JP2023008599A - Runx結合配列を標的とする抗脳腫瘍剤 - Google Patents

Runx結合配列を標的とする抗脳腫瘍剤 Download PDF

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Abstract

【課題】膠芽腫を含む脳腫瘍の治療に効果的であり、かつ、脳内への局所投与に限定されない投与経路を有する薬剤を提供すること。【解決手段】RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドとアルキル化剤との複合体を含む、脳腫瘍を予防または治療するための医薬組成物が提供される。【選択図】なし

Description

本発明は、抗脳腫瘍剤に関する。
脳腫瘍のなかでも膠芽腫(グリオブラストーマ)は、成人において最も頻度が高く、かつ、2年生存率が約30%という悪性度の高い脳腫瘍である。膠芽腫の治療には、外科的摘出、放射線治療、化学療法などが試みられており、現在、可能な限り腫瘍を摘出後、放射線治療およびテモゾロミドによる化学療法を併用することが標準治療となっている。しかしながら、これらの膠芽腫の治療の奏効率は芳しくない。過去30年間、膠芽腫の診断後生存率は大きな変化がなく、生存期間中央値は約1年である。このため、膠芽腫に対して優れた奏効率を示し、かつ、安全性が高い治療法が求められている。
一方、高悪性度神経膠腫の悪性表現型に関与する転写因子の一つとしてRUNX1[ラント関連転写因子(Runt-related transcription factor)1]が報告された(非特許文献1)。RUNX1は、血液関連遺伝子および造血幹細胞関連遺伝子の発現を制御する重要な転写因子であるRUNXファミリーのメンバーである。RUNXファミリーのメンバーには、RUNX1の他に、RUNX2およびRUNX3がある。RUNXファミリーは、ラントドメインを介して、DNA上のコンセンサス結合配列5’-TGTGGT-3’および非常に稀には5’-TGCGGT-3’を認識し、結合することにより、下流遺伝子の転写を調節する。DNA上のRUNX結合配列に結合してその転写活性を減少させるピロール-イミダゾールポリアミド(以後、「PIポリアミド」または「PIP」ともいう)が開発され、RUNXファミリーの標的遺伝子への結合の阻害(遺伝子スイッチ-オフ)が急性骨髄性白血病(AML)や、胃がんのような固形腫瘍において腫瘍抑制効果をもたらすことが報告された(非特許文献2および特許文献1)。しかしながら、腫瘍の悪性度においてRUNX1またはRUNXファミリーがどのように関与するのか詳細はいまだ不明である。
さらに、現在、血液脳関門(Blood Brain Barrier、以下、「BBB」ともいう)を通過する抗腫瘍剤はほとんど存在しておらず、テモゾロミドなどの数種類に限られる。そのため、脳腫瘍の治療では、薬剤を直接脳内に局所投与する方法が一般的である。また、PIポリアミドの取込量は細胞種によって異なり、正常な脳にはほとんど取り込まれないことが報告された(非特許文献3)。
国際公開第WO2018/021200号
Nature 463, 318-325, 2010 The Journal of Clinical Investigation, Volume 127, Number 7, pp. 2815-2828, 2017 Journal of Medicinal Chemistry, 2014, 57, 8471-8476
本発明は、膠芽腫を含む脳腫瘍の治療に効果的であり、かつ、脳内への局所投与に限定されない投与経路を有する薬剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、RUNX結合配列に結合するPIポリアミドとアルキル化剤との複合体(コンジュゲート)が脳腫瘍の増殖を抑制し、さらに驚くべきことに、静脈内投与により脳内に送達できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の態様を提供する。
[1]RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、脳腫瘍を予防または治療するための医薬組成物。
[2]全身投与用である、[1]記載の医薬組成物。
[3]前記アルキル化剤がクロラムブシル、デュオカルマイシン、seco-CBI、CBI、ピロロベンゾジアゼピン、ナイトロジェンマスタード、ナイトラミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランチオテパ、カルボコン、ブスルファン、および塩酸ニムスチンからなる群から選択される、[1]または[2]記載の医薬組成物。
[4]前記アルキル化剤がクロラムブシルである、[3]記載の医薬組成物。
[5]前記脳腫瘍が悪性脳腫瘍である、[1]~[4]のいずれか1項記載の医薬組成物。
[6]前記脳腫瘍が膠芽腫または髄芽腫である、[5]記載の医薬組成物。
[7]前記複合体におけるピロール-イミダゾールポリアミドが、
(1)PyPyPyPy-γ-ImImPyIm
(2)PyPyPyPy-γ-ImPyImIm
(3)ImImPyIm-γ-PyPyPyPy
(4)ImPyImIm-γ-PyPyPyPy
(5)ImImPyIm-γ-PyImPyPy
(6)ImPyImIm-γ-PyPyImPy
(7)PyImPyPy-γ-ImImPyIm、または
(8)PyPyImPy-γ-ImPyImIm
で示される構造を有し、ここに、Pyは下記式:
Figure 2023008599000001
(式中、XはCHまたはCOHを示し、R’はHまたはアルキル基を示す。)
で示されるピロール単位であり、ピロール単位の少なくとも1つは、下記式:
Figure 2023008599000002
で示されるβアラニン残基によって置換されていてもよく、Imは下記式:
Figure 2023008599000003
(式中、R’’はHまたはアルキル基を示す。)
で示されるイミダゾール単位であり、γはγ-ターンを示す、[1]~[6]のいずれか1項記載の医薬組成物。
[8]前記複合体が下記式:
Figure 2023008599000004
Figure 2023008599000005
Figure 2023008599000006
で示される化合物からなる群から選択される、[7]記載の医薬組成物。
[9]RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、膠芽腫または髄芽腫を予防または治療するための静脈内投与用医薬組成物であって、前記複合体におけるピロール-イミダゾールポリアミドが、
(1)PyPyPyPy-γ-ImImPyIm
(2)PyPyPyPy-γ-ImPyImIm
(3)ImImPyIm-γ-PyPyPyPy
(4)ImPyImIm-γ-PyPyPyPy
(5)ImImPyIm-γ-PyImPyPy
(6)ImPyImIm-γ-PyPyImPy
(7)PyImPyPy-γ-ImImPyIm、または
(8)PyPyImPy-γ-ImPyImIm
で示される構造を有し、ここに、Pyは下記式:
Figure 2023008599000007
(式中、XはCHまたはCOHを示し、R’はHまたはアルキル基を示す。)
で示されるピロール単位であり、ピロール単位の少なくとも1つは、下記式:
Figure 2023008599000008
で示されるβアラニン残基によって置換されていてもよく、Imは下記式:
Figure 2023008599000009
(式中、R’’はHまたはアルキル基を示す。)
で示されるイミダゾール単位であり、γはγ-ターンを示す、医薬組成物。
[10]RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、悪性脳腫瘍を予防または治療するための静脈内投与用医薬組成物であって、前記複合体が下記式:
Figure 2023008599000010
Figure 2023008599000011
Figure 2023008599000012
で示される化合物群から選択される、医薬組成物。
本明細書に開示される医薬組成物は、驚くべきことに、脳腫瘍に対して全身投与、例えば静脈内投与でも効果を奏する。したがって、本開示による医薬組成物を用いれば、患者の肉体的負担を減じ、かつ効率的な脳腫瘍の治療が可能になる。特に、膠芽腫は不均一な腫瘍であり、多様な組織学的タイプおよび複数の遺伝子変異を有する。本開示によれば、RUNX結合配列を標的とするPIポリアミドコンジュゲートによって、複数の遺伝子の発現を調節し、かつ、腫瘍の悪性度の維持に関与する転写因子であるRUNXを調節することにより、膠芽腫を含む脳腫瘍の治療を達成することができる。
正常脳(Control)および各グレードのグリオーマ(DA gradeII:グレード2、およびPrimary GBM:原発性グリオブラストーマ)における、GAPDHに対して標準化されたRUNX1の相対的発現レベルを示す。データは、GSE111260から回収した。ボックスは四分位範囲を示し、上縁は上位四分位点を示し、中央の線は中央値を示し、下縁は下位四分位点を示す。上のラインおよび下のラインはそれぞれ、最大および最小値を示す。P値は、一元配置分散分析(ANOVA)によって分析した。 各膠芽腫細胞株のRUNXファミリーの発現を示す。 膠芽腫RUNX1発現レベルに基づく生存曲線を示す。RUNX1 high(上の半分)およびlow(下の半分)における対象数はそれぞれ、83および84であった。データは、The Cancer Genome Atlas(TCGA)から回収した。 0.5μMおよび2μM Chb-M’で処理した膠芽腫細胞の増殖曲線を示す。 クロラムブシル(Chb)、Chb-M’またはChb-Sでの72時間処理後の膠芽腫細胞の用量応答曲線を示す。細胞生存能力は、水溶性テトラゾリウム塩(WST)アッセイによって試験した。エラーバーは、±95%CIを示す。 Chb-M’によって誘導されたアポトーシス細胞を示す。 Chb-M’によって引き起こされた細胞周期停止を示す。各細胞周期について、パーセンテージ細胞数が示される。***p<0.001(両側スチューデントのt検定)。 異種移植マウスにおいて計画された処理の概略図である。 LN229を移植した後に、Chb-M’またはChb-SまたはDMSO(n=6)で処理されたBALB/cSlc-nu/nuマウスの全生存率を示す。p<0.05(ログランク検定、Bonferroni補正)。 異種移植マウスにおいて計画された処理の概略図である。 ヤギ抗-FITC抗体で免疫染色した、FITC標識したChb-M’およびDMSOで処理した正常脳および頭蓋内腫瘍および皮下腫瘍の病理サンプルを示す。スケールバー:50μm。
1.PIポリアミド
PIポリアミドは、アミド結合により連結されたN-メチルピロールとN-メチルイミダゾールから構成される合成リガンドであり、DNAの副溝に塩基配列選択的に結合する化合物である。PIポリアミドは、一般に、N-メチルピロール(Py)残基およびN-メチルイミダゾール(Im)残基からなる逆平行に配向した2本の鎖を含み、PおよびIは互いにアミド結合「-C(=O)-NH-」で連結されている[Trauger et al, Nature, 382, 559-61(1996); White et al, Chem.Biol., 4,569-78(1997);およびDervan, Bioorg. Med. Chem., 9, 2215-35(2001)]。ここで「逆平行」とは、PIポリアミドの2本のポリアミド鎖が平行に並んでおり、かつ、該2本のポリアミド鎖のNおよびC末端が互いに逆向きになるよう配向されていることをいう。PIポリアミドはいくつかの形態をとることができ、例えば、ヘアピン型、環状、H-pin型、U-pin型等のPIポリアミドが知られている。ヘアピン型PIポリアミドは、上記した2本のポリアミド鎖の他にγ-アミノ酪酸部分(以下、「γ-リンカー」または「γ-ターン」ともいう)を含み、一方の鎖のC末端ともう一方の鎖のN末端がγ-リンカーによって連結されたU字型のコンフォメーション(ヘアピン型)をとる。PyとImとγ-アミノ酪酸部分とは互いにアミド結合で連結される。環状PIポリアミドは、ヘアピン構造の末端を第2のγ-ターンによって閉環させて環状のコンフォメーションをとったものである。H-pin型およびU-pin型PIポリアミドは、γ-ターンを含まず、一般に、それぞれ2本のポリアミド鎖の中央のPのN-メチル基間および末端のPおよびIのN-メチル基間が脂肪族リンカーによって連結されている。本開示において、いずれの形態のPIポリアミドを使用してもよく、例えば、ヘアピン型、環状、H-pin型、またはU-pin型のPIポリアミドが使用され、好ましくは、ヘアピン型のPIポリアミドが使用される。
PIポリアミドは、上記2本のポリアミド鎖間で向かい合うPyおよび/またはImからなる対(以下、「ピロール-イミダゾール対」ともいう)が特定の組み合わせ(Py/Im対、Im/Py対、またはPy/Py対)のときに、DNA中の特定の塩基対に高い親和性で結合する。例えば、Py/Im対はC(シトシン)・G(グアニン)塩基対を、Im/Py対はG・C塩基対を、Py/Py対はA(アデニン)・T(チミン)塩基対およびT・A塩基対の両方を認識し、結合することができる。また、PIポリアミドには、PyおよびImの他に、3-ヒドロキシピロール(Hp)およびβ-アラニン残基(βアラニン)が含まれていてもよく、PyをHpまたはβアラニンに置き換えることができる。Hp/Py対は、T・A塩基対に結合することができる。Py/Hp対は、A・T塩基対に結合することができる。βアラニン/βアラニン対は、T・A塩基対およびA・T塩基対の両方に結合することができる。βアラニン/Im対は、C・G塩基対に結合することができる。Im/βアラニン対は、G・C塩基対に結合することができる。βアラニン/Py対およびPy/βアラニン対は、T・A塩基対およびA・T塩基対の両方に結合することができる。さらに、γ-ターン部分は、T・A塩基対およびA・T塩基対の両方に結合することができる。さらに、PIポリアミドのN末端に付加したβ-アラニン残基も、T・A塩基対およびA・T塩基対の両方に結合することができる。Py、Im、Hp、および/またはβアラニンによって形成される対の構成、順序、および組み合わせ等を適宜変更することにより、所望のDNA配列を特異的に認識し、結合するPIポリアミドを設計することができる。例えば、ポリアミドのN末端側が標的DNA配列の5’側にくるよう設計する。
本開示において、PIポリアミドを構成するPおよびIの1位の窒素上のメチル基は、水素またはメチル基以外のアルキル基で置き換わっていてもよい。メチル基以外のアルキル基の例としては、炭素数2~10個の直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基、好ましくは、炭素数2~5個の直鎖、分枝鎖直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基が挙げられ、例えば、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。また、メチル基を含め、アルキル基は置換されていてもよく、例えば、アルキル基中のメチレンは、酸素等で置換されていてもよい。さらに、上記したように、PIポリアミドを構成するPの3位はヒドロキシ基で置換されていてもよい。本明細書においてPIポリアミドに関して用いる場合、「Py」または「ピロール」および「Im」または「イミダゾール」なる語は、上記したようなN置換またはN非置換ピロール、3-ヒドロキシピロール、およびN置換またはN非置換イミダゾールを包含する。
PIポリアミドのγ-ターン部分は置換されていてもよく、好ましくはγ-ターン部分のα位またはβ位に置換基を有していてもよく、さらに好ましくはγ-ターン部分のα位に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、限定するものではないが、アミノ基、アセチルアミノ基、ジメチルアミノプロピルアミノ基、水酸基、メトキシ基等が挙げられる。例えば、γ-ターン部分は、α位またはβ位がアミノ基で置換された、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基またはN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基であってもよい。
PIポリアミドのN末端およびC末端には、種々の官能基または分子が付加されていてもよい。PIポリアミドのN末端およびC末端に付加する官能基または分子は、当業者が適宜決定することができる。例えば、アミド結合を介して様々な官能基を付加することができる。該官能基の例としては、限定するものではないが、β-アラニン残基、γ-アミノ酪酸残基などのカルボキシル基、アセチル基、アミノ基等が挙げられる。例えば、限定するものではないが、N末端にはアセチル基が付加されていてもよい。例えば、限定するものではないが、C末端にはジメチルアミノプロピルアミノ基が付加されていてもよい。
PIポリアミドのN末端、C末端、およびγ-ターン部分はまた、蛍光基やビオチン、イソフタル酸等の分子で修飾されていてもよい。本願明細書において、蛍光基としては、限定するものではないが、例えば、フルオレセイン、ローダミン系色素、TAMRA(5-カルボキシテトラメチルローダミン)、シアニン系色素、ATTO系色素、Alexa Fluor系色素、BODIPYが挙げられる。フルオレセインには、フルオレセイン誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート等)も含まれる。
PIポリアミドの設計方法および製造方法は公知である(例えば、特許第3045706号、特開2001-136974号、WO03/000683号、特開2013-234135号、特開2014-173032号参照)。例えば、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相合成法(Fmoc固相合成法)による自動合成によって簡便に製造することができる。また、液相合成法によって製造することもできる。
また、本開示において、PIポリアミドは、DNAに対する結合能力を維持または向上するように修飾されたPIポリアミド修飾物であってもよい。該PIポリアミド修飾物としては、例えば、PIポリアミドのγ-ターンのα位またはβ位にアミノ基を付加した修飾物、すなわち、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基またはN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基からなるγ-ターンを有する修飾物、該修飾物の上記アミノ基を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、PIポリアミドのN末端を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、およびPIポリアミドのC末端をイソフタル酸等の分子で修飾した修飾物等が挙げられる。
本開示において使用されるPIポリアミドは、ゲノム上のRUNX結合部位のコンセンサス配列(「RUNXコンセンサス結合配列」または「RUNX結合配列」ともいう)を認識するように設計される、RUNX結合配列に結合するPIポリアミドである。該RUNX結合配列は、5’-TGTGGT-3’または5’-TGCGGT-3’であることが知られている。したがって、標的となるRUNX結合配列に基づいて、PIポリアミドを構成するピロール-イミダゾール対の組み合わせ(ピロール-イミダゾール対の数、種類、およびその順序)を決定すればよい。なお、本開示において用いられる場合、「ピロール-イミダゾール対」なる語は、Py、Im、Hp、およびβアラニンのいずれの組み合わせからなる対も包含する。
本開示において使用されるPIポリアミドの例として、限定するものではないが、
(1)PyPyPyPy-γ-ImImPyIm
(2)PyPyPyPy-γ-ImPyImIm
(3)ImImPyIm-γ-PyPyPyPy
(4)ImPyImIm-γ-PyPyPyPy
(5)ImImPyIm-γ-PyImPyPy
(6)ImPyImIm-γ-PyPyImPy
(7)PyImPyPy-γ-ImImPyIm、または
(8)PyPyImPy-γ-ImPyImIm
で示される構造を有するPIポリアミド、ここに、Pyの少なくとも1つはβアラニンによって置換されていてもよく、γはγ-ターンを示し、隣接するPy、Imおよびγ-ターンは互いにアミド結合で連結されている、
が挙げられる。
なお、本明細書においてPIポリアミドのピロール-イミダゾール対に関して使用される場合、「Py」は下記式:
Figure 2023008599000013
[式中、XはCHまたはCOHを示し、R’はHまたはアルキル基を示す。]
で示されるピロール単位を示し、「Im」は下記式:
Figure 2023008599000014
[式中、R’’はHまたはアルキル基を示す。]
で示されるイミダゾール単位を示し、「βアラニン」は、
Figure 2023008599000015
で示されるβアラニン残基を示す。
2.PIポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体
本明細書で使用される場合、「複合体」(または「コンジュゲート」ともいう)とは、安定したより大きな構築物を形成するのに十分な結合(例えば、共有結合)を介して連結されて、当該構築物を形成している2つまたはそれより多くの分子を指す。本開示において、上記PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体が提供される。
アルキル化剤とは、DNAと共有結合を作る官能基を有する化合物であり、例えば、DNAをアルキル基を有する分子に変化(アルキル化)させることによって、DNAの合成を阻害することができる。本開示において使用されるアルキル化剤としては、特に限定されないが、後述する医薬組成物における使用を考慮して、細胞毒性が低いまたは無いものが好ましい。アルキル化剤としては、例えば、限定するものではないが、クロラムブシル(chlorambucil)、デュオカルマイシン(duocarmycin)、seco-CBI(1-クロロメチル-5-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール)、CBI(1,2,9,9a-テトラヒドロシクロプロパン[c]ベンゾ[e]インドール-4-オン)、ピロロベンゾジアゼピン、ナイトロジェンマスタード、ナイトラミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランチオテパ、カルボコン、ブスルファン、塩酸ニムスチン等が挙げられる。seco-CBIまたはCBIとPIポリアミドとの複合体を製造する場合は、PIポリアミドとseco-CBIまたはCBIとの間にインドールまたはビニルピロールを挿入してもよい。
上記アルキル化剤の例として挙げられたクロラムブシル、seco-CBI、およびCBIは、下記の化学式で表される。
Figure 2023008599000016
アルキル化剤は、PIポリアミドのN末端、C末端、またはγ-ターン部分のいずれに結合していてもよい。また、N末端、C末端、およびγ-ターン部分から選ばれる2以上の位置に結合していてもよい。例えば、アルキル化剤は、PIポリアミドのN末端またはC末端に結合される。アルキル化剤がPIポリアミドのN末端、C末端およびγ-ターン部分から選ばれる2以上の位置に結合する場合、各位置に結合するアルキル化剤は同一であってもよく、または異なっていてもよい。
アルキル化剤は、例えばアミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、エーテル結合等を介して、PIポリアミドに直接結合していてもよく、またはリンカーを介して結合していてもよい。リンカーとしては、アルキル化剤の作用を妨げず、かつPIポリアミドの標的配列認識を妨げないものであれば特に限定されない。リンカーの例としては、限定するものではないが、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、エーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を形成する官能基を含む分子であってもよい。リンカーのさらなる例としては、限定するものではないが、β-アラニンリンカー、ポリエチレングリコールリンカー、ペプチドリンカー、アルキルリンカー、アミノアルキルリンカー、ポリエーテルリンカー等が挙げられる。リンカーの末端は、PIポリアミドおよびアルキル化剤と、例えばアミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、またはエーテル結合等を介して結合される。上記リンカーは当業者により適宜決定することができる。
PIポリアミドとアルキル化剤との結合(コンジュゲーション)は、既知のカップリング方法または合成方法にしたがって行うことができる。
本開示におけるPIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体の例としては、式I:
Figure 2023008599000017
[式I中、
はCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、ここに、X~Xは、PIポリアミドがRUNXコンセンサス配列を認識可能になる組み合わせで選択される、
はHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、
はH、-NHR11、または-Ym-Zを示し、
10はH、-NHR11、または-Ym-Zを示し、
11はH、またはビオチン、蛍光基等の分子を示し、
Aは、
Figure 2023008599000018
から選択されるいずれかの基、または-Ym-Zを示し、
Bは、アセチル基、または-Ym-Zを示し、
整数nは、0~5の値のいずれかであり、
Zは、アルキル化剤を示し、
Ymは、リンカー部分を示し、
整数mは0~5の値のいずれかであり、好ましくは0~3、より好ましくは0または1であり、
ここに、R、R10、A、およびBの少なくとも1つは、-Ym-Zであり、
式Iの複合体が、複数のYm-Zで示される構造を含むとき、それらの複数のYm-Zにおける、Ymの各々は、他のYmと互いに同一であっても、異なっていてもよく、それぞれが独立して選択され得るものであり、かつ、それらの複数のYm-Zにおける、Zの各々は、他のZと互いに同一であっても、異なっていてもよく、それぞれが独立して選択され得るものであり、
さらに、式I中、下記式:
Figure 2023008599000019
(式中、XはX~Xのいずれかであって、かつ、CHまたはCOHを示し、R’はR~Rのいずれかであって、Hまたはアルキル基を示す。)
で示されるピロール単位の少なくとも1つはβアラニンによって置換されていてもよい。]
によって示される化合物、ならびにその修飾物が挙げられる。
上記式Iで表される複合体のさらなる態様において、
Aは、
Figure 2023008599000020
[式中、整数nは、0~5の値のいずれかである]
から選択されるいずれかの基を示すか、または-Ym-Zを示し、ここに、該-Ym-Zは下記の式:
Figure 2023008599000021
で表されるいずれかの基であり、
Bは、-Ym-Zを示し、ここに、該-Ym-Zは下記の式:
Figure 2023008599000022
[式中、整数nは、0~5の値のいずれかであり、好ましくは0~2の値のいずれかである]
で表される基である。
本開示におけるPIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体のさらなる例としては、式II:
Figure 2023008599000023
または式III:
Figure 2023008599000024
[式IIおよび式III中、
はCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、XはCH、COHまたはNを示し、ここに、X~Xは、PIポリアミドがRUNXコンセンサス配列を認識可能になる組み合わせで選択される、
はHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、RはHまたはアルキル基を示し、
はHまたは-NHR11を示し、R10はHまたは-NHR11を示し、
11はH、またはビオチン、蛍光基等の分子を示し、
Zはアルキル化剤を示し、
Ymは、リンカー部分を示し、
整数mは0~5のいずれかの値であり、好ましくは0~3、より好ましくは0または1であり、
ここに、下記式:
Figure 2023008599000025
(式中、XはX~Xのいずれかであって、かつ、CHまたはCOHを示し、R’はR~Rのいずれかであって、Hまたはアルキル基を示す。)
で示されるピロール単位の少なくとも1つは、βアラニンによって置換されていてもよい。]
によって示される化合物、ならびにその修飾物が挙げられる。
一実施態様において、上記式I~IIIにおいて、Ymで示されるリンカー部分の一例としては、下記式IV:
Figure 2023008599000026
[式中、
Qは、カルボニル[-C(=O)-]またはイミノ(-NH-)であり、
Q’は、エーテル結合(-O-)またはイミノ(-NH-)もしくはメチルイミノ[-N(-CH)-]であり、
整数gおよびkは各々独立して、1~3の値のいずれかであり、
整数hおよびjは各々独立して、0~5の値のいずれかであり、
整数iは、0~2の値のいずれかである]
で示される構造が挙げられる。例えば、整数hおよびjは各々独立して、0~3の値のいずれかであることが好ましい。また、上記の式IV中、エステル結合の位置と、Q’で表されるエーテル結合またはイミノ結合の位置は入れ替わっていてもよい。上記式IVで示されるリンカー部分において、例えば、右端の位置はアルキル化剤と連結し、左端の位置はPIポリアミドと連結するが、該連結位置は逆であってもよい。例えば、上記式IVで示されるリンカー部分の左端の位置がPIポリアミドのC末端と連結する場合、Qはイミノであることが好ましい。
式IVで示されるYの一例として、下記式V:
Figure 2023008599000027
で示される構造が挙げられる。
式IVで示されるYの別の例として、下記式VI:
Figure 2023008599000028
[式中、lは1~5の整数を示す]
で示される構造が挙げられる。例えば、lは1~3の整数であり、好ましくは、lは1である。
式IVで示されるYの別の例として、下記式VII:
Figure 2023008599000029
で示される構造が挙げられる。好ましくは、式VIIで表されるリンカー部分は、アルキル化剤がPIポリアミドのC末端側に結合される場合に用いられる。
上記式IV~式VIIで示されるリンカー部分において、例えば、右端の位置はアルキル化剤と連結し、左端の位置はPIポリアミドと連結するが、該連結位置は逆であってもよい。
上記の式II中、-Ym-Zは、例えば、
Figure 2023008599000030
[式中、整数nは1~5のいずれかの値であり、好ましくは0~2のいずれかの値である]
で表される基である。
上記の式III中、-Ym-Zは、例えば、
Figure 2023008599000031
で表される基である。
本明細書において、アルキル基の例としては、炭素数1~10個の直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基、好ましくは、炭素数1~5個の直鎖、分枝鎖直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和アルキル基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。また、アルキル基は置換されていてもよく、例えば、アルキル基中のメチレンは、酸素等で置換されていてもよい。
本開示において、PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体の例示的な態様としては、さらに、下記式:
Figure 2023008599000032
Figure 2023008599000033
Figure 2023008599000034
Figure 2023008599000035
Figure 2023008599000036
Figure 2023008599000037
[式中、
Zはアルキル化剤を示し、
nは0、1、2、3、4、または5を示し、好ましくは1、2、または3を示し、さらに好ましくはnは1を示し、
ピロール単位の少なくとも1つは、βアラニンによって置換されていてもよい。]
によって示される化合物、ならびにその修飾物が挙げられる。
本開示における上記複合体の例示的なさらなる態様としては、下式によって示されるPIポリアミドとクロラムブシルとを含む複合体、ならびにその修飾物が挙げられる。
Figure 2023008599000038
Figure 2023008599000039
Figure 2023008599000040
[式中、
Zはアルキル化剤を示し、
nは0、1、2、3、4、または5を示し、好ましくは1、2、または3を示し、さらに好ましくはnは1を示し、
ピロール単位の少なくとも1つは、βアラニンによって置換されていてもよい。]
さらに、PIポリアミドとクロラムブシルとを含む複合体の具体例としては、限定するものではないが、下記の化合物が挙げられる。
Figure 2023008599000041
Figure 2023008599000042
Figure 2023008599000043
Figure 2023008599000044
PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体は、薬理学的に許容し得る塩の形態であってもよい。薬理学的に許容し得る塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩もしくは臭化水素酸塩等の無機酸塩、または酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩もしくはトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体は、PIポリアミド、アルキル化剤、および/またはリンカー部分から選択される1以上が、エナンチオマーもしくはジアステレオマーの形態またはこれらの混合物として存在していてもよい。例えば、PIポリアミドがγ-ターン部分において置換基を有する場合またはアルキル化剤とコンジュゲートする場合、該置換基またはアルキル化剤は、R配置またはS配置を取るようにγ-ターン部分に結合していてもよい。PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体がジアステレオマーまたはエナンチオマーの形態で得られる場合、これらを当該技術で周知の慣用方法、例えば、クロマトグラフィーまたは分別結晶法等で分離することができる。
また、上記複合体は、PIポリアミド、アルキル化剤、および/またはリンカー部分の少なくとも1つ以上の部分または分子上で、同位元素(例えば、H、13C、14C、15N、18F、32P、35S、125I等)等で標識されていてもよく、または重水素変換体であってもよい。
3.医薬組成物
本開示において、上記PIポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む医薬組成物が提供される。本開示における医薬組成物は、脳腫瘍の予防または治療に有効である。本開示における医薬組成物は、脳腫瘍への直接的投与(局所投与)はもちろん、全身投与であっても脳腫瘍部位へ送達され、効果を奏することができる。
本開示における医薬組成物による予防または治療対象疾患は、脳腫瘍であり、特に悪性脳腫瘍である。悪性脳腫瘍には、限定するものではないが、膠芽腫、髄芽腫等が包含される。脳腫瘍は、原発性または転移性のいずれであってもよい。膠芽腫には、原発性膠芽腫(Primary glioblastoma)および二次性膠芽腫(Secondary glioblastoma)が包含される。
本開示における医薬組成物の投与対象は、二本鎖DNAを生体制御に利用するあらゆる生物、特に哺乳動物(例、ヒト、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)であり、好ましくはヒトに使用することができる。
本開示における医薬組成物は、経口または非経口経路によって投与され、好ましくは、経口または非経口経路によって全身的に投与され、さらに好ましくは、非経口経路によって全身的に投与される。非経口投与方法としては、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、髄腔内投与等が挙げられる。
本開示における医薬組成物は、上記PIポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体そのものであってもよく、または剤形に応じて適宜、医薬上許容される担体または添加物を含んでいてもよい。本開示における医薬組成物の剤形としては、上記の投与経路に適したいずれの剤形であってもよく、例えば、注射剤が挙げられる。これらの剤形は常法にしたがって製剤化することができる。医薬上許容される担体および添加物としては、限定するものではないが、水、酢酸、医薬上許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
本開示における医薬組成物を注射用製剤として使用する場合、例えば、本開示における医薬組成物を溶剤(例えば、生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液、0.1%酢酸等)に溶解し、これに適当な添加剤(ヒト血清アルブミン、PEG、マンノース修飾デンドリマー、シクロデキストリン結合体等)を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
本開示における医薬組成物中の上記複合体の含有量は、当業者により適宜決定することができる。本開示における医薬組成物の投与量は、投与対象、対象の年齢、性別、および症状、投与経路、投与回数、剤形等によって異なり、当業者によって適宜決定される
本開示における医薬組成物、他の抗脳腫瘍剤と併用してもよい。他の抗脳腫瘍剤としては、限定するものではないが、ニドラン(ACNU)や、テモゾロミド(TMZ)等が挙げられる。本開示における医薬組成物と他の抗脳腫瘍剤との投与比率は、特に限定されず、所望の抗腫瘍効果が得られるように当業者が適宜決定すればよい。
さらに本開示によれば、上記医薬組成物を対象に投与することを含む、脳腫瘍の予防または治療方法が提供される。例えば、上記医薬組成物を対象に全身投与することを含む、脳腫瘍の予防または治療方法が提供される。
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例で使用された材料および方法を下記する。
細胞培養
実施例において使用される膠芽腫細胞株A172、LN229およびT98Gは、ATCC(American Type Culture Collection)(Manassas, VA)から、KALS-1はJCRB細胞バンク(Japanese Collection of Research Bioresources Cell Bank)(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)から購入し、湿潤インキュベーター中において5%COの雰囲気下で、10%熱不活性化胎仔ウシ血清および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、37℃で培養した。
統計分析
実施例において、コントロール群と実験群との間の統計学的差は、対応のない両側スチューデントのt検定(two-tailed unpaired Student’s t-test)を用いて評価し、p<0.05値で差を示した。2集団における等分散性は、F検定を用いて計算した。結果は、3つの独立した実験から得られた平均±95%CIとして示す。
調製例1:Chb-M’の調製
RUNX結合配列5’-TGTGGT-3’を標的とするPIポリアミドを設計し、該PIポリアミドとアルキル化剤クロラムブシルとの複合体(Chb-M’)を合成した。Chb-M’の化学式を下記に示す。
Chb-M’
Figure 2023008599000045
試薬および溶媒は、標準的な供給元から入手し、さらに精製することなく使用した。フラッシュカラム精製は、C18 RediSep Rfフラッシュカラムを用いてCombiFlash Rf(Teledyne Isco, Inc.)によって行った。ESI-TOF MS(Electrospray ionization time-of-flight mass spectrometry)は、Bio-TOF II(Bruker Daltonics)マススペクトロメ-ターで、陽イオン化モードを用いて行った。機械によるポリアミド合成は、コンピューターアシストオペレーションシステムを有する自動合成機PSSM-8システム(Shimadzu)を用いて行った。プロトン核磁気共鳴(H NMR)スペクトルは、600MHzで作動しているJEOL JNM ECA-600スペクトロメーターで、内部標準として使用されるテトラメチルシランと比べて低磁場側への百万分率(ppm)として記録された。下記の略語は、スピン多重度:s(シングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、quint(クインテット)、m(マルチプレット)を示す。
Fmoc固相合成法による段階的反応によって、オキシム樹脂によって担持されたPIポリアミドを調製した。オキシム樹脂を有する生産物に、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(1.0mL)を加え、45℃で3時間処理して、切り出しを行った。ろ過により樹脂を除き、残留物を最少量のジクロロメタン中に溶解し、ジエチルエーテルで洗浄して、59.6mgを得た。この粗化合物(59.6mg、48.1μmol)に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(300μL)中のクロラムブシル(32.6mg、107μmol)、PyBOP(ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)(101mg、195μmol)、およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL、581μmol)を加えた。反応混合物を室温で1.5時間インキュベートし、ジエチルエーテルおよびDMFで3回洗浄し、真空乾燥させた。該粗生成物を逆相フラッシュカラムクロマトグラフィー(0.1%トリフルオロ酢酸水溶液/MeCN)で精製した。凍結乾燥後、生成物を得た(30.2mg、19.8μmol)。
Chb-M'
1H NMR (600 MHz, DMSO (ジメチルスルホキシド)-d6):δ=10.43 (s, 1H), 10.30 (s, 1H), 9.92 (s, 1H), 9.90 (s, 1H), 9.894 (s, 1H), 9.890 (s, 1H), 9.83 (s, 1H), 9.44 (s, 1H), 8.30 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 8.15 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 7.86 (t, J = 5.9 Hz, 1H), 7.63 (s, 1H), 7.52 (s, 1H), 7.44 (s, 1H), 7.39 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.22 (d, J = 1.4 Hz, 2H), 7.18 (d, J = 1.3 Hz, 1H), 7.17 (d, J = 1.3 Hz, 1H), 7.15 (d, J = 1.3 Hz, 1H), 7.073 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.066 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.95 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 1.4 Hz, 1H), 6.62 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 4.01 (s, 3H), 3.96 (s, 3H), 3.94 (s, 3H), 3.87 (s, 3H), 3.84 (s, 6H), 3.83 (s, 3H), 3.81 (s, 3H), 3.67 (m, 8H), 3.32-3.23 (m, 6H), 3.07 (m, 2H), 2.79 (d, J = 4.8 Hz, 6H), 2.52 (m, 2H), 2.40 (apparent t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.28 (apparent t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.04 (apparent t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.82 (m, 4H), 1.70 (m, 2H)
ESI-TOF-MS m/z C71H90Cl2N24O11 2+ [M + 2H]2+ 計算値762.3293, 763.3279, 測定値 762.3277, 763.3244
調製例2:Chb-Sの調製
Chb-Sは、5’-WGGCCW-3’配列(ここで、WはAもしくはTのいずれかである)を標的とするPIポリアミドとクロラムブシルとの複合体であり、調製例1と同様の手法により合成した。Chb-Sの化学式を下記に示す。
Chb-S
Figure 2023008599000046
Chb-S
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ=10.34 (s, 2H), 10.33 (s, 1H), 10.32 (s, 1H), 9.93 (s, 2H), 9.33 (s, 1H), 9.31 (s, 1H), 8.15 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 8.04 (t, J = 5.2 Hz, 1H), 7.89 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 7.58 (s, 2H), 7.55 (s, 1H), 7.52 (s, 1H), 7.26 (s, 2H), 7.17 (s, 4H), 6.97 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 6.95 (s, 1H), 6.91 (s, 1H), 6.61 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 4.01 (s, 6H), 3.99 (s, 3H), 3.98 (s, 3H), 3.85 (s, 6H), 3.813 (s, 3H), 3.807 (s, 3H), 3.66 (m, 8H), 3.32 (q, J = 6.2 Hz, 2H), 3.23 (m, 4H), 3.06 (m, 2H), 2.79 (d, J = 3.4 Hz, 6H), 2.52 (m, 2H), 2.38 (m, 4H), 2.04 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 1.82 (m, 4H), 1.70 (m, 2H).
ESI-TOF-MS m/z C70H89Cl2N25O11 2+ [M + 2H]2+ 計算値762.8270, 763.8255, 測定値762.8247, 763.8230
調製例3:FITC-Chb-M’の調製
Chb-M’のC末端をフレオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した化合物(FITC-Chb-M’)を合成した。FITC-Chb-M’の化学式を下記に示す。
FITC-Chb-M’
Figure 2023008599000047
まず、PSSM-8ペプチド合成機(Shimadzu)を用いて、PIPM’の合成を行った。合成シーケンスを入力した。リアクションベッセル(Small Libra tube)にFmoc-Py-oxime Resin(0.37mmol/g)レジン84mg(31μmol/0.1g)を入れ、RVインサートをセット後、膨潤させるため1mlのNMP(N-methylpyrrolidone)を壁面に付着したレジンを洗い落としながら加え、20分程度室温で放置した。
(HCTU溶液の調製)
15ml遠心管を使用して、HCTU(5-Chloro-1-[bis(dimethylamino)methyliumyl]-1H-benzotriazole-3-oxide hexafluorophosphate)79mg×8(カップリング数)=632mgを秤量後、1ml×8(カップリング数)=8mlのNMPに溶かした。水道水入り超音波洗浄機に15ml遠心管を入れ、10分程度超音波をあてながら、溶解させた。
(ポリアミドモノマー溶液の調製)
15ml遠心管を使用して、モノマー毎に以下の指定量を秤量後、上記で調製したHCTU溶液に溶かした。超音波洗浄機に15ml遠心管を入れ、10分程度放置した。Fmoc-Py-OH、Fmoc-Im-OHは、不溶物をろ過するため、5mlチップに脱脂綿をつめ、溶液をピペットマンで押し、新しい15ml遠心管に入れた。1カップリングあたりの必要量211μmolとなるように秤量した。(合成機に使用するレジン量、そのレジンの担持量を入力、80mg,0.660mmol/gとしたとき、4倍当量のFmoc体が211μmolとなる。)
Fmoc-Py-OH 76.54mg Mw:362.38
Fmoc-γAbu-OH 68.72mg Mw:325.36
Fmoc-Im-OH 76.75mg Mw:363.37
Fmoc-βAla-OH 65.76mg Mw:311.33
なお、「γAbu」はγアミノ酪酸部分を示し、「βAla」はβ-アラニン残基を示す。
(ポリアミドダイマー溶液の調製)
Fmoc-Im-OHの後のFmoc-Py-OHは固相合成機ではカップリングしないため、予め液相で合成したFmoc-PyIm-OH(Dimer)を使用し、モノマーと同様に調製した。
Fmoc-PyIm-OH 102.75mg Mw:486.48
(ポリアミド合成用反応溶液調製)
褐色スクリュー管no.6(30mm×65mm)にそれぞれ、Fmoc脱保護用反応液としてDMF中の20%ピペリジン溶液を18.2ml(1回の脱保護に、DMF中の20%ピペリジン溶液を500μl×2を使用し、ピペリジンは98%から20%となるようにDMFで希釈した。)、活性化剤として、DMF中の10%DIEA溶液4.91mlを入れ、合成機にセットした。
(PSSM-8合成機を用いたポリアミド合成)
2mlのエッペンチューブ(2ml sampling tube)にモノマー溶液を982μl毎分注した。シーケンス順に固相合成機にセットした。ポリアミドのシーケンスは以下(C末端からN末端へ合成)である。
Py(レジン上)-Py-Py-Py-γAbu-Im-Dimer-Im-βAl(Boc)
なお、「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を示す。
(切り出し工程)
リアクションベッセルを合成機から取り出し、キャップ後、1mlのジアミン(3,3’-ジアミノ-N-メチルジプロピルアミン)を加え、55℃、3時間、880rpm、振とう器で攪拌させた。ジエチルエーテル40mlを50ml遠心管に入れ、先の反応液を一滴ずつ加え、粉体化させた。10,000rpmで5分間遠心後、沈澱を1.5mlチューブに移し、10分程度、デジケーターで乾燥させた。
(PIPM’のC末端にFITCを導入する)
1.5mlチューブに以下のものを秤量し、室温で2時間攪拌した。
Figure 2023008599000048
ジエチルエーテル40mlを50ml遠心管に入れ、先の反応液を一滴ずつ加え、粉体化させた。10,000rpmで5分遠心後、1.5mlチューブに粉体を移した。
(β-Al(Boc)を脱保護する)
4N HCl+AcOEt 1mlを粉体に加え、室温で2時間攪拌させた。ジエチルエーテル40mlに滴下し粉体化し、デジケーターで乾燥させた。
(HPLC精製1)
HPLC高速液体クロマトグラフィーはJACSO(PU-2089Plus)、カラムは5C18-MS-II(COSMOSIL catalog No. 3455-91)を使用した。1.5mlチューブに入った粉体FITC-PIPM’にDMF(200μL)を加え、ボルテックスにて溶解させた。0-75%アセトニトリル/0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)水を、15分、流速3ml/分に設定し、目的物に由来する254nmの吸収ピークを回収した。その後速やかに、スクリュー管(30mm×65mm)に移し、コンビニエバポc18((株)バイオクロマト)を使用し、30℃、1時間でアセトニトリルを蒸発させた。
(凍結乾燥1)
50mlチューブに移し、20ml程度入れ、液体窒素に入れ、凍結させ、凍結乾燥機(EYELA FDU-1100)で48時間、乾燥させた。
(FITC-PIPM’のN末端にクロラムブシルを導入する)
1.5mlチューブに以下のものを秤量し、室温で2.5時間攪拌した。
Figure 2023008599000049
ジエチルエーテル40mlを50ml遠心管に入れ、先の反応液を一滴ずつ加え、粉体化させた。10,000rpmで5分遠心した。上澄を除き、DMF1mlを加え、再びジエチルエーテル40mlに滴下し、遠心この操作を2回繰り返した。1.5mlチューブに粉体を移した。
(HPLC精製、凍結乾燥2)
前述と同様に精製、凍結乾燥を行った。
(粉体の回収)
ジエチールエーテルを50mlチューブに加え、Tサンプルストックチューブ1.5ml(BMBio,catlogNo.T-202)に回収し、遠心、上澄みを除く操作を繰り返し、デシケーターで乾燥させ、サンプル(FITC-Chb-M’)4.1mgを得た。
実施例1:RUNXとグリオーマ悪性度の関係
膠芽腫(グリオブラストーマ)組織におけるRUNX1の発現レベルを確認するために、GSE111260マイクロアレイデータセットにおいて、正常脳および低グレードグリオーマ組織と比較分析した。GSE111260データセットは、公共のデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE111260)より入手した。その結果、正常組織またはグレード2の低グレードグリオーマと比べて、原発性膠芽腫においてRUNX1の発現が有意に高いことが分かった(p<0.0001)(図1)。さらに、RUNX1、RUNX2およびRUNX3の総発現レベルを示すPan-RUNXもまた、原発性膠芽腫において有意に高かった(p<0.0001)。したがって、RUNXファミリーがグリオーマの悪性度に関与することが示唆された。
さらに、膠芽腫細胞株(A172、KALS-1、LN229およびT98G)においてRUNXファミリー発現についてウェスタンブロッティングを行った。2×ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプルバッファー[0.1M Tris-HCl(pH6.8)、4%SDS、12%2-メルカプトエタノール、10%グリセロール、1%ブロモフェノールブルー]を用いて全細胞タンパク質ライゼートを抽出し、95℃で5分間沸騰させた。タンパク質濃度を、Bio-Rad Protein Assay Dye Reagent Concentrate(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)によって測定し、8~12%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した後、0.45μmフッ化ポリビニリデン(PVDF)膜(Merck Millipore, Germany)に移した。ブロットを、PVDFブロッキング試薬(TOYOBO)中、室温で1時間ブロックし、次いで、以下の一次抗体:抗-RUNX1(sc-365644; Santa Cruz Biotechnology)、抗-RUNX2(#8486; Cell Signaling Technology, Danvers, MA)、抗-RUNX3(#9647; Cell Signaling Technology)、および抗-GAPDH(sc-47724; Santa Cruz Biotechnology)と共に4℃で一晩インキュベートした。一次反応後、膜を1×TRIS-NaCl-Tween20(TNT)を用いて洗浄し、以下のパーオキシダーゼ結合型二次抗体:抗-ウサギIgG(NA934V; GE Healthcare, Chicago, IL)および抗-マウスIgG(NA931V; GE Healthcare)と共に室温で1時間インキュベートした。二次反応後、膜を1×TNTを用いて洗浄し、Chemi-Lumi One Super(Nacalai Tesque)およびChemiDocTM XRS positive Imager(Bio-Rad Laboratories)によって視覚化した。その結果、4つの細胞株の全てにおいてRUNX1およびRUNX2の両方が発現し、他の3株に比べてT98GにおいてRUNX3が有意に発現していることが示された(図2)。
さらに、膠芽腫のTCGA(The Cancer Genome Atlas)データセットにおいて、RUNX1の発現および生存について評価した。TCGAデータセットは、GDC TCGAグリオブラストーマレポジトリ(https://gdc-hub.s3.us-east-1.amazonaws.com/latest/TCGA-GBM.htseq_fpkm.tsv.gz)より入手した。その結果、RUNX1発現レベルおよび生存についてのデータを入手できた167事例のうち、半分をRUNX1発現が高い「High」群として、半分をRUNX1発現が低い「Low」群として分類し、生存率を比較した。その結果、High群は有意に低い生存率を示した(P=0.0447)(図3)。したがって、RUNX1と膠芽腫悪性度の維持との間に関連があることが分かった。かくして、RUNX1がグリオーマ悪性度の維持における重要な成分であることが示唆された。
実施例2:膠芽腫細胞増殖抑制試験
本実施例では、Chb-M’を用いて、RUNX結合コンセンサス部位へのRUNXの結合を妨げることによって、RUNX標的遺伝子の転写を抑制した(遺伝子スイッチ-オフ法)。以前の研究により、Chb-M’は、複数の癌細胞系統において抗腫瘍効果を有し、野生型TP53に対してより効果的であることが示され、また、髄芽腫細胞株DAOY(TP53変異型)の増殖を抑制することも示された(特許文献1)。そこで、今回、膠芽腫細胞株に対するChb-M’の増殖抑制効果を調べた。
まず、4つの膠芽腫細胞株(A172、KALS-1、LN229およびT98G)がTP53変異を有するか否かをSangerシークエンシングによって調べた。NucleoSpin(登録商標)Tissue(TAKARA BIO,Japan)を用いて膠芽腫細胞からDNAを抽出し、遺伝子特異的PCRプライマー(表3)、AmpliTaq Gold 360(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)およびApplied Biosystems GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて、目的のゲノム領域をPCRによって増幅した。PCRプログラムは、95℃で10分後、95℃で30秒、60℃で30秒および72℃で1分30秒を35サイクルであった。72℃で7分の最終増幅工程により反応を完了した。PCR産物をExoSAP-IT(Affymetrix, Santa Clara, CA)によって精製した後、PCRプライマーまたはシークエンシングプライマー(表3および表4)の1つを用い、BigDye(登録商標)Terminator V1.1 Cycle Sequencing Kit(Thermo Fisher Scientific)およびABI 3130xL Genetic Analyzer(Thermo Fisher Scientific)を用いて配列決定した。その結果、全ての細胞株がT53変異を有していた(表5)。
Figure 2023008599000050
Figure 2023008599000051
Figure 2023008599000052
次に、A172、KALS-1、LN229は2000個/ウェル、T98Gは1700個/ウェルの細胞密度で96ウェルプレートに播種し、24時間後、Chb-M’(0.5μMまたは2μM)を添加して5日間インキュベートした。コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。毎日、細胞カウント試薬SF(WST-8)により吸光度(450nm)を測定して細胞増殖に対するChb-M’の影響を評価した。その結果、全ての細胞株において、Chb-M’の代わりにDMSOを添加した場合と比べて、細胞増殖に対する濃度依存性阻害が示された(図4)。
次に、細胞を以下の密度:A172、KALS-1およびLN229について2000細胞/ウェル、T98Gについて1700細胞/ウェルで96ウェルプレート中に3連で播種した。24時間後、種々の濃度(10nM~50μM範囲)のChb-M’を添加した。48、72および96時間後に、細胞カウント試薬SF(WST-8)(Nacalai Tesque, Inc., Japan)を用いて細胞生存能力(Cell viability)を測定した。薬物を含有しないDMSOをコントロールとして用いた。さらに、Chb-Sおよびクロラムブシル(Chb)を用い、膠芽腫細胞株応答を比較した。その結果、Chb-M’は、Chb-SおよびChbよりも低濃度(約1μM)で72時間処理後、膠芽腫細胞株の増殖を約50%阻害した(図5)。さらに、IC50値を、GraphPad Prism 5ソフトウェアにおけるデータフィッティングによって得た(表6-1~表6-3)。
Figure 2023008599000053
Figure 2023008599000054
Figure 2023008599000055
これらの結果から、クロラムブシル自体による抗がん効果よりもむしろ、Chb-M’によって達成されるRUNX転写活性における減少が、膠芽腫細胞成長の抑制に関与したことが分かった。
実施例3:膠芽腫細胞株のアポトーシス誘導
膠芽腫細胞株A172、KALS-1、LN229およびT98Gを1.2×10個/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに播種し、24時間後、Chb-M’(1μMまたは5μM)を添加して48時間インキュベートした。コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。これらの細胞を用いて、APC Annexin V Apoptosis Detection Kit with PI(BioLegend, San Diego, CA)によるアポトーシスアッセイを行った。簡単に言うと、約1×10細胞のコントロール群または実験群をリン酸緩衝化セーライン(PBS)で2回洗浄し、アネキシン結合バッファー中に懸濁した。次に、5μLのアネキシンVおよび10μLのヨウ化プロピジウム溶液(BioLegend)を加えた。反応混合物を25℃で15分間インキュベートし、細胞をフローサイトメトリック分析に付した。その結果、Chb-M’による細胞増殖阻害の原因がアポトーシスであることが示された(図6)。
さらに、上記の細胞を用いて細胞サイクルアッセイを行った。簡単に言うと、約1×10細胞のコントロール群または実験群をPBSで洗浄し、70%氷冷エタノール中に固定した。2500rpmで遠心分離後、細胞をRNasa A(F. Hoffmann-La Roche, Ltd., Switzerland)と共に30分間インキュベートし、次いで2500rpmで再び遠心分離した。次に、5μLの7-AAD(BioLegend)を加えた。反応混合物を30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリック分析に付した。その結果、G2/M期の細胞数の増加が示された(図7)。
これらの結果から、Chb-M’がアポトーシス媒介性細胞死を介して膠芽腫における腫瘍抑制効果を有することが分かった。
実施例4:膠芽腫頭蓋移植マウスを用いた生存曲線実験
脳腫瘍モデルマウスに対するChb-M’の効果を調べた。ヒト膠芽腫細胞株の異種移植モデルマウスは、4~5週齢の雌BALB/cSlc-nu/nuマウスの左脳に膠芽腫細胞株LN229を頭蓋内移植することによって作製した。マウスの頭蓋骨を正中切開し、ブレグマの右に2.2mmおよびブレグマに対して下位0.5mmに穿頭孔を開けた。次に、3μLのMinimum Essential Medium(MEM)alfa(Thermo Fisher Scientific)中に懸濁した3.0×10個のLN229細胞を、26ゲージの針を有するハミルトン(Hamilton)シリンジを用いて定位的に注射した。針は、3.5mmの深さに挿入し、次いで0.5mm引き出した。頭蓋内注射の3日後に、Chb-M’(320μg/kg体重)、またはコントロールとして、Chb-S(320μg/kg体重)または等量のDMSOを週に2回静脈内投与した(図8)。該投与量は、以前の研究で、マウスにおいて安全であると保証された量である。該処理はマウスが死ぬまで続けた。
その結果、Chb-M’処理マウスにおいて、全生存率において有意な改善が見られた(図9)。
実施例5:膠芽腫頭蓋移植マウスを用いた病理学検査
実施例4により、Chb-M’が同所性移植された脳腫瘍細胞に対して効果があることが分かった。さらに、該PIポリアミド(Chb-M’)が全身投与により作用することを確認するために、本実施例を行った。
実施例4に記載されたのと同様の方法で脳腫瘍モデルマウスを作製し、頭蓋内注射の3週間後に、調製例3で合成したFITC-Chb-M’(原液または5倍希釈液)(320μg/kg体重)または等量のDMSOを週に2回静脈内投与した。さらに、コントロールとして、200μLのMEMalfa中に懸濁した5.0×10個のLN229細胞をマウスの右肩中に移植することによって、皮下マウスモデルを作製した。皮下モデルマウスには、皮下移植の3週間後に、FITC-Chb-M’(320μg/kg体重)または等量のDMSOを週に2回静脈内投与した。頭蓋内移植および皮下移植モデルマウスへの上記の処理は2週間続けた(図10)。次いで、マウスを殺し、脳腫瘍モデルマウスの左脳(膠芽腫)および右脳(正常脳)ならびに皮下移植マウスの皮下組織を採取し、FITCの免疫染色を行った。FITCの免疫染色は、FITC-Chb-M’をヤギポリクローナル抗-FITC抗体(A150-112A; Bethyl Laboratories)によって検出することによって行った。
その結果、脳腫瘍モデルマウスの左脳(膠芽腫)および皮下移植マウスの皮下組織において、腫瘍細胞の核が特に強く染色され、Chb-M’が蓄積していることが分かった(図11)。一方、正常脳(右脳)において染色はほとんど見られなかった。したがって、Chb-M’は頭蓋内腫瘍細胞中に取り込まれたことが分かった。故に、Chb-M’はBBBを通過したと考えられる。
SEQ ID NO:1; PCR primer Forward
SEQ ID NO:2; PCR primer Reverse
SEQ ID NO:3; PCR primer Forward
SEQ ID NO:4; PCR primer Reverse
SEQ ID NO:5; PCR primer Forward
SEQ ID NO:6; PCR primer Reverse
SEQ ID NO:7; Sequencing primer
SEQ ID NO:8; Sequencing primer

Claims (10)

  1. RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、脳腫瘍を予防または治療するための医薬組成物。
  2. 全身投与用である、請求項1記載の医薬組成物。
  3. 前記アルキル化剤がクロラムブシル、デュオカルマイシン、seco-CBI、CBI、ピロロベンゾジアゼピン、ナイトロジェンマスタード、ナイトラミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランチオテパ、カルボコン、ブスルファン、および塩酸ニムスチンからなる群から選択される、請求項1または2記載の医薬組成物。
  4. 前記アルキル化剤がクロラムブシルである、請求項3記載の医薬組成物。
  5. 前記脳腫瘍が悪性脳腫瘍である、請求項1~4のいずれか1項記載の医薬組成物。
  6. 前記脳腫瘍が膠芽腫または髄芽腫である、請求項5記載の医薬組成物。
  7. 前記複合体におけるピロール-イミダゾールポリアミドが、
    (1)PyPyPyPy-γ-ImImPyIm
    (2)PyPyPyPy-γ-ImPyImIm
    (3)ImImPyIm-γ-PyPyPyPy
    (4)ImPyImIm-γ-PyPyPyPy
    (5)ImImPyIm-γ-PyImPyPy
    (6)ImPyImIm-γ-PyPyImPy
    (7)PyImPyPy-γ-ImImPyIm、または
    (8)PyPyImPy-γ-ImPyImIm
    で示される構造を有し、ここに、Pyは下記式:
    Figure 2023008599000056
    (式中、XはCHまたはCOHを示し、R’はHまたはアルキル基を示す。)
    で示されるピロール単位であり、ピロール単位の少なくとも1つは、下記式:
    Figure 2023008599000057
    で示されるβアラニン残基によって置換されていてもよく、Imは下記式:
    Figure 2023008599000058
    (式中、R’’はHまたはアルキル基を示す。)
    で示されるイミダゾール単位であり、γはγ-ターンを示す、請求項1~6のいずれか1項記載の医薬組成物。
  8. 前記複合体が下記式:
    Figure 2023008599000059
    Figure 2023008599000060
    Figure 2023008599000061
    で示される化合物からなる群から選択される、請求項7記載の医薬組成物。
  9. RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、膠芽腫または髄芽腫を予防または治療するための静脈内投与用医薬組成物であって、前記複合体におけるピロール-イミダゾールポリアミドが、
    (1)PyPyPyPy-γ-ImImPyIm
    (2)PyPyPyPy-γ-ImPyImIm
    (3)ImImPyIm-γ-PyPyPyPy
    (4)ImPyImIm-γ-PyPyPyPy
    (5)ImImPyIm-γ-PyImPyPy
    (6)ImPyImIm-γ-PyPyImPy
    (7)PyImPyPy-γ-ImImPyIm、または
    (8)PyPyImPy-γ-ImPyImIm
    で示される構造を有し、ここに、Pyは下記式:
    Figure 2023008599000062
    (式中、XはCHまたはCOHを示し、R’はHまたはアルキル基を示す。)
    で示されるピロール単位であり、ピロール単位の少なくとも1つは、下記式:
    Figure 2023008599000063
    で示されるβアラニン残基によって置換されていてもよく、Imは下記式:
    Figure 2023008599000064
    (式中、R’’はHまたはアルキル基を示す。)
    で示されるイミダゾール単位であり、γはγ-ターンを示す、医薬組成物。
  10. RUNX結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミドおよびアルキル化剤を含む複合体を含む、悪性脳腫瘍を予防または治療するための静脈内投与用医薬組成物であって、前記複合体が下記式:
    Figure 2023008599000065
    Figure 2023008599000066
    Figure 2023008599000067
    で示される化合物群から選択される、医薬組成物。
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