JP3951165B2 - 金属素材の鍛造加工方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は金属の塑性方法及び装置に関するものであり、鋼材などの金属素材の一次軟化現象と加工軟化現象との相乗効果により省資源及び省エネルギであるにも関わらずネットシェープでの、即ち、仕上げ加工不要の鍛造加工を可能とするものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、鋼材の塑性加工の温域としては冷間、温間、熱間があった。図1は(財)日本鉄鋼協会特別報告書No.36「板圧延の理論と実際」第164頁から転載したもので、炭素鋼材における温度と変形抵抗の関係を示しており、抵抗値は280℃付近に存在する一次軟化点aで一旦極小を呈するが温度がこの点aを超えると再び上昇し、500℃付近のb点で極大を呈した後再び抵抗値は減少し、800℃付近のc点(二次軟化点)で極小を呈し、その後横這となり、融点に向かって抵抗値は温度に対して比例的に降下してゆく。図1において冷間加工はAの温域での加工、温間加工はBの温域での加工、熱間加工はCの温域での加工のことをいう。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
冷間加工では常温域Aが使用され、燐酸塩皮膜処理や通常の潤滑油を使用することが可能であり、熱管理や防錆管理を必要とせず、また熱膨張も少ないので仕上げ加工不要、即ち、ネットシェープ加工が可能となるため、多用されている。反面、変形抵抗が高く延性も乏しいため成形力が大きく、高エネルギの駆動源(油圧シリンダなど)が必要であり、高炭素鋼などの加工硬化性の指標であるN値が大きい素材には適さない。
【0004】
温間加工の温域は大体400〜700℃であり、図1では領域Bにて表される。この温間加工では昇温効果により冷間より抵抗値が少し下がり延性も向上するので成形力が抑えられ、加工硬化も同様に抑えられるので、加工限界上の制約は冷間に比較して小さい。そして、青熱脆性による加工硬化による素材強度向上を狙う場合もある。しかしながら、温度上昇による熱膨張が大きいためネットシェープ加工にはそれほど適さず、仕上げ加工が別途必要である。また、温域的に燐酸塩処理液は気化し並品の潤滑油は引火の可能性があり、冷間とは異なる熱や防錆管理を要し、加熱エネルギ費が嵩むという問題もある。従って、温間加工は決定的な利点がないため塑性加工法としては従来からあまり多用されていない。
【0005】
熱間加工は抵抗値が大きく下がり、延性も向上するので成形力を大きく下げることができる。従って、大物で変形量の大きな部品の鍛造のため現在広く採用されている。反面加熱エネルギの損失が大きく、厚い酸化皮膜の発生があるためその除去の手段が必要であり、熱膨張が膨大であり、金型材の単価が高く、金型の寿命は短く、更には加工精度が低く、ネットシェープ加工はもとより困難である。
【0006】
この発明は以上の従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、省資源・省エネルギであるにもネットシェープ加工が使い易い、準冷間成形で可能な新規な鍛造加工方法及び装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば、抵抗値が温度と非正比例な変曲線を描く一次軟化現象と、加工硬化後に塑性加工により得られる昇温域で加工軟化現象を有し、その一次軟化現象と加工軟化現象とがほぼ重複する温域である金属材の塑性加工に際し、素材が近似室温の低温域時は主として素材の塑性流動変形による粒子間の滑り摩擦による自己発熱により金属素材を前記温域まで昇温させ、一次軟化現象と加工軟化現象との相乗効果により温間鍛造と同等以上の重塑性加工を得るべく積極低冷却をせずに前記温域を維持しつつ時効硬化進行の時間を与えぬように、昇温に応じて加工率速度を高めてゆくようにし、かつ自己発熱を促すために、金属粒子間の滑り摩擦による自己発熱および金属素材表面と金型部材との接触面の滑り摩擦発熱を意図的に加算するべく、本来の形状成形加工目的の鍛造工程以外に自己発熱促進工程を組み入れたことを特徴とする鍛造加工方法が提供される。
【0008】
この発明の成立の前提として金属素材が一次軟化現象と加工軟化現象とを有し、これら両者の温域が重複していることであり、このような条件を満たす素材として炭素鋼をあげることができる。一次軟化現象については図1で説明したように常温から温度をその温度を上げてゆくと280℃付近で変形抵抗に最初の極小点aが見られ、これを一次軟化と称する。この一次軟化点a付近の温域を図1ではDにて表し、この温域Dをこの発明では準冷間領域と称するものとする。この温域では変形抵抗は温間Bと遜色ないほど小さくまた温度が低いため燐酸塩処理液も並潤滑油も冷間時と同等に扱いうる。
【0009】
次に、加工軟化現象はひずみの増大とともに温度も増大させることによりかえって応力が減少する現象のことで、図2は丸善書店刊行加藤著金属塑性学15ページから転載されたせん断ひずみとせん断応力(分解せん断応力)との関係を温度T1とT2(>T1)についてそれぞれ曲線L1, L2にて示している。温度一定の状態ではひずみの増大によって応力は一律に増大する。しかしながら、温度T1において降伏点(応力τ1)まで引っ張り、この状態で温度をT2まで上昇させると応力はτ2まで減少し、その後はひずみの増大に準じて応力は温度下降して行く。このような変形の増大に従って応力が降下する現象を加工軟化と称し、従来この現象の存在自体はもとより知られていたが、これを積極的に利用した加工方法は見られなかった。この発明ではこの加工軟化を呈する温域が炭素鋼では塑性加工で得られる温度付近であり、一次軟化現象の温域と近時していることにより着目し、両者を相乗させることにより塑性加工による成形性を高めネットシェープ加工を行いうるようにし、仕上げ加工を不要とするようにしたものである。
【0010】
この発明の動作において、一次軟化と加工軟化との重複温域の確保は基本的には素材の自己発熱に負っている。このような自己発熱は塑性加工に伴う金属粒子間の滑り摩擦とワークと型部品との間の滑り摩擦により惹起されものである。自己発熱による一次軟化と加工軟化との重複温域の確保によって必ずしも外部から積極的な加熱エネルギを加える必要がないため省エネルギ化を実現することができる。他方、加工開始前においては素材は低温であり、前記重複温域まで速やかに昇温させる必要がある。低温時にのみ加工率を低く抑えることにより成形力はそれほど大きくならず他方素材における塑性変形は素材の自己発熱を惹起せしめ、速やかに重複温域に至らしめこの発明による一次軟化現象と加工軟化現象との相乗作用を享受することができる。そして、重複温域に至らしめた後はこの温域を維持しつつ加工率速度を最終製品の加工率に合わせて高め。これにより時効硬化進行の時間を抑制する。一次軟化と加工軟化との相乗作用下での段階的な加工により理想的な鍛造加工が実現される。即ち、一次軟化現象と加工軟化現象との相乗作用を与えることにより、冷間で加工を実施するとしたら割れに至るほどの金属流動偏析を生じうる形状や加工硬化性の高い素材であっても良好な塑性流動性が得られ精度の高い塑性加工が実現される。そして、温度からみると100〜280 ℃付近と低温であるため温度膨張や酸化皮膜形成の問題がないため高い加工精度を実現することができ、しかも冷間鍛造と同様な燐酸塩皮膜処理や並潤滑油に潤滑が採用可能であるためこの点でのコスト増につながることはない。他方、鋼材などの金属素材の特質上、時効による硬化は回避できない。図3は(財)日本鉄鋼協会特別報告書No.36「板圧延の理論と実際」第346ページから転載した鋼材における時間に対するロックウエルBスケールでの硬さ変化の特性を示している。時効による硬化は加工性に悪影響を及ぼし、ネットシェープでの加工の障害になりうる。そこで、この発明では時効硬化による加工精度への悪影響を回避するべく昇温に応じて加工率速度を高め、時効硬化が未進行のうちに所期の加工率までの加工を完了させている。即ち、一次軟化現象と加工軟化現象との共存温域まで昇温せしめると共に昇温後はこの温域を維持しつつ時効硬化を起こさない短時間にて所期の加工率の加工が完了するように温度の増大に応じて加工率速度が上昇するように加工を行っている。
そして、押出し成形などの鍛造工程自体は自己発熱により素材の温度を高めるが、本来の鍛造加工だけでは昇温が遅れてしまうおそれがあるが、本来の鍛造加工に先立って素材の繰り返し加圧などにより意図的に自己発熱を促進させることで、一次軟化と加工硬化の共存温域に迅速に導入することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、近似室温の低温度時若しくは自己発熱による過熱時に適温に加熱された潤滑油を使用し、これにより前記温度域を維持する鍛造加工方法が提供される。
【0014】
請求項2の発明の作用・効果を説明すると、この発明では積極的な加熱若しくは冷却はなるべく行わないようにするが、近似室温の低温度時若しくは自己発熱による過熱時は適温(例えば100℃程度)に加熱された素材の浴流が行われ、これにより素材の加熱若しくは冷却が控えめではあるが実施され、一次軟化と加工硬化の共存温域の可及的維持を図ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、金型治工具として低熱伝導率のものを使用し、これにより熱伝導による放熱を抑制して前記温度域を維持する鍛造加工方法が提供される。
【0016】
請求項3の発明の作用・効果を説明すると、金型治工具として低熱伝導率のものを使用することにより放熱が抑制されるため、外部からのエネルギの印加なして若しくは最小で一次軟化と加工硬化の共存温域の維持を図りうる。そして、この際、金属治工具の素材の選定に際しては低熱伝導率のみでなく許容応力及び耐久性を考慮する必要がある。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、金属素材接触部位である外面ないしは受圧面等に断熱処理を施した金型治工具部材としてのダイス類やパンチ類を使用し、これにより積極的な冷却を抑制して前記温度域を維持する鍛造加工方法が提供される。
【0018】
請求項4の発明の作用・効果を説明すると、金属素材接触部位である外面ないしは受圧面等に断熱処理を施すことにより素材の冷却が抑制され、外部エネルギの印加なしに若しくは最小で一次軟化と加工硬化の共存温域の維持を図りうる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、時効効果進行の時間を抑えるべく、成形装置の駆動源機構を可変速に構成し、初期の一次軟化温度域到達不十分時の高抵抗値下での加工は低加工率速度に抑えて実施し、一次軟化温域到達時の低抵抗値下での加工は高加工率速度加工に切り替えて実施する鍛造加工方法が提供される。
【0020】
請求項5の発明の作用・効果を説明すると、初期の一次軟化温度域到達不十分時の高抵抗値下では駆動源機構を低加工率速度となるように制御し、一次軟化温域到達時の低抵抗値下では駆動源機構を高加工率速度になるように制御し、これにより時効硬化進行が短縮し、所期の高精度加工に寄与させることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、一次軟化現象と加工軟化現象とを有し、一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域にある金属素材の鍛造加工のための装置であって、金属素材の加工手段と、金属素材の低温状態において素材を自己発熱により前記温域まで加温するべく加工手段と協働する加温手段と、加工率が段階的に高まるように加工具の動作を制御する制御手段とを具備してなり、前記加温手段は、素材に縮径による自己発熱を付与するべく金型入口部に設けられ、素材高の数倍の長さを有する案内部より構成されることを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0022】
請求項6の発明の作用・効果を説明すると、加温手段は低温時は加工手段により低い加工率にて加工を行わしめ素材の塑性変形による自己発熱により金属素材を前記一次軟化現象と加工軟化現況との共存温域まで昇温させ、昇温後は一次軟化現象と加工軟化現象との相乗効果を得るべく前記温域を維持しつつ加工率を加工手段により最終製品の加工率に向けて徐々に高めてゆき、ネットシェープ加工を行うことができる。
そして、金型入口に素材高の数倍の長さを有した案内部が設けられているため、本加工に先立って素材は案内部を通過するとき案内部との摩擦による自己発熱に基づいて素材を一次軟化及び加工軟化の共存温域まで迅速に加温することができる。
請求項7に記載の発明によれば、一次軟化現象と加工軟化現象とを有し、一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域にある金属素材の鍛造加工のための装置であって、金属素材の加工手段と、金属素材の低温状態において素材を自己発熱により前記温域まで加温するべく加工手段と協働する加温手段と、加工率が段階的に高まるように加工具の動作を制御する制御手段とを具備してなり、前記加温手段は、本成形に先だって素材を一定位置で繰返し的に加圧する複動機構より構成されることを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
請求項7の発明の作用・効果を説明すると、複動機構は本成形に先立って素材に繰り返し的な加圧を加え、これによる自己発熱に基づいて素材を一次軟化及び加工軟化の共存温域まで迅速に加温することができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、請求項6若しくは7に記載の発明において、加工具を駆動するための高エネルギの駆動源を備え、前記高エネルギ駆動源は、金属素材の昇温のための十分な自己発熱量を実現するべく、通常の数倍の実加工速度を付与しうるようにされていることを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0024】
請求項8の発明の作用・効果を説明すると、高エネルギの駆動源は加工具による実加工速度を通常の加工における数倍とすることを可能とする。加工具の速度増加は生産性の工場の目的ではなく自己発熱の誘発及び温存の目的である。これにより、前記の一次軟化と加工軟化との共存温域に迅速に持ち込むことができ、加工効率を高めることができる。即ち、図4においてラインM1は高加工速度の場合における昇温特性を示し、時間t1で所定発熱量T0が得られており、ラインM2は低加工速度の場合における昇温特性を示し、時間t2(>t1)で所定発熱量T0が得られる。破線Nは放熱量の時間変化を示し、これはもとより時間のみに比例している。蓄熱量は発熱量−放熱量であることから、高加工速度の場合は蓄熱量はQ1、低加工速度の場合は蓄熱量はQ2となり、高加工速度とした場合の蓄熱量が大きくなり、迅速に前記の一次軟化と加工軟化との共存温域に到達せしめ、生産性の向上を図りうることが理解されよう。
【0025】
請求項9に記載の発明によれば、請求項8に記載の発明において、前記加温手段は前記高エネルギ駆動源に連結された可減速機構により構成され、金属素材の温度が一次軟化の温域に未到達の場合において、加工率を抑えるべく低加工速度が得られるように可減速機構を制御しうることを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0026】
請求項9の発明の作用・効果を説明すると、可減速機構は金属素材の温度が一次軟化の温域に未到達の場合において加工率を抑える。素材温度が一次軟化温度に未到達の場合は材料の流動性が不十分であり、加工率が高いとすると割れが発生するなど所期の塑性加工をなしえない虞れがあるが、この発明に従い素材温度が一次軟化温度に未到達の場合に加工率を抑制することにより材料の流動性の不足の問題を補償することができる。
【0031】
請求項10に記載の発明によれば、請求項6若しくは7に記載の発明において、補助的に外部からの予熱の付与を行う補助的低温加熱装置を具備したことを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0032】
請求項10の発明の作用・効果を説明すると、補助的低温加熱装置は寒冷期などにおいて一次軟化温域への昇温が困難な場合において外部の熱源より加温を行うことができる。熱源としては遠赤外線によるふく射加熱法や加温浴流による伝導加熱法などを採用することができる。
【0033】
請求項11に記載の発明によれば、請求項6若しくは7に記載の発明において、自己発熱が伝導、ふく射などにより容易に放熱されるのを抑制する手段を更に具備したことを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0034】
請求項11の発明の発明の作用・効果を説明すると、自己発熱が伝導、ふく射などにより容易に放熱されるのを抑制する手段を具備することにより一次軟化及び塑性軟化共存温度への維持のエネルギ効率を高め、低ランニングコスト化を実現することができる。
【0035】
請求項12に記載の発明によれば、請求項6若しくは7に記載の発明において、発熱温度が前記温域を過大に超過した場合において冷却のため適切量の低温油をワークや治工具類に浴流せしめる給油手段を更に具備したことを特徴とする鍛造加工装置が提供される。
【0036】
請求項12の発明の作用・効果を説明すると、自己発熱が充分に得られている状態では、素材の連続加工を実施した場合などにおいて、素材温度が自己発熱−加工軟化共存温域を大幅に超過し、燐酸塩処理液の気化点や、潤滑油の発火点や、青熱脆性温域に接近する懸念がある。発熱温度が前記温域を過大に超過した場合においては低温油を使用し、素材の冷却を行うことにより自己発熱−加工軟化共存温域を維持することができ、加工の全期間にわたって自己発熱−加工軟化共存温域を維持することができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
次に、この発明に準拠した塑性加工の例について具体的に説明すると、図5(イ)〜(ハ)は上下共に複動の油圧プレスにより筒状製品の前後押出加工を行う場合を順を追って説明している。上下複動油圧プレスは上側に内パンチ12A及び外パンチ14Aを備え、それぞれの油圧シリンダに連結され、下側に内パンチ12B及び外パンチ14Bを備え、これらもそれぞれの油圧機構に連結される。ダイブロック16上には筒状ダイ18が固定されており、ダイ18内に導入された炭素鋼などの素材20は、この発明の塑性加工方法により、上側の内パンチ12A及び外パンチ14A並びに下側の内パンチ12B及び外パンチ14Bによって筒状製品に成形される。
【0038】
図5の(イ)は塑性加工に先立った繰り返し的な加圧による自己発熱過程を示しており、これにより炭素鋼材Aは一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域である100〜280℃付近に加温される。即ち、図5の(イ)に示すように内外の上パンチ12A, 14Aはその下面において面一とされ、内外の下パンチ12B, 14Bはその上面において面一とされる。そして、上側のパンチ12A, 14Aと下側パンチ12B, 14Bとの間で矢印a, bのように繰り返し的な圧縮加圧を受け、その結果、素材20は金属の粒子間の滑りや摩擦により自己発熱するに至り、一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域に昇温される。即ち、この実施形態においては上下のパンチの動作は昇温前は自己発熱による素材の加熱に費やされ、素材の加工率としては低い状態にある。そして、所期の昇温が得られた後に本来の高加工率速度での加工が行われ、時効による硬化(図3)が問題にならない短時間の内に本来の加工が完了するようにされる。
【0039】
図5の(ロ)、(ハ)は自己発熱後の本来の加工を示す。この実施形態では加工が段階的に行われる場合を示している。即ち、(ロ)においては下側の内パンチ12Bは少し下降させ、外パンチ14Bは大きく下降させ、他方上側では外パンチ14Aはそのままで若しくは少し上昇させた状態で、内パンチ12Aを大きく下降させることにより素材を強圧し、第1段階の加工を行う。(ハ)は次の加工段階を示し、下側の内パンチ12Bは少し下降させ、外パンチ14Bを更に大きく下降させ、上側の外パンチ14Aは実質的にそのままの状態で、内パンチ12Aを大きく下降させることにより素材を強圧する。図5では2段階の強圧加工が模式的に示されているがより他段階で実施することも可能である。このような徐々に加工率を上げてゆくことによる段階的に上昇する加工率下での強圧加工を実施することにより、最終的な筒状製品(図5の例では中間の薄い壁で仕切られた筒状製品)を得ることができる。図5の(ロ)及び(ハ)における炭素鋼材としての素材20の前後押出加工においては加工の開始においては(イ)に説明した加圧による自己発明による事前加熱操作により得られた100〜280℃付近の温度が維持される。この温度は炭素鋼の一次軟化温度付近であり、素材の抵抗は極小を呈する。また、この温度域は炭素鋼材においては加工軟化現象を呈する温度であるため、素材の加工が例えば(ロ)から(ハ)のように順次加工度を高めていっても成形抵抗が増えないかかえって減少する。また、昇温に応じての加工率の上昇は素材の加工速度(所期の加工完了までの時間)が早まるため図3に示すような時効による素材の硬化の影響を抑制し、加工硬化が影響が少ないうちに加工を終え、前記した一次軟化と加工軟化との共存温域の維持との相乗効果により、金属流動偏析を生じやすい形状の品物の成形や加工硬化性の高い素材であってもスムースに加工することができ、しかも100〜280℃℃付近の温度での加工であるため温度膨張が少なく寸法管理が容易であり冷間加工と同様の仕上げ不要のネットシェープ加工とすることができ、加工時間の短縮及び加工工数の削減によりコスト減を図ることができる。また、冷間鍛造と同様な燐酸塩処理液が使用可能であり、また潤滑油としても並級のものが採用可能であるためこの点でもコスト減に寄与させることができる。
【0040】
この発明の実施において、素材は自己発熱により一次軟化減少と加工軟化とが共存する温域に積極的維持しており、ワークや金型の冷却は基本的には実施しない。しかしながら、素材の連続加工を実施した場合などにおいて、素材温度が自己発熱−加工軟化共存温域を大幅に超過し、燐酸塩処理液の気化点や、潤滑油の発火点や、青熱脆性温域に接近するおそれがある。この場合には金型18に少量の低温潤滑油を使用し、控えめの冷却を実施することにより自己発熱−加工軟化共存温域を維持するようにする。
【0041】
図6及び図7は本加工前における一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域自己発熱温域への自己発熱を惹起させるための別の実施形態を示しており、この実施形態においては上側には加圧用単動パンチ30を下側にはノックアウト用の単動パンチ32を備えた長尺工程プレス機が使用されている。金型34は入口部に素材36の高さの数倍の案内部34-1を備えている。図6の(イ)〜(ハ)は本加工に先立った自己発熱工程を示す。即ち、加工の開始時に上側パンチ30は(イ)の位置にあり、(ロ)では上側パンチ30が中ほどの位置まで下降され、それにつれて素材は金型34の案内部34-1に沿って36´の位置まで下降され、(ハ)では上側パンチ30は更に下降され、素材は案内部34-1を完全に通過し、金型34のストレート面34-2上の36"の位置まで移動される。案内部34-1の通過による素材の厚みの増加はφ×t(φ:テーパ角度、t:素材厚み)となり、このような変形による発熱により素材の温度を一次軟化現象と加工軟化現象との重複温域に至らしめることができる。この予備的加温工程に継続して図7(ニ)(ホ)に示す本加工が実施される。即ち、 (ニ)では上側パンチ30により素材は下側パンチ32に向け強圧され、(ホ)では上側パンチ30により素材は下側パンチ32に向け更なる強圧を受ける。図7では(ニ)(ホ)の2段階のみが図示されるがより多段階での加工を実施しうる。即ち、加工率を徐々に高めながら加工が実施される。このようなこのような多段階の強圧により中間に壁面を有する筒状製品の前方後方押出し形成を行うことができる。そして、このような多段階の押出し工程において素材の温度は一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域に維持されているため、図6の第1の実施形態と同様な高精度のネットシェープ加工を実現することができる。また、昇温後の(ニ)(ホ)の本加工は時効による硬化が問題とならないように短時間の内に完了せしめられる。
【0042】
以上の実施形態では本加工に先立って図5の(イ)で説明した繰り返し的な加圧や図6の(イ)〜(ハ)で説明したテーパ状案内部での変形による加温を行い、一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域を得るための加工速度と加工率との適宜調節を行うことができる。図4は既に説明したように高加工速度の場合における昇温特性のラインM1及び低加工速度の場合における昇温特性ラインM2を示しており、他方破線は放熱ラインであり、高加工速度の場合の蓄熱量はQ1が低加工速度の場合の蓄熱量はQ2より大きい。そこで、素材の温度を一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域に速やかに到達させるため低温時に一般的鍛造加工機の数倍の実加工速度の設定とすることができる。このような、高加工速度の実現のためパンチ駆動用の駆動源としては高エネルギ型のものを採用することが好ましい。そして、高加工速度による加工中素材は一次軟化温度に達していないため、加工率(例えばパンチのストローク)としては小さい設定とする。即ち、図5の実施形態の場合においては素材の低温状態においては内側パンチ12Aの下降量を小さくして加工を行い、素材の自己発熱が充分に得られた後は内側パンチ12Aの加工量を大きくして加工を行うようにするのである。
【0043】
以上の説明では素材の低温時は塑性加工による自己発熱により一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域への迅速到達を図っていたが、加工に入るに先立って素材に遠赤外線を照射したり、素材を加熱浴流に通過させたり、低温加熱炉やオイルバス方式により素材を加熱する加熱補助装置を加工ライン中に組み入れるようにすることもできる。
【0044】
また、素材の温度が一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域を維持するように保温する手段をプレス装置に設けることも可能である。図8はこれを示しており、このプレス機は上パンチ40により金型42内の素材44を下パンチ46に向けて強圧して筒状製品の前方後方押出しを行う第2の実施形態と同様なプレス機である。そして、素材の加温のため上パンチ40にヒータ41が設けられ、金型42の外周はバンドヒータ50にて包囲され、かつバンドヒータ50の周囲及び金型42の下方に断熱材52が配置されている。このような強制的加温装置及び断熱装置により素材44の塑性加工中の温度を一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域により確実に維持する効果が奏される。
【0045】
図9はこの発明の第3の実施形態としての、心金の多段階圧入によるねじの成形転造へのこの発明の応用を示す。ねじの成形転造装置は金型60を備え、金型60は直径線上で半割にされたものを合体させて構成される。金型60は内周にねじ山の形状に応じた凹凸60-1を備えている。素材管62に心金64を圧入することにより平坦面62-1に凹凸60-1に応じたねじが転造成形される。即ち、心金64は前端にテーパ面64-1を備えており、このテーパ面64-1が素材管62の平坦面62-1にあたることにより金型60の凹部60-1に向けての材料の張出し、即ち素材の塑性流動が惹起される。ねじ成形を段階的に行うため作業径が順次大きくなる心金が多数設けられ、心金を順次取り替えてゆくことにより最終的な歯高に徐々に近づけられている。図9の(ロ)は(イ)の心金64より作用径が大きい心金64´を示している。ただし、(イ)(ロ)は作用径の相違する心金を模式的に2種類示したのみであり、実際にはより多段階で成形が実施される。
【0046】
作用径の順次増大変化する心金64, 64'の順次圧入によねじの転造成形に際し、この発明に従って素材の温度は一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域に維持される。即ち、金型60に心金64, 64'を圧入する際の素材の温度は一次軟化温度付近であるため抵抗が低く、また心金を64, 64'のように徐々に作用径の大きいものに変えて加工度を高めていっても加工軟化現象(図2)の温域に素材が自己発熱により維持されているため、材料は高い流動性を確保することができ、加工率を高めるに従って変形抵抗がかえって降下する現象が得られる。また、前記重複温域の温度では熱膨張は冷間加工時とそれほど違わず、熱膨張が少ないため、第1及び第2の実施形態と同様に仕上げ加工不要のネットシェープ加工を実現することができる。
【0047】
この第3の実施形態においても第1及び第2の実施形態と同様に一次軟化温度と加工軟化現象との重複温域に迅速に至らしめるための加工速度や加工率の設定、更には、加温装置や断熱材の設置が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は炭素鋼材における温度と変形抵抗との関係を示す線図である。
【図2】図2は炭素鋼材におけるせん断ひずみと分解せん断応力との関係を模式的に示す線図である。
【図3】図3は炭素鋼材における時効による硬さ変化を示す線図である。
【図4】図4は塑性加工における加工速度と発熱との関係を模式的に示す線図である。
【図5】図5はこの発明における第1の実施形態における鍛造加工装置を示しており、(イ)は自己発熱工程、(ロ)(ハ)は鍛造加工工程をそれぞれ示している。
【図6】図6はこの発明における第2の実施形態における鍛造加工装置を示しており、(イ)(ロ)(ハ)は素材を自己発熱せしめる各段階を示す。
【図7】図7は図6と同様であるが、自己発熱に引き続く鍛造加工における段階(ニ)(ホ)を示す。
【図8】図8はこの発明の第3の実施形態における自己発熱の保温機能を有した鍛造装置を示している。
【図9】図9はこの発明の第4の実施形態を示しており、ねじ成形転造装置へのこの発明の応用を概略的に示している。
【符号の説明】
12A…上側内パンチ
12B…下側内パンチ
14A…上側外パンチ
14B…下側外パンチ
16…ダイブロック
18…筒状ダイ
20…被加工素材
30…加圧用単動パンチ
32…下側パンチ
34…金型
34-1…案内部
40…上パンチ
42…金型
44…素材
46…下パンチ
48…ヒータ
50…バンドヒータ
52…断熱材
60…ねじの成形転造装置の金型
64…心金
Claims (12)
- 抵抗値が温度と非正比例な変曲線を描く一次軟化現象と、加工硬化後に塑性加工により得られる昇温域で加工軟化現象を有し、その一次軟化現象と加工軟化現象とがほぼ重複する温域である金属材の塑性加工に際し、素材が近似室温の低温域時は主として素材の塑性流動変形による粒子間の滑り摩擦による自己発熱により金属素材を前記温域まで昇温させ、一次軟化現象と加工軟化現象との相乗効果により温間鍛造と同等以上の重塑性加工を得るべく積極低冷却をせずに前記温域を維持しつつ時効硬化進行の時間を与えぬように、昇温に応じて加工率速度を高めてゆくようにし、かつ自己発熱を促すために、金属粒子間の滑り摩擦による自己発熱および金属素材表面と金型部材との接触面の滑り摩擦発熱を意図的に加算するべく、本来の形状成形加工目的の鍛造工程以外に自己発熱促進工程を組み入れたことを特徴とする鍛造加工方法。
- 請求項1に記載の発明において、近似室温の低温度時若しくは自己発熱による過熱時に適温に加熱された潤滑油を使用し、これにより前記温度域を維持する鍛造加工方法。
- 請求項1に記載の発明において、金型治工具として低熱伝導率のものを使用し、これにより熱伝導による放熱を抑制して前記温度域を維持する鍛造加工方法。
- 請求項1に記載の発明において、金属素材接触部位である外面ないしは受圧面等に断熱処理を施した金型治工具部材としてのダイス類やパンチ類を使用し、これにより積極的な冷却を抑制して前記温度域を維持する鍛造加工方法。
- 請求項1に記載の発明において、時効効果進行の時間を抑えるべく、成形装置の駆動源機構を可変速に構成し、初期の一次軟化温度域到達不十分時の高抵抗値下での加工は低加工率速度に抑えて実施し、一次軟化温域到達時の低抵抗値下での加工は高加工率速度加工に切り替る実施する鍛造加工方法。
- 一次軟化現象と加工軟化現象とを有し、一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域にある金属素材の鍛造加工のための装置であって、金属素材の加工手段と、金属素材の低温状態において素材を自己発熱により前記温域まで加温するべく加工手段と協働する加温手段と、加工率が段階的に高まるように加工具の動作を制御する制御手段とを具備してなり、前記加温手段は、素材に縮径による自己発熱を付与するべく金型入口部に設けられ、素材高の数倍の長さを有する案内部より構成されることを特徴とする鍛造加工装置。
- 一次軟化現象と加工軟化現象とを有し、一次軟化現象と加工軟化現象とが重複する温域にある金属素材の鍛造加工のための装置であって、金属素材の加工手段と、金属素材の低温状態において素材を自己発熱により前記温域まで加温するべく加工手段と協働する加温手段と、加工率が段階的に高まるように加工具の動作を制御する制御手段とを具備してなり、前記加温手段は、本成形に先だって素材を一定位置で繰返し的に加圧する複動機構より構成されることを特徴とする鍛造加工装置。
- 請求項6若しくは7に記載の発明において、加工具を駆動するための高エネルギの駆動源を備え、前記高エネルギ駆動源は、金属素材の昇温のための十分な自己発熱量を実現するべく、通常の数倍の実加工速度を付与しうるようにされていることを特徴とする鍛造加工装置。
- 請求項8に記載の発明において、前記加温手段は前記高エネルギ駆動源に連結された可減速機構により構成され、金属素材の温度が一次軟化の温域に未到達の場合において、加工率を抑えるべく低加工速度が得られるように可減速機構を制御しうることを特徴とする鍛造加工装置。
- 請求項6若しくは7に記載の発明において、補助的に外部からの予熱の付与を行う補助的低温加熱装置を具備したことを特徴とする鍛造加工装置。
- 請求項6若しくは7に記載の発明において、自己発熱が伝導、ふく射などにより容易に放熱されるのを抑制する手段を更に具備したことを特徴とする鍛造加工装置。
- 請求項6若しくは7に記載の発明において、発熱温度が前記温域を過大に超過した場合において冷却のため適切量の低温油をワークや治工具類に浴流せしめる給油手段を更に具備したことを特徴とする鍛造加工装置。
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