JP3893102B2 - 結晶育成法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、結晶育成法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、結晶品質を向上させ且つ結晶に与えるダメージを発生させることのない、大きな結晶の育成も可能でありさらには大きな結晶を高速に育成することのできる結晶育成法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
これまで経験的な要素に依存することの多かった薬剤の作用機構は生命科学の発展によって分子レベルで総合的に理解できるようになってきている。
【0003】
特に近年、タンパク質の立体構造を原子レベルで分析し、有効に働く薬剤分子を設計するSBDD(Structure Based Drug Design)が可能となった。
【0004】
一般にタンパク質の立体構造を決定するにはX線回折解析法が有効な手段であるが、そのためには良質なタンパク質結晶が必要であり、正確な解析にはタンパク質の結晶性を向上させなければならないが、実際には極めて難しい。良質なタンパク質を得るために、宇宙空間の微小重力環境で結晶成長させる研究が存在するほど、タンパク質の高品質化は難しく、ゲノム解析の次に来るポストゲノム研究において、高品質タンパク質結晶の育成は重要課題の1つに挙げられる。
【0005】
従来の結晶の育成方法において、育成溶液を育成容器内に注入しその育成溶液から結晶を得る方法では、結晶は育成溶液内で沈むため育成容器底面で成長し、育成容器に接触した状態で成長するため結晶の品質が悪くなってしまうという問題があった。また、結晶が容器に付着していると結晶の取り出しが難しく、結晶を傷つけてしまったり割ってしまったりする恐れがある。
【0006】
特にタンパク質結晶は脆く軟らかいため、育成容器に付着したタンパク質結晶を取り出すことは不可能であり、タンパク質結晶に対し上記のような方法は適用できなかった。
【0007】
タンパク質結晶の育成で一般に広く用いられている方法としてはハンギングドロップ法が知られている。ハンギングドロップ法では、図11に示すようにリザーバー溶液(30)の注入された育成容器(31)上にガラス板(32)を置き、そのガラス板(32)の下面に付着させた結晶化ドロップ(33)と呼ばれる溶液中で結晶(34)を育成させるため、結晶(34)は何処にも付着しない。
【0008】
しかしながらハンギングドロップ法においては、結晶成長は溶媒の蒸発(蒸気拡散)によって行われるため、結晶の精密な成長制御ができず、高品質な結晶を得るのが難しい。その上、結晶化ドロップを大きくすると落下してしまうため、0.1〜0.5mm程度の微小結晶しか得ることができない。
【0009】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、結晶品質を向上させ且つ結晶に与えるダメージを発生させることがなく、大きな結晶の高速育成も可能な結晶育成法を提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、溶液からの結晶育成において、互いに不溶な育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液の2種類の溶液を育成容器に注入することでそれら溶液が上下2層に分離し、育成容器内で育成溶液よりも比重の大きい下層の溶液を攪拌することにより、上層の育成溶液を間接的に攪拌しながら、育成溶液の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液中で自然核から成長した結晶もしくは種結晶を2種の溶液の界面上に浮遊させた状態で結晶成長させることを特徴とする結晶育成法を提供する。
【0011】
第2には、溶液からの結晶育成において、互いに不溶な育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液の2種類の溶液を育成容器に注入することでそれら溶液が上下2層に分離し、育成溶液がタンパク質を含んだ溶液であり、育成溶液の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液中で自然核から成長した結晶もしくは種結晶を2種の溶液の界面上に浮遊させた状態で、タンパク質結晶を結晶成長させることを特徴とする結晶育成法を提供する。
【0012】
第3には、第1または2の発明において、育成溶液または育成溶液よりも比重の大きい溶液の温度降下、あるいは育成溶液の溶媒蒸発により育成溶液の過飽和度を高め、結晶成長させることを特徴とする結晶育成法を提供する。
【0013】
第4には、第1ないし3のいずれかの発明において、育成溶液がタンパク質を含んだ水性溶液であり、育成溶液よりも比重の大きい溶液がフッ素系溶媒液であることを特徴とする結晶育成法を提供する。
【0014】
第5には、第1ないし4のいずれかの発明において、育成容器を、育成溶液の成分と同じ成分を有し育成溶液よりも濃い濃度のリザーバー溶液と同一密閉容器内に育成溶液がリザーバー溶液と接しないように配置し、密閉容器の中で育成容器内の育成溶液の溶媒を蒸発させてリザーバー溶液中に拡散させることにより育成溶液の過飽和度を高め結晶成長させることを特徴とする結晶育成法を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の結晶育成法では、溶液からの結晶育成において、互いに不溶な育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液の2種類の溶液を育成容器に注入することでそれら溶液が上下2層に分離し、育成溶液の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液中で自然核から成長した結晶もしくは種結晶を2種の溶液の界面上に浮遊させた状態で結晶成長させる。このとき、育成溶液または育成溶液よりも比重の大きい溶液の温度降下、あるいは育成溶液の溶媒蒸発により育成溶液の過飽和度を高め結晶成長させることができる。
【0017】
つまりこの出願の発明の結晶育成法は、たとえば図1に示しているように育成容器(1)内に、育成溶液(2)としてのタンパク質などの溶液及び育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)を注入することでそれら溶液(2)、(3)が上下2層に分離し、育成溶液(2)の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液(2)中で自然核から成長した結晶(4)もしくは種結晶を2種の溶液界面上に浮遊させた状態で結晶成長させていく方法である。
【0018】
このような特徴のある結晶育成法は、その対象物質は広範囲のものとして考慮される。主として有機物、たとえば合成又は天然の有機高分子類、タンパク質等の結晶育成法として極めて有用である。
【0019】
この出願の発明の結晶育成法においては、結晶を育成溶液と育成溶液よりも比重の大きい溶液の界面上に浮遊させて成長させるため、結晶が育成容器の底面に付着することはなく、結晶が育成容器からの接触ストレスを受けることがない。
【0020】
なお、育成容器としては、ガラス容器、プラスチック容器、たとえばテフロン(登録商標)容器やポリカーボネート容器などを用いることができるが、育成容器の材質によって濡れ性が異なるため、育成容器の材質によって育成溶液と育成溶液よりも比重の大きい溶液の界面の形状が変化する。ガラス容器を用いた場合には2種の溶液の界面が凸型になるため、育成された結晶が容器側面に移動してしまう恐れがあるが、テフロン(登録商標)容器や、他のプラスチック容器を使用した場合には溶液の界面がやや凹型のほぼ平坦な形状になるため、育成された結晶が容器側面に移動する恐れがないことから、育成容器にはテフロン(登録商標)容器、ポリカーボネート容器等のプラスチック容器を用いるのが好ましい。
【0021】
またこの出願の発明の結晶育成法においては、一般に無機結晶や有機結晶の高品質育成に広く利用されている温度降下法による結晶育成ができ、精密に成長制御することができる。
【0022】
その結果、高品質な結晶を得ることができ、また結晶が溶液界面上に浮遊しているため、育成後の結晶の取り出しも容易で、たとえば浮遊している結晶をピペットで溶液と一緒に吸い込むことで取り出すことができ結晶に損傷を与えることもないため、特に脆く軟らかいタンパク質結晶の育成が可能となる。
【0023】
さらに、育成溶液の量に制限がないことや、結晶の取り出しと同じ要領で種結晶を導入することができるため、種結晶を用いて1mm以上の大きな結晶の育成も可能となる。
【0024】
また、育成容器内で育成溶液よりも比重の大きい下層の溶液を攪拌することにより、上層の育成溶液を間接的に攪拌し結晶成長させることも可能である。その際特別な攪拌装置は必要とせず、たとえば下層の溶液内に攪拌機構として汎用のマグネット形式の攪拌子を有する攪拌機などを導入し、攪拌子を回転させて下層の溶液を攪拌することができる。このように下層の溶液を攪拌することによって、上層の育成溶液を間接的に攪拌することができる。攪拌の強度は攪拌機構の回転速度や攪拌子の形状(またはプロペラ)で制御することができ、また攪拌機構の調整では制御しきれない場合には下層の溶液の量を増減させることにより攪拌強度を精密に制御することができる。たとえば上層の結晶育成溶液が8mlの卵白リゾチーム結晶の育成溶液であって、20mlの育成容器(外径26.5mm)の場合、攪拌子の長さ10mm(φ4mm)で、回転速度100rpm、下層の溶液(フロリナート(登録商標)の場合)の量10ml程度とすることで適度の攪拌とすることができる。
【0025】
特に育成溶液がタンパク質溶液の場合、育成溶液内に攪拌の駆動部である攪拌子などを導入して育成溶液を直接攪拌すると、刺激が強すぎて育成溶液が変性してしまったり、攪拌子が結晶に直接当たってしまったりする可能性があるが、上記のように育成溶液よりも比重の大きい下層の溶液に攪拌子などを導入して攪拌することで、上層の育成溶液に対して間接的に非常に緩やかな攪拌を行うことが可能となる。また育成溶液が非常に少量の場合であっても、微小な攪拌機構を必要とせずに育成溶液を攪拌することができる。
【0026】
また上記の方法以外に育成溶液を間接的に攪拌する方法として、育成容器ごと回転させて内部溶液を攪拌するACRTという方法を用いることも可能である。
【0027】
一般に、結晶育成においての溶液の攪拌は、溶液内の濃度分布を均一化し、不必要な結晶の析出を防ぐと同時に、結晶への養分供給をスムーズにするため、結晶品質の向上に繋がるのであるが、タンパク質結晶の場合、溶液量が非常に少ないことや、溶液を変性してしまうといった問題があることから、従来は攪拌なしでの結晶育成が大半を占めていた。
【0028】
しかしながら、上記のような方法を用いることによって、簡便且つ適度に育成溶液を攪拌することができ、タンパク質結晶の場合においても育成溶液を変性させることなく結晶を育成することが可能となり、特に種結晶を用いた結晶育成では、不必要な結晶の析出が抑えられ、大型結晶の育成が可能となる。また溶液を攪拌することで結晶の高品質化にも繋がり、従来にない大きな高品質結晶を得ることができるのである。
【0029】
この出願の発明の結晶育成法における溶液としては、たとえば、育成溶液として、タンパク質を含んだ水性溶液が使用でき、蒸留水、酢酸ナトリウム三水和物の中に酢酸を加え、塩化ナトリウムおよび卵白リゾチームを追加したものを用いること等が例示される。また、育成溶液よりも比重の大きい溶液としては、たとえば好適には、フッ素系溶媒が使用でき、フロリナート(登録商標)FC−77またはFC−70等を用いることによって、リゾチーム結晶を育成することができる。
【0030】
またこの出願の発明の結晶育成法において、育成溶液として、蒸留水100ml、酢酸ナトリウム三水和物0.933gの中に酢酸を加えpH4.5に調整した後、塩化ナトリウム2.5gおよび卵白リゾチーム2.5gを追加したものを用い、育成溶液よりも比重の大きい溶液にフロリナート(登録商標)FC−77またはFC−70を用いることによって特に高品質なリゾチーム結晶を育成することができる。
【0031】
さらにまた、この出願の発明の結晶育成法においては、育成容器を、育成溶液の成分と同じ成分を有し育成溶液よりも濃い濃度のリザーバー溶液と同一密閉容器内に育成溶液がリザーバー溶液と接しないように配置し、密閉容器の中で育成容器内の育成溶液の溶媒を蒸発させてリザーバー溶液中に拡散させるといった、いわゆる蒸気拡散法を適用することができ、それにより、育成溶液の過飽和度を高め、高速で結晶を成長させることも可能となる。
【0032】
この出願の発明により、これまで有効な手段のなかった高品質で大きなタンパク質結晶の育成が可能となり、そのタンパク質の立体構造解析をすることにより新薬開発に繋がり、SBDDを利用した新薬開発は益々進むと予測される。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0033】
【実施例】
<実施例1>
この出願の発明の結晶育成法の一例としてタンパク質である卵白リゾチームを用い、図1に示すように結晶育成を育成容器(1)内で行った。
【0034】
2種類の溶液は、卵白リゾチームを含んだ育成溶液(2)として、蒸留水100ml、酢酸ナトリウム三水和物0.933gの中に酢酸を加え、pH4.5に調整した後、塩化ナトリウム2.5gおよび卵白リゾチーム2.5gを追加したものを用い、40℃で完全に溶解させた後、孔径0.2μmのシリンジフィルタでろ過して不純物を除去し、育成溶液(2)とした。また育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)として、フロリナート(登録商標)FC−77またはFC−70を用いた。なお、育成溶液(2)と溶液(3)は互いに不溶である。
【0035】
育成溶液(2)2mlおよび溶液(3)1mlを直径18mmのネジ蓋付きガラス瓶からなる育成容器(1)に注入し上下2層に分離した状態で、温度降下法を用いて結晶育成を行った。また比較のため育成溶液(2)2mlのみの育成方法(いわゆるバッチ法)も同時に行った。
【0036】
結晶育成は、育成溶液(2)および溶液(3)あるいは育成溶液(2)のみを注入した育成容器(1)を恒温水槽内に入れて行った。なお恒温水槽は温度コントローラにより±0.05℃の精度で制御可能である。
【0037】
育成開始温度20℃から、まず0.5℃/日の温度降下速度にて溶液温度を降下させることで、結晶が析出するまで徐冷を行った。そして結晶の析出を確認した時点で温度を保持して、結晶の急速成長および析出数の数を抑制し、その後、自然核発生した結晶をさらに成長させるため0.1℃/日の温度降下速度にて結晶育成を行った。図2に育成容器(1)の底面および2液界面で自然核から育成したリゾチーム結晶の写真を示す。
【0038】
図2(a)および(b)の写真に示しているように、結晶(4)を、育成容器(1)の底面にある状態および育成溶液(2)と溶液(3)の界面上に浮遊させた状態で11日間育成した。両液とも結晶(4)の析出温度は同じであり、また得られたリゾチーム結晶(4)の形状も同じであり、溶液(3)(フロリナート(登録商標))による結晶育成への影響は見られなかった。育成した結晶(4)の育成容器(1)からの取り出しは結晶(4)をピペットで溶液と一緒に吸い込む要領で行った。育成容器(1)の底面で成長したリゾチーム結晶(4)は育成容器(1)に付着していたため、割れたり崩れたりして取り出しが困難であったが、2液界面での育成では結晶(4)が浮いているため、結晶(4)の取り出しが容易で取り出しによってクラックなどの機械的な損傷を与えることはなかった。
【0039】
本願の発明の結晶育成法による結晶(4)の育成の結果、数多くの結晶(4)が得られ、結晶(4)の一例として図3に示しているような長手方向の結晶サイズが約1.3mmのリゾチーム結晶が得られた。この出願の発明の結晶育成法により得られた結晶(4)は成長途中に育成容器(1)の壁からの接触ストレスを受けることなく、また溶液界面上に浮遊しているため取り出しが容易で、外部からの刺激でダメージを与えることなく割れや欠陥もない品質の良い結晶であり、また従来のハンギングドロップ法で得られる結晶よりもはるかに大きな結晶であった。
【0040】
またリゾチーム結晶において、細長い結晶形状は高品質な結晶である可能性が高いということからも、上記の方法によって高品質で大きな結晶を得ることができたと言える。
<実施例2>
さらに、種結晶を用いた結晶育成についても、リゾチームの種結晶をピペットで溶液と一緒に育成溶液中に導入し結晶育成を試みたところ、リゾチーム結晶において長手方向の結晶サイズが3mmの結晶育成がみられ、種結晶を用いることでさらなる結晶の大型化が期待できる。
<実施例3>
次に、実施例1と同様のタンパク質の結晶を育成する際に、図4に示すように攪拌機構を用いて育成容器内の下層の溶液を攪拌し、その攪拌の効果を評価した。
【0041】
2種類の溶液は、卵白リゾチームを含んだ育成溶液(2)として、蒸留水100ml、酢酸ナトリウム三水和物0.933gの中に酢酸を加えpH4.5に調整した後、塩化ナトリウム2.5gおよび卵白リゾチーム2.5gを追加したものを用い、また育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)として、フロリナート(登録商標)FC−77を用いた。なお育成溶液(2)は完全に溶解させた後、孔径0.2μmのシリンジフィルタでろ過して不純物の除去を行った。
【0042】
育成溶液(2)8ml、育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)10mlおよび全長10mm(φ4mm)の攪拌子(5)を育成容器(1)としての直径26.5mmの20mlのネジ蓋付テフロン(登録商標)容器に入れ、攪拌子(5)を育成容器(1)の底面で回転させることによって育成溶液(2)の間接的な攪拌を行いながら恒温水槽内で結晶の育成を行った。
【0043】
なお間接的な育成溶液(2)の攪拌の効果を評価するに際してその比較実験として、
▲1▼育成溶液(2)8mlのみを育成容器(1)に入れ、育成溶液(2)を直接攪拌する。
▲2▼育成溶液(2)8mlのみを育成容器(1)に入れて攪拌はしない。
▲3▼育成溶液(2)8mlと育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)10mlを育成容器(1)に入れ、攪拌はしない。
という条件で結晶の育成も試みた。
【0044】
ここで溶液を攪拌する場合の攪拌速度は100rpmであり、結晶育成の開始温度は17℃で、0.5℃/日の温度降下速度にて溶液温度を降下させ、14.2℃で結晶の析出を確認し、14.1℃で7日間保持し結晶育成を行った。
【0045】
その結晶育成の結果を図5の写真に示す。図5(a)は▲1▼の条件下での結晶育成後の溶液の様子を示しており、▲1▼の条件下では育成溶液(2)内のタンパク質が変性してしまい、育成溶液(2)が白濁化してしまったことがわかる。攪拌速度を100rpm以下にすると攪拌子が停止してしまうため、育成溶液(2)を直接攪拌した場合には育成溶液(2)の緩やかな攪拌を行うことができなかった。
【0046】
図5(b)は▲2▼の条件下での結晶育成後の溶液の様子を示しており、▲2▼の条件下では、多くの結晶(4)が析出し、個々の結晶サイズは大きくても1mm程度であり、育成溶液(2)を間接的に攪拌した場合析出した結晶に比べて小さかった。また育成された結晶が育成容器(1)の壁に付着してしまい結晶が割れたり崩れたりする恐れがあり取り出しが困難であった。
【0047】
図5(c)は▲3▼の条件下での結晶育成後の溶液の様子を示しており、▲3▼の条件下では、多くの結晶(4)が析出し、個々の結晶サイズは大きくても1mm程度であり、育成溶液(2)を間接的に攪拌した場合に析出した結晶に比べて小さかった。
【0048】
一方、育成溶液(2)よりも比重の大きい下層の溶液(3)を攪拌し、間接的に上層の育成溶液(2)の攪拌を行ったものは、図5(d)に示しているように、育成溶液(2)が変性することもなく結晶(4)が析出した。また結晶(4)の析出数が少なく、結晶サイズが1mm以上のものもあり、▲2▼および▲3▼の場合に比べて大きな結晶が得られた。
<実施例4>
次に育成溶液に対して間接的に攪拌を行う場合と攪拌を行わない場合における種結晶からのリゾチーム結晶の育成の様子を比較した。育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液としては実施例3と同様のものを用いたが、結晶育成の開始温度は22℃とし、育成開始時に育成溶液中に種結晶を導入し、結晶育成中の温度降下速度を0.1〜0.5℃/dayとし、以下の2つの条件でリゾチーム結晶の育成を20日間行った。
(a)種結晶の大きさが1.44mmであり育成中は攪拌を行わない。
(b)種結晶の大きさが1.59mmであり育成中は育成溶液よりも比重の大きい下層の溶液に導入した攪拌子により育成溶液に対して間接的に攪拌(攪拌速度100rpm)を行う。
【0049】
その比較結果を図6のグラフに示す。図6からも分かるように、20日間の育成で育成溶液を間接的に攪拌したもの(b)は成長率が0.07mm/dayで長手方向の結晶サイズが、図7の写真に示すように3.0mmに達した。なお図7においては、同図の下部の黒い部分がフロリナート(登録商標)であり、上部のグレーの部分が育成溶液であって、中央の四角形の部分が育成された結晶である。一方、溶液を攪拌しなかったもの(a)は結晶の成長率は0.03mm/dayで長手方向の結晶サイズは2.0mmであった。
【0050】
上記の結果から、育成溶液を間接的に攪拌することによって、結晶への養分供給が促進され、攪拌を行わない場合と比べて速く結晶が成長していることが分かる。
<実施例5>
次にこの出願の発明の結晶育成法に一般的に結晶育成に用いられている蒸気拡散の方法を適用して結晶を育成した。
【0051】
図8に示すように、育成溶液(2)と育成溶液(2)よりも比重の大きい溶液(3)の入った育成容器(1)が、育成溶液(2)の成分と同じ成分を有し育成溶液よりも濃い濃度のリザーバー溶液(6)と、密閉シール(7)で閉じられた同一の密閉容器(8)に育成溶液(2)がリザーバ−溶液(6)に接しないように配置されている。なお、この実施例においては育成容器(1)は密閉容器(8)と一体型のものとなっているが、密閉容器(8)と育成容器(1)を別体とし、育成容器(1)を密閉容器(8)の中に入れるといったことももちろん可能である。密閉容器(8)の中で育成容器(1)内の育成溶液(2)の溶媒を蒸発させてリザーバー溶液(6)中に拡散させることにより育成溶液(2)の過飽和度を高めて結晶(4)を成長させた。比較のため、図9に示しているように、育成溶液(2)のみが入った育成容器(1)を、育成溶液(2)と同じ成分を有し育成溶液よりも濃い濃度のリザーバー溶液(6)と、密閉シール(7)で閉じられた同一の密閉容器(8)に育成溶液(2)がリザーバ−溶液(6)に接しないように配置して結晶(4)の育成を行う蒸気拡散法(従来のシッティングドロップ蒸気拡散法)も行った。
【0052】
なお、このときの育成溶液(2)中における結晶化させるタンパク質としては、グルコースイソメラーゼとA32S変異型ヒトリゾチームを用いた。グルコースイソメラーゼは5−15%PEG6000、0.2Mアンモニウム硫酸塩pH7を試薬とし、A32S変異型ヒトリゾチームは1.5−3.0M塩化ナトリウム、0.05M酢酸ナトリウムpH4.5を試薬とした。育成溶液(2)2〜10μlを用い、また育成溶液よりも比重の大きい溶液(3)としてフロリナート(登録商標)2〜10μlを用いた。なおそれぞれの結晶の析出温度は0℃であった。
【0053】
その結果を図10に示す。図10(a)は育成溶液のみの蒸気拡散法で育成されたグルコースイソメラーゼの結晶の様子を示す写真であり、(b)はこの出願の発明の2液層の結晶育成法に蒸気拡散法を適用して育成されたグルコースイソメラーゼの結晶の様子である。また(c)は育成溶液のみの蒸気拡散法で育成されたA32S変異型ヒトリゾチームの結晶の様子であり、(d)はこの出願の発明の2液層の結晶育成法に蒸気拡散法を適用して育成されたA32S変異型ヒトリゾチームの結晶の様子である。
【0054】
育成溶液のみの場合と2液層を用いた場合のどちらも良質な結晶が得られた。すなわちこの結果からフロリナート(登録商標)は結晶育成に影響を与えていないことがいえる。そして育成溶液のみの場合には、育成された結晶が容器に付着してしまい取り出すことが困難であり、また容器に付着することにより結晶がダメージを受けてしまったのに対し、この出願の発明の2液層の結晶育成法の場合には育成された結晶が容器に付着することなく結晶の取り出しが容易でありかつ結晶にダメージを発生させるといったことも見受けられなかった。したがって蒸気拡散方法をこの出願の発明の2液層による結晶育成法に適用することにより、良質で大きな結晶を高速に育成することができるのである。
【0055】
なおこの実施例では育成溶液よりも比重の大きい溶液(フロリナート(登録商標))の攪拌は行っていないが、攪拌を行うことも可能であり、また種結晶を用いて結晶育成を行うことももちろん可能である。
【0056】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、結晶品質を向上させ且つ結晶に与えるダメージを発生させることがなく、大きな結晶の高速な育成も可能な結晶育成法が提供される。高品質で大きな結晶が得られるようになることで、タンパク質の機能解析研究は飛躍的に進み、新薬開発に繋がり、SBDDを利用した新薬開発は益々進むと予測される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の結晶育成法に用いる育成溶液、溶液および育成容器を例示した概略図である。
【図2】この発明の実施例における結晶育成の過程を例示した写真である。
【図3】この発明の実施例において育成したリゾチーム結晶を例示した写真である。
【図4】この発明の実施例における攪拌を伴った結晶育成法に用いる育成溶液、溶液、育成容器および攪拌機構の概略図である。
【図5】この発明の実施例における間接的な育成溶液の攪拌の効果の評価における結晶育成の過程を例示した写真である。
【図6】この発明の実施例における間接的な育成溶液の攪拌が種結晶を用いた場合の結晶育成にもたらす効果を示すグラフである。
【図7】この発明の実施例における間接的な育成溶液の攪拌により種結晶を用いて育成された結晶を示す写真である。
【図8】この発明の結晶育成法に蒸気拡散法を適用した場合を例示した概略図である。
【図9】従来のシッティングドロップ蒸気拡散法を例示した概略図である。
【図10】この発明の結晶育成法に蒸気拡散法を適用した場合と従来のシッティングドロップ蒸気拡散法の場合の育成された結晶の様子を示す写真である。
【図11】ハンギングドロップ法による従来のタンパク質結晶の育成方法を示す概略図である。
【符号の説明】
1 育成容器
2 育成溶液
3 溶液
4 結晶
5 攪拌子
6 リザーバー溶液
7 密閉シール
8 密閉容器
30 リザーバー溶液
31 育成容器
32 ガラス板
33 結晶化ドロップ
34 結晶
Claims (5)
- 溶液からの結晶育成において、互いに不溶な育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液の2種類の溶液を育成容器に注入することでそれら溶液が上下2層に分離し、育成容器内で育成溶液よりも比重の大きい下層の溶液を攪拌することにより、上層の育成溶液を間接的に攪拌しながら、育成溶液の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液中で自然核から成長した結晶もしくは種結晶を2種の溶液の界面上に浮遊させた状態で結晶成長させることを特徴とする結晶育成法。
- 溶液からの結晶育成において、互いに不溶な育成溶液および育成溶液よりも比重の大きい溶液の2種類の溶液を育成容器に注入することでそれら溶液が上下2層に分離し、育成溶液がタンパク質を含んだ溶液であり、育成溶液の過飽和度を大きくすることで、上層である育成溶液中で自然核から成長した結晶もしくは種結晶を2種の溶液の界面上に浮遊させた状態で、タンパク質結晶を結晶成長させることを特徴とする結晶育成法。
- 育成溶液または育成溶液よりも比重の大きい溶液の温度降下、あるいは育成溶液の溶媒蒸発により育成溶液の過飽和度を高め、結晶成長させることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶育成法。
- 育成溶液がタンパク質を含んだ水性溶液であり、育成溶液よりも比重の大きい溶液がフッ素系溶媒液であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の結晶育成法。
- 育成容器を、育成溶液の成分と同じ成分を有し育成溶液よりも濃い濃度のリザーバー溶液と同一密閉容器内に育成溶液がリザーバー溶液と接しないように配置し、密閉容器の中で育成容器内の育成溶液の溶媒を蒸発させてリザーバー溶液中に拡散させることにより育成溶液の過飽和度を高め結晶成長させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の結晶育成法。
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