以下、図面を参照して本発明の各実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る地物データの生成システム(地物データベース更新システム)の構成を概略的に示すブロック図である。図1において、地物データの生成システム100は、少なくとも1台の車両200(移動体)、例えば、ホストコンピュータからなる地物データ生成装置300及び三次元高精度地図更新装置400を備える。車両200、地物データ生成装置300及び三次元高精度地図更新装置400は互いに無線又は有線によってデータの送受信を行うことができる。
地物データ生成装置300は、SDマップ301(標準精度地図)、地物記述データ生成部302、地物特徴データ生成部303、異常測定値検出部304、クラス分類処理部305、形状特徴ベクトルデータベース生成部306、地物統計データ算出部307、道路特徴付与部308、地物特徴ベクトルデータベース生成部309、地殻変動補正部310、品質保証指標算出部311、位置データ再測定要求部312及び地物データベース生成部313を有する。地物データ生成装置300の各構成要素については後に詳述する。なお、地物記述データ生成部302、地物特徴データ生成部303、形状特徴ベクトルデータベース生成部306及び地物特徴ベクトルデータベース生成部309は地物データ生成部に該当する。
三次元高精度地図更新装置400は、三次元高精度地図(図示しない)を格納し、地物データ生成装置300が生成する地物データを用いて三次元高精度地図の地物を生成、更新する。なお、三次元高精度地図更新装置400が地物データ生成装置300と一体化され、該一体化された地物データ生成装置300が自身で生成する地物データを用いて三次元高精度地図の地物を生成、更新してもよい。
図2は、図1の地物データ生成装置300のデータベース構成を説明するための図である。図2において、地物データ生成装置300は、形状特徴ベクトルデータベース314、地物特徴ベクトルデータベース315、及び地物データベース316を有する。形状特徴ベクトルデータベース314は、地物特徴データ生成部303や形状特徴ベクトルデータベース生成部306が生成する形状特徴ベクトルを格納する。地物特徴ベクトルデータベース315や地物データベース316は、地物特徴ベクトルデータベース生成部309が生成する地物特徴ベクトルを格納する。地物データ生成装置300の各データベースについては後に詳述する。
図3は、図1における車両200の構成や機能を説明するための図である。図1の地物データの生成システム100では、複数の車両200が存在するが、いずれも同じ構成を有するため、ここでは1台の車両200について説明する。なお、車両200は自動車に限られず、例えば、二輪車や飛翔体(ドローン等)も該当する。
車両200は、LIDAR技術を利用するレーザ・スキャナ部201、自己位置推定部202(絶対座標系位置付与部)、データ送受信部203及びカメラ209を有する。レーザ・スキャナ部201は、ヘッド204、スキャナ制御部205及びエッジパターン抽出部206を有する(図3(A))。
レーザ・スキャナ部201は、図3(B)に示すように、例えば、道路標識101を含む自車の周辺へヘッド204からレーザ光207を照射し、周辺の多数の測定点からの反射光208を受光することにより、各測定点のスキャナ基準座標系上の距離、方位及び仰角を位置データとして取得する。車両200の走行中、この位置データの取得が継続されるため、レーザ・スキャナ部201は車両200の走行に伴い、広範囲の位置データを膨大な点データの群(点群)として取得する。
ヘッド204はレーザ光照射方向可変デバイス、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスを有し、レーザ光207による車両200の周辺の走査(スキャン)を実行する。スキャナ制御部205は、ソフトウェアによってヘッド204を制御することにより、種々のレーザ光207のスキャンパターンを実現する。特に、地物に対しては、レーザ光207を集中的に照射し、地物とその周辺から多数の位置データを取得する。レーザ光207を集中的に照射するためのスキャンパターンは何種類か存在し、例えば、先端が円板からなる道路標識101に対しては、レーザ光207によって渦巻きを描くコニカルスキャンを行う(図3(C))。また、地上に固定された目標物102に対しては、レーザ光207による上下方向のスキャンを水平方向へ少しずつずらしながら繰り返すバーティカルスキャンを行う(図3(C))。これにより、地物とその周辺から効率的に多数の位置データを得ることができ、生成される地物データの精度を向上させることができる。また、地物以外の余り価値の無い周辺領域から無駄な位置データを多数取得することがないため、地物データの生成効率を向上することができる。
スキャナ制御部205は、車両200が搭載するカメラ209によって撮像された周辺の画像データにおいて確認された地物へ集中的にレーザ光207を照射する。なお、後述する画像データと位置データの統合(フュージョン)を円滑に行うためには、このように、搭載するカメラ209によって撮像された周辺の画像データにおいて確認された地物へ集中的にレーザ光207を照射して地物の位置データを増加させてもよく、若しくは、レーザ光207によって取得された位置データにおいて確認された地物を集中的にカメラ209によって撮像して地物の画像データの精度を向上させてもよい。また、地物データ生成装置300がSDマップ301に含まれる地物の概略位置情報を車両200へ送信し、レーザ・スキャナ部201のスキャナ制御部205が受信した地物の位置情報に対応する箇所へ集中的にレーザ光207を照射するキューイング計測を行ってもよい。さらに、夜間や雨天時では昼間よりもレーザ光207の照射密度を高くしてもよい。
また、スキャナ制御部205が実現するスキャンパターンは上述したコニカルスキャンやバーティカルスキャンに限られず、例えば、矩形状に渦を巻くパターンや水平方向のスキャンを上下方向へ少しずつずらしながら繰り返すホリゾンタルスキャンも実現可能である。
エッジパターン抽出部206は、車両200の周辺の位置データの密度やレーザ光207の反射強度を参考として、対象地物の輪郭線や線分形状に沿う位置データの集合体をエッジパターンとして抽出する。エッジパターンの抽出方法の一例としては、例えば、米国特許第10495757号明細書の出願人であるAEYE社のウェブサイト等で示されるように、カメラ209によって撮像された車両200の周辺の画像データ(図4(A))と、レーザ光207のスキャンによって得られた車両200の周辺の多数の位置データ(図4(B))とを統合(フュージョン)することにより、車両200の周辺に存在する対象地物の形状境界(エッジ)を示すエッジパターン(図4(C))を抽出する方法が挙げられる。なお、エッジパターンの抽出方法は、画像データと位置データのフュージョンによるものに限られず、画像データを用いずに位置データのみからエッジパターンを抽出するものであってもよい。ここでの対象地物は、ガードレールや道路縁(縁石も含む)等の道路構造物、道路縁、白線等のペイント表記、標柱(道路標識や信号機を含む)、建築物等の道路近傍の目標物が該当する。
したがって、本実施の形態において、エッジパターンは対象地物の輪郭を表す有意な位置データの集合体である。このエッジパターンの抽出により、不必要な位置データを大幅に削減することができ、地物の候補となる対象地物の位置データのみを抽出することができる。その結果、その後の処理の負荷を大幅に軽減することができる。
自己位置推定部202は、例えば、ジャイロや加速度計によって構成された慣性測定装置(Inertial Measurement Unit)やオドメトリを含む。自己位置推定部202は、車両200のロール角、ピッチ角やヨー角で表現される姿勢、並びに車両200の位置、水平面上の平行移動量や移動軌跡を、高精度測位、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)単独測位、又はPPP-RTK(Precise Point Positioning-Real Time Kinematic)等のGNSS干渉測位を使用して地球基準座標系(以下「絶対座標系」という。)で高精度に取得する。さらに、自己位置推定部202は、取得した車両200の絶対座標系上の位置に基づいて、エッジパターンを構成する各位置データのスキャナ基準座標系上の位置を絶対座標系上の位置(以下、「絶対座標位置」という。)へ座標変換し、各位置データへ絶対座標位置を付与する。なお、車両200の衛星測位受信機信号を地物データ生成装置300に送信し、地物データ生成装置300において衛星測位受信機信号を高精度化して各位置データへ絶対座標位置を付与してもよい。
自己位置推定部202は、GNSSが利用できないような衛星不可視環境において、予め車両200に搭載してある各種基準点(例えば、Ground Control Point (GCP))を利用して三角測量によって車両200の絶対座標位置を推定してもよい。このとき、トンネル内を走行している車両200が送風機を認識したら、当該送風機の設計図上の位置情報を基準点として利用してもよい。また、自己位置推定部202は、車両200の絶対座標位置の算出に必要な測定情報を車両200のサーバ(図示しない)へアップロードし、サーバが車両200のGNSS受信機(不図示)の信号情報を利用することによって車両200の絶対座標位置を推定してもよい。
本実施の形態では、各位置データのスキャナ基準座標系上の位置から絶対座標位置への座標変換は、エッジパターンの抽出後に行われるが、エッジパターンを抽出する前に全ての位置データの位置情報を絶対座標位置へ変換してもよい。但し、前者の方が座標変換の対象数が少ないため、作業効率向上の観点からは前者が好ましい。
データ送受信部203は、各位置データへ絶対座標位置が付与されたエッジパターンを地物データ生成装置300へ送信し、また、地物をサーチ(スキャン)する指示、例えば、後述の再スキャンの実行要求を受信する。
地物データ生成装置300のSDマップ301は、原則として、二次元地図であり、三次元高精度地図よりも含む情報量が少ないが、例えば、経路探索における目安となる地物の位置情報や形状情報を含む。地物の位置情報は、上述したように、車両200のレーザ・スキャナ部201(スキャナ制御部205)へ提供され、地物の形状情報は、後述するように、クラス分類処理部305によって利用される。
地物記述データ生成部302は、データ送受信部203から送信されたエッジパターンを多次元ベクトルで記述し、対象地物の地物記述データを生成する。
ここで、エッジパターンは、測定ノイズを含むことがあり、さらに、一部の位置データが欠損していることがある。したがって、地物記述データ生成部302は、標柱に代表される円形や多角形等の形状を有する地物と、白線等のペイント表記、ガードレールや道路縁に代表される両端まで長い地物(以下、「線状地物」という。)を区別して、多次元ベクトルによる記述方法を変える。
例えば、図5(A)に示すように、道路標識101からはポリゴンを抽出し、抽出されたポリゴンに接する矩形の各点座標や図心点をエッジパターンの各種情報と共にベクトル要素として、地物記述データを生成する。なお、道路標識101を囲む矩形の重心点をベクトル要素としてもよい。また、図5(B)に示すように、道路縁(図中の離散した各白点参照)からはエッジパターンの各位置データの位置情報等をベクトル要素として、地物記述データを生成する。なお、レーザ光207の反射強度に応じて対象地物の表面性状も分かるため、反射強度を表面性状の指標としてベクトル要素に設定してもよい。
地物特徴データ生成部303(マッチング部)は、例えば、既に地物データベース316へ登録されて準備されている地物の地物記述データ(以下、「既存地物記述データ」という。)と、地物記述データ生成部302が生成した地物記述データ(以下、「新規地物記述データ」という。)とのマッチングを行う。
具体的には、新規地物記述データが存在する地域の地物の既存地物記述データを地物データベース316から読み出し、新規地物記述データの絶対座標位置の情報と、既存地物記述データの絶対座標位置の情報とを比較し、これらの情報が所定の割合以上でマッチングする場合、当該新規地物記述データを、既存地物記述データを更新するための形状特徴ベクトル(以下、「更新用形状特徴ベクトル」とも称する。)として設定する。一方、新規地物記述データの絶対座標位置の情報と、既存地物記述データの絶対座標位置の情報とが所定の割合以上でマッチングしない場合、当該新規地物記述データを、新規の地物データを生成するための形状特徴ベクトル(以下、「生成用形状特徴ベクトル」とも称する。)として設定する。また、地物特徴データ生成部303は、設定されたこれらの形状特徴ベクトルを形状特徴ベクトルデータベース314へ格納する。
図6は、新規地物記述データと既存地物記述データのマッチングの概念図であり、図6(A)は、道路標識を表す新規地物記述データ601と既存地物記述データ602のマッチングの様子を示し、図6(B)は、道路縁を表す新規地物記述データ603と既存地物記述データ604のマッチングの様子を示す。
本実施の形態では、複数の車両200から逐次、地物データ生成装置300へエッジパターンが送信されて地物記述データの生成、さらには、形状特徴ベクトルデータベース314への形状特徴ベクトルの格納が繰り返されることになるため、形状特徴ベクトルデータベース314には、同じ既存地物記述データを更新するための形状特徴ベクトルや同じ地物を生成するための形状特徴ベクトルが多数格納される。
ところで、このように格納された形状特徴ベクトルには、測定ノイズ等に起因する異常値が含まれることがあり、このような異常値を含む形状特徴ベクトルを用いると、正確な地物データを得ることができない。
これに対応して、異常測定値検出部304は、形状特徴ベクトルから異常値を除去する。具体的には、異常測定値検出部304は、マハラノビス距離を用いて各形状特徴ベクトルから異常値を検出して除去する。マハラノビス距離は複数のデータの分散を考慮した多次元空間における距離であり、ここでは多次元ベクトルである形状特徴ベクトルを構成する各位置データの分散中心からマハラノビス距離が大きい位置データを除去する。
例えば、理解を容易にするために二次元で表される図7では、位置データa,bが位置データc,dよりも分散中心に近いように見えるが、分散の形態を考慮した場合、位置データa,bのマハラノビス距離が位置データc,dのマハラノビス距離よりも長くなる。したがって、ここでは、位置データa,bが異常値として除去される。
また、レーザ・スキャナ部201のレーザ光207によるスキャン可能な範囲は、車両200の走行状態や周辺状況に応じて変化することがあるため、レーザ・スキャナ部201のエッジパターン抽出部206によって抽出されるエッジパターンは地物の全体の位置データを含まないことがある。このような場合、当該エッジパターンがどの地物に対応するのかを特定する必要がある。
これに対応して、クラス分類処理部305は、エッジパターンがどの地物に対応するのかを判別する。具体的には、データ送受信部203から送信されたエッジパターンを、SDマップ301が格納するエッジパターンが存在する地域の地物の形状情報と比較する。図8の事例では、エッジパターン800(図8(A))が、地物である変形五叉路801の一部(図8(B))に対応し、同じく地物である四差路802(図8(C))に対応しないことが分かる。この場合、エッジパターン800は変形五叉路に対応すると判別し、エッジパターン800(と対応する形状特徴ベクトル)を変形五叉路にクラス分類する。また、エッジパターンの方位と地物の方位が一致していないとエッジパターンと地物の正確な比較は困難であるため、車両200の位置や姿勢を考慮し、エッジパターンの方位を地物の方位と一致させるように補正した上でエッジパターンと地物を比較するのが好ましい。
なお、このようなエッジパターンとSDマップ301が格納する地物の一部との対比により、車両200は、SDマップ301における自車位置を把握するとともに、自動運転の基準点となる近隣の地物を把握することができる。したがって、車両200は三次元高精度地図を備えなくても、SDマップ、レーザ・スキャナ部201やカメラ209さえ備えていれば、自己位置推定と周囲環境の認識を行うことができ、安全運転支援や自動運転を行うことができる。特に、後述する品質保証指標の値の高い地物を使うことにより、より正確な己位置推定と周囲環境の認識を行ってより高度な安全運転支援や自動運転を行うことができる。
形状特徴ベクトルデータベース生成部306は、形状特徴ベクトルデータベース314に多数格納される形状特徴ベクトルを管理する。例えば、同じ既存地物記述データに対応する複数の更新用形状特徴ベクトルを互いに関連付けて管理し、これらの更新用形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。
形状特徴ベクトルの更新のタイミングとしては、同じ既存地物記述データに対応する更新用形状特徴ベクトルの数が所定の数を上回った場合でもよい。この場合、例えば、スライディングウィンドウの考えを用いる方法が採用されてもよく、具体的には、時間の経過とともに累積する更新用形状特徴ベクトルの数(スライディングウィンドウの面積に相当する)が所定の数に達した時点で形状特徴ベクトルが更新されてもよい。このとき、交通量の多い地域では、更新用形状特徴ベクトルの数が比較的短い時間で所定の数に達するため、地物の既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルは短いサイクルで更新される。一方、交通量の少ない地域では、更新用形状特徴ベクトルの数が所定の数に達するためには比較的長い時間を要するため、地物の既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルは長いサイクルで更新される。すなわち、形状特徴ベクトルの更新サイクル(頻度)は地物が存在する地域の交通量に左右されてもよい。これにより、形状特徴ベクトルの更新サイクルが適切化され、形状特徴ベクトルデータベース生成部306の計算負荷を適切化することができる。また、形状特徴ベクトルの更新のタイミングとしては、更新用形状特徴ベクトルが最初に格納されてから所定の時間が経過した場合であってもよい。
なお、形状特徴ベクトルの更新のタイミングは、これらに限られず、例えば、後述の公に提供される工事情報における該当地域での工事完了時期から所定の時間が経過したタイミングや、後述するように各形状特徴ベクトルの統計値によって形状特徴ベクトルが時間的変化した時刻を特定し、該特定された時刻から所定の時間が経過したタイミングであってもよい。
また、形状特徴ベクトルの更新方法は、既存地物記述データに対応する地物の種類に応じて異なる。例えば、既存地物記述データに対応する地物が標柱に代表される円形や多角形等の形状を有する地物である場合、形状特徴ベクトルデータベース生成部306は、例えば、形状特徴ベクトルデータベース314に集積された既存地物記述データと各更新用形状特徴ベクトルに含まれるポリゴンに接する矩形の各点座標や図心点の平均値を求め、これらの平均値を用いて地物に対応する形状特徴ベクトルを更新する。
また、生成用形状特徴ベクトルが形状特徴ベクトルデータベース314へ所定の数以上、格納された場合、形状特徴ベクトルデータベース生成部306は、生成用地物記述データに対応する地物が標柱に代表される地物であれば、上述したように、ポリゴンに接する矩形の各点座標や図心点の平均値を用いて新たな形状特徴ベクトルを生成する。
ところで、形状特徴ベクトルデータベース314へ形状特徴ベクトルを格納していく際、道路工事等によって道路縁の延伸形状や道路の通行区分が変化し、若しくは標柱が移動されることがある。この場合、道路工事前後の各形状特徴ベクトルのベクトル要素が大きく変化するため、道路工事前後の各形状特徴ベクトルを一纏めにして統計処理を施して形状特徴ベクトルを更新又は生成すると、得られる地物データが正確で無くなるおそれがある。
これに対応して、地物統計データ算出部307は、形状特徴ベクトルデータベース314へ格納された各形状特徴ベクトルの統計値を算出し、各形状特徴ベクトルが時間的変化を含むか否かを判別する。例えば、図9(A)に示すように、道路標識が時刻txに移動する場合、道路標識に対応する各形状特徴ベクトルの線A上に存在する位置データの数の移動平均値が時刻txを境に変化する(図9(B))。このような場合、地物統計データ算出部307は、道路標識が時刻txを境に移動したと判別し、時刻txより前に格納された各形状特徴ベクトルを以降の処理において使用しない。そして、形状特徴ベクトルデータベース生成部306は、時刻tx以降に格納された各形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。
なお、地物統計データ算出部307が算出する統計値は移動平均値に限られない。例えば、地物統計データ算出部307は、各形状特徴ベクトルの位置データのマハラノビス距離を算出し、これらのマハラノビス距離に基づいて各位置データを複数のグループに分類し、最も新しい位置データで構成されるグループ以外のグループに対応する各形状特徴ベクトルを以降の処理において使用しなくてもよい。さらに、各形状特徴ベクトルの位置データの共分散値やヒストグラムを算出してもよい。この場合も、一定時間毎に算出された共分散値やヒストグラムを比較することにより、地物の時間的変化(移動)を検知することができる。
また、道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化の検出方法は、上述したような各形状特徴ベクトルの統計値の算出に基づく方法に限られない。道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化は道路工事によって発生するため、公に提供される工事情報(例えば、公益財団法人日本道路交通情報センターが提供する工事情報)も参考にしてもよい。この場合、該当地域で工事が完了する前に格納された各形状特徴ベクトルを以降の処理において使用せず、該当地域で工事が完了した後に得られた各形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。
さらに、各形状特徴ベクトルの統計値と公に提供される工事情報を併用して、道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化を検出してもよい。この場合、例えば、道路標識に対応する各形状特徴ベクトルの線A上に存在する位置データの数の移動平均値が変化する時刻txと、該当地域で工事が完了した時刻とを比較し、両時刻のずれが所定値以内であれば、道路標識が時刻txを境に移動したと判別する。
また、地物データの生成システム100では、各車両200の移動軌跡をモニタリングしてもよく、これらの移動軌跡を用いて道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化を検出してもよい。例えば、或る地域において各車両200の移動軌跡が時刻tyを境に変化した場合は、当該地域において時刻tyに道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化が発生したと考えられるため、時刻tyより前に格納された各形状特徴ベクトルを以降の処理において使用しない。そして、形状特徴ベクトルデータベース生成部306は、時刻ty以降に格納された各形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。なお、各車両200の移動軌跡が変化したか否かは、当該移動軌跡が道路線型に対して大きく変化するか否かに基づいて判別する。例えば、移動軌跡が滑らかで無くあたかも不連続となったような場合には、各車両200の移動軌跡が変化したと判別する。
ところで、各車両200の移動軌跡は、例えば、道路に一時的な障害物(落下物や倒木等)が生じた場合にも変化する。この場合、道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化は発生していないため、各車両200の移動軌跡が変化するより前に格納された各形状特徴ベクトルも形状特徴ベクトルの更新に用いるのが好ましい。各車両200の移動軌跡の変化が一時的な障害物によるものか否かは、各車両200の移動軌跡が変化した後、所定時間が経過する前に各車両200の移動軌跡が元の移動軌跡に戻るか否かに基づいて判別する。具体的に、各車両200の移動軌跡が変化した後、所定時間が経過する前に元の移動軌跡に戻った場合は、各車両200の移動軌跡の変化が一時的な障害物によるものと判別し、所定時間が経過しても元の移動軌跡に戻らない場合は、各車両200の移動軌跡の変化が道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化によるものと判別する。
さらに、道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化は地震や土砂災害によっても発生する。したがって、公に提供される地震情報や災害情報も併用して、道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化を検出してもよい。この場合、該当地域で地震や土砂災害が終息する前に格納された各形状特徴ベクトルを以降の処理において使用せず、該当地域で地震や土砂災害が終息した後に得られた各形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。
なお、地物の移動は、地震や土砂災害だけでなく地殻変動によっても生じる。地物の移動の要因が地震か土砂災害か、若しくは地殻変動かの判別は、各車両200から取得される形状特徴ベクトルの位置データが急変するか徐変するかに基づいて判別される。例えば、位置データが徐変する場合、地物の移動の要因は地殻変動であると判別される。そして、この場合、後述するように、地殻変動補正部310が各形状特徴ベクトルの位置データへ地殻変動補正を施し、地殻変動補正後の全ての形状特徴ベクトルを用いて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する。
形状特徴ベクトルデータベース生成部306によって更新又は生成された形状特徴ベクトルが道路縁に対応する場合、道路特徴付与部308は、図10に示すように、1つの道路を構成する一対の道路縁の中央を仮想地物であるレーン中央線とし、レーン中央線にレーンIDとしてLx(xは自然数)を付与する。
このとき、道路特徴付与部308は、レーン中央線の両端にノードを設定し、各ノードの間をレーン中央線に沿うように緩和曲線、例えば、スプライン曲線やクロソイド曲線で繋ぎ、緩和曲線において所定の間隔毎、例えば、5m毎にドットとしてのウェイポイントを設定する。各ウェイポイントにはウェイポイントIDとしてWx(xは自然数)が付与される。レーンIDやウェイポイントIDには、三次元高精度地図に収録済みの近隣の建物1000や標柱1001との対応関係が設定される。これにより、自動運転による配達等が行い易くなる。
なお、道路幅が大きいときには、区画線に従って道路を幅方向に複数のレーンに区切り、各レーンの中央線へレーンIDを付与する。これにより、同じ道路を車両200が通行していても、レーンIDを参照することにより、自車が直進レーンを走行しているか、右折レーンを走行しているかを判別することができ、例えば、従うべき信号を区別することができる。
また、道路特徴付与部308は、レーンIDを参照して複数のレーン中央線によって構築された道路ネットワークをトポロジカル地図として表現し、該地図の全体における道路連接の妥当性や無矛盾性を検証することができる。
地物特徴ベクトルデータベース生成部309は、更新又は生成された形状特徴ベクトルへ地物統計データ算出部307が算出した統計値や道路特徴付与部308が付与したレーンIDやウェイポイントID、さらには、地物の名称等を加えて地物特徴ベクトルを生成する。図11は、地物特徴ベクトルデータベース生成部309が生成する地物特徴ベクトルの一例を示すが、地物特徴ベクトルを構成するベクトル要素は図11の事例に限られない。また、地物特徴ベクトルデータベース生成部309は、生成した地物特徴ベクトルを地物特徴ベクトルデータベース315へ格納する。
ところで、地殻変動によって地物は移動することがあり、その移動量は、例えば、年間に10cm~20cmに達することがある。したがって、地物特徴ベクトルに含まれる地物の測定時点の位置が地図制定時の位置からずれていく。これに対応して、地殻変動補正部310は、地物特徴ベクトルに含まれる今期の位置データ(測定時点の位置)を元期の位置データ(地図制定時の位置)、例えば、該当車両200の測地基準系である日本測地系2011(JGD2011)における位置データへ地殻変動補正する。これにより、地物特徴ベクトルに含まれる位置データの国が定めた公的座標系における正確性を担保することができる。特に、日本のように大地震によって大きな地殻変動が頻繁に生じる地域において、公的座標系における正確性を担保することは、地物データにとって必須の品質保証条件である。
なお、地物特徴ベクトルは複数の形状特徴ベクトルの統計処理を経て得られるため、地物特徴ベクトルに含まれる今期の位置データは情報量が縮減している可能性がある。そこで、地殻変動補正部310は、地物特徴ベクトルに含まれる今期の位置データではなく、エッジパターンに含まれる今期の位置データを元期の位置データへ補正してもよい。これにより、統計処理を施す前に地殻変動補正を行うことができる。すわなち、位置データの情報量が縮減する前に地殻変動補正を行うことができるため、より正確な元期の位置データを得ることができる。
また、地物特徴ベクトルは地物データとして三次元高精度地図更新装置400における三次元高精度地図の地物の更新又は生成に用いられるが、全ての地物特徴ベクトルが同じように信頼できるとは限らない。例えば、最近取得された位置データを含む地物特徴ベクトルは、過去に取得された位置データを含む地物特徴ベクトルよりも信頼性が高いと考えられ、また、統計値である位置データの分散が大きい地物特徴ベクトルは、当該分散が小さい地物特徴ベクトルはよりも信頼性が低いと考えられる。
そこで、品質保証指標算出部311は、各地物特徴ベクトルの信頼性を表す指標である品質保証指標を生成して各地物特徴ベクトルへ付与する。本実施の形態では、図11中の「Quality_Index」が品質保証指標に該当する。例えば、図12(A)に示すような、位置データの分散(図中の「Variance_Value」参照)が所定値以上であり、位置データの取得時期(図中の「Time_Stamp」参照)が所定時間よりも前の地物特徴ベクトルでは、低い値の品質保証指標(図中の「Quality_Index」参照)が生成される。
一方、図12(B)に示すような、分散が小さく、位置データの取得時期が新しい地物特徴ベクトルでは、高い値の品質保証指標が生成される。そして、低い値の品質保証指標を有する地物特徴ベクトルは三次元高精度地図における地物の更新や生成に用いられないか、若しくは、地物の更新や生成に用いられても、当該地物は経路探索や自動運転において積極的に活用されない。なお、品質保証指標を生成する際、分散の代わりにヒストグラムを用いてもよく、また、品質保証指標の値は図12(A),図12(B)に示される値に限られない。
品質保証指標の生成のタイミングは、例えば、公に提供される工事情報における地物が存在する地域での工事完了時期、地物特徴ベクトルの統計値が大きく変化したタイミング、地物の近辺を通行する各車両200の移動軌跡が変化したタイミング、国土地理院よって地殻変動の補正値(地殻補正データ)が公表された時、公に提供される地震情報において地物が存在する地域で発生した地震が終息したタイミングや公に提供される災害情報において地物が存在する地域で発生した土砂災害が終息したタイミングを基準とする。
また、地物特徴ベクトルの品質保証指標が低い値となる場合は、地物特徴ベクトルの位置データの分散が大きい場合や位置データの取得時期が古い場合に限られず、例えば、地物が存在する地域で工事が行われてから所定の時間が経過していないことが公に提供される工事情報から確認できる場合、各車両200の移動軌跡から道路標識の移動、道路縁の延伸形状の変化や道路の通行区分の変化が検出されてから所定の時間が経過していない場合、地物が存在する地域で発生した地震や土砂災害が終息してから所定の時間が経過していないことが公に提供される地震情報や災害情報から確認できる場合、又は国土地理院よって地殻補正データが公表された後に当該地殻補正データが地物データに反映されていない場合が該当する。なお、地震や土砂災害が生じた場合は地物が数m単位で移動することがあるため、品質保証指標はかなり低い値、すなわち、使用に耐えないことを示す値に設定される。
位置データ再測定要求部312は、各車両200のレーザ・スキャナ部201のスキャナ制御部205に対して、上述した種々の要因によって品質保証指標の値が低く設定された地物特徴ベクトルに対応する地物が存在する箇所へ向けて再度のレーザ光207の再スキャンを実行するように求める。レーザ光207の再スキャンの実行要求は、例えば、地物特徴ベクトルの品質保証指標の値が低くなったタイミングに発信され、データ送受信部203によって受信される。これにより、地物特徴ベクトルを新たな(測定し直した)エッジパターンに基づいて生成し直すことができ、地物特徴ベクトルの信頼性を維持することができる。その結果、地物データベース316や三次元高精度地図の信頼性を向上することができる。また、品質保証指標の値が低くなった地物特徴ベクトルに対応する地物のみにレーザ光207の再スキャンを実行することにより、品質保証指標の値が高いままの地物特徴ベクトルに対応する地物へのレーザ光207の再スキャンを実行せずに済む。これにより、不必要なレーザ光207の再スキャンを行う必要を無くし、地物データベース316や三次元高精度地図の地物の更新の効率を向上させることができる。
また、品質保証指標が大きく低下すると考えられる場合には、品質保証指標が、例えば、0にリセットされ、品質保証指標がリセットされた地物特徴ベクトルに対応する地物が存在する箇所へ向けて再度のレーザ光207の再スキャンを実行する。品質保証指標がリセットされるタイミングは、例えば、地物が存在する地域で工事が完了したタイミングや、地物が存在する地域で発生した地震や土砂災害が終息したタイミングである。これらの情報は、公に提供される工事情報、地震情報や災害情報から得られる。また、その他、地物特徴ベクトルの統計値が大きく変化したタイミング、地物の近辺を通行する各車両200の移動軌跡が変化したタイミングや国土地理院よって地殻変動の地殻補正データが公表されたタイミングで品質保証指標がリセットされてもよい。なお、品質保証指標がリセットされる前の地物特徴ベクトルは自動運転や三次元高精度地図における地物の更新や生成に用いられない。
本実施の形態における品質保証指標は、例えば、地物特徴ベクトルが表す地物の位置精度(precision)と位置の正確度(accuracy)の2つを担保する。位置精度は、地物特徴ベクトルの位置データの分散が小さいほど高く、例えば、地物特徴ベクトルが表す地物の中心位置の位置データの2σ(標準偏差)が10cm以下の場合には位置精度に対応する品質保証指標として3点が設定され、同2σが11cm~20cmの場合には2点が設定され、同2σが21cm以上の場合には1点が、これ以上の場合には0点が設定される。なお、位置精度に対応する品質保証指標の設定では、上述した2σの代わりにRMS(Root Mean Square)等の統計データを使用してもよい。
正確度は地物の中心位置の真値から地物特徴ベクトルが表す地物の中心位置のずれ量(偏差バイアス量)が小さいほど高い。また、地物特徴ベクトルが表す地物の中心位置は、地物特徴ベクトルを導き出すために用いられる形状特徴ベクトルの数が増えるにつれて変化する。また、高精度な絶対座標位置を得られる計測方法ほど地物特徴ベクトルが表す地物の中心位置の初期値が正確となるため、地物の正確度が高くなる。そして、正確度が高くなるほど、品質保証指標は高く設定される。例えば、上述した2σが10cm以下の場合において、当該初期値が国土交通省国土地理院より発行されている「公共測量作業規定の準則」に従って測量され、且つ地殻変動補正された絶対座標位置であれば、下記表1に示すように、正確度に対応する品質保証指標として3点が設定され、当該初期値がPPP-RTK等のGNSS干渉測位によって得られた絶対座標位置であれば、2点が設定され、当該初期値がGNSS単独測位によって得られた絶対座標位置であれば、1点が設定される。
すなわち、本実施の形態における品質保証指標は、例えば、下記表1に示されるように設定される。
なお、時間が経過するほど地物特徴ベクトルを導き出すために用いられる形状特徴ベクトルの計測数が増えてノイズが含まれる可能性が高くなるため、正確度に対応する品質保証指標は低く設定されてもよい。但し、形状特徴ベクトルの計測数が増加しても地物特徴ベクトルが表す地物の中心位置は徐々にしか変化しないため、この場合、時間経過に起因する品質保証指標の低下代は小さく設定される。
地物特徴ベクトルから導き出せる地物の用途は、当該地物特徴ベクトルの品質保証指標に応じて変更されてもよく、例えば、品質保証指標が3点である地物特徴ベクトルから導き出せる地物は自動運転に用いてもよく、品質保証指標が2点以下である地物特徴ベクトルから導き出せる地物は自動運転に用いずにADASにのみ用いるように規定してもよい。
また、各車両200の位置は、各車両200の自己位置推定部202がGNSS単独測位やGNSS干渉測位を使用してリアルタイムに取得するが、上述したように、各車両200の衛星測位受信機信号を地物データ生成装置300に送信し、地物データ生成装置300において衛星測位受信機信号を処理して車両200の絶対座標位置を取得してもよい。この場合、衛星測位受信機信号を後処理することになり、位置の取得に用いる信号を選別することができ、例えば、マルチパスを起こしている衛星からの信号を除去した上で、車両200の位置を取得することができる。一方、各信号がマルチパスを起こしているか否かは他の信号との比較によって判別可能であるため、車両200の位置をリアルタイムで取得する場合は、マルチパスを起こしている衛星からの信号を簡単には除去することができない。そこで、三次元高精度地図を利用したレイトレーシング手法によってマルチパスを起こしている衛星を推定し、当該衛星からの信号を取り除く方式が存在するが、計算量が大きくメモリも多く使用するため、地物データベース316の作成や更新では通常、オフラインで信号の比較やレイトレーシングを実施してもよい。その結果、地物データ生成装置300において衛星測位受信機信号を処理する場合、車両200において位置をリアルタイムで取得する場合よりも正確な車両200の位置を取得することができるため、品質保証指標を高く設定してもよい。
また、地物特徴ベクトルに対応する地物が道路である場合、地物特徴ベクトルから得られた道路に仮想の車両を走行させ、当該車両に生じる姿勢(ロール角、ピッチ角やヨー角)の時間変位、特に、姿勢変化の速度や加速度が、通常走行を行う車両に生じる標準値の範囲を逸脱するか否かに応じて地物特徴ベクトルの品質保証指標を設定してもよい。ここでは、姿勢変化の速度や加速度が標準値の範囲を逸脱する場合、地物(道路)の形状が不自然であるとして、品質保証指標を低い値に設定する。若しくは、道路に沿って林立する各道路標識の位置から算出される道路中心(レーン中心)と、地物特徴ベクトルから得られた道路に仮想の車両を走行させたときの走行軌跡との一致度に応じて地物特徴ベクトルの品質保証指標を設定してもよい。ここでは、算出される道路中心と走行軌跡の一致度が低いほど、地物(道路)の形状が不自然であるとして、品質保証指標を低い値に設定する。
また、地物特徴ベクトルに対応する地物が線状地物の場合、地物特徴ベクトルから既に得られた、例えば、スプライン曲線からなる地物の線型形状(図15のy=f(x))と新規の計測データ(新たに計測された当該線型形状の地物を構成する位置データ)(図15の(xi、yi))との差分(図15のσi)のL1ノルムの平均値やL2ノルムの平均値を誤差の定量的数値とし、この差分が小さいほど品質保証指標を高い値に設定する。その際の差分は、例えば、上記表1の横軸を参照する。
さらに、各車両200のカメラ209によって撮像された道路標識の文字や模様(パターン)が同じであり続ける場合、当該道路標識に対応する地物特徴ベクトルの品質保証指標を高い値に設定し、道路標識の文字や模様が変化した場合、変化以降の地物特徴ベクトルの品質保証指標を初期設定値へリセットしてもよい。特に、道路標識の文字や模様が変化した場合、位置データ再測定要求部312が、各車両200のレーザ・スキャナ部201のスキャナ制御部205に対して、文字や模様が変化した道路標識の再スキャンを実行するように求めてもよい。
以上説明した方法によって設定された各地物に対応する地物特徴ベクトルの品質保証指標を地域毎の品質表にまとめてもよく、この品質表を用い、地物データ生成装置300が、該当する地域において、どの地物特徴ベクトルを用いて地物の更新や生成をすべきかをユーザに提案してもよい。
その後、品質保証指標が生成された地物特徴ベクトルは地物データベース316へ格納され、地物データベース316が更新される。図13は、地物データベース316の構成を説明するための図である。地物データベース316は、オブジェクト指向データベースであり、各地物特徴ベクトルをオブジェクトとして格納する。例えば、「一般道」と「高速道路」の地物特徴ベクトルは「道路」のクラスに分類され、各地物特徴ベクトルのベクトル要素は特徴値(アトリビュート)として管理される。地物データ生成装置300は、更新された地物データベース316を三次元高精度地図更新装置400へ送信し、三次元高精度地図更新装置400は、品質保証指標と参照して地物データベース316から必要な地物特徴ベクトルを抽出して三次元高精度地図の地物の更新又は生成を行う。
図14は、本実施の形態における地物データの生成方法を示すフローチャートである。
図14において、まず、車両200のレーザ・スキャナ部201がレーザ光207による周辺の走査(スキャン)を実行し(ステップS1401)、車両200の周辺に存在する対象地物のエッジパターンを抽出する(ステップS1402)。
次いで、自己位置推定部202がエッジパターンの各位置データへ絶対座標位置を付与する(ステップS1403)。なお、車両200における処理の負担を軽減することを目的とし、自己位置推定部202によって絶対座標位置を付与(高精度化)することなくエッジパターンを地物データ生成装置300へ送信し、地物記述データ生成部302がエッジパターンの各位置データへ絶対座標位置を付与してもよい。
その後、データ送受信部203が絶対座標位置が付与されたエッジパターンを地物データ生成装置300へ送信する(ステップS1404)。このとき、後述のS1412に代わり、地殻変動補正部310が、エッジパターンに含まれる今期の絶対座標位置が付与された位置データを元期の位置データへ地殻変動補正してもよい。
なお、ステップS1401乃至S1404は1台の車両200によって繰り返して実行されてもよく、若しくは、複数台の車両200によって実行されてもよい。その結果、地物データ生成装置300には複数の対象地物のエッジパターンが送信される。
次いで、地物記述データ生成部302が対象地物の地物記述データを生成し(ステップS1405)、地物特徴データ生成部303が既存地物記述データと新規地物記述データとのマッチングを行い(ステップS1406)、マッチングの結果に基づいて、形状特徴ベクトルを形状特徴ベクトルデータベース314へ格納する(ステップS1407)。
その後、異常測定値検出部304が形状特徴ベクトルデータベース314へ格納された形状特徴ベクトルから異常値を除去し(ステップS1408)、形状特徴ベクトルデータベース生成部306が複数の更新用形状特徴ベクトルの統計処理を通じて既存地物記述データに対応する形状特徴ベクトルを更新する(ステップS1409)。
次いで、地物特徴ベクトルデータベース生成部309が、更新された形状特徴ベクトルに基づいて地物特徴ベクトルを生成し(ステップS1410)、地物特徴ベクトルデータベース315へ格納する(ステップS1411)。その後、地殻変動補正部310が、格納された地物特徴ベクトルに含まれる今期の位置データを元期の位置データへ地殻変動補正する(ステップS1412)。なお、ステップS1403の直後に地殻変動補正が行われている場合は、ステップS1412をスキップする。
次いで、品質保証指標算出部311が各地物特徴ベクトルの品質保証指標を生成し(ステップS1413)、各地物特徴ベクトルが地物データベース316へ格納され(ステップS1414)、地物データベース316が更新されて本処理が終了される。
本実施の形態によれば、レーザ光207のスキャンによって得られた車両200の周辺の多数の位置データからエッジパターンが抽出され、このエッジパターンの位置データに対する統計処理等を通じ、地物データとして三次元高精度地図の地物の更新又は生成に用いられる地物特徴ベクトルが生成される。すなわち、車両200の周辺の多数の位置データからそのまま地物特徴ベクトルを生成する場合に比して、手間と時間を大幅に減少させることができるため、地物特徴ベクトルを繰り返して生成することが可能である。これにより、地物データベース316の更新を繰り返して実行することができる。その結果、地物データベース316の誤りが修正され、地物データベース316の正確性を担保することができる。また、更新された地物データベース316の地物特徴ベクトルを用いて三次元高精度地図を更新又は生成することにより、三次元高精度地図の地物が最新の状態に保たれるため、三次元高精度地図の正確性を担保することができる。
また、本実施の形態では、地物データベース316の更新に用いられる地物特徴ベクトルが複数の形状特徴ベクトルへの統計処理を通じて生成されるため、地物特徴ベクトルを用いて三次元高精度地図で更新、生成される地物を統計的に妥当なものとすることができる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。