JP3756366B2 - 内燃機関の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に電磁式吸気弁を備えた内燃機関の吸気弁および燃料噴射弁の制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開平10−39140 号公報には、吸入空気量を先に決定し、燃料供給量をこれに追従させて空燃比を制御する空気量先行,燃料供給量追従制御方式を採用し、電子制御スロットル弁装置に本質的に内在するスロットル弁開度の目標値に対する実際の制御値の遅れ、或いはスロットル弁開度の目標値に対して積極的に設定した制御の遅れを利用し、この遅れに対して燃料供給時期を対応させることにより、常に正確な空燃比を得ることができる内燃機関の制御装置が記載されている。
【0003】
特公平7−33781号公報には、アクセルペダルの操作位置に応じて燃料供給量と絞り弁の開度を制御するようにした燃料供給量先行制御方式のエンジン制御装置において、吸気管内に噴射された燃料が実際にシリンダ内に吸入されるまでの時間をアクセルペダルの操作位置とエンジンの回転速度に応じて所定の遅れ時間として演算する手段を設け、上記絞り弁の開度制御に上記所定の遅れ時間が設定されるように構成したことを特徴とするエンジン制御装置が記載されている。
【0004】
また、特開平9−280092 号公報には、火花点火式内燃機関の燃焼室に吸入空気を導くための吸気通路を開閉する吸気弁と、前記吸気弁の作動タイミングを調整するための可変バルブタイミング機構と、開弁時間に応じた量の燃料を前記燃焼室へ直接噴射する燃料噴射弁と、前記内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記吸気弁が前記運転状態検出手段による運転状態に応じた目標作動タイミングで吸気通路を開閉するように、前記可変バルブタイミング機構を制御する第1の制御手段と、ピストンの移動にともなう負圧により吸入空気が燃焼室へ吸入される吸気行程において、前記燃料噴射弁が前記運転状態検出手段による運転状態に応じた目標噴射時期に開弁した燃料を噴射するように、同燃料噴射弁を制御する第2の制御手段と、前記第2の制御手段での目標噴射終了時期が、前記第1の制御手段での吸気弁による吸気通路の閉鎖時期に対応する所定時期よりも遅いときには、前記目標噴射時期を補正することにより、前記目標噴射終了時期を前記所定時期よりも早める噴射時期補正手段とを備えた内燃機関の制御装置が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
内燃機関運転状態に応じて吸気弁の作動タイミングを変化させることにより性能向上を狙った可変バルブタィミング機構を備えた内燃機関に適用した場合、吸気通路の閉鎖時期が変化するため、吸気通路の閉鎖後にも燃料が噴射され、その結果、排気エミッションや出力が悪化するおそれがある。
【0006】
その対策として、高回転・高負荷域でも噴射期間が十分短くなるように燃料噴射弁の噴射率(単位時間当たりの噴射流量)を大きくすることが考えられる。このようにすれば、吸気弁による吸気通路の閉鎖時よりも前に燃料噴射を終了させることが可能である。しかし、この方法では必要燃料量が少ないときに、その量の燃料を精度より噴射することが難しい。
【0007】
本発明は前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は内燃機関の運転状態に応じて変化する電磁式吸気弁の作動タイミング、特にその吸気弁による吸気通路の閉鎖時に応じて燃料の噴射開始時期を制御することにより、混合気を良好に形成することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電磁式吸気弁制御装置を用い、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から目標吸気バルブ閉時期を求め、一方、目標空気量から目標燃料量を求め、目標燃料量から燃料噴射時間を求め、それと燃料噴射から吸気弁までの到達時間を求め、その合計時間が吸気弁閉前となるよう燃料噴射開始時期を求め、吸気弁と燃料噴射弁を駆動することを特徴とする。
【0009】
上記計算結果を同一の角度起動タイミングでセットする。これによって直近の角度タイミング(最速の応答可能タイミング)で、所定の気筒の吸気弁操作,燃料噴射操作を整合して行えることを特徴とする。
【0010】
また、筒内噴射エンジンの場合、吸気行程または圧縮行程の正規噴射量に加算することを特徴とする。筒内噴射では吸気行程噴射で間に合うからである。
【0011】
本発明は、具体的には次に掲げる装置を提供する。
【0012】
本発明は、電磁式吸気弁の制御によって吸気弁開閉時期の制御を行う内燃機関の制御装置において、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から電磁式吸気弁の閉弁時期を演算する電磁式吸気弁の閉弁時期演算手段と、かつ目標空気量から目標燃料量を求めて燃料噴射時間を設定し、燃料噴射から電磁式吸気弁までの燃料到達時間を求めて燃料噴射時間と燃料到達時間との合計を演算し、合計された時間が電磁式吸気弁の閉弁時期前になるように燃料噴射開始時期を設定する演算手段とからなり、以って、電磁式吸気弁と燃料噴射弁とを制御する内燃機関の制御装置を提供する。
【0013】
本発明は、更に前記演算した結果を同一の角度起動タイミングに基づいて設定し、所定の気筒の電磁式吸気弁操作および燃料噴射操作を整合した内燃機関の制御装置を提供する。
【0014】
本発明は、更に燃料噴射開始時期のタイミングは、角度起動タイミングとした内燃機関の制御装置を提供する。
【0015】
本発明は、更に目標燃料量が、燃料噴射弁の供給可能な燃料量より小さいときは、該目標燃料量を供給可能最小燃料量とし、目標空気量を目標空燃比と供給可能最小燃料に基づく空気量とする内燃機関の制御装置を提供する。
【0016】
本発明は、更に燃料噴射量演算に用いる1吸気当り吸入空気量認識値は、吸気管を流れる実際測定値に実際測定値の応答遅れ推定値を合計して求め、応答遅れ推定値は、目標空気量増分から求める内燃機関の制御装置を提供する。
【0017】
本発明は、更に目標出力に基づいて電磁式吸気弁の閉弁時期が演算されたときに、その時点ですでに供給した燃料量に対応した吸入空気量が今回演算された吸気弁の閉弁時期に対応する吸入空気量より大きいことを条件としてその気筒には該演算された閉弁時期をキャンセルする内燃機関の制御装置を提供する。
【0018】
本発明は、電磁式吸気弁の制御によって吸気弁開閉時期の制御を行う内燃機関の制御装置において、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から電磁式吸気弁の閉弁時期を演算する電磁式吸気弁の閉弁時期演算手段と、かつ目標空気量から目標燃料量を求めて、第1の燃料噴射時間を設定し、吸気行程の正規噴射量から求まる第2の燃料噴射時間を求め、第1の燃料噴射時間と第2の燃料噴射時間との合計を演算し、合計された時間が電磁式吸気弁の閉弁時期前になるように燃料噴射開始時期を設定する演算手段とからなり、以って、電磁式吸気弁と燃料噴射弁とを制御する内燃機関、例えば筒内噴射式の内燃機関の制御装置を提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる実施例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の適用される内燃機関の一例を示す。図1において内燃機関1に吸入される空気は、エアクリーナ5の入口部6から取り入れられ、吸入空気量Qaを計測する手段であるエアフローメータ7を通り、コレクタ8に入る。該コレクタ8に吸入された空気は、内燃機関1の各シリンダ9内に接続された各吸気管10に分配され、前記シリンダ9の燃焼室内に導かれる。
【0021】
一方、ガソリンなどの燃料は、燃料タンク11から燃料ポンプ12により吸引力圧され、燃料噴射弁(インジェクタ)13が配管されている燃料系に供給される。加圧された燃料は、燃圧レギュレータ14により一定の圧力(例えば3kg/cm2 )に調圧され、それぞれのシリンダ9に設けられている燃料噴射弁13から吸気管10の中に噴射される。噴射された燃料は、点火コイル15で高電圧化された点火信号により点火プラグ16で着火される。
【0022】
前記コントロールユニット17には、前記エアフローメータ7からの吸気流量を示す信号と、クランク角センサ18からのクランク軸19の角度信号POSと、排気管20中の触媒21の前に設けたA/Fセンサ22からの排ガスの検出信号とが入力されるようになっている。
【0023】
エアフローメータ7で検出した吸入空気量信号は、フィルタ処理手段等の処理を施し空気量を換算演算された後、前記吸入空気量をエンジン回転数で割って、空燃比がストイキ(A/F=14.7)となるような係数kを乗じて1シリンダ当たりの基本燃料噴射パルス幅、即ち、基本燃料噴射量が求められる。その後、該基本燃料噴射量をもとにエンジンの運転状態に応じた様々な燃料量補正を施して燃料噴射量を求めた後、燃料噴射弁を駆動し各気筒に燃料を供給する。また、排気管20に備えられたA/Fセンサ22の出力から排気ガスの実際の空燃比を知ることができるので、所望の空燃比を得たいときには該A/Fセンサの信号により供給燃料量を調整する閉ループ制御を行うことで所望の空燃比状態を得ることができるようになっている。
【0024】
ここで、燃料の噴射タイミングと点火タイミングは図2のようになっている。この図は4気筒エンジンの例である。各気筒の行程に同期して噴射することは、各気筒のたとえば燃料気化度合いなどの吸入燃料の性状を、いずれの気筒も各条件とするために好ましいため、図2に示すように、例えば排気行程後半での燃料噴射を行う。点火は、燃焼の火炎伝播速度に見合って圧縮行程後半で行う。したがって、コントロールユニット17は各気筒の行程を認識し、適切な燃料噴射,点火の信号を出力する。そのため、コントロールユニット17はクランク軸回転センサ18の信号を入力し、処理を行う。クランク軸回転センサ18は、例えば図2に示すような信号出力形態をしている。すなわち、クランク軸に予め取り付けられているマークがクランク軸センサ位置に近づいたときHI信号を出力し、それ以外はLO信号を出力する。クランク軸のマークを図2のように各気筒行程別に4気筒の場合4種類設定すれば、それを見分けることによって各気筒の行程を認識できる。すなわち、各気筒の行程毎に異なるHI信号の数を配するのである。
【0025】
電磁式吸気弁は吸気バルブを電磁操作するためカム軸が必要ない。また、各気筒は、4気筒の場合#1、#4と#2、#3のように、180度クランク回転でピストンが上昇する組、下降する組というように分れる。コントロールユニットはこの状態を識別できればよく、同じ位相の組、例えば#1、#4の片方ともう片方の行程を360度クランク角分ずらすようにすればよい。例えばこれらのピストンが上昇してくるときは、片方を圧縮、他方を排気と定めればよい。
【0026】
クランク軸回転センサ18の信号をコントロールユニット17で読み取るために、コントロールユニット17の演算素子のなかに予め組み込み、信号の入力を処理する演算フローの一例を図3に示す。本フローは、クランク軸の信号がLOからHIへ変化したときにクランク軸信号入力ありとし、起動する。まずステップ101で、前回の信号入力から今回の信号入力までの時間を計測する。次にステップ102で前々回と前回の信号入力間の時間と、ステップ101で求めた前回と今回の信号入力の時間を比較する。ここで、図2に示すように一連の各気筒信号パターン、例えば図の最上段気筒が排気行程にあるときの2個の信号集団の2個目の信号入力時であれば、両者の差、または比はほぼ同等となる。
【0027】
一方、新たな一連の気筒信号パターンの初回の信号入力時、例えば図の最上段気筒の排気行程から吸気行程に移ったときの吸気行程の1個の信号集団の1個めの信号入力時であれば、今回計測の時間を有意に長くなる。ステップ102では上記2つのパターンを識別する。一連の各気筒信号パターンであるときは、ステップ107に進み、カウンタKに1を加算する。カウンタKは、本フロー全体の構造により機能するカウンタで、一連の各気筒信号パターンの数を数えるものである。ステップ107へ演算フローが至ったときは、その回のカム信号入力あり処理を終了する。一方、ステップ102で一連の各気筒信号パターンの初回であると判定したときは、ステップ103へ進む。ここで、例では、カム信号にクランク軸角度制御の基準位置を示すという機能も併せ持たせてある。すなわち、各気筒の一連の信号パターンの1個めの信号入力を、クランク軸位相の所定位置、たとえばBTDC110度としておけば、コントロールユニット17はクランク軸位相も併せ認識することができる。ステップ103では、この基準位置を認識するものである。
【0028】
次に、フローはステップ104からステップ106を順に処理していく。ステップ104では、ステップ107で加算したカウンタKの値を読み、各気筒の一連の信号パターンの信号数を認識する。この数によりステップ105で、現在の各気筒の行程と、クランク軸位相を認識することができる。ステップ106では、カウンタKを0とする。カウンタKはステップ105で一連の信号パターンの信号数を記憶しておくという機能を終了しているので、ステップ106では、次の信号パターンの信号数を数える準備のためにその処理を行う。
【0029】
以上説明したように、クランク軸回転センサの信号情報をもとにコントロールユニットは各気筒の位相を認識することができるが、一方それを行うためにはクランク軸が少なくとも1行程分回転する必要がある。
【0030】
図4は、電磁式吸気弁(IV)2と排気弁(EV)3の具体的な構成例を示すもので、閉弁時にオンされる電磁コイル31と、閉弁時にオンされる電磁コイル32と、コイルバネの付勢力を受けると共に、電磁コイル31側または電磁コイル32側に吸引される可動子33とが設けられている。
【0031】
そして、エンジン停止時には、電磁コイル31及び電磁コイル32が共に駆動されないために可動子33は図の1点鎖線で示す中間リフトの状態とされ、弁開時には、電磁コイル32の駆動により最大リフトの状態とされ、弁閉時には、電磁コイル31の駆動により全閉の状態とされるようになっている。
【0032】
かく駆動される電磁式吸気弁の駆動方法の一例を図5に示す。横軸はクランク軸の回転位相で、吸気のTDCから圧縮のTDCまでを示す。上側の縦軸はピストンの速度を表し、下側の縦軸は吸気弁が開、排気弁が閉であるときのシリンダ内空気量を示す。説明を簡単にするため空気慣性によるシリンダ内空気量の変化は無視して記述する。吸気TDCからピストンは下方向に向かって移動するため、ピストンの移動した体積分の空気がシリンダ内に流入する。このため吸入空気量は、図に示すようにピストン速度を積分した分布となる。吸気BDCから圧縮TDCまでの間はピストンは上方向に向かって移動するため、速度は吸気行程とは逆の方向となる。このため吸入空気量は吸気BDCを最大値として減少方向となり、圧縮TDCで0となる。
【0033】
以上の現象から、吸気TDCで吸気弁を開とし、吸入空気量が目標の値となるクランク角度のとき吸気弁を閉とすることで目標の空気量をシリンダ内に供給できる。すなわち、図5の目標空気量の横の矢印に沿って特性曲線と交差したクランク角のタイミングで吸気弁を閉とすると目標の空気量をシリンダ内に供給できる。また、本図の目標出力対応気筒閉タイミングともとの気筒閉タイミングについては後述する。また、図に示す吸気弁閉タイミングの他にも目標空気量をシリンダ内に供給できるタイミングが存在する。すなわち図に示すような、一旦吸気BDCを過ぎた後圧縮行程中に吸気弁閉とするタイミングである。前者を吸気バルブ早閉じ、後者を吸気弁遅閉じと称す。
【0034】
以上の原理に基づき、吸気弁の開閉時期を制御してシリンダの吸入空気量を制御しつつ、燃料供給量を整合させて空燃比を所望の状態に制御する動作の一例を図6,図7に示す。
【0035】
図6は燃料噴射開始操作を吸気弁開操作と同期して行った例を、図7は燃料噴射開始操作を吸気弁開操作より早く行った例を示す。
【0036】
いずれの場合でも図示するような吸気行程の中の所定クランク角度で吸気弁を開とすることで、図5で説明したように所望の空気量をシリンダ内に供給できる。一方燃料は、図1に示すように吸気ポート内即ち吸気弁より上流に燃料噴射する場合は、吸気弁開に伴ってシリンダ内に吸入される空気とともにシリンダ内に吸入されないと燃焼に供されることができない。したがって、各図に示すように、燃料噴射は吸気弁が閉となる前の時間で噴射を終了している。燃料が意図した量シリンダ内に供給されないときのエンジン性能への影響を図8,図9で説明する。まず、シリンダ内に供給する空気と燃料の重量比を空燃比と呼び、図8,図9の横軸としている。図8では空燃比と点火時期の次元での、燃焼が安定する領域を示している。空燃比がリッチな条件では、混合気のなかの燃料濃度が濃厚なので、燃焼しやすく、リーンな条件では希薄なので、燃焼の伝播が遅くなることにより燃焼しにくくなる。燃焼の速度に応じて燃焼しやすい点火時期も変わるため、図中の実線で表されるような境界で燃焼安定領域と、燃焼不安定領域が現れる。したがって、意図した燃料量が全てシリンダ内に供給されない場合には燃焼の悪化が生じ得る。
【0037】
図9は、空燃比に対する、触媒の浄化率を示している。排気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)は空燃比がリーンなときに高効率で浄化され、窒素酸化物(NOx)は空燃比がリッチなときに高効率で浄化される。したがって、空燃比が所望の状態からずれることにより、触媒の浄化率が低下することが有り得る。
【0038】
図10は、燃料噴射量に対する噴射パルス幅を示す。供給可能最小燃料量に対する燃料供給可能最小噴射パルス幅(Ts)が定まる。
【0039】
図11は、吸気,圧縮,爆発,排気行程に対する吸気弁,排気弁の操作を示し、燃料噴射の時期をMPI(Multi Point Injection)とDIG(筒内噴射)について示す。
【0040】
吸気弁閉タイミング変化による空気量変化ゲインを一定値として考えることは図12に示す、吸入空気量の要求がA,B,Cであるような領域では成立する。ところが、要求空気量D,E,Fのような領域に適用しようとすると不都合が生じる。ここで、各気筒平均の要求空気量をA、リッチ設定気筒の要求空気量をC、リーン設定気筒の要求空気量をBとすると、それぞれの要求閉弁タイミングは図の細線で示す関係からa,c,bとなる。太線で示す空気量と開弁タイミングの関係はA,B,Cの間でほぼ一定の傾きを有しているため、(B−A),(A−C)が等しいとき(b−a),(a−c)も等しい。すなわち吸気弁閉タイミング変化による空気量変化ゲインを一定値として考えてよい。
【0041】
ところが、同様の関係は図12から分るように要求空気量D,E,Fの間では成立しない。これは吸気弁閉タイミング変化による空気量変化ゲインが該領域内で変化しているからである。
【0042】
エアフローメータ7で検出した吸入空気量信号は、図13に示すようにフィルタ処理手段等の処理を施し空気量41に換算演算された後、前記吸入空気量をエンジン回転数で割って、空燃比がストイキ(A/F=14.7)となるような係数kを乗じて1シリンダ当たりの基本燃料噴射パルス幅、即ち、基本燃料量演算
42が求められる。その後、該基本燃料噴射量をもとにエンジンの運転状態に応じた様々な燃料量補正を施して燃料量演算43を求めた後燃料噴射弁を駆動し各気筒に燃料を供給する。また、排気管20に備えられたA/Fセンサ22の出力から排気ガスの実際の空燃比を知ることができるので、所望の空燃比を得たいときには該A/Fセンサの信号により供給燃料量を調整する閉ループ制御を行うことで所望の空燃比状態をえることができるようになっている。
【0043】
一方、吸入空気量を制御するのは電磁吸気弁2と電子制御式スロットル弁
(ETC)4であるが、これらの駆動指令値は、図13に示すように、運転者が操作するアクセル踏量から要求される目標の空気量47を演算し、該目標空気量から目標のETC開度48を演算し、該目標ETC開度と該目標空気量から、その環境での目標空気量を達成するための電磁式吸排気弁の開閉タイミング49を演算する。このように演算されたETC,電磁式吸気弁の目標値に従ってETC,電磁式吸気弁を駆動することにより目標の空気量を得ることができ、吸入空気量に見合った量の燃料を供給する。
【0044】
電磁式吸気弁でシリンダに供給する空気量を制御した場合は、ETCで吸入空気量を制御した場合に比べ、コレクタなどのスロットル弁から吸気弁までの応答遅れがない分早く空気をシリンダに供給できる。また、図14の補機負荷信号は、エンストや回転低下を防止するために速い応答を要求する。したがって、補機負荷などによる目標空気量の要求には電磁式吸気弁の操作により空気を供給するのが適している。
【0045】
ところが、前述したように空気を供給するとともに、目標の空燃比に見合った燃料をも供給することが必要であるため、例えば図6,図7に示すような、空気と燃料の量が整合してシリンダに供給されるように電磁式吸気弁,燃料噴射を制御することが必要である。
【0046】
図14は、目標開弁タイミングおよび目標閉弁タイミングを算出し、吸気弁駆動するためのフローチャートを示す。図15は、アクセル開度に対する要求空気量を示す。本図は、アクセルとスロットル弁がワイヤなどで機械的に結合されている機構の一例であり、運転者がこのような機構を採用するエンジンと、本実施例で使用されるエンジンとの間で、運転に違和感を感じないようにするために同様の特性を設定することになる。
【0047】
図14において、補機負荷信号51には、エアコンのコンプレッサを駆動する負荷,パワーステアリングの油圧ポンプを駆動する負荷,オルタネータが発電するための負荷などの要求に迅速に応えないとエンジン回転の低下やエンストを招くことになるので速い応答が要求される。この信号に基づいてアイドル維持分空気量算出52する。また、アクセル開度53から図15に示すような関係においてアクセル要求空気量算出54を行う。アイドル維持分空気量とアクセル分要求空気量を合計して目標空気量算出55を行う。次に、目標空気量に基づいて、目標TEC開度,目標電磁式吸気弁空気量演算56を行い、その信号はETC駆動のために使用し、かつ目標開弁タイミング算出57を図12の関係から求めるために使用する。一方、TDC位置を基本とし、エンジンの充填効率が良好なタイミングを適宜選定できるようにして目標開弁タイミング算出58を行う。
【0048】
求められた目標閉弁タイミングおよび目標開弁タイミングから電磁式の吸気弁駆動59を行う。
【0049】
この場合、燃料量43から燃料噴射時間演算44を演算して記憶しておく。一方、燃料噴射から燃料が電磁式吸気弁に到達するまでの移送遅れ(燃料移送時間)45を演算して記憶する。両時間を合計演算し、合計された時間が電磁式吸気弁の閉弁時期前になるように燃料噴射開始時期46を設定演算し、この燃料噴射開始時期で燃料噴射弁に燃料を噴射する。このようにして、電磁式吸気弁と燃料噴射弁を制御する。
【0050】
図16は、一般的にエンジンコントロールユニットで用いられている演算処理の一例を示したものである。ここでは、所定の定時間隔で繰り返し実行する演算と、クランク軸の角度基準位置が発生する度に繰り返し実行する演算が実行される様子を時系列で表したものである。本例では、定時間隔の演算実行タイミングを10mS毎に実行し、角度基準位置での演算は図3のステップ103以下で実行するものを示している。
【0051】
ここで、10mSの定時間隔で演算する内容は、吸気弁の閉時期,噴射パルス幅,噴射開始時期などを含んでいる。これは、エンジンの運転状態を、種々のセンサ類により種々のタイミングで検出した結果を、出力アクチュエータ類の駆動に十分な応答性で反映するために、十分に短い間隔で繰り返し計算させるものである。
【0052】
一方、角度基準位置での演算は、クランク角度にまつわるタイミング制御、すなわち燃料噴射開始のタイミング,終了のタイミング,吸気弁の開タイミング,閉タイミングなどを司る。具体的には、角度基準位置から次の角度基準位置までの間の燃料噴射開始のタイミング,終了のタイミング,吸気弁の開タイミング,閉タイミングなどを、定時間隔演算の結果を参照して確定し、セットする。セットされた値は、該当クランク角となったときに実行され、アクチュエータを駆動する。
【0053】
したがって、図16に示すように、定時間隔演算で演算された結果のうち、角度基準位置に最も近い最新の値が実際のアクチュエータ駆動に用いられることとなる。
【0054】
以上のような構成において、吸気弁の駆動と燃料噴射を整合させるためには、図20に示すような駆動制御を行うのがよい。本図は、横軸を時間とした、各動作のタイミングを示したチャートである。図の10mSジョブ,角度起動タイミング(Ref job)は、それぞれの演算が実行されるタイミングを示し、さらに、特定気筒の着目した行程,吸気弁,排気弁,燃料噴射弁の動作を示している。
【0055】
ここで、10mSジョブの丸印で示した演算で計算された結果が、角度起動タイミング演算で採用され、矢印で示した吸気弁,排気弁,燃料噴射のタイミングをセットする。燃料噴射開始のタイミングは、吸気弁閉のタイミングに対し、燃料の位相遅れ時間と、燃料を噴射する時間を確保して噴射した燃料がシリンダに供給できる分先立ってセットする。さらに、図のように次回の角度起動タイミングが、吸気弁閉のタイミングより早く訪れた場合にも、その角度起動タイミングで吸気弁閉タイミングを設定するのでなく、矢印のタイミングでの駆動を行う。
【0056】
これにより、シリンダに供給する燃料と空気の量を整合させることができる。
【0057】
次に、図17は、例えばパワーステアリングの油圧ポンプなどの補機負荷の急増に対応して、吸気弁閉時期の操作で吸入空気量の急増を行ったときの、基本燃料噴射量TPの演算値の挙動を示したものである。図中の矢印の点で、補機負荷の急増に対応して目標出力が増加している。前述のように、TPは、基本的にはエアフローメータで計量した吸入空気量から求める。ところが、吸気弁閉時期により吸入空気量操作を行った場合には、図1に示すように吸気弁がエアフローメータの下流にあるため、その空気量を遅れなく測定することができない。そこで、吸気弁の操作に伴う吸入空気量の検出遅れを推定し、TPに加算することを行う。推定値は、図に示すように吸気弁操作に伴って急増し、その後エアフローメータが応答してくるのに合わせて減衰するようにする。
【0058】
本推定値を用いることにより、吸気弁操作に伴う吸入空気量測定遅れをなくし、所望の空燃比となる燃料量を供給することができる。
【0059】
図20に示すように前述した計算結果を角度起動タイミングで設定(セット)する。
【0060】
角度基準位置は10ms毎に求められ、演算タイミングが決められる。吸気弁(INT.V),排気弁(EXH.V)および燃料噴射についての計算結果は、同一の角度起動タイミングでセットする。直近の角度タイミング(最速の応答可能タイミング)で、所定の気筒の吸気弁操作,燃料噴射操作を整合して行う。このように、計算を定時間隔で実行することによって、他の多くの演算の一環として吸気弁閉時期設定,噴射弁噴射時期設定処理できる。
【0061】
前述したように、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から目標吸気バルブ閉時期を求め、一方、目標空気量から目標燃料量を求め、目標燃料量から燃料噴射時間を求め、それと燃料噴射から吸気弁までの到達時間を求め、その合計時間が吸気弁閉前となるよう燃料噴射開始時期を求め、吸気弁と燃料噴射弁の駆動を角度起動タイミングで行う。
【0062】
さらに、一旦燃料噴射を終了し、吸気弁が閉となるまでの間に目標出力の増加がある場合には、それに応える手段がある。その方法を図18に示す。図中の排気行程中の燃料噴射は、目標出力増加前に決められた値である。その噴射を終了した後の図のタイミングで目標出力の増加が起こったとき、吸気弁閉のタイミングは過ぎていないため要求に応えうる。すなわち、新たな出力要求に応える空気量を実現する吸気弁閉タイミングを新たに求め、一方出力要求に応える燃料量とするため追加して供給する燃料量を求め、その量に対応する噴射パルス幅を求め、さらに追加で噴射する燃料がシリンダ内に供給される噴射開始タイミングを求め、以上の演算結果に基づいて燃料噴射と吸気弁駆動を行う。図の例では、追加の燃料噴射開始を目標出力増加と同じタイミングとした例を示している。
【0063】
ここで、追加すべき燃料量が図8に示すようなインジェクタが供給し得る最小の燃料量より小さい場合には、所望の燃料量を供給できない。この場合には、インジェクタが供給し得る最小の燃料量に対応する必要空気量を求め、必要空気量に応じた吸気弁閉タイミングで駆動し、図8に示す燃料供給可能最小噴射パルス幅でインジェクタを駆動すればよい。このとき、シリンダには目標出力に対応する空気量と燃料量より多い空気量と燃料量が供給されることとなり、目標出力より大きい出力が発生することとなる。しかし前述したように、目標出力の急激な増大は補機負荷などの対応なしではエンジン回転数低下やエンストを招く事象であり、これらの事態を招くよりはエンジン回転数を少し高くするほうが好ましい。
【0064】
次に、例えば補機負荷がONの状態からOFFの状態となったときには、目標出力が急に減少することとなる。この要求が発生したときに、図19に示すように既に燃料噴射が終了しているような場合には、新たな目標出力に対応する空気量は、吸気弁閉タイミングを操作することにより実現することが可能である。しかし、新たな目標出力に対応する燃料量は、すでに噴射を終了した燃料量より少ないので、対応することができない。従ってこのような場合には、新たな目標出力に対応する吸気弁閉タイミングの操作は行わず、燃料噴射量とともに決定した吸気弁閉タイミングで駆動するのがよい。この場合も前述した例と同様に目標出力に対応する空気量と燃料量より多い空気量と燃料量が供給されることとなり、目標出力より大きい出力が発生することとなる。しかし、エンジン回転数低下やエンストを招くよりはエンジン回転数を少し高くするほうが好ましい。
【0065】
以上説明した例では、目標出力の増減に対応するエンジンの応答は、1燃焼での出力、すなわちトルクでの応答である。一方、補機負荷などの目標出力増加は、その要求の質によりエンジンからの仕事の率を要求するものと、エンジンのトルクを要求するものがある。トルクを要求するものである場合は、要求値をそのまま目標出力に変換すればよい。仕事率を要求する場合は、仕事率はトルクと回転数の積であるから、仕事率の要求値を回転数で割って要求トルクに変換したうえで目標出力に変換するのがよい。
【0066】
内燃機関が、筒内噴射方式の内燃機関である場合には、筒内に直接燃料を噴射するため、吸気弁の動作タイミングによって噴射時期を考慮する必要はない。すなわち、吸気行程または圧縮行程で燃料噴射を行うが、その燃料量は、吸気弁の作動タイミングにより確定した吸入空気量と、目標空燃比が合致するよう一致しておればよい。
【0067】
したがって、図20の燃料噴射の、破線で示すD1(1)あるいはD1(2)と、吸気弁の開閉タイミングは、共に排気行程中のREFJOBでセットすることとなる。これにより、吸気弁の開閉時期と、燃料噴射量は、同一計算タイミングでの値を用いることができるようになり、筒内噴射方式の内燃機関の場合にも目標の空気量を実現し、かつ目標の空燃比を実現することができる。
【0068】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、内燃機関の運転状態に応じて変化する電磁式吸気弁の作動タイミング、特にその吸気弁による吸気通路の閉鎖時に応じて燃料の噴射開始時期を制御することにより、混合気を良好に形成することができる。
【0069】
また、本発明によれば、前述した計算結果を同一の角度起動タイミングにセットすることとしているので、最速の応答可能タイミングで、所定の気筒の吸気弁操作,燃料噴射操作を整合して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の適用される内燃機関の全体概略構成図。
【図2】内燃機関の動作説明図。
【図3】制御フローチャート図。
【図4】電磁式吸気弁概略構成図。
【図5】動作説明図。
【図6】吸気弁操作,噴射弁操作図。
【図7】吸気弁操作,噴射弁操作図。
【図8】空燃比と点火時期との関係図。
【図9】空燃比と浄化率との関係図。
【図10】最小噴射パルス幅説明図。
【図11】吸気弁,排気弁,燃料噴射タイミング図。
【図12】吸入空気量と吸気弁開弁タイミングとの関係図。
【図13】実施例にかかわるブロック図。
【図14】電磁式吸気弁駆動フローチャート図。
【図15】アクセル開度と要求空気量との関係図。
【図16】起動タイミング図。
【図17】目標出力増加要求に対する推定値分合計空気量を示す図。
【図18】目標出力増加要求に対する吸気弁と噴射弁の操作図。
【図19】目標出力減少要求に対する吸気弁と噴射弁の操作図。
【図20】タイムチャート図。
【符号の説明】
41…空気量演算、42…基本燃料量演算、43…燃料量演算、44…燃料噴射時間演算、45…燃料移送遅れ時間、46…燃料噴射開始時期演算、47…目標空気量演算、48…目標ETC開度演算、49…目標電磁式吸排気弁開閉タイミング演算。
Claims (6)
- 電磁式吸気弁の開閉時期の演算を行い、燃料噴射開始時期が前記電磁式吸気弁の閉弁時期前に設定する内燃機関の制御装置において、
定時間隔演算実行タイミングにて、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から前記電磁式吸気弁の閉弁時期を演算し、目標空気量から目標燃料量を求め、燃料噴射開始時期を前記電磁式吸気弁の閉弁時期前になるように演算し、かつクランク軸の角度基準位置によって設定される角度起動タイミングで、定時間隔演算実行タイミングにて演算した前記電磁式吸気弁の閉弁時期および燃料噴射開始時期をセットする演算手段を有すること
を特徴とする内燃機関の制御装置。 - 請求項1において、前記演算手段は、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から電磁式吸気弁の閉弁時期を演算する電磁式吸気弁の閉弁時期演算手段と、かつ目標空気量から目標燃料量を求めて燃料噴射時間を設定し、燃料噴射から前記電磁式吸気弁までの燃料到達時間を求めて燃料噴射時間と燃料到達時間との合計を演算し、合計された時間が前記電磁式吸気弁の閉弁時期前になるように燃料噴射開始時期を設定するものであることを特徴とする内燃機関の制御装置。
- 電磁式吸気弁の開閉時期の演算を行い、目標空気量から燃料噴射量を設定する内燃機関の制御装置において、
定時間隔演算実行タイミングにて、目標出力から目標空気量を求め、目標空気量から前記電磁式吸気弁の閉弁時期を求め、目標空気量から目標燃料量を求める演算を行い、かつクランク軸の角度基準位置によって設定される角度起動タイミングにて、定時間隔実行タイミングで演算した前記電磁式吸気弁の閉弁時期および燃料噴射量をセットする演算手段を有すること
を特徴とする内燃機関の制御装置。 - 請求項1から3のいずれかにおいて、前記演算手段は、前記電磁式吸気弁が閉となるまでの間に目標出力の増加があった場合には、新たな出力要求に対応して目標空気量を求め、当該目標空気量から前記電磁式吸気弁の閉弁時期を求め、当該目標空気量から追加する燃料量を求める演算を行うことを特徴とする内燃機関の制御装置。
- 請求項4において、前記演算手段は、追加する燃料量から燃料噴射開始時期を演算することを特徴とする内燃機関の制御装置。
- 請求項1から3のいずれかにおいて、前記演算手段は、目標出力に基づいて電磁式吸気弁の閉弁時期が演算されたときに、その時点ですでに供給した燃料量に対応した吸入空気量が新たに演算された吸気弁の閉弁時期に対応する吸入空気量より大きいことを条件としてその気筒には新たに該演算された閉弁時期をキャンセルすることを特徴とする内燃機関の制御装置。
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