JP3609356B2 - 1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分子内に反応性の異なるビニルスタナン構造及びビニルボラン構造を有することから医薬品や農薬の製造中間体として、また、ファインケミカルズ製造原料として有用な、新規な1,3−ジエン化合物とその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
これまでに一分子内にビニルスタナン構造とビニルボラン構造の両方を有する化合物の簡便な合成法としては、第10族金属の金属錯体又は金属塩からなる触媒の存在下アルキン化合物にボリルスタナン化合物を作用させることで2−スタニルアルケニルボラン化合物が得られることが報告されている(日本国特許第2913014号)。しかしながら、有機合成試剤として有用な1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の合成法はこれまで知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
以上のような事情に鑑み、本発明は、ビニルスタナン構造とビニルボラン構造を一分子内に有する新規な1,3−ジエン化合物である1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物、及びその製造方法を提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、パラジウム及びホスファイト配位子からなる触媒の存在下、アルキン化合物にボリルスタナン化合物を作用させることにより一分子内にビニルスタナン構造とビニルボラン構造を有する1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物が生成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、一般式(1)
【化9】
Figure 0003609356
[式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ−NR及び−NR1011を示すか(但し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)、又はそれぞれOR12及びOR13を示し(但し、R12及びR13は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、R12とR13が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示す。]で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の発明である。。
【0006】
上記一般式(1)において、R及びRが、それぞれ−NR及び−NR1011(但し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)である本発明化合物は下記一般式(2)
【化10】
Figure 0003609356
(式中、R,R,R,R,R,R,R,R10及びR11は前記と同じ。)で表される。
【0007】
また、上記一般式(1)において、R及びRが、それぞれOR12及びOR13(但し、R12及びR13は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、R12とR13が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)である本発明化合物は下記一般式(3)
【化11】
Figure 0003609356
(式中、R,R,R,R,R,R12及びR13は前記と同じ。)で表される。
【0008】
本発明は、また、一般式(4)
【化12】
Figure 0003609356
(式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表されるボリルスタナン化合物と、一般式(5)
【化13】
Figure 0003609356
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示す。)で表されるアルキン化合物を、パラジウムとホスファイト配位子とからなる触媒の存在下で反応させることを特徴とする、上記一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法の発明である。
【0009】
更にまた、本発明は、一般式(2)
【化14】
Figure 0003609356
(式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物に1価又は2価のアルコール、又は/及び1価又は2価のフェノール化合物を反応させることを特徴とする、上記一般式(3)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法の発明である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物は、文献未収載の新規化合物であって、前記一般式(1)、或いは前記一般式(2)又は(3)で示される化学構造式を有する。
前記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)において、R、R及びRで示される置換基を有していてもよいアルキル基のアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。また、同シクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜30、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜10の単環、多環又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、より具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
更に、同アリール基としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14の単環、多環又は縮合環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。また、同アラルキル基としては、例えば、炭素数7〜30、好ましくは7〜20、より好ましくは7〜15の単環、多環又は縮合環式のアラルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
【0011】
これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基の置換基としては、当該反応に悪影響を及ぼさないものであればどのような置換基でも良いが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、例えばフェニル基、ナフチル基等のアリール基、例えばメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリーロキシ基等が挙げられる。
【0012】
前記一般式(1)、(2)、(3)及び(5)において、R及びRで示される置換基を有していてもよいアルキル基のアルキル基としては、例えば、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。また、同シクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜30、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜10の単環、多環又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられ、より具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
更に、同アリール基としては、例えば、炭素数6〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14の単環、多環又は縮合環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、インデニル基等が挙げられる。また、同アラルキル基としては、例えば、炭素数7〜30、好ましくは7〜20、より好ましくは7〜15の単環、多環又は縮合環式のアラルキル基が挙げられ、より具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
更にまた、同複素環基としては、環中に少なくとも1個以上の窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有し、1個の環の大きさが5〜20員、好ましくは5〜15員、より好ましくは5〜10員であって、シクロアルキル基、シクロアルケニル基又はアリール基などの炭素環式基と縮合していてもよい飽和又は不飽和の単環、多環又は縮合環式のものが挙げられ、より具体的には、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、チエニル基、フェニルチエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピラニル基、ピペリジル基、ピペラジル基、ピロリル基、モルホリノ基、イミダゾリル基、ピリダジニル基、オキサゾリル基、インドリル基、プリニル基、キノリル基、イソキノリル基、ピリミジニル基、アクリジニル基、クマリニル基、カルバゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0013】
これらアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及び複素環基の置換基としては、当該反応に悪影響を及ぼさないものであればどのような置換基でも良いが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、例えばフェニル基、ナフチル基等のアリール基、例えばメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリーロキシ基、例えば塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基、例えばトリメチルシロキシ基等のシロキシ基、例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の置換シリル基、アミド基、例えばメチルアミド基、プロピルアミド基等の置換アミド基、アミノ基、例えばN,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基等が挙げられる。
【0014】
前記一般式(1)、(2)、(3)及び(5)において、R及びRで示されるアルコキシカルボニル基及びアリーロキシカルボニル基としては、炭素数8以下のものが好ましく、具体例としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基や、例えば、フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基等のアリーロキシカルボニル基が挙げられる。
【0015】
前記一般式(2)及び(4)において、R,R,R10及びR11で示される、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基及び同アラルキル基のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基としては、前記R,R,R,R及びRにおけるそれらと同じものが挙げられる。また、置換基としては、当該反応に悪影響を及ぼさないものであればどのような置換基でも良いが、例えば、アミド基、メタンスルホンアミド基等が挙げられる。
ホウ素原子に結合する、これらアルキル基、アリール基等を置換基として有する置換アミノ基の具体例としては、例えば、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基等が挙げられる。
また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成している場合の環の例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族系の環や、例えば、シクロヘキシル環、シクロペンチル環等の脂肪族系の環等が挙げられる。更に、RとR10又はRとR11が互いに結合してアルキレン鎖を形成している場合のアルキレン鎖の例としては、例えば、ジメチレン基(エチレン基)、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基、テトラメチルエチレン基等が挙げられる。
とR10又はRとR11が互いに結合して環を形成している場合、或いはアルキレン鎖を形成している場合のホウ素原子に結合する置換ジアミノ基の具体例としては、例えば、N,N’−ジメチルジメチレンジアミノ基、N,N’−ジメチルトリメチレンジアミノ基、N,N’−ジメチル−o−フェニレンジアミノ基等が挙げられる。
【0016】
一般式(3)において、R12及びR13で示される置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基及び同アラルキル基のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアラルキル基としては、前記R,R,R,R,R,R,R,R10及びR11におけるそれらと同じものが挙げられる。
また、置換基としては、当該反応に悪影響を及ぼさないものであればどのような置換基でも良いが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、例えばフェニル基、ナフチル基等のアリール基、例えばメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリーロキシ基等が挙げられる。
また、R12とR13が互いに結合して環を形成している場合の環の例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族系の環や、例えば、シクロヘキシル環、シクロペンチル環等の脂肪族系の環等が挙げられる。
更に、R12とR13が互いに結合してアルキレン鎖を形成している場合のアルキレン鎖の例としては、例えば、ジメチレン基(エチレン基)、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基、テトラメチルエチレン基等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)、或いは一般式(2)又は(3)で表される本発明の化合物の例としては、例えば、1,3−ジメチル−2−(2,4−ジフェニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、1,3−ジメチル−2−(1,2,3,4−テトラメチル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、1,3−ジメチル−2−(1,2,3,4−テトラヘキシル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、1,3−ジメチル−2−(1,2,3,4−テトラメトキシカルボニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、1,3−ジメチル−2−(2,4−ビス(メトキシフェニル)−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、ビス(ジフェニルアミノ)(2,4−ジフェニル−4−トリフェニルスタニル−1,3−ブタジエニル)ボラン、ビス(ジエチルアミノ)(4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)ボラン、4,4,5,5−テトラメチル−2−(2,4−ジフェニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジオキサ−2−ボラシクロペンタン、4,4,5,5−テトラメチル−2−(1,2,3,4−テトラメチル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジオキサ−2−ボラシクロペンタン、ジフェノキシ(2,4−ジフェニル−4−トリフェニルスタニル−1,3−ブタジエニル)ボラン、ジエトキシ(4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)ボラン等が挙げられる。
【0018】
前記一般式(2)で表される化合物は、前記一般式(4)で表されるボリルスタナン化合物と、前記一般式(5)で表されるアルキン化合物とを原料として用いることによって製造することができる。
【0019】
一般式(4)で示されるボリルスタナン化合物の例としては、例えば、ビス(ジメチルアミノ)(トリブチルスタニル)ボラン、ビス(ジフェニルアミノ)(トリフェニルスタニル)ボラン、ビス(ジエチルアミノ)(トリメチルスタニル)ボラン、1,3−ジメチル−2−トリメチルスタニル−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン、1,3−ジメチル−2−トリメチルスタニル−1,3−ジアザ−2−ボラシクロヘキサン等が挙げられる。
【0020】
本発明の、ボリルスタナンとアルキン化合物をパラジウムとホスファイト配位子からなる触媒の存在下で反応させることを特徴とする一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法においては、アルキン化合物の構造によらず一般式(2)の付加体が生成するが、内部アルキン化合物並びにアリール基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を有する末端アルキン化合物及び無置換のアセチレンの場合に特に好ましい結果が得られる。
前記一般式(5)で示されるアルキン化合物の具体例としては、例えば、アセチレン、ブチン、ヘキシン、オクチン、テトラデキン、エチニルベンゼン、プロピニルベンゼン、ジフェニルアセチレン、メトキシフェニルアセチレン、エチニルトルエン、エチニルナフタレン、エチニルチオフェン、エチニルジメチルアニリン、エチニルピリジン、アセチレンジカルボン酸ジメチルエステル、アセチレンジカルボン酸ジブチルエステル、アセチルカルボン酸エチルエステル等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る、一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法においては、パラジウムとホスファイト配位子からなる触媒が好ましく用いられ、予めホスファイト配位子が配位したパラジウム錯体を用いる反応方法、ホスファイト配位子をパラジウム含有物質と混合処理して触媒を発生させて用いる方法のいずれかの態様で実施される。これらのいずれかの態様で有利に作用するホスファイト配位子としては、炭素数24以下のものが好ましく、その具体例としては、4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2,2,2]オクタン、トリフェニルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリオオクチルホスファイト等が挙げられる。
【0022】
予めホスファイト配位子が配位したパラジウム錯体を用いる場合、ゼロ価又は2価のパラジウムを含むものが有利に用いられ、これを例示すると、ジクロロビス(トリメチルホスファイト)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスファイト)パラジウム、ジクロロビス{4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2,2,2]オクタン}パラジウム等が挙げられる。
【0023】
ホスファイト配位子をパラジウム含有物質と混合処理して触媒を発生させて用いる態様において有利に用いられるパラジウム含有物質は、ゼロ価又は2価のパラジウムを含むものであり、これを例示すると、金属パラジウム、活性炭担持パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、アリル(シクロペンタジエニル)パラジウム、ジクロロ[1,2−ビス(ジメチルアミノ)エタン]パラジウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム等が例示される。
これらのパラジウム含有物質は、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等の溶媒と溶媒和していてもよい。パラジウム含有物質とホスファイト配位子の混合比は、パラジウム原子とホスファイト配位子のリン原子の比にしてパラジウム原子1に対しリン原子1〜3、望ましくは1.5〜2.5がよい。
【0024】
本発明に係る、一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法における反応温度は、通常−50〜200℃、好ましくは0〜100℃である。ボリルスタナン化合物とアルキン化合物の量比は特に制限されないが、ボリルスタナン化合物1モルあたり、アルキン化合物2.0〜10.0モルの割合で用いるのが好ましい。また、パラジウム錯体の使用量は、ボリルスタナン化合物1モル当り、0.000001〜0.1モル、好ましくは0.001〜0.05モルの割合で十分である。
【0025】
本発明に係る、一般式(1)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法においては、反応溶媒は必ずしも必要ないが、溶媒を用いる場合には、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル、プロピオンニトリル等のニトリル類、ペンタン、ヘキサン、デカン等の脂肪族飽和炭化水素類等が好ましく用いられる。反応後の生成物の単離は、蒸留・再結晶等の通常の精製単離法によって容易に実施される。
【0026】
前記一般式(3)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物は、前記一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物に、1価又は2価のアルコール又は/及び1価又は2価のフェノール化合物を反応させることによって製造することができる。この反応の反応温度は、通常−50〜200℃、好ましくは0〜100℃である。1価又は2価のアルコールとしては炭素数6以下のものが好ましく、具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ピナコール等が挙げられる。
また、1価又は2価のフェノール化合物としては、例えば、フェノール、カテコール、クレゾール等が挙げられる。
1価のアルコール又はフェノール化合物の場合、その使用割合は、一般式(2)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物1モルあたり、2〜2.5モルの割合であり、2価のアルコール又はフェノール化合物の場合、1〜1.3モルの割合である。2価のアルコール又はフェノール化合物の場合には、R12とR13が互いに結合してホウ素を含む環を形成した構造の化合物が得られる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体(0.005mmol)と4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2,2,2]オクタン(0.02 mmol)のベンゼン(0.6ml)溶液を窒素雰囲気下5分間80℃に加熱した。この反応液にエチニルベンゼン(0.6mmol)及び1,3−ジメチル−2−トリメチルスタニル−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン(0.2mmol)を加え、室温で1時間反応を行なったところ、1,3−ジメチル−2−(2,4−ジフェニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタンが83%の収率で得られた。
本生成物は文献未収載の化合物であり、以下にNMRスペクトル及び元素分析値を示した。
H−NMR(C):δ 0.06(s,6H,SnCH),2.57(s,6H,NCH),3.06(s,4H,NCH),6.15(d,J=1.55Hz,1H,=CH),6.85−7.65(m,11H,aromatic and=CH)。
元素分析:計算値C,59.40;H,6.72、測定値C,59.13;H,6.90。
【0029】
実施例2
実施例1のエチニルベンゼンの代わりに2−ブチンを用いて室温で12時間反応を行ったところ、1,3−ジメチル−2−(1,2,3,4−テトラメチル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタンが定量的な収率で得られた。
本生成物は文献未収載の化合物であり、以下にNMRスペクトル及び元素分析値を示した。
H−NMR(C):δ 0.22(s,9H,SnCH),1.71(s,3H,CH),1.78(s,3H,CH),1.82(s,3H,CH),1.86(s,3H,CH),2.52(s,6H,NCH),2.96(s,4H,NCH)。
元素分析:計算値C,48.83;H,8.47、測定値C,49.13;H,8.27。
【0030】
実施例3
実施例1の4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2,2,2]オクタンの代わりにトリフェニルフォスファイトを用いて2時間反応を行ったところ、1,3−ジメチル−2−(2,4−ジフェニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタンが32%の収率で得られた。
【0031】
実施例4
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム・クロロホルム錯体(0.005mmol)と4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2,2,2]オクタン(0.02mmol)のベンゼン(0.6ml)溶液を窒素雰囲気下5分間80℃に加熱した。この反応液にエチニルベンゼン(0.6mmol)及び1,3−ジメチル−2−トリメチルスタニル−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタン(0.2mmol)を加え、室温で1時間反応を行なった。生成物を単離することなく、この反応液にピナコール(0.22mmol)を加え80℃で1時間処理すると、4,4,5,5−テトラメチル−2−(2,4−ジフェニル−4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジオキサ−2−ボラシクロペンタンが80%の収率で得られた。
本生成物は文献未収載の化合物であり、以下のNMRスペクトルを示した。
H−NMR(C):δ −0.02(s,6H,SnCH),1.11(s,12H,CCH3),6.21(d,J=1.55Hz,1H,=CH),6.85−7.60(m,11H,aromatic and=CH),7.71(d,J=1.55Hz,1H,=CH)。
【0032】
実施例5
実施例1においてエチニルベンゼンを用いる代わりにアセチレン雰囲気下(1atm)、室温で1時間反応を行うと、1,3−ジメチル−2−(4−トリメチルスタニル−1,3−ブタジエニル)−1,3−ジアザ−2−ボラシクロペンタンが74%の収率で得られた。
本生成物は文献未収載の化合物であり、以下にNMRスペクトル及び元素分析値を示した。
H−NMR(C):δ 0.19(s,9H,SnCH),2.57(s,6H,NCH),3.00(s,4H,NCH),5.83(d,J=13.2Hz,1H,=CH),6.27(d,J=12.5Hz,1H,=CH),6.87(d,J=11.2,13.2Hz,1H,=CH),7.39(d,J=11.2,12.5Hz,1H,=CH)。
元素分析:計算値C,42.23;H,7.41、測定値C,42.43;H,7.21。
【0033】
【発明の効果】
本発明の反応により、医薬品や農薬の製造中間体として、また、ファインケミカルズ製造原料として有用な文献未収載の新規化合物1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物が高収率に得られる。従って、本発明は工業的に大きな意義を有する。

Claims (5)

  1. 一般式(1)
    Figure 0003609356
    [式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシ基若しくはアリーロキシ基からなる置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、又は同アラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ−NR及び−NR1011を示すか(但し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、アミド基又はメタンスルホンアミド基からなる置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)、又はそれぞれOR12及びOR13を示し(但し、R12及びR13は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシ基若しくはアリーロキシ基からなる置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、又は同アラルキル基を示す。また、R12とR13が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、シロキシ基、アミド基、若しくはアミノ基からなる置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示す。]で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物。
  2. 一般式(2)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R,R,R,R,R,R,R10及びR11は前記と同じ。)で表される請求項1に記載の1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物。
  3. 一般式(3)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R,R,R,R,R12及びR13は前記と同じ。)で表される請求項1に記載の1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物。
  4. 一般式(4)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表されるボリルスタナン化合物と、一般式(5)
    Figure 0003609356
    (式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示す。)で表されるアルキン化合物を、パラジウムとホスファイト配位子とからなる触媒の存在下で反応させることを特徴とする、一般式(2)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R,R,R,R,R,R,R10及びR11は前記と同じ。)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法。
  5. 一般式(2)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、同アリール基、同アラルキル基、同複素環基、アルコキシカルボニル基又はアリーロキシカルボニル基を示し、R,R,R10及びR11は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、RとR10又はRとR11が互いに結合して環を形成していても、互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物に1価又は2価のアルコール又は/及び1価又は2価のフェノール化合物を反応させることを特徴とする、一般式(3)
    Figure 0003609356
    (式中、R,R,R,R及びRは前記と同じ。R12及びR13は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、同シクロアルキル基、同アリール基又は同アラルキル基を示す。また、R12とR13が互いに結合してアルキレン鎖を形成していてもよい。)で表される1−ボリル−4−スタニル−1,3−ジエン化合物の製造方法。
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