JP3850133B2 - 粒子加速装置用真空チャンバ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波またはパルス状の電磁場によって、電子、重粒子等の粒子を加速したり偏向させるための粒子加速装置用真空チャンバの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図6,図7の従来の粒子加速装置用真空チャンバ21は、高周波またはパルス状電磁場により電気絶縁性且つ非磁性材料からなるシリンダ22の内部に電子、重粒子等の粒子を加速あるいは偏向させる際の粒子軌道用の真空空洞部23が形成された構造からなる。また、真空空洞部23の内壁面には、導電性非磁性材料からなる薄層24が形成されている。
【0003】
なお、シリンダ22の両端には通常、接続用のフランジ(図示せず)が取り付けられ、電磁場を発生させるための電磁石と組み合わせて使用される。
【0004】
また、近年、真空チャンバ21には、シリンダ22の薄層24によって引き起こされる誘導電流によって発生する熱をチャンバ21の外部へ漏らすことのないように、シリンダ22が冷却または断熱の機能を併せ持つことが要求されている。これは、粒子線の高エネルギー化に伴い、印加する電磁場もより強力なものとなっているため、導電性非磁性材の薄層24より誘導電流が原因となって発生する熱の量も増大傾向にあり、この熱が真空チャンバ21のシリンダ22を伝わり、チャンバ21外部に設置されている電磁石を構成するフェライト等のコア材料を加熱してその強磁性体としての特性が失われ、電磁石が本来の特性を発揮できなくなる危険性が高まってきているという事情による。
【0005】
そこで、従来より、シリンダ22をアルミナなどのセラミックスによって形成し、シリンダ自身に渦電流が励起されることを防ぐとともに、シリンダ22内面の薄層24より発生する熱を外部へ漏らさぬよう、シリンダ22内に冷却機能を具備するものが提案されている。
【0006】
例えば、特開昭55−32382号によれば、図6に示すように、シリンダ22を内側円筒部22aと、外側円筒部22bの分割構造とし、内側円筒部22aと、外側円筒部22bとの間に形成される間隙25に冷却水を流し、この冷却水によって発生した熱をチャンバ内から除去することによって、所望の断熱構造を実現している。
【0007】
また、特開平2−56900号では、図7に示すように、シリンダ22の長手方向に冷却水を流すための複数の長孔26を空洞部23の周囲に形成し、形成した長孔のうち隣接する数個の長孔26を端部で連結させて1つの水路として構成することにより、冷却水による冷却効果を均一化することが提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭55−32382号による提案は、空洞部23の略全周囲に冷却水が流されるために、断熱性の点では有利であるが、冷却水の流れを全面にわたって均一に制御することが難しく、流れの淀みにおいては冷却が不十分となり、シリンダ22を均一に冷却することができない。しかも、シリンダ22が2重構造からなるために、個々の円筒部の製造およびそれらの組み立て作業が複雑となるために、製造コストが高くなるなどの問題があった。
【0009】
また、特開平2−56900号の構造では、シリンダ22が一体化しているために、製造上のコストや組み立て時の手間を削減することはでき、また、冷却水の流れの均一性を達成する上では効果的である。しかしながら、完全な断熱構造ではないため、使用条件によっては、長孔26との間から熱が漏れ、漏れた熱によりチャンバ外表面が要求される最高温度を超える温度に加熱されてしまう危険性があった。
【0010】
さらに、このような熱の漏れを減らすためには、冷却水を流すための長孔の数を増やし、隣接する長孔26間を狭めることが考えられるが、形成する長孔は冷却水の流れを制御するために高い精度で形成することが要求され、セラミックスからなるシリンダに対して、このような精度の高い長孔を数多く形成するのは、非常に困難であり、しかも、長孔26間の距離を狭めることは、長孔26間の仕切り部の強度を低下させてしまう等の問題があった。
【0011】
従って、本発明は上記事情に鑑み、真空空洞部から発生する熱を効率的に冷却および断熱するとともに、容易に製造できる安価な真空チャンバを提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の粒子加速装置用真空チャンバは、粒子加速用真空空洞部を形成する肉厚略円筒状シリンダを具備する粒子加速装置用真空チャンバであって、前記シリンダ部に、冷却水用管と断熱用長孔とを前記真空空洞部周囲に交互に配設し、前記冷却水用管内に冷却水を流すとともに、前記断熱用長孔内に前記シリンダよりも熱伝導率の低い媒体を充填するか、または前記長孔内を真空状態に維持することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の粒子加速装置用真空チャンバによれば、シリンダの真空空洞部2の周囲に冷却水用管と、低熱伝導性を有する断熱用長孔を形成するものであるが、この断熱用長孔が熱流に対する遮蔽体として作用し、その結果、シリンダ内部から発生した熱のうち、断熱用長孔形成部に達した熱流を冷却水用管に迂回させ、迂回した熱を冷却水用管中の冷却水によって熱を効率的に吸収し冷却させることができる。
【0014】
しかも、断熱用長孔は、何ら媒体を流すことがないために、冷却水用管のような加工精度が要求されず、しかも、連通孔である必要はなく、断熱用長孔の形成による強度の低下を抑制することができる。
【0015】
従って、空洞部内から発生した熱を外部へ漏らさぬ良好な断熱構造を具備する安価な真空チャンバを提供できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の粒子加速装置用真空チャンバの一例を図面をもとに説明する。
【0017】
図1は、本発明の真空チャンバの概略断面図、図2は、図1の真空チャンバのX−X断面図である。なお、図中、1は真空チャンバのシリンダ、2は加速粒子が通過するための真空空洞部、3は冷却水を通すための長孔、4は、導電性非磁性材からなる薄層、5は、断熱用長孔である。
【0018】
図1および図2によれば、本発明における粒子加速装置用真空チャンバAによれば、シリンダ1は、セラミックス等の絶縁性非磁性材料からなる肉厚略円筒体から構成され、その内側には、粒子を通過させるための真空空洞部2が形成されている。そして、真空空洞部2の内壁面には、チタン等の導電性非磁性材からなる薄層4が形成されている。導電性非磁性材の薄層4は、真空空洞部2を通過する粒子線により励起される誘導電流を流すための導電域をシリンダ1の内壁面上に確保するためのものである。
【0019】
シリンダ1には、真空空洞部2の周囲に、シリンダ1の長手方向にわたって複数の冷却水用管3が互いに平行に形成されている。また、隣接する冷却水用管3間には、シリンダ1の長手方向にわたって、複数の断熱用長孔5が形成されている。従って、冷却水用管3と断熱用長孔5は、真空空洞部2の周囲に交互に形成されている。
【0020】
冷却水用管3内には、冷却水を流すことにより、その長孔3周囲の熱を吸収し、系外に放出する役割を有する。冷却水用管3は、チャンバAの端部に設けられたフランジ部6において連結されている。
【0021】
図3は、図1の真空チャンバにおける冷却水用管の連結構造例と断熱用長孔との配置を説明するための模式図である。図3の模式図に示すように、冷却水用管3の連結は、(a)すべての冷却水用管3をチャンバ両端のフランジ部で並列的に集約し、チャンバAの一端xから冷却水を導入し、チャンバAの他端yから排水する方法、(b)複数の冷却水用管3をいくつかのブロックに分けて、それぞれのブロック毎に並列的にフランジ部で集約し、個々のブロック毎に冷却水をxから導入し、yから排水を行う方法、(c)複数の冷却水用管3をいくつかのブロックに分けて、それぞれのブロック毎に長孔3を直列的に接続し、個々のブロック毎にxから冷却水を導入し、yから排水を行う方法、等が挙げられる。
【0022】
これらの連結方法のうち、(a)の方法は、すべての冷却水用管3に対して淀みなく冷却水を均一に流すことが難しく、その結果、冷却が不均一となる場合がある。(b)の方法は、(a)に比較して冷却水の流れは均一となるが、完全に均一にすることは難しい。これに対して、(c)の方法は、各冷却水用管3の流れは完全に均一化できることから、(c)の方法が最もよい。
【0023】
冷却水用管3のみ形成によって冷却および断熱作用を高めるには、冷却水用管3の太さを太くするか、冷却水用管3の本数を増やして各管間のピッチを狭くすることが考えられるが、冷却水用管3の大きさや本数は、冷却水用管3の形成時の加工精度により大きく制限される。特に、シリンダ1のような長尺状の円筒体の肉厚部に冷却水用管3を形成するには、シリンダ1の両側よりドリルなどを用いて穿孔する必要があり、その場合、両側から穿孔した孔を中央で整合させるには高い加工精度が要求され、しかも冷却水の流動性を損なうことのないような管の形成が求められる。
【0024】
そこで、本発明によれば、上記冷却水用管3と断熱用長孔5を図3に示すように冷却水用管3と断熱用長孔5とを配設する。特に、均一冷却性を維持するためには、断熱用長孔5と冷却水用管3とを交互に配設することが望ましいが、この断熱用長孔5の数や配置は、交互に配設するのみならず、冷却水用管3の加工に支障をきたさず、なおかつ真空チャンバとしての必要強度が損なわれない範囲であればよい。
【0025】
この断熱用長孔5内には、シリンダ1の材料よりも熱伝導率の低い媒体、例えば、大気、公知の断熱材等を充填するか、あるいは長孔5内を真空状態とすることにより、この断熱用長孔5が熱流に対する遮蔽体として作用する。従って、例えば、図3のように、断熱用長孔5と冷却水用管3とを交互に配設した場合、断熱用長孔5付近に達した熱流は、断熱用長孔5を迂回して冷却水用管3に移行するために、真空空洞部2内で発生した熱が断熱用長孔5の作用によって冷却水用管3近傍に集約され、冷却水用管3による冷却効率を高めることができる。
【0026】
また、断熱用長孔5には、冷却水用管3のように、水などの流体を循環させる必要がないため、断熱用長孔5の穿孔加工に対して、冷却水用管3のような高い加工精度が要求されることがないために、容易に加工することができる。
【0027】
なお、断熱用長孔5内に液体状の媒体を封入する時は、長孔内に媒体を封入後、その開口部を適当な蓋部材で封入すればよく、また、真空に維持する場合には、真空雰囲気中で封止を行えばよい。
【0028】
【実施例】
本発明を以下の具体的な実施例により説明する。実施例では、真空チャンバ本体にアルミナ(Al2 3 )セラミックス(熱伝導率約25W/m・K)を用い、図2の断面構造に示すような数と配置で冷却水用管3と断熱用長孔5を穿孔し、断熱用長孔5内には空気を封入した。冷却水用管3は、シリンダ1の両端部で隣接する冷却水用管3を4本1組として図3(c)のように直列に連結した。
【0029】
また、冷却水の導入時の水温は25℃で流量は6リットル/分とした。シリンダ1の真空空洞部2内から合計2.5kWの発熱が発生したときの、シリンダ1の断面の1/4に相当する部分の外側表面及び断面における温度分布を解析し、断面における温度分布を図4に示した。
【0030】
解析の結果、シリンダ1の外側表面温度は、ほぼ全域で31℃から33℃の範囲内にあり極めて均一な断熱特性であった。また、図4の断面における温度分布から明らかなように、冷却水用管3と断熱用長孔5の列を境に温度がほぼ一定となっており、冷却水用管3と断熱用長孔5の組み合わせによって高性能の断熱構造が実現できることを確認した。
【0031】
なお、比較のために、上記の実施例の構造から、断熱用長孔5を全く設けない真空チャンバについても同様に解析を行い、その断面における温度分布を図5に示した。その結果、シリンダ1の外側表面温度は、31℃から35℃の温度分布でのバラツキが生じていた。また、図5の断面における温度分布から明らかなように、隣接する冷却水用管3の間から熱がシリンダ1の外表面側に拡散しているのが確認され、不均一な断熱構造であることが確認された。
【0032】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の粒子加速装置用真空チャンバは、シリンダの真空空洞部周囲に、冷却水用管のみならず、断熱用長孔を配設することにより、シリンダ内部から発生した熱を効率的に冷却水用管中の冷却水によって吸収させることができるために、優れた断熱構造を形成できる。しかも、断熱用長孔5は、穿孔加工時に貫通孔である必要はなく、加工精度も要求されないために、孔形成による強度の低下を抑制し、しかも加工によるコストを高めることがなく、シリンダに対して一体的に形成できるために、安価な真空チャンバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の真空チャンバの概略斜視図である。
【図2】図1の真空チャンバのX−X断面図である。
【図3】図1の真空チャンバにおける冷却水用管の連結構造と断熱用長孔との配置を説明するための模式図である。
【図4】本発明の真空チャンバによる温度分布を示す図である。
【図5】従来の真空チャンバによる温度分布を示す図である。
【図6】従来技術における真空チャンバの概略断面図である。
【図7】他の従来技術における真空チャンバの概略断面図である。
【符号の説明】
1:シリンダ、2:真空空洞部、3:冷却水用管、4:薄層、5:断熱用長孔
A:真空チャンバ

Claims (1)

  1. 粒子加速用真空空洞部を形成する肉厚略円筒状シリンダを具備する粒子加速装置用真空チャンバにおいて、前記シリンダ部の前記空洞部周囲に、冷却水用管と断熱用長孔とを交互に配設し、前記冷却水用管内に冷却水を循環させるとともに、前記断熱用長孔内に前記シリンダよりも熱伝導率の低い媒体を充填するか、または前記長孔内を真空状態に維持することを特徴とする粒子加速装置用真空チャンバ。
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