JP3548432B2 - 自動心肺蘇生器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動心肺蘇生器に関する。さらに詳しくは、本発明は、小型で救急車内などの狭い空間で容易に取り扱うことができ、救急作業者が患者の状態を看視しながら、迅速に適切な処置をとることができる自動心肺蘇生器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動心肺蘇生器は、心肺機能の働きが停止した虚脱状態の患者に対して、物理的な衝撃を繰り返して、心肺の共鳴鼓動を喚起することにより、自発呼吸を伴う蘇生に繋げようとするものである。従って、如何に有効な再生のための衝撃を加えるかに発明の主力が注がれ、自発呼吸が喚起された後は、人工呼吸器又は手動式送気調整袋に委ねられるべきものとされていた。
心肺蘇生器は、心臓の鼓動が停止した患者、あるいは、断続的に微かに心拍が聞きとれる程度の患者の心部に対して、リズミカルな衝撃を繰り返すことにより循環を回復し、血液を大動脈及び肺動脈へ駆出し、患者の呼吸を復元させようとするものである。この際、心マッサージ用の衝撃を加えると同時に、AHA(American Heart Association の Cardiopulmonary Resuscitation委員会)の推奨するような、5回の衝撃の間に呼吸用の酸素を1回供給するのであるが、この行為が蘇生にどの程度効果があるかは論のあるところである。しかし、衝撃によって、たとえ断続的かつ微弱ではあっても、鼓動が始まったとき、肺胞の近傍に酸素が存在するか否かは蘇生の効率を大きく支配することは容易に推測される。
また、肺機能が停止しているときには、肺臓内には酸素は受容されないという説もあるが、心臓に対してリズミカルな衝撃を繰り返すことにより、隣接する肺臓はその弾性挙動コンプライアンスのために若干の膨張と収縮を伴い、従って酸素の供給さえあれば、衝撃中であっても圧迫に対する解放が充分に繰り返されれば、酸素の出入りは明かに観測されるという報告もある。何れにしても、心肺蘇生器における周期的な酸素の供給(換気)は、衝撃によって周期的な弾性挙動を与えられた中で効率的に行われるというところに特徴がある。それにも拘わらず、従来、心肺蘇生器は、その衝撃システムが大がかりで、多大なエネルギーを要する上に、救急車内備品としては大きすぎるという苦情もあって、衝撃機構以外の機能は、ただ単に酸素を送り込むだけといったおざなりなものでしかなかった。つまり、患者の刻々と変わる状態に対応しているとは言えないものであった。一方、このような肺機能の停止した患者に対して、呼吸面での蘇生を既存の人工呼吸器が果たし得るか否かについては悲観論が多い。しかし、肺機能停止の患者あるいは心停止の患者に対して、人工呼吸器を調節呼吸用機器として使用する場合、患者は自発呼吸ができないので、人工呼吸器が設定した換気量、呼吸回数、吸気/呼気の比率で換気が行われる。つまり、自動心肺蘇生器のように周期的な肺筋弾性周期を作りだし、それに同調する形で換気の供給が行われるというものではなく、患者側から何等の信号も発せられないままに、人工呼吸器側からの条件を強要される結果とならざるを得ない。もちろん、患者側にたとえ微かにでも吸気努力の兆候が現れれば、精緻な人工呼吸器はそれを引きがねにして、その周期を読みとって同調作業をとり得るが、問題はそれ以前の心肺停止状態における換気の問題である。
一方的に設定された周期での人工呼吸器からの送気は、ややもすれば患者の肺の弾性・伸縮性(コンプライアンス)と同調せず、タイミングが合わないために、患者の気道抵抗を徒らに増加させる結果、気管内壁を損傷させる場合がある。とりわけボリューム・サイクリング方式の呼吸器などの場合には、設定された量の換気が確実に入るという利点を有する反面、異常な圧上昇による弊害が伴う。他のプレッシャ・サイクリングやタイムサイクリング方式については、患者の気道抵抗を排除して換気することができず、心停止段階での単独使用の効果は低い。
加えて人工呼吸器は、一般に精緻なものほど複雑かつ大型であるので、救急用機器として心肺蘇生器と併用することは、救急車内での収納、使用、さらには価格的な面からも困難である。そのために、自動心肺蘇生器の制御用ユニット内に設置される小型部品又は回路であって、なお換気に関わる調節機能が効果的である方式が望まれている。とりわけ狭い救急車内にあっては、蘇生作業中にこの呼吸補助管理を一人の作業者が行わなければならないことから、この切替前後の作業に簡便であってかつ有効に行われることが要求されている。
人工呼吸器の目的は、呼吸を補助することによって快適な生活が営まれ、その患者自身が自らの操作によって、あるいは介護者の手によってよりよい呼吸状態を作りだすことにある。逆に、心肺蘇生器にあっては、単に換気用酸素の放出量を調節できる程度で、患者の気道抵抗、肺筋弾性、自発呼吸の点滅などの刻々と移り変わる状況の看視には全く無関係であった。例えば、米国特許第5,327,887号明細書には、作業者が患者の体格に応じて衝撃槌のスパンを調整するのみで適用し得る自動心肺蘇生器が提案されている。図1は、この米国特許明細書に記載された換気システムであって、換気の調節はあらかじめ工場において設定され、固定された状態にあり、機構内部の回路が、救急時に作業者による隨時の判断が許されないような固定概念で構成されている。クランクシャフト38に連結されて上下動する衝撃槌48は、併設されたベンチレーションチャンバー80とVDC(圧縮の間の換気)チャンバー82の間を貫き、衝撃槌48が上下する減圧時を利用してベンチレーションチャンバー80及びバッグ23に換気用ガスを溜め、次いでVDCチャンバー82とソレノイドバルブ46を通じて患者の口元へ放出する。この間放出量のみを一元的に調節するには、放出孔22を通じて、単に量的な増減を行うに過ぎない。つまり、換気用ガスの放出量は、患者の気管の抵抗の挙動の変化とは関係なく決められ、また作業者がその変化を観察し得たとしても、作業者には施す術もない。
図2は、市販されている自動心肺蘇生器の系統図の1例である。この自動心肺蘇生器においても、図1の自動心肺蘇生器と同じく換気用ガスの放出用の圧力調整バルブは存在するが、系統図に見られる心臓収縮弛緩遅延調整、換気時間設定などの機能は、あらかじめ設定された形で機構内に固定設計され、作業者の調整に委ねられる救急現場即応型ではなく、さらに連続的に調整することのできる微調整可能なタイプでもない。まして、換気位相のズレ、換気波形の調整などはなされていない。
しかし、患者の容態は刻々と変わるものであり、自動心肺蘇生器を使用中であっても、誰にでも操作条件を微調整できるということが必要になってきた。特に最近は、救急救命士の養成が進むにつれて救命レベルが向上し、地域によっては、例えば、広島県のように、自動心肺蘇生器を広く使用していきたいとの意向もあり、各種の調整ノブの活用が必要となってきた。
上記のような不便な自動心肺蘇生器は、現在においても、なお救急作業における主力商品として販売されている。上述した市販品にあっては、換気時間を調節するネジは、衝撃槌を支持する柱に内設されているので、柱表面を形成するキャップを取りはずしてから、下部のネジをドライバーで廻さなければならない。つまり、工場又は消防署においてあらかじめ設定した条件以外の状態で使用することはできず、これでは即応的な心肺蘇生器とは言いがたい。極言すれば、一旦蘇生した患者も、適切なる換気が行われなければ、再び虚脱状態に戻ってしまう。このような片手落ちな救急機器を作り出すに到った原因は、以下にあると指摘される。すなわち、前述のAHAの推奬条件に準拠すれば充分と考え、救急隊員の恣意に委ねられることのないようにとの配慮から、単純な調整ネジすら表面に出さなかった。また、心肺蘇生器の大型化に連なる機能の付加は、運搬の困難さ及び救急車内収納効率の点から歓迎されなかった。さらに、衝撃槌駆動用の動力源となるガスの圧力と、換気用ガスの圧力との差が大きすぎて同次元レベルでの設計が困難であった。
自動心肺蘇生器においては、衝撃槌を動かすガス圧は、最低5kg/cm2程度の吐出圧が必要であって、これが衝撃槌の先端の小面積に凝縮される。これに対して、呼吸器は20〜40cm水柱の低吐出圧で供給するものであって、制御する圧力範囲が2桁も異なるものである。また、自動心肺蘇生器の方から見ると、従来は、上記の5kg/cm2程度の吐出圧を用いて、いかに衝撃縋を正確な間隔で動かすかに技術開発の主眼がおかれ、呼吸用酸素ガスの制御には重点がおかれていなかった。さらに、ガス圧による衝撃槌の駆動の代わりに、電気的な制御方式で衝撃槌を正確に動かそうとする試みもなされている。衝撃槌の駆動はガス圧及び電気の何れでも行い得るが、換気用ガスは酸素を主体とするので、この換気の制御には電気式方法よりも、空気式スイッチ方式と同じく、気体差動式のダイヤフラム弁やスプリング弁などのガス体スイッチ方式が採用されていた。この方式は、流体自身の配管を伴うので、電気式のような小型部品よりも大型となり、コンパクトな機器の要求される救急車内用機器には、この制御部門がどうしても省略され、不完全な機器、あるいは単一的作業機器しか開発されなかった。すなわち、上述の換気に必要な項目の中でも、単に供給ガス量を変える程度に限定されざるを得なかったことは、図1を見れば肯定されるところである。
とはいうものの、小型の部品を流体の回路に介在させるのみですべての呼吸調節機能も盛り込むことは至難なことであるので、そこには自ら限界がある。すなわち、従来のように単に所定量の酸素を患者の口腔に向けて放出するのではなく、任意に調節された一定圧の、任意に設定し得る所定量のガスを、患者の気管や肺の弾性抵抗(コンプライアンス)に合わせて送り込むことができるはずである。とりわけ、肺筋や気管が遅れをとりながら収縮、伸脹する遅延作用に合わせて換気のピークを作る換気の時間的位相の遅れの調節は、何はさておき必要なものである。また、所定量の酸素を放出するための開放時間の調節もこれに次いで必要であって、この時間は、1秒から2秒半の間に自由に設定可能であることが望まれる。これらは、患者の気管や肺の収縮とファイティング(ぶつかり合い)を起こさない意味で、是非とも必要な調節である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、小型で救急車内などの狭い空間で容易に取り扱うことができ、救急作業者が患者の状態を看視しつつ迅速に適切な処置をとり、槌による衝撃の傍、酸素ガスを患者の状態に合わせて有効に送り込み、蘇生率を向上することができる自動心肺蘇生器を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、患者の心弛緩状態に対応して任意の換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを作り出すための調整ノブ又はタッチキーを、仰臥する患者の胸部側面又は肩近傍の自動心肺蘇生器表面に配置することにより、作業者が患者の状態を看視しつつ迅速に適切な処置をとることが可能になり、かつ、各種の調整ノブ又はタッチキーを制御用ユニットに設置して、制御用ユニットを自動心肺蘇生器の本体機構から分離可能とすることにより、狭い救急車内への収納と取り扱いが容易になることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
本発明は、下記の各項の発明よりなる。
(1)調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に直列に配置した2個の絞り部からなるオリフィスにより行うことを特徴とする自動心肺蘇生器。
(2)2個の絞り部の径が相違することを特徴とする第1項記載の自動心肺蘇生器。
(3)2個の絞り部が絞り部の一方を移動させて2個の絞り部の間隔を変動させる機構を有することを特徴とする第1項記載の自動心肺蘇生器。
(4)調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に内設したオリフィスにより行い、かつ、該オリフィスがダッシュポットを設けたものであることを特徴とする自動心肺蘇生器。
(5)ダッシュポットが円筒状ダッシュポットであることを特徴とする第4項記載の自動心肺蘇生器。
(6)調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に内設した絞り部がニードル式調 節弁であるオリフィスにより行うことを特徴とする自動心肺蘇生器。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の自動心肺蘇生器は、調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に内設したオリフィスにより行うものである。具体的には、例えば、患者の心弛緩状態に対応して任意の換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを作り出すための調整ノブ又はタッチキーが、仰臥する患者の胸部側面又は肩近傍の自動心肺蘇生器表面に配置されてなるものである。
本発明の自動心肺蘇生器において、換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを作りだす方法に特に制限はないが、配管内に圧力損失を生成せしめるオリフィスを内設することにより、換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを好適に作り出すことができる。通常のオリフィスは、管径が漸減又は漸増する周知のベンチユリ管のごとく、その絞り前後の流れを層流に保持したまま、管径の変化に対応する流速の変化のみを側圧の変化として捉えて計量の指標とするもの、すなわち、層流によってできる限り圧力損失を少なくし、乱流の発生を防ぎ、管壁との摩擦抵抗のみを浮彫りにしようとするものである。これに対して本発明においては、管径や形状の急激な変化によって乱流又は渦流を引き起こし、その結果生ずる圧力損失を利用して流れの位相をズラしたり、流入波形を変えようとするものである。
本発明において取り扱うガスの圧力は、本格的な人工呼吸器に使用される微圧とは異なって、自動心肺蘇生器駆動用の5kg/cm2程度の中高圧ガスをタンクに溜めながら放出するので、放出速度も大きく、従って渦流を隨所に発生させることができる上に、これを細管を通して流れを安定化し、微圧、微速として、患者の呼吸や、肺の弾性、気道の抵抗に合わせながら送入することができる。本発明において、オリフィスの型式に特に制限はなく、例えば、筒状段差型オリフィス、絞り弁型オリフィス、花弁状絞り弁型オリフィス、障碍板スライド昇降型オリフィス、径違い管型オリフィス、ダッシュポット型オリフィス、スプリング弁型オリフィス、ニードル弁式間隙調整型オリフィスなどを挙げることができる。
【0006】
図3は、導管を急激に拡大した場合のモデル図であり、図4は、導管を急激に縮小した場合のモデル図である。本発明においては、これらの径違い管型オリフィスを単独で使用することができ、あるいは、これらのオリフィスを連結して使用することもできる。導管を急激に拡大したオリフィスと、導管を急激に縮小したオリフィスは、流れの方向に対して何れのオリフィスを先に設置することもできる。ただし、両オリフィス点を結ぶ細い管又は太い管は、その中で一旦生じた渦流が整えられるような長さを有することが好ましい。
図3において、左の小口径管の出口圧力をp1、右の大口径管で再び流れが安定したときの圧力をp2、それぞれの流速をv1及びv2とし、流体の比重をγとすると、この系の圧力損失からベルヌイの法則による静圧力損失を差し引いたものが、この小型部品を設置したための純粋な圧力損失効果となる。すなわち、両者間の圧力損失差をΔpとすれば、
Δp=γ(v1−v2)2/(2g)
となり、絞り前後の流速差(v1−v2)が大きいほど圧力損失は大きくなる。
図3に示す導管を急激に拡大したオリフィスと、図4に示す導管を急激に縮小したオリフィスを組み合わせることにより、吹出初期圧の高い換気を前段のオリフィスにより一旦低圧としたのち、後段のオリフィスにより圧力を上昇させ、後期ピーク型の波に変形したり、あるいは平均化することができる。
図3に示す機構において、管径の差を自由に変えられるような小さな絞り機構を配管中に内設することにより、圧力損失を自由に変えることができる。また、図3に示す機構を図4に示す機構と連結することにより、ガスは図4の右側小口径管から洩れ出しながら、左側の大口径管の中の圧力を徐々に高めるので、図4の出口での圧力のピークを、図3の入口における圧力のピークよりも時間的にズラすことができる。更に重要なことは、たとえ図3の入口の圧力が突出的な噴出による漸減的一次圧であっても、図4を出た後での波形をサインカーブ圧に近い形に変性することができる。換気用ガスの供給が断続的に行われれば、究極的には一定圧供給方式(プレッシャ方式)からサインカーブ方式への移行が可能となる。つまり、前者では患者の気道抵抗やコンプライアンスのために急激な送気は徒らに拒否反応を招くのみであるが、後者によって患者の筋肉の応答を看視しながら無理なく気道や肺の拡張を行わせることができる。
【0007】
本発明においては、オリフィスとして絞り弁型オリフィスを使用することができる。図5は、絞り弁型オリフィスの一態様のモデル図である。図5に示す態様は、絞り円盤であるが、流体は孔部を吹き出た後も収縮を続け、そこに渦流と圧力損失が出現する。この際、絞り円盤の厚みや、孔部のエッジの立ち方により、渦の発生状態を調節することができる。絞り円盤を固定的なものではなく、写真機のシャッターのように収縮が自由に操作できる花弁状絞り弁型とすることができ、また、円形断面ではなく、ギロチンのように一軸方向にスライドする平板とした障碍板スライド昇降型オリフィスとすることによっても、渦流と圧力損失を発生させることができる。ちなみに、絞り弁の厚みが大なるときは、収縮された中央の層流は更に長く尾を曳き、絞り弁の板厚の摩擦と相まって、圧力損失は更に大きくなる。
図6は、本発明に用いるオリフィスの他の態様のモデル図である。図6(a)、(b)及び(c)は、筒状段差型オリフィスであり、図6(d)は、ダッシュポット型オリフィスであり、図6(e)は、スプリング弁型オリフィスであり、図6(f)は、ニードル弁式間隙調整型オリフィスである。これらの態様のオリフィスの中で、筒状段差型オリフィス、ダッシュポット型オリフィス及びニードル弁式間隙調整型オリフィスを好適に使用することができる。筒状段差型オリフィスは、換気ラインの一部に挿入配置するだけで効果を現し、ラインを複雑化することがないので、本発明の主旨の小型化によく適うものである。ダッシュポット型オリフィスは、波形を変化し、時間的位相をズラし遅らせる上で特に有効であり、また、解放時間を延長させ換気を2秒以上にする際にも平均化した一様な圧力分布を持続することができる。この場合の緩和時間の調節は、スプリングの固定軸をズラすことによって行うことができる。ニードル弁式間隙調整型オリフィスは、スリットと膨張空間の組合せによって波形の変化と時間的位相の遅れを微細に調整実現し、患者の呼気と同調させることができる。
【0008】
本発明においては、これらの換気の圧力損失、換気の波形の変化、換気の時間的位相の遅れを招来する部品の効果を連続的又は断続的に変化させるために、スライド方式やチェンジレバーによる伝達機構を使用することができる。このような伝達機構としては、例えば、回転摺動式、銷方向摺動式、挺子利用把手などの平面移動式伝達機構や、落し込み嵌合方式などのチェンジレバーによる伝達機構などを挙げることができる。図6(f)に示すニードル弁は、回転摺動方式の一例であり、図5に示す絞り弁の開閉には、挺子利用の平面操作レバーを用いることができる。
図7は、本発明に用いるオリフィスの他の態様のモデル図である。図7に示すオリフィスは、筒状段差型オリフィスの組み合せであり、渦流と圧力損失は、圧縮方向よりも膨張方向において顕著に現れるので、本態様においては前段を固定し、後段をつまみで移動させることによって両堰間の体積を変化させて、換気の波形の変化や換気の時間的位相の遅れの調節を行うことができる。あるいは、後段を固定し、前段を移動することによっても、同様な効果を得ることができる。
【0009】
本発明の自動心肺蘇生器の一態様においては、換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを作り出すための調整ノブ又はタッチキーを、仰臥する患者の胸部側面又は肩近傍の自動心肺蘇生器表面に配置する。図8は、本発明の自動心肺蘇生器の一態様の配置図である。背板1に仰臥する患者2に自動心肺蘇生器3が装着され、患者の胸部側面及び肩近傍の自動心肺蘇生器表面に、換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れを作り出すための調整ノブ又はタッチキー4が配置されている。(側面図においては、自動心肺蘇生器を表示せず、衝撃点のみを矢印で示す。)調整ノブ又はタッチキーをかかる位置に配置することにより、心肺蘇生作業中に、操作する作業者によって患者の状態を看視しながら即時に換気の条件などを調整し、蘇生効率を上げることが可能となる。
本発明の自動心肺蘇生器においては、換気調整部品及び回路を、主要調節ノブである駆動ストロークなどの自動心肺蘇生器本来の機能をつかさどる調整部品及び回路とともに、患者を仰臥させるケースの内部にコンパクトに収納することができる。その結果、各種の調整ノブ又はタッチキーは、患者の両肩及び片方の胸部側面に集中して配置され、救急行為を施す作業者が、患者を介護するかたわら、片手ですべての調整ノブ又はタッチキーを操作することができる。
【0010】
本発明の自動心肺蘇生器の他の態様においては、衝撃槌駆動用ノブ、衝撃ストローク調整用ノブ、換気供給ガス量調整ノブ、ガス圧力調整ノブ、換気解放時間調整ノブ、換気の圧波形調整ノブ及び換気の時間的位相の遅れ調整ノブを制御用ユニットに設置し、かつ制御用ユニットが自動心肺蘇生器の本体機構から分離し得る構造とする。図9は、本発明の自動心肺蘇生器の他の態様の配置図である。救急車内のストレッチャー5の上に置かれた背板1に仰臥する患者2に自動心肺蘇生器3が装着され、自動心肺蘇生器の本体機構から分離され、本体機構に導管又は導線6により連結された制御用ユニット7に、各種の調整ノブ又はタッチキー4が設置されている。各種の調整ノブ又はタッチキーは、制御用ユニットの前面に集中して設置することが好ましい。各種の調整ノブ又はタッチキーを集中して制御用ユニットに設置し、制御用ユニットを自動心肺蘇生器の本体機構から分離し得る構造とすることにより、狭い救急車内に収納しやすく、携帯時の重量も軽量であり、作業時にも立錐の余地のない救急車内の僅かな部分をも利用することができる。また、患者の蘇生前後の推移時期に最も必要な換気調整のための諸機構を、自動心肺蘇生器の大型化を招くことなく、これに付加するとともに、同時に作業者が救急作業を行いながら、片手で身近な状態で調整ノブ又はタッチキーを操作することができる。
自動心肺蘇生器の衝撃槌は、移動を目的とした手提げ用背板に取り付け、あるいは、搬送用ストレッチャーに取り付けることにより、狭い階段やエレベーターを通過し、ストレッチャーに患者を取り付けたまま窓から空中へ搬出することができる。これらのいずれの場合も、小型の制御用ユニットと連結された衝撃槌は、移動中も駆動を続ける。換気供給ガス量調整ノブ、ガス圧力調整ノブ、換気解放時間調整ノブ、換気の圧波形調整ノブ、換気の時間的位相の遅れ調整ノブなどの各種調整ノブや、付加される換気調整用の部品や回路は、できる限り小型であるか、あるいは1個のノブで複数の機能の調整を兼ねることが好ましい。
【0011】
本発明の自動心肺蘇生器によれば、一般の在宅に使用される呼吸器のように、大型かつ精緻な部品や回路ではなく、送気回路の中間に流体の流動を乱すような極めて小型の障碍物を挿入することによって、配管内を流れるガス流体の圧力損失や波形の変化、あるいは最大フローの位置の時間的位相の遅れを実現することができ、更にダイヤル式又は無段階直線移動式の調整ノブを操作することによって、作業者が片手で迅速且つ平易に操作し、換気条件を連続的に微調整することが可能となる。
本発明の自動心肺蘇生器において、自動心肺蘇生器の衝撃槌の強い衝撃振動を受けやすい部分には、チェンジレーバー、摺動ノブなどをスプリングによって所定の位置に落し込む方式をとることが好ましい。この場合には、調節は断続的となる。ダッシュポットの押し圧力の調節においても、バックアップするダッシュポットピンの調節は、回転摺動式とすることが好ましい。また、オリフィス板の昇降は、連続摺動方式とすることもできるが、昇降方向に板を動かす場合には、段階式落し込み方式とすることが好ましい。一軸移動方式は連続摺動が可能であり、切替スイッチ及びステップ方式は断続落し込み方式で設定される場合が多いが、いずれの場合も機構部品は小型であり、制御用ユニットの表面に設置される。また、制御機構が本体機構と一体化された場合には、調整ノブ又はタッチキーは、自動心肺蘇生器の前面又は側面壁に近く配列され収容される。このために、本発明の自動心肺蘇生器においては、作業者が救急作業のかたわら、これらの調整ノブ又はタッチキーを片手で操作することができる。
【0012】
本発明の自動心肺蘇生器は、電気的に制御することもできる。電気的制御方式は、各種部品の配置についての自由度が大きい。換気の圧力損失を形成する機構自体は、制御される流体が同一であれば、電気的制御の場合でも力学的制御の場合となんら変わることなく制御することができる。電磁弁による開閉、昇降などの制御は、手動による力学的制御よりもより連続的であり、蓋然性ある制御を行うことができ、とりわけ調整ノブ又はタッチキーと構成部品とのユニット内における位置関係の自由度が高いという利点がある。自動心肺蘇生器の調整機構の作動を電気的に制御することにより、自動心肺蘇生器の重量を軽減することができる。特に、制御用ユニットを、救急車内及び救急車外の所望の場所において自由に使用することを目的として、本体機構と制御用ユニットの一体化と分離とを随時に行うためには、電気方式で制御することが特に好ましい。制御用の部品と回路を小型化することにより、本体機構と制御用ユニットの一体化と分離とを随時に行うことが可能となる。
本発明の自動心肺蘇生器において、このような小型部品を調整するノブ又はタッチキーは、自動心肺蘇生器と一体化する場合には、駆動用ガスの供給に関する開閉ノブ、衝撃槌のストローク調整ノブなどの自動心肺蘇生器に関する本来の調整器具と同じく、仰臥する患者の胸部側面及び肩近傍に位置することが好ましい。特に、救急車内においては、患者は車の側壁に押し付けられるので、日本においては、患者の両肩下及び右脇下に集中配列することが作業上好ましい。制御用ユニットを、背板を兼ねたケースと一体化されている自動心肺蘇生器の駆動機構と分離して使用する場合や、市販の手提げ背板上に駆動機構を取り付けて患者を背板上に仰臥させる場合や、駆動機構を取り付けたストレッチャーに患者を仰臥させる場合などには、制御用ユニットを本体機構から分離し、例えば、左手で患者の送気マスクを押さえ、右手のみでユニットを操作することになる。このような場合、図9に示すように、ユニットは救急作業者の右横、すなわち患者の右腰附近に置かれることが多いので、分離型の制御用ユニットのケースの前面パネルに、自動心肺蘇生器にかかわる殆どすべての調整ノブ又はタッチキーを集中して配列することが好ましい。
本発明の自動心肺蘇生器は、極めて小型の部品を自動心肺蘇生器に内装し、調整ノブ又はタッチキーを制御用ユニットの表面に集中し、制御用ユニットを本体機構から分離し得る構成としているので、患者の状況や場所などに応じて、ある場合には制御用ユニットと本体機構を一体化して使用し、ある場合には制御用ユニットを背板を兼ねたケースから取り出して分離型としても使用し、分離と一体化を随時に行うことができる。
【0013】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
図10、図11、図12、図13及び図14に示すA〜Tの20個のオリフィスを用いて、換気時間、換気の波形の変化及び換気の時間的位相の遅れの調整を行った。
自動心肺蘇生器[米国BRUNSWICK社製、HLR−Air型]の換気用酸素ガス排出ラインにオリフィスを取り付け、その吐出口先端には、患者の咽喉に挿入して気道を確保するための気管内チューブ[日本光電製、ツーウェイチューブSAタイプ]の肺胞側を連結し、更にその先端は解放の状態とした。衝撃槌が衝撃を5回繰り返す間に、緩衝タンクに蓄えられた酸素ガスを1回の比率で放出した。1回当たりの酸素ガスの放出量は、500〜1,200ml又は500〜1,500mlとした。
気管内チューブの連結点に、測定域0〜100cm水柱の圧力計を分岐結合させて、リリーズ放出のない状態での低圧力値を測定した。衝撃槌の5回おきの間隔は、その節目節目の換気用酸素放出時間が延長されるにつれて延長されるので、タイムディレーの進行の目安は、5回目の衝撃が止んでから、次の第1回目の衝撃に入る際のカムの回転音が発せられるまでの時間を測定した。結果を、第1表に示す。
比較例1
実施例1で用いた装置に、オリフィスをつけることなく、1回当たりの酸素ガスの放出量を500〜1,500mlの間で変動させて、実施例1と同様に測定を行った。
1回当たりの酸素ガスの放出量が750ml以上になると、放出初期の圧力と管内抵抗との圧力差がラインの途中に設けられたリリーズバルブの作動圧60cm水柱を上回るために、リリーズバルブからの洩れが観測された。結果を、第2表に示す。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
第1表と第2表に見られるように、オリフィスを取り付けない比較例1の場合に比べて、実施例1で用いた20個のオリフィスにはすべて効果が認められる。圧力損失の点では、圧縮を伴う流れのBよりは、解放による渦流を伴う流れのAの方が効果がある。AとBを結合したCは、更に吐出圧力の平均化と吐出時間の延長に効果がある。F、G及びHは、いずれも層流化による摩擦抵抗と解放時の損失の両者が現れるので有効であり、単独で使用する際には、換気ラインを複雑化することなく、取り付けることができる。この点、I、J及びKは、更に圧力を貯めて圧力の平均化と吐出時間の延長が実現され、特に救命作業上望ましいとされる吐出時間1.2〜2.2秒が実現されている。I、J及びKのつまみノブのスライドによる空間の調節は、吐出時間を2.5秒にまで大幅に延長することができ、しかも調節幅が大きい。
同様の効果は、ダッシュポットを使用したL、M、N、O及びPでも認められる。ダッシュポットがガス圧の急速な増減に対応して、後退、前進の緩和運動を行うことにより、圧力の平均化と波形の均整化(サイン波への修正)が達成されている。ダッシュポット型の唯一の欠点は、ダッシュポットを組み込むための空間が必要になり、装置を小型化することが困難になることである。この点、N、O及びPは、ライン内に小型ダッシュポットが並列的に収納され、しかもノブを移動することにより、ダッシュポットのスプリングの作動域をより広範に獲得できるという点で効果が大きい。Qは、N、O又はPの固定式であるために、作動幅には限界があるが、吐出圧や換気の時間的遅れが限定された与件の中では、極めて円滑な作動を示す。Rは、微調整可能なダイヤルを有する点で、熟達した作業者に適している。患者の呼吸状態を看視しながら調整するのに好都合であるが、人為的な変化に頼りすぎる点もある。
S及びTによれば、層流の流れを可能な限り乱すことなく、コンプライアンスに合わせた押し込みを実現することができる。特に、Sは、蘇生器の筺体の外でラインの間に容易に挿入することができる。しかし、S及びTは、換気の時間的位相の遅れの点では、I、J及びKほど充分な効果は得られていない。
特筆すべきことは、試験した20個のオリフィスの何れも最高圧力が60cm水柱のリリーズバルブの設定圧に達しなかったので、患者の気管を傷つけることなく換気が起こることである。試験した20個のオリフィスを、ライン中への収納性と効果の両面から総合的に評価すると、C、E、F、G、H、I、J、K、N、P及びRが良好であり、中でもF、G、H、J、K、N及びRが特に優れている。
これに対して、オリフィスのない比較例1においては、酸素ガスの放出量が多い場合には、放出初期の圧力と管内抵抗の圧力差がリリーズバルブの作動圧60cm水柱を上回るために、バルブからの洩れが観測され、短時間に圧力が放出低下し、患者の換気が充分ではない。
【0017】
【発明の効果】
本発明の自動心肺蘇生器は、換気用ラインを複雑化することなく、小型で救急車内などの狭い空間で容易に取り扱うことができ、作業者が救急作業を行いながら患者の状態を看視し、迅速に換気の条件を最適化して、蘇生率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、米国特許明細書に記載された換気システムの構成図である。
【図2】図2は、市販されている自動心肺蘇生器の系統図の1例である。
【図3】図3は、導管を急激に拡大した場合のモデル図である。
【図4】図4は、導管を急激に縮小した場合のモデル図である。
【図5】図5は、絞り弁型オリフィスの一態様のモデル図である。
【図6】図6は、本発明に用いるオリフィスの他の態様のモデル図である。
【図7】図7は、本発明に用いるオリフィスの他の態様のモデル図である。
【図8】図8は、本発明の自動心肺蘇生器の一態様の配置図である。
【図9】図9は、本発明の自動心肺蘇生器の他の態様の配置図である。
【図10】図10は、実施例に用いたオリフィスのモデル図である。
【図11】図11は、実施例に用いたオリフィスのモデル図である。
【図12】図12は、実施例に用いたオリフィスのモデル図である。
【図13】図13は、実施例に用いたオリフィスのモデル図である。
【図14】図14は、実施例に用いたオリフィスのモデル図である。
【符号の説明】
1 背板
2 患者
3 自動心肺蘇生器
4 調整ノブ又はタッチキー
5 ストレッチャー
6 導管又は導線
7 制御用ユニット
22 放出孔
23 バッグ
38 クランクシャフト
46 ソレノイドバルブ
48 衝撃槌
80 ベンチレーションチャンバー
82 VDCチャンバー
Claims (6)
- 調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に直列に配置した2個の絞り部からなるオリフィスにより行うことを特徴とする自動心肺蘇生器。
- 2個の絞り部の径が相違することを特徴とする請求項1記載の自動心肺蘇生器。
- 2個の絞り部が絞り部の一方を移動させて2個の絞り部の間隔を変動させる機構を有することを特徴とする請求項1記載の自動心肺蘇生器。
- 調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に内設したオリフィスにより行い、かつ、該オリフィスがダッシュポットを設けたものであることを特徴とする自動心肺蘇生器。
- ダッシュポットが円筒状ダッシュポットであることを特徴とする請求項4記載の自動心肺蘇生器。
- 調整された定時間隔で繰り返し衝撃を付加することによって心臓マッサージを行うとともに、調整された時期で呼吸用ガスを換気供給する自動心肺蘇生器であって、換気の時間的位相の調整を、配管内に内設した絞り部がニードル式調節弁であるオリフィスにより行うことを特徴とする自動心肺蘇生器。
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