JP3642664B2 - 光電陰極及びそれを備えた電子管 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、所定波長の光の検出あるいは測定に適用可能な光電陰極、及びそれを備えた電子管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、波長200nm以下の紫外光に感度を有する光電陰極の材料としては、例えば半導体のヨウ化セシウム(CsI)がよく知られており、この光電陰極は真空紫外領域で最大約25%の光電変換量子効率を有する。また、この光電陰極は波長200nm以上の被検出光に対しては急激にその値(光電変換量子効率)を下げるので、太陽光には感度を持たない、いわゆるソーラブラインド光電陰極として知られている。
【0003】
したがって、このようなソーラブラインド光電陰極は、光電子増倍管等のいわゆる電子管(光電陰極を備えた光電管)にしばしば適用され、紫外領域での微弱光検出あるいは測定に用いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような紫外領域での被検出光の高精度な検出あるいは測定を行うためには、より高い光電変換量子効率(以下、単に量子効率又はQ.E.という)の光電陰極が要求される。ところが、従来のCsI光電陰極では、図22に示されたように、CsI半導体の伝導帯(CB)の底のエネルギーに対する真空準位(VL)のエネルギーの差、すなわち電子親和力(Ea)が正である。これは、被検出光(hν)を受容して価電子帯(VB)から励起された光電子(e-)の一部は真空中(真空状態が維持された容器内)へ脱出することができないことを意味する。したがって、従来の光電陰極ではこれ以上の高い量子効率の光電陰極を実現することは本質的に不可能であった。
【0005】
一方、光電陰極として、CsIに代る単結晶ダイヤモンド薄膜からなる光電陰極も報告されている。Himpselらの報告(フィジカルレビュー(Physical Review) B,20,2(1979)624)によれば、ボロン(B)がドーピングされた面指数が(111)の天然単結晶ダイヤモンドが、原子レベルで清浄な表面となった場合、すなわち、その表面が(111)−1×1構造の場合、負の電子親和力(Negative Electron Affinity:NEA)光電陰極となる。図24に示された量子効率からも分るように、単結晶ダイヤモンド薄膜の場合、光子エネルギーが5.5eV〜9eVの範囲では量子効率の値が最大約20%、13〜35evの範囲ではその値が40〜70%と比較的高い。
【0006】
また、栄森らは、高圧合成された面指数が(100)の単結晶ダイヤモンド基板上に、マイクロ波プラズマCVDによって単結晶ダイヤモンド膜を合成した後、その表面を水素によって終端している(ダイヤモンド・アンド・リレーティド ・マテリアル(Diamond and Related Material) 4(1995)806,ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.)33,(1994)6312)。この場合には、単結晶ダイヤモンド膜が(111)面に配向しているときだけでなく、(100)面に配向したときにも、その電子親和力が負になる。なお、栄森らの報告では、シンクロトロン放射光を光源として、光電子放出を測定しており、量子効率の絶対値については報告されていない。
【0007】
しかしながら、以上のような光電陰極では、被検出光を透過しない単結晶ダイヤモンドが光電陰極本体又は支持基板として用いられているため、単結晶ダイヤモンドの光電陰極を、被検出光が入射する面と光電子が放出される面とが異なる透過型光電陰極に適用するのは容易ではない。
【0008】
また、産業化の観点から、天然の単結晶ダイヤモンド及び高圧合成の単結晶ダイヤモンド基板は、非常に高価であり、量産性に欠ける。さらに、その高価な単結晶基板上に良質の単結晶ダイヤモンド膜を気相合成する技術も容易ではない。このような理由から、単結晶ダイヤモンドの光電陰極は実用化が難しい。
【0009】
そこで、この発明は反射型、透過型のいずれにも適用可能であって、単結晶ダイヤモンド薄膜よりも高い量子効率が得られる光電陰極、及びそれを備えた電子管を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る光電陰極は、所定波長の入射光(被検出光)によって価電子帯から伝導帯へ励起された光電子を放出する電極であって、所定波長の光の検出等に用いられる光電子増倍管、画像増強管等の種々の電子管に適用可能である。なお、当該光電陰極には、被検出光に対して透光性を有する基板上に形成され、該被検出光が入射する面と対向する面から光電子を放出する透過型光電陰極と、被検出光を遮光する基板上に設けられ、被検出光が入射する面から光電子を放出する反射型光電陰極とが含まれる。また、透過型光電陰極は被検出光の入射方向に対してその入射面が垂直になるよう設置されるのに対し、反射型光電陰極は被検出光の入射方向に対して傾くよう設置される。
【0011】
この発明に係る光電陰極は、上述の課題を解決すべく、多結晶ダイヤモンドか又は多結晶ダイヤモンドを主成分とする材料からなる第1層を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、上記第1層の少なくとも一方の表面は、仕事関数を低下させて光電子が放出しやすくするため、水素によって、あるいは酸素によって終端されるのが好ましい。特に、酸素によってその表面が終端された光電陰極は、大気に晒された場合であっても十分な量子効率が維持されるため、化学的に安定である。
【0013】
この発明に係る光電陰極は、上記第1層(多結晶ダイヤモンド層)上に設けられた層であって、アルカリ金属か又はその化合物からなる第2層をさらに備えてもよい。なお、この第2層は、当該光電陰極の量子効率をさらに向上させるが、特に、水素あるいは酸素でその表面が終端された第1層上に形成することにより、その量子効率を著しく向上させる。
【0014】
また、当該光電陰極における第1層である多結晶ダイヤモンド薄膜の導電型は、p型であること好ましい。真性半導体等と比較して抵抗値が低く、光電子を放出し易くなる(量子効率が高くなる)からである。
【0015】
以上のような構造を備えた光電陰極は、光電子増倍管等の種々の電子管に適用可能である。すなわち、この発明に係る電子管は、少なくとも、所定波長の入射光に対して透光性を有する入射面板と、上述の構造を有する光電陰極と、該光電陰極を収納するとともに、入射面板を支持した容器(真空容器)と、そして、該容器内に収納され、光電陰極から放出された光電子を直接又は間接的に収集するための陽極とを備えている。
【0016】
以上の構成において、当該光電陰極は、入射面板上に設けられるとともに、該入射面板によって支持された透過型光電陰極に適用可能である。また、入射面板の材料としては、ソーラブラインド光電陰極と組合わせるため、少なくとも波長200nm以下の紫外光に対して透光性を有するフッ化マグネシウム(MgF2)が好ましい。
【0017】
一方、以上の構成において、当該光線陰極は、入射光に対して遮光性を有する遮光部材(少なくとも波長200nm以下の紫外光を遮光する材料)の、入射面板と向い合う面上に設けられるとともに、該遮光部材によって支持された反射型光電陰極にも適用可能である。また、係る遮光部材の材料には、シリコン(Si)や金属材料等が適用可能である。
【0018】
この発明に係る電子管は、上記容器内に収納されるとともに、光電陰極から放出された光電子をカスケード増倍しながら得られた2次電子を上記陽極に導く電子増倍部をさらに備えてもよい。
【0019】
この発明に係る電子管において、上記陽極は、入射光に対応して光電陰極から放出された光電子を受容することにより発光し、該入射光の2次元光学像に対応した2次元電子像を形成する蛍光膜であってもよい。このような構成により被検出光の2次元光学像を直接観察することができる。さらに、上記陽極は、入射光に対応して光電陰極から放出された光電子を受容し、該入射光の2次元光学像に対応した電気信号を出力する固体撮像デバイスであってもよい。
【0020】
なお、以上の構成を備えたこの発明に係る電子管では、容器内に、分圧1×10-6〜1×10-3torrの範囲にある水素が封入されている。該圧力範囲で容器内に水素を封入することにより、当該光電陰極の表面は化学的に安定し、当該電子管はより安定な動作が可能となる。すなわち、水素の分圧が1×10-3torrより高い場合には電子管内で放電が生じる可能性が高くなる。一方、1×10-6torrより低い場合には、多結晶ダイヤモンド薄膜表面から水素が脱離した後、再吸着するには非常に時間を要するため、電子管内の他の残留分子が多結晶ダイヤモンド薄膜表面に吸着して、水素封入による効果が失われてしまう可能性が高くなる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の各実施形態を図1〜図24を用いて説明する。なお、図中同一部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
まず、この発明に係る光電陰極は、多結晶ダイヤモンド薄膜(多結晶ダイヤモンド層)を備えたことを特徴としている。
【0023】
この光電陰極では、主要な層を多結晶ダイヤモンドにより構成することにより、従来技術(単結晶ダイヤモンド薄膜)よりも高い量子効率が得られる。すなわち、一般的な光電陰極では、入射された被検出光により励起された光電子は、あらゆる方向に拡散していく。そして、該光電陰極内部で散乱を繰り返しながら最終的に該光電陰極の表面まで到達した光電子だけが、真空中(光電陰極が設置される真空容器の内部)に放出される。
【0024】
図1(a)に示されたように、単結晶ダイヤモンドの光電陰極では、励起された位置から放出される表面位置までの光電子の走行距離が一般的に長くなる。これは、励起された光電子のうち、表面に対して水平方向あるいは反対側に拡散した光電子の表面までの走行距離が著しく長くなるためであり、結果として該光電陰極の表面から放出される光電子の数が少なくなり量子効率が低くなる。
【0025】
一方、図1(b)に示されたように、多結晶ダイヤモンドの光電陰極の場合、励起された光電子の放出面となる各結晶粒の界面が、光電子の各拡散方向に存在するため、単結晶ダイヤモンドの場合と比較して、励起位置から結晶界面(光電子が放出される面)までの光電子の走行距離が短くなる。このため、該単結晶ダイヤモンドの光電陰極よりも放出される光電子の数が多くなり、より高い量子効率が得られる。
【0026】
次に、この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第1実施例について説明する。なお、図2は、この発明に係る透過型光電陰極の第1実施例(表面が水素で終端された多結晶ダイヤモンド薄膜、H/Diamond)が適用される電子管10の構造を示す断面図である。
【0027】
この電子管は、波長200nm以下の紫外光である被検出光を検出する。また、この電子管10では、筐体の一端に当該透過型光電陰極30が設けられた入射面板31が固着支持され、また、筐体の他端がガラスを用いて気密に封止されることにより、真空容器20が構成されている。さらに、真空容器20内部には透過型光電陰極30に対して正電圧が印加される陽極40が透過型光電陰極30と向い合うように設置され、その下面からは陽極40にその一端が電気的に接続されたリードピン50a、50bが延びている。
【0028】
この実施例では、被検出光として波長200nm以下の紫外光を対象としているので、電子管10に用いられる入射面板31は、従来から広く用いられているホウケイ酸ガラスを適用できない。ホウケイ酸ガラスは、波長約300nm以下の光に対して不透明となるからである。このため、このような被検出光に対する入射面板31としては、フッ化マグネシウム(MgF2)又はフッ化リチウム(LiF)が挙げられる。しかしながら、LiFは潮解性があるため、化学的安定性の面で問題があり(特性劣化が起こりやすい)、現状ではMgF2が好適である。
【0029】
当該透過型光電陰極30は、従来の単結晶ダイヤモンド薄膜と異なり、厚さ約0.5μmの多結晶ダイヤモンド薄膜である。しかも、透過型光電陰極30である多結晶ダイヤモンド薄膜は、従来のCsI光電陰極と異なり、伝導帯(CB)の底のエネルギーに対する真空準位(VL)のエネルギーの差、すなわち電子親和力が負であるNEA光電陰極である。なお、多結晶ダイヤモンド薄膜の導電型は、ホウ素(B)等の不純物をドープすることによりp型とするのが好ましい。多結晶ダイヤモンド薄膜の導電型をp型にすると、多結晶ダイヤモンド薄膜の伝導帯の曲がりにより、光電子がその放出表面へ走行し易くなるからである。より好ましくは、多結晶ダイヤモンド薄膜表面(光電子放出面)の未結合の炭素が水素32によって終端されて、該多結晶ダイヤモンド薄膜の仕事関数を低下させるのがよい。
【0030】
このような透過型光電陰極30(H/Diamond)を備えた電子管10に被検出光(hν)が、図2及び図3に示されたように入射面板31に入射された場合、特定波長以下の光成分(入射面板31の吸収帯域の光成分)は入射面板31によって吸収される。さらに、入射面板31を透過した被検出光は透過型光電陰極30に到達して吸収されると、電子−正孔対が形成された後に光電子(e-)が発生する。発生した光電子は拡散又は多結晶ダイヤモンド薄膜内に形成された内部電界によって、負の電子親和力のダイヤモンド薄膜表面に到達する。したがって、光電子はダイヤモンド薄膜表面から容易に放出される。また、多結晶ダイヤモンド薄膜表面が水素32によって終端されているときには、その仕事関数が水素終端されていないときに比べて低下するので、光電子は一層容易に真空中(光電陰極30の外部であって真空容器20内)に放出される。放出された光電子は透過型光電陰極30に対して正電圧が印加された陽極40に集められ、リードピン50a、50bから電気信号として真空容器20の外部に取り出される。
【0031】
発明者らは、このような透過型光電陰極30を備えた電子管10について、分光感度特性を測定した。図4は、この発明に係る透過型光電陰極の第1実施例(表面が水素によって終端されたダイヤモンド薄膜、以下、H/Diamondで示す)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は実際に測定された量子効率Q.E.(%)である。
【0032】
このグラフに示されたように、表面が水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜(H/Diamond)では、量子効率Q.E.が12%以上という比較的高い値が再現性よく得られている。なお、図5は、図4に示された第1実施例の多結晶ダイヤモンド薄膜(H/Diamond)に関するグラフにおいて、縦軸を入射面板31の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)で示したグラフである。図5からも分るように、当該H/Diamond光電陰極(水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜)自身の量子効率Q.E.は24%程度になる。また、発明者らは、p型の多結晶ダイヤモンド薄膜(H/p−Diamond)の量子効率が、ノンドープの多結晶ダイヤモンド薄膜の場合と比較して、約2倍程高くなることも確認している。なお、透過型光電陰極30を被検出光が入射する面と光電子が放出される面とが同じである、いわゆる反射型光電陰極にしても、その分光感度特性は本質的に透過型光電陰極と同様である。また、多結晶ダイヤモンド薄膜の表面が水素終端されていない場合の量子効率は水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜と比較して低くなっている。
【0033】
このように、多結晶ダイヤモンドの透過型光電陰極30でも比較的高い量子効率が得られるのは、多結晶ダイヤモンド薄膜の粒径が数μm程度の粒状物であるため、その表面の凹凸が大きくなることに由来するものと考えられる。すなわち、被検出光がその凹凸によって、上述したように、光学的に屈折・散乱されてその光路長が長くなり、実質的な光吸収効率が増加するので、発生する光電子が多くなる。また、その薄膜は粒状物からなるため、各粒状物から放出された光電子の走行距離は短くなるので、光電子が放出表面へ到達する到達効率も増加するのは明白である。このため、電子親和力がほぼ零又は負である多結晶ダイヤモンド薄膜表面にまで到達した光電子は、真空中(真空容器20の内部)にほとんど脱出できる。したがって、被検出光の吸収効率及び光電子の表面到達効率が支配的な透過型光電陰極30は、高い量子効率を有するようになる。
【0034】
なお、この発明に係る光電陰極は、電界放出素子(フィールドエミッタ)と本質的に異なることが留意されるべきである。
【0035】
一般にフィールドエミッタと呼ばれるデバイスは、金属や半導体の表面に強い電界(>106V/cm)を加えることによって、図25に示されたように、フェルミ準位の電子をトンネル効果によって真空中(フィールドエミッタが設置される真空空間)へ放出させるものである。すなわち、図25から明らかなように、放出された電子はフェルミ準位の電子であって、光によって価電子帯から伝導帯へ励起された電子、いわゆる光電子ではない。なお、図25は、フィールドエミッタの電子放出課程を説明するためのエネルギーバンド図である。
【0036】
一方、この発明に係る光電陰極は、例えば図3又は図22及び図23に示されたように、入射光によって価電子帯から伝導帯へ励起された光電子を真空中へ放出する電極であり、フェルミ準位の電子がトンネル効果によって真空中へ放出されるフィールドエミッタとは、本質的に異なるものである。また、表面での強い電界も必ずしも絶対的な条件ではなく、むしろ強い電界によって生じる電界放出電子は、光電陰極にとっては暗電流となり性能を低下させるものである。
【0037】
したがって、ダイヤモンド半導体層を有するフィールドエミッタとこの発明に係る光電陰極とは全く異なる技術分野に属し、無関係である。
【0038】
次に、このような透過型光電陰極30の形成及びそれを備えた電子管10の製造について説明する。まず、ガラスを用いて真空容器20の本体となる筐体の内部に陽極40を予め設置しておく。このとき、真空容器20内部が真空排気されるように開口部21を設けておく。次に、透過型光電陰極30を形成するために、例えば、マイクロ波励起によるプラズマ放電室(図示せず)を備えたマイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapour Deposition:化学気相堆積)法を用いて、入射面板31上に多結晶ダイヤモンド薄膜を形成する。すなわち、入射面板31をプラズマ放電室に配置し、そのプラズマ放電室内に例えばCO及びH2を混合した原料ガスを導入する。その後、マイクロ波を用いて、このプラズマ放電室内の原料ガスを放電分解すると、入射面板31上に多結晶ダイヤモンド薄膜が堆積する。また、多結晶ダイヤモンド薄膜をp型の半導体層とするために、堆積中に所定割合のジボラン(B26)を導入する。特に、好適なドーピングのため、堆積時の炭素とホウ素の供給比を1000〜10000対1にするのがよい。
【0039】
なお、多結晶ダイヤモンド半導体にホウ素をドープしてp型半導体にするのは、必ずしも必要ではないが、より高い量子効率を得るためには好ましい。また、多結晶ダイヤモンド薄膜を形成する際に、この実施形態ではマイクロ波プラズマCVDを用いたが、形成方法についてもこれに限定されず、例えば熱フィラメントCVD法等で形成してもよい。
【0040】
続いて、得られた透過型光電陰極30たる多結晶ダイヤモンド薄膜は、水素プラズマ雰囲気中に数分間放置されることにより、その薄膜表面が水素によって終端される。
【0041】
その後、一端水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜(H/Diamond)の透過型光電陰極30を大気中に取り出した後、入射面板31を筐体の一端に取り付ける。さらに、真空容器20内部を約1×10-8torr程度、より好適には1×10-10torr以下の超高真空まで開口部21から真空排気された状態で、約200℃で数時間の脱ガスを行う。係る性能を持ったNEA透過型光電陰極30を維持する条件としては、該透過型光電陰極30表面が残留ガス等の影響を強く受け易いため、その表面が原子レベルで清浄であることが要求される。その後、真空容器20をチップオフ(真空排気装置内に開口部21を介して取り付けられた真空容器20を、真空容器20内の真空状態を破らずに該真空排気装置から切り離すこと)することにより開口部21を封止することにより、所望の電子管10が得られる。
【0042】
なお、多結晶ダイヤモンド薄膜表面を水素によって終端する場合、上述のように限定されない。すなわち、多結晶ダイヤモンド薄膜が形成された入射面板31を真空容器20に取り付けた後、真空容器20内部を約1×10-8torr程度に真空排気し、約200℃で数時間の脱ガスを行う。その後、真空容器20内に水素を約1×10-3torr程度導入し、また、透過型光電陰極30を真空容器20に装備されたタングステンフィラメントにより約300℃まで加熱することにより、表面を水素で終端させる。電子管10を構成する真空容器20内に封入された水素は、多結晶ダイヤモンド薄膜の表面を化学的に安定させる。その後、真空容器20をチップオフすると、非常に安定に動作する電子管10が得られる。こうして得られた電子管10についても、上述された電子管10と同様に、量子効率12%以上(入射面板31の透過率に基づいて補正された光電陰極自身の量子効率は24%以上)の高い感度が再現性よく得られる。
【0043】
ただし、この水素の分圧は少なくとも1×10-3torrより低く、1×10-6torrより高い状態で封入されていることが重要である。なぜならば、水素の分圧が1×10-3torrより高い場合には電子管10内で放電が生じる可能性が高くなる。一方、1×10-6torrより低い場合には、多結晶ダイヤモンド薄膜表面から水素が脱離した後、再吸着するには非常に時間を要する。このため、真空容器20内の他の残留分子が多結晶ダイヤモンド薄膜表面に吸着して、水素封入による効果が失われてしまう可能性が高い。
【0044】
この発明に係る透過型光電陰極30は上記実施例には限定されない。上述の透過型光電陰極30(H/Diamond)では、その仕事関数を低下させるため、多結晶ダイヤモンド薄膜の表面が水素で終端されている。さらに、当該透過型光電陰極30は、表面の仕事関数をさらに低下させるために、水素により終端された多結晶ダイヤモンド薄膜の表面上に、Cs等のアルカリ金属又はその化合物の活性層を設けてもよい(例えば、Cs/H/Diamond)。ただし、この活性層はアルカリ金属の一例としてCsを挙げたが、これに限定されるものではなく、他のアルカリ金属、例えばK、Rb、Na等であってもよい。また、この活性層はアルカリ金属の酸化物あるいはフッ化物等の化合物の層でも同様の作用・効果が得られる。さらに、上記のアルカリ金属又はそれらの酸化物若しくはフッ化物を複数組み合わせた活性層を当該透過型光電陰極30に適用してもよい。
【0045】
次に、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)について、まず、多結晶ダイヤモンド薄膜の合成方法及び当該反射型光電陰極の製造方法について説明する。
【0046】
図6に示されたように、まず市販の0.5mm厚程度の安価なSi(100)基板600を用意し、このSi基板600上に低圧マイクロ波プラズマCVDにより、ボロン(B)がドープされた多結晶ダイヤモンド薄膜610(p−Diamond)を厚さ0.5μm合成する。具体的には、原料ガスとしてCH4を用いるとともに、ドーパントガスとしてB26を用い、これらガスをH2ガスと混合して供給した。合成温度は850℃、反応圧力は50torr、マイクロ波出力は1.5W、成膜速度は0.5μm/hである。成膜終了後に原料ガスCH4とドーパントガスB26の供給が停止され、H2ガスが供給された状態を約5分間維持することにより、表面が水素終端されたp型多結晶ダイヤモンド薄膜610(H/p−Diamond)を得た。
【0047】
続いて、合成された試料は低圧マイクロ波CVD装置から取り出され、図7に示された電子管11(光電管)に組み込まれる。この電子管11は、Si(100)基板600とその上に合成された反射型光電陰極650の一部を構成する多結晶ダイヤモンド薄膜610、多結晶ダイヤモンド薄膜610の表面に形成された活性層620、放出された光電子を収集するための環状の陽極112、入射光(被検出光)の窓となる紫外光に対して透明な材料であるMgF2からなる入射窓113、ガラスバルブからなる真空容器110、光電陰極650、陽極112のそれぞれと電気的な導通をとるために真空容器110の一部に埋め込まれたリードピン114a、114b、及びCsスリーブ111と該Csスリーブ111と電気的に接続されたリードピン114cから構成されている。そして、この電子管11は真空排気装置に開口部21を介して取り付けられ、その内部が約10-8torrの真空度になるまで排気された後、約200℃で脱ガスのためのべ一キングが施される。
【0048】
さらに、水素終端されたp型ダイヤモンド薄膜610(H/p−Diamond)の表面の仕事関数を低下させるため、Csと02を交互に供給することにより単原子層程度のCsO活性層620が、該p型ダイヤモンド薄膜610(H/p−Diamond)上に形成され、当該光電陰極650(CsO/H/p−Diamond)が得られる。なお、CsO活性層620は、市販のCsスリーブ111を通電加熱することによりCsが供給され、リークバルブを介して高純度O2が真空容器110内へリークさせることにより簡単に形成することが可能である。この時、紫外光を照射しながら陽極112からの光電子放出電流をモニターすることにより、再現性良くCsO活性層620の最適な厚さを制御することができる。その後、電子管11の開口部21は閉じられる。
【0049】
このように得られた電子管11における紫外領域の分光感度特性を図8に示す。入射光は、真空容器110の一部に設けられたMgF2からなる窓113(入射面板)を介して反射型光電陰極650に到達し、該反射型光電陰極650の多結晶ダイヤモンド薄膜610に吸収されて光電子が励起される。励起された光電子は、拡散により多結晶ダイヤモンド薄膜610の表面まで到達する。この時、多結晶ダイヤモンド薄膜610の表面は活性層620の作用により表面仕事関数が低下しているため、光電子は容易に真空中へ脱出することができる。実際に発明者らは、図8に示されたように、活性層620がCsOである光電陰極(CsO/H/p−Diaond)の場合で最高90%、活性層620がRbOである光電陰極(RbO/H/p−Diaond)の場合で最高80%、そして、活性層620がKOである光電陰極(KO/H/p−Diamond)の場合で最高70%と非常に高い量子効率が得られることを確認した。なお、図8の縦軸に示された量子効率はMgF2入射面板113の紫外領域での透過率に基づいて補正された、正味の多結晶ダイヤモンド薄膜610の量子効率Q.E.(%)である。この値はHimpsel文献で報告されている、天然単結晶ダイヤモンドにおける同様の入射光子エネルギー(eV)に対する量子効率20%よりも、はるかに高い量子効率が得られており、この発明の有効性が端的に示している。これは、この発明に係る光電陰極を、表面積の大きな多結晶ダイヤモンド薄膜とすることにより、平坦な表面の単結晶ダイヤモンド薄膜と比較して、入射光によって励起された光電子が放出表面に到達する確率が増加したことに起因すると考えられる。さらに言及すれば、薄膜中の各結晶粒界面で入射光が光学的に散乱されて吸収効率が増加したことによることも考えられるが、アルカリ金属及びその酸化物による活性層によって、仕事関数がさらに低下したことによる効果が大きいと考えられる。
【0050】
このように、この発明に係る光電陰極650では、該光電陰極650が多結晶ダイヤモンドか、又は多結晶ダイヤモンドを主成分とする材料を備えるとともに、該多結晶ダイヤモンド薄膜610上に、その表面の仕事関数を低下させるアルカリ金属又はその酸化物による活性層620をさらに備えることにより、従来の単結晶ダイヤモンドを用いた光電陰極よりも、安価で簡単に、かつより高性能な光電陰極を実現することができる。
【0051】
なお、上述の反射型光電陰極650では、Bドープされたp型の多結晶ダイヤモンド薄膜610が適用されている。当該反射型光電陰極650としては、量子効率を向上させる上でp型の多結晶ダイヤモンド薄膜を用いるべきであるが、必ずしもp型に限られるものではない。なお、後述するが、発明者らの実験結果によれば、ノンドープの多結晶ダイヤモンド薄膜は、Bドープされたp型多結晶ダイヤモンド薄膜と比較し、約1/2程度の量子効率しか得られなかった。
【0052】
また、上述の反射型光電陰極650は、多結晶ダイヤモンド薄膜610の表面が水素終端されている。化学的安定性を確保する上では水素終端された光電陰極が望ましいが、光電子放出効率の観点からはこれに限られるものではなく、特に意図的な表面終端を行わなくても同様の効果が得られる。
【0053】
また、上述の光電陰極650では、Si基板600上の多結晶ダイヤモンド薄膜610はマイクロ波プラズマCVDにより合成されたが、基板600はSiに限られるものではなく他の半導体、金属などでもよい。しかしながら、再現性よく所望の特性の光電陰極を得るためには、望ましくは晶質が化学的に安定して安価なSi基板を用いることが好ましい。また、この発明に係る光電陰極は望ましくはすべて多結晶ダイヤモンドで構成されるべきであるが、部分的に多結晶でない成分、例えばグラファイトやダイヤモンドライクカーボンの成分を含んでいても、ある程度の効果が得られる。したがって、この発明に係る光電陰極は、完全な多結晶ダイヤモンド薄膜からなるもののみに限定されるものではない。
【0054】
なお、以上の応用例は、基板を除きこの発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)にも適用可能である(透過型光電陰極の場合、MgF2入射面板が基板となる)。
【0055】
次に、第1実施形態の透過型光電陰極30についても、それを備えた電子管12の製造を図9を用いて説明する。図9の電子管12に透過型光電陰極を組み込むためには、上述された第1実施例(図2)と異なり、真空容器20を構成する筐体内にCs製のスリーブ111を設置する必要がある。そして、そのCs製スリーブ111を、高圧水銀ランプにより紫外光を多結晶ダイヤモンド薄膜30に照射して陽極40からの光電子放出電流をモニターしながら、抵抗加熱することにより、表面が水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜30(H/Diamond)上にCsの活性層300を形成する。光電子放出電流が最大になったら、通電加熱を止める。その後、真空容器20を真空排気装置からチップオフすることにより、電子管12が得られる。
【0056】
図10は、以上のようにして得られたこの発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第2実施例(Cs/H/Diamond)を備えた電子管12の分光感度特性を示すグラフである。このグラフからも分るように、電子管12の実際に測定された量子効率Q.E.は45%以上(入射面板31の透過率に基づいて補正された量子効率は90%以上)であり、その再現性もよいことを発明者らは確認した。
【0057】
なお、多結晶ダイヤモンド薄膜30の表面の仕事関数を低下させるためにその表面を終端する元素は、上述された水素には限定されない。すなわち、酸素によって多結晶ダイヤモンド薄膜30の表面を終端しても同様の効果が得られる。
【0058】
図11は、この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第3実施例(Cs/O/Diamond)、すなわち表面が酸素終端されたダイヤモンド薄膜と、該多結晶ダイヤモンド薄膜上に設けられたCs活性層とを備えた光電陰極が組込まれた電子管12の分光感度特性を示すグラフである。なお、縦軸は実際に測定された量子効率Q.E.(補正なし)である。
【0059】
このグラフからも分るように、この光電陰極の量子効率は30%以上(入射面板31の透過率に基づいて補正された量子効率は60%以上)であり、その再現性も優れていることを発明者らは確認した。
【0060】
なお、上述の第3実施例では、活性層の材料としてCsを用いたが、該Cs以外のアルカリ金属、又はアルカリ金属の酸化物若しくはフッ化物等の化合物を適用することが可能である。さらに、上記アルカリ金属又はそれらの酸化物若しくはフッ化物を複数組み合わせた活性層を透過型光電陰極に適用してもよい。
【0061】
次に、この発明に係る光電陰極に含まれる多結晶ダイヤモンド薄膜の導電型を、p型にする効果について、発明者らが行った実験結果を、以下説明する。なお、以下の実験で用意されたサンプルはSi基板上に形成された反射型光電陰極(第2実施形態)である。
【0062】
まず、表面にBドープのp型多結晶ダイヤモンド薄膜が設けられたSi基板と、表面にアンドープの多結晶ダイヤモンド薄膜が設けられたSi基板を用意する。そして、用意されたこれらSi基板それぞれについて、図7に示された電子管と同様の、MgF2入射面板を有する電子管に組み込むとともに、200℃でべーキングした後、H2分圧5×10-3torr、温度350℃で熱フィラメント法により多結晶ダイヤモンド薄膜表面を水素終端した。その後、室温で低圧Hgランプを光源として、真空容器内に設置されている多結晶ダイヤモンド薄膜表面をCsとOにより活性化を行い(多結晶ダイヤモンド薄膜上にCsO活性層を形成)、反射型光電陰極(第2実施形態)における第2実施例のサンプル(CsO/H/p−DiamondとCsO/H/Diamond)を得た。なお、活性化方法はGaAsの場合とまったく同様であり、CsとO2を交互に真空容器内に供給するYo−Yo法である。そして、これら電子管を真空排気装置からチップオフした後に各電子管の分光感度測定を行った。
【0063】
図12は、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第2実施例であって、Bドーブのp型多結晶ダイヤモンド薄膜を有するサンプル(CsO/H/p−Diamond)が組込まれた電子管と、アンドーブの多結晶ダイヤモンド薄膜を有するサンプル(CsO/H/Diamond)が組込まれた電子管それぞれの、分光感度特性を示すグラフである。なお、図12において、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は実際に測定された各サンプルの量子効率Q.E.(%)である。また、図13は、p型多結晶ダイヤモンド薄膜を有するサンプルについて、実際に測定された量子効率Q.E.(光子/電子)とMgF2入射面板の透過率に基づいて補正された量子効率Q.E.(光子/電子)を一緒にプロットしたグラフである。図12からも分るように、最大感度としてBドーブのサンプルで量子効率Q.E.が49%、アンドーブのサンプルで量子効率Q.E.が30%という非常に高い値が得られた。両者の量子効率Q.E.の違いは後ほど詳しく述べるが、表面状態の違いではなくダイヤモンド内のバンドベンディングの向きの違いに起因している。なお、49%という量子効率Q.E.は、補正される前の値でも上述されたCsI光電陰極の約2倍の感度に相当する。
【0064】
次に、実際のBドーブのサンプルの量子効率を見積もると(図13は、窓材であるMgF2入射面板の透過率に基づいて補正された分光感度特性が示されたグラフである)、MgF2入射面板の透過率は特に短波長側で急激に低下するので、波長110〜135nm付近で補正されたものでは最大感度として量子効率Q.E.が80〜96%という非常に高い感度を示す(図13参照)。これはHimpselらが単結晶ダイヤモンドの(111)面で報告しているこの波長域での値20%よりもはるかに高い。したがって、理想的なNEA光電陰極が実現されているものと思われる。
【0065】
また、多結晶ダイヤモンド薄膜表面の電子親和力を見積もると、しきい値エネルギーは約5.2eVで、ダイヤモンドのEgを5.5eVとすると少なくとも0.3eVの負の電子親和力(NEA)となる。従来の水素終端したのみのものではわずかに正の電子親和力が見積もられていたが、場所によってはNEAになっていたものと思われる。この実施例ではさらにCsO活性(多結晶ダイヤモンド薄膜上にCsO活性層を設ける)することにより、多結晶ダイヤモンド薄膜表面のほとんどすべてがNEAとなり、高い量子効率Q.E.を有するサンプル(光電陰極)が得られたと考えられる。また水素終端によって当該多結晶ダイヤモンド薄膜の表面準位は非常に低くくなっているので、CsO/GaAs光電陰極で予想されるような、真空準位との間のギャップがなく理想的なNEA表面が形成されているものと思われる。
【0066】
予想される多結晶ダイヤモンド薄膜表面のエネルギーバンド図を図14(a)、(b)に示す。Bドーブのp型多結晶ダイヤモンド薄膜と、アンドーブの多結晶ダイヤモンド薄膜との違いは、多結晶ダイヤモンド薄膜内のバンドベンディングの方向が異なることに起因する、光電子の表面への到達確率の違いである。このため、表面状態によらず常にアンドーブの多結晶ダイヤモンド薄膜はBドーブのp型多結晶ダイヤモンド薄膜と比較して、1/2程度のQEになるものと思われる。
【0067】
以上の分光感度測定の結果、Bドーブのサンプルで49%(補正なし)、アンドーブのサンプルで30%(補正なし)の高い量子効率Q.E.が得られることが確認できた。さらに、MgF2入射面板の透過率に基づいて補正されたBドーブのサンプルでは、その量子効率が80〜95%と非常に高い感度を示し、理想的なNEA光電陰極が実現していることが分かった。
【0068】
次に、この発明に係る光電陰極の化学的安定性を確認するために発明者らが行った実験について、以下説明する。なお、以下の実験で用意されたサンプルもSi基板上に形成された反射型光電陰極(第2実施形態)である。
【0069】
用意されたサンプルは、上記のSi基板上に設けられたCsO/H/p−Diamond光電陰極であり、このサンプルが組込まれた電子管を大気リークさせた。その後、再度真空排気装置に取り付け200℃、4時間のベ一キングを行い、なんの処理も施さずに該電子管を真空排気装置からチップオフした。そして、得られた電子管について再度分光感度測定を行った。
【0070】
図15は、比較のために大気リーク前と大気リーク後の各CsO/H/p−Diamond光電陰極の、実際に測定された量子効率Q.E.(%)を示したグラフである。このグラフからも分るように、大気リークとベーキング後のCsO/H/p−Diamond光電陰極(この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第3実施例)では、大気リーク後に200℃でベ一キングした後であっても、最大感度として30%というかなり高い量子効率Q.E.であった。これは大気リーク前と比較して約6割程度の感度に相当する。この事実は、例えば巨大な真空装置でまとめてCsO活性化を行い(多結晶ダイヤモンド薄膜上にCsO活性層を形成)、それを一度大気にさらして光電子増倍管等の電子管に継線しても、200℃でべ一キングするのみで光電陰極として量子効率30%の電子管が得られることになり、従来の光電陰極の製造方法を一新する画期的な大量生産の可能性を示唆している。もちろん光電陰極ばかりでなくダイノードの2次電子面としての製造方法もまったく同じである。すなわち、この発明に係る光電陰極は、従来のGaAsなどのNEA光電陰極とはまったく異なるもので、従来の大気や水には非常に敏感な光電陰極の常識をまったく覆えすものである。
【0071】
また、見積もられたしきい値エネルギーはどちらのサンプルも約5.2eVで、大きな違いはなく、負の電子親和力(NEA)となる。このことは、これらの光電陰極の表面においてベーキングによる影響はなく、両者(ベーキング前のサンプルとベーキング後のサンプル)の違いは、さらにその上に吸着している水あるいは有機物などの分子による光電子の捕獲によるものであることを示唆している。つまり、この事実は、ベ一キング温度の最適化によりこれらの吸着物をさらに除去すれば、感度もさらに増加し、元の高い量子効率Q.E.が得られる可能性を示唆している。
【0072】
以上のように、得られたCsO/H/p−Diamond光電陰極は、一度大気に晒し、その後200℃で4時間べ一キングしても、ベーキング前の感度の約60%の感度が維持され、最高で30%(MgF2入射面板の透過率に基づいて補正された量子効率では60%に相当)の高い量子効率Q.E.を有する。したがって、CsO活性された多結晶ダイヤモンド光電陰極がかなり化学的に安定しており、まったく新しい光電陰極あるいはダイノードの2次電子面の量産技術の確立が充分可能である。
【0073】
さらに、発明者らは、酸素終端されたサンプル(多結晶ダイヤモンド薄膜を有する光電陰極)についても、その化学的安定性を確認する実験を行った。
【0074】
用意されたサンプルは、上述されたようにSi基板上に設けられ、表面が水素で終端された多結晶ダイヤモンド薄膜である。このサンプルを、Ag管を介して分圧5×10-3torrのO2を導入しながら350℃に加熱し、その表面をOで終端させた後、CsとOを交互に導入して表面活性化を行った(CsO活性層の形成)。その後、得られた電子管を真空排気装置からチップオフして分光感度の測定を行った。一方、この光電管を大気リークさせ、再度真空排気装置に取り付け200℃、4時間のべ一キング後なんの処理も施さず該真空排気装置からチップオフし、このベーキング後の電子管についても分光感度の測定を行った。
【0075】
図16は、比較のため、大気リーク前後の、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第4実施例(CsO/O/p−Diamond光電陰極)が組込まれた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、縦軸は実際に測定された量子効率Q.E.(%)を示している。また、図17は、図16の測定された量子効率Q.E.を、MgF2入射面板の透過率に基づいて補正した値(量子効率Q.E.)でプロットされたグラフである。
【0076】
これらのグラフからも分るように、O終端された多結晶ダイヤモンド薄膜でもCsで活性化することにより(CsO活性層を形成)、最大26%とかなり高い感度が得られた。これはもちろん水素で終端させた場合の量子効率49.5%よりは低いが、MgF2入射面板の透過率で補正すれば40%近い値となり、かなり高い値(量子効率Q.E.)であるといえる。
【0077】
加えて、上記CsO/O/p−Diamond光電陰極は、大気リークさせた後に200℃でべ一キングした場合であっても、ほとんど大気リーク前と同じ量子効率Q.E.を有する。これは水素終端させたサンプルで得られた値の約6割程度の回復率よりも高い。結果的に、水素終端させた光電陰極でもO終端させた光電陰極でも、大気中に取り出した後に200℃のベーキングを行えば、ほぼ同じ量子効率25〜30%(図17からも分るように、補正後の量子効率60%程度に相当)が得られることになる。
【0078】
なお、さらに安定性を詳しく評価するためには処理条件の検討、大気に晒す時間をパラメータに光電陰極のドリフト特性などを詳しく評価する必要があるが、この発明に係る多結晶ダイヤモンド光電陰極は、いずれにしてもこれまでのアルカリ光電陰極やGaAsなどのNEA光電陰極とはかなり性質が異なり、化学的に安定であることが確認された。従来、光電陰極を代表とする外部光電効果デバイスは表面状態に非常に敏感なため、微量のガスやイオンの影響で特性が変化するという本質的な欠点を有していた。しかしながら、ダイヤモンド材料は条件によっては表面状態に非常に鈍感であると思われる。したがって、この発明は従前の内部光電効果デバイスと比較して外部光電効果デバイスの欠点であった化学的安定性についてのブレークスルーとなる可能性がある。
【0079】
以上のように、CsO/0/p−Diamond光電陰極は、一度大気に晒し、その後200℃で4時間べ一キングしても、ほぼ100%ベーキング前の感度が得られることが確認できた。これは、CsO/0/p−Diamond光電陰極が非常に安定なものであることを示しており、従前の外部光電効果デバイスの欠点であった科学的な安定性についてのブレークスルーとなる可能性を示唆している。
【0080】
なお、上述の実験は反射型光電陰極(第2実施形態)について行われたが、透過型光電陰極(第1実施形態)についても同様の感度が得られる。
【0081】
次に、この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)を備えたいわゆるラインフォーカス型光電子増倍管(ヘッドオン型光電子増倍管)について説明する。図18は、この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)を備えた電子管の構造を示す断面図である。この図の光電子増倍管13では、内面に透過型光電陰極30(水素終端された多結晶ダイヤモンド薄膜)が設けられた入射面板31が真空容器20の本体を構成する筐体の一方の端部に支持されており、被検出光(hν)は、図中の矢印で示された方向に沿って入射される。その筐体の他方の端部もガラスを用いて気密に封止されている。また、真空容器20内部には、前述した所定圧力の水素が封入されている。
【0082】
真空容器20内の他方の端部には陽極40が設置されており、透過型光電陰極30と陽極40との間のうち、透過型光電陰極30寄りに光電子を収束する一対の収束電極50が設置され、且つ、陽極40近傍には透過型光電陰極30から放出される光電子を順次増倍するための複数段のダイノード60a〜60hからなる電子増倍部60が設置されている。なお、図示しないが、透過型光電陰極30、収束電極50、電子増倍部60及び陽極40には、ブリーダ回路及び電気リードを介して、透過型光電陰極30に対して正のブリーダ電圧が陽極40に近づくにつれて段毎に増加するように分配して印加されている。例えば、第1段ダイノード60aには透過型光電陰極30に対して約数100Vの正電圧が印加されて、また、電子増倍部60についても、陽極40に近づくにつれて各ダイノード60a〜60hの正電圧が約100Vづつ増加するように印加されている。
【0083】
このように構成された光電子増倍管13に波長200nm以下の紫外光である被検出光が入射した場合、透過型光電陰極30から光電子(e-)が従来の透過型光電陰極30より多く放出される。放出された光電子は収束電極50によって収束され、第1段ダイノード60aに加速しながら入射される。第1段ダイノード60aでは、入射した光電子数に対して数倍の数の2次電子が放出され、引続いて第2段ダイノード60bに加速しながら入射する。第2段ダイノード60bもまた第1段ダイノード60aと同様に2次電子を放出する。電子増倍部60で2次電子増倍を10回程度繰り返すことによって、透過型光電陰極30から放出された光電子は最終的に約1×106倍程度に増倍された2次電子群となる。最終段ダイノード60hから放出された2次電子群は、陽極40で集められ出力信号電流として外部に取り出される。
【0084】
一般に、光電子増倍管は、電子増倍手段として電子増倍部を備えているが、量子効率Q.E.が低い透過型光電陰極と組み合わせて用いても十分な効果を奏しない。すなわち、このような光電子増倍管では、微弱光を受容した透過型光電陰極から光電子がわずかしか放出しないため、最初に計数ミスが生じた光電子信号は電子増倍部で増倍できないため、検出効率が低下するからである。
【0085】
一方、当該透過型光電陰極を備えた光電子増倍管13では、同一の微弱光を透過型光電陰極30が受容した場合でもより多くの光電子が放出される。したがって、フォトンカウンティングモードにおいて、光電子信号の計数ミスが生じたとしても、計数されなかった光電子信号の影響は、ダイノードの優れた増倍機能によりほとんどキャンセルされる。
【0086】
なお、上記電子管では、電子増倍手段としてダイノードを用いた光電子増倍管を示したが、電子増倍手段はこれに限られるものではない。例えば、2次元電子を2次電子増倍できるように直径10μm程度のガラス孔を多数束ねて構成されるマイクロチャネルプレート(以下、MCPという)、及び電子打ち込み型ダイオード等でも同様の効果が得られる。また、光電子増倍管は上述のラインフォーカス型(ヘドオン型)に限定されず、例えば、反射型光電陰極を用いるサーキュラケージ型(サイドオン型)等でもよい。
【0087】
例えば、図19は、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)を備えたサイドオン型光電子増倍管の構造を示す断面図である。このサイドオン型光電子増倍管14の基本的な構造は、図18に示されたヘッドオン型光電子増倍管13と同様である。しかしながら、このサイドオン型光電子増倍管14では、反射型光電陰極650が被検出光の入射方向に対して傾むいて設置され、該被検出光が入射された面から光電子が放出される。この放出された光電子は、真空容器20の側壁に沿って順次配置された各段のダイノード60a〜60iによって増倍され、得られた2次電子群が陽極40によって収集される。
【0088】
なお、この発明に係る光電陰極(透過型と反射型のいずれも含む)が適用される電子管は、微弱光を単に検出するデバイスに限定されない。たとえば、図20に示された電子管は、微弱な2次元光学像をも検出できるようにした、いわゆる画像増強管である。
【0089】
この画像増強管15では、上述の光電子増倍管13、14と異なり、透過型光電陰極30はIn金属を介して、真空容器20の本体を構成する筐体の上端部に支持されている。また、真空容器20の筐体の中央部分には、ダイノードの代わりにMCP61が設置されている。また、MCP61には透過型光電陰極30に対して数100Vの正電圧が印加されうるようになっている。さらに、MCP61の上面側(以下「入力側」という)及び下面側(以下「出力側」という)からは、電気リード50a、50bの一端が筐体の側壁を貫通して延びている。そして、MCP61の入力側とMCP61の出力側との間には、電気リード50a、50bを介して、増倍用の電圧が印加されている。また、真空容器20の筐体の下端部にはファイバプレート41が支持され、その内面上にはMCP61に対して数kV程度の正電圧が印加可能な蛍光体42(蛍光膜)が設置されている。
【0090】
このような画像増強管15を製造するには、超高真空チャンバ(図示せず)内に、透過型光電陰極30、MCP61が取り付けられた真空容器20の筐体及び蛍光体42を支持したファイバプレート41を配置し、1×10-10torr程度まで真空排気する。そして、圧力が約1×10-3torrの水素をそのチャンバに導入して、透過型光電陰極30を約300℃まで加熱する。これにより、その表面が水素により終端される。なお、この水素終端された透過型光電陰極30(多結晶ダイヤモンド薄膜)上に、チャンバから水素を排気し、上述した製造方法により、Cs活性層をさらにもうけてもよい。次に、筐体20の一端にファイバプレート41を取り付けた後、圧力が約1×10-5torrの水素を真空容器20内部に導入する。そして、筐体の他端にIn金属を介して透過型光電陰極30を支持した後、透過型光電陰極30を圧力変形させて取り付けることにより、気密に封止された画像増強管15が得られる。
【0091】
この画像増強管15に被検出光として2次元光学像が図20に示されたように入射された場合、この入射光に対応した光電子(e-)が透過型光電陰極30から真空容器20の内部空間(真空中)へ放出される。その後、放出された光電子はMCP61入力側に加速して入射すると、MCP61によって約1×106倍に2次電子増倍される。このように2次電子増倍して得られた2次元電子像は、入力側の入射位置に対応した出力側の位置から放出される。この2次元電子像を構成する各2次電子が蛍光体42に加速して入射すると、蛍光体42上では2次元電子像に対応した2次元画像が増強して発光表示される。表示された2次元画像はさらに蛍光体42を支持しているファイバプレート41を通して外部に取り出され、観測される。
【0092】
この実施形態では、この発明に係る光電陰極を用いていることから、微弱光の検出に有効であるだけでなく、微弱光の位置検出にも非常に有効である。
【0093】
なお、図20の画像増強管15では、増倍手段としてMCP61を用いているが、これに限定されず、例えば電子打ち込み型ダイオードでもよい。また、2次元光学像を検出するのに、蛍光体42が適用された画像増強管が用いられる代わりに、CCD(個体撮像デバイス)を有する撮像管等を用いてもよい。
【0094】
図21は、蛍光体42に代えてCCD(個体撮像デバイス)700を備えた撮像管16の構造を示す断面図である。この撮像管16ではCCD700からの電気信号をリードピン701を介して外部に取り出している。このようにCCD700を利用することにより、光電陰極に入射した被検出光により形成される2次元光学像は、該2次元光学画像に対応した2次元電子像を形成する光電子がCCD700の各画素に受容されることによって、上記2次元光学像に対応した電気信号がリードピン701を介して時系列に出力される。
【0095】
なお、この発明に係る光電陰極が適用可能な電子管としては、上述の光電子増倍管、画像増強管及び撮像管の他、ストリーク管等のその他光検出装置にも適用可能である。
【0096】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、多結晶ダイヤモンド又は多結晶ダイヤモンドを主成分とする材料で透過型光電陰極や反射型光電陰極を構成したので、従来の光電陰極よりも高い量子効率を有する光電陰極をより安価に実現することができる。また、この発明に係る光電陰極は、その表面を水素又は酸素で終端したり、さらに、アルカリ金属やその化合物からなる活性層を設けることにより、表面が適当に処理されたダイヤモンド薄膜の仕事関数はさらに低下するので、さらに高い量子効率が得られる。
【0097】
加えて、このような透過型及び反射型光電陰極を、光電子増倍管、画像増強管、撮像管等の電子管に適用することにより、微弱光の計測に極めて有効なデバイスが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】単結晶ダイヤモンド層中で発生した光電子と、多結晶ダイヤモンド層中で発生した光電子の、各層内における振舞いを説明するための図である。
【図2】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)を備えた電子管の概略構造を示す断面図である。
【図3】図2に示された、この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の断面図及びそれに対応したエネルギーバンド図である。
【図4】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第1実施例(H/Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフ(その1)である。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は測定された量子効率Q.E.(%)である。
【図5】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第1実施例(H/Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフ(その2)である。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は入射面板の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)である。
【図6】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の構造を示す断面図である。
【図7】図6に示された、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)を備えた電子管の構造を示す断面図である。
【図8】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第1実施例(CsO,KO,RbO/H/p−Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は入射面板の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)であり、CsO、KO、RbOのそれぞれを活性層とした場合がプロットされている。
【図9】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第2実施例を備えた電子管の構造を示す断面図である。
【図10】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第2実施例(Cs/H/Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は測定された量子効率Q.E.(%)である。
【図11】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)の第3実施例(Cs/O/Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)であり、縦軸は測定された量子効率Q.E.(%)である。
【図12】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第2実施例(CsO/H/Diamond,p−Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は入射面板の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)であり、p型不純物がドープされ多結晶ダイヤモンド層とp型不純物がドープされていない多結晶ダイヤモンド層の場合がプロットされている。
【図13】図12に示された実施例のうち、p型不純物がドープされた多結晶ダイヤモンド層について、測定された量子効率Q.E.(%)と、入射面板の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)とがともにプロットされたグラフである。
【図14】p型不純物がドープされた多結晶ダイヤモンド層からの光電子放出課程(a)と、p型不純物がドープされていない多結晶ダイヤモンド層からの光電子放出課程(b)のそれぞれを説明するためのエネルギーバンド図である。
【図15】図12に示された、この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第2実施例(CsO/H/p−Diamond)の一部について、その安定性を確認するために測定された、係る第2実施例の反射型光電陰極を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は測定された量子効率Q.E.(%)であり、大気リーク前と大気リーク後の場合がプロットされている。
【図16】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第3実施例(CsO/O/p−Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである(その1)。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は測定された量子効率Q.E.(%)であり、大気リーク前と大気リーク後の場合がプロットされている。
【図17】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)の第3実施例(CsO/O/p−Diamond)を備えた電子管の分光感度特性を示すグラフである(その2)。なお、このグラフにおいて、横軸は光子エネルギー(eV)、縦軸は入射面板の被検出光に対する透過率に基づいて補正された当該光電陰極自身の量子効率Q.E.(%)であり、ベーキング後の場合がプロットされている。
【図18】この発明に係る透過型光電陰極(第1実施形態)が適用されたヘッドオン型光電子増倍管(電子管)の構造を示す断面図である。
【図19】この発明に係る反射型光電陰極(第2実施形態)が適用されたサイドオン型光電子増倍管(電子管)の構造を示す断面図である。
【図20】蛍光膜が適用された画像増強管(電子管)の構造を示す断面図である。
【図21】固体撮像デバイスが適用された撮像管(電子管)の構造を示す断面図である。
【図22】CsI光電陰極からの光電子放出課程を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図23】NEA光電陰極からの光電子放出課程を説明するためのエネルギーバンド図である。
【図24】p型不純物がドープされた天然ダイヤモンドの(111)における分光感度特性を示すグラフである。
【図25】フィールドエミッタの電子放出課程を説明するためのエネルギーバンド図である。
【符号の説明】
10、11、12、13、14、15、16…電子管、20…容器(真空容器)、30、610…多結晶ダイヤモンド層、31、113…入射面板、32…水素、40…陽極、42…蛍光膜、60…電子増倍部、300、620…活性層、600…基板、700…個体撮像デバイス(CCD)。

Claims (10)

  1. 所定波長の入射光によって価電子帯から伝導帯へ励起された光電子を放出する電極であって、
    p型多結晶ダイヤモンドか又はp型多結晶ダイヤモンドを主成分とする材料からなる層であって、少なくとも一方の表面水素によって終端されている第1層と、
    前記第1層の水素終端された面上に設けられた層であって、アルカリ金属か又はその化合物からなる第2層とを備えた光電陰極。
  2. 所定波長の入射光によって価電子帯から伝導帯へ励起された光電子を放出する電極であって、
    p型多結晶ダイヤモンドか又はp型多結晶ダイヤモンドを主成分とする材料からなる層であって、前記第1層における少なくとも一方の表面酸素によって終端されている第1層と、
    前記第1層の酸素終端された面上に設けられた層であって、アルカリ金属か又はその化合物からなる第2層とを備えた光電陰極。
  3. 所定波長の入射光に対して透光性を有する入射面板と、
    請求項1又は2記載の光電陰極と、
    前記光電陰極を収納するとともに、前記入射面板を支持した容器と、そして、
    前記容器内に収納され、前記光電陰極から放出された光電子を直接又は間接的に収集するための陽極とを備えた電子管。
  4. 前記光電陰極は、前記入射面板上に設けられるとともに、該入射面板によって支持されていること特徴とする請求項記載の電子管。
  5. 前記入射面板は、少なくとも波長200nm以下の紫外光に対して透光性を有するフッ化マグネシウム(MgF2)からなることを特徴とする請求項記載の電子管。
  6. 前記光電陰極は、前記入射光に対して遮光性を有する遮光部材の、前記入射面板と向い合う面上に設けられるとともに、該遮光部材によって支持されていることを特徴とする請求項記載の電子管。
  7. 前記容器内に収納されるとともに、前記光電陰極から放出された光電子をカスケード増倍しながら得られた2次電子を前記陽極に導くための電子増倍部を備えたことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項記載の電子管。
  8. 前記陽極は、前記入射光に対応して前記光電陰極から放出された光電子を受容することにより発光し、該入射光の2次元光学像に対応した2次元電子像を形成する蛍光膜であることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項記載の光電管。
  9. 前記陽極は、前記入射光に対応して前記光電陰極から放出された光電子を受容し、該入射光の2次元光学像に対応した電気信号を出力する固体撮像デバイスであることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項記載の電子管。
  10. 前記容器内には、分圧が1×10−6〜1×10−3torrの範囲にある水素が封入されていることを特徴とする請求項3〜9のいずれか一項記載の電子管。
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