JP3598368B2 - 胚のガラス化保存用液体組成物及びそれを用いた胚の超低温保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス化保存法による胚の超低温保存に関し、詳しくはガラス化保存用液体組成物及びそれを用いた豚胚の超低温保存方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
家畜の繁殖方法の一つとして、受精卵移植が行われているが、そのためには胚(受精卵)の保存法の確立が求められる。従来から行われている受精卵の凍結法では、凍結の際に細胞内外に生じた氷晶によって細胞を傷つけ、それが融解後の胚の生存性を低下させる原因の一つになっている。
【0003】
この問題を解決するために、従来の凍結媒液より高濃度の凍結防御剤を用い、急激に冷却することで、細胞内外ともに氷晶を作らずに、細胞を保存する技術が提案され、細胞を破壊することなく胚を超低温保存することが可能となった。この技術がガラス化保存法である。
ガラス化保存法を用いることによって、従来凍結に弱いと言われていた牛の体外受精胚の超低温保存後の生存率を向上させることに成功した。さらに、ガラス化時の冷却速度を速くするOPS法やマイクロドロップレット法を用いることによって、これまで超低温保存が困難とされていた牛の未受精卵子の保存も可能になりつつある。
しかし、このガラス化保存法にも課題がある。それは、高濃度のガラス化溶液が持つ化学的毒性や、ガラス化溶液の添加、除去時に生じる浸透圧ショックが胚に悪影響を与える場合があるということである。また、ガラス化溶液に通常用いられるエチレングリコールの濃度が低い場合は、細胞毒性は低いものの、ガラス状の固体とならずに溶液が凍結してしまう問題がある。
そのため、細胞に対して毒性が低く、取り扱いの容易なガラス化溶液の開発が望まれている。
【0004】
一方、豚胚の超低温保存技術については、未だ再現性のある手法が確立されておらず、超低温保存が可能な胚は拡張胚盤胞又は透明帯から脱出直後の胚盤胞に限られていた。
しかし、1995年に豚の初期胚を遠心処理することによって、細胞内の脂肪顆粒を1個所に集積し、それをマイクロマニュピレーターで取り除いた後に凍結することによって、超低温保存した初期胚から子豚を生産することに成功している(Nagashima H., Kashiwazaki N., Ashman R.J., Grupen C.G., Nottle M.B., Cryopreservation of porcine embryos, Nature 1955; 373. 416)。
しかしながら、この方法は専用の機材が必要である上に、マイクロマニュピレーターの操作の熟練を要するため、一般的に普及するまでに到っていない。
【0005】
ガラス化保存法を用い、完全な透明帯に包まれた初期胚盤胞の超低温保存胚から子豚を生産したという報告は、上記した方法と同様に、遠心処理をした豚胚をマイクロマニュピレーターによる脂肪除去作業を行わずに、OPS(オープンプルドストロー)法(Camcron R.D., Beebe L.F., Blacksbaw A.W., Higgins A., Nottle M.B., Piglets born from vitrified carly blastcysts using a simple technique, Aust Vet J., 2000, Mar.; 78(3), 195−6)によってガラス化保存した1例があるのみである。
しかしながら、この方法においても、遠心処理のための機材が必要になる等の問題がある上に、ガラス化処理前に胚の遠心処理が必要で、手間がかかる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、疾病制御にも応用できる完全な透明帯に包まれた豚初期胚盤胞を超低温保存するためのガラス化保存用液体組成物を提供すると共に、簡便で、しかも再現性の高い豚胚の超低温保存方法を開発することである。これによって、豚胚の移植技術は一段と実用的なものとなる。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、牛の未受精卵についてガラス化保存法に成功しているマイクロドロップレット法を参考にして、豚胚のガラス化保存に有用な液体組成物の開発に成功し、併せて再現性の高い豚胚の超低温保存方法を確立した。そして、この方法を適用すれば、保存した豚胚を用いて子豚を生産できることを確認した。本発明は、このような知見に基づいて完成したのである。
【0008】
請求項1に記載の本発明は、(1)10%(v/v)エチレングリコール添加M2液、(2)10%(v/v)エチレングリコール,0.3Mショ糖及び1%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液並びに(3)40%(v/v)エチレングリコール,0.6Mショ糖及び2%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液からなることを特徴とする豚初期胚盤胞のガラス化保存用の3種類の液体組成物である。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、ピペットを用いて豚初期胚盤胞を請求項1記載の(1)液,(2)液に浸漬して平衡化すると共に、(2)液での平衡化中に該ピペットの先端付近に傷を付け、平衡化終了後、2分割した請求項1記載の(3)液のそれぞれに順次移したのち、ピペット内に吸入した胚盤胞を含む液体を押し出して該ピペットの先端に該液体の微小滴を形成せしめ、この微小滴を液体窒素水面上に移動して表面を固化させてから、ピペットと共に液体窒素内に浸漬し、次いでピペット先端付近の傷付き部分でピペットを切断し、これを液体窒素で満たされた容器内に収容することを特徴とする豚初期胚盤胞の超低温保存方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、豚初期胚盤胞を超低温保存するために用いるガラス化保存用液体組成物及び該組成物を用いた豚初期胚盤胞の超低温保存方法に関するものである。本発明のガラス化保存用液体組成物は、豚初期胚盤胞をガラス化保存する際に使用するものであり、特に細胞内の水を凍結させて氷が形成されることを抑制する力、すなわちガラス化形成能が高く、しかも細胞に対して毒性の低いガラス化溶液を意味している。
【0011】
本発明のガラス化保存用液体組成物は、次の3種類の液体から構成される。すなわち、1液は10%(v/v)エチレングリコール添加M2液、2液は10%(v/v)エチレングリコール,0.3Mショ糖及び10%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液、並びに3液は40%(v/v)エチレングリコール,0.6Mショ糖及び2%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液からなる。ガラス化保存用液体組成物を構成する各液の組成とそれぞれの調製方法を第1表に、M2液の組成を第2表に示す。
【0012】
【表1】
第1表 ガラス化保存用液体組成物の組成及び調製方法
EG:エチレングリコール
PEG:ポリエチレングリコール(分子量7300〜9000)
【0013】
【表2】
第2表 M2液の組成(2L作成時)
* BSA:牛血清アルブミン
【0014】
従来法のガラス化保存法においてもガラス化溶液の1成分としてエチレングリコールが用いられているが、その濃度は6.5mol/L(J.R. Dobrinsky, V.G. Pursel, C.R. Long, and L.A. Johnson, Birth of Piglets After Transfer of Embryo Cryopreserved by Cytoskeletal Stabilization and Vitrification, BIOLOGY OF REPRODUCTION 62,564−570, 2000)や8mol/L(Kobayashi S., Takei M., Kano M. et al., Piglets produced by transfer of vitrified porcine embryo after stepwise dillution of cryoprotectants, Cryobiology, 1998; 36, 20−31)であった。
これに対して、本発明のガラス化保存用液体組成物における3液のエチレングリコールは、7.0〜7.5mol/L(約40%(v/v))程度の濃度が適当である。また、ショ糖濃度については、牛の場合に通常に使用されているガラス化溶液と同等の濃度である0.6mol/L程度である。なおポリエチレングリコールとしては、通常分子量が7300〜9000のものを用いる。
【0015】
次に、上記ガラス化保存用液体組成物を用いて豚初期胚盤胞を超低温保存する方法について説明する。
(1)胚の採取
性未成熟豚を供胚豚に用いる場合は、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(以下、PMSGと略記することがある。)を1500IU投与し、その72時間後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(以下、hCGと略記することがある。)500IUを投与する。
hCG投与の24時間後から48時間後に、人工授精(以下、AIと略記することがある。)を実施する。その後、hCG投与日の翌日を0日として、5日目に外科的に、もしくは屠殺後に胚を採取し、両子宮角内をM2液で潅流し、潅流液から胚を回収する。
【0016】
一方、性成熟豚を供胚豚に用いる場合は、上記と同様に処置し、AI後20〜40日目にプロスタグランジンF2α(以下、PGF2αと略記することがある。)を適量投与し、その24時間後に再びPGF2αを投与する。2回目のPGF2α投与時に、PMSGを1500IU同時に投与する。その72時間後に、hCGを500IU投与する。
hCGを投与してから24時間後から48時間後に、AIを実施し、hCG投与日の翌日を0日として、5日目に外科的に、もしくは屠殺後に胚を採取し、両子宮角内をM2液で潅流し、潅流液から胚を回収する。
【0017】
(2)ガラス化保存までの胚の培養
上記(1)によって採取した胚は、5%CO2条件下にて39℃に保持されたインキュベーター内で、NCSU23液(Petters R.M., Reed M.L., Addition of taurine or hypotaurine to culture medium improves development of one− and two−cell pig embryos in vitro, Theriogenology, 1991; 35,253(Abstract)) を用いた微小滴培養法によりガラス化保存を実施するときまで培養する。培養時間は通常1時間以内である。なお、NCSU23液の組成を第3表に示す。
【0018】
【表3】
第3表 NCSU23液の組成(100mL作成時)
* BSA:牛血清アルブミン
【0019】
また、微小滴培養法は、次の方法で行った。すなわち、シャーレに30−100μLの培養液の微小滴を作り、シャーレごと炭酸ガス培養器に静置し、気相平衡させた後、胚を微小滴に導入する。次いで、胚を入れたシャーレを炭酸ガス培養器中で培養する。
【0020】
(3)ガラス化溶液の準備
4穴シャーレの1番目の穴に上記したガラス化保存用液体組成物の1液を約1mL、2番目の穴に2液を約1mL、3番目と4番目の穴に3液を約1mLずつ注入する。各液は35〜39℃、好ましくは38℃に保温しておく。
【0021】
(4)ガラス化溶液との平衡化
前記(2)により培養して得た豚胚1〜10個、好ましくは5個をピペット等で上記(3)のシャーレに注入された1液に移して、5分間平衡化した後、さらに2液に移して5分間平衡化する。ここで、ピペット等としては、パスツールピペットが好ましいが、細く引き伸ばしたストロー状物やマイクロピペッターのチップ等のように、先端部が細く微小滴を形成し易いものであればよい。
2液での平衡化中に、胚を移動する際に使用したピペット等の先端から約1cmの場所(図1中のD)をアンプルカッター等で軽く傷を付けておく。予め傷を付けておくことにより、ガラス化保存する際に、この個所で切断する作業が容易となるため好ましい。図1は、本発明によるガラス化保存法の1態様を示したもので、(I)は液体窒素に浸漬前の状態を、(II)は液体窒素に浸漬後の状態を示している。
一方、液体窒素を乳鉢等の容器に入れて、ガラス化保存の準備をしておく。
【0022】
2液での平衡化が終了した後、胚を3液の入っている3番目の穴に移し、さらに直ちに4番目の穴の3液に移す。続いて、胚をピペット等で吸入したのち、液体窒素を入れた容器の方に移動し、液体窒素の上面から約5cmの高さの位置で該ピペット等の先端に胚を含む微小滴(約5μL)を形成せしめる。
【0023】
(5)予備冷却
上記(4)において形成させた微小滴を液体窒素の直上面に近づけ、2〜5秒間、好ましくは3秒間程保持することにより、微小滴の表面を固化させる。この予備冷却により、微小滴の表面は固化するが、微小滴内の胚は凍結していない。
予備冷却の時間が短すぎると、冷却速度が速すぎるため、微小滴内の胚に大きな衝撃を与えることがある。一方、予備冷却の時間が長すぎると、胚の冷却温度が遅くなるため、胚を低温域に長時間曝すことになり、低温障害を与えることがある。
【0024】
(6)ガラス化保存
予備冷却により微小滴表面が固化したことを確認した後、該微小滴をピペットと共に液体窒素内に浸漬する。その後、ピペット先端から約1cmの部分をピンセットでつかみ、予め傷をつけておいた部分(図1中のD)でピペットを切断する。
なお、胚を4番目の穴の3液に移してから液体窒素に浸漬するまでの作業は、30秒以内に行うことが好ましい。その理由は、高濃度のガラス化溶液に胚を長時間曝すと、胚の生存性に悪影響を与えるからである。
上記の方法によりガラス化した胚は、所定の容器、例えば蓋の部分に穴をあけたマイクロチューブ等に入れて、液体窒素内にて任意の期間保存する。すなわち、ピペット先端のガラス化した液は小さく、壊れやすいので、ピンセットでピペットと共にマイクロチューブの中に入れて保存する。なお、マイクロチューブ内に液体窒素が常に存在するように、蓋の部分に穴をあけたものを使用する。
【0025】
上記のガラス化保存法によって超低温下に保存されている胚は、所望により、常法によって融解し、所定のプロセスを経たのち、胚の移植に供することができる。以下に、ガラス化保存胚の融解方法の1例を示す。胚の融解には希釈溶液を使用するので、まず当該溶液を準備する。希釈溶液は、ガラス化保存胚の融解とガラス化保存に用いた液体組成物を希釈、除去するために用いられる。
【0026】
(7)希釈溶液の準備
希釈溶液は、4液〜7液の3種類の液体からなる。4液は、5%(v/v)エチレングリコールと0.6Mショ糖を添加したNCSU23液であり、5液は、0.25%(v/v)エチレングリコールと0.3Mショ糖を添加したNCSU23液である。また、6液は、0.3Mショ糖を添加したNCSU23液であり、7液は、NCSU23液のみからなる。
希釈溶液を構成する各液の組成とそれぞれの調製方法を第4表に示す。
【0027】
【表4】
第4表 希釈溶液の組成及び調製方法
EG:エチレングリコール
【0028】
直径35mmのシャーレに、上記希釈溶液の構成成分である4液を約3mLとなるように入れる。
また、4穴シャーレの1番目の穴に4液を約1mL、2番目の穴に5液を約1mL、3番目の穴に6液を約1mL、4番目の穴に7液を約1mLずつ注入する。
各液は35〜39℃、好ましくは38℃に保温しておく。
【0029】
(8)ガラス化保存胚の融解及びガラス化用溶液の希釈方法
まず、液体窒素を入れた容器に、ガラス化保存胚を入れたマイクロチューブの中身を移す。次に、ガラス化保存胚をピンセットでつまみ、上記(7)で準備しておいた希釈溶液の構成成分である4液の入った直径35mmのシャーレにガラス化保存胚を入れて微小滴を融解させる。
微小滴が融解した後、直ちに胚を4穴シャーレの1番目の穴に入れた4液に移して5分間希釈する。続いて、5液、6液でそれぞれ5分間希釈し、最後にNCSU23液のみからなる7液で5分間希釈する。
これにより、ガラス化保存胚は完全に融解し、ガラス化保存用液体組成物は完全に除去される。
このようにして融解した胚は生存率が高く、胚の移植に利用される。なお、一腹から採取した胚のうち2個を融解、培養試験用、残りを移植用に分けてガラス化保存し、融解、培養試験用の2個を体外培養試験に供することにより、同じ腹から採取した胚の融解後の生存性を判断することができる。
【0030】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
この例では、ガラス化処理前の予備冷却の有効性について検討した。なお、対照区として、10%FBS(牛胎児血清)添加NCSU23液を用いた微小滴培養法による新鮮5日齢胚を用いた。
【0031】
(1)胚の採取
性未成熟豚にPMSGを1500IU投与し、その72時間後にhCGを500IU投与した。
hCG投与の24時間後及び48時間後に、人工授精を実施した。hCG投与日の翌日を0日として5日目に、外科的手段により、又は屠殺後に胚を採取し、両子宮角内をM2液で潅流し、潅流液から胚を回収した。
【0032】
(2)ガラス化保存までの胚の培養
採取した胚は、5%CO2条件下にて39℃に保持されたインキュベーター内でNCSU23液を用いた微小滴培養法により培養した。
【0033】
(3)ガラス化溶液の準備
4穴シャーレの1番目の穴に、ガラス化保存用液体組成物のうち1液を約1mL、2番目の穴に2液を約1mL、3番目と4番目の穴に3液をそれぞれ約1mLずつ注入した。各溶液は38℃に保温したものを用いた。
【0034】
(4)ガラス化溶液との平衡化
上記(2)において初期胚盤胞まで培養した胚の所定数をパスツールピペットで1番目の穴の1液に移して5分間平衡化した後、2番目の穴の2液に移し、5分間平衡化した。2液での平衡化中に、胚を移動する際に使用したパスツールピペットの先端から約1cmの場所(図1中のD)をアンプルカッターで軽く傷を付けた。なお、別途、液体窒素を乳鉢に入れてガラス化保存の準備をした。
【0035】
2液での平衡化が終了した後、胚を3液の入っている3番目の穴のに移し、直ちに4番目の穴の3液に移した。続いて、胚をパスツールピペットで吸い、液体窒素の入った乳鉢に移動し、液体窒素の上面から約5cmの高さの位置で、胚の入った微小滴(約5μL)をパスツールピペットの先端に形成させた。
なお、本発明による予備冷却を行わない場合は、従来のマイクロドロップレット法と同様に、パスツールピペットから胚を含む液体を液体窒素内に直接滴下して凍結させた。
【0036】
(5)予備冷却
上記(4)にて形成させた微小滴を液体窒素の直上面に近づけ、そのまま3秒間保持し、微小滴の表面を固化させた。
【0037】
(6)ガラス化保存方法
次に、微小滴の表面の凍結を確認した後、該微小滴をパスツールピペットと共に液体窒素内に浸漬した。その後、パスツールピペットの先端から約1cmの部分をピンセットでつかみ、予め傷をつけておいた個所(図1中のD)でパスツールピペットを切断した。
胚を3液に移してから液体窒素に浸漬するまでの作業は、30秒以内に終了した。なお、ガラス化した胚は、蓋の部分に穴をあけたマイクロチューブに入れ、液体窒素内にて保存し、ガラス化保存胚とした。
【0038】
(7)希釈溶液の準備
直径35mmのシャーレに、前記希釈溶液の4液を約3mLとなるように入れてガラス化保存胚の融解のための準備を開始した。
また、4穴シャーレの1番目の穴に、希釈溶液の4液を約1mL、2番目の穴に5液を約1mL、3番目の穴に6液を約1mL、4番目の穴に7液を約1mLずつ入れた。各溶液は38℃に保温してあるものを用いた。
【0039】
(8)ガラス化保存胚の融解及びガラス化用液体組成物の希釈
液体窒素を入れた容器にガラス化保存胚を入れたマイクロチューブの中身を移し、ガラス化保存胚をピンセットでつまみ、希釈溶液の4液の入った直径35mmのシャーレにガラス化保存胚を入れた。
微小滴が融解した後、直ちに胚を4穴シャーレの1番目の4液に移して5分間希釈、続いて2番目の5液、3番目の6液でそれぞれ5分間希釈し、最後に7液のNCSU23で5分間希釈した。
これにより、ガラス化保存胚は完全に融解し、かつガラス化保存に用いた液体組成物は除去された。
【0040】
(9)融解後の胚の体外培養試験
上記(8)において融解・希釈された胚を、5%CO2条件下にて39℃に保持されたインキュベーター内で、10%FBS(牛胎児血清)を添加したNCSU23液を用いた微小滴培養法で培養した。培養開始から24時間後及び48時間後の胚の発育状態を調べた。結果を第5表に示す。なお、透明帯を脱出している胚盤胞については、胚数に対する割合を透明帯脱出率として算出した。
【0041】
【表5】
第5表
【0042】
表から明らかなように、本発明にしたがい予備冷却を行った23個の胚の体外培養試験の結果は、24時間後には73.9%にあたる17個の胚が拡張胚盤胞に生育し、さらに48時間後には、24時間後に拡張胚盤胞に生育していた胚のすべてが脱出胚盤胞にまで生育していた。また、透明帯脱出率も60.8%であった。
【0043】
一方、予備冷却を行わうことなく、従来法のように液体窒素内に直接滴下して凍結した胚は、融解後に体外培養試験を行ったところ、24時間後及び48時間後においても低い生存率であり、本発明により予備冷却した場合と比較して有意な差が認められた。
【0044】
実施例2
この例では、実施例1において、本発明にしたがい予備冷却を行った胚を融解したものについて、胚の移植試験を実施した。
融解後の胚をM2液で3回洗浄した後、移植当日に別の豚から採取した5日齢胚5個と一緒に、発情日齢3日目の受胚豚の子宮角内に外科的に移植した。なお、移植液としてはM2液を用いた。
【0045】
その結果、受胚豚は受胎し、雄3頭、雌3頭の子豚を分娩した。すべての子豚について、DNAによる親子判定を行った結果、雄1頭がガラス化保存胚由来産子であることが判明した。
このことから、本発明の微小滴ガラス化保存法を用いて超低温保存した豚初期胚は、保存後にも高い生存率と発生率を有しており、しかもガラス化保存胚に由来する産子を作出する能力を保持していることが明らかとなった。
【0046】
【発明の効果】
本発明により、豚初期胚盤胞のガラス化保存用液体組成物が提供され、これを用いることにより、微小滴ガラス化保存法による豚初期胚盤胞の超低温保存を効率よく実施することができる。しかも、本発明の方法は、簡易である上に、融解後の胚は、従来法により超低温保存したものよりも、融解後の生存率が高い。
そのため、本発明の方法によりガラス化保存した胚は、融解後、実用レベルで胚移植に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるガラス化保存法の1態様を示したもので、(I)は液体窒素に浸漬前の状態を、(II)は液体窒素に浸漬後の状態を示している。
【符号の説明】
A 液体窒素
B 胚を含む微小滴
C ピペット
D 傷付き部分
Claims (2)
- (1)10%(v/v)エチレングリコール添加M2液、(2)10%(v/v)エチレングリコール,0.3Mショ糖及び1%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液並びに(3)40%(v/v)エチレングリコール,0.6Mショ糖及び2%(w/v)ポリエチレングリコール添加M2液からなることを特徴とする豚初期胚盤胞のガラス化保存用の3種類の液体組成物。
- ピペットを用いて豚初期胚盤胞を請求項1記載の(1)液,(2)液に浸漬して平衡化すると共に、(2)液での平衡化中に該ピペットの先端付近に傷を付け、平衡化終了後、2分割した請求項1記載の(3)液のそれぞれに順次移したのち、ピペット内に吸入した胚盤胞を含む液体を押し出して該ピペットの先端に該液体の微小滴を形成せしめ、この微小滴を液体窒素水面上に移動して表面を固化させてから、ピペットと共に液体窒素内に浸漬し、次いでピペット先端付近の傷付き部分でピペットを切断し、これを液体窒素で満たされた容器内に収容することを特徴とする豚初期胚盤胞の超低温保存方法。
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