JP3907863B2 - アポトーシス抑制又は促進物質のスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アポトーシス(細胞死)抑制作用や、アポトーシス促進作用を有する物質のスクリーニング方法、より詳しくはVDAC−リポソームを用いるアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法や、アポトーシス抑制作用や、アポトーシス促進作用を有するに新規なポリペプチド関する。
【0002】
【従来の技術】
アポトーシスは、生理的条件下で細胞自らが積極的にひき起こす細胞死であり、その形態は細胞核の染色体凝集、細胞核の断片化、細胞表層微絨毛の消失、細胞質の凝縮を特徴とし、最近では、アポトーシスを誘導する細胞表層受容体Fas抗原、アポトーシス誘導に必須のプロテアーゼ(カスパーゼ)、アポトーシスを抑制するがん遺伝子bcl−2遺伝子などが明らかにされている。
【0003】
がん遺伝子bcl−2遺伝子は、濾胞性リンパ腫附随の染色体転座t(14;18)(q21;q32)により活性化されるがん遺伝子として同定され、アポトーシス抑制機能を有するユニークながん遺伝子であり、このBcl−2に相同性を示す多数のタンパク質はBcl−2ファミリーと呼ばれ、Bcl−2ファミリーには、Bcl−2やBcl−xLで代表されるアポトーシス抑制機能を有するメンバーと、BaxやBakで代表されるアポトーシス促進(又は誘導)機能を有するメンバーが存在することが知られている。
【0004】
また、ミトコンドリアがアポトーシスシグナルの形質導入におけるきわめて重要な役割を果たし、このミトコンドリアのアポトーシス変化をBcl−2ファミリータンパク質が調節し、アポトーシス抑制機能を有するBcl−2及びBcl−xLがミトコンドリア膜電位(ΔΨ)ロス及びシトクロムcリリースを阻害すること(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998. J. Exp. Med. 183, 1533-1544, 1996. Cell 91, 627-637, 1997. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 1455-1459)や、アポトーシス促進機能を有するBax及びBakがミトコンドリア膜電位(ΔΨ)ロス及びシトクロムcリリースを誘導すること(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 4997-5002, 1998. J. Cell Biol. 143, 217-224, 1998. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998)も知られている。
【0005】
膜透過性遷移(以下「PT」という)ポアと呼ばれるポリプロテインチャネルにより、Bax及びBakに依存する膜透過性の変化が媒介されること(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 4997-5002, 1998. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998. Science 281, 2027-2031,1998)や、ポリプロテインチャネルは、ミトコンドリアポーリンとも呼ばれるVDAC(電位依存性陰イオンチャネル)、アデニンヌクレオチドトランスロケーター(ANT)、シクロフィリンD及び他のいくつかの分子からなると考えられていること(J. Bioenerg. Biomembr. 26, 509-517, 1994. Biochem. Biophys. Acta 1241, 139-176, 1995)も知られている。
【0006】
VADCはミトコンドリアの外層膜に豊富に存在する小さなタンパク質であり、プラナー脂質二重層に取りこまれてVADC−リポソームを形成した場合に大きな(2.6nm)電位依存性ポアを形成することが知られており(J. Membr. Biol. 111, 103-111, 1989)、またVDACは、イオンや中間代謝物を含んだ様々な物質がミトコンドリアを出入りする際の経路として生理学的に機能していると考えられている。さらに、本発明者らによって、Bax及びBakがPTポアと相互作用することが最近になって明らかにされている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998. Science 281, 2027-2031, 1998)。また、BaxがANT(アデニンヌクレオチドトランスロケーター)と直接相互作用して、ANT及びPTポアリポソームをアトラクチル酸、すなわちANTリガンドに感作させることも報告されている(Science 281, 2027-2031, 1998)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
Bcl−2やBaxは発ガンに深く係わっている。t(14;18)転座を有する濾胞性リンパ腫やび慢性大細胞型リンパ腫、t(18;22)(q21;q11)もしくはt(2;18)(q11;q21)を有する慢性リンパ性白血病において、各々免疫グロブリン重鎖、軽鎖領域への転座によりBcl−2はその発現の脱調節をうけ、細胞死抑制を促し発ガンに寄与する。一方Baxは、ガン抑制遺伝子として機能し、血球系腫瘍細胞株において高頻度にBax遺伝子(BH1とBH3領域)の変異が認められており、ヒトの腫瘍への関与が示唆されている。
【0008】
また、Bcl−2は神経変異性疾患に深く係わっている。Bcl−2と結合し、そのアポトーシス抑制機能を増強するSMN(survival motor neuron)タンパクは、運動神経変性を伴う遺伝子性疾患である脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy)の原因遺伝子産物であり、SMNの欠損によるBcl−2機能の低下がこの疾患の発症と深く関わっている。
【0009】
本発明の課題は、アポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用を有するBcl−2ファミリーが各種疾患と深い係わりを有することから、医薬や診断薬としての用途が期待できるアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法や、アポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アポトーシスを制御するBcl−2ファミリータンパク質に属するBcl−2、Bcl−xLなどによるアポトーシスを抑制する機能や、Bax、Bakなどによるアポトーシスを促進する機能が、ミトコンドリアを介して行われることを明らかにしてきたが、そのターゲット分子に関して鋭意研究し、リポソーム系を用いることにより、Bcl−2ファミリータンパク質がミトコンドリア外層膜のタンパク質VDACを直接のターゲットとして、アポトーシスシグナル伝達における中心的な現象であるシトクロムcリリース及びΔΨロスの調節を行っていることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、VDACがリポソームの脂質二重層に埋め込まれた構造を有するVDAC−リポソームと、VDACを通過することができる指標物質と、被検物質とをインキュベーションし、インキュベーション前後におけるVDAC−リポソーム内外の指標物質の濃度変化を検出することにより、被検物質のアポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用の有無を判定することを特徴とするアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項1)や、インキュベーションが、指標物質がVDAC−リポソーム内に存在する状態で行われることを特徴とする請求項1記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項2)や、インキュベーションが、被検物質がVDAC−リポソーム内に存在する状態で行われることを特徴とする請求項1又は2記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項3)や、インキュベーションが、被検物質と共にアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質が存在する状態で行われることを特徴とする請求項1又は2記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項4)や、VDAC−リポソームが、組換えヒトVDACを用いて調製されたVDAC−リポソームであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項5)や、VDAC−リポソームが、小さなユニラメラ小胞にVDACを再構成したVDAC−リポソームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項6)や、指標物質が、標識化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項7)や、標識化合物が、蛍光標識シトクロムc及び/又は同位体標識スクロースであることを特徴とする請求項7記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項8)に関する。
【0012】
また本発明は、被検物質が、タンパク質又はポリペプチドであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項9)や、タンパク質又はポリペプチドが、Bcl−2ファミリータンパク質のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項10)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち7番目から30番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項11)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち4番目から23番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項12)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち55番目から74番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項13)や、タンパク質又はポリペプチドが、Bcl−2ファミリータンパク質をコードするDNAの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項14)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号1に示される塩基配列のうち、32番目から751番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項15)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号3に示される塩基配列のうち、135番目から836番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項16)や、タンパク質又はポリペプチドが、配列番号5に示される塩基配列のうち、163番目から222番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法(請求項17)に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明におけるVDAC−リポソームとしては、ミトコンドリアポーリンとも呼ばれるVDACが、脂質二重層よりなる閉鎖小胞であるリポソームの脂質二重層に埋め込まれた構造を有するものであればどのようなものでもよい。また、VDAC−リポソームを構成するVDACとしては、その由来は限定されないが、組換えヒトVDAC等のヒト由来のVDACを用いて調製したVDAC−リポソームが医薬品等を開発する点から好ましく、そしてまた、VDAC−リポソームとしては、小さなユニラメラ小胞(SUV)にVDACを再構成したVDAC−リポソームが反応感度の点から好ましい。そして、リポソームの調製方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0015】
本発明における指標物質としては、アポトーシス促進物質の存在下等においてVDACチャネルを通過することができる物質であればどのようなものでもよいが、被検物質のアポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用の有無を判定する上で、インキュベーション前後における濃度変化の検出が容易なものが好ましく、標識化合物、色素、酵素等を挙げることができるが、特に同位体で標識された分子量が比較的小さいスクロースや、そのリリースがアポトーシスシグナルの形質導入における中心的な現象であるとされるシトクロムcを蛍光物質等の標識化合物により修飾した標識シトクロムcを具体的に例示することができる。そして指標物質は、VDAC−リポソームと共にインキュベーションするに際して、1種又は2種以上を同時に用いてもよく、またVDAC−リポソーム内及び/又はVDAC−リポソーム外に存在させておくことができる。
【0016】
本発明における被検物質としては、アポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用の有無の判定が期待される物質であればどのような物質でもよく、アポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用を有する可能性が高いタンパク質を具体的に例示することができ、中でも既にアポトーシスの制御物質として知られているBcl−2ファミリータンパク質の全部又は一部からなるタンパク質又はポリペプチドの修飾・改変タンパク質又は修飾・改変ポリペプチドが好ましい。修飾・改変されたタンパク質やポリペプチドとしては、例えば、タンパク質やポリペプチドのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質やポリペプチド、タンパク質やポリペプチドをコードするDNAの塩基配列又はこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質やポリペプチドを挙げることができる。
【0017】
そして、Bcl−2ファミリータンパク質としては、アポトーシス抑制作用を有するタンパク質として、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するBcl−2、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するBcl−xL、Bcl−w、Mcl−1、A1(Bfl−1)、BHRF−1(Epstein−Barr virus)、LMW−5−HL(African swine fever virus)、E1B19kDa(Adenovirus)、Ksbcl−2(HHV8)、ORF16(herpesvirus saimiri)を、アポトーシス促進作用を有するタンパク質としては、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するBax、Bcl−xS、Bad、Bak、Mtd(Bok)、Diva、Bik、Bid、Bim、Hrk(DP5)、Blk、Bnip3、Bnip3Lを挙げることができる。また、Bcl−2ファミリータンパク質の一部からなるポリペプチドとしては、アポトーシス抑制作用を有するポリペプチドとして、配列表の配列番号2記載の7番目から30番目のアミノ酸配列から成るBcl−2由来のポリペプチドや配列番号4記載の4番目から23番目のアミノ酸配列から成るBcl−xL由来のポリペプチドを、アポトーシス促進作用を有するポリペプチドとして、配列番号6記載の55番目から74番目のアミノ酸配列から成るBax由来のポリペプチドを、それぞれ具体的に例示することができる。
【0018】
また、本発明のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法においては、タンパク質又はポリペプチドが、Bcl−2ファミリータンパク質をコードするDNAの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又ポリペプチドも被検物質として有利に用いることができる。そして、Bcl−2ファミリータンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号1に示されるBcl−2をコードするDNA、配列番号3に示されるBcl−xLをコードするDNA、配列番号5に示されるBaxをコードするDNAを具体的に例示することができ、Bcl−2ファミリータンパク質をコードするDNAの塩基配列の一部としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列のうち32番目から751番目までの塩基配列、配列番号3に示される塩基配列のうち135番目から836番目までの塩基配列、配列番号5に示される塩基配列のうち163番目から222番目までの塩基配列を具体的に例示することができる。
【0019】
また被検物質は、VDAC−リポソームと共にインキュベーションするに際して、単独又は既知の1もしくは2種以上のアポトーシス抑制物質又は1もしくは2種以上のアポトーシス促進物質と併用することができる。被検物質とアポトーシス抑制物質を併用した場合はアポトーシス促進物質を、被検物質とアポトーシス促進物質を併用した場合はアポトーシス抑制物質をそれぞれスクリーニングすることができるが、アポトーシス抑制物質と拮抗する物質やアポトーシス促進物質と拮抗する物質をスクリーニングすることもできる。併用する場合、被検物質とアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質とは、VDAC−リポソーム内に存在させることが好ましいが、どちらか一方又は両者をVDAC−リポソーム外に存在させておくこともできる。そして、インキュベーションするに際して被検物質とアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質、被検物質と指標物質、被検物質と指標物質とアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質等をVDAC−リポソーム内に存在させるには、従来公知の方法を用いることができる。
【0020】
本発明のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法においては、インキュベーションにおける温度、pH、反応時間等の条件は特に制限されるものではないが、インキュベーション前後におけるVDAC−リポソーム内外の指標物質の濃度変化を感度よく検出することができる条件を選択することが好ましい。
【0021】
本発明は、また、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち7番目から30番目のアミノ酸配列、配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち4番目から23番目のアミノ酸配列又は配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち55番目から74番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドや、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち7番目から30番目のアミノ酸配列、配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち4番目から23番目のアミノ酸配列又は配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち55番目から74番目のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を少なくとも含むアポトーシス制御作用を有するポリペプチドや、これらペプチドに細胞内導入用の化学修飾がなされているポリペプチドや、上記本発明のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法により得られたアポトーシス抑制物質やアポトーシス促進物質に関する。このうち、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち、7番目から30番目のアミノ酸配列、配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち、4番目から23番目のアミノ酸配列又は配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち、55番目から74番目のアミノ酸配列はそれぞれ公知であるが、これらアミノ酸配列からなるポリペプチドが新たに調製されたことはなく、ましてこれらアミノ酸配列からなるポリペプチドがVDACチャネルに作用し、アポトーシス抑制作用やアポトーシス促進作用を発揮しうることは本発明をもって嚆矢とするものである。また、上記細胞内導入用の化学修飾がなされているポリペプチドとしては、細胞内への移行をスムーズにするHIVウイルスが産生するタンパク質TAT由来のオリゴペプチドを付けたポリペプチドを挙げることができる。
【0022】
【実施例】
以下本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、かかる実施例に限定されるものではない。
[材料と方法]
(抗体の入手)
ラット及びウマシトクロムcと交差反応する抗ハトシトクロムcモノクローナル抗体(7H8.2C12)、抗酵母シトクロムcポリクローナル抗体及び抗ラットANT抗体は、それぞれDr. E. Margoliash (イリノイ大学、イリノイ)、Dr. G. Shatz(バーゼル大学、スイス)及びDr. H.H. Schmid (ミネソタ大学、ミネソタ)から提供されたものを用いた。ラットVDACと交差反応する抗ヒトVDAC(ポーリン)モノクローナル抗体(31HL)は、カルバイオケム(Calbiochem, La Jolla, CA)から、抗ヒトBcl−xLポリクローナル抗体(L19)及び抗ヒトBaxポリクローナル抗体(N20)は、サンタクルス・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechology, Santa Cruz, CA)からそれぞれ入手した。
【0023】
(免疫沈降反応及びウェスタンブロット分析)
ラット肝臓ミトコンドリアを、文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 1455-1459, 1998)記載のように単離した。プロテイナーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液(最終濃度で10mMのヘペス(Hepes、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)pH7.4、5mMのKCl、5mMのMgCl2、1mMのEGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸)、0.5%のNP40)内に溶解され、超音波処理された細胞とミトコンドリアを用いて、文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686)記載のように免疫沈降反応を行った。リポソームを用いた免疫沈降実験を行うため、文献(Mol. Cell 1, 337-346, 1998)記載のように、タンパク質クロスリンカーとしてDTBPを用いた。精製タンパク質間の結合を検出するため、100μlの溶解緩衝液内にGST−Bcl−xL(0.2μg)又はGST(0.2μg)のどちらかを用いて、VDAC(0.2μg)及びANT(0.2μg)を3時間インキュベートした。そして、グルタチオン(GSH)−セファロースゲル又はセファロースゲルを用いて、これらのタンパク質を3時間インキュベートし吸着させた。遠心分離を短時間行った後、溶解緩衝液を用いてゲルを3回洗浄し、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)−PAGEを行うためサンプル緩衝液内に再懸濁した。
【0024】
(ペプチド配列決定)
免疫沈殿物をSDSポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、分離されたタンパク質を切り取り、リシルエンドペプチダーゼを用いて35℃で1日間消化させた。TSKゲル(トーソー製「ODS−80Ts」)を用いて、得られたペプチドフラグメントを分離し、N−末端側から直接、エドマン分解法によって、マイクロシークエンシングを行いペプチドの配列を決定した。
【0025】
(タンパク質の精製)
ヒトBcl−xL、2種のBcl−xL変異体及びヒトBak(C−末端21アミノ酸残基を欠質している)を、大腸菌(Escherichia coil)DH5α株内でGST融合タンパク質として発現させ、グルタチオン−セファロースカラムを用いて精製した。この精製したGST融合蛋白質にトロンビンを作用させてGSTから分離させた。ヒトBaxは、Hisタグタンパク質として文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14681-14686)記載のように精製した。エクスプレスシステム(インビトロジェン社製)を用いて、大腸菌株DE3内にHAタグヒトVDAC1を発現させ、HA(乾燥ハイドロキシアパタイト)カラムにて精製した。エンプティーベクターからのGST又はHisタグタンパク質を用いて、模擬コントロ−ルタンパク質を調製した。
【0026】
文献(Biochem. Biophys. Acta 905, 499-502, 1987)記載のように、ラット肝臓VDACを精製した。すなわち、ラット肝臓ミトコンドリアを10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)、1mMのEDTA及び3%トリトン−X100に0℃で30分間懸濁し、37,000gで45分間超遠心分離器によって分離させた。上澄み液を、HA及びセライト(9:1)カラム(3g)に加えて、精製VDACタンパク質として、フラクションから最初の溶出液(1ml)を集めた。精製されたVDACは、SDSポリアクリルアミド電気泳動法によって、ゲルに1本のバンドを示した。rVDACの純度は95%以上を示した。ラット心臓ANTは、文献(FEBS lett. 426, 97-101, 1998)記載のように精製した。精製されたANTの純度は上記と同様の方法で調べた結果、90%以上であった。
【0027】
(リポソーム内でのVDAC再構成)
文献(Biochem. Biopys. Acta 1145, 168-176, 1993)記載の超音波凍結融解処理法に若干の修飾を加え、小さなユニラメラ小胞内で精製されたVDAC及び組換えVDACを再構成した(Biochem. Biopys. Acta 1145, 168-176, 1993)。すなわち、30mMのスルホン酸ナトリウム及び20mMのトリシン−NaOH(pH7.3又は5.2)を含むリポソーム培地1mlに、80mMスクロースの存在又は非存在下で、100mgのリン脂質(ダイズ、タイプII−S)を溶解した。超音波処理の後、精製されたVDACタンパク質又は組換えVDACタンパク質(200μg)を、rBcl−xL(200μg)及びrBax(200μg)の存在又は非存在下で、1mlのリン脂質に添加し、この懸濁液を2回の凍結融解サイクルにかけた。熱変性VDACタンパク質は95℃で10分間の加熱により得られた。温和な超音波処理によってユニラメラVDACリポソームを産生し、その産生物をセファデックスG−50カラムで分画した。分光光度計(島津製作所社製;UV−160A)で各分画の光散乱を波長520nmで測定し、任意の700〜900ユニット/μlを含む分画物を実験に使用した。プレーンリポソームは、タンパク質を全く加えずに、同様な方法で産生された。
【0028】
14Cスクロース吸収を測定しながら、スクロース取込み実験を行った。5μlの14Cスクロース(97%;200μCi/ml)を用いて25℃でリポソ−ム(20μl)をインキュベートし、分子量30,000制限フィルター(ミリポア社製;ウルトラフリー−MC30,000)を用いた遠心分離によって、フリーの14Cスクロースを取り除いた。ガンマシンチレーション計数管(ワラック社製「1414」)によって、回収されたリポソームに取り込まれている14Cスクロースを測定した。
【0029】
(シトクロムc転移実験)
文献(Wiley Interscience. 5.3.1-5.3.11, 1990)記載のように、フルオレセインイソチオシアネート(以下「FITC」という)標識シトクロムcを調製した。すなわち、0.05Mのホウ酸塩及び0.2Mの塩化ナトリウムを含むラベル化緩衝液(pH9.2)を用いて、1mMのウマシトクロムcを透析した。FITC(250μg)と共に2時間インキュベートした後、未結合のFITCをラベル化緩衝液を用いた透析によって除去し、続いてセファデックスG−25カラムクロマトグラフィーを行い分離した。分光光度計で計測したFITC/シトクロムcのモル比は、0.47であった。ルミノイメージアナライザー(富士フィルム社製「LAS−1000」)を用いてFITC標識シトクロムcを検出した。リポソーム(2μl)は、スクロース(50mM)とFITC標識シトクロムc(50μM)の両者と共に、rBax(1.5μg)と共に、rBaxとrBcl−xL(共に1.5μg)と共に、又はどちらも用いることなく、全量を29μlとして、pH5.2でインキュベートし、共焦点顕微鏡(LSM−745;オリンパス)を用いて、ラベルされたシトクロムcを視覚化した。
【0030】
次に、シトクロムc漏出実験を以下の方法で行った。スクロース(80mM)を含むリポソーム(1ml)緩衝液にシトクロムc(100μM)と混合させ、冷凍解凍サイクルに2回かけた。ユニラメラ化した後、25℃で10分間、20μg/mlのrBakあり、又はなしで、1mlのスクロースフリー緩衝液で20μlのリポソームをインキュベートした。次にリポソームをフリーシトクロムcから分離するために、M.W.30,000制限フィルターを用いた遠心分離によって分離した。吸光度408nmで分光光度計を用いて、フリーシトクロムcの量を決定し、全シトクロムcに対する割合を計算した。
【0031】
(酵母ミトコンドリア)
VDAC欠質酵母株(以下「ΔVDAC」という;M22−2)及びその親株(M3)は、M.フォルテ博士(Dr. M. Forte、ボラム・インスチチュート・フォー・アドバンスド・バイオケミカル・リサーチ、オレゴンVollum Institute for Advanced Biomedical Research, Oregon)から提供されたものを用いた。酢酸リチウムを用いてヒトvdac1のcDNAをトランスフェクトすることによって、ヒトVDAC1発現をするΔVDAC酵母株を作出した。スフェロプラストを形成するために、細胞1gに対し2mgのチモリアーゼ20Tを用いて、文献(J. Biol. Chem. 257, 13028-13033, 1982)記載の方法に準じてミトコンドリアを単離した。タイトフィッティングホモジェナイザーを用いてセファロプラストをホモジェネートした。0.6Mのマンニトール、10mMのトリスCl(pH7.4)及び0.1%の脂肪酸フリーBSA(以下「yMt緩衝液」という)中で、単離されたミトコンドリアを懸濁した。4.2mMのコハク酸塩を添加したyMT緩衝液中で、ミトコンドリア(0.5mg/ml)を25℃でインキュベートした。文献(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 1455-1459)記載のように、ローダミン123(Rh123)の吸収を測定することによって、ΔΨを測定した。上記のミトコンドリアをスピンし、得られた上澄み液は、抗酵母シトクロムc抗体を用いたウェスタンブロット分析によってシトクロムcのリリースを検出した。
【0032】
[Bcl−xLとVDACとの相互作用]
(Bcl−xLに結合する3種のタンパク質)
ラット肝臓ミトコンドリア(1mg/ml)を組換えBcl−xL(20μg/ml)と共に5分間インキュベートした後、このミトコンドリア溶解物を抗Bcl−xL抗体(α−Bcl−xL)又はラビット免疫グロブリンG(IgG)を用いた免疫沈降にかけ、得られた免疫複合体をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳導法によって分離させ、銀染色法によって染色した。この抗Bcl−xL抗体を用いた共免疫沈降法により、ミトコンドリアにおけるBcl−xLに結合する3種のタンパク質、33kD、18kD、及び13kDを検出した(図1a)。
【0033】
(ミトコンドリアにおけるBcl−xLとVDACとの相互作用)
上記の方法によって得られた33kDタンパク質のアミノ酸配列の一部が、ラットVDACと一致していたため、抗VDAC抗体及び抗Bcl−xL抗体を用いた共免疫沈降に引き続きウェスタンブロット法により、単離されたミトコンドリアにおけるBcl−xLとVDACとの相互作用を調べた。結果を図1bに示す。
【0034】
(HepG2細胞におけるBcl−xLとVDACとの相互作用)
Bcl−xLを発現するHepG2細胞(Oncogene 12, 2045-2050, 1996)におけるBcl−xLとVDACとの相互作用を調べた。結果を図1cに示す。他方、Bcl−xLとTom40(内在性外膜タンパク質)及びBcl−xLとF1−ATPアーゼ(内膜タンパク質)との共免疫沈降が可能な相互作用は、共に観察されなかったので、Bcl−xLとVDACとが特異的な相互作用を有することがわかる。
【0035】
(Bcl−xLとVDAC又はANTとの直接的な相互作用)
PTポアはVDACを含むポリプロテインチャネルであることから、ミトコンドリア及び細胞からのVDACとBcl−xLにおける共免疫沈降が、必ずしもBcl−xLとVDACとの直接的な相互作用を示すとはいえないことから、以下の実験を行い確認した。精製されたラット肝臓VDAC(0.2μg)及びラット心臓ANT(0.2μg)をGST−Bcl−xL融合タンパク質(0.2μg)又はGST(0.2μg)のいずれかと共にインキュベートし、続いてグルタチオン(GSH)−セファロースゲルとインキュベーションした。GST−Bcl−xLとインキュベーションされたVDAC及びANTを更にセファロースゲルとインキュベートした。その後ゲルを3回洗浄し、結合したVDAC及びANTを、ウェスタンブロットで分析した。結果を図1dに示す。図1d中、「トータル」は、免疫沈降に使用された各タンパク質の量を表す。図1dに示すように、ラット肝臓ミトコンドリアから精製されたVDACがGST−Bcl−xL融合タンパク質と高い割合で結合したことから、Bcl−xLはVDACと直接的な相互作用を示すことがわかった。そして、ラット心臓から精製されたANTは、GST−Bcl−xLに対して低い割合での結合しか示さなかったことは文献(Science 281, 2027-2031, 1998)記載の結果と一致していた。
【0036】
[VDAC−リポソーム内におけるBcl−xLによるVDAC活性阻害]
(VDAC−リポソームによるスクロース取込み)
上記のことからBcl−xLとVDACとの直接的な相互作用を確認でき、次に、Bcl−xLが直接VDAC活性を調節するのかどうかを調べた。ラット肝臓ミトコンドリアのホモジェネートから精製されたVDACをリポソーム内に再構成した。このVDAC−リポソームの他に、熱変性VDAC−リポソームと対照としてのプレーンリポソームを用い、これらをそれぞれと14Cスクロース(1μCi)とをpH5.2で所定の時間インキュベートし、分子量30,000制限フィルターを用いた遠心分離によって濾過した後、リポソームを回収して2%SDSに溶解し、リポソーム内の14Cスクロースの放射能を計測した。結果を図2aに示す。図2aに示すように、熱変性VDAC−リポソーム(□−□)やプレーンリポソーム(●−●)と異なり、VDAC−リポソーム(○−○)が、放射性同位元素でラベルされたスクロースを取り込んだことから、リポソームのスクロース取込みは、VDACによって媒介されたことがわかった。
【0037】
(Bcl−xLによるVDAC−リポソーム内のVDAC活性の阻害)
14Cスクロース(1μCi)を用いてVDAC−リポソームをそれぞれ20μg/mlの組換えBcl−xL(○−○)又は模擬タンパク質(●−●)と共にpH5.2でインキュベートした。同様に、組換えBcl−xL(□−□)又は模擬タンパク質(■−■)と共にpH7.3でインキュベートした。これらの結果を図2bに示す。pH5.2において、Bcl−xLを添加すると、VDAC媒介のスクロース取込みは阻害された。酸性pHでBcl−xLが機能したということは、酸性条件下でのみ合成脂質膜上でイオンチャネルとしてrBcl−xLが働くという文献(Science 277, 370-372, 1997. Nature385, 353-357, 1997. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 5113-5118, 1997. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 11357-11362, 1997)の結果と一致していた。次に、Bcl−xL及びVDACをリポソームに同時に挿入した場合について検討した。
【0038】
(VDAC及び組換えBcl−xLを含むリポソーム内における中性pHでのBcl−xLによるVDAC活性の阻害)
精製されたVDACと、組換えBcl−xL又は模擬タンパク質の両方を同時にリポソーム内に導入したVDAC/Bcl−xLリポソーム及びVDAC/模擬タンパク質リポソームを、14Cスクロース(1μCi)と共にpH7.3で3分間インキュベートし、14Cスクロース吸収を測定した。結果を図2cに示す。図2cからもわかるように、pHが7.3でもBcl−xLは14Cスクロースの取込みを抑制する機能を有することから、酸性環境においてはリポソーム内へのBcl−xL自体の取込みが促進されたことが示唆された。また、pH5.0以下でVDACはクローズすることが報告されているが、本実験におけるVDAC−リポソームも、pH5.2〜7.3までの間の挙動に関して何ら顕著な違いを示さなかった。
【0039】
(種々のBcl−xL投与量におけるVDAC活性の阻害作用及びBcl−xL変異体によるVDAC活性の阻害作用)
次に、0、10、20及び50μg/mlの組換えBcl−xLとそれぞれ20μg/mlの組換えBcl−xL変異体mt−1(F131V、D133A)及びmt−7(135〜137がAILからVNW)と共に14Cスクロース(1μCi)を用いて、pH5.2で3分間VDAC−リポソームとインキュベートした後に、リポソーム内の14Cスクロースを計測した。結果を図2dに示す。図2dより、組換えBcl−xLの量が増えるに従ってVDAC活性の阻害が大きくなっていることがわかる。また、2種の組換えBcl−xL変異体のうち、mt−1が部分的に抗アポトーシス活性を有すること、mt−7が抗アポトーシス活性を全く有さないことが文献(Nature 379, 554-556, 1996)に示されているが、VDAC媒介のスクロース吸収に関して、これら変異体は、それぞれ、mt−1が部分的に阻害作用を示し、mt−7が全く阻害作用を示さなかったことから、これら2つの活性には相関関係があることがわかった。
【0040】
(組換えVDACを組み込んだリポソーム内のBcl−xLによるVDAC活性の阻害)
精製された組換えVDACを、リポソームに組み込み、次に、14Cスクロース(1μCi)及び組換えBcl−xLの(20μg/ml)と共にpH5.2で3分間インキュベートし、14Cスクロース吸収を測定した。結果を図2eに示す。組換えVDACを用いてVDAC−リポソームが作られた場合、Bcl−xLによるVDAC活性の阻害もまた観察されたことから、VDACはBcl−xLの直接のターゲットであることが確認された。
【0041】
[rBcl−xLによるVDAC活性の阻害とrBaxによるVDAC活性の促進]
次に、BaxがVDAC活性に影響を与えるかどうかについて検討した。
(BaxによるVDAC−リポソーム内への14Cスクロース取込みの促進)
14Cスクロース(1μCi)を用いて、VDAC−リポソームをそれぞれ20μg/mlの組換えBax(○−○)又は模擬タンパク質(●−●)とともにpH5.2で所定の時間インキュベートした。同様に、VDAC−リポソームをプレーンリポソームに変えて、組換えBax(□−□)又は模擬タンパク質(■−■)と共にインキュベートし、分子量30,000制限フィルターを用いた遠心分離による濾過した後、リポソームを回収して2%SDSに溶解した後、リポソーム内の14Cスクロースの放射能を計測した。結果を図3aに示す。図3aより、rBaxによりVDAC媒介のスクロース取込みは増大するが、Bax自体の取込みによるプレインリポソームにおけるスクロースの取込みはなかったことがわかる。このことから、VDAC−リポソームにおけるrBax誘導のスクロース取込みの増大は、Baxイオンチャネルによっては媒介されず、VDACにおけるBaxの何等かの作用を介して媒介されたことを示している。
【0042】
(組換えVDACが組み込まれたリポソーム内におけるBaxによるVDAC活性の促進)
精製された組換えVDACをリポソームに組み込み、組換えBax(20μg/ml)又は模擬タンパク質と共に14Cスクロース(1μCi)を用いて、pH5.2でインキュベートし、14Cスクロース吸収を3分間測定した。結果を図3bに示す。図3bからもわかるように、組換えVDACを用いてVDAC−リポソームを調製した場合にも、同様の結果が観察された。
【0043】
(rBax及びrBcl−xLによるVDACリポソーム内へのスクロースインポートにに関する拮抗作用)
図3cに示される割合のrBax及びrBcl−xLと共に、14Cスクロース(1μCi)、VDAC−リポソ−ムを用いて、pH5.2でインキュベートし、14Cスクロース吸収を3分間測定した。結果を図3cに示す。図3cに示されるように、rBaxとBcl−xLとは、VDAC活性において拮抗作用を示した。
【0044】
(BaxとVDACとの直接の相互作用)
rBax及びVDACを共にリポソームに取り込ませた場合、pH7.3でBaxはアポトーシス促進作用を示し、また、rBaxの代わりにアポトーシス促進作用を有するBakのC末端21アミノ酸残基を欠損させた変異体を用いた場合にも、同様の結果が得られた。抗VDAC抗体を用いて、ウェスタンブロット法により免疫複合体を分析したところ、ラット肝臓及び大腸菌から調製されたVDACは、検出可能なレベルのANTを含んでいないことから、さらに2種のANTリガンドであるアトラクチル酸及びボンクレキン酸によって、VDAC−リポソームによるスクロース取込みは影響を受けなかった。このことから、VDAC調製物中にANTのコンタミがなかったことを結論できる。
【0045】
[Bax及びBakによるVDACを通過するシトクロムcの誘導]
本発明者らは、既に、PTポア(Proc. Natl. acad. Sci. USA 95, 4997-5002, 1998. Proc. Natl. acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998)を介し、単離されたミトコンドリアからのシトクロムcのリリースをBax及びBakが誘導すること(Proc. Natl. acad. Sci. USA 95, 4997-5002, 1998. J. Cell Biol. 143, 217-224, 1998. Proc. Natl. acad. Sci. USA 95, 14681-14686, 1998)を報告している。そして、上記のように、Bax及びBakがVDAC活性を直接増大することが明らかになったことから、Bax及びBak存在下でVDACを通じてシトクロムcがリリースされるかどうかについて検討した。
【0046】
(シトクロムcのFITCラベル)
顕微鏡を使ってシトクロムcの移動を測定するため、その分子質量に大幅な変更を加えないようにFITCラベルのシトクロムcを調製し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。蛍光によってFITCを、抗シトクロムc抗体を用いたウェスタンブロット法によってシトクロムcをそれぞれ検出した。図4a中、レーン1はFITC−シトクロムc(25pg)、レーン2はシトクロムc(25pg)をそれぞれ示す。
【0047】
(Bax誘導によるVDAC−リポソームへのFITC−シトクロムcの取込み)
前述したように、50μMのFITC−シトクロムc及び50mMのスクロースと、さらにrBax(52μg/ml)を用いた場合、rBaxとrBcl−xL(ともに52μg/ml)を用いた場合、又はどちらも用いない場合でpH5.2で5分間、VDAC−リポソーム(図4b、4c)及びプレーンリポソーム(図4c)をインキュベートして、共焦点蛍光顕微鏡下で観察した。VDAC−リポソームの典型的な写真(4,800倍)を図4bに示す。リポソ−ム内のシトクロムcの蓄積に基づいてリポソームを分類し、頻度(%)及び典型的な写真を図4cに示す。写真はいずれも2μm×2μmである。
【0048】
図4bや図4cに示されているように、スクロース存在下で、FITCラベルのシトクロムcを用いてVDAC−リポソームをインキュベートして、共焦点蛍光顕微鏡下でラベルされたシトクロムcを検出したところ、rBax非存在下で、VDAC−リポソームと同様に、プレーンリポソーム表面にシトクロムcが蓄積した(図4b、4c)。対照的に、rBax(図4b、4c)存在下で、VDAC−リポソーム内側にシトクロムcが蓄積したことから、BaxがシトクロムcにVDAC通過をさせることがわかった。rBaxとrBcl−xLの共存下では、シトクロムcのBax媒介による移動が阻害された(図4b、4c)。また、rBaxに代えてBakを用いたところ同様な結果が得られた。
【0049】
(VDAC−リポソームからのBak誘導シトクロムcリリース)
上記のように、80mMのスクロース及び100μMのシトクロムcを含むVDAC−リポソーム(左パネル)及びプレーンリポソーム(右パネル)を、rBak(20μg/ml)の存在又は非存在下、スクロースフリー緩衝液中で、pH5.2で5分間インキュベートした。結果を図4dに示す。図4dには、最初に取り込まれたシトクロムcの全体量が100%として示されている。また、シトクロムcリリースは、分光光度計により測定した。
【0050】
図4dからわかるように、VDAC−リポソーム内にシトクロムcとスクロースとを取り込ませて、次に、スクロースフリー緩衝剤を用いてVDAC−リポソームをインキュベートすると、rBak存在下においてはシトクロムcは大量にリリースしたが、rBax存在下でプレーンリポソームを用いた場合には、このようなシトクロムcリリースは認められなかった。また、スクロースフリー緩衝剤でのインキュベーションの後、VDAC−リポソームとプレーンリポソームの両方から、少量のシトクロムcリリースがあったのは、リポソーム表面に、非特異的に結合したシトクロムcが遊離したためと考えられる。
【0051】
スクロース非存在下でもまた、BakによりシトクロムcがVDACを透過することが観察された。これらの実験の間、フローサイトメトリーによって測定されたように、リポソームの数は変わらず、GST−グリーン蛍光タンパク質(GFP)を含むVDAC−リポソームに対してrBakを添加した場合、GST−GFP融合タンパク質(50kD)はリリースされなかったことから、リポソームの破裂が生じていないことがわかる。また、rBakに代えてrBaxを用いた場合も、同様にシトクロムcにVDAC透過を行わせることがわかった。
【0052】
[酵母ミトコンドリア内におけるBak誘導ΔΨロス及びシトクロムcリリースに対するVDACの要求]
チャネル活性を媒介するために、Bcl−2ファミリータンパク質がVDACを直接のターゲットとすることが明らかになったことから、次に、VDACがアポトーシスに関連するミトコンドリアのΔΨロス及びシトクロムcリリースの調節に関わるBcl−2ファミリータンパク質のターゲットなのかどうかについて検討した。
【0053】
(VDAC欠質ミトコンドリアのrBak誘導ΔΨロスに対する無能力)
哺乳類由来のVDAC欠損細胞が入手できないこと、及びBcl−2ファミリータンパク質は酵母細胞内で機能することが明らかになっている(FEBS lett. 380, 169-175, 1996. Molecular Cell 1, 327-336, 1998)ことから、VDAC1を欠失したΔVDAC(Science 247, 1233-1236, 1990)を用いて調べた。rBak(50μg/ml)(図5a)、模擬タンパク質(50μg/ml)(図5b)、及びrBak(50μg/ml)とrBcl−xL(20μg/ml)(図5c)を用いて、野生型酵母(wild)、ΔVDAC及びヒトVDACを発現するΔVDAC酵母(hVDAC)からそれぞれ単離されたミトコンドリア(0.5mg/ml)をRh123と共にインキュベートして、ΔΨを測定した。結果を図5a〜cに示す。
【0054】
(Bak誘導シトクロムcリリースを示さないVDAC1欠損ミトコンドリア)rBcl−xL(20μg/ml)の存在又は非存在下、rBak(50μg/ml)又は模擬タンパク質(50μg/ml)を用いて、20分間、野生型酵母(wild)、ΔVDAC及びhVDACを発現するΔVDAC酵母(hVDAC)から単離されたミトコンドリア(0.5mg/ml)をインキュベートした。サンプルを遠心分離にかけて、上澄みの一部(20μl)を、抗酵母シトクロムc抗体を用いたウェスタンブロット法によって分析した。結果を図5dに示す。図5d中「トータル」は、等量のミトコンドリアを表している。
【0055】
図5a及び図5dからわかるように、哺乳類由来のミトコンドリアと同様に、野生型酵母から単離したミトコンドリアも、rBakを添加した後、ΔΨロス及びシトクロムcリリースを示したが、ΔVDAC酵母から単離したミトコンドリアにおいては、rBaxによるΔΨロス及びシトクロムcリリースの誘導は認められなかった。しかし、ヒトvdac1遺伝子(hVDAC)をトランスフェクトしたΔVDAC酵母からのミトコンドリアにおいては、rBakがΔΨロス及びシトクロムcリリースを誘導したことから、ΔVDAC酵母からのミトコンドリアがrBakに対して反応しなかったことは機能するVDACが存在しなかったことによることがわかった。
【0056】
図5c及び図5dからわかるように、酵母ミトコンドリア内で、Bak媒介ΔΨロス及びシトクロムcリリースは、Bcl−xLによって阻害された。本研究において用いられたミトコンドリアは全て、同じレベルのATPを有していたので、使用したミトコンドリアの質的な差による影響の可能性は除外された。Bcl−2ファミリータンパク質が、VDACをターゲットして、アポトーシスに関連するミトコンドリアのΔΨロス及びシトクロムcリリースを調節することはこの結果から明らかである。
【0057】
【発明の効果】
本発明のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法により、アポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用に起因する各種疾患における医薬や診断薬としての用途が期待できるアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質を提供することができる。また、本発明のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質は、アポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用に起因する各種疾患における医薬や診断薬としての用途が期待できる。
【0058】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】Bcl−xLとVDACとの相互作用を示す図である。
【図2】VDAC−リポソーム系におけるBcl−xLによるVDACの活性阻害を示す図である。
【図3】rBaxによるVDAC活性の促進とrBcl−xLによるVDAC活性の阻害を示す図である。
【図4】Bax及びBakによるシトクロムcのVDAC通過の誘導を示す図である。
【図5】酵母ミトコンドリア内におけるBak誘導ΔΨロス及びシトクロムcリリースに対するVDACの要求を示す図である。
Claims (17)
- VDACがリポソームの脂質二重層に埋め込まれた構造を有するVDAC−リポソームと、VDACを通過することができる指標物質と、被検物質とをインキュベーションし、インキュベーション前後におけるVDAC−リポソーム内外の指標物質の濃度変化を検出することにより、被検物質のアポトーシス抑制作用又はアポトーシス促進作用の有無を判定することを特徴とするアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- インキュベーションが、指標物質がVDAC−リポソーム内に存在する状態で行われることを特徴とする請求項1記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- インキュベーションが、被検物質がVDAC−リポソーム内に存在する状態で行われることを特徴とする請求項1又は2記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- インキュベーションが、被検物質と共にアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質が存在する状態で行われることを特徴とする請求項1又は2記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- VDAC−リポソームが、組換えヒトVDACを用いて調製されたVDAC−リポソームであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- VDAC−リポソームが、小さなユニラメラ小胞にVDACを再構成したVDAC−リポソームであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- 指標物質が、標識化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- 標識化合物が、蛍光標識シトクロムc及び/又は同位体標識スクロースであることを特徴とする請求項7記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- 被検物質が、タンパク質又はポリペプチドであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、Bcl−2ファミリータンパク質のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうち7番目から30番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号4に示されるアミノ酸配列のうち4番目から23番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち55番目から74番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、Bcl−2ファミリータンパク質をコードするDNAの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又ポリペプチドであることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号1に示される塩基配列のうち、32番目から751番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号3に示される塩基配列のうち、135番目から836番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
- タンパク質又はポリペプチドが、配列番号5に示される塩基配列のうち、163番目から222番目までの塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含むDNAをプローブとして用いることにより得られるタンパク質又はポリペプチドからなることを特徴とする請求項9記載のアポトーシス抑制物質又はアポトーシス促進物質のスクリーニング方法。
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