JP3725211B2 - 電力系統シミュレータ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、電力系統の電気的状態量の分布状態、あるいはその時間的な挙動や応動を、計算機の数値計算によって演算し、模擬する電力系統シミュレータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図32は、従来の電力系統シミュレータの構成を示すブロック図であり、図において、1はマンマシン装置、2は入出力処理部、3はシミュレータデータ保存部、4は微分方程式計算部、5は系統状態量計算部であり、この系統状態量計算部5は系統状態量保存部201、反復計算管理手段202、修正計算実行部203、収束判定部204、前回値保存部205により構成されている。
【0003】
次に動作について説明する。電力系統シミュレータは、電力系統の挙動や応動を模擬するものであり、そのシミュレーション結果に基づいて系統計画や系統運用等の解析がなされるものである。この場合、電力系統の挙動を模擬するため、発電機及びその制御系あるいは負荷、調相設備等の状態変化を計算する演算と、系統の電圧と電流の関係を求める系統状態量の演算を、時刻を逐次進めながら交互に計算機で演算していく必要がある。
【0004】
通常計算機で、ある現象を模擬するシミュレータの場合、模擬している現象が生起している時刻を表わす時刻データを計算機に保持し、現象の状態を表わすデータの演算とともに更新する(後述する各フローチャートにおける時刻更新「t→t+△t」がこれに該当)。この時刻データは、現象の開始時刻t0 と開始時刻からの現象の経過時間tによってt0 +tの値が保持される。
【0005】
ここで、経過時間tのみがシミュレータ使用上本質的に重要なデータであって、t0 は使用者が任意に設定できるのが普通である(場合によってはシミュレータにおいてt0 =0と固定である場合もある)。普通はt0 =0と設定し、経過時間tだけを問題とする場合が多い。そこで、以下、模擬している現象の経過時間tを表わす時間軸上の1点を表わすために「時刻t」という表現を用いている。
【0006】
微分方程式計算部4においては、発電機及びその制御系、あるいは負荷、調相設備の状態変化を表わす微分方程式を求解する演算がなされ、発電機や制御系等の個々の機器についてその時刻での状態を決定する。系統状態量計算部5では、微分方程式計算部4の演算結果に基づき、系統の電圧分布等の全系統の状態に関するその時刻での量が決定される。
【0007】
この様にして演算された系統の状態量を、逐次時刻を進める毎にシミュレータデータ保存部3に保存する。このシミュレータデータ保存部3に保存された状態データは、上記時刻における系統の状態を表わす。また、上記時刻毎に演算された系統状態量を、入出力処理部2を介してマンマシン装置1によって外部に表示する。
【0008】
次に系統状態量計算部5の内部動作を説明する。系統状態量の演算は、系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係式を表わす方程式を解く計算である。この方程式を解く方法としては、Newton−Raphson法や逐次代入法等が一般的に用いられているが、これらはいずれも反復演算(くりかえし計算)による収束計算を伴う方式である。
【0009】
反復する毎に系統状態量は次第に真値に近づいていくが、修正計算実行部203は、この様な収束における反復ステップ毎の状態量の修正を行う部分である。系統状態量保存部201は、修正計算実行部203により修正がなされた系統状態量を、反復ステップ毎に退避しておく部分であり、修正計算実行部203による系統状態量の修正が反復して行われるに従い、系統状態量保存部201に保存された系統状態量は次第に真値に収束していく。
【0010】
次に収束判定方法を説明する。反復ステップ毎に収束していく系統状態量に関しては、修正計算を施す時に、修正がなされる以前の状態、即ち反復に関する前回値を前回値保存部205に退避しておく。系統状態量が真値に収束したか否かの判定は、収束判定部204において系統状態量とその前回値の差を計量し、その差がある一定値以下に達した時収束したと見なされる。例えば、ノード毎の電圧値について逐次修正を施す解法であれば、次式の値が一定値以下に達した時、収束したと見なされる。
【0011】
【数1】
ここで、iは個々のノードを識別するノード番号、Nはノードの総数、ei ,fi はノードiの電圧ベクトルの実部と虚部、kは反復ステップ数を表わす。
【0012】
以上の反復計算による処理全体の管理制御は反復計算管理手段202によってなされる。この様に系統状態量計算部5における系統状態量の演算は収束計算の手法に基づいた反復演算によって演算がなされる。
【0013】
次に微分方程式計算部4における計算手法について説明する。
発電機及びその制御系あるいは負荷・調相設備等の状態変化を表わす微分方程式は全て次の(1)式の形で表わすことができる。
【0014】
PX=AX+BU ・・・(1)
ここで、
Xは状態変数ベクトル
Uは入力変数ベクトル
A,Bは定数行列
Pは微分演算子
【0015】
この(1)式の微分方程式の求解手法として、陰性アルゴリズムに従った積分手法であるTrapezoidal法を用いる方法が一般的に行なわれており、この場合を例に説明する。
【0016】
積分刻み幅を△tとすると、Trapezoidal法を適用した場合、(1)式を求解する演算は次の(2)式の形で表わすことができる。
【0017】
X(t+△t)=A* X(t)+B* {U(t+△t)+U(t)}・・・(2)
ここで、A* ,B* は次の(3),(4)式で表わされる定数行列である。
【0018】
【数2】
ここで、Iは単位行列を表わす。
【0019】
上記の(2)式に示されるように、陰性アルゴリズムを用いた積分手法の場合、入力項に△t秒後の入力変数ベクトルU(t+△t)を含んでいる。この入力変数ベクトルはどの様に演算されるかを説明する。系統状態量計算部5における系統状態量の演算は、微分方程式の状態変数ベクトルXを入力とすることによって、電力系統全体の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす静的な代数方程式を解く演算であり、系統状態量の演算結果から逆に微分方程式の入力変数ベクトルUが演算される。
【0020】
このため、(2)式を演算するに当たって、未だ系統状態量を演算していないため、未知であるU(t+△t)は最初前回時刻の演算周期で演算されたU(t)等で近似しておいて、X(t+△t)を演算し、その演算結果であるX(t+△t)から系統状態量を計算する演算を行うことによって、U(t+△t)を計算して該U(t+△t)を修正する。修正された入力変数U(t+△t)と前ステップで近似されたU(t+△t)を比較し、誤差が許容範囲を超過している場合は、修正された入力変数をU(t+△t)として用いることで再度(2)式を演算する。
【0021】
このように、微分方程式計算の入力変数は系統状態量計算の出力情報から演算され、系統状態量計算の入力情報は微分方程式計算の出力情報であるという相互関係があり、元来未知数であるところの△t時間後の状態を決定するのに、最初近似値から出発して微分方程式計算と系統状態量計算を相互に行なう収束計算を行う点が陰性アルゴリズムの特徴である。
【0022】
この収束計算の反復をくりかえし、入力変数の反復の前ステップにおける値との差が許容範囲内となった場合、収束したと判定し、計算が終了したとして処理を終了する。以上の様に微分方程式計算手法においても収束計算の手法にもとづいた反復演算が実施される。なお、上記従来例に関連する公知資料として特公平3−270646号公報に記載された発明がある。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
従来の電力系統シミュレータは以上のように構成されているので、電力系統の各時間断面における電力系統全体の系統状態量を計算する演算において、収束計算の手法にもとづいた反復計算を行うとともに、微分方程式を計算する過程でも収束計算の手法にもとづいた反復演算を行っていた。そのため、これらの反復演算において収束真値に収束するまで多くの反復回数を要し、その結果、多大な演算時間を要していた。
【0024】
また、反復の各過程で収束したか否かの判定演算に時間を要し、この判定演算自体を毎回の反復ステップで全ノードデータについて実施するため、演算時間が著しく増大し、その結果、全体としてさらに多大な演算時間を要していた。
【0025】
さらにまた、反復演算における反復回数を削減させると、収束性が低下して計算精度が劣化し、逆に計算精度を確保しようとすると反復回数を増加させねばならなず、そのために演算時間が増加してしまうことになる。その結果、シミュレータの性能として最も肝要な2つの要因である計算精度の確保と演算時間の短縮が全く両立しないという重大な課題があった。
【0026】
次に上記の時間断面という用語について説明する。図33のような3次元グラフにおいて、A,B,C,Dで囲まれた面と平行なグラフは図34(a),(b)グラフの集まりとなる。しかし、D,C,E,Fで囲まれた面と平行なグラフは図35(a),(b)となって、各時刻におけるスタティックなその瞬時の他の2量の関係を表わす。
【0027】
このように時間軸を含む3次元グラフにおいて、時間軸と垂直に切った平面は、状態のスタティックで静的な関係を表わすグラフとなる。このようなイメージにもとづき、「時間断面」という用語は、時間軸と垂直な平面のイメージを喚起させる意図のもとで使用した用語であり、本来ダイナミックな現象を模擬するシミュレータにおいて、静的でスタティックな事態を意識して表わす時に用いる。
【0028】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、反復演算の各過程で実施する収束したか否かの判定演算に起因する多大な演算時間を抜本的に短縮する電力系統シミュレータを得ることを目的とする。
【0029】
また、収束計算の手法にもとづいた反復演算において、反復回数を削減しつつ計算精度が確保できる電力系統シミュレータを提供し、電力系統シミュレータにおける演算時間の短縮と計算精度確保の両立を図ることを目的とする。
【0032】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明に係る電力系統シミュレータは、反復演算の反復過程における反復ステップ毎に修正がなされた電力系統の状態量を一定の反復ステップの間に渡って反復列として退避保存する反復データ保存部と、この保存された一定反復ステップの間に渡る反復列をもとにして収束計算の収束真値を予測演算する予測演算手段を設けたものである。
【0033】
請求項2に記載の発明に係る電力系統シミュレータは、反復ステップ毎に修正がなされた電力系統の状態量について、ある特定の反復ステップのみで修正された電力系統の状態量を抽出する抽出手段と、この抽出された一定反復ステップの間に渡る抽出反復列をもとにして収束計算の収束真値を予測演算する予測演算手段を設けたものである。
【0034】
請求項3に記載の発明に係る電力系統シミュレータは、反復ステップのうち偶数回目の反復ステップのみか又は奇数回目の反復ステップのみで修正された電力系統の状態量を抽出する抽出手段と、この抽出された一定反復ステップの間に渡る反復列をもとにして収束計算の収束真値を予測演算する予測演算手段を設けたものである。
【0035】
請求項4に記載の発明に係る電力系統シミュレータは、反復ステップのうちn回おきの反復ステップであるnm+l(l=0,1,2,3)回目の反復ステップで修正された電力系統の状態量を抽出する抽出手段と、抽出された一定反復ステップの間に渡る反復列をもとにして収束計算の収束真値を予測演算する予測演算手段を設けたものである。
【0048】
【作用】
請求項1に記載の発明における電力系統シミュレータは、反復演算に先立って設定し記憶手段に記憶された収束回数に反復演算の反復回数が到達すると反復を打ち切って反復演算を終了することにより、多大な演算時間を要した誤差量の算出演算や誤差量の大小評価演算を省略でき、電力系統状態量の演算時間を著しく短縮することができる。
【0049】
請求項2に記載の発明における電力系統シミュレータは、平常模擬時と状態変化模擬時の区別を判別するとともに、この判別結果に基づいて、平常模擬時には平常模擬時用の判定基準データに従って、状態変化模擬時には状態変化模擬時用判定基準データに従って、各々反復演算の反復を打ち切って反復演算を終了することにより、模擬時間が短い状態変化模擬時の演算にのみ多くの反復回数とし、多くの反復回数を要せずかつ模擬時間がシミュレーション時間のほとんどを占める平常模擬時における反復回数を低減することができるため、シミュレーションに要する演算時間を著しく短縮することができる。
【0050】
請求項3に記載の発明における電力系統シミュレータは、反復演算において反復ステップ毎に電力系統状態量の修正を行っていく過程において、反復ステップ毎に修正がなされた電力系統状態量を一定の反復ステップの間に渡って反復列として退避保存するとともに、反復演算のある特定の反復ステップにおいて、上記退避保存された反復列から収束計算である反復演算における収束真値を予測演算し、この予測演算の結果に基づいて電力系統状態量の修正を行うことによって、より収束真値に近い電力系統状態量を演算することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0051】
請求項4に記載の発明における電力系統シミュレータは、反復演算において反復ステップ毎に電力系統状態量の修正を行っていく過程において、反復ステップ毎に修正がなされた電力系統状態量のうちある特定の条件に合致する特定の反復ステップのみで修正された電力系統状態量を抽出して抽出反復列として退避保存するとともに、この抽出反復列をサンプリングデータとして反復演算の収束真値を予測演算することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0052】
請求項5記載の発明における電力系統シミュレータは、抽出反復列を抽出するための反復ステップに関する特定の条件として、反復ステップが偶数回目であるという条件か、奇数回目であるという条件かのいずれかの状態を採用したことにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0053】
請求項6記載の発明における電力系統シミュレータは、抽出反復列を抽出するための反復ステップに関する特定の条件としてn回おきの反復ステップであるという条件を採用したことにより著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0054】
請求項7に記載の発明における電力系統シミュレータは、反復演算によって演算する電力系統状態量演算に先行して反復初期値演算を実施し、この反復初期値演算の演算結果を電力系統状態量演算部に入力することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0055】
請求項8に記載の発明における電力系統シミュレータは、各演算対象とするシミュレーション時刻に関する演算を行うに際して、あらかじめ退避された相対的に過去のシミュレーション時刻における電力系統状態量の演算結果にもとづいて、演算対象とするシミュレーション時刻における電力系統状態量を予測演算するとともに、この予測演算結果によって反復初期値演算を行うことにより、反復初期値の精度が向上し、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0056】
請求項9に記載の発明における電力系統シミュレータは、電力系統の状態量の時間に関する変化率を示すデータを演算するとともに、この時間に関する変化率を示すデータに従って、予測演算の予測計算方法を切り換えることにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0057】
請求項10に記載の発明における電力系統シミュレータは、請求項10における変化率を示すデータが一定範囲の値を超過すると、変化率に0≦a<1なる定数aを乗じることによって得られる修正された変化率に従って電力系統状態量の変化を予測することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0058】
請求項11に記載の発明における電力系統シミュレータは、シミュレータとしての模擬刻み時間△tに対して2倍の刻み時間幅である2△t時間間隔の状態変化を毎演算周期で演算することによって、次のシミュレーション時刻が△t進んだ演算周期で演算して出力する対象としている電力系統状態量を先行して演算し、次のシミュレーション時刻が△t進んだ演算周期においてこのあらかじめ先行して演算がなされた電力系統状態量を、反復演算の反復初期値に入力することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0059】
請求項12に記載の発明における電力系統シミュレータは、電力系統状態量演算を具現するための△t時間間隔の状態変化を演算する演算と、2△t時間間隔の状態変化を演算する演算を並列して同時に演算することにより、演算時間の増加を抑止することになって、演算時間を短縮できる。
【0060】
請求項13に記載の発明における電力系統シミュレータは、△t時間間隔の状態変化の演算に関する演算データと、2△t時間間隔の状態変化の演算に関する演算データをベクトル的多重データとして扱うとともに、このベクトル的多重データを一括して演算し、△t時間間隔の状態変化を演算する演算と2△t時間間隔の状態変化を演算する演算を同時に演算することにより、演算時間の増加を抑止することになって、演算時間を短縮できる。
【0061】
請求項14に記載の発明における電力系統シミュレータは、2△t時間間隔の状態変化を演算するために最初△t時間の状態変化を演算することによって△t時間後までの状態変化を演算し、次に再度△t時間間隔の状態変化を演算することによって△t時間後から2△t時間後までの状態変化を演算し、このように△t時間間隔の状態変化の演算を2回くりかえすことによって、2△t時間間隔の状態変化の演算を具現することにより、演算精度が向上し、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0062】
請求項15に記載の発明における電力系統シミュレータは、請求項12に記載のシミュレータの作用に加えてシミュレータとしての模擬刻み時間△tに対して3倍の刻み時間幅である3△t時間間隔の状態変化を毎演算周期で演算することによって、シミュレーション時刻が2△t進んだ2回演算周期を進めた演算周期において演算して出力する対象としている3△t時間後の電力系統状態量を先行して演算し、そして、次のシミュレーション時刻が△t進んだ演算周期においては、この先行して演算された電力系統状態量が、時刻を△t進めたことにより2△t時間後の電力系統状態量を表わすことになるので、この先行して演算された電力系統状態量を請求項11に記載の2△t時間間隔の状態変化の演算を具現するための反復演算の反復初期値に設定することにより、演算精度が向上し、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる。
【0063】
請求項16に記載の発明における電力系統シミュレータは、系統事故事象を模擬する際に事故直前の系統状態量を退避して保存するとともに、後のシミュレーション時刻においてこの系統事故を除去する事象を模擬する際に既に退避保存されている事故直前の系統状態量を参照して電力系統状態量を演算する反復演算の反復初期値に設定し、この反復初期値から出発して反復演算を行うことによって系統事故除去時点の電力系統状態量を演算することにより、事故除去事象を模擬する際の電力系統状態量を演算する反復演算の反復回数を削減し、シミュレーションに要する演算時間を短縮することができる。
【0064】
請求項17に記載の発明における電力系統シミュレータは、請求項8における予測演算の計算手法として、過去のシミュレーション時刻における電力系統状態量の演算結果から演算対象とするシミュレーション時刻における電力系統状態量を予測することにより、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができ、シミュレーションに要する演算時間を短縮できる。
【0065】
請求項18に記載の発明における電力系統シミュレータは、電力系統状態量の演算において、個々の演算プロセッサ間で相互に行うべきデータ転送処理について、データ中継プロセッサを設けてデータ転送を中継することによって転送処理を分担し、データ分配処理を並列化することにより、個々プロセッサの逐次的なデータ転送回数を削減することができる。その結果、電力系統状態量を演算する演算時間を削減することができて、シミュレーションに要する演算時間を著しく削減できる。
【0066】
【実施例】
実施例1.
以下、この発明の一実施例を図について説明する。図1はこの発明の実施例1の電力系統シミュレータを示す構成図であり、図において、1はマンマシン装置であり、このマンマシン装置1は演算された各種の系統状態量をシミュレーションの結果として外部に表示したり、あるいはオペレータによる状態変化事象の模擬要求等のシミュレータに対する操作を受けつける。
【0067】
2は入出力処理部であり、この入出力処理部2はシミュレータデータ保存部3に格納された系統状態量をデータ変換してマンマシン装置1に転送したり、あるいは、オペレータによりなされたシミュレータに対する操作に対して入力データ処理を行う。
【0068】
3はシミュレーションによって演算された各種系統状態量を格納するシミュレータデータ保存部、4は発電機やその制御系、負荷、調相設備等の個々の機器毎の状態変化を演算する微分方程式計算部である。
【0069】
5は時刻毎に系統状態量を計算する系統状態量計算部であり、この系統状態量計算部5は時刻毎に、微分方程式計算部4で演算された各機器の状態量が入力され、系統の電圧分布又は電流分布又は潮流分布の関係式を表わす連立方程式を解く計算を演算することによって、その時刻における系統状態量を求める。この連立方程式を求解する手法としては、Newton−Raphson法や逐次代入法等の反復演算(くり返し演算)による収束計算に従う方式が一般的である。この演算結果は、シミュレータデータ保存部3に格納される。
上記系統状態量計算部5は、系統状態量保存部6、修正計算実行部7、反復計算管理手段8、収束回数記憶部9等により構成されている。
【0070】
10は状態変化演算手段としての状態変化検出部であり、この状態変化検出部10はシミュレーションのシナリオやあるいはオペレータの操作に基づいた系統事故や系統構成の変化や系統定数又は機器定数の変化等を検出し、時刻毎の状態変化の有無を表わす信号を出力する。
【0071】
上記系統状態量保存部6は反復ステップ毎の演算結果を格納する。修正計算実行部7は系統状態量保存部6に格納されている前反復ステップにおける系統状態量を基にして、収束計算の手法にもとづく修正演算を施す。修正演算の結果は再び系統状態量保存部6に格納される。この様な系統状態量の修正演算をくり返し反復することによって、系統状態量保存部6に格納された系統状態は次第に真値に収束していく。反復計算管理手段8は反復演算の処理を管理制御する。収束回数記憶部9は反復演算における反復回数を記憶しておくもので、シミュレーションの開始に先立ってあらかじめ設定された反復回数が格納されている。反復回数としては、平常時収束回数と状態変化時収束回数の2種類の値が格納されている。これらはシミュレーションを通じて変化しない。
【0072】
次に動作について説明する。図2は本発明の動作を説明するフローチャートである。シミュレーションの開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST21)。次にシミュレーション実行時には、一定時間間隔で時刻を進める毎に微分方程式を計算する演算と系統状態量を計算する演算を行う(ステップST22,ステップST23)。系統状態量の計算は収束計算の手法に基づき、反復演算により実現される。この反復演算は反復の毎に系統状態量を修正し、真値に近づけていく。
【0073】
反復計算の終了判定方法は、演算中の時刻が状態変化後規定時間以内か否かを系統事故等の状態変化の検出結果に基づいて判定する(ステップST24)。状態変化後規定時間以内の時は、反復回数が状態変化後収束回数に達した時、反復を打ち切る(ステップST25)。状態変化後規定時間以内でない場合は、反復回数が平常時収束回数に達した時、反復を打ち切る(ステップST26)。
【0074】
以上によって該当時刻における系統状態量の計算が完了したので、その時刻の系統状態量を出力し(ステップST27)、次のタイムステップに時刻を進める(ステップST28)。この時刻毎の演算をシミュレーション終了時刻に到達したかを判定(ステップST29)、時刻に到達していなければ、ステップST22に戻って該ステップST22以降の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。尚、平常時収束回数と状態変化時収束回数は、シミュレーションを通じて変化しない固定値である。
【0075】
次に実施例1で系統状態量を計算する反復演算において、反復回数を状態変化時と平常時とで切り換えることの有効性を説明する。時刻毎の系統状態量の計算を反復演算によって行う場合、反復の初回の値、即ち反復初期値としては、既に計算済みである過去の時刻(例えば前の時刻及び前々回の時刻等)の系統状態量を元にして、時間軸方向に予測計算した予測値を用い、これを反復初期値として採用する手法が一般的に行なわれている。
【0076】
この場合、状態変化後は、系統状態の時間的変化の傾向が時刻によって大きく異なる為、予測値と真値の差が大きく、反復演算として多くの反復回数を行なう必要がある。
【0077】
これに対し、平常時は、系統状態の時間的変化の傾向が同様傾向を示すため、予測値と真値の差は少なく、少ない反復回数で高い精度を得ることができる。シミュレーションにおいて演算している時刻は、殆どの時刻が平常時に該当する。
【0078】
また収束計算の手法によっては、状態変化後の収束計算に要する反復回数は、平常時に要する反復回数に対して、系統の規模に関して指数関数的に増大し、両者は数十倍も異なる場合がある。真に多くの反復回数を要する状態変化後の時刻は、シミュレーション全体の時間において一般的にわずかな時刻に限られるため、反復回数を状態変化時と平常時において反復計算管理手段で切り換えることによってシミュレーション全体としての総演算時間を大きく削減することができる。
【0079】
以上のように実施例1では、時刻毎の系統状態量を計算する反復演算において、反復回数を平常時収束回数と状態変化時収束回数の2通りとし、各々を固定値とした。それによって従来技術における系統状態量が真値に収束したか否かの判定演算を省略した。
【0080】
従来技術ではこの収束に関する判定演算のために、全ノードについて誤差量を演算し、さらにまた収束計算の反復の毎にこの誤差量の演算を実施していたので、多大な演算時間を要していたが、これを一切省略することによって演算時間の短縮に大きな効果が得られる。
【0081】
また、真に多くの反復回数を要する状態変化時のみ反復回数を費やし、それ以外のほとんどの時間を占める平常時では反復回数を削減してシミュレーションすることができるので、シミュレーションに要する演算時間を著しく削減できるという効果がある。
【0082】
実施例2.
図3はこの発明の実施例2の電力系統シミュレータを示す構成図であり、図において、21はマンマシン装置、22は入出力処理部、23はシミュレータデータ保存部、24は微分方程式計算部であり、25は時刻毎の系統状態量を計算する演算を実施する系統状態量計算部であり、時刻毎に系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす連立方程式を求解する計算を、収束計算の手法に従って反復演算により演算する。この系統状態量計算部25は系統状態量保存部26、反復データ保存部27、修正計算実行部28、予測値計算部29、反復計算管理手段30等により構成されている。
【0083】
上記系統状態量保存部26は反復ステップ毎の演算結果を格納する。この系統状態量保存部26に格納された系統状態量は、収束計算における反復ステップ毎の修正演算が施される毎に更新され、真値に収束していく。反復データ保存部27は反復ステップ毎の修正演算が施された系統状態量を、予測計算において元とするデータとして、一定反復ステップの間について退避して保存しておく部分である。修正計算実行部28は収束計算の手法にもとづいた反復ステップ毎の修正演算を実施する。予測値計算部29は収束計算における収束の真値、あるいはより真値に近い値を予測計算する。反復計算管理手段30は反復演算の処理を管理制御する。
【0084】
次に予測値計算部29における予測値計算について説明する。反復演算によって次第に真値に収束していく系統状態量の収束列を{x(k)}とする。kは反復の反復数(イタレーション)である。一般的にx(k)は系統のノード毎の電圧を成分とする電圧ベクトルである場合が多い。
【0085】
今k回目まで反復演算が進んだ状態であるとする。この時、反復データ保存部27には、それまでの演算結果x(1),x(2),・・・x(k)のうち、最新演算結果から予測計算に必要な一定反復数さかのぼった演算結果について、演算結果を退避して保存する。例えば、予測計算に連続したm個の演算結果が必要な場合はx(k−m+1),x(k−m+2),・・・x(k)を保存する。これらの値に従って収束の規則性を読みとり、収束の真値を予測計算の手法に基づき演算する。予測値計算部29ではこの予測値計算の演算を実施する。
【0086】
具体的な予測値計算手法の例は関根泰次著「電力系統解析理論」(電気書院)に、収束改善法として記されており、加速定数法や、等比外そう法、Aitkenδ2 法等がある。いずれも、x(1),x(2),・・・x(k)の値から四則演算の組み合せで演算することによって予測値を計算する手法であり、計算機における数値演算として実現可能な手法である。以下にこれらの具体的予測値計算手法を説明する。
【0087】
以下では系統状態量としてノード毎の電圧値が収束列となる様な反復演算を行なう場合について述べる。ノード番号iにおける電圧ベクトルの反復イタレーションk回目の実数部、虚数部を各々ei (k),fi (k)と記す。k回目まで反復演算が進んだ時の、各々の手法における予測値計算手法を示す。尚、演算するべき予測値である電圧ベクトルの実数部、虚数部を各々キルダei ,キルダfi と記す。これらは予測値計算の結果を表わす。
【0088】
加速定数法では、連続した2回の演算結果(即ち、k−1,k回目の演算結果)から次式によって予測値を計算する。αは一定の定数である。
【数3】
等比外そう法では、連続したm個の演算結果(即ち、k−m+1,k−m+2,・・・k回目の演算結果)から次式によって予測値を計算する。
【0089】
【数4】
【0090】
Aitkenδ2 法では、連続した3回の演算結果(即ち、k−2,k−1,k回目の演算結果)から次式によって予測値を計算する。
【数5】
【0091】
次に実施例2の動作を図4にフローチャートに従って説明する。シミュレーション開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST41)。次にシミュレーション実行時の処理として一定時間間隔で時刻を進める毎に微分方程式を計算する演算と、系統状態量を計算する演算を行う(ステップST42,ステップST43)。系統状態量の計算は収束計算手法に基づき反復演算により実現される。この反復演算は反復の毎に系統状態量を修正する。しかる後反復毎に修正がなされた系統状態量を、反復データ保存部に待避する(ステップST44)。
【0092】
次に収束計算の手法に基づいた反復毎の系統状態量の修正演算を行う。反復回数が予測値計算回数に該当したかを判定し(ステップST45)、該当した時、系統状態量の収束値の予測計算を演算して予測値を求め、その予測値に従って系統状態量を修正する(ステップST46)。反復回数が予測値計算回数に該当しない時は予測計算による系統状態量の修正は行わない。しかる後、反復計算終了かを判定し、終了でなければ、系統状態量の修正を反復演算が終了するまで実施する(ステップST47)。
【0093】
以上によって該当時刻における系統状態量の演算を完了し、その時刻の系統状態量を出力し(ステップST48)、次の時刻にタイムステップを進める(ステップST49)。この時刻毎の演算を、シミュレーション終了時刻に到達したかを判定し(ステップST50)、時刻に到達していなければ、ステップST42に戻って該ステップST42以後の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。
【0094】
実施例2では時刻毎の系統状態量を計算するための収束計算の手法にもとづく反復演算において、ある特定の反復回数時に、それまでの反復演算の結果から収束の傾向を読みとって真値を予測し、その予測値にもとづいて系統状態量の修正を行なった。その結果、反復演算における収束性が向上し、より少ない反復回数で演算を完了させることができ、演算時間を著しく削減することができる。
【0095】
実施例3.
図5はこの発明の実施例3の電力系統シミュレータ示す構成図であり、図において、31はマンマシン装置、32は入出力処理部、33はシミュレータデータ保存部、34は微分方程式計算部である。35は時刻毎の系統状態量を計算する演算を実施する系統状態量計算部であり、時刻毎に、系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす連立方程式を求解する計算を収束計算の手法に従った反復演算により演算する。
【0096】
この系統状態量計算部35は系統状態量保存部36、抽出保存部としての偶数データ保存部(抽出保存部)37、修正計算実行部38、予測値計算部39、反復計算管理手段40等により構成されている。
【0097】
上記系統状態量保存部36は反復ステップ毎の演算結果を格納する。この系統状態量保存部36に格納された系統状態量は、収束計算における反復ステップ毎の修正演算が施される毎に更新され、真値に収束されていく。偶数データ保存部37は偶数回目の反復ステップ毎に、修正演算が施された系統状態量を一定反復ステップの間について退避して保存しておく部分である。この偶数データ保存部37に退避されたデータは、予測計算において元とするデータである。偶数回目の反復ステップについて退避する理由は後述する。
【0098】
修正計算実行部38は収束計算の手法にもとづいた反復ステップ毎の修正演算を実施する。予測値計算部39は収束計算における収束の真値、あるいはより真値に近い値を予測計算する。反復計算管理手段40は反復演算の処理を管理制御する。
【0099】
次に予測値計算部39における予測計算について説明する。反復演算によって次第に真値に収束していく系統状態量の収束列を{x(k)}とする。kは反復のイタレーションである。一般的にx(k)は系統のノード毎の電圧を成分とする電圧ベクトルである場合が多い。
【0100】
今k回目まで反復演算が進んだ時点であるとする。この時、偶数データ保存部37ではそれまでの演算結果x(1),x(2),・・・x(k)のうち偶数回目の反復演算の結果であるものについて、最新の演算結果から一定の個数さかのぼった演算結果について退避して保存する。
【0101】
例えば予測値計算にm個のデータが必要な時、
kが偶数であれば、
x(k−2m+2),x(k−2m+4),・・・,x(k−2m+2j),・・・,x(k)の演算結果が偶数データ保存部37に退避されている(ここに1≦j≦m)。
またkが奇数であれば、
x(k−2m+1),x(k−2m+3),・・・,x(k−2m+2j−1),・・・,x(k−1)の演算結果が偶数データ保存部37に退避されている。これらの値に従って収束の規則性を読みとり、収束の真値を予測計算の手法に基づき、予測値計算部39でこの予測計算の演算を行う。
【0102】
次に予測計算の演算に際し、反復演算の結果として、何故偶数回目の演算結果からなる保存データを使用するのが有効であるかを説明する。図6は、系統の電圧分布と電流分布の関係を表わす連立方程式で、電圧分布を未知数とした場合であって、連立方程式を解く手法として逐次代入法の一種であるヤコビ法と呼ばれる収束計算の手法に基づき、反復演算を行っていった場合の、あるノードの電圧の実部の値が反復回数とともにどの様に変化していくかをグラフに表わしたものである。
【0103】
図6に示した様に、反復が進むにつれて、演算結果は全体としてある値に収束していく傾向を示しているが、1回毎の値としては、増減をくりかえしている。この様な収束状況をもつ収束列において、連続した一定個数の演算結果を元にして予測計算を行ったとしても、収束の傾向を把握するのは極めて難しく、予測値の精度は著しく劣化したものとなる。例えば連続した2個の演算結果を元に予測計算すると、この収束列は増加方向に真値があるのにもかかわらず、減少方向に予測してしまう可能性がある。
【0104】
また連続した数個の演算結果を元にして数学的な数式で表わされる収束列(例えば指数関数で表わされる列)に近似して予測演算を行う場合であっても、1回おきに増減をくりかえしているため、精度よく近似することができない。
【0105】
これに対して図7は、図6に示した収束列のうちから偶数回目の演算結果を抽出してプロットしたもので、図7のように偶数回目の演算結果を抽出することによって、抽出された収束列は、単調に増加する列になるとともに、収束状況は指数関数的な収束列となる。その結果、連続した偶数回目の演算結果に基づいて行う予測計算の演算は非常に予測値の精度が向上し、予測値計算の結果が顕著なものとなる。
【0106】
尚、本実施例では反復演算における偶数回目の演算結果を使用する予測値演算方式を述べたが、奇数回目の演算結果を使用する場合であってもよく、同様の効果を奏する。
【0107】
次に実施例3の動作を図8のフローチャートに従って説明する。シミュレーション開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST81)。次にシミュレーション実行時の処理として一定時間間隔で時刻を進める毎に微分方程式を計算する演算と、系統状態量を計算する演算を行う(ステップST82,ステップST83)。系統状態量の計算は収束計算の手法にもとづき、反復演算により実現される。この反復演算は反復の毎に連立方程式の未知数である系統状態量に修正演算を施す。この系統状態量を修正する演算によって状態量は次第に真値に近づいていく。
【0108】
次に反復演算の反復回数が偶数回目かを判定し(ステップST84)、偶数回目である時、修正がなされた系統状態を、偶数データ保存部に退避する(ステップST85)。反復回数が偶数回目でない時は、系統状態量の偶数データ保存部への退避は行われない。この様な動作により、偶数データ保存部37には、系統状態量の収束列のうち、偶数回目の演算結果が保存される。
【0109】
次に、反復回数が、予測値計算回数に該当するか否かを判定する(ステップST86)。反復回数が予測値計算回数であれば、系統状態量の収束値の予測計算を演算して予測値を求め、その予測値に従って系統状態量を修正する(ステップST87)。反復回数が予測値計算回数に該当しない時は、予測計算による系統状態量の修正は行われない。しかる後、反復計算終了かを判定し(ステップST88)、反復回数毎の系統状態量の修正を、反復演算が終了と判定されるまで実施する。
【0110】
以上によって該当時刻における系統状態量の演算を完了し、その時刻の系統状態量を出力し(ステップST89)、次の時刻にタイムステップを進める(ステップST90)。この時刻毎の演算をシミュレーション終了時刻に到達したかを判定し(ステップST91)、時刻に到達していなければステップST82に戻って該ステップST82以降の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。
【0111】
実施例3では、系統状態量の計算として、収束計算手法にもとづく、反復演算において、それまでの反復演算の結果から、偶数回目又は奇数回目の演算結果として一回おきの演算結果をサンプリングデータとして抽出し、抽出データにもとづいて収束の傾向を読みとって真値を予測し、その予測値に基づいて系統状態量の修正を行った。その結果、予測値としてより真値に近く精度のよい予測値を得ることができ、この予測値に従って系統状態量の修正を行うので、反復演算における収束性が向上し、より少ない反復回数で演算を完了させることができ、演算時間を著しく削減させることができる。
【0112】
実施例4.
図9はこの発明の実施例4の電力系統シミュレータを示す構成図であり、図において、61は入力手段、判定手段、修正手段としてのマンマシン装置、62は入出力処理部、63はシミュレータデータ保存部である。64は変化率検出部であり、この変化率検出部64は時間とともに変化する系統状態量について、演算の完了した最新時刻における系統状態量の時間に関する微分演算を行うことによって、系統状態量の変化率を演算する。時刻tにおける系統状態量ベクトルをU(t)と表わす時、変化率は次式で演算することができる。
【0113】
(U(t)−U(t−△t))/△t ・・・(4.1)
ここで、△tはシミュレーションの刻み時間幅である。
【0114】
65は予測値計算部であり、この予測計算部65は、系統状態量の時間幅方向への予測値を演算する。即ち、時刻tまでのシミュレーションが進んだ時、時刻t+△tにおける系統状態量の予測値を時刻tまでに演算の完了している系統状態量を基にして演算する。
【0115】
66は系統に存在する発電機やその制御系、負荷、調相設備等の個々の機器毎の状態変化を演算する微分方程式計算部である。67は時刻毎の系統状態量を計算する演算を実施する系統状態量計算部であり、この系統状態量計算部67は、時刻毎に微分方程式計算部66で演算された各機器の状態量が入力され、系統の電圧分布と電流分布及び潮流分布の関係式を表わす連立方程式を求解する演算を実施する。この演算結果はシミュレータデータ保存部63に保存する。
【0116】
次に実施例4の動作を図10のフローチャートに従って説明する。シミュレーション開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST101)。次にシミュレーション実行時の処理として一定時間間隔△tで、時刻を進める毎の演算処理を説明する。そのため、時刻tまでの演算が完了した時点で、次の時刻t+△tにおける状態量を演算する動作を説明する。
【0117】
先ず、変化率検出部64において時刻tにおける系統状態量の変化率を前記(4.1)式に従って演算する(ステップST102)。(4.1)式は1次の微係数を演算しているが、2次の微係数を同時に演算する場合もある。
【0118】
次に時刻tにおける系統状態量の変化率の値を評価し、規定範囲内の値か否かを判定する(ステップST103)。この変化率の値が規定範囲内のとき、変化率に従って時刻t+△tにおける系統状態量の予測値を演算する(ステップST104)。変化率が規定範囲を超過した場合は、変化率に修正を施し、時刻tにおける変化率として修正後の値を使用した上で時刻t+△tにおける系統状態量の予測値を演算する(ステップST105)。この変化率を修正する方式の例としては、変化率を0でおきかえる方式がある。この場合は時刻tにおける系統状態量をそのまま時刻t+△tにおける予測値とすることにほかならない。あるいは、変化率に0<a<1なる定数aを乗じることによって修正する方式である。以上により、時刻t+△tにおける系統状態量の予測値演算がなされる。
【0119】
次に、微分方程式を計算する演算を行なう(ステップST106)。微分方程式を計算する演算は、系統に存在する各機器毎の状態を表わす状態変数の値として、時刻t+△tにおける状態変数の値を演算することである。微分方程式の計算手法として陰性アルゴリズムに従っている場合、時刻t+△tの状態変数を演算するにあたって、時刻t+△tの系統状態量の値を入力値として与える必要のある場合がある。しかるに系統状態量計算部67における演算は未だ実施していないため、時刻t+△tの系統状態量としての既に演算がなされている予測値を入力する。
【0120】
次に、微分方程式の演算結果である各機器毎のt+△tにおける状態量に従って、時刻t+△tにおける系統状態量を計算する演算を行なう(ステップST107)。この演算は時刻t+△tにおける系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす静的な連立方程式を求解する演算である。
【0121】
この連立方程式を求解する手法として収束計算手法に基づいた反復演算を実施する方式について説明する。この場合、反復演算における反復初回の初期値を設定する必要があるが、その反復初回の初期値として時刻t+△tにおける系統状態量の予測値を設定する。その後収束計算の手法に基づいた反復演算を行ない、連立方程式を求解する。これで時刻t+△tにおける系統状態量の演算が完了したので、その演算結果を出力する(ステップST108)。
【0122】
以上で時刻t+△tにおける処理を終了し、tに△tを加算して次の時刻の演算に進む(ステップST109)。しかる後、シミュレーション終了時刻に到達したかを判定し(ステップST110)、時刻に到達していなければ、ステップST102に戻って該ステップST102以後の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。
【0123】
以上のように実施例4においては、シミュレーション時刻が時刻tまで、演算が完了したとき、時刻tにおける系統状態量の変化率を演算し、その変化率に従って時刻t+△tにおける系統状態量を推定することによって、時刻t+△tにおける系統状態量の予測値を演算し、この予測値を時刻t+△tの系統状態量の分布を決定する連立方程式求解のための収束計算の反復初期値に設定する。
【0124】
このように予測値を反復演算の反復初期値に設定することが何故有効であるかを説明する。系統状態量の時間的な変化は、通常は連続的かつなめらかに変化するから、時刻tまでの演算結果と時間tにおける変化率、即ち変化の傾向をもとにして時刻t+△tにおける系統状態量を、テーラー展開の原理に従って予測することができる。あるいは他の予測法として、多項式による近似(補間)の原理に従って予測することもできる。
【0125】
これらの予測値は非常に真値に近い値を与える。一方、時刻t+△tにおける電力系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす静的な連立方程式を、収束計算の手法に基づいた反復演算によって求解することによって、系統の系統状態量の分布状況を演算する場合、反復初期値に極力収束真値に近い値を設定することが反復回数の削減につながる。
【0126】
実施例4では、反復初期値として、過去の時刻の演算結果から、変化の傾向に従って時刻t+△tにおける値を予測計算した結果を設定するので、非常に真値に近い反復初期値を与えることになり、反復回数を削減することができて、演算時間を短縮することができるという効果がある。
【0127】
次に、実施例4では、系統状態量の変化率の大きさを常にチェックし、規定範囲を超過した場合は変化率に修正を施すとともにこの修正後の変化の傾向に従った予測値を演算した。このような動作、作用が何故有効であるかを以下に説明する。
【0128】
予測値の計算手法として、系統状態が時間とともに連続的かつなめらかに変化している場合は、上記のような予測値計算法が適しているが、現実には、系統状態が不連続に変化したり、あるいは鈍角的に変化する場合がある。即ち系統状態が急変する場合がある。このように系統状態が急変したときに、上記のようにテーラー展開の原理に従って予測値を演算すると、かえって精度の劣化した予測値を演算してしまうことになり、その結果、シミュレーション結果が発散したり、振動現象やチャタリング現象が発生する等の不安定現象を誘発することがある。多項式による近似(補間)の原理に従って予測値を演算している場合についても、系統状態が急変したときに、予測値の精度が劣化するのは同様である。
【0129】
このような不安定現象を抑止するために、従来は収束計算の反復回数を増加させることによって不安定現象を回避していた。この方法は、収束計算の反復初期値の精度が悪い場合に演算の反復回数を増やすことによって精度を確保しようとすることであり、演算時間の短縮という観点においては甚だ不都合な回避策であった。
【0130】
この点において本実施例4では系統急変を検出すると、変化率を0とおいて予測計算するか、あるいは0<a<1なる定数を変化率に乗じて修正した上で、予測計算する手法をとっているため、予測値の段階で急激的かつ不要な状態変化としての不安定要因を抑止した上で、反復初期値に設定することになる。
【0131】
その結果、演算における反復回数を増加させることなく不安定現象を抑止することができて、演算精度の確保と、演算時間の短縮を両立させることができる。
【0132】
また、本実施例4では上記の系統急変検出手段として、系統状態量の時間的変化率を表わすデータを演算して、この大きさを常にチェックし、この変化率を表わすデータが一定範囲を超過したか否かによって系統急変か否かを検出する手法とした。この手法は一旦系統状態量を実際に演算した結果から変化状況を監視することによって、急変を検出することであり、シミュレーションの演算結果をフィードバックして急変を検出していることにほかならない。
【0133】
このようにシミュレーション結果をフィードバックすることによって系統急変を検出することが何故有効であるかを説明する。系統急変現象を模擬する際、急変時に特殊な処理を要するのは、従来の電力系統シミュレータでも同様であるが従来は次の(a),(b)の場合のみ系統急変と見做していた。
【0134】
(a)あらかじめ決められたシミュレーション時刻において系統変動事故を発生させる場合。
(b)オペレータによって、シミュレーション中に、系統変更や事故を発生させる操作がなされる場合。
【0135】
(a)の場合はシミュレーション時刻が該当時刻に到達したか否かを判定することが、急変検出手段である。また(b)の場合はオペレータの操作によって急変発生を通知する信号を発生させる信号発生手段と、シミュレータ側でこの信号を検出する検出手段を組み合せることによって急変発生検出手段を構成することができる。何れの場合もシミュレーション結果をフィードバックさせて急変検出する必要はないが、以下の(c),(d)の場合においてはこの限りではない。
【0136】
(c)電力系統シミュレータに他の外部機器が接続されており、この外部機器が不定時刻に動作するとともに、その動作によって系統状態の急変が引きおこされ、かつこの外部機器が動作とともに電力系統シミュレータに、動作発生信号を通知しない場合。
(d)電力系統の状態をフィードバックして監視することによって、電力系統を操作する機器のモデルを、シミュレーションで模擬対象機器として含んでいる場合。
【0137】
これら(c),(d)の場合は、系統急変が発生する時刻は不定であるから時刻をチェックすることによって急変検出することはできない。また、(c)の場合の外部機器や(d)の場合の機器モデルにおいて、急変通知信号発生手段を設置することも考えられるが、個々の外部機器や機器モデルの各々にこのような信号発生手段の設置を要求することは、シミュレータの汎用性という点において非常に好ましくない。このような理由によって、従来の電力系統シミュレータでは、特定時刻や特定要因で系統急変を検出するので、上記の(c)や(d)の場合に、系統状態の急変を検出し得ず、従って必要な急変時の特殊処理を実施することができなかった。
【0138】
これに対して本実施例4では、一旦演算した系統状態量をフィードバックすることによって、電圧ベクトル等の系統状態量の急変を検出し、それによって系統急変か否かを判定するので、如何なる時刻で急変が生じても、また如何なる要因で急変が生じても、必ず系統急変と判定して、判定漏れがないという特徴を有する。
【0139】
その結果、シミュレーションの演算として必要な系統急変時の特殊処理を必ず実施することができて、演算結果の精度を向上させることができる。そしてこのように演算精度を向上させた結果、諸演算における不要な反復回数の増加を抑止することができて、演算時間を短縮できるという効果がある。
【0140】
実施例4では、シミュレーションが時刻tまで完了して次の時刻(t+△t)の諸量を演算するに当たって、あらかじめ前の時刻tにおける系統状態量の変化率を演算するとともに、この変化率の値が規定範囲内か否かの判定を行ない、規定範囲を超過した時は、変化率に修正を施した。
【0141】
そして、この様にして演算及び修正がなされた変化率に従って次の時刻(t+△t)の系統状態量を予測し、その予測値を微分方程式を求解する演算の入力にするとともに、次の時刻t+△tの系統状態量を反復演算で収束計算する際の反復初回の初期値に設定した。
【0142】
その結果、シミュレーションとしての系統状態量演算結果として、時間軸方向へのチャタリング現象、振動現象、あるいは発散現象等の現実には生じ得ない不安定現象が発生しはじめたとき、それら不安定現象の開始を系統状態量の変化率の超過判定により検出して、演算が安定化する方向に変化率を修正して次の時刻の演算の入力値とすることになる。
【0143】
そのため、チャタリング現象や、振動現象、あるいは発散現象等の不安定現象が生じることなく常に安定した演算結果を得ることができる。その結果、微分方程式の積分演算における反復演算による入力値の修正における反復回数や、系統状態量を反復演算により演算する場合における反復回数等、各種収束計算における反復回数を減少させても、不安定現象を生じることなく常に安定した演算結果を得ることができて計算精度が確保され、演算時間を短縮できる。
【0144】
実施例5.
図11はこの発明の実施例5の電力系統シミュレータを示す構成図であり、図において、71はマンマシン装置、72は入出力処理部、73はシミュレータデータ保存部である。76は微分方程式計算部であり、系統に存在する発電機やその制御系、あるいは負荷、調相設備等の各々の機器の状態変化を積分刻み幅△tで演算する。
【0145】
77は演算手段としての系統状態量計算部であり、微分方程式計算部76で演算された各機器の状態量に従って系統全体の電圧分布や潮流分布等の系統状態量を演算する。74は微分方程式計算部であり、系統に存在する発電機やその制御系あるいは負荷、調相設備等の各々の機器の時間間隔2△tの状態変化を演算する。本実施例では積分刻み幅2△tで微分方程式を計算する。
【0146】
75は系統状態量計算部であり、微分方程式計算部74で演算された各機器の状態量に従って系統全体の電圧分布や電流分布や潮流分布等の系統状態量を演算する。78は並列演算機構74〜77を管理制御するための並列計算管理手段である。
【0147】
上記微分方程式計算部76と系統状態量計算部77によって電力系統状態量の△t時間間隔の状態変化が演算される。また、微分方定式計算部74と系統状態量計算部75によって電力系統状態量の2△t時間間隔の状態変化が演算される。
【0148】
微分方程式計算部74の演算結果は、同一演算周期において系統状態量計算部75に入力される。系統状態量計算部75の演算結果は、演算周期を更新する前にいったん保存されたのち、演算周期が更新されて次の演算周期に移行すると、微分方程式計算部76と系統状態量計算部77に入力される。
【0149】
微分方程式計算部76の演算結果は系統状態量計算部77に入力される。系統状態量演算部77の演算結果であって該当演算周期における最終演算結果がシミュレータデータ保存部73に入力される。
【0150】
実施例5の動作を図12のフローチャートに従って説明する。シミュレーション開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST121)。次にシミュレーション実行時の周期的な処理として、一定時間間隔△tで時刻を進める毎の演算処理を説明する。そのため、時刻tまでの演算が完了した時点で、次の時刻t+△tにおける諸量を演算する1演算周期における動作を説明する。
【0151】
時刻t+△tにおける諸量の演算として、先ず、微分方程式計算部76によって系統に存在する発電機やその制御系あるいは、負荷、調相設備等の個々の機器の状態変化を表わす微分方程式を積分刻み幅△tで求解する演算を行い、時刻t+△tにおけるこれら機器の状態変数の値を求める(ステップST122)。
【0152】
次にこの演算結果に従い、系統状態量計算部77によって時刻t+△tにおける系統の状態量を演算する(ステップST123)。この演算結果を時刻t+△tにおける系統状態量の演算結果として出力する(ステップST124)。
【0153】
以上のステップST122乃至ステップST124の処理の間に、並行して次の処理を行う。時刻tまでの演算結果に従い、微分方程式計算部74によって系統に存在する発電機やその制御系あるいは負荷、調相設備等の個々の機器の状態変化を表わす微分方程式を積分刻み幅2△tで求解する演算を行い、時刻t+2△tにおけるこれら機器の状態変数の値を求める(ステップST125)。次にこの演算結果に従い、系統状態計算部75によって時刻t+2△tにおける系統状態量を演算する(ステップST126)。また、この演算結果を保存する(ステップST127)。
【0154】
以上でステップST121乃至ステップST127の処理が完了し、時刻t+△tに該当する演算サイクルの諸演算が完了したので、時刻変数に△tを加算することによって次の時刻に進める(ステップST128)。
【0155】
上記ステップST126による演算結果は、時刻を進める前は時刻t+2△tにおける系統状態量を表わしていたが、時刻を△t進めたことによって、時刻t+△tにおける系統状態量を表わすことになる。
【0156】
次の演算サイクルの時刻におけるステップST122、ステップST123の演算に先立ち、時間△t後の系統状態量が既にステップST126の演算結果として保存済みであるので、この保存されたステップST126の演算結果を、ステップST122の演算における△t後の系統状態量の予測値として微分方程式計算部76の入力データとして設定するとともに、同じくこの保存されたステップST126の演算結果を、ステップST123の演算における△t後の系統状態量の予測値として系統状態量計算部77における反復初期値を設定する(ステップST129)。
【0157】
しかる後、シミュレーション終了時刻に到達したかを判定し(ステップST130)、時刻に到達していなければステップST121の後に戻ってそれ以後の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。
【0158】
以上の動作により、実施例5では、演算が進むに従い、シミュレーション開始時点以外の、毎回の演算サイクルにおける微分方程式を計算する演算(ステップST122)及び系統状態量を計算する演算(ステップST123)の入力として、前の演算サイクルにおけるステップST126の演算結果によって、時刻が△t進んだ時点における系統状態量が予測値として設定された上で、各々の微分方程式を計算する演算(ステップST122)及び系統状態量を計算する演算(ステップST123)がなされることになる。
【0159】
この様に時刻t+△tの時点の系統状態量を予め前の演算サイクルで演算し、その結果を、時刻t+△tの時点での系統状態量の予測値をみなした上で、微分方程式を計算する演算を行うこと及び系統状態量を計算する演算を行うことが何故有効であるかを説明する。
【0160】
微分方程式を計算する演算(ステップST122)においては、電力系統を模擬する上で陰性アルゴリズムに従う手法を採用することが一般的である。この陰性アルゴリズムに従った場合、時刻t+△tにおける機器の状態変数を演算するにあたって、時刻t+△tの系統状態量を入力として与える必要がある。
【0161】
この入力として与える時刻t+△tにおける系統状態量の精度が微分方程式計算の演算結果の精度に大きな影響を及ぼすことになるが、本実施例5では前の演算サイクルにおいて図12のステップST125、ステップST126の過程を経た演算結果を、時刻t+△tにおける系統状態量として入力しているため、非常に高精度の入力を与えることになる。
【0162】
このステップST125、ステップST126の過程を経た演算結果は、単に過去のシミュレーション時刻の演算結果をもとにした時間的変化の傾向から不確定的に推定して予測演算を行うのではなく、満足するべき微分方程式や系統状態量の諸量の関係式を表わす方程式を各々求解する演算過程を経ていることが、高精度の入力を与える理由である。
【0163】
また、系統状態量を計算する演算では(ステップST123)、時刻t+△tにおける系統の電圧分布と電流分布又は潮流分布の関係を表わす連立方程式を求解する演算がなされるが、演算手法として収束計算の手法に基づいた反復演算を実施する手法が一般的である。その際、反復演算における反復初回の初期値を設定する必要があるが、この初期値が高精度で収束結果の真値と近い程、反復演算における反復回数が少なくて済み、演算時間の短縮を図ることができる。
【0164】
本実施例5では前の演算サイクルにおけるステップST125、ステップST126の過程を経た演算結果を、反復演算の初期値として与えたことになるため、非常に高精度で真値に近い初期値を入力することになる。その結果反復演算の反復回数を削減することができる。
【0165】
以上の様に実施例5では、演算周期毎に刻み時間△tずつ時間を進めていくシミュレーションの各々の演算周期において、△t時間後の状態を演算するための微分方程式求解演算及び系統状態量を計算する演算の実施に並行して2△t時間後の状態を演算するための微分方程式求解演算及び系統状態量を計算する演算を並行実施する方式とし、演算がなされた2△t時間後の系統状態量の演算結果を次の演算周期における、△t時間後の状態を演算するための微分方程式求解演算における△t時間後の系統状態量の予測値として入力設定するとともに、△t時間後の系統状態量を計算する演算における収束計算手法に基づく反復演算の反復初回の初期値に設定する。
【0166】
その結果、△t時間後の状態を演算するための微分方程式求解演算における△t時間後の系統状態量の予測値として、非常に高精度の予測値が設定されることになって、微分方程式求解手法としての陰性アルゴリズムにおける、予測値を修正するための反復演算の反復回数を著しく減少させることができる。
【0167】
また、△t時間後の系統状態量を計算する演算における反復演算の反復初期値が非常に真値に近いため、△t時間後の系統状態量を計算する演算における反復回数を著しく減少させることができる。これらの結果、シミュレーションに要する演算時間を著しく減少させる。
【0168】
また、実施例5において特徴的に付加された演算動作であるところの、2△t時間後の状態を演算するための微分方程式の求解演算(ステップST125)や系統状態量を計算する演算(ステップST126)が、従来から必要であった演算動作としての△t時間後の状態を演算するための微分方程式の求解演算(ステップST122)や系統状態量を計算する演算(ステップST123)と並列化されて並行して演算がなされるため、演算動作の付加に伴う演算時間の増加が抑止されて、演算時間を短縮する。
【0169】
実施例6.
前記実施例5では電力系統状態量の△t時間間隔の状態変化の演算と、電力系統状態量の2△t時間間隔の状態変化の演算を並列化して演算する方式を示したが、△t時間間隔の状態変化の演算に関する演算データと、2△t時間間隔の状態変化の演算に関する演算データをベクトル的多重データとして扱い、ベクトル的多重演算手段によって△t時間間隔の状態変化と、2△t時間間隔の状態変化を同時に演算する方法でもよい。
【0170】
図13は上記のような考え方に基づく実施例6の電力系統シミュレータを示す構成図であり、図において、前記実施例5を示す図11と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。ベクトル的多重演算手段としての系統状態量多重演算部81は、シミュレーション時刻が異なった2時点の各々の時点の時間断面での系統全体の電圧分布や電流分布や潮流分布等の系統状態量を独立して同時に演算する。
【0171】
本実施例6ではこの系統状態量多重演算部81において、シミュレーションが時刻tまで完了した時点での演算周期において、時刻t+△tとt+2△tの2時点での系統の電力分布と電流分布の関係を表わす2つの連立方程式を、多重演算手法に基づく演算によって同時に演算する。この多重演算手法の詳細は後に別途説明する。
【0172】
系統状態量保存部82は、時刻t+2△tにおける系統状態量の演算結果を退避保存するための退避領域であり、時刻を△t進めた次の演算周期における演算において、微分方程式計算部76に入力されるとともに、系統状態量多重演算部81におけるt+△t時点での系統状態量を演算する反復演算における反復初期値に入力される。
微分方程式計算部74の演算結果と微分方程式計算部76の演算結果は同一演算周期において系統状態量多重演算部81に入力される。
【0173】
次に実施例6の動作を図14のフローチャートに従って説明する。時刻tまでの演算が完了した時点で、次の時刻t+△tにおける諸量を演算する1演算周期における動作を説明する。
【0174】
シミュレーション開始時点の状態として系統状態量の初期値を設定する(ステップST141)。しかる後、微分方程式計算部76によって系統に存在する発電機やその制御系あるいは負荷調相設備等の個々の機器の状態変化を表わす微分方程式を積分刻み幅△tで求解する演算を行い、時刻t+△tにおけるこれら機器の状態変数の値を求める(ステップST142)。
【0175】
次に微分方程式計算部74によって個々の機器の状態変化を表わす微分方程式を積分刻み幅2△tで求解する演算を行い、時刻t+2△tにおけるこれら機器の状態変数の値を求める(ステップST143)。以上で時刻t+△t、t+2△tの各々について各機器の状態変数値の演算が完了したので、これらを、系統状態量多重演算部81に入力する。
【0176】
次に系統状態量多重演算部81によって時刻t+△t即ち△t時間後における系統状態量と、時刻t+2△t即ち2△t時間後における系統状態量が計算される(ステップST144)。時刻t+2△tにおける系統状態量のデータは次の演算周期にて入力とするため系統状態量保存部82に保存する(ステップST145)。また時刻t+△tにおける系統状態量は該当演算周期における演算結果として出力する(ステップST146)。
【0177】
以上で時刻t+△tに該当する演算周期での演算が完了したので、時刻変数に△tを加算することによって次の時刻に進める(ステップST147)。時刻を△t進めたことによって、前演算周期で、元来時刻t+2△tにおける系統状態量として保存していたデータが、時刻t+△tにおける系統状態量を表わすことになるので、このデータを、時刻t+△tにおける系統状態量の予測値として微分方程式計算部76の入力データとして設定するとともに、系統状態量多重演算部81における時刻t+△tに対する演算の反復初期値に予測値として設定する(ステップST148)。
【0178】
しかる後、シミュレーション終了時刻に到達したかを判定し(ステップST149)、時刻に到達していなければステップST142に戻って該ステップST142以後の動作を繰返し、時刻に到達していれば動作を終了する。
【0179】
次に実施例6における系統状態量多重演算部81を詳細に説明する。
(1)先ず多重演算を行わない場合の基礎となる計算理論を以下に示す。
系統状態量計算の理論は基本的に次のノードアドミタンス方程式(6.1)をI,Yを既知として求解し、Vを求めることである。
I=YV ・・・(6.1)
ここで、Yは系統のアドミタンス行列
Iは各ノードに注入される電流の電流ベクトルからなる列ベクトル
Vは系統の各ノードの電圧ベクトルからなる列ベクトル
である。
なお、上記成分は次のように表わすことができる。
【0180】
【数6】
ここで、Nは系統のノードの最大数である。
【0181】
上記の(6.1)式において、
Iは母線に接続された機器を電流源でモデル化した場合、該当機器の状態変数を微分方程式計算部によって演算し、その状態変数値から算出して電流値として設定される。
【0182】
Yは系統の各々の送電線アドミタンス等により既知である。即ち、微分方程式計算部によって個々の機器の状態変数の値が求まると、各ノードへの注入電流が算出されて(6.1)式のIが決定し、その後系統状態量計算部によってノードアドミタンス方程式(6.1)を求解してVを求め、電力系統の全体の電圧分布が決定されることになる。
【0183】
次にノードアドミタンス方程式(6.1)を求解するための収束計算の手法について説明する。この手法は逐次代入法の一種でヤコビ法と呼ばれる手法であり、次の反復公式に従って上・Vi(k)を修正していく。尚、“上・V”という表記はベクトル量を表わすための表記法である。
【0184】
【数7】
【0185】
上記(6.2) 式は反復がk回まで完了したとき、k回目の演算結果の電圧ベクトル上・V(k)
【数8】
を入力して、ノード番号iの電圧上・Vi に関してk+1回目の反復時に計算する公式を表わし、この公式を全てのノードi=1,・・・Nに渡って演算し、反復回数k+1回目の電圧ベクトル上・V(k+1)
【数9】
が得られる。この修正演算を反復すると、反復毎に修正された電圧ベクトル
【数10】
は次第にある値に収束していく。この収束値からなる電圧ベクトルがノードアドミタンス方程式(6.1)の解である。
【0186】
(6.2)式において、
【数11】
の項については、ノード番号iを基準にしたとき、j≠iである上・Yijはノード番号jのノードが、ノード番号iのノードと送電線を介して接続されている時に限って上・Yij≠0であるから、(6.2)式の反復公式を演算する場合は、ノード番号iのノードと送電線を介して接続されているノードのみについて上・Vj(k)を入力することによって演算がなされる。
【0187】
(2)次に系統状態量多重演算部81の目的と概要を説明する。
上記(1)ではある時間断面における電力系統のノードアドミタンス方程式を述べ、その入出力情報と、反復演算で求解する場合の反復公式について述べた。系統状態量多重演算部81の目的は2つの時間断面における電力系統のノードアドミタンス方程式を各々独立して求解する演算を行うとともに、その総所要演算時間を単一の時間断面のノードアドミタンス方程式を求解する場合の演算時間と同等まで抑止する演算アルゴリズムを得ることである。実施例6の場合は時刻t+△tとt+2△tにおける2つの時間断面におけるノードアドミタンス方程式を求解する演算を行うことである。
【0188】
系統状態量の時刻による違いを考慮するため、記号を以下の様に表記する。
【数12】
【0189】
実施例6における系統状態量多重演算部81で求解するのは、次の2つのノードアドミタンス方程式である。
I(t+△t)=YV(t+△t) ・・・(6.3)
I(t+2△t)=YV(t+2△t)・・・(6.4)
【0190】
各々の方程式を反復演算で求解する場合の反復公式は(6.2)に従い以下の様になる。
【数13】
【0191】
(3)系統状態量多重演算部81の内部構成を図15(A),図15(B)に従って説明する。図15(A)はシミュレーション対象としている電力系統の例を示したものであり、111、112、113、114はノード(母線)を表わし、115は発電機、116は送電線を表わす。
【0192】
図15(B)はこの系統に対して構成された系統状態量多重演算部81の内部構成を表わし、121、122、123、124は電圧データ修正部と称する。この電圧データ修正部は図15(A)における各ノードの個々に対して設けたものであり、例えば電圧データ修正部121はノード111に対応する。この電圧データ修正部121において、ノード111における電圧データについて、前記の反復公式(6.5)(6.6)に基づいた修正演算を実施する。同様に電圧データ修正部122はノード112に対応する。また、電圧データ修正部123、124は各々ノード113、114に対応する。なお、図16は図15(A)の各々のノード111〜114のノード番号を示したものである。
【0193】
電圧の記号上・Vi (t)(k)においてiはノード番号を表わしているから、例えば電圧データ修正部121は
【数14】
を反復の毎に、即ちKが1ずつ増加する毎に(6.5)(6.6)式でi=1とした式に従って演算する。同様に電圧データ修正部122は
【数15】
を、i=2とした式に従って反復の毎に演算する。
【0194】
図15(B)において、126は電圧データ修正部相互間を接続するデータバスであり、このデータバス126を介して電圧データ修正部相互のデータ転送がなされる。このデータバス126は模擬する系統の送電線にそって設けられる。即ち、2つの電圧データ修正部に対して対応する系統上の2つのノードが送電線で接続されているとき、またそのときに限ってこれら2つの電圧データ修正部はデータバス126で接続される。例えば図15(A)ではノード111と114の間は送電線でつながれていないが、これ以外のノードの組み合せでは全て送電線でつながれている。
【0195】
従って、図15(B)において電圧データ修正部121と電圧データ修正部124はデータバスで接続されていないがこれ以外の電圧データ修正部の2つの組み合せについては、全てデータバス126で接続されている。以上の様に図15(B)に示した系統状態量多重演算部の構成法は、模擬対象とする系統のノードに電圧データ修正部を対応させ、系統の送電線にデータ転送の通信経路としてデータバスを対応させることである。
【0196】
次に図15(C)に図15(A)の系統におけるアドミタンス行列を示す。ノード番号1と4のノード間の送電線がないため、上・Y14と上・Y41の部分が0になっている。このように、2つのノードが送電線を介して接続されているか否かは、アドミタンス行列の要素が0か否かから判定することができる。
【0197】
次に図17に、データバス126を介して転送されるデータのデータ構造を示す。図17に示す様に2つの時間断面t+△tとt+2△tにおける電圧ベクトルデータを並べてパケット化したデータとしている。このように、2つの時間断面における各々のデータをパケット化しているが故にベクトル的多重データと称している。
【0198】
(4)系統状態量多重演算部81の動作
系統状態量多重演算部81の動作を図18、図19に従って説明する。図18は電圧状態量多重演算部81の内部動作を表わし、図14におけるステップST144を更に詳細に示したものである。また、図18は系統状態量多重演算部81が図15に示した内部構成である場合について記述しており、図18の各々の処理がどのプロセッサ(電圧データ修正部)で実施されるかを図20に示している。例えばST181A,ST181B,ST181Cは電圧データ修正部121で処理がなされる。また反復ステップの1回の処理については各電圧データ修正部は並列して処理がなされる。
【0199】
図18は内部で反復演算を行い反復ステップをkで表わす。系統状態量多重演算部81の反復ステップk回目の処理はノード番号i=1,2,3,4における上・Vi (t+△t)(k)を既知として反復公式(6.5)に従って全ノードの上・Vi (t+△t)(k+1)を演算することによって電圧データを修正することである。
【0200】
また、ノード番号i=1,2,3,4における上・Vi (t+2△t)(k)を既知として反復公式(6.6)に従って全ノードの上・Vi (t+2△t)(k+1)を演算し電圧データを修正することである。この様な反復をくりかえすことによって上・Vi (t+△t)(k)と上・Vi (t+2△t)(k)は次第に真値に収束してゆき、ノードアドミタンス方程式(6.3)と(6.4)が求解され、各々の時刻における電力系統残体の電圧分布が決定される。
【0201】
なお、反復公式(6.5)(6.6)における電流の項上・Ii (t+△t)(k)および上・Ii (t+2△t)(k)は各々微分方程式計算部76、74によってノードに接続された発電機の状態変化を演算した結果から演算され、系統状態量多重演算部81に入力されたものである。なお、上・Ii (t+△t)は76で、上・Ii (t+2△t)は74で各々演算された結果である。
【0202】
以下、図18の各処理を説明する。電圧データ修正部は何れも同様の処理であるから電圧データ修正部121の処理を説明する。反復ステップk回目において電圧データ修正部121は図17でi=1としたパケットデータを電圧データ修正部122と123に転送する。これに並行して電圧修正部122はi=2とした図17のパケットデータを電圧データ修正部121,123,124に転送する。電圧データ修正部123,124の処理も同様である。ノード111と114は送電線で接続されていないから、電圧データ修正部121から124へはパケットデータは転送されない。同様に電圧データ修正部124から121へのパケットデータは転送されない。以上の様に電圧データ修正部の間で相互にパケットデータを授受する。(ステップST181A,ステップST182A,ステップST183A,ステップST184A)。
【0203】
以上の結果、電圧データ修正部111には、j=2,3における上・Vj (t+△t)(k)と上・Vj (t+2△t)(k)が転送されたことになるので、反復公式(6.5)によって上・V1 (t+△t)(k+1)を演算する(ステップST181B)。また反復公式(6.6)によって上・V1 (t+2△t)(k+1)を演算する(ステップST181C)。他の電圧データ修正部112,113,114でも同様であり、i=2,3,4における上・Vi (t+△t)(k+1),上・Vi (t+2△t)(k+1)が演算される。以上で反復ステップk回目における電圧データ上・Vi (t+△t)(k+1)と上・Vi (t+2△t)(k+1)の修正が完了する(ステップST182B,ステップST182C,ステップST183B,ステップST183C,ステップST184B,ステップST184C)。
しかる後、反復演算終了かを判定し(ステップST185)し、NOであればk+1とした後(ステップST186)、反復演算が終了するまでくりかえす。
【0204】
なお、図16のノード番号がiに対応する電圧データ修正部を、以下、記号Pi で表わす。図18のステップST181A,ステップST182A,ステップST183A,ステップST184Aの部分の処理を包括的に延べると、以下のようになる。
【0205】
即ち、
Pi は、j=1〜N(Nはノード総数)のなかでi≠j,上・Yij≠0であるjについて、Pj に対して上・Vi (t+△t)(k)と上・Vi (t+2△t)(k)からなるパケットデータを転送し、次に、j=1〜Nのなかで、i≠j,上・Yij≠0であるjについてPj から上・Vi (t+△t)(k)と上・Vi (t+2△t)(k)からなるパケットデータを受信する。図19では、これらの内容をステップST191〜ステップST202のフローチャートで表わした。
【0206】
(5)系統状態量多重演算部81の効果
以上の系統状態量多重演算部81の構成動作により異なる2つの時点のノードアドミタンス方程式(6.3)と(6.4)を求解する演算を行うが、この求解演算は1つの時点におけるノードアドミタンス方程式(6.3)のみを求解する演算に比べて演算時間が同じであることを以下に説明する。
【0207】
ノードアドミタンス方程式(6.3)のみを求解する場合に比べて、ノードアドミタンス方程式(6.3)と(6.4)を両方求解する場合に、処理及びデータ等で増加しているのは、図18におけるステップST181C,ステップST182C,ステップST183C,ステップST184Cの処理が増加している点と、図17に示したパケットデータでVi (t+2△t)の部分が添加されて、データ長が2倍になった点の2点に限られる。
【0208】
一方、図18と図19に示したフロー図において所要する処理時間のうち、真に処理時間が必要となるのは、図19におけるパケットデータを他の電圧データ修正部に転送する処理(ステップST194)と、他の電圧データ修正部から転送されてきたパケットデータを読み込む部分の処理(ステップST200)においてである。
【0209】
図18と図19におけるその他の処理については、その処理時間は無視し得る程短い。従って、系統状態量多重演算部81の演算時間はパケットデータの転送による電圧データ修正部の相互のデータ授受によって殆んど全ての時間が占められる。また個々のデータ転送に要する時間としては転送データ長が一定値以下であれば、1回毎のデータ転送で必要となる転送回路の立ち上り時間、即ち転送のオーバーヘッドに要する時間が殆ど全てを占める。そのため図16に示したパケットデータのデータ長であれば、データ長を減少させてもオーバーヘッド時間は減少しないため、転送時間は減少しない。即ちパケットデータで上・Vi (t+2△t)(k)の部分が増加されていることに起因する転送時間の増加はない。
【0210】
以上により系統状態量多重演算部81における演算時間は、パケットデータを転送する転送回数だけに依存し、パケットデータのデータ長や、転送読み込み処理時間は無視できることが明らかになった。
【0211】
系統状態量多重演算部81のアルゴリズムにおいて、方程式(6.3)のみを求解する場合に比べて、方程式(6.3)と(6.4)を両方求解する場合、データの転送回数は同一で、増加しない。また、方程式(6.3)のみを求解する場合に比べて、方程式(6.3)と(6.4)を両方求解する場合に増加する処理は、図18におけるステップST181C,ステップST182C,ST183C,ステップST184Cの部分の処理であるが、これは前述したように処理時間は無視できる。また、他の相違点として図16に示したパケットデータについて上・Vi (t+2△t)の部分が添加されて、データ長が2倍になった点があるが、このデータ長の増加が処理時間に影響しない(演算時間の増加は無視できるほど小さい)ことも前述したとおりである。
【0212】
以上で、ノードアドミタンス方程式(6.3),(6.4)を両方求解する処理は、ノードアドミタンス方程式(6.3)のみを求解する場合の処理と比べて処理時間の増加は無視できることが明らかとなった。
【0213】
実施例6では、シミュレーション時刻tまで演算が完了したとき、個々のノード毎のt+△t時点における系統状態量とt+2△tにおける系統状態量を単一のデータパケットに配置し、パケット化することによってベクトル的多重データとして扱い、時刻t+2△tにおける系統状態量の計算と時刻t+2△tにおける系統状態量の計算を同時に演算する方式とした。一方系統状態量の計算は、ノード毎のデータを相互授受するデータ転送回数だけに左右することを説明した。
【0214】
このような方式としたため、実施例6では2△t時間間隔の電力系統状態量の演算を追加しているのにもかかわらず、△t時間間隔の電力系統状態量の演算に係るデータと、2△t時間間隔の電力系統状態量の演算に係るデータをノード毎にパケット化してベクトル的多重データとして扱うため、系統状態量の計算におけるノード毎のデータの相互授受におけるデータ転送回数は増加しない。
そのため、2△t時間間隔の電力系統状態量の演算の追加に伴う演算時間の増加が抑止されるとともに前記実施例5と同様の効果が得られる。
【0215】
そしてまた、△t時間間隔の演算に係るデータと2△t時間間隔の演算に係るデータをパケット化しているため、ノード毎のデータの相互授受を擬似的に並列化していることになり、2△t時間間隔の電力系統状態量の演算の増加に伴っても専用プロセッサ等の演算装置の追加が不要である。
【0216】
実施例7.
実施例7の構成を図21(A),図21(B)に従って説明する。図21(A)は実施例7の模擬対象とする電力系統図の一例であり、図21(A)において、131,132,133,134,135,136,137,138,139はノード、115は発電機、116は送電線である。
【0217】
図21(B)はこの電力系統に対して構成された系統状態量多重演算部の構成図であり、図21(B)において、142,143,144,145,146,147,148,149は演算プロセッサであって電圧データ修正部、126はデータバスである。図21(A)の各ノードに対して、どの電圧データ修正部が割り当てられているかという点と、各々のノード番号を図22に示す。各電圧データ修正部は、該当するノードについて反復公式(6.5),(6.6)に示す演算を行う。
【0218】
図21(B)において、141Aはデータ中継プロセッサを表わし、電圧データ修正部141とデータバス126で接続されている。ノード131の電圧データを修正するための反復公式(6.5),(6.6)に該当する演算(公式中i=1としたもの)を行うためには、電圧データ修正部142,143,144,145,146,147,148,149と図16に示したパケットデータを転送して相互授受する必要がある。
【0219】
このノード131の電圧データ修正に要する8個の電圧データ修正部142〜149を通信相手としたデータ転送動作を、電圧データ修正部141とデータ中継プロセッサ141Aで分担して転送動作を行う。分担として、電圧データ修正部141は、電圧データ修正部142,143,144,145とデータ転送を行う。そしてデータ中継プロセッサ141Aは、電圧データ修正部146,147,148,149とデータ転送を行う。このデータ転送を相互に行う構成要素間は図21(B)に示す如くデータバス126を設けてある。
【0220】
各ノードに対応した電圧データ修正部について、どの電圧データ修正部に関するデータ転送を、データ中継プロセッサ141Aを介して分担させるかという点については、系統のノードとして最も多くの送電線が接続されているノードに対応した電圧データ修正部の転送処理を分担させるものとする。図21(A)に示した系統では、最も多くの送電線が接続されているノードは131であるから、これに対応した電圧データ修正部141について、データ中継プロセッサ141Aを接続して転送処理を分担する。
【0221】
次に実施例7の動作を図23のフローチャートについて説明する。このフローチャートは電圧データ修正部141とデータ中継プロセッサ141Aの動作を示したもので、他の電圧データ修正部142,143,144,145,146,147,148,149の動作については実施例6における図18、図19と同じであるから重複説明を省略する。また、図23に示した処理は系統状態量多重演算において、ノード131の電圧データを反復演算によって順次修正していく過程の1回の反復における処理を表わす。従って、図18との対比で言えば、前記実施例6についてのフローチャート(図18)の、ステップST181A,ステップST181B,ステップST181Cの3つの処理を連続して行うことと、図23に示すフローチャートの処理全体が同等の処理となる。
【0222】
また、図23の処理のうち、ステップST231乃至ステップST235は電圧データ修正部141の処理を表わし、ステップST236乃至ステップST240は、データ中継プロセッサ141Aの処理を表わす。このように、電圧データ修正部141とデータ中継プロセッサ141Aは並行して動作する。
【0223】
以下に、図23に従い、電圧データ修正部141とデータ中継プロセッサ141Aの動作を説明する。先ず、電圧データ修正部141からデータ中継プロセッサ141Aにノード番号1の電圧データに関するパケットデータを転送する。(ステップST231,ステップST236)。次に電圧データ修正部141は電圧データ修正部142,143,144,145に、ノード番号1の電圧データに関するパケットデータを転送する(ステップST232)。この間にデータ中継プロセッサ141Aはノード1番号の電圧データに関するパケットデータを、電圧データ修正部146,147,148,149に転送する(ステップST237)。これらの間に電圧データ修正部142,143,144,145から各々ノード番号2,3,4,5の電圧データに関するパケットデータが電圧データ修正部141に転送されてくるので、電圧データ修正部141においてこれを読みこむ(ステップST233)。同様に、電圧データ修正部146,147,148,149から各々ノード番号6,7,8,9の電圧データに関するパケットデータがデータ中継プロセッサ141Aに転送されてくるので、データ中継プロセッサ141Aにおいてこれを読み込む(ステップST238)。この状態でデータ中継プロセッサ141Aにおいて、反復公式(6.5)(6.6)における総和記号の項
【数16】
のうち、ノード番号6,7,8,9の電圧データが受信済みであるので、これらを使用して演算可能な部分について演算を実施する(ステップST239)。
【0224】
その演算結果をIA1,IA2とおくと、これらは以下の演算式となる。
【数17】
【0225】
データ中継プロセッサ141Aでは、IA1,IA2に該当するデータをパケット化してパケットデータを作成し、このIA1,IA2からなるパケットデータを電圧データ修正部141に転送する(ステップST240,ステップST234)。電圧データ修正部141では既に読み込んでいるノード番号2,3,4,5の電圧データと上記IA1,IA2からなるパケットデータが読み込み済みとなったため、反復公式(6.5),(6.6)における演算が可能となり、反復公式(6.5)(6.6)における計算の演算を実施する(ステップST235)。このとき、上記のように演算済みとなったIA1,IA2を使用するので、具体的な演算式は以下のようになる。
【0226】
【数18】
【0227】
以上でノード131(ノード番号1)における反復公式に従った反復1回分の電圧データの修正が完了した。それ以外の動作は前記実施例6と同様であるので、重複説明を省略する。
【0228】
前記実施例6における系統状態量多重演算部81の説明で述べた様に、電圧データ修正部を配置して電圧データの相互授受をくりかえすことによって、ノード方程式を求解する演算については、電圧データ修正部毎のデータ転送回数が総演算時間を決定する。また、電圧データ修正部にてなされるデータ転送の回数は、その電圧データ修正部に該当する電力系統のノードの接続している送電線数に比例する。従って反復演算の1回の反復については、系統の中で最も接続送電線数の多いノードに該当する電圧データ修正部のデータ転送回数が最も多いため、この電圧データ修正部の演算時間が系統状態量多重演算部81の総演算時間を左右する。
【0229】
実施例7ではこのような電圧データ修正部に対してデータ中継プロセッサ141Aを設け、演算に必要なデータ転送を中継することによって転送処理を分担し、並列化したので、電圧データ修正部におけるデータ転送に要する逐次的なデータ転送回数を削減することができる。この結果、各電圧データ修正部で逐次的に行なわれるデータ転送の転送回数の最大回数を削減することになって、系統状態量多重演算部の総演算時間を削減することができ、多数の送電線が接続されているノードが存在する時に有効であるという効果がある。
【0230】
実施例8.
前記実施例5では電力系統状態量の2△t時間間隔の状態変化を演算するために微分方程式を積分刻み時間幅2△tで計算する演算を行なったが、これを微分方程式を積分刻み△tで計算する演算を逐次的に2回くりかえす方法でもよい。このような動作にもとづいた実施例8を以下に説明する。
【0231】
図24はこの発明の実施例8の電力系統シミュレータの構成図であり、図において、前記実施例5の構成図を示す図11と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図11と図24の相違点は、図11における微分方程式計算部74が図24において微分方程式計算部74Aに変更になった点のみである。
【0232】
この微分方程式計算部74Aは、系統に存在する発電機やその制御系、あるいは負荷、調相設備等の各々の機器の時間間隔2△tの状態変化を演算する微分方程式計算部であり、積分刻み幅△tで微分方程式を求解する演算を2回逐次的にくりかえすことによって、2△tの時間間隔の状態変化を演算する。
【0233】
次に実施例8の動作を図25のフローチャートに従って説明する。図25における各ステップST251〜ステップST254,ステップST256〜ステップST260は、図12におけるステップST121〜ステップST124,ステップST126〜ステップST130と同じであるから重複説明を省略する。
【0234】
本実施例8では微分方程式計算部74Aにおいて、最初に積分刻み幅△tで微分方程式を求解する演算を行い、系統に存在する発電機やその制御系あるいは負荷、調相設備等の個々の機器の時刻tからt+△tまでの状態変数の変化を演算することによって、時刻t+△tの状態変数の値を演算する(ステップST255A)。この動作につづいて再度積分刻み幅△tで微分方程式を求解する演算を行うことによって、機器の状態変数のt+△tからt+2△tまでの変化を演算し、時刻t+2△tにおける状態変数を演算する(ステップST255B)。
【0235】
以上の様にステップST255A,ステップST255Bを連続して行うことによって、2△t時間間隔の間の状態変数の変化を演算してt+2△tにおける機器の状態変数の値を求める。この演算結果を系統状態量計算部75に入力する。
【0236】
実施例8では、反復初期値演算を先行して演算するための電力系統状態量の2△t時間間隔の変化を演算するため、機器の状態変数の2△t時間間隔の変化を演算する。この結果、微分方程式を積分刻み幅△tで演算する動作を2回くりかえして、順次△t時間後までの状態変化と△t時間後から2△t時間後までの状態変化を逐次演算する。その結果、微分方程式を演算するための時間刻み幅の細密性を保って演算するとともに、積分刻み幅を拡大することに起因する微分方程式求解演算上の離散化誤差の発生を抑止することになり、電力系統状態量の2△t時間間隔の変化を演算した演算結果の精度を向上させることができる。
【0237】
この精度の向上した演算結果を、次の演算周期における△t時間間隔の状態変化を演算する反復演算の反復初期値に設定するので、反復初期値演算の演算精度が向上するため、反復演算の反復回数を削減することができ、シミュレーションに要する演算時間を減少させる効果があるとともに、反復演算の初期値自体の精度が高いために、シミュレーション結果の演算精度が向上するという効果がある。
【0238】
実施例9.
前記実施例5では電力系統状態量△t時間間隔の状態変化の演算における反復初期値演算を行なうために、電力系統状態量の2△t時間間隔の状態変化を演算する演算を先行して演算したが、この2△t時間間隔の状態変化の演算自体が収束計算の手法にもとづいた反復演算によって演算される場合は、この2△t時間間隔の状態変化の演算における反復初期値を演算するために、さらに電力系統状態量の3△t時間間隔の状態変化を演算する演算を先行させてもよい。このような動作を特徴とする実施例9を以下に説明する。
【0239】
図26はこの発明の実施例9の電力系統シミュレータの構成図であり、図において、前記実施例5の構成図を示す図11と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0240】
微分方程式計算部100は系統に存在する発電機やその制御系あるいは負荷、調相設備等の各々機器の時間間隔3△tの状態変化を演算するものであり、本実施例9では積分刻み幅3△tで微分方程式を計算する。系統状態量計算部101は微分方程式計算部100で演算された各機器の状態量に従って系統全体の電圧分布や電流分布や潮流分布等の系統状態量を演算する系統状態量系計算部である。
【0241】
微分方程式計算部100と系統状態量計算部101は、電力系統状態量の3△t時間間隔の状態変化を演算する状態変化演算手段を構成している。微分方程式計算部100の演算結果は同一演算周期において系統状態量計算部101に入力される。系統状態量計算部101の演算結果は演算周期を更新するまえに一旦保存されたのち、演算周期が更新されて次の演算周期に移行すると、微分方程式計算部74と系統状態量計算部75に入力される。
【0242】
次に実施例9の動作を図27のフローチャートに従って説明する。図27における各ステップST271乃至ステップST277,ステップST281,ステップST282,ステップST284は図12におけるステップ121乃至ステップST127、ステップST128,ステップST129,ステップST130と同じであるから重複説明を省略する。
【0243】
実施例9の動作として、シミュレーション実行時の同期的な処理として、一定時間間隔△tで時刻を進める毎の演算処理を説明する。そのため、時刻tまでの演算が完了した時点で次の時刻t+△tにおける諸量を演算する1演算周期における動作を説明する。
【0244】
ステップ272乃至ステップST277に並行してステップST278乃至ステップST280を実施する。時刻tまでの演算結果に基づいて、微分方程式計算部100によって系統に存在する発電機やその制御系、あるいは負荷、調相設備等の個々の機器の状態変化を表わす微分方程式を積分刻み幅3△tで求解する演算を行い、時刻t+3△tにおけるこれら機器の状態変数の値を求める(ステップST278)。
【0245】
次にこのステップST278の演算結果に従い、系統状態量計算部101によって時刻t+3△tにおける系統状態量を演算する(ステップST279)。また、この演算結果を保存する(ステップST280)。
【0246】
以上で時刻t+△tにおける状態量を出力する演算周期として、時刻t+△tに該当する演算サイクルの諸演算が完了し、時刻変数に△tを加算することによって次の時刻に進める(ステップST281)。ステップST279による演算結果は時刻t+3△tにおける系統状態量を表わしていたが、時刻を△t進めたことによって時刻t+2△tにおける系統状態量を表わすことになる。
【0247】
次の演算サイクルの時刻におけるステップST275,ステップST276の演算に先立ち、時間2△t後の系統状態量が既にステップST279の演算結果として保存済みであるので、この保存されているステップST279の演算結果をステップST275の演算における2△t時間後の系統状態量の予測値として微分方程式計算部74の入力データとして設定するとともに、同じくこの保存されているステップST279の演算結果をステップST276の演算における2△t時間後の系統状態量の予測値として系統状態量計算部75の入力データとして設定する(ステップST283)。この系統状態量計算部75ではこの入力データを反復初期値として反復演算を行い、2△t時間後の系統状態量を演算する。
【0248】
実施例9では演算周期毎に刻み時間を△tずつ時間を進めていくシミュレーションの各々の演算周期において、電力系統状態量の△t時間間隔の変化を演算することによって△t時間後の状態を演算する処理と、電力系統状態量の2△t時間間隔の変化を演算することによって2△t時間後の状態を演算する処理に並行して、電力系統状態量の3△t時間間隔の変化を演算することによって3△t時間後の状態を演算する処理を付加し、この演算がなされた3△t時間後の系統状態量の演算結果を次の演算周期における演算であって、2△t時間間隔の変化を演算して2△t時間後の状態量を演算する反復演算の反復初期値に設定することとしたので、2△t時間間隔の状態変化や2△t時間後の状態の演算における反復演算の反復初期値の精度が向上し、2△t時間間隔の変化を演算して2△t時間後の状態量を演算する反復演算の反復回数を削減することができるとともに、この反復演算の演算結果の精度を向上させることができるという効果がある。
【0249】
また、この精度が向上した2△t時間間隔の変化の演算結果を前記実施例5と同様に、△t時間間隔の状態変化を演算することによって、この△t時間後の状態量を演算する演算の反復初期値に設定しているので、この△t時間間隔の状態変化を演算することによって、△t時間後の状態量を演算する反復演算における反復回数を一層削減することができるとともに、この演算の演算結果の精度を一層向上させることができるという効果がある。その結果、電力系統シミュレータの演算時間を一層短縮することができ、かつ演算精度を保持することができるという効果がある。
【0250】
実施例10.
図28はこの発明の実施例10の電力系統シミュレータの構成図であり、図において前記実施例1の構成図を示す図1と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0251】
図28において、160は状態変化検出部であり、この状態変化検出部160はシミュレーションのシナリオやあるいはオペレータの操作等に基づいた、シミュレーション対象としている電力系統の状態変化として、系統事故やあるいはその事故の除去動作、あるいは系統構成の変化や系統定数の変化等の事象の発生を検出して識別信号を発生させる。161はあるシミュレーション時刻における系統状態量をシミュレーション中に一時退避しておくための系統状態量保存部である。
【0252】
次に実施例10の動作を図29のフローチャートに従って説明する。まず、シミュレーション開始時点の処理として系統状態量の初期値を設定する(ステップST291)。次にシミュレーション実行時の処理として、シミュレーション時刻を一定時間間隔で刻んだ周期的な演算が行われる。その一周期の処理としてあるシミュレーション時刻における電力系統状態量を演算する処理を説明する。
【0253】
シミュレーション時刻を進めて該当時刻における演算を実施するに先立って、先ず、その時刻において事故発生事象を模擬するか否かあるいは事故除去事象を模擬するか否か、あるいは両者の何れでもないかとの判定を状態変化検出部160において行い、各々の場合に応じて処理を分岐させる(ステップST292,ステップST293)。事故発生事象を模擬する時刻の場合は、1演算周期前に演算済みであるところの1刻み時間前の系統状態量を、系統状態量保存部161に退避する(ステップST294)。この操作により、事故直前の系統状態量が系統状態量保存部161に退避されたことになる。事故除去事象を模擬する時刻の場合は、系統状態量保存部161に退避されているデータを、系統状態量計算部5における反復演算の反復初期値として入力する(ステップST295)。
【0254】
事故発生事象模擬時と事故除去事象模擬時においては、微分方程式を計算する演算に先立って、状態変化直後の系統状態量を計算する演算を行う(ステップST296)。この時、事故除去事象模擬時においては、該当事故が発生する直前の系統状態量が反復初期値に設定されているので、この事故直前の系統状態量から出発して反復演算を行うことによって事故除去時の系統状態量を演算することになる。
【0255】
以上で、事故発生模擬時かあるいは事故除去模擬時か、あるいはいずれでもないかという場合に応じた分岐の処理を終了する。その後は例えば微分方程式を計算する演算によって、系統に存在する機器毎の状態変化を演算し(ステップST297)、系統状態量を計算する演算によって電力系統全体の系統状態量の分布状態を演算する(ステップST298)。そして、演算した系統状態量を出力する(ステップST299)。
【0256】
以上によって1演算周期における処理を終了し、シミュレーション時刻を進めて次の演算周期に移り(ステップST300)、シミュレーション終了時刻に到達したかを判断し(ステップST301)、以上の各処理をシミュレーション終了時刻に到達するまでにくりかえす。
【0257】
以上では、主に1演算周期における動作を説明したが、シミュレーション時刻が進行するにつれて、本実施例10に示した電力系統シミュレータがどの様な動作をするかを次に説明する。
【0258】
図30は模擬対象とする電力系統の一例を表わしたもので、173は発電機、170,171はノード、174,175は送電線、176は事故点、177,178,177A,178Aはしゃ断器である。事故点176で事故が発生すると、保護リレーの働きによって、しゃ断器178A,178を開放することによって、電力系統から事故部分を分離し、事故を除去する。
【0259】
図31はこの電力系統において事故発生及び事故除去前後のノード171における電圧値の時間的変化を表わす特性図であり、t1 は事故発生時刻、t2 は事故除去時刻を表わす。時刻t1 で事故が発生すると、電圧値は点180から点181まで急激に低下する。時刻t2 で事故を除去すると、電圧値は点182から点183まで再度急激に上昇する。その後、時間とともに電圧値が比較的ゆるやかに変動する過渡現象が現れる。
【0260】
実施例10に示した電力系統シミュレータが上記過渡現象を模擬する場合の動作を以下に説明する。時刻がt1 になると、事故発生事象を模擬するべきであることが検出され、事故直前の系統状態量を表わすデータが系統状態量保存部161に退避される。図31における点180におけるデータがこの事故直前の系統状態量を表わすデータに該当する。
【0261】
次にシミュレーション時刻が進んで時刻t2 に到達すると、事故除去事象を模擬するべきであることが検出される。このとき系統状態量保存部161に退避されている事故直前の系統状態量を表わすデータを、系統状態量計算部5に反復演算の反復初期値として入力した上で系統状態量の計算を演算することによって、事故除去直後の系統状態量を演算する。これは図31における点180に該当するデータを反復初期値とすることによって、点183に該当する状態を表わすデータを反復演算によって演算することである。
【0262】
以下、本実施例10に関する技術的背景を説明する。各時刻の系統状態量の分布状況を、収束計算の手法に基づいた反復演算によって演算する場合、反復演算の反復初期値としていかに収束真値に近い値を設定するかということが、収束回数を削減して演算時間を短縮する場合の重要なポイントである。
【0263】
このため、各時刻における反復初期値として、演算が既に完了している直前の時刻における演算結果データを、直前の時刻における時間的変化の傾向を示すデータによって傾斜をもたせて近似するなどの方法により、該当時刻の状態データを予測演算することによって推定し、反復初期値とする手法等が一般的に行われている。
【0264】
しかし、このような手法は系統状態量が時間とともに連続的かつなめらかに変化することを前提としているため、系統が急変する事故発生時や事故除去時には効果を奏さない。このため、例えば事故発生時は、図31における点181に相当する状態データを演算するために、点180に相当するデータを反復初期値とせざると得ないとともに、事故除去時は図31における点183に相当する状態データを演算するために、点182に相当するデータを反復初期値に設定せざるを得なかった。
【0265】
これらの系統急変時の収束計算において、事故発生時のような電圧を低下させる方向に収束させる収束計算においては、比較的少ない収束回数で収束するためさほど問題にならなかったが、事故除去時のように低い電圧値の反復初期値を設定して、電圧が上昇する方向に収束させる収束計算は極めて収束性が悪く、収束させるために多大な反復回数を要していた。
【0266】
しかるに、本実施例10では事故除去時の系統状態量を演算するための反復演算の反復初期値に、あらかじめ退避しておいた該当事故に関する事故直前の系統状態量を表わすデータを設定するので、事故除去時の系統状態量を演算する反復演算の反復初期値として非常に収束真値に近いデータを設定することになり、事故除去時の系統状態量を演算する反復演算の反復回数を著しく削減することができる。その結果、シミュレーションに要する演算時間が著しく短縮できるという効果がある。
【0269】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、電力系統の状態量を演算する反復演算において、反復途中において収束真値を予測演算して収束を加速させるように構成したので、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算の所要時間を著しく短縮することができる効果がある。
【0270】
請求項2に記載の発明によれば、反復演算において、反復ステップ毎に電力系統状態量の修正を行っていく過程である特定の条件に合致する特定の反復ステップのみで修正がなされた電力系統状態量を抽出して退避保存する操作を行うように構成したので、反復の毎に修正がなされていく電力系統状態量の修正変化傾向をより的確に表わすサンプリングデータを形成し、このサンプリングデータに従って収束真値を予測演算して収束を加速させるため、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮できる効果がある。
【0271】
請求項3記載の発明によれば、抽出反復列を抽出するための反復ステップに関する特定の条件として、反復ステップが偶数回目であるという条件か、奇数回目であるという条件かのいずれかの状態を採用するように構成したので、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる効果がある。
【0272】
請求項4記載の発明によれば、抽出反復列を抽出するための反復ステップに関する特定の条件としてn回おきの反復ステップであるという条件を採用するように構成したので、著しく少ない反復回数の反復演算で演算精度を確保でき、電力系統状態量を演算する演算時間を著しく短縮することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施例1による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図2】 この発明の実施例1の動作を説明するフローチャートである。
【図3】 この発明の実施例2による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図4】 この発明の実施例2の動作を説明するフローチャートである。
【図5】 この発明の実施例3による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図6】 この発明の実施例3における反復回数対系統状態量による特性図である。
【図7】 この発明の実施例3における反復回数対系統状態量による特性図である。
【図8】 この発明の実施例3の動作を説明するフローチャートである。
【図9】 この発明の実施例4による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図10】 この発明の実施例4の動作を説明するフローチャートである。
【図11】 この発明の実施例5による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図12】 この発明の実施例5の動作を説明するフローチャートである。
【図13】 この発明の実施例6による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図14】 この発明の実施例6の動作を説明するフローチャートである。
【図15】 この発明の実施例6における系統状態量多重演算部の説明図であり、(A)は電力系統図、(B)は内部構成図、(C)はアドミタンス行列を表わす図である。
【図16】 図15(A)におけるノード番号を示した図である。
【図17】 図15(B)における転送データのデータ構造図である。
【図18】 図15の系統状態量多重演算部の内部動作を説明するフローチャートである。
【図19】 図15の系統状態量多重演算部の内部動作を説明するフローチャートである。
【図20】 図18の処理がどのプロセッサで実施されるかを示す図である。
【図21】 この発明の実施例7における系統状態量多重演算部の説明図であり、(A)は電力系統図、(B)は系統状態量多重演算部の内部構成図である。
【図22】 図21におけるノード番号に対する電圧データ修正部の関係を示す図である。
【図23】 図21の系統状態量多重演算部の内部動作を説明するフローチャートである。
【図24】 この発明の実施例8による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図25】 この発明の実施例8の動作を説明するフローチャートである。
【図26】 この発明の実施例9による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図27】 この発明の実施例9の動作を説明するフローチャートである。
【図28】 この発明の実施例10による電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図29】 この発明の実施例10の動作を説明するフローチャートである。
【図30】 実施例10において模擬対象となる電力系統図の一例である。
【図31】 図30において事故発生及び事故除去前後の電圧値の時間的変化を表わす特性図である。
【図32】 従来の電力系統シミュレータの構成を示すブロック図である。
【図33】 時間断面の説明図である。
【図34】 図33のI−I,II−II線に沿う断面図である。
【図35】 図33のIII −III ,VI−VI線に沿う断面図である。
【符号の説明】
8,40 反復計算管理手段、9 収束回数記憶部、10 状態変化検出部(状態変化演算手段)、27 反復データ保存部、29 予測値計算部、37 偶数データ保存部(抽出保存部)、64 変化率検出部、75,77 系統状態量計算部(演算手段)、81 系統状態量多重演算部(ベクトル的多重演算手段)、141A データ中継プロセッサ、142〜149 演算プロセッサ、161系統状態量保存部。
Claims (4)
- 収束計算の手法に基づいた反復演算によって、電力系統の状態量を演算する電力系統シミュレータにおいて、前記電力系統の状態量を演算する反復演算の反復過程における反復ステップ毎に修正がなされた該電力系統の状態量を、一定反復ステップの間に渡って反復列として退避保存する反復データ保存部と、前記反復データ保存部に保存された一定反復ステップの間に渡る電力系統の状態量の反復列から収束計算の収束真値を予測値として予測演算する予測値計算部とを具備したことを特徴とする電力系統シミュレータ。
- 前記電力系統の状態量を演算する反復演算の反復過程における反復ステップ毎に修正がなされた反復ステップ毎の電力系統の状態量について、ある条件が規則に合致する特定反復ステップのみで修正された電力系統の状態量を抽出して抽出反復列として退避保存する抽出保存部と、前記電力系統の状態量を計算する反復演算において前記抽出反復列から収束計算の収束真値を予測値として予測演算する予測値計算部とを具備したことを特徴とする請求項1に記載の電力系統シミュレータ。
- 前記反復ステップのうち、偶数回目の反復ステップのみか又は奇数回目の反復ステップのみで修正された電力系統の状態量を抽出して抽出反復列として退避保存する抽出保存部と、この抽出反復列から収束計算の収束真値を予測値として予測演算する予測値計算部とを具備したことを特徴とする請求項2に記載の電力系統シミュレータ。
- 反復ステップのうちn回おきの反復ステップであるnm+l(l=0、または1、または2、または3、・・・またはn−1)回目の反復ステップのみで修正された電力系統の状態量を抽出して抽出反復列として退避保存する抽出保存部と、この抽出反復列から収束計算の収束真値を予測値として予測演算する予測値計算部とを具備したことを特徴とする請求項2に記載の電力系統シミュレータ。
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