JP2024066316A - 銀ナノワイヤインク及び透明導電フィルム - Google Patents

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葵 長谷川
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Abstract

【課題】良好な導電性と優れたマイグレーション耐性を有する透明導電パターンを得ることができる銀ナノワイヤインク及び透明導電フィルムを提供する。【解決手段】式(1)で表される2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ、バインダー樹脂及び分散媒を含む銀ナノワイヤインク、及びその銀ナノワイヤインクを透明基材上へ塗布、乾燥することにより得られる透明導電フィルムである。TIFF2024066316000008.tif66170【選択図】なし

Description

本発明は、透明導電パターン形成用の銀ナノワイヤインク及び前記銀ナノワイヤインクを基材上に塗布した透明導電フィルムに関する。
銀ナノワイヤを導電部材として含む透明導電パターンに高温高湿下で電圧を印加すると、銀ナノワイヤから溶解した銀イオンが透明導電パターン間に拡散する現象(マイグレーション)が見られることがある。この現象はパターン間の短絡や導電性の悪化の要因となりうるため、銀のイオン化を抑制したり、銀イオンの拡散を抑制したりして透明導電パターン間のマイグレーション耐性を向上させることが求められている。
下記特許文献1~3には、腐食防止剤、キレート化剤、マイグレーション抑制剤を添加することで銀のイオン化を抑制できる銀ナノワイヤ含有導電性パターン部材や、導電性ペースト、銀ナノワイヤ透明導電体が開示されている。
しかしながら、特許文献1で用いられている腐食防止剤や、特許文献2で用いられているキレート化剤、特許文献3で用いられているマイグレーション抑制剤は、金属ナノワイヤの表面に結合することで効果を発揮するため、ナノワイヤ同士の接触を妨げ導電性が悪化する懸念がある。
さらに、特許文献3では銀ナノワイヤと基材との密着性を上げるために易接着層等の機能層を付与する必要性があり、工程が煩雑になるという問題がある。
特許文献4では、低分子尿素化合物を配合した銀ナノワイヤインクを用いることにより、マイグレーション耐性が良好な透明導電フィルムが得られることが開示されている。しかしながら、特許文献4では、マイグレーション耐性を高温高湿下で電圧を印加後の透明導電パターン間の短絡有無により評価しているのみであり、透明導電膜の電圧印加前後の抵抗値変化は未確認であるため、電圧印加後の導電性の低下が懸念される。また、本発明者の検討によると、銀ナノワイヤインクに用いるバインダー樹脂種によっては低分子尿素化合物を配合することによるマイグレーション耐性が十分発現されないという問題があった。
特表2009-505358号公報 特開2006-260885号公報 特開2021-177452号公報 WO2019/198494
本発明は、良好な導電性と優れたマイグレーション耐性を有する透明導電パターンを得ることができる銀ナノワイヤインクと、その銀ナノワイヤインクを用いた、より少ない工程で製造可能な透明導電フィルムを提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は以下の実施態様を含む。
[1]式(1)で表される2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ、バインダー樹脂及び分散媒を含むことを特徴とする銀ナノワイヤインク:
Figure 2024066316000001
(式(1)中Rは、炭素原子数が1~3のアルキル基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、Rはアミノ基、ヒドロキシ基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、X~Xはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を表す)。
[2]前記銀ナノワイヤインク中の前記2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物の含有率が0.01~0.30質量%、銀ナノワイヤの含有率が0.01~1.50質量%、バインダー樹脂の含有率が0.01~2.00質量%である[1]に記載の銀ナノワイヤインク。
[3]前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、エチルセルロースもしくはポリ-N-ビニルピロリドンである[1]又は[2]のいずれか一に記載の銀ナノワイヤインク。
[4]前記分散媒が、水と、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表されるアルコールの少なくとも一種と、を含む[1]~[3]のいずれか一に記載の銀ナノワイヤインク。
[5]前記分散媒が、さらにエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む[4]に記載の銀ナノワイヤインク。
[6]透明基材と、前記透明基材上に形成され、式(1)で表される、2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、を含む、透明導電フィルム:
Figure 2024066316000002
(式(1)中Rは、炭素原子数が1~3のアルキル基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、Rはアミノ基、ヒドロキシ基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、X~Xはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を表す)。
[7]前記透明導電層の上にオーバーコート層が形成された[6]に記載の透明導電フィルム。
[8]前記透明基材が、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、透明ポリイミドのいずれかのフィルムである[6]又は[7]に記載の透明導電フィルム。
本発明の銀ナノワイヤインク及び透明導電フィルムを用いることにより、良好な導電性と優れたマイグレーション耐性を有する透明導電パターンを提供することができる。
実施例、比較例で用いたマイグレーション耐性評価用試験パターンの概略構成図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明の第一の実施形態は銀ナノワイヤインクであり、式(1)で表される、2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物(以下、「2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物」と記載する。)、銀ナノワイヤ、バインダー樹脂及び分散媒を含むことを特徴とする。
<2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物>
本実施形態の銀ナノワイヤインクに含まれる2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物は、式(1)で表される。
Figure 2024066316000003
(式(1)中Rは、炭素原子数が1~3のアルキル基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、Rはアミノ基、ヒドロキシ基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、X~Xはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を表す)。
式(1)中のRは、炭素原子数lが1~3のアルキル基(-C2l+1)、又は炭素原子数mが1~3のアルキルオキシ基(-OC2m+1)を表す。前記アルキル基の炭素原子数lは1~2であることが好ましく、1であることがより好ましい。前記アルキルオキシ基の炭素原子数mは1~2であることが好ましく、1であることがより好ましい。式(1)中のRはアミノ基(-NH2)、ヒドロキシ基、又は炭素原子数kが1~3のアルキルオキシ基(-OC2k+1)を表す。前記アルキルオキシ基の炭素原子数kは1~2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物が銀ナノワイヤインク中に含まれることにより、マイグレーション耐性効果を発現するメカニズムは定かではないが、銀ナノワイヤから溶解した銀イオンに芳香族カルボニル化合物中のRの極性基(アミノ基、ヒドロキシ基及びアルキルオキシ基)及びカルボニル酸素が配位し、6員環を形成することにより銀イオンの拡散を抑制することができ、銀ナノワイヤインクにより形成される透明導電フィルムの良好な導電性を保持しながらマイグレーション耐性を向上する効果を有すると推定される。前記2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物の例としては、Rがアミノ基のものは2-アミノ安息香酸メチル、2-アミノ安息香酸エチル、2-アミノ安息香酸プロピル、2-アミノ安息香酸イソプロピル、2’-アミノアセトフェノン、1-(2-アミノフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-アミノフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-アミノフェニル)ブタン-1-オンが挙げられる。Rがヒドロキシ基のものは2-ヒドロキシ安息香酸メチル、2-ヒドロキシ安息香酸エチル、2-ヒドロキシ安息香酸プロピル、2-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、2’-ヒドロキシアセトフェノン、1-(2-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-ヒドロキシフェニル)ブタン-1-オン、が挙げられる。Rがアルキルオキシ基のものは、2-メトキシ安息香酸メチル、2-メトキシ安息香酸エチル、2-メトキシ安息香酸プロピル、2-メトキシ安息香酸イソプロピル、2-エトキシ安息香酸メチル、2-エトキシ安息香酸エチル、2-エトキシ安息香酸プロピル、2-エトキシ安息香酸イソプロピル、2-プロポキシ安息香酸メチル、2-プロポキシ安息香酸エチル、2-プロポキシ安息香酸プロピル、2-プロポキシ安息香酸イソプロピル、2-イソプロポキシ安息香酸メチル、2-イソプロポキシ安息香酸エチル、2-イソプロポキシ安息香酸プロピル、2-イソプロポキシ安息香酸イソプロピル、2’-メトキシアセトフェノン、1-(2-メトキシフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-メトキシフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-メトキシフェニル)ブタン-1-オン、2’-エトキシアセトフェノン、1-(2-エトキシフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-エトキシフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-エトキシフェニル)ブタン-1-オン、2’-プロポキシアセトフェノン、1-(2-プロポキシフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-プロポキシフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-プロポキシフェニル)ブタン-1-オン、2’-イソプロポキシアセトフェノン、1-(2-イソプロポキシフェニル)プロパン-1-オン、1-(2-イソプロポキシフェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、1-(2-イソプロポキシフェニル)ブタン-1-オン、が挙げられる。また、ベンゼン環の3位~6位(式(1)中のX~X)には水素原子以外にフッ素原子(-F)、メチル基(-CH)、メトキシ基(-OCH)、又はトリフルオロメチル基(-CF)を置換基として有していてもよい。これらの芳香族カルボニル化合物の中でも後述の分散媒への溶解性や銀ナノワイヤインクの保存安定性、化合物の汎用性の観点から2-アミノ安息香酸メチル、2-アミノ安息香酸エチル、2’-アミノアセトフェノン、1-(2-アミノフェニル)プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ安息香酸メチル、2-ヒドロキシ安息香酸エチル、2-ヒドロキシ安息香酸プロピル、2’-ヒドロキシアセトフェノン、1-(2-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン、2-メトキシ安息香酸メチル、2-メトキシ安息香酸エチル、2-エトキシ安息香酸メチル、2-エトキシ安息香酸エチル、2’-メトキシアセトフェノン、1-(2-メトキシフェニル)プロパン-1-オン、2’-エトキシアセトフェノン、1-(2-エトキシフェニル)プロパン-1-オンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、2-アミノ安息香酸メチル、2’-アミノアセトフェノン、2-ヒドロキシ安息香酸メチル、2’-ヒドロキシアセトフェノンからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
銀ナノワイヤインク中における2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物の含有率は、0.01~0.30質量%が好ましく、0.02~0.20質量%がより好ましく、0.03~0.15質量%がさらに好ましく、0.03~0.10質量%が特に好ましい。0.01質量%以上であると銀ナノワイヤインクを塗布して得られたフィルムが良好なマイグレーション耐性を示す。0.30質量%以下であると、銀ナノワイヤインクを塗布、乾燥後に2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物の結晶が析出することを防ぐことができ、フィルムの導電性を良好に維持することができる。
<銀ナノワイヤ>
本実施形態の銀ナノワイヤインクは、導電材料として銀ナノワイヤを含む。銀ナノワイヤは、径がナノメートルオーダーであって1次元方向に高いアスペクト比を有する銀であり、ワイヤ状又はチューブ状の形状を有する導電材料である。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。前者を「狭義の銀ナノワイヤ」、後者を「狭義の銀ナノチューブ」と呼び、以下、本明細書において「銀ナノワイヤ」は狭義の銀ナノワイヤと狭義の銀ナノチューブを包括する意味で用いる。狭義の銀ナノワイヤ、狭義の銀ナノチューブは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
銀ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。銀ナノワイヤの大規模な合成及び精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細に記述されている。
銀ナノワイヤの太さは、細いほうが透明性(全光線透過率)の観点からは好ましい。そのため、ワイヤ径の平均値としては、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、40nm以下がさらに好ましい。一方、強度、取扱易さの観点から2nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
また、銀ナノワイヤの長軸の長さの平均は、導電性の観点からは長いほうが好ましいが、ファインパターンに対応しようとすればある程度長さを制限する必要がある。そのため、ワイヤ長の平均値としては、導電性の観点から2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。一方、ファインパターンへの対応の観点から100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。
銀ナノワイヤは、径の太さの平均及び長軸の長さの平均が前記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、300以上であることがさらに好ましい。ここで、アスペクト比は、銀ナノワイヤの径の平均値をb、長軸の長さの平均値をaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡を用いて任意に100本測定しその算術平均値として求める。
インク中における銀ナノワイヤの含有率は、0.01~1.50質量%が好ましく、0.05~1.00質量%がより好ましく、0.10~0.50質量%がさらに好ましく、0.15~0.30質量%が特に好ましい。0.01質量%以上であると、インクを塗布して得られたフィルムが良好な導電性を示す。1.50質量%以下であると、インクを塗布して得られたフィルムが良好な光学特性(高い全光線透過率)を示す。
<バインダー樹脂>
本実施形態の銀ナノワイヤインクに用いることができるバインダー樹脂としては、インク中に銀ナノワイヤを均一に分散させ、透明導電層を形成した後に透明基材と良好に密着するものであれば制限はない。銀ナノワイヤの分散性と透明基材への密着性を両立するという点で親水性の樹脂が好ましい。例えば、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルカプロラクタムのようなポリ-N-ビニル化合物、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロ-ス、アセチルセルロースのようなセルロース化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールのようなポリアルキレングリコール化合物等が挙げられるが、特に、ポリ-N-ビニルアセトアミド、エチルセルロースもしくはポリ-N-ビニルピロリドンがより好ましい。ポリ-N-ビニルアセトアミドに関しては、絶対分子量による重量平均分子量が3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることがさらに好ましい。絶対分子量による重量平均分子量は以下の方法により測定したものである。
<バインダー樹脂の分子量測定>
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置した。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出した。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaHPO水溶液+0.1mol/L NaHPO水溶液
流速:0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
インク中におけるバインダー樹脂の含有率は、0.01~2.00質量%が好ましく、0.03~1.60質量%がより好ましく、0.15~1.20質量%がさらに好ましく、0.03~0.80質量%が特に好ましい。0.01質量%以上であると、塗膜を均一に形成することができるとともに銀ナノワイヤの透明基材との密着性を確保できる。2.00質量%以下であると、塗布して得られたフィルムが良好な導電性を示す。
<分散媒>
本実施形態の銀ナノワイヤインクに用いることができる分散媒としては、2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物及びバインダー樹脂を溶解し、かつ、銀ナノワイヤを分散させることができるものであれば特に制限はない。銀ナノワイヤを良好に分散するという点で極性溶媒が好ましい。極性溶媒としては、乾燥速度を容易に制御する事が出来る点で水やアルコールが挙げられ、両者の混合溶媒が好適である。前記混合溶媒に含まれるアルコールの含有量は、85質量%以上95質量%以下であることが好ましい。アルコールとしては、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール)が好ましい。前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールをアルコール中20質量%以上95質量%以下含むことが好ましく、アルコール中25質量%以上85質量%以下含むことがより好ましく、アルコール中30質量%以上70質量%以下含むことがさらに好ましい。前記炭素原子数が3以下の飽和一価アルコールを用いると乾燥が容易となるため工程上都合が良い。
アルコールとして、前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。併用できる前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールは、アルコール中5質量%以上80質量%以下含むことが好ましく、アルコール中15質量%以上75質量%以下含むことがより好ましく、アルコール中30質量%以上70質量%以下含むことがさらに好ましい。これらのアルコールを前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用する事で乾燥速度を調整する事が出来る。
また、前記混合溶媒における水の含有率は、5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。混合溶媒における水の含有率が5質量%未満の場合、インクを基材に塗布した際にハジキが観察され、塗布する事が出来ないことがある。したがって、アルコールと水との混合溶媒中の(S1)水、(S2)前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール、(S3)前記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコール、の好ましい含有比(質量比)は、(S1):(S2):(S3)が5~15:80~25:15~70であり、より好ましい含有比(質量比)は、(S1):(S2):(S3)が5~15:65~30:30~65(但し、(S1)+(S2)+(S3)=100)である。
本実施形態で用いられる銀ナノワイヤインクには、その印刷特性、導電性、光学特性等の性能に悪影響を及ぼさない限りにおいて、界面活性剤、酸化防止剤、フィラー等の添加剤を含有しても良い。組成物の粘性を調整するためにヒュームドシリカ等のフィラーを用いることができる。これらの添加剤の金属ナノワイヤインク中の配合量はトータルで5質量%以内とすることが好ましい。
本発明の第二の実施形態は透明導電フィルムであり、前述の銀ナノワイヤインクよりなる透明導電層が透明基材上に形成されたものである。
<透明基材>
本実施形態で使用できる透明基材は、透明であれば特に限定されず、着色していてもよいが、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。透明基材の材質は特に限定されないが、柔軟性、耐屈曲性の面からは樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリエチレンナフタレート[PEN]等)、ポリカーボネート、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート[PMMA]等)、シクロオレフィンポリマー、透明ポリイミド等を好適に使用することができる。これらの樹脂フィルムの中でも、優れた光透過性(透明性)や柔軟性、機械的特性の点から、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、透明ポリイミドを用いることがより好ましい。シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン社製)、ARTON(登録商標、JSR社製)等)やノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス社製))を用いることができる。
樹脂フィルムの厚みとしては、屈曲時の割れにくさという観点から350μm以下であることが好ましく、200μm以下がより好ましく、125μm以下がより好ましい。また、取り扱いやすさという観点からは10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、35μm以上が更に好ましい。
<透明導電層の形成>
前記透明基材上への透明導電層の形成は、前記銀ナノワイヤインクを透明基材上へ塗布、乾燥することにより行われる。これにより、前記透明基材上に2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層が形成され、実施形態にかかる透明導電フィルムを得ることができる。前記乾燥操作により、分散媒の大部分は揮発するが、揮発性の低い分散媒が少量残留してもよい。透明導電層は、金属ナノワイヤが交差部を有するナノ構造ネットワークを構成するように透明基材上に形成され、金属ナノワイヤが形成されていない開口部を光が透過できる構成を有する。交差部の少なくとも一部が融着したナノ構造ネットワークを形成することがより好ましい。銀ナノワイヤの交差部が融着していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折パターンの解析から確認できる。具体的には、銀ナノワイヤ同士が交差している箇所と交差している箇所から十分離れた金属ナノワイヤの電子線回折パターンを解析し、両者の結晶構造が異なること(再結晶の発生)から確認することができる。
銀ナノワイヤインクの塗布方法としては、公知の方法であれば制限はなく、スプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法等を用いることができる。特に、大面積の塗布が容易であるという点で、バーコート、ダイコートが好ましい。この際に形成される透明導電層の形状については特に限定はないが、透明基材上に形成される配線、電極のパターンとしての形状、あるいは透明基材の全面又は一部の面を被覆する膜(ベタパターン)としての形状等が挙げられる。形成した透明導電層は、加熱して溶媒(分散媒)を乾燥させることにより導電化することができる。なお、必要に応じて導電パターンに適宜な光照射を行ってもよい。透明導電層の厚みは10nm~500nmの範囲であることが好ましく、10nm~300nmの範囲であることがより好ましく、15nm~200nmの範囲であることがさらに好ましく、20nm~100nmの範囲であることが特に好ましい。透明導電層の厚みが10nm以上であれば導電層の耐久性が良好であり、厚みが500nm以下であると透明電極等に用いる際、銀ナノワイヤとの接触抵抗が小さくなる傾向がある。
<オーバーコート層>
本実施形態の透明導電フィルムは、前記透明導電層を保護する保護膜(オーバーコート層)を有することが好ましい。保護膜(オーバーコート層)は、硬化性樹脂組成物(オーバーコートインク)の熱硬化膜であることが好ましい。硬化性樹脂組成物としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)分子内に二個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、を含むものが好ましい。硬化性樹脂組成物を前記透明導電層上に印刷、塗布等することにより硬化性樹脂組成物(オーバーコートインク)層を形成し、硬化させて保護膜を形成する。硬化性樹脂組成物の硬化は、例えば熱硬化性樹脂組成物を用いる場合、これを加熱・乾燥し、熱硬化させることにより行うことができる。なお、以降は、表記の簡略化のため、「(B)分子内に二個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物」を単に「(B)エポキシ化合物」と記述する。
前記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、その重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、2,000~70,000であることがより好ましく、3,000~50,000であると更に好ましい。本明細書において、カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリスチレン換算の値である。カルボキシ基を含有するポリウレタンの重量平均分子量が1,000以上であると、塗膜の伸度、可撓性、並びに強度が十分発揮される。重量平均分子量が100,000以下であると、溶媒への溶解性が良好で、かつ、溶解後のポリウレタン溶液の粘度も高くなりすぎず、ハンドリング性に優れる。
カルボキシ基を含有するポリウレタンのGPC測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:ShodexカラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル-プ 100μリットル
試料濃度:約0.1質量%に調製
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~80mg-KOH/gであることが好ましく、15~60mg-KOH/gであることがより好ましい。カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価が10mg-KOH/g以上であれば、硬化性樹脂組成物の硬化性、保護膜の耐溶剤性とも良好である。80mg-KOH/g以下であるとポリウレタンとしての溶媒への溶解性が良好であり、硬化性樹脂組成物を所望の粘度に調整し易い。また、硬化物が硬くなりすぎることによる基材フィルムの反り等の問題を起こし難くなる。
本明細書において、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は以下の方法により測定した値である。
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを、中和の終点とする。その結果から下記の計算式を用いて得た値を、樹脂の酸価とする。
酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(ml)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐候性及び耐光性の観点では(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエ-テルジイソシアネート、及びダイマー酸ジイソシアネートが挙げられる。
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。
(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、実施の形態に係るポリウレタン樹脂から形成される保護膜は、特に高温高湿時の信頼性が高く、電子機器部品の部材に適した保護膜を得ることができる。前記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
上述の通り耐候性及び耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。そのため、必要に応じて芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いる場合は、これらの含有率は、(a1)ポリイソシアネート化合物の中に、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、好ましくは50mol%以下、より好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下である。
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。この分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。前述した条件で数平均分子量と重量平均分子量を求めることができる。
(a2)ポリオール化合物としては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ-テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、及び植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸及びその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18~72であるポリオール化合物が挙げられる。保護膜の耐水性、絶縁信頼性、及び基材との密着性のバランスの観点からは、(a2)ポリオール化合物はポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
前記ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3~18のジオールを、炭酸エステル又はホスゲンと反応させることにより得ることができ、例えば、以下の構造式(2)で表される。
Figure 2024066316000004
式(2)において、R12は対応するジオール(HO-R12-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルカンジイル基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。
式(2)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造することができる。
ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルカンジイル基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。また、溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールを併用することが好ましい。
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、炭素原子数が1又は2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する分子量が200以下のカルボン酸又はアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニンが挙げられ、これらの中でも、溶媒への溶解度から、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸が好ましい。(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、前記の3成分((a1)、(a2)及び(a3))のみから合成が可能である。なお、さらに(a4)モノヒドロキシ化合物及び/又は(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐候性及び耐光性の観点からは、(a4)モノヒドロキシ化合物及び(a5)モノイソシアネート化合物は、分子内に芳香環や炭素-炭素二重結合を含まない化合物を用いることが好ましい。
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、前記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成することができる。カルボキシ基を含有するポリウレタンを無触媒で反応させることが、最終的に錫等の混入を考慮する必要がないため有利である。
有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されない。有機溶媒は、アミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ-テル、エチレングリコールジエチルエ-テル、エチレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
なお、生成するカルボキシ基を含有するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、及び電子材料用途においてカルボキシ基を含有するポリウレタンを保護膜用インクの原料にすることを考えると、これらの中でも、特に、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、γ-ブチロラクトン、又はそれらの組合せであることが好ましい。
原料の投入順序については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物及び(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に反応容器に入れ、溶媒に溶解又は分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量及び酸価に応じて調節される。
具体的には、これらの仕込みモル比は、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)が、好ましくは0.5~1.5:1、より好ましくは0.8~1.2:1、さらに好ましくは0.95~1.05:1である。
(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基のモル比は、好ましくは1:0.1~30、より好ましくは1:0.3~10である。
前記(B)エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を挙げることができる。
一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をより好適に使用することができる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER(登録商標)604(三菱化学株式会社製)、EPICLON(登録商標)EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON(登録商標)HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、及びTEPIC(登録商標)-S(日産化学株式会社製)が挙げられる。
前記(B)エポキシ化合物としては、分子内に芳香環を有していても良く、その場合、前記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと(B)エポキシ化合物の合計質量に対して(B)エポキシ化合物の質量は20質量%以下が好ましい。
前記(B)エポキシ化合物に対する(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの配合割合は、(B)エポキシ化合物のエポキシ基に対するポリウレタン中のカルボキシ基の当量比で0.5~1.5であることが好ましく、0.7~1.3であることがより好ましく、0.9~1.1であることがさらに好ましい。
前記(C)硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成工業株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、Irgacure(登録商標)184が挙げられる。
(C)硬化促進剤の使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると電気絶縁性が低下するので、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと(B)エポキシ化合物の合計100質量部に対して好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部、さらに好ましくは0.5~5質量部、特に好ましくは0.5~3質量部使用される。
また、硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、例えば、多官能チオール化合物やオキセタン化合物などが挙げられる。多官能チオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)などが挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亞合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産株式会社製)が挙げられる。硬化助剤の使用量は、添加した効果が得られ、かつ硬化速度の過度の上昇を回避しハンドリング性を維持することができるため、(B)エポキシ化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~6質量部である。
前記硬化性樹脂組成物には(D)溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。(D)溶媒としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、ポリウレタン樹脂の溶解性又は印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後に(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。ただし、操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。硬化性樹脂組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。(D)溶媒の沸点が80℃以上であると、速乾過ぎることにより生じるムラを抑制することができ、(D)溶媒の沸点が300℃以下であると、乾燥・硬化に要する加熱処理時間を短くすることができ、工業生産時の生産性を向上させることができる。
溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒や、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒、メチルエチルケトン(沸点80℃)、酢酸エチル(沸点77℃)を用いることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。2種類以上を混合する場合には、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮し、凝集及び沈殿が生じない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒、又はインクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。
前記硬化性樹脂組成物は、前記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒とを、硬化性樹脂組成物中の(D)溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように配合し、均一になるように攪拌して製造することができる。
硬化性樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~10質量%の範囲であると、透明導電膜上に塗布したときに膜厚が過度に厚くなることがなく、透明導電層との電気的なコンタクトがとれる状態を保持することができ、かつ保護膜(オーバーコート層)に十分な耐候性及び耐光性を付与することができる。
なお、耐候性及び耐光性の観点から、保護膜(硬化性樹脂組成物中の固形分である(A)カルボキシ基を含有するポリウレタン、(B)エポキシ化合物、及び、(C)硬化促進剤における硬化残基)中に含有する下式で定義される芳香環含有化合物の割合は15質量%以下に抑えることが好ましい。ここでいう「(C)硬化促進剤における硬化残基」とは、硬化条件により(C)硬化促進剤の全て又は一部が消失(分解、揮発など)するものがあるので、硬化条件で保護膜中に残留する(C)硬化促進剤を意味する。硬化後の保護膜中に残留する(C)硬化促進剤の量を正確に定量できない場合は、硬化条件による消失はないと仮定した仕込み量をもとに算出し、芳香環含有化合物の割合が15質量%以下となる範囲で(C)硬化促進剤を使用することが好ましい。また、「芳香環含有化合物」とは、分子内に芳香環を少なくとも1つ有する化合物を意味する。
芳香環含有化合物の割合=[(芳香環含有化合物使用量)/(保護膜の質量((A)カルボキシ基を含有するポリウレタン質量+(B)エポキシ化合物質量+(C)硬化促進剤における硬化残基質量)]×100(%)
以上に述べた硬化性樹脂組成物を使用し、例えば、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法等の印刷により、金属細線を含む透明導電層が形成された基材上に硬化性樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥、除去後に硬化性樹脂を硬化して保護膜を形成する。硬化後得られる保護膜の厚みは、30nm超1μm以下であることが好ましい。保護膜の厚みは、50nm超500nm以下であることがより好ましく、100nm超200nm以下であることがさらに好ましい。保護膜の厚みが1μm以下であると後工程での配線との導通が容易となる。保護膜の厚みが30nm超であると、透明導電層を保護する効果が十分発揮される。
また、本発明において前述の銀ナノワイヤインク中に配合した2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物はオーバーコートインクに配合しても良く、その配合量は銀ナノワイヤインク中に配合する量と同等からその5倍の範囲内とすることが好ましい。。
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
<透明導電フィルムの評価方法の概要>
銀ナノワイヤインク、オーバーコートインクを作製したのち、フィルム(透明基材)上に銀ナノワイヤインク及びオーバーコートインクを順次塗布、乾燥して透明導電フィルムを作製した。この透明導電フィルムにレーザーエッチングによって後述する図1に示す評価用パターンを形成し、高温高湿下で電圧を印加して陽極側、陰極側及びレーザーエッチング箇所を跨いでの抵抗値変化を経時観測し、初期抵抗値からの変化率が20%に達するまでの時間を計測した。
また、透明導電フィルムの表面抵抗値及び全光線透過率をあわせて測定した。
<銀ナノワイヤインクの作製>
表1に示す配合比で原料を混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で3時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク25gを作製した。なお、表1において、芳香族カルボニル化合物としては、2-アミノ安息香酸メチル(分子量:151.2)と2’-アミノアセトフェノン(分子量:135.2)、2-ヒドロキシ安息香酸メチル(分子量:152.2)、2’-ヒドロキシアセトフェノン(分子量:136.2)及び後述する比較例としての2-アミノ安息香酸(分子量:137.1)、2-アミノベンズアルデヒド(分子量:121.1)、3-アミノ安息香酸メチル(分子量:151.2)、2-ヒドロキシ安息香酸(分子量:138.1)を用いた。また、比較例として尿素化合物である尿素(分子量:60.1)及び1-フェニル尿素(分子量:136.2)を用いた。2-アミノ安息香酸メチル、2’-アミノアセトフェノン、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸メチル、2-ヒドロキシ安息香酸メチル、2’-ヒドロキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ安息香酸、尿素、1-フェニル尿素は東京化成工業株式会社製の試薬、2-アミノベンズアルデヒドはCombi-Blocks社製の試薬である。銀ナノワイヤは、ポリオール法で合成した平均径26nm、平均長18μmのものを用いた。平均径と平均長の算出には、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法を測定し、その算術平均値を求めた。バインダー樹脂としてのポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA)は昭和電工株式会社製PNVA GE191-103(重量平均分子量75万[カタログ値])を用いた。分散媒としてのメタノール、エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)は富士フイルム和光純薬株式会社製の試薬を用い、プロピレングリコール(PG)はAGC株式会社製のものを用いた。
<オーバーコートインクの作製>
攪拌装置、温度計、コンデンサーを備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)251.45g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(日本化成株式会社製)90.0g、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(富士フィルム和光純薬株式会社製)694.3gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、住化コベストロウレタン株式会社製)226.32gを30分かけて滴下した。滴下終了後、120℃に昇温し、120℃で6時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを2g加え、更に105℃にて6時間反応を行った。得られた(A)カルボキシ基含有ポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は41400、その樹脂溶液の酸価は26.8mgKOH/gであった。
前記で得られた(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの溶液(カルボキシ基含有ポリウレタン含有率:45質量%)10.0gをポリ容器に量り取り、(D)溶媒として1-ヘキサノール81.1g、酢酸エチル81.1g、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート3.3gを加え、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で12時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)した。均一であることを目視で確認したのち、(B)エポキシ化合物としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.49g、(C)硬化促進剤として、U-CAT5003(化合物名:ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、サンアプロ株式会社製)0.30gを加え、再度ミックスローターを用いて1時間撹拌し、オーバーコートインクを得た。
<透明導電フィルムの作製>
<透明導電層の形成>
プラズマ処理装置(積水化学工業株式会社製AP-T03)を用いてプラズマ処理(使用ガス:窒素、搬送速度:50mm/sec、処理時間:6sec、設定電圧:400V)したA4サイズのシクロオレフィンポリマーフィルムZF16-40(日本ゼオン株式会社製)(透明基材)の一方の主面全面上に、IMC-70F0-C型塗工機(株式会社井元製作所製)とスパイラルバーコーター(TQC社製)を用い、ウェット膜厚が22μmとなるように銀ナノワイヤインクを塗布した。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成製)で80℃、5分間、大気雰囲気下で熱風乾燥し、厚みTcが80nmの透明導電層(銀ナノワイヤ層)を形成した。透明導電層(銀ナノワイヤ層)の厚みTcは、光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を直接測定できる。
<銀ナノワイヤ交差部の融着の確認>
透明導電層が形成された前記シクロオレフィンポリマーフィルムから銀ナノワイヤ同士の交差部(交点)を含む厚さ約100nmの透過型電子顕微鏡観察用薄片化試料を作製した。これを、透過型電子顕微鏡HF-2200(株式会社日立ハイテク製)を用いて、加速電圧200kVで観察した。銀ナノワイヤの交差部(交点)が複数確認された。続いて、銀ナノワイヤの交差部(交点)及び銀ナノワイヤの交差部(交点)から十分はなれた位置で電子線回折パターンをそれぞれ観察した結果、銀ナノワイヤの交点付近で銀ナノワイヤ特有の5角柱双晶構造に基づく典型的な回折パターンが認められなかった。これより銀ナノワイヤの交点付近で銀ナノワイヤが融解し再結晶したこと、すなわち融着したことを確認した。
<オーバーコート層の形成>
透明基材としての前記シクロオレフィンポリマーフィルムZF16-40の第一の主面上に形成した前記銀ナノワイヤ層の上に、TQC自動フィルムアプリケータースタンダード(コーテック株式会社製)とワイヤレスバーコータOSP-CN-07M(コーテック株式会社製)を用い、ウェット膜厚が7μmになるようにオーバーコートインクを全面に塗布した(塗工速度333mm/sec)。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、1分間、大気雰囲気下で熱風乾燥(熱硬化)し、厚みTが125nmのオーバーコート層を形成した。オーバーコート層の厚みTは、前述の透明導電層(銀ナノワイヤ層)の膜厚同様光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)とその上に形成されたオーバーコート層の膜厚(T)との総膜厚(Tc+T)が直接測定できるので、この測定値から先に測定した銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を差し引くことによりオーバーコート層の膜厚(T)が得られる。
[マイグレーション耐性評価]
<レーザーエッチング>
図1に実線で表示しているように前記透明導電フィルムを120mm×20mmの短冊状にカットして試験片10とした。試験片10に対して、フェムト秒グリーンレーザ加工機LodeStone(イー・エス・アイ・ジャパン株式会社製)を用いて図1に破線で表示しているように加工幅30μm幅となるようエッチング加工を施し、絶縁領域12を形成した。この結果、試験片10には、電極1と電極2との間及び電極3と電極4との間に、幅2mm、長さ100mmの、互いに平行する電圧印加領域14、16が形成され、評価用パターンとして使用する。
<電圧印加試験>
前記エッチング加工した試験片10を、短冊の四隅(楕円で表示)に銀ペーストドータイトD-550(藤倉化成株式会社製)を施した後室温乾燥させ電極1~電極4を作製した。その後、(a)で示す通り電極1と電極3の間をマイグレーションテスターMIG―8800B(IMV株式会社製)で接続した。また、(b)で示す通り電極3と電極4との間、(c)で示す通り電極1と電極2との間、(d)で示す通り電極2と電極4との間、をそれぞれマルチメーター2700(KEITHLEY社製)に接続し、その上から銅箔テープ(株式会社ニトムズ製)を貼合(矩形で表示)した。恒温恒湿槽TH403HA(ETAC株式会社製)内に前記試験片10を入れ、温度65℃、相対湿度90%の環境下で、(a)で示す電極1-電極3間にマイグレーションテスターMIG―8800Bにより5Vの電圧を印加した。その後、陽極側((b)で示す電極3-電極4間)、陰極側((c)で示す電極1-電極2間)及び絶縁領域12(レーザーエッチング部分)を跨いだ(d)で示す電極2-電極4間(陰極側の電圧印加領域14と陽極側の電圧印加領域16との間)の各抵抗値の経時変化をマルチメーター2700(KEITHLEY社製)によりリアルタイムで観測し、陰極側((c)で示す電極1-電極2間)の抵抗値上昇率が20%となるまでの時間を計測した。抵抗値上昇率は以下の数式に基づいて算出した。
抵抗値上昇率(%)=[(電圧印加後の抵抗値-初期の抵抗値)/初期の抵抗値]×100
<シート抵抗測定>
前記A4サイズのシクロオレフィンポリマーフィルムZF16-40(日本ゼオン株式会社製)(透明基材)に銀ナノワイヤインクを全面塗布して形成した透明導電フィルムから3cm×3cmの試験片を切り出し、試験片の中心部に手動式非破壊抵抗測定器EC-80P(ナプソン株式会社製)の端子を当てて測定した。
<全光線透過率測定>
前記3cm×3cmの試験片を用い、ヘーズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)で測定した。
表1に評価に使用した銀ナノワイヤインク組成と得られた透明導電フィルムの評価結果を示す。表中のシート抵抗及び全光線透過率の測定値は、マイグレーション耐性評価前の測定値である。
Figure 2024066316000005
表1に示した、2位にアミノ基を有する芳香族カルボニル化合物(2-アミノ安息香酸メチル及び2’-アミノアセトフェノン)を配合した銀ナノワイヤインクを用いた実施例1及び2では、芳香族カルボニル化合物を配合しなかった銀ナノワイヤインクを用いた比較例1と比べて電圧を印加した後の陰極の初期抵抗値からの変化率が20%に達するまでの時間が長くなり、マイグレーション耐性が改善した。
一方、2位にアミノ基を有する芳香族カルボニル化合物でも比較例2の2-アミノ安息香酸、比較例3の2-アミノベンズアルデヒド、及び比較例4の3-アミノ安息香酸メチルはシート抵抗が大きく、導電性の悪化が確認された。
また、2位にヒドロキシ基有する芳香族カルボニル化合物(2-ヒドロキシ安息香酸メチル及び2’-ヒドロキシアセトフェノン)を配合した銀ナノワイヤインクを用いた実施例3~7でも、芳香族カルボニル化合物を配合しなかった銀ナノワイヤインクを用いた比較例1と比べて電圧を印加した後の陰極の初期抵抗値からの変化率が20%に達するまでの時間が長くなり、マイグレーション耐性が改善した。さらに、実施例3~6の通り2-ヒドロキシ安息香酸メチルの添加量を増やす程、電圧を印加した後の陰極の初期抵抗値からの変化率が20%に達するまでの時間が長くなりマイグレーション耐性の改善が確認された。
一方、2位にヒドロキシ基を有する芳香族カルボニル化合物でも比較例7の2-ヒドロキシ安息香酸はシート抵抗が大きく、導電性の悪化が確認された。
電圧印加試験後に透明導電フィルム(陰極側の電圧印加領域14と陽極側の電圧印加領域16)をレーザー顕微鏡VK-X200(株式会社キーエンス製)で観察すると、陰極側の電圧印加領域14では銀ナノワイヤの粒子化が観察された。なお、陽極側の電圧印加領域16の抵抗値はいずれの実施例及び比較例でもほとんど変化が見られず、レーザーエッチング部分を跨いだ(陰極側の電圧印加領域14と陽極側の電圧印加領域16との間の)絶縁領域12での短絡もなかった。
以上より、2位の置換基がヒドロキシ基である方がマイグレーション耐性改善が顕著であることがわかった。
一方、特許文献4に記載の低分子尿素化合物を配合した銀ナノワイヤインクを用いた比較例5及び6でもシート抵抗は何も配合していない比較例1より大きな値であることがわかる。すなわち、低分子尿素化合物の添加がフィルムの導電性を損なっているといえる。全光線透過率は実施例と比較例のすべてで同等の値であり、本発明の銀ナノワイヤインクを用いても光学特性(透明性)が損なわれないことが確認できた。なお、特許文献4の実施例で使用されている銀ナノワイヤインクのバインダー樹脂(エチルセルロース、ポリ-N-ビニルピロリドン)を使用した場合には、低分子尿素化合物の配合によるマイグレーション耐性向上効果は認められたが、本発明者の検討(検討条件が比較例5,6とは異なるため表1には未記載)によれば、ポリ-N-ビニルアセトアミドをバインダー樹脂として使用すると、マイグレーション耐性向上効果はあるもののその程度は小さかった。バインダー樹脂単独でのマイグレーション耐性がポリ-N-ビニルアセトアミドの方がエチルセルロース、ポリ-N-ビニルピロリドンより高いことに基因するものと推定され、ポリ-N-ビニルアセトアミドをバインダー樹脂として用いた銀ナノワイヤインクでマイグレーション耐性効果が認められれば、エチルセルロース、ポリ-N-ビニルピロリドンをバインダー樹脂として用いた銀ナノワイヤインクでもマイグレーション耐性効果は当然認められる。
以上の結果より、本発明の銀ナノワイヤインクを用いるとマイグレーション耐性が良好な透明導電フィルムを実現することができることが立証された。また、良好な導電性を維持するという点で既知の添加剤を配合するより優れていることが示された。
1、2、3、4 電極、10 試験片、12 絶縁領域、14、16 電圧印加領域。

Claims (8)

  1. 式(1)で表される2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ、バインダー樹脂及び分散媒を含むことを特徴とする銀ナノワイヤインク:
    Figure 2024066316000006
    (式(1)中Rは、炭素原子数が1~3のアルキル基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、Rはアミノ基、ヒドロキシ基又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、X~Xはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を表す)。
  2. 前記銀ナノワイヤインク中の前記2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物の含有率が0.01~0.30質量%、
    銀ナノワイヤの含有率が0.01~1.50質量%、
    バインダー樹脂の含有率が0.01~2.00質量%
    である請求項1に記載の銀ナノワイヤインク。
  3. 前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルアセトアミド、エチルセルロースもしくはポリ-N-ビニルピロリドンである請求項1又は2に記載の銀ナノワイヤインク。
  4. 前記分散媒が、水と、C2n+1OH(nは1~3の整数)で表されるアルコールの少なくとも一種と、を含む請求項1又は2に記載の銀ナノワイヤインク。
  5. 前記分散媒が、さらにエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項4に記載の銀ナノワイヤインク。
  6. 透明基材と、前記透明基材上に形成され、式(1)で表される、2位に置換基を有する芳香族カルボニル化合物、銀ナノワイヤ及びバインダー樹脂を含む透明導電層と、を含む、透明導電フィルム:
    Figure 2024066316000007
    (式中Rは水素原子、炭素原子数が1~3のアルキル基、又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、式中Rはアミノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数が1~3のアルキルオキシ基を表し、X~Xはそれぞれ独立に水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基、又はトリフルオロメチル基を表す)。
  7. 前記透明導電層の上にオーバーコート層が形成された請求項6に記載の透明導電フィルム。
  8. 前記透明基材が、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、透明ポリイミドのいずれかのフィルムである請求項6又は7に記載の透明導電フィルム。

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