JP2023127128A - 置換マレイミド含有(メタ)アクリル系重合体の製造方法及び該重合体 - Google Patents

置換マレイミド含有(メタ)アクリル系重合体の製造方法及び該重合体 Download PDF

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Abstract

【課題】着色が抑制されたN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を水系での重合によって製造する方法の提供。【解決手段】前記製造方法は、N-置換マレイミド系単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位とを含む重合体の製造方法であって、水系分散液中で、N-置換マレイミド系単量体1~30重量%、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体70~99重量%を含む単量体成分を重合させる重合工程、及び、前記水系分散液のpHを6.0~12.0の範囲に調整する調整工程、を含む。前記重合工程後において、前記水系分散液の固形分に対する前記N-置換マレイミド系単量体の割合が0.3重量%以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、N-置換マレイミド系単量体単位を含む(メタ)アクリル系重合体の製造方法及び該重合体に関する。
メタクリル系樹脂は、優れた透明性、色調、外観、耐候性、光沢および加工性を有するため、産業上さまざまな分野で大量に使用されている優れたポリマーである。特に、メタクリル系樹脂から成形された樹脂フィルムは、優れた透明性、外観、耐候性を活かし、自動車内外装材、携帯電話やスマートフォンなどの電化製品の外装材や、床、窓、内外壁、採光部、道路標識などの土木建築用内外装材など各種用途に使用されている。近年、メタクリル系樹脂はその優れた光学特性を生かし、液晶表示装置や有機EL表示装置等の光学部材にも適用されている。
このようなメタクリル系樹脂の耐熱性や光学特性を改善する目的で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体にN-置換マレイミド系単量体を共重合して、N-置換マレイミド系単量体単位を含むメタクリル系樹脂を製造する技術が知られている。
しかしながら、このようなN-置換マレイミド系単量体単位を含むメタクリル系樹脂においては、成形加工時に着色が生じやすいという問題があった。
N-置換マレイミド系単量体単位を含むメタクリル系樹脂における着色の問題を解決する手法として、特許文献1では、マレイミド系単量体とメタクリル酸エステル系単量体とを重合させる際に、硫黄系連鎖移動剤と共に、有機リン系化合物または有機酸等の酸性物質を反応系中に存在させることが記載されている。また、重合方法としては、水が存在する系では、マレイミド類単量体が加水分解して着色の原因となる恐れがあるため、非水系の重合方法、つまり溶液重合を採用することが好ましい、と記載されている。
特開2001-233919号公報
特許文献1に記載の手法では、使用可能な重合方法が、非水系の重合方法に限定されており、水系での重合方法を採用することができなかった。また、重合系に、硫黄系連鎖移動剤と酸性物質を共存させる必要があった。
さらに、特許文献1では、樹脂を溶融混錬して得たペレットに関してその着色の度合を評価している。即ち、溶融加工によって生じる着色を評価している。
しかし、本発明者らは、水系の重合によってN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を製造した場合には、溶融加工を行う前の段階でも着色の問題が発生し得ること、特に、噴霧乾燥などで乾燥させて得た同重合体や、同重合体を溶媒に溶解させた溶液において、着色の問題が発生し得ることを見出した。
本発明は、上記現状に鑑み、着色が抑制されたN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を水系での重合によって製造する方法の提供を目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水系分散液中での重合によってN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を製造するにあたって、水系分散液のpHを特定範囲に調整し、かつ、重合後の水系分散液中に含まれるN-置換マレイミド系単量体の量を特定値以下に低減することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、N-置換マレイミド系単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位とを含む重合体の製造方法であって、
水系分散液中で、N-置換マレイミド系単量体1~30重量%、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体70~99重量%を含む単量体成分を重合させる重合工程、及び、
前記水系分散液のpHを6.0~12.0の範囲に調整する調整工程、を含み、
前記重合工程後において、前記水系分散液の固形分に対する前記N-置換マレイミド系単量体の割合が0.3重量%以下である、製造方法に関する。
好ましくは、前記調整工程が、前記重合工程の後に実施される。
好ましくは、前記調整工程において、前記水系分散液にキレート剤を添加する。
好ましくは、前記重合工程を、乳化剤の存在下、乳化重合により行う。
好ましくは、前記製造方法は、前記水系分散液を噴霧乾燥することにより前記重合体の粉粒体を得る乾燥工程、を更に含む。
好ましくは、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で前記重合工程を実施する。
また本発明は、N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含む重合体であって、
前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%であり、
前記重合体を蒸留水に、前記重合体:前記蒸留水=1:2の重量比率で分散させたときの水分散液のpHが5.0~12.0である、重合体にも関する。
さらに本発明は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と非架橋重合体成分とを含むグラフト共重合体であって、
前記非架橋重合体成分が、N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含み、
前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%であり、
前記グラフト共重合体を蒸留水に、前記重合体:前記蒸留水=1:2の重量比率で分散させたときの水分散液のpHが5.0~12.0である、グラフト共重合体にも関する。
さらにまた、本発明は、重合体を含む、溶液流延法によるフィルム製造用樹脂組成物;該フィルム製造用樹脂組成物、及び、溶剤を含む、ドープ;又は、前記フィルム製造用樹脂組成物から溶液流延法により成形される樹脂フィルムにも関する。
本発明によれば、着色が抑制されたN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を水系での重合によって製造する方法を提供することができる。
以下に本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
本実施形態に係る重合体の製造方法は、少なくとも、水系分散液中で、N-置換マレイミド系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体成分を重合させる重合工程、及び、前記水系分散液のpHを6.0~12.0の範囲に調整する調整工程、を含む。これにより、N-置換マレイミド系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位とを含む重合体を製造する。当該重合体を、以下では、「N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体」、又は、単に「重合体」ともいう。
<単量体成分>
前記重合工程で使用する単量体成分は、少なくとも、N-置換マレイミド系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む。N-置換マレイミド系単量体を使用することによって、得られる重合体は耐熱性に優れたものとなる。
前記N-置換マレイミド系単量体としては、窒素原子上に置換基を有するマレイミド系単量体であればよい。窒素原子上の置換基としては、例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基、置換又は無置換のアラルキル基等が挙げられる。前記アルキル基は鎖状のものでもよいし、環状のものでもよい。前記アルキル基、アリール基、アラルキル基が有していて良い置換基としては特に限定されず、例えば、アルコキシ基、ハロゲン基等が挙げられる。
前記N-置換マレイミド系単量体が、窒素原子上に置換又は無置換のアリール基を有する場合、従来の製法によると、前述した重合体の着色の問題が特に発生しやすい。しかしながら、本開示の製造方法によると、置換又は無置換のアリール基を窒素原子上に有するマレイミド系単量体を使用しても、重合体の着色を効果的に抑制することができる。
前記N-置換マレイミド系単量体の具体例としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
前記N-置換マレイミド系単量体の使用量は特に限定されないが、前記単量体成分全体に占める前記N-置換マレイミド系単量体の割合は、得られる樹脂の耐熱性や光学特性の観点から、1~30重量%である。好ましくは2~25重量%であり、より好ましくは3~20重量%であり、さらに好ましくは4~18重量%であり、特に好ましくは5~15重量%である。本開示に係る製造方法によると、前記N-置換マレイミド系単量体の使用量が比較的高くても、重合体の着色を効果的に抑制することができる。
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、エステル部位が炭素数1~20の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステル系単量体が挙げられる。前記炭化水素基は、脂肪族系炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族系炭化水素基のいずれであってもよい。また、前記炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、クロロ基等の置換基を有していてもよい。尚、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルをまとめて指す用語である。
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2-トリクロロエチルメタクリレート等が挙げられる。
中でも、得られる重合体の耐熱性及びフィルムの観点から、前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、少なくともメタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体の使用量は特に限定されないが、前記単量体成分全体に占める前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体の割合は、得られる樹脂の耐熱性や光学特性の観点から、70~99重量%である。好ましくは75~98重量%であり、より好ましくは80~97重量%であり、さらに好ましくは82~96重量%であり、特に好ましくは85~95重量%である。
また、前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体として、少なくともメタクリル酸メチルを用いる場合、前記単量体成分全体に占めるメタクリル酸メチルの割合は、得られる樹脂の外観や耐候性の観点から、30~99重量%であることが好ましく、50~98重量%がより好ましく、60~97重量%がさらに好ましく、70~96重量%がより更に好ましく、80~95重量%が特に好ましい。
前記重合工程で使用する単量体成分は、N-置換マレイミド系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外の他の単量体をさらに含有してもよい。
前記他の単量体としては、N-置換マレイミド系単量体又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合できる単量体であればよく、特に限定されないが、例えば、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸等のα,β-不飽和カルボン酸類又はその塩;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等の芳香族ビニル系化合物;マレイン酸、フマル酸、又はそれらのエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル系単量体;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレン等のアルケン類等が挙げられる。
前記他の単量体の使用量は特に限定されないが、前記単量体成分全体に占める前記他の単量体の割合は、得られる樹脂の耐熱性や光学特性の観点から、0~20重量%程度が好ましく、0~10重量%がより好ましく、0~5重量%がさらに好ましい。
得られる重合体が良好な耐熱性を有すると共に、溶液流延法で樹脂フィルムを作製する際に流延膜からの溶剤の揮発速度を速くすることができるため、前記単量体成分は、メタクリル酸メチルを含有し、更に、エステル部位が炭素数2~20の第一級もしくは第二級炭化水素基、又は芳香族系炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位、エステル部位がエーテル結合を含む直鎖状又は分岐状の基であるメタクリル酸エステル単位、及び、芳香族ビニル系化合物単位からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
前記エステル部位が縮合環構造を有する炭素数7~16の飽和炭化水素基であるメタクリル酸エステル単位としては、例えば、メタクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記飽和炭化水素基の炭素数は8~14が好ましく、9~12がより好ましい。また、縮合環構造とは、特に限定されないが、連続する3つの炭素原子によって2つの五員環が縮環した構造であることが好ましい。
前記エステル部位がエーテル結合を含む直鎖状又は分岐状の基であるメタクリル酸エステル単位としては、例えば、メタクリル酸2-メトキシエチル等が挙げられる。
前記単量体成分は、分子内に2個以上の重合性官能基を有する多官能性単量体を含まないものであってもよい。これによって得られる重合体は、架橋構造を含まない非架橋重合体となる。即ち、本開示に係る製造方法は、多官能性単量体を含まない単量体成分を重合することによって、架橋構造を含まない非架橋重合体を製造するものであってよい。
しかしながら、本開示の一態様によると、前記重合工程を、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で実施してもよい。この態様によると、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と非架橋重合体成分とを含むグラフト共重合体を製造することができる。この態様については後述する。
<重合工程>
重合工程では、上述した単量体成分を水系分散液中で重合させることによって、重合体を形成する。水系分散液としては、水を媒体とする懸濁液又は乳化液が挙げられる。水の使用量は特に限定されず、単量体成分の重合が可能な範囲で適宜設定すればよい。
水系分散液中での重合は、重合体の構造設計の自由度や、重合の簡便さ、生産性等の観点から、乳化重合法又は懸濁重合法によることが好ましい。特に、重合後の残存N-置換マレイミド系単量体量を効果的に低減できるため、乳化重合法を用いて重合することが好ましい。
前記乳化重合は、乳化剤の存在下で実施する。当該乳化剤としては、カチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、両性乳化剤等のイオン系乳化剤、非イオン(ノニオン)系乳化剤のいずれであってもよい。
乳化重合が終了した後の反応系に対して、洗浄操作を実施せずに乾燥操作のみを実施することで重合体を回収した場合、回収された重合体は乳化剤を含む。このような乳化剤は、当該重合体を用いて溶液流延法によって作製した樹脂フィルムにおいて発泡痕の原因となり得る。このような発泡痕を低減できる観点から、乳化剤としては、イオン系乳化剤を使用することが好ましく、特に、アニオン系乳化剤が好ましい。
前記イオン系乳化剤としては公知のものを使用することができる。具体的には、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル型、リン酸エステル型などが挙げられるが、樹脂フィルムにおける発泡痕を高度に抑制することができる上、重合安定性にも優れることから、スルホン酸塩が好ましい。
前記スルホン酸塩としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩等が挙げられる。中でも、ジアルキルスルホコハク酸塩又はアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
前記スルホン酸塩は、発明の効果を発現しうるものであれば特に制限されず、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの、一価の陽イオンの塩、又は、カルシウム塩、マグネシウム塩などの、二価の陽イオンであってよい。特に発泡痕を効果的に抑制できる観点から、リチウム塩、ナトリウム塩、及び、カリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。スルホン酸塩がこれら一価の陽イオンの塩である場合、重合体中に当該塩が残存しても、ドープ溶媒中のアルコール成分に塩が溶解し、溶液ドープ中で塩をミクロに微細分散させると考えられるため、発泡をミクロなレベルに抑えることができる。
乳化剤として前記スルホン酸塩を用いると、重合時に乳化剤の使用量の制約を受けにくく、重合設計の幅を広げることも可能である。また、洗浄の工数を低減できるばかりでなく、洗浄を必要としない重合体取得法、例えば、噴霧乾燥法等の造粒方法の適用も可能となるため、重合体製造の生産性を大幅に向上することもできる。
乳化剤の使用量は特に限定されず、乳化重合を実現する範囲で適宜設定すればよい。また、乳化剤は一括添加してもよいし、逐次添加してもよい。
前記重合工程では重合開始剤を使用することが好ましい。当該重合開始剤としては、公知のものを使用することができ、具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のアルキルハイドロパーオキサイド;ジ8,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル;ジ-t-ブチルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル;t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシカーボネート;t-ブチルパーオキシラウレイト等のアルキルパーオキシエステル;2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等の有機過酸化物が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤としては、過硫酸塩のみを用いてもよいし、有機過酸化物のみを用いてもよい。また、過硫酸塩と有機過酸化物を併用してもよい。併用する場合、これらを順次添加することができる。具体的には、過硫酸塩の存在下で重合を開始した後、重合の途中で、有機過酸化物を添加して重合を継続することができる。過硫酸塩と有機過酸化物を併用することで、N-置換マレイミド系単量体の重合反応を促進して、重合後の残存N-置換マレイミド系単量体量を低減することができる。有機過酸化物は過硫酸塩よりも親油性が高いため、N-置換マレイミド系単量体の重合反応を促進できると考えられる。
前記重合開始剤は、熱分解機構のみで開裂させてラジカルを発生させて重合してもよいし、また、低温でラジカルを発生可能なレドックス系開始剤を構成して重合してもよい。
前記レドックス系開始剤は、上述した重合開始剤に加えて、還元剤、キレート剤、及び賦活剤からなる群より選択される少なくとも1種とから構成される。
前記還元剤としては特に限定されないが、例えば、グルコース、デキストロース、スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸等が挙げられる。低コストで高活性であることから、スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒドが特に好ましい。
前記レドックス系開始剤に含まれる前記キレート剤としては特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸などのポリアミノカルボン酸、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸などのオキシカルボン酸、それらの金属塩が挙げられる。毒性が低く安全で、活性が高いことから、ポリアミノカルボン酸又はその金属塩が好ましい。
前記レドックス系開始剤に含まれる前記賦活剤としては特に限定されないが、例えば、鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、コバルト等の金属の塩が挙げられる。中でも、硫酸第一鉄、硫酸銅、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムが好ましい。尚、前記キレート剤と前記賦活剤は、個別に添加してもよいし、予め両者を反応させて金属錯体として添加しても良い。
前記重合開始剤、還元剤、キレート剤、及び賦活剤の使用量は特に限定されず、常法に従い適宜設定することができる。
製造する重合体の分子量を制御するため、前記重合工程は、連鎖移動剤の存在下で実施しても良い。連鎖移動剤としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタンなどの1級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、s-ブチルメルカプタン、s-ドデシルメルカプタンなどの2級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、t-ドデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタンなどの3級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのチオグリコール酸エステル、チオフェノール、テトラエチルチウラムジスルフィド、ペンタンフェニルエタン、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、四塩化炭素、臭化エチレン、α-メチルスチレンダイマーなどのスチレンオリゴマー、テルピノレンなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記重合工程の温度は特に限定されず、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、例えば、30~100℃程度であってよく、50~95℃であってもよい。
一般に、N-置換マレイミド系単量体は、水系において重合活性が比較的低く、重合工程後に未反応のまま残存しやすい傾向がある。
しかしながら、本開示に係る製造方法では、重合工程後の水系分散液中における残存N-置換マレイミド系単量体量が低減されるように重合工程を実施する。具体的には、重合工程後に、水系分散液の固形分に対するN-置換マレイミド系単量体の割合が0.3重量%以下になるように、重合工程を実施する。この残存N-置換マレイミド系単量体量の低減と、後述する調整工程の実施を組み合わせることによって、N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体における着色を抑制することが可能となる。
前記残存N-置換マレイミド系単量体量は、重合反応が終了した時点で測定する。当該測定は、後述する実施例の項の記載に沿って行うことができる。残存N-置換マレイミド系単量体とは、重合工程後に、重合していないN-置換マレイミド系単量体を指す。前記水系分散液の固形分とは、合成した重合体や、残存モノマーの他、重合で使用した乳化剤や重合開始剤、還元剤、副生物なども含む総量を指す。
前記残存N-置換マレイミド系単量体量は0.3重量%以下であればよいが、0.2重量%以下であることが好ましく、0.15重量%以下がより好ましい。当該量は少ないほど好ましく、下限値は0重量%以上であればよい。
残存N-置換マレイミド系単量体量を低減する手法としては、例えば、前述した重合開始剤として過硫酸塩と有機過酸化物を併用することの他、単量体の添加順序の調節、重合温度や重合時間の制御、水系分散液の濃度の調節などが挙げられる。これら手法を単独で、または適宜組み合わせて実施することができる。より具体的に述べると、使用する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の大部とN-置換マレイミド系単量体を先に共重合した後、残部の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を添加して重合させる方法がある。また、重合反応をある温度で実施した後、重合温度を上げてさらに重合を継続する方法もある。
<調整工程>
本開示に係る製造方法では、水系分散液のpHを6.0~12.0の範囲に調整する調整工程を実施する。この調整工程の実施と、上述した残存N-置換マレイミド系単量体量の低減を組み合わせることによって、N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体における着色を抑制することが可能となる。
N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体における着色発生の原因は以下のように推測される。重合後に水系分散液中に残存したN-置換マレイミド系単量体は、水によって加水分解されやすい。N-置換マレイミド系単量体が加水分解されると、アミン系化合物(例えば、アニリン)が発生する。同時にマレイン酸が発生するため、系のpHが低下する傾向がある。
発生したアミン系化合物は、酸性条件下、過酸化物など開始剤の存在下で、重合して着色性の重合体(例えば、ポリアニリン)を形成し得る。また、噴霧乾燥では、水系分散液を乾燥させた後、微粒子をフィルターで捕集する場合があるが、例えば、フィルター中に重合原料で酸性を示す成分が残っていると、熱滞留によってフィルターが酸性を示す場合があり、これによっても、アミン系化合物の重合が促進され得る。アミン系化合物の重合によって形成された重合体が、着色の原因になると考えられる。
本開示に係る製造方法によると、重合後の残存N-置換マレイミド系単量体量を低減すると共に、水性分散液を中性~アルカリ性領域(pH=6.0~12.0)に調節することで、アミン系化合物の発生量を低減し、かつ、発生したアミン系化合物の重合を抑制することで、N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体における着色の抑制が可能になるものと考えられる。
調整工程で調整後の水系分散液のpHは、6.0~12.0の範囲にあればよいが、
着色の抑制に加え、重合体をフィルム化した時の低ヘイズや低位相差も考慮して、前記pHは、6.0~11.0であることが好ましく、6.0~10.0がより好ましく、6.0~9.0がさらに好ましく、6.5~8.5が特に好ましい。また、前記pHは7.5を超える値であってもよく、7.6以上であってもよい。
当該調整工程は、重合系の安定性を害しないよう、重合工程が終了した後の水系分散液に対して実施することが好ましい。尚、調整工程を実施する前の水系分散液のpHについては特に限定されないが、1.0~7.0程度であってよく、2.0~6.0であってよく、2.5~5.0であってよい。
前記水系分散液のpHを調整するには、前記水系分散液に塩基性化合物を添加することが好ましい。当該塩基性化合物としては特に限定されないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩等の無機塩基が挙げられる。なかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹が好ましい。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記塩基性化合物の添加量は、目的のpH値を考慮して適宜調節すればよい。
前記調整工程では、水系分散液に、前記塩基性化合物と共に、キレート剤を添加することが好ましい。キレート剤とは、複数の配位座を有し、金属イオンと結合する非金属の配位子をいい、緩衝剤として作用し得る。キレート剤を添加することにより、水系分散液のpHを安定的に調整することが可能となる。
前記キレート剤としては特に限定されないが、例えば、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、trans-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、ジアミノプロパノール四酢酸、エチレンジアミン-2-プロピオン酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸、またはそれらの塩等のアミノカルボン酸型キレート剤;L-グルタミン酸二酢酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、フィチン酸、またはそれらの塩等が挙げられる。前記キレート剤としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
前記キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸又はその塩が好ましい。
前記キレート剤の添加量は特に限定されないが、使用する単量体の総量100重量部に対して0.01~0.1重量部が好ましく、0.01~0.05重量部がより好ましく、0.01~0.03重量部が更に好ましい。0.1重量部以下であると、重合体をフィルムにした時のヘイズが低くなる傾向にあり、0.01重量部以上であると、着色の抑制効果がより良好となる。
<乾燥工程>
前記重合工程及び前記調整工程によって得られた水系分散液を、加熱乾燥または噴霧乾燥に付すことにより、あるいは、塩または酸等の水溶性電解質を添加して凝固させ、更に熱処理を実施した後に水相から重合体成分を分離して洗浄、乾燥を行なう等の公知の方法に付すことにより、固体または粉粒状の重合体を回収することができる。
本開示の製造方法では、前記重合工程及び前記調整工程によって得られた水系分散液に対して、水や有機溶剤を用いる洗浄操作を実施せず、加熱乾燥または噴霧乾燥にて乾燥工程を直接実施することで重合体を回収してもよい。この態様によると、洗浄操作を実施せずに、着色が抑制されたN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を取得することができる。洗浄操作を実施しないことは、エネルギーコスト及び生産性の観点から好ましい。特に、前記水系分散液を噴霧乾燥することにより前記重合体の粉粒体を得ることが好ましい。
前記加熱乾燥または噴霧乾燥の条件は特に限定されず、水系分散液から水を蒸散させて、粉粒状の重合体を回収できる条件を適宜選択すればよい。
<架橋粒子形成工程>
本開示の一態様によると、前述した重合工程を、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で実施してもよい。具体的には、まず、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を形成するための架橋粒子形成工程を実施し、その後、形成された架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で、前述した重合工程を実施して非架橋重合体成分を形成すればよい。この態様によると、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と非架橋重合体成分を含むグラフト共重合体を製造することができる。架橋(メタ)アクリル系重合体粒子はゴム成分であるため、強度の改善に寄与し得る。また、非架橋重合体成分によって優れた耐熱性を達成することができる。
前記グラフト共重合体において、非架橋重合体成分の少なくとも一部は、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子にグラフト結合している。しかし、前記グラフト共重合体には、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子にグラフト結合していない非架橋重合体成分も含まれ得る。
前記グラフト共重合体は、例えば、粒子径の小さい架橋(メタ)アクリル系重合体粒子が高分子量の非架橋重合体成分中に分散している構成を有することができ、そのため、グラフト共重合体中で架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の凝集が進行しにくい。その結果、前記グラフト共重合体をパウダー状で貯蔵する時、また、溶剤に溶かしたドープとして貯蔵する時いずれの場合でも安定性が良好となる。また、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の凝集が抑制されていることから、前記グラフト共重合体は溶剤に溶解しやすいという利点もある。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子は、粒子径が比較的小さいものであることが好ましく、具体的には、平均粒子径が150nm以下であることが好ましい。このように粒子径が小さい架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を使用することによって、本態様によって製造されるグラフト共重合体を例えばフィルム化した時に低いヘイズを達成することができる。また、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を小粒子化することで前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と前記非架橋成分の屈折率を合わせる必要がなくなる。その結果、屈折率を考慮することなく、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子のガラス転移温度が低くなるような単量体組成を採用でき、これにより、前記グラフト共重合体を例えばフィイム化した時に高い強度を達成することができる。
前記平均粒子径は、低ヘイズの観点から、130nm以下がより好ましく、120nm以下がさらに好ましく、110nm以下がより更に好ましく、100nm以下が特に好ましい。前記平均粒子径の下限は特に限定されないが、フィルムの強度、又は、粒子の製造の容易さの観点から、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、60nm以上がさらに好ましい。尚、平均粒子径は体積平均粒子径であり、実施例の項で記載のように測定することができる。また、平均粒子径は、粒子作製時の条件(具体的には乳化剤の種類や量、乳化重合時の撹拌条件など)を調節することによって制御可能である。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子は、ガラス転移温度が-10℃以下を示すことが好ましい。このようにガラス転移温度が低い架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を使用することによって、前記グラフト共重合体を例えばフィルム化した時に高い強度を達成することができる。ガラス転移温度は、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を構成する単量体の種類や比率などを調節することによって制御できる。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子のガラス転移温度は-20℃以下がより好ましく、-30℃以下がさらに好ましく、-40℃以下がより更に好ましく、-45℃以下が特に好ましい。前記ガラス転移温度の下限は特に限定されないが、例えば、-130℃以上が好ましく、-110℃以上がより好ましく、-100℃以上がさらに好ましく、-80℃以上がより更に好ましく、-70℃以上が特に好ましい。尚、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値である。例えば、ポリアクリル酸n-ブチルは-54℃である。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子は、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分、及び、多官能性単量体を重合してなる架橋(メタ)アクリル系重合体から形成される粒子である。多官能性単量体を除く単量体成分は、アクリル系単量体及び/又はメタクリル系単量体を含むものであるが、少なくともアクリル系単量体を含むことが好ましい。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子に含まれるアクリル系単量体としては、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル酸n-ブチルが好ましい。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子に含まれ得る任意のメタクリル系単量体としては、アルキル基の炭素数が1~8であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル等が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アルキル基の炭素数が1~4のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。特に、メタクリル酸メチルが好ましい。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子では、上述したアクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステル以外の単量体を使用してもよい。そのような単量体としては、前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステル、前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステル、芳香族ビニル系単量体、他の共重合性ビニル単量体が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、その他のスチレン誘導体等が挙げられる。前記他の共重合性ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β-不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル、エチレンやプロピレン等のオレフィン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系単量体、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらはいずれも単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を構成する単量体成分は、強度や耐熱性の観点から、多官能性単量体を除く単量体成分のうち、アクリル酸エステル(特にアルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステル)を70重量%以上100重量%以下含むことが好ましく、80重量%以上100重量%以下含むことがより好ましく、90重量%以上100重量%以下含むことがさらに好ましく、95重量%以上100重量%以下含むことが特に好ましい。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子は、前記単量体成分を、多官能性単量体の存在下で重合することにより形成される。当該多官能性単量体は、架橋剤または架橋性単量体としても知られており、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な不飽和結合を1分子中に2個以上有する化合物である。具体的には、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、モノアリルマレエート、モノアリルフマレート、ブタジエン、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、アルキレングリコールジメタクリレート、アルキレングリコールジアクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。好ましくは、アリルメタクリレートである。
前記多官能性単量体の使用量は、強度の観点から適宜設定することができるが、具体的には、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子を構成する単量体成分(但し、多官能性単量体を除く単量体成分)100重量部に対して0.1重量部以上5.0重量部以下程度であってよい。しかし、グラフト共重合体の強度の観点から、前記多官能性単量体の使用量は、0.2~3.5重量部が好ましく、0.2~3.0重量部がより好ましく、0.3~2.0重量部がさらに好ましく、0.4~1.5重量部が特に好ましい。
本態様によって製造されるグラフト共重合体において、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と前記非架橋重合体成分の合計のうち前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子が占める割合は1重量%以上50重量%未満であり、前記非架橋成分の占める割合は99重量%以下50重量%超であることが好ましい。この範囲内では、前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子が凝集しにくく、高強度かつ低ヘイズのフィルムを形成可能となり、しかも、当該グラフト共重合体又はそのドープの貯蔵安定性が良好となり得る。
前記架橋(メタ)アクリル系重合体粒子が占める前記割合は、3重量%以上45重量%以下が好ましく、4~40重量%がより好ましく、5~35重量%がさらに好ましく、6~30重量%が特に好ましい。また、前記割合は、25重量%以下であってもよく、20重量%以下であってもよく、15重量%以下であってもよく、12重量%以下であってもよい。
前記架橋粒子形成工程は、上述した単量体成分の重合工程と同様、乳化重合又は懸濁重合等で実施することができる。前記架橋粒子形成工程と前記重合工程は、生産性の観点から、同一系中で連続的に実施することが好ましい。しかし、例えば、別の反応器で製造した架橋粒子を含む水系分散液を、前記重合工程の反応器に添加してから、前記重合工程を実施する、いわば分離重合の方式を採用することもできる。
(N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体)
本開示に係る製造方法によると、N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含み、前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%である重合体を得ることができる。
また、前記重合工程を架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で実施する態様によると、架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と非架橋重合体成分とを含むグラフト共重合体を製造することができ、当該非架橋重合体成分が、N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含み、前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%である。このようなグラフト共重合体も、本開示に係るN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体の一態様である。
前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体は、水系分散液から回収した固体または粉末状のものを指す。例えば噴霧乾燥によって回収した場合、前記重合体は、粉粒状のものである。
当該N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体は前述したpHの調整工程を経て製造されたものであるため、前記重合体を蒸留水に、前記重合体:前記蒸留水=1:2の重量比率で分散させて得られる水分散液は、pHが5.0~12.0を示し得る。尚、当該pH値は、実施例で示すように経時的に低下する可能性があるため、下限値は5.0に設定した。
前記pH値は、6.0以上であることが好ましい。また、6.0~11.0であることがより好ましく、6.0~10.0がさらに好ましく、6.0~9.0がより更に好ましく、6.5~8.0が特に好ましい。また、前記pHは7.5を超える値であってもよく、7.6以上であってもよい。
前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体が乳化重合で形成され、かつ、洗浄操作を実施せずに乾燥工程のみで回収された場合、乳化重合で使用した乳化剤は、回収された重合体中にそのまま残留する。この時、重合体中の乳化剤の含有量は、乳化重合で使用した乳化剤の使用量と実質的に等しくなる。
前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体中の乳化剤の含有量は、乳化重合の安定性を確保しつつ、乳化剤に起因する樹脂フィルムの発泡痕を抑制する観点から、重合体総量のうち0.1~10重量%であることが好ましく、0.3~7重量%がより好ましく、0.4~6重量%がさらに好ましく、0.5~5重量%がより更に好ましく、0.8~3重量%が特に好ましく、1~3重量%が最も好ましい。
(樹脂組成物)
前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体は、溶液流延法によるフィルム製造用樹脂組成物を構成することができる。当該樹脂組成物は、樹脂成分として、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体のみを含むものであってもよいが、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体に加えて、他の樹脂を含有してもよい。そのような樹脂としては特に限定されず、例えば、メタクリル系樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、スチレン無水マレイン酸樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化アルキル(メタ)アクリレート樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
前記他の樹脂の含有量としては特に限定されないが、例えば、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体100重量部に対して、0~50重量部程度であってもよい。さらに、0~30重量部であってもよく、0~10重量部であってもよく、0~5重量部であってもよく、0~1重量部であってもよい。
また、前記フィルム製造用樹脂組成物は、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤、フィラー等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。また、従来公知のコアシェル型グラフト共重合体をさらに含有してもよい。
(ドープ)
前記フィルム製造用樹脂組成物は、これを溶剤に溶解または分散させることで、溶液流延法によって樹脂フィルムを製造する際に使用するドープを構成することができる。
前記溶剤は、前記フィルム製造用樹脂組成物を溶解または分散することができる溶剤であり、特に限定されないが、ハンセン溶解度パラメーターにおける水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(c-1)を含むことが好ましい。このような溶剤を用いてドープを構成することで、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体の溶剤への良好な溶解性または分散性を実現することができる。前記水素結合項δHが3以上10以下を示す溶剤が好ましく、5以上8以下を示す溶剤がより好ましい。
従来から、物質の溶解性を示す指標として溶解度パラメーター(SP値)が知られており、当該SP値の凝集エネルギーの項が、分子間に働く相互作用エネルギーの種類(London分散力、双極子間力、水素結合力)によって分割され、それぞれをLondon分散力項、双極子間力項、水素結合力項として表したハンセン溶解度パラメーターが提案されている。前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体が溶剤に溶解する際の溶解性を示す指標として、このハンセン溶解度パラメーターのうちの水素結合項δHを使用する。当該水素結合項δHの詳細は、例えば、山本秀樹著、「特集:ポリマー相溶化設計 1.Hansen溶解度パラメーター(HSP値)を用いた溶解性評価」、接着の技術、Vol.34 No.3 (2014) 通巻116号) 第1-8頁を参照することができる。
前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(c-1)としては、例えば、1,4-ジオキサン(9.0)、2-フェニルエタノール(11.2)、アセトン(7.0)、アセトニトリル(6.1)、クロロホルム(5.7)、二塩基酸エステル(8.4)、ジアセトンアルコール(10.8)、N,N-ジメチルホルムアミド(11.3)、ジメチルスルホキシド(10.2)、酢酸エチル(7.2)、γ-ブチロラクトン(7.4)、メチルエチルケトン(5.1)、メチルイソブチルケトン(4.1)、塩化メチレン(7.1)、酢酸n-ブチル(6.3)、N-メチル-2-ピロリドン(7.2)、炭酸プロピレン(4.1)、1,1,2,2-テトラクロロエタン(5.3)、テトラヒドロフラン(8.0)、トルエン(2.0)等が挙げられる。なお、カッコ内の数字は水素結合項δHを示す。これら溶剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
これら溶剤のなかでも、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体の溶解性に優れると共に、揮発速度も速いため、メチルエチルケトン、クロロホルム、塩化メチレンが好ましく、塩化メチレンがより好ましい。
前記ドープに含まれる溶剤は、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(c-1)のみから構成されるものであってもよい。しかし、溶液流延実施時の成膜性、フィルムの離型性、ハンドリング性の改善などを考慮して、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(c-1)、及び、δHが14以上24以下である溶剤(c-2)を含有することが好ましい。
前記δHが14以上24以下である溶剤(c-2)としては、例えば、メタノール(22.3)、エタノール(19.4)、イソプロパノール(16.4)、ブタノール(15.8)、エチレングリコールモノエチルエーテル(14.3)等が挙げられる。これら溶剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
前記δHが14以上24以下である溶剤(c-2)と併用する場合、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(c-1)の含有量は、ドープに含まれる溶剤全体に対して55重量%以上95重量%以下が好ましく、60重量%以上90重量%以下がより好ましく、65重量%以上85重量%以下がさらに好ましく、70重量%以上85重量%以下がよりさらに好ましい。
前記ドープ中における前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体の割合は特に限定されず、用いた溶剤に対する前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体の溶解性または分散性や、溶液流延法の実施条件などを考慮して適宜決定することが可能であるが、5~50重量%であることが好ましく、10~45重量%がより好ましく、15~40重量%がさらに好ましい。
(溶液流延法)
前記ドープは、溶液流延法によって樹脂フィルムを製造するのに使用される。具体的には、前記ドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させることにより樹脂フィルムを製造することができる。
前記溶液流延法の実施態様を以下に説明するが、これに限定されるものではない。まず、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体、場合によって他の成分を含むペレットを作製した後、該ペレットを溶剤と混合して、各成分を溶剤に溶解又は分散させたドープを作製する。あるいは、ペレットを作製せずに、前記N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体と他の成分を、同時に又は順次、溶剤に混合して、各成分を溶剤に溶解又は分散させたドープを作製する。溶解又は分散させる工程は、温度および圧力を適宜調節して実施することができる。以上の溶解又は分散工程の後、得られたドープをろ過したり、脱泡することもできる。
次いで、前記ドープを送液ポンプにより加圧ダイに送液し、加圧ダイのスリットから、金属製または合成樹脂製の無端ベルトやドラム等の支持体の表面(鏡面)に前記ドープを流延して、ドープ膜を形成する。
形成されたドープ膜を前記支持体上で加熱し、溶剤を蒸発させてフィルムを形成させる。溶剤を蒸発させる際の条件としては、使用する溶剤の沸点に応じて適宜決定することができる。
このようにして得られたフィルムは支持体表面から剥離される。その後、得られたフィルムは、適宜、乾燥工程や加熱工程、延伸工程等に付してもよい。
(樹脂フィルム)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、前記フィルム製造用樹脂組成物から構成されるものであり、前述したドープの溶液流延法により形成することができる。該樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。また、1μm以上であることが好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましい。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、膜厚80μmで測定した時に、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。全光線透過率が前記範囲内にあれば、樹脂フィルムを、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適に使用できる。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、耐熱性の観点から、ガラス転移温度が100℃以上であることが好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、115℃以上がより更に好ましく、120℃以上がより更に好ましく、124℃以上が特に好ましく、125℃以上が最も好ましい。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、膜厚50μmで測定した時に、ヘイズが0.8%以下であることが好ましく、0.6%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.4%以下がより更に好ましく、0.3%以下が特に好ましい。さらに、樹脂フィルムの内部ヘイズが、膜厚50μmで測定した時に、0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましく、0.2%以下が特に好ましい。ヘイズ及び内部ヘイズが上述の範囲内にあれば、樹脂フィルムを、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適に使用できる。なお、ヘイズはフィルム内部とフィルム表面(外部)のヘイズからなり、それぞれを内部ヘイズ、外部ヘイズと表現する。
本実施形態に係る樹脂フィルムは光学フィルムとして使用することができる。特に偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。つまり、面内位相差および厚み方向位相差の絶対値がともに小さいことが好ましい。より具体的には、面内位相差の絶対値は30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、13nm以下であることがより更に好ましく、12nm以下であることが特に好ましく、10nm以下であることが最も好ましい。また、厚み方向位相差の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることがより更に好ましく、8nm以下であることが特に好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このように位相差が小さい樹脂フィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。
位相差は複屈折をベースに算出される指標値であり、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthがともに0となる。
Re=(nx-ny)×d
Rth=((nx+ny)/2-nz)×d
各式中、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さを表し、nx-nyは配向複屈折を表す。なお、フィルムのMD方向をX軸とするが、延伸フィルムの場合は延伸方向をX軸とする。
(延伸)
本実施形態に係る樹脂フィルムは靭性が高く柔軟性に富むものであり、未延伸フィルムであってもよいが、延伸フィルムであってもよい。延伸することにより、樹脂フィルムの機械的強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。
本実施形態に係る樹脂フィルムを延伸する場合は、未延伸状態のフィルムを製造した後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、あるいは、フィルム成形中に、成膜及び溶剤の脱気の工程の進展と共に延伸操作を適宜加えることにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。また、フィルム成形中の延伸と、フィルム成形後の延伸を適宜組み合わせても良い。
延伸フィルムの延伸倍率は、特に限定されず、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍~5倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍~4倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍~3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。
(用途)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。そのような方法としては、例えば、無機充填剤または架橋性高分子粒子を添加する方法が挙げられる。また、得られるフィルムにエンボス加工を施すことにより、プリズム形状やパターン、意匠、ナーリングなどの表面凹凸層を形成したり、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、必要に応じて、粘着剤、接着剤等によるドライラミネート法及び/または熱ラミネート法などを用いて別のフィルムを積層したり、フィルムの表面あるいは裏面にハードコート層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、印刷加飾層、金属光沢層、表面凹凸層、艶消し層等の機能性層を形成して用いることができる。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、耐熱性、透明性、柔軟性などの性質を利用して、各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバーなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、有機EL用フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム、プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
本実施形態に係る樹脂フィルムは、金属、プラスチックなどの基材に積層して用いることができる。樹脂フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストルージョンラミネート、ホットメルトラミネートなどがあげられる。
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
本実施形態に係る樹脂フィルムの積層体は、自動車内装材、自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材、採光・調光部材、防音壁、道路標識などの土木建築用部材、日用雑貨品、家具や電子電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板などの光学部材、光学用素子、電気または電子装置の部品、滅菌処理の必要な医療用品、玩具またはレクリエーション品目、繊維強化樹脂複合材料などに使用することができる。
特に、本実施形態に係る樹脂フィルムは、耐熱性および光学特性に優れる点では、光学用フィルムに好適であり、各種光学部材に用いられうる。例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、表面保護フィルム、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺や、有機EL装置周辺、光通信分野等の公知の光学的用途に適用できる。
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
(実施例1)
<水系重合体(A1)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 133部
水酸化ナトリウム 0.004部
スルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム 0.2部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、過硫酸ナトリウム0.03部、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.001部を0.5%水溶液で入れ、次いで、アクリル酸ブチル10部、メタクリル酸アリル0.05部からなる混合モノマー10.05部を0.523部/分の速度で連続的に添加した。さらに30分間重合を継続することにより、平均粒子径60nmの架橋重合体粒子を得た。重合転化率は99.5%であった。
その後、メタクリル酸メチル82部、メタクリル酸ブチル1部、N-フェニルマレイミド7部、チオグリコール酸2-エチルヘキシル0.02部からなる混合モノマー90.02部を、1.353部/分の速度で連続的に添加した。また、モノマー追加開始と同時にスルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム0.7部を5%水溶液で、モノマーと同じ時間をかけて連続的に添加した。
添加終了後、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)0.008部、FeSO(硫酸第一鉄・7水和物)0.002部からなる混合物を0.1%水溶液で入れ、その後、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.05部を0.5%水溶液で入れた。次いで、t-BHP(ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド)0.05部を反応器に添加した。60分間重合を継続し、水系重合体(A1)のラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。重合後の水系重合体(A1)の平均粒子径は130nmであった。また、重合後のラテックスのpHは、3.2であり、重合後のラテックス中の固形分に対する残存N-フェニルマレイミド量は0.12重量%であった。
<粉粒体(B1)の製造>
得られた水系重合体(A1)のラテックスに対し、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)0.025部を5%水溶液、NaOH(水酸化ナトリウム)0.03部を2%水溶液で順に添加し、5分間混合した。混合後のラテックスのpHは、6.9であった。得られた混合ラテックスを75℃で12時間乾燥させることにより、白色粉末状の粉粒体(B1)を得た。
(実施例2)
<粉粒体(B2)の製造>
実施例1で、添加したNaOH(水酸化ナトリウム)の量を0.033部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、白色粉末状の粉粒体(B2)を得た。なお、EDTAとNaOHを添加した後の、混合ラテックスのpHは、8.5であった。
(実施例3)
<粉粒体(B3)の製造>
実施例1で、添加したNaOH(水酸化ナトリウム)の量を0.035部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、白色粉末状の粉粒体(B3)を得た。なお、EDTAとNaOHを添加した後の、混合ラテックスのpHは、9.5であった。
(実施例4)
<粉粒体(B4)の製造>
実施例1で、添加したNaOH(水酸化ナトリウム)の量を0.051部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、白色粉末状の粉粒体(B4)を得た。なお、EDTAとNaOHを添加した後の、混合ラテックスのpHは、11.0であった。
(実施例5)
<水系重合体(A2)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 144部
水酸化ナトリウム 0.004部
スルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム 0.03部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を75℃にし、過硫酸ナトリウム0.03部、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.001部を0.5%水溶液で入れ、次いで、メタクリル酸メチル85部、メタクリル酸2-エチルヘキシル5部、N-フェニルマレイミド10部からなる混合モノマー100部を、1.353部/分の速度で連続的に添加した。また、モノマー添加開始と同時にスルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム0.7部を5%水溶液で、モノマーと同じ時間をかけて連続的に添加した。
添加終了後、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)0.008部、FeSO(硫酸第一鉄・7水和物)0.002部からなる混合物を0.1%水溶液で入れ、その後、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.03部を0.5%水溶液で入れた。次いで、t-BHP(ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド)0.03部を反応器に添加した。30分間重合を継続後、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.06部を0.5%水溶液で入れた。次いで、t-BHP(ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド)0.06部を反応器に添加した。60分間重合を継続後、t-BHP(ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド)0.1部を反応器に添加した。60分間重合を継続し、水系重合体(A2)のラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。重合後の水系重合体(A2)の平均粒子径は350nmであった。また、重合後のラテックスのpHは、3.1であり、重合後のラテックス中の固形分に対する残存N-フェニルマレイミド量は0.09重量%であった。
<粉粒体(B5)の製造>
得られた水系重合体(A2)のラテックスに対し、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)0.025部を5%水溶液、NaOH(水酸化ナトリウム)0.055部を2%水溶液で順に添加し、5分間混合した。混合後のラテックスのpHは、8.1であった。得られた混合ラテックスを75℃で12時間乾燥させることにより、白色粉末状の粉粒体(B5)を得た。
(実施例6)
<粉粒体(B6)の製造>
実施例5で、添加したNaOH(水酸化ナトリウム)の量を0.058部に変更した以外は、実施例5と同様の方法で、白色粉末状の粉粒体(B6)を得た。なお、EDTAとNaOHを添加した後の、混合ラテックスのpHは、9.0であった。
(比較例1)
<粉粒体(B7)の製造>
実施例1で得られた水系重合体(A1)のラテックスを、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)とNaOH(水酸化ナトリウム)を添加せずに、そのまま75℃で12時間乾燥させることにより、白色粉末状の粉粒体(B7)を得た。
(比較例2)
<水系重合体(A3)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 133部
水酸化ナトリウム 0.004部
スルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム 0.2部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、過硫酸ナトリウム0.02部、SFS(スルホキシル酸ナトリウム・ホルムアルデヒド)0.001部を0.5%水溶液で入れ、次いで、アクリル酸ブチル10部、メタクリル酸アリル0.05部からなる混合モノマー10.05部を0.523部/分の速度で連続的に添加した。さらに30分間重合を継続することにより、平均粒子径65nmの架橋重合体粒子を得た。重合転化率は99.3%であった。
その後、メタクリル酸メチル82部、メタクリル酸ブチル1部、N-フェニルマレイミド7部、チオグリコール酸2-エチルヘキシル0.02部からなる混合モノマー90.02部を、1.353部/分の速度で連続的に添加した。また、モノマー追加開始と同時にスルホコハク酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム0.7部を5%水溶液で、モノマーと同じ時間をかけて連続的に添加した。添加終了後、30分間重合を継続し、水系重合体(A3)のラテックスを得た。重合転化率は98.0%であった。重合後の水系重合体(A3)の平均粒子径は138nmであった。また、重合後のラテックスのpHは、3.1であり、重合後のラテックス中の固形分に対する残存N-フェニルマレイミド量は0.6重量%であった。
<粉粒体(B8)の製造>
得られた水系重合体(A3)のラテックスに対し、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)0.025部を5%水溶液、NaOH(水酸化ナトリウム)0.033部を2%水溶液で順に添加し、5分間混合した。混合後のラテックスのpHは、8.2であった。得られた混合ラテックスを75℃で12時間乾燥させることにより、白色粉末状の粉粒体(B8)を得た。
(比較例3)
<粉粒体(B9)の製造>
実施例5で得られた水系重合体(A2)のラテックスを、EDTA(エチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム1水和物)とNaOH(水酸化ナトリウム)を添加せずに、そのまま75℃で12時間乾燥させることにより、白色粉末状の粉粒体(B9)を得た。
<試験方法>
(重合転化率)
重合により得られた重合体の重合転化率を以下の方法で求めた。重合系から重合体を含む約2gのラテックスを採取・精秤し、それを熱風乾燥機中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率を試料中の固形分比率として求めた。最後に、この固形分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を計算した。なお、この計算式において、多官能性単量体および連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
重合転化率(%)={(仕込み原料総重量×固形分比率-水および単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量}×100
(水系重合体の平均粒子径)
平均粒子径は、水系重合体の各重合段階で得られたラテックスの状態で測定した体積平均粒子径である。測定装置として、日機装株式会社のMicrotrac UPA150を用い測定した。尚、測定は室温で行い、測定粒子の屈折率は、重合に使用したモノマーからなるホモポリマーの屈折率の重量平均値を用いた。ホモポリマーの屈折率は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用した。
(残存モノマー量の測定)
残存N-置換マレイミド系単量体量、及び残存アニリン量は、以下に示す分析装置と測定条件で実施した。
分析装置:Agilent社製、Agilent7890B GC system
分離カラム:Agilent社製、DB-1(length:30μm、Diam:0.200mm(narrow-bore)
測定条件:
・測定サンプル:粉粒体0.1g(水系重合体のラテックスの場合0.25g)、塩化メチレン9.9g
・注入口温度:280℃
・検出器温度:320℃
・オーブン温度プロファイル:1)35℃で30秒間保持、2)140℃で2分間保持、3)320℃で3分間保持(昇温速度は、いずれも30℃/分)
・ガス流量:ヘリウム(1.5ml/分)、空気(400ml/分)、水素(30ml/分)
(樹脂ドープの作製)
塩化メチレン90%とエタノール10%からなる混合溶媒9.0gに各粉粒体1.0gを加え、粉粒体が完全に溶解するまでマグネチックスターラーで攪拌し、固形分濃度が10%となる樹脂ドープを作製した。
(キャストフィルムの作製)
前記の樹脂ドープを、PETフィルム(製品名:コスモシャインA4100、東洋紡株式会社製)上にウェット膜厚0.5mmで塗工し、速やかに熱風乾燥機中で40℃、10分間乾燥して、生乾きフィルムを作製した。この生乾きフィルムをPETフィルムから剥離したのち適したサイズの金属枠に固定し、更に熱風乾燥機中で140℃、1時間乾燥して、厚さ40μmのキャストフィルムを作製した。
(一軸延伸フィルムの作製)
未延伸の前記キャストフィルムから16cm四方の試験片を切り出し、135℃で幅固定一軸延伸を行った。延伸倍率は1.4倍、延伸速度は100mm/分で実施した。
(膜厚)
フィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
(Brittle性試験)
塩化メチレン90%とエタノール10%からなる混合溶媒40.5gに各粉粒体4.5gを加え、粉粒体が完全に溶解するまでマグネチックスターラーで攪拌し、固形分濃度が10%となる樹脂ドープ45gを作製した。
得られた樹脂ドープを、PETフィルム(製品名:コスモシャインA4100、東洋紡株式会社製)上にウェット膜厚0.7mmで塗工し、室温で8分間静置した。その後、PETフィルムから剥離したのち、適したサイズの金属枠に固定し、熱風乾燥機中で、160℃で5分間乾燥させた。
乾燥後のフィルムを、16cm×20cmに切り出し、補強テープを貼った後、160℃で幅固定一軸延伸を行った。延伸倍率は1.5倍、延伸速度は100mm/分で実施した。
得られた延伸フィルムから2cm×4cmのフィルムを切り出した後、短片側を半分に折り曲げ、折り曲げ箇所を指で押し、割れの有無を確認した。計5回実施し、割れた回数の割合を記録した。
(内部ヘイズ)
未延伸フィルムの内部ヘイズは、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製 HZ-V3)を用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。未延伸フィルムの両面をグリセリン、次いでガラスの順で挟んで測定した。
(一軸延伸フィルムの面内位相差および厚み方向位相差)
延伸フィルムの中央部から試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Roを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA-WR)を用いて波長590nm、入射角0゜で測定した。併せて入射角40°の測定も行い、厚み方向位相差Rthも算出した。測定は、試験片を動かして測定箇所を変えながら3回ずつ行い、その平均値を求めた。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度Tgは、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計DSC7000Xを用いて測定した。試料である粉粒体、およびフィルムを窒素気流下に置いて、10℃/分の昇温速度で190℃まで加熱したのち、3分間190℃で保持してから40℃まで急冷し、再度10℃/分の昇温速度で190℃まで加熱した。2度目の昇温中に観測されたガラス転移に対して、補外ガラス転移開始温度と補外ガラス転移終了温度の平均を求め、この数値をガラス転移温度とした。
(pH測定)
HORIBA製pHメータを使用し、水系重合体のラテックス、及び、粉粒体のpHを測定した。粉粒体のpHは、粉粒体5gを蒸留水10gに混合し、分散させて得た水分散液のpHとして測定した。
(水系重合体の加熱試験)
実施例1~6、並びに比較例1及び3で得られた水系重合体のラテックスを、60℃に温調されたオーブンで72時間加熱した。
<pH変化>
加熱前と、加熱72時間後に、水系重合体のラテックスのpHを測定し、加熱前後のpHの差分Δ(72hr-初期)を求めた。
<残存N-置換マレイミド系単量体量の変化>
加熱前と、加熱72時間後に、水系重合体のラテックス中の残存N-置換マレイミド系単量体量を測定し、加熱前後の残存N-置換マレイミド系単量体量の差分Δ(72hr-初期)を求めた。
<残存アニリン量の変化>
加熱前と、加熱72時間後に、水系重合体のラテックス中の残存アニリン量を測定し、加熱前後の残存アニリン量の差分Δ(72hr-初期)を求めた。
(樹脂変色テスト)
スクリュー管に各粉粒体5gを仕込み、0.05%の過硫酸ナトリウム水溶液3.5gを加え、粉粒体と均一に混ぜた。その後、2L/minの流量で窒素を1分間、スクリュー管内に封入し、フタを閉めた。その後、75℃に温調されたオーブンで、スクリュー管を72時間加熱し、粉粒体の色を確認した。
(ドープ変色テスト)
実施例1~6、及び比較例1~3で得られた水系重合体のラテックスを、60℃に温調されたオーブンで72時間加熱した。その後、得られた水系重合体のラテックスを75℃で12時間乾燥させ、粉粒体を取得した。その後、粉粒体1.0gを塩化メチレン80%とメタノール20%からなる混合溶媒9.0gに加え、粉粒体が完全に溶解するまでマグネチックスターラーで攪拌し、固形分濃度が10%となる樹脂ドープを作製した。その後、目視で樹脂ドープの色を確認した。
Figure 2023127128000001
表1より以下のことが分かる。水系中の重合でN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体を製造するにあたって、調整工程によってラテックスのpHを特定範囲に調整し、かつ、重合後のラテックス中に含まれるN-置換マレイミド系単量体の量が特定値以下であった実施例1~6では、得られたN-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体が加熱されても変色せず、また、加熱後の重合体を用いて作製した樹脂ドープにおいても着色が観察されなかった。
一方、調整工程を実施せずラテックスのpH値が3.2又は3.1と低い比較例1及び3では、得られた重合体が加熱によって変色し、また、加熱後の重合体を用いて作製した樹脂ドープでも着色が観察された。また、重合後のラテックス中のN-置換マレイミド系単量体量が0.6重量%と多い比較例2においても、得られた重合体が加熱によって変色し、また、加熱後の重合体を用いて作製した樹脂ドープでも着色が観察された。
また、実施例1~6並びに比較例1及び3では、加熱によってラテックスのpHが低下すると共に、残存N-置換マレイミド系単量体量が減少している。中でも、比較例1及び3では残存N-置換マレイミド系単量体量の減少幅が比較的大きいことが分かる。
また、実施例1~6では、加熱によって残存アニリン量が増加しているのに対し、比較例1及び3では加熱によって残存アニリン量が減少していることが分かる。
尚、アニリンは、残存N-フェニルマレイミドが加水分解することで生成する。また、アニリン量は、アニリンが重合すると減少する。
以上のことから、実施例1~6並びに比較例1及び3では、加熱によって、ラテックスに含まれている残存N-フェニルマレイミドが加水分解してアニリンと酸が生じていると推測され、加えて、比較例1及び3のような低pH条件下では当該アニリンの重合反応が促進されてポリアニリンが生じていると推測される。
このようなポリアニリンが、N-置換マレイミド単位含有(メタ)アクリル系重合体における着色の原因になっていると推測される。
Figure 2023127128000002
表2より、実施例2~4で得た粉粒体から製造したキャストフィルムは、ガラス転移温度、ヘイズ値、位相差、及び強度の結果が良好であること、特に、実施例2及び3におけるフィルムは、ヘイズ値、及び位相差の結果がより良好であることが分かる。

Claims (11)

  1. N-置換マレイミド系単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位とを含む重合体の製造方法であって、
    水系分散液中で、N-置換マレイミド系単量体1~30重量%、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体70~99重量%を含む単量体成分を重合させる重合工程、及び、
    前記水系分散液のpHを6.0~12.0の範囲に調整する調整工程、を含み、
    前記重合工程後において、前記水系分散液の固形分に対する前記N-置換マレイミド系単量体の割合が0.3重量%以下である、製造方法。
  2. 前記調整工程が、前記重合工程の後に実施される、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記調整工程において、前記水系分散液にキレート剤を添加する、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記重合工程を、乳化剤の存在下、乳化重合により行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
  5. 前記水系分散液を噴霧乾燥することにより前記重合体の粉粒体を得る乾燥工程、を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
  6. 架橋(メタ)アクリル系重合体粒子の存在下で前記重合工程を実施する、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
  7. N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含む重合体であって、
    前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、
    前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%であり、
    前記重合体を蒸留水に、前記重合体:前記蒸留水=1:2の重量比率で分散させたときの水分散液のpHが5.0~12.0である、重合体。
  8. 架橋(メタ)アクリル系重合体粒子と非架橋重合体成分とを含むグラフト共重合体であって、
    前記非架橋重合体成分が、N-置換マレイミド系単量体単位、及び、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位を含み、
    前記N-置換マレイミド系単量体単位の含有量が1~30重量%であり、
    前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体単体の含有量が70~99重量%であり、
    前記グラフト共重合体を蒸留水に、前記重合体:前記蒸留水=1:2の重量比率で分散させたときの水分散液のpHが5.0~12.0である、グラフト共重合体。
  9. 請求項7又は8に記載の重合体を含む、溶液流延法によるフィルム製造用樹脂組成物。
  10. 請求項9に記載のフィルム製造用樹脂組成物、及び、溶剤を含む、ドープ。
  11. 請求項9に記載のフィルム製造用樹脂組成物から溶液流延法により成形される樹脂フィルム。
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