JP2733576B2 - ビフェニル化合物からメタンを製造する方法 - Google Patents

ビフェニル化合物からメタンを製造する方法

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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、廃棄物や廃液等に含まれるビフェニル化合
物を、有用資源として利用し得るメタンに変換する方法
に関するものである。
〔従来の技術〕
ポリ塩化ビフェニル(PCB)などのビフェニル化合物
はいわゆる難分解性物質であり、環境中におけるこれら
の物質による汚染が問題になっている。このような背景
のもとにビフェニル化合物を分解する微生物が自然界か
ら単離されている。そして、これらの分解菌はいずれも
酸素の存在下で、第1図に示す経路でビフェニル化合物
を分解することが知られている。(Applled and Enviro
nmetal Microbiology,Vol.38,p.301,1979.)。
第1図に基づきその分解過程を説明すると、まずビフ
ェニル化合物(I)の片方のベンゼン環の2,3−位に炭
素原子が導入されてジヒドロジオール化合物(II)が生
じた後、脱水素された2,3−ジヒドロキシフェニル(以
下OHBPと略記)化合物(III)が生成する。OHBP化合物
は、ついで、1,2−位がメタ開裂して黄色を呈する化合
物である2−ジヒドロキシ−6−フェニルヘキサ−2,4
−ジエノイックアシッド(以下MCCと略記)化合物(I
V)に分解され、さらに安息香酸化合物(V)へと加水
分解される。さらに安息香酸は好気性条件下において、
ベンゼン環の開裂後、最終的には二酸化炭素にまで酸化
分解されてしまう。
〔発明が解決しようとする課題〕
廃棄物の処理あるいは有害物質の無毒化という観点か
ら考えるならば、上記に述べた代謝系を有する好気性細
菌等を用いて、ビフェニルを二酸化炭素にまで分解する
ことによって、その目的は達成されたといえるが、上記
の方法ではビフェニルは最終的に二酸化炭素に変換され
るため、有機物資源としてのビフェニルの有効利用がな
されなかった。
本発明の課題は、ビフェニル化合物を代謝する能力を
有する微生物と嫌気性微生物による処理を組み合わせる
ことによって、ビフェニル化合物から有用資源として利
用できるメタンを製造しようとするものであり、これに
より、廃棄物や廃液等に含まれるビフェニル化合物の有
効利用を図るものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、ビフェニル化合物を代謝する能力を有する
微生物若しくはこれら微生物の産生する酵素を含有する
菌体処理物を用いて嫌気性分解が容易な安息香酸化合物
(V)に変換した後に、嫌気性微生物群によって安息香
酸化合物(V)をメタンと二酸化炭素等に変換するメタ
ンの製造方法に関するものである。
以下に本発明の工程の概略を示す。
上記図から明らかなように、本発明はまず第1段階に
おいてビフェニル化合物を代謝する能力を有する微生物
若しくは、これら微生物の産生する酵素を含有する菌体
処理物を用いてビフェニル化合物を対応する安息香酸化
合物(V)に変換し、次に、第2段階において嫌気性の
メタン発酵微生物群によってメタンを製造するものであ
り、ビフェニル化合物としては置換基Xが例えば水素、
水酸基あるいはメチル基である化合物が挙げられる。な
お、該図においては簡略化のため、ビフェニルから安息
香酸(V)ならびに安息香酸からメタンと二酸化炭素に
至る分解中間体は省略している。
第1段階において使用するビフェニル化合物を代謝す
る能力を有する微生物としては、まずビフェニル代謝に
関与した遺伝子bphABCDを保有する微生物で、本発明者
らが自然界より分離したシュードモナス プチダKF 715
株(FERM P−10697)を例示できる。本菌株は、新規な
遺伝子bphABCDを保有している点で新規な微生物であ
り、該微生物ビフェニル化合物を安息香酸化合物にまで
変換することができる。
本遺伝子のビフェニル代謝様式と遺伝子群との関係
は、第2図に示すとおりである(式中のXは前記と同様
である)。ABCDは、反応を司る酵素を示し、Aはビフェ
ニル オキシゲナーゼ、Bはジヒドロジオール デヒド
ロゲナーゼ、Cはフェニカテコール オキシゲナーゼ、
Dはリングメタ開裂物質ヒドラーゼを示している。ま
た、これらの酵素に対する遺伝子としてbphA,bphB,bph
C,bphDが存在する。
そして本発明においては、ビフェニル化合物を代謝す
る能力を有する微生物として、上記ビフェニル代謝遺伝
子bphABCDを導入した形質転換微生物を使用することが
特に好適である。
すなわちこの形質転換微生物を用いる場合においては
ビフェニル化合物から対応する安息香酸化合物への変換
は速やかに行われるが、それとともに安息香酸化合物を
経て好気的に二酸化炭素にまで完全分解されることを防
止できるメタンの収率向上が図れるものである。
bphABCDを導入した微生物を使用する場合には安息香
酸化合物(V)が製造できる。この場合の宿主としては
例えば上記エシェリヒア・コリ等が挙げられる。
第2段階においては安息香酸化合物(V)をメタンと
二酸化炭素に嫌気的に分解する微生物群を用いるが、こ
れには例えばフェノール安息香酸を炭素源として培養し
た馴養汚泥等を挙げることができる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定
されるものではない。
〔実施例〕
第1段階 ビフェニルの好気性分解は、以下に示す方法で行なっ
た。
ビフェニル資化性シュードモナス プチダKF715株を
L培地(バクトトリプトン10g、イーストエキス5g、食
塩5g、蒸留水1)で24時間30℃で培養して集菌、洗浄
後、50mMトリス(pH7.5)、1mM−EDTAバッファに懸濁す
る。次にリゾチームを最終濃度2μg/mlになるように加
え、37℃で10分間放置し、10%SDS(pH2.4)を50μ/m
lになるように加え溶菌した。ついで3M酢酸ナトリウム
(pH4.8)を30μ/mlになるように加えて中和し、フェ
ノール抽出を行いセシウムクロライド密度勾配遠心分離
法により染色体DNAを調製した。この染色体DNAを制限酵
素Xho Iで切断することにより本菌株のビフェニル代謝
機能を備えたbphABCDを得ることができた。本遺伝子の
制限酵素地図は、第2図に示されるとおりである。
本遺伝子の利用にあたっては、たとえばクロラムフェ
ニコール耐性遺伝子を保有するプラスミドベクターpHSG
396(第3図)と本遺伝子を、制限酵素Xho Iで切断後T4
DNAリガーゼで結合させ組換えプラスミドpYH715を構築
した(第4図)。
ついで、組換えプラスミドを大腸菌エシェリヒア・コ
リJM109株に塩化カルシウム法を用いて導入した。ビフ
ェニル代謝遺伝子群bphABCDで組換えられたpYH715を保
有する形質転換体は、クロラムフェニコール(50μg/m
l)を含むL寒天培地(前記L培地に1.5%濃度の観点を
加え固化する)上で、一次スクリーニングした。目的と
するビフェニル代謝遺伝子を保有する形質転換体は、2,
3−ジヒドロキシビフェニル溶液(1mg/)を噴霧する
ことにより、第2図中の化合物MCC(IV)を生成し黄変
しコロニーを選択した。
このビフェニル代謝遺伝子bphABCDを保持する形質転
換体(FERM P−10695)は、ビフェニルまたはビフェニ
ル誘導体1g/を含む反応液を37℃で2時間反応させる
ことにより、90%以上の収率で安息香酸(V)を速やか
に生成した。
第2段階 嫌気性微生物群として、安息香酸を唯一の炭素源とし
て培養している2種類の安息香酸馴養汚泥(K汚泥およ
びP汚泥)を用いた。なお、K汚泥は茨城県鹿島下水道
事務所の汚泥濃縮槽の汚泥であり、P汚泥はパルプ排水
処理消化汚泥(山陽国策パルプ江津工場)である。
これらの汚泥は、安息香酸3,000mg/の他に微量ミネ
ラル、微量ビタミン無機塩を含む培地で培養したもので
あって、2種類の汚泥のMLVSS濃度は1,500(P汚泥),
2,500mg/(K汚泥)、また安息香酸の分解速度は400
(P汚泥)〜700mg/・日(K汚泥)であった。
なお、位相差および蛍光顕微鏡観察により、これらの
培養系においては安息香酸分解菌の他にメタノスリック
ス属細菌とメタノバクテリウム属細菌と推定される細菌
種が優勢であるのが認められた。したがって、安息香酸
は安息香酸分解菌によって酢酸、水素、二酸化炭素に分
解され、これらの分解中間体を酢資質化性メタン生成細
菌と水素質化性メタン生成細菌がメタンと二酸化炭素に
変換すると考えられた。
次いで、ビフェニル化合物の代謝経路上の各化合物に
ついて、メタンの生成試験を行った。
該試験は、ビフェニル化合物の代謝経路上の化合物の
うちビフェニル、OHBP、安息香酸の各化合物を対象と
し、120ml容のガラスバイアルビン中に、これら化合物
を別個に添加した無機塩培地4mlを収容し、これに上記
2種類の汚泥をそれぞれ別個に10mlづつ接種することに
より行った。各物質の添加濃度は、ビフェニル500mg/
,OHBP250mg/,安息香酸500mg/である。ブチルゴ
ム栓とアルミキャップでシールした後、気相にN280%+
CO220%の混合ガスを1kg/cm2陽圧に充填して、37℃で15
日間に亘り振とう培養した。
なお、これらの物質のうち、ビフェニルとOHBPは市販
の試薬を用いたが、安息香酸は前述のようにビフェニル
代謝遺伝子を保有する組換え細菌の静止菌体を用いて調
製した。
各物質から生成するメタンの経時変化を、基質を何も
添加しない培養区におけるメタン生成量をコントロール
として、その差をとって示したのが第5図である。
該図から明らかなように接種した2種類の汚泥である
K汚泥とP汚泥による各有機物の分解性の差異はほとん
ど認められず、また安息香酸については良好なメタン生
成を示したが、ビフェニルおよびOHBPは嫌気性条件下で
は全く分解されずに残存した。
K汚泥およびP汚泥接種区で生成したメタンの総量は
安息香酸についてはそれぞれ0.62mmol,0.63mmolであ
り、収率は理論値のそれぞれ95%,97%に相当するもの
であった。
以上の結果をまとめて以下の第1表に示す。
〔発明の効果〕 以上の実施例から明らかなように本発明においては、
ビフェニル化合物を代謝する能力を有する微生物もしく
は菌体処理物による処理と嫌気性微生物処理を組み合せ
ることにより、嫌気性分解が困難なビフェニル化合物を
分解・無害化するだけでなく、その一部を有用資源であ
るメタンとして回収できるので、本発明により廃棄物や
廃液中に含まれるビフェニル化合物の有効利用が図れ
た。
【図面の簡単な説明】
第1図はビフェニル化合物の好気性代謝経路とその遺伝
子、第2図はbphABCDの制限酵素切断地図、第3図はプ
ラスミドベクターpHSG396の構造、第4図は組換えプラ
スミドpYH715の構造、第5図はビフェニル代謝経路上の
化合物のメタン発酵性を調べた実験結果を表わす図であ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C12P 7/40 C02F 3/28 Z // C02F 3/28 3/34 Z 3/34 9282−4B C12N 15/00 A (C12P 5/02 C12R 1:01) (C12N 1/20 C12R 1:01) (C12N 1/21 C12R 1:19) (C12N 15/09 C12R 1:40) (C12P 7/40 C12R 1:19) (72)発明者 古川 謙介 茨城県つくば市東1丁目1番3号 工業 技術院微生物工業技術研究所内 (72)発明者 三上 栄一 茨城県つくば市東1丁目1番3号 工業 技術院微生物工業技術研究所内 審査官 村上 騎見高

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ビフェニル化合物を代謝する能力を有する
    微生物若しくは該微生物が産生する酵素を含む菌体処理
    物を用いてビフェニル化合物を安息香酸化合物に変換
    し、次いでこれら化合物を嫌気性微生物群を用いてメタ
    ンと二酸化炭素に分解することを特徴とするビフェニル
    化合物からメタンを製造する方法。
  2. 【請求項2】ビフェニル化合物を代謝する能力を有する
    微生物がビフェニル化合物代謝遺伝子を導入した形質転
    換微生物である請求項1記載の製造方法。
  3. 【請求項3】ビフェニル化合物代謝遺伝子が9.4Kbの塩
    基対を有しかつ下記の制限酵素切断地図を有するbphABC
    Dである請求項2記載の製造方法。 (式中、XはXho I、BはBamH I、EはEcoR I、PはPst
    I、BaはBal IIを示す)
  4. 【請求項4】bphABCDがシュードモナス・プチダ由来の
    ものである請求項2記載の製造方法。
  5. 【請求項5】ビフェニル化合物がビフェニルである請求
    項1記載の製造方法。
  6. 【請求項6】嫌気性微生物群がフェノールまたは安息香
    酸を炭素源として培養した馴養汚泥である請求項1記載
    の製造方法。
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