JP3552804B2 - 低雑音増幅装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波やミリ波帯の超高周波帯における微弱な信号を増幅する低雑音増幅器の雑音特性の向上に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、周波数帯域の有効活用などの観点からミリ波と呼ばれる超高周波帯の電波が注目されている。これらの電波を用いたシステムでは、信号を受信する場合に、アンテナで受けた信号を増幅する増幅器が必要である。一般に、この様な増幅器は微弱な信号を低雑音で増幅する性能が要求され、低雑音増幅器(Low Noise Amplifier)あるいはその頭文字をとってLNAと呼ばれている。
【0003】
扱う電波の周波数が高くなるほど、処理するトランジスタは高速動作が要求される。30GHzを越えるミリ波帯域では、主に高電子移動度電界効果トランジスタ、略してHEMTと呼ばれるトランジスタが用いられており、中でも信号の担い手である電子が流れるチャネルにInGaAs化合物半導体を用いたHEMTが有利である。従来から広くマイクロ波帯で用いられてきたGaAsに比べ、InGaAsは電子の移動度が高く、このことがHEMTの動作速度を向上させている。さらに、InGaAsはInの含有率が高くなるに連れて移動度が高くなるため、Inの含有率を15%から53%又は80%まで高めたHEMTが試作されている。
【0004】
一方、Inの含有率が53%のInGaAsを用いたHEMTでLNAを作製した従来技術としては、電子情報通信学会・信学技報・ED−92−116(1993) などが知られている。この文献に記載されたLNAは、2段の増幅器であり、HEMTのバイアス電圧はドレインバイアス用電源電圧が1V、ゲートバイアス用電源電圧が−0.5Vである。実際の増幅器の回路では、抵抗を通じてHEMTのドレイン電極やゲート電極にバイアス電圧が印加されているので、詳しい値は不明であるが、HEMTの内部には最大、ドレイン電極とゲート電極の電位差分だけの電圧が加わることなる。即ち、文献の場合には回路の抵抗を無視すれば最大1.5Vの電圧がHEMTに加わることになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、InGaAsをチャネル層に用いた高性能のHEMTでは、従来のGaAsを用いたHEMTに比べてチャネル内を流れる電子の速度は容易に高くなるため、電子が半導体結晶内を走行する際に、結晶内原子に衝突し、新たに電子・正孔対を生成する衝突電離現象を起こすことが知られている。この様な衝突電離によって発生した電子がドレイン電極に達すると、雑音の源となり、増幅器の低雑音性能を損なうという問題がある。衝突電離のメカニズムは、例えば電子情報通信学会・信学技報・ED94−56(1994) などで、デバイスシミュレーションによって解明する試みが報告されているが、増幅器の設計においてこれらの不具合を回避できる目安は知られていない。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、HEMTを用いた低雑音増幅器を作る上で、衝突電離を確実に防止できる構造及び回路を提供するものである。衝突電離を防止できれば、HEMTのチャネル内で電子が生成されることもなくなり、増幅器の雑音性能を向上させることができる。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、高電子移動度電界効果トランジスタを用いた1段の低雑音増幅器において、トランジスタのドレイン電極及びゲート電極に加わる電位差(単位ボルト)が、トランジスタのチャネル層のバンドギャップの値(単位電子ボルト)とほぼ同じか、小さくなるように直流バイアス電圧が加えられていることを特徴とする。又、請求項2の発明はトランジスタのチャネル層をInGaAsとしたことである。
【0008】
さらに、請求項3の発明は高電子移動度電界効果トランジスタを用いた2段以上の低雑音増幅器において、入力端子から見て第1段目に相当するトランジスタのドレイン電極及びゲート電極に加わる電位差(単位ボルト)をトランジスタのチャネル層のバンドギャップの値(単位電子ボルト)とほぼ同じか、小さくなるように直流バイアス電圧を加えたことを特徴とする。又、請求項4の発明はトランジスタのチャネル層をInGaAsとしたことを特徴とする。
【0009】
【作用及び発明の効果】
本発明者らは、衝突電離が発生するための必要条件に注目し、それを防止できるようなバイアス条件を求める方法を考案した。HEMTのチャネル内で衝突電離が発生するためには、走行する電子が、チャネル層を形成する半導体における電子と正孔の結合エネルギー以上に加速されている必要がある。半導体ではこの結合エネルギーはバンドギャップに相当する。InGaAsのバンドギャップEgは室温の場合、以下の計算で求めることができる。
【0010】
【数1】
Figure 0003552804
但し、xはInGaAsのIn含有率である。(1) 式によれば、Inの含有率が53%のときはEg=0.709eV、Inの含有率が80%のときはEg=0.476eVである。
【0011】
一方、チャネル内を走行する電子に与えられるエネルギーは、チャネルに加わる電位差に依存する。HEMTにバイアス電圧を加えた状態における、ドレイン電極の電位をVd、ゲート電極の電位をVgとすると、チャネルには最大Vd−Vgの電圧が加わる可能性がある。1Vの電圧で加速された電子は1eVのエネルギーを持つので、このVd−Vgの値を(1) 式で求めたチャネルのバンドギャップ以下の値に保てば、チャネル内を走行する電子が、電子と正孔の結合エネルギー以上のエネルギー(バンドギャップに相当)を得ることはなくなり、衝突電離を確実に防止することができる。
【0012】
このように、HEMTのドレイン電極及びゲート電極に加わる電位差(単位ボルト)が、HEMTのチャネル層のバンドギャップの値(単位電子ボルト)とほぼ同じか、小さくなるように直流バイアス電圧を設定することで、チャネル内を走行する電子による衝突電離は発生しない。よって、雑音の発生を確実に防止することができる。本発明はチャネルの材質が変化しても対応させることができ、例えば、InGaAsをチャネルに用いたHEMTにおいて、Inの含有率を増加させて電子の移動度を向上させ、増幅率を増加させた場合にも、それに伴って返って、雑音が増加してしまうことを防止することができる。
【0013】
なお、複数のHEMTを用いた、いわゆる多段階増幅器の場合には、雑音特性は入力端子から見て1段目のHEMTの性能によって決まるため、この1段目の増幅器において、本発明のバイアス電圧条件を満たせばよく、2段目以降の増幅器においては、増幅率を優先させれば良い。
【0014】
上記の構成のHEMTにより、チャネルの材質を様々に変えた場合でも、雑音の発生を確実に抑制することができる。これは、特にIn含有率を高くして、チャネルの移動度を高くし、より高い周波数でより高い増幅率を得ようとする場合に特に有効である。
このような低雑音増幅器を用いれば、従来よりも微弱な信号を用いたシステムが実現できるため、電波の送信電力を弱めて、システムの低消費電力化を図ったり、アンテナを小さくして小型化を図るなどの効果がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を説明する。図1は本発明の第1の実施例の増幅器を示している。図1はHEMTを用いた1段増幅器の例である。HEMT1のソース電極Sは伝送線路14を介して接地されており、ドレイン電極Dは伝送線路13、15、抵抗7を介してドレイン電源5に接続されており、ゲート電極Gは伝送線路11、12、抵抗6を介してゲート電源4に接続されている。入力端子2から入力された信号はこのHEMT1により増幅されて出力端子3から出力される。
【0016】
ここで、図1中のHEMT1の構造を図2で詳しく説明する。図2はHEMT1の断面構造を表しており、InP基板21上にInAlAsバッファ層22、InGaAsチャネル層23、InAlAsスペーサ層24、InAlAsドープ層25、InAlAsゲートコンタクト層26、InGaAsキャップ層27を積層した構造をとり、キャップ層27上にはAuGe/Ni/Auからなるドレイン電極28とソース電極29とが形成されている。また、ドレイン電極28とソース電極29の間の中央部においては、キャップ層27が一部除去されて、Ti/Pt/Auから成るゲート電極210が形成されている。ここで、チャネル層23のIn含有率は、チャネルにおける電子の移動度を高く保つために80%とした。
【0017】
以上のHEMT1を用いた場合、チャネル層23のバンドギャップは(1) 式より0.476eVである。そこで、図1におけるHEMT1のゲート電極Gの電位Vgとドレイン電極Dの電位Vdとの電位差を0.476V以下に保てば、HEMT1内部での雑音の発生を低く抑えることができる。HEMT1の各電極D,S間の導電率や、回路に用いている抵抗の定数にも依存するが、たとえば、抵抗6、7が何れも20Ωであり、ゲート電流を0.01mA、ドレイン電流を6mAとする設計の場合、ゲートバイアス電源4の電圧を0.2V、ドレインバイアス電源5の電圧を0.72Vに設計すれば、Vg=0.2V、Vd=0.6Vとすることができる。よって、Vd−Vg=0.4Vとなって、電位差をチャネル層23のバンドギャップ以下に保つことができる。
【0018】
図3は本発明の第2の実施例であり、2つのHEMTで構成された2段増幅器である。図3のHEMT301、ゲート電源304、ドレイン電源305、抵抗306、抵抗309、伝送線路311、312、313、314、315は、それぞれ、図1のHEMT1、ゲート電源4、ドレイン電源5、抵抗6、抵抗7、伝送線路11、12、13、14、15に対応する。入力端子302から入力された信号は、1段目のHEMT301及び2段目のHEMT310で増幅され、出力端子303から出力される。HEMT301、310は第1の実施例と同じく図2に示す断面構造を持つHEMTである。ここで、1段目のHEMT301のゲート電極Gの電位Vgとドレイン電極Dの電位Vdとの電位差を、0.476V以下となるように設定する。具体的には第1の実施例で示したような抵抗値および電源電圧を用いれば良い。
【0019】
一方、2段目のHEMT310に関しては、特に低雑音特性に注意を払うことなく、最大の増幅率が得られるように設定する。例えばドレインバイアス電圧の値を1段目のHEMT301のドレインバイアス電圧に比べて大きくし、ドレイン電極Dの電位を1V程度まで高くすることにより、増幅率を高くした。このような構造にすることにより、第1の実施例に比べ、より高増幅率の増幅器を構成することができる。
【0020】
なお、本発明を3段増幅器やそれ以上の多段増幅器に用いる場合には、2段増幅器の場合と同様に、入力端子から見て1段目のHEMTに関してのみ、ゲート電極とドレイン電極のバイアス電圧の差をチャネル層のバンドギャップに対応させて設定させば同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例にかかる増幅器の構成を示した回路図。
【図2】本発明で用いる高電子移動度電界効果トランジスタ(HEMT)の構造を示した構成図。
【図3】本発明の第2実施例に係る増幅器の構成を示した回路図。
【符号の説明】
1,301,310…HEMT
2,302…入力端子
3,303…出力端子
4,304…ゲート電源
5,305…ドレイン電源
6,306,7,307…抵抗
11,12,13,14,15…伝送線路
311,312,313,314,315…伝送線路

Claims (4)

  1. 高電子移動度電界効果トランジスタを用いた1段の低雑音増幅器において、
    前記トランジスタのドレイン電極及びゲート電極に加わる電位差(単位ボルト)が、前記トランジスタのチャネル層のバンドギャップの値(単位電子ボルト)とほぼ同じか、小さくなるように直流バイアス電圧が加えられていることを特徴とする増幅装置。
  2. 前記トランジスタの前記チャネル層はInGaAsであることを特徴とする請求項1に記載の増幅装置。
  3. 高電子移動度電界効果トランジスタを用いた2段以上の低雑音増幅器において、
    入力端子から見て第1段目に相当するトランジスタのドレイン電極及びゲート電極に加わる電位差(単位ボルト)が、前記トランジスタの前記チャネル層のバンドギャップの値(単位電子ボルト)とほぼ同じか、小さくなるように直流バイアス電圧が加えられていることを特徴とする増幅装置。
  4. 前記トランジスタの前記チャネル層はInGaAsであることを特徴とする増幅装置。
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