JP2024086669A - 細胞塊の過凝集抑制剤 - Google Patents

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康平 鈴木
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Abstract

【課題】良好なハンドリング性を維持しつつ、細胞塊の過凝集を抑制する手段を提供すること。
【解決手段】ヒアルロン酸またはその塩を含む、細胞塊の過凝集抑制剤等を提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞塊の過凝集抑制剤、細胞塊の過凝集抑制方法等に関する。
近年、動物や植物体内で異なった役割を果たしているさまざまな細胞を生体外にて増殖または維持させるための細胞培養の技術が発展してきている。これらの細胞培養は、分離した細胞を培地中で、すなわち生体外にて増殖若しくは分化させ、または維持する技術であり、生体内の各種細胞の機能および構造を詳細に解析するために不可欠なものとなっている。また、当該技術により培養された細胞は、化学物質、医薬品等の薬効および毒性評価や、酵素、細胞増殖因子、抗体等の有用物質の大量生産、疾患または欠損により失われた細胞を補うための再生医療、植物の品種改良、遺伝子組み換え作物の作成等、さまざまな分野で利用されている。
動物由来の細胞は、その性状から浮遊細胞および接着細胞に大きく二分される。浮遊細胞は、生育・増殖に足場を必要としない細胞であり、接着細胞は、生育・増殖に足場を必要とする細胞であるが、生体を構成する大部分の細胞は後者の接着細胞である。接着細胞の培養方法の一つにスフェア培養が知られている。
スフェア培養は、数十~数百個程度の細胞からなる細胞凝集塊(以下、「細胞塊」と称することがある)を形成させた後、当該細胞塊を培地中で静置または振とうして培養する方法である。細胞塊は、細胞密度が高く、生体内環境に近い細胞-細胞間相互作用および細胞構造体が再構築されており、単層培養や分散培養法よりも細胞機能を長期的に維持したまま培養できることが知られている(非特許文献1、2)。
一方で、スフェア培養に特有の課題もある。例えば、スフェア培養中に細胞塊同士が凝集して巨大な細胞塊が形成されること(細胞塊の過凝集)がある。細胞塊のサイズが過大となると、細胞塊の中心部の細胞において栄養の供給や老廃物の排出が困難となり細胞が壊死することがあり、また、細胞塊を構成する細胞が幹細胞である場合は、中心部の幹細胞が分化を開始する等の問題が生じ得る。加えて、培地交換や細胞塊の回収操作においても細胞塊の凝集が生じ得、スフェア培養の生産性を低下させる要因となっている。
上記課題に対して、水溶性高分子成分を含む培地中で多能性幹細胞を浮遊培養することが報告されている(特許文献1)。また、細胞数が制御されたスフェロイドを作成することを目的とした、水溶性高分子を含有し、粘度が5cP以上である細胞培養液が報告されている(特許文献2)。しかしながら、これらにおいては、水溶性高分子として主にメチルセルロースが使用されているところ、メチルセルロースを培地または培養液に添加すると、粘度が上がりすぎ、ハンドリング性に課題があった。
国際公開第2013/077423号 特開平7-79772号公報
Andreas Stahl et al., Biochem Biophys Res Commun. 2004 Sep 17;322(2):684-92 Ruei-Zeng Lin et al., Biotechnol J. 2008 Oct;3(9-10):1172-84
本発明は、良好なハンドリング性を維持しつつ、細胞塊の過凝集を抑制する手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、ヒアルロン酸ナトリウムを細胞培養培地に添加することにより、該培地の粘度を過度に高めることなく、従って良好なハンドリング性を維持しつつ、細胞培養中の細胞塊の過凝集が抑制されることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ヒアルロン酸またはその塩を含む、細胞塊の過凝集抑制剤。
[2]ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、[1]に記載の過凝集抑制剤。
[3]ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、[1]または[2]に記載の過凝集抑制剤。
[4]細胞塊が細胞培養中に形成されつつある細胞塊である、[1]~[3]のいずれかに記載の過凝集抑制剤。
[5]細胞塊を含有する液体にヒアルロン酸またはその塩を添加することを含む、該細胞塊の過凝集抑制方法。
[6]ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、[5]に記載の過凝集抑制方法。
[7]ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、[5]または[6]に記載の過凝集抑制方法。
[8]ヒアルロン酸またはその塩を、37℃における液体の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる濃度で添加する、[5]~[7]のいずれかに記載の過凝集抑制方法。
[9]液体が、細胞塊が形成されつつある細胞培養中の培地である、[5]~[8]のいずれかに記載の過凝集抑制方法。
[10]ヒアルロン酸またはその塩を含む培地中で細胞を培養することを含む、細胞塊の製造方法。
[11]ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、[10]に記載の製造方法。
[12]ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、[10]または[11]に記載の製造方法。
[13]培地が、37℃における該培地の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる濃度でヒアルロン酸またはその塩を含む、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]細胞を培養することが細胞の自己凝集化誘導技術システムを利用した細胞培養である、[13]に記載の製造方法。
本発明によれば、良好なハンドリング性を維持しつつ、細胞塊の過凝集を抑制することができる。
1.細胞塊の過凝集抑制剤
本発明は、ヒアルロン酸またはその塩を含む、細胞塊の過凝集抑制剤(以下、「本発明の剤」という)を提供する。
本発明において用いられるヒアルロン酸は、グルコサミノグリカンの一種であり、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸とが交互に結合して形成された直鎖状の高分子である。ヒアルロン酸は、動物組織、例えば、ガラス体、へその緒、関節液、ろく膜液、皮膚、鶏の鶏冠等から抽出して得ることもできるが、ヒアルロン酸生成菌を用いた発酵法で製造することもできる。
ヒアルロン酸の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等があげられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられ、アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等の塩があげられ、有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられ、アミノ酸付加塩としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン酸等の付加塩があげられる。中でも、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
ヒアルロン酸の塩を取得したいとき、ヒアルロン酸が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、ヒアルロン酸を適当な溶媒に溶解または懸濁し、塩基等を加えて単離、精製すればよい。
ヒアルロン酸またはその塩は、市販品であってもよく、具体例としては、例えば、ヒアルロン酸FCHシリーズ(キッコーマンバイオケミファ(株)製)、ヒアルロン酸IWシリーズ(イワキ(株)製)、バイオヒアルロン酸ナトリウムシリーズ((株)資生堂製)等があげられるが、これらに限定されない。
本発明において用いられるヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量は、3,000~3,000,000であるのが好ましく、4,000~2,600,000であるのがより好ましく、5,000~2,500,000であるのがさらに好ましく、6,000~2,300,000であるのがさらにより好ましく、10,000~2,000,000であるのがさらになお好ましく、30,000~1,800,000であるのがさらに一層好ましく、100,000~1,500,000であるのが特に好ましい。
なお、ヒアルロン酸またはその塩の上記数平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定することができる、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算の分子量をいう。
本明細書において、「細胞」は、動物または植物を構成する最も基本的な単位であり、その要素として細胞膜の内部に細胞質および各種の細胞小器官を有するものである。この際、DNAを内包する核は、細胞内部に含まれていても含まれていなくてもよい。
動物由来の細胞には、例えば、精子、卵子等の生殖細胞、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、がん細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変がなされた細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。
生体を構成する体細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞(例えば、角化細胞(ケラチノサイト)、角質細胞等)、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経細胞、グリア細胞、オリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)、マイクログリア(小膠細胞)、アストロサイト(星状膠細胞)、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞等)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、単核細胞等があげられる。
当該体細胞には、例えば、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液(臍帯血を含む)、骨髄、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞が含まれる。
幹細胞は、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力とを兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、毛包幹細胞等の成体幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞、がん幹細胞等があげられる。
前駆細胞は、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞であり、例えば、衛星細胞、膵前駆細胞、血管前駆細胞、血管内皮前駆細胞、造血前駆細胞(臍帯血由来のCD34陽性細胞等)等があげられる。
がん細胞は、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞であり、例えば、胃がん、食道がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮細胞がん、基底細胞がん、腺がん、骨髄がん、腎細胞がん、尿管がん、肝がん、胆管がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、精巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、頭蓋咽頭がん、喉頭がん、舌がん、繊維肉腫、粘膜肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、精上皮腫、ウィルムス腫瘍、神経膠腫、星状細胞腫、骨髄芽種、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、がん患者由来の血液等のがん組織の細胞があげられる。
がん細胞株としては、例えば、ヒト乳がん細胞株としてHBC-4、BSY-1、BSY-2、MCF-7、MCF-7/ADRRES、HS578T、MDA-MB-231、MDA-MB-435、MDA-N、BT-549、T47D、ヒト子宮頸がん細胞株としてHeLa、C-33A、ヒト肺がん細胞株としてA549、EKVX、HOP-62、HOP-92、NCI-H23、NCI-H226、NCI-H322M、NCI-H460、NCI-H522、DMS273、DMS114、ヒト大腸がん細胞株としてCaco-2、COLO-205、HCC-2998、HCT-15、HCT-116、HT-29、KM-12、SW-620、WiDr、ヒト前立腺がん細胞株としてDU-145、PC-3、LNCaP、ヒト中枢神経系がん細胞株としてU251、SF-295、SF-539、SF-268、SNB-75、SNB-78、SNB-19、ヒト卵巣がん細胞株としてOVCAR-3、OVCAR-4、OVCAR-5、OVCAR-8、SK-OV-3、IGROV-1、ヒト腎がん細胞株としてRXF-631L、ACHN、UO-31、SN-12C、A498、CAKI-1、RXF-393L、786-0、TK-10、ヒト胃がん細胞株としてMKN45、MKN28、St-4、MKN-1、MKN-7、MKN-74、皮膚がん細胞株としてLOX-IMVI、LOX、MALME-3M、SK-MEL-2、SK-MEL-5、SK-MEL-28、UACC-62、UACC-257、M14、白血病細胞株としてCCRF-CRM、K562、MOLT-4、HL-60TB、RPMI8226、SR、UT7/TPO、Jurkat、ヒト上皮様がん細胞株としてA431、ヒトメラノーマ細胞株としてA375、ヒト骨肉腫細胞株としてMNNG/HOS、ヒト膵臓がん細胞株としてMIAPaCa-2、マウス骨髄腫細胞株としてNs0、Ns1、ラット褐色細胞腫由来の細胞株としてPC12等があげられる。
正常細胞由来の細胞株としては、例えば、CHOK1細胞(ATCCCCL-61(商標))、CHO-S細胞、CHO-DG44細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293(ヒト胎児腎細胞由来)、MDCK(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、MDBK(ウシ腎臓由来)、BHK(シリアンハムスター腎臓由来)、AE-1(マウス脾細胞由来)、NIH3T3(マウス胎仔線維芽細胞由来)、S2(ショウジョウバエ胚由来)、Sf9(ヨトウガ卵巣細胞由来)、Sf21(ヨトウガ卵巣細胞由来)、HighFive(登録商標、キンウワバ卵細胞由来)、Vero(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)等があげられる。
植物由来の細胞には、植物体の各組織から分離した細胞が含まれ、当該細胞から細胞壁を人為的に除いたプロトプラストも含まれる。
本明細書において、「組織」は、何種類かの異なった性質や機能を有する細胞が一定の様式で集合した構造の単位であり、動物の組織の例としては、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等があげられる。植物の組織の例としては、分裂組織、表皮組織、同化組織、葉肉組織、通道組織、機械組織、柔組織、脱分化したカルス等があげられる。
本明細書において、「細胞塊」は、複数個の細胞(通常は、数十~数百個程度の細胞)が凝集した、「スフェア」または「スフェロイド」とも称される細胞凝集塊、「オルガノイド」とも称される、幹細胞または前駆細胞を3次元的な環境下で生体外にて培養し、形成されたミニ臓器等を意味する。
本明細書における細胞塊は、任意の1種類の細胞からなるものであってもよいし、複数種の細胞からなるものであってもよい。
本明細書において、「過凝集」は、例えば、スフェア培養中、オルガノイド形成中等に細胞塊同士が凝集して巨大な細胞塊が形成されることを意味する。例えば、いったん塊を形成した細胞(細胞塊)が別の細胞塊と接触し融合することで、該融合前よりもサイズが大きく、巨大な細胞塊が形成されることがあげられる。また、培地交換や細胞塊の回収操作においても細胞塊の過凝集が生じ得、このような状態も本明細書における「過凝集」に含まれる。別の観点からは、過凝集を起こし、巨大化した細胞塊においては、細胞塊の中心部の細胞において栄養の供給や老廃物の排出が困難となり細胞が壊死することがあり、また、細胞塊を構成する細胞が幹細胞である場合は、中心部の幹細胞が分化を開始する等の問題が生じ得、このような状態まで細胞塊が過度に凝集した状態を過凝集という。
一態様においては、細胞塊は、細胞培養中に形成されつつある細胞塊である。細胞培養中に形成されつつある細胞塊は、細胞培養中に存在する、少なくとも2つ以上、好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上の複数の細胞が会合または凝集し、その後さらに多くの細胞が会合または凝集して大きくなる過程にある細胞塊を意味する。
細胞培養の方法としては、自体公知の方法があげられる。例えば、細胞非接着表面を有する容器を用いた方法、ハンギングドロップ法、旋回培養法、3次元スキャフォールド法、遠心法、電場や磁場による凝集を用いた方法等があげられる。例えば、細胞非接着表面を有する容器を用いた方法については、目的の細胞を、細胞接着を阻害する表面処理を施した培養容器中にて培養し、スフェア、オルガノイド等の細胞塊を形成させることができる。この細胞非接着性培養容器を使用する場合は、まず、目的の細胞を採取した後にその細胞浮遊液を調製し、当該培養容器中に播種して培養を行う。一週間ほど培養を続けると、細胞は自発的に細胞塊を形成する。このとき用いる細胞非接着性表面としては、一般に用いられるシャーレなどの培養容器の表面に、細胞接着を阻害する物質をコートしたもの等を用いることができる。このような物質としては、アガロース、寒天、ポリ-HEMA(ポリ-(2-ハイドロキシ-エチルメタクリレート))、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと他のモノマー(例えばブチルメタクリレート等)との共重合体等があげられるが、細胞毒性がなければ、これらに限定されるものではない。
また、細胞塊を形成させる方法として、NATURE BIOTECHNOLOGY,VOL.28,NO.4,APRIL 2010,361-366、NATURE PROTOCOLS,VOL.6,NO.5,2011,689-700、NATURE PROTOCOLS,VOL.6,NO.5,2011,572-579、Stem Cell Research,7,2011,97-111、Stem Cell Rev and Rep,6,2010,248-259等に記載された方法を用いることもできる。
本明細書において、「細胞培養中」は、細胞塊が形成される前の細胞培養開始時、細胞培養開始後細胞塊が形成されつつある段階、すなわち、細胞培養開始後例えば少なくとも2つ以上、好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上の複数の細胞が会合または凝集し、その後さらに多くの細胞が会合または凝集して細胞塊が大きくなる過程にある段階、細胞塊形成後のいずれでもよいが、細胞培養開始後細胞塊が形成されつつある段階が好ましい。
本発明の剤は、有効成分であるヒアルロン酸またはその塩の他に、細胞塊の過凝集または品質の低下を抑制することができる他の物質を含んでいてもよい。
かかる他の物質としては、培養培地に含まれ得る成分(例えば、アミノ酸、ビタミン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖等)があげられる。
一態様においては、本発明の剤は、寒天を含まないことが好ましい。
本発明の剤の剤型は、特に限定されず、ヒアルロン酸またはその塩をそのまま用いてもよく、固体、液体、スラリー等の剤型であってもよい。好ましい一態様においては、本発明の剤の剤型は、液体である。
本発明の剤の剤型が液体である場合、溶媒としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝水溶液(PBS)等の水系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO);メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;基礎培地等があげられ、中でも、水、生理食塩水、リン酸緩衝水溶液(PBS)または基礎培地が好ましい。
基礎培地としては、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、StemPro34(インビトロジェン(株)製)、X-VIVO10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpanH3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン(株)製)、Essential8(登録商標)培地(ギブコ社製)、mTeSR1または2培地(ステムセルテクノロジー社製)、リプロFFまたはリプロFF2((株)リプロセル製)、PSGro hESC/iPSC培地(システムバイオサイエンス社製)、NutriStem(登録商標)培地(バイオロジカルインダストリーズ社製)、CSTI-7培地((株)細胞科学研究所製)、MesenPRO RS培地(ギブコ社製)、MF-Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡(株)製)、Sf-900II(インビトロジェン(株)製)、Opti-Pro(インビトロジェン(株)製)等があげられる。
本発明の剤が液体である場合、本発明の剤は、例えば、ヒアルロン酸またはその塩、および必要に応じて他の物質を、溶媒に添加し、室温で、または必要に応じて添加する他の物質が溶解する温度に加熱して溶解し、好ましくは滅菌処理をして調製する。
滅菌処理の方法は、特に制限されず、例えば、121℃で20分間のオートクレーブ滅菌、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、フィルターろ過滅菌等があげられる。
フィルターろ過滅菌(以下、「ろ過滅菌」という場合もある)を行う際のフィルター部分の材質は、特に制限されないが、例えば、グラスファイバー、ナイロン、PES(ポリエーテルスルホン)、親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリテトラフルオロエチレン等があげられる。フィルターの細孔の大きさは、特に制限されないが、好ましくは0.1μm~10μm、より好ましくは0.1μm~1μm、さらに好ましくは、0.1μm~0.5μmである。フィルターろ過滅菌をする際の本発明の剤の温度は、0℃~100℃であることが好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、10℃~50℃であることが、特に好ましい。
本発明の剤におけるヒアルロン酸またはその塩の含有量は、特に制限はないが、本発明の剤中、通常0.001~100重量%であり、0.001~90重量%であることが好ましく、0.001~80重量%であることがより好ましく、0.005~70重量%であることがさらに好ましく、0.01~60重量%であることがさらにより好ましく、0.5~50重量%であることが特に好ましい。
次に、本発明の剤の使用方法について説明する。
本発明の剤は、例えば、細胞塊を含有する液体に添加することによって使用することができる。
細胞塊を含有する「液体」は、細胞塊を生存させることができる液体である限り特に限定されない。細胞塊を含有する液体は、例えば、細胞培養用の液体培地、緩衝液、生理食塩水等であってよい。好ましくは、細胞塊を含有する液体は、細胞培養用の液体培地である。
細胞培養用の液体培地は、通常用いられる培地成分を含む。
通常用いられる培地成分としては、グルコース、フルクトース、ショ糖、マルトース等の炭水化物;アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸等のアミノ酸;アルブミン、トランスフェリン等のタンパク質またはペプチド;血清;ビタミンA、ビタミンB群(チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、シアノコバラミン、ビオチン、葉酸、パントテン酸、ニコチンアミド等)、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン;オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、コレステロール等の脂肪酸または脂質;塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の無機塩;亜鉛、銅、セレン等の微量元素;N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)等の緩衝試薬;アンホテリシンB、カナマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリン等の抗生物質;Type I コラーゲン、Type II コラーゲン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、フィブロネクチン、ラミニン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン等の細胞接着因子または細胞間マトリックス;インターロイキン、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-α、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、血管内皮増殖因子(VEGF)等のサイトカインまたは増殖因子;デキサメサゾン、ヒドロコルチゾン、エストラジオール、プロゲステロン、グルカゴン、インスリン等のホルモン等があげられ、培養する細胞塊に応じて適切な成分を選択し、公知の組成に従って培地を調製して用いることができる。
また、細胞培養用の液体培地においては、細胞培養用として汎用される培地を用いることもでき、かかる培地としては、肝細胞をはじめとする動物細胞または動物由来組織の培養、がん細胞の培養等に用いられる培地、および植物細胞または植物由来組織の培養に用いられる培地等をあげることができる。
動物細胞または動物由来組織の培養用培地としては、上述の基礎培地としてもあげた、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified
Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、StemPro34(インビトロジェン(株)製)、X-VIVO10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpanH3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン(株)製)、Essential8(登録商標)培地(ギブコ社製)、mTeSR1または2培地(ステムセルテクノロジー社製)、リプロFFまたはリプロFF2((株)リプロセル製)、PSGro hESC/iPSC培地(システムバイオサイエンス社製)、NutriStem(登録商標)培地(バイオロジカルインダストリーズ社製)、CSTI-7培地((株)細胞科学研究所製)、MesenPRO RS培地(ギブコ社製)、MF-Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡(株)製)、Sf-900II(インビトロジェン(株)製)、Opti-Pro(インビトロジェン(株)製)等があげられる。
がん細胞の培養に用いられる培地としては、上記動物細胞または動物由来組織の培養用培地に細胞接着因子を含むものを用いることができ、細胞接着因子としては、マトリゲル、コラーゲンゲル、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチン等があげられる。これらの細胞接着因子は、1種を単独で、または2種類以上を組み合わせて添加することができる。
植物細胞または植物由来組織の培養用培地としては、ムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地、または、これら培地成分を至適濃度に修正した修正培地(例えば、アンモニア態窒素濃度を半分にする等)に、オーキシン類および必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地等があげられる。これらの培地には、必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティープリカー、ビタミン類等をさらに補充することができる。オーキシン類としては、例えば、3-インドール酢酸(IAA)、3-インドール酪酸(IBA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)等があげられるが、これらに限定されない。オーキシン類は、例えば、約0.1ppm~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。サイトカイニン類としては、例えば、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ゼアチン等があげられるが、これらに限定されない。サイトカイニン類は、例えば、約0.1ppm~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。
細胞培養用の液体培地としては、培養する細胞の種類、培養目的等により、適切な培地を選択して用いることができる。上記した培地は、それらの組成に基いて調製して用いてもよいが、各社より提供されている市販の製品を用いることもできる。
細胞塊を含有する液体への本発明の剤の添加量は、37℃における該液体の粘度が0.65mPa・s以上となる量であることが好ましく、1mPa・s以上、2mPa・s以上、3mPa・s以上、4mPa・s以上または5mPa・s以上となる量であることがより好ましく、6mPa・s以上、7mPa・s以上、8mPa・s以上または9mPa・s以上となる量であることがさらに好ましく、10mPa・s以上となる量であることが特に好ましい。また、40mPa・s以下となる量であることが好ましく、38mPa・s以下、36mPa・s以下、34mPa・s以下、32mPa・s以下または30mPa・s以下となる量であることがより好ましく、28mPa・s以下、26mPa・s以下、24mPa・s以下または22mPa・s以下となる量であることがさらに好ましく、20mPa・s以下となる量であることが特に好ましい。
一態様においては、細胞塊を含有する液体への本発明の剤の添加量は、37℃における該液体の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる量であることが好ましく、1mPa・s~38mPa・s、2mPa・s~36mPa・s、3mPa・s~34mPa・s、4mPa・s~32mPa・sまたは5mPa・s~30mPa・sとなる量であることがより好ましく、6mPa・s~28mPa・s、7mPa・s~26mPa・s、8mPa・s~24mPa・sまたは9mPa・s~22mPa・sとなる量であることがさらに好ましく、10mPa・s~20mPa・sとなる量であることが特に好ましい。
細胞塊を含有する液体の粘度が0.65mPa・s以上であれば、細胞塊は過剰な大きさの凝集塊を形成せず、また、細胞塊を含有する液体の粘度が10mPa・s以上であれば、細胞塊の均一な分散が得られるため、より好ましい。一方、細胞塊を含有する液体の粘度が40mPa・sを超えると、室温でゲル化してしまう場合があるため、取扱いが困難となることがある。
なお、上記粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業(株)製;TVE-22L、TVE-25H)により測定することができる。
ヒアルロン酸またはその塩は、水、培地等への溶解時に加熱の必要がなく、室温で溶解が可能であり、この点も、ヒアルロン酸またはその塩を含む、本発明の剤の利点である。
2.細胞塊の過凝集抑制方法
本発明は、細胞塊を含有する液体にヒアルロン酸またはその塩を添加することを含む、該細胞塊の過凝集抑制方法(以下、「本発明の抑制方法」という)を提供する。
「細胞塊」、「細胞塊を含有する液体」、「ヒアルロン酸またはその塩」および「過凝集」については、本発明の剤について上述したとおりである。
細胞塊を含有する液体へのヒアルロン酸またはその塩の添加量は、37℃における該液体の粘度が0.65mPa・s以上となる量であることが好ましく、1mPa・s以上、2mPa・s以上、3mPa・s以上、4mPa・s以上または5mPa・s以上となる量であることがより好ましく、6mPa・s以上、7mPa・s以上、8mPa・s以上または9mPa・s以上となる量であることがさらに好ましく、10mPa・s以上となる量であることが特に好ましい。また、40mPa・s以下となる量であることが好ましく、38mPa・s以下、36mPa・s以下、34mPa・s以下、32mPa・s以下または30mPa・s以下となる量であることがより好ましく、28mPa・s以下、26mPa・s以下、24mPa・s以下または22mPa・s以下となる量であることがさらに好ましく、20mPa・s以下となる量であることが特に好ましい。
一態様においては、細胞塊を含有する液体へのヒアルロン酸またはその塩の添加量は、37℃における該液体の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる量であることが好ましく、1mPa・s~38mPa・s、2mPa・s~36mPa・s、3mPa・s~34mPa・s、4mPa・s~32mPa・sまたは5mPa・s~30mPa・sとなる量であることがより好ましく、6mPa・s~28mPa・s、7mPa・s~26mPa・s、8mPa・s~24mPa・sまたは9mPa・s~22mPa・sとなる量であることがさらに好ましく、10mPa・s~20mPa・sとなる量であることが特に好ましい。
細胞塊を含有する液体の粘度が0.65mPa・s以上であれば、細胞塊は過剰な大きさの凝集塊を形成せず、また、細胞塊を含有する液体の粘度が10mPa・s以上であれば、細胞塊の均一な分散が得られるため、より好ましい。一方、細胞塊を含有する液体の粘度が40mPa・sを超えると、室温でゲル化してしまう場合があるため、取扱いが困難となることがある。
なお、上記粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業(株)製;TVE-22L、TVE-25H)により測定することができる。
また、別の観点からは、細胞塊を含有する液体へのヒアルロン酸またはその塩の添加量は、該液体の粘度が上記範囲に入る量であるのが好ましいが、該液体中におけるヒアルロン酸またはその塩の濃度としては、例えばヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000以上500,000未満のときは、0.2~1.5w/v%となる量であるのが好ましく、0.3~1.0w/v%となる量であるのがより好ましく、数平均分子量が500,000以上2,000,000未満のときは、0.05~0.7w/v%となる量であるのが好ましく、0.1~0.5w/v%となる量であるのがより好ましく、数平均分子量が2,000,000~3,000,000のときは、0.05~0.5w/v%となる量であるのが好ましく、0.1~0.2w/v%となる量であるのがより好ましい。
一態様においては、細胞塊を含有する液体は、該細胞塊が形成されつつある細胞培養中の培地である。
一態様においては、細胞塊はスフェアである。
一態様においては、細胞塊はオルガノイドである。
一態様においては、液体は、細胞塊が形成されつつある細胞培養中の培地であり、細胞培養は、細胞の自己凝集化誘導技術(CAT)システムを利用した細胞培養である。CATシステムにおいては、細胞の自己凝集を誘導する高分子を塗布した表面に高密度に播種した細胞は、接着して隙間のない細胞単層を形成した後、1日程度の培養の間に細胞単層が自発的に該誘導表面から剥離すると同時に凝集化を生じることで、スフェロイド等の細胞塊が形成する。細胞の自己凝集化誘導技術については、Biomaterials,34(36),9096-102(2013)、Bull. Inst. Front. Sci. Tech.,Okayama Univ. of Sci.,No.1.,37-41(2019)等に記載されている。
3.細胞塊の製造方法
本発明は、ヒアルロン酸またはその塩を含む培地中で細胞を培養することを含む、細胞塊の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)を提供する。
「ヒアルロン酸またはその塩」、「細胞塊」および「細胞培養」の方法については、本発明の剤について上述したとおりである。また、「培地」としては、本発明の剤について上述した液体培地と同様のものがあげられ、培地におけるヒアルロン酸またはその塩の含有量は、本発明の抑制方法について上述した培地へのヒアルロン酸またはその塩の添加量と同様である。
一態様においては、細胞を培養することは、細胞の自己凝集化誘導技術システムを利用した細胞培養である。
以下の実施例において本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
<分子量測定方法>
下記表1に示すヒアルロン酸ナトリウムの分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(Gel Filtration Chromatography;以下、GFCと略称する)を用いて測定した際の数平均分子量(Mn)の値である。
(GFC測定条件)
・装置:Nexera LS-30AD((株)島津製作所製)
・GFCカラム:TSKgel GMPWXL(東ソー(株)製)×2本
・溶離液:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05~0.5%
・注入量:10μL~100μL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
調製例1:添加物含有培地の調製
ヒアルロン酸ナトリウム(キッコーマンバイオケミファ(株)製;FCH-200、150、120、80、60、SU、マイクロヒアルロン酸)、またはメチルセルロース(信越化学工業(株)製;METOLOSE(登録商標) SM-1500(20℃における2%水溶液粘度(日本薬局方):1500mPa・s))を表1に記載の濃度となるように間葉系幹細胞増殖培地XF(タカラバイオ(株)製;#C-28019)に加え、溶液が均一になるまで攪拌し、添加物含有培地を調製した。
試験例1:粘度測定
調製例1~14および比較調製例1で調製した添加物含有培地の37℃における粘度を、E型粘度計(東機産業(株)製;TVE-22L)を用いて測定した。結果を表2に示す。
実施例1:細胞塊同士の凝集抑制評価
(細胞懸濁液の調製)
細胞は、ヒト脂肪組織由来の間葉系幹細胞(セルソース(株)製;#0111201)を用いた。細胞培養用の培地としては、間葉系幹細胞増殖培地2(タカラバイオ(株)製;#C-28009)を用いた。細胞は、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて4日間静置培養した。引き続き、本細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)5mLで洗浄した後、TrypLE(商標) Select Enzyme(1X), no phenol red(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製;#12563011)1mLを添加して細胞を剥がし、上記の培地9mLを添加し懸濁した。本懸濁液を遠心分離機(トミー精工(株)製;型番EIX-136、220xg./3分、室温)にて遠心した後、上清を除き、PBS 5mLで細胞を洗浄した。再度遠心分離し、上清を除いた後に、間葉系幹細胞XF培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
(細胞塊の作製)
上記にて調製した細胞懸濁液を用いて、5.54×10cells/mLとなるように間葉系幹細胞増殖培地XF(タカラバイオ(株)製;#C-28019)に細胞を懸濁し、細胞塊作製用3次元細胞培養マルチウェルプレート(Corning社製;#4441、Elplasia(登録商標) 24well)に0.5mL/wellで加えることで、細胞塊1個当たり約500cellsとなるように細胞を播種した。その後、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度条件下において2日間培養を行い、ヒト脂肪組織由来の間葉系幹細胞の細胞塊を作製した。
(添加物含有培地を用いた細胞塊の懸濁液の調製)
上記にて作製した細胞塊を1.5mLマイクロチューブ(アズワン(株)製;#1-1600-01)1本あたり1ウェル全量の細胞塊を回収し、約550個/tubeとなるように回収した。本懸濁液を遠心分離機(トミー精工(株)製;型番EIX-307、300xg./3分、室温)にて遠心した後、上清を除き、表1に記載の添加物含有培地を0.6mL/tubeで添加した。
(細胞塊同士の凝集抑制評価)
上記にて調製した各添加物含有培地を用いた細胞塊の懸濁液を細胞低吸着プレート(住友ベークライト(株)製;MS9024X)に0.5mL/wellで播き直した後に、CelliMager duos(SCREEN社製)を用いて観察し、画像を撮影した。これらを37℃、5%CO条件下で1日間培養し、同様にCelliMager duos(SCREEN社製)を用いて観察し、画像を撮影した。CelliMager duosにて、播き直し直後と1日間培養後の細胞塊の個数を計測し、細胞塊の個数の維持率(%)を算出することで、細胞塊同士の凝集抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
[評価基準]
◎: 細胞塊の個数の維持率≧70%
○: 70%>細胞塊の個数の維持率≧50%
△: 50%>細胞塊の個数の維持率≧10%
×: 10%>細胞塊の個数の維持率
表3に示すように、ヒアルロン酸ナトリウムを培地に添加することで、メチルセルロースを培地に添加したときと同等またはそれ以上の細胞塊凝集抑制効果が、より低い粘度でも認められた。
実施例2:細胞塊製造用プレートにおける細胞塊同士の凝集抑制評価
(細胞懸濁液の調製)
細胞は、ヒト脂肪組織由来の間葉系幹細胞(セルソース(株)製;#0111201)を用いた。細胞培養用の培地としては、間葉系幹細胞増殖培地2(タカラバイオ(株)製;#C-28009)を用いた。細胞は、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて4日間静置培養した。引き続き、本細胞をPBS 5mLで洗浄した後、TrypLE(商標) Select Enzyme(1X), no phenol red(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製;#12563011)1mLを添加して細胞を剥がし、上記の培地9mLを添加し懸濁した。本懸濁液を遠心分離機(トミー精工(株)製;型番LC-200、220xg./3分、室温)にて遠心した後、上清を除き、PBS 5mLで細胞を洗浄した。再度遠心分離し、上清を除いた後に、間葉系幹細胞増殖XF培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
(細胞塊の作製)
上記にて調製した細胞懸濁液を用いて、8×10cells/mLとなるように間葉系幹細胞増殖培地XF(タカラバイオ(株)製;#C-28019)に細胞を懸濁し、細胞塊製造用24wellプレート(特許第7089710号に記載の方法で作製)に0.5mL/wellで加えることで、細胞塊1個当たり約450cellsとなるように細胞を播種した。その後、37℃/COインキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度条件下において2日間培養を行い、細胞塊製造用プレートにてヒト脂肪組織由来の間葉系幹細胞の細胞塊を作製した。
(添加物含有培地の添加)
続いて、半量0.25mLの培地をウェルから除き、表1に記載した添加濃度の2倍濃度の添加物含有培地を0.25mL/well添加することにより、細胞塊製造用プレート中の培養液が目的の添加物濃度となるように調整した。また、それ以降に培地交換する際には、1倍濃度の添加物含有培地を用いて半量ずつ交換した。
(細胞塊製造用プレートにおける細胞塊同士の凝集抑制評価)
上記のとおり、細胞塊製造用プレートに添加物含有培地を添加した後に、CelliMager duos(SCREEN社製)を用いて観察し、画像を撮影した。これらを37℃、5%CO条件下で6日間培養し、同様にCelliMager duos(SCREEN社製)を用いて観察し、画像を撮影した。CelliMager duosを用いて、添加物含有培地添加直後と6日間培養後の細胞塊の個数を計測し、細胞塊の個数の維持率(%)を算出することで、細胞塊同士の凝集抑制効果を評価した。結果を表4に示す。
[評価基準]
◎: 細胞塊の個数の維持率≧70%
○: 70%>細胞塊の個数の維持率≧50%
△: 50%>細胞塊の個数の維持率≧30%
×: 30%>細胞塊の個数の維持率
表4に示すように、ヒアルロン酸ナトリウムを培地に添加することで、メチルセルロースを培地に添加したとき以上の細胞塊凝集抑制効果が、より低い粘度で認められた。
以上から、ヒアルロン酸ナトリウムを培地に添加することで、メチルセルロースを培地に添加したときより低い粘度で、細胞塊の移動を抑制し、細胞塊同士の融合を抑制する、すなわち細胞塊同士の凝集が抑制されることが示された。すなわち、ヒアルロン酸ナトリウムを培地に添加することで、ハンドリング性および細胞塊同士の凝集抑制効果の両立が達成された。
本発明により、良好なハンドリング性を維持しつつ、細胞塊の移動を抑制し、細胞塊同士の望まない融合を抑制できる、すなわち細胞塊の過凝集を抑制することができる、過凝集抑制剤、過凝集抑制方法、細胞塊の製造方法等を提供することができる。本発明の実施により、細胞塊の培養における生産効率の向上が期待されるため、本発明は、再生医療、創薬等の分野において極めて有用である。

Claims (14)

  1. ヒアルロン酸またはその塩を含む、細胞塊の過凝集抑制剤。
  2. ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、請求項1に記載の過凝集抑制剤。
  3. ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、請求項1に記載の過凝集抑制剤。
  4. 細胞塊が細胞培養中に形成されつつある細胞塊である、請求項1に記載の過凝集抑制剤。
  5. 細胞塊を含有する液体にヒアルロン酸またはその塩を添加することを含む、該細胞塊の過凝集抑制方法。
  6. ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、請求項5に記載の過凝集抑制方法。
  7. ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、請求項5に記載の過凝集抑制方法。
  8. ヒアルロン酸またはその塩を、37℃における液体の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる濃度で添加する、請求項5に記載の過凝集抑制方法。
  9. 液体が、細胞塊が形成されつつある細胞培養中の培地である、請求項5に記載の過凝集抑制方法。
  10. ヒアルロン酸またはその塩を含む培地中で細胞を培養することを含む、細胞塊の製造方法。
  11. ヒアルロン酸またはその塩がヒアルロン酸ナトリウムである、請求項10に記載の製造方法。
  12. ヒアルロン酸またはその塩の数平均分子量が3,000~3,000,000である、請求項10に記載の製造方法。
  13. 培地が、37℃における該培地の粘度が0.65mPa・s~40mPa・sとなる濃度でヒアルロン酸またはその塩を含む、請求項10に記載の製造方法。
  14. 細胞を培養することが細胞の自己凝集化誘導技術システムを利用した細胞培養である、請求項13に記載の製造方法。
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