用語
[0027]別途定義されない限り、本明細書で使用される技術的および科学的用語は、当業者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されるものに類似するまたは等価の方法、デバイス、および材料が、開示された技術の実践において使用され得る。以下の用語は、頻繁に使用される特定の用語の理解を促進するために提供され、本開示の範囲を制限することは意味しない。本明細書で使用される略語は、化学および生物学分野内での慣習的な意味を有する。
[0028]「ナノポア」は、膜内に形成される、または別のやり方で提供される、ポア、チャネル、または通路を指す。膜は、脂質二重層などの有機膜、または高分子材料で形成される膜などの合成膜であり得る。ナノポアは、例えば、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)または電界効果トランジスタ(FET)回路など、検知回路、または検知回路に結合される電極に隣接または近接して配置され得る。いくつかの例では、ナノポアは、0.1ナノメートル(nm)程度から約1000nmの特徴的な幅または直径を有する。いくつかの実装形態において、ナノポアは、タンパク質であり得る。
[0029]「核酸」は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本または二本鎖のいずれかの形態の、その重合体を指す。この用語は、合成、自然発生的、非自然発生的であり、参照核酸と同様の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様の挙動で代謝する、周知のヌクレオチドの類似物または修飾された主鎖の残基もしくは連鎖を含む核酸を包含する。そのような類似物の例は、それだけには限らないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミダイト、メチルホスホン酸塩、キラルメチルホスホン酸塩、2−O−メチルリボヌクレオチド、およびペプチド核酸(PNA)を含む。別途示されない限り、特定の核酸配列はまた、暗示的に、保存的に修飾されたその変異体(例えば、変性コドン置換)および相補的配列、ならびに明示的に示される配列を包含する。具体的には、変性コドン置換は、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換される配列を生成することによって達成され得る(Batzerら,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら,Mol.Cell.Probes8:91−98 (1994))。用語、核酸は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと交換可能に使用され得る。
[0030]用語「ヌクレオチド」は、自然発生リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドモノマーを指すことに加えて、文脈が明確に別途示さない限り、ヌクレオチドが使用されている特定の文脈(例えば、相補的塩基へのハイブリッド形成)に関して機能的に等価である、派生物および類似物を含む、それらの関連した構造変異体を指すことが理解され得る。
[0031]用語「タグ」は、原子もしくは分子であり得る検出可能な部分、または原子もしくは分子の集まりを指す。タグは、光学、電気化学、磁気、または静電(例えば、誘導的、容量的)サインを提供することができ、このサインは、ナノポアの助けを借りて検出され得る。典型的には、ヌクレオチドがタグに取り付けられると、これは、「タグ付きヌクレオチド」と呼ばれる。タグは、リン酸塩部分を介してヌクレオチドに取り付けられ得る。
[0032]用語「鋳型」は、DNA合成のためのDNAヌクレオチドの相補的鎖へ複製される一本鎖核酸分子を示す。場合によっては、鋳型は、mRNAの合成中に複製されるDNAの配列を示し得る。
[0033]用語「プライマ」は、DNA合成の開始点を提供する短い核酸配列を示す。DNAポリメラーゼなどのDNA合成を触媒する酵素は、新たなヌクレオチドをDNA複製用プライマに加え得る。
[0034]「ポリメラーゼ」は、ポリヌクレオチドのテンプレート標的合成を実施する酵素を指す。この用語は、完全長ポリペプチド、およびポリメラーゼ活性を有するドメインの両方を包含する。DNAポリメラーゼは、当業者にはよく知られており、パイロコッカス・フリオサス、テルモコッカス・リトラリス、およびサーモトガ・マリティメ、またはそれらの修飾されたバージョンから単離または派生されるDNAポリメラーゼを含むが、これに限定されない。それらは、DNA依存性ポリメラーゼ、および逆転写酵素などのRNA依存性ポリメラーゼの両方を含む。少なくとも5つのファミリーのDNA依存性DNAポリメラーゼが知られているが、大半はファミリーA、B、およびCに分類される。様々なファミリー間で配列類似性は、ほとんどあるいは全く存在しない。大半のファミリーAポリメラーゼは、ポリメラーゼ、3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性、および5’〜3’エキソヌクレアーゼ活性などの複数の酵素機能を含むことができる単鎖タンパク質である。ファミリーBポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼおよび3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性を有する単一触媒ドメイン、ならびにアクセサリー因子を有する。ファミリーCポリメラーゼは、典型的には、重合および3’〜5’エキソヌクレアーゼ活性を有するマルチサブユニットタンパク質である。大腸菌においては、DNAポリメラーゼI(ファミリーA)、II(ファミリーB)、およびIII(ファミリーC)という3つのタイプのDNAポリメラーゼが発見されている。真核細胞においては、DNAポリメラーゼα、δ、およびεという3つの異なるファミリーBポリメラーゼが核複製に関与し、ポリメラーゼγというファミリーAポリメラーゼが、ミトコンドリアDNA複製に使用される。他のタイプのDNAポリメラーゼとしては、ファージポリメラーゼが挙げられる。同様に、RNAポリメラーゼは、典型的には、真核性RNAポリメラーゼI、II、およびIII、また、バクテリアRNAポリメラーゼ、ならびにファージおよびウイルスポリメラーゼを含む。RNAポリメラーゼは、DNA依存性およびRNA依存性であり得る。
[0035]用語「明期間」は、通常、タグ付けされたヌクレオチドのタグが、AC信号を通して印加される電界によってナノポア内に押し込まれる期間を指す。用語「暗期間」は、通常、タグ付けされたヌクレオチドのタグが、AC信号を通して印加される電界によってナノポア外に押し出される期間を指す。ACサイクルは、明期間および暗期間を含み得る。異なる実施形態では、ナノポアセルを明期間(または暗期間)内に入れるためにナノポアセルに印加される電圧信号の極性は、異なり得る。
[0036]用語「信号値」は、配列決定セルから出力される配列決定信号の値を指す。特定の実施形態によると、配列決定信号は、1つまたは複数の配列決定セルの回路内のある地点から測定および/または出力される電気信号であり、例えば、信号値は、電圧または電流である(またはそれを表す)。信号値は、電圧および/もしくは電流の直接測定の結果を表すことができ、ならびに/または、間接測定を表し得、例えば、信号値は、電圧もしくは電流が指定の値に達するまでにかかる時間の測定された継続時間であってもよい。信号値は、ナノポアの抵抗性と相関する任意の測定可能な量を表し得、そこから、ナノポア(充填されたおよび/または充填されていない)の抵抗性および/またはコンダクタンスが導出され得る。別の例として、信号値は、例えば、ポリメラーゼを有する核酸に追加されているヌクレオチドに取り付けられたフルオロフォアからの光強度に対応し得る。
[0037]浸透圧濃度としても知られる、用語「モル浸透圧濃度」は、溶質濃度の尺度を指す。モル浸透圧濃度は、溶液の単位体積あたりの溶質粒子のオスモルの数を測定する。オスモルは、溶液の浸透圧に寄与する溶質のモルの数の尺度である。モル浸透圧濃度は、溶液の浸透圧の測定、および、溶媒が、異なる浸透圧濃度2つの溶液を分ける半透性膜(浸透性)にわたってどのように拡散するかの決定を可能にする。
[0038]用語「オスモライト」は、溶液内へ溶け出すと、溶液のモル浸透圧濃度を増大させる任意の可溶性化合物を指す。
[0039]特定の実施形態によると、本明細書に開示される技術およびシステムは、脂質二重層膜などの膜内のポアの除去および挿入に関する。ナノポアベースの配列決定チップを用いたDNA配列決定などの応用において、膜二重層を再形成する必要なしにポリメラーゼ−ポア複合体を除去し、交換する能力は、増大した分析物スループットを可能にし得る。しかしながら、主として静浮力または起電力を伴うものなどの標準的なポア除去法は、典型的には、膜の崩壊または破壊を引き起こす。そして、これらの膜の再形成は、いくつかの追加のステップを伴い、複雑性を増大させ、プロセスの効率を減少させる。
[0040]これらの問題に対処するため、本明細書に提供される方法は、膜(例えば、脂質二重層)の形状を、膜内に挿入されたポアがもはや安定せず、自然発生的に排出するところまで、非破壊的に変更するために使用され得る。このような膜の変形は、膜の片側の溶液を、元の溶液のモル浸透圧濃度とは異なるモル浸透圧濃度を有する新規の溶液と交換することによって達成される。ポアが排出された後、溶液の元の浸透圧条件は復元され得、膜の破損を引き起こすことなく膜をその元の形状に戻す。次いで、新規のポアが、除去されたポアと交換するために、膜内に挿入され得る。本方法の体積および濃度スケールが理由で、排出されたポアが、これが除去された同じ膜内に再挿入する可能性は、ほとんどないくらいに小さくなり得る。本明細書に開示されるポア取り換え技術は、一般的には単一分子センサアレイのスループット、具体的にはナノポアベースの配列決定チップのスループットを増大させるために使用され得る。
[0041]例となるナノポアシステム、回路、および配列決定動作が最初に説明され、その後に、DNA配列決定セル内のナノポアを交換するための例となる技術が続く。本発明の実施形態は、コンピュータ可読記憶媒体ならびに/またはプロセッサ、例えば、プロセッサに結合されたメモリに格納されるおよび/もしくはこれによって提供される命令を実行するように構成されるプロセッサ、上に具現化された、プロセス、システム、およびコンピュータプログラム製品など、多数のやり方で実施され得る。
I.ナノポアベースの配列決定チップ
[0042]図1は、ナノポアセル150のアレイ140を備えるナノポアセンサチップ100の一実施形態の上面図である。各ナノポアセル150は、ナノポアセンサチップ100のシリコン基板上に集積化された制御回路を備える。いくつかの実施形態では、側壁136は、アレイ140に含まれ、ナノポアセル150のグループを分離し、その結果、各グループは、特徴づけのための異なるサンプルを受け取ることができる。各ナノポアセルは、核酸を配列決定するために用いられ得る。いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、カバープレート130を含む。いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、コンピュータプロセッサなどの他の回路とインタフェースするための複数のピン110も含む。
[0043]いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、例えばマルチチップモジュール(MCM)またはシステムインパッケージ(SiP)などのように同一のパッケージ内に複数チップを含む。チップは、例えば、メモリ、プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、データコンバータ、高速I/Oインタフェースなどを含み得る。
[0044]いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、本明細書で開示されるプロセスの多様な実施形態を実行する(例えば、自動的に実行する)ための多様な構成要素を含み得るナノチップワークステーション120に結合され(例えば、ドッキングされ)る。これらのプロセスは、例えば、脂質懸濁液もしくは他の膜構造化懸濁液、分析物溶液、および/または他の液体、懸濁液、もしくは固体を送達するためのピペットなどの分析物送達メカニズムを含み得る。ナノチップワークステーション構成要素は、ロボットアーム、1つもしくは複数のコンピュータプロセッサ、および/またはメモリをさらに含み得る。複数のポリヌクレオチドが、ナノポアセル150のアレイ140上で検出され得る。いくつかの実施形態では、各々のナノポアセル150は、個別にアドレス可能である。
II.ナノポア配列決定セル
[0045]ナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150は、多数の異なる方法で実施され得る。例えば、いくつかの実施形態では、異なるサイズおよび/または化学的構造のタグが、配列決定されるために、核酸分子内の異なるヌクレオチドに取り付けられる。いくつかの実施形態では、配列決定されることになる核酸分子の鋳型への相補鎖が、別の仕方で重合体がタグ付けされたヌクレオチドを鋳型とハイブリッド形成することによって、合成され得る。いくつかの実施態様では、核酸分子および取り付けられたタグは、両方ともナノポアを通り移動し、ナノポアを通過するイオン電流が、ヌクレオチドに取り付けられたタグの個々のサイズおよび/または構造によって、ナノポア内に存在するヌクレオチドを示し得る。いくつかの実施態様では、タグだけが、ナノポア内へ移動する。ナノポア内で異なるタグを検出するために、多数の異なる方法も存在し得る。
A.ナノポア配列決定セル構造
[0046]図2は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを特徴づけるために使用され得る、図1のナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150のような、ナノポアセンサチップ内の一例のナノポアセル200の一実施形態を示す。ナノポアセル200は、誘電体層201および204から形成されたウェル205と、ウェル205を覆って形成された脂質二重層214と、脂質二重層214上の、脂質二重層214によってウェル205から分離された試料チャンバー215とを、含み得る。ウェル205は、ある体積の電解質206を収容し得て、試料チャンバー215は、例えば、可溶性タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)などのナノポア、および対象の分析物(例えば、配列決定されることになる核酸分子)を収容するバルク電解質208を保持し得る。
[0047]ナノポアセル200は、ウェル205の底部に作用電極202と、試料チャンバー215内に配置された対電極210とを含み得る。信号源228は、電圧信号を作用電極202と対電極210との間に印加し得る。単一のナノポア(例えば、PNTMC)が、電圧信号による電気穿孔法プロセスによって脂質二重層214内へと挿入され、それにより脂質二重層214内のナノポア216を形成し得る。アレイ内の個々の膜(例えば、脂質二重層214または他の膜構造)は、化学的にも電気的にも互いに接続されていないこともある。それゆえ、アレイ内の各ナノポアセルは、独立した配列決定機械であり、対象の分析物に対して作用し、そうでなければ不透過性の脂質二重層を介してイオン電流を調節するナノポアに関連付けられる、単一のポリマー分子に固有のデータを生成する。
[0048]図2に示すように、ナノポアセル200は、シリコン基板などの基板230上に形成され得る。誘電体層201は、基板230上に形成され得る。誘電体層201を形成するために用いられる誘電体材料は、例えば、ガラス、酸化物、窒化物、その他を含み得る。電気的刺激を制御し、ナノポアセル200から検出されるデータを処理する電気回路222は、基板230上および/または誘電体層201内部に形成され得る。例えば、複数のパタニングされた金属層(例えば、金属1〜金属6)が、誘電体層201内に形成され、複数の能動デバイス(例えば、トランジスタ)が、基板230上に製造され得る。いくつかの実施形態では、信号源228は、電気回路222の一部に含まれる。電気回路222は、例えば、増幅器、積算器、アナログデジタル変換器、ノイズフィルタ、フィードバック制御ロジック、および/または多様な他の構成要素を含み得る。電気回路222は、メモリ226に結合されたプロセッサ224にさらに結合され得て、ここでプロセッサ224は、アレイ内に配列されている重合体分子の配列を決定するために、配列決定データを分析することができる。
[0049]作用電極202は、誘電体層201上に形成され、ウェル205の底部の少なくとも一部を形成し得る。いくつかの実施形態では、作用電極202は、金属電極である。非ファラデー性伝導のために、作用電極202は、腐食および酸化に耐性を示す、例えば、白金、金、チタン窒化物、およびグラファイトなどの金属または他の材料で形成され得る。例えば、作用電極202は、電気めっきを用いた白金電極であってもよい。別の実施例では、作用電極202は、チタン窒化物(TiN)作用電極であってもよい。作用電極202は、多孔質であってもよく、それによりその表面積および結果として生じる作用電極202に付随するキャパシタンスを増大させ得る。ナノポアセルの作用電極は、別のナノポアセルの作用電極から独立していることもあることから、作用電極は、本開示内でセル電極と呼ばれ得る。
[0050]誘電体層204は、誘電体層201上に形成され得る。誘電体層204は、ウェル205を囲む壁を形成する。誘電体層204を形成するために用いられる誘電体材料は、例えば、ガラス、酸化物、シリコン一窒化物(SiN)、ポリイミド、または他の適切な疎水性の絶縁材料を含み得る。誘電体層204の上面は、シラン処理され得る。シラン処理は、誘電体層204の上面の上に疎水性層220を形成し得る。いくつかの実施形態では、撥水性層220は、約1.5ナノメートル(nm)の厚さを有する。
[0051]誘電体層壁204によって形成されるウェル205は、作用電極202の上の電解質206の体積を含む。電解質206の体積は、緩衝性を有し、以下の、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)、のうちの1つまたは複数を含み得る。いくつかの実施形態では、電解質206の体積は、約3マイクロメートル(μm)の厚さを有する。
[0052]図2にも示すように、膜は、誘電体層204の上面に形成され得、ウェル205全体に及ぶ。いくつかの実施形態では、膜は、疎水性層220の上面に形成された脂質単一層218を含む。膜がウェル205の開口に達したとき、脂質単一層208は、ウェル205の開口全体に及ぶ脂質二重層214に遷移し得る。脂質二重層は、例えば、ジフィタノイル−ホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジ−O−フィタニル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DoPhPC)、パルミトイル−オレオイル−ホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイル−ホスファチジル−メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、1,2−ジ−O−フィタニル−sn−グリセロール、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−350]、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−550]、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−750]、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−1000]、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000]、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−ラクトシル、GM1ガングリオシド、リゾホスファチジルコリン(LPC)またはその任意の組合せから選択されるリン脂質などの、脂質を含み、またはそれらから構成され得る。例えば、ホスファチジン酸誘導体(例えば、DMPA、DDPA、DSPA)、ホスファチジルコリン誘導体(例えば、DDPC、DLPC、DMPC、DPPC、DSPC、DOPC、POPC、DEPC)、ホスファチジルグリセロール誘導体(例えば、DMPG、DPPG、DSPG、POPG)、ホスファチジルエタノールアミン誘導体(例えば、DMPE、DPPE、DSPE、DOPE)、ホスファチジルセリン誘導体(例えば、DOPS)、PEGリン脂質誘導体(例えば、mPEG−リン脂質、ポリグリセリン−リン脂質、官能化リン脂質、末端活性リン脂質)、ジフィタノイルリン脂質(例えば、DPhPC、DOPhPC、DPhPE、およびDOPhPE)などの、他のリン脂質誘導体もまた使用され得る。いくつかの実施形態では、二重層は、両親媒性ブロック共重合体(例えば、ポリ(ブタジエン)−ブロック−ポリ(エチレンオキシド)、PEGジブロック共重合体、PEGトリブロック共重合体、PPGトリブロック共重合体、およびポロクサマー)、および、非イオン性またはイオン性であり得る他の両親媒性共重合体など、非脂質ベースの材料を使用して形成され得る。いくつかの実施形態では、二重層は、脂質ベースの材料および非脂質ベースの材料の組合せから形成され得る。いくつかの実施形態では、二重層材料は、アルカン(例えば、デカン、トリデカン、ヘキサデカンなど)などの1つもしくは複数の有機溶媒、および/または1つもしくは複数のシリコーンオイル(例えば、AR−20)を含む、溶媒相で送達され得る。
[0053]示したように脂質二重層214には、例えば、単一のPNTMCによって形成された単一のナノポア216が埋め込まれる。上述のように、ナノポア216は、単一のPNTMCを脂質二重層214内に電気穿孔法によって挿入することによって、形成され得る。ナノポア216は、対象の分析物および/または小さなイオン(例えば、Na+、K+、Ca2+、Cl−)の少なくとも一部分を脂質二重層214の両側間を通過させるのに十分に大きくてもよい。
[0054]試料チャンバー215は、脂質二重層214を覆っており、特徴づける対象の分析物の溶液を保持し得る。溶液は、バルク電解質208を含み、最適なイオン濃度への緩衝性を有し、ナノポア216を開口状態に維持するために最適なpHに維持された水性溶液であり得る。ナノポア216は、脂質二重層214を横切り、バルク電解質208から作用電極202へのイオン流のための唯一の経路を提供する。ナノポア(例えば、PNTMC)および対象の分析物に加えて、バルク電解質208は、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)、のうちの1つまたは複数をさらに含み得る。
[0055]対電極(CE)210は、電気化学的電位センサであり得る。いくつかの実施形態では、対電極210は、複数ナノポアセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称される。いくつかの場合では、共通の電位および共通電極は、全てのナノポアセルに対して、または少なくとも個々のグループ内の全てのナノポアセルに対して共通であり得る。共通電極は、共通の電位を、ナノポア216と接触するバルク電解質208に印加するように構成可能である。対電極210および作用電極202は、脂質二重層214を横断する電気的刺激(例えば、電圧バイアス)を供給するための信号源228に結合され、脂質二重層214の電気的特性(例えば、抵抗、電気容量、およびイオン電流)を検知のために用いられ得る。いくつかの実施形態では、ナノポアセル200は、参照電極212も含み得る。
[0056]いくつかの実施形態では、多様なチェックが、較正の一部としてナノポアセルの作成中に実施される。ナノポアセルが作成された後、さらなる較正ステップが、例えば、所望されるように(例えば、セル中に1ナノポア)実行しているナノポアセルを識別するために、実行されてもよい。そのような較正チェックは、物理的チェック、電圧較正、開放流路較正、および単一のナノポアを有するセルの識別を含み得る。
B.ナノポア配列決定セルの信号検出
[0057]ナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150などのナノポアセンサチップ内のナノポアセルは、合成による単分子ナノポアベースの配列決定(ナノ−SBS)技術を用いる並行配列決定を可能にし得る。
[0058]図3は、ナノ−SBS技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するナノポアセル300の一実施形態を示す。ナノ−SBS技術では、配列決定されることになる鋳型332(例えば、ヌクレオチド酸分子または別の対象の分析物)およびプライマは、ナノポアセル300の試料チャンバー内のバルク電解質308内に導入され得る。例として、鋳型332は、円形状または直線状であり得る。核酸プライマは、4つの別の仕方で重合体がタグ付けされたヌクレオチド338が付加され得る、鋳型332の一部にハイブリッド形成され得る。
[0059]いくつかの実施形態では、酵素(例えば、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ334)が、鋳型332への相補鎖を合成するのに用いるナノポア316に関連付けられる。例えば、ポリメラーゼ334は、ナノポア316に共有結合していてもよい。ポリメラーゼ334は、ヌクレオチド338のプライマ上への、一本鎖核酸分子を鋳型として用いる取り込みを触媒する。ヌクレオチド338は、4つの異なるタイプA、T、GまたはCのうちの1つであるヌクレオチドを伴うタグ種(「タグ」)を含み得る。タグ付けされたヌクレオチドが、ポリメラーゼ334と正しく複合体を形成するとき、タグは、電気的な力、例えば、脂質二重層314および/またはナノポア316を横断して印加される電圧により生成される電界の存在下で生成される力によってナノポア内に引き込まれ(例えば、装填され)得る。タグの尾部は、ナノポア316の筒内に位置決めされ得る。ナノポア316の筒内に保たれるタグは、タグの別個の化学的な構造および/またはサイズにより、固有のイオン遮断信号340を生成し、それにより、タグが取り付けられた付加された塩基を、電子的に同定する。
[0060]本明細書で用いられるとき、「装填された」または「充填された」タグは、認識可能な長さの時間、例えば、0.1ミリ秒(ms)から10000msの間、ナノポア内に位置決めされる、および/または、ナノポア内または近くに留まるタグである。いくつかの場合では、タグは、ヌクレオチドから放出される前に、ナノポア内に装填される。いくつかの例では、装填されたタグが、ヌクレオチド組み込み事象の際に放出された後にナノポアを通過する(および/またはナノポアにより検出される)確率が適度に高く、例えば90%から99%である。
[0061]いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ334がナノポア316に接続される前に、ナノポア316のコンダクタンスは、例えば約300ピコジーメンス(300pS)のように高い。タグがナノポア内に装填されるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、信号340)は、タグの別個の化学構造および/またはサイズにより生成される。例えば、ナノポアのコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pSまたは120pSであり、それぞれは、タグ付けされたヌクレオチドの4つのタイプのうちの1つに対応する。ポリメラーゼは、次に異性化およびリン酸基転移反応を経て、ヌクレオチドを成長している核酸分子内に組み込み、タグ分子を放出する。
[0062]いくつかの場合では、タグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子(鋳型)の目下の位置(相補的塩基)と一致し得ない。核酸分子と塩基対合されていないタグ付けされたヌクレオチドも、ナノポアを通過し得る。これらの対合されていないヌクレオチドは、典型的には、正しく対合されたヌクレオチドがポリメラーゼと結合したままである時間スケールより短い時間スケール内で、ポリメラーゼによって拒絶される。対合されていないヌクレオチドに結合されたタグは、ナノポアを迅速に通過し、短期間(例えば、10ms未満)の間検出され得て、一方、対合したヌクレオチドに結合されたタグは、ナノポア内に装填され、長期間(例えば、少なくとも10ms)の間検出され得る。それゆえ、対合されていないヌクレオチドは、ヌクレオチドがナノポア内で検出される時間に少なくとも部分的に基づいて、下流のプロセッサによって識別され得る。
[0063]装填された(充填された)タグを含むナノポアのコンダクタンス(または等価的に抵抗)が、単一の値(例えば、ナノポアを通過する電圧または電流)を介して測定され得て、タグ種の識別、それによる目下の位置にあるヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、直流(DC)信号が、ナノポアセルに印加される(例えば、タグがナノポアを通って移動する方向が反転しないように)。しかし、直流を用いた長期間のナノポアセンサの運転は、電極の組成を変化させ得て、ナノポア全体のイオン濃度を不平衡にさせ、ナノポアセルの寿命に影響し得る他の望ましくない効果を有し得る。交流(AC)波形を印加することは、電界移動を低減し、これらの望ましくない効果を回避し、下記のある一定の利点を有し得る。タグ付けされたヌクレオチドを利用する本明細書で説明される核酸配列決定方法は、印加されるAC電圧に完全に共存可能であり、それゆえAC波形が、これらの利点を達成するために用いられ得る。
[0064]AC検出サイクルの間に電極を再充電する能力は、犠牲電極、電流通過反応で分子特性を変化させる電極(例えば、銀を含む電極)、または電流通過反応で分子特性を変化させる電極が使用されるとき、有益であり得る。電極は、直流信号が使用されるとき、検出サイクル中に消耗し得る。再充電は、電極が小さいとき(例えば、平方ミリメートル当たり少なくとも500の電極を有する電極アレイに供給するために十分に小さいとき)問題になり得る、電極が完全に枯渇するなどの消耗限界に到達することを防止し得る。電極寿命は、場合によっては、電極幅と共に進み、少なくとも部分的に、それに依存する。
[0065]ナノポアを通過するイオン電流を測定する好適な状態は、当技術分野で知られており、例が本明細書で提供される。測定は、膜および細孔を横断して印加される電圧により実行され得る。いくつかの実施形態では、電圧は、−400mV〜+400mVの範囲にある。用いられる電圧は、−400mV、−300mV、−200mV、−150mV、−100mV、−50mV、−20mV、および0mVから選択される下限と、+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mV、および+400mVから別々に選択される上限とを有する範囲にあることが好ましい。用いられる電圧は、100mV〜240mVの範囲にあることがさらに好ましく、160mV〜240mVの範囲にあることが最も好ましい。増大された印加電位を用いたナノポアによって異なるヌクレオチド間の識別能力を増大させることが可能である。AC波形およびタグ付けされたヌクレオチドを用いた核酸の配列決定は、その全体が引用することにより本明細書に組み込まれる、2013年11月6日に提出された「Nucleic Acid Sequencing Using Tags(タグを用いた核酸配列決定)」という名称の米国特許公開第US2014/0134616で説明されている。米国2014/0134616で説明されたタグ付けされたヌクレオチドに加えて、配列決定は、例えば、5つの一般的な核酸塩基、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、およびチミンの(S)−グリセロール・ヌクレオシド・三リン酸塩(gNTPs)などの糖または非環式の部分を欠く、ヌクレオチド類似物を用いて実行され得る(Horhotaら、Organic Letters、8:5345−5347[2006])。
C.ナノポア配列決定セルの電気回路
[0066]図4は、ナノポアセル400などのナノポアセル内の電気回路400(図2の電気回路222の一部分を含み得る)の一実施形態を示す。上述のように、いくつかの実施形態では、電気回路400は、ナノポアセンサチップ内の複数のナノポアセルまたは全てのナノポアセル間で共有され得、それゆえ、共通電極とも称され得る対電極410を含む。共通電極は、電圧源VLIQ420に接続することによって、共通の電位を、ナノポアセル内の脂質二重層(例えば、脂質二重層214)と接触するバルク電解質(例えば、バルク電解質208)に印加するように構成されることが可能である。いくつかの実施形態では、AC非ファラデー性モードが、電圧VLIQをAC信号(例えば、方形波)で変調するために利用され、それをナノポアセル内で脂質二重層に接触するバルク電解質に印加する。いくつかの実施形態では、VLIQは、±200〜250mVの大きさおよび例えば25〜400Hzの周波数を有する方形波である。対電極410と脂質二重層(例えば、脂質二重層214)との間のバルク電解質は、例えば100μF以上などの大きなコンデンサ(図示せず)によってモデル化され得る。
[0067]図4は、作用電極402(例えば、作用電極202)および脂質二重層(例えば、脂質二重層214)の電気特性を表す電気モデル422も示す。電気モデル422は、脂質二重層に関連付けられたキャパシタンスをモデル化するコンデンサ426(CBilayer)と、ナノポア内の個々のタグの存在に基づいて変化し得る、ナノポアに関連付けられた可変抵抗をモデル化する抵抗器428(RPORE)とを含む。電気モデル422は、2重層キャパシタンス(CDouble Layer)を有し、作用電極402およびウェル205の電気特性を表すコンデンサ424も含む。作用電極402は、他のナノポアセル内の作用電極から独立した別個の電位を印加するように構成され得る。
[0068]パスデバイス406は、脂質二重層および作用電極を電気回路400から接続または切断するために使用され得るスイッチである。パスデバイス406は、電圧刺激がナノポアセル内の脂質二重層を横断して印加されることを有効化または無効化するために、制御線407によって制御され得る。脂質が、脂質二重層を形成するために堆積される前では、2つの電極間のインピーダンスは、セルのウェルが封止されていないため、非常に低く、それゆえパスデバイス406は、短絡状態を回避するために開路に維持され得る。パスデバイス406は、脂質溶媒がナノポアセルに堆積されてナノポアセルのウェルを封止した後、閉じられ得る。
[0069]回路400は、オンチップ積分コンデンサ408(ncap)をさらに含み得る。積分コンデンサ408は、リセット信号403を使用しスイッチ401を閉じ、その結果、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に接続されることによって、事前充電され得る。いくつかの実施形態では、電圧源VPRE405は、例えば、900mVの大きさの固定の参照電圧を提供する。スイッチ401が閉じられているとき、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405の参照電圧レベルまで事前充電され得る。
[0070]積分コンデンサ408が事前充電された後、リセット信号403が使用されスイッチ401が開路され、その結果、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405から切断される。この時点では、電圧源VLIQのレベルにより、対電極410の電位は、作用電極402(および積分コンデンサ408)の電位より高いレベルにあるか、その反対でもあり得る。例えば、電圧源VLIQからの方形波の正位相の間(例えば、AC電圧源信号サイクルの明または暗期間)、対電極410の電位は、作用電極402の電位より高いレベルにある。電圧源VLIQからの方形波の負位相の間(例えば、AC電圧源信号サイクルの暗または明期間)、対電極410の電位は、作用電極402の電位より低いレベルにある。したがって、いくつかの実施形態では、積分コンデンサ408は、対電極410と作用電極402との間の電位差により、明期間の間に電圧源VPRE405の事前充電された電圧レベルからさらに高いレベルまで充電され、暗期間中により低いレベルに放電され得る。他の実施形態では、充電および放電は、それぞれ暗期間および明期間に発生する。
[0071]積分コンデンサ408は、1kHz、5kHz、10kHz、100kHz、またはそれを超え得る、アナログデジタル変換器(ADC)435のサンプリング速度による固定された期間に、充電または放電され得る。例えば、1kHzのサンプリング速度で、積分コンデンサ408は、約1msの期間中、充電/放電し、次に、電圧レベルがサンプリングされ、積分期間の終わりにADC435によって変換され得る。個々の電圧レベルは、ナノポア内の個々のタグ種に対応し、それゆえ、鋳型上の目下の位置でのヌクレオチドに対応し得る。
[0072]ADC435によるサンプリングされた後、積分コンデンサ408は、リセット信号403を使用しスイッチ401を閉じ、その結果、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に再接続されることによって、再び事前充電され得る。積分コンデンサ408を事前充電するステップと、積分コンデンサ408が充電または放電する一定の期間待機するステップと、積分コンデンサの電圧レベルをADC435によってサンプリングおよび変換するステップとが、配列決定プロセスの間中サイクルで繰り返され得る。
[0073]デジタルプロセッサ430は、例えば、正規化、データバッファリング、データフィルタリング、データ圧縮、データ削減、イベント抽出、またはナノポアセルアレイからのADC出力データの多様なデータフレームへのアセンブリングなどのために、ADC出力データを処理し得る。いくつかの実施形態では、デジタルプロセッサ430は、塩基判定などのさらに下流の処理を実行する。デジタルプロセッサ430は、ハードウェア(例えば、グラフィック処理ユニット(GPU)、FPGA、ASICなどの内部の)またはハードウェアとソフトウェアとの組合せとして実装され得る。
[0074]したがって、ナノポアを横断して印加される電圧信号は、ナノポアの個々の状態を検出するために用いられ得る。ナノポアの可能な状態の1つは、タグが取り付けられたポリホスフェートがナノポアの筒に存在しない場合、本明細書ではナノポアの非充填状態とも称される、開放チャネル状態である。ナノポアの別の4つの可能な状態は、タグが取り付けられたポリホスフェートヌクレオチドの4つの異なるタイプ(A、T、GまたはC)のうちの1つがナノポアの筒内に保持されるときの状態に各々対応する。ナノポアのさらに別の可能な状態は、脂質二重層が断裂するときである。
[0075]積分コンデンサ408での電圧レベルが、固定された期間後に測定されるとき、ナノポアの異なる状態は、異なる電圧レベルの測定値をもたらし得る。これは、積分コンデンサ408(すなわち、時間に対する積分コンデンサ408の電圧のグラフの傾きの程度)での電圧減衰率(放電による減少または充電による増大)が、ナノポアの抵抗(例えば、抵抗器RPORE428の抵抗)に依存するからである。より詳しくは、異なる状態のナノポアに関連付けられた抵抗が、分子(タグ)の別個の化学構造に起因して異なるので、異なる対応する電圧減衰率は、観察され得るようになり、ナノポアの異なる状態を識別するために用いられ得る。電圧減衰曲線は、RC時定数τ=RCを有する指数関数曲線であり得て、ここで、Rは、ナノポアに関連付けられた抵抗(すなわち、RPORE抵抗器428)であり、Cは、Rに並列の膜に関連付けられたキャパシタンス(すなわち、CBilayerコンデンサ426)である。ナノポアセルの時定数は、例えば、約200〜500msであり得る。減衰曲線は、二重層の詳細な実施により、指数関数曲線に正確に一致し得ないが、減衰曲線は、指数関数曲線に類似し、単調であり得て、それゆえ、タグの検出を可能にする。
[0076]いくつかの実施形態では、開放チャネル状態にあるナノポアに関連付けられた抵抗は、100MOhm〜20GOhmまでの範囲内にある。いくつかの実施形態では、タグが、ナノポアの筒内部に存在する状態にあるナノポアに関連付けられた抵抗は、200MOhm〜40GOhmまでの範囲内にあり得る。他の実施形態では、積分コンデンサ408は、ADC435へ導く電圧が、電気モデル422内の電圧減衰によりやはり変化することになるため、省略される。
[0077]積分コンデンサ408での電圧の減衰率は、異なる方法で決定され得る。上で説明したように、電圧減衰率は、一定の時間間隔の間の電圧減衰を測定することによって決定され得る。例えば、積分コンデンサ408での電圧は、最初に時間t1でADC435により測定され、次に、電圧は、時間t2でADC435により再び測定される。時間曲線に対する積分コンデンサ408での電圧の傾きがより急であるとき、電圧差はより大きく、電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、電圧差はより小さい。このように、電圧差は、積分コンデンサ408での電圧の減衰率を、ゆえに、ナノポアセルの状態を決定するための測定基準として用いられ得る。
[0078]他の実施形態では、電圧減衰率は、選択された電圧減衰量のために必要な持続時間を測定することによって決定される。例えば、電圧が第1の電圧レベルV1から第2の電圧レベルV2に降下または増大するのに必要な時間が測定され得る。時間に対する電圧曲線の傾きがより急であるとき、必要な時間はより少なく、時間に対する電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、必要な時間はより大きい。このように、必要な測定時間は、積分コンデンサncap408での電圧の減衰率を、ゆえに、ナノポアセルの状態を決定するための測定基準として用いられ得る。当業者には、例えば、電圧または電流測定などの信号値測定技術を含む、ナノポアの抵抗を測定するために必要とされ得る多様な回路を理解されよう。
[0079]いくつかの実施形態では、電気回路400は、オンチップに、パスデバイス(例えば、パスデバイス406)および追加のコンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))を含まず、それによりナノポアベースの配列決定チップのサイズの削減を支援する。膜(脂質二重層)の薄い性質のため、膜に関連付けられたキャパシタンス(例えば、コンデンサ426(CDilayer))のみで、追加のオンチップのキャパシタンスを必要とすることなく必要なRC時定数を生み出すのに十分とすることができる。それゆえ、コンデンサ426は、積分コンデンサとして使用され得て、電圧信号VPREによって事前充電され、続いて、電圧信号VLIQによって放電または充電され得る。そうでなければ電気回路内にオンチップで作製される追加のコンデンサおよびパスデバイスをなくすことにより、ナノポア配列決定チップ内の単一のナノポアセルのフットプリントを著しく減少させることができ、それにより、(例えば、ナノポア配列決定チップ内の数百万ものセルを有する)ますます多くのセルを含むためにナノポア配列決定チップを拡大することが容易になる。
D.ナノポアセル内でのデータサンプリング
[0080]核酸の配列決定を実行するために、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))またはコンデンサ426(CBilayer)の電圧レベルは、タグ付けされたヌクレオチドが核酸に加えられている間に、ADC(例えば、ADC435)によってサンプリングされ変換され得る。ヌクレオチドのタグは、例えば、VLIQがVPREより低いような印加電圧のとき、対電極および作用電極を介して印加される、ナノポアを横断する電界によって、ナノポアの筒内へと押し入れられ得る。
1.充填
[0081]充填事象は、タグ付けされたヌクレオチドが、鋳型(例えば、核酸断片)に取り付けられ、タグがナノポアの筒の内外に移動するときにあたる。この移動は、充填事象の間に複数回発生し得る。タグが、ナノポアの筒内にあるとき、ナノポアの抵抗は、より高く、より低い電流がナノポアを通り流れ得る。
[0082]配列決定の間、タグは、いくつかのACサイクル状態でナノポア内に存在しないことがあり(開放チャネル状態と呼ぶ)、この場合電流は、ナノポアのより低い抵抗のために、最も高い。タグがナノポアの筒内へ引き込まれるとき、ナノポアは、明モードである。タグがナノポアの筒外へと押し出されるとき、ナノポアは、暗モードである。
2.明および暗期間
[0083]ACサイクルの間、積分コンデンサでの電圧は、ADCによって複数回サンプリングされ得る。例えば、ある実施形態では、AC電圧信号が、システム全体に、例えば、約100Hzで印加され、ADCの取得速度は、セルあたり約2000Hzであり得る。このように、ACサイクル(AC波形のサイクル)毎に取得される約20のデータポイント(電圧測定値)が存在し得る。AC波形の1サイクルに対応するデータポイントは、1セットと呼ばれ得る。ACサイクル毎のデータポイントの1セット内には、例えば、明モード(期間)に対応し得る、VLIQがVPREより低いときキャプチャされるサブセットが存在し得て、このときタグは、ナノポアの筒内へと押し込まれる。別のサブセットは、暗モード(期間)に対応し得て、このときタグは、例えば、VLIQがVPREより高いとき、印加される電界によってナノポアの筒外へと押し出される。
3.測定電圧
[0084]データポイント毎に、スイッチ401が開路のとき、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(CBilayer))における電圧は、例えば、VLIQがVPREより高いとき、VPREからVLIQに増大し、VLIQがVPREより低いとき、VPREからVLIQに減少するように、VLIQによる充電/放電の結果として減衰する挙動で変化していく。最終的な電圧値は、VLIQから作用電極の電荷だけずれる。積分コンデンサでの電圧レベルの変化率は、ナノポアを含み、結果としてナノポア内の分子(例えば、タグ付けされたヌクレオチドのタグ)を含み得る、二重層の抵抗の値によって支配され得る。電圧レベルは、スイッチ401が開路した後の所定時間に測定され得る。
[0085]スイッチ401は、データ収集速度で動作し得る。スイッチ401は、通常、ADCによる測定の直後の2回のデータ取得間の比較的短時間、閉路され得る。スイッチは、複数データポイントがVLIQの各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)の間に収集されることを可能にする。スイッチ401が開路のままのとき、積分コンデンサでの電圧レベルおよび、それゆえ、ADCの出力値は、完全に減衰し、そこに留まる。代わりにスイッチ401が閉路である場合、積分コンデンサは、再び事前充電され(VPREまで)、別の測定のための準備が整う。したがって、スイッチ401は、複数データポイントが、各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)の間に収集されることを可能にする。そのような複数の測定は、固定されたADC(例えば、平均化され得る、より多数の測定による8ビットから14ビット)を用いたより高い分解能を可能にさせ得る。複数の測定は、ナノポア内に充填される分子に関する動態情報をさらに提供し得る。時間の情報により、どれだけの長さで充填が発生するかの決定を可能にさせ得る。これは、核酸鎖に加えられる複数のヌクレオチドが配列決定されつつあるか否かを判定することを支援することにも用いられ得る。
[0086]図5は、ACサイクルの明期間および暗期間中のナノポアセルから取得されたデータポイントの例を示す。図5では、データポイントでの変化は、図解目的用に強調されている。作用電極または積分コンデンサに印加される電圧(VPRE)は、例えば、900mVなどの一定のレベルにある。ナノポアセルの対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、方形波として示されるAC信号であり、このときデューティサイクルは、50%以下、例えば約40%のような任意の好適な値であり得る。
[0087]明期間520の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより低く、その結果、タグは、作用電極および対電極に印加される、異なる電圧レベルに起因する電界によって、ナノポアの筒内に押し込まれ得る(例えば、タグ上の電荷および/またはイオンの流れにより)。スイッチ401が開路のとき、ADCの前のノードでの(例えば、積分コンデンサでの)電圧は、減少していく。電圧データポイントが取得された後(例えば、指定された期間の後)、スイッチ401は、閉路され得て、測定ノードでの電圧は、VPREへと再び戻るように増大していく。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返され得る。このようにして、複数のデータポイントは、明期間の間に取得され得る。
[0088]図5に示すように、VLIQ信号の符号の変化の後の明期間内の第1のデータポイント522(第1のポイントデルタ(FPD)とも呼ばれる)は、後続のデータポイント524よりも低いことがあり得る。これは、ナノポア内にタグが存在しないからであり(開流路)、それゆえ、それは低抵抗および高放電率を有するためであり得る。いくつかの例では、第1のデータポイント522は、図5に示すようなVLIQレベルを超え得る。これは、信号をオンチップコンデンサに結合する二重層のキャパシタンスに起因し得る。データポイント524は、充填事象が発生した、すなわち、タグがナノポアの筒内に押し込まれた後取得され得て、この場合ナノポアの抵抗、およびそれゆえの積分コンデンサの放電速度は、ナノポアの筒内に押し込まれるタグの個々のタイプに依存する。データポイント524は、以下で説明するように、CDouble Layer424で生成される電荷により、測定毎にわずかに減少し得る。
[0089]暗期間530の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより高く、その結果、いずれのタグも、ナノポアの筒外に押し出され得る。スイッチ401が開路のとき、測定ノードでの電圧は、電圧信号510(VLIQ)の電圧レベルがVPREより高いので、増大する。電圧データポイントが取得された後(例えば、指定された期間の後)、スイッチ401は、閉路され得て、測定ノードでの電圧は、VPREへと再び戻るように減少していく。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返され得る。このように、複数のデータポイントは、第1のポイントデルタ532および後続のデータポイント534を含む暗期間の間に取得され得る。上述のように、暗期間の間に、いずれのヌクレオチドタグもナノポアの外に押し出され、それゆえ、任意のヌクレオチドタグに関する最小限度の情報が取得され、さらに正規化に用いられる。
[0090]図5は、明期間540の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより低いにもかかわらず、充填事象が発生しない(開経路)ことも示す。したがって、ナノポアの抵抗は低く、積分コンデンサの放電速度は高い。結果的に、第1のデータポイント542および後続のデータポイント544を含む、取得されたデータポイントは、低電圧レベルを示す。
[0091]明または暗期間の間に測定される電圧は、ナノポアの一定の抵抗(例えば、1つのタグがナノポア内にある間に所与のACサイクルの明モードの間に形成される)の測定毎にほぼ同一であると期待され得るが、このことは、電荷が2重層コンデンサ424(CDouble Layer)で生成する場合であり得ない。この電荷生成は、ナノポアセルの時定数をより長くさせる結果をもたらし得る。結果的に、電圧レベルは移動し、それにより測定値がサイクル内のデータポイント毎に減少するという結果をもたらし得る。このように、サイクル内で、データポイントは、図5に示すように、ある程度データポイントから別のデータポイントへ変化し得る。
[0092]測定に関するさらなる詳細は、例えば、「Nanopore−Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus(電圧刺激を変化させるナノポアベースの配列決定)」という名称の米国特許公開第2016/0178577、「Nanopore−Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus(電圧刺激を変化させるナノポアベースの配列決定)」という名称の米国特許公開第2016/0178554、「Non−Destructive Bilayer Monitoring Using Measurement Of Bilayer Response To Electrical Stimulus(電気的刺激に応答した二重層の測定を用いた非破壊二重層モニタリング)」という名称の米国特許出願第15/085,700、および「Electrical Enhancement Of Bilayer Formation(二重層形成の電気的促進)」という名称の米国特許出願第15/085,713の中で見つけることができ、これらの開示は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により組み込まれる。
4.正規化および塩基分類
[0093]ナノポアセンサチップの有効なナノポアセル毎に、生成モードが、核酸を配列決定するために実行され得る。配列決定中に取得されるADC出力データは、より高い精度を提供するために、正規化され得る。正規化は、サイクル形状、ゲインドリフト、電荷注入オフセット、およびベースラインシフトなどの偏位効果を引き起こし得る。いくつかの実施態様では、充填事象に対応する明期間サイクルの信号値は、単一の信号値がそのサイクルについて獲得されるように平らにされ得るか(例えば、平均)、または、サイクル内減衰(サイクル形状効果のタイプ)を低減するために、測定された信号に対して調節が行われ得る。ゲインドリフトは、信号全体を全体的にスケーリングし、100〜1,000秒程度変化する。例として、ゲインドリフトは、溶液における変化(ポア抵抗)または二重層キャパシタンスにおける変化によってトリガされ得る。ベースラインシフトは、約100msの時間尺度で発生し、作用電極における電圧オフセットに関連する。ベースラインシフトは、明期間から暗期間まで配列決定セルにおける荷電平衡を維持する必要性の結果として、充填からの効果的な整流比における変化によって駆動され得る。
[0094]正規化の後、実施形態は、充填された経路の電圧のクラスタを決定し得て、ここで各クラスタは、異なるタグ種、およびそれゆえの異なるヌクレオチドに対応する。クラスタは、所与のヌクレオチドに対応する所与の電圧の確率を算出するために使用され得る。別の例として、クラスタは、異なるヌクレオチド(塩基)間での差別化のための分離電圧を決定するために用いられ得る。
III.ナノポアを除去および交換すること
[0095]上に論じられるように、ナノポアの各複合体および関連テンプレートは、目的の特定の核酸分子の配列情報を提供するために使用され得る。同じセルアレイを有する追加の異なる分子を配列決定するために、配列決定チップのナノポア複合体は交換され得る。これを達成するための1つの方法は、膜内のナノポアが、チップから除去され得、新規の膜が形成され得、交換用ナノポア複合体が、新規の膜内に挿入され得るように、各セルの膜の破壊を伴う。これらのステップは、配列決定プロセスに複雑性を追加するが、デバイスおよび方法のスループットおよび効率に著しく影響を与える。
[0096]本明細書に説明される代替のプロセスは、配列決定チップ内での脂質二重層膜の非破壊操作を伴う。半透性脂質二重層膜の両側において相対的なモル浸透圧濃度を制御することによって、膜にわたる水の浸透圧流が生み出され得ることが分かっている。この水流、および膜に隣接するリザーバの体積に対する結果として生じる変化が、膜形状を実質的に平面の構造から、例えば、内向きにたわんだ構造へと変化させる。膜の二重層の性質は、膜が内向きにたわんで肥厚化すると失われ得、二重層のこのような損失は、膜内でのタンパク質ポアの位置決めに不安定性をもたらし得る。したがって、膜にわたって浸透性の不均衡をもたらし、膜の形状を変化させることによって、膜内のナノポアは、膜が構造統合性を失うことを引き起こすことなく、自然発生的な排出により膜から除去され得る。続いて浸透性の均衡を復元することによって、膜は、その元の実質的に平面の形状および二重層構成に戻ることができる。そして、この二重層構成は、再びタンパク質ポア安定性の助けになり、交換用ナノポアが、そこに受動的または能動的に挿入され得る。
A.ナノポア交換の例証
[0097]図6Aは、ナノポアベースの配列決定チップのセルのウェル602全体に及ぶ平面の脂質二重層膜601を例証する。初期ナノポア603は、脂質二重層内へ挿入される。二重層は、ウェルを外部リザーバ604から分ける。初期時間t1において、ウェル内の塩/電解質溶液のモル浸透圧濃度[EW]は、外部リザーバのモル浸透圧濃度[ER]と実質的に同一である。他の実施態様では、2つのモル浸透圧濃度は異なり得るが、初期ナノポア603を排出するほどには十分に異なっていない。
[0098]図6Bは、第1の電解質溶液が外部リザーバ内へ流される、後の時間t2におけるセルを例証する。第1の電解質溶液は、初期外部リザーバモル浸透圧濃度[ER]およびウェルモル浸透圧濃度[EW]よりも大きいモル浸透圧濃度[ES1]を有する。第1の電解質溶液の流入が外部リザーバのモル浸透圧濃度を増大させるため、浸透性の不均衡が、脂質二重層膜の両側の溶液間にもたらされる。この不均衡は、ウェルおよびリザーバのオスモライト濃度を平衡化するように水がウェルからリザーバへ膜にわたって拡散する、浸透への駆動力を提供する。
[0099]図6Cは、水の浸透拡散がウェル内の液体体積を減少させた、後の時間t3におけるセルを例証する。体積のこのような変化は、脂質二重層膜601に対する緊張を生み出し、膜は、ウェルに向かって内向きにたわむことによりその形状を変化させる。内向きの動きは、ウェルに及ぶ少なくともいくつかの部分において膜がもはや脂質二重層ではなくなる程度まで、膜肥厚化をもたらし得る。今度はこれが、膜から初期ナノポア603が失われることを引き起こし得、図6Cに示されるようにポアが外部リザーバ内へ排出された状態にある。排出後、初期ナノポアは、より大きい容積の外部リザーバ内へ全体的に拡散し、その結果、初期ナノポアは、もはやセルに近接していない。
[0100]図6Dは、第2の電解質溶液が外部リザーバ内へ流される、後の時間t4におけるセルを例証する。第2の電解質溶液は、複数の交換用ナノポア605を含有し得る。いくつかの実施態様では、交換用ナノポアを含有しないが、膜のたわみを減少させることができる中間溶液が流され得る。
[0101]第2の電解質溶液内の交換用ナノポアの濃度は、初期ナノポアがセルに近接しているよりも、交換用ナノポアがセルに近接している可能性のほうが著しく大きいほどに十分に高くなり得る。示されるように、第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度[ES1]よりも小さいモル浸透圧濃度[ES2]を有する。第2の電解質溶液の流入が外部リザーバのモル浸透圧濃度を減少させるため、別の浸透性の不均衡が、膜の両側の溶液間にもたらされる。この第2の浸透性の不均衡は、ここでは水がウェルおよびリザーバ電解質濃度を平衡化するようにリザーバからウェル内へ膜にわたって反対方向に拡散する、浸透への別の駆動力を提供する。
[0102]図6Eは、水の浸透拡散がウェル内の液体体積を増大させた、後の時間t5におけるセルを例証する。ウェルの体積におけるこのような変化は、膜に対する以前の緊張を和らげ、膜が、ウェルに及ぶその元の平面形状へ復元することを可能にする。この動きは、膜が、ウェル全体に及ぶ全てまたは大半の位置において再び脂質二重層になることをもたらし得、これにより、ナノポアが膜内へ再び挿入されるようになることを許す。
[0103]図6Fは、交換用ナノポアがウェルに及ぶ平面の脂質二重層膜内へ挿入された、後の時間t6におけるセルを例証する。膜内へのナノポアの挿入は、受動的であり得るか、または能動的であり得る。能動的な例では、挿入は、膜にわたる電気穿孔電圧の印加を通じて誘発され得る。
B.ナノポア交換のためのプロセス
[0104]図7は、分子を分析するためにナノポアベースの配列決定チップのセル内の脂質二重層内に挿入されたナノポアを交換するためのプロセス700の一実施形態を例証する。改善された技術は、平面の脂質二重層膜の上の第1の電解質流を応用し、電解質流は、平面の脂質二重層の下(すなわち、セルのウェル内)の電解質溶液のモル浸透圧濃度とは異なるモル浸透圧濃度を有する。第1の電解質流は、初期ナノポアまたはナノポア複合体の膜からの排出を促進する。本技術は、膜の上の第2の電解質流をさらに応用し、電解質流は、膜の下の電解質溶液のモル浸透圧濃度に類似するか、または同一であるモル浸透圧濃度を有する。第2の電解質流もまた、複数の交換用ナノポアを含有し得、第2の電解質溶液の流入が、平面の脂質二重層膜内への交換用ナノポアの挿入を促進し得る。
[0105]開示された技術は、配列決定されるべき分析物のスループットの増大を可能にすることを含め、多くの利点を有する。開示された技術は、水の膜透過流を許すが、イオンまたは他のオスモライトの流入に対する非透過性に限って有する他の半透性膜(例えば、脂質二重層以外)に応用され得るということも理解されたい。例えば、開示された方法およびシステムは、重合体である膜と共に使用され得る。いくつかの実施形態では、膜は、共重合体である。いくつかの実施形態では、膜は、トリブロック共重合体である。開示された技術は、ナノポアベースの配列決定チップの要素ではない膜に応用され得るということも理解されたい。
[0106]いくつかの実施形態では、膜は、ナノポアベースの配列決定チップの要素である。いくつかの実施形態では、図1に示されるようなナノポアベースの配列決定チップ100が、図7のプロセスのために使用される。いくつかの実施形態では、図7のプロセスのために使用されるナノポアベースの配列決定チップは、図2の複数のセル200を含む。
[0107]任意選択のステップ701において、核酸配列決定が行われる。配列決定は、データサンプリング法および上に説明される技術を用いて実施され得る。いくつかの実施形態では、核酸配列決定は、4つのタイプの、タグが取り付けられたポリホスフェートヌクレオチドの充填に対応するナノポア状態を検出するために使用される、図4にモデル化されるような電気システムを用いて実施される。
[0108]ステップ702において、第1の電解質溶液は、セルのウェルの外側のリザーバ(すなわち、第1の電解質リザーバ)へ流される。第1の電解質溶液の流入の前、外部リザーバは、典型的には、ウェルチャンバー(すなわち、第2の電解質リザーバ)内の溶液のモル浸透圧濃度(すなわち、第2の初期モル浸透圧濃度)と同一、または類似するモル浸透圧濃度(すなわち、第1の初期モル浸透圧濃度)を有する。第1の電解質溶液は、第1または第2の電解質リザーバとは異なる、電解質の濃度またはオスモライトを有する。1つの実施形態において、第1の電解質溶液は、流入前の第1の電解質リザーバのモル浸透圧濃度よりも大きいモル浸透圧濃度を有する。代替の実施形態では、第1の電解質溶液は、流入前の第1の電解質リザーバのモル浸透圧濃度よりも小さいモル浸透圧濃度を有するということを理解されたい。いずれの場合においても、第1の電解質溶液の流入は、外部リザーバのモル浸透圧濃度を、第1の初期モル浸透圧濃度から、初期モル浸透圧濃度とは異なる新規のモル浸透圧濃度へ変化させるように作用する。
[0109]第1の電解質リザーバ、第2の電解質リザーバ、および第1の電解質溶液の各々は、独立して、1つまたは複数のオスモライトを有し得る。第1および第2の電解質リザーバ、ならびに第1の電解質溶液のうちの2つ以上は、類似するか、または異なるオスモライトを含み得る。本発明での使用のためのオスモライトとしては、限定するものではないが、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KC1)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)などのイオン性塩;グリセロール、エリスリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マンニシドマンニトール(mannisidomannitol)、グリコシルグリセロール、グルコース、フルクトース、スクロース、トレハロース、およびイソフルオロシド(isofluoroside)などのポリオールおよび糖類;デキストラン、レバン、およびポリエチレングリコールなどの重合体;ならびに、グリシン、アラニン、アルファアラニン、アルギニン、プロリン、タウリン、ベタイン、オクトピン、グルタミン酸、サルコシン、y−アミノ酪酸、およびトリメチルアミンN−オキシド(TMAO)などのいくつかのアミノ酸およびその誘導体が挙げられる(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Fisherらの米国特許出願公開第20110053795号も参照されたい)。1つの実施形態では、溶液は、イオン性塩であるオスモライトを含む。当業者は、本発明での使用のための好適なオスモライトである他の化合物を理解するものとする。別の態様では、本発明は、2つ以上の異なるオスモライトを含む溶液を提供する。
[0110]第1および第2の電解質リザーバの初期モル浸透圧濃度(すなわち、それぞれ第1および第2の初期モル浸透圧濃度)は、例えば、および限定するものではないが、100mM〜1M、例えば、100mM〜400mM、125mM〜500mM、160mM〜625mM、200mM〜800mM、または250mM〜1Mの範囲内にあり得る。第1および第2の電解質リザーバは、200mM〜500mM、例えば、200mM〜350mM、220mM〜380mM、240mM〜420mM、260mM〜460mM、または290mM〜500mMの範囲内の初期モル浸透圧濃度を有し得る。下限に関しては、第1および第2の電解質リザーバは、100mMより大きい、125mMより大きい、160mMより大きい、200mMより大きい、250mMより大きい、400mMより大きい、500mMより大きい、625mMより大きい、または800mMより大きい初期モル浸透圧濃度を有し得る。上限に関しては、第1および第2の電解質リザーバの初期モル浸透圧濃度は、1M未満、800mM未満、625mM未満、500mM未満、400mM未満、250mM未満、200mM未満、160mM未満、または125mM未満であり得る。
[0111]1つの実施形態において、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約10nM〜3Mの間である。別の実施形態では、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約10mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約110mM、約120mM、約130mM、約140mM、約150mM、約160mM、約170mM、約180mM、約190mM、約200mM、約210mM、約220mM、約230mM、約240mM、約250mM、約260mM、約270mM、約280mM、約290mM、約300mM、305mM、約310mM、約315mM、約320mM、約325mM、約330mM、約335mM、約340mM、約345mM、約350mM、約355mM、約360mM、約365mM、約370mM、約375mM、約380mM、約385mM、約390mM、約395mM、約400mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mM、約650mM、約700mM、約750mM、約800mM、約850mM、約900mM、約950mM、約1M、約1.25M、約1.5M、約1.75M、約2M、約2.25M、約2.5M、約2.75M、または約3Mである。別の実施形態では、ウェル内の溶液の濃度は、約305mM、約310mM、約315mM、約320mM、約325mM、約330mM、約335mM、約340mM、約345mM、約350mM、約355mM、約360mM、約365mM、約370mM、約375mM、約380mM、約385mM、約390mM、約395mM、約400mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mM、約650mM、約700mM、約750mM、約800mM、約850mM、約900mM、約950mM、または約1Mである。1つの追加的な実施形態では、外部リザーバ内の溶液の濃度は、約300mMであり、ウェル内の溶液の濃度は、約310mM、約320mM、約330mM、約340mM、約350mM、約360mM、約370mM、約380mM、約390mM、または約400mMからなる群より選択される。他の実施形態では、溶液の濃度は、(i)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では310mM、(ii)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では320mM、(iii)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では330mM、(iv)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では340mM、(v)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では350mM、(vi)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では360mM、(vii)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では370mM、(viii)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では380mM、(ix)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では390mM、ならびに(x)外部リザーバ内では300mMおよびウェル内では400mMからなる群より選択される。
[0112]第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の外部リザーバモル浸透圧濃度に対する比は、例えば、および限定することなく、1.05〜1.5、例えば、1.05〜1.3、1.08〜1.35、1.13〜1.4、1.17〜1.45、または1.21〜1.5の範囲内にあり得る。第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の外部リザーバモル浸透圧濃度に対する比は、1.12〜1.4、例えば、1.12〜1.28、1.15〜1.31、1.17〜1.34、1.2〜1.37、または1.22〜1.4の範囲内にあり得る。下限に関しては、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の外部リザーバモル浸透圧濃度に対する比は、1.05超、1.08超、1.17超、1.21超、1.3超、1.35超、1.4超、または1.45超であり得る。上限に関しては、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の外部リザーバモル浸透圧濃度に対する比は、1.5未満、1.45未満、1.4未満、1.35未満、1.3未満、1.21未満、1.17未満、1.13未満、または1.08未満であり得る。
[0113]任意選択のステップ703において、第1の電解質溶液の流入が継続される、または繰り返されるべきかどうかが決定される。異なる基準が、このステップにおいて決定を行うために使用され得る。いくつかの実施形態では、ステップ702は、事前決定された回数だけ実施される予定であり、ステップ703は、ステップ702がすでに実施した回数を事前決定された数と比較する。いくつかの実施形態では、ステップ702は、事前決定された時間期間にわたって実施される予定であり、ステップ703は、ステップ702がすでに実施した累積時間を事前決定された時間期間と比較する。いくつかの実施形態では、測定は、外部リザーバ内の溶液のモル浸透圧濃度、または外部リザーバから出る流出物のモル浸透圧濃度について行われる。外部リザーバまたは流出物モル浸透圧濃度が事前決定された値に達していない場合、ステップ702は繰り返され得る。いくつかの実施形態では、ステップ702は、外部リザーバ内の溶液、または外部リザーバを出ていく溶液のモル浸透圧濃度が、外部リザーバに入る溶液(すなわち、第1の電解質溶液)のモル浸透圧濃度の事前決定されたパーセンテージ範囲内に入るまで繰り返される。
[0114]第1の電解質溶液内の電解質の濃度は、ステップ702の各反復について、同一である、類似する、または異なり得る。より低いまたはより高い濃度の電解質が、1つまたは複数の追加サイクルに適用され得る。例えば、そのステップ702が繰り返される度に、塩電解質溶液の濃度は、[ES1]/[EW]比が事前決定された目標比まで増大されるまで、初期電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ702の第1の反復のための条件)から最終電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ702の最後の反復のための条件)まで漸進的に増大され得る。この比は、システムを出る外部リザーバ流体のモル浸透圧濃度測定を使用することにより予測され得る。電解質溶液の流入(ステップ702における)が繰り返される場合、プロセス700は、ステップ703からステップ702へと進み得、そうでない場合、プロセス700は、ステップ704へ進み得る。
[0115]ステップ704において、第2の電解質溶液は、セルのウェルの外側のリザーバへ流される。第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液内の電解質のものとは異なる、電解質の濃度またはオスモライトを有する。第2の電解質溶液モル浸透圧濃度はまた、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度よりも第2の初期モル浸透圧濃度(すなわち、ウェルチャンバー内の電解質溶液の初期モル浸透圧濃度)に近い。言い換えると、第2の電解質溶液モル浸透圧濃度と第2の初期モル浸透圧濃度との差は、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度と第2の初期モル浸透圧濃度との差よりも小さい。1つの実施形態では、第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液のモル浸透圧濃度よりも小さいモル浸透圧濃度を有する。代替の実施形態では、第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液のモル浸透圧濃度よりも大きいモル浸透圧濃度を有するということを理解されたい。いずれの場合においても、第2の電解質溶液の流入は、外部リザーバモル浸透圧濃度が初期ウェルリザーバモル浸透圧濃度により近くなるように、外部リザーバのモル浸透圧濃度を変化させるように作用する。第2の電解質溶液は、1つまたは複数のオスモライトを有し得、それらの各々が、独立して、上に説明されるオスモライトのうちのいずれかであり得る。
[0116]第2の電解質溶液は、複数の交換用ナノポアを含み得る。複数の交換用ナノポアの各々は、複数の交換用ナノポア複合体のうちの1つの部分であり得る。交換用ナノポア複合体は、例えば、ポリメラーゼおよびテンプレートを含み得る。各交換用ナノポア複合体のテンプレートは、交換される初期ナノポア複合体内に存在していたテンプレートとは異なり得る。初期および交換用ナノポア、または初期および交換用ナノポア複合体のナノポアは各々、独立して、例えば、および限定することなく、外膜タンパク質G(OmpG);細菌アミロイド分泌チャネルCsgG;マイコバクテリウム・スメグマチス・ポーリンA(MspA);アルファ溶血素(a−HL);OmpG、CsgG、MspA、もしくはa−HLのうちの少なくとも1つに少なくとも70%の同一性を有する任意のタンパク質;またはそれらの任意の組合せであり得る。
[0117]第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の第2の電解質溶液モル浸透圧濃度に対する比は、例えば、および限定することなく、1.05〜1.5、例えば、1.05〜1.3、1.08〜1.35、1.13〜1.4、1.17〜1.45、または1.21〜1.5の範囲内にあり得る。第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の第2の電解質溶液モル浸透圧濃度に対する比は、1.12〜1.4、例えば、1.12〜1.28、1.15〜1.31、1.17〜1.34、1.2〜1.37、または1.22〜1.4の範囲内にあり得る。下限に関しては、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の第2の電解質溶液モル浸透圧濃度に対する比は、1.05超、1.08超、1.17超、1.21超、1.3超、1.35超、1.4超、または1.45超であり得る。上限に関しては、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度の第2の電解質溶液モル浸透圧濃度に対する比は、1.5未満、1.45未満、1.4未満、1.35未満、1.3未満、1.21未満、1.17未満、1.13未満、または1.08未満であり得る。
[0118]第2の電解質溶液モル浸透圧濃度の、ウェル溶液モル浸透圧濃度に対する、またはステップ702における第1の電解質溶液の流入前の外部リザーバのモル浸透圧濃度(すなわち、第1の初期モル浸透圧濃度)に対する比は、例えば、および限定することなく、0.85〜1.15、例えば、0.85〜1.03、0.88〜1.06、0.91〜1.09、0.94〜1.12、または0.97〜1.15の範囲内にあり得る。第2の電解質溶液モル浸透圧濃度の第1の初期モル浸透圧濃度に対する比は、0.94〜1.06、例えば、0.94〜1.02、0.95〜1.03、0.96〜1.04、0.97〜1.05、または0.98〜1.06の範囲内にあり得る。下限に関しては、第2の電解質溶液モル浸透圧濃度の第1の初期モル浸透圧濃度に対する比は、0.85超、0.88超、0.91超、0.94超、0.97超、1超、1.03超、1.06超、1.09超、または1.12超であり得る。上限に関しては、第2の電解質溶液モル浸透圧濃度の第1の初期モル浸透圧濃度に対する比は、1.15未満、1.12未満、1.09未満、1.06未満、1.03未満、1未満、0.97未満、0.94未満、0.91未満、または0.88未満であり得る。
[0119]任意選択のステップ705において、第2の電解質溶液の流入が継続される、または繰り返されるべきかどうかが決定される。異なる基準が、このステップにおいて決定を行うために使用され得る。いくつかの実施形態では、ステップ704は、事前決定された回数だけ実施され、ステップ705は、ステップ704がすでに実施した回数を事前決定された数と比較する。いくつかの実施形態では、ステップ704は、事前決定された時間期間にわたって実施される予定であり、ステップ705は、ステップ704がすでに実施した累積時間を事前決定された時間期間と比較する。いくつかの実施形態では、測定は、外部リザーバ内の溶液のモル浸透圧濃度、または外部リザーバから出る流出物のモル浸透圧濃度について行われる。外部リザーバまたは流出物モル浸透圧濃度が事前決定された値に達していない場合、ステップ704は繰り返され得る。いくつかの実施形態では、ステップ704は、外部リザーバ内の溶液、または外部リザーバを出る溶液のモル浸透圧濃度が、外部リザーバに入る溶液(すなわち、第2の電解質溶液)のモル浸透圧濃度の事前決定されたパーセンテージ範囲内に入るまで繰り返される。いくつかの実施形態では、ステップ704は、外部リザーバ内の溶液、または外部リザーバを出る溶液のモル浸透圧濃度が、ウェルチャンバー内の溶液(すなわち、第2のリザーバ)のモル浸透圧濃度の事前決定されたパーセンテージ範囲内に入るまで繰り返される。
[0120]第1の電解質溶液内の電解質の濃度は、ステップ704の各反復について、同一である、類似する、または異なり得る。より低いまたはより高い濃度の電解質が、1つまたは複数の追加サイクルに適用され得る。例えば、ステップ704が繰り返される度に、塩電解質溶液の濃度は、[ES2]/[EW]比が事前決定された目標比まで減少されるまで、初期電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ704の第1の反復のための条件)から最終電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ704の最後の反復のための条件)まで漸進的に減少され得る。この比は、システムを出る外部リザーバ流体のモル浸透圧濃度測定を使用することにより予測され得る。電解質溶液の流入(ステップ704における)が繰り返される場合、プロセス700は、ステップ705からステップ704へと進み得、そうでない場合、プロセス700は、ステップ706へ進み得る。
[0121]プロセス700の任意選択のステップ706において、第2の電解質溶液の複数の交換用ナノポアのうちの1つが、セルの膜内へ挿入される。異なる技術が、ナノポアベースの配列決定チップのセル内のナノポアを挿入するために使用され得る。いくつかの実施形態では、ナノポアは、受動的に、すなわち、外的刺激の使用なしに、挿入する。いくつかの実施形態では、撹拌または電気的刺激(例えば、100mV〜1.0Vの電圧を50ミリ秒〜1秒間)が、脂質二重層膜にわたって印加されて、脂質二重層内に崩壊を引き起こし、脂質二重層内へのナノポアの挿入を開始する。いくつかの実施形態では、膜にわたって印加される電圧は、交流(AC)電圧である。いくつかの実施形態では、膜にわたって印加される電圧は、直流(DC)電圧である。セルの膜にわたって印加される電気穿孔電圧は、ナノポアベースの配列決定チップの全てのセルに全体的に印加され得るか、または電圧は、チップの1つまたは複数のセルを特に標的とし得る。
[0122]プロセス700の任意選択のステップ707において、核酸配列決定が行われる。配列決定は、データサンプリング法および上に説明される技術を用いて実施され得る。いくつかの実施形態では、ステップ706において挿入される交換用ナノポア複合体と関連したテンプレートは、ステップ704の第1の電解質溶液流の結果として排出される初期ナノポア複合体と関連したテンプレートとは異なる。この場合、ステップ707の配列決定動作は、ステップ701の配列決定動作で分析されたものとは異なる核酸配列を分析するために使用され得る。これが、配列決定チップの効率を増大させ得、チップの個々のセルが、配列決定ナノポアの交換に起因する複数の異なる核酸分子の配列決定において使用されることを可能にする。
C.ナノポア交換のフローシステム
[0123]図7のプロセス700は、異なるタイプの流体(例えば、液体または気体)がウェルの外側のリザーバを通って流されるステップ(例えば、ステップ701、702、704、および707)を含む。著しく異なる特性(例えば、モル浸透圧濃度、圧縮性、疎水性、および粘度)を有する複数の流体は、ナノポアベースの配列決定チップ(例えば、図1のチップ100など)の表面上のセンサセル(例えば、図2のセル200など)のアレイの上に流され得る。いくつかの実施形態では、プロセス700を実施するシステムは、外部リザーバ内外への異なる流体の流入を指示および/または監視するフローシステムを含む。
[0124]図8は、図7のプロセス700と共に使用するためのフローシステム800の一実施形態を例証する。フローシステムは、ウェル802のアレイの外側にある第1の電解質リザーバ801を含む。ウェルの各々について、内部ウェルチャンバー(すなわち、第2の電解質リザーバ)は、挿入された初期ナノポアまたはナノポア複合体を含む膜803によって、第1の電解質リザーバから隔てられ得る。プロセス700のステップ701において、核酸配列決定は、フローシステム800を使用して行われ得る。この核酸配列決定の部分として、1つまたは複数の流体は、第1の電解質リザーバ801内へ、またはそこを通って流され得る。これらの1つまたは複数の流体は、最初、第1の電解質リザーバの外側の1つまたは複数の貯蔵容器(例えば、図8の第1の貯蔵容器804)内に保持され得る。1つまたは複数の貯蔵容器の各々は、独立して、または一緒に、1つまたは複数のチャネル、管、またはパイプ(例えば、第1のチャネル805)を通じて、第1の電解質リザーバと流体接続状態にあり得る。第1の貯蔵容器804から、第1のチャネル805を通じた、および第1の電解質リザーバ801内への流体の輸送は、1つまたは複数のポンプ(例えば、ポンプ806)の行為によるものであり得る。各ポンプは、例えば、容積式ポンプまたは脈動ポンプであり得る。制御回路812は、例えば、第1の貯蔵容器804から、第1のチャネル805を通じた、および第1の電解質リザーバ801内への流体の輸送を制御するためのポンプ806に制御信号を送信するため、ポンプ806と通信可能に結合され得る。流体は、第1のリザーバ801の実質的に幅全体にわたって第1のリザーバ801に入ることができるか、または、第1の電解質リザーバ801内の流入を案内するチャネル(例えば、蛇行チャネル)を通じて第1のリザーバ801に入ることができる。
[0125]フローシステム800はまた、プロセス700のステップ702の第1の電解質溶液を保持するために使用され得る第2の貯蔵容器807を含み得る。第2の貯蔵容器807は、チャネル、管、またはパイプ(例えば、第2のチャネル808)を通じて、第1の電解質リザーバと流体接続状態にあり得る。第2の貯蔵容器807から、第2のチャネル808を通じた、および第1の電解質リザーバ801内への流体の輸送は、1つまたは複数のポンプの行為によるものであり得る。ステップ702において第2の貯蔵容器807から流体を輸送するために使用される1つまたは複数のポンプのうちの1つまたは複数は、ステップ701において第1の貯蔵容器804から流体を輸送するために使用される1つまたは複数のポンプと同じであってもよい。例えば、および図8に示されるように、ポンプ806は、第1のチャネル805および第2のチャネル808の共通の共有部分を通じて流体をポンピングするために使用され得る。
[0126]いくつかの実施形態では、1つまたは複数のバルブ(例えば、バルブ809および810)は、貯蔵容器のうちの1つまたは複数を出る流体流を制御するために使用される。例えば、プロセス700がステップ701からステップ702へ進むと、核酸配列決定と関連した流体流が停止され、第1の電解質溶液の流入が開始されるように、第1のバルブ809は、完全に閉じられ得、第2のバルブ807は開かれ得る。別の例として、プロセス700がステップ701から702へ進むと、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比が調節されるように、第1のバルブ809の開口部は、狭小化され得、および/または第2のバルブ807の開口部は、拡張され得る。制御回路812は、例えば、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比を調節するための第1のバルブ809および/または第2のバルブ810に制御信号を送信するため、第1のバルブ809および第2のバルブ810と通信可能に結合され得る。
[0127]フローシステム800はまた、第1の電解質リザーバ801を出る流体のモル浸透圧濃度を監視するために検出器811を含み得る。いくつかの実施形態では、検出器811は、流体モル浸透圧濃度を監視するため、および電解質溶液流を制御するために、制御回路に通信可能に接続される。いくつかの実施形態では、別の検出器(図示せず)が、第1の電解質リザーバ内の流体モル浸透圧濃度を測定するために第1の電解質リザーバ内に位置する。他の実施形態では、フローシステムは、モル浸透圧濃度検出器を有しない。
[0128]プロセス700のステップ703において、検出器811は、貯蔵容器807から第1の電解質リザーバ801内への第1の電解質溶液の流入が、継続される、または繰り返されるべきかどうかを決定するために使用され得る。例えば、検出器811は、モル浸透圧濃度測定を報告し得、この測定と事前選択されたモル浸透圧濃度値との比較は、プロセス700がステップ703からステップ702へ進むか、またはステップ704へ進むかを決定するために使用され得る。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ702へ進む場合、第1のバルブ809および第2のバルブ810は、新規のステップ702反復において第1の電解質リザーバ801に入る流体の比を調節するように制御される。例えば、第2の貯蔵容器807内の第1の電解質溶液のモル浸透圧濃度が、第1の貯蔵容器804内の溶液のモル浸透圧濃度よりも大きい場合、ステップ702が繰り返される度に、第1のバルブ809の開口部は狭小化され得、および/または第2のバルブ807の開口部は拡張され得る。このやり方では、第1の電解質リザーバ801に入る塩電解質溶液の濃度は、[E801]/[E802]比が事前決定された目標比まで増大されるまで、初期電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ702の第1の反復のための条件)から最終電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ702の最後の反復のための条件)まで漸進的に増大され得る。
[0129]いくつかの実施形態では、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比は、バルブの代わりにポンプの使用により調節される。例えば、第1の電解質リザーバ801内のモル浸透圧濃度を漸進的に増大するように、貯蔵容器804から流体を輸送するポンプの流量は減少され得、および/または貯蔵容器807から第1の電解質溶液を輸送するポンプの流量は増大され得る。
[0130]プロセス700のステップ704において第1の電解質リザーバ801へ流される第2の電解質溶液もまた、フローシステム800の1つまたは複数の貯蔵容器内に保持され得る。いくつかの実施形態では、第2の電解質溶液は、プロセス700のステップ701の核酸配列決定の間に使用される1つまたは複数の流体と同一である。いくつかの実施形態では、第2の電解質溶液は、第1の貯蔵容器804内にある。いくつかの実施形態では、第2の電解質溶液は、第1の貯蔵容器804または第2の貯蔵容器807以外の貯蔵容器内にある。第2の電解質溶液の貯蔵容器は、上に説明されるタイプおよび構成のチャネル、管、パイプ、ポンプ、またはバルブのうちのいずれかの1つまたは複数を通じて第1のリザーバと流体接続状態にあり得る。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ703からステップ704へ進むと、第1の電解質溶液の流入が停止され、第2の電解質溶液の流入が開始されるように、第1のバルブ809は完全に開かれ、第2のバルブ810は閉じられる。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ703から704へ進むと、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比が調節されるように、第1のバルブ809の開口部は拡張され、および/または第2のバルブ807の開口部は狭小化される。
[0131]フローシステム800の検出器811はまた、第1の電解質リザーバ801内への第2の電解質溶液の流入が継続される、または繰り返されるべきかどうかを決定するために、プロセス700のステップ705において使用され得る。例えば、検出器811は、モル浸透圧濃度測定を報告し得、この測定と事前選択されたモル浸透圧濃度値との比較は、プロセス700がステップ705からステップ704へ進むか、またはステップ706へ進むかを決定するために使用され得る。いくつかの実施形態では、プロセス700がステップ704へ進む場合、第1のバルブ809および第2のバルブ810は、新規のステップ704反復において第1の電解質リザーバ801に入る流体の比を調節するように制御される。例えば、第2の貯蔵容器807内の第1の電解質溶液のモル浸透圧濃度が、第1の貯蔵容器804内の第2の電解質溶液のモル浸透圧濃度よりも大きい場合、ステップ704が繰り返される度に、第1のバルブ809の開口部は拡張され得、および/または第2のバルブ807の開口部は狭小化され得る。
[0132]このやり方では、第1の電解質リザーバ801に入る塩電解質溶液の濃度は、[E801]/[E802]比が事前決定された目標比まで減少されるまで、初期電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ704の第1の反復のための条件)から最終電解質濃度または溶液モル浸透圧濃度(すなわち、ステップ704の最後の反復のための条件)まで漸進的に減少され得る。いくつかの実施形態では、第1の電解質リザーバ801に入る貯蔵容器804および807からの流体の比は、バルブの代わりにポンプの使用により調節される。例えば、第1の電解質リザーバ801内のモル浸透圧濃度を漸進的に減少させるように、貯蔵容器804から第2の電解質溶液を輸送するポンプの流量は増大され得、および/または貯蔵容器807から第1の電解質溶液を輸送するポンプの流量は減少され得る。
D.ナノポア交換の例
[0133]本発明の実施形態は、以下の非限定的な例に照らしてより良く理解されるものとする。
[0134]初期アルファ溶血素ナノポアを、各々が380mMグルタミン酸カリウム(KGlu)緩衝液を含有する外部リザーバおよびウェルリザーバを有する配列決定チップのセルの膜内へ電気穿孔した。次いで、ストレプトアビジン結合オリゴ(dT)40タグを、300mM KGlu緩衝液中、外部リザーバ内へ流し入れた。能動制御として、チップ内の単一ポアセル毎に自由捕捉率(kfc)について2つの独立した測定を行った。自由捕捉率は、所与のポアについて単位時間あたりに発生するタグ挿入事象の回数を指す。2つの測定は、ポアの排出または新規挿入なしで、同じセルについて異なる時間において行われる。
[0135]図9Aは、これらの測定からの結果をプロットするグラフ900を示す。図9Aグラフのx軸およびy軸は、kfc測定値を示し、各データポイントは、個々のセルおよびナノポアについての2つの測定間の関係を表す。ポアが測定間で変化しないことから、理想の結果は、破線のy=x線上に全て位置するポイントを産出することである。この理想の線からのデータポイント位置の小さい偏差は、例えば、データ獲得ノイズなど、標準的な実験誤差を示すものである。示されるように、測定値は、概して線に従っており、これは、以下に説明されるような、本発明の実施形態を使用したポア取り換えを経るセルの測定とは対照的である。
[0136]次いで、380mM KGluの第1の電解質溶液を、配列決定チップの外部リザーバ内へ流し入れ、その後に300mM KGluの第2の電解質溶液が続いた。第2の電解質溶液は、交換用アルファ溶血素ナノポア、および交換用ストレプトアビジン結合オリゴ(dT)40タグを含有していた。交換用ナノポアを、チップのセル膜内へ受動的に挿入させ、交換用ナノポア複合体を形成するために交換用タグと複合させた。チップ内のセル毎にkfcについて別の測定を行い、これらの新規の測定を、電解質溶液の流入前に行った測定と比較した。
[0137]図9Bは、これらの測定からの結果をプロットするグラフ901を示す。x軸およびy軸は、ここでもkfc測定値を示し、図9Bの各データポイントは、個々のセルについて電解質溶液流の前後に行われた測定間の関係を表す。グラフから、理想のy=x線からのデータポイント位置の平均偏差は、図9Aプロットのものよりも図9Bプロットのもののほうが著しく大きいということが分かる。これは、セルが電解質溶液の流入後に異なる特性を有すること、およびこれらの異なる特性が、実験または測定誤差またはノイズによって引き起こされるのではなく、代わりに、初期ナノポアおよびナノポア複合体の交換用ナノポアおよびナノポア複合体との交換によって引き起こされることを示す。このように、図9Aおよび図9Bは、本発明の実施形態を使用して、ポアが排出され、新規のポアが挿入されたことを示す。
[0138]ポア取り換え事象の不在および存在はまた、図10Aおよび図10Bのものなど、ADC出力のデータ追跡において実証され得る。
[0139]図10Aは、ポア取り換えが誘発されなかった配列決定セルを用いて測定された時間(y軸にプロットされる)を経てのADC数(x軸にプロットされる)のグラフ1001を示す。グラフにおいて見られるのは、明開チャネル出力1002および暗開チャネル出力1003の電圧測定を示す厚い帯域である。時間1004において、第1の電解質溶液が、配列決定セルの外部リザーバ内へ流されており、第1の電解質溶液は、外部リザーバの初期モル浸透圧濃度とは異なるモル浸透圧濃度を有していたが、モル浸透圧濃度差は、配列決定セルのナノポアの排出を促すほどは大きくなかった。
[0140]時間1004の直後の時間では、外部リザーバの新規のモル浸透圧濃度と配列決定セルのウェルリザーバとの間の小さい浸透性の不均衡が、配列決定セルの膜の構成においてわずかな変化を引き起こした。このわずかな変化は、明開チャネル出力1002と暗開チャネル出力1003との間の分離1005に増加をもたらした。時間1006において、第2の電解質溶液が外部リザーバ内へ流され、第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液モル浸透圧濃度よりも配列決定セルのウェルリザーバの初期モル浸透圧濃度に近いモル浸透圧濃度を有していた。この第2の電解質溶液流の結果として、明開チャネル出力1002と暗開チャネル出力1003との間の分離1005は、時間1004前に観察されたものに類似する量へと復元された。
[0141]図10Bは、ポア取り換えが誘発された配列決定セルを用いて測定された、時間を経てのADC数のグラフ1011を示す。時間1014において、第1の電解質溶液が、配列決定セルの外部リザーバ内へ流されており、第1の電解質溶液は、外部リザーバの初期モル浸透圧濃度とは異なるモル浸透圧濃度を有しており、モル浸透圧濃度差は、配列決定セルのナノポアの排出を促すほど大きかった。時間1014の直後の時間では、ナノポア排出が、明開チャネル1012と暗開チャネル1013との間の分離1015の崩壊をもたらしており、分離の欠如は、挿入されたナノポアの欠如を示すものであった。
[0142]時間1016において、第2の電解質溶液が外部リザーバ内へ流され、第2の電解質溶液は、第1の電解質溶液よりも配列決定セルのウェルリザーバの初期モル浸透圧濃度に近いモル浸透圧濃度を有していた。この第2の電解質溶液流の結果として、配列決定セルの膜の構成は、その元の構成へと復元されており、再度、ポア挿入の助けとなった。時間1017において、交換用ポアが、膜内へ挿入され、明開チャネル出力1012と暗開チャネル出力1013との間の分離1015が再びもたらされており、この分離は、挿入されたナノポアの存在を示すものであった。したがって、図10Bもまた、本発明の実施形態を使用して、ポアが排出され、新規のポアが挿入されたことを図10Aとは対照的に示す。
IV.コンピュータシステム
[0143]本明細書で説明したコンピュータシステムの任意のものは、任意の適切な数のサブシステムを利用し得る。そのようなサブシステムの例は、図11のコンピュータシステム1110内で示した。いくつかの実施形態では、コンピュータシステムは、単一のコンピュータ装置を含み、ここでサブシステムは、コンピュータ装置の構成要素であり得る。他の実施形態では、コンピュータシステムは、各々がサブシステムであり、内部に構成要素を有する、複数のコンピュータ装置を含む。コンピュータシステムは、デスクトップおよびラップトップコンピュータ、タブレット、携帯電話、ならびに他の携帯機器を含み得る。
[0144]図11で示したサブシステムは、システムバス1180を介して相互接続されている。プリンタ1174、キーボード1178、記憶デバイス1179、ディスプレイアダプタ1182に結合されているモニタ1176、およびその他などの付加的なサブシステムを示す。I/O制御装置1171に結合された外付けおよび入出力(I/O)デバイスは、I/Oポート1177(例えば、USB、Fire Wire(登録商標))などの当技術分野で知られている任意の数の手段によって、コンピュータシステムに接続され得る。例えば、I/Oポート1177または外部インタフェース1181(例えば、イーサネット、Wi−Fi、など)は、コンピュータシステム1110をインターネットなどの広域ネットワーク、マウス入力装置、またはスキャナに接続するために用いられ得る。システムバス1180を介した相互接続により、サブシステム間での情報交換を可能にするだけでなく、セントラルプロセッサ1173が、各サブシステムと通信すること、システムメモリ1172または記憶デバイス1179(例えば、ハードドライブまたは光ディスクなどの固定ディスク)からの複数の命令実行を制御することを可能にする。システムメモリ1172および/または記憶デバイス1179は、コンピュータ可読媒体を含み得る。別のサブシステムは、カメラ、マイクロフォン、加速度計、その他などのデータ収集デバイス1175である。本明細書で説明したデータの任意のものは、ある構成要素から別の構成要素へ出力され得て、ユーザに出力され得る。
[0145]コンピュータシステムは、例えば、外部インタフェース1181によって、内部インタフェースによって、または1つの構成要素から別の構成要素へ接続され得るおよび取り外され得るリムーバル記憶デバイスを介して、共に接続される、複数の同一の構成要素またはサブシステムを含み得る。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム、サブシステム、または装置は、ネットワークを通して通信する。そのような事例では、あるコンピュータは、クライアント、別のコンピュータは、サーバと考えることができ、ここで各々は、同一のコンピュータシステムの一部であり得る。クライアントおよびサーバは、各々複数のシステム、サブシステム、または構成要素を含み得る。
[0146]実施形態の態様は、ハードウェア回路(例えば、APSICまたはFPGA)を用いて、および/またはモジュラーまたは統合された様式の一般にプログラム可能なプロセッサを伴う、コンピュータソフトウェアを用いて、制御ロジックの形態で実施され得る。本明細書で使用されるとき、プロセッサは、シングルコアプロセッサ、同一の集積チップ上のマルチコアプロセッサ、または単一の回路基板上の、もしくはネットワーク化された、マルチプロセシングユニット、ならびに専用ハードウェアを含み得る。本開示および本明細書で提供された教示に基づいて、ハードウェアならびにハードウェアおよびソフトウェアの組合せを用いて、本発明の実施形態を実施するための他の方法および/または方法が、当業者には、知られ、かつ理解されよう。
[0147]本出願で説明されるソフトウェアの構成要素または機能の任意のものは、例えばJava、C、C++、C#、Objective−C、Swiftなどの任意の好適なコンピュータ言語、または例えば、従来のまたはオブジェクト指向の技術を用いたPerlもしくはPythonなどのスクリプト言語を用いてプロセッサによって実行されるソフトウェアコードとして実装され得る。ソフトウェアコードは、一連の命令または指令として、保存および/または伝送用の、コンピュータ可読媒体上に格納され得る。好適な非一時的コンピュータ可読媒体は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、ハードドライブ、フロッピーディスクなどの磁気媒体、コンパクトディスク(CD)もしくはDVD(デジタル多用途ディスク)などの光学的媒体、またはフラッシュメモリ、などを含み得る。コンピュータ可読媒体は、そのような記憶または伝送デバイスの任意の組合せであり得る。
[0148]そのようなプログラムは、さらにエンコードされ、インターネットを含む、多様なプロトコルに従う有線、光学、および/または無線ネットワークを介した伝送に適応された、搬送波信号を用いて伝送され得る。そのように、コンピュータ可読媒体は、そのようなプログラムを用いてエンコードされたデータ信号を使用して作成され得る。プログラムコードを用いてエンコードされたコンピュータ可読媒体は、互換性のあるデバイスを用いて包装され得て、または別個に他のデバイスから供給され得る(例えば、インターネットでのダウンロード)。任意のそのようなコンピュータ可読媒体は、個々のコンピュータ製品(例えば、ハードドライブ、CD、または完全なコンピュータシステム)上にまたは内部に備えられ得て、また、システムまたはネットワーク内部の異なるコンピュータ製品上にまたは内部に存在し得る。コンピュータシステムは、本明細書で説明した成果の任意のものをユーザに提供するための、モニタ、プリンタ、または他の好適なディスプレイを含み得る。
[0149]本明細書で説明した方法の任意のものは、ステップを実行するように構成され得る1つまたは複数のプロセッサを含むコンピュータシステムを用いて、全体的にまたは部分的に実行され得る。したがって、各ステップまたはステップの各グループを実行する異なる構成要素を潜在的に有する、本明細書で説明した方法の任意のもののステップを、実行するように構成されたコンピュータシステムに、実施形態は、向けられ得る。番号を付されたステップが提示されたが、本明細書の方法のステップは、同時に、または異なる時に、または異なる順序で実行され得る。さらに、これらのステップの部分は、他の方法からの他のステップの部分と共に用いられ得る。また、ステップの全てまたは部分は、任意選択的であり得る。さらに、任意の方法の任意のステップは、モジュール、ユニット、回路、またはこれらのステップを実行するためのシステムの他の手段を用いて、実行され得る。
[0150]個々の実施形態の個別の詳細が、本発明の実施形態の技術概念および範囲から逸脱することのなく、任意の好適な方法で組み合わされ得る。しかし、本発明の他の実施形態は、各々の個別の態様に関する特定の実施形態に、またはこれらの個別の態様の特定の組合せに、向けられ得る。
[0151]列挙の「a」、「an」、または「the」は、具体的にそうでないことが示されない限り、「1つまたは複数」を意味することを意図する。「or」のを使用法は、具体的にそうでないことが示されない限り、「排他的論理和」でなく、「包含的論理和」を意味することを意図する。「第1の」構成要素への言及は、第2の構成要素がもたらされることを必ずしも必要としない。さらに、「第1の」または「第2の」構成要素への言及は、構成要素を単に区別するにすぎず、明確に規定されない限り、言及された構成要素を特定の位置または順序に限定しない。用語「基づく」は、「少なくとも部分的に基づく」を意味することが意図する。
[0152]本明細書で述べられる全ての特許、特許出願、刊行物、および説明は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により組み込まれる。いずれも先行技術であると認められない。