JP2021175844A - 伝動ベルト用心線および伝動ベルトならびにそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】引張強さが高く、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立できる伝動ベルト用心線を提供する。【解決手段】複数本の下撚り糸を合糸して上撚りすることにより諸撚りコードを調製する撚り工程と、撚り工程で得られた諸撚りコードに温度160〜240℃で加熱しながら0.3〜1.5cN/dtexの張力をかける熱延伸処理工程とを経て伝動ベルト用心線を製造する。前記下撚り糸として、繊度1500dtex以下のアラミド繊維を含む複数本の硬質下撚り糸(A)と低弾性率繊維を含む1本の軟質下撚り糸(B)とを組み合わせ、前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)を0.5〜1.2に調整する。【選択図】なし
Description
本発明は、伝動ベルトに用いられる心線および伝動ベルトならびにそれらの製造方法に関する。
動力伝達の手段として、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、歯付ベルトなどの伝動ベルトを用いたベルト伝動が汎用されている。伝動ベルトに求められる性能のひとつとして、伸びの小ささが挙げられる。伝動ベルトの伸びが大きいとベルトの張力が低下して、スリップやジャンピングが発生しやすくなる。スリップやジャンピングが発生すると、動力伝達が正常に行われない上に、伝動ベルトの耐久性が低下する。自動車補機駆動用のVリブドベルトでは、ベルトの伸びを吸収して張力を一定に保つ機能を有するオートテンショナを使用する場合があるが、この場合でもベルトの伸びがあまりにも大きい場合には、オートテンショナがベルトの伸びを吸収しきれずに、ベルトの張力が低下する。そのため、伝動ベルトの伸びを小さくするために、引張強さや引張弾性率の高いアラミド繊維を含む撚りコードが種々提案されている。
例えば、WO2015/193934号(特許文献1)には、繊度1000〜1250dtexのパラ系アラミド繊維を撚り係数1200〜1350で下撚りした下撚り糸4本を、撚り係数900〜1100で下撚りとは逆方向に上撚りした総繊度4000〜5000dtexの諸撚りコードが開示されている。また、特開2018−71035号公報(特許文献2)には、平均繊度1000〜1250dtex、引張弾性率55〜70GPa及び引張強度2800〜3500MPaのパラ系アラミド繊維を下撚り数33〜40回/10cmで下撚りした下撚り糸3本を、下撚り係数の0.25〜1倍の撚り係数で下撚りとは逆方向に上撚りした諸撚りコードが開示されている。
一方、アラミド繊維と他の繊維とを合わせて混撚りする技術についてもいくつかの検討が行われている。例えば、特開2019−7618号公報(特許文献3)には、引張弾性率が50〜100GPaである高伸度アラミド繊維と、低モジュラス繊維とを混撚りした撚りコードが開示されている。この文献には、発明の効果として、モールド型付工法での製造時に心線のピッチの乱れや損傷を抑制でき、かつ動的張力の高い用途に使用しても耐発音性や耐久性も維持できると記載されている。また、特開2019−157298号公報(特許文献4)には、高弾性率繊維と低弾性率繊維を65:35〜95:5の重量割合で混撚りし、荷重と伸びの関係が特定の範囲であるゴム補強用コードが開示されている。このように高弾性率の繊維と、低弾性率の繊維を特定の比率にて撚糸することで、低伸長領域では低い弾性率を示し、高伸長領域では高い弾性率を示す複合コードを得ることができること、および成型加工時の伸張によるゴム組成物成形性と、その後のゴム成形物使用時の剛性を、同時に満たすことが可能であることが記載されている。
しかし、特許文献1および特許文献2に開示の諸撚りコードは下撚りと上撚りのバランスの最適化や、高伸度タイプのアラミド繊維の適用などにより、引張強さと耐屈曲疲労性とを両立するものであるが、近年増加しつつあるISG(Integrated Starter Generator)搭載エンジン用途での耐久信頼性は、なお十分ではなかった。特に、撚りコードをアラミド繊維のみで構成した場合には、伝動ベルトの伸びを抑制できたとしても、耐屈曲疲労性を十分に高めるのが困難であった。
一方、特許文献3および特許文献4に開示の複合コードは、タイヤやモールド型付工法で製造される伝動ベルトのように、成型加工時にコードの伸びが必要とされる用途に最適化されている。つまり、アラミド繊維に低弾性率繊維を混合することによって、タイヤや伝動ベルトの成型加工時におけるコードの伸びを大きくすることが技術的思想となっている。そのため、成型加工時にコードを伸長する工程のない研磨法で製造される伝動ベルトには適さない。成型加工時に伸長されることのなかったコードは、伝動ベルトの使用時の伸びが大きくなり、張力低下を増大させるためである。
従って、本発明の目的は、引張強さが高く、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立できる伝動ベルト用心線および伝動ベルトならびにそれらの製造方法を提供することにある。
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、繊度1500dtex以下のアラミド繊維を含む複数本の硬質下撚り糸(A)と低弾性率繊維を含む1本の軟質下撚り糸(B)とを合糸して上撚りした諸撚りコードで伝動ベルト用心線を形成し、前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)を0.5〜1.2に調整することにより、引張強さが高く、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立できる伝動ベルト用心線および伝動ベルトを提供できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の伝動ベルト用心線は、
複数本の下撚り糸を合糸して上撚りした諸撚りコードを含む伝動ベルト用心線であって、
前記下撚り糸が、複数本の硬質下撚り糸(A)と1本の軟質下撚り糸(B)とを含み、
前記硬質下撚り糸(A)がアラミド繊維を含み、かつ各硬質下撚り糸(A)の繊度が1500dtex以下であり、
前記軟質下撚り糸(B)が低弾性率繊維を含み、かつ
前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.5〜1.2である。
複数本の下撚り糸を合糸して上撚りした諸撚りコードを含む伝動ベルト用心線であって、
前記下撚り糸が、複数本の硬質下撚り糸(A)と1本の軟質下撚り糸(B)とを含み、
前記硬質下撚り糸(A)がアラミド繊維を含み、かつ各硬質下撚り糸(A)の繊度が1500dtex以下であり、
前記軟質下撚り糸(B)が低弾性率繊維を含み、かつ
前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.5〜1.2である。
前記硬質下撚り糸(A)の繊度は1000〜1250dtexであってもよい。前記硬質下撚り糸(A)の本数は3〜4本であってもよい。前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数は2.5〜5であってもよい。前記軟質下撚り糸(B)はポリエステル繊維を含んでいてもよい。前記軟質下撚り糸(B)の繊度は900〜1250dtexであってもよい。前記アラミド繊維は高伸度アラミド繊維であってもよい。前記諸撚りコードを100mm解撚し、下撚り糸を引き揃えたとき、軟質下撚り糸(B)の長さと硬質下撚り糸(A)の平均長さとの差(B−A)は、軟質下撚り糸(B)の長さ−硬質下撚り糸(A)の平均長さ=−1〜2mmであってもよい。
本発明には、複数本の下撚り糸を合糸して上撚りすることにより諸撚りコードを調製する撚り工程と、撚り工程で得られた諸撚りコードに加熱しながら張力をかける熱延伸処理
工程とを含む前記伝動ベルト用心線の製造方法も含まれる。前記熱延伸処理工程において、加熱温度は160〜240℃であってもよい。張力は0.3〜1.5cN/dtexであってもよい。
工程とを含む前記伝動ベルト用心線の製造方法も含まれる。前記熱延伸処理工程において、加熱温度は160〜240℃であってもよい。張力は0.3〜1.5cN/dtexであってもよい。
本発明には、前記伝動ベルト用心線を含む伝動ベルトも含まれる。前記伝動ベルトは、研磨法で成形して得られるベルトであってもよい。前記伝動ベルトは、Vリブドベルトであってもよい。
本発明には、研磨法で成形して伝動ベルトを作製する研磨工程を含む前記伝動ベルトの製造方法も含まれる。
本発明では、アラミド繊維を含む複数本の硬質下撚り糸(A)と低弾性率繊維を含む1本の軟質下撚り糸(B)とを合糸して上撚りした諸撚りコードで伝動ベルト用心線が形成され、前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.5〜1.2に調整されているため、伝動ベルト用心線および伝動ベルトの引張強さを向上でき、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立できる。例えば、Vリブドベルトなどの伝動ベルトの心線として利用した場合、動力伝達を正常に保持しつつ、スリップやリブずれ(Vリブドベルトのリブ部がプーリの溝を乗り越える現象)、ポップアウト(心線が伝動ベルトの側面からとび出す現象)を抑制でき、耐屈曲疲労性も向上できる。
[伝動ベルト用心線]
本実施形態の心線は、伝動ベルトの心線として用いられ、複数本の下撚り糸を合糸して上撚りした諸撚りコードを含む。この諸撚りコードは、繊度1500dtex以下のアラミド繊維を含む複数本の硬質下撚り糸(A)と、低弾性率繊維を含む1本の軟質下撚り糸(B)とを含む。前記下撚り糸がアラミド繊維のみの場合、耐屈曲疲労性が不足し、伝動ベルトの耐久性が低下する。一方、前記下撚り糸が低弾性率繊維のみの場合、伝動ベルトの伸びが大きくなる。
本実施形態の心線は、伝動ベルトの心線として用いられ、複数本の下撚り糸を合糸して上撚りした諸撚りコードを含む。この諸撚りコードは、繊度1500dtex以下のアラミド繊維を含む複数本の硬質下撚り糸(A)と、低弾性率繊維を含む1本の軟質下撚り糸(B)とを含む。前記下撚り糸がアラミド繊維のみの場合、耐屈曲疲労性が不足し、伝動ベルトの耐久性が低下する。一方、前記下撚り糸が低弾性率繊維のみの場合、伝動ベルトの伸びが大きくなる。
(硬質下撚り糸(A))
硬質下撚り糸(A)は複数本のアラミド繊維を含むアラミドマルチフィラメント糸である。アラミドマルチフィラメント糸は、必要であれば、他の繊維(ポリエステル繊維など)を含んでいてもよい。アラミド繊維の割合は、マルチフィラメント糸全体に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であってもよく、通常、全フィラメントがアラミド繊維で構成されている。アラミド繊維の割合が小さすぎると、伸びが大きくなる虞がある。
硬質下撚り糸(A)は複数本のアラミド繊維を含むアラミドマルチフィラメント糸である。アラミドマルチフィラメント糸は、必要であれば、他の繊維(ポリエステル繊維など)を含んでいてもよい。アラミド繊維の割合は、マルチフィラメント糸全体に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であってもよく、通常、全フィラメントがアラミド繊維で構成されている。アラミド繊維の割合が小さすぎると、伸びが大きくなる虞がある。
アラミドマルチフィラメント糸は、複数本のアラミドフィラメントを含んでいればよく、例えば100〜5000本、好ましくは300〜2000本、さらに好ましくは600〜1000本程度のフィラメントを含んでいてもよい。アラミドフィラメントの平均繊度は、例えば0.8〜10dtex、好ましくは0.8〜5dtex、さらに好ましくは1
.1〜1.7dtex程度であってもよい。
.1〜1.7dtex程度であってもよい。
アラミド繊維は、単独繰り返し単位のパラ系アラミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維である帝人(株)製「Twaron(トワロン)」や東レ・デュポン(株)製「Kevlar(ケブラー)」など)であってもよく、複数の繰り返し単位を含む共重合パラ系アラミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合アラミド繊維である帝人(株)製「テクノーラ」など)であってもよい。
アラミド繊維は、4cN/dtex荷重時における中間伸度が0.3%以上(例えば0.3〜3%)であればよく、好ましくは0.5%以上(例えば0.5〜2%)、さらに好ましくは0.6%以上(例えば0.6〜1.5%)、より好ましくは0.8%以上(例えば0.8〜1.3%)であってもよい。アラミド繊維の前記中間伸度が低すぎると、耐屈曲疲労性が不足し、耐久性が低下する虞がある。
なお、本願において、中間伸度は、4cN/dtex荷重時における中間伸度を意味し、JIS L1017(2002)に準拠した方法で測定できる。
アラミド繊維の引張弾性率は50〜100GPa程度の範囲から選択でき、例えば50〜90GPa、好ましくは60〜90GPa(例えば70〜90GPa)、さらに好ましくは60〜80GPa(特に60〜70GPa)である。高度な耐屈曲疲労性が要求される用途では、アラミド繊維は、引張弾性率50〜70GPa程度の高伸度アラミド繊維であってもよい。引張弾性率が小さすぎると、伸びが大きくなる虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
なお、本願において、引張弾性率は、JIS L1013(2010)に記載の方法で荷重−伸び曲線を測定し、荷重1000MPa以下の領域の平均傾斜を求める方法で測定できる。
アラミド繊維の市販品としては、例えば、標準タイプ(東レ・デュポン(株)製Kevlar29、帝人(株)製Twaron1014)および高伸度タイプ(東レ・デュポン(株)製Kevlar119、帝人(株)製Twaron2100)のいずれも利用できる。高い耐屈曲疲労性が要求される場合は、高伸度タイプを使用するのが好ましく、安定した生産性が要求される場合は、標準タイプが好ましい。
各硬質下撚り糸(A)の繊度は1500dtex以下であり、好ましくは500〜1500dtex、さらに好ましくは800〜1300dtex、より好ましくは1000〜1250dtex、最も好ましくは1050〜1200dtexである。繊度が小さすぎると、伸びが大きくなるとともに、引張強さや引張弾性率が低下し、経済性も低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下して心線のポップアウトが発生し易くなる虞がある。
硬質下撚り糸(A)の本数は、複数本であればよいが、好ましくは2〜6本、さらに好ましくは2〜4本、より好ましくは3〜4本(特に3本)である。本数が多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値は1〜8程度の範囲から選択でき、例えば2〜6、好ましくは2.5〜5.5、さらに好ましくは3〜5、より好ましくは3.5〜5(特に4〜5)であってもよい。下撚り係数の平均値が小さすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、引張強さや引張弾性率が低下する虞がある。
なお、本願において、下撚り係数および上撚り係数の各撚り係数は、以下の式に基づいて、算出できる。
撚り係数=[撚り数(回/m)×√トータル繊度(tex)]/960。
(軟質下撚り糸(B))
軟質下撚り糸(B)は複数本の低弾性率繊維を含む低弾性率マルチフィラメント糸である。低弾性率マルチフィラメント糸は、必要であれば、他の繊維(高弾性率繊維など)を含んでいてもよい。低弾性率繊維の割合は、マルチフィラメント糸全体に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であってもよく、通常、全フィラメントが低弾性率繊維で構成されている。
軟質下撚り糸(B)は複数本の低弾性率繊維を含む低弾性率マルチフィラメント糸である。低弾性率マルチフィラメント糸は、必要であれば、他の繊維(高弾性率繊維など)を含んでいてもよい。低弾性率繊維の割合は、マルチフィラメント糸全体に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であってもよく、通常、全フィラメントが低弾性率繊維で構成されている。
低弾性率マルチフィラメント糸は、複数本の低弾性率フィラメントを含んでいればよく、例えば100〜5000本、好ましくは120〜1000本、さらに好ましくは300〜400本程度の低弾性率フィラメントを含んでいてもよい。低弾性率フィラメントの平均繊度は、例えば0.8〜10dtex、好ましくは1〜8dtex、さらに好ましくは2〜4dtex程度であってもよい。
低弾性率繊維としては、例えば、天然繊維(綿、麻など)、再生繊維(レーヨン、アセテートなど)、合成繊維(ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリスチレンなどのスチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系繊維、アクリル系繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ビニロン繊維、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維など)などが挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらの繊維のうち、経済性、機械的特性、耐熱性などの点から、ポリエステル繊維、脂肪族ポリアミド繊維が好ましい。なかでも、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレン−アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート系繊維(PEN繊維)、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)などのポリアルキレンアリレート系繊維]、脂肪族ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド46繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド612繊維、ポリアミド12繊維など)が好ましく、ポリアルキレンアリレート繊維、ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維がさらに好ましく、ベルト伸びの小ささと耐屈曲疲労性とを両立できる点から、PET繊維などのポリC2−4アルキレン−C6−10アリレート繊維が最も好ましい。
PET繊維としては、市販の標準タイプ、低収縮タイプ、高モジュラス低収縮タイプなどから選択でき、なかでも、ベルト伸びを低減でき、寸法安定性に優れる高モジュラス低収縮タイプが好ましい。該当する市販品としては、東レ(株)製テトロン(1100T−240−704M、1100T−240−705M、1100T−360−704M)などが挙げられる。
低弾性率繊維の引張弾性率は20GPa以下であってもよく、例えば2〜18GPa、好ましくは4〜15GPa、さらに好ましくは8〜12GPaであってもよい。引張弾性率が小さすぎると、伸びが大きくなる虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
軟質下撚り糸(B)の繊度は1500dtex以下であってもよく、好ましくは500
〜1500dtex、さらに好ましくは800〜1300dtex、より好ましくは900〜1250dtex、最も好ましくは1000〜1200dtexであってもよい。特に、前記ポリエステル繊維で形成された軟質撚り糸(B)の繊度をこれらの範囲(特に900〜1250dtex)に調整することにより、ベルト伸びをあまり大きくすることなく、引張強さおよび耐屈曲疲労性を向上できる。繊度が小さすぎると、耐屈曲疲労性が十分に向上しない虞があり、逆に大きすぎると、伝動ベルトの伸びが大きくなる虞がある。
〜1500dtex、さらに好ましくは800〜1300dtex、より好ましくは900〜1250dtex、最も好ましくは1000〜1200dtexであってもよい。特に、前記ポリエステル繊維で形成された軟質撚り糸(B)の繊度をこれらの範囲(特に900〜1250dtex)に調整することにより、ベルト伸びをあまり大きくすることなく、引張強さおよび耐屈曲疲労性を向上できる。繊度が小さすぎると、耐屈曲疲労性が十分に向上しない虞があり、逆に大きすぎると、伝動ベルトの伸びが大きくなる虞がある。
軟質下撚り糸(B)の下撚り係数は1〜7程度の範囲から選択でき、例えば2〜6、好ましくは2.5〜5、さらに好ましくは3〜5、より好ましくは3.5〜5(特に4〜5)であってもよい。下撚り係数が小さすぎると、伝動ベルトの伸びが大きくなる虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。下撚り係数が小さく、撚りが少ない方が伸びが大きくなるメカニズムは、従来のメカニズムでは容易に予測できないメカニズムであり、後述するように、特定の硬質下撚り糸(A)と組み合わせることにより発現した意外なメカニズムである。
(諸撚りコードの特性)
前記諸撚りコードは、複数本の硬質下撚り糸(A)および1本の軟質下撚り糸(B)を含む下撚り糸を合糸し、下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかけ、諸撚り糸(諸撚りコード)を得る。下撚りの方向と上撚りの方向が同じであるラング撚りコードの場合、撚りコード自体の捩れる性質(撚り戻りトルク)が大きいために、ループやキンク(形くずれ)を形成しやすく、取り扱い性が劣る。一方、下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかけた諸撚りコードの場合、下撚りと上撚りで撚り戻りトルクを打ち消しあうために、ループやキンクの形成が抑制され、取り扱い性に優れる。さらに、撚り戻りトルクの小さい諸撚りコードを伝動ベルトの心線として用いることで、伝動ベルトの直進安定性が向上し、リブずれやポップアウトの発生を抑制できる。
前記諸撚りコードは、複数本の硬質下撚り糸(A)および1本の軟質下撚り糸(B)を含む下撚り糸を合糸し、下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかけ、諸撚り糸(諸撚りコード)を得る。下撚りの方向と上撚りの方向が同じであるラング撚りコードの場合、撚りコード自体の捩れる性質(撚り戻りトルク)が大きいために、ループやキンク(形くずれ)を形成しやすく、取り扱い性が劣る。一方、下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかけた諸撚りコードの場合、下撚りと上撚りで撚り戻りトルクを打ち消しあうために、ループやキンクの形成が抑制され、取り扱い性に優れる。さらに、撚り戻りトルクの小さい諸撚りコードを伝動ベルトの心線として用いることで、伝動ベルトの直進安定性が向上し、リブずれやポップアウトの発生を抑制できる。
前記諸撚りコードは、前記硬質下撚り糸(A)および前記軟質下撚り糸(B)に加えて、他の下撚り糸をさらに含んでいてもよい。他の下撚り糸としては、全芳香族ポリエステル繊維を含む硬質下撚り糸、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維を含む硬質下撚り糸、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維を含む硬質下撚り糸、前記軟質下撚り糸(B)として例示された軟質下撚り糸などが挙げられる。他の下撚り糸の本数は、例えば3本以下であってもよく、好ましくは0〜2本、さらに好ましくは0本または1本である。
硬質下撚り糸(A)および軟質下撚り糸(B)の合計割合は、諸撚りコード全体に対して50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%である。
本実施形態では、前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.5〜1.2である。本実施形態では、下撚り係数の比(B/A)を前記範囲に調整することにより、諸撚りコード(上撚り糸)中での硬質下撚り糸(A)と軟質下撚り糸(B)とのバランスを向上でき、伸びの小ささと耐屈曲疲労性とを両立できる。下撚り係数の比(B/A)が0.5未満の場合は、諸撚りコード中における軟質下撚り糸(B)の断面形状自由度が高くなる(すなわち、撚りが甘いために収束性が低下し、断面形状が不均一な形状となる)結果、伝動ベルトの伸びが大きくなる。下撚り係数の比(B/A)が1.2を超える場合は、下撚り糸(B)の伸びが大きくなって、下撚り糸(B)が諸撚りコードの周囲に追いやられる結果(後述する図1の(c)の状態)、耐屈曲疲労性が十分に向上しない。
前記下撚り係数の比(B/A)は、好ましくは0.6〜1.2、さらに好ましくは0.
7〜1.15、より好ましくは0.8〜1.1、最も好ましくは0.9〜1.05である。
7〜1.15、より好ましくは0.8〜1.1、最も好ましくは0.9〜1.05である。
前記諸撚りコードの上撚り係数は2〜4が好ましい。上撚り係数が2未満の場合はストランドの収束性が低下して耐ポップアウト性や耐ホツレ性が低下する虞があり、上撚り係数が4を超えると引張強さ及び引張弾性率が低下する虞がある。
前記諸撚りコードは、後述する熱延伸処理(ヒートセット処理)によって、解撚したときの硬質下撚り糸(A)および軟質下撚り糸(B)の長さが特定の範囲に調整されている。詳しくは、前記諸撚りコードを100mm解撚(上撚り糸を解撚)し、下撚り糸を引き揃えたとき、軟質下撚り糸(B)の長さと硬質下撚り糸(A)の平均長さ(算術平均値)との差[処理コード引き揃え(B−A)])は、軟質下撚り糸(B)の長さ−硬質下撚り糸(A)の平均長さ=−1〜2mmの範囲であってもよく、例えば−0.8〜1.5mm、好ましくは−0.5〜1mm、さらに好ましくは−0.3〜0.7mm、より好ましくは−0.2〜0.5mm、最も好ましくは0〜0.3mmであってもよい。処理コード引き揃え(B−A)が小さすぎると、ベルト伸びが大きくなる虞があり、逆に大きすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
[伝動ベルト用心線の製造方法]
本実施形態の伝動ベルト用心線は、複数の下撚り糸を合糸して上撚りすることにより諸撚りコードを調製する撚り工程と、撚り工程で得られた諸撚りコードに加熱しながら張力をかける熱延伸処理工程とを経て得られる。
本実施形態の伝動ベルト用心線は、複数の下撚り糸を合糸して上撚りすることにより諸撚りコードを調製する撚り工程と、撚り工程で得られた諸撚りコードに加熱しながら張力をかける熱延伸処理工程とを経て得られる。
(撚り工程)
撚り工程では、複数本の硬質下撚り糸(A)および1本の軟質下撚り糸(B)を含む下撚り糸を合糸し、前述の上撚り係数となるように、慣用の方法で下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかける。
撚り工程では、複数本の硬質下撚り糸(A)および1本の軟質下撚り糸(B)を含む下撚り糸を合糸し、前述の上撚り係数となるように、慣用の方法で下撚りの方向とは逆方向に上撚りをかける。
下撚り糸を構成する各下撚り糸も、前述の下撚り係数比となるように、慣用の方法で下撚りして作製される。前記硬質下撚り糸(A)および軟質下撚り糸(B)を含む各下撚り糸の撚り方向は、全て同一方向であればよく、目的の心線の方向に応じてS方向に作製するか、Z方向に作製するか選択される。
上撚りされた撚りコードには、耐ホツレ性およびゴム成分との接着性を向上させるために、必要に応じて、汎用の接着処理を施し、繊維間(フィラメント間)を接着し、かつコード表面に接着層を形成してもよい。汎用の接着処理としては、エポキシ化合物またはポリイソシアネート化合物を含む処理液に浸漬する方法、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とラテックス(L)を含むRFL処理液に浸漬する方法、ゴム糊に浸漬する方法などが挙げられる。これらの処理は単独で適用してもよく、2種以上を組み合わせて適用してもよい。また、浸漬する以外に噴霧や塗布する方法であってもよいが、接着成分をコードの内部まで浸透させ易い点や接着層の厚みを均一にし易い点から浸漬が好ましい。
(熱延伸処理工程)
前記撚り工程で得られた撚りコードは、引張強さが高く、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立させるために、熱延伸処理(ヒートセット)工程に供される。熱延伸処理工程において、撚りコードに熱と張力をかけることにより、フィラメント同士の馴染みをよくする(フィラメント間の空隙を減少させる)ことができ、撚りコード、心線、伝動ベルトの伸びを小さくできる。すなわち、伝動ベルトでは、撚りコードの伸びを、伝動ベルトの成形前に除去することができ、伝動ベルトの伸びを小さくできる。
前記撚り工程で得られた撚りコードは、引張強さが高く、伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立させるために、熱延伸処理(ヒートセット)工程に供される。熱延伸処理工程において、撚りコードに熱と張力をかけることにより、フィラメント同士の馴染みをよくする(フィラメント間の空隙を減少させる)ことができ、撚りコード、心線、伝動ベルトの伸びを小さくできる。すなわち、伝動ベルトでは、撚りコードの伸びを、伝動ベルトの成形前に除去することができ、伝動ベルトの伸びを小さくできる。
さらに、本実施形態では、硬質下撚り糸(A)および軟質下撚り糸(B)の撚り係数比が特定の範囲に調整されていることにより、トレードオフの関係にある伸びの小ささと耐屈曲疲労性の高さとを両立できる撚りコードの形態に調製できる。図1は、熱延伸処理工程の前後における撚りコードの断面形態を説明するための模式図である。図1では、3本の硬質下撚り糸(A)(図1中のA)と1本の軟質下撚り糸(B)(図1中のB)の断面形態を示し、図1(a)は、本実施形態の撚りコードの熱延伸処理工程前における形態を示す。図1(a)では、撚糸後は、軟質下撚り糸(B)は、硬質下撚り糸(A)よりもコード内周方向(図1(a)中の矢印の方向)に食い込んだ(凹んだ)形態である。図1(b)は、本実施形態の撚りコードの熱延伸処理工程後における形態を示す。熱延伸処理後は、コード内部に食い込んでいた軟質下撚り糸(B)が外周方向に移動して、硬質下撚り糸(A)とのバランスが良好な撚糸コードが調製されている。一方、図1(c)は、撚り係数比や熱延伸処理条件などが本実施形態とは異なる条件で熱延伸処理された撚りコードの熱延伸処理工程後における形態を示す。図1(c)では、軟質下撚り糸(B)が硬質下撚り糸(A)よりもコード外周方向(図1(c)中の矢印の方向)に追いやられた(突出した)バランスの良好でない形態であり、撚りコード全体としては、軟質下撚り糸(B)が硬質下撚り糸(A)に巻き付く形状である。
熱延伸処理工程で用いる処理装置の概略図を図2に示す。前記処理装置は、図2に示されているように、通常、駆動ロール12、加熱炉13、折り返しロール14、駆動ロール16を備えている。この処理装置では、撚りコード11は、各ロールにかけまわされ、駆動ロール12および駆動ロール16から受ける駆動力によって加熱炉13の中を通過する。撚りコード11の進行方向を後方、撚りコード11の進行方向の逆方向を前方とすると、駆動ロール12は加熱炉13よりも前方に設置されており、駆動ロール16は加熱炉13よりも後方に設置されている。折り返しロール14は、駆動ロール12と駆動ロール16との間に設置されている。熱延伸処理工程では、駆動ロール16の回転速度を駆動ロール12の回転速度よりも大きくすることで、撚りコード11に張力を付与する。撚りコード11の張力は、駆動ロール12と駆動ロール16との間の適当な位置に設置したテンションメータ15で測定してもよく、折り返しロール14にかかる軸荷重から計算してもよい。撚りコード11の張力をフィードバックして、各駆動ロールの回転速度を制御することで、撚りコード11にかかる張力を調節することができる。すなわち、この処理装置では、撚りコード11に所定の張力をかけながら、所定の温度に設定した加熱炉の中を通過させることにより、撚りコード11を熱延伸処理(ヒートセット処理)させる。
熱延伸処理工程において、撚りコードにかける張力は、撚りコードの撚り係数などに応じて0.1〜2cN/dtex程度の範囲から適宜選択でき、例えば0.3〜1.5cN/dtex、好ましくは0.4〜1.2cN/dtex、さらに好ましくは0.5〜1cN/dtex(特に0.6〜0.8cN/dtex)である。張力が小さすぎると、熱延伸が不十分となり、伝動ベルトの伸びが大きくなる虞がある。一方、張力が大きすぎると、熱延伸過剰となり、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。熱延伸が過剰になると、例えば、軟質下撚り糸(B)が諸撚りコードの外周方向に追いやられ、図1(c)に示す形態となる。
熱延伸処理工程における加熱温度は、撚りコードを形成する繊維の材質や撚り係数などに応じて150〜250℃程度の範囲から適宜選択でき、例えば160〜240℃、好ましくは170〜230℃、さらに好ましくは180〜220℃(特に190〜210℃)である。加熱温度が低すぎると、熱延伸が不十分となり、伝動ベルトの伸びが大きくなる虞がある。一方、加熱温度が高すぎると、撚りコード(特に、軟質下撚り糸(B))が溶融または軟化する虞がある。
熱延伸処理工程で熱延伸処理された撚りコードは、必要に応じて、ゴム成分との接着性
を向上するために、ゴム糊による被覆(オーバーコート)処理をさらに施してもよい。
を向上するために、ゴム糊による被覆(オーバーコート)処理をさらに施してもよい。
[伝動ベルト]
本実施形態の伝動ベルトとしては、心線が前記心線で形成された伝動ベルト、例えば、ラップドVベルト、ローエッジVベルトなどのVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトなどが挙げられる。これらのうち、研磨法により成形して得られるVリブドベルトが好ましい。
本実施形態の伝動ベルトとしては、心線が前記心線で形成された伝動ベルト、例えば、ラップドVベルト、ローエッジVベルトなどのVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトなどが挙げられる。これらのうち、研磨法により成形して得られるVリブドベルトが好ましい。
本実施形態の伝動ベルト(Vリブドベルト)の形態は、ベルト長手方向に沿って互いに平行して延びる複数のVリブ部を有していれば、特に制限されず、例えば、図3に示す形態が例示される。図3は本実施形態のVリブドベルトの一例を示す概略断面図である。図3に示されるVリブドベルトは、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、圧縮ゴム層(第1のゴム層)2、ベルト長手方向に沿って心線1を埋設した接着ゴム層(第2のゴム層)4、カバー布(織物、編物、不織布など)またはゴム組成物で構成された伸張層5を積層した形態を有している。圧縮ゴム層2には、ベルト長手方向に延びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のVリブ部3(図3に示す例では4個)が形成されており、この各Vリブ部3の二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。
本実施形態のVリブドベルトはこの形態に限定されず、少なくとも一部がプーリのVリブ溝部(V溝部)と接触可能な伝動面を有する圧縮ゴム層を備えていればよく、典型的には、伸張層と圧縮ゴム層と、その間にベルト長手方向に沿って埋設される心線とを備えていればよい。本実施形態のVリブドベルトにおいて、例えば、接着ゴム層4を設けることなく、伸張層5と圧縮ゴム層2との間に心線1を埋設してもよい。さらに、接着ゴム層4を圧縮ゴム層2または伸張層5のいずれか一方に設け、心線1を接着ゴム層4(圧縮ゴム層2側)と伸張層5との間、もしくは接着ゴム層4(伸張層5側)と圧縮ゴム層2との間に埋設する形態であってもよい。
なお、少なくとも前記圧縮ゴム層2が以下に詳細に説明するゴム組成物で形成されていればよく、前記接着ゴム層4は接着ゴム層として利用される慣用のゴム組成物で形成されていればよく、前記伸張層5は伸張層として利用される慣用のカバー布またはゴム組成物で形成されていればよく、前記圧縮ゴム層2と同一のゴム組成物で形成されていなくてもよい。
(心線)
心線は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した撚りコードである。心線は、伝動ベルトのゴム層内に埋設されていればよく、前記例では、接着ゴム層内においてベルトの長手方向に延びて配設されており、長手方向に平行な複数本の心線が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ベルトの長手方向に略平行に所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルトの直進安定性の点から、0°に近いほど好ましい。
心線は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した撚りコードである。心線は、伝動ベルトのゴム層内に埋設されていればよく、前記例では、接着ゴム層内においてベルトの長手方向に延びて配設されており、長手方向に平行な複数本の心線が配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ベルトの長手方向に略平行に所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長手方向に対する心線の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルトの直進安定性の点から、0°に近いほど好ましい。
心線の平均ピッチ(隣接する心線の中心間の平均距離)は、心線径や目的のベルト引張強度に合わせて適宜選択でき、例えば0.6〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mm、さらに好ましくは0.9〜1.05mm程度である。心線の平均ピッチが小さすぎると、ベルト製造工程において心線同士の乗り上げが発生する虞があり、逆に大きすぎると、ベルトの引張強度および引張弾性率が低下する虞がある。心線の平均ピッチは、Vリブドベルトの幅方向の断面において隣接する心線の中心間の距離を10ヶ所測定し、それらを平均した値である。なお、心線の中心間の距離は走査型電子顕微鏡(SEM)や投影機など
の公知の装置を用いて測定できる。
の公知の装置を用いて測定できる。
心線は、S撚り、Z撚りのいずれであってもよいが、ベルトの直進安定性を高めるためにS撚りとZ撚りとを交互に配設するのが好ましい。
(ゴム組成物)
圧縮ゴム層、接着ゴム層および伸張層は、ゴム成分を含むゴム組成物で形成されていてもよい。ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いてよく、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど]、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
圧縮ゴム層、接着ゴム層および伸張層は、ゴム成分を含むゴム組成物で形成されていてもよい。ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴムを用いてよく、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど]、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
好ましいゴム成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマー[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)など]およびクロロプレンゴムである。さらに、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性、耐候性を有し、ベルト重量を低減できる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)など]が特に好ましい。ゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーを含む場合、ゴム成分中のエチレン−α−オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上(特に80〜100質量%程度)であってもよく、100質量%(エチレン−α−オレフィンエラストマーのみ)が特に好ましい。
ゴム組成物は、短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、前記心線の撚りコードを形成する下撚り糸に含まれる繊維として例示された全ての繊維などが挙げられる。前記繊維で形成された短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、短繊維には、心線と同様に、慣用の接着処理(または表面処理)を施してもよい。短繊維の平均長さは、例えば0.1〜20mm、好ましくは0.5〜15mm(例えば、1〜10mm)、さらに好ましくは1.5〜5mm(特に2〜4mm)程度であってもよい。プーリからの側圧と摩擦力を大きく受ける圧縮ゴム層中で短繊維をベルト幅方向に配向させることにより、Vリブドベルトの耐側圧性を確保できる。短繊維の平均繊維径は、例えば1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜40μm(特に10〜30μm)程度である。
ゴム組成物は、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、加硫剤または架橋剤(または架橋剤系)(硫黄系加硫剤など)、共架橋剤(ビスマレイミド類など)、加硫助剤または加硫促進剤(チウラム系促進剤など)、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、補強剤(例えば、カーボンブラックや、含水シリカなどの酸化ケイ素)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、軟化剤(例えば、パラフィンオイルや、ナフテン系オイル等のオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。また、特に接着ゴム層を構成するゴム組成物は、接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。
圧縮ゴム層、接着ゴム層および伸張層を構成するゴム組成物は、互いに同一であってもよく、互いに異なってもよい。同様に、圧縮ゴム層、接着ゴム層および伸張層に含まれる短繊維も、互いに同一であってもよく、互いに異なってもよい。
(カバー布)
伸張層は、カバー布で形成されていてもよい。カバー布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、接着処理、例えば、RFL処理液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層(コーティング)した後、前記の形態で圧縮ゴム層および/または接着ゴム層に積層してもよい。
伸張層は、カバー布で形成されていてもよい。カバー布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、接着処理、例えば、RFL処理液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層(コーティング)した後、前記の形態で圧縮ゴム層および/または接着ゴム層に積層してもよい。
[伝動ベルトの製造方法]
本実施形態の伝動ベルトの製造方法としては、前記心線を用いればよく、慣用の伝動ベルトの製造方法を利用できるが、成形過程において伸びを要求されない製造方法に利用するのが好ましく、例えば、研磨法で成形して伝動ベルトを作製する研磨工程を含む製造方法が好ましい。特に、Vリブドベルトでは、モールド型付工法で製造すると、成形加工時にコードが伸長されるために、撚りコードの伸びが除去されるが、研磨法で製造すると、撚りコードの伸びを除去できない。そのため、低弾性率繊維を含みながらも伸びが小さい心線が求められ、本実施形態の心線を好適に用いることができる。
本実施形態の伝動ベルトの製造方法としては、前記心線を用いればよく、慣用の伝動ベルトの製造方法を利用できるが、成形過程において伸びを要求されない製造方法に利用するのが好ましく、例えば、研磨法で成形して伝動ベルトを作製する研磨工程を含む製造方法が好ましい。特に、Vリブドベルトでは、モールド型付工法で製造すると、成形加工時にコードが伸長されるために、撚りコードの伸びが除去されるが、研磨法で製造すると、撚りコードの伸びを除去できない。そのため、低弾性率繊維を含みながらも伸びが小さい心線が求められ、本実施形態の心線を好適に用いることができる。
Vリブドベルトは、例えば、圧縮ゴム層と、心線が埋設された接着ゴム層と、伸張層とを、それぞれ未加硫ゴム組成物(伸張層がカバー布の場合はカバー布前駆体)で形成して積層し、この積層体を成形型で筒状に成形し、加硫してスリーブを成形し、この加硫スリーブを所定幅にカッティングすることにより形成してもよい。
より詳細には、先ず、表面が平滑な円筒状の成形モールド(金型または成形型)に伸張層用シートを巻きつけ、このシート上に芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、さらに接着ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シートを順次巻き付けて成形体を作製する。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せた状態で成形モールドを加硫缶内に収容し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得る。そして、この加硫ゴムスリーブの外表面(圧縮ゴム層)を研削ホイールにより研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブを所定の幅で周方向にカットしてVリブドベルトに仕上げる。なお、カットしたベルトを反転させることにより、内周面にリブ部を有する圧縮ゴム層を備えたVリブドベルトが得られる。
この方法において、心線をスピニングするための張力(心線スピニングテンション)は、例えば0.3〜1.5cN/dtex、好ましくは0.4〜1.2cN/dtex、さらに好ましくは0.5〜1cN/dtex(特に0.6〜0.8cN/dtex)である。心線スピニングテンションが低すぎると、心線並びの安定性が低下する虞があり、高すぎると、ベルトの引張強さが低下する虞がある。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した材料の詳細を以下に示す。
[アラミド繊維]
標準タイプ:帝人(株)製「Twaron1014」、中間伸度0.6%、引張弾性率80GPa
高伸度タイプ:帝人(株)製「Twaron2100」、中間伸度1.0%、引張弾性率60GPa
標準タイプ:帝人(株)製「Twaron1014」、中間伸度0.6%、引張弾性率80GPa
高伸度タイプ:帝人(株)製「Twaron2100」、中間伸度1.0%、引張弾性率60GPa
[低弾性率繊維]
東レ(株)製「テトロン1100T−360−704M」、高モジュラス低収縮タイプポリエチレンテレフタレート
東レ(株)製「テトロン1100T−360−704M」、高モジュラス低収縮タイプポリエチレンテレフタレート
[ゴム組成物]
以下に示す成分を表1に示す割合で混合して接着ゴム層用組成物を調製し、表2に示す割合で混合して圧縮ゴム層用組成物を調製した。
以下に示す成分を表1に示す割合で混合して接着ゴム層用組成物を調製し、表2に示す割合で混合して圧縮ゴム層用組成物を調製した。
EPDM:ダウケミカル社製「ノーデルIP3640」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「NipsilVN3」
硫黄:美源化学社製
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「レオナ」、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
有機過酸化物:化薬ヌーリオン(株)製「パーカドックス14」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「NipsilVN3」
硫黄:美源化学社製
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「レオナ」、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
有機過酸化物:化薬ヌーリオン(株)製「パーカドックス14」
[カバー布]
ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸および緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m2)を下記RFL処理液に浸漬後、乾燥させてカバー布を作製した。
ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸および緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m2)を下記RFL処理液に浸漬後、乾燥させてカバー布を作製した。
[RFL処理液]
レゾルシン2.6質量部、37質量%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス17.2質量部、および水78.8質量部を含む溶液。
レゾルシン2.6質量部、37質量%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス17.2質量部、および水78.8質量部を含む溶液。
実施例1
[撚りコードの作製]
表3に示すように、1100dtexのアラミド繊維の束を撚り係数4.5でZ方向に下撚りした下撚り糸3本と、1100dtexの低弾性率繊維の束を撚り係数3.0でZ方向に下撚りした下撚り糸1本とを合わせて、S方向に撚り係数3.2で上撚りし、S撚りの諸撚りコードを作製した。同様に、下撚りの方向をS方向とし、上撚りの方向をZ方向として、Z撚りの諸撚りコードを作製した。
[撚りコードの作製]
表3に示すように、1100dtexのアラミド繊維の束を撚り係数4.5でZ方向に下撚りした下撚り糸3本と、1100dtexの低弾性率繊維の束を撚り係数3.0でZ方向に下撚りした下撚り糸1本とを合わせて、S方向に撚り係数3.2で上撚りし、S撚りの諸撚りコードを作製した。同様に、下撚りの方向をS方向とし、上撚りの方向をZ方向として、Z撚りの諸撚りコードを作製した。
[繊維間接着処理〜熱延伸処理]
S撚りの諸撚りコード、およびZ撚りの諸撚りコードを上記RFL処理液(25℃)に5秒間浸漬した後、熱延伸処理を行い、S撚りの処理コード、およびZ撚りの処理コードを得た。熱延伸処理の条件は、温度200℃(加熱炉の温度)、張力(撚りコードにかけられる張力)0.7cN/dtex、処理時間(撚りコードのある一点が加熱炉の入りを通過して加熱炉の出口に達するまでの時間)は約1分間であった。
S撚りの諸撚りコード、およびZ撚りの諸撚りコードを上記RFL処理液(25℃)に5秒間浸漬した後、熱延伸処理を行い、S撚りの処理コード、およびZ撚りの処理コードを得た。熱延伸処理の条件は、温度200℃(加熱炉の温度)、張力(撚りコードにかけられる張力)0.7cN/dtex、処理時間(撚りコードのある一点が加熱炉の入りを通過して加熱炉の出口に達するまでの時間)は約1分間であった。
[処理コード引き揃え(B−A)]
1)検撚機のチャック間距離を25cmとし、処理コードをチャック止めする。
2)上撚りを解撚し、最も短い下撚り糸(張力がかかって直線状に延びている糸)の長さを測定する。この時、最も短い下撚り糸以外の下撚り糸は緩んだ状態になっている。
3)最も短い下撚り糸(張力がかかって直線状に延びている糸)を切断し、2番目に短い下撚り糸(最も短い下撚り糸が切断されたことにより、張力がかかって直線状に延びた糸)の長さを測定する。
4)以後、同様にして、全ての下撚り糸の長さを測定する。
5)軟質下撚り糸(B)の長さから硬質下撚り糸(A)の平均長さ(3または4本の算
術平均値)を差し引き、その差を100mm当たりの長さの差に換算する。
1)検撚機のチャック間距離を25cmとし、処理コードをチャック止めする。
2)上撚りを解撚し、最も短い下撚り糸(張力がかかって直線状に延びている糸)の長さを測定する。この時、最も短い下撚り糸以外の下撚り糸は緩んだ状態になっている。
3)最も短い下撚り糸(張力がかかって直線状に延びている糸)を切断し、2番目に短い下撚り糸(最も短い下撚り糸が切断されたことにより、張力がかかって直線状に延びた糸)の長さを測定する。
4)以後、同様にして、全ての下撚り糸の長さを測定する。
5)軟質下撚り糸(B)の長さから硬質下撚り糸(A)の平均長さ(3または4本の算
術平均値)を差し引き、その差を100mm当たりの長さの差に換算する。
[Vリブドベルトの作製]
まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライ(1枚重ね)のカバー布を巻き付け、このカバー布の外側に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートを巻き付けた。次に、接着ゴム層用シートの上からS撚りの処理コードとZ撚りの処理コードとを並列させて心線ピッチ(隣り合う心線の中心間の距離)0.95mmでらせん状に49.0N(1.1cN/dtex)の張力(テンション)でスピニングして巻き付けた。さらにこの上に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートおよび表2に示すゴム組成物で形成された未加硫の圧縮ゴム層用シートを順に巻き付けた。そして、圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り外し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーにより研削して複数のV字状溝を同時に形成した。その後、円筒状加硫ゴムスリーブをカッターで周方向に輪切りするように切断することによって、3つのVリブ部を有する周長1200mm(3PK1200、平均幅10.7mm)のVリブドベルトを得た。得られたベルトは、図3に示す方向の断面図では、S撚りの処理コードとZ撚りの処理コードとは交互に配列していた。また、摩擦伝動面(Vリブ部のV字状側面)からは、圧縮ゴムに埋設された短繊維が突出していた。
まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライ(1枚重ね)のカバー布を巻き付け、このカバー布の外側に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートを巻き付けた。次に、接着ゴム層用シートの上からS撚りの処理コードとZ撚りの処理コードとを並列させて心線ピッチ(隣り合う心線の中心間の距離)0.95mmでらせん状に49.0N(1.1cN/dtex)の張力(テンション)でスピニングして巻き付けた。さらにこの上に、表1に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートおよび表2に示すゴム組成物で形成された未加硫の圧縮ゴム層用シートを順に巻き付けた。そして、圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り外し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーにより研削して複数のV字状溝を同時に形成した。その後、円筒状加硫ゴムスリーブをカッターで周方向に輪切りするように切断することによって、3つのVリブ部を有する周長1200mm(3PK1200、平均幅10.7mm)のVリブドベルトを得た。得られたベルトは、図3に示す方向の断面図では、S撚りの処理コードとZ撚りの処理コードとは交互に配列していた。また、摩擦伝動面(Vリブ部のV字状側面)からは、圧縮ゴムに埋設された短繊維が突出していた。
実施例2〜11および比較例1〜4
撚りコードの構成、熱延伸処理の条件、心線ピッチ、心線スピニングテンションを表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にVリブドベルトを製造した。比較例1および4はアラミド繊維の下撚り糸3本(または4本)を合わせて上撚りしており、低弾性率繊維を含んでいない。
撚りコードの構成、熱延伸処理の条件、心線ピッチ、心線スピニングテンションを表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にVリブドベルトを製造した。比較例1および4はアラミド繊維の下撚り糸3本(または4本)を合わせて上撚りしており、低弾性率繊維を含んでいない。
[試験条件]
[処理コード引張強さおよび処理コード破断伸び率]
JIS L1017(2002)に準拠して測定した。詳しくは、心線単体(繊維間接着処理および熱延伸処理を施した処理コード)を、オートグラフの一対の掴み具にコードがたるまずに真っ直ぐになるようにセットした。この時の掴み間隔をL0(約250mm)とした。次に、片方の掴み具を300mm/minの速度で移動させてコードに引張荷重を与え、引張荷重と掴み間隔を記録した。処理コード引張強さは、心線が破断した際の引張荷重を心線の繊度で除して求めた。処理コード破断伸び率は、心線が破断した際の掴み間隔をL1(mm)として、下記の式より求めた。
[処理コード引張強さおよび処理コード破断伸び率]
JIS L1017(2002)に準拠して測定した。詳しくは、心線単体(繊維間接着処理および熱延伸処理を施した処理コード)を、オートグラフの一対の掴み具にコードがたるまずに真っ直ぐになるようにセットした。この時の掴み間隔をL0(約250mm)とした。次に、片方の掴み具を300mm/minの速度で移動させてコードに引張荷重を与え、引張荷重と掴み間隔を記録した。処理コード引張強さは、心線が破断した際の引張荷重を心線の繊度で除して求めた。処理コード破断伸び率は、心線が破断した際の掴み間隔をL1(mm)として、下記の式より求めた。
処理コード破断伸び率(%)=((L1−L0)/L0)×100。
[ベルト引張強さ]
3PK1200のVリブドベルトを長手方向に3等分し、リブ数3、長さ400mmの測定用試料を各3本ずつ作製した。この試料をアムスラー万能引張試験機の一対の掴み具に試料がたるまずに真っ直ぐになるようにセットした。次に、片方の掴み具を50mm/minの速度で移動させて試料に引張荷重を与え、試料が破断した際の引張荷重を記録した。3本の試料の引張荷重測定値の算術平均を求め、ベルト引張強さ(N)とした。
3PK1200のVリブドベルトを長手方向に3等分し、リブ数3、長さ400mmの測定用試料を各3本ずつ作製した。この試料をアムスラー万能引張試験機の一対の掴み具に試料がたるまずに真っ直ぐになるようにセットした。次に、片方の掴み具を50mm/minの速度で移動させて試料に引張荷重を与え、試料が破断した際の引張荷重を記録した。3本の試料の引張荷重測定値の算術平均を求め、ベルト引張強さ(N)とした。
[走行試験]
3PK1200のVリブドベルトを図4にレイアウトを示す試験機で走行させ、耐久性(BOC変化率および引張強さ保持率)を評価した。試験機は、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径45mmのテンションプーリ(Ten.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径80mmの背面アイドラ(Idl.)を備えていた。テンション
プーリへのベルトの巻きかけ角度が90°、背面アイドラへのベルトの巻きかけ角度が120°となるように調節した。駆動プーリの回転数は4900rpmとした。従動プーリの負荷は8.8kWとした。テンションプーリに810Nの軸荷重を加えることで、ベルトに張力を与えた。試験温度(雰囲気温度)は120℃とし、100時間走行させた。
3PK1200のVリブドベルトを図4にレイアウトを示す試験機で走行させ、耐久性(BOC変化率および引張強さ保持率)を評価した。試験機は、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径45mmのテンションプーリ(Ten.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径80mmの背面アイドラ(Idl.)を備えていた。テンション
プーリへのベルトの巻きかけ角度が90°、背面アイドラへのベルトの巻きかけ角度が120°となるように調節した。駆動プーリの回転数は4900rpmとした。従動プーリの負荷は8.8kWとした。テンションプーリに810Nの軸荷重を加えることで、ベルトに張力を与えた。試験温度(雰囲気温度)は120℃とし、100時間走行させた。
[BOC変化率]
走行試験機にVリブドベルトを取り付けた状態で、100時間走行させる前のベルト外周長(走行前BOC(mm))と100時間走行させた後のベルト外周長(走行後BOC(mm))を巻き尺で測定し、BOC変化率を下記の式より求めた。BOC変化率が小さい程、Vリブドベルトの伸びが小さいことを意味する。
走行試験機にVリブドベルトを取り付けた状態で、100時間走行させる前のベルト外周長(走行前BOC(mm))と100時間走行させた後のベルト外周長(走行後BOC(mm))を巻き尺で測定し、BOC変化率を下記の式より求めた。BOC変化率が小さい程、Vリブドベルトの伸びが小さいことを意味する。
BOC変化率(%)=((走行後BOC−走行前BOC)/走行前BOC)×100。
[引張強さ保持率]
100時間走行させた後のVリブドベルトのベルト引張強さを、前記の方法と同様に求めた(走行後ベルト引張強さ(N))。そして、走行前ベルト引張強さ(N)を基準として、引張強さ保持率を下記の式より求めた。引張強さ保持率が高い程、Vリブドベルトの耐屈曲疲労性が高いことを意味する。
100時間走行させた後のVリブドベルトのベルト引張強さを、前記の方法と同様に求めた(走行後ベルト引張強さ(N))。そして、走行前ベルト引張強さ(N)を基準として、引張強さ保持率を下記の式より求めた。引張強さ保持率が高い程、Vリブドベルトの耐屈曲疲労性が高いことを意味する。
引張強さ保持率(%)=(走行後ベルト引張強さ/走行前ベルト引張強さ)×100
実施例および比較例の評価結果を表3に示す。
低弾性率繊維の下撚り糸(B)を含まず、アラミド繊維の下撚り糸(A)3本を合わせて上撚りした比較例1およびアラミド繊維の下撚り糸(A)4本を合わせて上撚りした比較例4は、耐屈曲疲労性が十分ではなく、引張強さ保持率が低かった。
一方、アラミド繊維の下撚り糸(A)と、低弾性率繊維の下撚り糸(B)とを含み、アラミド繊維の下撚り糸(A)の下撚り係数に対する低弾性率繊維の下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が一定の範囲にある実施例1〜11は、引張強さ保持率の高さと、伝動ベルトの伸びの小ささを両立することができた。
実施例1〜4と比較例2〜3との比較より、アラミド繊維の下撚り糸(A)の下撚り係数に対する低弾性率繊維の下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)は、0.5〜1.2程度の範囲で良好な結果が得られることが分かる。同様に、低弾性率繊維の下撚り糸(B)の下撚り係数は2.5〜5の範囲が好ましいと考えられる。比較例2ではアラミド繊維の下撚り糸(A)の下撚り係数に対する低弾性率繊維の下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.33と小さいために、ベルト伸びが大きくなった。これは、諸撚りコード中における下撚り糸(B)の断面形状自由度が高くなる結果であると考えられる。また、比較例3ではアラミド繊維の下撚り糸(A)の下撚り係数に対する低弾性率繊維の下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が1.33と大きいために、引張強さ保持率が低くなった。これは、下撚り糸(B)の伸びが大きくなって、下撚り糸(B)が諸撚りコードの周囲に追いやられた結果、耐屈曲疲労性が低下するためと考えられる。
実施例3〜4および10の比較より、高伸度タイプのアラミド繊維を用いると、標準タイプのアラミド繊維を用いる場合よりも、引張強さ保持率が高くなった。しかしながら実施例3および4でも引張強さ保持率の高さと伝動ベルトの伸びの小ささは十分なレベルで両立できており、伝動ベルトの性能を優先して高伸度タイプのアラミド繊維を用いてもよく、価格や入手性などを優先して標準タイプのアラミド繊維を用いてもよいと言える。
実施例7〜8は、実施例4から心線スピニングテンションを低くした例であるが、ベルト引張強さが向上した。その理由は、加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り外した後のベルト収縮が抑制され、ヒートセット時に最適化したアラミド繊維の下撚り糸と低弾性率繊維の下撚り糸とのバランスが保持されやすくなったためと推測される。ただし、テンションが低くなり過ぎると心線の並びが安定し難くなると推定できる。
実施例9は、実施例7と比較して下撚り係数を小さくした例である。処理コードの引張強さは向上したが、引張強さ保持率は低下した。
実施例10と実施例11との比較より、アラミド繊維の下撚り糸(A)の本数は4本よりも3本の方が好ましいと考えられる。アラミド繊維の下撚り糸(A)が4本の場合は耐屈曲疲労性が低下するために、引張強さ保持率が低くなったと考えられる。
本実施例では低弾性率繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維を用いたが、他のポリエステル繊維(例えばポリエチレンナフタレート)や脂肪族ポリアミド繊維(例えばナイロン66)なども使用可能と考えられる。ただし、これら他の繊維を用いた場合、伝動ベルトの引張強さ、および耐屈曲疲労性を十分に向上できない虞があり、ポリエチレンテレフタレート繊維が好ましいと考えられる。
実施例3〜6を比較すると、熱延伸処理における加熱温度が低い実施例5ではベルト伸びが大きかった。これは、加熱温度が低いと撚りコード中のフィラメント同士が十分に馴染まず(フィラメント間の空隙が十分に減少せず)、撚りコードが伸びやすくなるためで
あると考えられる。また、熱延伸処理における加熱温度が高い実施例6では引張強さ保持率が低かった。これは、熱延伸が過剰となって、低弾性率繊維の下撚り糸(B)が撚りコードの周囲に追いやられてしまうために、耐屈曲疲労性を向上する効果が十分に得られなかったためと考えられる。そのため、熱延伸処理における加熱温度は160〜240℃が好ましく、張力(撚りコードにかけられる張力)は0.3〜1.5cN/dtexが好ましいと考えられる。
あると考えられる。また、熱延伸処理における加熱温度が高い実施例6では引張強さ保持率が低かった。これは、熱延伸が過剰となって、低弾性率繊維の下撚り糸(B)が撚りコードの周囲に追いやられてしまうために、耐屈曲疲労性を向上する効果が十分に得られなかったためと考えられる。そのため、熱延伸処理における加熱温度は160〜240℃が好ましく、張力(撚りコードにかけられる張力)は0.3〜1.5cN/dtexが好ましいと考えられる。
実施例1〜11と比較例2〜3との比較より、処理コード引き揃え(B−A)が−1〜2mm/100mmの範囲にあると、引張強さ保持率の高さと、伝動ベルトの伸びの小ささを両立できることも確認できる。
以上のように、本発明の伝動ベルト用心線はアラミド繊維と低弾性率繊維とを混撚りすることで、引張強さを高く保ちながら、伝動ベルトの伸びを小さくし、耐屈曲疲労性を向上できる。そのため、研磨法で製造されるVリブドベルト(特に、研磨法で製造され、圧縮ゴムに埋設された短繊維が摩擦伝動面から突出しているVリブドベルト)に好適に用いることができる。
本発明の伝動ベルト用心線は、各種の伝動ベルト、例えば、平ベルト、ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルト、両面歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトなどの心線として利用できる。なかでも、引張強さが高く、耐久性にも優れるため、自動車エンジンの補機駆動に用いられるVリブドベルトの心線として好適であり、高い動的張力が発生するISG搭載エンジンを駆動するためのVリブドベルトの心線として特に好適に利用できる。
1…伝動ベルト用心線
2…圧縮ゴム層
3…Vリブ部
4…接着ゴム層
5…伸張層
2…圧縮ゴム層
3…Vリブ部
4…接着ゴム層
5…伸張層
Claims (4)
- 複数本の下撚り糸を合糸して上撚りすることにより諸撚りコードを調製する撚り工程と、撚り工程で得られた諸撚りコードに温度160〜240℃で加熱しながら0.3〜1.5cN/dtexの張力をかける熱延伸処理工程とを含む伝動ベルト用心線の製造方法であって、
前記下撚り糸が、複数本の硬質下撚り糸(A)と1本の軟質下撚り糸(B)とを含み、
前記硬質下撚り糸(A)がアラミド繊維を含み、かつ各硬質下撚り糸(A)の繊度が1500dtex以下であり、
前記軟質下撚り糸(B)が低弾性率繊維を含み、かつ
前記硬質下撚り糸(A)の下撚り係数の平均値に対する前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)が0.5〜1.2である製造方法。 - 前記軟質下撚り糸(B)の下撚り係数が2.5〜5である請求項1記載の製造方法。
- 前記軟質下撚り糸(B)がポリエステル繊維を含み、かつ前記軟質下撚り糸(B)の繊度が900〜1250dtexである請求項1または2記載の製造方法。
- 前記諸撚りコードを100mm解撚し、下撚り糸を引き揃えたとき、軟質下撚り糸(B)の長さと硬質下撚り糸(A)の平均長さとの差(B−A)が、軟質下撚り糸(B)の長さ−硬質下撚り糸(A)の平均長さ=−1〜2mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
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