JP2023091949A - ゴム金属複合体の観察前処理方法 - Google Patents

ゴム金属複合体の観察前処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として平滑な断面を得るための時間を短縮する。【解決手段】ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法において、ゴム金属複合体10のゴム表面の少なくとも一部を合成樹脂16で被覆し、合成樹脂16で被覆したゴム金属複合体10をワイヤーソーのワイヤー20により切断し、その後、切断したゴム金属複合体10の粗断面にクライオイオンミリングにより平滑化加工を行う。【選択図】図1

Description

本発明は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法に関する。
試料の内部構造を観察するために、例えば電子顕微鏡により試料の断面を観察することがなされている。試料の断面を観察するためには、観察前に断面を平滑にしておく必要があり、平滑な断面を得るために種々の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、高分子材料の相分離構造やラメラ構造を解析するための方法が開示されている。その方法では、高分子材料からなる試料を透明樹脂で包埋し、その後、イオンミリング法を用いて透明樹脂と試料を研削することで断面を平滑化する。
特許文献2には、測定対象物から切り出した試料に断面を形成するとともに、透明なガラス板を接着剤により固定し、イオンミリング装置等のイオンビームを前記断面に照射して平滑な断面を形成することが開示されている。
特許文献3には、被験物を樹脂に埋め込むことなく平滑性の高い断面を形成するための方法が開示されている。その方法では、金属箔に試料を貼り付けた後、該金属箔を治具の本体部と遮蔽部材との間に挟み込むようにセットする。そして、遮蔽部材側からイオンミリング装置のイオンビームを照射して金属箔に貼り付けられた試料の一部をエッチングし、これにより試料の断面を平滑化する。
特開2012-202834号公報 特開2009-244240号公報 特開2019-066394号公報
ゴム金属複合体として、例えばめっきされた金属コードをゴムで被覆してなるゴムコード複合体は、空気入りタイヤにおける補強材として用いられている。ゴム金属複合体においてゴムと金属との接着状態を評価するためにゴム金属複合体の断面を観察する場合、その断面を平滑化することが求められる。しかしながら、ゴム金属複合体は異硬度の材質からなる複合材料である。そのため、例えば電子顕微鏡観察に適する平滑な断面を形成することは容易ではなく、平滑な断面を得るために長時間の前処理を要する。
本発明の実施形態は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として平滑な断面を得るための時間を短縮することができる観察前処理方法を提供することを目的とする。
本発明の実施形態に係るゴム金属複合体の観察前処理方法は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法であって、ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部を合成樹脂で被覆すること、前記合成樹脂で被覆したゴム金属複合体をワイヤーソーにより切断すること、及び、切断したゴム金属複合体の粗断面にクライオイオンミリングにより平滑化加工を行うこと、を含む。
本発明の実施形態によれば、平滑化加工前の段階で比較的平滑な粗断面を形成することができるので、その後の平滑化加工での処理時間を短縮することができる。また、該粗断面に対する平滑化処理としてクライオイオンミリングを用いたことにより、熱に弱いゴム部分におけるダメージを抑えて短時間で平滑な断面を得ることができる。そのため、平滑な断面を得るための前処理時間を短縮することができる。
一実施形態に係る観察前処理方法の流れを示す説明図 クライオイオンミリングによる平滑化加工の様子を示す斜視図 (A)クライオイオンミリングによる平滑化加工の様子を示す平面図、(B)同平滑化加工後の平面図 実施例1におけるワイヤーソーによる切断面を示すSEM画像 比較例1におけるニッパーによる切断面を示すSEM画像 (A)~(F)実施例1におけるクライオイオンミリングによる平滑化加工後の断面を示すSEM画像 比較例2におけるイオンミリングによる平滑化加工後の断面を示すSEM画像 (A)~(B)比較例2におけるFIB加工後の断面を示すSEM画像 (A)~(C)実施例2におけるクライオイオンミリングによる平滑化加工後の断面を示すSEM画像
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
本実施形態は、ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理として、ゴム金属複合体に平滑な断面を形成する方法である。
ゴム金属複合体としては、ゴムと金属(好ましくは金属部材)が直接又は接着剤層を介して接合された複合体が挙げられ、特に限定されない。例えば、ゴムに金属が埋設された複合体を用いることができ、好ましくはめっきされた金属コードをゴムで被覆したゴムコード複合体が例示される。
ゴムコード複合体は、例えば空気入りタイヤのベルト部材として用いられており、一般にめっきされた金属コードをゴム組成物で被覆して加硫することにより得られる。金属コードとしては、一実施形態としてスチールコードが用いられる。めっきとしては、一実施形態として銅と亜鉛の合金である真鍮めっきが挙げられる。
ゴム組成物としては、例えば、ジエン系ゴムに、カーボンブラック等の充填剤と、硫黄等の加硫剤とを配合したものが挙げられる。ゴム組成物には、更に、加硫促進剤、加硫遅延剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、着色剤、加工助剤、接着促進剤、接着性樹脂などの各種添加剤を配合してもよい。接着促進剤としては、例えば有機酸コバルトが挙げられる。接着性樹脂としては、例えば、各種フェノール樹脂と、その硬化剤としてのメチン供与体(例えばヘキサメチレンテトラミンやメラミン誘導体)とからなるものが挙げられる。
本実施形態に係る観察前処理方法は、(1)ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部を合成樹脂で被覆する工程、(2)合成樹脂で被覆したゴム金属複合体をワイヤーソーにより切断する工程、及び、(3)切断したゴム金属複合体の粗断面に平滑化加工を行う工程、を含む。
一実施形態として、図1に示すように、複数本の金属コード12がゴム14中に埋設されたゴム金属複合体10について説明する。この例では、金属コード12の長さ方向をゴム金属複合体10の軸方向として、当該軸方向に垂直な面を平滑な断面として形成する。
工程(1)は、工程(2)においてワイヤーソーを用いてゴム金属複合体を切断することに鑑みて、その前に行う前処理工程である。なお、工程(1)に先立ち、観察対象となる部位の切り出しを行ってもよい。工程(1)では、図1(A)に示すように、例えばニッパーを用いて適当な長さに切断したゴム金属複合体10を用い、図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10のゴム14の表面を合成樹脂16で被覆する。
合成樹脂16は、ゴム金属複合体10の全体を被覆(即ち、包埋)してもよいし、ゴム表面の全体又は一部を被覆してもよい。好ましくは、合成樹脂16は、ゴム金属複合体10の切断予定部を覆う被膜として形成されることである。この例では、合成樹脂16は、図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10の軸方向の一箇所においてその全周にわたって環状に形成されている。合成樹脂16は、工程(2)においてワイヤーソーのワイヤー20が押し当てられる部位(即ち、切断予定部)に少なくとも設けられることが好ましく、例えば、ゴム金属複合体10の周方向のうちワイヤー20が押し当てられる一方側の表面のみに被膜状に形成されてもよい。
合成樹脂16は、上記切断予定部に設けられる場合、ゴム金属複合体10のゴム表面に硬さを付与するために、ゴム表面よりも硬い被膜を形成することができる樹脂が用いられる。合成樹脂16としては、特に限定されないが、速乾性により時間短縮を図れる観点から、瞬間接着剤を用いることが好ましい。例えば、東亞合成株式会社製「アロンアルファ」などのシアノアクリレート系接着剤が好適である。
合成樹脂16を被膜に形成する場合、その厚みは、特に限定されず、例えば0.01~2mmでもよく、0.1~1mmでもよい。
工程(2)は、被観察領域としての平滑な断面を形成する前の粗断面を形成する工程である。工程(2)では、上記の合成樹脂を被覆した箇所でワイヤーソーによりゴム金属複合体を切断することが好ましい。詳細には、図1(B)に示すように、合成樹脂16で被覆した箇所にワイヤーソーのワイヤー20を押し当ててゴム金属複合体10を切断する。ワイヤーソーとは、多数の砥粒を表面に固定したワイヤーを切断刃として、該ワイヤーを高速で動かすことにより被切断物を切断する切断装置である。砥粒としては、例えばダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、炭化ケイ素等が挙げられる。好ましくはダイヤモンドを砥粒とするダイヤモンドワイヤーソーを用いることである。
このようにワイヤーソーによりゴム金属複合体10を切断して、切断面としての粗断面を形成する。粗断面の形成方法としてニッパーによる切断が考えられるが、ニッパーを用いた場合、ゴム金属複合体を構成する金属コード等の金属に対してその両側から刃が当たって力がかかることにより、金属の切断端に大きな歪みが生じる(図5参照)。そのため、その後の平滑化加工において平滑な断面を形成するために多大な時間が必要となる。これに対し、ワイヤーソーを用いることにより真っ直ぐ切断することが可能になり、切断端の歪みを最小限に抑えることができる。
また、上記のように少なくとも切断予定部位を合成樹脂により被覆しておくことにより、次の効果が奏される。ワイヤーソーを用いてゴム金属複合体を切断する場合に、ゴム金属複合体の表面のゴムが柔らかいと、ワイヤーソーのワイヤーがゴム中に入りづらいことがあるが、合成樹脂により被覆して切断予定部を補強しておくことにより、ゴムの反発を抑えて切断予定部を的確に切断することができる。そのため、平滑化加工前の段階で比較的平滑な粗断面を形成しやすい。
また、ゴム金属複合体の全体を合成樹脂で包埋し、あるいは図1(B)に示すように合成樹脂16をゴム金属複合体10の軸方向の一箇所においてその全周にわたって環状に形成しておくことにより、ゴム金属複合体10におけるゴムと金属との界面部分がワイヤーソーによる切断時の振動によって剥離することを抑制することができる。
工程(3)では、工程(2)で切断して得られたゴム金属複合体10の粗断面22に対してクライオ(冷却)イオンミリングにより平滑化加工を行う。平滑化加工とは、ワイヤーソーにより形成された粗断面を平滑にすることをいい、例えば電子顕微鏡観察にて構造観察が可能な程度まで平滑化することが好ましい。クライオイオンミリングとは、試料を冷却しながら、試料の断面にイオンビームを照射し、試料原子をはじき出すことで断面を加工する方法であり、クライオ断面イオンミリングとも称される。
ゴム金属複合体に対して冷却せずにイオンミリング加工を行うと、熱に弱いゴムの部分はダメージを受けやすく、表面が電子顕微鏡観察に適する平滑さになりにくい。そのため、仕上げとして集束イオンビーム(FIB)等によるさらなる加工が必要となる。もしくはダメージを与えない程度の出力でのイオンミリング加工を行う必要があり、平滑面を作製するのに多大な時間を要する。これに対し、クライオイオンミリングによりゴム金属複合体の平滑化加工を行うことにより、電子顕微鏡観察に耐えうる平滑面を短時間で作製することができる。
一実施形態において、クライオイオンミリングによる平滑化加工は、図1(C)及び(D)に示すように、(3-1)シート表面24Aが粗断面22に対して垂直な姿勢となるようにシート24にゴム金属複合体10を接着剤26により固定する工程、及び、(3-2)ゴム金属複合体10の粗断面22を含む一部が遮蔽板28からはみ出すようにシート24に遮蔽板28を重ね、遮蔽板28からはみ出したゴム金属複合体10の一部にクライオイオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射して粗断面22を平滑化する工程と、を含む。
工程(3-1)は、クライオイオンミリングを行うための前処理工程である。クライオイオンミリングでは切削対象となる試料と遮蔽板とが面一になる必要がある。そこで、この例では、試料であるゴム金属複合体10に、遮蔽板28と面一になる平面を形成するべく、平面状のシート24を用いる。図1(C)及び図2に示すように、シート24の表面24Aがゴム金属複合体10の粗断面22に対して垂直な姿勢となるように、シート24にゴム金属複合体10を接着剤26により固定する。その際、粗断面22が接着剤26により被覆されないように、粗断面22が接着剤26から露出した状態でゴム金属複合体10をシート24に固定する。一例として図示するように、2枚のシート24,25間に、ゴム金属複合体10を、その軸方向がシート24,25の表面と平行になるように挟んで、接着剤26により固定する。
なお、遮蔽板と面一になる平面を形成する方法としては、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂でゴム金属複合体を包埋し、該樹脂を硬化させた後、精密切断機で該樹脂を機械切断することによりゴム金属複合体の軸方向に平行な平面を該樹脂により形成してもよい。但し、この場合、樹脂の硬化及び精密切断機による機械切断に相当の時間を要するので、工程(3-1)による前処理の方が好ましい。
接着剤26としては、ゴム金属複合体10をシート24に固定することができれば、特に限定されないが、速乾性により時間短縮を図れる観点から、瞬間接着剤を用いることが好ましい。例えば、東亞合成株式会社製「アロンアルファ」などのシアノアクリレート系接着剤が好適である。
上記シートとしては、例えば、ポリプロピレンフィルム、PETフィルム、PVCフィルム、ポリエチレンフィルムなどの高分子フィルム、アルミニウム板、銅板、鉄板、ステンレス板などの金属板、ガラス板等が挙げられる。
これらのうち、ガラス板は透明性を持つため加工場所を視認できるというメリットがある。金属板については、透明性はないものの、熱伝導率が高く、試料にたまった熱を逃がしてくれるので安定した加工が可能であり、また、例えば後で走査型電子顕微鏡観察する際に導電性があるため、観察に有利であるというメリットがある。高分子フィルムについては、透明なフィルムであればガラス板と同様に加工場所を視認できるというメリットがある上に、ハサミ等で簡単に切断することができるのでガラス板に比べて加工しやすい。
上記シートの厚みは、遮蔽板と面一になる平面を形成し得る範囲でできるだけ薄いことが好ましい。シートはクライオイオンミリングにおいてイオンビームにより切削されるものであり、シートの厚みが薄いほど、クライオイオンミリングによる加工時間を短くできるためである。シートの厚みは0.9mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.4mm以下である。シートの厚みの下限は、特に限定されず、例えば0.1mmでもよい。
工程(3-2)では、工程(3-1)により得られたシート24に固定したゴム金属複合体10に対してクライオイオンミリングによる平滑化加工を行う。
詳細には、図2に示すように、シート24,25間に挟み込んだゴム金属複合体10を試料台33上に載せ、試料台33との間でゴム金属複合体10を挟み込むように遮蔽板28を置いて、シート24におけるゴム金属複合体10を固定した面(即ち、上記表面24A)とは反対側の面(平面)24Bに遮蔽板28を重ねる。
その際、図2及び図3(A)に示すように、ゴム金属複合体10における粗断面22を含む軸方向一端部10Aを遮蔽板28からはみ出させておく。遮蔽板28の端面からの上記一端部10Aのはみ出し量Pは、特に限定されず、例えば20~350μmでもよく、50~200μmでもよい。
遮蔽板28としては、クライオイオンミリング装置のイオンビームを遮蔽することができれば特に限定されず、上記シート24よりもイオンビームによって削られる速度が遅い材料を用いることができ、例えば、ステンレス材、ニッケルめっきを施した金属板などが挙げられる。遮蔽板28の厚みも特に限定されず、上記シート24よりも厚く、例えば2mm以上でもよい。断面イオンミリング法では、遮蔽板28の端面(エッジ)に沿って試料が削られるので、平滑な断面を得るために遮蔽板28の端面は平面状(即ち、イオンビームの照射方向からみて直線状)であることが好ましい。
クライオイオンミリングでは、試料であるゴム金属複合体10を冷却しながら、遮蔽板28からはみ出した端部10Aに対して、クライオイオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射する。クライオイオンミリング装置は、試料を冷却しその温度を任意の温度に設定可能な機能を持つイオンミリング装置である。試料の冷却は、例えば試料に液体窒素を供給することによって行うことができる。このようなクライオイオンミリング装置30を用いて、遮蔽板28側からシート24を介してゴム金属複合体10にイオンビーム32を照射する。イオンビーム32は、平滑化を行う試料表面である粗断面22に対して平行な方向に照射される。これにより、遮蔽板28からはみ出した部分が遮蔽板28の端面に沿って削られることにより、図3(B)に示すように粗断面22が平滑化されて、平滑な断面34が得られる。平滑な断面34は、ゴム金属複合体10の粗断面22の全体で形成してもよいが、粗断面22の一部で形成してもよい。
イオンビームとしては、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを用いることができる。イオンビームの加速電圧は特に限定されず、例えば1kV~8kVでもよく、3kV~6kVでもよい。
クライオイオンミリングによる試料の冷却温度は0℃以下であることが好ましく、より好ましくは-5℃以下である。冷却温度の下限は特に限定されず、例えば-120℃以上でもよく、-100℃以上でもよく、-50℃以上でもよい。
なお、クライオイオンミリング装置30によりイオンビーム32を照射する前に、平滑化を行う粗断面22に対して、金パラジウム蒸着などにより導電膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
以上によりゴム金属複合体の断面を観察するための前処理がなされ、当該観察に適した平滑な断面を形成することができる。これにより得られた平滑な断面の観察方法としては特に限定されないが、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)などの電子顕微鏡による観察に好適に用いられる。電子顕微鏡による観察方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができ、測定倍率としても特に限定されず、例えば500~100000倍でもよく、1000~50000倍でもよい。
なお、電子顕微鏡による観察前に、観察を行う断面34に対して、金パラジウム蒸着などにより導電膜を形成してもよく、形成しなくてもよい。
一実施形態において、ゴム金属複合体におけるゴムと金属との接着状態を観察する場合、被観察領域としては、ゴムと金属との界面及び/又は界面近傍を含む領域でもよく、そのため、上記工程(3)ではかかる被観察領域を含む範囲で断面を平滑化すればよい。例えば、めっきされた金属コードをゴム組成物で被覆して加硫成形したゴムコード複合体の場合、金属コードとゴムとの間には、めっき層と、めっき層とゴムとの間の反応層とが存在するので、これらのめっき層及び反応層を含む界面とその両側の金属部分及びゴム部分とを含む範囲を上記被観察領域としてもよい。このようにゴムと金属との界面及び/又は界面近傍を含む領域を被観察領域とすることにより、ゴムと金属の接着状態を評価することができる。そのため、例えば空気入りタイヤの材料開発に利用することができる。
上記実施形態では、ゴム金属複合体としてゴムに金属が埋設されたゴムコード複合体を用いた例について主に説明したが、ゴム金属複合体としては、例えば、金属板などの金属部材の一面にゴムが接着一体化されたゴム金属接着体を用いてもよい。この場合、例えば、ゴムと金属部材との界面及び/又は界面近傍を含む領域を被観察領域とするべく、当該界面に垂直な面を、観察を行う平滑な断面として形成してもよい。
また、この場合、合成樹脂を被覆する工程(1)において、適当な大きさに切り出したゴム金属接着体の全体を合成樹脂で被覆(即ち、包埋)してもよく、ゴム表面の全体又は一部を合成樹脂で被覆してもよい。工程(2)において、ゴム金属接着体をワイヤーソーで切断する場合、金属部材側から切断してもよく、合成樹脂で被覆されたゴム側から切断してもよい。さらに、工程(3)において、粗断面に平滑化加工を行う際には、金属部材側から削られるようにイオンビームを照射してもよく、ゴム側から削られるようにイオンビームを照射してもよい。
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ゴム金属複合体として、空気入りタイヤのベルトから取り出したゴムコード複合体を用いた。該ゴム金属複合体は、真鍮めっきされたスチールコードが加硫ゴムで被覆されたものである。ゴム金属複合体をニッパーにより長さ10cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体に対し、上記工程(1)を実施した。すなわち、図1(B)に示すように、ゴム金属複合体10のゴム表面の一部に瞬間接着剤(東亞合成株式会社製「アロンアルファ」)を塗布して、厚み約0.5mmの合成樹脂16の被膜を形成した。そして、上記工程(2)に従い、合成樹脂16を被覆した箇所でダイヤモンドワイヤーソー(株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション製「CS-203」)によりゴム金属複合体10を切断して粗断面22を形成した。
次いで、上記工程(3-1)に従い、図1(C)に示すように、2枚のシート24,25間に、ゴム金属複合体10を、その軸方向がシート24,25の表面と平行になるように挟んで、接着剤26により固定した。シート24としては厚み0.2mmのポリプロピレンフィルムを用い、シート25としては厚み0.2mmのアルミニウム板を用いた。接着剤26としては瞬間接着剤(東亞合成株式会社製「アロンアルファ」)を用いた。
その後、上記工程(3-2)に従い、図1(D)及び図2に示すように、シート24,25で挟み込んだゴム金属複合体10の粗断面22に対して金パラジウム蒸着を行い、導電膜を作成し、クライオイオンミリングによる平滑化加工を行った。遮蔽板28としては厚み2mmのステンレス板を用いた。ゴム金属複合体10の粗断面22を含む軸方向一端部10Aを遮蔽板28の端面からはみ出し量P=約100μmとしてはみ出させた状態でシート24上に遮蔽板28を重ねて、クライオイオンミリング装置30により、ゴム金属複合体10を冷却しながら、イオンビーム32を一端部10Aに照射して粗断面22を平滑化した。クライオイオンミリング装置30としては日本電子株式会社製「IB-19520CCP」を用い、加速電圧は5kV、冷却温度は-10℃として、アルゴンイオンビームを照射し、加工時間7時間にて平滑な断面を得た。
上記工程(2)のワイヤーソーによる切断後の粗断面22に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したもの、及び、工程(3-2)の断面イオンミリング法による平滑化後の断面34に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したものについて、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影を行った。SEM撮影は、日本電子株式会社製「JSM-IT500HR」を用い、加速電圧は5.0kVとして行った。
[比較例1]
実施例1と同じゴム金属複合体を用いて、ニッパーにより長さ1cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体に対し、工程(1)及び工程(2)を実施することなく、実施例1の工程(3-1)と同様の処理を行った。その後、実施例1の工程(3-2)においてクライオイオンミリング装置の代わりにイオンミリング装置(日本電子株式会社製「クロスセクションポリッシャIB-09010CP」)を用い、加速電圧は5kVとして、常温にてアルゴンイオンビームを照射した。次いで、平滑化した断面に対し、金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成し、集束イオンビーム(FIB)装置により集束イオンビームを照射して更なる平滑化を行った。集束イオンビーム装置としては日本エフイー・アイ株式会社製「Helios G4 UC」を用い、加速電圧は30kV、ビーム電流は9.4nA、照射幅は250μmとして、Ga+イオンビームを照射した。これにより、幅250μmの平滑な断面を得た。ニッパーによる切断後の断面に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したものについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影を行った。
[比較例2]
実施例1と同じゴム金属複合体を用いて、ニッパーにより長さ1cm程度に切断し、切断後のゴム金属複合体に対し、実施例1と同様の工程(1)、工程(2)及び工程(3-1)を実施した。その後、実施例1の工程(3-2)においてクライオイオンミリング装置の代わりにイオンミリング装置(日本電子株式会社製「クロスセクションポリッシャIB-09010CP」)を用い、加速電圧は5kVとして、常温にてアルゴンイオンビームを照射した。次いで、平滑化した断面に対し、金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成し、集束イオンビーム(FIB)装置により集束イオンビームを照射して更なる平滑化を行った。集束イオンビーム装置としては日本エフイー・アイ株式会社製「Helios G4 UC」を用い、加速電圧は30kV、ビーム電流は9.4nA、照射幅は250μmとして、Ga+イオンビームを照射した。これにより、幅250μmの平滑な断面を得た。イオンミリングによる平滑化後の断面に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成したもの、及び、集束イオンビームによる処理後の断面について、それぞれ走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影を行った。
実施例1、比較例1及び2について、各処理段階で要した時間を下記表1に示す。
Figure 2023091949000002
表1に示すように、実施例1であると、平滑な断面を作製するのに要した時間が8.6時間であり、比較例1及び2に対して大幅な時間短縮が可能であった。
その理由として、第1に、比較例1ではニッパーによる切断面にイオンミリングによる平滑化加工を行っていることが挙げられる。図5に示すように、ニッパーによる切断面では、金属コードの切断端に大きな歪みが生じ、金属コードとゴムとの間に大きな隙間が生じており、歪みによる切断面の凹凸の深さは数百μm~1mm程度であった。このような大きな歪みを持つ切断面をイオンミリングにより平滑化するためには多大な時間を要し、26時間程度かかった。これに対し、図4に示すように、ワイヤーソーによる切断面では、歪みや隙間が小さく、切断面の凹凸の深さは数μm程度であった。このように切断面がもともと平滑であるため、イオンミリングにより平滑化するための時間を大幅に短縮することができる。
第2に、比較例2では常温でのイオンミリングを行っているのに対し、実施例1ではクライオイオンミリングを行っていることが挙げられる。比較例2のような常温でのイオンミリングによる処理では、ゴム部分が熱によるダメージを受けるため、イオンミリングによる加工後の断面は、図7に示すように、加工面が汚く、ゴムと金属コードとの接着界面での観察が不可能であった。そのため、上記のように集束イオンビーム(FIB)での平滑化加工を行っており、図8(A)に示すように幅250μmの範囲内で平滑化によりきれいな断面が形成され、図8(B)に拡大して示すように接着界面の観察が可能になった。しかしながら、集束イオンビームによる処理のために4時間の追加の時間を要した。また、この場合、装置性能の違いにより、イオンミリング加工の時間についても、実施例1のクライオイオンミリング加工よりも長時間を要した。
図6(A)~(F)は、実施例1におけるクライオイオンミリングによる平滑化加工後の断面を示すSEM画像である。図6(A)~(F)に示されるように、実施例1では、集束イオンビームによる仕上げ処理をしなくても、電子顕微鏡による接着界面の観察が可能なきれいな断面が得られており、短時間で断面観察のための前処理を行うことができた。
[実施例2]
ゴム金属複合体として、厚み1mmの板状の鉄鋼材に、加硫接着剤からなる接着剤層を介して、ジエン系ゴムを含むゴム組成物からなる厚さ2mmのゴム層が加硫接着されたゴム金属接着体(5mm×5mm)を用いた。
ゴム金属接着体の全体をエポキシ樹脂(リファインテック株式会社製「エポマウント主剤及びエポマウント硬化剤」)で包埋し、エポキシ樹脂の硬化後に、鉄鋼材側からダイヤモンドワイヤーソー(株式会社ニューメタルス エンド ケミカルス コーポレーション製「CS-203」)により切断して粗断面を形成した。また、鉄鋼材とゴムとの界面に対して平行な平面を形成するようにエポキシ樹脂をダイヤモンドワイヤーソーで切断し、得られた平面に遮蔽板を重ね、イオンビームにより鉄鋼材側から削られるように、ゴム金属接着体をクライオイオンミリング装置の試料台にセットした。
遮蔽板28としては厚み2mmのステンレス板を用いた。遮蔽板の端面からのゴム金属接着体のはみ出し量Pを約500μmとし、その状態でクライオイオンミリング装置によりゴム金属接着体を冷却しながら、イオンビームをはみ出した端部に照射して粗断面を平滑化した。クライオイオンミリング装置としては日本電子株式会社製「IB-19520CCP」を用い、加速電圧は6.0kV、冷却温度は-10℃として、アルゴンイオンビームを照射し、加工時間8時間にて平滑な断面を得た。
得られた断面に金パラジウム蒸着を行って導電膜を形成した後、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影を行った。SEM撮影は、日本電子株式会社製「JSM-IT500HR」を用い、加速電圧は5.0kVとして行った。その結果、図9(A)~(C)に示すように、実施例2であると、集束イオンビームによる仕上げ処理をしなくても、電子顕微鏡による接着界面の観察が可能なきれいな断面が得られており、短時間で断面観察のための前処理を行うことができた。
10…ゴム金属複合体、12…金属コード、14…ゴム、16…合成樹脂、20…ワイヤー、22…粗断面、24…シート、26…接着剤、28…遮蔽板、30…クライオイオンミリング装置、32…イオンビーム、34…断面

Claims (5)

  1. ゴム金属複合体の断面を観察するための前処理方法であって、
    ゴム金属複合体のゴム表面の少なくとも一部を合成樹脂で被覆すること、
    前記合成樹脂で被覆したゴム金属複合体をワイヤーソーにより切断すること、及び、
    切断したゴム金属複合体の粗断面にクライオイオンミリングにより平滑化加工を行うこと、
    を含む、ゴム金属複合体の観察前処理方法。
  2. 前記平滑化加工は、シート表面が前記粗断面に対して垂直な姿勢となるようにシートに前記ゴム金属複合体を接着剤により固定すること、及び、前記ゴム金属複合体の前記粗断面を含む一部が遮蔽板からはみ出すように前記シートに遮蔽板を重ね、前記遮蔽板からはみ出した前記ゴム金属複合体の一部にクライオイオンミリング装置によりイオンビームを照射して前記粗断面を平滑化することを含む、請求項1に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
  3. 前記シートは、高分子フィルム、金属板又はガラス板であり、かつ厚み0.9mm以下である、請求項2に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
  4. 前記ワイヤーソーがダイヤモンドワイヤーソーである、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
  5. 前記ゴム金属複合体がゴムに金属が埋設されたものであり、前記合成樹脂で被覆した箇所で前記ワイヤーソーにより前記ゴム金属複合体を切断する、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム金属複合体の観察前処理方法。
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