JP3530057B2 - 荷電粒子ビームの集群方法 - Google Patents

荷電粒子ビームの集群方法

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JP3530057B2 JP04199599A JP4199599A JP3530057B2 JP 3530057 B2 JP3530057 B2 JP 3530057B2 JP 04199599 A JP04199599 A JP 04199599A JP 4199599 A JP4199599 A JP 4199599A JP 3530057 B2 JP3530057 B2 JP 3530057B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、荷電粒子ビームの集群
方法、特に非相対論的エネルギを持つ荷電粒子ビームの
集群方法に関する。
【0002】低速陽電子ビームを物質に入射させて陽電
子の寿命を測定することにより、半導体や金属中の格子
欠陥の非破壊検査や、物質最表面層の元素分析及び構造
解析等、従来の電子顕微鏡では不可能であった微細な分
析が可能になる。低速陽電子ビームは、トランジスタや
太陽電池などの半導体材料や薄膜材料、原子炉や核融合
材料、高分子材料、高温超伝導材料などの分析、検査及
び開発に幅広く応用することができる。
【0003】陽電子の寿命を精密に測定するために、低
速陽電子ビームを安定に極短パルス化するビーム制御技
術が望まれている。
【0004】
【従来の技術】図6は、従来の低速陽電子ビームの極短
パルス化装置を示す。
【0005】ビームダクト50に図の左方から陽電子が
入射する。陽電子ビームをチョッパ51でチョップし、
時間幅が2〜30ns程度のパルス状ビームを形成す
る。このパルス状ビームをバンチャ52で集群する前
に、サブハーモニックプリバンチャ53でビームの時間
幅が2ns以下になるようにする。
【0006】サブハーモニックプリバンチャ53は、2
重の筒からなり、内側の筒に高周波を印加することによ
って、筒の両端の2つのギャップでビームを変調するも
のである。
【0007】RFキャビティからなるバンチャ52は、
このビームに更に変調を加えて最終的に試料位置54で
時間的なフォーカスを得る。バンチャ52には、バンチ
ャ効率を高めるために正弦波のみならずその高調波が与
えられる。三角らは、基本波に第3高調波を混合し、時
間幅150psec程度の極短パルスを得ている(三角
ら、放射線 vol.18,No.2(1992))。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来技術によると、時
間幅が150psec程度の荷電粒子ビームパルスを得
ることができるが、より安定でコンパクトかつ取扱容易
なパルス装置が望まれている。
【0009】本発明の目的は、非相対論的エネルギを持
つ荷電粒子ビームを、短パルス化することができる技術
を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の荷電粒子ビーム
の集群方法は、運動エネルギ1eV〜1MeVの荷電粒
子ビームをチョップし、パルス状の荷電粒子ビームを形
成する工程と、前記パルス状の荷電粒子ビームを進行方
向に10〜200cmの距離だけ走行させる工程と、荷
電粒子ビームの進行方向にほぼ平行であり、10〜20
0cmの距離だけ走行した荷電粒子ビームの中心部分の
先頭近傍の荷電粒子を減速し、該中心部分の後尾近傍の
荷電粒子を加速するように強さが時間に関して2次関数
的に変化する電場をある期間発生して、前記荷電粒子ビ
ームを集群する工程とを有する。
【0011】
【作用】荷電粒子ビームをチョップした後、10〜20
0cmの距離だけ走行させると、荷電粒子の持つエネル
ギのばらつきにより、パルス幅が広がる。幅の広がった
パルスの中心部分のみを集群対象とすると、実質的に集
群対象となる荷電粒子のエネルギのばらつきを少なくす
ることができる。
【0012】
【実施例】図1を参照して、低速陽電子ビームを集群す
る集群装置を例にとって本発明の実施例を説明する。な
お、陽電子に限らずその他の荷電粒子ビームに適用する
こともできる。
【0013】図1は、本発明の実施例による陽電子ビー
ム集群装置の正面図を示す。支持台30の上に円筒状の
ビームダクト1が取り付けられている。ビームダクト1
は、両端にフランジを有する複数の円筒状ダクトがフラ
ンジ部で接続されて構成されている。
【0014】ビームダクト1と中心軸を共有するように
その外側に10個のヘルムホルツコイル2がほぼ等間隔
に配置されている。ヘルムホルツコイル2により、ビー
ムダクト1の内部にほぼ一様の軸方向のビーム輸送用磁
場が発生する。ビームダクト1の図の左端からビームダ
クト1内に入射した荷電粒子は、ビーム輸送用磁場によ
り軸方向に対して垂直な方向に力を受ける。この力によ
り荷電粒子はらせん運動しながら軸方向に輸送される。
【0015】ビームダクト1の入射端からやや後方(下
流側)には、チョッパ3が取り付けられている。連続的
に入射する陽電子ビームはチョッパ3によりチョップさ
れ、所定の時間幅にパルス化される。チョッパ3は、複
数枚のグリッドによってパルス電場を発生するものでも
よいし、機械的にチョップするものでもよい。
【0016】チョッパ3よりも距離L1だけ後方に、イ
ンダクションシステム10が取り付けられている。イン
ダクションシステム10については、後に図2を参照し
て詳説する。チョッパ3によってパルス化された陽電子
ビームは、インダクションシステム10によって集群さ
れ、パルスの時間幅が圧縮される。
【0017】インダクションシステム10よりも距離L
2だけ後方に、試料を配置するための試料室4が取り付
けられている。試料室4内に配置された試料表面に、イ
ンダクションシステム10で極短パルス化された陽電子
ビームが入射する。
【0018】次に、図2を参照して、インダクションシ
ステム10の構成及び動作原理について説明する。
【0019】図2は、ビームダクト1の中心軸を含む平
面における断面図を示す。陽電子ビームの集群を行う位
置に対応したビームダクト1の側壁に、円周方向のギャ
ップ16が形成されている。ギャップ16は、絶縁物か
らなる円環状部材14により塞がれ、ビームダクト1内
の気密性が保たれている。また、ギャップ16に接続す
るように、円環状のインダクションシステム10が取り
付けられている。
【0020】インダクションシステム10は、ビームダ
クト1と中心軸を共有する円環状空洞を画定する導電性
部材12、この円環状空洞内に配置され、ビームダクト
1の外周を1周する閉磁路を画定する強磁性体からなる
コア11、及び導電性部材12に電圧を印加するための
同軸ケーブル15から構成されている。円環状空洞は、
導電性部材12の内周側の側壁に設けられたギャップ1
6により円環状部材14に連続している。導電性部材1
2は、コア11の内周面と一方の端面に接する内側部材
12a、及びコア11の外周面に接し、他方の端面との
間にギャップ16に連続する空洞13を画定する外側部
材12bから構成されている。
【0021】外側部材12bの外周面に設けられた貫通
孔を通して同軸ケーブル15の芯線15aが空洞13内
に挿入され、内側部材12aの内周面側の端部に接続さ
れている。同軸ケーブル15の外側導体15bは、外側
部材12bの貫通孔近傍に接続されている。
【0022】次に、図5(A)を参照してインダクショ
ンシステム10の動作を説明する。図5(A)は、イン
ダクションシステム10の電気的接続に着目した概略図
である。インダクションシステム10には、ギャップ1
6を介して高周波電流を流す電流路i1、及びコア11
と鎖交する電流路i2が画定されている。同軸ケーブル
15から高周波電圧を印加する。コア11は、強磁性体
により形成されているため、電流路i2のインダクタン
スは高い。従って、印加する電圧の周波数が十分高けれ
ば、電流路i2のインピーダンスが高くなり電流はほと
んど流れない。
【0023】同軸ケーブル15から印加された電圧によ
り、電流路i1に電流が流れ、ギャップ16の両端に電
位差が生じる。これにより、ビームダクト1内に軸方向
に垂直な等電位面が発生する。すなわち、軸方向に平行
な電場が発生する。この電位差により、ビームダクト1
内を移動する荷電粒子は軸方向の加速度を受け、減速あ
るいは加速される。パルス化された陽電子ビームの先頭
近傍の陽電子を減速し、後尾近傍の陽電子を加速するこ
とにより、陽電子ビームの時間幅を圧縮することができ
る。
【0024】図2に示すインダクションシステムは、加
速エネルギ10〜30MeV程度の大電流荷電粒子ビー
ムの加速器として知られているものであり、インダクシ
ョンシステムを非相対論的荷電粒子ビームの速度変調に
利用した例はない。
【0025】図6に示す従来の集群システムは、予備集
群を行うためのサブハーモニックプリバンチャと集群を
行うためのRFキャビティを必要とする。サブハーモニ
ックプリバンチャには、2重の円筒状導体の両端にそれ
ぞれギャップが存在する。一方のギャップに予備集群の
ための適当な信号を印加しても、ビームが他方のギャッ
プの影響を受けると十分な予備集群を行うことができな
い。他方のギャップの影響を廃し十分な集群を行うため
には、2重円筒状導体の長さに制限が加わる上、予期し
ない浮遊の容量が発生する恐れがあり、電気回路上、組
立の困難がともなう。これに対し、インダクションシス
テムはビームダクトの1か所に配置されたギャップによ
り集群用の電場を発生するため、このような問題は発生
しない。また、インダクションシステムのギャップ前後
のビームダクトをアースレベルに落とすことができるた
め、外部からの雑音等に対して安定である。
【0026】次に、図3、図4を参照してインダクショ
ンシステムに印加する信号波形について説明する。
【0027】図3(A)は、ビームダクト内を進行する
陽電子ビームの空間分布を示す。横軸はビームダクトの
中心軸に沿った基準点からの変位、縦軸は陽電子密度を
それぞれ任意目盛りで表す。なお、進行速度が一定であ
れば、ビームダクトの中心軸に沿ってこのように分布し
たパルス状ビームがある一点を通過する時間は、中心軸
上に分布した空間的な広がりに比例する。すなわち、図
3(A)の横軸はパルス状ビームの時間幅に対応してい
ると考えることができる。
【0028】チョッパを通過した陽電子は、理想的には
全て同一の運動エネルギすなわち同一の速度を有する。
従って、陽電子に対して外的な作用を与えないと、陽電
子ビームは図3(A)のビーム波形を保ったまま進行す
る。このパルス状ビームの先頭付近の陽電子を減速し、
後尾付近の陽電子を加速すると、ビームが進行するに従
ってその幅が圧縮される。
【0029】図3(B)は、インダクションシステムの
ギャップ部分通過後の陽電子の速度を示す。横軸は基準
点からの進行距離、縦軸は速度を、それぞれ任意目盛り
で表す。各陽電子の速度は、ビーム先頭から最後尾に向
かって徐々に大きくなり、かつ進行距離に関して線型に
変化している。このような速度分布を有するビームが一
定距離進行すると、理想的には全ての陽電子が空間的に
一点に集中する。
【0030】次に、次に図3(B)に示す速度分布を有
するビームを形成する方法について説明する。電気素量
をe、陽電子の初期加速電圧をV0 、インダクションシ
ステムのギャップ部分の電位差を時間tの関数としてV
(t)、陽電子質量をme とすると、ギャップ部分を通
過した後の陽電子の速度vは、
【0031】
【数1】 v=(2e/me1/2(V0+V(t))1/2 =(2eV0/me1/2(1+V(t)/V01/2 …(1) と表される。
【0032】速度vが時間に関して線型であると、ギャ
ップ部分を通過したビームは図3(B)に示す速度分布
を有する。すなわち、式(1)の右辺中の(1+V
(t)/V01/2が時間tに関して線型に変化すればよ
い。すなわち、
【0033】
【数2】 (1+V(t)/V01/2=C1t+C2 …(2) と表すことができる。ここで、C1、C2は定数である。
式(2)を変形すると、
【0034】
【数3】 V(t)=V0 1 22+2V012t+V02 2−V0 …(3) となる。境界条件としてdV(0)/dt=0とすると
2=0となるから、式(3)は、
【0035】
【数4】 V(t)=V01 22−V0 …(4) となる。従って、関数V(t)は2次の係数が正の2次
関数となる。
【0036】図4(A)は、関数V(t)の理想波形を
示す。図4(A)に示すように、時間と共に2次関数的
に単調に増加する電圧を周期的に印加することにより、
陽電子ビームを効率的に集群することができる。なお、
連続する波形で示したが、陽電子ビームはチョップされ
てパルス状に飛来するので、陽電子ビームが通過する時
に図4(A)に示す2次関数的電圧が供給されればよ
い。
【0037】現実には、2次関数的に変化する電圧波形
を安価、手軽に発生することは困難である。また、実際
にはV(t)としてV0分のオフセットを取り除いた2
次関数的電圧を印加することが必要である。そのような
電圧波形を発生する電圧波形形成装置を安価に手軽に入
手することは困難である。従って、線型に変化する波形
及び正弦波、余弦波を重ね合わせて図4(A)の近似波
形を発生することを考える。
【0038】図4(B)は、鋸波で近似した場合を示
す。図4(B)に示すように、1周期内で電圧は線型に
単調増加する。
【0039】図4(C)は、正弦波の位相π〜2πの半
周期分の波形が図4(B)の鋸波と同一周期で繰り返す
波形を、図4(B)の鋸波に重ね合わせた場合を示す。
図中の破線a1は鋸波、破線a2は正弦波の位相π〜2
πの波形を示す。この2つの波形を重ね合わせると図中
の実線b1が得られる。図4(C)に示すように、この
波形は図4(B)の鋸波よりも図4(A)に示す理想的
な波形に、より近似している。
【0040】図4(D)は、余弦波の位相0〜πの半周
期分の波形が図4(B)の鋸波と同一周期で繰り返す波
形を、図4(C)の波形に重ね合わせた場合を示す。図
中の破線b1は図4(C)の波形、破線b2は余弦波の
位相0〜πの波形を示す。この2つの波形を重ね合わせ
ると図中の実線cが得られる。図4(D)に示すよう
に、この波形は図4(C)の波形よりも図4(A)に示
す理想的な波形に、より近似している。
【0041】なお、集群対象の荷電粒子が負電荷である
場合には、図4(A)〜図4(D)の電圧波形を正負逆
転すればよい。すなわち、図4(B)の代わりに、線型
に単調減少する波形を周期的に繰り返す鋸波とする。ま
た、図4(C)で重畳する正弦波の位相を0〜π、図4
(D)で重畳する余弦波の位相をπ〜2πとする。
【0042】鋸波に正弦波及び余弦波の適当な半周期分
を重ね合わせることにより、2次関数的に変化する波形
に近似した波形を生成できることは、以下のように考察
することができる。
【0043】簡単化のために、図4(A)の波形の周期
をπ、振幅を2とすると、式(4)は、
【0044】
【数5】 V(t)=(2/π2)t2−1 …(5) と変形できる。この波形を鋸波成分と他の成分に分ける
と、
【0045】
【数6】 V(t)=(2/π)t−1+{(2/π2)t2−(2/π)t}…(6) となる。式(6)の右辺第1項と第2項の和は鋸波を表
す。従って、式(6)の右辺の中かっこ内の波形を三角
関数で近似すればよい。ここで、関数f(t)を、
【0046】
【数7】 f(t)=0 (−π≦t<0) =(2/π2)t2−(2/π)t (0≦t≦π) …(7) と定義する。f(t)は、0≦t≦πの範囲で式(6)
の中かっこ内の関数と等しい。関数f(t)をフーリエ
級数展開すると、 f(t)=−π3/6−(4/π)sin(t)+(2-4/π)cos(t) +... …(8) となる。式(8)は、負の正弦波と正の余弦波で関数f
(t)を近似できることを表している。
【0047】上記解析結果から、鋸波に負の正弦波(す
なわち正弦波の位相π〜2πの波形)と余弦波の位相0
〜πの波形を重ね合わせることにより、2次関数的に変
化する波形を近似できることがわかる。
【0048】次に、図4(B)〜(D)の電圧波形を、
インダクションシステムに印加して陽電子ビームを集群
した実験結果について説明する。
【0049】実験に使用した集群装置は、図1及び図2
に示すものである。インダクションシステムのコアに
は、ファインメットコア(日立金属(株)製)を使用し
た。ファインメットコアは飽和磁束密度が1.3T以上
と高く、また磁気歪が低いという特徴を有している。
【0050】インダクションシステムは、ヘルムホルツ
コイルによるビーム輸送用磁場内に配置されて使用され
るため、飽和磁束密度が高い材料が好ましい。より具体
的には、飽和磁束密度が1T以上であることが好まし
い。また、印加した電圧に比例した電場を発生する必要
があるため、磁気歪の少ない材料であることが好まし
い。例えば、フェライト系のコア、アモルファスコア等
を使用してもよい。
【0051】図4(B)に示す波形をインダクションシ
ステムに印加して陽電子ビームを集群した。印加した鋸
波は、−0.275〜+0.275Vの間で周期100
nsで変化する波形である。なお、鋸波の有効部分は8
0nsであり、その前後に合計20nsの無効部分があ
る。陽電子ビームの初期エネルギは8eV、パルス幅は
40ns、チョップ周波数は10MHzである。このと
き、インダクションシステムのギャップから190cm
後方で時間幅165psの集群されたビームを得ること
ができた。
【0052】図4(C)に示す電圧波形をインダクショ
ンシステムに印加して、初期エネルギ20eV、パルス
幅80ns、チョップ周波数10MHzの陽電子ビーム
を集群した。鋸波は、−2.05〜+2.05Vの間で
周期100ns(有効部分80ns)で変化する波形で
ある。正弦波は、位相π〜2πの波形が周期100ns
で繰り返す波形であり、振幅は0.3Vである。また、
鋸波に対して位相を1ns遅らせて重ね合わせた。
【0053】このとき、インダクションシステムのギャ
ップから90cm後方で時間幅138psの集群された
ビームを得ることができた。
【0054】なお、負の正弦波の位相を遅らせたのは、
鋸波の立ち下がり時間が0ではないこと、インダクショ
ンシステムのギャップ幅が0ではないこと等、理想的な
条件からのずれを補正するためである。なお、適切な位
相遅れ量は、装置により異なると思われるため、実験を
繰り返して最適条件を見つけることが好ましい。
【0055】図4(C)に示す電圧波形を、条件を変え
て重ね合わせたて集群を行った。陽電子ビームは、初期
エネルギ200eV、パルス幅30ns、チョップ周波
数10MHzである。鋸波は、−20〜+20Vの間で
周期100ns(有効部分30ns)で変化する波形で
ある。負の正弦波は、位相0〜πの波形が周期30ns
で繰り返す波形であり、振幅は5Vである。また、鋸波
と負の正弦波は同相で重ね合わせた。
【0056】このとき、インダクションシステムのギャ
ップから207cm後方で時間幅40psの集群された
ビームを得ることができた。
【0057】次に、図4(D)に示す電圧波形をインダ
クションシステムに印加して集群を行った。陽電子ビー
ム、鋸波及び負の正弦波は、上記3番目の実験例と同条
件である。余弦波は、位相0〜πの波形が周期30ns
で繰り返す波形であり、振幅は0.1Vである。このと
き、インダクションシステムのギャップから207cm
後方で時間幅20psの集群されたビームを得ることが
できた。
【0058】上記実験例の結果が示すように、インダク
ションシステムに鋸波形の電圧を印加してパルス状の陽
電子ビームを集群することができる。また、鋸波に正弦
波の位相π〜2πの波形、さらには余弦波の位相0〜π
の波形を重ね合わせることにより集群効率を高めること
ができる。
【0059】上記実験例では、重畳する正弦波及び余弦
波の波形を半周期分の波形としたが、必ずしも半周期分
の波形である必要はない。正弦波の位相0〜πの波形の
代わりに、正弦波の上に凸の部分の波形を切り出しても
よい。同様に、位相π〜2πの波形の代わりに、下に凸
の部分の波形を切り出してもよい。また、余弦波の位相
0〜π、位相π〜2πの波形の代わりに、それぞれ余弦
波の傾きが負の部分の波形、余弦波の傾きが正の部分の
波形を切り出してもよい。このとき、実験を繰り返し、
適切な波形を選択することが好ましい。
【0060】上記考察及び実験例では、陽電子ビームの
初期エネルギのばらつきを考慮していなかったが、実際
には初期エネルギにばらつきがある。集群効果を高める
ためには、このエネルギのばらつきを少なくすることが
好ましい。
【0061】チョッパでチョップされたパルス状の陽電
子ビームを一定距離ドリフトさせると、エネルギのばら
つきによりパルス幅が広がる。この幅が広がったパルス
の中心部分の陽電子のみを対象に集群を行うことによ
り、実質的に集群対象となる陽電子のエネルギのばらつ
きを少なくすることができる。具体的には、図1の集群
装置において、チョッパ3とインダクションシステム1
0のギャップとの距離L1を確保すればよい。
【0062】距離L1を100cmにして、陽電子ビー
ムの集群を行った。陽電子ビームの初期エネルギは8e
V、エネルギのばらつきは±0.5V、チョップ直後の
時間幅が30nsである。インダクションシステムに印
加した電圧は、鋸波と正の正弦波を重ね合わせたもので
ある。このとき、インダクションシステムのギャップか
ら206cm後方で半値幅200psの集束されたビー
ムを得ることができた。
【0063】上記実験では、距離L1が100cmの場
合を示したが、100cmに限らずその他の適切な距離
を確保するようにしてもよい。距離L1はエネルギの拡
がりによって適切に選ぶことが好ましい。現実的には、
10〜200cm程度が好ましいであろう。
【0064】図2及び図5(A)では、インダクション
システム10の2つの電流路が並列に接続されている場
合について示したが、直列接続構成にしてもよい。ま
た、コアを複数配置してもよい。
【0065】図5(B)は、インダクションシステム1
0の2つの電流路に直列に電流が流れる構成とした場合
を示す。図5(B)の構成では、同軸ケーブル15の芯
線がコア11を取り巻いている。芯線により形成された
電流路i2に高周波電流がながれると、コア11内の磁
場変化を打ち消すように導電性部材12とギャップ16
により形成された電流路i1に電流が流れる。この電流
により、ギャップ16の両端に電位差が生ずる。
【0066】図5(C)は、コア11a、11bと同軸
ケーブル15a、15bを配置し、コア11a、11b
にそれぞれ同軸ケーブル15a、15bの芯線を巻き付
けた場合を示す。コア15aの芯線により電流回路i2
が形成され、電流回路i2を流れた電流は同軸ケーブル
15bの外部導体に流出する。
【0067】同軸ケーブル15bの芯線により形成され
た電流路i3を流れた電流は、導電性部材12とギャッ
プ16により形成された電流路i1に流れ、同軸ケーブ
ル15aの外部導体に流出する。
【0068】電流路i2、i3のコア11aと11bと
に挟まれた部分には、相互に逆向きの電流が流れるた
め、実質的に電流が流れないことと等価である。従っ
て、電流路i2とi3に流れる電流と、電流路i1に流
れる電流により、コア11a、11b内の磁場変化が打
ち消される。
【0069】図5(D)は、1つの同軸ケーブル15の
芯線を並列に2つのコア11a、11bにそれぞれ巻き
付けた場合を示す。図5(C)と同様の電流路i1、i
2、i3が形成され、電流路i1を流れる電流によりギ
ャップ16の両端に電位差が発生する。
【0070】図5(B)の回路は、図5(A)の回路に
比べて渦電流によるインダクタンスが大きくなるという
特徴を有するが、基本的な特性は同じである。
【0071】図5(C)の回路は、2ケ所の入力端子か
ら別々の信号を入力できるので、ギャップ16に極めて
多様な電場を発生させることができる。
【0072】図5(D)の回路は、入力の電圧が充分大
きく取れない場合、例えば入力装置側のアンプの最大出
力電圧が不足している場合等に有効な回路である。
【0073】以上実施例に沿って本発明を説明したが、
本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種
々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に
自明であろう。
【0074】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
パルス化された荷電粒子ビームの時間幅を効率的に圧縮
することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による陽電子ビーム集群装置の
正面図である。
【図2】図1の陽電子ビーム集群装置のインダクション
システムの断面図である。
【図3】図1の陽電子ビーム集群装置のビームダクト内
を進行する陽電子の空間分布、及び速度分布を示すグラ
フである。
【図4】インダクションシステムに印加する理想的な電
圧波形、及び実施例による電圧波形を示すグラフであ
る。
【図5】図2のインダクションシステム及び他の構成例
によるインダクションシステムを電気的接続に着目して
示す断面図である。
【図6】従来例による陽電子ビーム集群装置の正面図で
ある。
【符号の説明】
1 ビームダクト 2 ヘルムホルツコイル 3 チョッパ 4 試料室 10 インダクションシステム 11 コア 12 導電性部材 13 空間 14 絶縁性円環状部材 15 同軸ケーブル 16 ギャップ 30 支持台
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平6−188098(JP,A) 特開 平6−66999(JP,A) 特開 平5−74593(JP,A) 特開 昭62−295400(JP,A) 特開 昭59−21000(JP,A) 特開 平8−166494(JP,A) 特開 平6−3296(JP,A) 特開 平5−72397(JP,A) 三角智久ら,電総研における陽電子寿 命測定装置の開発とその利用,放射線, 日本,応用物理学会放射線分科会,1992 年 3月31日,vol.18/no.1, p.3−11 超低速短パルス陽電子ビームによる表 層物性評価法の研究,電子技術総合研究 所果彙報,日本,第64巻,第7号,第85 −88頁 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G21K 1/08 G21K 1/04 H05H 7/00 G01N 23/227

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 運動エネルギ1eV〜1MeVの荷電粒
    子ビームをチョップし、パルス状の荷電粒子ビームを形
    成する工程と、 前記パルス状の荷電粒子ビームを進行方向に10〜20
    0cmの距離だけ走行させる工程と、 荷電粒子ビームの進行方向にほぼ平行であり、10〜2
    00cmの距離だけ走行した荷電粒子ビームの中心部分
    先頭近傍の荷電粒子を減速し、該中心部分の後尾近傍
    の荷電粒子を加速するように強さが時間に関して2次関
    数的に変化する電場をある期間発生して、前記荷電粒子
    ビームを集群する工程とを有する荷電粒子ビームの集群
    方法。
  2. 【請求項2】 運動エネルギ1eV〜1MeVの荷電粒
    子ビームをチョップし、パルス状の荷電粒子ビームを形
    成する工程と、 前記パルス状の荷電粒子ビームを進行方向に10〜20
    0cmの距離だけ走行させる工程と、 荷電粒子ビームの進行方向にほぼ平行であり、10〜2
    00cmの距離だけ走行した荷電粒子ビームの中心部分
    の先頭近傍の荷電粒子を減速し、該中心部分の後尾近傍
    の荷電粒子を加速するように 強さが時間に関して線型に
    変化する第1の電場をある期間発生して、前記荷電粒子
    ビームを集群する工程とを有する荷電粒子ビームの集群
    方法。
  3. 【請求項3】 前記第1の電場の強さが前記ある期間内
    で単調に増加する場合は、正弦波の下に凸の部分の波
    形、前記第1の電場の強さが前記ある期間内で単調に減
    少する場合は、正弦波の上に凸の部分の波形に沿って時
    間的に変化する第2の電場を、前記ある期間前記第1の
    電場に重ね合わせる請求項2に記載の荷電粒子ビームの
    集群方法。
  4. 【請求項4】 前記下に凸の部分の波形は、正弦波の位
    相πから2πまでの半周期分の波形であり、前記上に凸
    の部分の波形は、正弦波の位相0からπまでの半周期分
    の波形である請求項3に記載の荷電粒子ビームの集群方
    法。
  5. 【請求項5】 前記第1の電場と前記第2の電場の位相
    が、所定量ずれている請求項4に記載の荷電粒子ビーム
    の集群方法。
  6. 【請求項6】 前記第1の電場の強さが前記ある期間内
    で単調に増加する場合は、余弦波の傾きが負の部分の波
    形、前記第1の電場の強さが前記ある期間内で単調に減
    少する場合は、余弦波の傾きが正の部分の波形に沿って
    時間的に変化する第3の電場を、前記ある期間前記第1
    及び第2の電場に重ね合わせる請求項3〜5のいずれか
    に記載の荷電粒子ビームの集群方法。
  7. 【請求項7】 前記傾きが負の部分の波形は、余弦波の
    位相0からπまでの半周期分の波形であり、前記傾きが
    正の部分の波形は、余弦波の位相πから2πまでの半周
    期分の波形である請求項6に記載の荷電粒子ビームの集
    群方法。
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三角智久ら,電総研における陽電子寿命測定装置の開発とその利用,放射線,日本,応用物理学会放射線分科会,1992年 3月31日,vol.18/no.1,p.3−11
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