JP3805993B2 - 原因推定方法、原因推定装置、原因推定プログラム及び記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、故障診断のためのデータベースの構築方法および装置、故障診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
いわゆるAIの分野ではよく研究開発されてきた故障診断・病状診断においては、専門家の知識をいろいろな条件で整理し記憶したものを参照して現象に見あった条件にしたがって結論を導きだすものや、あるいは、事例データについてそれぞれが似ているか否か(測度)を分析して幾つかに分類することで結論とする手法が開発されてきた。
【0003】
以前には、専門家の経験や勘による試行錯誤によって推論がおこなわれていたことを考えると、条件整理(木構造などのデータ構造を用いたデータべース構築)やデータ分類による推論手法は、より多くの人がそれらを利用することができるようになり、効率良く診断を行なえるシステムであると言える。(ここで、いわゆるモデルベース推論については言及しないが、これは事例が多くなるにつれてモデルにたいする例外が多くなりがちで現実的にはなんらかの事例対応処理、すなわち、事例データベース推論が必要となると考えられるので上の条件整理の場合に含まれるものと考えたからである。)
・ 作業者(専門家)の経験と勘
・木構造による事例DB構築
・木構造以外の分類による事例DB構築
しかし、これらの条件や分類のための測度は、専門家が定義しなければならず、その為、専門家によって必ずしも一致しないために、データベース自体の正当性や、また事例追加などにともなうデータベース更新時の整合性に問題を残すことになる。
【0004】
結果として、故障診断等のためのデータベースは、
・客観的でなく、第三者が理解できない
・条件分けが複雑になりがちで、したがって、検索が難しい
・木構造の、「関連の深さ」の表現能力がかえって因果関係を複雑にする
・分類では事例間を関係づける条件がむずかしい
のような印象を利用者、維持管理者に与えることになる。
【0005】
例えば、木構造を利用した故障診断システムに関しての出願開示である、特開平8−87412号公報(「故障因果関係生成システムおよび故障因果関係生成方法」)においても、従来のように故障結果を対象の情報にしたがって特定の原因情報に結びつけるために木構造を利用している。
【0006】
実施例の電気回路のようなものの場合、すなわち、各ブロック毎が独立していて、かつ、動作も回路論理にしたがってシーケンシャルであるとき、(1ヵ所の)故障の原因という情報だけを推論することは、たしかに、意味もあることではある。
【0007】
しかし、対象を、ブロックなどのような考え方で小さな区分けに分割してとらえることができず、因果関係もシーケンシャルではなく複雑であって、しかも原因が複数個発生しうる場合、仮に候補としての原因情報を列挙することができても、それらの複数の原因候補全体がどういう状況にあるのかがあらかじめ原因検索に用いる木構造のなかに反映されていなければ判らないのは当然である。
【0008】
実際、木構造を用いる方法は個々の結果と原因を関連づけることが特徴であって、いろいろな原因がある場合の状況(全体像)を人間に把握させるというのは、木構造が偶然そういう分類になっていることを期待する他は無いと思われる。
【0009】
こういう観点から、問題解決への試みとして、オブジェクト指向を木構造に導入した手法(たとえば、特開平8−95788号公報(「オブジェクト指向診断型エキスパートシステム」))も考えられている。
【0010】
しかし、これらは、個々の事例の単なる分類手法であって、すなわち、ある恣意的に与えられた分類に属するか否かが人への理解を助ける情報として利用されているにすぎず、各事例どうしの因果関係を反映した形で分類をおこなう手法ではないために、分類された集合間の関係づけが各事例間の関連情報を反映するものではない。そのため、結果として得られる分類ラベルとその属性だけでは、個々の場合の事例間の情報を十分には説明できない。
【0011】
また、もうすこし、類別をあいまいにする形での手法として、AIの分野では自然言語解釈や論理学的手法だけではなくファジィやニューラルネットワークなども導入してこれらの問題に取り組まれてきているが、本質的な解決策がないのが実情である。
【0012】
なぜなら、これらのシステムの記述が、人間の理解の仕方を介して表現される結論としてのデータ集合で扱うものである以上、自然言語そのものが持つあいまいさ、自己矛盾、冗長性、定性的表現(定量的ではない、すなわち、人によって非線形性の度合が異なる)によって表現に使われている要素によって、閉じている(数学的な意味で)集合を表せないからである。
【0013】
条件整理や分類という手法をそのまま自然言語的な取り扱いに応用するということが、すべての要素の所属関係を厳密に定めるものであるのと矛盾しているのである。
【0014】
この意味では、上の正当性や整合性の問題は解決のなされない問題であると言える。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来は、例えば、事例データなどを複雑な条件分けを伴う分類、整理を行う必要があり、例えば故障結果をその原因に結びつけるためのデータベースを構築するのが困難であった。
【0016】
そこで、本発明は、条件整理や分類手法において要素の所属関係が複雑であることに起因する故障診断のためのデータベース構築の困難さや、診断結果のわかりにくさを解決することを課題とする。
【0017】
すなわち、本発明は、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、信頼性のある明確な診断結果を得ることができる因果関係モデル生成方法およびそれを用いた因果関係モデル生成装置、因果システムモデル構成装置および原因推定方法およびそれを用いた原因推定装置を提供することを目的とする。
【0018】
そのために、単に命題論理で記述されればよい対象をあつかう従来手法よりも、対象を限定して、
・要素の所属関係の厳密な定義はおこなわない
・対象を物理的動作をおこなうものに限り、因果関係による特性記述を行なう
・因果関係による記述において、1つの結果に対応する原因のグループを冗長を許して構成する
という手法を提案する。つまり、所属関係を厳密に定義しなくても、故障状態の把握そのものは可能であるとの考え方に立つものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、観測対象の注目事象とその原因となる原因事象との間の因果関係を生成するものであって、同一とみなす前記注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素とする原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、このような原因と結果との間の因果関係に基づくデータベースを用いることにより、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0020】
本発明は、観測対象の注目事象とその原因となる原因事象との間の因果関係を生成するものであって、同一とみなす前記注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素とする原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けるとともに、前記結果の集合に、他の注目事象の原因事象となる要素が存在するとき、該結果の集合と、前記他の注目事象の属する結果の集合に対応付けられた原因の集合とを対応付けることにより、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、このような原因と結果との間の因果関係に基づくデータベースを用いることにより、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0021】
本発明は、観測対象の注目事象とその原因となる原因事象との間の因果関係に基づき、前記観測対象から観測された観測事象の原因を推定するものであって、同一とみなす前記注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素とする原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより生成された前記因果関係に基づき、前記観測事象を要素とする前記結果の集合を検索するとともに、この検索された前記結果の集合に対応付けられた前記原因の集合を検索することにより、原因と結果との間の因果関係に基づく人に理解し易いデータ構造のデータベースを用いた、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0022】
本発明は、観測対象の注目事象とその原因となる原因事象との間の因果関係に基づき、前記観測対象から観測された観測事象の原因を推定するものであって、同一とみなす前記注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素とする原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けるとともに、前記結果の集合に、他の注目事象の原因事象となる要素が存在するとき、該結果の集合と、前記他の注目事象の属する結果の集合に対応付けられた原因の集合とを対応付けることにより生成された前記因果関係に基づき、前記観測事象を要素とする前記結果の集合を検索するとともに、この検索された結果の集合に対応付けられた前記原因の集合を検索し、前記検索された前記原因の集合に前記結果の集合が対応付けられているときは、さらに、該結果の集合に対応付けられた前記原因の集合を検索することにより、原因と結果との間の因果関係に基づく人に理解し易いデータ構造のデータベースを用いた、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0023】
本発明は、モデル化すべき対象にかかわる因果関係を表現する、原因データと結果データをもとに、対象のモデル化を行うものであって、前記結果データのなかで同一と判別できるものを要素とする同一結果データ集合を作成するとともに、該同一結果データ集合の要素である結果データの原因となる原因データを要素とする同一結果原因データ集合を作成することにより、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、このような原因と結果との間の因果関係に基づくデータベースを用いることにより、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0024】
本発明は、モデル化すべき対象にかかわる因果関係を表現する、原因データと結果データを対としてもつ因果データが記憶される因果データ記憶装置と、前記結果データが別の結果を引き起こす原因にもなるデータである場合に、該結果データと該原因データとの対応付けが明確に記述される果因データとして記憶される果因データ記憶装置と、前記結果データのなかで同一と判別できるものを要素とする新たな集合を作成する同一結果データ集合作成装置と、前記同一結果データ集合作成装置で作成された同一結果データ集合に対応する結果データが属する原因データを要素とする同一結果原因データ集合を作成して該同一結果データ集合と対応付けを行うとともに、前記果因データで関連付けられる原因データと結果データをそれぞれ要素とする同一結果原因データ集合と同一結果データ集合との対応付けを行って、これらの対応関係を出力する、部分因果システムモデル構成装置とを備得ることにより、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、このような原因と結果との間の因果関係に基づくデータベースを用いることにより、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0025】
本発明は、モデル化すべき対象にかかわる因果関係を表現する原因データと結果データとから、前記結果データのなかで同一と判別できるものを要素とする同一結果データ集合と、この同一結果データ集合の要素である結果データの原因となる原因データを要素とする同一結果原因データ集合とを作成し、前記同一結果データ集合と前記原因データ集合とを対応つけることにより構成された前記対象の因果システムモデルに基づき、観測で得れる結果データが属する前記同一結果データ集合を検索する観測データ認識装置と、前記検索された同一結果データ集合が対応する同一結果原因データ集合を検索する逆サブシステム検索装置とを備えることにより、原因と結果との間の因果関係に基づく人に理解し易いデータ構造のデータベースを用いた、信頼性のある明確な故障の診断結果を得ることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る因果システムモデル構築装置(因果関係モデル生成装置)の構成例を示したもので、因果データ生成記憶部11、果因データ生成記憶部12、同一結果データ集合作成部13、部分因果システムモデル構成部14とから構成されている。
【0028】
以下、図6に示すフローチャートを参照しながら、図1の因果システムモデル構築装置の構成と、各機能部の処理動作について説明する。
【0029】
因果データ生成記憶部11は、モデル化すべき観測対象(例えばシステム)にかかわる因果関係を表現する、例えば、原因データと結果データを対としてもつ因果データの集合Cを生成して、記憶する(ステップS1)。実際の観測対象の実データでもよいし、観測対象を分析したモデル化データであってもよい。
【0030】
図2に示すように、Xを原因データ(集合)、Yを結果データ(集合)とすると、
【0031】
【数1】
【0032】
なる因果データの集合を生成する。
【0033】
ところで、上記結果データyh(∈Y)が、実は別の結果を引き起こす原因データxk(∈X)でもある場合もある。すなわち、現実の観測対象における、結果データは単に結果であるというよりも、実は中間的なデータであり、それが別の結果を引き起こす原因につながっている場合が想定される。
【0034】
そこで、果因データ生成記憶部12は、上記結果データyh(∈Y)と上記原因データxk(∈X)とを対としてもつ果因データの集合Rを生成して、記憶する(ステップS2)。
【0035】
【数2】
【0036】
というように、結果データと原因データが対で、1つの結果データと別の結果を引き起こす原因との関連を示す。
【0037】
次に、同一結果データ集合作成部13は、上記結果データのなかで、実は同一の結果と判別できるものを要素として1つの「同じ結果」を表すあらたな集合、すなわち、同一結果データ集合(Y1,Y2,…)を生成する(ステップS3)。
【0038】
どういう結果データを同一とみなすかという判別基準ないし判別手法は、同一結果データ集合作成部13に予め備えられる(記憶されている)ものとする。最も簡単な例として、単純に判別基準だけを記憶しておき、それにしたがって同一集合を定めるものについて説明する。
【0039】
【数3】
【0040】
「どういう結果データを同一とみなすか」については、各結果データがどの集合に属するかを所定の基準にしたがって分別するものとする。任意の結果データyi(∈Y)に関して、たとえば、図3に示すようなテーブル形式の分類基準(z1、…zL)のテーブルを予め設けておく。
【0041】
図3に示したような分類基準では、結果データは、最初から定められた集合のいずれかにかならず当てはまるが(yiは、同一結果データ集合Y0〜YLのいずれかの要素となる)、あてはまらない場合もつくっておき、その場合はあてはまらない結果データを例えば1つずつ、ただ1つの要素とする集合YL+m、(m=1、2、…)を生成してゆくものとしてよい。
【0042】
このようにして、所定の基準ないし方法にしたがって、同一とみなしてよい結果データをひとつの集合としてゆく。
【0043】
なお、想像に難くないように、この部分については従来の分類手法の応用でよいので、上記手法に限定するものではない。
【0044】
部分因果システムモデル構成部14は、上記同一結果データ集合作成部13で作成された同一結果データ集合の要素である結果データを引き起こす原因データを要素とする集合を生成して対応づけを行なうとともに、さらに、上記果因データの対応づけもおこない、原因データと結果データを部分的な集合によって表すことで対象システムに関する推論を容易にするためのものである。
【0045】
まず、同一結果データに関わる対応づけについて、図4を参照して説明する。
【0046】
図4において、同一結果データ集合Y1の要素{y1,y2,yj}は、因果データ生成記憶部11に因果データとして記憶されているので、すでに原因データに、例えば、(x2,y1)、(x4,y2)、(xi,yj)∈Cとして対応づけられている。
【0047】
これらの対応する原因データx2,x4,xiをまとめて1つの集合と考えて、同一結果原因データ集合X1(={x2,x4,xi})とする(ステップS4)。このX1と元のY1との対応を写像としてf1と表す(ステップS5)。
【0048】
【数4】
【0049】
このようにして、あらゆる同一結果データ集合について、原因データ集合への対応づけを行うと、
【0050】
【数5】
【0051】
と表すことができる。
【0052】
ここで、XkからYkへの対応を便宜上サブシステムと呼ぶことにすると、写像fは、サブシステムの逆写像(「逆サブシステム」)ということになる。また、このサブシステムのそれぞれは、XkとYkとの対応として1対1対応となるように構成する。すなわち、逆サブシステムがなりたつように、同一結果原因データ集合を定めることにする。
【0053】
次に、果因データの対応づけについて、図5を参照して説明する。
【0054】
果因データ(yh,xk)∈R、yh(∈Y)、xk(∈X)は、ある結果データyhが、即、別の原因データxkでもある場合を示す情報である。図5で、例えば、Y1に属するy1、yjはそれぞれ、x1(∈X2)、x3(∈Xk)に対応づけられる。
【0055】
このとき、それぞれの要素を介して、Y1がX2、Xkによって対応づけられるをことを写像としてgで表す(ステップS6)。すなわち、
【0056】
【数6】
【0057】
果因データに関わる要素をもたない同一結果原因データ集合、たとえば、図5でX1の場合は、写像gによる対応集合はつぎのように空集合となる。
【0058】
【数7】
【0059】
なお、この写像は、多対応を許し、例えば、図5では、g(X2)=Ykの対応も存在するから、出力は集合表現とし、
【0060】
【数8】
【0061】
と表す。
【0062】
ここで、Y2はY1、Ykを要素とするメタ集合として便宜上定義した。
【0063】
なお、上記説明では、対応するものすべてを列挙したが、実際の観測結果に依存して、たとえば、Ykが得られていない(観測結果に属するものが無い)場合には、上の例に示したように、Y1だけの出力とするということでもよい。
【0064】
このようにして部分因果システムモデル構成部14では、因果データと果因データと同一結果データから、それらのデータの部分集合間の写像f、gを構成する。
【0065】
以上説明したように、図1の因果システムモデル構築装置は、図5に示したように、観測対象の因果データと果因データを、同一結果データに着目して部分集合(サブシステム)化し、観測対象の原因と結果との因果関係を(写像f、gを用いて)部分集合間の対応関係で表した因果システムモデルを構築することにより、最初からすべての条件を考えて木構造などのデータ構造を構成する必要がなく、故障診断のためのデータベースの構築が容易に行える。
【0066】
また、属性どうしの対応関係をデータ(因果データ、果因データ)としてもっているだけではなく、集合どうしの対応関係をあらかじめデータ化して、集合を定めるときに利用してもよい。
【0067】
(第2の実施形態)
次に、図1の因果システムモデル構築装置にて構築された、例えば、図5に示したような因果システムモデルを用いた原因推定装置について説明する。
【0068】
原因推定装置は、上記因果システムモデルに基づいて、観測対象の例えばシステムから観測される結果データが属する同一結果データ集合に対応する同一結果原因データ集合を順次検索を繰り返すことで、対応する原因データが属する集合を得るものである。
【0069】
図7は、原因推定装置の構成例を示したもので、観測データ認識部21と、逆サブシステム検索部22と、対応同一結果データ集合検索部23、因果システムモデル記憶部24とから構成されている。
【0070】
以下、図8に示すフローチャートを参照しながら、図7の原因推定装置の構成と、各機能部の処理動作について説明する。
【0071】
因果システムモデル記憶部24には、図1の因果システムモデル構築装置で構築された、例えば、図5に示したような因果データと果因データから、同一結果データ集合と同一結果原因データ集合間の写像f、gにより表される対応関係(観測対象の原因と結果との間の因果関係)が記憶されている。
【0072】
観測データ認識部21は、因果システムモデル記憶部24に記憶されている、例えば、図5に示したような因果システムモデル(因果関係モデル)に基づき、例えば、図3に示したような分類基準に従って、観測で得られる結果データとしての観測データy0(∈Y)が属する同一結果データ集合Yr⊂Yを検索する(ステップS11〜ステップS12)。
【0073】
観測データ認識部21の上記機能をO()として写像表現すると、次のように表される。
【0074】
Yr=O(yo) (11)
例えば、図5に示すような因果システムモデルを参照して説明する。観測によって(観測データとして)、結果データy1が得られたとする。そして、図3に示したような分類基準によって、結果データy1が属する同一結果データ集合Y2が出力されることを次式で表現することができる。
【0075】
Y2=O(y1) (12)
逆サブシステム検索部22は、観測データ認識部21で求めた同一結果データ集合Yrに対応する同一結果原因データ集合を検索する(ステップS13)。
【0076】
因果システムモデル記憶部24には、対象システムのサブシステムの対応関係を表したデータが保持されている。すなわち、(7)式に示したような、部分集合XとYがそれぞれ対応づけられて記憶されているものとする。
【0077】
このとき、(11)式のように、観測データが属する同一結果データ集合が得られたとすると、それに対応する同一結果原因データ集合X2が検索される。すなわち、これは、次式で表現することができる。
【0078】
X2=f2(Y2) (13)
対応同一結果データ集合検索部23は、同一結果原因データ集合Xrが上記果因データを介して対応する同一結果データ集合を検索する(ステップS14〜ステップS15)。
【0079】
例えば、図5において、上記例の場合、果因データ{(y1,x1),(y4,x6)}の対応にしたがって、(10)式のように、同一結果原因データ集合X2には、同一結果データ集合Y1、Ykの2つが対応づけられている。
【0080】
図8では、この2つの同一結果データ集合Y1、YkがYlに対応する。
【0081】
図7に示すように、逆サブシステム検索部22と対応同一結果データ集合検索部23は、フィードバック構成となっている。すなわち、このような構成により、本発明の原因推定装置は、同一結果原因データ集合Xrに対応付けられた同一結果データ集合Ylについて(Ylが複数存在するときは、そのそれそれについて)、新たに、逆サブシステム検索部22で同一結果原因データ集合を検索する(ステップS16、ステップS13〜ステップS14)、という処理が繰り返されるようになっている。
【0082】
ステップS15で、逆サブシステム検索部22で検索された、同一結果原因データ集合Xrのそれぞれに、写像gで対応付けられた同一結果データ集合がないときは、ステップS17へ進み、観測データy0について、逆サブシステム検索部22で検索された全ての同一結果データ集合{Y1、Y2、…}と、対応同一結果データ集合検索部23で検索された上記同一結果データ検索集合{Y1、Y2、…}のそれぞれに対応付けられている同一結果原因データ集合{X1、X2、…}を出力する。なお、同一結果原因データ集合{X1、X2、…}のみを出力するようにしてもよい。
【0083】
図7の原因推定装置を入出力データの観点から説明すると、入力データとして、観測データy0が入力されると、当該観測データに対応して検索される同一結果データ集合と同一結果原因データ集合とを、推定結果として出力することができ、観測データがどのような状況にあるかを示すようになっている。すなわち、
【0084】
【数9】
【0085】
なお、(14)式〜(17)式では、fについては、サフィックスをつけないで記述したが、実際は引数に応じて対応するサフィックスを持つfを選択するものとする。
【0086】
なお、各同一結果データ集合、各同一結果原因データ集合には、それぞれラベル名が与えられていて、このラベル名を出力するようにしてもよい。
【0087】
以上の説明では、観測データy0が1つの場合、すなわち、1つの観測事象(現象)の場合について説明したが、観測データはかならずしも1つとは限らない。たとえば、観測対象のシステムから2つの現象が同時に成り立つということを前提にしたい場合は、図7に示した原因推定装置は、次のように処理する。
【0088】
【数10】
【0089】
2つの現象が同時に成り立つという前提に従った場合、2つの観測データのうちの一方の観測データついての推定結果(逆サブシステム検索部22で検索された全ての同一結果データ集合と、対応同一結果データ集合検索部23で検索された、この同一結果データ検索集合のそれぞれに対応付けられている同一結果原因データ集合)と、他方の観測データについての推定結果との論理積が出力される。
【0090】
また、2つの現象のうちのいづれか一方が成り立つという前提に従った場合、2つの観測データのうちの一方の観測データついての推定結果(逆サブシステム検索部22で検索された全ての同一結果データ集合と、対応同一結果データ集合検索部23で検索された、この同一結果データ検索集合のそれぞれに対応付けられている同一結果原因データ集合)と、他方の観測データについての推定結果との論理和が出力される。
【0091】
(第3の実施形態)
ここでは、以上説明したような本発明の手法を従来と比較しながら、より具体的に説明する。
【0092】
図9は、従来からある故障診断システムの知識データベースのデータ構造の一部を概略的に示したもので、故障結果を原因に結びつけるための木構造をなしている。すなわち、ある観測対象のシステムから観測された現象(症状)と、その症状が現れた工程・部位、要因、部品とに分類してラベル付けされた集合間で、各集合の要素を結果から原因に遡るように関連付けてなる木構造をなしている。
【0093】
図9に示した故障推定木データでは、隣合う集合間で、その各要素について、主に因果関係にあると考えられるデータ間を矢印「(原因)→(結果)」で結び木構造を構成している。
【0094】
一方、本発明の手法によれば、結果データと原因データとの間の対応付けは、分類された隣合う集合間に限らずに、図10の点線の矢印にて示すような対応付けもなされることになる。
【0095】
例えば、観測データとして、「ガス流量低下」が得られた場合を例にとり、この現象に関連する果因データを対象にした、本発明の適用例について、図11を参照して説明する。尚、図11は、図10から「ガス流量低下」と言う現象の原因を推定するために必要な果因データC1〜C6のみを抜き出したものである。
【0096】
なお、以下、説明の簡単のため、次のように、符号化したデータを用いる。
【0097】
ガス流量低下:y1
電磁弁1:x1
減圧設定不良(低):x2
変動幅増大:x3
減圧弁:x4,y2
減圧設定不良(高):x5
ここで、減圧弁がx4とy2の2つの符号を持つのは、果因データC4の対応関係が示す原因データである場合と、果因データC5、C6の対応関係が示す結果データである場合の2つの場合があるからである。
【0098】
図1に示した本発明の因果システムモデル構築装置によって、図11に示す、xからyへの対応付け(因果データ)を基に、同一結果データ集合Y1、Y2、同一結果原因データ集合X1、X2と、これらの対応関係を写像f1,f2でそれぞれ表したサブシステムが生成される。すなわち、
X1=f1(Y1)但し、Y1={y1},X1={x1,x2,x3,x4}
X2=f2(Y2)但し、Y2={y2},X2={x2,x5}
また、結果データy2が原因データx4である果因データ(y2,x4)より、
Y2=g1(X1)
という対応関係が生成される。
【0099】
上記結果データと原因データとの因果関係を図5にならって模式的に示すと図12のようになる。
【0100】
さて、図1に示した因果システムモデル構築装置により、図12に示したような因果システムモデルが生成されたとき、図7の原因推定装置により図12に示した因果システムモデルを用いて、観測された結果データy1「ガス流量低下」に対応する原因を推定する場合の処理手順を図8を参照しながら説明する。
【0101】
まず、観測データ認識部21により、観測で得られた結果データとしての観測データy1が属する同一結果データ集合Y1を検索する(ステップS11〜ステップS12)。すなわち、O(y1)=Y1 と表すことができる。
【0102】
次に、逆サブシステム検索部22は、観測データ認識部21で求めた同一結果データ集合Y1に対応する同一結果原因データ集合X1を検索する(ステップS13)。すなわち、Y1を引数にもつ関数f1を選択して、f1(Y1)=X1と表すことができる。
【0103】
このとき、同一結果原因データX1を推定結果として出力するために保持する(X={X1})。
【0104】
なお、検索された同一結果原因データX1に写像g1で対応付けられた同一結果データ集合Y2が存在するので(ステップS14)、この同一結果データ集合Y2を得る(ステップS15)。すなわち、g1(X1)=Y2 と表すことができる。
【0105】
上記同様、このY2に対応する同一結果原因データ集合を検索する(ステップS16,ステップS13)。すなわち、f2(Y2)=X2 であるから、この同一結果原因データX2も推定結果Xに付加して保持する(X={X1,X2}。
【0106】
最終的に、推定結果Xとして、(同一結果原因データの要素で表した場合)X={x1,x2,x3,x4,x5}が得られる(ステップS17)。
【0107】
なお、本発明の手法では、ガス流量低下の1つの原因候補であるx4の減圧弁についての細かな条件分岐(すなわち、減圧設定不良(低)と減圧設定不良(高)との区別)を設定することはないが、ここで得られた推定結果Xでは、大雑把に、「症状」に関連する「工程・部位」を知ることができる。
【0108】
さて、次に、原因推定装置に、観測データとして、y1の「ガス流量低下」の他に、「減圧弁」について観測することを明確に指示した場合について。図8を参照して説明する。
【0109】
この場合、あらたな観測データy3として、次式のように定義して推論をおこなうことになる。
【0110】
【数11】
【0111】
まず、観測データ認識部21により、観測で得られた結果データとしての観測データy3が属する同一結果データ集合を検索する(ステップS11〜ステップS12)。この場合、次式に示すように、O(y3)は、観測データy1が属する同一結果データ集合と、観測データy2が属する同一結果データ集合との論理積Y3として求めることができる。
【0112】
【数12】
【0113】
次に、逆サブシステム検索部22は、観測データ認識部21で求めた同一結果データ集合Y3に対応する同一結果原因データ集合を検索する(ステップS13)。すなわち、Y1を引数にもつ関数f1を選択して、f1(Y1)=X1なる同一結果原因データ集合を求めるとともに、Y2を引数にもつ関数f2を選択して、f2(Y2)=X2なる同一結果原因データ集合を求めて、これら同一結果原因データ集合の要素の論理積を求めることで、観測データy3に対応する原因データ{x2}が得られる(ステップS14)。
【0114】
【数13】
【0115】
このように、ガス流量低下について、減圧弁に関連して詳しくみると、それは、減圧設定不良(低)が原因であるということを指摘できる。すなわち、観測データとして観測事象が多くなれば、それだけ、原因データの絞り込みが行えることとなる。なお、上記例では、2つの観測事象を観測データとして用いた場合について説明したが、3つ以上の観測事象を観測データとして用いる場合も上記同様である。
【0116】
以上説明したように、本発明は、最初からすべての条件を考えて木構造などのデータ構造を構成するのではなく、観測条件に対応してそれに関わる原因推定を随時行ってゆくことを前提としている。逆に言えば、結果データと原因データとの対応と、どれを観測データとして注目するかの観測事象の集合を記述さえできれば、結果から原因へのデータ構造をあらかじめ顕にしておかなくてもよいということである。
【0117】
また、観測対象の動作特性にしたがって、同一とみなす注目事象の集合すなわち結果の集合と、原因の集合とを関係づけして記憶することにより、いくつかの現象の組合せで表現される実際の現象(観測事象)の原因を人に理解しやすいような対応関係で推定することができ、人間が故障の状況を容易に把握できる。
【0118】
当初から全体の木構造および検索ルールをさだめずに、その時点で着目したいデータを入力できるのには利点がおおきいと考える。
【0119】
すなわち、最初から推論システムの全体構成を考えなくてよく、図1の因果システムモデル構築装置に、結果データ、原因データの対(因果データ、果因データ)を随時追加しても自動的に因果システムモデルを構築することができる。
【0120】
また、(写像gによる)同一結果データ集合の対応付けがされない同一結果原因データ集合を「チェック終了」として作成し、随時その集合に原因データをいれてゆけば、「チェック終了」集合以外の範囲に限った原因推定が可能である。これにより、人の直感に見合った条件選択による繰り返しの推論も可能となる。
【0121】
さらに、本発明によれば、データ間の部分的な因果関係に着目して検索できるので、最近では一般的になったソフトウェア環境におけるハイパーテキスト技術などを利用すれば、さまざまな部分的関係を簡単に提示できる。
【0122】
なお、本発明の実施の形態に記載した本発明の手法は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フロッピーディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することもできる。
【0123】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明は含まれており、開示される複数の構成用件における適宜な組み合わせにより、種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題(の少なくとも1つ)が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果(のなくとも1つ)が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0124】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、故障診断のための人の理解し易いデータ構造のデータベースの構築が容易に行え、信頼性のある明確な診断結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の因果システムモデル構築装置の構成例を示した図。
【図2】因果データについて説明するための図。
【図3】同一とみなす結果データを判別、分類するための分類基準の一例を示した図。
【図4】同一結果データ集合と同一結果原因データ集合との対応付けについて説明するための図。
【図5】観測対象の因果システムモデルのデータ構造の一例を模式的に示した図。
【図6】図1の因果システムモデル構築装置の因果システムモデル構築処理動作を説明するためのフローチャート。
【図7】本発明の原因推定装置の構成例を示した図。
【図8】図7の原因推定装置の原因推定処理動作を説明するためのフローチャート。
【図9】従来からある故障診断システムの知識データベースのデータ構造の一部を概略的に示した図。
【図10】本発明の手法による結果データと原因データとの間の対応付けについて説明するための図。
【図11】本発明の原因推定処理を説明するための図で、図10から「ガス流量低下」と言う現象の原因を推定するために必要な果因データC1〜C6のみを抜き出して示した図。
【図12】図11に対応する因果システムモデルを示した図。
【符号の説明】
11…因果データ生成記憶部
12…果因データ生成記憶部
13…同一結果データ集合生成部
14…部分因果システムモデル構成部
21…観測データ認識部
22…逆サブシステム検索部
23…対応同一結果データ集合検索部
24…因果システムモデル記憶部
Claims (4)
- 予め定められ記憶されている基準を基に同一とみなされる注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素する原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより生成された因果関係モデルを記憶する記憶手段と、
入力された注目事象に対し、当該注目事象に関連する結果の集合と原因の集合を前記因果関係モデルから検索する検索手段と、
を備えた原因推定装置における原因推定方法であって、
前記検索手段が、前記因果関係モデルから前記入力された注目事象を要素とする前記結果の集合を検索する第1のステップと、
前記検索手段が、検索された各結果の事象の集合について、当該結果の事象の集合に対応付けられている原因の事象の集合を、前記因果関係モデルから検索する第2のステップと、
を含み、
前記検索手段で検索された結果の事象の集合及び原因の事象の集合を出力する原因推定方法。 - 予め定められ記憶されている基準を基に同一とみなされる注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素する原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより生成された因果関係モデルを記憶する記憶手段と、
入力された注目事象を要素とする結果の集合を前記因果関係モデルから検索する第1の検索手段と、
検索された各結果の集合について、当該結果の集合に対応付けられている原因の集合を、前記因果関係モデルから検索する第2の検索手段と、
前記第1及び第2の検索手段で検索された結果の集合及び原因の集合を出力する手段と、
を具備した原因推定装置。 - 予め定められ記憶されている基準を基に同一とみなされる注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素する原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより生成された因果関係モデルを記憶する記憶手段を備えたコンピュータに、
入力された注目事象を要素とする結果の集合を前記因果関係モデルから検索する第1のステップと、
検索された各結果の集合について、当該結果の集合に対応付けられている原因の集合を、前記因果関係モデルから検索する第2のステップと、
前記第1及び第2のステップで検索された結果の集合及び原因の集合を出力する第3のステップと、
を実行させるための原因推定プログラム。 - 予め定められ記憶されている基準を基に同一とみなされる注目事象を要素とする結果の集合と、この結果の集合の各要素の原因事象を要素する原因の集合とを生成して、前記結果の集合と前記原因の集合とを対応付けることにより生成された因果関係モデルを記憶する記憶手段を備えたコンピュータに、
入力された注目事象を要素とする結果の集合を前記因果関係モデルから検索する第1のステップと、
検索された各結果の集合について、当該結果の集合に対応付けられている原因の集合を、前記因果関係モデルから検索する第2のステップと、
前記第1及び第2のステップで検索された結果の集合及び原因の集合を出力する第3のステップと、
を実行させるための原因推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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