JP2021191244A - 多能性幹細胞及びその利用、神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法、並びに、神経変性疾患の治療薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】精度が高い、ALS等の神経変性疾患の治療薬のスクリーニングの評価系を実現すること。【解決手段】本発明の多能性幹細胞はTDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている。また、本発明の神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法は、上記多能性幹細胞を使用し、被験物質接触工程と、選択工程とを含む。【選択図】なし
Description
本発明は、多能性幹細胞及びその利用、神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法、並びに、神経変性疾患の治療薬に関する。
筋委縮性側索硬化症(ALS)は、脳及び脊髄におけるモーターニューロンの進行性消失を特徴とする原因不明の神経変性疾患である。ヒト組織から細胞を調製して疾患モデルを構築すること難しかったため、ALSの治療薬の開発及びALSの病態発症のメカニズム解析はあまり進んでいなかった。
非特許文献1には、家族性ALS患者の線維芽細胞からiPS細胞を生成し、モーターニューロンに分化させたことが記載されている。
非特許文献2には、ALS患者由来のiPS細胞から分化させたモーターニューロンにおいて、核内のTDP−43が細胞質に移行すること、および、細胞質においてTDP−43の凝集体が形成されたことが記載されている。TDP−43は、ALSの病態と関連性があることが知られているRNA結合タンパク質である。そして、当該iPS細胞を評価系として、TDP−43の局在変化を指標としてALS治療薬のスクリーニングを行ったことが記載されている。
Brandi N. Davis-Dusenbery et. al.,Development (2014) 141, 491-501
Matthew F Burkhardt et. al., Mol Cell Nerurosci (2013) 56, 355-364
しかしながら、非特許文献2に記載のスクリーニング方法では精度が低く、評価系のさらなる改良が求められている。
本発明の一態様は、精度が高い、ALS等の神経変性疾患の治療薬のスクリーニングの評価系を実現することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明は、以下に示す態様を含む。
<1>TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞。
<2>神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法であって、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞より分化誘導してなるモーターニューロンであって、その細胞質にTDP−43が局在するように方向付けがなされたものに対して被験物質を接触させる被験物質接触工程と、前記被験物質接触工程後の、前記モーターニューロンの細胞質及び核におけるTDP−43の局在量に基づいて、前記被験物質を神経変性疾患の治療薬の候補として選択する選択工程とを含む、スクリーニング方法。
<3>選択工程において、被験物質を接触させない場合と比較して、前記モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量が減り、前記モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量が増加したものを、神経変性疾患の治療薬の候補として選択する、<2>のスクリーニング方法。
<4>前記被験物質接触工程前に、TDP−43遺伝子の発現を誘導する発現誘導工程をさらに含む、<2>または<3>のスクリーニング方法。
<5>前記誘導発現されるTDP−43は蛍光標識されている、<2>〜<4>のいずれか1つのスクリーニング方法。
<6>前記選択工程が、前記モーターニューロンの画像を撮影する撮影工程と、前記撮影工程によって得られた画像における、モーターニューロンの細胞質及び核を検出する検出工程と、前記検出工程によって検出された細胞質における蛍光領域の面積を、細胞質におけるTDP−43の局在量と計算し、前記検出工程によって検出された核における蛍光強度を、核におけるTDP−43の局在量として計算する計算工程と、を含む、<5>のスクリーニング方法。
<7>前記被験物質接触工程と同時に、又は、前記被験物質接触工程よりも前に、前記モーターニューロンに、TDP−43の局在変化を誘導する局在変化誘導剤を接触させる局在変化誘導工程をさらに含む、<2>〜<6>のいずれか1つのスクリーニング方法。
<8>前記神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、アルツハイマー病及びレビー小体病からなる群から選択される、<2>〜<7>のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
<9><1>の多能性幹細胞を含む、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット。
<10>STAT3阻害剤を有効成分として含有する、神経変性疾患の治療薬。
<11>前記STAT3阻害剤がニクロサミドである、<10>の治療薬。
<1>TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞。
<2>神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法であって、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞より分化誘導してなるモーターニューロンであって、その細胞質にTDP−43が局在するように方向付けがなされたものに対して被験物質を接触させる被験物質接触工程と、前記被験物質接触工程後の、前記モーターニューロンの細胞質及び核におけるTDP−43の局在量に基づいて、前記被験物質を神経変性疾患の治療薬の候補として選択する選択工程とを含む、スクリーニング方法。
<3>選択工程において、被験物質を接触させない場合と比較して、前記モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量が減り、前記モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量が増加したものを、神経変性疾患の治療薬の候補として選択する、<2>のスクリーニング方法。
<4>前記被験物質接触工程前に、TDP−43遺伝子の発現を誘導する発現誘導工程をさらに含む、<2>または<3>のスクリーニング方法。
<5>前記誘導発現されるTDP−43は蛍光標識されている、<2>〜<4>のいずれか1つのスクリーニング方法。
<6>前記選択工程が、前記モーターニューロンの画像を撮影する撮影工程と、前記撮影工程によって得られた画像における、モーターニューロンの細胞質及び核を検出する検出工程と、前記検出工程によって検出された細胞質における蛍光領域の面積を、細胞質におけるTDP−43の局在量と計算し、前記検出工程によって検出された核における蛍光強度を、核におけるTDP−43の局在量として計算する計算工程と、を含む、<5>のスクリーニング方法。
<7>前記被験物質接触工程と同時に、又は、前記被験物質接触工程よりも前に、前記モーターニューロンに、TDP−43の局在変化を誘導する局在変化誘導剤を接触させる局在変化誘導工程をさらに含む、<2>〜<6>のいずれか1つのスクリーニング方法。
<8>前記神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、アルツハイマー病及びレビー小体病からなる群から選択される、<2>〜<7>のいずれか1つに記載のスクリーニング方法。
<9><1>の多能性幹細胞を含む、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット。
<10>STAT3阻害剤を有効成分として含有する、神経変性疾患の治療薬。
<11>前記STAT3阻害剤がニクロサミドである、<10>の治療薬。
本発明の一態様によれば、ALS等の神経変性疾患の治療薬のスクリーニングの精度が高い評価系を実現することができる。
〔1.多能性幹細胞〕
本発明に係る多能性幹細胞は、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている。
本発明に係る多能性幹細胞は、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている。
本発明に係る多能性幹細胞は少なくとも多能性(multipotency)を示し、より好ましくは多能性を示す状態かそれ以前の状態を示す。なお、本発明において、多能性とは、例えば神経系または造血系など一部の細胞種に分化できる能力を指す。また、本発明において、多能性とは、個体自体を構成することは出来ないが、個体を構成するすべての細胞および組織に分化できる能力を指す。多能性幹細胞の一例は、いわゆる「誘導多能性幹細胞(iPS細胞、induced Pluripotent Stem Cell)」である。「誘導多能性幹細胞」とは、ES細胞(Embryonic Stem Cell)に近い性質を有する細胞であり、より具体的には、未分化細胞であって、培養条件によって全能性(pluripotency)および未分化増殖能を有する細胞を包含する。iPS細胞の一例として、ヒトまたはマウス由来のヒトiPS細胞が挙げられる。
iPS細胞は公知の手法によって作製することができる。例えば、ヒトまたはマウス等の動物から採取した細胞(出発細胞と称する場合もある)に初期化因子を導入する、または、当該細胞を初期化因子で処理することによって、iPS細胞を作製する。また、iPS細胞の調製方法がPLoS One 12, e0171947(2017)に記載されている。
出発細胞の種類は特に限定されないが、線維芽細胞等の体細胞であることが好ましい。当該細胞の種類に応じた適切な方法で行えばよい。体細胞の種類は、生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、分化能を有する体性幹細胞、人工多能性幹細胞およびこれらの幹細胞から分化誘導された体細胞も含まれる。細胞を採取する対象は、神経変性疾患に罹患していない対象であってもよく、神経変性疾患に罹患している対象であってもよい。
体細胞の由来は、例えば、胎児期(胎仔期)の個体に由来するものの他、成熟した個体に由来するものを用いてもよい。
体細胞の由来は、例えば、胎児期(胎仔期)の個体に由来するものの他、成熟した個体に由来するものを用いてもよい。
TDP−43はTAR DNA結合タンパク質43(TAR DNA-binding protein 43)のことであり、2つのRNA認識モチーフを有するRNA/DNA結合タンパク質である。転写、翻訳およびスプライシングの制御を含むRNA代謝にTDP−43は関与している。TDP−43は、正常モーターニューロンでは主に核に局在している。一方、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経変性疾患を有する対象のモーターニューロンでは、核内のTDP−43が細胞質に移行し、細胞質においてTDP−43の凝集体が形成される。当該TDP−43の凝集体による神経毒性によって神経細胞死が誘導される。野生型であるヒトTDP−43の全長アミノ酸配列は、GenBank Accession No.NP_031401として登録されている。野生型であるヒトTDP−43遺伝子は、GenBank Accession No.NM_007375.3として登録されている。
多能性幹細胞に誘導発現可能に導入されるTDP−43遺伝子は、野生型のTDP−43遺伝子であっても、変異型のTDP−43遺伝子であってもよい。変異型のTDP−43遺伝子の例として、ヒトTDP−43のアミノ酸配列の90番目に相当するアラニンがバリンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(A90V);ヒトTDP−43のアミノ酸配列の337番目に相当するメチオニンがバリンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(M337V);ヒトTDP−43のアミノ酸配列の294番目に相当するグリシンがバリンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(G294V);ヒトTDP−43のアミノ酸配列の298番目に相当するグリシンがセリンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(G298S);ヒトTDP−43のアミノ酸配列の315番目に相当するアラニンがスレオニンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(A315T);ヒトTDP−43のアミノ酸配列の343番目に相当するグルタミンがアルギニンに置換されたアミノ酸配列をコードする変異型のTDP−43遺伝子(Q343R);等が挙げられる。
多能性幹細胞へのTDP−43遺伝子の導入方法として、TDP−43遺伝子の発現が誘導可能であれば、特に限定されない。「遺伝子の発現が誘導可能である」とは、例えば、所望する段階に達したときに遺伝子の発現を誘導することが出来ることを指す。これにより、例えば、多能性幹細胞の段階、若しくはモーターニューロン等への分化誘導の初期の段階において、TDP−43遺伝子が過剰に発現すること、並びに、TDP−43による細胞毒性を防止する。導入方法の例として、CreERT2−LoxPシステム等が挙げられる。Cre−LoxPシステムを用いて、TDP−43遺伝子を導入することによって、タモキシフェン処理によってTDP−43遺伝子の発現が誘導される。また、プロモータはCAGプロモータが望ましい。
TDP−43遺伝子を多能性幹細胞に導入する際、誘導発現されるTDP−43が標識されるように、標識タンパク質をコードする遺伝子も導入することが好ましい。誘導発現されるTDP−43が標識されていることにより、TDP−43の細胞における局在を可視化することができる。例えば、標識タンパク質をコードする遺伝子およびTDP−43遺伝子をCreERT2−LoxPシステムに導入することによって、誘導発現されるTDP−43が標識される。標識タンパク質の例として、mKate2(赤色蛍光タンパク質)およびGFP(緑色蛍光タンパク質)等の蛍光タンパク質等が挙げられる。
〔2.神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法〕
本発明に係る神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」と略記する場合がある)は、被験物質接触工程と、選択工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
本発明に係る神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」と略記する場合がある)は、被験物質接触工程と、選択工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
(1)被験物質接触工程
被験物質接触工程においては、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞より分化誘導してなるモーターニューロンに対して被験物質を接触させる。このモーターニューロンは、遺伝子の誘導発現によって生じるTDP−43が、その細胞質に局在するように方向付けがなされている。
被験物質接触工程においては、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞より分化誘導してなるモーターニューロンに対して被験物質を接触させる。このモーターニューロンは、遺伝子の誘導発現によって生じるTDP−43が、その細胞質に局在するように方向付けがなされている。
多能性幹細胞からモーターニューロンによる分化誘導は、公知の方法によって行うことができる。例えば、Klim, J.R.et al, Nat. Neurosci. 22, 167-179 (2019)に記載される方法によって、多能性幹細胞からモーターニューロンによる分化誘導することができる。また、2段階のステップ(ステップ1:モーターニューロンの前駆細胞への分化、ステップ2:前駆細胞からモーターニューロンの成熟化)によって、多能性幹細胞からモーターニューロンによる分化誘導することもできる。
多能性幹細胞からモーターニューロンによる分化誘導するときに使用する培地、添加剤および培養皿のコーティング剤等は、特に限定されず、公知の材料を使用することができる。また、培養温度等の培養条件も公知の手法を参考にして適宜設定できる。
モーターニューロンへの誘導剤の接触は、多能性幹細胞の培養を開始してから7日目以上が好ましい。
細胞質にTDP−43が局在するように方向付けがなされたモーターニューロンとは、神経変性疾患モデルのモーターニューロンである。正常のモーターニューロンと比較して、核内のTDP−43が細胞質に移行し、細胞質においてTDP−43の凝集体が形成されるように構成されている。後述の局在変化誘導工程によってTDP−43の局在変化を誘導することによって、細胞質にTDP−43が局在するように方向付けがなされたモーターニューロンを作製してもよい。
モーターニューロンへの被験物質の接触は、例えば、培地に被験物質を添加することによって、被験物質をモーターニューロンに接触させることができる。モーターニューロンへの被験物質の接触期間(被験物質を含む培地によるモーターニューロンの培養期間)は、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上が挙げられる。また、当該培養期間は、10日以下、9日以下、8日以下、7日以下、または6日以下が挙げられる。
(2)選択工程
被験物質接触工程後の、前記モーターニューロンの細胞質及び核におけるTDP−43の局在量に基づいて、前記被験物質を神経変性疾患の治療薬の候補として選択する。
被験物質接触工程後の、前記モーターニューロンの細胞質及び核におけるTDP−43の局在量に基づいて、前記被験物質を神経変性疾患の治療薬の候補として選択する。
選択工程において、被験物質を接触させない場合と比較して、前記モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量が減る、又は、前記モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量が増加する、又は、これらの両方を満たすものを、神経変性疾患の治療薬の候補として選択してもよい。あるいは、前記モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量をA、核におけるTDP−43をBとしたときに、選択工程において、被験物質を接触させない場合と比較して、A/(A+B)の減少、又は、B/(A+B)の増加、又は、これらの両方を満たすものを、神経変性疾患の治療薬の候補として選択してもよい。
TDP−43を蛍光標識している場合、例えば、撮影工程、検出工程および計算工程および比較工程を行うことによって、被験物質接触工程後のモーターニューロンの細胞質および核におけるTDP−43の局在量を測定してもよい。TDP−43に蛍光標識をしている場合、後述に示すように、モーターニューロンの細胞質および核それぞれにおけるTDP−43の局在量を数値化することができる。
(2−1)撮影工程
撮影工程においては、モーターニューロンの画像を撮影する。撮影工程前に、細胞質および核をそれぞれ容易に識別できるように、TDP−43とは異なる蛍光タンパク質によって標識する標識工程を行うことが好ましい。公知の細胞画像解析装置を用いて、モーターニューロンの画像の撮影を行うことができる。
撮影工程においては、モーターニューロンの画像を撮影する。撮影工程前に、細胞質および核をそれぞれ容易に識別できるように、TDP−43とは異なる蛍光タンパク質によって標識する標識工程を行うことが好ましい。公知の細胞画像解析装置を用いて、モーターニューロンの画像の撮影を行うことができる。
(2−2)検出工程
検出工程においては、撮影工程によって得られた画像における、モーターニューロンの細胞質および核を検出する。上述の通り、細胞質および核をそれぞれ蛍光標識することによって、細胞質および核をそれぞれ検出することができる。
検出工程においては、撮影工程によって得られた画像における、モーターニューロンの細胞質および核を検出する。上述の通り、細胞質および核をそれぞれ蛍光標識することによって、細胞質および核をそれぞれ検出することができる。
(2−3)計算工程
計算工程においては、検出工程によって検出された細胞質における蛍光領域の面積を、細胞質におけるTDP−43の局在量と計算する。また、前記検出工程によって検出された核における蛍光強度を、核におけるTDP−43の局在量として計算する。このように、細胞質および核それぞれにおけるTDP−43の局在量を数値化することによって、TDP−43の局在変化を感度良く検出することができる。
計算工程においては、検出工程によって検出された細胞質における蛍光領域の面積を、細胞質におけるTDP−43の局在量と計算する。また、前記検出工程によって検出された核における蛍光強度を、核におけるTDP−43の局在量として計算する。このように、細胞質および核それぞれにおけるTDP−43の局在量を数値化することによって、TDP−43の局在変化を感度良く検出することができる。
(3)その他の工程
本発明のスクリーニング方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例として、発現誘導工程および局在変化誘導工程等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例として、発現誘導工程および局在変化誘導工程等が挙げられる。
(3−1)発現誘導工程
発現誘導工程において、被験物質接触工程前に、TDP−43遺伝子の発現を誘導する。
発現誘導工程において、被験物質接触工程前に、TDP−43遺伝子の発現を誘導する。
例えば、TDP−43遺伝子の発現を誘導する発現誘導剤をモーターニューロンに接触させることによって、TDP−43遺伝子の発現を誘導することができる。TDP−43遺伝子をCreERT2−LoxPシステムに導入する場合、モーターニューロンをタモキシフェンに接触させることによって、TDP−43遺伝子の発現が誘導される。培地に添加する発現誘導剤の添加濃度および接触期間等は、適宜選択することができる。モーターニューロンへの発現誘導剤の接触は、多能性幹細胞の培養を開始してから13日目〜17日目が好ましい。
(3−2)局在変化誘導工程
局在変化誘導工程の一例において、モーターニューロンに、TDP−43の局在変化を誘導する局在変化誘導剤を接触させる。局在変化誘導剤の接触によって、モーターニューロンの核内のTDP−43を細胞質に移行させて、神経変性疾患モデルのモーターニューロンを調製することができる。局在変化誘導剤の例として、MG−132等のプロテアソーム阻害剤および亜ヒ酸ナトリウム等の亜ヒ酸塩等が挙げられる。局在変化誘導剤のモーターニューロンへの接触(培地への誘導剤の添加)は、被験物質をモーターニューロンに接触する前に行ってもよいし、被験物質の接触と同時に行ってもよい。
局在変化誘導工程の一例において、モーターニューロンに、TDP−43の局在変化を誘導する局在変化誘導剤を接触させる。局在変化誘導剤の接触によって、モーターニューロンの核内のTDP−43を細胞質に移行させて、神経変性疾患モデルのモーターニューロンを調製することができる。局在変化誘導剤の例として、MG−132等のプロテアソーム阻害剤および亜ヒ酸ナトリウム等の亜ヒ酸塩等が挙げられる。局在変化誘導剤のモーターニューロンへの接触(培地への誘導剤の添加)は、被験物質をモーターニューロンに接触する前に行ってもよいし、被験物質の接触と同時に行ってもよい。
局在変化誘導剤としてMG−132を使用する場合、MG−132の添加濃度は、25nM以上400nM以下であってもよく、50nM以上200nM以下であることが好ましい。局在変化誘導剤として亜ヒ酸塩を使用する場合は、亜ヒ酸塩の添加濃度は、2.5μM以上40μM以下であってもよく、5μM以上20μM以下であることが好ましい。
モーターニューロンへの局在変化誘導剤の接触は、iPS細胞の培養を開始してから17日目〜20日目が好ましい。また、モーターニューロンへの局在変化誘導剤の接触期間(局在変化誘導剤を含む培地によるモーターニューロンの培養期間)は、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上が挙げられる。また、当該培養期間は、10日以下、9日以下、8日以下、7日以下、または6日以下が挙げられる。
従来のスクリーニング方法では、ALS患者のiPS細胞から作製したモーターニューロンを用いて、内因性のTDP−43の局在変化を評価していた。従来のスクリーニング方法では、内因性のTDP−43の局在量を数値化することが困難であったため、スクリーニングの精度が低かった。一方、本発明に係るスクリーニング方法は、外因性のTDP−43遺伝子をiPS細胞に導入する。外因性のTDP−43遺伝子の発現を誘導することによって、外因性のTDP−43の局在変化が可視化し易くなる。また、誘導発現されるTDP−43を蛍光等で標識し、画像解析することによって、モーターニューロンの各領域におけるTDP−43の局在量をそれぞれ数値化することができる。TDP−43の局在量を数値化することによって、スクリーニングの精度を向上させることができる。また、誘導発現されるTDP−43を蛍光等で標識することによって、外因性のTDP−43の局在変化を観察する際に、細胞固定後の抗体染色を必要しない。したがって、生きた細胞(live cells)の外因性のTDP−43の局在変化を評価することができる。
本発明のスクリーニング方法は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病およびレビー小体病等の、TDP−43の局在変化が生じる神経変性疾患の治療薬のスクリーニングに有用である。ALSとして、例えば、家族性ALS等が挙げられる。
〔3.神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット〕
本発明に係る神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット(以下、「本発明のスクリーニングキット」と略記する場合がある)は、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞を含む。当該多能性幹細胞に加え、多能性幹細胞の培地等を備えていてもよい。また、本実施形態に係るスクリーニングキットには、多能性幹細胞のモーターニューロンへの分化誘導手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙もしくはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、または磁気テープ、コンピューター等の読み取り可能なディスクまたはCD−ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
本発明に係る神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット(以下、「本発明のスクリーニングキット」と略記する場合がある)は、TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞を含む。当該多能性幹細胞に加え、多能性幹細胞の培地等を備えていてもよい。また、本実施形態に係るスクリーニングキットには、多能性幹細胞のモーターニューロンへの分化誘導手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙もしくはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、または磁気テープ、コンピューター等の読み取り可能なディスクまたはCD−ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
〔4.神経変性疾患の治療薬〕
本発明の神経変性疾患の治療薬(以下、「本発明の治療薬」と略記する場合がある)は、STAT3阻害剤を有効成分として含有する。STAT3阻害剤は、シグナル伝達性転写因子3;signal transducer and activator of transcription 3の阻害剤である。本発明の神経変性疾患の治療薬は、上記スクリーニング方法によってスクリーニングされた治療薬である。
本発明の神経変性疾患の治療薬(以下、「本発明の治療薬」と略記する場合がある)は、STAT3阻害剤を有効成分として含有する。STAT3阻害剤は、シグナル伝達性転写因子3;signal transducer and activator of transcription 3の阻害剤である。本発明の神経変性疾患の治療薬は、上記スクリーニング方法によってスクリーニングされた治療薬である。
STAT3阻害剤として、ニクロサミド、スタティック、C188−9、S3I−201及びニフロキサシド(Nifuroxazide)等が挙げられ、ニクロサミドが好ましい。STAT3阻害剤は市販のSTAT3阻害剤であってもよく、公知の手法によって合成してもよい。
本発明の神経変性疾患の治療薬は、STAT3阻害剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該他の成分は特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧調整用の塩類、緩衝剤、着色剤、香味料、甘味料、抗酸化剤、および粘度調整剤等が挙げられる。また、必要に応じて、公知の神経変性疾患の治療薬を、本発明に係る神経変性疾患の治療薬の一構成として加えて複合剤を構成してもよい。
上記薬学的に許容される担体は、特に限定されないが、担体であって、本発明の治療薬と同時投与された場合に本発明の治療薬の機能(神経変性疾患の治療)を阻害せず、かつ、投与対象となるヒトまたは動物に対して実質的な悪影響を及ぼさないという性質を備えることが好ましい。
上記担体としては、この分野で既報のものを広く使用でき、具体的には、例えば、水、各種塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、パラフィン、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。担体の種類は、本発明の治療薬の剤形、および投与方法等に応じて、適宜選択すればよい。
本発明の治療薬の剤形も特に限定されず、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、および注射剤等が挙げられ、好ましくは注射剤または経口投与用の剤形である。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下の実施例中、特に記載がない限り、%は質量%を表す。
〔材料と方法〕
<TDP−43トランスフェクトヒトiPS細胞の構築と細胞培養>
PLoS One 12, e0171947(2017)の記載に従って、ヒト皮膚線維芽細胞を用いてヒトiPS細胞を調製した。ヒト皮膚線維芽細胞には、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子およびc−Myc遺伝子を導入することによってヒトiPS細胞を導入した。ヒト野生型である全長TDP−43遺伝子をCre−LoxPシステムに導入した。TDP−43のDNA断片、mKate2蛍光タンパク質遺伝子及びCre−ERT2をAAVS1領域にゲノム編集技術を用いてトランスフェクトした。AAVS1領域は、細胞のセーフハーバー領域である。ゲノム編集技術により構築したTDP−43遺伝子発現構築物の模式図を図1に示す。
<TDP−43トランスフェクトヒトiPS細胞の構築と細胞培養>
PLoS One 12, e0171947(2017)の記載に従って、ヒト皮膚線維芽細胞を用いてヒトiPS細胞を調製した。ヒト皮膚線維芽細胞には、Oct3/4遺伝子、Sox2遺伝子、Klf4遺伝子およびc−Myc遺伝子を導入することによってヒトiPS細胞を導入した。ヒト野生型である全長TDP−43遺伝子をCre−LoxPシステムに導入した。TDP−43のDNA断片、mKate2蛍光タンパク質遺伝子及びCre−ERT2をAAVS1領域にゲノム編集技術を用いてトランスフェクトした。AAVS1領域は、細胞のセーフハーバー領域である。ゲノム編集技術により構築したTDP−43遺伝子発現構築物の模式図を図1に示す。
TDP−43遺伝子発現構築物を、上記ヒトiPS細胞に導入した。次に、Cellartis DEF-CS 500 Culture System(Takara Bio)を用いて、コラーゲンIをコートしたディッシュでiPS細胞を培養した。D−PBS(−/−)で洗浄し、TrypLE Selectで処理することによって細胞を剥がしてから、コラーゲンIをコートしたディッシュに播種した。
<モーターニューロンへの分化>
モーターニューロンへの分化誘導は、2段階(Step1及びStep2)に分けて行った。Step1ではモーターニューロンの前駆細胞への分化を行った。Step2では、前駆細胞からモーターニューロンの成熟化を行った。Step1及びStep2のプロトコールの模式図を図2に示す。
モーターニューロンへの分化誘導は、2段階(Step1及びStep2)に分けて行った。Step1ではモーターニューロンの前駆細胞への分化を行った。Step2では、前駆細胞からモーターニューロンの成熟化を行った。Step1及びStep2のプロトコールの模式図を図2に示す。
(Step1:モーターニューロンの前駆細胞への分化)
Step1では、1日目(Day1)に、マトリゲルをコートしたディッシュに、DEF−CS培地(2.4μMジアゾビビン及び4.7μg/mLのフィブロネクチンを含む)に懸濁したiPS細胞を播種した。播種した翌日に培地を培地Aに交換してiPS細胞を培養し、6日目(Day6)まで培養した。培地は2日に1回交換した。6日目(Day6)に培地を培地Bに交換してiPS細胞を培養し、10日目(Day10)まで培養した。培地は2日に1回交換した。培地A及び培地Bの組成をそれぞれ、表1及び2に示す。
Step1では、1日目(Day1)に、マトリゲルをコートしたディッシュに、DEF−CS培地(2.4μMジアゾビビン及び4.7μg/mLのフィブロネクチンを含む)に懸濁したiPS細胞を播種した。播種した翌日に培地を培地Aに交換してiPS細胞を培養し、6日目(Day6)まで培養した。培地は2日に1回交換した。6日目(Day6)に培地を培地Bに交換してiPS細胞を培養し、10日目(Day10)まで培養した。培地は2日に1回交換した。培地A及び培地Bの組成をそれぞれ、表1及び2に示す。
10日目(Day10)に細胞を回収して凍結保存した。細胞の剥離液として、DMEM/F12、Accutase(Thermo Fisher Scientific)、90U/mLのDNaseI(Worthington)及び9U/mLのパパイン(Worthington)を使用した。培地を0.2μmフィルターに通してから遠心分離を行って、細胞を回収した。回収した細胞は、Stem-Cellbanker (Takara Bio)に懸濁して−150℃にて保管した。
(Step2:モーターニューロンの成熟化)
Step1において凍結保存した細胞を解凍後、成熟化培地に懸濁し、ポリ−D−リジン及びラミニンでコートした96ウェルプレートに播種した。成熟化培地の組成を表3に示す。培地の半量を2週間に1回交換した。
Step1において凍結保存した細胞を解凍後、成熟化培地に懸濁し、ポリ−D−リジン及びラミニンでコートした96ウェルプレートに播種した。成熟化培地の組成を表3に示す。培地の半量を2週間に1回交換した。
<TDP−43局在変化をベースとしたスクリーニングシステムの構築と当該スクリーニングシステムを用いたスクリーニング>
上記Step2で成熟化培地に懸濁し、384ウェルプレートに播種した細胞(Day10)を用いて、TDP−43の局在変化の測定を行った。13日目(Day13)で培地を半量交換し、4−OHT(4−ヒドロキシタモキシフェン)を100nMになるように培地に添加した。4−OHTの添加により、Cre−LoxPシステムによってLoXPが切断を受けて、TDP−43及びmKate蛍光タンパク質の共発現が誘導される。17日目(Day17)で培地を半量交換し、試験化合物及びストレッサー化合物(100nMのMG−132(Wako))を培地に添加した。MG−132はプロテアソーム阻害剤である。20日目(Day20)に細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定後、PBSで3回洗浄した。細胞を0.1%のTriton X-100で15分間することによって透過処理をし、1%の正常ロバ血清、1%のウシ血清アルブミン(BSA)及び0.1%のTriton X-100を含むPBSで1時間ブロッキングした。1%の正常ロバ血清を含むPBS及びMAP2抗体(Abcam、ab32454)を用いて、4℃下において一晩インキュベートすることによって、細胞を抗体染色した。細胞をPBSですすいだ後、1%の正常ロバ血清を含むPBSならびにIgG(H+L)コンジュゲートAlexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific)及びHoechst 33342(Dojindo)を1時間インキュベートすることによって、細胞を抗体染色した。そして、ArrayScan XTI(Thermo Fisher Scientific)を用いて蛍光画像を取得した。青色(Ex 386/23 nm)でHoechst 33342、緑色(Ex 485/20 nm)でMAP2、赤色(Ex 560/25 nm)でmKate2の蛍光画像を取得した。mKate2−TDP−43の局在解析は、HCS Studio Cellomics ScanのColocalization Measurementのメソッドに基づき、Alexa Fluor 488標識MAP2で染色される細胞質領域と、Hoechst 33342で染色される核領域を設定した。細胞質領域に発現しているTDP−43及び核領域に発現しているTDP−43それぞれを数値化することによって、TDP−43の局在変化の解析を行った。細胞質領域に局在するTDP−43は、細胞質領域におけるTDP−43の蛍光領域の面積を細胞数で補正した平均値として数値化した。核領域に局在するTDP−43は、核領域におけるTDP−43の蛍光強度を細胞数で補正した平均値として数値化した。
上記Step2で成熟化培地に懸濁し、384ウェルプレートに播種した細胞(Day10)を用いて、TDP−43の局在変化の測定を行った。13日目(Day13)で培地を半量交換し、4−OHT(4−ヒドロキシタモキシフェン)を100nMになるように培地に添加した。4−OHTの添加により、Cre−LoxPシステムによってLoXPが切断を受けて、TDP−43及びmKate蛍光タンパク質の共発現が誘導される。17日目(Day17)で培地を半量交換し、試験化合物及びストレッサー化合物(100nMのMG−132(Wako))を培地に添加した。MG−132はプロテアソーム阻害剤である。20日目(Day20)に細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定後、PBSで3回洗浄した。細胞を0.1%のTriton X-100で15分間することによって透過処理をし、1%の正常ロバ血清、1%のウシ血清アルブミン(BSA)及び0.1%のTriton X-100を含むPBSで1時間ブロッキングした。1%の正常ロバ血清を含むPBS及びMAP2抗体(Abcam、ab32454)を用いて、4℃下において一晩インキュベートすることによって、細胞を抗体染色した。細胞をPBSですすいだ後、1%の正常ロバ血清を含むPBSならびにIgG(H+L)コンジュゲートAlexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific)及びHoechst 33342(Dojindo)を1時間インキュベートすることによって、細胞を抗体染色した。そして、ArrayScan XTI(Thermo Fisher Scientific)を用いて蛍光画像を取得した。青色(Ex 386/23 nm)でHoechst 33342、緑色(Ex 485/20 nm)でMAP2、赤色(Ex 560/25 nm)でmKate2の蛍光画像を取得した。mKate2−TDP−43の局在解析は、HCS Studio Cellomics ScanのColocalization Measurementのメソッドに基づき、Alexa Fluor 488標識MAP2で染色される細胞質領域と、Hoechst 33342で染色される核領域を設定した。細胞質領域に発現しているTDP−43及び核領域に発現しているTDP−43それぞれを数値化することによって、TDP−43の局在変化の解析を行った。細胞質領域に局在するTDP−43は、細胞質領域におけるTDP−43の蛍光領域の面積を細胞数で補正した平均値として数値化した。核領域に局在するTDP−43は、核領域におけるTDP−43の蛍光強度を細胞数で補正した平均値として数値化した。
〔試験例1〕iPS細胞から分化誘導したモーターニューロンの評価
Step2におけて成熟化させたモーターニューロンに関し、成熟ニューロンのマーカーである、CHAT、HB9、ISL1及びBRN3Aの遺伝子発現量を測定した。また、上記成熟ニューロンのマーカーであるβ−チューブリンIIIおよびMAP2による免疫染色を行った。遺伝子発現量の測定及び免疫染色の結果から、iPS細胞からモーターニューロンへの成熟には、分化誘導後約20日(Day20)が適切であることが分かった(図示せず)。
Step2におけて成熟化させたモーターニューロンに関し、成熟ニューロンのマーカーである、CHAT、HB9、ISL1及びBRN3Aの遺伝子発現量を測定した。また、上記成熟ニューロンのマーカーであるβ−チューブリンIIIおよびMAP2による免疫染色を行った。遺伝子発現量の測定及び免疫染色の結果から、iPS細胞からモーターニューロンへの成熟には、分化誘導後約20日(Day20)が適切であることが分かった(図示せず)。
〔試験例2〕構築したスクリーニングシステムによる化合物の評価
17日目(Day17)にMG−132処理をすることによって、核におけるTDP−43の局在量が減り、細胞質におけるTDP−43の局在量が増加した(図3)。よって、本実施例で調製した、iPS細胞から分化誘導されたモーターニューロンを、MG−132と試験化合物とで処理し、細胞質及び核におけるTDP−43の局在量をそれぞれ評価することによって、ALS治療剤等の神経変性治療剤の候補をスクリーニングできることが分かった。また、TDP−43を蛍光タンパク質等によって蛍光標識することによって、細胞質におけるTDP−43の局在量は、細胞質における蛍光領域の面積を測定することによって数値化できることが分かった。また、核におけるTDP−43の局在量は、核における蛍光強度を測定することによって数値化できることが分かった。よって、本実施例で構築したスクリーニングシステムを用いて画像解析を行うことによって、モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量と、モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量をそれぞれ数値化することができた。そして、対照のモーターニューロン(TDP−43の局在が変化しているニューロン)のTDP−43の局在量を比較できることが分かった(図4及び5)。
17日目(Day17)にMG−132処理をすることによって、核におけるTDP−43の局在量が減り、細胞質におけるTDP−43の局在量が増加した(図3)。よって、本実施例で調製した、iPS細胞から分化誘導されたモーターニューロンを、MG−132と試験化合物とで処理し、細胞質及び核におけるTDP−43の局在量をそれぞれ評価することによって、ALS治療剤等の神経変性治療剤の候補をスクリーニングできることが分かった。また、TDP−43を蛍光タンパク質等によって蛍光標識することによって、細胞質におけるTDP−43の局在量は、細胞質における蛍光領域の面積を測定することによって数値化できることが分かった。また、核におけるTDP−43の局在量は、核における蛍光強度を測定することによって数値化できることが分かった。よって、本実施例で構築したスクリーニングシステムを用いて画像解析を行うことによって、モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量と、モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量をそれぞれ数値化することができた。そして、対照のモーターニューロン(TDP−43の局在が変化しているニューロン)のTDP−43の局在量を比較できることが分かった(図4及び5)。
そして、細胞内における作用が既知である946個の試験化合物(Selleck)について評価を行った。946個の化合物を作用メカニズムで分類した円グラフを図6に示す。試験化合物の濃度は5μMにして評価を行った。そして、MG−132のみ(対照)で処理したときの細胞質領域に発現しているTDP−43及び核領域に発現しているTDP−43の局在量と比較した。その結果、表4に示す7つの化合物がALS治療剤の候補としてヒットした。すなわち、表4に示す7つの化合物が、MG−132のみ(対照)で処理したときと比較して、細胞質領域に発現しているTDP−43及び核領域に発現しているTDP−43の局在量が変化していた。表4のスタティック(stattic)は、STAT3(シグナル伝達性転写因子3;signal transducer and activator of transcription 3)の阻害剤と知られている。また、スタティックは神経細胞の分化促進に関与していることが報告されている。本研究では、STAT3阻害剤を用いて、TDP−43の局在が阻害されるメカニズムについて解析することにした。
〔試験例3〕STAT3阻害剤によるTDP−43の局在変化への影響
試験例3でヒットしたスタティック(stattic)及び、スタティックと同様にSTAT3阻害剤であるニクロサミド(niclosamide)を用いて、TDP−43の局在が阻害されるメカニズムを解析することにした。ニクロサミドは駆虫薬として知られている。17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、スタティック又はニクロサミド及び100nMのMG−132(Wako)を添加した。そして、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図7及び8に示す。
試験例3でヒットしたスタティック(stattic)及び、スタティックと同様にSTAT3阻害剤であるニクロサミド(niclosamide)を用いて、TDP−43の局在が阻害されるメカニズムを解析することにした。ニクロサミドは駆虫薬として知られている。17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、スタティック又はニクロサミド及び100nMのMG−132(Wako)を添加した。そして、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図7及び8に示す。
図7中、*はP<0.01、**はP<0.001を示す。Blankは未処理のモーターニューロン、Controlは100nMのMG−132のみで処理したモーターニューロン、Niclosamideは100nMのMG−132とニクロサミドとで処理したモーターニューロン、Staticは100nMのMG−132とスタティックとで処理したモーターニューロンの結果を示す。N=3であり、グラフの数値は平均値±標準偏差である。Tukeyの多重比較法を用いて統計解析を行った。
図7及び8に示すように、ニクロサミド及びスタティックいずれの処理によって、細胞質におけるTDP−43の発現が抑制され、核におけるTDP−43発現消失が抑制された。
次に、MG−132の代わりに、亜ヒ酸ナトリウムを用いて、スタティック又はニクロサミド処理によるTDP−43の局在変化への影響を観察した。亜ヒ酸ナトリウムは、酸化ストレスを誘導することが知られている、ストレッサーである。17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、スタティック又はニクロサミド及び10μMの亜ヒ酸ナトリウム(SantaCruz)を添加した。そして、18日目(Day18)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図9及び10に示す。
図9中、*はP<0.01、**はP<0.001を示す。Blankは未処理のモーターニューロン、Controlは10μMの亜ヒ酸ナトリウムのみで処理したモーターニューロン、Niclosamideは10μMの亜ヒ酸ナトリウムとニクロサミドとで処理したモーターニューロン、Staticは10μMの亜ヒ酸ナトリウムとスタティックとで処理したモーターニューロンの結果を示す。N=3であり、グラフの数値は平均値±標準偏差である。Tukeyの多重比較法を用いて統計解析を行った。
図9及び10に示すように、亜ヒ酸ナトリウムのみで処理したモーターニューロンは、MG−132のみで処理したモーターニューロンと同様に、細胞質におけるTDP−43の発現が増え、核におけるTDP−43の発現が減少した。また、ニクロサミド及びスタティックいずれの処理によって、細胞質における亜ヒ酸ナトリウムの発現が抑制され、核における亜ヒ酸ナトリウム発現消失が抑制された。図9及び10の結果から、スタティックよりもニクロサミドの方が、ストレッサー化合物によるTDP−43の局在変化に影響を与えていると考えられる。試験例4以降は、ニクロサミドを用いて、ストレッサー化合物によるTDP−43の局在変化が阻害されるメカニズムを解析することにした。
〔試験例4〕ニクロサミド処理による神経細胞障害の抑制
17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、ニクロサミド及び100nMのMG−132を添加した。そして、20日目(Day20)又は24日目(Day24)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図11〜13に示す。
17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、ニクロサミド及び100nMのMG−132を添加した。そして、20日目(Day20)又は24日目(Day24)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図11〜13に示す。
図12のグラフはそれぞれ、神経細胞数当たりの軸索長(Neurite length per neuron)及び神経細胞当たりの分岐点の数(Branch points per neuron)を示す。神経形態変化の解析については、HCS Studio Cellomics ScanのNeuronal Profilingのメソッドに基づき、神経細胞当たりの神経突起長とBranch pointの数を解析した。画像解析による分岐点及び軸索の認識を示す図を図11に示す。
図12中、**はP<0.001を示す。Blankは未処理のモーターニューロン、Controlは100nMのMG−132のみで処理したモーターニューロン、Niclosamideは100nMのMG−132とニクロサミドとで処理したモーターニューロンの結果を示す。N=3であり、グラフの数値は平均値±標準偏差である。Tukeyの多重比較法を用いて統計解析を行った。
図11〜13に示すように、MG−132のみで処理することによって、神経細胞数がControlに比べて減った。また、MG−132の処理時間に伴い、神経細胞数が減ることも分かった。また、ニクロサミドの処理時間が3日間の結果に比べて、ニクロサミドの処理時間が7日間の結果では、MG−132によるTDP−43の局在変化がより抑制されていた。さらに、ニクロサミドの処理時間が3日間のときは、神経細胞当たりの神経突起長と分岐点の数はControlから変化が見られなかった。一方、ニクロサミドの処理時間が7日間のときは、神経細胞当たりの神経突起長と分岐点の数がControlに比べて有意に増加した。以上の結果から、ニクロサミドは、MG−132によって誘導される神経細胞障害を緩和する効果を有することが分かった。
〔試験例5〕ニクロサミド処理による神経細胞障害の抑制
ニクロサミドが直接標的とする分子は知られていない。一方、ニクロサミドは、JAK/STAT3、Wnt/β−カテニン及びmTORシグナル伝達を阻害することは知られている。また、ニクロサミドは、ミトコンドリアによる酸化的リン酸化を阻害し、細胞内ATP供給の減少を導くことも知られている。まず、ニクロサミド処理による酸化ストレスに伴う神経細胞障害への影響について検証することにした。
ニクロサミドが直接標的とする分子は知られていない。一方、ニクロサミドは、JAK/STAT3、Wnt/β−カテニン及びmTORシグナル伝達を阻害することは知られている。また、ニクロサミドは、ミトコンドリアによる酸化的リン酸化を阻害し、細胞内ATP供給の減少を導くことも知られている。まず、ニクロサミド処理による酸化ストレスに伴う神経細胞障害への影響について検証することにした。
17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、ニクロサミド及び100nMのMG−132を添加した。そして、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。細胞内ATP量の測定は、CellTiter-Glo 2.0 Cell Viability Assay(Promega)を用いて行った。カスパーゼ3/7活性測定は、Caspase-Glo 3/7assay(Promega)を用いて行った。ROS産生量の測定は、ROS-Glo H2O2 assay(Promega)を用いて行った。評価結果を図14及び15に示す。
図14のグラフはそれぞれ、細胞内ATP量(ATP content)、カスパーゼ3/7活性(Caspase 3/7)及びROS(H2O2)産生量を示す。**はP<0.001を示す。Blankは未処理のモーターニューロン、Controlは100nMのMG−132のみで処理したモーターニューロン、Niclosamideは100nMのMG−132とニクロサミドとで処理したモーターニューロンの結果を示す。N=3であり、グラフの数値は平均値±標準偏差である。Tukeyの多重比較法を用いて統計解析を行った。
図14及び15に示すように、ニクロサミド処理によって用量依存的に、細胞内ATP量及びカスパーゼ3/7活性が抑制された。カスパーゼ3/7活性はアポトーシス活性の指標となる。また、ニクロサミド処理によって用量依存的に、H2O2(ROS)の産生量が減少した。また、図15に示すように、CellROX試薬を用いた蛍光観察によっても、ニクロサミド処理によってROS産生量が減少することを確認した。以上の結果から、ニクロサミドは酸化ストレス応答を最小限にし、ミトコンドリアによるATP生産の減少によりROS産生及び細胞障害を抑制することが示唆された。
〔試験例6〕複数のSTAT3阻害剤によるTDP−43の局在変化の抑制
STAT3阻害剤として知られている、ニクロサミド(Sigma)、スタティック(Tocris Bioscience)、C188−9(Merck)、S3I−201(Seleck Chemicals)及びニフロキサシド(Nifuroxazide)に関し、MG−132によるTDP−43の局在変化を抑制するか否かを検証した。17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、STAT3阻害剤及び100nMのMG−132を添加した。そして、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図16及び17に示す。
STAT3阻害剤として知られている、ニクロサミド(Sigma)、スタティック(Tocris Bioscience)、C188−9(Merck)、S3I−201(Seleck Chemicals)及びニフロキサシド(Nifuroxazide)に関し、MG−132によるTDP−43の局在変化を抑制するか否かを検証した。17日目(Day17)のモーターニューロンの培地に、STAT3阻害剤及び100nMのMG−132を添加した。そして、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。評価結果を図16及び17に示す。
図16及び17中、*はP<0.01、**はP<0.001を示す。Blankは未処理のモーターニューロン、Controlは100nMのMG−132のみで処理したモーターニューロンの結果を示す。N=3であり、グラフの数値は平均値±標準偏差である。Tukeyの多重比較法を用いて統計解析を行った。
図16及び17に示すように、試験した5種類のSTAT3阻害剤いずれも、MG−132による細胞質におけるTDP−43の局在変化を抑制することが分かった。一方、S3I−201及びニフロキサシドに関しては、MG−132による核におけるTDP−43の局在変化を抑制していなかった。この結果は、STAT3活性以外の因子が、TDP−43の核の局在に影響を与えていると考えられる。
図18にはウエスタンブロットの結果を示す。図18は、試験した5種類のSTAT3阻害剤いずれも、リン酸化STAT3(Phospho-STAT3)の発現量が減少し、STAT3の制御に関与していることを示している。一方、ニクロサミドのみ、マイトファジーのマーカーであるリン酸化ユビキチンの発現量が増加し、オートファジーのマーカーであるLC3の発現量が増加していた。これらの結果から、MG−132による核内のTDP−43の消失をニクロサミドが抑制する作用は、STAT3阻害以外の別の作用が関与していることが示唆された。
〔試験例7〕ニクロサミドによるマイトファジー及びオートファジーの活性化
PINK1−Parkin経路はストレスにより障害を受けたミトコンドリアを除去すること、当該経路の異常はパーキンソン病の原因の1つであることが報告されている。PINK1は、PTEN誘導推定キナーゼ1(PTEN-induced putative kinase 1)である。また、ニクロサミドが、パーキンソン病モデルにおいてPINK1経路を活性化することが報告されている。上記で構築した評価システムを使用して、ニクロサミドによるPINK1経路の活性化を評価した。
PINK1−Parkin経路はストレスにより障害を受けたミトコンドリアを除去すること、当該経路の異常はパーキンソン病の原因の1つであることが報告されている。PINK1は、PTEN誘導推定キナーゼ1(PTEN-induced putative kinase 1)である。また、ニクロサミドが、パーキンソン病モデルにおいてPINK1経路を活性化することが報告されている。上記で構築した評価システムを使用して、ニクロサミドによるPINK1経路の活性化を評価した。
まず、TDP−43を誘導発現しない場合(4−OHT −)とTDP−43を誘導発現する場合(4−OHT +)で、ニクロサミド処理によるリン酸化STAT3(Phospho-STAT3)の発現量の変化をウエスタンブロットによって測定した。また、MG−132処理をしない場合(MG−132 −)とMG−132処理する場合(MG−132 +)で、ニクロサミド処理によるリン酸化STAT3(Phospho-STAT3)の発現量の変化も測定した。MG−132処理は、17日目(Day17)のモーターニューロンに行い、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。測定結果を図19に示す。
図19に示すように、ニクロサミド処理によって、用量依存的にSTAT3およびリン酸化STAT3の発現量が変化し、STAT3活性を改変した。また、TDP−43を誘導発現する(4−OHT +)ことによって、mkate2−TDP−43の発現が誘導されることも確認した。
次に、TDP−43を誘導発現しない場合(4−OHT −)とTDP−43を誘導発現する場合(4−OHT +)で、ニクロサミド処理によるリン酸化PINK1(Phospho-PINK1)、リン酸化Parkin(Phospho-Parkin)、リン酸化ユビキチン(Phospho-Ubiquitin)の発現量の変化をウエスタンブロットによって測定した。また、MG−132処理をしない場合(MG−132 −)とMG−132処理する場合(MG−132 +)で、ニクロサミド処理によるマイトファジーに関与する分子の発現量の変化をウエスタンブロットによって測定した。MG−132処理は、17日目(Day17)のモーターニューロンに行い、20日目(Day20)のモーターニューロンを評価した。ウエスタンブロットの結果を図20に示す。
図20に示すように、ニクロサミド処理によって、リン酸化PINK1(Phospho-PINK1)、リン酸化Parkin(Phospho-Parkin)、リン酸化ユビキチン(Phospho-Ubiquitin)の発現量が増加した。PINK1−Parkin経路において、自己リン酸化PINK1が、ParkinのSer65のリン酸化およびユビキチンのSer65のリン酸化によって、マイトファジーを活性することが知られている。また、このマイトファジーの活性によって、損傷ミトコンドリアの分解が起こることも知られている。図20の結果から、ニクロサミドはPINK1をリン酸化してPINK1を活性化し、さらにParkinおよびユビキチンもリン酸化することによってマイトファジーを誘導することが示唆された。
また、ニクロサミド処理によって、オートファジーに関与する分子の発現量の変化についても測定を行った。図20の結果から、ニクロサミド処理によって、LC3の発現量が増加した一方、SQSTM1/p62の発現量が減少していた。この結果から、ニクロサミド処理によってオートファジーが誘導されることが示唆された。
本発明の多能性幹細胞によって、精度が高い神経変性疾患の治療薬のスクリーニングシステムを提供することができ、例えば、医薬用途などに利用することができる。
Claims (11)
- TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞。
- 神経変性疾患の治療薬のスクリーニング方法であって、
TDP−43遺伝子が誘導発現可能に導入されている多能性幹細胞より分化誘導してなるモーターニューロンであって、その細胞質にTDP−43が局在するように方向付けがなされたものに対して被験物質を接触させる被験物質接触工程と、
前記被験物質接触工程後の、前記モーターニューロンの細胞質及び核におけるTDP−43の局在量に基づいて、前記被験物質を神経変性疾患の治療薬の候補として選択する選択工程とを含む、スクリーニング方法。 - 選択工程において、
被験物質を接触させない場合と比較して、前記モーターニューロンの細胞質におけるTDP−43の局在量が減り、前記モーターニューロンの核におけるTDP−43の局在量が増加したものを、神経変性疾患の治療薬の候補として選択する、請求項2に記載のスクリーニング方法。 - TDP−43遺伝子の発現を誘導する発現誘導工程をさらに含む、請求項2または3に記載のスクリーニング方法。
- 前記誘導発現されるTDP−43は蛍光標識されている、請求項2〜4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 前記選択工程が、
前記モーターニューロンの画像を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程によって得られた画像における、モーターニューロンの細胞質及び核を検出する検出工程と、
前記検出工程によって検出された細胞質における蛍光領域の面積を、細胞質におけるTDP−43の局在量と計算し、前記検出工程によって検出された核における蛍光強度を、核におけるTDP−43の局在量として計算する計算工程と、を含む、請求項5に記載のスクリーニング方法。 - 前記被験物質接触工程と同時に、又は、前記被験物質接触工程よりも前に、前記モーターニューロンに、TDP−43の局在変化を誘導する局在変化誘導剤を接触させる局在変化誘導工程をさらに含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 前記神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及びレビー小体病からなる群から選択される、請求項2〜7のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
- 請求項1に記載の多能性幹細胞を含む、神経変性疾患の治療薬のスクリーニングキット。
- STAT3阻害剤を有効成分として含有する、神経変性疾患の治療薬。
- 前記STAT3阻害剤がニクロサミドである、請求項10に記載の治療薬。
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