倍拡大される。このように、解析画像結果を電子線検出器17にフィードバックかけることにより、より高精度な焦点補正やドリフト補正等が可能となる。
実施例6
実施例1では視差を利用した焦点補正装置について述べたが、視差を利用した非点補正装置も実現できる。非点とは、図28に示す様に、対物レンズ14で発生する電磁界が光軸(Z軸)回りに楕円分布を持つため、焦点が光軸回りに楕円分布を持つ現象である。つまり焦点が方位角βによってF(β)=F+Acos2(β−βA)の分布を持つ。ここでFはF(β)の平均値であり、一般に焦点ずれ量と呼ばれる値である。Aは非点量と呼ばれる値であり、βAは非点方向と呼ばれる。
【0065】
図29に示す装置及びフローを用い、光軸回りの焦点分布を視差を利用した焦点解析法によって求め、非点量及び方向を解析し、非点補正コイル141にフィードバックする。光軸つまりZ軸とほぼ平行な第1の方向から電子線を入射して撮影した第1のTEM像を撮影し、Z軸から角度αだけ傾斜させた第2の方向から電子線を入射して撮影した第2のTEM像を撮影する。第2の方向のX軸に対する方位角をβ2とする。第1のTEM像と第2のTEM像の間の位置ずれD(β2)をフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20を用いて解析し、解析された位置ずれD(β2)は計算機19に送られ、方位角β2に置ける焦点ずれF(β2)が計算される。次にZ軸から角度αだけ傾斜させた、X軸との方位角がβ3である第3の方向から電子線を入射して撮影した第3のTEM像を撮影し、第1のTEM像と第3のTEM像との位置ずれD(β3)を解析し、X軸との方位角β3に置ける焦点ずれF(β3)を解析する。同様の解析を複数の方位角βnで実行し、焦点の方位角分布を求める。
【0066】
最少二乗法等のフィッティング法を用い、各方位における焦点F(βn)より焦点ずれ量、非点量及び非点方向を特定する。なお、非点方向に関しては、電子レンズ内で発生する像回転の影響により、入射電子線の方位角と位置ずれベクトルの方向が平行にならない場合もある。入射電子線の方位と位置ずれベクトルの方向の差は、倍率などのレンズ条件が決定すれば特定できるので、各レンズ条件における前記差を計算機に記録しておき、該記録を用いて、非点方向の修正を行う。
【0067】
上記非点解析の結果を元に、非点量Aが0になるために必要な非点補正コイル141の電流値Isx、Isyを計算し、非点補正コイル制御回路141’を介し、非点補正コイル141を調整する。
【0068】
非点解析では焦点ずれ解析よりも2桁上の精度が求められる。位置ずれ解析に相互相関を利用した従来の焦点解析システムでは、非点補正に必要な精度を満たす事は非常に困難である。また非点解析とは焦点分布の解析であり、多数回の位置ずれ解析が必要である。本システムではデジタルシグナルプロセッサであるフーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器20を搭載しているので、1回の焦点解析時間は1秒以下になっており、数秒での非点補正が可能となっている。
【0069】
【発明の効果】
視差を利用した焦点解析等、電子顕微鏡像間の位置ずれから電子顕微鏡を補正する装置の性能は、位置ずれ解析法に大きく依存する。従来補正システムに用いられてきた位置ずれ解析法では、解析精度は原理的に電子線検出器17の1画素のサイズ以下にはならないが、本解析法の採用により画素サイズ以下の解析精度が得られるようになるので、熟練したオペレータと同等の精度での焦点補正が可能となる。なお、焦点解析精度を向上させるために位置ずれ解析に解析に用いる画像を細かくする等の装置性能向上を行うと、解析時間や装置コストが増加してしまうが、位置ずれ解析法変更により位置ずれ解析精度を向上させる本発明では、解析時間や装置コストを維持したまま、焦点解析精度を向上させる事ができる。
【0070】
更に画像ペアの一致度が相関値として明示されるので、操作者は出力された解析結果の信頼性を確認する事ができる。相関値の下限を設定し、計算された相関値が前記下限値以下であればレンズ調整は行わない様にすれば、誤動作防止になる。また自動検査装置において、焦点解析における相関値及び焦点解析結果を記録しておけば自動補正が正常に実行されているかを後で検証する事ができるので、無人で動作させる事も可能になる。
【0071】
更に本発明で用いた位置ずれ解析法は画像の位相成分を用いる方法であるので、バックグラウンドの変化の影響を受け難く、絞りの影が混入したとしても画像ペアに十分な共通部分があれば解析可能である。TEM調整が多少不備であっても動作可能であるので、TEM操作に不慣れな操作者の利用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】視差を利用した自動焦点補正工程を示す説明図。
【図2】焦点補正におけるパラメータ設定及び解析結果表示用画面の概略図。
【図3】 TEM像撮影の工程を示すフローチャート。
【図4】視差を利用した焦点解析法の原理説明図。
【図5】位置ずれ解析の計算過程を示す説明図。
【図6】 TEM用電子線検出器17の基本構成図。
【図7】解析画像におけるピークの位置及び強度を示す説明図であり、(a)は試料構造のコントラストが高い場合、(b)は試料構造のコントラストが低い場合、(c)は試料構造の位置ずれが小さい場合を示す。
【図8】解析画像から位置ずれに対応したピークを特定する工程を示すフローチャートであり、(a)は原点マスクを利用する工程、(b)は2つのピークを出力させる工程である。
【図9】焦点補正の工程を示すフローチャート。
【図10】 TEMを用いた自動検査工程を示すフローチャート。
【図11】メッシュ22の方向と形状を解析し、解析エリアを指定する工程を示す説明図であり、(a)低倍で撮影されたメッシュ22のTEM像、(b)2値化、ラベル付けした画像、(c)ホール23の重心24の位置関係とメッシュ22の方向を示す図、(d)指定されたホール23が解析エリアに分割された状態を示す図である。
【図12】メッシュの方向と形状を解析する工程を示すフローチャート。
【図13】 TEM像内の試料の有無を判定する方法を示す説明図であり、(a)は試料が存在する場合の、(b)は試料が存在しない場合のTEM像とその画像強度ヒストグラムである。
【図14】解析エリア内でのウィルス検査の工程を示すフローチャート。
【図15】自動検査におけるパラメータ設定及び検査経過の表示に用いる画面の概略図。
【図16】自動検査の結果を表示する画面の概略図。
【図17】 TEM像内の試料の有無を判定する方法を示す説明図であるり、(a)は試料が存在する場合の、(b)は試料が存在しない場合のTEM像と、そのフーリエ変換像における高周波成分割合を示す説明図。
【図18】解析エリアの移動を(a)試料ステージ18による試料移動で、(b)結像系電子偏向コイル16によるイメージシフトで、(c)試料移動とイメージシフトで行う場合の、観察視野の位置、イメージシフトの設定位置及び試料ステージの設定位置の時間経過を示す説明図である。
【図19】本発明で用いる電子顕微鏡の概略図。
【図20】 TEMを用いたウィルス検査の検査工程を示す説明図。
【図21】 TEMを用いた半導体評価の評価工程を示す説明図。
【図22】 TEM像から検査対象パターンをトリミングし、各パターンを比較する工程を示す説明図。
【図23】試料ステージ18や結像系偏向コイル16にによる検査視野を変える際の、検査順序を示す説明図。
【図24】視差を利用した焦点解析法の原理説明図であり、(a)正焦点位置にある試料に入射電子線を並行照射した場合、(b)正焦点位置にある試料に入射電子線を斜め照射した場合、(b)正焦点から外れた位置にある試料に入射電子線を斜め照射した場合の電子光学図である。
【図25】視差を利用した自動焦点補正工程を示す説明図。
【図26】試料の位置ずれを結像系電子偏向コイル16で自動補正する工程を示す説明図。
【図27】ズームレンズを用いて試料の位置ずれ解析精度を向上させる工程を示す説明図
【図28】非点のある電子レンズにおける光軸回りの焦点分布を示す説明図。
【図29】電子顕微鏡における非点補正の工程を示す説明図。
【符号の説明】
11…電子銃、11’…電子銃制御回路、12…照射レンズ、12’…照射レンズ制御回路、13…照射系電子偏向コイル、13’…照射系電子偏向コイル制御回路、14…対物レンズ、14’…対物レンズ制御回路、141…非点補正コイル、141’…非点補正コイル制御回路、15…投影レンズ、15’…投影レンズ制御回路、16…結像系電子偏向コイル、16’…結像系電子偏向コイル制御回路、17…電子線検出器、17’…電子線検出器制御回路、18…試料ステージ、18’…試料ステージ制御回路、19…制御ソフト及び画像処理ソフトを搭載した計算機、20…フーリエ変換像の位相差解析に基づく位置ずれ解析用演算器、21…薄膜化した試料、22…メッシュ、23…ホール、24…ホールの重心、25…試料高さが指定範囲外の領域、26…相関値が一定値以下の領域、31…位置ずれに対応する第1ピーク、32…検出器固定パターンによる第2ピーク、33…原点マスク適用前の強度最大のピーク、34…原点マスク適用後の強度最大のピーク、35…雑音成分、71…シンチレータ、72…結合部分、73…CCDカメラ、91…連続焦点補正実行ボタン、92…自動焦点補正用パラメータ初期化ボタン、93…焦点補正実行ボタン、94…検査結果表、95…検査結果ヒストグラム、96…試料高さresetボタン、97…検出されたウィルスの位置及び大きさを示す円。
Claims (3)
- レンズを用いて第1の電子線を集束し前記集束した電子線を試料に照射し、前記試料から透過した第2の電子線を検出する検出器と、該試料を保持する試料ステージとを有し、更に試料ドリフトの補正機能を備えた電子顕微鏡であって、
第1の時刻に撮影した第1の電子顕微鏡像と第2の時刻に撮影した第2の電子顕微鏡像を記録する手段と、
当該第1及び第2の電子顕微鏡像のフーリエ変換像の位相差像にフーリエ変換若しくは逆フーリエ変換を施した解析画像に発生するピークから、前記第1の電子顕微鏡像と第2の電子顕微鏡像間の位置ずれを解析する手段と、
該解析された位置ずれに基づき前記電子線の照射位置と前記電子線検出器との相対位置関係を変化させることにより前記試料ドリフトを補正する手段とを具備し、
前記電子顕微鏡は、前記ピークの強度が設定値以下の場合には、前記位置ずれの解析が不能と判断し前記相対位置関係の変化を実行しないことを特徴する電子顕微鏡。 - 請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記電子線の照射位置と前記電子線検出器との相対位置関係を変化させる手段がイメージシフト偏向器であることを特徴とする電子顕微鏡。 - 請求項1に記載の電子顕微鏡において、
前記試料ステージを移動させることにより前記電子線の照射位置と前記電子線検出器との相対位置関係を変化させることを特徴とする電子顕微鏡。
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JP2003317654A (ja) | 2003-11-07 |
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