JP4035629B2 - ギャップ機能抑制剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分とする細胞間連絡抑制剤、及びコネキシン発現抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞のシグナル伝達は、分泌によるシグナル伝達(ホルモンなど)、細胞膜に結合した分子によるシグナル伝達(シナプスなど)、及びギャップ結合(以下「GJ」と略記する)によるシグナル伝達によって主になされている。細胞間のシグナル伝達には、生理活性物質の伝搬や、細胞間の電位の伝達等があり、生体組織の活動に寄与している。その中でも特にGJによるシグナル伝達は、細胞同士が微細構造により結合することによってなされるため、最も直接的で確実なシグナル伝達がなされ、特に組織中の細胞の統制において重要な役割を果たしている。
【0003】
このようなGJは細胞膜タンパク質であるコネキシンが6分子結合した細胞微細チャンネル構造(コネクソン)が隣接する2個の細胞間で会合することにより形成される。
【0004】
細胞間のGJの働きが健常状態よりも亢進すると、正常な組織の生理活動が妨げられる。このような疾病としては例えばてんかん(Chung. Hua. Hsueh. Tsa. Chih. (1998) 78, 311-313)、血管内再狭窄(Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.(1997) 17, 3174-3184)、糸球体腎炎(J. Pathol. (1997) 182, 373-379)、パーキンソン病(J. Neurosci. Res. (1996) 46, 606-617)、アルツハイマー病(Brain Res. (1996) 717, 173-178)、及び動脈硬化症(Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. (1995) 15, 1219-1228)等が知られている。従って、細胞間連絡を主に担うGJの機能を抑制することは、これらの疾病の症状の改善、治療、予防のために役立つと考えられていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このようにGJの機能(ギャップ機能)をはじめとする細胞間連絡を抑制する働きを有し、生体にとって安全性が高い細胞間連絡抑制剤が期待されていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題に鑑み、細胞間連絡機能、特にGJを介した細胞間連絡(ギャップ機能)を抑制する物質を鋭意探索した。その結果、驚くべきことにヘパリンの誘導体である特定の硫酸基を有するグリコサミノグリカンが、ギャップ機能を強く抑制して細胞内連絡を抑制する働きがあることを見い出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) グルコサミン残基とヘキスロン酸残基とからなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とする、硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分として含有し、該グリコサミノグリカンが、6位ヒドロキシル基が硫酸エステル化されていないグルコサミン残基を含むことを特徴とする細胞間連絡抑制剤。
(2) 細胞間連絡抑制が、ギャップ機能の抑制による、(1)記載の細胞間連絡抑制剤。
(3) 更に増殖因子を含むことを特徴とする(1)又は(2)記載の細胞間連絡抑制剤。
(4) 増殖因子が線維芽細胞増殖因子であることを特徴とする(3)記載の細胞間連絡抑制剤。
(5) コネキシンの発現を抑制することを特徴とする(1)乃至(4)いずれか記載の細胞間連絡抑制剤。
(6) グルコサミン残基とヘキスロン酸残基とからなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とする、硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分として含有し、該グリコサミノグリカンが、6位ヒドロキシル基が硫酸エステル化されていないグルコサミン残基を含むことを特徴とするコネキシン発現抑制剤。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳述する。尚、本明細書中において、細胞間連絡とは、ホルモンや電気刺激、化学物質の拡散による細胞同士の連絡、及び細胞同士のGJを介した連絡の双方を含む概念であって、ギャップ機能とは、上記GJの細胞間連絡を行う機能として使用する。
【0009】
(1)細胞間連絡抑制剤
本発明はグルコサミン残基とヘキスロン酸残基とからなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とする、硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分として含有し、該グリコサミノグリカンが、6位に硫酸基を有しないグルコサミン残基を含むことを特徴とする細胞間連絡抑制剤(以下「本発明抑制剤」とも記載する)である。
【0010】
本発明抑制剤における硫酸基を有するグリコサミノグリカンは、グルコサミン残基とヘキスロン酸残基とからなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とする糖鎖である。上記二糖は、グルコサミン残基にヘキスロン酸がβ-1,4-結合した構造を有している。ここでヘキスロン酸とは、ヘキソースの6位炭素原子がカルボキシル基を形成した六炭糖であり、具体的にはグルクロン酸又はイズロン酸を指称する。
このような二糖繰り返し構造からなる基本骨格とは、一般にヘパリン骨格といわれている糖鎖である。本発明における上記糖鎖は、硫酸基を有している。
【0011】
一般にヘパリン骨格においては、ヘキソサミン残基の6位、ヘキスロン酸残基の2位及び/又は3位のヒドロキシル基が硫酸エステル化されており、さらにヘキソサミン残基の2位アミノ基がスルファミノ化されている。本発明においても、上記グリコサミノグリカンは硫酸基を有しているが、6位ヒドロキシル基が硫酸エステル化されていないグルコサミン残基を含んでいる。
【0012】
本発明抑制剤に含まれる上記糖鎖は、重量平均分子量が4,000〜23,000程度であることが好ましく、4,500〜20,000であることが更に好ましい。重量平均分子量は、Kaneda et al., Biochem. Biophys. Res. Comm., 220, 108-112(1996)に従って、測定することができる。
【0013】
本発明抑制剤は、in vivo又はin vitroにおいて隣り合う細胞同士の連絡、特にGJを介した細胞間連絡を抑制する細胞間連絡抑制剤である。本発明抑制剤1の効果は、例えばEnvironSci.Technol.29,2923-2928(1995)に記載された色素(蛍光色素)移行(Scrape-loading and dye transfer:SLDT)法により、容易に確認することが可能である。
【0014】
また、本発明抑制剤は、増殖因子を更に含んでいてもよい。該増殖因子は、例えばヒト男性ホルモン誘導性増殖因子(AIGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インスリン様成長因子(IGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、毛様体神経成長因子(CNTF)、線維芽細胞増殖因子(FGF(酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)))、血小板由来増殖因子(PDGF)、脳由来成長因子(BNDF)、神経細胞増殖因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、血管内皮細胞増殖因子(ECGF)、幹細胞増殖因子(CSF)、ミッドカイン(MK)、インターフェロンγ(IFN-γ)、角質細胞成長因子(KGF)、CXCケモカイン、インターロイキン8(IL-8)、ビトロネクチン(VN)、ヘパリン結合性脳細胞分裂誘発因子(HBBM)、及びヘパリン結合性神経突起伸長促進因子(HBNF)等が例示され、FGFがその中でも好ましく、特にbFGFが好ましい。但し、これらの増殖因子を本発明抑制剤が含んでいなくとも、生体内にはこれらの増殖因子が存在するため、生体内に存在する増殖因子と硫酸基を有するグリコサミノグリカンとの相互作用によって所望の効果を奏することも可能である。
【0015】
また更に、本発明抑制剤はその細胞間連絡を抑制する働きを妨げることがない多糖を含んでいても良い。この場合の多糖としては、グリコサミノグリカンが好ましく、特に硫酸基を有しないグリコサミノグリカンが好ましい。そのようなグリコサミノグリカンとしてはヒアルロン酸及びコンドロイチンが例示され、ヒアルロン酸が最も好ましい。
【0016】
このような細胞間連絡抑制剤は、有効成分である硫酸基を有するグリコサミノグリカンが、生体内に存在するグリコサミノグリカンと近似した構造を有するため、生体に対し極めて高い安全性を有していると考えられる。従って、本発明抑制剤は、たとえばてんかん、血管内再狭窄、糸球体腎炎、パーキンソン病、アルツハイマー病、及び動脈硬化症等の治療薬としての使用可能性を有する。
【0017】
(2)コネキシン発現抑制剤
本発明はグルコサミン残基とヘキスロン酸残基とからなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とする、硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分として含有し、該硫酸基を有するグリコサミノグリカンが、6位ヒドロキシル基が硫酸エステル化されていないグルコサミン残基を含むことを特徴とするコネキシン発現抑制剤(以下「本発明発現抑制剤」とも記載する)である。
【0018】
本発明発現抑制剤に含まれるグリコサミノグリカンは上記本発明抑制剤1に記載したグリコサミノグリカンと同義である。
【0019】
このようなグリコサミノグリカンは、コネキシンの発現を抑制する。ここで、コネキシンの発現の抑制とは、遺伝子の転写の抑制(遺伝子レベルでの転写・翻訳の減少)及びタンパク質量の減少(正常な立体構造を維持する働き(分子シャペロン)の抑制によって、抗体などにより認識される正常な立体構造を有するタンパク質量の減少)のいずれもを包含する概念である。本発明発現抑制剤のコネキシン発現の抑制作用は、例えば後述の実施例2に従って、タンパク質レベルでの発現の抑制を確認することが可能であり、また、例えばコネキシンの遺伝子の転写産物であるmRNAをPCR法などの公知の手法(Cancer Res.,(1998)58, 5089-5096)を用いて増幅し、遺伝子の転写レベルでの発現の抑制を確認することも可能である。
【0020】
本発明発現抑制剤は、増殖因子を更に含んでいることが好ましい。該増殖因子としては、例えばAIGF、TGF、IGF、EGF、CNTF、FGF、PDGF、BNDF、NGF、HGF、VEGF、ECGF、CSF、MK、IFN-γ、KGF、CXCケモカイン、IL-8、VN、HBBM、及びHBNF等が例示され、FGFがその中でも好ましく、特にbFGFが好ましい。
【0021】
また更に、本発明発現抑制剤はその細胞間連絡を抑制する働きを妨げることがない多糖を含んでいても良い。この場合の多糖としては、グリコサミノグリカンが好ましく、特に硫酸基を有しないグリコサミノグリカンが好ましい。そのようなグリコサミノグリカンとしてはヒアルロン酸及びコンドロイチンが例示され、ヒアルロン酸が最も好ましい。
【0022】
但し、上記の増殖因子や多糖を本発明発現抑制剤が含んでいなくとも、生体内にはこれらの増殖因子や多糖が存在するため、生体内に存在する増殖因子や多糖と硫酸基を有するグリコサミノグリカンとの相互作用によって所望の効果を奏することも可能である。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
参考例
6脱硫酸化ヘパリンの調製
6脱硫酸化ヘパリン(以下「6DSH」とも記載する)は、ブタ小腸由来のヘパリン(SPL社製)からWO00/06608に記載された方法によって、10倍量のN-メチル-N-トリメチルシリルトリフクオロアセトアミドを用いて110℃で120分間加熱処理して調製した。
【0024】
実施例1
ヒト皮膚線維芽細胞ギャップ機能制御の評価
ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblast; NHDF)の細胞間連絡機能に及ぼすグリコサミノグリカンの効果は、6DSHとbFGFを培地中に添加し、SLDT法に従って行った。
【0025】
具体的には、まずNHDF(2x105/dish)をDMEM培地(35mm dish)中で3日間培養した後、培地中にヘパリン類(ヘパリン(ブタ小腸由来のヘパリン(SPL社製))あるいは6DSH:それぞれ最終濃度30μg/ml)かつ/またはbFGF(最終濃度10ng/ml)を添加した。これらを無添加のものをコントロールとした。
【0026】
その後、引き続き細胞を1日間継続培養し、100%コンフルエント状態を維持した。次いで、Ca2+及びMg2+を含むリン酸緩衝生理的食塩水(以下「PBS(+)」とも記載する)で4回洗浄した後、そのコンフルエント状態の表面にカミソリで直線的に切れ目をつけた。そして、1mlの0.1%の蛍光色素(Lucifer yellow)をdishに入れて5分間培養した後、PBS(+)で4回洗浄した。この状態にて、dishを蛍光顕微鏡で観察・測定し(図1)、蛍光強度につき画像解析ソフトウェアNIH Imageを用いて分析・数値化した(図2、表1)。また、ここで得られる数値が小さければ、GJを介した細胞間連絡が抑制されていることを示す。
【0027】
【表1】
表1
Figure 0004035629
+:コントロールと比して促進がみられた
−:コントロールと同程度だった
−−:コントロールと比して顕著に抑制された
【0028】
また、使用した6DSH及びヘパリン(WO00/06608記載の分子量測定法による重量平均分子量:6DSH 12,500Da、ヘパリン 14,000Da)をWO00/06608に記載された「グリコサミノグリカン分解酵素による消化と高速液体クロマトグラフィーとを組み合わせた酵素的二糖分析法」により分析した(表2)。
【0029】
表中ΔDiHS-0Sは2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコースを、ΔDiHS-NSは2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコースを、ΔDiHS-6Sは2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースを、ΔDiHS-USは2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコースを、ΔDiHS-di(6,N)Sは2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースを、ΔDiHS-di(U,N)Sは2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコースを、ΔDiHS-di(U,6)Sは2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースを、ΔDiHS-tri(U,6,N)Sは2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースをそれぞれ示す。
【0030】
【表2】
表2
Figure 0004035629
【0031】
その結果、培養3日目のNHDF培地中にbFGFのみを添加すると、コントロールと比較してギャップ機能を若干促進した。一方、ヘパリンあるいは6DSHのみの添加では、ギャップ機能も細胞増殖もコントロールと同程度だった。ところが、6DSHとbFGFの両者を添加すると、コントロールの50%程度にまでギャップ機能を顕著に抑制した。他方、ヘパリンとbFGFの両者を添加しても、その作用はコントロールと同程度にとどまった。
【0032】
実施例2
6DSHによるコネキシン発現抑制の評価
NHDFのGJを構成するコネキシン(CX)の発現量に及ぼす6DSHの効果は、6DSHとbFGFを培地中に(最終濃度6DSH:30μg/ml、bFGF:10ng/ml)で添加して培養した後、細胞ライセイトにつきウェスタンブロッティング(WB)法によって評価した(コントロールとして6DSHを添加しないもの、比較の対照として6DSHの代わりに同濃度でヘパリンを添加したものを用いた)。染色にはCX43の特異抗体であるウサギポリクローナル抗体(抗コネキシン43抗体ウサギIgG、Zymed社製)を用いた(図3)。
【0033】
その結果、コントロール(ヘパリン類及びbFGFとも無添加のもの)に比較して、bFGFあるいは6DSHのどちらか一方だけを添加した場合のバンドは若干濃くなったものの、bFGFと6DSHを両方とも添加した場合のバンドは、著しく薄くなっていた。この結果は、bFGFと6DSHが両方とも培地中に存在すると、NHDFにおけるCX43タンパク質の発現量が低下することを示すものである。
【0034】
一方、ヘパリンの単独添加の場合は、コントロールに比較してほぼ同程度のバンド濃度であったが、bFGFとヘパリンを両方とも添加した場合のバンドは若干濃くなっていた。
【0035】
【発明の効果】
細胞間連絡を効果的に抑制する、細胞間連絡抑制剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 細胞のギャップ機能を視覚化した図。
【図2】 細胞のギャップ機能を、イメージ解析により数値化した図。
【図3】 細胞のコネキシン発現量の変化を示す図。

Claims (3)

  1. 6位脱硫酸化ヘパリンと、塩基性線維芽細胞増殖因子とを有効成分として含有する細胞間連絡抑制剤。
  2. 細胞間連絡抑制が、ギャップ機能の抑制による、請求項1記載の細胞間連絡抑制剤。
  3. 6位脱硫酸化ヘパリンと、塩基性線維芽細胞増殖因子とを有効成分として含有するコネキシン発現抑制剤。
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