JP4012943B2 - 有機薄膜パターンの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子あるいは光素子およびその作製プロセス等に利用され得る有機化合物薄膜の微細構造パターンを形成するための方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
有機薄膜のデバイス応用を目指して、あるいは半導体基板、金属膜のリソグラフィーのためのレジストとして有機薄膜の微細構造形成技術が研究されている。マスクを用いた蒸着法、光や電子ビーム露光に対する構造変化に起因する溶媒溶解性の違いを利用した方法(この性質はレジストとして利用される。)、イオンなどを用いて物理的に有機分子を除去する方法、加熱などによる相分離の現象を利用した方法など、古くから多くの方法が提案され利用されてきている。
【0003】
殊に、最近、比較的容易に、極めて欠陥の少ない単分子層の膜が、再現性よく多様な基板(金属、半導体、酸化物など)上に形成できる有機自己組織化単分子膜(SAM膜)を利用した方法が提案されている。その中でも注目されている「マイクロコンタクトプリンティング法」と呼ばれる方法は、シリコン樹脂などの柔らかい材料で所望のパターンを形成したスタンプで、分子を溶媒に溶かし込んだ溶液をあたかもインクのように使用して、基板上にSAM膜のパターンを形成する方法である。
【0004】
また、走査トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて部分的にSAM膜の一部を除去する方法も提案されている。STMやAFMを利用した方法としては、このほか、水素終端したシリコン基板を電界支援酸化して酸化膜パターンを形成し、酸化膜上に選択的に成長するSAM膜により、有機単分子膜の微細構造パターンを得る方法も提案されている(Applied Physics Letters Vol.66, p.3686(1995))。この電界支援酸化法は、STM探針あるいは導電性カンチレバーと試料との間にバイアス電圧(一般にサンプルがプラス)を印加した状態で走査することにより走査部分を選択的に酸化する方法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
先に挙げた従来の技術のほとんどは、大面積に一度に多くの構造を形成するには適しているが、ある特定の位置に構造を形成する位置精度に限界があり、ナノメータスケールでの位置決めが困難である。水素終端したシリコン基板を電界支援酸化(FIO)して酸化膜パターンを形成し、酸化膜上に選択的に成長するSAM膜により、有機単分子膜の微細構造パターンを得る方法は、上記位置決め精度は極めて高いが、基板に水素終端Si基板を用いる必要があるため、基板の安定性に問題があり、基板の多様性にも欠ける。また、プローブで走査した部分にのみSAM膜を形成させる方法であるので、微細な構造のみを形成する際には都合がよいが、微細な構造以外に比較的大きな面積を含む構造を形成するには、大面積を微細なピッチで多数回走査しなければならず、効率が悪い。また、SAM膜を使用しない方法では、膜作成プロセスが複雑で、高価になり、形成された膜の欠陥密度も比較的大きい。更に、ポリマーレジストでは分子量が大きく、膜厚もSAM膜よりも厚いので分解能に限界がある。
【0006】
このような問題に対処し、本発明者らは、0.5nmから数十nm程度の極薄酸化膜のあるシリコン基板に、窒素雰囲気下でさらに部分的に電界支援酸化膜パターンを形成し、この基板上に有機単分子膜を成長させたところ、電界支援酸化膜パターン以外の部分にのみ完全な単分子膜が成長することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づくもので、その目的とするところは、安価で作製プロセスが簡単であり、かつ欠陥密度が少なく、位置精度が極めて高く、比較的大面積の構造をも含むような有機単分子膜の微細構造パターンを効率よく形成する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の有機薄膜パターンの製造方法は、基本的には、極薄酸化膜層のある基板上を、電界下で先鋭な先端を持つプローブで走査することにより、プローブが走査された近傍領域のみに部分的に電界支援酸化膜を形成し、この基板上における電界支援酸化膜パターン以外の部分に有機化合物薄膜を選択成長させることを特徴とするものである。
【0008】
この方法は、極薄酸化膜層のある基板上にプローブにより電界支援酸化膜を形成した部分は、有機化合物薄膜の成長が起りにくいことを利用し、有機薄膜パターンを形成しようとするものである。原子間力顕微鏡による表面の摩擦力測定によると、電界支援酸化膜と自然酸化膜とでは、膜の表面状態に差異があり、この差異が単分子膜の選択成長を誘起するものと考えられる。このような酸化膜の表面状態の差異は、従来の技術では差別が困難であり、それを利用する技術も存在しなかったものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に基づいて有機薄膜の微細構造パターンを形成するプロセスは、図1の(a)ないし(e)に示す通りである。また、図2に、プローブ技術を用いた部分的な電界支援酸化膜パターンを形成する方法の概念図を示す。
本発明に基づく有機薄膜パターンの形成に際しては、まず、図1の(a)に示す極薄酸化膜層1のある基板2を、導電性プローブ3の走査で部分的に電界支援酸化し、酸化膜パターンを形成する(図1(b))。この電界支援酸化膜パターンは、図2に示すように、基板2上の極薄酸化膜1に、導電性プローブ3による所要パターンの走査を行うことにより形成するもので、同図中の電界支援酸化膜4に付した矢印は、プローブ3による走査の方向を示す。また、図中の符号5はバイアス電圧を印加するための電源を示している。
【0010】
図1(b)の態様で酸化膜パターンを形成した後には、同図(c)に示すように、酸化膜の表面状態の違いにより有機薄膜を元の極薄酸化膜1の領域のみに選択成長させる。同図(c)中には、符号6により成長したSAM分子を示している。この選択成長は、前述したように、電界支援酸化膜と自然酸化膜とでは、膜の表面状態に差異があり、この差異が単分子膜の選択成長を誘起するためと考えられる。
【0011】
プローブ技術を用いて部分的に酸化膜パターンを形成する方法としては、トンネル顕微鏡または原子間力顕微鏡を用いる方法が、位置精度的に非常に有利である。基板を部分的に酸化する際、その表面の状態を元の酸化膜表面とは異なる状態に変化させる方法としては、大気中でも可能ではあるが、酸化中の雰囲気を湿度10%以下に、望ましくは5%以下に保つことが有効である。また、湿度を低く保つことにより酸化部分の加工精度(空間分解能)を向上させる効果もある。
【0012】
また、上記酸化膜パターンは、プローブ技術を用いて形成するので、直線的な構造のみではなく、曲線的な形状を含む任意の複雑な構造をnmスケールでの位置決め精度で形成できる。従って、特定の位置に任意の形状の酸化膜パターンを形成することも可能である。そのため、この酸化膜パターンを利用し、既に存在する微細構造に対して、特定の位置関係にある場所に任意の形状の有機薄膜微細構造を形成することも可能である。
【0013】
有機化合物薄膜としては、従来使用されている蒸着法などの有機薄膜形成方法によるものも利用し得るが、分子を溶解させた溶液に基板を浸漬することにより欠陥の少ない単分子膜を形成できる有機自己組織化単分子膜が有用である。有機自己組織化単分子膜は、直線状の骨格構造を持つ有機分子の一方の末端の官能基が、特定の基板の表面の原子あるいは原子集団と物理的または化学的に吸着し、分子間の相互作用により秩序正しい単分子膜を形成するもので、基板表面状態に敏感である。
【0014】
また、上記の方法で有機薄膜パターンを形成すると、このパターン自身がフッ酸などの酸化膜エッチング液のレジストとして働く。従って、上記有機薄膜パターンを適当な酸化物エッチング溶液に浸すと、プローブの走査により酸化された領域(有機薄膜が完全に成長していない領域)のみがエッチングされる。このエッチング過程により、図1(d)に示すように、より完全な有機薄膜パターンを形成できる。
【0015】
さらに、このエッチング面は、空気中に放置する程度でも酸化され得る。従って、エッチング後、空気中に放置など適当な方法でエッチング表面を酸化し、この基板を酸化物表面にのみ選択的に薄膜を形成する分子に晒すことにより、エッチングされた後再び酸化された部分にのみ新たな有機薄膜が形成される。これら一連の方法により、即ち、図1の(a)〜(d)によって説明した方法によって得られた基板上のエッチングによる露出面を再度酸化し、この酸化部分に異種有機化合物薄膜を選択成長させることにより、図1(e)に示すように、2種の有機薄膜の微細構造を交互に配列した複雑な異種有機薄膜の交互パターンを形成することができる。同図中において、符号7により先のSAM分子6とは異種の第2のSAM分子を示している。
【0016】
基板材料としては、表面に均一な極薄酸化層を形成でき、プローブ技術で酸化できる材料であれば、何でも使用可能であり、たとえば、シリコン、GaAsをはじめとする化合物半導体、各種金属などが挙げられる。また、有機薄膜材料としては、酸化物表面の水酸基と相互作用を有する官能基を持つ分子であれば利用可能であり、たとえば各種クロロシラン分子、各種メトキシシラン分子、各種エトキシシラン分子、各種シラノール分子、各種メチルシラン分子などが挙げられる。
【0017】
しかしながら、極薄酸化膜層のある基板としては、0.5から数nmの膜厚の自然酸化膜、酸化作用のある溶液処理により形成された0.5から数十nmの膜厚の酸化膜、またはドライあるいは水蒸気熱酸化により形成された0.5から数十nmの膜厚の酸化膜を有するシリコン基板を用いるのが望ましい。
【0018】
【実施例】
以下に、実施例をもって本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例で限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
自然酸化膜付きSi(111)基板(p−type,0.02Ωcm)表面をトリクレン煮沸、アセトン超音波洗浄後、原子間力顕微鏡装置により高ドープシリコンカンチレバー(1.7N/m)を用いてサンプルバイアス+10V、走査速度4μm/sで走査し、電界支援酸化した。この電界支援酸化は、実質的に図2に示す電界支援酸化システムを用い、それを雰囲気ガスを制御できる容器内に置いて、窒素ガスで容器内を置換することにより、湿度を3%以下にして電界支援酸化を行った。電界支援酸化により形成された酸化領域の高さは約0.7nmであった。摩擦力像から電界支援酸化直後では、自然酸化膜部に比べて電界支援酸化物で摩擦力がやや小さく、両者で酸化膜の表面状態が異なっていた。
【0020】
さらに、この基板を11−Bromoundecyltrichlorosilane (BrUTS)の脱水トルエン溶液(約35mM)に20min 浸漬し、SAM膜を形成した。SAM成長後の表面では、電界支援酸化直後とは逆に電界支援酸化部の方が摩擦力が大きくなった。SAM膜成長後の自然酸化膜部の水に対するコンタクトアングルは約88度で、単分子膜と同等の値であることから、自然酸化膜部には単分子層のSAM膜が形成されていることが分かった。図3には、SAM形成後の基板をHF水溶液(2.5%)に40sec 浸漬した後の原子間力顕微鏡像(a)及び摩擦力像(b)を示す。電界支援酸化膜部分(同図(a)で暗い電界支援酸化領域A)のみがHFによりエッチングされ、有機薄膜パターン(同図(a)において明るい自然酸化膜領域B)のみが残っている。
【0021】
電界支援酸化部がエッチングされ除去されているにも拘わらず、自然酸化部でのH2 Oに対するコンタクトアングルは約89度と、エッチング前と同様単分子膜と同等の値を示した。すなわち、自然酸化部では、よくオーダーしたSAM膜が形成されているためSAM膜がHFに対してレジストとして働いたのに対し、電界支援酸化部では、SAM膜が形成されないかあるいは不完全なため、HFにより酸化膜がエッチングされたと解釈できる。以上のように、電界支援酸化領域以外のところに選択的に完全なSAM膜が成長し、SAM膜のパターンが形成できた。
【0022】
[実施例2]
上記、HFエッチングにより、BrUTSのSAM膜パターンを残して電界支援酸化膜のみがエッチングされた基板を、水蒸気、酸素雰囲気などで酸化環境に晒すと、エッチングされ基板表面が露出した部分が酸化された。この基板を実施例1のBrUTSのSAM分子とは異なるSAM分子Octadecyltrichlorosilaneの2mM溶液(溶媒:ヘキサデカン、:四塩化炭素=7:3)に60分浸漬すると、実施例1のBrUTSのSAM分子の膜が無く、エッチングされた後再び酸化された部分にのみOctadecyltrichlorosilaneのSAM膜が形成された、以上のようにして、図1(e)に示すような2種のSAM膜の微細構造が交互に配列した構造を形成することができた。
【0023】
[実施例3]
自然酸化膜付きSi(111)基板(p−type,0.02Ωcm)表面をトリクレン煮沸、アセトン超音波洗浄後、原子間力顕微鏡装置により高ドープシリコンカンチレバー(1.7N/m)を用いてサンプルバイアス+10V、走査速度10μm/sで走査し、電界支援酸化した。窒素ガスで容器内を置換することにより、湿度を1%以下にして電界支援酸化し、線状の酸化膜パターンを一定間隔おきに形成した。電界支援酸化により形成された酸化領域の高さは約0.4nmであった。この基板をOctadecyltrichlorosilane(OTS)の溶液(約2mM)に30min 浸漬し、SAM膜を形成した。SAM膜成長後の自然酸化膜部の水に対するコンタクトアングルは約108度で、単分子膜と同等の値であることから、自然酸化膜部には単分子層のSAM膜が形成されていることが分かった。
【0024】
原子間力顕微鏡観察によれば、OTS溶液浸漬後の基板では、電界支援酸化されていない部分の方が電界支援酸化部分よりも高くなっていることが分かった。電界支援酸化部以外の部分にのみOTSのSAM膜が形成されて、電界支援酸化による線状パターンに挟まれた線状の領域にOTSのSAM膜の線状パターンが形成されていることが分かる。このときのSAM線状パターンの幅は約60nmであった。SAM形成後の基板をHF水溶液(2.5%)に40sec 浸漬したところ、電界支援酸化部がエッチングされ除去されているにも拘わらず、自然酸化部でのH2 Oに対するコンタクトアングルは103度とエッチング前よりは若干低下したが、SAM膜が顕著に劣化していないことを示す値を示した。すなわち、自然酸化部では、よくオーダーしたSAM膜が形成されているためSAM膜がHFに対してレジストとして働いたのに対して、電界支援酸化部ではSAM膜が形成されないかあるいは不完全なため、HFにより酸化膜がエッチングされたと解釈できる。以上のように、電界支援酸化領域以外のところに選択的に完全なSAM膜が成長し、SAM膜のパターンが形成できた。
【0025】
【発明の効果】
以上に詳述した本発明によれば、安価で、簡単、かつ位置精度の極めて高い作製プロセスで、欠陥密度の少なく、比較的大面積の構造をも含むような有機単分子膜の微細構造パターンを効率的に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(e)は、電界支援酸化膜パターンを用いて、有機自己組織化単分子膜のパターンを形成する方法を説明するための説明図である。
【図2】酸化物パターンを形成する電界支援酸化法の概念の説明図である。
【図3】電界支援酸化膜パターンを用いて、有機自己組織化単分子膜のパターン形成されたことを示す原子間力顕微鏡像(a)及び摩擦力像(b)の図面代用写真である。
【符号の説明】
1 極薄酸化膜
2 基板
3 導電性プローブ
4 電界支援酸化膜
5 バイアス電圧用電源
6 SAM分子
7 第2のSAM分子
A 電界支援酸化領域
B 自然酸化膜領域

Claims (6)

  1. 極薄酸化膜層のある基板上を、電界下で先鋭な先端を持つプローブで走査することにより、プローブが走査された近傍領域のみに部分的に電界支援酸化膜を形成し、この基板上における電界支援酸化膜パターン以外の部分に有機化合物薄膜を選択成長させることを特徴とする有機薄膜パターンの製造方法。
  2. 基板上に部分的に酸化膜を形成する際の雰囲気を湿度10%以下にすることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜パターンの製造方法。
  3. 有機化合物薄膜が、分子を溶解させた溶液に基板を浸漬する方法により作成される有機自己組織化単分子膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機薄膜パターンの製造方法。
  4. 極薄酸化膜層のある基板として、0.5から数nmの膜厚の自然酸化膜、酸化作用のある溶液処理により形成された0.5から数十nmの膜厚の酸化膜、またはドライあるいは水蒸気熱酸化により形成された0.5から数十nmの膜厚の酸化膜を有するシリコン基板を用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有機薄膜パターンの製造方法。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の方法において、プローブにより電界支援酸化膜パターンが形成された部分をエッチングにより除去することを特徴とする有機薄膜パターンの製造方法。
  6. 請求項5に記載の方法によって得られた基板上のエッチングによる露出面を再度酸化し、この酸化部分に異種有機化合物薄膜を選択成長させることを特徴とする異種有機薄膜パターンの製造方法。
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