JP3805143B2 - トレンド補正方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、形状測定機や三次元測定機等で得られた被測定物の表面性状データのような測定データを解析する際に、測定データの傾斜や大きなうねりなどを除去するためのトレンド補正方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
形状測定装置等で被測定物の形状、うねり、粗さ等(以下、これらをまとめて「表面性状」と呼ぶ)等を解析する場合、通常は、解析に先立ってフィルタ処理等の前処理を施すことが多い。しかし、データに低周波成分、特にデータの測定長よりも長い周波数成分(トレンド)が乗っている場合には、フィルタではこの成分を除去することはできない。測定データ中からトレンドが除かれていない状態で相関やスペクトル等の解析を行った場合には、その結果に歪みが生じることになる。特に、低周波のスペクトル成分にはその推定量に大きな誤差が生じる。そこで、測定データからこのような特殊な成分を除去するためのトレンド補正が、解析の前段階処理として極めて重要となる。
【0003】
図7は、従来のトレンド補正を説明するための図である。トレンド補正は、直線、円、楕円、平面、球面といった特定の幾何形状を想定し、図7(a)のような対象となる測定データに対して、同図(b)のように、幾何形状の当てはめを行う。そして、この結果得られた最適な幾何形状(この例では直線L)に対して、同図(c)のように測定データとの差をとることにより補正処理を行う。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、表面性状データ等の測定データの解析精度を高めるには、その前処理でトレンド成分を十分に除去する必要がある。このため、より理想的には、自由曲線・自由曲面の当てはめを行えばよいが、この場合、計算量が膨大であり、あまり現実的ではない。しかし、例えば図8に示すような予め想定された幾何形状のいずれにも沿わないような測定データが得られた場合、この測定データ曲線に直線L1や円弧C1といった単純な幾何形状を当てはめてもトレンド成分は十分に除去されない。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、処理量の増大を招くことなく、測定データ曲線から効果的にトレンド成分を除去することができるトレンド補正方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る表面性状測定方法は、1つの変位軸と少なくとも1つの走査軸とからなる多次元座標系に理想的変位形状に沿って分布する測定データを解析するのに先立って、前記測定データに特定の幾何形状を当てはめたのち、前記測定データから前記当てはめた幾何形状の成分を除去することにより前記測定データをトレンド補正するトレンド補正方法において、前記多次元座標系を走査軸方向に複数のセグメントに分割し、前記多次元座標系の変位軸方向と1つの走査軸方向に延びる平面上からみて前記セグメント内で伸びる直線をつなげた、前記測定データとの誤差を最小にする1又は平行な複数の折線からなる幾何形状を前記トレンド補正のために当てはめる幾何形状とし、前記折線は、各セグメントの境界における変位軸方向の変位の集合によって表され、前記測定データとの間の誤差を最小にするように、前記変位軸方向の変位を未知数とする線形連立方程式を解くことにより求められることを特徴とする。
【0007】
前記測定データが、例えば二次元の測定データである場合には、前記幾何形状として1つの折線を当てはめることができる。また、前記測定データが、例えば三次元の測定データである場合には、前記幾何形状として前記変位軸方向からみて格子状となる複数の矩形平面からなる多面体を当てはめることができる。
また、本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、1つの変位軸と少なくとも1つの走査軸とからなる多次元座標系に理想的変位形状に沿って分布する測定データを解析するのに先立って、前記測定データに特定の幾何形状を当てはめたのち、前記測定データから前記当てはめた幾何形状の成分を除去することにより前記測定データをトレンド補正する機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体において、前記多次元座標系を走査軸方向に複数のセグメントに分割し、前記多次元座標系の変位軸方向と1つの走査軸方向に延びる平面上からみて前記セグメント内で伸びる直線をつなげた、前記測定データとの誤差を最小にする1又は平行な複数の折線からなる幾何形状を前記トレンド補正のために当てはめる幾何形状とし、前記折線は、各セグメントの境界における変位軸方向の変位の集合によって表され、前記測定データとの間の誤差を最小にするように、前記変位軸方向の変位を未知数とする線形連立方程式を解くことにより求められる機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムを記録している。
【0008】
本発明によれば、前記多次元座標系で測定データとの誤差を最小にする各走査軸に沿った折線の各節の変位を求めるようにしている。この折線の各節の変位は、各軸方向の節の数を未知数とする線形連立方程式を解くことにより簡単に求めることができる。しかも、求められた幾何形状は、各節や境界線で囲まれたエリアの接続部分が連続しているためにその部分で大きな誤差が発生しない。
【0009】
本発明によれば、トレンド補正のために用いる幾何形状が折線や多面体であるから、高次曲線を当てはめる場合に比べ、当てはめる幾何形状が遥かに簡易に求められ、当てはめのための計算が単純化されることになる。しかも、この発明によれば、当てはめる幾何形状が折線や多面体であって、単純な直線や平面とは異なるので、当てはめ精度も向上し、これによるトレンド除去性能の向上により、その後の解析処理の精度も向上する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面を参照してこの発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、この発明の一実施例に係る表面性状測定装置システムの構成を示す図である。
このシステムは、形状測定機1と、この形状測定機1で得られた測定データを解析して被測定物であるワーク2の形状を同定する形状解析装置としてのコンピュータ3及びプリンタ4とで構成されている。
形状測定機1は、この例では、輪郭測定装置を用いているが、三次元測定機や非接触画像測定機等、他の表面性状測定機を用いても良い。形状測定機1は、ワーク2を載置するためのテーブル11を有する。このテーブル11には、垂直方向に延びるコラム12が固定されており、このコラム12にスライダ13が上下動可能に装着されている。スライダ13には、スタイラスアーム14が装着されている。スタイラスアーム14は、水平(x)方向に駆動され、その先端に設けられたスタイラス15によってワーク2の表面をy方向にトレースすることにより、x軸方向の各位置におけるワーク2の表面の高さyが測定データとして求められるようになっている。
【0011】
測定データは、コンピュータ3に取り込まれ、形状解析に供せられる。コンピュータ3は、所定の表面性状解析プログラムによって図2に示すような処理を実行する。この処理結果は、ディスプレイ装置に表示出力されたり、プリンタ4にプリントアウトされる。
【0012】
次に、図2に示す処理に基づいてこの実施例のシステムの解析処理について二次元測定データを一例として説明する。
まず、形状測定機1を起動して測定データをサンプリングする(S1)。ここで、図3(a)に示すような測定データがサンプリングされたら、この測定データを同図(b)に示すように、水平(x)方向に一定の間隔dxで節を持ち測定データとの誤差を最小にする折線を当てはめる(S2)。折線が当てはめられたら、次にトレンド補正処理を実行し、測定データから折線の値を減算する(S3)。これにより、トレンド成分が除去されるので、以後、必要に応じてフィルタリング処理を施したのち、スペクトル分析、相関分析などの必要なデータの解析を行う(S4)。
【0013】
次に、折線の当てはめ処理について更に詳しく説明する。
図4は、測定データに当てはめる折線を示す図である。図において、x軸は走査軸、y軸は変位軸であり、x軸は幅dxでN-2個のセグメントS0,S1,…,SN-2に分割され、折線は各セグメント毎の直線をつなげたものである。折線の各節のy軸方向の高さは、h0,h1,…,hN-1で表されている。x軸方向の第j番目のセグメントSjの直線の方程式は、下記数1のように表せる。
【0014】
【数1】
y=aj(x−j・dx)+bj
ここで、
aj=(hj+1−hj)/dx
bj=hj
【0015】
いま、セグメントSjの中の第i番目の測定データが(xij,yij)であるとすると、測定データと折線との誤差εは、次のように求められる。
【0016】
【数2】
Figure 0003805143
【0017】
従って、この誤差εを最小とするように折線f(h0,h1,…,hN-1)を決定すれば、最適なトレンド補正のための幾何形状が求められる。これは、h0,h1,…,hN-1を未知数とする線形連立方程式を解くことにより求められる。線形の方程式であるから、高速に解くことができる。しかも、各セグメントSjの接続部分は連続しているので、トレンド除去した測定データにセグメント周期のノイズが乗ることもない。
【0018】
以上の実施例では、二次元測定データに対して折線を当てはめたが、測定データが三次元測定機により得られた自由曲面である場合には、図5に示すような多面体を当てはめることによりトレンド補正することができる。即ち、図5において、三次元座標系のx軸及びy軸はそれぞれ走査軸、z軸は変位軸である。この実施例では、三次元座標系をz軸からみてx軸方向にdx、y軸方向にdyの間隔で(N-1)×(M-1)の格子に分割する。そして、この格子点同士を結ぶ境界線を有する、測定データに最も適合する多面体を求める。
【0019】
いま、各格子点のz軸方向の高さをhj,k(j=0〜N-1,k=0〜M-1)とし、各格子点で囲まれたセグメントSi,jが平面であるという条件を満たすためには、この多面体の稜線は、x−z平面からみてもy−z平面からみても、平行な折線からなる。図6には、一例としてx−z平面から見た様子を示している。この図からも明らかなように、x方向にj番目、y方向にk番目の格子点の高さhj,kは、次のように表される。
【0020】
【数3】
Figure 0003805143
【0021】
また、各セグメントSj,kの平面の方程式は、次のようになる。
【0022】
【数4】
z=aj,k(x−j・dx)+bj,k(y−k・dy)+cj,kここで、aj,k=(hj+1,0−hj,0)/dxbj,k=(h0,k+1−h0,k)/dycj,k=hj,k=hj,0+h0,k−h0,0
【0023】
セグメントSj,kにおけるi番目の測定値を(xijk,yijk,zijk)とすると、測定データと多面体との誤差εは、次のように求められる。
【0024】
【数5】
Figure 0003805143
【0025】
この式は、数5から明らかなように、h0,0,hj,0(j=0〜N-1),h0,k(k=0〜M-1)の関数である。従って、この誤差εを最小とするように多面体g(h0,0,hj,0,h0,k)(但し、j=0〜N-1,k=0〜M-1)を決定すれば、最適なトレンド補正のための多面体が求められる。これは、h0,0,hj,0,h0,kを未知数とする線形連立方程式を解くことにより簡単に求められる。しかも、各セグメントSj,kの境界部分は連続しているので、トレンド除去した測定データにセグメント周期のノイズが乗ることもない。
【0026】
なお、上述した折線又は多面体の各走査軸方向の節又は境界線の間隔dx,dyは、特に一定間隔である必要はない。一定間隔にしない場合には、上述した数1,2,4,5において、dx→dxjとし、dy→dykとすれば良い。この場合、測定データのトレンドに応じてそれぞれ最も適切な間隔を設定するようにすればよい。
【0027】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、トレンド補正のために用いる幾何形状が折線や多面体であるから、高次曲線を当てはめる場合に比べ、遥かに簡易な幾何形状で近似することができ、当てはめのための計算が単純化されることになるうえ、当てはめ精度も向上し、これによるトレンド除去性能の向上により、その後の解析処理の精度も向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係る表面性状測定システムの構成図である。
【図2】 同システムの解析処理のフローチャートである。
【図3】 同解析処理のトレンド補正を説明するための図である。
【図4】 同トレンド補正処理における折線の当てはめ処理を説明するための図である。
【図5】 本発明の他の実施例に係る解析処理のトレンド補正を説明するための図である。
【図6】 同トレンド補正処理の詳細を説明するための図である。
【図7】 従来のトレンド補正を説明するための図である。
【図8】 従来のトレンド補正の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
1…形状測定機、2…ワーク、3…コンピュータ、4…プリンタ、11…テーブル、12…コラム、13…スライダ、14…スタイラスアーム、15…スタイラス。

Claims (4)

  1. 1つの変位軸と少なくとも1つの走査軸とからなる多次元座標系に理想的変位形状に沿って分布する測定データを解析するのに先立って、前記測定データに特定の幾何形状を当てはめたのち、前記測定データから前記当てはめた幾何形状の成分を除去することにより前記測定データをトレンド補正するトレンド補正方法において、
    前記多次元座標系を走査軸方向に複数のセグメントに分割し、前記多次元座標系の変位軸方向と1つの走査軸方向に延びる平面上からみて前記セグメント内で伸びる直線をつなげた、前記測定データとの誤差を最小にする1又は平行な複数の折線からなる幾何形状を前記トレンド補正のために当てはめる幾何形状とし、
    前記折線は、各セグメントの境界における変位軸方向の変位の集合によって表され、前記測定データとの間の誤差を最小にするように、前記変位軸方向の変位を未知数とする線形連立方程式を解くことにより求められる
    ことを特徴とする表面性状測定装置のトレンド補正方法。
  2. 前記測定データが二次元の測定データである場合、前記幾何形状として1つの折線を当てはめることを特徴とする請求項1記載のトレンド補正方法。
  3. 前記測定データが三次元の測定データである場合、前記幾何形状として前記変位軸方向からみて格子状となる複数の矩形平面からなる多面体を当てはめることを特徴とする請求項1記載のトレンド補正方法。
  4. 1つの変位軸と少なくとも1つの走査軸とからなる多次元座標系に理想的変位形状に沿って分布する測定データを解析するのに先立って、前記測定データに特定の幾何形状を当てはめたのち、前記測定データから前記当てはめた幾何形状の成分を除去することにより前記測定データをトレンド補正する機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体において、
    前記多次元座標系を走査軸方向に複数のセグメントに分割し、前記多次元座標系の変位軸方向と1つの走査軸方向に延びる平面上からみて前記セグメント内で伸びる直線をつなげた、前記測定データとの誤差を最小にする1又は平行な複数の折線からなる幾何形状を前記トレンド補正のために当てはめる幾何形状とし、
    前記折線は、各セグメントの境界における変位軸方向の変位の集合によって表され、前記測定データとの間の誤差を最小にするように、前記変位軸方向の変位を未知数とする線形連立方程式を解くことにより求められる機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。
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