JP3675778B2 - 活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬、この試薬を固着した検査用プレート並びにこれらを用いた活動性結核・活動性抗酸菌症判定方法 - Google Patents

活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬、この試薬を固着した検査用プレート並びにこれらを用いた活動性結核・活動性抗酸菌症判定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬、この試薬を構成する抗原を固着した検査用プレート及びこれらを使用する判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来結核及びその他の抗酸菌感染症の判定は患者の喀痰の抗酸性染色による菌の検出と、培養検査が基本であったが、前者は感度が低く、後者は培養期間が長く3乃至6週間を要する。実際にはこれらの他に胸部レントゲン線像による判定法を併用している。
また最近ではポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)を初めとする遺伝子増幅法により迅速判定法が取り入れられているが、臨床的に結核と判定される者のうち、50%以上のものが、塗末・培養の何れでも結核菌が検出されない排菌(偽)陰性者であり、また前記PCR法によっても検出率は15乃至20%に留まる。
また広く普及しているツベルクリン反応においては、陽性となった意味は単に、現在結核感染者、若しくは以前BCG接種を受け、結核に対する細胞性免疫が成立していることを示しているだけで、現在結核が発病しているか否か、又は将来発病するか否かを示すものではない。
【0003】
1972年以来、酵素抗体法(Enzyme-linked immunosorbent assay 以下ELISAと略)が用いられるようになったが、それでも結核菌のタンパク抗原に対しては感度が低く、特異性に欠けることから実用性のある抗原として使用できないものであった。
【0004】
他方、結核菌細胞壁には、この菌に特異的な脂質抗原が多数存在し、結核発病患者はこれらの抗原に対する抗体を血清、血漿、髄液及び胸水などの体内には勿論、体外に排出する喀痰、尿などの中にも産生し、これらは特異的な抗原と免疫反応を起すことを見い出し、本件発明者のうちの一人は他の本出願以外の共同発明者と一緒に発明を完成し、日本特許第2519128号として特許を取得し、その内容は同公報に記載してある。
この大要はミコール酸、ミコール酸塩、ミコール酸エステル及びミコール酸を除く炭素数が14以下の脂肪酸と単糖類または二糖類とのエステルからなる少なくとも一種の化合物からなる抗酸菌抗原抗体反応試薬である。
【0005】
しかし、この方法においても、結核発病患者の85乃至87%程度の捕捉率であり、更に高感度、高精度の判定試薬の出現が待望されている。
前記の公知の特許公報記載の細胞膜より分離調製した糖脂質などの抗原と、患者の前記体液との反応はその後の追試及び研究の結果、記載されている全ての試薬が同一体液に対して、同一の反応を示すことはないし、また患者の個体差、発病後の時期によっても相当のばらつきがあることを知見した。
喀痰塗抹染色検査で陽性の場合、治療開始が遅れることはないが、この検査方で陰性の場合、結核の治療開始が遅れ、症状が悪化する可能性もある。
また、前記の糖脂質抗原に類似の抗原は、結核菌以外の抗酸菌にも存在し、これに対する患者の抗体も特異的な反応を起すことから、これら菌による発病との識別が困難となる。
また、結核菌、レプラ菌による発病は国の伝染病に指定されているが、MAC、M.カンサシーなど、その他の抗酸菌による発症は日本国内においては、国の伝染病扱いを受けられず、治療薬も異なり、健康保険による費用の患者負担率もこの出願時において異なるため早期の判定が社会的要求となっている。
中でも、活動性MAC症は殊の外、治療が遅れると重篤な状態となるため、早期の治療が必要であり、人型結核の発病との識別が重要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は人に感染し、人体に特に重大な症状を引き起こす活動性結核(人型結核菌「M.tuberculosis」による)、活動性MAC症(「M.avium complex」による)、その他の非定型(非結核型)抗酸菌(Atypical Mycobacteria)症か否かを高感度、高特異度で短時間に、しかも簡単な術式で行える試薬および器具を市場に提供し、判定後早期に的確な処置が行えるようにするためである。
また、他の目的とするところは、治療を開始した患者の治療効果の確認にも利用できる試薬を提供する。
また他の目的とするところは、集団感染などのときのスクリーニングテストに利用できる試薬を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を達成するためにこの特定発明は、
1)M.ボビスBCG東京株より分離精製した毒性糖脂質。
2)M.ボビスBCG東京株より分離精製した糖脂質。
3)MACより分離精製した糖脂質。
4)人型結核菌より分離調製した糖リン脂質
5)MACより調製したGPL抗原の血清型特異な糖鎖を除去したGPL−core(構造式 fatty acyl D-Phe-D-allo Thr-D-Ala-L-Alaninol-3,4-di-O-Me Rha「脂肪酸(アシル)・D−フエニルアラニル−D−アロ−スレオニル−D−アラニル−L−アラニノール−3,4ジ・O・メチルラムノース」)(GPL−coreと略)。つまりGPL−coreはMACの特異的な、即ち人型結核菌、牛型結核菌にないGPL抗原由来の抗原である。
以上の物質をその各抗原とし、これらを別々に独立し、且つキットとして含むことを特徴とする活動性結核、活動性抗酸菌症判定用試薬とする。
【0008】
また前記課題を達成するためにこの活動性結核、活動性抗酸菌症判定用試薬のキットに更に独立して、MACより分離精製した(Gl−aiと略)を独立した抗原として加えてある場合もある。
また前記課題を達成するために関連発明は共通の多ウエル盤のプレートに、前記請求項1記載の各抗原毎に別々の前記ウエル内に固着してあることを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定用プレート。
【0009】
また前記課題を達成するために前記活動性結核・活動性抗酸菌症判定用プレートと濃縮標識抗体液、濃縮洗浄希釈液、基質、基質溶解液、過酸化水素水、反応停止液、及び陽性コントロール血清が一組のキットとしてあることを特徴とする請求項2又は3記載の活動性結核・活動性抗酸菌症判定用キットとする。
【0010】
また前記課題を達成するために関連発明は前記請求項4記載の発明のキットを用い、濃縮洗浄液を精製水で最適希釈倍に希釈し、洗浄希釈液とする第1方法。
次に濃縮標識抗体液を前記洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈標識抗体液とする第2方法。
基質は基質溶解液を用いて溶解し、過酸化水素水を加えて基質液とする第3方法。
次に被検血清及び陽性コントロール血清を第1の方法により調製した洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈する第4方法。
この第4方法による被検血清を含む希釈液を各試薬が固着してある前記請求項3記載の発明の判定用プレートのウエルに分注する。また陽性コントロール希釈液も別のウエルに同様に注入する第5方法。
第4方法及び第5方法完了後約1時間静置し、第1の方法による洗浄希釈液で前記プレートの全てのウエルを洗浄する第6の方法。
次に第2の方法による希釈標識抗体液を各ウエルに注入し、暫時後再び第1の方法による希釈液で洗浄する第7の方法。
次に第3方法で調製した基質液を各ウエルに注入し、遮光フイルムを掛け30分室温下で静置し、後反応停止液を各ウエルに添加し、波長450nm、492nmのうちの一種を用い、この光による吸光度を測定し、各ウエルの反応の程度を判定し、これらの組み合わせにより、活動性人型結核、活動性非定型抗酸菌症の片方若しくは双方、その他の抗酸菌症の発病症状の程度、若くは全く臨床症状がないが、将来発病の可能性の有無の判定を行うことを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定方法とする。
【0011】
各試薬となる抗原の調製
1)毒性糖脂質の調製
M.ボビスBCG(M.bovisBCG)東京株の細胞壁より、周知の方法により毒性糖脂質の一例としてトレハロース6、6´−モノミコレート(TDM・Tと略)を分離精製する。例えばM.ボビスBCG東京株加熱死菌体を超音波粉砕し、クロロホルム・メタノール混液で脂質を抽出し、薄層クロマト法で分離し毒性糖脂質を単離する。
2)糖脂質の調製
M.ボビスBCG(M.bovisBCG)東京株の細胞壁より、分離精製した糖脂質として、トレハロース6−モノミコレート(TDM・Tと略)を同様の方法によりTMM・Tを単離調製する。
前記TDM・TとTMM・TはM.ボビスBCG東京株でないと試薬として成り立たない。M.ボピスBCGパスツール株では本件発明の試薬になり得ない
3)M.アビィウム・コンプレックスより糖脂質の調製
これについても公知の方法によりMAC(M.avium complex)より分離精製した糖脂質たるトレハロース6−モノミコレート(TMM・Tと略)を前記TDM・Tの精製と同様の方法により、TMM・Iを単離調製する。
4)PL−2の調製
人型結核菌(M.tuberculosis)加熱死菌体をクロロホルム−メタノール混液に懸濁させ超音波処理により破砕し、常法により糖リン脂質の一種であるホスファチヂルイノシトールマンノシド(PL−2と略)を分離調製する。例えば人型結核菌青山株よりPL−2を分離調製する。
5)GPL−coreの調製
MACの加熱死菌体よりクロロホルム−メタノール混液で脂質を抽出し、薄層クロマト法によりGPL抗原を精製単離した後、β−エリミネイション(elimination)法(弱アルカリ水解でβ−結合した糖鎖を切り離す)により、糖鎖とコア(core)を分離した後コア抗原とする。
6)Gl−aiの調製(請求項2記載の発明の場合)
この試薬は請求項1記載の発明においては、必ずしも必要ではないが、この試薬を用いる場合はM.アビィウム−イントラセルラレ コンプレックスよりクロロホルム・メタノール混液で抽出して得たものより分離したマイコロイル グリコリピドを同様の方法で分離調製する。
陽性コントロール血清については市販のもの、若しくはこれと同等の血清を用意する。
【0012】
【発明の作用】
前記の請求項1記載の発明における抗原の調製方法と請求項3記載のキットの使用方法と共に説明する。
多ウエル盤のプレートを使用する場合
先ず各抗原を別々に、公知の方法により適宜の溶液に溶解し、それぞれ別の5又は6個(請求項2記載の場合)のウエルに注入する。而して24時間放置し、蒸発乾固させる。このプレートを気密(アルミニューム箔)パックしておく(請求項4記載の発明に相当)。
請求項2記載のキットを用いるときは濃縮洗浄希釈液を精製水で最適希釈倍に希釈し、洗浄希釈液とする。
次に濃縮標識抗体液を前記洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈標識抗体液とする。
過酸化水素水と0−ファニレンジァミンを基質溶解液に加えて溶解し基質液とする。
次に被検液例えば患者血清及び陽性コントロール血清を別々に洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈する。
この血清を含む希釈液を各試薬が固着してあるウエルに分注する。また陽性コントロール血清希釈液も別のコントロール用のウエルに同様に注入する。
以上の操作が完了後約1時間静置し、後前記の洗浄希釈液で前記プレートの全てのウエルを洗浄する。
次に標識抗体液を各ウエルに注入し、暫時後再び希釈液で洗浄する。
次に基質液を各ウエルに注入し、遮光フイルムを掛け15乃至30分室温下で静置し、後反応停止液を各ウエルに添加し、波長450nmまたは492nmの吸光度を測定し、それぞれの反応の有無及びその組み合わせにより、活動性結核の有無、活動性MAC症の有無の判定を行う。
【0013】
実施形態−1
請求項3記載の多ウエル盤のプレートを用い、これを含む請求項3記載のキットを用いての検査の実施例について説明する。前記のプレートはガラス製、硬質透明プラスチク製を問わないが、硬質プラスチック製が破損のおそれが少なく取り扱いやすい。
先ず、通常冷蔵保存されているキットに含まれる全ての抗原を室温に戻す。
キット中の濃縮洗浄液(10倍濃縮液)を10倍に洗浄希釈液とする。
濃縮標識抗体液(ペルオキシターゼ標識抗ヒトIgG抗体「ヤギ」濃度50倍)を洗浄希釈液で10倍に希釈し、標識抗体液とする。
基質として3,3’,5,5’−テトラメチルベンチジンの錠剤を1錠(5mg)、液状の場合は例えば4重量%を基質溶解液5mLを加えて、基質液とする。
この基質液は使用15分前に調製し、遮光しておく。
検体液(患者血清)及び陽性コントロール血清は洗浄希釈液で200倍に希釈する。
【0014】
検査操作方法
1)前記プレートをアルミニューム箔から取り出し、洗浄希釈液150μLを前記プレートの各ウエルに注入し、10分間静置する。
2)洗浄希釈液250μLを用いて3回洗浄する。
3)プレートの各抗原が固着してある5又は6個のウエルに前記検体希釈液を50μLずつ分注する。また第七番目のウエルに陽性コントロール血清を50μL注入する。
前記プレートに遮光カバーフィルムをして、室温で60分間静置する。
4)後前記2)同様に洗浄希釈液250μLを用いて3回洗浄する。
5)前記の酵素標識抗体液50μLを各ウエルに添加し再びカバーフィルムをかけ、室温で60分間静置する・
6)後、前記2)同様にプレートを洗浄する。
7)前記の基質液(溶液)50μLを各ウエルに添加する。
8)プレートに遮光カバーフイルムをして遮光下、室温15分間静置する。
9)前記カバーフイルムを外して、反応停止液を各ウエルに添加し、波長450nmの吸光度を測定する。
【0015】
実施の形態−2
前記実施の形態1と異なるところは、基質溶解用ボトルを用い、基質(o−フェニレンジアミン2塩酸塩)1錠(5mg)あたりにつき基質溶解液5mLを加えて溶解し、更に過酸化水素10μLを加えて基質液とする。この基質液は使用15分前に調製し、遮光しておく。
吸光度の測定に用いる波長が450nmの代わりに492nmを用いた点であり、その他の方法は実施の形態1と何ら変わるところが無い。
【0016】
実験例
次に、この発明の抗原を単独にそれぞれ用いた場合と多重につまり並列的に用いた場合の陽性率感度の比較を表1乃至表3に示す。
この実験においては、臨床的に活動性結核と判定された患者の血清(喀痰塗抹検査では陽性または陰性を示したもの)をELISA法を用いて、この発明に用いるキットの各抗原の反応結果とこれより算出した本件発明の試薬としての全体の陽性率を示したものである。
【0017】
【表1】
Figure 0003675778
【表2】
Figure 0003675778
【表3】
Figure 0003675778
【0018】
表1乃至表3は元来一連の実験であるが、データー数が多いため表示の都合上3つの表に分割表示した。
表3の最下段の陽性率欄において明かなように、個々の抗原単独で使用した場合の陽性率は24.8乃至63.8%であり、これらを単独で試薬として用いるにはその陽性率が低すぎるが、全ての抗原を並列的に用いれば、その感度は82%以上に達し、総合的にはどれかの抗原において反応し、何らかの活動性抗酸菌症であることが、判定できる。
【0019】
また前記の各表中全ての抗原に対して陰性反応の患者については、喀痰塗抹試験では陽性でも、臨床的に症状は軽く、活動性結核、活動性MAC症でない患者、結核菌の排出はあるが、抗体が産生しない高齢者、エイズ患者などと推測される。
【0020】
また前記表1乃至3の内、ガフキー(Gaffky)陽性者の陽性率は28/32(87.5%)、ガフキー陰性者の陽性率は59/73(80.8%)であった。
【0021】
また、既に他の方法により、活動性結核、活動性MAC症若しくはその他の抗酸菌症による発病症状が他の喀痰塗抹法においても全くなく、且つ臨床的に発病症状が全くない健康なヒト血清による陰性率は表4に示す通りであり、その陰性率は78.6%であった。つまり全く健康と思われていた者についても21.4%の者は結核菌抗体が検出されたことを意味する。これら抗体検出者については過去に結核菌に感染したが全く発病しなかった者、または発病後治癒し、既に病巣は石灰化しているものを含む。
【0022】
【表4】
Figure 0003675778
【0023】
また既に活動性結核患者、活動性MAC症患者、その双方を併発している患者の血清に就いて、同様のテストを行ったところ図1に示す結果を得た。
【0024】
図1中の左側のグラフは活動性結核患者の血清反応の結果を示すものであり、TDM・T、TMM・T及びPL−2が特に顕著な陽性を示し、活動性MAC症を検出するTMM・I、GPL−core及びGl−aiについては活動性と判定されるべき値には達していない。
図1の中央のグラフは活動性MAC症患者の血清に対する反応であり、TMM・I、GPL−core
及びGL−aiが特に顕著なIgG抗体価を示し、結核菌由来のPL−2に対しては殆ど反応を示さなかった。
図1の最右側のグラフは活動性結核と活動性MAC症の双方を合併している患者の血清についての反応を示し、TMM・T、TMM・I及びGPL−coreについて高い反応性を示した。
【0025】
図2乃至図4に示すものは、活動性結核患者血清について、GPL−core及びGl−aiを除いた他の抗原について、治療開始前と治療開始後、1ヶ月乃至それ以上経過後の反応テストをし、その変化を示したものである。グラフ縦軸は抗体価を示し横軸は検査月日を示す。
何れの例においても治療開始初期においては反応値は高い値を示したが、治療を継続する内に何れも抗体価が低下し、治療効果の確認ができた。
【0026】
しかし、図5に示すものも同様のテストを行ったものであるが、5図中の各例においては、何れも治療効果が芳しくないものである。むしろ悪化の傾向すらある。
前記の図2乃至図5に示した反応結果のグラフより明らかなように、PL−2及びTMM・Tは、感染の初期の治療開始前乃至治療開始初期において、高値を示し、時には活動性MAC症においても高値を示し、活動性抗酸菌症の発症を早期に判定できる作用を為す。これに対し、TDM・Tは一般に結核患者に高い抗体価がみられるが、その発現はPL−2やTMM・Tより遅れる傾向がある(図4及び図5参照)。
【0027】
図6乃至8図に示すものは活動性MAC症患者血清の各抗原に対する経時的反応を示す棒グラフである。
活動性MAC症患者の血清は活動性結核患者の血清と顕著に異なる反応を示し、図1の中央の例と同様にTMM・I、GPL−core及びGl−aiの抗体反応値が高く、且つ治療効果が遅れていることが示されている。
【0028】
前記図2乃至図8中に示されている記号中例えば図2の最左グラフの上部に示したF84は患者が女性84才を示し、以下のG+7bIIは1960年に発表された日本結核病学会病型分類記号に基づくものであり、G+7は顕微鏡下の結核菌の集落を意味し、数字に顕微鏡視野内の集落の数を示す。bは両方の肺に病変があるもの、因みに右側のみの病変はr、左のみはl(Lの小文字)、ローマ数字IIは空洞の大きさで数字が小さいほど空洞が大きく、数字の大きいほど空洞は小さくローマ数字Vは石灰化していることを示し、5段階にローマ数字によってI、II〜V型など表示されている。更に添数字は1、2、3と三段階にあり病巣の大きさを示し、1が小さく3が大きい。1のときは広がりなし、opは手術跡あり、またHは肺門リンパ腺腫脹を示す、plは滲出性肋膜炎、をそれぞれ示す。
【0029】
活動性MAC症患者血清の本件試薬の反応結果は表5に示す通りであり、その検出率は93.75%であった。表5中の患者血清中にはTDM・T又はTMM・T抗原に対する抗体が検出しており、活動性結核を合併している者、若しくは抗体自体がTDM・T又はTMM・T若しくはこれら双方と交差反応を起こす抗体を有するものも含まれていることを示している。
【0030】
【表5】
Figure 0003675778
【0031】
また表5の結果よりカットオフ値を定めて、各抗原の陽性率を算出したところ表6に示す通りである。
【0032】
【表6】
Figure 0003675778
【0033】
また図6乃至図8の各グラフ下に表示したTBGLは他の検査法であるデターミナTBGL法により2.0以下の数字は通常陰性反応のものであるが、本件試薬で再度反応テストを行ったところ、活動性結核の場合TMM・T、TDM・T又はPL−2が顕著な反応を示しており、活動性MAC症の場合はTMM・I又はGPL−coreが顕著な反応を示し公知のTBGL法より感度及び精度の高い結果を示した。
【0034】
以上の実験から本件試薬の内各試薬について次の事項が確認できる。
TDM・Tについて
活動性結核患者においては、単独脂質抗原の中で最も高い頻度で特異的にIgG抗体が検出される。その抗体価は治療(化学治療)開始により経時的に低下するが、時には遷延し、結核のみならず活動性MAC症でも高値を示すことがある。抗原の抗原決定基(epitope)は糖及びミコール酸の両者と考えられ、活動性結核患者の血清はメトキシミコール酸を強く認識する。この試薬は抗酸菌共通の糖脂質抗原であり、結核菌とM.ボビスBCG東京株とは共通したミコール酸構造を持つため、抗TDM・T抗体との反応性もほゞ等しいが、東京株以外例えばパスツール株の場合はメトキシミコール酸を欠損しているため、患者の血清との反応性は低く試薬としての抗原として使用できない。
【0035】
TMM・TはTDM・Tと比較して早期にIgG抗体を産生する傾向にあり、発病後時間の経っていない患者の判定に有用である。またエイズ(AIDS)や粟粒結核その他細胞性免疫能の低下した患者にも陽性となることが多い。
抗体価は治癒後(排菌陰性化後)早期に正常値に戻る。活動性結核に対してかなり特異的である。
【0036】
TMM・Iについて
抗酸菌共通抗原ではあるが、活動性MAC症では極めて高いIgG抗体価を示す。その理由はMAC特有の多量のワックス エステル ミコレート(wax−estermycolate)が含まれ、これが抗原決定基として患者抗体により強く認識されるためと考えられる。従って活動性MAC症の判定に有用である。
【0037】
PL−2について
抗酸菌共通抗原として活動性結核、又は非定型抗酸菌症の判定に有用であり、特に抗TDM・T抗体や抗TMM・I抗体の上昇が見られない発病早期の患者において、PL−2抗体が上昇する場合が多い。
活動性結核発病初期や排菌量が少ない時期やエイズ合併症、粟粒結核などでも陽性となる。従って集団検査のスクリーニングテストにも有用である。
【0038】
GPL−coreについて
グラフ中ではGPL−coreと略記してある。活動性MAC症患者のみ抗GPL−coreIgG抗体が検出され、MAC症との合併のない純粋な活動性結核ではこの抗体は検出されない。活動性MAC症に特異的反応を示すことから、活動性MAC症の判定に有用である。
【0039】
Gl−aiについて
MACに特異的に存在するミコール酸糖脂質(mycoloyl glycolipid)で結核菌には存在しない。このミコール酸糖脂質は抗Gl−aiIgG抗体と抗Gl−ai IgM抗体の双方を産生するが、特に抗Gl−aiIgG抗体との反応はより特異的、かつ顕著であり、活動性MAC症の判定の特異抗原として有用である。
【0040】
【発明の効果】
請求項1及び2記載の試薬においては、請求項3記載の判定用プレートとして、市場に供給でき、且つ請求項4記載のキットとすれば、検査は患者の血清を用いる体外試験が採用でき、患者は採血時のみの軽い負担でよく何らの危険性がない。
殊に検査時間が従来の検査と比較すれば、極端に短く殆どその日のうちに、何らかの活動性抗酸菌症の判定ができるだけでなく、活動性結核か活動性MAC症かその他の活動性抗酸菌症かの判定もでき、患者に対し早期の治療が開始でき、且つ適切な隔離などにより、感染を極力抑えることができる。
また前記の病気の種別が明確になることによって、日本における法律上の伝染病の適用がされるかどうか区別ができ医療事務も簡素化される。
また、活動性結核患者などに多数のヒトが接触した場合など、その感染経路などを検査するときのスクリーニングテストなど臨床的に無症状の発病者の発見や、発病の可能性の高い活動性結核患者との接触者の発病予測判定も短時間で達成され、迅速判定に大いに寄与するものである。
請求項2記載の発明においては、Gl−ai抗原がキットに加えられているから、これが前記GPL−core抗原と共に陽性の場合は活動性MAC症の判定がより確実に判定できる。
【0041】
請求項3記載の発明においては、通常の検査機関、総合病院など検査部門を有する医療機関においては、請求項第3記載の希釈液、基質、基質溶解液、過酸化水素、反応停止液、標識抗体液などは簡単に調製できるから、これらを使用することによって、このテストを容易に実施できる。
請求項4記載の発明においては、前記テストに必要な全ての薬剤たる希釈液、基質、基質溶解液、過酸化水素、反応停止液、標識抗体液などが揃っているから、これらを用い常法の検査操作を用いれば前記請求項5記載の方法が容易に実施でき、適切な判定ができる。
【0042】
請求項5記載の判定方法においては、具体的に述べれば、TDM・T、TMM・T及びPL−2が陽性で、GPL−core若しくはこれとGl−aiが陰性の場合は活動性結核と判定でき、中でもTDM・T及びTMM・T抗原の反応が陰性の場合でもPL−2抗原は活動性結核感染の初期に高い抗体価を示し、活動性結核患者との接触や院内感染経路の認定など迅速性が要求されるスクリーニングテストに効果的である。
更にこれらTDM・T及びTMM・T抗原は治療効果があった場合には急速に低下し、治療効果の確認及び投薬などの治療停止乃至終了時期の決定にも有効な判断資料となる。
【0043】
次にTDM・T及びTMM・Tが陰性でTMM・I、GPL−core若しくはこれとGl−aiが陽性の場合は活動性MAC症と判定され、特にGPL−core又はこれと及びGl−aiが共に陽性の場合はほぼ100%活動性MAC症と判定できる。
またTDM・T、TMM・T、TMM・I、PL−2及びGPL−coreが共に陽性の場合は活動性結核と活動性MAC症を併発していると判定できる。
また何れの抗原についても陰性の場合は如何なる抗酸菌による発症もないことを示し、無用な治療や隔離などが行われるおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 活動性結核患者、活動性MAC症患者、及び双方併発患者のそれぞれに就いての本件試薬の各抗原別に抗体価を示した棒グラフである。
【図2】 活動性結核患者であって、ガフキー7乃至9レントゲン検査両肺病変のあるそれぞれ患者の治療前乃至治療初期と治療後2週間乃至約1ヶ月、2ヶ月後のGPL−core抗原を除く各抗原に対する抗体価を示す線グラフである。
【図3】 図2と同様他の患者の治療前乃至治療初期と治療後2週間乃至約1ヶ月、約半年後のGPL−core抗原を除く各抗原に対する抗体価を示す線グラフである。
【図4】 治療効果が芳しくない患者の治療前乃至治療初期と治療後2週間乃至約1ヶ月、約半年後のGPL−core抗原を除く各抗原に対する各抗体価を示す線グラフである。
【図5】 治療後更に病状が悪化している患者の治療前乃至治療初期と治療後2週間乃至約1ヶ月、約半年後のGPL−core抗原を除く各抗原に対する各抗体価を示す線グラフである。
【図6】 他の抗体検出試験(TBGL法)による試験では陰性と判断された活動性結核、活動性MAC症患者が本件試薬の各抗原に対する抗体価で、陽性に反応した棒グラフ及び治療経過を示す棒グラフである。
【図7】 他の抗体検出試験(TBGL法)では陰性と判断された活動性MAC症患者が本件試薬の各抗原に対する抗体価で、陽性に反応した棒グラフ及び治療経過を示す棒グラフである。
【図8】 他の抗体検出試験(TBGL法)では陽性と判断された活動性MAC症患者が本件試薬の各抗体価で、陽性に反応した棒グラフ及び治療経過を示す棒グラフである。

Claims (5)

  1. 1)M.ボビスBCG東京株より分離精製した毒性糖脂質
    2)M.ボビスBCG東京株より分離精製した糖脂質
    3)M.アビィウム コンプレックス(MACと略)より分離精製した糖脂質
    4)人型結核菌より分離精製した糖リン脂質 5)M・アビィウム コンプレックス菌株より調製した他の人型結核菌、牛型結核菌にないグリコペプチド(GPLと略)抗原の血清型特異な糖鎖を除去したGPL−コア(GPL−coreと略)。
    以上の各物質を抗原とし、これらを別々に独立し、且つ一組のキットとして含むことを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬。
  2. 前記のキットに対して更にMACより分離精製したミコロイル アラビノフラノシル グリセロール(Gl−aiと略)を独立した抗原として加えてあることを特徴とする請求項1記載の活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬。
  3. 共通の多ウエル盤のプレートに、前記請求項1又は2記載の活動性結核・活動性抗酸菌症判定用試薬中の抗原を各抗原毎に別々の前記ウエル内に固着してあることを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定用プレート。
  4. 請求項3記載の前記活動性結核・活動性抗酸菌症判定用プレートと濃縮標識抗体液、濃縮洗浄希釈液、基質、基質溶解液、過酸化水素水、反応停止液、及び陽性コントロール血清が一組のキットとしてあることを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定キット。
  5. 前記請求項4記載の発明のキットを用い、濃縮洗浄液を精製水で最適希釈倍に希釈し、洗浄希釈液とする第1方法。
    次に濃縮標識抗体液を前記洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈標識抗体液とする第2方法。
    基質は基質溶解液を用いて溶解し、過酸化水素水を加えて基質液とする第3方法。
    次に被検血清及び陽性コントロール血清を第1の方法により調製した洗浄希釈液で最適希釈倍に希釈する第4方法。
    この第4方法による被検血清を含む希釈液を各試薬が固着してある前記請求項3記載の発明の判定用プレートのウエルに分注する。また前記陽性コントロール希釈液も別のウエルに同様に注入する第5方法。
    第4方法及び第5方法完了後約1時間静置し、第1の方法による洗浄希釈液で前記プレートの全てのウエルを洗浄する第6の方法。
    次に第2の方法による希釈標識抗体液を各ウエルに注入し、暫時後再び第1の方法による希釈液で洗浄する第7の方法。
    次に第3方法で調製した基質液を各ウエルに注入し、遮光フイルムを掛け30分室温下で静置し、後反応停止液を各ウエルに添加し、波長450nm、492nmのうちの一種を用い、この光による吸光度を測定し、各ウエルの反応の程度を判定し、これらの組み合わせにより、活動性人型結核、活動性非定型抗酸菌症の片方若しくは双方、その他の抗酸菌症の発病症状の程度、若くは全く臨床症状がないが、将来発病の可能性の有無の判定を行うことを特徴とする活動性結核・活動性抗酸菌症判定方法。
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