JP3873866B2 - 微小流体混合器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばμTAS(Micro Total Analysis Systems)分野のような、チップ上で微量な試料を用いて化学分析や化学反応を行う際に、微量な流体試料の混合を促進するために用いられる混合器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
化学分析や化学合成の分野において、必要な試料や試薬の量、更には廃液の量を減らすために分析や反応を微小量で行なわせることに対する要請が強くなってきている。分析や合成を微小流量の液体を流すことのできる流路で実現できるようにするためには、微小量の液体を効率よく混合できる混合器が必要となる。
【0003】
そこで、本発明者等は、微小量の液体の混合を効率よく行わせることを目的として、2つの微小流路をプレートの厚み方向に延びる整流用微小流路を介して連通した混合器を提案している(特許文献1参照。)。その混合器では、整流用微小流路の下流側にあたる微小流路において流路の深さ方向だけでなく、幅方向に対しても各液体を均一に積層して混合することができる。
【0004】
微小な空間での液体の挙動においては粘性力が支配的であるため、複数の試料の混合は主に拡散によって行なわれる。そのため複数の試料を層状に流すことにより、拡散が速く進み、高効率で混合が可能な混合器が報告されている。その1つの例として、2つの流路を合流させるY字型の流路をシリコン基板に形成したものが提案されている(非特許文献1参照。)。
他の例として、複数の流路を一つの流路に合流するように、シリコン基板に溝を形成したものが提案されている(非特許文献2,3参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−259392号公報
【非特許文献1】
K. B. Greiner, M. Whitesides, et. al, Proceedings of the Micro Total Analysis Systems, 2000, pp.87-90
【非特許文献2】
A. Manz, F. Bessoth, M. U. Kopp, Proceedings of the Micro Total Analysis Systems, 1998, pp.235-240
【非特許文献3】
T. M. Floyd, M. A. Schmidt, K. F. Jensen, Proceedings of the Micro Total Analysis Systems, 2001, pp.277-279
【非特許文献4】
J. P. Brody, P. Yager, Technical Digest of Solid-State Sensor and Actuator Workshop, pp.105-108
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、こうした従来の混合器を検討した結果、次の問題点があることを見出した。すなわち、複数の試料を層状に流して合流させる従来の混合器においては、全ての流体の層の厚みは同じ厚みになるように設定されており、そのために流路側壁に接する両外側の層の拡散が律速となり、混合効率が悪くなる問題点である。これは、内側を流れる層ではその層の両面が拡散に寄与するのに対し、最も外側を流れる層では流体と接する面だけが拡散に寄与するので、混合器の壁面に接しながら流れる最も外側の層と内側を流れる層とでは、拡散に要する時間が異なるからである。
【0007】
そこで、本発明は複数の流体を層状に流し、互いの接触面で拡散させることにより混合を図る混合器において、流路壁に接して流れる層が拡散律速となることを防ぐことにより、混合効率を向上させることを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の混合器は、流路の途中で複数の流体を混合するための混合器であって、一対の平行な平面からなる流路壁をもつ混合器本体と、複数の流体を混合器本体に導入する導入口とが同一基板に同じ深さに形成されており、前記導入口は流体ごとに矩形状に形成され、混合器本体の流路壁の一方から他方にわたって順次配列されていることにより、複数の流体が流路壁に平行な層状の流れとなり、隣接する流体層が面で接するとともに、それぞれの導入口の厚み寸法が流路壁に面で接触する両端の流体層の厚みが内側を流れる流体層の厚みよりも薄くなるように設定されていることを特徴とするものである。
本発明では流路壁に接する両側の層の厚みを薄くしているので、両側の層での拡散が律速となることを抑えることができる。
【0009】
また、内側を流れる流体層の厚みは互いに等しく、両端の流体層の厚みは内側を流れる流体層の厚みのほぼ半分であるように設定することが好ましい。
このように各流体層の厚みを設定することにより、各層の拡散速度が均一になり、より効率のよい混合を実現することができるようになる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1と図2により一実施例を説明する。
図1は混合器本体4の一部と、混合器本体4に液体を導入する6個の導入口6−1〜6−6を示したものである。混合器本体4と導入口6−1〜6−6は、シリコン基板にリソグラフィーとディープRIE(反応性イオンエッチング)により形成されたものである。このように混合器本体4と導入口6−1〜6−6が形成されたシリコン基板2のその加工された側の表面に、パイレックスガラス(#7740:登録商標)を陽極接合により接合してこの混合器が製作されている。
【0011】
混合器本体4は、一対の平行な平面からなる流路壁をもった流路である。その平行な流路壁は、図1では紙面垂直方向に形成されている。混合器本体4に流れ込む液体は、図2(A)で手前側から奥側の方向に流れるものとする。混合器本体4内の液体は、導入口(手前側)近くでは流路壁に平行な層状の6つの流れ8−1〜8−6となって流れる。導入口から導入されたそれぞれの液体は、第1層8−1〜第6層8−6の6つの流体層となり、隣接する流体層が面で接触しながら流れていく。第1層8−1と第6層8−6は最も外側を流れる流体層であり、それぞれこの混合器本体4の流路壁に面で接触しながら流れる。
【0012】
各流体層の厚みは、内側を流れる流体層8−2〜8−5の厚みが互いに等しく、両端を流れる流体層8−1と8−6は内側を流れる流体層8−2〜8−5の厚みよりも薄くなるように、導入口6−1〜6−6の寸法が設定されている。
流体層の厚みは、好ましい形態においては、両端を流れる流体層8−1と8−6の厚みは内側を流れる流体層8−2〜8−5の厚みの半分である。
【0013】
流体層8−1〜8−6での拡散について、図2(B),(C)に基づいて説明する。同図で、矢印は拡散の方向を示している。混合器4においては流路壁に接する両端の流体層8−1と8−2以外の各流体層8−2〜8−5では、図2(C)に両方向の矢印で示されるように、各流体層8−2〜8−5の両側から拡散が起こる。一方、流路壁に接する両端の流体層8−1と8−6においては、各流体層8−1,8−6の一方の面は流体壁に接触しているため、図2(B)に一方向の矢印で示されるように、拡散は流体壁の反対面からのみ起こる。つまり、流路壁に接する両端の流体層8−1と8−6はそれ以外の流体層に比べ半分の速度で拡散が起こることになる。
【0014】
そこで、流路壁に接する両端の流体層8−1,8−6の厚みを薄くすることにより、内側の流体層8−2〜8−5と両端の流体層8−1,8−6の間での拡散速度の差が小さくなる。特に、両端の流体層8−1,8−6の厚みを内側の流体層8−2〜8−5の厚みの半分とすることにより、各層において拡散が均等に起こり、最も効率のよい混合を行なうことができるようになる。
【0015】
このように設計された混合器の混合効率について、計算機による解析を行なった結果を示す。解析に用いたモデルは、図3に示されるように、混合器本体4内においては、6層の流体層8−1〜8−6として導入され、内側の4層の流体層8−2〜8−5の厚みはそれぞれ10μm、両端の流体層8−1,8−6の厚みは表1のように2.5μm〜10μmの間で6種類に変化させるものとする。流体層8−1〜8−6は水とサンプル溶液が交互に配置されるように導入するものとする。サンプルとしては蛍光物質であるフルオレセインの溶液とし、サンプルの拡散係数はフルオレセインの拡散係数に相当する値(5×106cm2/cm)(非特許文献4参照。)を用いた。
【0016】
混合器本体4の流路の深さは100μm、長さは10mmとする。試料流入流速を全て10mm/秒とし、全ての液体が導入されて層状になった位置から1000μm下流の位置での溶液の濃度分布を計算した。この計算のソフトウエアとして、コベンター(Coventor)社のコベンターウエア(Coventor Ware)を使用した。
この解析に用いた条件及びパラメータを表1にまとめて示す。
【0017】
【表1】
【0018】
図4にその結果を示す。横軸は流路を横切る方向での座標で、流路の中心を座標原点として表わしている。縦軸は注入時のサンプル濃度で規格化したサンプルの相対濃度を示している。完全に混合が行なわれた場合、グラフのプロットは、縦軸0.5の濃度で均一になる。
【0019】
図4の解析結果から条件▲3▼、すなわち、内側の流体層8−2〜8−4の厚みが10μmで、両端の流体層8−1,8−6の厚みが5μmの場合が最も均一に近い分布を示していることがわかる。
【0020】
図5は試料導入口からの距離に対する混合効率を解析した結果である。横軸は導入口からの距離であり、縦軸は混合効率である。完全に混合が行なわれた場合、混合効率は1となる。この解析結果から、やはり条件▲3▼の場合が最も速く混合が行なわれることがわかる。
【0021】
実施例では混合器に導入される流体層の数を6としているが、本発明では混合しようとする流体層の数はこれに限られるものではなく、3以上、好ましくは4以上であれば同様に効果を得ることができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明の混合器では、複数の流体が流路壁に平行な層状の流れとなり、隣接する流体層が面で接するとともに、流路壁に面で接触する両端の流体層の厚みが内側を流れる流体層の厚みよりも薄くなるように設定したので、流路壁に接して流れる層が拡散律速となることが防がれ、混合効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施例の混合器が形成されたシリコン基板の平面パターンを示す平面図である。
【図2】一実施例における混合器本体内の流体層を示す図で、(A)は全流体層を示す概略斜視図、(B)は両端の流体層の挙動を示す概略斜視図、(C)は内側の流体層の挙動を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の混合器における混合を計算機により解析するためのパラメータを示す概略斜視図である。
【図4】各条件における濃度分布の解析結果を示すグラフである。
【図5】各条件における混合効率の解析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
4 混合器本体
6−1〜6−6 導入口
8−1〜8−6 流体層
Claims (2)
- 流路の途中で複数の流体を混合するための混合器であって、
一対の平行な平面からなる流路壁をもつ混合器本体と、前記複数の流体を前記混合器本体に導入する導入口とが同一基板に同じ深さに形成されており、
前記導入口は流体ごとに矩形状に形成され、前記混合器本体の流路壁の一方から他方にわたって順次配列されていることにより、前記複数の流体が前記流路壁に平行な層状の流れとなり、隣接する流体層が面で接するとともに、それぞれの導入口の厚み寸法は前記流路壁に面で接触する両端の流体層の厚みが内側を流れる流体層の厚みよりも薄くなるように設定されていることを特徴とする微小流体混合器。 - 内側を流れる流体層の厚みは互いに等しく、前記両端の流体層の厚みは内側を流れる流体層の厚みのほぼ半分である請求項1に記載の微小流体混合器。
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