JP2021176509A - 細胞注入装置およびその作動方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体組織中に移植細胞を好ましく注入し得る装置およびその作動方法を提供すること。【解決手段】当該細胞注入装置は、収容部13に収容された懸濁流体30と、該収容部に接続された注射針20と、押出し機構(10、50)とを少なくとも有して構成され、押出し機構は、懸濁流体が注射針の先から流出するときの流量が1〔μL/秒〕以下であるように、該懸濁流体を収容部から注射針を通じて外部へと押し出す作動を行うように構成される。この低流量での注入により、生体細胞が受ける損傷をより小さくしながら移植細胞を注入することができる。【選択図】図1

Description

本発明は、生体組織中に細胞を注入するための細胞注入装置、および、その作動方法に関する。
生体組織(以下、単に、組織ともいう)中に細胞を移植する方法の1つとして、移植すべき細胞を搬送用の液体と共に組織中に注入する方法が知られている(例えば、非特許文献1など)。以下、移植のために組織中に注入される細胞を「移植細胞」とも呼び、移植細胞の注入先(移植先)の生体組織を「ホスト組織」とも呼び、ホスト組織を構成する細胞を「ホスト細胞」とも呼ぶ。
従来、組織中に移植細胞を注入するための装置としては、シリンジやインジェクターなど、種々の薬物注入装置が転用されている(特許文献1、2など)。例えば、シリンジを用いた細胞注入では、細胞搬送用の液体中に移植細胞が分散してなる懸濁流体が、注射針付きのシリンジ内に吸引され、該注射針の先端部がホスト組織中に挿入され、手動によってシリンジのプランジャーが押され、懸濁流体が注入される。このときの懸濁流体の注入速度(流量)は、数10〜数100〔μL/秒〕程度である。本明細書では、単位中の「L」は、リットルを表す。
しかしながら、ホスト組織中に移植細胞を注入する方法では、次のような問題が発生することが知られている。
例えば、図19は、心臓壁中に心筋細胞を注入によって移植する治療の様子を模式的に示す図である。該治療では、図19(a)に示すように、移植細胞である心筋細胞210が、懸濁液200の態様にて、注射針など細管300を通じて、ホスト組織100である心臓壁中に注入される。懸濁液200は、心筋細胞210が注入用液220中に分散したものである。該懸濁液がホスト組織中に注入されると、図19(b)に示すように、移植細胞210をとりまく注入用液220の部分が線維化し、移植細胞全体を取り囲む隔壁となり、それによって、健常なホスト細胞と移植細胞との直接的な結合が妨げられる場合がある。図20は、移植細胞210をとりまく部分が線維化部分230となった様子を示す顕微鏡写真図であり、線維化部分230が絶縁壁となって、移植細胞210がホスト組織100の細胞に接触できない状態を示している。
また、皮膚の真皮中に移植細胞を懸濁液の態様にて注入する治療では、該懸濁液を注入すると、ホスト組織である真皮に炎症と線維化が惹起され、該真皮が部分的に瘢痕化する場合があることが知られている。よって、皮膚に対する細胞注入治療では、真皮の瘢痕形成を抑制すべきであることが報告されている。
また、脳の損傷や脊髄損傷に対する細胞注入治療では、移植細胞を含んだ懸濁液の注入によって脳や脊髄が損傷を受けて、グリア細胞が惹起されて活性化し、グリア瘢痕と呼ばれる瘢痕化をきたす場合があることが知られている。よって、脳の損傷や脊髄の損傷に対する細胞注入治療では、注入操作そのものにより惹起されるグリア細胞の活性化を抑制することで、さらに有効性を高められる可能性があることが報告されている。
特開平01−308567号公報 特開平02−004383号公報
本発明者は、上記の問題(第1の問題)を解決すべく、移植細胞の注入によって生じる上記変質(線維化、瘢痕化、グリア瘢痕など)の発生メカニズムをより詳細に検討し、ホスト組織中に懸濁液が急激に流入すること自体によって、注入部位のホスト組織またはホスト細胞が、せん断、破断、圧縮などの損傷を受け、それにより上記の変質が発生することを見出した。
本発明の目的は、注入部位のホスト組織の損傷を低減し得、生体組織中に移植細胞を好ましく注入し得る装置を提供すること、および、該装置を作動させる方法を提供することにある。
本発明の主たる構成は、次のとおりである。
〔1〕生体組織中に細胞を注入するための細胞注入装置であって、当該細胞注入装置は、
収容部を有し、
前記収容部に収容された懸濁流体を有し、該懸濁流体は前記細胞が媒質流体中に分散したものであり、
前記収容部に直接的にまたは管路を介して接続された注射針を有し、
前記懸濁流体が前記注射針の先から流出するときの流量が1〔μL/秒〕以下であるように、該懸濁流体を前記収容部から前記注射針を通じて外部へと押し出す作動を行うよう構成された押出し機構を有する、
前記細胞注入装置。
〔2〕上記媒質流体は、上記生体組織の温度を含む高温側の温度範囲T1における第1の粘度α1と、該高温側の温度範囲T1よりも低い低温側の温度範囲T2における第2の粘度α2を有し、第1の粘度α1は、1000〔mPa・s〕以下であり、第2の粘度α2は、10000〔mPa・s〕以上であり、
当該細胞注入装置は、上記収容部内の懸濁流体を低温側の温度範囲T2に維持するための冷却器または断熱材を有し、
使用時においては、上記収容部内で低温側の温度範囲T2に維持された懸濁流体が、前記注射針の先端では高温側の温度範囲T1へと温められて第1の粘度α1となって、上記注射針の先端から流出する、
上記〔1〕に記載の細胞注入装置。
〔3〕高温側の温度範囲T1が、21〜42〔℃〕であり、
第1の粘度α1が、0.5〜1000〔mPa・s〕であり、
低温側の温度範囲T2が、0〜20〔℃〕であり、
第2の粘度α2が、5000より大きい値〔mPa・s〕である、
上記〔2〕に記載の細胞注入装置。
〔4〕上記媒質流体が、高温側の温度範囲T1において第1の粘度α1を有するゾルとなり、低温側の温度範囲T2において第2の粘度α2を有するゲルとなるものである、上記〔2〕または〔3〕に記載の細胞注入装置。
〔5〕当該細胞注入装置は、上記押出し機構として、シリンダーとプランジャーとを有するシリンジを有し、該シリンダーと該プランジャーとによって該シリンダー内の先端側には上記収容部が形成され、該シリンダーの先端部には、上記注射針が接続されており、
前記押出し機構は、上記流量が達成される速度にて前記プランジャーを前記シリンジの先端部の方へと移動させるよう構成されたアクチュエーターを、駆動源としてさらに有する、
上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞注入装置。
〔6〕上記アクチュエーターが、作動液の供給によってピストンが直線的に移動する液圧シリンダーであって、
前記ピストンに接続されたピストンロッドが、上記シリンジのプランジャーを押すように、該プランジャーに接続されている、
上記〔5〕に記載の細胞注入装置。
〔7〕上記アクチュエーターが、弾性体とダンパーを有し、
前記弾性体は、原形状から変形した状態で配置され、かつ、原形状への復帰力が前記プランジャーを移動させるように配置され、
前記ダンパーは、前記プランジャーの移動に抵抗し、該弾性体の該形状変位の速度を制限するように配置され、
前記弾性体の復帰力と前記ダンパーの抵抗とが、上記流量が達成される速度にて前記プランジャーを前記シリンジの先端部の方へと移動させるように選択されている、
上記〔5〕に記載の細胞注入装置。
〔8〕上記シリンジのシリンダーの外側先端面には、上記注射針を上記生体組織に穿刺したときに、該生体組織の表面と該シリンダーとの間に介在するための第1の支持部材が設けられ、
第1の支持部材は、上記生体組織の表面に直接的にまたは接着剤を介して接触するための対物面を有し、上記注射針は、該シリンダーから第1の支持部材を貫通し、前記対物面から突き出している、
上記〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の細胞注入装置。
〔9〕上記第1の支持部材の対物面には、該第1の支持部材を上記生体組織の表面に固定するための接着剤層が付与されている、上記〔8〕に記載の細胞注入装置。
〔10〕上記注射針は、その針管部が円弧をなして湾曲しており、該円弧の中心角は、45〜90度であり、
上記第1の支持部材は、さらに、
前記円弧の中心点を通過しかつ該円弧を含む平面に直交する中心軸線と一致して延びるエッジ部を有するか、または、
前記中心軸線を内部に包含し、該中心軸線に沿って延び、かつ、該中心軸線と同心状に丸みを帯びたエッジ部を有する、
上記〔8〕または〔9〕に記載の細胞注入装置。
〔11〕上記第1の支持部材の対物面と、該対物面から突き出す上記注射針の針管部とのなす角度が、90度ではない、上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の細胞注入装置。
〔12〕上記注射針は、その針管部が円弧をなして湾曲しており、該円弧の中心角は、45〜90度であり、
上記シリンジのシリンダーには第2の支持部材が設けられ、該第2の支持部材は、
前記円弧の中心点を通過しかつ該円弧を含む平面に直交する中心軸線と一致して延びるエッジ部を有するか、または、
前記中心軸線を内部に包含し、該中心軸線に沿って延び、かつ、該中心軸線と同心状に丸みを帯びたエッジ部を有する、
上記〔8〕または〔9〕に記載の細胞注入装置。
〔13〕当該細胞注入装置は、上記押出し機構として浸透圧ポンプを有し、
該浸透圧ポンプは、
液体透過膜を介して互いに隣接する第1室と第2室とを有し、
第1室内に配置された液体が浸透圧差によって前記液体透過膜を透過して第2室内に配置された浸透圧生成材料中へと移動し、それにより第2室が膨張し、第2室の膨張によって上記収容部が押圧され、上記流量にて懸濁流体が該収容部から注射針を通じて外部へと押し出されるように構成されている、
上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞注入装置。
〔13〕上記〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の細胞注入装置の作動方法であって、
前記細胞注入装置の押出し機構の作動によって、該細胞注入装置の収容部に収容された懸濁流体を、該細胞注入装置の注射針の先から1〔μL/秒〕以下の流量にて流出させる工程を有する、
前記作動方法。
従来の細胞移植では、細胞を含んだ懸濁液が注射針付きのシリンジ内に吸引され、組織に注射針を挿入した後に、手動によってシリンジのプランジャーが押し込まれ、数10〜数100〔μL/秒〕の流量にて、懸濁液が組織中に注入されていた。そのような注入は、従来ではゆっくりした注入であると考えられていたが、本発明によれば、組織が損傷を受けるような高速の注入である。所定量の懸濁液が手動によって高速で流入することによって、注入部位における組織(または細胞)は引き裂かれ、圧縮をも受け、損傷を受ける。この損傷が引き金となって、図19(b)に示したように、間質細胞や線維芽細胞の浸潤が誘導され、細胞外マトリックスのランダムな編み目構造を有する線維化組織(いわゆる瘢痕)が形成される。注入された移植細胞は、この線維化組織に囲まれて絶縁され、周囲のホスト組織と接触することができず、本来の治療目的を果たすことが出来なかった。
これに対して、本発明では、注射針の先から流出するときの流量が1〔μL/秒〕以下にて、懸濁流体がホスト組織中に流入する。なお、通常のシリンジでは、シリンダーの内径が注射針の内径よりも大きいから、懸濁流体の流速よりも、プランジャーの移動速度をさらに小さくしなければならない。本発明において十分に遅くされた懸濁流体の流速よりもさらに小さい速度でプランジャーを正確に移動させることは、手動では実質的に困難であるから、プランジャーの極めて遅い移動は、本発明において新たに開発された押出し機構によって達成される。
一方、該ホスト組織では、毛細血管から染み出した組織液が、ゆっくりとリンパ管へと向かって流れている。本発明において実施する前記のような極めて小さい流量(1〔μL/秒〕以下)は、ホスト組織中における組織液の流れに近づけようとしたものである。即ち、前記のような極めて小さい流量にて懸濁流体がホスト組織中に流入すると、その懸濁流体を構成する媒質流体は、組織液の流れによって注入部位からホスト組織中へと次々に流れ去り、注入部位には移植細胞だけが残される。その結果、注入部位のホスト組織が受ける損傷は、注入された移植細胞の体積だけに起因する最小限のものとなる。よって、移植細胞の周囲に線維化組織が発生することが抑制され、移植細胞はホスト組織(またはホスト細胞)に接触して結合することができる。
(さらなる問題と解決策)
本発明者は、シリンジのプランジャーが精密に微小な速度で移動する注入装置を開発して、従来よりも十分に小さい流量で懸濁液を注射針の先からホスト組織中へ流出させることを新たに試みた。しかしながら、プランジャーの移動速度を極めて遅くすると、シリンダー内の懸濁液に生じる注射針への流れの速さは、注射針内での流れの速さに比べて極めて遅くなる。そのような場合、シリンダー内の懸濁液のうち、媒質液だけがシリンダーから注射針内へと極めてゆっくり出て行き、移植細胞は移動せずにシリンダー内に残される場合が多くなるという、新たな問題が生じることがわかった。以下、懸濁液の流量を小さくすることで新たに生じる、このようなさらなる問題を「第2の問題」とも呼ぶ。
本発明では、前記の第2の問題を解決するために、さらに、次の(I)および(II)の特徴的な構成を備えている。
(I)細胞注入装置の収容部に収容される懸濁流体を構成する媒質流体が、生体組織の温度を含む高温側の温度範囲T1における第1の粘度α1と、該高温側の温度範囲T1よりも低い低温側の温度範囲T2における第2の粘度α2とを有し、第1の粘度α1は、1000〔mPa・s〕以下であり、第2の粘度α2は、10000〔mPa・s〕以上である。以下、「高温側の温度範囲T1」を「高温T1」と略し、かつ、「低温側の温度範囲T2」を「低温T2」と略す場合がある。
(II)細胞注入装置が冷却器または断熱材を有し、それにより、収容部内の懸濁流体の温度が、低温側の温度範囲T2に維持される。
上記の(I)および(II)の特徴的な構成を備えることによって、懸濁流体の媒質流体は、収容部内では、低温T2でより高い粘度(第2の粘度α2)となる。よって、たとえ1〔μL/秒〕以下という極めて小さい流量を達成するために押出し機構が極めて遅く作動しても、媒質流体がその高い粘度α2ゆえに、移植細胞を伴って収容部から注射針へと入る可能性がより高くなる。一方、注射針の先端側は組織中に挿入されて組織の温度に加熱される。また、注射針の中間部分は、外気に接触することで加熱される場合もある。また、注射針の先端から出ようとする懸濁流体は組織によって直接的に加熱される。よって、懸濁流体の媒質流体は、注射針中を移動しながら高温T1となり、よって、より低い粘度(第1の粘度α1)となって、注射針の先からホスト組織中へと流入する。よって、前記の第2の問題が解決される。
図1は、本発明による細胞注入装置の構成の一例を概略的に示す断面図である。同図では、領域を区別し易いように、シリンダーと注射針と針基部分の断面だけにハッチングを施している。また、同図では、注射針が生体組織に穿刺され、懸濁流体が注入されている状態を示している。 図2は、本発明による細胞注入装置の具体的な構成の一例を示す断面図(図2(a))、および、実施例を示す実験のために実際に制作した当該装置の写真図(図2(b))である。図2(a)では、要素を区別し易いように、ハウジング(支持フレーム)と冷却器(または断熱材)の断面だけにハッチングを施している。図2(b)の構成は、細部において図2(a)の構成と異なっている。 図3は、本発明による細胞注入装置の好ましい態様の一例を概略的に示す断面図である。同図では、各部の断面を区別し易いようにハッチングを適宜施している(図4、図5、図6も同様である)。 図4は、本発明による細胞注入装置の好ましい態様の他の例を概略的に示す断面図である。 図5は、本発明による細胞注入装置の好ましい態様の他の例を概略的に示す断面図である。 図6は、本発明による細胞注入装置の好ましい態様の他の例を概略的に示す断面図である。注射針と針基部分は、断面を示していない。 図7は、本発明に基づき1〔μL/秒〕以下の流量にて懸濁流体を心臓壁に注入した場合の、注入部位の線維化の様子を示す顕微鏡写真図である。図7(a)は、I型コラーゲン染色、図7(b)は核染色、図7(c)は移植細胞染色を行った画像であり、図7(d)はマージ(merged)画像である。図7(a)〜(d)の各画像の横方向の全長は、約1.2mmである。 図8は、従来と同様の流速にて懸濁流体を心臓壁に注入した場合の、注入部位の線維化の様子を示す顕微鏡写真図である。図8(a)は、I型コラーゲン染色、図8(b)は核染色、図8(c)は移植細胞染色を行った画像であり、図8(d)はマージ(merged)画像である。図8(a)〜(d)の各画像の横方向の全長は、約1.2mmである。 図9は、従来法および本発明に従って懸濁流体を注入した場合の、注入後に生存した移植細胞の体積を示すグラフ図である。該グラフ図の縦軸の単位(a.u)は、任意単位を意味する。 図10は、本発明に基いて懸濁流体を心臓壁に注入した場合の、心臓ポンプ機能の変化を示すグラフ図である。 図11は、本発明に基いて懸濁流体を心臓壁に注入した場合の、注入部位のホスト組織および注入された心筋細胞の様子を示す顕微鏡写真図である。 図12は、図11中の領域a1を拡大して示した顕微鏡写真図である。 図13は、図11中の領域a2を拡大して示した顕微鏡写真図である。 図14は、本発明において、市販の浸透圧ポンプを用いた細胞注入装置の一例を概略的に示す断面図、および、該細胞注入装置に冷却水を循環させる配管構成例を示したブロック図である。同図では、細胞注入装置における、市販の浸透圧ポンプ、注射針、針基部分の断面は示していない。実際の容器の底は、図15(a)に示すとおり丸底(半球状)であるが、図14では、より単純な図とするために平底として描いている(図16も同様である)。 図15は、図14に示した細胞注入装置の大小2種類の試作機の写真図(図15(a))、および、それに用いた市販の浸透圧ポンプのうちの大小2種類の製品(先端のニードルはキャップによって覆われている)の写真図(図15(b))である。 図16は、図15に示した細胞注入装置の試作機が実際に動作可能であるかを調べた実証実験の構成を示す断面図である。同図では、各細胞注入装置の断面は示していない。 図17は、図16に示した実証実験の実際の様子および結果を示す写真図である。 図18は、図16に示した実証実験において吐出されたゲルの顕微鏡写真図である。 図19は、従来において、心臓壁中に心筋細胞を注入によって移植する治療の様子とその問題点を模式的に示す図である。 図20は、従来において、ホスト組織中に移植細胞を注入によって移植する治療において、移植細胞をとりまく部分が線維化した様子を示す顕微鏡写真図である。
以下、先ず、本発明の細胞注入装置を詳細に説明する。
図1に構成の一例を模式的に示すように、当該細胞注入装置は、生体組織100中に移植細胞を注入するための装置であって、懸濁流体30が収容された収容部13と、注射針20と、押出し機構(10、50)とを少なくとも有する。懸濁流体30は、移植細胞31が媒質流体32中に分散してなるものである。押出し機構は、1〔μL/秒〕以下という極めて小さい流量Q1でかつ遅い流速となるように、懸濁流体30を注射針20の先から流出させることができる。
これにより、懸濁流体30がホスト組織中に流入すると、媒質流体32は組織液の流れと共に周囲の組織へと流れ去り、移植細胞だけが注入部位に残される。その結果、注入部位のホスト組織が受ける損傷は、注入された移植細胞だけの体積に応じた最小限のものとなる。よって、移植細胞の周囲に線維化組織が発生することが抑制され、移植細胞はホスト組織(またはホスト細胞)に接触して結合し、目的の治療効果が得られる。
(生体)
本発明によって移植細胞を注入する対象の生体は、特に限定はされず、植物および動物であってよい。上記した第2の問題を解決すべく、媒質流体として温度に応じて粘度が変わるものを用いる場合には、組織の温度が高い生体の方が、本発明の作用効果がより顕著に示される。そのような生体としては、種々の動物、とりわけ、恒温動物である哺乳類(ヒト、伴侶動物(イヌ、ネコ、ウサギ、げっ歯類、その他)、産業動物(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、その他)、実験用動物(げっ歯類、ヒト以外の霊長類)など)が例示される。
(懸濁流体)
懸濁流体30は、媒質流体32と、その中に分散した移植細胞31を有する。媒質流体32は、組織中に注入することが可能な流体または液体が利用可能である。媒質流体の詳細については、後述する。移植細胞31は、媒質流体中に均一に分散することが好ましいが、沈降などによって、媒質流体中一部に偏っていてもよい。組織中に注入される懸濁流体の体積は、生体の種類によっても異なるが、例えば、ヒトの心臓の治療を目的として、心臓壁内に心筋細胞を注入する場合などでは、一回の注入量は、10μL〜2mL程度である。
(治療対象の疾患)
細胞注入による治療対象の疾患は、特に限定はされないが、例えば、神経、眼、循環器、腎、消化器、筋・骨格、皮膚などの分野における疾患が挙げられ、重症心不全、骨髄損傷、パーキンソン氏病、腎不全、網膜色素神経障害、筋無力症などが挙げられる。
(移植細胞)
移植細胞としては、特に限定はされないが、心筋細胞、神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、グリア細胞、蛸足細胞、メサンギウム細胞、上皮細胞、内皮細胞、間質細胞、網膜色素細胞、視細胞、肝細胞、真皮細胞、組織幹細胞などが挙げられる。
(懸濁流体に占める細胞の比率)
懸濁流体中の媒質流体と移植細胞との体積比率は、特に限定はされないが、移植時間(細胞注入装置からの流出時間)の短縮の点から、該体積比率(媒質流体の体積/移植細胞の体積)は、2〜10程度が好ましい。
(懸濁流体が注射針の先から流出するときの流量Q1)
懸濁流体が注射針の先から流出するときの流量Q1は、注入部位に流入する懸濁流体中の媒質流体がホスト組織中に好ましく流れ去る点から、1〔μL/秒〕以下が好ましく、そのときの流速は、例えば、91〔mm/秒〕以下が好ましい。この91〔mm/秒〕という流速は、市販の汎用的な注射針のうち最も細い注射針30Gの内径0.12〔mm〕と、前記の流量の上限値1〔μL/秒〕とから算出した、流速が最も高くなる組み合わせの例における値である。従来の細胞注入における流量は、数10〜数100〔μL/秒〕程度の高速であったから、本発明で提唱する流量の上限は、1〔μL/秒〕を超えてもよいが、線維化の抑制を考慮して、流量の上限を1〔μL/秒〕としている。
該流量Q1の下限は特に限定はされないが、該流量が過度に小さいと、治療に必要な移植細胞を全て注入するのに要する時間が無駄に長くなり、被験体にも負担となる。また、押出し機構の構成および/または制御の構成の点からも、過度に小さい送り量(流量)を達成するには、構成が複雑になり、達成が困難にもなり得る。そこで、これらの付帯的な理由に鑑み、本発明では、該流量の適当な下限の一例として、0.01〔μL/秒〕を提案する。このときの流速の下限は、例えば、0.015〔mm/秒〕である。この0.015〔mm/秒〕という流速は、市販の汎用的な注射針のうち最も太い注射針16Gの内径1.65〔mm〕と、前記の流量の下限値0.01〔μL/秒〕とから算出した、流速が最も低くなる組み合わせの例における値である。
以上の点からは、流量Q1の好ましい範囲は、0.01〜1.0〔μL/秒〕が例示される。また、注入時間の適正化の点からは、0.02〜0.5〔μL/秒〕、さらには、0.05〜0.5〔μL/秒〕、さらには、0.05〜0.1〔μL/秒〕がより好ましい範囲として例示される。流速は、前記のように、使用される注射針の内径と流量から算出され得る。なお、注入すべき移植細胞の量や懸濁流体の量がごく微量であり、かつ、より高精度な押出し機構を用いることができるならば、0.005〔μL/秒〕など、0.01〔μL/秒〕よりもさらに小さい流量を下限とすることもでき、注入部位のホスト組織が受ける損傷を低減するという本発明の目的を達成しながら、懸濁流体を注入することができる範囲内で、流量を適宜に決定してよい。
(収容部)
収容部の態様や形は、後述の押出し機構の構成や押し出しの原理に関連し得、該収容部は、該押出し機構の一部であると解することもできる。図1に示す好ましい例では、収容部13は、押出し機構の構成要素の1つであるシリンジ10内の空間として設けられる。より詳細には、シリンジ10はシリンダー11とプランジャー12とを有し、プランジャー12は、ガスケット部12aとプランジャーロッド12bとを有し、収容部13は、シリンダー11とガスケット部12aとによって形成される、シリンダー11内の先端側の空間として設けられる。シリンジの各部の材料は、懸濁流体に悪影響を与えないものが利用可能であり、ガラス、プラスチック、金属など、従来公知の医療用のシリンジの材料を用いてよい。
(収容部の容積)
収容部の容積は、注入すべき懸濁流体の体積(注入体積)であってよく、注入体積にデッドボリュームによるロス等を適宜加えた容積であってよい。例えば、ヒトの心臓壁、皮膚の真皮、脳または脊髄などに対して移植細胞の一般的な一回分の注入体積としては、10〔μL〕〜3〔mL〕程度が例示される。収容部の容積は、一回分の注入のための容積であってもよいし、同じ部位に時間をおいて複数回注入したり、異なる部位に次々と注入し得るような、より大きい容積であってもよい。また、収容部の容積は、単に注入体積よりも大きいだけであってもよく、注入体積は押出し機構によって決定され、注入後、収容部内に懸濁流体が残ってもよい。
(シリンダーの内径)
収容部がシリンジ内の空間として設けられる場合、該シリンジを構成するシリンダーの内径d1は、特に限定はされないが、該内径d1が過度に大きいと、プランジャーを微量だけ移動させるだけで、大量の懸濁流体が送りだされる結果となり、微小な流量を正確に制御することが困難になる場合がある。一方、該内径d1が過度に小さいと、収容部の所定の容積を確保するためにシリンジが過度に長くなり、また、プランジャーの全移動距離も過度に大きくなり、好ましくない場合がある。
これらの点から、ヒトの心臓壁、皮膚の真皮、脳または脊髄などに対して移植細胞の通常の注入を一回行う場合、前記シリンダーの内径d1は、3mm〜15mm程度が好ましく、4mm〜10mm程度がより好ましい。
(注射針)
本発明でいう「注射針」には、従来公知の医療用の注射針のみならず、上記した1〔μL/秒〕以下という極めて小さい流量Q1にて懸濁流体を流出させ得る細管も含まれる。即ち、本発明でいう「注射針」は、必ずしも、皮膚を穿刺するための鋭利な先端を有していなくともよい。生体の外部から皮膚を貫通し得、懸濁流体をホスト組織中に注入する点では、注射筒の先端に装着される医療用の注射針(例えば、JIS T3101−1979に規定されたもの)は好ましい態様である。注射針の形態は特に限定はされないが、図1に示すように、市販の標準的な医療用の注射針20は、針管部21と針基部22とを有し、シリンダー11に直接的に取り付けることが可能になっている。針管部の材料は、ステンレスなどの金属や、プラスチックが例示される。針基部とシリンダーとの着脱構造(ルアーテーパ、ルアーロックなど)も、従来公知のものを利用することができる。また、注射針は、シリンダーに対して、軟質のチューブなどを介して接続されてもよく、その場合には、必要量の懸濁流体が組織中に送達されるように、チューブ内のデッドボリュームが適宜考慮される。
注射針の針管部の内径(注射針が単なる細い管である場合には、該管の内径)は、特に限定はされないが、組織の損傷をより小さくする点からは、針管部の内径はより小さい方が好ましい場合があり、一方、針管部の内径が過度に小さいと、移植細胞(細胞塊など)が通過できずダメージを受ける場合があり、また、収容部内において高粘度となった媒質流体が針管部内にスムーズには入らない場合もある。これらの点からは、針管部の内径は、0.07mm〜1.65mm程度が好ましく、0.12mm〜0.51mm程度がより好ましい。
(押出し機構)
押出し機構は、図1に示すように、収容部13内の懸濁流体30を、該収容部から注射針20を通じて外部(即ち、注射針の先が挿入された組織中)へと押し出す作動を行うように構成され、かつ、該懸濁流体30を注射針20の先から1〔μL/秒〕以下の流量にて流出させるように構成または制御される。図1の例では、押出し機構は、シリンジ10を有し、かつ、そのプランジャー12をシリンダー11内に所定の速度v1〔mm/秒〕で押し込んで移動させるように作動する駆動源50を有する。前記の所定の速度v1〔mm/秒〕は、懸濁流体が上記した規定の流量Q1(1〔μL/秒〕以下)にて、該注射針の先から流出するように、シリンダーの内径d1〔mm〕に応じて設定されてよい。例えば、流量Q1が1〔μL/秒〕である場合、プランジャーの移動速度v1〔mm/秒〕は、次式から求めることができる。
Q1=1〔μL/秒〕={(d1)π/4}〔mm〕×v1〔mm/秒〕
上記した好ましいシリンダーの内径d1におけるプランジャーの好ましい移動速度v1〔mm/秒〕は、0.14〔mm/秒〕以下であり、好ましくは、0.0032〜0.02〔mm/秒〕程度が例示される。
(押出し機構の駆動源)
押出し機構が、図1に示すようなシリンジ10内の懸濁流体30を送り出す機構(10、50)である場合、駆動源50としては、上記移動速度v1にて該シリンジのプランジャーを該シリンジの先端側へと後方側から押して(または、先端側から引っ張って)移動させるよう構成されたアクチュエーターが挙げられる。
(押出し機構の駆動源の例1:液圧シリンダー)
上記アクチュエーターとしては、後述の図2に例示するように、作動液供給源からの作動液(水や作動オイルなど)の供給によってピストンが直線的に移動する液圧シリンダー(水圧シリンダー、油圧シリンダーなど)が例示される。液圧シリンダーにおける「シリンダー」は、シリンダーチューブと、その内部を直線的に移動するピストンと、該ピストンに連結されたピストンロッドとを少なくとも有するアクチュエーター装置を意味する。該ピストンロッドの先端部が、シリンジ10のプランジャーロッドを押して移動させるように、該液圧シリンダーはシリンジ10に連結される。図2(b)の例では、医療用のシリンジ50aが液圧シリンダーとして転用されており、作動液供給源に配管(チューブ)55で接続された注射針を通してシリンジ内に作動液が供給され、それにより、該シリンジのプランジャーロッド(ピストンロッド)がシリンジ10のプランジャー12を押すように構成されている。作動液供給源のポンプの作動液を送る原理は特に限定はされず、電動シリンジポンプや蠕動ポンプ(チューブポンプ)などが挙げられる。
(押出し機構の駆動源の例2:弾性体とダンパー)
上記アクチュエーターとして、後述の図3に例示するように、弾性体(図3の例では、引張りバネ)58と、ダンパー(流体を封入した粘性ダンパーなど)56とを組み合わせた機構が挙げられる。該弾性体58は、原形状から変形した状態で配置され、ストッパー59などで変形した状態に維持される。該弾性体58は、原形状への復帰力が前記プランジャーを押して移動させるように配置される。一方、ダンパー56は、その粘性抵抗によって前記プランジャーの移動に抵抗し、その移動の速度を上記移動速度v1に制限するように配置される。弾性体の復帰力とダンパーの抵抗は、上記した規定の流量Q1が達成される速度にて前記プランジャーを前記シリンジの先端側へと押して移動させるように選択される。該弾性体は圧縮バネであってもよく、その場合には、シリンジは、例えば、適当なハウジング内にセットされ、該圧縮バネは、プランジャーロッドの後方に圧縮変形した状態で配置される。該圧縮バネの一端はハウジングに接触し、他端はプランジャーに接触する。プランジャーの移動を阻止するストッパーは適宜に設けられる。図3の構成については下記で詳細に説明する。
アクチュエーターは、シリンジのプランジャーロッドを上記移動速度v1で移動させ得るものであれば、上記の液圧公知の種々の精密直動装置が利用することができる。例えば、電動スピンドル装置やボールネジアクチュエーターなどは、制御されたモーターの回転運動を精密な直動運動に変換し得る。
前記の所定の速度v1は、駆動源が電気的または電子的な制御装置を有するならば、該制御装置に記憶または設定されてもよいし、また、モーターの回転数を決定する素子の値や、弾性定数とダンパーの減衰特性など、作動を決定する要素自体の特性によって設定されてもよい。
(収容部と押出し機構の他の態様)
収容部は、細いチューブ内の空間などであってもよい。この場合、該チューブ内に懸濁流体が充填され、該チューブの一端側に注射針が接続される。そして、他端側(懸濁流体の後ろ側)から、ポンプによって、押し出し用の作動流体が前記の極めて小さい流量Q1にて該チューブ内に送り込まれる。これにより、懸濁流体は作動流体に押されて注射針から前記流量Q1にて流出する。押し出し用の作動流体は、懸濁流体と容易に混ざり合わないような高い粘度のものであることが好ましく、懸濁流体の媒質流体を冷却して用いてもよい。また、このような態様で用いられるポンプは、シリンジポンプやチューブポンプ(蠕動ポンプ)など、押し出し用の作動流体の流量を正確に制御し得るものが利用可能である。
当該細胞注入装置は、臨床において使い易く、少なくとも、懸濁流体が接触する部分がディスポーザブルであることが好ましい。このような点からは、注射針が接続されたシリンジや注射針が接続されたチューブが、ディスポーザブルであるように、駆動装置やポンプと着脱可能に接続した押出し機構は好ましい態様である。
(懸濁流体に用いられる媒質流体)
媒質流体は、コラーゲン、ゼラチン、カラギーナン、人工ペプチド、高分子重合体、高分子複合体などが挙げられ、従来において移植細胞の注入に用いられていた液体であってもよい。ゼラチン等を用いる場合には、移植細胞を注入する対象の生体の生物種に適合するものを用いることが好ましい。特に、移植細胞を注入する対象の生体がヒトの場合は、人工的に合成されたヒトゼラチンを用いることが好ましい。
(第2の問題を解決するための媒質流体)
上記した第2の問題を解決するためには、媒質流体は、次の(a1)、(a2)の条件を満たすことが好ましい。
(a1)媒質流体は、組織の温度を含む高温側の温度範囲である高温T1においては、第1の粘度α1を有する。第1の粘度α1は、ホスト組織中で組織液と共に速やかに流れ去ることができる粘度である点から、該組織液と同等またはそれより低い粘度であることが好ましい。
(a2)媒質流体は、高温T1よりも低い低温側の温度範囲である低温T2においては、第2の粘度α2を有する。第2の粘度α2は、第1の粘度α1よりも大きく、収容部内において、極めて遅い流れであっても、移植細胞を置き去りにすることなく、移植細胞を伴って注射針へと向うことができる高い粘度であることが好ましい。
(生体組織の温度)
組織(ホスト組織)の温度は、生体の種類や部位に応じて異なるが、例えば、ヒトの組織の温度は、20〜42℃程度であり、例えば、マウスなどの組織の温度は、20〜42℃程度であり、サルなどの組織の温度は、36〜40℃程度である。
なお、生体の体温がそもそも低いためにホスト組織の温度も低い場合や、気温などの影響によってホスト組織の温度が低くなっている場合には、移植細胞の注入に臨んで、その生体に悪影響が及ばない範囲で該生体全体やホスト組織を温め、それにより、ホスト組織の温度をより高くしてもよい。
(高温側の温度範囲T1)
高温T1は、前記した生体組織の温度を含む高温側の温度範囲であり、組織の温度や、外気の温度に応じて決定される。高温T1は、生体の種類や部位によっても異なるが、哺乳動物であれば、20℃程度以上が好ましく、30℃程度以上がより好ましい。
高温T1の上限側の範囲は、特に限定はされず、移植細胞の注入では特に必要のない温度であるが、生体機能維持などの点からは、42℃程度以下が好ましく、40℃程度以下がより好ましい。前記した下限と上限とを組み合わせた高温T1の範囲は、20〜42℃、30〜42℃、20〜40℃、または、30〜40℃など、自由に組み合わせることができる。
(低温側の温度範囲T2)
低温T2は、組織の温度よりも低い温度、さらには、外気の温度よりも低い温度として決定され得る。懸濁液の組成による粘度の増加およびゲル化の点からは、10℃程度以下が好ましい温度として挙げられ、5℃程度以下がより好ましい温度として挙げられる。低温T2の下限側の温度は、特に限定はされないが、媒質流体が凍結しない温度である点や、移植細胞の保護の観点などからは、0℃程度以上が挙げられ、より好ましくは1℃程度以上が挙げられる。前記した下限側の範囲と上限側の範囲は、0〜10℃、1〜10℃、0〜5℃、1〜5℃など、自由に組み合わせることができる。
(媒質流体の粘度α1)
高温T1における第1の粘度α1は、ホスト組織中において、媒質流体が注入部位(注射針の先端開口のすぐ外側周囲)に留まらず、速やかにホスト組織中に流れ去ることができるような粘度である。このような第1の粘度α1としては、例えば、生体がヒトの場合には、高温T1(21〜42℃程度以上)において、1000〔mPa・s〕以下が挙げられ、好ましくは0.5〜1000〔mPa・s〕程度が挙げられる。他の生体の場合についても、第1の粘度α1は概ね同様である。
(媒質流体の粘度α2)
低温T2における第2の粘度α2は、第1の粘度α1よりも大きく、かつ、収容部内において、媒質流体が注射針へと押し出されることができ、移植細胞を収容部内に置き去りにすることなく、該移植細胞と共に注射針に流入できるような粘度である。このような第2の粘度α2としては、例えば、生体がヒトの場合には、低温T2(0〜20℃程度以下)において、5000〔mPa・s〕以上が挙げられ、好ましくは10000〜1000000〔mPa・s〕程度が挙げられる。
高温T1の下限の温度は、第1の粘度α1が第2の粘度α2へと急激に転換する境界の温度(転移温度)であってよい。また、高温T1の下限の温度よりも、低温T2の上限の温度の方が低く、高温T1の下限の温度と、低温T2の上限の温度との間に、前記転移温度があってもよい。
第1の粘度α1、および、第2の粘度α2は、それぞれ一定であってよい。その場合、媒質流体は、該転移温度を境に、2種類の粘度を示す。
第1の粘度α1は、温度が上昇するにつれて下降してもよい。第2の粘度α2は、温度が下降するにつれて上昇してもよい。
第1の粘度α1と第2の粘度α2は、本発明の目的が達成されるような値であればよい。
媒質流体は、高温T1よりも高い温度において第1の粘度α1を有してよく、また、低温T2よりも低い温度において第2の粘度α2を有してよい。
(粘度の測定方法)
本発明における粘度は、JIS Z8803に規定された「円すい−平板形回転粘度計による粘度測定方法」に基づいて測定される。前記の「円すい−平板形回転粘度計」は、コーンプレート型粘度計とも呼ばれる装置である。本明細書に記載した粘度の値は、円すい−平板形回転粘度計として、東機産業株式会社製のTV25形粘度計(機種番号:TVE−25L)を用いて測定した値である。
(第2の問題を解決するための好ましい媒質流体の態様)
上記した高温T1における第1の粘度α1と、低温T2における第2の粘度α2とを有する好ましい媒質流体としては、収容部における低温T2ではゲルとなって第2の粘度α2を示し、注射針の先端部における高温T1ではゾルとなって第1の粘度α1を示すもの(以下、ゲル−ゾル変化流体ともいう)が挙げられる。なお、媒質流体がゲル−ゾル変化流体である場合、媒質流体は、収容部では低温T2に冷却されてゲル化し、流体ではなくなるが、本明細書では、ゲル化した媒質流体と呼ぶ。ゲル化した媒質流体は、例えば、シリンジ内に収容された状態でプランジャーによって押されると、注射針の基部開口に近い部分が容易に変形し、一体性が崩壊して、注射針内へと流れ出すことができるような性質である。
(ゲル−ゾル変化流体)
本発明に利用可能なゲル−ゾル変化流体は、特に限定はされないが、移植細胞と生体組織に悪影響を与えない点から、ゼラチン水溶液、κカラギーナン水溶液、ιカラギーナン水溶液、多糖類、人工ペプチド、高分子重合体、高分子複合体等から選択されるゲル化剤の単体、もしくは上記ゲル化剤の混合物、さらには、グルコマンナン水溶液、ガラクトマンナン水溶液、キサンタンサンガム、カルボキシメチルセルロース水溶液、多糖類、人工ペプチド、高分子重合体、高分子複合体等のゲル化補助剤から選択される物質と、ゲル化剤の混合水溶液などが好ましいものとして挙げられる。
前記のゼラチン水溶液、カラギーナン水溶液、カルボキシメチルセルロース水溶液のそれぞれの好ましい濃度や添加物は、次のものが例示される。ゼラチン0.1〜10%(重量/容量)、カラギーナン(ι、κ型)0.01〜0.5%(重量/容量)、グルコマンナン水溶液またはガラクトマンナン水溶液0.01〜0.5%(重量/容量)、キサンタンサンガム0.01〜0.5%(重量/容量)、カルボキシメチルセルロース0.5〜12%(重量/容量)。
例えば、濃度5%(重量/容量)のゼラチン水溶液は、30℃以上では、粘度1000〔mPa・s〕以下のゾルとなり、10℃未満では、粘度10000〔mPa・s〕以上のゲルとなる。
(冷却器)
図1に示すように、本発明の好ましい態様では、当該細胞注入装置には、収容部内の懸濁流体を低温T2に維持するように構成された冷却器または断熱材(以下、冷却器とも略す)40が設けられる。後述のように、該冷却器40は、単なる保冷剤や断熱材であってもよく、収容部を能動的に冷却する機能を有する冷却装置と保冷剤・断熱材とを組み合わせたものであってもよい。該冷却器40の配置位置は特に限定はされないが、収容部を取り巻くように配置する態様が簡単であり好ましい。
上記した好ましい媒質流体を懸濁流体に用い、かつ、冷却器を備えることで、該懸濁流体は、収容部13に収容されている状態では、低温に維持されて高い粘度α2を示し、前記の極めて小さい流量Q1にて注射針20の先から流出するときには、組織によって温められて低い粘度α1を示す。よって、上記したように、収容部13に収容された懸濁流体30は、移植細胞31を含んだままで注射針20に流入し得、また、懸濁流体30が注射針20から組織100中に入ると、媒質流体32は、組織液の流れと共に周囲の組織へと流れ去り、移植細胞だけが注入部位に残される。
(能動的な冷却機能)
冷却器の冷却原理や構成は、少なくとも注入の間、収容部を低温に保つことができるものであるならば特に限定はされず、従来公知の冷却装置、保冷剤、後述の断熱材が利用可能である。例えば、能動的に収容部および懸濁流体の温度を低温T2へと降下させることができる冷却器の構成としては、低温流体供給源から供給される低温(例えば、温度範囲T2)の流体が内部を流れる冷却用パイプ(好ましくは、熱伝導性が高い銅製やアルミニウム製のパイプなど)がコイル状や蛇行状にて収容部を取り巻く構成、ペルチェ素子(冷却側)を用いる構成、冷却された保冷剤を用いる構成などが例示され得る。これらの能動的な冷却器が収容部の周囲に設けられる場合、その冷却効率をより高めるために、該冷却器の周囲をさらに断熱材で取り囲んでもよい。
(保温機能)
冷却器は、収容部を能動的に冷却する機能を持たず、断熱性だけを有するものであってもよい。例えば、懸濁流体が入ったシリンジや収容部がそのまま外部の冷蔵庫で低温T2に冷却され、懸濁流体を注入する際に該シリンジが冷蔵庫から取り出される場合では、冷却器は、収容部(例えば、シリンダー)の周囲を取り巻く断熱材であってもよい。該断熱材は、独立した部品であってもよいし、収容部を構成する壁材など、収容部に一体的に組み込まれていてもよい。
(当該細胞注入装置の態様例1)
図2(a)は、当該細胞注入装置の好ましい態様の一例として、下記実施例で製作した細胞注入装置の構成を概略的に示す断面図である。図2(b)は、図2(a)の装置の細部を改変した装置の外観を示す写真図である(作動原理は図2(b)と同様である)。図2の態様では、懸濁流体30を収容したシリンジ10と、そのプランジャー12を移動させる液圧シリンダー50aが、支持フレームS1に固定されて、両者は連結されている。作動液供給源54から配管55を通じて作動液(実施例では水)が液圧シリンダー50aに供給され、ピストン52が直線的に移動し、ピストンロッド53の先端部がシリンジ10のプランジャー12を押して移動速度v1で移動させ、注射針20の先端から懸濁流体30が上記流量Q1にて流出する。シリンジ10の周囲には、冷却器40として、銅製の冷却用パイプが密に巻き付けられており、収容部を低温T2に冷却している。冷却用パイプへは低温流体供給源(図示せず)から低温T2の流体が供給されている。作動液供給源54は、自体の内部にポンプとしてシリンジを持っており、かつ、そのプランジャーを正確に移動させる装置を持っており、作動液を正確に送り出すことができる。図2(a)に示す態様では、シリンダー11全体と冷却器40が支持フレームS1内に収容されているのに対して、図2(b)に示す態様では、シリンダー11の全長のうち約3/4程度の部分が支持フレームS1の外側に突き出しており、その突き出した部分に銅製の冷却用パイプ40が密に巻き付けられている。また、図2(b)に示す態様では、支持フレームS1に連結器具S2が固定されている。該連結器具S2は、固定用スタンドのアームに当該細胞注入装置を連結し、角度や位置を微調整できるように構成されている。
以上のような構成によって、大掛かりで重い作動液供給源54が、シリンジから分離され、注射針を生体に穿刺する操作の邪魔にならないので好ましい。
(当該細胞注入装置の態様例2)
図3は、当該細胞注入装置の好ましい態様の他の例を示す図である。図3の例では、押出し機構が交換可能なシリンジ10である。該シリンジ10のプランジャー12を前進させるアクチュエーター50は、上記移動速度v1が作り出されるように、駆動力源となる引張りバネ58と、移動速度を制限するための粘性ダンパー56とが組み合わせられた構成を有する。
図3の例では、粘性ダンパー56とシリンジ10とが、ハウジング60中に同軸状にかつ直列に収容されている。駆動ロッド57は、粘性ダンパー56を貫通し、その先端部57aは、シリンジ10のプランジャー12の後端部12aに接触している。駆動ロッド57の先端部57aと、シリンジ10のプランジャー12の後端部12aとは、互いに接触するだけの関係であってもよいが、ワンタッチカップリングなどを介して着脱自在に互いに固定される関係であってもよい。駆動ロッド57はハウジング60の上面(図の例では、蓋63の上面)から突き出ており、その端部(後端部)にはフランジ57bが設けられている。該フランジ57bと、ハウジング60との間には、駆動ロッド57を図の下方に前進させる力を発生させるための引張りバネ58が設けられており、該引張りバネ58の両端はそれぞれ前記フランジ57bと蓋63に固定されている。これにより、駆動ロッド57が人力等によって図の上方へと引っ張られると、引張りバネ58が伸ばされて弾性エネルギーを蓄積し、復帰力によって駆動ロッド57を前進させようとする。
図3の例では、駆動ロッド57が引っ張られて、引張りバネ58が伸ばされた状態にあり、該フランジ57bと蓋63との間にはストッパー59が挿入され、引張りバネ58の復帰(収縮)が妨げられている。一方、シリンジ10は、懸濁流体30を収容した状態でハウジング60にセットされている。ストッパー59が取り除かれると、当該細胞注入装置が作動を開始し、駆動ロッド57が移動速度v1で前進してプランジャー12を押し、注射針20の先端から懸濁流体30が1〔μL/秒〕以下の流量にて流出する。
(シリンジ)
シリンジ10は、内部に懸濁液を収容した状態で、交換可能にハウジング内にセットされる。シリンジ10は、従来公知の一般的な医療用のシリンジであってよいが、図3の例では、細胞の排出性を考慮した好ましい構成が内部に付与されている(後述)。
(粘性ダンパー)
粘性ダンパー56の機構自体は、粘性流体がピストンの移動に抵抗する従来公知の粘性ダンパーの機構を参照することができる。図3の例では、粘性ダンパー56のシリンダーは、円筒状の胴体56aと密閉キャップ56bとによって構成されている。該シリンダー内には、適切に選択された粘度を持った粘性流体56mが充填され密封されている。駆動ロッド57は、該シリンダーを貫通しており、該粘性ダンパー56のピストンロッドとしても機能する。該粘性ダンパー56のシリンダー内では、ダンパー用のピストン56pが該駆動ロッド57に固定されており、シリンジにおけるガスケットの如くチャンバー内を摺動する。図では簡単に説明するために、駆動ロッド57とピストン56pとが一体であるように描いているが、シャフト部材(駆動ロッド57)がピストン部材(ピストン56p)の中央孔を貫通した状態で両者が固定された構造であってよい。該ピストン56pには微小な貫通孔56hが設けられている。これにより、粘性流体56mが該貫通孔56hを通過することが可能になっており、よって、該ピストン56pがチャンバー内を往復移動することができる。そして、粘性流体56mが貫通孔56hを通過するときの抵抗力によって、ピストン56pの移動速度が上記移動速度v1に制限される。貫通孔56hの口径と、引張りバネ58の復帰力と、粘性流体56mの粘性は、上記移動速度v1が達成されるように適宜に選択され得る。なお、引張りバネ58が復帰するにつれて、復帰力が減少し、それに伴って駆動ロッド57の移動速度も低下するが、上記移動速度v1の範囲内であればよい。これに関連して、プランジャーの総移動距離をより小さく取り、引張りバネの自然長をより大きくとることで、引張りバネの復帰力の低下率を低減することができる。
(粘性流体)
粘性ダンパー56内の粘性流体56mは、一般的な粘性ダンパー用のオイル、水、空気、種々の作動流体などであってよい。また、粘性流体56mは、当該細胞注入装置全体を高温で滅菌することが可能であるように、耐熱性を有するものが好ましい。
(ハウジング)
ハウジング60は、粘性ダンパー56と駆動ロッド57とを互いに同軸状に位置合わせした状態で保持する一種のホルダーであり、また、生体組織の表面(皮膚表面や臓器の表面など、ホスト組織の外面)の上に当該細胞注入装置を安定した状態でかつ所定の穿刺角度で配置することを可能にする支持体でもある。図3の例では、ハウジング60は、生体組織の表面に安定して接触し得るように、上面60aよりも広い下面(接触面)60bを持っており、よって、全体的には円錐台または角錐台の形状となっている。ハウジング60の下面60bには、シリンジ10を交換可能に保持するためのシリンジ保持穴61が設けられている。シリンジ保持穴61内の所定位置にシリンジ10を固定するための固定用部材、位置決め用の突起・段差などの付帯的な構造は、適宜に設けられてよい(図示は省略している)。一方、ハウジング60の上面60aには、粘性ダンパー56を収容するためのダンパー収容穴62が設けられている。粘性ダンパー56は、ダンパー収容穴62内に固定されている。蓋63は、ボルトやねじ込みなどによって、ハウジング60に対して適宜に固定され得る。
図3に示したハウジングの構造や形状は、あくまでも一例である。例えば、縦に2つに割れる構造など、内部に粘性ダンパーなどの必要な装置を組み込むことができるように、適宜に分解可能な構造、必要な位置に内部空間とそれを閉鎖する蓋を設けた構造、壁部が無い骨格だけの構造などを採用することができる。図2(a)に示した支持フレームS1は、前記ハウジングの一態様でもある。また、ハウジングの形状は、円柱状や多角柱状(三角柱状、四角柱状を含む)などのストレートな形状であってもよく、その胴体の下端面に生体組織の表面との接触を安定させるために側方に張り出したフランジ部や補助脚部が設けられていてもよい。
本発明の好ましい態様では、シリンジが低温に冷却され、その一方で、本発明に特有の超低速のインジェクションに起因して、ハウジングが生体組織の表面に接触する時間が長い。そこで、ハウジングが生体組織の表面を冷やさないように、または、生体組織の表面がハウジングを温めないように、ハウジング下面(生体組織の表面に接触する面)の表層を断熱性の材料で構成してもよい。
(冷却器)
図3の例では、ハウジング60の内部に冷却器64が配置されている。冷却器64は、ハウジング60の内部に設けられた空間に冷却剤が直接的に充填されたものであってもよいし、冷却剤が柔軟なバッグや固いケースに収容されたものでもよい。前者の場合は、ハウジング60ごと冷蔵庫で冷却してよい。後者の場合は、冷却剤入りのバッグだけを冷却して該空間に配置してもよい。また、冷却器として、種々の冷却装置が配置されていてもよい。冷却器64はシリンジ10に直接的に接触してもよいし、冷却器64とシリンジ10との間の材料を、熱伝導性の高い金属材料としてもよい。また、冷却器64の外側を取り囲むハウジングの材料や部材を、断熱性の高いもの(例えば、プラスチック、発泡体、保温容器に用いられている真空2重構造など)としてもよい。
図3の例では、ストッパー59は、単純なブロック片のように描いているが、フランジ57bをバランスよく支持できかつ着脱できるように、図における水平方向の断面の形状がU字状となったカラーなどであってもよい。また、ユーザーがスタートボタンなどを押すことによって、駆動ロッド57の前進の阻止を解除するようにストッパー部材が移動する解除機構が設けられていてもよい。
図2(a)の例において支持フレームS1に組み込まれたシリンジ10とアクチュエーター(液圧シリンダー50a)は、図3や図4に示したハウジング60に組み込むことができる。換言すると、図3や図4に示した細胞注入装置におけるアクチュエーター(粘性ダンパーと引張りバネとを組み合わせた装置)は、図2に示したアクチュエーターに置き換えることができる。その場合、図2における液圧シリンダーは、図3のシリンジ10のプランジャーを押すように、粘性ダンパーの代りにセットされ得、図2(a)における作動液供給源は、ハウジング60の外部に配置されてよい。
図3に示した細胞注入装置を構成する各要素の材料は、特に限定はされず、金属、ポリマー、ガラス、セラミックなど、医療器具に用いられる材料が適宜利用可能である。
(各部の好ましい態様1:ガスケット)
従来のシリンジでは、シリンダーの内側先端面(ここに、注射針へと通じる管路が開口している)は、漏斗状面となっており、プランジャーのガスケット部(硬質のゴム製)の先端面は該漏斗状面にフィットする凸状面となっている場合がある。しかしながら、そのような従来のシリンジで懸濁流体を最後まで注入すると、ガスケット部の先端面全体がシリンダーの内側先端面全体に一度に密着する。ガスケット部の先端面と、シリンダーの内側先端面とが、一度に全面的に互いに接触することによって、接触の瞬間には、それら両面の間に多くの移植細胞が残され、挟まれて破壊されてしまう。
そこで本発明では、図3に示すように、ガスケット部が2層構造(12a1、12a2)として設けられる。この2層構造は、プランジャーとしてのシール性および摺動性を有する硬質のゴム製の部分12a1と、その先端側に接合された先端部材12a2とを有する。この先端部材12a2は、硬質のゴム製の部分12a1に比べてより軟質で柔軟性を有する材料からなる。該先端部材12a2の先端面は、平坦面(プランジャーの中心軸線に垂直な面)、または、シリンダーの前記漏斗状面にフィットしないような緩やかな凸状である。ここでは説明のために単純な2層構造として説明しているが、接着剤層などの機能層がさらに加えられた多層構造であってもよい。
以上の構成により、プランジャーが先端方向に移動して、ガスケット部がシリンダーの内側先端面(漏斗状面)に到達すると、先ず、シリンダーの漏斗状面と、ガスケット部の平坦面とによって、円錐状のスペースが残され、移植細胞は潰されない。次に、プランジャーがさらに先端方向に移動すると、軟質で柔軟性を有する先端部材12a2は、該漏斗状面11aに応じて凸状へと変形し、外周縁側から中央側へと順に該漏斗状面に密着していき、最後には、該漏斗状面に全面的にフィットするまで変形する。よって、円錐状のスペースに残された懸濁流体中の移植細胞もまた、外周縁側から中央側へと順に移動させられ、よって、全ての移植細胞をシリンダー内から注射針内へ移動させることが可能となる。また、このようなガスケット部の2層構造は、本発明の細胞注入装置のみならず、従来公知の細胞注入用のプランジャーのガスケット部にも適用されてよい。
上記のガスケットの先端部材12a2の厚さ(プランジャーの中心軸方向の寸法)は、シリンダーの前記凹状面にフィットする点から、少なくともシリンダーの前記漏斗状面の深さ(プランジャーの中心軸方向の寸法)以上の寸法であることが好ましい。
また、上記のガスケットの先端部材12a2の材料は、特に限定はされず、従来公知のシリンジのプランジャー先端に付与されるガスケットの材料(エラストマーなど)が利用可能である。また、その軟質および柔軟性は、プランジャーの押圧力に応じて適宜決定してよいが、例えば、タイプCデュロメーター(SRIS 0101 / ASKER C)で測定した硬度5〜25が挙げられる。
(各部の好ましい態様2:当該装置と生体表面との間に介在する第1の支持部材)
心臓壁等は、注射針を押し込んでも、筋肉の収縮力によって該注射針は押し戻される。従来では、心臓壁等に薬剤や移植細胞などを注入する際には、人力で(即ち、一方の手で)シリンジを所定の位置に保持しながら、手動で(即ち、他方の手で)ピストンを押し下げるといった操作を行っていた。しかし、そのような操作では、シリンジを安定して保持することが困難であり、薬剤や移植細胞などの注入も困難であった。
そこで本発明では、図4に示すように、当該細胞注入装置1のシリンジのシリンダー11の外側先端部の前方に、第1の支持部材70が設けられる。図4に示した細胞注入装置1は、ハウジング60の形状が円柱状または角柱状であることを除いては、図3に示した細胞注入装置と同様の構成を有する。第1の支持部材70は、注射針(針管部21)を生体組織100に穿刺したときに、該生体組織の表面100aとハウジング60(または、シリンダー11)との間に介在する。第1の支持部材70は、生体組織の表面100aに、直接的にまたは接着剤層(図示せず)を介して接触するための対物面70aを有する。対物面70aは、平坦な面であってもよいし、生体組織の表面の形状に応じて湾曲した面であってもよいし、生体組織の表面の形状に応じて湾曲し得る柔軟な表層を持っていてもよい。注射針は、第1の支持部材70を貫通し、対物面70aから突き出している。
第1の支持部材70が設けられることによって、生体組織の表面100aに対する当該細胞注入装置1の接触面がより広く平坦になり、当該細胞注入装置1をより安定して保持することができる。第1の支持部材70は、生体組織の表面に注射針を穿刺する部分を取り巻いて、外部に流れ出した血液が周囲に拡散するのを防止する作用をも示すことができる。第1の支持部材を設ける構成は、本発明の細胞注入装置のみならず、従来公知の細胞注入用のシリンジにも設けられてよい。
第1の支持部材70の材料は、特に限定はされないが、支持部材として機能し得る剛性や硬さと機械的強度を有するものが挙げられ、ステンレスなどの金属材料やプラスチックなどが例示される。
本発明の好ましい態様では、図4に示す第1の支持部材70の対物面70aに接着剤層(図示せず)が付与される。これにより、第1の支持部材70は、生体組織の表面100aに固定され、シリンジを所定位置に保持するための人力を加える必要が無くなる。
接着剤層の材料(接着剤、粘着剤)としては、生体適合性を有する材料が好ましく、例えば、コラーゲンスポンジなどが挙げられる。
前記の接着剤層は、移植細胞の注入操作後に、支持部材70から剥がれて生体組織の表面100aに残るように構成されてよく、これにより、針を抜いた後の生体組織の表面の穴から血が出るのを防止する作用(止血作用)と穿刺中に針の周囲から血が吹出すのを防止する作用(逆流防止作用)をも示すことができる。このような構成は、本発明の細胞注入装置のみならず、従来公知の細胞注入用のシリンジにも設けられてよい。
(第1の支持部材による注射針の傾き)
本発明の好ましい態様では、図4に示すように、第1の支持部材70の対物面70aと、該対物面から突き出す針管部21とのなす角度θ1が90度ではなく傾いた角度である。図4の例では、第1の支持部材70の上面70bと対物面70aとは、互いに平行ではなく、第1の支持部材70の全体的な形状がクサビ形になっている。該角度θ1は、特に限定はされないが、鋭角側では、20〜70度が好ましい。これにより、筋肉の走行に沿って針を挿入することで、侵襲を避けかつ、針の抜けを防止し、長く挿入長を取ることが出来るので、体液の針管内への逆流を防止できるという作用効果が得られる。なお、該角度θ1が前記の上限を超えて直角に近くなると針が抜け易くなり、また、針を抜いた後に移植した細胞が穿刺した穴から漏れる可能性が高くなる。一方、該角度θ1が前記の下限を超えて過度に小さくなると、細胞を注入すべき部位が生体組織の表面から深い位置にある場合に、該部位への到達が困難となるか、長い針が必要となるので好ましくない。
(注射針の湾曲)
また、本発明の好ましい態様では、図5(a)に示すように、注射針の針管部21が円弧をなして湾曲しており、該円弧の中心角は好ましくは45〜90度であり、より好ましくは60〜85度である。図5(a)の例では、第1の支持部材70は単純な板状であり、対物面70aの端に、前記の湾曲した針管部21を組織100に好ましく挿入するための回転中心軸部として機能するエッジ部70dを有する。このエッジ部70dの態様は、特に限定はされないが、例えば、次の(i)、(ii)が例示される。
(i)図5(a)に示すように、針管部21の円弧の中心点(図では、エッジ部を示す点70dと一致する点)を通過し、かつ、該円弧を含む平面(図では紙面)に直交する中心軸線(即ち、図の紙面に直交する直線)と一致して延びる、鋭い角を持った稜線。
(ii)図5(b)に示すように、前記円弧の中心点70cを通過しかつ該円弧を含む平面に直交する中心軸線を内部に包含し、該中心軸線に沿って延び、かつ、該中心軸線と同心状に丸みを帯びた稜線70d。
針管部21が円弧をなして湾曲し、かつ、第1の支持部材70がエッジ部70dを有する構成によって、図5(c)、図5(d)に示すように、エッジ部70dを中心(支点)とする回転操作によって、針管部を組織内に円弧の軌道に沿って挿入することができ、また、針管部を組織内から円弧の軌道に沿って引き抜くことが可能である。この操作は、より詳細には、次のように行われる。図5(c)に示すように、組織の表面100aの上に当該細胞注入装置1を寝かせた状態で、第1の支持部材70のエッジ部70dを該表面100aに接触させる。図5(c)、図5(d)における第1の支持部材70は、図4の例と同様、くさび型である。次に、図5(d)に示すように、該エッジ部70dが支点(回転中心軸線)となるように、当該細胞注入装置1を回転させながら起こす。これにより、針管部21は組織100内に円弧の軌道に沿って入って行くことができる。図5(d)に示すように、組織100内に入った円弧状の針管部21は、たとえ該組織が収縮しても、該針管部21を円弧の軌道に沿って押し戻す力にはなり難い。よって、該針管部21が組織から抜けることが抑制される。
上記(i)のエッジ部は、例えば、直角をなす角部など、鋭利なエッジ(稜線状)であってもよいし、丸みを帯びたエッジ部(その表面に中心軸線が存在する)であってもよい。丸みを帯びたエッジ部の場合、当該細胞注入装置を回転させながら起こすと、中心軸線は、厳密には、回転運動の中心からずれる。しかし、丸みの曲率半径を適宜に小さく設計することによって、そのような回転運動の中心からのずれを無視することができる。上記(ii)のエッジ部の丸みの曲率半径も同様である。また、上記(i)、(ii)のエッジ部に、前記丸みの曲率半径と同程度の半径を持った回転可能なローラー(図示せず)が付与されてもよく、回転中心軸部の位置をより不動にするヒンジ(図示せず)が設けられてもよい。
図5(c)、(d)に示すように、第1の支持部材70にエッジ部70dを付与する構成は、図4に示した構成と組み合わせてもよい。
針管部21の円弧の半径は、適用部位に応じて適宜決定してよいが、例えば、4〜10〔mm〕程度が有用であり、5〜8〔mm〕程度が特に有用である。
第1の支持部材70に設けられるエッジ部の全長は、特に限定はされないが、安定した回転中心軸部として機能する点からは、4〜15〔mm〕程度が好ましい。
図5の例では、シリンジの前方に位置する第1の支持部材70にエッジ部70dが付与されたが、第2の支持部材(図示せず)として、シリンダーから側方へと延びる任意の部材が設けられ、その先端に、上記(i)または(ii)のエッジ部が設けられてもよい。
(当該細胞注入装置の態様例3)
図6は、当該細胞注入装置の好ましい態様のその他の例を示す断面図である。図6の例では、押出し機構として浸透圧ポンプが用いられている。本発明でいう浸透圧ポンプは、半透膜や多孔質膜などの液体透過膜83を介して互いに隣接する第1室81と第2室82とを有し、浸透圧(または浸透圧差)を液体移動の駆動源として、第1室81内の液体(第1の液体)が第2室82内の浸透圧生成材料(液体状または固体状)中へと移動し、それにより、該浸透圧生成材料および第2室82が膨張して対象物を押圧するように構成されたアクチュエーターである(なお、第1室81は、後述のとおり、生体組織や体腔などの外界であってもよい)。ここで、浸透圧(または浸透圧差)は、液体透過膜としての半透膜を挟む2つの液体(第1の液体と液体状の浸透圧生成材料)同士の間に生じる浸透圧の差であってもよいし、液体透過膜としての多孔質膜を自由に通過した第1の液体が、第2室内の浸透圧生成材料(ゲル状を含む固体状の吸水性ポリマーなど)の中に浸透する際に作用する浸透圧であってもよい。換言すると、第1の液体が半透膜を通過するための駆動源が浸透圧であってもよいし、第1の液体が浸透圧とは関係なく多孔質膜を通過した後、浸透圧生成材料に接触し、該浸透圧生成材料中に浸透していく際の駆動源が浸透圧であってもよい。浸透圧生成材料は、液体であっても固体(多孔性の塊状、繊維集合体、粒子状など)であってもよく、第1の液体を吸収して膨張する材料であればよい。
図6において、符号81は、第1室の外形を定める壁部の内面を指し示すことで第1室を表しており、符号82は、第2室の外形を定める液体透過膜83の内面を指し示すことで第2室を表している。第1室81と第2室82とは、液体透過膜83によって互いに隔離されており、第1室81内に充填される物質と、第2室82内に充填される物質とは、液体透過膜83を介して互いに隣接することになる。使用時において、該浸透圧ポンプの第1室81内には、液体(第1の液体)81mが配置される。図6の例では、使用時に液体注入管88を通じて、第1の液体81mが第1室81内に注入される。一方、第2室82内には浸透圧生成材料82mが配置される。浸透圧生成材料82mは、予め第2室82内に配置されていてもよいし、注入管を設けておき、使用時に該浸透圧生成材料を第2室82内に注入してもよい(使用時に該浸透圧生成材料が第2室82内に注入される場合には、第1室81内には、第1の液体81mが最初から配置されていてもよい。)。第1室81内に配置された第1の液体81mは、第2室82内の浸透圧生成材料82mとの間で生じる浸透圧(浸透圧差)によって、液体透過膜83を透過し、第2室82内の浸透圧生成材料82m中へと移動する。これにより、浸透圧生成材料82mは、第1の液体81mを吸収して膨張し、よって、第2室82も膨張する。浸透圧生成材料82mおよび第2室82が膨張することによって、第2室82に隣接するように配置された収容部(収容室)85が押圧され、上記した規定の流量Q1にて、懸濁流体30(移植細胞31が媒質流体32中に分散してなるもの)が収容部85から注射針20を通じて外部(即ち、注射針の先が挿入された組織中)へと押し出される。
図6の例では、冷却の観点から、第1室81が浸透圧ポンプの一室として構造的に設けられ、第1の液体81mを供給するためのチャンバーとして機能している。しかし、第1室81は、必ずしも装置の一部として設けられる必要はない。例えば、冷却が必要ない場合には、生体組織や体腔などの外部空間が第1室として利用されてもよい。アルゼット浸透圧ポンプ(DURECT Corporation社製)といった市販の浸透圧ポンプは、皮下の生体組織中や体腔内に埋め込まれることを前提としたデバイス(即ち、周囲の生体組織や体腔内のスペースから体液(水)が供給されることを前提とした装置)であり、図6における第2室82(浸透圧生成材料82mが充填されている)と収容部85だけを構造的に備えた構成となっている。そのような市販の浸透圧ポンプの場合には、使用時において生体組織や体腔などの使用時の外部空間が第1室として機能する。
収容部85を構成する壁部のうちの少なくとも一部は、第2室82または浸透圧生成材料82mによって押圧されて収縮し得るように、柔軟な液体不透過性のフィルムからなる。図6の例では、収容部85は、全体が柔軟な液体不透過性のフィルム84によって構成された収縮可能な袋であり、これに注射針20の針基部分が接続されている。注射針は、針基部分無しで、収容部85に直接的に接続されていてもよい。前記のフィルム84が、浸透圧ポンプの第2室82の膨張(浸透圧生成材料82mの膨張)によって外側から押圧されることで、収容部85内の容積が減少し、懸濁流体30が注射針20から押し出される。図6の例では、収容部85の外側全体を第2室82の空間が取り囲んでおり、第2室82は、全体が柔軟な半透膜83で構成された袋であり、第2室82の外側全体を第1室81が取り囲んでおり、第1室81は、ハウジング80内に設けられた部屋である。
図6の例では、外部から収容部内に懸濁流体を注入するための懸濁流体注入管87が挿通されている。懸濁流体注入管87の先端口には逆流防止弁87aが設けられており、これにより、懸濁流体30は懸濁流体注入管87から外部へ流出しないようになっている。懸濁流体注入管87は必須ではなく、注射針20の先端口から収容部内に懸濁流体30を注入してもよい。また、図6の例では、ハウジング60の外部から第1室内に第1の液体を注入するための液体注入管88が挿通されている。該液体注入管88の先端口には逆流防止弁88aが設けられており、第1室81内の第1の液体81mが該液体注入管88から外部へ流出しないようになっている。各逆流防止弁87a、88aは、好ましい態様であるが、必須ではなく、懸濁流体注入管87、液体注入管88の各注入口側(ハウジング80の外側に位置する側)にそれぞれ開閉弁が設けられてもよい。
図6の例では、浸透圧ポンプの第2室82が直接的に収容部85を押圧する構造となっているが、図2に示した作動液供給源54として浸透圧ポンプを用い、浸透圧ポンプの第2室が隣接するチャンバー(図示せず)を押圧し、該チャンバー内に収容された作動液が液圧シリンダー50aに注入される構成としてもよい。
収容部85を構成する柔軟な液体不透過性のフィルムの材料や膜厚は、特に限定はされず、浸透圧ポンプに押されて良好に収縮するように適宜に決定してよく、例えば、厚さ1〜100μm程度のポリプロピレンや塩化ビニルなどのポリマー製の柔軟なフィルムが挙げられる。
第1の液体は、溶質を含まない溶媒だけの液体であってもよいし、溶質を含んだ溶液であってもよい。溶媒は、特に限定はされないが、安全性の点から水が好ましい溶媒として挙げられる。
第2室に配置される浸透圧生成材料は、固体であってもよいし、液体(溶液)であってもよい。第1の液体と浸透圧生成材料との組み合わせや濃度差は、次の(I)の条件を満たすように、適宜選択されてよい。
(I)第1の液体と浸透圧生成材料が液体透過膜を介して接触したときに、浸透圧(浸透圧差)によって第1の液体が浸透圧生成材料中へと移動し、それにより該浸透圧生成材料および第2室が膨張して収容部を押圧し、上記した流量Q1が作り出されること。
上記(I)の条件を満たすために、とりわけ上記した流量Q1を得るために、液体透過膜の厚さや面積の調節、液体透過膜の液体透過性の調節、第1室と第2室の液体の濃度差の調節(浸透圧差の調節)、浸透圧生成材料の量の調節、浸透圧生成材料の膨張性の調節などを適宜行うことができる。液体透過膜としては、4フッ化エチレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどの多孔性フィルムや、再生セルロース、酢酸セルロースのようなセルロース由来の透析膜、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンなどの合成高分子の半透膜が挙げられる。膜厚は透過性や全体の形状に応じて適宜決定してよい。
浸透圧生成材料は、特に限定はされず、第1の液体に対して浸透圧差(第1の液体を第2室へと移動させる浸透圧差)を生成し、それにより第1の液体を第2室へと移動させ、第2室の体積を増大させ得るものが利用可能である。そのような材料としては、例えば、イオン性の親水性材料、非イオン性の親水性材料、吸水性材料、不揮発性水溶性材料、塩、糖類、多糖類、ポリマー、ヒドロゲル、オスモポリマー、親水性ポリマー、および、吸水性ポリマーなどからなる群から選択される1以上の材料を含んで良い。
前記の親水性材料は、例えば、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、d−マンニトール、ソルビトール、イノシトール、尿素、コハク酸マグネシウム、酒石酸、ラフィノース(raffinose)、種々の単糖類・オリゴ糖・多糖類(ショ糖、グルコース、乳糖、果糖、デキストランなどといったもの)、およびこれらの混合物などの、不揮発性物質や水溶性物質を含んでよい。前記の吸水性材料には、オスモポリマー、例えば、水と接触して膨張する親水性ポリマー(吸水性ポリマー)が含まれる。
浸透圧ポンプの種々の構成例や、具体的な浸透圧生成材料(イオン性の親水性材料、非イオン性の親水性材料、吸水性ポリマーなど)は、例えば、特表2009−520511号公報(国際公開第2007/056501号)、米国特許出願公開第2004/0106914号明細書、米国特許出願公開第2004/0015154号明細書などの記載を参照することができる。
図6に例示した細胞注入装置は、例えば、次のように使用される。
注射針20の針先を上に向けた状態として、ゾル状となるように温めた懸濁流体30を医療用シリンジ(図示せず)から懸濁流体注入管87を通して収容部85内に注入する。注射針20の針先から懸濁流体があふれ出る状態(即ち、収容部内に懸濁流体が充填された状態)となったことを確認した後、該医療用シリンジを取り外す。逆流防止弁87aによって、収容部85内の懸濁流体30が懸濁流体注入管87から流出することはない。収容部85内の懸濁流体30の媒質流体は、ハウジング80の内部に配置された冷却器86によって冷却されてゲル化する。次に、第1の液体(例えば、水)81mを、液体注入管88を通して第1室81内に注入する。これにより、浸透圧ポンプの作動がスタートする。浸透圧ポンプが作動した直後に、注射針20を生体組織内に挿入し、該生体組織の表面にハウジング80の対物面80bを密着させることにより、当該細胞注入装置を安定させる。
冷却されたハウジング80が生体組織を冷却しないように、また、生体組織によってハウジング80内が温められないように、ハウジング80の対物面80bに断熱材層90を設けてもよい。また、図6の例において、浸透圧ポンプにおける第2室内の空間を収容部の上部により多く存在させることで、収容部を上から下へと絞り出すように浸透圧ポンプを作動させることが可能である。
(本発明による作動方法)
当該作動方法は、上記した本発明による細胞注入装置を作動させる方法である。当該作動方法は、例えば、図1に示すように、該細胞注入装置の押出し機構(10、50)を作動させることによって、該細胞注入装置の収容部13に収容された懸濁流体30を、該細胞注入装置の注射針20の先から1〔μL/秒〕以下の流量にて流出させる工程を有する。
押出し機構の作動のスタートは、人間によるストッパーの解除や、人間によるスタート信号の入力(スタートボタンの押し込み)などであってもよい。押出し機構がスタート可能になると、押出し機構は、自体の駆動源によって自力で作動して、懸濁流体を注射針の先から上記の流量Q1にて流出させる。
(懸濁流体の保存方法)
本発明による細胞注入装置が、注射針が接続されたシリンジや注射針が接続されたチューブなど、収容室を含んだディスポーザブルな押出し機構を有する場合、懸濁流体は、該ディスポーザブルな押出し機構の収容部に収容された状態で、低温T2に冷却され、医療の現場(移植細胞を注入する現場)に供給され、そこで、上記細胞注入装置に装着されてもよい。低温T2に冷却された懸濁流体は、該細胞注入装置の冷却器によって低温T2に維持される。
また、懸濁流体は、上記細胞注入装置を使用するまでは、バイアル瓶や培養バッグなどの別の容器内に収容され、冷蔵庫(クラーボックスを含む)内において低温T2で保存されていてもよい。この保存された懸濁流体は、該細胞注入装置の使用に際して、いったん高温T1へと加熱されて、上記細胞注入装置によって吸引されて、収容部内に移され、そこで低温T2へと再度冷却されてもよい。また、懸濁流体は、上記細胞注入装置を使用するまでは、バイアル瓶や培養バッグなどの別の容器内に収容され、室温で保存されていてもよい。この保存された懸濁流体は、該細胞注入装置の使用に際して、上記細胞注入装置によって吸引されて、収容部内に移され、そこで初めて低温T2へと冷却されてもよい。
以下、本発明の有用性を確認した実験例を示す。
以下では、本発明に従って、注射針の先から懸濁流体が流出するときの流量が1〔μL/秒〕以下となるように、該懸濁流体を注射針から組織中へと注入する操作を、「スローインジェクション」と呼ぶ。
また、比較例(従来技術に従った注入例)として、注射針の先から懸濁流体が流出するときの流量が従来の流量(約10〔μL/秒〕)であるように、該懸濁流体を注射針から組織中へと注入する操作を、「従来インジェクション」と呼ぶ。
(実施例1)低粘度の媒質流体を用いたスローインジェクション
本実施例では、懸濁流体(細胞懸濁液)の媒質流体として、粘度が比較的低いAdsバッファーを用いてスローインジェクションを実施し、注入された移植細胞の周囲のコラーゲン線維化が抑制されていることを調べると共に、シリンジ内に収容した懸濁流体中の細胞が、低粘度の媒質流体と共に、生体中にどれだけ移動し得るかを調べた。
(移植細胞の作製)
新生仔ラットに対して、5%Isoflurane(和光純薬099-06571)含有空気によって麻酔導入し、深い麻酔状態を得た。体動が無く、かつ痛み刺激に対して不感となっていることを確認し、安楽死を実施した。胸壁を大きく切開し、胸腔圧迫により心臓を露出させた。心室の組織をハサミで切断し回収した。該組織を、1%コラゲナーゼ(和光純薬032-22364)、0.1%トリプシン(Difco 215240)を含むAdsバッファー(116mM NaCl、20mM HEPES、12.5mM NaHPO、5.6mMglucose、5.4mM KCl、0.8mM MgSO;pH7.35,25℃)に浸し、37℃で撹拌し、組織を構成する細胞を分散させた。分散した細胞を含む上清を回収し、牛胎仔血清(biowest S1820-500)を用いて酵素反応を中和した後、Adsバッファーによって細胞を洗浄した。
回収した細胞から、公知文献(服部ら、"Nongenetic method for purifying stem cell-derived cardiomyocytes"、Nature Methods 2010 Jan; 7(1):61-6.)および国際公開公報WO2006/022377号に記載された方法に基づいて心筋細胞の精製を行った。
続いて、前記の非特許文献および国際公開公報WO2009/017254号公報に記載された方法に基づいて、約300個の細胞を一塊にし、心筋細胞塊を本実験に必要な数だけ作成した。この際に、PKH 26 red (シグマ)を用いて、細胞表面を生きた状態で赤色蛍光色でラベル化した。
(細胞注入装置の製作)
本発明の細胞注入装置として、図2(b)に示した装置を製作した。押出し機構を構成するシリンジ10として、テルモ社製の注射針付シリンジ(SS-10M2913)を用いた。このシリンジには、29ゲージの注射針20が付帯している。シリンジ10のシリンダー11の胴体には、冷却器40として、外径1mm、内径0.3mm(肉厚0.35mm)の銅製の管(山洞金物店)が隙間なく巻き付けられ、図示しない外部のポンプ(アズワン社製、1-9419-02、カセットチューブポンプSMP-23AS)で、該銅製の管内に冷却水を強制循環させることによって、2℃付近の温度とした。この冷却器によって、シリンダー内の懸濁流体は、約2℃の温度に保たれた。
シリンジ10のプランジャーを押す駆動源としての液圧シリンダー50aとして、テルモ社製のシリンジ(ツベルクリン用、1mL)にテルモ社製の18G針を装着したものを用いた。該液圧シリンダー50aの18G針と作動液供給源(図2(b)には図示しないシリンジポンプ)とは、配管用チューブ55で連結されている。該配管用チューブ55は、ポリプロピレン製であり、細く内腔の拡張性が低く、作動液の正確な供給を阻害しない。作動液は水であり、配管用チューブ内には気泡が無く、水で満たされている。作動液供給源には、アズワン社製シリンジポンプ(リモコンタイプDR−10)とコントローラーCT−10を用いた。
(スローインジェクションの実施)
懸濁流体の媒質流体として上記Adsバッファーを用い、これに上記の心筋細胞隗を100個混合し分散させて懸濁流体を作成し、上記細胞注入装置の注射針付シリンジ内に、該懸濁流体0.02mLを吸引した。次に、押出し機構を作動させ、0.02〔μL/秒〕のスローインジェクションを行い、実施例1用の被験体(サンプル数n=3)の心臓に対し懸濁流体を注入した。なお、シリンジのプランジャーは、ガスケットがシリンダーの先端面に当たるまで移動させた。
(スローインジェクションの効果の評価)
懸濁流体を注入した後の心臓組織を観察したところ、線維化が生じないことがわかった。これにより、本発明による細胞注入装置およびそれによるスローインジェクションの有用性が明らかになった。
(シリンジ内の心筋細胞隗の残留の評価)
注入後のシリンジ内を観察したところ、シリンジ内に吸引した100個の心筋細胞隗のうち、50%±10%(サンプル数n=3)の心筋細胞隗が、ガスケットとシリンダーの先端面との間に挟まって残存していることがわかった。
(実施例2)低温でゲル状となり体温条件で非ゲル化する媒質流体の使用
上記実施例1における心筋細胞隗の残留の結果から、本発明者は、シリンジ内の全ての細胞をより多く押し出すためには、懸濁流体の媒質流体に高い粘度が必要であると考え、ゲル状の媒質流体の使用を考えた。しかしながら、インジェクションによる注入先(移植先)のホスト組織中で媒質流体がゲル状のままであると、注入された細胞の組織内での分散を阻害し、ホスト組織である心筋との接触共役を阻害する可能性がある。
そこで、本実施例2では、媒質流体として、低温に冷却したシリンジ内ではゲル状となり、インジェクション後の体温条件で非ゲル化する物質を用いた。このような性質を示す物質候補群の中で、本実施例2では、κ型カラギーナンを選択した。媒質流体は、0.2重量%のκ型カラギーナンを含む水溶液であり、低温(0〜30℃)でゲル状を呈し、30℃を超える温度では液性となる。
(スローインジェクションの実施)
スローインジェクションに際しては、シリンジを冷却して懸濁流体の温度を5℃とし、断熱材でシリンジを取り囲んで該温度を維持した。また、ホスト組織の温度は37℃であった。媒質流体とシリンジの温度以外の、装置の構成および他の実施条件は実施例1と同様である。
(スローインジェクションの効果の評価)
懸濁流体を注入した後の心臓組織を観察したところ、線維化が生じないことがわかった。これにより、本発明による細胞注入装置およびそれによるスローインジェクションの有用性が明らかになった。
(シリンジ内の心筋細胞隗の残留の評価)
注入後のシリンジ内を観察したところ、シリンジ内に吸引した100個の心筋細胞隗のうち、ガスケットとシリンダーの先端面との間に挟まって残存している心筋細胞隗は、5.9%(サンプル数n=3)まで低下していることが分かった。
(比較例1)他の媒質流体の検討
ゲル状の懸濁流体が注入後にゾルとなることが必要であり、組織液の流れがスローインジェクションの効果を生みだすために必要であることを示すために、以下の比較実験を行った。
媒質流体として、終濃度5重量%の加水分解ゼラチン(シグマ G9382)を含むAdsバッファーを用い、これに100個の心筋細胞塊を混合し、0.02mLの懸濁流体を作成した。この懸濁流体をシリンジ中に吸引し、冷却後、上記実施例2と同様に、0.02〔μL/秒〕にて、死亡したマウスの心臓に対してでスローインジェクションを実施した。
(スローインジェクションの効果の評価)
本比較例1では、体温によるゼラチンのゾル化が起きず、組織液による希釈作用もないため、移植部位周囲に水ぶくれ状の隆起構造が出現した。
(実施例3)
実施例3としてのスローインジェクションにて、また、比較例2としての従来インジェクションにて、新生仔ラットの心筋の細胞を、被験体である免疫不全のヌードラットの心臓に対して注入し、それぞれの注入された移植細胞の周囲のコラーゲン線維化量を調べ、比較した。実施例3、比較例2ともに、被験体の数nは3である。
(移植細胞の作製)
実施例1と同様にして心筋細胞塊を得た。また、PKH 26 red (シグマ)を用いて、細胞表面を生きた状態で赤色蛍光色でラベル化した。
(細胞注入装置)
実施例1と同様の細胞注入装置を用いた。シリンダー内の懸濁流体の温度は約2℃の温度に保たれるようにした。なお、実施例3および比較例2における液圧シリンダー50aのピストンの移動速度は、作動液供給源の設定によって互いに異なっている。
(懸濁流体)
媒質流体として、終濃度5%の加水分解ゼラチン(シグマ G9382)を含むAdsバッファーを用い、これに100個の心筋細胞塊を混合し、分散させて、本実施例3の懸濁流体0.1mLを得た。この媒質流体は、25℃以上でゾル化して第1の粘度50mPa・sを示し、10℃未満ではゲル化して第2の粘度10000mPa・s以上を示す。
また、この懸濁流体と同じものを作製し、比較例2の懸濁流体とした。なお、比較例2の懸濁流体は、シリンジ内でゲル化しないように、シリンジを冷却せず、室温で用いた。
(移植術)
実施例用および比較例用の被験体として、それぞれオスの免疫不全のヌードラットを用い、各被験体に対して、Isoflurane3%含有空気にて麻酔導入を行った。気管に対してカニューレを挿入し、人工呼吸器に接続した。人工呼吸器にIsoflurane気化装置を接続し、連続的に深い麻酔を維持した。胸部皮膚および胸筋を切断し、左第3肋間筋肉を切開し、さらに胸膜を切開し、開胸器を挿入し開胸状態を維持した。
(実施例3による注入)
上記細胞注入装置の注射針付シリンジ内に上記0.02mLの懸濁流体を吸引し、4℃に冷却して媒質流体をゲル化させた。次に、押出し機構を作動させて、0.02〔μL/秒〕のスローインジェクションを実施して、実施例用の被験体(サンプル数n=3)の心臓に対し懸濁流体を注入した。
(比較例2による注入)
上記細胞注入装置の注射針付シリンジ内に、上記0.02mLを懸濁流体を吸引し、媒質流体が室温でゾルの状態となっているままで、押出し機構を作動させて、約10〔μL/秒〕の従来インジェクションを実施して、比較例用の被験体(サンプル数n=3)の心臓に対して懸濁流体を注入した。
実施例3および比較例2の被験体ともに、第2肋間と第4肋間に縫合糸をかけ、開胸部を閉じ、筋および皮膚を縫合した。
(結果)
心筋細胞塊の注入から2ヵ月が経過した後、各被験体に対してIsoflurane気化麻酔で麻酔導入を行い、ソムノペンチル1μL/g(ペントバルビタール65μg/g当量)を腹腔内に投与することで、深い麻酔を行った。麻酔下で胸部を切開し、心臓を取り出した。
サンプルである各心臓を、4%パラフォルムアルデヒド(和光純薬 163-20145)で固定化し、20%Sucrose(和光純薬 195-07925)を含有するTBS液(Bio-rad 1706435)で置換後、OCTコンパウンド(サクラ ティシュ―テック)内に包埋凍結させ、Leica社クリオスタットCM3050Sを用いて、凍結心臓切片を作成した。該凍結切片をTBS液で洗浄し、組織像を顕微鏡観察した。顕微鏡観察にあたっては、線維化における細胞外マトリックスの代表としてI型コラーゲンを免疫染色した(1次抗体:Chondrex Anti-Rat Type I Collagen Antibody, Clone 1F10C2, 2次抗体:Invitrogen donkey anti-mouse IgG-Alexa fluor488)(図7(a)、図8(a))。核はDAPI(Molecular Probe社)によって染色した(図7(b)、図8(b))。細胞はPKH26 redによって染色した(図7(c)、図8(c))。これらを蛍光顕微鏡装置(オリンパス社製、IX-71、pixera pro 600es)で撮影した。
その結果、実施例3によるサンプルにおける生着細胞の数に比べて、比較例2によるサンプルにおける生着細胞の数は極めて少ないことがわかった。
また、実施例3のスローインジェクション、比較例2の従来インジェクションによって、間質の線維化が異なるか否かを調べた。
その結果、実施例3のスローインジェクションにて注入を受けた組織では、図7(d)の顕微鏡写真図に示すように、注入(移植)された心筋細胞塊の周囲および心筋細胞塊同士の間にはI型コラーゲンは見られなかった。これに対して、比較例2の従来インジェクションによって注入を受けた組織では、図8(d)の顕微鏡写真図に示すように、グラフト細胞の周囲に広範囲に、かつ、心筋細胞塊同士の間に、I型コラーゲンが存在することがわかった。
(実施例4)
実施例4としてのスローインジェクションにて、また、比較例3としての従来インジェクションにて、新生仔ラットの心筋の細胞を、被験体である免疫不全のヌードラットの心臓に対して注入し、移植後(注入後)の生着量を比較し、かつ、移植後のホスト組織と移植細胞との接触の有無を確認した。
(実験方法)
上記実施例3および上記比較例2と同様に、新生仔ラットの心筋細胞塊(1塊あたりの細胞数は300)を100個含んだ懸濁流体を作製し、実施例4としてのスローインジェクション(約0.02〔μL/秒〕)、および、比較例3としての従来インジェクション(約10〔μL/秒〕)を実施した。実施例4、比較例3ともに、被験体の数は3である。
心筋細胞塊の注入から2ヵ月が経過した後、各被験体の心臓を摘出し、切片を作製した。蛍光顕微鏡にて赤色ラベル心筋を弱拡大にて撮影した。
画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所 オープンソース)を用いて、心筋細胞の生着面積を定量化(pixel数)し、切片と切片の距離(μm)を乗じて体積を数値化した。実施例4、比較例3ともに、3つの被験体の数値の平均値と標準偏差および有意差検定の結果を、図9の棒グラフとして示す。該棒グラフの縦軸は、注入後に生存した移植細胞の体積であり、任意単位である。有意差検定はEZR(自治医科大学オープンソース)を用いStudent-t解析した。
(結果)
図9の棒グラフから明らかなとおり、注入後に生着した心筋細胞の体積は、比較例3よりも実施例4の方が有意に高い生着率を示した。
(実施例5)
本実施例では、ヌードラットを用いて作製した心臓側壁梗塞モデルに対し、新生仔ラットの心筋細胞をスローインジェクション(約0.02〔μL/秒〕)によって注入し、移植生着と治療効果を調べた。また、比較例4として、同様のスローインジェクションにて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注入し、実施例5の比較の対象とした。
(心臓側壁梗塞モデルの作製)
オスのヌードラットをIsoflurane3%含有空気にて麻酔導入を行った。
気管に対してカニューレを挿入し、人工呼吸器に接続した。人工呼吸器にIsoflurane気化装置を接続し、連続的に深い麻酔を維持した。ラットの体を体軸線を中心に右にねじり、左脇の下を術野として、皮膚および胸筋を切断し、左第3肋間筋を切開し、さらに胸膜を切開し、開胸器を挿入して開胸状態を維持した。冠動脈の鈍角枝、第一対角枝を一本の糸で結紮し、心臓側壁の梗塞モデルを構築した。
第2肋間と第4肋間に縫合糸をかけ、開胸部を閉じた。筋および皮膚を縫合しケージへ戻し、一週間飼育した。
心臓超音波検査によって、心臓収縮ポンプ機能の変化を解析した。
側壁心筋梗塞により、心臓機能は低下しており、この状態のモデル(4体)に対して、実施例5として、上記実施例1と同様に作製した、心筋細胞塊を含んだ懸濁流体を無開胸でスローインジェクションにて注入した。また、同様のモデル(3体)に対して、比較例4として、心筋細胞塊の代わりにPBSを混合したAdsバッファーを無開胸でスローインジェクションにて注入した。
注入では、側壁心筋梗塞モデルとしたヌードラットを吸入麻酔しながら心臓超音波検査台に固定し、心臓超音波撮像を行いながら、無開胸であること以外は、実施例2と同様にスローインジェクションを実施した。スローインジェクションに用いた細胞注入装置は、スムーズなネジ込みなどにより立体的な位置を微調整できる微動装置を介して設置し、リアルタイムに心臓超音波画像を確認しながら注入を実施した。
注入から2ヵ月が経過した後、実施例5、比較例4のモデルに対して、心臓超音波検査を実施し、実施例1に記載の方法で安楽死させ、それぞれの心臓を回収した。
さらに実施例1に記載した方法で、心臓の凍結切片を作製した。介在板結合の一部であるギャップ結合の有無を検証する目的で、成熟心筋細胞におけるギャップ結合の構成蛋白質であるConnexin 43を免疫染色した(1次抗体:シグマ Rabbit Anti-Connexin-43 C6219、2次抗体:Invitrogen donkey anti-rabbit IgG-Alexa fluor488)。
(結果)
実施例5、比較例4における注入前後の心臓ポンプ機能に関して有意差検定を行った。その結果を図10のグラフ図に示す。該グラフ図に示すように、PBSを注入したモデル群(破線のグラフ)では、心臓機能は有意に回復しなかったが、心筋細胞を注入したモデル群(太い実線のグラフ)では、注入前に比べて有意な心臓収縮・ポンプ機能の回復を認めた。
また、心筋細胞を注入したモデル群では、図11の顕微鏡写真図、および、図11を局所的に拡大した図12、図13の顕微鏡写真図のとおり、蛍光赤色(PHK 26 red)で染色された心筋細胞が、ホスト細胞である心筋細胞と直接結合し、ホスト細胞と同等の成熟した細胞形態を示していることが判明した。これらの結合には、Connexin 43によるギャップ結合の様式が含まれることが分かった。以上より、移植細胞とホスト細胞は、介在板を形成し、電気的、力学的共役を達成していると考えられる。
(実施例6)
本実施例では、体温より低い温度で高粘度化(ゲル化)し、体温によって低粘度化(ゾル化)する他の媒質流体を実際に作製し、温度によって粘度が変化することを確かめた。
κ型カラギーナン(和光純薬 033-09292)を0.2重量%含む水溶液を作製した。この水溶液は、低温T2(0〜30℃)ではゲル状であり、それよりも高い温度では低い粘度のゾル性となった。
マーモセットES細胞由来の心筋細胞塊(1つの塊あたりの細胞数は300である)を100個、前記水溶液(0.02mL)に混合して懸濁流体を作製した。この懸濁流体を、実施例1と同様の細胞注入装置によって、成体マーモセット心臓壁中に、スローインジェクションにて全量注入した。注入後のシリンジ内に残存した心筋細胞塊の数は、平均6個(サンプル数n=3)であった。
上記と同様に、ゼラチン(シグマ G9382)を3重量%含む水溶液を作製した。この水溶液は、低温T2(0〜37℃)でゲル状であり、それよりも高い温度では低い粘度のゾル性となった。
マーモセットES細胞由来の心筋細胞塊(1つの塊あたりの細胞数は300である)を100個、前記水溶液(0.02mL)に混合して懸濁流体を作製した。この懸濁流体を、実施例1と同様の細胞注入装置によって、成体マーモセット心臓壁に対しスローインジェクションにて全量注入した。注入後のシリンジ内に残存した心筋細胞塊の数は、平均4個(サンプル数n=3)であった。
(実施例1〜6のまとめ)
従来インジェクションでの注入では、懸濁流体の注入部位の周囲に線維化(コラーゲン2型)の沈着が見られたのに対して、スローインジェクションでの注入では、注入された移植細胞の周囲に線維化は見られなかった。
また、左冠動脈結紮を施した8週齢のヌードラットの心筋梗塞モデルに対する注入実験では、移植細胞を注入したグループでは、移植前の心機能に対して、移植後の心臓壁運動の改善が見られたが、移植細胞を注入しなかったグループ(Vehicle移植群)では、有意な壁運動の改善は見られなかった。
また、移植細胞(赤色色素で染色した新生仔ラットの心筋細胞)が、明らかにホスト細胞と電気的力学的に結合する介在板を形成していることが分かった。
新生仔ラットの心筋細胞を従来インジェクションにて注入した場合は、このような介在板の形成を見出すことは出来なかった。
さらに、注入後の移植細胞の生着率を比較したところ、スローインジェクションにて注入した心筋細胞の方が、従来インジェクションにて注入した心筋細胞よりも、統計的に有意に多く生存していた。
インジェクションの流量(または流出速度)の違いによって細胞生存率に違いが生じた理由の一つとしては、インジェクション時に注射針を通過する時のせん断応力(例えば、注射針の内壁面との摩擦によって生じるせん断応力、または、注射針の出口からホスト組織中に入ろうとするときに生じるせん断応力など)の違いによるものと考えられる。
(実施例7)
(市販の浸透圧ポンプを用いた細胞注入装置の試作)
本実施例では、市販の浸透圧ポンプを用いて、細胞移植時の実施形態に近い押出し機構の試作機を大小2種類作製した(以下、試作機(大)、試作機(小)とも呼ぶ)。該試作機は、冷却装置を備え、ゲルを低温に維持しながらスローインジェクションを実施し得るように構成されている。試作機(大)と試作機(小)は、パーツのサイズや容量が異なるだけであり、浸透圧ポンプを利用したスローインジェクションの作動原理それ自体は、図6に示した態様と同様である。
試作機(大)および試作機(小)に共通する基本構成は、図14に示すように、市販の浸透圧ポンプ810と、それを取り巻く筒状容器(胴体部分の形状が円柱状の容器)820と、浸透圧ポンプ810の先端に取り付けたシリンダーの先端部分840と、その先に接続された注射針841とを有するものである。筒状容器820によって、浸透圧ポンプ810の周囲を取り巻く第1室820sが形成されている。管状部材830は、浸透圧ポンプ810と筒状容器820との間の隙間をシールするパッキンであり、管状部材850は、浸透圧ポンプ810の先端の針811とシリンダー840との間の隙間をシールするパッキンである。第1室820sには、浸透圧ポンプ810を作動させるための純水820mが充填されている。筒状容器820には冷却用配管900が接続され、純水820mが、ペリスタポンプ(ローラーポンプとも呼ばれる)910によって冷却用配管900内を進み、冷却装置920を通って冷却され、第1室820sに戻るようになっており、この循環装置によって、第1室820s内の純水820mの温度は、任意の低温(本実施例では3〜5℃程度)に保たれ得る。
試作機の各部の仕様は次のとおりである。
〔試作機(大)〕
浸透圧ポンプ810;DURECT Corporation社製、アルゼット浸透圧ポンプ、型番2ML1、リザーバー容量2000μL、流量10.0(μL/hr)。
μLは、マイクロリットルを表す。
第1室用の筒状容器820;ポリプロピレン製丸底管(Falcon(登録商標)、品番352059、内径17mm、長さ199mm、容量14mL)。mLは、ミリリットルを表す。
パッキン830:シリコンチューブ(Tiger polymer corporation、品番SR1554)、内径8mm、外径11mm、長さ5mm。
シリンダー840と針841:29G針付シリンジ(BDロードーズ(商標)、1/2mL、29G、12.7mm、カタログ番号326666)のシリンダーと針だけを用い、シリンダーの先端部5mmを切断し利用した。
パッキン850:シリコンチューブ、内径0.2mm、外径3.6mm、長さ4mm。
〔試作機(小)〕
浸透圧ポンプ810;DURECT Corporation社製、アルゼット浸透圧ポンプ、型番2001D、リザーバー容量200μL、流量8.0(μL/hr)。
第1室用の筒状容器820;セラムチューブ(住友ベークライト、品番MS-4504W、内径10.5mm、長さ60mm、容量4mL)
パッキン830:シリコンチューブ、内径7mm、外径9mm、長さ5mm。
シリンダー840と針841:試作機(大)と同様
パッキン850:試作機(大)と同様
図15(a)は、試作機(大);符号800Aと、試作機(小);符号800Bの外観を示す写真図である。また、図15(b)は、試作機(大)に用いた浸透圧ポンプ810Aと、試作機(小)に用いた浸透圧ポンプ810Bの外観を示す写真図である。
(作動証明)
上記のように構成した試作機(大)および試作機(小)が、細胞を含むゲルを押し出す能力を実際に有するか否かを確認するために、上記した市販の大、小のアルゼット浸透圧ポンプ(型番2ML1と、型番2001D)と、加水分解ゼラチンの濃度が異なる下記2種類の懸濁液(1)、(2)とを用い、以下のように作動実験を行った。
前記大、小のアルゼット浸透圧ポンプのうち、大きい方のアルゼット浸透圧ポンプを「(大)浸透圧ポンプ」と呼び、小さい方のアルゼット浸透圧ポンプを「(小)浸透圧ポンプ」と呼ぶ。また、本実施例では、これら(大)浸透圧ポンプおよび(小)浸透圧ポンプを、単に、「浸透圧ポンプ」とも呼ぶ。
懸濁液(1):
細胞の代わりに、細胞と同等の大きさと比重を有し、かつ、赤色蛍光色素を含有する硬質ゲルビーズ(Thermofisher 製品番号F8842 製品名FluoSpheres(登録商標)、Polystyrene Microspheres, 15 μm, red fluorescent (580/605), for blood flow determination)を用いた。この硬質ゲルビーズ2×10個を、媒質流体(37℃に加温しゾル化した終濃度5重量%の加水分解ゼラチン(シグマ G9382)を含むAdsバッファー2mL)中に分散させて、懸濁液(1)を作製した。
懸濁液(2):
前記の硬質ゲルビーズ2×10個を、媒質流体(37℃に加温しゾル化した終濃度0.3重量%の加水分解ゼラチン(シグマ G9382)を含むAdsバッファー2mL)中に分散させて、懸濁液(2)を作製した。
図16に示すように、(大)浸透圧ポンプを1つ用い(符号810A)、(小)浸透圧ポンプを2つ用いた(符号810B1、810B2)。(大)浸透圧ポンプ810Aには、懸濁液(1)を注入した。第1の(小)浸透圧ポンプ810B1には、懸濁液(1)を注入し、第2の(小)浸透圧ポンプ810B2には、懸濁液(2)を注入した。
前記3つの浸透圧ポンプ(810A、810B1、810B2)のそれぞれの先端部の胴体周囲にシリコンチューブ製のパッキンを装着した。これら浸透圧ポンプを、図16および図17に示すように、軟質のポリマー材料からなる保持板950に設けた貫通孔にはめ込むことによって保持し、各浸透圧ポンプの胴体部分を、ビーカー930内の純水940(4℃、500mL)に浸漬して、作動実験用のセットを構成した。この作動実験用のセット全体(ビーカーを含む)を、冷蔵庫(4℃)内に24時間留置した。1つのビーカーに3つの浸透圧ポンプを浸漬したのは、簡単な構成によって、3つの浸透圧ポンプに同じ温度の同じ純水を同時に供給するためである。
浸漬開始から24時間後には、ビーカー内の純水が各浸透圧ポンプ内に浸透し、各浸透圧ポンプの先端からゲルの排出が開始していた。さらに、図17に示すように、冷蔵庫内に留置してから、72時間後には、24時間経過時点よりも多い量のゲルが排出されていた。
前記の排出されたゲルを回収し、蛍光顕微鏡で観察したところ、図18の顕微鏡写真図に示すように、ゲル中には、蛍光ビーズが含まれていた。図18(a)は、蛍光ビーズがゲル中に分散した状態を示す透過像(画面全体の横幅は約2mm)であり、図18(b)は、波長475nmの励起光を照射することによって赤色の蛍光を発したビーズの様子を示す顕微鏡写真図(画面全体の横幅は約2mm)である。
実施例7に示した作動実験から、細胞を分散した状態で含みかつゲル化した媒質流体を、浸透圧ポンプを用い、スローインジョクションにて排出することが可能であることが示された。このことから、浸透圧ポンプの構成、仕様、作動条件などを適宜に変更することで、細胞を分散した状態で含みかつゲル化した媒質流体を、本発明が目的とする低速度にて対象部位に注入することを実現できることが示唆された。
本発明によって、懸濁流体が流入する部位のホスト組織が受ける損傷は、注入された移植細胞の体積だけに起因する最小限のものとなる。よって、本発明は、生体組織中に移植細胞を注入する種々の治療に寄与し得る。本発明によって、スローインジェクションでの生体への移植細胞の注入(投与)方法や、スローインジェクションでの生体への移植細胞の注入による治療方法が実施され得る。
10 シリンジ
11 シリンダー
12 ピストン
13 収容部
20 注射針
30 懸濁流体
31 移植細胞
32 媒質流体
40 冷却器
50 駆動源
100 生体組織

Claims (14)

  1. 生体組織中に細胞を注入するための細胞注入装置であって、当該細胞注入装置は、
    収容部を有し、
    前記収容部に収容された懸濁流体を有し、該懸濁流体は前記細胞が媒質流体中に分散したものであり、
    前記収容部に直接的にまたは管路を介して接続された注射針を有し、
    前記懸濁流体が前記注射針の先から流出するときの流量が1〔μL/秒〕以下であるように、該懸濁流体を前記収容部から前記注射針を通じて外部へと押し出す作動を行うよう構成された押出し機構を有する、
    前記細胞注入装置。
  2. 上記媒質流体は、上記生体組織の温度を含む高温側の温度範囲T1における第1の粘度α1と、該高温側の温度範囲T1よりも低い低温側の温度範囲T2における第2の粘度α2を有し、第1の粘度α1は、1000〔mPa・s〕以下であり、第2の粘度α2は、10000〔mPa・s〕以上であり、
    当該細胞注入装置は、上記収容部内の懸濁流体を低温側の温度範囲T2に維持するための冷却器または断熱材を有し、
    使用時においては、上記収容部内で低温側の温度範囲T2に維持された懸濁流体が、前記注射針の先端では高温側の温度範囲T1へと温められて第1の粘度α1となって、上記注射針の先端から流出する、
    請求項1に記載の細胞注入装置。
  3. 高温側の温度範囲T1が、21〜42〔℃〕であり、
    第1の粘度α1が、0.5〜1000〔mPa・s〕であり、
    低温側の温度範囲T2が、0〜20〔℃〕であり、
    第2の粘度α2が、5000より大きい値〔mPa・s〕である、
    請求項2に記載の細胞注入装置。
  4. 上記媒質流体が、高温側の温度範囲T1において第1の粘度α1を有するゾルとなり、低温側の温度範囲T2において第2の粘度α2を有するゲルとなるものである、請求項2または3に記載の細胞注入装置。
  5. 当該細胞注入装置は、上記押出し機構として、シリンダーとプランジャーとを有するシリンジを有し、該シリンダーと該プランジャーとによって該シリンダー内の先端側には上記収容部が形成され、該シリンダーの先端部には、上記注射針が接続されており、
    前記押出し機構は、上記流量が達成される速度にて前記プランジャーを前記シリンジの先端部の方へと移動させるよう構成されたアクチュエーターを、駆動源としてさらに有する、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞注入装置。
  6. 上記アクチュエーターが、作動液の供給によってピストンが直線的に移動する液圧シリンダーであって、
    前記ピストンに接続されたピストンロッドが、上記シリンジのプランジャーを押すように、該プランジャーに接続されている、
    請求項5に記載の細胞注入装置。
  7. 上記アクチュエーターが、弾性体とダンパーを有し、
    前記弾性体は、原形状から変形した状態で配置され、かつ、原形状への復帰力が前記プランジャーを移動させるように配置され、
    前記ダンパーは、前記プランジャーの移動に抵抗し、該弾性体の該形状変位の速度を制限するように配置され、
    前記弾性体の復帰力と前記ダンパーの抵抗とが、上記流量が達成される速度にて前記プランジャーを前記シリンジの先端部の方へと移動させるように選択されている、
    請求項5に記載の細胞注入装置。
  8. 上記シリンジのシリンダーの外側先端面には、上記注射針を上記生体組織に穿刺したときに、該生体組織の表面と該シリンダーとの間に介在するための第1の支持部材が設けられ、
    第1の支持部材は、上記生体組織の表面に直接的にまたは接着剤を介して接触するための対物面を有し、上記注射針は、該シリンダーから第1の支持部材を貫通し、前記対物面から突き出している、
    請求項5〜7のいずれか1項に記載の細胞注入装置。
  9. 上記第1の支持部材の対物面には、該第1の支持部材を上記生体組織の表面に固定するための接着剤層が付与されている、請求項8に記載の細胞注入装置。
  10. 上記注射針は、その針管部が円弧をなして湾曲しており、該円弧の中心角は、45〜90度であり、
    上記第1の支持部材は、さらに、
    前記円弧の中心点を通過しかつ該円弧を含む平面に直交する中心軸線と一致して延びるエッジ部を有するか、または、
    前記中心軸線を内部に包含し、該中心軸線に沿って延び、かつ、該中心軸線と同心状に丸みを帯びたエッジ部を有する、
    請求項8または9に記載の細胞注入装置。
  11. 上記第1の支持部材の対物面と、該対物面から突き出す上記注射針の針管部とのなす角度が、90度ではない、請求項8〜10のいずれか1項に記載の細胞注入装置。
  12. 上記注射針は、その針管部が円弧をなして湾曲しており、該円弧の中心角は、45〜90度であり、
    上記シリンジのシリンダーには第2の支持部材が設けられ、該第2の支持部材は、
    前記円弧の中心点を通過しかつ該円弧を含む平面に直交する中心軸線と一致して延びるエッジ部を有するか、または、
    前記中心軸線を内部に包含し、該中心軸線に沿って延び、かつ、該中心軸線と同心状に丸みを帯びたエッジ部を有する、
    請求項8または9に記載の細胞注入装置。
  13. 当該細胞注入装置は、上記押出し機構として浸透圧ポンプを有し、
    該浸透圧ポンプは、
    液体透過膜を介して互いに隣接する第1室と第2室とを有し、
    第1室内に配置された液体が浸透圧差によって前記液体透過膜を透過して第2室内に配置された浸透圧生成材料中へと移動し、それにより第2室が膨張し、第2室の膨張によって上記収容部が押圧され、上記流量にて懸濁流体が該収容部から注射針を通じて外部へと押し出されるように構成されている、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞注入装置。
  14. 請求項1〜13のいずれか1項に記載の細胞注入装置の作動方法であって、
    前記細胞注入装置の押出し機構の作動によって、該細胞注入装置の収容部に収容された懸濁流体を、該細胞注入装置の注射針の先から1〔μL/秒〕以下の流量にて流出させる工程を有する、
    前記作動方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2024075724A1 (ja) * 2022-10-07 2024-04-11 テルモ株式会社 薬剤投与装置

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