この出願の発明は、転がり軸受を格納した軸受箱の構成に関するものである。
転がり軸受を格納したベアリングユニットとしての軸受箱は、プランマブロックやピローブロックとも呼ばれ、送風機やポンプ、コンベヤ、圧延ローラなどの各種機器の回転軸を支持する軸受け手段として多く使用されている。この軸受箱は、回転軸に嵌合固定される内輪、内輪の外周に配置される複数の転動体、複数の転動体の外周に配置される外輪よりなる転がり軸受と、該転がり軸受を格納するハウジングとからなっている。内輪および外輪は相互に同軸に配置されており、内輪はその外周面に内輪軌道、外輪はその内周面に外輪軌道を備えている。そして、複数の転動体は、それら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置されている。この内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体部分には、軸受箱組付け時において所定の量の潤滑剤(たとえばグリス)が充填される。そして、それにより内輪軌道および外輪軌道の各軌道面、複数の転動体の各転動面に十分な厚さの油膜が形成され、内輪(回転軸)と外輪間の良好な相対回転を実現している。
しかし、上記軸受け部(内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体部分)の潤滑材の量は使用により減少する。したがって、適切な補充管理が必要であり、適切な補充管理を怠ると潤滑剤切れによる損傷を招く。また、用途によっては、重荷重、高速回転で使用されることも多く、そのような場合には、潤滑剤の減少が早く、より潤滑剤切れによる損傷を発生しやすい。また、上記軸受け部の損傷は、単なる潤滑剤切れだけでなく、軸受選定の誤り、取付不良、寿命(フレ―キング)などによっても生じる。
このように、軸受け部の損傷は種々の事情により発生し、上記軸受け部分に焼き付き、摩耗、割れ、欠け、かじり等を生じさせる。そして、軸受け部分にそのような損傷が発生すると、軸受け抵抗が増大し、損傷の程度によっては必要な軸受け機能を維持し得なくなり、設備自体を停止しなければならなくなる(たとえば焼き付きを生じた場合)。
そこで、従来、このような転がり軸受を格納した軸受箱において、たとえば監視対象となる軸受を運転し、回転輪である内輪の回転速度および内輪の外周を回転する転動体の公転速度をそれぞれ測定し、内輪の回転速度と転動体の公転速度との比を所定の閾値と比較することによって、対象軸受の損傷状態を判定するようにしたものが提案されている(たとえば特許文献1の構成を参照)。
この発明は、転がり軸受の運転に伴って潤滑剤が劣化すると、その粘度が上昇し、転動体の公転速度が低下する点、潤滑剤の粘度が上昇した状態で運転を継続すると、転がり接触面や滑り接触面に十分な厚さの油膜面が形成されず、金属接触が生じて焼き付きに至る点などに着目し、転動体の公転速度の低下を知ることができれば、焼き付き等損傷状態の進行を検出できるとの発想に基づいている。そして、内輪の回転速度と転動体の公転速度との比を所定の閾値と比較することによって、監視対象軸受の損傷状態を判定するようにしている。閾値を複数のレベルで設定すれば、対象軸受の損傷状態をその進行レベルに応じて判定することができる。
したがって、軸受の損傷状態を前兆段階で早期に検出するようにすれば、焼き付きが発生する前に軸受の交換を行うことも可能になる。
しかし、上記特許文献1の場合、内輪の回転速度および転動体の公転速度を測定するために、回転輪の周方向の一部に着磁部を形成する一方、渦電流センサを用いて回転輪と転動体に対して電磁誘導による渦電流を発生させ、渦電流センサの出力信号(出力波形)を周波数解析(FFT)する必要があり、きわめて装置が複雑になりコストも高い。したがって、投資メリットのある大規模プラント以外には採用し得ない。
また、上記のような転がり軸受を格納した軸受箱では、一般に組付け性の制約から軸受の外輪をハウジングに対して隙間嵌め(すきまばめ)した構成となっている。また、外輪の肉厚も薄く、外輪ひずみが生じやすい傾向にある。したがって、回転軸を嵌合した回転輪である内輪に対して偏心荷重が負荷されたような場合、条件によっては外輪とハウジング間でクリープ(滑り)が発生し、摩耗により軸受け寿命を低下させる問題がある。上記特許文献1の場合、このようなクリープ現象の防止については何らの対策が取られていない。
この出願の発明は、このような課題を解決するためになされたもので、ハウジングに対して所定の摩擦係数を有して摺動可能に内接すると共に軸受側外輪の外周に固定されて軸受損傷時における内輪からの回動トルクを受けるトルクリングを設け、該トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数を軸受の所定の損傷段階における摩擦係数に設定することによって、軸受の軸受部が当該所定の損傷段階になった時に軸受外輪を介してトルクリングを回転させ、同トルクリングの回転を指標として軸受部の損傷を検出するようにした軸受箱を提供することを目的とするものである。
この出願の発明は、以上の課題を解決するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
(1)請求項1の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、回転軸に嵌合固定される内輪、該内輪の外周に配置される複数の転動体、該複数の転動体の外周に配置される外輪よりなる転がり軸受と、該転がり軸受を格納したハウジングとからなる軸受箱において、上記ハウジングに対して所定の摩擦係数を有して摺動可能に内接すると共に上記外輪の外周に固定されて上記転がり軸受の軸受部損傷時における上記内輪からの回動トルクを受けるトルクリングを設け、該トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数を上記転がり軸受の軸受部の所定の損傷段階における摩擦係数に設定することによって、上記転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階になった時に上記外輪を介して上記トルクリングを回転させ、同トルクリングの回転を指標として上記転がり軸受の軸受部の損傷を検出するようにしたことを特徴としている。
この発明の課題解決手段の構成では、転がり軸受の外輪がハウジング内面に対してトルクリングを介して確実に摩擦係合されることから、従来から課題とされてきた外輪の偏心荷重によるクリープ現象は確実に解消される。そして、その上で同トルクリングを介した転がり軸受の外輪とハウジング内面との間の摩擦係数が転がり軸受の軸受部の損傷段階に応じた摩擦係数、すなわち転動体を介した内輪と外輪との間の検出すべき所定の損傷段階に対応した摩擦係数(損傷判定用の閾値)に設定されている。
したがって、転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数(損傷判定用の閾値)に応じて回転輪である内輪側の回動トルクにより、同一の摩擦係数でハウジング内面に摺接しているトルクリングが回動せしめられる。そこで、このトルクリングの回動を外部から確認し、同トルクリングの回動を指標として当該転がり軸受の軸受部の所定の段階における損傷を判定する。
このような構成の場合、検出すべき損傷段階を転がり軸受の軸受部に焼き付きが発生する前の段階とし、トルクリングのハウジング内面との間の摩擦係数をそれに対応した摩擦係数に設定して置けば、転がり軸受の軸受部に焼き付きが発生する前の段階で確実に軸受の損傷を判定することができる。
トルクリングの回動を外部から確認するに際しては、たとえばハウジング部の一部に開口を形成すると共にトルクリング外周面の周方向に2種の異なる色彩を施し、軸受部が損傷に至らない状態でハウジング部の開口から見える外周面部分の色と見えない外周面部分の色を異なるものとして置く。すると、トルクリングが回動すると、ハウジング部の開口から見える外周面部分の色が変わるので、それにより容易に軸受部の損傷を判定することができる。
また、その他の方法として、同様のハウジング部の開口に対して後述するような軸受損傷表示部材を回動可能に対応させておくことも可能である。
(2)請求項2の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1の発明の課題解決手段の構成において、上記ハウジングには上記トルクリングの外周部を望む監視用の開口が設けられていると共に、上記トルクリングの外周には同監視用の開口内に延びて、上記トルクリングの上記ハウジング内面との間の摩擦係数により維持された初期設定位置から上記内輪側の回動トルクによる所定回動位置に移動して、上記転がり軸受の軸受部の損傷を表示する軸受損傷表示部材が設けられていることを特徴としている。
このような構成の場合、上述したように転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数に応じて回転輪である内輪側の回動トルクによりトルクリングが回動せしめられる。そして、それにより同トルクリング外周の軸受損傷表示部材が上記ハウジングに設けた監視用の開口内を初期設定位置から検出表示位置である所定回動位置に移動して停止する。その結果、この検出表示位置である所定回動位置への移動を監視用の開口を通して外部から目視で確認することにより、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることを確実に判定することができる。
したがって、このような構成によれば、従来のように、内輪の回転速度および転動体の公転速度を測定するために、回転輪の周方向の一部に着磁部を形成すると共に、渦電流センサを用いて回転輪と転動体に対して電磁誘導による渦電流を発生させ、さらに同渦電流センサの出力信号を周波数解析するなどの複雑、かつ高度なシステム構成は必要なく、きわめてシンプルな機械的構成のみで、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることを判定することができる。そのため、小規模設備等でも容易に採用することができる。
(3)請求項3の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段の構成において、上記トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数は、その外周面に複数の摩擦部材を設けることによって設定されていることを特徴としている。
トルクリングのハウジングに対する所定の摩擦係数は、トルクリング自体の外周面又はハウジングの内周面を加工することによって実現しても良いが、トルクリングの外周面やハウジングの内周面を加工することは容易でない。そこで、トルクリングの外周面に別途複数の摩擦部材を設けることによって設定される。
このようにすると、加工も容易で、より高精度に摩擦係数を設定することができる。そして、それら複数の摩擦部材は、たとえば周方向に所定の間隔で、かつ回転方向に確実な係止状態で設けられる。摩擦部材を複数とし、周方向に所定の間隔で配置すると、ハウジング内面とトルクリングとの摺接面における面圧が各摩擦部材部分に集中し、より効果的に摩擦力を増大させることができる。そのため、より確実な静止摩擦力の実現が可能になり、外輪とハウジング間の確実なクリープ現象の回避が可能となる。また、回転軸に負荷される荷重を複数の支点で支持することができ、支持状態が安定する。
(4)請求項4の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1,2又は3の発明の課題解決手段の構成において、上記監視用の開口の所定回動位置には、上記軸受損傷表示部材の回動によりON作動される電気的な検出手段が設けられていることを特徴としている。
このような構成の場合、上記監視用の開口部分における軸受損傷表示部材の回動移動を外部から目視判定して転がり軸受の損傷を判定することができることに加えて、さらに同軸受損傷表示部材の回動によりON作動される電気的な検出手段の検出信号を利用して所定の監視システムを構築することができる。したがって、使用されている軸受箱の数が少ない小規模な設備から使用されている軸受箱の数が多い大規模なプラント設備まで、任意に適用することができ、Iotユニットの一つとして構成することも可能となる。
以上のように、この出願の発明の軸受箱の構成では、転がり軸受の外輪がハウジング内面に対してトルクリングを介して確実に摩擦係合されることから、従来から課題とされてきた外輪の偏心荷重によるクリープ現象を確実に解消することができる。そして、その上で同トルクリングを介した転がり軸受の外輪とハウジング内面との間の摩擦係数が転動体を介した内輪と外輪との間の所定の損傷段階に応じた摩擦係数に対応した値に設定されている。
したがって、転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数に応じて回転輪である内輪側の回動トルクにより、同一の摩擦係数でハウジング内面に摺接している外輪およびトルクリングが回動せしめられ、その回転を指標として転がり軸受の軸受部の損傷が判定される。そのため、構成は簡単で、動作は確実である。信頼性も高い。
また、転がり軸受の軸受け部が所定の損傷段階にあることは、さらにトルクリングに軸受損傷表示部材を設け、同軸受損傷表示部材をトルクリングの回動に応じてハウジングに設けた監視用の開口内を初期設定位置から検出表示位置に移動させて停止させるようにする。このようにすると、最終的に検出表示位置へ移動して停止したことを監視用の開口を通して外部から確認することにより、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることをより容易に判定することができる。
これらの結果、この出願の発明の軸受箱によると、簡単、かつ安価な構成でありながら、耐久性、信頼性の高い軸受損傷検出機能を付加することができる。また、同時に確実なクリープ防止機能も実現することができるので非常に有益となる。
この出願の発明の実施の形態に係る軸受箱の構成を示す平面図である。
同軸受箱の軸受非損傷状態における構成を示す断面図(図1のA-A断面図)である。
同軸受箱のトルクリング部分の構成を示す斜視図である。
同軸受箱の要部(図2の断面図の仮想線で囲った部分)の構成を示す拡大図である。
同軸受箱の軸受非損傷状態(軸受損傷非検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の初期設定位置を示す平面図である。
同軸受箱の軸受損傷状態における構成を示す断面図(図1のA-A断面図に対応)である。
同軸受箱の軸受損傷状態(軸受損傷検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の所定回動位置(検出表示位置)を示す平面図である。
この出願の発明の実施の形態の変形例2に係る摩擦部材の構成を示す図4と同様の拡大図である。
この出願の発明の実施の形態の変形例3に係る軸受箱の構成を示す図1と同様の平面図である。
同変形例3に係る軸受箱の構成を示す図6と同様の断面図である。
同変形例3に係る軸受箱の軸受損傷状態(軸受損傷検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の所定回動位置(マイクロスイッチON作動位置)を示す平面図である。
次に、図1~図7を参照して、この出願の発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<この出願の発明の実施の形態における軸受箱の構成>
この出願の発明の実施の形態では、転がり軸受けを格納した軸受箱の一例として、一般に重荷重、高速回転で使用されることが多いプランマブロックを採用して構成している。そして、同軸受箱(プランマブロック)により支持する回転軸としては、たとえば所定の送風機の回転軸を採用している。
まず図1および図2は、この出願の発明の実施の形態にかかる軸受箱(プランマブロック)の全体的な構成を示している。図1および図2中、符号1は上述した所定の送風機の回転軸であり、同回転軸1の基端側は駆動手段であるファンモータの出力軸部分に、また先端側は送風手段である羽根車のハブ部分に連結されている(ファンモータおよび羽根車については図示を省略している)。この回転軸1は、所定の板厚の内輪2、所定の外径の複数の転動体(ボールベアリング又はローラベアリング)3,3・・、所定の板厚の外輪4よりなる転がり軸受5の内輪2部分に嵌合(たとえば締まり嵌め)されて回転可能に支持されている。
転がり軸受5の内輪2および外輪4は相互に同軸に配置されており、内輪2はその外周面に内輪軌道、外輪4はその内周面に外輪軌道をそれぞれ備えている。そして、複数の転動体3,3・・は、それら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置されている。この内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体3,3・・部分には、軸受箱組付け時において所定の量の潤滑材(たとえばグリス)が充填される。そして、それにより内輪軌道および外輪軌道の各軌道面、複数の転動体3,3・・の各転動面に十分な厚さの油膜が形成され、内輪2(回転軸1)と外輪4間の良好な相対回転を実現する。内輪2、外輪4、複数の転動体3,3・・には、硬度が高く、転がり疲労に強い、耐摩耗性、寸法安定性に優れた鋼製の材料が採用されている。
この転がり軸受5の上記内輪2と外輪4との間における摩擦係数(転動体3,3・・を介した静止摩擦係数)は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷がなく、転動体3,3・・が滑らかに転動している状態では、たとえば0.002~0.005である。この数値は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分の潤滑剤の減少、摩耗の進行、損傷の発生により0.002~0.3、さらには0.3以上と大きくなってゆく。荷重や回転速度にもよるが、0.3未満の状態では一応実用的な運転が可能である。しかし、0.3以上になると、転動体3,3・・の正常な転動が不可能となって必要な軸受け機能を喪失する。この状態は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して転動体3,3・・の回転状態が悪化し、転がり軸受5の交換が必要と判断される状態になった時である。この状態で運転を継続すると、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分の焼き付きを招き、回転不能となる。そこで、この実施の形態では、以下に説明するように、上記正常領域と損傷領域を分ける摩擦係数(静止摩擦係数)0.3を転がり軸受5の損傷状態を判定するための閾値(判定基準値)として設定し、転がり軸受5の損傷を確実に検知するようにしている。
一方、符号6は所定の鋼製材料により形成された所定の板厚のトルクリングであり、上記転がり軸受5の上記外輪4の外周に締まり嵌め(たとえば焼き嵌め)されて上記外輪4に固定されている一方、軸受箱本体の鋳鉄製のハウジング8の内側に隙間嵌めされている。このトルクリング6の外周には周方向に一定の間隔で所定の半径方向高さ、所定の周方向長さの摩擦部材(摩擦摺動部材)7,7・・が設けられており、トルクリング6は、これら複数の摩擦部材7,7・・を介して軸受箱本体のハウジング8の内側に隙間嵌め(すきまばめ)されている。しかも、同軸受箱本体のハウジング8との間に介在される複数の摩擦部材7,7・・は、たとえば図3および図4に示すように、軸受箱本体のハウジング8の内面に当接する外周面に回転方向と直交する方向の細かなセレーション加工9(凹凸寸法10μ程度)が施されており、軸受箱本体のハウジング8の内面との間で相対的に所定の摩擦係数を維持した摩擦係合状態で隙間嵌めされている。
したがって、このトルクリング6に対して、この軸受箱本体のハウジング8の内面との間で相対的に維持されている所定の摩擦係数に応じた静止摩擦力を超える駆動トルク(回転トルク)が作用しない限り、このトルクリング6は軸受箱本体のハウジング8の内面に対して摩擦係合された確実な静止状態にあり相対回動しない。そのため、従来の転がり軸受のような外輪部の隙間嵌め(すきまばめ)、外輪の肉厚不足に起因する外輪ひずみによるクリープ現象も生じない。
特に、この実施の形態の場合、上記軸受箱本体のハウジング8の内面との間の所定の摩擦係数は、上記転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値である0.3に設定されており、その値は極めて大きい。したがって、転がり軸受5が正常な軸受け機能を発揮している限り、外輪4はトルクリング6および複数の摩擦部材7,7・・を介して確実に上記軸受箱本体のハウジング8の内面に固定された状態となり、仮に回転軸1に偏心荷重が負荷されたような場合にも従来のようなクリープ現象は全く生じない。その結果、軸受け寿命を延ばすことができる。また、以下に述べる転がり軸受5の損傷検知機能を確実に実現することができる。
しかも、上記転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値に対応した摩擦係数の設定は、上述のように周方向に一定の間隔をおいて設けた複数の摩擦部材7,7・・の個数およびセレーション加工9の粗度を調節することによって容易に実現することができる。なお、このセレーション加工9は、ローレット加工に変えることも可能である。
この複数の摩擦部材7,7・・には、たとえば耐熱性および硬度が高くて耐摩耗性に優れたエンジニアリング・プラスティック又は高炭素クロム軸受鋼などが採用されている。したがって、耐久性も高い。また、複数の摩擦部材7,7・・は、たとえばトルクリング6の外周に所定の深さの切り欠き溝を設け、同切り欠き溝内に下端部を埋め込むことによりトルクリング6の外周面に確実に固定(特に周方向に)されている。したがって、回転方向に対する係止力は十分に大きい。
そして、トルクリング6の上端には、さらに半径方向に延びる所定の高さの軸受損傷表示片(特許請求の範囲中の請求項2における軸受損傷表示部材に該当する)10が一体に設けられている一方、同軸受損傷表示片10に対応する軸受箱本体のハウジング8の上端部分には、同軸受損傷表示片10が遊嵌する左右方向に所定の長さの監視用の開口11が設けられている。この監視用の開口11の上端側開口面には合成樹脂製の透明カバー12が設けられ、ゴミや水などが侵入しないようにシールされている。この透明カバー12には、たとえば図5のように、軸受損傷表示片10の「初期設定位置」に対応した「正常」、「検出表示位置である所定回動位置」に対応した「損傷」の文字表示が施されている。
この実施の形態の場合、上記複数の摩擦部材7,7・・は、たとえば周方向に90度の間隔をおいて合計4個設けられている。そして、これら複数の摩擦部材7,7・・は、上下左右位置にはなく、上下左右位置を避けた対角線方向に位置して設けられている。そして、それにより上端側の軸受損傷表示片10が上部側左右の摩擦部材7,7の中間に位置して設けられている。また、ハウジング8側の監視用の開口11も、それに対応した上端側中央位置に設けられており、たとえば左右両側に合計30度の開口角を有して開口している。そして、トルクリング6上端側の軸受損傷表示片10は、上述のように、転がり軸受5の内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が生じ、同転動体3,3・・部分の摩擦係数が上記トルクリング6のハウジング8内面との間の所定の設定摩擦係数(転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値0.3に対応して設定された摩擦係数)以上になった時のトルクリング6の回転(外輪4の回転に伴うトルクリング6の回転)により、上記開口角30度の監視用の開口11内を左端側正常状態表示位置(初期設定位置:図2および図5参照)から右端側損傷状態表示位置(軸受損傷検出表示位置:図6および図7参照)に回動(移動)して停止されるようになっている。
これにより、監視用の開口11部分の軸受損傷表示片10の位置を外部から目視することにより、転がり軸受5の損傷状態を容易に判定することができる。この軸受損傷表示片10の右端側損傷状態表示位置での停止は駆動力が解除されての停止ではなく、監視用の開口11右端部に衝突しての係合状態での停止であり、軸受損傷表示片10には回転軸1からの回動トルクが作用したままである。そのため、摩擦部材7,7・・による摩擦力が作用していた正常状態表示位置(初期設定位置)での停止状態の場合と同様に損傷状態表示位置(軸受損傷検出表示位置)でも安定した停止状態を維持する(元には戻らない)。したがって、誤表示は生じない。
上記複数の摩擦部材7,7・・を上下左右の2カ所ではなく、上記のように対角線方向の4か所に設けた場合、回転軸1に作用するラジアル方向の荷重を下部側の45度の間隔を保った左右2組の摩擦部材7,7で2点支持(分散支持)することができ、1点支持(集中支持)の場合に比べて支持部の荷重負担が軽減される。また振動等に対する安定した支持が可能となる。また、ハウジング8の内面との間に適度な隙間を開けて(余裕を持って)複数の摩擦部材7,7・・を配置(隙間嵌め)することができ、そのようにした場合にも荷重が作用する下部側左右2組の摩擦部材7,7で確実な静止摩擦力を得ることができる。したがって、摩擦係数の設定もしやすい。
他方、軸受箱本体のハウジング8部分は、上蓋81とハウジング本体82の上下2分体よりなり、上蓋81とハウジング本体82はそれぞれ左右両側に連結部81a,81a、82a,82aを有し、それら連結部81a,81a、82a,82a同士を締め付けボルト13,13で連結することにより相互に一体化されている。またハウジング本体82の底部には左右両側に延びる脚部82b,82bが設けられており、該脚部82b,82b部分を取付ボルト14,14で上述した送風機の回転軸1取付座(フレーム)15部分に取り付けることにより固定される。なお、送風機の回転軸1は、その両端側を同様の軸受箱を用いて支持され、その一方側がアキシアル方向に固定側、他方側が自由側となるが、何れの場合にも上述の構成は同様である。
<この出願の発明の実施の形態に係る軸受箱の特徴と作用>
以上のような構成の軸受箱(プランマブロック)の場合、支持する回転軸1の重荷重、かつ高速での運転、潤滑剤切れ、屋外など悪条件下での運転など、種々の事情により、上記転がり軸受5の内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷(焼き付き、摩耗、割れ、欠け、かじり等)が発生することが想定される。そして、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分にそのような損傷が発生すると、軸受け抵抗が増大し、損傷の程度によっては必要な軸受け機能を維持し得なくなり、送風機(設備)自体を停止しなければならなくなる。
そこで、この実施の形態では、まず上記転がり軸受5の内輪2と外輪4との間における摩擦係数を測定し、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して転動体3,3・・の回転状態が悪化し、転がり軸受5の交換が必要と判断される状態になった時の内輪2と外輪4との間の摩擦係数(静止摩擦係数)0.3を転がり軸受5の損傷状態を判定するための閾値(判定用の基準値)として特定している。
そして、その上で、上記のように複数の摩擦部材7,7・・を介して軸受箱本体のハウジング8内面に対して所定値以上の確実な摩擦係数(静止摩擦係数)で摩擦係合すると共に、外輪4を一体に固定することによって、従来のような外輪4のクリープを確実に防止したトルクリング6における上記軸受箱本体のハウジング8内面との間における摩擦係数(静止摩擦係数)を上記転がり軸受5の損傷状態を判定する閾値0.3に設定している。
このようにすると、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して、上記転がり軸受5の内輪2と外輪4との間における摩擦係数が上記損傷状態判定用の閾値0.3以上になると、転がり軸受5の外輪4が内輪2(回転軸1)によって回転せしめられるようになり、同一の摩擦係数0.3でハウジング8内に隙間嵌めされているトルクリング6も外輪4を介して時計回りに回転することになる。その結果、上記トルクリング6上端の軸受損傷表示片10が上記開口角30度の監視用の開口11内を左端側正常状態表示位置(図2および図5参照)から右端側損傷状態表示位置(図6および図7参照)に回動(移動)して停止する。これにより、監視用の開口11部分の軸受損傷表示片10の位置を外部から目視することにより、転がり軸受5が損傷したことを判定することができる。
この場合、上記損傷状態判定用の摩擦係数(閾値0.3)は、上述のように実用的な運転が可能な摩擦係数の上限と実用的な運転が不可能となる摩擦係数の下限とを仕切る摩擦係数であり、未だ内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分が焼き付きには至らない領域である。したがって、同構成によれば、送風機(設備)自体を停止するような状態になる前に転がり軸受5を交換することができる。
<変形例1>
以上の実施の形態では、トルクリング6の回動を外部から確認するに際して、ハウジング8に設けた監視用の開口11に対して軸受損傷表示片10を回動可能に位置させて置き、同軸受損傷表示片10の初期設定位置(正常)から損傷検出表示位置(所定回動位置/損傷)への移動を指標として軸受部の損傷を目視判定する構成を採用した。
しかし、トルクリング6の回動を外部から確認する構成としては、その他にも、たとえばハウジング8に同様の監視用の開口11を形成すると共にトルクリング6外周面の周方向に2種の異なる色彩(たとえば青と赤など)を施し、軸受部が損傷に至っていない正常状態で監視用の開口11から見える外周面部分の色と同正常状態で見えない外周面部分の色を異なるものとして置く(たとえば見える外周面部分の色を青、見えない外周面部分の色を赤とする)。すると、トルクリング6が回動すると、ハウジング8の監視用の開口11から見える外周面部分の色が青から赤に明確に変わるので、それにより(色の変化を指標として)容易に軸受部の損傷を判定することができる。このような構成の場合、位置の変化だけを指標とする場合に比べて、より目視判定が容易になる。
<変形例2>
以上の実施の形態では、ハウジング8の内面との間で所定の摩擦係数を設定するトルクリング6側の摩擦部材7,7・・として、金属ブロック構造の摩擦摺動部材を採用した。しかし、ハウジング8の内面との間で所定の摩擦係数を設定するトルクリング6側の摩擦部材7,7・・は、たとえば図8に示すような断面円弧状の金属製バネ圧部材に変更することも可能である。
図8の構成の場合、同摩擦部材7,7・・を断面円弧状の金属製バネ圧部材とし、その両端をトルクリング6の外周面に形成した係合溝に係合して保持しており、その円弧面外周側を弾性的なバネ圧を伴う形でハウジング8の内面に摺動可能に内接させている。そして、その弾性的なバネ圧により上記同様の所定の摩擦係数を設定している。
もちろん、この場合において、さらにハウジング8の内面との当接面にローレット加工などの摩擦力向上加工を施しても良い。これら摩擦部材7,7・・の場合にも、上述の場合と同様にトルクリング6の外周面周方向に所定の間隔で複数設けられる。
<変形例3>
次に、図9~図11は、上記実施の形態に係る軸受箱の構成において、上記軸受損傷表示片10の回動による損傷状態の検出を目視だけでなく、電気的に検出し、システム的に管理コントロールできるようにした変形例3の構成を示している。
すなわち、この変形例3の構成では、上述した監視用の開口11の右端側端部内に軸受損傷表示片10側に向けて開口したマイクロスイッチ20設置用の凹溝部81bを形成し、同凹溝部81b内に図9~図11のように電気的な軸受損傷検出手段であるマイクロスイッチ20を設置して構成されている。マイクロスイッチ20は、電気接点及び電気接点開閉用のスナップ機構を方形のケース内に収納し、スナップ機構作動用のアクチュエータ20aの先端を軸受損傷表示片10側に所定動作寸法突出させて凹溝部81b内に固定されている。そして、上述した原理で回動する軸受損傷表示片10の監視用の開口11の右側端部への回動動作によりアクチュエータ20aをON作動させて、転がり軸受5が損傷したことを電気的に検出するようになっている。
所定の軸受箱(転がり軸受5)が損傷したことを示す当該マイクロスイッチ20のON出力信号は、それを識別できる固有の識別データと共に設備コントロールシステムの信号ラインを利用して設備コントローラ又は中央監視装置21に送信され、デジタルデータに変換されて処理され、対応したメンテナンス処理が行われる。
このような構成を採用すると、実質的に上述した目視判定用の監視用の開口11上部の透明カバー12などは廃止することができる。しかし、この種の軸受箱は必ずしも大規模なプラント設備だけでなく、小規模な設備や屋外での一時使用にも供される。そのような場合には上述したような目視管理が有効であり、低コストであることから、ニーズも高い。そこで、この変形例3では、それら両機能を備えたものとして構成している。
<変形例4>
以上の実施の形態の説明では、転がり軸受を格納した軸受箱の一例として、重荷重、高速回転で使用されることが多い、上下分割ハウジング構造の所謂プランマブロックを例示して説明したが、この出願の発明はこれに限られるものではなく、たとえば比較的軽荷重、中低速で使用され、ハウジング部が一体型で分割構造になっていない所謂ピローブロックなどの場合にも同様に適用できることは言うまでもない。
また、ハウジング部の材質も必ずしも鋳鉄製のものに限られるわけではなく、たとえばアルミ製のものにも適用することが可能である。アルミ製のハウジングは、鋳鉄製のものに比べて熱により膨張しやすく、外輪との間の隙間が拡大されやすい。そのため、前述したクリープ現象が生じやすい。したがって、クリープ防止機能の高い、この出願の発明は極めて有効である。
1:回転軸
2:内輪
3:転動体
4:外輪
5:転がり軸受
6:トルクリング
7:摩擦部材
8:ハウジング
9:セレーション加工
10:軸受損傷表示片
11:監視用の開口
20:マイクロスイッチ
21:中央監視装置
この出願の発明は、転がり軸受を格納した軸受箱の構成に関するものである。
転がり軸受を格納したベアリングユニットとしての軸受箱は、プランマブロックやピローブロックとも呼ばれ、送風機やポンプ、コンベヤ、圧延ローラなどの各種機器の回転軸を支持する軸受け手段として多く使用されている。この軸受箱は、回転軸に嵌合固定される内輪、内輪の外周に配置される複数の転動体、複数の転動体の外周に配置される外輪よりなる転がり軸受と、該転がり軸受を格納するハウジングとからなっている。内輪および外輪は相互に同軸に配置されており、内輪はその外周面に内輪軌道、外輪はその内周面に外輪軌道を備えている。そして、複数の転動体は、それら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置されている。この内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体部分には、軸受箱組付け時において所定の量の潤滑剤(たとえばグリス)が充填される。そして、それにより内輪軌道および外輪軌道の各軌道面、複数の転動体の各転動面に十分な厚さの油膜が形成され、内輪(回転軸)と外輪間の良好な相対回転を実現している。
しかし、上記軸受け部(内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体部分)の潤滑材の量は使用により減少する。したがって、適切な補充管理が必要であり、適切な補充管理を怠ると潤滑剤切れによる損傷を招く。また、用途によっては、重荷重、高速回転で使用されることも多く、そのような場合には、潤滑剤の減少が早く、より潤滑剤切れによる損傷を発生しやすい。また、上記軸受け部の損傷は、単なる潤滑剤切れだけでなく、軸受選定の誤り、取付不良、寿命(フレ―キング)などによっても生じる。
このように、軸受け部の損傷は種々の事情により発生し、上記軸受け部分に焼き付き、摩耗、割れ、欠け、かじり等を生じさせる。そして、軸受け部分にそのような損傷が発生すると、軸受け抵抗が増大し、損傷の程度によっては必要な軸受け機能を維持し得なくなり、設備自体を停止しなければならなくなる(たとえば焼き付きを生じた場合)。
そこで、従来、このような転がり軸受を格納した軸受箱において、たとえば監視対象となる軸受を運転し、回転輪である内輪の回転速度および内輪の外周を回転する転動体の公転速度をそれぞれ測定し、内輪の回転速度と転動体の公転速度との比を所定の閾値と比較することによって、対象軸受の損傷状態を判定するようにしたものが提案されている(たとえば特許文献1の構成を参照)。
この発明は、転がり軸受の運転に伴って潤滑剤が劣化すると、その粘度が上昇し、転動体の公転速度が低下する点、潤滑剤の粘度が上昇した状態で運転を継続すると、転がり接触面や滑り接触面に十分な厚さの油膜面が形成されず、金属接触が生じて焼き付きに至る点などに着目し、転動体の公転速度の低下を知ることができれば、焼き付き等損傷状態の進行を検出できるとの発想に基づいている。そして、内輪の回転速度と転動体の公転速度との比を所定の閾値と比較することによって、監視対象軸受の損傷状態を判定するようにしている。閾値を複数のレベルで設定すれば、対象軸受の損傷状態をその進行レベルに応じて判定することができる。
したがって、軸受の損傷状態を前兆段階で早期に検出するようにすれば、焼き付きが発生する前に軸受の交換を行うことも可能になる。
しかし、上記特許文献1の場合、内輪の回転速度および転動体の公転速度を測定するために、回転輪の周方向の一部に着磁部を形成する一方、渦電流センサを用いて回転輪と転動体に対して電磁誘導による渦電流を発生させ、渦電流センサの出力信号(出力波形)を周波数解析(FFT)する必要があり、きわめて装置が複雑になりコストも高い。したがって、投資メリットのある大規模プラント以外には採用し得ない。
また、上記のような転がり軸受を格納した軸受箱では、一般に組付け性の制約から軸受の外輪をハウジングに対して隙間嵌め(すきまばめ)した構成となっている。また、外輪の肉厚も薄く、外輪ひずみが生じやすい傾向にある。したがって、回転軸を嵌合した回転輪である内輪に対して偏心荷重が負荷されたような場合、条件によっては外輪とハウジング間でクリープ(滑り)が発生し、摩耗により軸受け寿命を低下させる問題がある。上記特許文献1の場合、このようなクリープ現象の防止については何らの対策が取られていない。
この出願の発明は、このような課題を解決するためになされたもので、ハウジングに対して所定の摩擦係数を有して摺動可能に内接すると共に軸受側外輪の外周に固定されて軸受損傷時における内輪からの回動トルクを受けるトルクリングを設け、該トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数を軸受の所定の損傷段階における摩擦係数に設定することによって、軸受の軸受部が当該所定の損傷段階になった時に軸受外輪を介してトルクリングを回転させ、同トルクリングの回転を指標として軸受部の損傷を検出するようにした軸受箱を提供することを目的とするものである。
この出願の発明は、以上の課題を解決するために、次のような課題解決手段を備えて構成されている。
(1)請求項1の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、回転軸に嵌合固定される内輪、該内輪の外周に配置される複数の転動体、該複数の転動体の外周に配置される外輪よりなる転がり軸受と、該転がり軸受を格納したハウジングとからなる軸受箱において、上記ハウジングに対して所定の摩擦係数を有して摺動可能に内接すると共に上記外輪の外周に固定されて上記転がり軸受の軸受部損傷時における上記内輪からの回動トルクを受けるトルクリングを設け、該トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数を上記転がり軸受の軸受部の所定の損傷段階における摩擦係数に設定することによって、上記転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階になった時に上記外輪を介して上記トルクリングを回転させ、同トルクリングの回転を指標として上記転がり軸受の軸受部の損傷を検出するようにしたことを特徴としている。
この発明の課題解決手段の構成では、転がり軸受の外輪がハウジング内面に対してトルクリングを介して確実に摩擦係合されることから、従来から課題とされてきた外輪の偏心荷重によるクリープ現象は確実に解消される。そして、その上で同トルクリングを介した転がり軸受の外輪とハウジング内面との間の摩擦係数が転がり軸受の軸受部の損傷段階に応じた摩擦係数、すなわち転動体を介した内輪と外輪との間の検出すべき所定の損傷段階に対応した摩擦係数(損傷判定用の閾値)に設定されている。
したがって、転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数(損傷判定用の閾値)に応じて回転輪である内輪側の回動トルクにより、同一の摩擦係数でハウジング内面に摺接しているトルクリングが回動せしめられる。そこで、このトルクリングの回動を外部から確認し、同トルクリングの回動を指標として当該転がり軸受の軸受部の所定の段階における損傷を判定する。
このような構成の場合、検出すべき損傷段階を転がり軸受の軸受部に焼き付きが発生する前の段階とし、トルクリングのハウジング内面との間の摩擦係数をそれに対応した摩擦係数に設定して置けば、転がり軸受の軸受部に焼き付きが発生する前の段階で確実に軸受の損傷を判定することができる。
トルクリングの回動を外部から確認するに際しては、たとえばハウジング部の一部に開口を形成すると共にトルクリング外周面の周方向に2種の異なる色彩を施し、軸受部が損傷に至らない状態でハウジング部の開口から見える外周面部分の色と見えない外周面部分の色を異なるものとして置く。すると、トルクリングが回動すると、ハウジング部の開口から見える外周面部分の色が変わるので、それにより容易に軸受部の損傷を判定することができる。
また、その他の方法として、同様のハウジング部の開口に対して後述するような軸受損傷表示部材を回動可能に対応させておくことも可能である。
(2)請求項2の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1の発明の課題解決手段の構成において、上記ハウジングには上記トルクリングの外周部を望む監視用の開口が設けられていると共に、上記トルクリングの外周には同監視用の開口内に延びて、上記トルクリングの上記ハウジング内面との間の摩擦係数により維持された初期設定位置から上記内輪側の回動トルクによる所定回動位置に移動して、上記転がり軸受の軸受部の損傷を表示する軸受損傷表示部材が設けられていることを特徴としている。
このような構成の場合、上述したように転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数に応じて回転輪である内輪側の回動トルクによりトルクリングが回動せしめられる。そして、それにより同トルクリング外周の軸受損傷表示部材が上記ハウジングに設けた監視用の開口内を初期設定位置から検出表示位置である所定回動位置に移動して停止する。その結果、この検出表示位置である所定回動位置への移動を監視用の開口を通して外部から目視で確認することにより、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることを確実に判定することができる。
したがって、このような構成によれば、従来のように、内輪の回転速度および転動体の公転速度を測定するために、回転輪の周方向の一部に着磁部を形成すると共に、渦電流センサを用いて回転輪と転動体に対して電磁誘導による渦電流を発生させ、さらに同渦電流センサの出力信号を周波数解析するなどの複雑、かつ高度なシステム構成は必要なく、きわめてシンプルな機械的構成のみで、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることを判定することができる。そのため、小規模設備等でも容易に採用することができる。
(3)請求項3の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項1又は2の発明の課題解決手段の構成において、上記トルクリングの上記ハウジングに対する所定の摩擦係数は、その外周面に複数の摩擦部材を設けることによって設定されていることを特徴としている。
トルクリングのハウジングに対する所定の摩擦係数は、トルクリング自体の外周面又はハウジングの内周面を加工することによって実現しても良いが、トルクリングの外周面やハウジングの内周面を加工することは容易でない。そこで、トルクリングの外周面に別途複数の摩擦部材を設けることによって設定される。
このようにすると、加工も容易で、より高精度に摩擦係数を設定することができる。そして、それら複数の摩擦部材は、たとえば周方向に所定の間隔で、かつ回転方向に確実な係止状態で設けられる。摩擦部材を複数とし、周方向に所定の間隔で配置すると、ハウジング内面とトルクリングとの摺接面における面圧が各摩擦部材部分に集中し、より効果的に摩擦力を増大させることができる。そのため、より確実な静止摩擦力の実現が可能になり、外輪とハウジング間の確実なクリープ現象の回避が可能となる。また、回転軸に負荷される荷重を複数の支点で支持することができ、支持状態が安定する。
(4)請求項4の発明の課題解決手段
この発明の課題解決手段は、上記請求項2又は上記請求項2を引用する請求項3の発明の課題解決手段の構成において、上記監視用の開口の所定回動位置には、上記軸受損傷表示部材の回動によりON作動される電気的な検出手段が設けられていることを特徴としている。
このような構成の場合、上記監視用の開口部分における軸受損傷表示部材の回動移動を外部から目視判定して転がり軸受の損傷を判定することができることに加えて、さらに同軸受損傷表示部材の回動によりON作動される電気的な検出手段の検出信号を利用して所定の監視システムを構築することができる。したがって、使用されている軸受箱の数が少ない小規模な設備から使用されている軸受箱の数が多い大規模なプラント設備まで、任意に適用することができ、Iotユニットの一つとして構成することも可能となる。
以上のように、この出願の発明の軸受箱の構成では、転がり軸受の外輪がハウジング内面に対してトルクリングを介して確実に摩擦係合されることから、従来から課題とされてきた外輪の偏心荷重によるクリープ現象を確実に解消することができる。そして、その上で同トルクリングを介した転がり軸受の外輪とハウジング内面との間の摩擦係数が転動体を介した内輪と外輪との間の所定の損傷段階に応じた摩擦係数に対応した値に設定されている。
したがって、転がり軸受の軸受部である内外輪および転動体部分の摩耗等が進行して、所定の損傷段階になると、その時の転動体を介した内輪と外輪との間の摩擦係数に応じて回転輪である内輪側の回動トルクにより、同一の摩擦係数でハウジング内面に摺接している外輪およびトルクリングが回動せしめられ、その回転を指標として転がり軸受の軸受部の損傷が判定される。そのため、構成は簡単で、動作は確実である。信頼性も高い。
また、転がり軸受の軸受け部が所定の損傷段階にあることは、さらにトルクリングに軸受損傷表示部材を設け、同軸受損傷表示部材をトルクリングの回動に応じてハウジングに設けた監視用の開口内を初期設定位置から検出表示位置に移動させて停止させるようにする。このようにすると、最終的に検出表示位置へ移動して停止したことを監視用の開口を通して外部から確認することにより、転がり軸受の軸受部が所定の損傷段階にあることをより容易に判定することができる。
これらの結果、この出願の発明の軸受箱によると、簡単、かつ安価な構成でありながら、耐久性、信頼性の高い軸受損傷検出機能を付加することができる。また、同時に確実なクリープ防止機能も実現することができるので非常に有益となる。
この出願の発明の実施の形態に係る軸受箱の構成を示す平面図である。
同軸受箱の軸受非損傷状態における構成を示す断面図(図1のA-A断面図)である。
同軸受箱のトルクリング部分の構成を示す斜視図である。
同軸受箱の要部(図2の断面図の仮想線で囲った部分)の構成を示す拡大図である。
同軸受箱の軸受非損傷状態(軸受損傷非検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の初期設定位置を示す平面図である。
同軸受箱の軸受損傷状態における構成を示す断面図(図1のA-A断面図に対応)である。
同軸受箱の軸受損傷状態(軸受損傷検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の所定回動位置(検出表示位置)を示す平面図である。
この出願の発明の実施の形態の変形例2に係る摩擦部材の構成を示す図4と同様の拡大図である。
この出願の発明の実施の形態の変形例3に係る軸受箱の構成を示す図1と同様の平面図である。
同変形例3に係る軸受箱の構成を示す図6と同様の断面図である。
同変形例3に係る軸受箱の軸受損傷状態(軸受損傷検出状態)における監視用開口内の軸受損傷表示片の所定回動位置(マイクロスイッチON作動位置)を示す平面図である。
次に、図1~図7を参照して、この出願の発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<この出願の発明の実施の形態における軸受箱の構成>
この出願の発明の実施の形態では、転がり軸受けを格納した軸受箱の一例として、一般に重荷重、高速回転で使用されることが多いプランマブロックを採用して構成している。そして、同軸受箱(プランマブロック)により支持する回転軸としては、たとえば所定の送風機の回転軸を採用している。
まず図1および図2は、この出願の発明の実施の形態にかかる軸受箱(プランマブロック)の全体的な構成を示している。図1および図2中、符号1は上述した所定の送風機の回転軸であり、同回転軸1の基端側は駆動手段であるファンモータの出力軸部分に、また先端側は送風手段である羽根車のハブ部分に連結されている(ファンモータおよび羽根車については図示を省略している)。この回転軸1は、所定の板厚の内輪2、所定の外径の複数の転動体(ボールベアリング又はローラベアリング)3,3・・、所定の板厚の外輪4よりなる転がり軸受5の内輪2部分に嵌合(たとえば締まり嵌め)されて回転可能に支持されている。
転がり軸受5の内輪2および外輪4は相互に同軸に配置されており、内輪2はその外周面に内輪軌道、外輪4はその内周面に外輪軌道をそれぞれ備えている。そして、複数の転動体3,3・・は、それら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置されている。この内輪軌道と外輪軌道および複数の転動体3,3・・部分には、軸受箱組付け時において所定の量の潤滑材(たとえばグリス)が充填される。そして、それにより内輪軌道および外輪軌道の各軌道面、複数の転動体3,3・・の各転動面に十分な厚さの油膜が形成され、内輪2(回転軸1)と外輪4間の良好な相対回転を実現する。内輪2、外輪4、複数の転動体3,3・・には、硬度が高く、転がり疲労に強い、耐摩耗性、寸法安定性に優れた鋼製の材料が採用されている。
この転がり軸受5の上記内輪2と外輪4との間における摩擦係数(転動体3,3・・を介した静止摩擦係数)は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷がなく、転動体3,3・・が滑らかに転動している状態では、たとえば0.002~0.005である。この数値は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分の潤滑剤の減少、摩耗の進行、損傷の発生により0.002~0.3、さらには0.3以上と大きくなってゆく。荷重や回転速度にもよるが、0.3未満の状態では一応実用的な運転が可能である。しかし、0.3以上になると、転動体3,3・・の正常な転動が不可能となって必要な軸受け機能を喪失する。この状態は、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して転動体3,3・・の回転状態が悪化し、転がり軸受5の交換が必要と判断される状態になった時である。この状態で運転を継続すると、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分の焼き付きを招き、回転不能となる。そこで、この実施の形態では、以下に説明するように、上記正常領域と損傷領域を分ける摩擦係数(静止摩擦係数)0.3を転がり軸受5の損傷状態を判定するための閾値(判定基準値)として設定し、転がり軸受5の損傷を確実に検知するようにしている。
一方、符号6は所定の鋼製材料により形成された所定の板厚のトルクリングであり、上記転がり軸受5の上記外輪4の外周に締まり嵌め(たとえば焼き嵌め)されて上記外輪4に固定されている一方、軸受箱本体の鋳鉄製のハウジング8の内側に隙間嵌めされている。このトルクリング6の外周には周方向に一定の間隔で所定の半径方向高さ、所定の周方向長さの摩擦部材(摩擦摺動部材)7,7・・が設けられており、トルクリング6は、これら複数の摩擦部材7,7・・を介して軸受箱本体のハウジング8の内側に隙間嵌め(すきまばめ)されている。しかも、同軸受箱本体のハウジング8との間に介在される複数の摩擦部材7,7・・は、たとえば図3および図4に示すように、軸受箱本体のハウジング8の内面に当接する外周面に回転方向と直交する方向の細かなセレーション加工9(凹凸寸法10μ程度)が施されており、軸受箱本体のハウジング8の内面との間で相対的に所定の摩擦係数を維持した摩擦係合状態で隙間嵌めされている。
したがって、このトルクリング6に対して、この軸受箱本体のハウジング8の内面との間で相対的に維持されている所定の摩擦係数に応じた静止摩擦力を超える駆動トルク(回転トルク)が作用しない限り、このトルクリング6は軸受箱本体のハウジング8の内面に対して摩擦係合された確実な静止状態にあり相対回動しない。そのため、従来の転がり軸受のような外輪部の隙間嵌め(すきまばめ)、外輪の肉厚不足に起因する外輪ひずみによるクリープ現象も生じない。
特に、この実施の形態の場合、上記軸受箱本体のハウジング8の内面との間の所定の摩擦係数は、上記転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値である0.3に設定されており、その値は極めて大きい。したがって、転がり軸受5が正常な軸受け機能を発揮している限り、外輪4はトルクリング6および複数の摩擦部材7,7・・を介して確実に上記軸受箱本体のハウジング8の内面に固定された状態となり、仮に回転軸1に偏心荷重が負荷されたような場合にも従来のようなクリープ現象は全く生じない。その結果、軸受け寿命を延ばすことができる。また、以下に述べる転がり軸受5の損傷検知機能を確実に実現することができる。
しかも、上記転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値に対応した摩擦係数の設定は、上述のように周方向に一定の間隔をおいて設けた複数の摩擦部材7,7・・の個数およびセレーション加工9の粗度を調節することによって容易に実現することができる。なお、このセレーション加工9は、ローレット加工に変えることも可能である。
この複数の摩擦部材7,7・・には、たとえば耐熱性および硬度が高くて耐摩耗性に優れたエンジニアリング・プラスティック又は高炭素クロム軸受鋼などが採用されている。したがって、耐久性も高い。また、複数の摩擦部材7,7・・は、たとえばトルクリング6の外周に所定の深さの切り欠き溝を設け、同切り欠き溝内に下端部を埋め込むことによりトルクリング6の外周面に確実に固定(特に周方向に)されている。したがって、回転方向に対する係止力は十分に大きい。
そして、トルクリング6の上端には、さらに半径方向に延びる所定の高さの軸受損傷表示片(特許請求の範囲中の請求項2における軸受損傷表示部材に該当する)10が一体に設けられている一方、同軸受損傷表示片10に対応する軸受箱本体のハウジング8の上端部分には、同軸受損傷表示片10が遊嵌する左右方向に所定の長さの監視用の開口11が設けられている。この監視用の開口11の上端側開口面には合成樹脂製の透明カバー12が設けられ、ゴミや水などが侵入しないようにシールされている。この透明カバー12には、たとえば図5のように、軸受損傷表示片10の「初期設定位置」に対応した「正常」、「検出表示位置である所定回動位置」に対応した「損傷」の文字表示が施されている。
この実施の形態の場合、上記複数の摩擦部材7,7・・は、たとえば周方向に90度の間隔をおいて合計4個設けられている。そして、これら複数の摩擦部材7,7・・は、上下左右位置にはなく、上下左右位置を避けた対角線方向に位置して設けられている。そして、それにより上端側の軸受損傷表示片10が上部側左右の摩擦部材7,7の中間に位置して設けられている。また、ハウジング8側の監視用の開口11も、それに対応した上端側中央位置に設けられており、たとえば左右両側に合計30度の開口角を有して開口している。そして、トルクリング6上端側の軸受損傷表示片10は、上述のように、転がり軸受5の内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が生じ、同転動体3,3・・部分の摩擦係数が上記トルクリング6のハウジング8内面との間の所定の設定摩擦係数(転がり軸受5の損傷状態判定用の閾値0.3に対応して設定された摩擦係数)以上になった時のトルクリング6の回転(外輪4の回転に伴うトルクリング6の回転)により、上記開口角30度の監視用の開口11内を左端側正常状態表示位置(初期設定位置:図2および図5参照)から右端側損傷状態表示位置(軸受損傷検出表示位置:図6および図7参照)に回動(移動)して停止されるようになっている。
これにより、監視用の開口11部分の軸受損傷表示片10の位置を外部から目視することにより、転がり軸受5の損傷状態を容易に判定することができる。この軸受損傷表示片10の右端側損傷状態表示位置での停止は駆動力が解除されての停止ではなく、監視用の開口11右端部に衝突しての係合状態での停止であり、軸受損傷表示片10には回転軸1からの回動トルクが作用したままである。そのため、摩擦部材7,7・・による摩擦力が作用していた正常状態表示位置(初期設定位置)での停止状態の場合と同様に損傷状態表示位置(軸受損傷検出表示位置)でも安定した停止状態を維持する(元には戻らない)。したがって、誤表示は生じない。
上記複数の摩擦部材7,7・・を上下左右の2カ所ではなく、上記のように対角線方向の4か所に設けた場合、回転軸1に作用するラジアル方向の荷重を下部側の45度の間隔を保った左右2組の摩擦部材7,7で2点支持(分散支持)することができ、1点支持(集中支持)の場合に比べて支持部の荷重負担が軽減される。また振動等に対する安定した支持が可能となる。また、ハウジング8の内面との間に適度な隙間を開けて(余裕を持って)複数の摩擦部材7,7・・を配置(隙間嵌め)することができ、そのようにした場合にも荷重が作用する下部側左右2組の摩擦部材7,7で確実な静止摩擦力を得ることができる。したがって、摩擦係数の設定もしやすい。
他方、軸受箱本体のハウジング8部分は、上蓋81とハウジング本体82の上下2分体よりなり、上蓋81とハウジング本体82はそれぞれ左右両側に連結部81a,81a、82a,82aを有し、それら連結部81a,81a、82a,82a同士を締め付けボルト13,13で連結することにより相互に一体化されている。またハウジング本体82の底部には左右両側に延びる脚部82b,82bが設けられており、該脚部82b,82b部分を取付ボルト14,14で上述した送風機の回転軸1取付座(フレーム)15部分に取り付けることにより固定される。なお、送風機の回転軸1は、その両端側を同様の軸受箱を用いて支持され、その一方側がアキシアル方向に固定側、他方側が自由側となるが、何れの場合にも上述の構成は同様である。
<この出願の発明の実施の形態に係る軸受箱の特徴と作用>
以上のような構成の軸受箱(プランマブロック)の場合、支持する回転軸1の重荷重、かつ高速での運転、潤滑剤切れ、屋外など悪条件下での運転など、種々の事情により、上記転がり軸受5の内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷(焼き付き、摩耗、割れ、欠け、かじり等)が発生することが想定される。そして、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分にそのような損傷が発生すると、軸受け抵抗が増大し、損傷の程度によっては必要な軸受け機能を維持し得なくなり、送風機(設備)自体を停止しなければならなくなる。
そこで、この実施の形態では、まず上記転がり軸受5の内輪2と外輪4との間における摩擦係数を測定し、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して転動体3,3・・の回転状態が悪化し、転がり軸受5の交換が必要と判断される状態になった時の内輪2と外輪4との間の摩擦係数(静止摩擦係数)0.3を転がり軸受5の損傷状態を判定するための閾値(判定用の基準値)として特定している。
そして、その上で、上記のように複数の摩擦部材7,7・・を介して軸受箱本体のハウジング8内面に対して所定値以上の確実な摩擦係数(静止摩擦係数)で摩擦係合すると共に、外輪4を一体に固定することによって、従来のような外輪4のクリープを確実に防止したトルクリング6における上記軸受箱本体のハウジング8内面との間における摩擦係数(静止摩擦係数)を上記転がり軸受5の損傷状態を判定する閾値0.3に設定している。
このようにすると、内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分に損傷が発生して、上記転がり軸受5の内輪2と外輪4との間における摩擦係数が上記損傷状態判定用の閾値0.3以上になると、転がり軸受5の外輪4が内輪2(回転軸1)によって回転せしめられるようになり、同一の摩擦係数0.3でハウジング8内に隙間嵌めされているトルクリング6も外輪4を介して時計回りに回転することになる。その結果、上記トルクリング6上端の軸受損傷表示片10が上記開口角30度の監視用の開口11内を左端側正常状態表示位置(図2および図5参照)から右端側損傷状態表示位置(図6および図7参照)に回動(移動)して停止する。これにより、監視用の開口11部分の軸受損傷表示片10の位置を外部から目視することにより、転がり軸受5が損傷したことを判定することができる。
この場合、上記損傷状態判定用の摩擦係数(閾値0.3)は、上述のように実用的な運転が可能な摩擦係数の上限と実用的な運転が不可能となる摩擦係数の下限とを仕切る摩擦係数であり、未だ内外輪2,4の軌道および転動体3,3・・部分が焼き付きには至らない領域である。したがって、同構成によれば、送風機(設備)自体を停止するような状態になる前に転がり軸受5を交換することができる。
<変形例1>
以上の実施の形態では、トルクリング6の回動を外部から確認するに際して、ハウジング8に設けた監視用の開口11に対して軸受損傷表示片10を回動可能に位置させて置き、同軸受損傷表示片10の初期設定位置(正常)から損傷検出表示位置(所定回動位置/損傷)への移動を指標として軸受部の損傷を目視判定する構成を採用した。
しかし、トルクリング6の回動を外部から確認する構成としては、その他にも、たとえばハウジング8に同様の監視用の開口11を形成すると共にトルクリング6外周面の周方向に2種の異なる色彩(たとえば青と赤など)を施し、軸受部が損傷に至っていない正常状態で監視用の開口11から見える外周面部分の色と同正常状態で見えない外周面部分の色を異なるものとして置く(たとえば見える外周面部分の色を青、見えない外周面部分の色を赤とする)。すると、トルクリング6が回動すると、ハウジング8の監視用の開口11から見える外周面部分の色が青から赤に明確に変わるので、それにより(色の変化を指標として)容易に軸受部の損傷を判定することができる。このような構成の場合、位置の変化だけを指標とする場合に比べて、より目視判定が容易になる。
<変形例2>
以上の実施の形態では、ハウジング8の内面との間で所定の摩擦係数を設定するトルクリング6側の摩擦部材7,7・・として、金属ブロック構造の摩擦摺動部材を採用した。しかし、ハウジング8の内面との間で所定の摩擦係数を設定するトルクリング6側の摩擦部材7,7・・は、たとえば図8に示すような断面円弧状の金属製バネ圧部材に変更することも可能である。
図8の構成の場合、同摩擦部材7,7・・を断面円弧状の金属製バネ圧部材とし、その両端をトルクリング6の外周面に形成した係合溝に係合して保持しており、その円弧面外周側を弾性的なバネ圧を伴う形でハウジング8の内面に摺動可能に内接させている。そして、その弾性的なバネ圧により上記同様の所定の摩擦係数を設定している。
もちろん、この場合において、さらにハウジング8の内面との当接面にローレット加工などの摩擦力向上加工を施しても良い。これら摩擦部材7,7・・の場合にも、上述の場合と同様にトルクリング6の外周面周方向に所定の間隔で複数設けられる。
<変形例3>
次に、図9~図11は、上記実施の形態に係る軸受箱の構成において、上記軸受損傷表示片10の回動による損傷状態の検出を目視だけでなく、電気的に検出し、システム的に管理コントロールできるようにした変形例3の構成を示している。
すなわち、この変形例3の構成では、上述した監視用の開口11の右端側端部内に軸受損傷表示片10側に向けて開口したマイクロスイッチ20設置用の凹溝部81bを形成し、同凹溝部81b内に図9~図11のように電気的な軸受損傷検出手段であるマイクロスイッチ20を設置して構成されている。マイクロスイッチ20は、電気接点及び電気接点開閉用のスナップ機構を方形のケース内に収納し、スナップ機構作動用のアクチュエータ20aの先端を軸受損傷表示片10側に所定動作寸法突出させて凹溝部81b内に固定されている。そして、上述した原理で回動する軸受損傷表示片10の監視用の開口11の右側端部への回動動作によりアクチュエータ20aをON作動させて、転がり軸受5が損傷したことを電気的に検出するようになっている。
所定の軸受箱(転がり軸受5)が損傷したことを示す当該マイクロスイッチ20のON出力信号は、それを識別できる固有の識別データと共に設備コントロールシステムの信号ラインを利用して設備コントローラ又は中央監視装置21に送信され、デジタルデータに変換されて処理され、対応したメンテナンス処理が行われる。
このような構成を採用すると、実質的に上述した目視判定用の監視用の開口11上部の透明カバー12などは廃止することができる。しかし、この種の軸受箱は必ずしも大規模なプラント設備だけでなく、小規模な設備や屋外での一時使用にも供される。そのような場合には上述したような目視管理が有効であり、低コストであることから、ニーズも高い。そこで、この変形例3では、それら両機能を備えたものとして構成している。
<変形例4>
以上の実施の形態の説明では、転がり軸受を格納した軸受箱の一例として、重荷重、高速回転で使用されることが多い、上下分割ハウジング構造の所謂プランマブロックを例示して説明したが、この出願の発明はこれに限られるものではなく、たとえば比較的軽荷重、中低速で使用され、ハウジング部が一体型で分割構造になっていない所謂ピローブロックなどの場合にも同様に適用できることは言うまでもない。
また、ハウジング部の材質も必ずしも鋳鉄製のものに限られるわけではなく、たとえばアルミ製のものにも適用することが可能である。アルミ製のハウジングは、鋳鉄製のものに比べて熱により膨張しやすく、外輪との間の隙間が拡大されやすい。そのため、前述したクリープ現象が生じやすい。したがって、クリープ防止機能の高い、この出願の発明は極めて有効である。
1:回転軸
2:内輪
3:転動体
4:外輪
5:転がり軸受
6:トルクリング
7:摩擦部材
8:ハウジング
9:セレーション加工
10:軸受損傷表示片
11:監視用の開口
20:マイクロスイッチ
21:中央監視装置