JP3720711B2 - 電子線光軸補正方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子顕微鏡や電子線描画装置等の電子線を応用した装置およびこれらに用いられる電子銃、電子源に関する。
【0002】
【従来の技術】
先端を鋭く尖らせた針状電極に強電界を印加して電子線を発生させる電界放射型電子源、および電界印加と通電加熱を同時に行なう熱電界放射型電子源は、熱電子放射型電子源と比較して、高輝度、長寿命であり、放射電子のエネルギーが均一なため、高分解能を要する電子顕微鏡等に適している。しかし、電界放射型電子源および熱電界放射型電子源の電子線放射角は立体角で0.3〜0.5sr程度の大きさをもつが、そのうち良好な特性が得られる範囲は中心の0.03〜0.05sr程度であり、その範囲を外れた部分の電子線はエネルギーのばらつきが大きく、また、ノイズ成分を多く含むため電子顕微鏡等の電子線応用装置への使用に適さなくなる。従って、電子線装置の性能を確保するには電子源から放射した電子線のうち、中心付近の放射電子のみを選択して使用することが必要となる。
【0003】
図16に針状電極の材料として軸方位<310>のタングステン(以下、Wと表記する)単結晶を用いた電界放射型電子源の概略断面図を示す。電界放射型電子源は、W単結晶でできた針状電極1と、W多結晶の細線でできたフィラメント2と、電流導入端子3と、フィラメント碍子4で構成されている。引出電源6を用いて引出電極5に、針状電極1に対して正の強電界を印加すると、針状電極1の先端に形成されているW(310)面から電子放射を得ることが出来る。電子源から放射される電子線光軸105は通常、針状電極中心軸104に一致する。従って、針状電極1が引出電極中心軸101に対してθwの傾きをもっている場合、引出電極中心軸101に対する電子線光軸105の傾きθeはθwと等しくなる。
【0004】
図17に前記電界放射型電子源、または熱電界放射型電子源を搭載した電子銃の概略断面図を示す。電子源11は、電子銃容器12内に、フランジ13、筒21、絶縁碍子14を介して引出電極5と対向する位置に設置されている。筒21はベローズ22によりフランジ13と連結され、内部の真空を保持したまま水平方向に移動可能な構造となっており、電子源11に属する針状電極の角度ずれが原因で電子線光軸105に装置中心軸100に対してθeの傾斜が生じた場合、円周方向に90°ピッチで配置された4個の軸調整ねじ23により筒21、絶縁碍子14、引出電極5と一緒に電子源11を平行移動し、装置中心軸100に位置する絞り穴を電子線光軸105が通過する様に調整を行う。しかし、絞り穴を通過した電子線は依然としてθeの傾斜をもっているため、このままでは装置中心軸100から外れてしまう。これを補正するため、鏡体62に配置された静電偏向または電磁偏向等の原理を用いた偏向手段18により電磁気的に偏向して電子線を装置中心軸100に合わせることが必要となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
電界放射型電子源あるいは熱電界放射型電子源から放射される電子線の電子線光軸は針状電極中心軸に一致するので、電子源の製造過程における針状電極の取付け精度が重要となる。しかし、針状電極は通常、フィラメントにスポット溶接により接合される場合が多く、その構造上、実現可能な精度には限界があり、針状電極の傾きに起因する電子線光軸ずれは避けて通ることが出来ない。従来技術では、前述のように、電子銃内での電子源および引出し電極の平行移動に加えて、鏡体側に配置された偏向手段により電子線を電磁気的に偏向し、装置中心軸から外れた電子線を装置中心軸と一致するように補正する必要があり、電子銃および電子線を利用する機器の構造が複雑となる上、上記手段を用いて電子線光軸を補正する作業が装置の製作工程や電子源交換の際の装置停止時間を長引かせる要因となっている。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑み、前述した針状電極の取付け精度に起因する電子線光軸ずれを複雑な機構を用いること無く補正し、電子線光軸ずれの小さい電子銃、電子源および電子線装置を提供し、更に、電子銃および電子線装置の生産性、保守性を向上することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、電子源に属する針状電極と引出電極の相対位置を任意に設定できる構造とし、針状電極と引出電極の偏心による電子線の偏向作用を利用して電子線光軸を調整する。予め針状電極の傾きを光学顕微鏡、その他の手段により測定しておき、その反対方向に同じ角度だけ偏向する様に針状電極と引出電極を偏心させることにより、傾斜した針状電極から放射した電子線を装置中心軸に平行に補正することが出来る。
【0011】
本発明による電子線光軸補正方法は、針状電極を有する電界放射型電子源または熱電界放射型電子源と針状電極に強電界を印加して電子線を発生させるための引出電極とを備えた電子銃から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、電界放射型電子源または熱電界放射型電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して引出電極を偏心させることにより電子線光軸ずれを補正することを特徴とする。
【0012】
本発明による電子線光軸補正方法は、また、針状電極を有する電界放射型電子源または熱電界放射型電子源と針状電極に強電界を印加して電子線を発生させるための引出電極を備えた電子銃から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、電界放射型電子源または熱電界放射型電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して前記電子源を偏心させることにより電子線光軸ずれを補正することを特徴とする。
【0013】
本発明による電子線光軸補正方法は、針状電極と熱電子の放出を抑制するためのサプレッサー電極とを有する熱電界放射型電子源から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して針状電極とサプレッサー電極を偏心させることにより、電子源を電子銃に組込んだ際の針状電極と引出電極の偏心量を間接的に設定し、電子線光軸ずれを補正することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。理解を容易にするため、以下の図において、同じ機能を有する部分には同じ符号を付して説明する。
初めに、図1、図2、図3を用いて電子線光軸補正の原理を説明する。針状電極1の先端が引出電極5の中心軸101上に位置している場合、電子線光軸105は針状電極中心軸104に一致する。従って、図16に示すように針状電極1が引出電極中心軸101からθwのずれをもって取付けられている場合、放射される電子線光軸105の傾斜θeはθwに等しくなる。しかし、図1に示すように針状電極1の先端が引出電極の中心軸101から偏心すると、電子線光軸105は電界の偏りにより偏向され、針状電極中心軸104から外れる。図1において、φdは引出電極5の穴径、aは針状電極1と引出電極5の垂直方向距離、Veは引出電圧、eは針状電極1と引出電極5の偏心量、θcは偏向量を表す。
【0015】
図2に偏向量θcと偏心量eの関係の一例を示す。図2の横軸は針状電極と引出電極の偏心量をeT-H、縦軸は偏向量θc[゜]を表す。引出電極の穴径φdH、針状電極先端と引出電極の垂直方向距離a、引出電圧Veが一定の場合、偏向量θcは偏心量eにほぼ比例し、θc=α×eの関係が認められる。図中に示すように、a:0.35mm、φdH:1.0mm、Ve:2.0〜2.5kVの条件下では比例定数α:0.03[°/μm]の値が確認された。
【0016】
上記の原理を利用して、傾斜を持った針状電極から放射された電子線光軸を針状電極と引出電極の偏心により偏向し、引出電極の中心軸に平行になるように補正する方法の模式図を図3に示す。前述の関係式を変形するとe=θc/αが得られる。従って針状電極の傾きθwによる電子線光軸ずれを補正するには、針状電極と引出し電極の間にe=θw/αの偏心をオフセット量として与えてやれば良い。例えば前述の条件下において、針状電極1が(−)方向に1.5°傾斜している場合、引出電極5に対して針状電極1の先端を(+)方向に50μm偏心させることにより引出電極の中心軸に平行に補正された電子線光軸105を得ることが出来る。
【0017】
図4は、本発明による電子銃の一例を説明する縦断面図及びそのA−A′断面図である。本例の電子銃は、同一フランジ上に電子源および引出電極が配置され、引出電極を電子源に対して任意に偏心させる機能を有する。電子源11は、電子銃容器12内にあって、絶縁碍子14を介してフランジ13上に真空封じ用ボルト16で固定されている。引出電極5は電子源11と対向する位置に取付けられ、円周上に90°ピッチで配置された4個の光軸補正ねじ17により引出電極ベース15に対して水平方向(電子源中心軸102に対して垂直な方向)に移動出来る構造となっている。
【0018】
図5は、電子源11に属する針状電極の傾斜測定を説明する図である。電子源を電子銃に組込む前に予め、電子源中心軸102に対する針状電極中心軸104の傾斜量をXおよびY方向に分けて測定しておく。電子源中心軸102は仮想の軸であるので、傾斜量測定は実際にはフィラメント碍子4の側面、あるいは、サプレッサー電極付電子源の場合はサプレッサー電極52の側面等、機械的寸法精度が保証されている面を基準として行う。測定には測長機能付の光学顕微鏡を使用する。より高精度の軸補正を行うためには走査形電子顕微鏡による測定も有効である。
【0019】
測定の結果、針状電極中心軸104が電子源中心軸102に対してXおよびY方向にそれぞれθwxおよびθwyの傾斜量があった場合、引出電極5を電子源11に属する針状電極1に対してXおよびY方向にそれぞれex=θwx/αおよびey=θwy/αだけ偏心した位置で固定する。αは電子源の使用条件により決定される定数である。exおよびeyの確認は光学顕微鏡を装置中心軸上に設置して行う。図2に示したα=0.03の例では偏心量1μmあたりの電子線光軸の偏向量は0.03°であるので、±10μmの精度で偏心量exおよびeyを設定出来れば±0.3°の精度で電子線光軸偏向量を制御出来ることになる。
【0020】
以上の操作により、針状電極に傾斜をもつ電子源であっても電子源中心軸102に対して平行になるように補正された電子線を得ることが出来る。電子銃容器12の中心に位置する絞り穴を通過し鏡体62内に到達した電子線105は、既に装置中心軸100に一致するように補正されているので、鏡体62内では電子線光軸補正用として特別な偏向手段を必要としない。
【0021】
図6は、本発明による電子銃の他の例を説明する縦断面図及びそのA−A′断面図である。本例の電子銃は、同一フランジ上に電子源および引出電極が配置され、電子源を可動式にすることにより電子源に属する針状電極と引出電極の偏心量を調整する機能を有する。引出電極5は、電子銃容器12内にあり、絶縁碍子14を介してフランジ13上に設置されている。電子源11は引出し電極5と対向する位置に取付けられ、円周上に90°ピッチで配置された4個の光軸補正ねじ17により水平方向(電子源中心軸102に対して垂直な方向)に移動することが出来る。
【0022】
予め光学顕微鏡、その他の測定手段により電子源11に属する針状電極の傾斜を測定しておき、予想される電子線光軸の傾斜と反対方向に電子線が偏向される様に電子源11を引出電極5に対して偏心させて固定することにより、電子源中心軸102に対して平行方向に補正された電子線105を得ることが出来る。更に電子銃容器12の中心に位置する絞り穴を通過し鏡体62内に到達した電子線105は、既に装置中心軸100に一致するように補正されているので鏡体62内では電子線光軸補正用として特別な偏向手段を必要としない。
【0023】
図7は、本発明による電子源の一例を示す概略断面図である。本例の電子源は、針状電極の材料として軸方位<100>のW単結晶を用い、熱電子の放出を抑制するためのサプレッサー電極を有する熱電界放射型電子源であり、サプレッサー電極に対する針状電極の偏心量を任意に設定できる構造を有する。
【0024】
熱電界放射型電子源は、針状電極1、フィラメント2、電流導入端子3、フィラメント碍子4、サプレッサー電極52、および光軸補正ねじ17を備えて構成される。フィラメント加熱電源53により電流導入端子3を介してフィラメント2に通電すると、針状電極1の側面に生成されている被覆物質供給源(図示せず)から酸化ジルコニウムが針状電極1の表面に熱拡散される。酸化ジルコニウムは針状電極1の先端に形成されているW(100)面の仕事関数を低下させる作用を有しており、この状態で引出電源6を用いて引出し電極5に、針状電極1に対して正の電圧を印加すると、針状電極1の先端に形成されているW(100)面から選択的にエネルギー幅の狭い電子放射を得ることが出来る。サプレッサー電極52は、サプレッサー電源54により針状電極1に対して負の電圧を印加することにより、フィラメント2およびその周辺の高温部から発生する、エネルギーのばらつきが大きく、利用価値が低いとされている熱電子を遮へいする機能を有する。フィラメント2の通電加熱により針状電極1は常に千数百Kに保持されているので電子銃容器内のガス分子の吸着が無く、また、被覆物質供給源から熱拡散により酸化ジルコニウムが連続的に供給されるので、被覆物質が枯渇するまで仕事関数の低い状態が保持され、安定した電子放射が得られる。W(100)面の仕事関数を低下させる被覆物質として、酸化ジルコニウムの他、チタン、バリウム、スカンジウム等の酸化物を使用したものが実用化、あるいは実用化を目指して研究されている。
【0025】
針状電極1は電流導入端子3にフィラメント2を介して取付けられており、サプレッサー電極52はその中心に開けられた穴から針状電極1の先端が所要の長さだけ突出すように配置され、円周上に90°ピッチで配置された4個の光軸補正ねじ17によりサプレッサー電極52の中心軸と針状電極1の偏心eを任意に設定出来る構造となっている。
【0026】
図8は、針状電極1とサプレッサー電極52および引出電極5の相対位置関係を表す詳細図である。針状電極1とサプレッサー電極52の偏心量をeT-S、針状電極と引出電極の偏心量をeT-H、サプレッサー電極と引出電極の偏心量をeS-Hで表す。
【0027】
サプレッサー電極の穴径φdS、引出電極の穴径φdH、針状電極先端と引出電極の垂直方向距離a、サプレッサー電極と引出電極の間隔A、引出電圧Ve(図示せず)、サプレッサー電圧Vs(図示せず)を一定として、針状電極1とサプレッサー電極52の偏心量eT-S、および針状電極1と引出電極5の偏心量eT-Hをそれぞれ独立して変化させたときの電子線光軸105の偏向量θcの変化の一例を図9に示す。eT-SをゼロとしてeT-Hを変化させたときの、eT-Hに対する偏向量をθc(T−H)で表す。また、eT-HをゼロとしてeT-Sを変化させたときの、eT-Sに対する偏向量をθc(T−S)で表す。図から分かるように、a:0.35mm、A:0.6mm、φds:0.4mm、φdH:1.0mm、Ve:2.0〜2.5kV、Vs:0.1〜1.0kVの条件下において、偏向量は針状電極と引出電極の偏心量eT−Hにのみ依存し、針状電極とサプレッサー電極の偏心eT−Sの影響は殆ど受けない。
【0028】
サプレッサー電極の外周とそれが組み込まれる電子銃側の部品の寸法精度を確保することにより、電子源を電子銃に組込んだ時にeS-H=0、すなわち、サプレッサー電極の穴と引出電極の穴が同一軸上に位置する様な構造とすれば、eT-S(針状電極とサプレッサー電極の偏心)=eT-H(針状電極と引出電極の偏心量)とすることが出来る。この性質を利用して、電子源の製作過程で、光学顕微鏡、その他の測定手段により針状電極1の傾斜θwを測定し、予想される電子線光軸の傾斜θe(=θw)と反対方向に電子線が偏向される様にサプレッサー電極52と針状電極1の偏心量eT-Sを調節して電子源を組立てることにより、電子源を電子銃に組込んだ時、間接的に引出電極5と針状電極1の所要偏心量を設定することができる。
【0029】
図7に記載の電子源51を搭載した電子銃の断面図を図10に示す。電子源51はその製作過程において既に光軸補正が完了しているので、絶縁碍子14の内周とサプレッサー電極52の外周の嵌合を利用して組込むだけで、電子源51に属する針状電極と引出し電極5との間に所要の偏心量が自動的に設定される。電子源は消耗部品であるので定期的に交換作業が発生する。電子源の製作過程において、予めサプレッサー電極と針状電極の間に適正な偏心量を与えておけば、電子源交換の度に電子線光軸の補正をする必要が無くなり、装置の停止時間を短縮することが出来る。
【0030】
図11は、以上に説明した電子銃を搭載した本発明による走査形電子顕微鏡の一例を示す模式図である。この装置は、主な構成要素として、電子銃61、鏡体62、試料室63、高圧電源64、制御部65から成っており、電子銃61、鏡体62、試料室63は真空ポンプ(図示せず)により内部を真空排気されている。電子源11(または51)から放射した電子線105は鏡体62の中心軸に平行に入射する。更に鏡体62内では、収束レンズ621、対物レンズ623により細く絞られ、試料ステージ631上に設置された試料632の表面に焦点を結ぶ。走査偏向器622により試料面を走査した際に発生する二次電子106は二次電子検出器624に取り込まれ、増幅されて制御部に送られ、画像情報を得ることが出来る。
【0031】
電子線105は鏡体62に入射する時点で既に収束レンズ621の中心軸に平行になるように補正されているので、鏡体62内部に特別の偏向手段を必要としない。その結果、装置の信頼性が向上すると共に装置の小形化を図ることが出来る。
尚、本電子銃および電子源は上記の走査形電子顕微鏡以外にも透過形電子顕微鏡や電子線描画装置等にも適用が可能である。
【0032】
次に、走査形電子顕微鏡の製作工程について説明する。図12は従来の製作工程を示し、図13は本発明による製作工程を示す。図12に示す従来技術では、(工程1)電子銃組立、(工程2)電子源組込、(工程3)真空排気を行い、(工程4)電子線放射を開始する。(工程5)電子銃の軸調整機構による光軸調整を行い、(工程6)放射電流の測定、耐電圧試験等の単体性能試験に合格すると、(工程7)電子線放射を一時的に停止して、(工程8)電子銃を鏡体に搭載する。(工程9)電子線放射再開後、(工程10)鏡体側の偏向機能による光軸調整が完了して初めて試料の像観察が可能となる。(工程11)倍率調整、分解能試験等の総合調整を経て装置完成に至る。
【0033】
図13は、本発明による電子銃を採用する走査形電子顕微鏡の製作工程図である。電子銃の製作とは別に、電子源に属する針状電極の傾斜を測定し予想される電子線光軸の傾斜を補正するのに必要な偏心量を算出しておく。電子源組込の段階で針状電極と引出し電極の間に所要の偏心を与えて固定することにより電子線放射開始直後から引出電極の中心軸に平行に補正された電子線を得ることが出来る。これにより図12に示した従来技術の(工程5)および(工程10)で示した電子線光軸調整作業が不要となり、電子銃および装置本体の製作時間の短縮に効果的である。
【0034】
次に、稼働中の電子線装置の電子源が寿命を迎え、新品の電子源に交換する際の作業工程について説明する。図14に示す従来技術では、(工程1)装置停止後、(工程2)電子銃内部を大気開放して電子源を交換し、(工程3)真空排気再開、(工程4)電子線放射を再開後、(工程5)電子銃の軸調整機構による光軸調整、および(工程6)鏡体側の偏向機能による光軸調整が完了すると装置の稼動再開が可能となる。
【0035】
これに対して本発明による電子源を採用した場合の作業工程を図15に示す。電子源は予めその製作工程において、針状電極の傾斜角に基いて針状電極とサプレッサー電極との間に偏心量が与えられているので、電子源取付け部の嵌合に従って電子源を組み込むだけで電子源に属する針状電極と引出し電極の間に所要の偏心量が自動的に与えられる。これにより電子線放射開始直後から引出電極の中心軸に平行に補正された電子線を得られるので、図14に示した従来技術の(工程5)および(工程6)に示した電子線光軸調整作業が不要となる。従って、電子源交換に伴う装置停止時間を最小限に留めることが出来るので、24時間連続稼動の半導体検査用電子顕微鏡等、製造ラインで使用される電子線装置に特に有効である。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、電子線を利用する装置側に特別な電子線偏向手段を必要としない上、電子銃または電子源の組立段階において針状電極の傾きに起因する電子線光軸ずれを予め予想し、事前に補正することが可能であり、低ノイズ、高電流密度でエネルギーの均一な電子線を効率良く得ることが可能であると同時に、電子銃および電子線装置の生産性向上、電子源交換時の装置停止時間の短縮にも効果的である。
【0037】
また、従来技術による電子銃では不可欠であった、大気側から水平面内の位置調整をするための機構が不要となるので電子銃の小形化が図れ、これに伴い、構成部品からの放出ガスが低減し、真空度の向上による放射電流の安定化、放電の抑制等、信頼性向上にも有効である。更に、鏡体内部で電子線光軸を補正するための偏向手段も不要となるので、装置全体の小形化に有利であり、耐振性の向上も期待出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】針状電極の偏心と電子線光軸の偏向の関係を説明する図。
【図2】偏向量θcと偏心量eの関係の一例を示す図。
【図3】電子線光軸の補正方法の説明図。
【図4】本発明による電子銃の一例を説明する縦断面図及びそのA−A′断面図。
【図5】電子源に属する針状電極の傾斜測定を説明する図。
【図6】本発明による電子銃の他の例を説明する縦断面図及びそのA−A′断面図。
【図7】本発明による電子源の一例を示す概略断面図。
【図8】針状電極とサプレッサー電極および引出電極の相対位置関係を表す詳細図。
【図9】針状電極とサプレッサー電極の偏心量、および針状電極と引出電極の偏心量をそれぞれ独立して変化させたときの電子線光軸の偏向量の変化の一例を示す図。
【図10】図7に記載の電子源を搭載した電子銃の断面図。
【図11】本発明による走査形電子顕微鏡の一例を示す模式図。
【図12】従来の走査形電子顕微鏡の製作工程の説明図。
【図13】本発明による走査形電子顕微鏡の製作工程の説明図。
【図14】従来の電子源交換の作業工程図。
【図15】本発明による電子源交換の作業工程図。
【図16】従来の電界放射型電子源の概略断面図。
【図17】従来の電界放射型電子源または熱電界放射型電子源を搭載した電子銃の概略断面図。
【符号の説明】
1…針状電極、2…フィラメント、3…電流導入端子、4…フィラメント碍子、5…引出電極、6…引出電源、
100…装置中心軸、101…引出電極中心軸、102…電子源中心軸、103…サプレッサー電極中心軸、104…針状電極中心軸、105…電子線光軸、106…二次電子、
11…電界放射型電子源または熱電界放射型電子源、12…電子銃容器、13…フランジ
14…絶縁碍子、15…引出電極ベース、16…真空封じ用ボルト、17…光軸補正ねじ、18…偏向手段、
21…筒、22…ベローズ、23…軸調整ねじ、
51…サプレッサー電極付電子源、52…サプレッサー電極、53…フィラメント加熱電源、54…サプレッサー電源、
61…電子銃、62…鏡体、63…試料室、64…高圧電源、65…制御部、
621…収束レンズ、622…走査偏向器、623…対物レンズ、624…二次電子検出器、631…試料ステージ、632…試料
Claims (3)
- 針状電極を有する電界放射型電子源または熱電界放射型電子源と前記針状電極に強電界を印加して電子線を発生させるための引出電極とを備えた電子銃から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、
前記電界放射型電子源または熱電界放射型電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して引出電極を偏心させることにより電子線光軸ずれを補正することを特徴とする電子線光軸補正方法。 - 針状電極を有する電界放射型電子源または熱電界放射型電子源と前記針状電極に強電界を印加して電子線を発生させるための引出電極を備えた電子銃から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、
前記電界放射型電子源または熱電界放射型電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して前記電子源を偏心させることにより電子線光軸ずれを補正することを特徴とする電子線光軸補正方法。 - 針状電極と熱電子の放出を抑制するためのサプレッサー電極とを有する熱電界放射型電子源から放出される電子線の光軸ずれを補正する電子線光軸補正方法において、
前記電子源に属する針状電極の傾斜量に基づき、偏心量を設定して針状電極とサプレッサー電極を偏心させることにより電子源を電子銃に組込んだ際の前記針状電極と前記引出電極の偏心量を間接的に設定し、電子線光軸ずれを補正することを特徴とする電子線光軸補正方法。
Priority Applications (1)
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