JP2022023774A - バイオフィルムの除去方法及び除去キット - Google Patents

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JP2022023774A
JP2022023774A JP2021055113A JP2021055113A JP2022023774A JP 2022023774 A JP2022023774 A JP 2022023774A JP 2021055113 A JP2021055113 A JP 2021055113A JP 2021055113 A JP2021055113 A JP 2021055113A JP 2022023774 A JP2022023774 A JP 2022023774A
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敬久 宮本
Yoshihisa Miyamoto
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Abstract

【課題】食品及び食品と接触する器具等の表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌の殺菌及び除去に対して効果的な非加熱のバイオフィルムの除去方法及び除去キットを提供する。【解決手段】バイオフィルムの除去方法は、バイオフィルムが形成されている対象にバクテリオファージを接触させる工程1Aと、バクテリオファージを接触させた後の前記対象に次亜塩素酸水を接触させる工程2Aと、又は、バイオフィルムが形成されている対象に次亜塩素酸水を接触させる工程1Bと、次亜塩素酸水を接触させた後の前記対象にバクテリオファージを接触させる工程2Bと、をこの順に含む。前記次亜塩素酸水の温度が40℃以上100℃未満であってもよい。前記次亜塩素酸水が微酸性次亜塩素酸水であってもよい。バイオフィルムの除去キットは、1種以上のバクテリオファージを含む第1の殺菌組成物と、次亜塩素酸水を含む第2の殺菌組成物と、を備える。【選択図】なし

Description

新規性喪失の例外適用申請有り
本発明は、バイオフィルムの除去方法及び除去キットに関する。
加熱は効果的な殺菌方法であり、バイオフィルム中の細菌にも効果があるが、熱に弱い素材や非加熱生鮮食品には利用できない。非加熱的な食中毒細菌制御法としては、従来から、次亜塩素酸ナトリウム、過酢酸やオゾン等を利用した化学的制御法やマイクロバブルや超音波処理等の物理的手法を組み合わせた方法が報告されている。しかしながら、実試料についての殺菌効果、殺菌剤の安全性や費用の点で問題があるため、安価で安全性の高い制御法の開発が求められている。
一方、近年、食中毒細菌の抗生物質耐性菌の増加が世界的な問題となっており、抗生物質に依存しない安全性の高い細菌制御法としてバクテリオファージ(ファージと略す)に注目が集まっている。海外ではこれまでに食中毒細菌特異的なファージが単離され、実際にリステリアやサルモネラ、大腸菌の制御法としてファージを含む製剤が食品添加物としてGRAS(generally recognized as safe、一般的に安全である)認証され、ready-to-eat食品等に使用されている。しかし、我が国ではファージの感染症治療や食品への利用についての研究開発はほとんど行われていない。貿易の自由化の進展から、海外で許可されている食品用ファージ製剤が近い将来、日本でも許可される可能性がある。しかし、ファージ単独処理ではファージ処理後に生残するファージ耐性菌が増殖する点が問題であるが、効果的なファージ耐性菌抑制法はまだ存在しない。さらに食品衛生法が2018年に改正され、全ての食品事業者に向けてHACCPの制度化が施行されようとしており、食の安全確保や食品ロスの軽減に寄与する新規技術開発は重要な課題である。
これまでに発明者は、界面活性剤との併用が微酸性次亜塩素酸水の殺菌効果を増大させることを示している(例えば、非特許文献1等参照)。
バイオフィルム形成阻害及び除去については種々の方法が報告されているが、このうち微酸性次亜塩素酸水単独、ファージ単独での処理は効果的ではない。感染症予防、食品の安全性確保を達成するために、効果的にバイオフィルム形成阻害及び除去できる加熱に頼らない殺菌方法が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、食品及び食品と接触する器具等の表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌の殺菌及び除去に対して効果的な非加熱のバイオフィルムの除去方法及び除去キットを提供する。
発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バクテリオファージ及び次亜塩素酸水を併用することで、食品表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌及び一般細菌を効果的に殺菌及び除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) バイオフィルムが形成されている対象にバクテリオファージを接触させる工程1と、
バクテリオファージを接触させた後の前記対象に次亜塩素酸水を接触させる工程2と、
をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法。
(2) バイオフィルムが形成されている対象に次亜塩素酸水を接触させる工程1Bと、
次亜塩素酸水を接触させた後の前記対象にバクテリオファージを接触させる工程2Bと、をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法。
(3) 前記次亜塩素酸水の温度が40℃以上100℃未満である、(1)又は(2)に記載のバイオフィルムの除去方法。
(4) 前記次亜塩素酸水が微酸性次亜塩素酸水である、(1)~(3)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去方法。
(5) 前記バクテリオファージが、以下の(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含む、(1)~(4)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去方法。
(a)配列番号1で表される塩基配列を含むゲノム;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されている配列を含むゲノム;
(c)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する配列を含むゲノム;
(d)配列番号1で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むゲノム
(6) 前記バクテリオファージが、大腸菌以外の菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを更に含む、(1)~(5)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去方法。
(7) 前記対象が、野菜又は果物である、(1)~(6)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去方法。
(8) 1種以上のバクテリオファージを含む第1の殺菌組成物と、
次亜塩素酸水を含む第2の殺菌組成物と、
を備える、バイオフィルムの除去キット。
(9) 前記次亜塩素酸水が微酸性次亜塩素酸水である、(8)に記載のバイオフィルムの除去キット。
(10) 前記バクテリオファージが、以下の(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含む、(8)又は(9)に記載のバイオフィルムの除去キット。
(a)配列番号1で表される塩基配列を含むゲノム;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されている配列を含むゲノム;
(c)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する配列を含むゲノム;
(d)配列番号1で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むゲノム
(11) 前記バクテリオファージが、大腸菌以外の菌に対して抗菌活性を有するバクテリオファージを更に含む、(8)~(10)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去キット。
(12) バイオフィルムの除去対象が、野菜又は果物である、(8)~(11)のいずれか一つに記載のバイオフィルムの除去キット。
上記態様によれば、食品及び食品と接触する器具等の表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌の殺菌及び除去に対して効果的な非加熱のバイオフィルムの除去方法及び除去キットを提供することができる。
実施例1におけるファージFP43及び微酸性次亜塩素酸水を用いたレタスのバイオフィルムの除去試験の結果を示すグラフである。 実施例2におけるファージPE196及び微酸性次亜塩素酸水を用いたキャベツのバイオフィルムの除去試験の結果を示すグラフである。 実施例3におけるファージSEG5及び微酸性次亜塩素酸水を用いたキャベツのバイオフィルムの除去試験の結果を示すグラフである。 実施例4におけるファージFP43及び微酸性次亜塩素酸水を用いたレタスのバイオフィルムの除去試験の結果を示すグラフである。
<バイオフィルムの除去方法>
一実施形態において、本発明は、以下に示す工程をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法を提供する。
バイオフィルムが形成されている対象にバクテリオファージを接触させる工程1A;
バクテリオファージを接触させた後の前記対象に次亜塩素酸水を接触させる工程2A。
また、別の実施形態において、本発明は、以下に示す工程をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法を提供する。
バイオフィルムが形成されている対象に次亜塩素酸水を接触させる工程1B;
次亜塩素酸水を接触させた後の前記対象にバクテリオファージを接触させる工程2B。
バイオフィルムには、細菌が産生する多糖類、タンパク質、脂質、細胞外DNA等からなる細胞外ポリマー(EPS)が存在し、EPSが細菌の細胞周辺に蓄積することで、細菌が対象の表面から引き剥がされるのを防ぎ、外部環境の変化から細菌を保護する。
本実施形態の除去方法では、バクテリオファージが特定の細菌を溶菌するだけでなく、バクテリオファージが有する酵素によってEPSを分解することで、バイオフィルム内に入り込むことができる。さらに、バクテリオファージに続いて次亜塩素酸水による処理を行なうことで、バクテリオファージにより分解された部分からバイオフィルム内に次亜塩素酸水が浸透し、効果的にバイオフィルム内の細菌を殺菌することができる。
よって、後述する実施例に示すように、バクテリオファージによる処理後に、次亜塩素酸水により処理を行なうことで、バイオフィルムを効果的に除去することができる。
或いは、本実施形態の除去方法では、まず次亜塩素酸水で処理することで、バイオフィルム表面のEPSを分解することができる。さらに、次亜塩素酸水に続いてバクテリオファージによる処理を行なうことで、次亜塩素酸水により分解された部分からバイオフィルム内にバクテリオファージが入り込み、効果的にバイオフィルム内の該バクテリオファージが標的とする特定の細菌を溶菌することができる。
また、バクテリオファージ単独の処理、或いは、次亜塩素酸水による処理を行なった後にバクテリオファージによる処理を行なう場合には、処理後の対象表面にバクテリオファージが残存する。バクテリオファージは人体への影響はないと考えられているものの、対象が食品及び食品と接触する器具等である場合には、残存しないことが望ましい。よって、上述した本実施形態の除去方法のうち、バクテリオファージによる処理を行なった後に次亜塩素酸水による処理を行なう、工程1A及び工程1Bを含む方法が好ましい。工程1A及び工程1Bを含む方法では、バクテリオファージ及び次亜塩素酸水の使用量を適宜調整した上で、バクテリオファージによる処理後に、次亜塩素酸水により処理を行なうことで、バイオフィルムに加えて、処理に用いたバクテリオファージを次亜塩素酸水によって除去することができ、次亜塩素酸水処理後の対象にはバクテリオファージが残存しない状態とすることができる。
さらに、本実施形態の除去方法は、非加熱の殺菌方法であることから、対象が食品である場合に、食品の外観、色、味、食感など変化させずに殺菌することができる。
本実施形態の除去方法において、バイオフィルムが形成されている対象としては、食品及び食品と接触する器具が好ましく例示される。食品としては、例えば、果物、野菜等の農作物;乳製品、卵、肉類;魚介類、及びこれらの加工品等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、加熱処理を施さずに、生食用として多く流通していることから、果物、野菜又はこれらの非加熱加工品(例えば、サラダ類やカットフルーツ等)が好ましい。
食品と接触する器具には、食品の加工調理器具、及び食品を加工調理する装置が包含される。本実施形態の除去方法は、熱に弱い素材からなる食品と接触する器具に好適に用いられる。
次いで、本実施形態の除去方法を構成する各工程について以下に詳細を説明する。なお、工程1B及び工程2Bは、工程1A及び工程2Aの操作の順番を逆に実施しており、工程1Bは工程2Aに、工程2Bは工程1Aに対応している。よって、工程1B及び工程2Bの詳細の説明は割愛する。
[工程1A]
工程1Aでは、バイオフィルムが形成されている対象にバクテリオファージを接触させる。
バクテリオファージは、バイオフィルム内に含まれる細菌に対して抗菌活性を有するものを適宜選択して、用いることができる。
バイオフィルム内に含まれ、バクテリオファージによる殺菌対象となる細菌としては、食品に一般的に付着している菌が挙げられるが、中でも、病原性細菌が好ましい。本明細書において、病原性細菌とは、ヒトや、イヌ、ネコ等のペット等の動物に感染して疾患や病的症状の起源を与える細菌であって、かつ、バクテリオファージの宿主となってそのバクテリオファージによって食菌破壊される細菌を意味する。病原性細菌として具体的には、例えば、病原性大腸菌(pathogenic Escherichia coli)(腸管病原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管集合性大腸菌を含む)、サルモネラ(Salmonela)属菌、リステリア(Listeria)属菌、カンピロバクター(Campylobacter)属菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)等が挙げられるが、これらに限定されない。
腸管出血性大腸菌としては、O26、O91、O111、O157が挙げられ、バクテリオファージによる殺菌対象となる腸管出血性大腸菌としては、O157が好ましい。なお、大腸菌は、菌体の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)により細かく分類されており、O抗原については、現在約180に分類されている。例えば、O157とは、O抗原として157番目に発見されたものを持つという意味である。さらに細かく分類すると、O157でも、毒素(ベロ毒素)を産生して溶血性尿毒症症候群(HUS)等の重篤な症状を起こすものとしては、H抗原がH7(O157:H7)とH-(マイナス)のもの(O157:H-)の2種類が挙げられる。中でも、バクテリオファージによる殺菌対象となる腸管出血性大腸菌としては、O157:H7が好ましい。
大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージとしては、例えば、以下の(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ等が挙げられる。
(a)配列番号1で表される塩基配列を含むゲノム;
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されている配列を含むゲノム;
(c)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する配列を含むゲノム;
(d)配列番号1で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むゲノム。
上記(a)のゲノムにおいて、配列番号1で表される塩基配列からなるゲノムを有するバクテリオファージは、後述する実施例に示すように、発明者がウシの腸サンプルから分離したバクテリオファージFP43(以下、単に「ファージFP43株」と称する場合がある)である。TEM観察及びゲノムDNAのシーケンス結果に基づいて、ファージFP43株は、合計266のORF及び2つのtRNA(Met、Arg)を含み、病原性因子に関連する遺伝子を含まない、169,248bpからなるdsDNAゲノム(配列番号1で表される塩基配列からなるゲノム)を有するMyoviridaeファミリーのメンバーである。ファージFP43株は、15分間の短い潜伏期間と98PFU/細胞の大きなバーストサイズを有し、4℃以上60℃以下の範囲の温度とpH4以上9以下で優れた安定性を示す。また、ファージFP43株は、腸内出血性大腸菌O157:H7及びその他大腸菌群(例えば、大腸菌O91等)に対する抗菌活性を有することが確かめられている。
上記(b)のゲノムについて、配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されていてもよい塩基の数は、1個以上30個以下が好ましく、1個以上20個以下がより好ましく、1個以上10個以下がさらにより好ましく、1個以上5個以下がさらに好ましく、1個以上3個以下がよりさらに好ましく、1個以上2個以下が特に好ましく、1個以上が最も好ましい。
上記(c)のゲノムにおいて、配列番号1で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、95%以上100%未満であることが好ましく、99%以上100%未満であることがより好ましく、99.5%以上100%未満であることがさらにより好ましく、99.9%以上100%未満であることがさらに好ましく、99.98%以上100%未満であることがよりさらに好ましく、99.99%以上100%未満であることが特に好ましく、99.999%以上100%未満であることが最も好ましい。
塩基配列同士の同一性は、公知の各種相同性検索プログラムを用いて求めることができる。本発明における塩基配列同士の同一性は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTにより得られた値を採用できる。本発明における塩基配列同士の同一性は、後述する実施例に示すように市販の遺伝情報処理ソフトウェアGENETYXにより得られた値を採用できる。
上記(d)のゲノムにおいて、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の条件が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3Mの塩化ナトリウム,0.3Mのクエン酸溶液、pH7.0)、0.1質量%のN-ラウロイルサルコシン、0.02質量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、2質量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50質量%のホルムアミドからなるハイブリダイゼーションバッファー中で、55℃以上70℃以下の温度下で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件が挙げられる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%のSDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%のSDS含有0.1×SSC溶液である。
工程1で用いられるバクテリオファージは、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含むことが好ましく、上記(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含むことがより好ましく、配列番号1で表される塩基配列と90%以上100%以下の同一性を有する配列を含むゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含むことがさらに好ましく、配列番号1で表される塩基配列と99%以上100%以下の同一性を有する配列を含むゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含むことがよりさらに好ましく、配列番号1で表される塩基配列と99.999%以上100%以下の同一性を有する配列を含むゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含むことが特に好ましく、配列番号1で表される塩基配列を含むゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、すなわち、ファージFP43株を含むことが最も好ましい。
大腸菌に対する抗菌活性を有するその他のバクテリオファージとしては、例えば、配列番号2で表される塩基配列からなるゲノムを有するT偶数ウイルスPE37株、後述する実施例で用いたPE196株や、その他の公知のT系ファージ(例えば、T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7等)、ΦX-174、λ、ΦX80、Qβ、P1等が挙げられる。
サルモネラ属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージとしては、例えば、配列番号3で表される塩基配列からなるゲノムを有するバクテリオファージPS5株(参考文献1:Hoang MC et al., “Isolation, characterization and application of a polyvalent phage capable of controlling Salmonella and Escherichia coli O157:H7 in different food matrices.”, Food Research International, Vol.131, 108977, 2020, https://doi.org/10.1016/j.foodres.2020.108977.)、後述する実施例で用いたSEG5株等が挙げられる。
カンピロバクター属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージとしては、例えば、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)に対する抗菌活性を有するバクテリオファージCAMP21株(参考文献2:Furuta M et al., “Characterization and Application of Lytic Bacteriophages against Campylobacter jejuni Isolated from Poultry in Japan.”, Biocontrol Science, Vol. 22, No. 4, pp. 213-221, 2017.)等が挙げられる。
黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージとしては、例えば、配列番号4で表される塩基配列からなるゲノムを有するバクテリオファージSA46-CTH2株(参考文献3:Hoang MC et al., “Isolation and application of bacteriophages alone or in combination with nisin against planktonic and biofilm cells of Staphylococcus aureus.”, Applied Microbiology and Biotechnology, Vol. 104, pp. 5145-5158, 2020, https://doi.org/10.1007/s00253-020-10581-4.)等が挙げられる。
バクテリオファージとしては、上述したもののうち特定の細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを1種単独で用いてもよく、異なる細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ2種以上組み合わせて用いてもよい。また、特定の細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージについて、1種(1株)を単独で用いてもよく、2種以上の複数株を組み合わせて用いてもよいが、特定の細菌を確実に殺菌できることから、特定の細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージについて2種以上の複数株を組み合わせて用いることが好ましい。
中でも、より多種類の細菌への抗菌活性を期待できることから、異なる細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
また、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、大腸菌以外の菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、を組み合わせて用いることがより好ましい。また、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、サルモネラ属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、リステリア属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、カンピロバクター属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージからなる群より選ばれる1種以上のバクテリオファージと、を組み合わせて用いることがさらに好ましい。
殺菌対象が野菜又は果物である場合に、これらの対象は、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、及びリステリア菌によって汚染されている可能性が高い。そのため、腸管出血性大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、サルモネラ属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、及びリステリア属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを組み合わせて用いることが好ましい。また、これら特定の細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージは、それぞれ2種以上の複数株のファージを組み合わせて用いることがより好ましい。
対象へのバクテリオファージの接触方法としては、例えば、噴霧、霧吹き、浸漬(ディッピング、ソーキング等)等が挙げられる。中でも、噴霧、又は霧吹きが好ましい。このときバクテリオファージは、例えば、水等に懸濁した状態で用いることができる。
バクテリオファージを水等に懸濁した状態で用いる場合に、バクテリオファージを含む溶液中のバクテリオファージの濃度は、例えば、1.0×10PFU/mL以上1.0×1011PFU/mL以下程度とすることができ、5.0×10PFU/mL以上5.0×1010PFU/mL以下程度とすることができ、1.0×10PFU/mL以上1.0×1010PFU/mL以下程度とすることができる。
複数種類(複数株)のバクテリオファージを組み合わせて用いる場合には、1種類(1株)のバクテリオファージの濃度を上記範囲とすることができる。
バクテリオファージによる処理は、低温で用いることが好ましい。低温とは、細菌が増殖しにくい程度に低い温度を意味し、5℃以上25℃以下であることが好ましく、6℃以上20℃以下であることがより好ましく、7℃以上15℃以下であることがさらに好ましく、10℃程度であることが特に好ましい。処理温度が上記範囲内であることにより、細菌の増殖を抑制しながら、バクテリオファージが増殖し、特定の細菌に対する抗菌活性を高く保つことができるため、効果的にバイオフィルムを分解及び除去することができる。
バクテリオファージによる処理時間は、対象のバイオフィルムに含まれる細菌の量に応じて適宜調整することができる。バクテリオファージの増殖時間を考慮して、例えば、12時間以上60時間以下とすることができ、20時間以上48時間以下とすることができ、24時間程度とすることができる。
[工程2A]
工程2Aでは、バクテリオファージによる処理後の対象に、次亜塩素酸水を接触させる。
本明細書において、次亜塩素酸水とは、殺菌料の一種であり、塩酸又は塩化ナトリウム水溶液を電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液を意味する。日本においては、平成14年6月に食品添加物として指定されており、使用基準及び成分規格が定められている。
次亜塩素酸水には、強酸性次亜塩素酸水(強酸性電解水ともいう)、弱酸性次亜塩素酸水(弱酸性電解水ともいう)、及び微酸性次亜塩素酸水(微酸性電解水ともいう)が存在し、いずれを用いてもよいが、微酸性次亜塩素酸水を用いることが好ましい。
強酸性次亜塩素酸水は、0.2v/w%以下の塩化ナトリウム水溶液を有隔膜電解槽(隔膜で隔てられた陽極及び陰極により構成された槽)内で電解して、陽極側から得られる水溶液である。強酸性次亜塩素酸水における有効塩素含有量は20mg/kg以上60mg/kg以下であり、pHは2.7以下である。
弱酸性次亜塩素酸水は、適切な濃度の塩化ナトリウム水溶液を有隔膜電解槽内で電解して、陽極側から得られる水溶液、又は、陽極から得られる水溶液に陰極から得られる水溶液を加えたものである。弱酸性次亜塩素酸水における有効塩素含有量は10mg/kg以上60mg/kg以下であり、pHは2.7以上5.0以下である。
微酸性次亜塩素酸水は、塩酸及び必要に応じ塩化ナトリウム水溶液を加え適切な濃度に調整した水溶液を無隔膜電解槽(隔膜で隔てられていない陽極及び陰極で構成された槽)内で電解して得られる水溶液である。微酸性次亜塩素酸水における有効塩素含有量は10mg/kg以上80mg/kg以下であり、pHは5.0以上6.5以下である。
工程2で用いられる微酸性次亜塩素酸水における有効塩素含有量は上記範囲内(10mg/kg以上80mg/kg以下)のものであればよく、20mg/kg(質量ppm)以上60mg/kg(質量ppm)以下が好ましく、20mg/kg以上50mg/kg以下がより好ましく、20mg/kg以上40mg/kg以下がさらに好ましい。
工程2で用いられる微酸性次亜塩素酸水のpHは上記範囲内(5.0以上6.5以下)のものであればよく、5.0以上6.3以下が好ましく、5.0以上6.0以下がより好ましく、5.0以上5.5以下がさらに好ましい。
対象への次亜塩素酸水の接触方法としては、例えば、噴霧、霧吹き、浸漬(ディッピング、ソーキング等)等が挙げられる。中でも、浸漬(ディッピング、又はソーキング)が好ましい。
次亜塩素酸水の温度は、対象が熱による変性を受けない温度であればよく、例えば、5℃以上100℃未満とすることができ、10℃以上100℃未満であることが好ましく、20℃以上100℃未満であることがより好ましく、40℃以上100℃未満であることがさらにより好ましく、40℃以上80℃以下であることがさらに好ましく、45℃以上70℃以下であることがよりさらに好ましく、45℃以上60℃以下であることが特に好ましく、50℃程度であることが最も好ましい。次亜塩素酸水の温度が上記範囲内であることにより、次亜塩素酸水をバイオフィルム内に浸透させて、効果的にバイオフィルムを分解及び除去することができる。
また、対象が野菜又は果物であって、次亜塩素酸水の温度が40℃以上100℃未満程度(好ましくは、40℃以上80℃以下、より好ましくは45℃以上70℃以下、特に好ましくは45℃以上60℃以下、最も好ましくは50℃程度)である場合に、野菜又は果物の細胞内に含まれる褐変の原因酵素であるポリフェノールオキシターゼ(空気に触れることで色素成分であるポリフェノールと反応し褐変成分を生成する)を失活させることができ、バイオフィルムの除去に加えて、野菜又は果物の経時的な褐変を効果的に防止する(色止めする)ことができる。すなわち、次亜塩素酸水の温度を上記の範囲内に調製することで、ポリフェノール及びポリフェノールオキシターゼを細胞内に含む野菜又は果物の褐変防止(色止め)を行うことができる。
次亜塩素酸水による処理時間は、対象のバイオフィルムに含まれる細菌の量に応じて適宜調整することができる。また、処理温度が比較的高温(40℃以上100℃未満程度)である場合には、処理時間を比較的短時間とすることが好ましく、1分間以上10分間以下であることがより好ましく、3分間以上7分間以下であることがさらに好ましく、5分間程度であることが特に好ましい。
[その他の工程]
工程1Aの前、工程1A及び工程2Aの間、及び工程2Aの後に、洗浄工程を更に含むことができる。或いは、工程1Bの前、工程1B及び工程2Bの間、及び工程2Bの後に、洗浄工程を更に含むことができる。
洗浄工程では、水等の洗浄液を用いて対象を洗浄する。
洗浄液は、工業量水等の水のみからなってもよく、界面活性剤等の食品及び食品と接触する器具に用いられる公知の洗浄成分をさらに含んでもよい。
例えば、工程1Aの前に、或いは、工程1Bの前、洗浄工程を行うことで、対象に付着しており、容易に除去可能な土、泥、埃等の汚れを除去することができる。
また、例えば、工程1A及び工程2Aの間に洗浄工程を行うことで、工程1Aで用いたバクテリオファージを除去して、続く工程2Aにおける次亜塩素酸水による処理をより効果的に行うことができる。或いは、例えば、工程1B及び工程2Bの間に洗浄工程を行うことで、工程1Bで用いた次亜塩素酸水を除去して、続く工程2Bにおけるバクテリオファージによる処理をより効果的に行うことができる。
また、例えば、工程2Aの後に、洗浄工程を行うことで、対象に残存する次亜塩素酸水を除去することができる。或いは、工程2Bの後に、洗浄工程を行うことで、対象に残存するバクテリオファージを除去することができる。
洗浄時間は、対象の種類や大きさに応じて適宜設定することができる。
洗浄温度は、対象の種類に応じて適宜設定することができ、食品の場合には、例えば、5℃以上25℃以下程度の温度で行うことができる。
<バイオフィルムの除去キット>
一実施形態において、本発明は、以下の2種類の殺菌組成物を備える、バイオフィルムの除去キットを提供する。
1種以上のバクテリオファージを含む第1の殺菌組成物;
次亜塩素酸水を含む第2の殺菌組成物。
本実施形態の除去キットによれば、食品及び食品と接触する器具等の表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌を効果的に殺菌及び除去することができる。
本実施形態の除去キットにおいて、第1の殺菌組成物及び第2の殺菌組成物を使用する順番は特に限定されないが、第1の殺菌組成物及び第2の殺菌組成物はこの順で用いられることが好ましい。これにより、上記「バイオフィルムの除去方法」において説明したように、バクテリオファージ及び次亜塩素酸水の使用量を適宜調整した上で、バクテリオファージによる処理後に、次亜塩素酸水により処理を行なうため、バイオフィルムを効果的に除去することができ、さらに、次亜塩素酸水処理後の対象にはバクテリオファージが残存しない状態とすることができる。本実施形態の除去キットによるバイオフィルムの除去は、非加熱の殺菌方法であることから、対象が食品である場合に、食品の外観、色、味、食感など変化させずに殺菌することができる。
本実施形態の除去キットにおいて、バイオフィルムが形成されている対象としては、上記「バイオフィルムの除去方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、加熱処理を施さずに、生食用として多く流通していることから、果物、野菜又はこれらの非加熱加工品(例えば、サラダ類やカットフルーツ等)が好ましい。
[第1の殺菌組成物]
第1の殺菌組成物に含まれるバクテリオファージとしては、上記「バイオフィルムの除去方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
中でも、より多種類の細菌への抗菌活性を期待できることから、異なる細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
また、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、大腸菌以外の菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、を組み合わせて用いることがより好ましい。また、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージと、サルモネラ属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、リステリア属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、カンピロバクター属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージからなる群より選ばれる1種以上のバクテリオファージと、を組み合わせて用いることがさらに好ましい。
殺菌対象が野菜又は果物である場合に、これらの対象は、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、及びリステリア菌によって汚染されている可能性が高い。そのため、腸管出血性大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、サルモネラ属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージ、及びリステリア属菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを組み合わせて用いることが好ましい。また、これら特定の細菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージは、それぞれ2種以上の複数株のファージを組み合わせて用いることがより好ましい。
第1の殺菌組成物のみでも十分に病原菌の殺菌効果を有するが、殺菌及び抗菌効果を有する食品添加物をさらに含んでいてもよい。抗菌効果を有する食品添加物としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸ブチル、プロピオン酸、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ポリリン酸、ポリリジン、しらこたん白抽出物、エタノール、グリシン、グリセリン脂肪酸エステル、酢酸ナトリウム、チアミンラウリル硫酸塩、カンゾウ油性抽出物、キトサン、モウソウチク抽出物、リゾチーム、ローズマリー抽出物等が挙げられる。上記の食品添加物は、「厚生省告示第370号 食品、添加物等の規格基準」等の国内規制を順守する形で用いればよい。
第1の殺菌組成物を長期的に安定して保存するために、食品に使用可能である化合物を更に含んでいてもよい。このような化合物としては、ナトリウム、カリウム等の塩類を含む緩衝剤;Mg、Mn、Ca等の微量の金属;グリセロール(終濃度0.001~5質量%程度、好ましくは0.1~1%質量%);例えばマルトース、グルコース等の糖類;グリシン、アルギニン、リジン等のアミノ酸;L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、dl-α-トコフェロール、没食子酸プロピル、γ-オリザノール、カンゾウ油性抽出物、d-α-トコフェロール、フェルラ酸、ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物等の酸化防止剤等が挙げられる。
第1の殺菌組成物は、バクテリオファージが培地に懸濁されたものであってもよく、バクテリオファージの懸濁液をそのまま凍結したものであってもよく、バクテリオファージの懸濁液に公知の凍結保護剤を添加して凍結乾燥したものであってもよく、L-乾燥法により乾燥させたものであってもよい。保存安定性に優れることから、バクテリオファージの懸濁液に公知の凍結保護剤を添加して凍結乾燥したもの又はL-乾燥法により乾燥させたものであることが好ましい。
[第2の殺菌組成物]
第2の殺菌組成物に含まれる次亜塩素酸水としては、上記「バイオフィルムの除去方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
中でも、次亜塩素酸水としては、微酸性次亜塩素酸水が好ましい。
[その他の構成]
本実施形態の除去キットは、第1の殺菌組成物又は第2の殺菌組成物を噴霧又は霧吹きするためのスプレー等の噴霧装置を更に含むことができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
1.菌株及び培養条件
大腸菌O157:H7、及び、大腸菌O91:H-は、福岡市衛生環境研究所(日本、福岡)から提供された。各細菌株は、マイクロバンクにて-80℃で保存した。
使用する前に、各菌株をトリプチケースソイ寒天(TSA;Becton、Dickinson and Company、Sparks、MD、USA)プレートに画線し、37℃で一晩インキュベートした後、4℃で維持した。
2.バクテリオファージの調製
バクテリオファージFP43はウシの腸サンプルから分離されたものであり、福岡市衛生環境研究所(福岡、日本)から提供された。TEM観察及びゲノムDNAのシーケンス結果に基づいて、ファージFP43は、合計266のORF及び2つのtRNA(Met、Arg)を含み、病原性因子に関連する遺伝子を含まない、169,248bpからなるdsDNAゲノム(配列番号1で表される塩基配列からなるゲノム)を有するMyoviridaeファミリーのメンバーである。ファージFP43は、15分間の短い潜伏期間と98PFU/細胞の大きなバーストサイズを有し、4℃以上60℃以下の範囲の温度とpH4以上9以下で優れた安定性を示す。また、ファージFP43は、腸内出血性大腸菌O157:H7及びその他の大腸菌(例えば、大腸菌O91等)に対する抗菌活性を有することが確かめられている。
ファージストックは、二重平板法を使用して調製した(Son et al.,2018)。具体的には、ファージ懸濁液(100μL)をその宿主培養物(100μL)と37℃で20分間混合した。次に、混合物を48℃、4mLの溶融寒天に加え、TSAプレートに注ぎ、37℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、5mLのルリアブロス(LB、ベクトン、ディキンソンアンドカンパニー、スパークス、メリーランド州、米国)を上部寒天に加え、穏やかに振とうしながら37℃で6時間インキュベートした。次に、LBブロス及びファージ粒子を含むトップアガーを遠心分離管に収集した。チューブを12,000×g、4℃で10分間遠心分離した。液体の上清を回収し、メンブレンフィルター(孔径0.22μm、メルクミリポア、アイルランド)で濾過した。濾液のファージ力価は、二重平板法を使用して決定され、濾液は、さらなる使用のためにファージストックとして4℃で保存した。
3.ファージFP43及び微酸性次亜塩素酸水を用いたレタスのバイオフィルムの除去試験
2cm角にカットしたレタスの葉を水で洗浄した。次いで、レタスに、上記「1.菌株及び培養条件」で予め培養した大腸菌O157:H7、及び、その他の大腸菌(大腸菌O91:H-)を10CFUずつ接種して、10℃で48時間保存した。次いで、保存後のレタスを水で洗浄し、ファージFP43を含む溶液(1010PFU/mL)を噴霧して10℃で24時間保存した。次いで、ファージFP43による処理後のレタスを、20℃又は50℃の微酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度:22質量ppm(mg/kg)、pH:5.0)に5分間浸漬した。次いで、浸漬後のレタスを水で3回洗浄し、生菌数を測定した。生菌数の測定方法としては、洗浄後のレタスの葉を15mLのPBS中でストマッカー処理(1分間、30秒間休止後更に1分間、合計2分間)して破砕し、破砕液をPBSにて10倍連続希釈した。希釈液0.1mLをTSA及びCHROMagarTM O157(関東化学、日本)に塗抹して、37℃で24時間培養した。培養後に計測したTSA上に形成されたコロニー数から全細菌の生菌数を算出した。CHROMagarTM O157上で大腸菌O157は紫色のコロニーを、大腸菌O157以外の大腸菌(大腸菌O91)は青いコロニーを形成することから、これらのコロニー数を区別して計測し、それぞれの生菌数を算出した。なお、対照として、未処理のもの;Saline Magnesium(SM)緩衝液(0.1M NaCl、0.008M MgSO、及び0.01w/v%gelatin含有0.05M Tris-HCl buffer(pH7.5))で処理した後、水で洗浄したもの;SM緩衝液で処理した後、20℃の微酸性次亜塩素酸水で処理したもの;SM緩衝液で処理した後、50℃の微酸性次亜塩素酸水で処理したもの;ファージFP43で処理した後、水で洗浄したものも準備し、同様に生菌数を算出した。
結果を図1に示す。図1において、「SM」とはSaline Magnesium 緩衝液の略であり、「SAEW」は微酸性次亜塩素酸水を示す。
図1に示すように、ファージFP43及び微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理することで、大腸菌(特に、病原性大腸菌O157:H7)及びレタスに存在する未知の菌の生菌数の減少が確認された。また、ファージFP43及び50℃微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理した場合に、大腸菌を含む全ての菌の生菌数の減少が特に顕著であった。
[実施例2]
1.菌株及び培養条件
腸管出血性大腸菌E.coli O157:H7 No.196株(以下、単に「No.196株」と称する場合がある)は福岡市衛生環境研究所(日本、福岡)から提供された。No.196株は、マイクロバンクにて-80℃で保存した。
使用する前に、No.196株をトリプチケースソイ寒天(TSA;Becton、Dickinson and Company、Sparks、MD、USA)プレートに画線し、37℃で一晩インキュベートした後、4℃で維持した。
2.バクテリオファージの調製
バクテリオファージPE196は牛肉より腸管出血性大腸菌E.coli O157:H7 No.196株を宿主として分離された。実施例1で用いたファージFP43とは異なる宿主域のファージである。ファージストックは、宿主としてNo.196株を用いた以外は、実施例1の「2.バクテリオファージの調製」と同様の方法を用いて調製した。
3.ファージPE196及び微酸性次亜塩素酸水を用いたキャベツのバイオフィルムの除去試験
2cm角にカットしたキャベツの葉を水で洗浄した。次いで、キャベツに、上記で予め培養したNo.196株を10CFU接種して、10℃で48時間保存した。次いで、保存後のキャベツを水で洗浄し、ファージPE196を含む溶液(1010PFU/mL)を噴霧して25℃で2時間保存した。次いで、ファージによる処理後のキャベツを水で2回洗浄後、良く水分を除去し、50℃の微酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度:40質量ppm(mg/kg)、pH5.0)に5分間浸漬した。次いで、浸漬後のキャベツを水で3回洗浄し、生菌数を測定した。生菌数の測定方法としては、洗浄後のキャベツの葉を15mLのPBS中でストマッカー処理(1分間、30秒間休止後更に1分間、合計2分間)して破砕し、破砕液をPBSにて10倍連続希釈した。希釈液0.1mLをTSA及びCHROMagarTM O157(関東化学、日本)に塗抹して、37℃で24時間培養した。培養後に計測したTSA上に形成されたコロニー数から全細菌の生菌数を算出した。CHROMagarTM O157上での紫色のコロニー数から腸管出血性大腸菌数を算出した。なお、対照として、未処理のもの;Saline Magnesium(SM)緩衝液(0.1M NaCl、0.008M MgSO、及び0.01w/v%gelatin含有0.05M Tris-HCl buffer(pH7.5))で処理した後、水で洗浄したもの;SM緩衝液で処理した後、50℃の微酸性次亜塩素酸水で処理したもの;ファージPE196で処理した後、水で洗浄したものも準備し、同様に生菌数を算出した。
結果を図2に示す。図2において、「SM緩衝液」とはSM緩衝液の略であり、「SAEW」は微酸性次亜塩素酸水を示す。
図2に示すように、ファージPE196及び50℃微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理することで、ファージ又は微酸性次亜塩素酸水による単独処理と比較して、病原性大腸菌O157:H7及びキャベツに存在する未知の菌の生菌数の顕著な減少が確認された。
また、ファージPE196及び50℃微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理した2cm角のキャベツ葉1枚あたりのファージの残存数を計測したところ、5.0×10PFU/枚程度のファージの残存が確認された。
[実施例3]
1.菌株及び培養条件
Salmonella Enteritidis NBRC3313(以下、単に「NBRC3313」と称する場合がある)は独立行政法人製品評価技術基盤機構(東京、日本)より購入した。NBRC3313は、マイクロバンクにて-80℃で保存した。
使用する前に、NBRC3313をトリプチケースソイ寒天(TSA;Becton、Dickinson and Company、Sparks、MD、USA)プレートに画線し、37℃で一晩インキュベートした後、4℃で維持した。
2.バクテリオファージの調製
バクテリオファージSEG5は鶏肉よりSalmonella Enteritidis NBRC3313を宿主として分離された。ファージストックは、宿主としてNBRC3313を用いた以外は、実施例1の「2.バクテリオファージの調製」と同様の方法を用いて調製した。
3.ファージSEG5及び微酸性次亜塩素酸水を用いたキャベツのバイオフィルムの除去試験
2cm角にカットしたキャベツの葉を水で洗浄した。次いで、キャベツに、上記で予め培養したNBRC3313を10CFU接種して、10℃で48時間保存した。次いで、保存後のキャベツを水で洗浄し、ファージSEG5を含む溶液(10PFU/mL)を噴霧して25℃で2時間保存した。次いで、ファージによる処理後のキャベツを水で2回洗浄後、良く水分を除去し、50℃の微酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度:40質量ppm(mg/kg)、pH5.0)に5分間浸漬した。次いで、浸漬後のキャベツを水で3回洗浄し、生菌数を測定した。生菌数の測定方法としては、洗浄後のキャベツの葉を15mLのPBS中でストマッカー処理(1分間、30秒間休止後更に1分間、合計2分間)して破砕し、破砕液をPBSにて10倍連続希釈した。希釈液0.1mLをTSA及びDHL(Desoxycholate Hydrogen sulfide lactose)寒天培地(日水製薬、日本)に塗抹して、37℃で24時間培養した。培養後に計測したTSA上に形成されたコロニー数から全細菌の生菌数を算出した。DHL寒天培地上の黒いコロニー数からサルモネラ菌数を算出した。
図3に示すように、ファージSEG5及び50℃微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理することで、ファージ又は微酸性次亜塩素酸水による単独処理と比較して、Salmonella Enteritidis NBRC3313及びキャベツに存在する未知の菌の生菌数の顕著な減少が確認された。
また、ファージSEG5及び50℃微酸性次亜塩素酸水をこの順で用いて処理した2cm角のキャベツ葉1枚あたりのファージの残存数を計測したところ、5.0×10PFU/枚程度のファージの残存が確認された。
[実施例4]
大腸菌株及びバクテリオファージについては、実施例1と同様のものを使用して、微酸性次亜塩素酸水による処理の後に、ファージFP43による処理を行なった。具体的な試験方法は以下に示すとおりである。
1.ファージFP43及び微酸性次亜塩素酸水を用いたレタスのバイオフィルムの除去試験
2cm角にカットしたレタスの葉を水で洗浄した。次いで、レタスに、上記「1.菌株及び培養条件」で予め培養した大腸菌O157:H7、及び、その他の大腸菌(大腸菌O91:H-)を10CFUずつ接種して、10℃で48時間保存した。次いで、保存後のレタスを水で洗浄し、50℃の微酸性次亜塩素酸水(有効塩素濃度:40質量ppm(mg/kg)、pH:5.5)に5分間浸漬した。次いで、浸漬後のレタスを水で3回洗浄し、ファージFP43を含む溶液(1010PFU/mL)を噴霧して10℃で保存した。保存期間中の生菌数を次に示す方法で測定した。生菌数の測定方法としては、レタスの葉を15mLのPBS中でストマッカー処理(1分間、30秒間休止後更に1分間、合計2分間)して破砕し、破砕液をPBSにて10倍連続希釈した。希釈液0.1mLをTSA及びCHROMagarTM O157(関東化学、日本)に塗抹して、37℃で24時間培養した。培養後に計測したTSA上に形成されたコロニー数から全細菌の生菌数を算出した。CHROMagarTM O157上で大腸菌O157は紫色のコロニーを、大腸菌O157以外の大腸菌(大腸菌O91)は青いコロニーを形成することから、これらのコロニー数を区別して計測し、それぞれの生菌数を算出した。なお、対照として、50℃の微酸性次亜塩素酸水の代わりに、水に5分間浸漬したもの;50℃の微酸性次亜塩素酸水でのみ処理したもの(ファージFP43未処理)も準備し、同様に生菌数を算出した。
結果を図4に示す。図4において、「SAEW」は微酸性次亜塩素酸水を示す。
図4に示すように、微酸性次亜塩素酸水で処理後には生菌数が2桁程度減少するが、この後、10℃保存中に増加した。一方、微酸性次亜塩素酸水及びファージFP43をこの順で用いて処理することで、保存中に大腸菌(大腸菌O157及び大腸菌O91:H-)の生菌数の減少が確認された。
以上のことから、微酸性次亜塩素酸水による処理及びバクテリオファージによる処理の順番は限定されず、いずれの順番であっても十分にバイオフィルムを除去し、各種食中毒菌の増殖を抑制できることが明らかとなった。
本実施形態によれば、食品及び食品と接触する器具等の表面に形成されているバイオフィルム中の食中毒細菌の殺菌及び除去に対して効果的な非加熱のバイオフィルムの除去方法及び除去キットを提供することができる。

Claims (12)

  1. バイオフィルムが形成されている対象にバクテリオファージを接触させる工程1Aと、
    バクテリオファージを接触させた後の前記対象に次亜塩素酸水を接触させる工程2Aと、
    をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法。
  2. バイオフィルムが形成されている対象に次亜塩素酸水を接触させる工程1Bと、
    次亜塩素酸水を接触させた後の前記対象にバクテリオファージを接触させる工程2Bと、をこの順に含む、バイオフィルムの除去方法。
  3. 前記次亜塩素酸水の温度が40℃以上100℃未満である、請求項1又は2に記載のバイオフィルムの除去方法。
  4. 前記次亜塩素酸水が微酸性次亜塩素酸水である、請求項1~3のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去方法。
  5. 前記バクテリオファージが、以下の(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去方法。
    (a)配列番号1で表される塩基配列を含むゲノム;
    (b)配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されている配列を含むゲノム;
    (c)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する配列を含むゲノム;
    (d)配列番号1で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むゲノム
  6. 前記バクテリオファージが、大腸菌以外の菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去方法。
  7. 前記対象が、野菜又は果物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去方法。
  8. 1種以上のバクテリオファージを含む第1の殺菌組成物と、
    次亜塩素酸水を含む第2の殺菌組成物と、
    を備える、バイオフィルムの除去キット。
  9. 前記次亜塩素酸水が微酸性次亜塩素酸水である、請求項8に記載のバイオフィルムの除去キット。
  10. 前記バクテリオファージが、以下の(a)~(d)のいずれかのゲノムを有し、且つ、大腸菌に対する抗菌活性を有するバクテリオファージを含む、請求項8又は9に記載のバイオフィルムの除去キット。
    (a)配列番号1で表される塩基配列を含むゲノム;
    (b)配列番号1で表される塩基配列において、1~数個の塩基が欠失、挿入、置換又は付加されている配列を含むゲノム;
    (c)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する配列を含むゲノム;
    (d)配列番号1で表される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むゲノム
  11. 前記バクテリオファージが、大腸菌以外の菌に対して抗菌活性を有するバクテリオファージを更に含む、請求項8~10のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去キット。
  12. バイオフィルムの除去対象が、野菜又は果物である、請求項8~11のいずれか一項に記載のバイオフィルムの除去キット。
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