JP3836339B2 - 海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法に関し、より詳細には、沿岸海域の海水の無機炭素生産量(IP)や有機炭素生産量(OP)で表される炭酸ガス固定量の測定方法、並びにそのためのプログラム、装置及びこの装置を装備した船舶などの水上プラットホームに関する。
【0002】
【従来の技術】
沿岸海域は外洋に比べて地形が複雑で、潮汐などの短時間の海象現象の影響を受けやすく、河川などの陸域からの影響も大きい特徴がある。しかも、生態学的にも複雑多様で、外洋に比べて単位面積あたりの生産量が大きく、その潜在的CO2固定能力は外洋に比肩すると見込まれている。また、多くの場合、人間の生活圏と接近しており、相互の影響が大きく、近年では地球温暖化による海水順上昇や、環境破壊の影響を最も受けやすい地域の一つである。このため、IGBP(the International Geosphere-Biosphere Programme)のコアプロジェクトの1つであるLOICZ(Land-Ocean Interactions in the Coastal Zone)では、沿岸海域などを広く観測し、モデル構築、データベース化することを目的とした国際的研究が進められている。既に、LOICZにおいて一般的な解析モデル・手法等はほぼ完成しており、我が国でも東京湾などの限られた地域での解析例がある。
しかし、現状では、効率的な観測手法がなく観測に多大の費用、労力、期間を必要とするため、河口などの汽水域、内湾、藻場、サンゴ礁・マングローブ林に代表される熱帯・亜熱帯海域など、空間的・時間的・生態学的構造が複雑かつ多様な沿岸海域を対象とするので具体的な炭酸ガス固定能力の評価は、ほとんどの地域において未検討である。
このため、沿岸地域の炭酸ガス固定能力を客観的、かつ、効率良く評価する手法と機器を提供することは、沿岸域の計測機器及び観測産業にとって、大きな利用価値があり、今後、森林の炭酸ガス固定量と同様に、沿岸海域の炭酸ガス固定量が、国際的に我が国の炭酸ガス固定量と見なされるようになれば、上記計測機器及び観測産業分野に非常に大きな成長が見込まれる。
【0003】
沿岸海域の炭酸ガス固定能力は、基本的には対象海域の海洋生態系の炭素代謝量を観測することにより測定できる。一般に、海洋生態系の炭素代謝量の指標として無機炭素生産量(IP)と有機炭素生産量(OP)が使用され、IPは貝殻やサンゴ骨格などの炭酸カルシウムの生成、OPは植物の光合成による炭水化物の生成に対応し、次式の関係がある。
ここで、Ctは海水の全炭酸、Atは全アルカリ度、AtとCtの観測前後の値を添字i、eで表せば、ΔAt=Ate−Ati、ΔCt=Cte−Ctiである。すなわち、AtとCtの変化を測定すれば対象海域の海洋生態系の炭素代謝量を求めることができる。
しかし、AtとCtを直接測定する方法は完全自動化が困難、保守瀕が頻繁、消費電力が大といった難点があり、沿岸海域のように空間的・時間的・生態学的構造が複雑かつ多様な海域を対象とする小型・多点計測システムには適用困難である。このため、現状では、小型で消費電力の少ない溶存酸素(DO)及びpH電極を用いる、いわゆる呼吸計が使用される場合が多いが、サンゴ礁などの生物活動が高くOPが大きい海域では、酸素が飽和し大気中に酸素が急激に放出されるためDOは大きな観測誤差を与える。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このため、本発明においては、DOの代わりに海水の二酸化炭素分圧(pCO2)を観測し、このpCO2とpHを用いて海水中の炭酸系の平衡計算によりAtとCtを算出してIPとOPを求める原理に基づく、pCO2−pH連続長期観測装置を試作し、実海域での観測を試みた。しかし、炭酸ガス固定量の見積もりにあたり、以下の2つの問題が挙げられる。
1)pHの測定精度、特にpH電極のドリフトがIPとOPを求める場合の主要な誤差要因であり、pH電極のドリフト補正が不可欠である。一般に、pH電極はその物理化学的環境の影響を受けて測定値がドリフトするため、定期的にpH標準液で校正する必要がある。しかし、広く使用されているNBS標準液は、海水のpH測定にあたって電極の応答不調を起しやすく、しかも、pCO2−pH連続長期観測装置内で長期安定に保存することが容易ではない。なお、上記pCO2−pH連続長期観測装置において、pCO2は小型標準ガスボンベを観測装置内に設置して、定期的にドリフトを自動校正可能である。
ここで「ドリフト」とは、センサ計測による環境化学成分を測定する際に、反応部の汚れなどにより応答変化が起こることをいい、特に環境水中(河川・湖沼・海洋など)での測定の場合、微生物の付着などで比較的短期間の間にセンサの応答変化が起こる。
【0005】
2)pCO2とpHの計測値を用いて、海水中の炭酸系の平衡計算によりAtとCtを算出する場合、伝播誤差が大きく(Dickson, A. G. and J. P. Riley. 1978. The effect of analytical error on the evaluation of the components of the aquatic carbon-dioxide system. Mar. Chem. 6: 77-85)、炭酸ガス固定量の見積もりの精度が悪い(Ikeda, Y, A. Suzuki, H. Hata, K. Kato, A. Negishi and K. Nozaki. 1995. Closed chamber system for estimating rate of carbon productivity by coral reef organisms. J. Mar. Biotechnol. 2: 119-123)。
通常計測値には測定の誤差があり、IPとOPの計算に用いる計測データ(即ち、アルカリ度・全炭酸・pH・pCO2)には一般的に以下の測定精度(誤差)がある。
アルカリ度(At):4μmol kg− 1(一般的な海水の値2200μmol kg− 1に対して約0.2%)
全炭酸(Ct):4μmol kg− 1(一般的な海水の値1900μmol kg− 1に対して約0.2%)
pH:0.005(一般的な海水の値8.25に対して約1%)
pCO2:2 ppm(一般的な海水の値350に対して約0.5%)
IPとOPの計算は、AtとCtの値を用いて計算されるので、これらの値の誤差の四則演算による誤差伝播があり、これがIPとOPの誤差になる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は本発明により解決された。即ち本発明は、対象海域の海水について一定期間、二酸化炭素分圧(pCO2)、水素イオン濃度(pH)、水温(TK)、塩分(S)及び全アルカリ度(At)を測定する段階、該二酸化炭素分圧及び該全アルカリ度の測定値を用いて該水素イオン濃度を補正する段階、必要に応じて該海水の測定値から後記計算に必要な係数を計算する段階、該一定期間中の該二酸化炭素分圧及び該補正後の水素イオン濃度の変化並びに必要に応じて該係数を用いて無機炭素生産量(IP)及び有機炭素生産量(OP)の少なくとも一方を計算する段階から成る海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法である。前記二酸化炭素分圧、水素イオン濃度、水温、塩分及び全アルカリ度を測定する段階において、これら以外の項目を測定してもよく、また該二酸化炭素分圧及び該水素イオン濃度を連続的に測定し、該全アルカリ度を間欠的に測定してもよい。水温と塩分については連続的又は間欠的に測定してもよいが、連続的に測定することが好ましい。連続的とは概ねデータが連続的になる程度の頻度で、例えば1分間に1回程度、データを収集することをすることをいい、間欠的とは連続的よりも頻度が少ないことをいう(例えば、1時間に1回等)。また、前記無機炭素生産量(IP)を計算する段階において、前記一定期間中の全アルカリ度の初期値又は最終値、好ましくは初期値として、前記全アルカリ度の測定値を用いてもよい。
【0008】
本発明は更に、対象海域の海水について一定期間、二酸化炭素分圧、水素イオン濃度、水温、塩分及び全アルカリ度を測定し入力する手段、該二酸化炭素分圧及び該全アルカリ度の測定値を用いて該水素イオン濃度を補正する手段、必要に応じて該海水の測定値から後記計算に必要な係数を計算する手段、該一定期間中の該二酸化炭素分圧及び該補正後の水素イオン濃度の変化並びに必要に応じて該係数を用いて無機炭素生産量(IP)及び有機炭素生産量(OP)の少なくとも一方を計算し出力する手段から成る海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用装置である。二酸化炭素分圧及び水素イオン濃度についての前記データが連続的測定値であり、全アルカリ度についての前記データが間欠的測定値であってもよい。更に、前記無機炭素生産量(IP)を計算する手段において、前記一定期間中の全アルカリ度の初期値又は最終値、好ましくは初期値として、前記全アルカリ度の測定値を用いてもよい。また、本発明は、上記いずれかの装置を装備した水上プラットホームであって、前記全アルカリ度を測定する手段が該水上プラットホーム外にあってもよい海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用水上プラットホームである。この水上プラットホームとしては、船舶、海上に組んだ櫓、計測ブイなどが挙げられ、この上に上記装置を設置する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明するが、用いる例は本発明を限定することを意図するものではない。
まず、本発明の炭酸ガス固定量の測定の手順を下記に示す。
1.対象海域の海水についての測定
海水センサと二酸化炭素分圧計測器にて、対象の海域の水温(TK、単位 K)、塩分(S、単位 PSU(Practical Salinity Unit))、水素イオン濃度(pH)、二酸化炭素分圧(pCO2、単位 ppm)及び全アルカリ度(At、単位 μmol/kg)を計測する。これらのデータを一定時間毎に保存する。全アルカリ度(At、単位 μmol kg− 1)については、計測の開始時に海水を採取し、実験室に持ち帰って測定してもよい。
【0010】
2.水素イオン濃度の補正
海水中pCO2−pH自動連続計測装置では、pCO2の測定精度は高く、内蔵の標準ガスによりドリフトも補正されているのに比べ、pH(= −log[aH])(ここで、aHは水素イオン活量(単位 mol/kg))は測定精度が低くドリフトしやすいので、上記の平衡計算式によりIPとOPを求めるにあたって、ドリフト補正を行ってpH電極の測定精度を向上させる必要がある。なお、海水を採水して、実験室に持ち帰りpHを精密測定すれば良いと考えられるが、海水のpHは変化しやすいので、pHの変化無しに海水を長期間保存する有効な手段がない。そこで、pCO2とpHの連続計測に合わせ、間欠的(例えば、1日1回程度)に適宜採水した海水試料のAt(全アルカリ度)を分析し、pCO2とAtの測定値から炭酸系の平衡計算(Lewis, E. and D. Wallace. 1998. Program developed for CO2 system calculations. Carbon Dioxide Info. Anal. Centor / Oak Ridge Nat. Lab. (ORNL/CDIAC-105))によりpHを計算する。pCO2とAtからのpHの計算は、0.005pHユニットの範囲で正確である(Anderson, L. G., D. R. Turner, M. Wedborg and D. Dyrssen. 1999. Determination of total alkalinity and total dissolved inorganic carbon. In Methods of seawater analysis. [Ed. K. Grasshoff, K. Kremling and M. Ehrhardt] (Wiley-Vch): pp127-148)。これにより、間欠的なAtの測定値を用いて、pH電極のドリフト補正を行い、連続的な計測をおこなってもよい。なお、間欠的なAtの測定は測定の開始時に行うことが好ましい。
【0011】
即ち、上記測定値At及びpCO2を用いて、下式に従い反復代入法によってaHを求める。
このaHについての計算値と測定値により測定値aHを補正するが、その補正方法に特に制限はなく適宜適当な方法で行ってよい。例えば、aHについての計算値と測定値の差を他の測定値aH(aH = 10(-pH))に加えることにより、aHの補正値を得てもよい。
【0012】
3.平衡定数等の後記の計算に必要な係数
IPとOPの計算に必要な平衡定数(K0:二酸化炭素溶解度、K1:重炭酸イオンの解離定数、K2:炭酸イオンの解離定数、Kw:水のイオン積、KB:ホウ酸の第一解離定数、これらの単位:mol/kg)と、ホウ酸アルカリ度(BA、単位:μmol/kg)、水酸化物イオンアルカリ度(HA、単位:μmol/kg)を以下の手順で計算する。
水温(Tk)及び塩分(S)の連続データから、下式に従って5種の平衡定数(K0、K1、K2、Kw及びKB)を計算する。
【0013】
次に、塩分値から計算された全ホウ酸濃度(BT)と平衡定数(KB)から、次式により、ホウ酸アルカリ度(BA)を計算する。
更に、水温及び塩分の値から計算された水素イオン活量係数(fH)を用いて次式により水酸化物イオンアルカリ度(HA)を計算する。
【0014】
4.無機炭素生産量(IP)の計算
pCO2とpHの測定値から、全アルカリ度(At)と全炭酸(Ct)は、以下の式で算出される。
式(1)及び(3)から無機炭素生産量(IP、単位:μmol/kg hr)は以下のように計算される。
【0015】
ここで、pHのドリフト補正のために測定したAtの値を測定開始時の値(At1)とすると、下記の新しい式が導かれる。
ここで、kは
で表され、添字の“e”は計測終了時のkの値を示す。
なお、pCO2の変化速度(△pCO2)は、pCO2計測値の経時データを元に、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算し、kの変化速度(△k)は、各時刻のkの計算値を元に、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算し、k×(BA+HA)は、k, BA, HAの各時刻データから計算し、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算する。
【0016】
5.有機炭素生産量(OP)の計算
有機炭素生産量(OP、単位:μmol/kg hr)は式(2)、(3)及び(4)から、以下のように計算される。
この計算では、途中で計算過程が簡素化されていることが分かる。このように、pCO2とpHの測定値からOPを求める際には、Ct、Atの平衡計算の過程を経ずに、直接式(7)によって求められることにより、伝播誤差が小さくなることが示される。
なお、K0×pCO2の変化速度(Δ(K0×pCO2))はK0計算値とpCO2計測値の経時データを元に、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算し、K0×K1×(pCO2/aH)の変化速度(Δ(K0×K1×pCO2/aH))は各時刻データからK0×K1×(pCO2/aH)を計算し、経時データを元に、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算し、BA, HAの変化速度(△BA, △HA)は各時刻で計算されたBA, HAのデータを元に、一定時間あたりの変化速度を最小二乗法で計算する。
【0017】
【実施例】
本実施例で用いた海水中pCO2−pH自動連続計測装置(二酸化炭素分圧(pCO2)測定のための平衡器:ガス透過膜(日本ゴアテクス社:TB003)、二酸化炭素分圧測定装置:(米国Li−Cor社:LI−6252)、pH計:(米国HYDROLAB社:H20))を搭載した小型船の構成を図1に示す。このH20という計測装置(図1中の「海水センサ」)は、pH計の他に水温計・塩分計・DO計が付いており、これらの成分も同時に計測した。
計測用の海水をチタン製ポンプで汲み上げ、海水センサによってpHを計測する。この海水センサは、市販の標準液(フタル酸塩pH標準液:pH値4.007 と リン酸塩pH標準液:pH6.865/ 共に25℃での値)を使用して、これらの液を測定した場合の値がそれぞれの指定値になるように電極の出力を調整し、この方法で校正したセンサを海に投入してデータを取得した。
なお、比較のためDOセンサも取り付けて溶存酵素の測定も同時に行った。
センサ部を通過した海水は、平衡器内で一定量の空気と接触し、海水−大気間の二酸化炭素ガス濃度を平衡させた後、サンプルガス内に含まれる二酸化炭素濃度を非分散型赤外線分析装置にて測定した。計測は1分1データの頻度で行い、データをパソコンに保管する。
【0018】
ポンプで汲み上げた海水の一部は、標準的採水法に基づき、1時間おきに採水し、微生物により海水の化学成分が変化しないように塩化第二水銀(和光製薬 139-09362)を添加した海水を実験室に持ち帰り、0.1%程度の再現性を有する測定法による精密分析装置で全アルカリ度(At)と全炭酸(Ct)を測定した。
このアルカリ度(At)と全炭酸(Ct)の測定は以下の手順で行った。1)分析用の海水(100〜200ml)を空気を入れないようにガラス瓶に入れる。2)実験室に持ち帰る。分析まで時間が空く(1日以上)ような場合は、保存剤として塩化第二水銀を添加する。3)AtとCtの分析は、密閉セル内で海水を塩酸で滴定して得られる中和滴定曲線から求めた。装置概要と分析方法詳細は米国エネルギー省(DOE)の報告書内容に従った(DOE. 1994. Handbook of methods for the analysis of the various parameters of the carbon dioxide system in sea water. Version 2. 1, ORNL/CDIAC-74 [Ed. Dickson, A. G. and Goyat, C.] )。
【0019】
測定毎の開始時にAtを分析し、同時に計測した海水中pCO2−pH自動連続計測装置のpCO2の実測値からpHを計算したところ、pHの実測値は最大で0.1pHユニット差があった。この計算値と実測値の差を水素イオン濃度ベース([aH]=10pH)で加減することで、pHの連続データを補正した。このようにして得られたpCO2とpHの約3〜4時間の連続データから、式(6)、(7)を用いて、無機炭素生産量(IP)と有機炭素生産量(OP)を計算した。この計算は、二酸化炭素分圧(pCO2)、水素イオン濃度(pH)、水温(TK)、塩分(S)及び全アルカリ度(At)の測定値を入力することにより、上述の炭酸ガスの固定量の計算手順に従って計算を行い、無機炭素生産量(IP)及び有機炭素生産量(OP)を出力するプログラムを組み込んだパソコンを用いて行った。これらの計算結果の妥当性を確認するため、1時間おきに採水した海水のAtとCtから式(1),(2)によって求める従来法とのデータの比較を行った。さらにOPについては、溶存酸素の変化からも計算を行い、データの比較を行った。
【0020】
石垣島白保サンゴ礁海域での1998年9・12月、1999年3・6・9月の観測に基づき、(1)At、Ctの実測値、(2)pCO2−pHの連続測定値から計算したIPとOPを表1に示し、そのなかの1998年9月20日のデータ及び計算経過を図2〜9に示す。
比較のため、DO計測値からのOP計算値も表示した。OPに関しては、pCO2−pH連続計測値からの計算結果は、At−Ctの実測値からの計算値に良く対応している。これと比較して、DOの計測結果では、昼の計算値が系統的に低めの値を出す。こらは主に昼間の酸素過飽和によって、大気への酸素の抜け出しが起こっていることが原因と考えられる。炭素ベースの測定は、二酸化炭素ガスは酸素ガスに比べ大気との交換が小さいこと、及びCO2固定量を見積もるのに、酸素に比べより直接的であることが利点として挙げられる。表1の結果と上記考察から、炭素ベースの測定法の一形態であるpCO2−pHの計測は、酸素の計測よりも優れていることが示された。IPについては、変化量が少ないことからバラツキが大きい結果となった。今回使用したpHセンサの精度は0.01pHユニットだったが、変化量の小さい場合さらに高精度のセンサを使用するか、又は最小二乗法の精度を上げるために長期間の計測を行うか、若しくはデータ取得の時間間隔を小さくしてデータ数を増やすことが望ましい。一方、表1のIPの計算結果を用いて、式(2)に従ってOPを計算すると、IPの計測誤差が伝播誤差になってしまい、OPの見積もり精度も悪くなる。式(7)の導入によって、伝播誤差が小さくなり、OPの見積精度がIPの精度に影響されないことが示された。
【0021】
【表1】
【0022】
【発明の効果】
本発明は、沿岸海域のIPとOPを求めるための海水中pCO2−pH自動連続計測装置を使用する際に不可欠な、pH電極のドリフト補正を可能とする手段と、見積もり精度向上に寄与する、伝播誤差を小さくする新しい計算式を提供するものである。
本発明の方法は、AtとCtを直接測定せず、溶存酸素(DO)やpH電極を用いる方法とも異なり、海水の二酸化炭素分圧(pCO2)を観測し、このpCO2とpHを用いて海水中の炭酸系の平衡計算によりAtとCtを算出してIPとOPを求める原理に基づく。
そのため、二酸化炭素分圧と全アルカリ度の測定値からpHの補正を行うことにより、pH電極のドリフトに起因する誤差要因を減少させることができた。
また、無機炭素生産量の計算においてアルカリ度の初期値の計算を実測値に置き換えることによる伝播誤差を減少させることができ、更に、IPやOPの計算に簡便な式(6)及び(7)を用いることにより伝播誤差を最小限にすることにも成功した。
更に、このような工夫を施すことにより、固定酸素量の長期自動連続測定を可能にした。
また、このような測定を簡便なプログラムを用いて処理できるため、対象海域に浮かべた船舶などの水上プラットホーム内で固定酸素量の測定を行うことも可能にした。
【0023】
本発明の効果である伝播誤差の減少について以下若干説明する。
IPとOPの計算は、AtとCtの値を用いて計算されるので、これらの値の誤差の四則演算による誤差伝播が、IPとOPの伝播誤差になる。
本発明において、アルカリ度・全炭酸の実測値からIPとOPを求める場合
例えば、アルカリ度の初期値(Ati)と終了値(Ate)は通常以下の値である。
Ati = 2200 +/− 4 μmol kg− 1
Ate = 2000 +/− 4 μmol kg− 1
この場合、IPは、IP = −1/2*(Ate − Ati) (式(1))から、IP = −1/2*(2000−2200) = 50 μmol kg− 1 になる。IPの伝播誤差は、通常誤差の2乗和の平方根に、四則演算の係数をかけたものなり、この場合 1/2*route(42 + 42) = 2.8 になる。
次に、同時に計測した全炭酸の初期値(Cti)と終了値(Cte)は通常以下の値である。
Cti = 1900 +/− 4 μmol kg− 1
Cte = 1800 +/− 4 μmol kg− 1
この場合、OP = −(Cte − Cti) − IP (式(2))から、OP = −(1800−1900)−50 = 50 μmol kg− 1 になる。OPの伝播誤差は、上記と同様にして、route(42 + 42 + 2.82) = 6.3 になる。
【0024】
しかし、従来のようにpHとpCO2の実測値からOPとIPを求める場合には、以下のようになる。
OPとIPを求めるのに、まず、pHとpCO2から、明細書の式(3)、(4)でAtとCtを計算する。この計算の過程で、pH1%、CO2 0.5%の誤差の伝播で、At、Ctとも約+/− 30 μmol kg− 1の誤差が付く。
これらの値を用いて、上記と同様の計算を行うと、
IPの誤差 = 1/2*route(302+302) = 21
OPの誤差 = route(302+302+212) = 42
となり、本発明のようにAt、Ctを実測して計算する場合と比べると、非常に大きな伝播誤差を生じることとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の炭酸ガス固定量の測定装置を搭載した小型船の構成を示す図である。
【図2】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その1)。
【図3】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その2、図2に続く部分)。
【図4】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その3)。各欄の項目名は図2を参照のこと。
【図5】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その4、図4に続く部分)。各欄の項目名は図3を参照のこと。
【図6】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その5)。各欄の項目名は図2を参照のこと。
【図7】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その6、図6に続く部分)。各欄の項目名は図3を参照のこと。
【図8】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その7)。各欄の項目名は図2を参照のこと。
【図9】1998年9月20日におけるIP及びOPの計算のデータ及び計算経過を示す図である(その8、図8に続く部分)。各欄の項目名は図3を参照のこと。
Claims (7)
- 対象海域の海水について一定期間、二酸化炭素分圧、水素イオン濃度、水温、塩分及び全アルカリ度を測定する段階、該二酸化炭素分圧及び該全アルカリ度の測定値を用いて該水素イオン濃度を補正する段階、必要に応じて該海水の測定値から後記計算に必要な係数を計算する段階、該一定期間中の該二酸化炭素分圧及び該補正後の水素イオン濃度の変化並びに必要に応じて該係数を用いて無機炭素生産量(IP)及び有機炭素生産量(OP)の少なくとも一方を計算する段階から成る海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法。
- 前記二酸化炭素分圧、水素イオン濃度、水温、塩分及び全アルカリ度を測定する段階において、該二酸化炭素分圧及び該水素イオン濃度を連続的に測定し、該全アルカリ度を間欠的に測定する請求項1に記載の海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法。
- 前記無機炭素生産量(IP)を計算する段階において、前記一定期間中の全アルカリ度の初期値又は最終値として、前記全アルカリ度の測定値を用いる請求項1又は2に記載の海洋生物の炭酸ガス固定量の測定方法。
- 対象海域の海水について一定期間、二酸化炭素分圧、水素イオン濃度、水温、塩分及び全アルカリ度を測定し入力する手段、該二酸化炭素分圧及び該全アルカリ度の測定値を用いて該水素イオン濃度を補正する手段、必要に応じて該海水の測定値から後記計算に必要な係数を計算する手段、該一定期間中の該二酸化炭素分圧及び該補正後の水素イオン濃度の変化並びに必要に応じて該係数を用いて無機炭素生産量(IP)及び有機炭素生産量(OP)の少なくとも一方を計算し出力する手段から成る海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用装置。
- 二酸化炭素分圧及び水素イオン濃度についての前記データが連続的測定値であり、全アルカリ度についての前記データが間欠的測定値である請求項4に記載の海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用装置。
- 前記無機炭素生産量(IP)を計算する手段において、前記一定期間中の全アルカリ度の初期値又は最終値として、前記全アルカリ度の測定値を用いる請求項4又は5に記載の海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用装置。
- 請求項4〜6のいずれか一項に記載の装置を装備した水上プラットホームであって、前記全アルカリ度を測定する手段が該水上プラットホーム外にあってもよい海洋生物の炭酸ガス固定量の測定用水上プラットホーム。
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