JP3401050B2 - 赤血球沈降速度測定方法 - Google Patents

赤血球沈降速度測定方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、臨床検査分野において
用いられる赤血球沈降速度測定方法に係り、とりわけ迅
速かつ正確に沈降速度を測定することができる赤血球沈
降速度測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、臨床検査分野で最も良く使われて
いる赤血球沈降速度測定方法として、Westerngren 法
(文献 A.Westerngren: Studies of the sedimentation
stability of the blood in pulmonary tuberculosis.
Acta Med. Scand., 54, 247-282, 1920. )が知られて
いる。このWesterngren 法は、図7に示すように血沈用
ピペット1(内径2.5mm、長さ300mm、目盛0
〜200)内に血液3を吸い上げ、その後固定台2に垂
直に立てて、1時間あるいは2時間放置した後に血液3
中で赤血球柱4の上端4aがどのくらい沈降したかを読
み取る方法である。Westerngren 法の1時間値、すなわ
ち、血沈用ピペット1を1時間放置した時の赤血球柱4
の上端4aの沈降量を測定する方法が、国際標準方法と
して定められている(1973年)。なお、図7におい
て符号5は、血液3中の血漿柱である。
【0003】またWesterngren 法には各種の変形方法が
ある。これら変形方法は、ピペットのサイズ、測定時
間、採血の際の抗凝固剤等が異なるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、Wester
ngren 法が、赤血球沈降速度測定方法として知られてい
る。しかしながら、国際標準方法のWesterngren 法に従
えば、血沈用ピペット1を少なくとも1時間放置する必
要があり、測定に長時間かかっているのが実情である。
また1時間放置後に、血沈用ピペット1内の血液中の赤
血球柱4を目視により測定しなければならず、測定者に
よっては測定誤差が生じることがある。
【0005】本発明はこのような点を考慮してなされた
ものであり、迅速かつ精度良く赤血球の沈降速度を測定
することができる赤血球沈降速度測定方法を提供するこ
とを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、粘性測定器を
用いて被測定血液の対数減衰率を求め、予め定められた
血液の対数減衰率と沈降速度との関係を示す関係式に基
づいて、被測定血液の対数減衰率から血液の沈降速度を
演算する、ことからなる赤血球沈降速度測定方法であ
る。
【0007】
【作用】本発明によれば、予め定められた血液の対数減
衰率と血液沈降速度との関係式に基づいて、比較的短時
間で求められる被測定血液の対数減衰率から沈降速度を
演算することができる。
【0008】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例につい
て説明する。図1乃至図6は、本発明による赤血球沈降
速度測定方法の一実施例を示す図である。
【0009】まず、被測定血液の対数減衰率を求めるた
めの粘性測定器について、図1により説明する。この粘
性測定器10は、図1(a)に示すようにケーシング2
0内の上部室20aにおいて脱着可能に配設されたホル
ダ17と、このホルダ17に保持されるとともに内部に
血液19を収納したガラス製チューブ状容器(長さ30
mm、内径9mm)18とを有している。ホルダ17は
下部室20b内のコイル11と、アルミニウム管16を
介して連結され、コイル11、ホルダ17および容器1
8からなる測定系を構成している。
【0010】また、コイル11は磁石15a,15bに
よって形成された磁場内に配置され、さらにコイル11
はリン青銅製のトーションワイヤ13,14によって上
下方向から保持されている。このうち、トーションワイ
ヤ14はアルミニウム管16内に配置されている。
【0011】また、コイル11に連結されたトーション
ワイヤ13,14は、コントローラ21およびコンピュ
ータ22に順次接続され、コントローラ21により後述
する血液の減衰振動曲線を測定するとともに、コンピュ
ータ22により減衰振動曲線から対数減衰率を求めるよ
うになっている。またコントローラ21およびコンピュ
ータ22は、各々表示部23,24に接続されている。
【0012】次に粘性測定器の使用方法について説明す
る。まず、1.5mlの血液19を容器18内に入れ、
この容器18をホルダ17上にセットする。なおこの容
器18は使い捨てタイプであり、患者毎に新しいものと
交換される。
【0013】次に、コイル11にコントローラ21から
微弱な直流電流が例えば4秒間流され、コイル11、ホ
ルダ17および容器18からなる測定系が一定角度(約
20度)ねじられて初期変位が与えられる。この場合、
コイル11のねじれにより、トーションワイヤ13,1
4に回転弾性力が生じる。
【0014】次にコイル11へ流れる直流電流を切る
と、トーションワイヤ13,14の回転弾性力により、
コイル11、ホルダ17および容器18からなる測定系
が減衰振動を開始する。この場合、コイル11は磁石1
5a,15bによって形成される磁場内で回転振動する
ので、この回転振動に対応する誘導起電力がコイル11
に発生する。そしてコントローラ21内においてコイル
11で発生した誘導起電力が増幅され、図1(b)に示
すような減衰振動曲線が得られる。この減衰振動曲線
は、コントローラ21から表示部23に表示される。
【0015】なお、赤血球沈降過程での測定において、
初期変位を20秒毎に与え、そのつど減衰振動曲線を得
る。
【0016】次にコンピュータ22において、減衰振動
曲線から次式で定義される対数減衰率(logarithmic da
mping factor; LDF)が求められ、その後表示部24
により経時的にLDFが表わされる。
【0017】 LDF= ln(θ1 /θ3 )、ln(θ2 /θ4 )、ln(θ3 /θ5 )、…(1) なお、粘性測定器10の特徴として、(1)容器18は
円筒状であれば材質やサイズによらず使用可能であるこ
とがあげられる。また(2)従来の血液凝固を測定する
レオメーターに比べて感度が150倍以上よく、水の粘
性率(20℃で1cp)よりも小さな粘性率でも測定可
能なことがあげられる。したがって血沈過程の赤血球の
凝集にともなう血液のわずかな流動性(粘性、粘弾性)
の変化が検出できる。
【0018】次に粘性測定器で求めた対数減衰率(LD
F)に基づいて血沈速度を演算する方法について、以下
説明する。
【0019】まず、赤血球沈降速度に大きな影響を与え
る血漿(しょう)たんぱく質であるフィブリノゲンをリ
ン酸緩衝液に溶解し、その溶液中に赤血球を浮游した時
の赤血球の沈降過程における対数減衰率(LDF)を上
述の粘性測定器10を用いて求めた。この結果を図2
(a)に示す。図2(a)には、フィブリノゲンの濃度
が異なる場合を示してある。LDFの増加は、赤血球の
凝集構造の形成による粘弾性の増加に対応し、LDFの
減少は、凝集した赤血球の沈降に対応する。図2(a)
において、フィブリノゲンの濃度を、0、333、41
7、500、667、750、833、1000(mg
/dl)の各場合に変化させた。
【0020】次に図2(a)の場合と同一の試料を用い
て、従来のWesterngren 法により赤血球沈降速度を求め
た。この結果を図2(b)に示す。図2(b)において
赤血球沈降速度は、血漿層の高さとして表わされてい
る。
【0021】次に粘性測定器10を用いて各種疾患者の
血液についてLDFを経時的に求め、またLDFを求め
た場合と同一の血液についてWesterngren 法により赤血
球沈降速度を測定した。各種疾患者のLDFと赤血球沈
降速度の測定結果を、図3(a)、(b)に各々示す。
図3(b)において赤血球沈降速度は血漿層の高さとし
て表わされている。
【0022】次に図2(a)(b)に示すLDFおよび
赤血球沈降速度の結果、および図3(a)(b)に示す
LDFおよび赤血球沈降速度の結果について、次のよう
な処理を行なった。
【0023】まず各血液について、LDFの増加部分を
LDF(1)とし、減少部分をLDF(2)とした(図
4(a)参照)。また各血液について、血漿層の高さの
最初の勾配AをESR(1)とし、次の勾配BをESR
(2)とした(図4(b)参照)。図2(a)および図
3(a)に示すように、各血液のLDF(1)は一般に
測定開始から10分以内の範囲にある。
【0024】次に、図2(a)(b)および図3(a)
(b)に示す各血液について、血漿層の高さの60分値
(ES〔60〕)と、これに対応する(同一血液を用い
た場合の)LDF(1)の関係を求めた。この関係を図
5(a)に示す。同様に血漿層の高さの120分値(E
S〔120〕)と、これに対応するLDF(1)の関係
を求めた。この関係を図5(b)に示す。
【0025】図5(a)に示すように、プロットされた
各点を連結すると、ES〔60〕とLDF(1)との関
係式は ES〔60〕=ESs 〔1−e-k・LDF(1)〕 ………(2) となる。図5(a)において、ES〔60〕=ES
s 〔1−e-k・LDF(1)〕を変形して、 ES〔60〕=ESs −ESs -k・LDF(1) ………(3) から ln{ESs /(ESs −ES〔60〕)}=K・LDF(1)……(4) として示されている。
【0026】なお(2)〜(4)式において、Kは定数
であり、ESs は血漿層の高さの最大値で、例えば90
mmとなる。また図5(a)において、データのバラツ
キを示す相関係数Rは、R2 =0.992となってい
る。
【0027】同様に図5(b)に示すように、ES〔1
20〕とLDF(1)との関係は一般式 ES〔120〕=K1 +K2 log LDF(1) ………(5) で表わされる。
【0028】(5)式において、K1 およびK2 は定数
であり、具体的にはK1 =50.094、K2 =90.
805となる。
【0029】この場合(5)式は ES〔120〕=50.094+90.805×log LDF(1)…(6) となる。
【0030】また図5(b)において、相関係数Rは、
2 =0.943となっている。
【0031】次に各血液について、ESR(1)(血漿
層の高さの勾配A)とLDF(1)の関係を図6(a)
に示し、またESR2(血漿層の高さの勾配B)とLD
F(1)の関係を図6(b)に示す。
【0032】図6(a)に示すように、ESR(1)と
LDF(1)の関係は、一般式 ESR(1)=K3 +K4 ・LDF(1) ………(7) で表わされる。
【0033】(7)式において、K3 およびK4 は定数
であり、具体的にはK3 =2.7836×10-2、K4
=0.17242となる。
【0034】この場合、(7)式は ESR(1) =2.7836×10-2+0.17242×LDF(1) ……(8) となる。
【0035】図6(a)において、相関係数RはR2
0.968となっている。
【0036】また、図6(b)に示すように、ESR
(2)とLDF(1)の関係は、一般式 ESR(2)=K5 +K6 log LDF(1) ………(9) で表わされる。
【0037】(9)式において、K5 およびK6 は定数
であり、具体的にはK5 =0.62501、K6 =1.
2509となる。この場合、(9)式は ESR(2)=0.62501+1.2509×log LDF(1)…(10) となる。
【0038】図6(b)において、相関係数Rは、R2
=0.968となっている。
【0039】次に上述の粘性測定器10を用いて、被測
定血液のLDF(1)が求められる。一般にLDF
(1)は測定開始から10分以内に測定することができ
る。次に図5(a)(b)および図6(a)(b)に示
すES〔60〕とLDF(1)の関係式、ES〔12
0〕とLDF(1)の関係式、ESR(1)とLDF
(1)の関係式、およびESR(2)とLDF(1)の
関係式を各々用いて、粘性測定器10で求めたLDF
(1)に基づいて赤血球の沈降速度が求められる。
【0040】例えば、沈降速度として血漿層の高さの6
0分値(国際標準値)を求める場合は、図5(a)に示
す ln{ESs /(ESs −ES〔60〕)}=K・LDF(1)……(4) に粘性測定器10で求めたLDF(1)の値を代入する
ことにより、容易かつ迅速に赤血球の沈降速度を求める
ことができる。
【0041】以上説明したように、本実施例によれば粘
性測定器10を用いて被測定血液のLDF(1)を求め
るとともに、ES〔60〕とLDF(1)の関係式、E
S〔120〕とLDF(1)の関係式、ESR(1)と
LDF(1)の関係式およびESR(2)とLDF
(1)の関係式を用い、粘性測定器10により求められ
たLDF(1)に基づいて容易かつ迅速に赤血球の沈降
速度を求めることができる。
【0042】この場合、一般に粘性測定器10により、
LDF(1)を約10分以内に求めることができるの
で、従来のように60分間かけてES〔60〕を求めた
り、120分間かけてES〔120〕を求める場合に比
較してきわめて短時間で赤血球の沈降速度を求めること
ができる。
【0043】また粘性測定器の容器18は使い捨てタイ
プとなっているので、測定時の血液の汚染による不安お
よび危険の心配を防止することができ、臨床検査分野で
効率的に利用することができる。
【0044】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、赤
血球の血沈速度を直接求める場合に比較して短時間で測
定できる被測定血液の対数減衰率を粘性測定器を用いて
求め、予め定められた血液の対数減衰率と血沈速度との
関係式に基づいて対数減衰率により血沈速度を演算する
ので、従来のように赤血球の血沈速度を直接求める場合
に比較して、大幅な時間短縮を図ることができる。この
ため、臨床検査分野において、検査の迅速な処理を行な
うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による赤血球沈降速度測定方法に用いら
れる粘性測定器と、粘性測定器により求められた対数減
衰率を示す図。
【図2】フィブリノゲン濃度を変化させた場合における
対数減衰率および血漿層の高さを示す図。
【図3】各種疾患者の対数減衰率および血漿層の高さを
示す図。
【図4】対数減衰率に関するLDF(1)およびLDF
(2)と、血漿層の高さに関するESR(1)およびE
SR(2)とを示す図。
【図5】ES〔60〕とLDF(1)との関係、および
ES〔120〕とLDF(1)との関係を示す図。
【図6】ESR(1)とLDF(1)との関係、および
ESR(2)とLDF(1)との関係を示す図。
【図7】従来のWesterngren 法を示す図。
【符号の説明】
10 粘性測定器 11 コイル 13,14 トーションワイヤ 15a,15b 磁石 16 アルミニウム管 17 ホルダ 18 容器 19 血液 21 コントローラ 22 コンピュータ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−180127(JP,A) 特開 平3−115864(JP,A) 特開 平1−239433(JP,A) 実開 平4−134053(JP,U) 貝原真,日本バイオレオロジー学会誌 (B&R),1990年,第4巻第4号,20 −25頁 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 33/49 G01N 11/14 G01N 15/00 G01N 15/04 JICSTファイル(JOIS)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】粘性測定器を用いて被測定血液の対数減衰
    率を求め、 予め定められた血液の対数減衰率と沈降速度との関係を
    示す関係式に基づいて、被測定血液の対数減衰率から血
    液の沈降速度を演算する、 ことからなる赤血球沈降速度測定方法。
  2. 【請求項2】血液の対数減衰率と血液の沈降速度との関
    係式は、血液の対数減衰率をLDF、赤血球沈降速度の
    60分値をES〔60〕、沈降速度の最大値をESs
    定数をKとした場合、 ln{ESs /(ESs −ES〔60〕)}=K・LD
    F であることを特徴とする請求項1記載の赤血球沈降速度
    測定方法。
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貝原真,日本バイオレオロジー学会誌(B&R),1990年,第4巻第4号,20−25頁

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