JP3825815B2 - 上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の結合体ならびにその複合体およびその細胞への嵌入方法 - Google Patents

上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の結合体ならびにその複合体およびその細胞への嵌入方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の結合体ならびにその複合体およびその細胞への嵌入方法に関するものであり、さらに詳細には、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、スペーサーとからなる結合体またはそれと遺伝子との複合体および上皮細胞増殖因子レセプターを介したエンドサイトーシスを利用した新規なジーンデリバリーシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上皮細胞増殖因子(EGF)については、その生理学的役割が、歯の発育、胃、肺の発達などにおいて広範に研究されている。この研究の結果、その上皮細胞増殖因子レセプター(EGFR)が上皮細胞の表面に局在していることが判明した。
上皮細胞増殖因子(EGF)は、特異的な細胞表面のレセプターと相互作用して、生体内および生体外において、種々の細胞の発育を刺激する。この研究の結果、その上皮細胞増殖因子レセプターが上皮細胞の表面に局在していることが判明した。
【0003】
このレセプターは、内的タンパクチロシンキナーゼ活性をもつ1186個のアミノ酸からなる170000ダルトンの膜貫通グリコプロテインである。EGFレセプターの発現は、一般には増殖中の細胞に限定され、その発現は細胞が分化し、増殖を停止したときに終了する。またEGFの発現は、増殖中の細胞が腺細胞に分化した後に起こる。
細胞ならびに組織のEGFレセプターのレベルをラジオレセプターアッセイまたは免疫組織化学的染色法によって測定したところ、小細胞肺癌はEGF結合活性を持ってなく、腺癌は中程度のEGF結合活性であるが、通常の組織レベルに比べると明らかに上昇した活性を示すのに対して、偏平上皮癌は腺癌などを含む他の肺癌よりも実質的に高いEGF結合活性を示すことが判明している。この結果、EGFレセプターが高いレベルにあることは、肺偏平上皮癌ばかりでなく、腺癌の発達にも関与しているものと考えられる。
更に、EGFレセプターは、全ての癌細胞の細胞膜上に局在していて、EGFレセプターの数は腫瘍の中心部に向かうにつれて徐々に減少している。また、腫瘍の中心部の末梢細胞では、DNA合成が盛んに行なわれていて、その細胞が急激に増殖している。従って、EGFレセプターの発現と悪性腫瘍細胞の生育とは直接的な因果関係があるといえる。
【0004】
多くの腫瘍細胞は、ポリペプチド成長因子を産生し、放出しているが、しばしばこれらの因子に対する機能的レセプターをも保有している。かかる因子の1つとして、オートクリン成長因子であるTGF−αがあり、このTGF−αはEGFに構造が類似している。またEGFレセプターはTGF−αの機能的レセプターと推定されている。しかしながら、小細胞肺癌細胞はEGFに拮抗するTGF−α様因子を産生も放出もしていないことが明白である。このように小細胞肺癌セルラインや新鮮な小細胞肺癌組織にしばしば見られるようなEGFレセプターが欠如することは、いろんな種類の肺癌の中の小細胞肺癌に特徴的であって、特殊なマーカーとして使用することができるものと思われる。
【0005】
一方、最近では、正確に標的を捕えることができる癌化学療法が強く要望されている。今日では、トランスフェリンレセプター、神経成長因子レセプターなどのレセプターばかりでなく、乳癌細胞、胸癌細胞、前立腺癌細胞など種々の癌細胞に対するモノクローナル抗体も、種々のタンパクトキシンに結合されるイムノトキシンとして使用されている。偏平上皮癌は上皮細胞増殖因子レセプターを過剰に産生し、EGFレセプターを過剰に産生する細胞の生体内での成長を促進し、また細胞表面のEGFレセプターは抗体と結合して嵌入されることが知られているので、EGFレセプターは偏平上皮癌に対する療法のための優れた標的と考えられる。
【0006】
EGFレセプターに対するモノクローナル抗体(以下、「抗EGFレセプターモノクローナル抗体」ともいう)は、主に、EGFレセプターを過剰産生する偏平上皮癌の細胞において過剰産生される低親和性のEGFレセプターと免疫反応をする。
EGFレセプターに対するモノクローナル抗体を、60Sリボゾーム不活化タンパクであるゲロニンに結合させたものが既に知られている(HirotaN., et al.;CANCER RESEARCH 49,7106−7109,Dec.15,1989)。 このモノクローナル抗体−ゲロニン結合体は、EGFレセプターの数に比例して細胞表面に結合し、EGFレセプターに結合するために上記モノクローナル抗体を拮抗する。この結合体は、タンパク合成を阻害し、EGFレセプターを過剰産生する癌細胞を死滅させることができる。更に、この結合体は、通常のヒト繊維芽細胞に対して僅かに細胞毒性を示すが、EGFレセプターが欠失している小細胞肺癌細胞とマウス繊維芽細胞を死滅させることはない。これに対して、遊離のゲロニンおよびこれらの混合物では、EGFレセプターを過剰産生する細胞を死滅させることはなかった。これらの結果から、このモノクローナル抗体−ゲロニン結合体は、EGFレセプターを過剰産生する偏平上皮癌と対する標的療法に使用できることが示唆されている。
【0007】
他方、上皮細胞増殖因子レセプターを認識するモノクローナル抗体と、偏平上皮癌に対する抗癌剤であるペプロマイシン(PEP)とを結合させた結合体も知られている(Osaku M.et al.;ANTICANCER RESEARCH 11:1951−1956(1991))。この結合体は、PEP単独よりも低濃度で、EGFレセプターを過剰産生する偏平上皮癌のA431細胞を死滅させるとのが報告されている。また、この結合体は、EGFレセプターが偏平上皮癌における多くの症例で発見されることから、EGFレセプターを利用する処置において有用な武器となりうるであろうとも報告されている。
【0008】
上述したように、抗EGFレセプターモノクローナル抗体との結合体が知られていて、ある程度の効果は期待されるけれども、癌という病気の多様性等を考慮すると、多様な抗癌剤や癌療法を開発することが強く望まれているのが現状である。
【0009】
また、最近では、治療のために、外部の遺伝子を標的とする細胞中にデリバリーするシステムに強い関心が寄せられている。これらのジーンデリバリーシステムは主にレトロビールスやアデノビールスベクターを使用し、それらの感染力を介して行なわれている。
癌の遺伝子療法としては、潰瘍壊死因子(TNF)遺伝子を潰瘍浸潤骨髄細胞中に導入して黒色腫の治療を行なった症例が知られている(Hwu,P.et al.;J.Nevro−surg.79,104−110(1993))。この症例では、患者から単離した骨髄細胞をカルシウムーリン酸沈殿法ならびにエレクトロポレーションによってDNAを用いて生体外で処理した後、患者の血液中に戻すことによって治療が行なわれた。しかしながら、この方法は、遺伝子を特定の標的細胞に直接導入するものではない。従って、遺伝子を特定の標的細胞に直接導入できるジーンデリバリーシステムが開発されれば、癌療法にとって極めて有用であろう。
【0010】
【発明の解決しようとする課題】
したがって、本発明は、前述した課題を解決することを目的として、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、スペーサーとが結合していることを特徴とする上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の結合体を提供することを目的としている。
【0011】
また、本発明は、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、遺伝子とが、スペーサーを介しまたは介さずに結合して複合体を形成していることを特徴とする上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の複合体を提供することを目的としている。
【0012】
更に、本発明は、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の複合体を用いて、上皮細胞増殖因子レセプターを介して、エンドサイトーシスを利用した細胞中に導入する新規なジーンデリバリーシステムを提供することを目的としている。
【0013】
加えて、本発明は、上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体の結合体または複合体を作製する結合体または複合体を作製する製法を提供することをも目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前述した目的を達成するために、鋭意研究ならびに検討を重ねた結果、IgGクラス2に属するマウスモノクローナル抗体がEGFレセプターのタンパク部分に特異的に結合することおよびこのモノクローナル抗体がEGFレセプターを介して細胞中に嵌入する特殊なエンドサイトーシス機能を利用して、EGFレセプターを過剰産生する癌細胞を標的とするモノクローナル抗体の複合体を構築すると共に、この複合体を介してヒト細胞中に遺伝子となるタンパクを導入することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
したがって、まず、本発明に使用することができる上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体としては、上皮細胞増殖因子レセプターを認識できるモノクローナル抗体であればいずれも使用することができる。
なお、多くの細胞には、リガンドに対する親和性に関して2つのクラスのEGFレセプターがあると考えられる。現在のところ、これらのEGFレセプターが異なる機能を有しているかどうかは明らかではないが、生理学的な条件ではこれら2つのEGFレセプターが互いに互換的に作用していることは知られている。またEGFが親和性の高いレセプターに結合することは細胞のマイトジェン応答に関連しているとの証拠もある。更に、高親和性レセプターについても、低親和性レセプターについても、その正確な組成もそれらを規制する機能も明らかではないが、本発明に使用するモノクローナル抗体は、特に低親和性クラスであるヒトEGFレセプターのサブクラスと免疫反応するものであるが、何らこれに限定されるものではない。
なお、本明細書において単にモノクローナル抗体と称する場合は、特段の定めがないかぎり、本発明に使用することができる上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体を意味するものと理解すべきである。
【0016】
本発明において、モノクローナル抗体は、まず、このモノクローナル抗体を他の物質に結合するためのスペーサーの役割を担うことができる物質(以下、単に「スペーサー」ということがある)と結合体が形成される。このモノクローナル抗体とスペーサーとは、ジスルフィド結合またはチオエーテル結合で結合するのが好ましい。従って、モノクローナル抗体は、スペーサーとの結合反応を円滑に進行させるために、例えば、N−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)などのジチオ基を有する化合物で修飾するのが好ましい。この目的のためには、モノクローナル抗体の性質や活性を損なうことなく、このモノクローナル抗体にジチオ基を付与することができる化合物であればいずれも使用することができる。
【0017】
他方、かかるスペーサーとしては、例えば、モノクローナル抗体とジチオ結合ができると共に、モノクローナル抗体の複合体を形成する成分とも結合でき、かつ、この複合体が投与される生体に対して毒性を示したり、細胞への嵌入に悪影響を及ぼしたりしなければ、いずれの物質も使用することができる。かかる物質としては、特に、ポリリジンなどのアミノ酸、その他のポリカチオンなどが挙げられる。なお、これらのスペーサー自身がモノクローナル抗体とジチオ結合することができない場合には、スペーサーにジチオ基を付与することができる化合物、例えば、イミノチオランなどの硫黄含有物質で修飾して使用することもできる。
【0018】
上記のようにして調製されたモノクローナル抗体と、スペーサー化合物とは、常法に従って反応させることによって、モノクローナル抗体の結合体を得ることができる。なお、この反応においては、残存する遊離のスルフヒドリル基を常法に従って保護するのが好ましい。
【0019】
このようにして得られたモノクローナル抗体の結合体は、次いで、遺伝子と結合されて、モノクローナル抗体の複合体にされる。このモノクローナル抗体と遺伝子、つまりDNAフラグメント、との結合は、例えば、親和性によるのが好ましい。例えば、モノクローナル抗体とポリリジンとの結合体に、DNAを加えて、適当な条件で保温することによって、所定のDNAが結合されたモノクローナル抗体の複合体を得ることができる。
なお、モノクローナル抗体および/または遺伝子の種類によっては、つまり、モノクローナル抗体と遺伝子とがスペーサーを介在させることなく結合して複合体を作製することができる場合には、このモノクローナル抗体と遺伝子DNAとはかかるスペーサーを介さずに複合体を形成してもよい。
【0020】
この発明によれば、この結合体によって細胞中に嵌入(エンドサイトーシス)できる遺伝子については、特に限定されるものではなく、使用目的に応じて、いずれの遺伝子をも本発明の複合体に結合して、所望の細胞に遺伝子を抗体として嵌入することができる。
【0021】
従って、本発明の目的に最も沿うものの1つとして、本発明は、EGFレセプターを過剰に発現する偏平上皮癌細胞などの癌細胞に応用することができる。この種の癌細胞には、例えば、ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子を効率よく導入した後に、ガンシクロビルを投与すれば、癌細胞を選択的に死滅させることができる。
その他の癌細胞には、癌抑制遺伝子を導入することができる。かかる癌抑制遺伝子としては、例えば、ウイルムス腫瘍にはWT−1、網膜芽細胞腫にはRbなどが挙げられる。
【0022】
更には、癌遺伝子(オンコジン)が過剰発現しているものには、既に発明者らによって発表されたアンチセンス発現ベクターなどを導入して、抑制することもできる。
更にまた、本発明にかかる複合体ならびにエンドサイトーシスを適用することができるその他の癌としては、例えば、Beckwith−Wiedemann症候群(例えば、ヘパトプラストーマ、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍など)、膀胱癌、Ewing肉種などが挙げられる。
つまり、本発明は、当該遺伝子を結合させて癌細胞に導入して、所謂遺伝子の治療に応用することができる。
【0023】
以下、本発明を実施例によって説明する。
実施例
ヒトEGFレセプターに対するモノクローナル抗体
低アフィニテイー(親和)型EGFレセプターと免疫反応するIgG2型マウスモノクローナル抗体をハイブリドーマセルラインによって作製した(Behzadian M.A.and Shimizu,N.:Cell Structue And Function;10,219−232(1985))。つまり、ヒト類表皮腫細胞で免疫したBALBcマウスの脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞と融合した。細胞融合は、文献記載の方法(Oi,V.T.& Herzenberg,L.A.: Selected Methods in Cellular Immunology,eds.B.B.MISHELL and S.M.SHIIGI, San Francisco,Freeman,pp.351−372,1980)を改良して行なった。つまり、マウス脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞とをダルベッコ改良イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM))で2度洗浄した後、5対1の割合で混合してペレットにした。このペレットを柔かくして、これに45%ポリエチレングリコール(PEG)と5%ジメチルスルホキシドDMEM溶液からなるPEG0.6mlを室温で1分間掛けて滴下した。続いて、6mlのDMEMを6−7分間掛けて徐々に添加した後、20%FBSを含むDMEM10mlを添加した。得られた細胞を7分間700rpmで遠心分離をしてペレットにした後、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を含有するHy培地に懸濁し、各穴に一滴(80μl)づつ96穴マイクロタイタープレートに分配した。次の日、ml当たり1−2x10個のマウス腹膜細胞を含むHAT−Hy培地を1滴づつ各穴に添加した。7日目に、培地の半分を、HTだけを含有する新鮮なHy培地に入れ替えた。12−15日目に、80μlの培地を170個の生育しているコロニーから取り出して125I−プロテインA結合アッセイに使用した。次いで、Hy培地を追加して、3日後にI−プロテインA結合アッセイを繰り返した。この時点で、36個のIgG産生コロニーを24穴培養プレートに移した。これらのコロニーを培養した培地をEGF結合を阻害するかどうかのアッセイをした。このうちで阻害活性を示した2個のコロニーを限界希釈培養法でサブクローンした後、液体窒素中に凍結して保存した。
【0024】
IgGの精製
上記のようにして凍結保存しておいたハイブリドーマサブクローンを18%FBSを含有する多量のHy培地でml当たり1x10個の細胞密度になるまで生育させた。得られた細胞は、血清フリーのDMEMで洗浄した後、血清フリーのHy培地にml当たり5x10個の細胞密度になるように懸濁させてCOを含む培養器中に30時間放置した。その細胞から得られたIgGを常法の硫酸アンモニウム沈殿法ならびにDEAEセルロースカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0025】
モノクローナル抗体の確認
このようにして得られた精製モノクローナル抗体は、二重免疫拡散法によるウサギの抗マウスIgG抗体との沈殿によってIgGであることを確認した。このモノクローナル抗体は、ポリアクリルアミドゲル上でMr=16000の1本だけのタンパクバンドを示し、また還元剤を適用するとMr=52000と24000の2本のバンドに解離した。これらのプロフィールは、イムノグロブリンGの分子構造と一致しており、得られたモノクローナル抗体が均質であることを確認した。
【0026】
プラスミドの調製
pSV2CATプラスミドDNAを大腸菌で生育し、単離した後、文献記載の方法で精製した(Birnboim,H.C.& Doly,J:Nucleic Acids Res.,7,1513−1518(1979))。この精製したプラスミドを1%アガロースゲルで電気泳動して細菌由来のDNAが存在してないことを確認した。
【0027】
モノクローナル抗体の修飾
EDTA(0.5mM)を含有する100mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)に溶解したモノクローナル抗体(1mg/ml)を、17倍モル過剰量のN−サクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)のエタノール溶液(10mM)と混合した後、37℃で30分間培養した。この反応を、EDTA(0.5mM)を含む200mMのHEPESバッファー(pH7.9)で平衡にしたセファデックスG25カラムを用いて4℃でゲルろ過することによって終了させた。得られたモノクローナル抗体を、文献記載の方法で測定したところ、抗体1分子当たり約3個のジチオピリジル基が導入されていることが判明した(Ozawa,S.,et al:Int.J.Cancer,43,152−157,(1989);Lambert,J.M.,et al:J.Biol.Chem.,260,12035−12041(1985))。次いで、得られた反応生成物を、10倍量のHBSバッファー(HEPES20mM(pH7.3)、NaC1150mM)で4℃で希釈し、限界ろ過をした後、メンブレンでろ過した。
【0028】
ポリリジンの修飾
ポリリジン水溶液(1mg/ml)を、それぞれが60mMと1mMの最終濃度になるようにトリエタノールアミン/HClバッファー0.5M(pH8.0)とEDTA0.1Mとを混合した。この混合物から脱気をし、0℃で窒素中に放置した後、0℃で窒素中において2−イミノチオラン(1mM)を用いて2時間処理した。過剰の試薬を除去した後、1/10量の0.5mMトリエタノールアミン/HClバッファー(pH8.0)を添加して、ポリリジンのpHを7.0に上げた。
【0029】
修飾モノクローナル抗体と修飾ポリリジンとの結合体の調製
修飾モノクローナル抗体のHBSバッファー溶液を等量(約5倍モル過剰量)の修飾ポリリジンと混合した。この混合物を4℃で20時間窒素条件下で放置した。次いで、2mMヨードアセタミドを添加して残存する遊離のスルフヒドリル基をブロックして、25℃で更に1時間培養を続けた。
【0030】
修飾モノクローナル抗体と修飾ポリリジンとの結合体の精製
得られた修飾モノクローナル抗体と修飾ポリリジンとの結合体を、モノS HR5/Sカラム(ファルマシア社製)でのカチオン交換クロマトグラフィーによってAバッファー80%/Bバッファー20%からBバッファー100%までの傾斜法によって単離した。ここでAバッファーは50mMのHEPES(pH7.9)からなり、BバッファーはAバッファーと3MNaClとの混合液からなっている。1.65M2Mとの食塩の間で溶離することによって得られた生成物分画をHBSで塩析した後、メンブレンでろ過することによって、使用した結合体に沈殿物が何ら含まれていないことを確認した。
【0031】
結合体/DNA複合体の調製およびDNAデリバリーのためのアッセイ
上記において修飾モノクローナル抗体と修飾ポリリジンとの結合体とDNAとの複合体は、文献記載の方法に従って作製した(Curiel,D.T.,et al:Hum.Gene Ther.,3,147−154(1992))。つまり、上記結合体とpSV2CATプラスミドDNAとを室温で30分間培養した後、得られた複合体を10%FCSを含むDMEM中で37℃で5%CO2の存在下で生育させたNA細胞を5x10個含む組織培養皿に入れた。この細胞を37℃で24時間培養して、10%FCS/DMEMで洗浄した後、60時間放置した。図1に示すように、得られた複合体は、アガロース電気泳動により、DNA自体とは別個の泳動パターンを示していることが分かる。得られたDNA/結合体の複合体は、DNA濃度に比例して作製された。
【0032】
レポータージーン発現を評価するために、細胞ライゼート(溶菌液)を文献記載の方法で作製し(Wu,G.Y.et al:J.Biol.Chem.,262,4429−4432(1987))、そのクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)活性を測定するために文献記載の方法でアッセイした(Gorman,C.M.et al:Mol.Cell.Biol.,2,1044−1051(1982))。つまり、細胞抽出物を、[14C]クロラムフェニコールを4mMアセチルコエンザイムA添加の0.25Mトリス−HCl(pH7.5)に溶解して、37℃で60分間培養した。その薄層クロマトグラフィープレートをイメージングプレートを用いて室温で2時間オートラジオグラフに掛けて分析した。
そのCAT活性測定の結果、この複合体で処理されたNA細胞では、著しいCAT活性が発現したのに対して、DNAのみおよび抗体と、ポリリジンと、DNAとの混合物で処理したNA細胞にはかかる活性は発現していなかった(図3)。また、このCAT活性は、図4に示すように、トランスフェクションのために2倍のDNAを複合させた結合体を使用したときに増加した。
つまり、CATジーンDNAは、EGFレセプターを介してモノクローナル抗体によって細胞中に導入されて、トランスフェクションされた細胞中で発現した。
【0033】
結合アッセイおよび競合阻害アッセイ
モノクローナル抗体を、ヨードビーズを用いて125Iで標識した。得られた結合体を文献記載の方法でアッセイした(Shimizu,N.et al.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,3600−3604(1980))。24穴プラスチック皿で密集細胞培養された細胞を、氷上で冷却しながら、氷冷EBSS1mlで2度洗浄した後、125I(約30000cpm)で標識したモノクローナル抗体と共に、標識していないモノクローナル抗体、モノクローナル抗体とポリリジンとの結合体、ならびにモノクローナル抗体−ポリリジン結合体/DNA複合体を種々の濃度にEBSSバッファー1mlに溶解した溶液で2時間処理した。次いで、細胞をEBSS1mlで2度洗浄して、1NNaOH中に可溶化した。細胞の放射能強度をガンマコウンターで測定した。
得られたモノクローナル抗体−ポリリジン結合体/DNA複合体は、125I−モノクローナル抗体の細胞への結合を阻害するから、EGFレセプターに結合していることは明白である(図2)。
【0034】
【発明の効果】
本発明に係る結合体および複合体は、その成分であるモノクローナル抗体として、EGFレセプターに対して特異的であって、種々の型の細胞のうちでも、EGFレセプターを過剰に産生する細胞だけを標的として認識することができる。
また本発明に係る結合体に使用されているポリリジンなどの
は、アフィニテイーによる結合によってその成分である遺伝子を複合体に導入することができるので、本発明に係る方法を応用すれば、いかなる遺伝子をも細胞中に導入することができ、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、モノクローナル抗体−ポリリジン/DNA複合体のアガロースゲル電気泳動のパターンを示す泳動図
モノクローナル抗体−ポリリジンの結合体(0.2μg)を、pSV2CATプラスミドDNA(0.2、1または2μg)と混合して、アガロースゲルを用いて電気泳動を行なった。DNAの存在はUV発色下でエチジウムブロマイドで可視することができた。DNAマーカーはBstPIで消化されたλDNAである。
【図2】図2は、モノクローナル抗体−ポリリジン/DNA複合体による125I−モノクローナル抗体結合の競合阻害を示すグラフ。
125I−モノクローナル抗体のA549細胞への結合は、モノクローナル抗体−ポリリジン結合体またはそのDNA複合体の量を増加しながら測定した。
【図3】図3は、モノクローナル抗体−ポリリジン/DNA複合体によるCATジーントランスフェクションを示す図であって、複合体形成によるCATジーンの導入を示している。
NA細胞を、DNAだけ、モノクローナル抗体と、ポリリジンと、DNAとの混合物、およびモノクローナル抗体−ポリリジン/DNA複合体と共に、培養した。CAT活性は、3−AcCMの産生として検出した。
【図4】図4は、モノクローナル抗体−ポリリジン/DNA複合体によるCATジーントランスフェクションを示す図であって、用量依存性発現を示している。
NA細胞を、モノクローナル抗体−ポリリジン結合体(10μg)と、
pSV2CATプラスミドDNA(10または20μg)との複合体で処理した。

Claims (16)

  1. 上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体とスペーサーとからなる結合体であって、
    前記スペーサーがポリカチオンであることを特徴とする結合体
  2. 前記ポリカチオンがポリリジンであることを特徴とする請求項1に記載の結合体。
  3. 上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、DNAフラグメントとが、スペーサーを介して結合して形成している複合体であって、
    前記スペーサーがポリカチオンであることを特徴とする複合体。
  4. 前記ポリカチオンがポリリジンであることを特徴とする請求項3に記載の複合体。
  5. 前記DNAフラグメントが遺伝子をコードしていることを特徴とする請求項3または4に記載の複合体。
  6. 前記遺伝子が癌遺伝子または癌抑制遺伝子であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の複合体。
  7. 上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、DNAフラグメントとが、スペーサーを介して結合して形成している複合体を含み、前記DNAフラグメントを細胞に導入するためのDNAデリバリーシステムであって、
    前記スペーサーがポリカチオンであることを特徴とするDNAデリバリーシステム。
  8. 前記ポリカチオンがポリリジンであることを特徴とする請求項7に記載のDNAデリバリーシステム。
  9. 前記DNAフラグメントが遺伝子をコードしていることを特徴とする請求項7または8に記載のDNAデリバリーシステム。
  10. 前記遺伝子が癌遺伝子または癌抑制遺伝子であることを特徴とする請求項9に記載のDNAデリバリーシステム。
  11. 前記細胞が癌細胞であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のDNAデリバリーシステム。
  12. 上皮細胞増殖因子レセプターに対するモノクローナル抗体と、DNAフラグメントとが、スペーサーを介して結合して形成している複合体を、前記上皮細胞増殖因子レセプターを発現する培養細胞に投与することにより、前記培養細胞に前記DNAフラグメントを導入するDNA導入法であって、
    前記スペーサーがポリカチオンであることを特徴とするDNA導入法。
  13. 前記ポリカチオンがポリリジンであることを特徴とする請求項12に記載のDNA導入法。
  14. 前記DNAフラグメントが遺伝子をコードすることを特徴とする請求項12または13に記載のDNA導入法。
  15. 前記遺伝子が癌遺伝子または癌抑制遺伝子であることを特徴とする請求項14に記載の DNA導入法。
  16. 前記培養細胞が癌細胞であることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のDNA導入法。
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