以下、幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明では、各実施形態で説明した構成と同一又は類似機能を備えた構成について同一符号又は類似符号を付し、第2実施形態以降では、必要に応じて説明を省略する。
(第1実施形態)
図1から図7に第1実施形態の説明図を示す。まず図1を参照し、リアルタイム演算処理装置1の全体のハードウェア構成を説明する。リアルタイム演算処理装置1は、FPUOS機能ブロック3(以下、FPUOS3と略す:オペレーティングシステム処理部相当)、メッセージリスト4、演算命令テーブル5、WORKER6(演算処理部相当)、FPU第1引数汎用レジスタ群7、FPU第2引数汎用レジスタ群8、及びFPU9(浮動小数点演算処理部相当)を、同一のASIC内、すなわちICチップ内に構成している。なお、ハードウェア構成を監視するためのウォッチドッグタイマ2(図8参照)も設けられているが、後述の第2実施形態にて説明する。
リアルタイム演算処理装置1は、外部の上位のスケジューラ10から演算イベントを受領すると、演算命令テーブル5の中に予め設定された2項演算命令に従って浮動小数点演算処理を実行する。
メッセージリスト4は、演算イベントに係るタスクの識別符号(ID)であるタスクIDと、当該タスクIDと紐付けられた開始アドレス及び終了アドレスとをFPUOS3の外にリスト化して格納している(図2も参照)。FPUOS3が、タスクIDを指定すると(図1のタスクID指定S8)、指定したタスクIDに対応した開始アドレス及び終了アドレスをメッセージリスト4の選択結果S9として返す。
また図1に示す演算命令テーブル5には演算命令テーブルアドレスに対応して演算命令セットが展開されている。WORKER6が、プログラムカウンタブロック31から演算命令テーブル5に演算命令テーブルアドレスS10を指定すると、当該演算命令テーブルアドレスS10に対応した演算命令セットを演算命令セット選択結果S11として返す。
FPUOS3は、FPU9に係るオペレーティングシステム機能をASICの中のハードウェアブロックにより実現したブロックである。外部のスケジューラ10が演算イベントを発行すると、FPUOS3はスケジューラ10から演算イベントを受領する。
FPUOS3は、演算イベントに係るタスクを時間軸及び優先度に基づいて実行順序を判断する。FPUOS3は、タスクに付与されたタスクIDと紐付けてメッセージリスト4から演算開始アドレス及び演算終了アドレスを読出し、WORKER6にタスクを実行指令する。図1に示すタスク実行指令S5参照。なおWORKER6は、タスク実行指令S5を受領し、当該タスクの実行を完了するとタスク完了S6として返す。
またFPUOS3は、前述のようにタスクを実行指令すると共に、WORKER6により実行されているタスクの管理を行うことに特化した機能ブロックである。FPUOS3は、オペレーティングシステム処理部相当として機能する。またWORKER6は、FPUOS3からの実行指令に従って演算処理を実行することに特化した機能ブロックである。
次に、図2を参照してFPUOS3の構成例を説明する。FPUOS3は、パワーオンリセット21(POR)、OSステートマシン22、メッセージトレイ23、メッセージキュー24、及びタスクトレイ25を備え、またメッセージリスト4との間のインタフェース26〜29を備える。
メッセージトレイ23には、タスクIDと優先度とのパラメータをタスクメッセージMSGとしてn対格納可能とされていると共に、トレイ格納メッセージ数のパラメータの格納領域が確保されている。タスクIDは、入力した時間順に割り振られるタスクメッセージMSGの識別番号を示す。タスクIDは、メッセージリスト4に格納される開始アドレス及び終了アドレスの情報量より少ない情報量により表現可能な識別番号である。タスクメッセージMSGにはそれぞれ優先度が設定される。
トレイ格納メッセージ数は、メッセージトレイ23に格納したタスクメッセージMSGの総数を示す。このトレイ格納メッセージ数に従ってタスクメッセージMSGはメッセージキュー24に転送される。
転送方法は、メッセージトレイ23にタスクIDと優先度のパラメータが格納される度に、FPUOS3はトレイ格納メッセージ数をアップカウントする時分割転送を行っても良いし、また並列に1サイクルで転送しても良い。また、タスクメッセージMSGが、メッセージトレイ23からメッセージキュー24に転送されると、FPUOS3はトレイ格納メッセージ数をダウンカウントする。
メッセージキュー24は、優先度とタスクIDと状態とのパラメータの組合せのタスクメッセージMSGをn対格納可能に構成される。タスクトレイ25には、タスク中断フラグ、タスクトレイ状態TTRAY_ST、通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常開始アドレスNTT_STA_ADDR及び通常終了アドレスNTT_STP_ADDR、及び、優先タスクトレイPTASK_TRAYの優先開始アドレスPTT_STA_ADDR及び優先終了アドレスPTT_STP_ADDR、のパラメータの格納領域が確保されている。タスクトレイ25は、FPUOS3とWORKER6との間のインタフェースとして設けられるもので、タスクトレイ25に確保される各パラメータは、FPUOS3の側、及び、WORKER6の側から共に認識可能(読取可能)にされている。
タスク中断フラグは、FPUOS3からセットされることでタスクを中断することを表すフラグであり、FPUOS3及びWORKER6の双方から認識可能なフラグである。タスク中断フラグは、演算タスクを中断するための中断ハンドシェーク期間(図6のt17〜t18)の間に用いられるフラグであり、タスク中断フラグをセット及びクリアする権限は、WORKER6には与えられておらず、FPUOS3の側に与えられている。
またタスクトレイ状態TTRAY_STは、WORKER6がタスクを実行していない状態を表す非実行状態、又は、WORKER6がタスクを実行中である状態を表す実行状態、の何れかを表す。
具体的に、タスクトレイ状態TTRAY_STは、図3に例示したように、「タスク空状態ST1」、「通常タスク実行状態ST2」、「通常タスク完了状態ST3」、「通常タスク中断状態ST4」、「優先タスク実行状態ST5」、のうち何れかの状態に設定される。
この中で、タスク空状態ST1、通常タスク完了状態ST3、通常タスク中断状態ST4では、WORKER6が何れのタスクも実行していないタスク非実行状態になっており、通常タスク実行状態ST2、通常タスク中断状態ST4では、WORKER6が何らかのタスクを実行しているタスク実行状態となっている。
またタスクトレイ状態TTRAY_STの書込みアクセス権は、FPUOS3及びWORKER6の双方に与えられており、タスクトレイ状態TTRAY_STはFPUOS3及びWORKER6の双方から書込可能・書換可能に設定されている。
ただし、タスクトレイ状態TTRAY_STの書込みアクセス権は、FPUOS3及びWORKER6の間で競合を避けるように設定されている。タスクトレイ状態TTRAY_STの書込みアクセス権は、タスク非実行状態ではFPUOS3の側にあり、タスク実行状態ではWORKER6の側にある。
FPUOS3は、イベントドリブン型で処理を実行するオペレーティングシステム演算に係るハードウェアブロックであり、演算イベントを管理する外部の上位ブロックとなるスケジューラ10から演算イベントの発生をインターフェース12(図1参照)を経由して受付ける。
FPUOS3は、図2に示すメッセージトレイ23にタスクID、優先度、トレイ格納メッセージ数が書込まれることで演算イベントに係るタスクメッセージMSGを受領する。
OSステートマシン22は、電源投入後にパワーオンリセット21が解除された後、基本動作として下記の4つの状態をサイクリックに遷移するようにハードウェア構成されている。4つの状態は、Send message(以降、Sendと略す)状態、Peek message(以降、Peekと略す)状態、Dispatch message(以降、Dispと略す)状態、Post processing(以降、Postと略す)状態である。
以下、OSステートマシン22によるサイクリックの状態遷移に伴い、WORKER6が実行する通常タスク処理の基本的流れを説明する。
<Send状態>
OSステートマシン22は、Send状態に遷移すると、外部からメッセージトレイ23に受領したタスクメッセージMSGをメッセージキュー24に転送する。このとき、メッセージキュー24が空状態であれば、タスクメッセージMSGは、メッセージキュー24の先頭から順に格納される。また、他のタスクメッセージMSGが、メッセージキュー24に既に存在する場合には、既に格納されているタスクIDの次の番号にタスクメッセージMSGが時系列的に順に書き込まれる。メッセージキュー24は、このような先入れ先出し型のキュー構造に構成されている。
<Peek状態>
OSステートマシン22は、メッセージトレイ23からメッセージキュー24への転送を終えると、Peek状態に遷移する。OSステートマシン22は、Peek状態において、起動有無を判定すると共に、メッセージキュー24の中から起動するべきタスクメッセージMSGを選択する。
OSステートマシン22は、Peek状態において、メッセージキュー24の中にタスクメッセージMSGが無いと判定すると、スルーしてタスクメッセージMSGの起動無しとする。
逆に、タスクメッセージMSGがメッセージキュー24の中に格納されている場合、OSステートマシン22は、Peek状態において、メッセージキュー24の優先度のパラメータと、状態のパラメータと、メッセージキュー24のキュー番号と、に基づいて起動するべきタスクメッセージMSGを選択する。同一優先度であってもキュー番号が若い番号であるほど、タスクメッセージMSGは優先的に選択される。
優先度のパラメータは、低優先度又は高優先度を含む複数段階の優先度を示すパラメータを示す。本実施形態において、優先度は低優先度又は高優先度の2段階に設定される例を説明するが、3段階以上であっても良い。状態のパラメータは、メッセージキュー24の状態を示し、準備状態(以下Ready状態)、初動状態又は起動状態(以下Peek状態)、実行状態(以下Run状態)、待機状態(以下Wait状態)、終了状態(以下Nothing状態)の何れかに設定される。Run状態以外の状態では、WORKER6の側でタスクメッセージMSGを実行していない非実行状態を示している。
通常、OSステートマシン22は、Ready状態となっているメッセージキュー24のタスクメッセージMSGを選択し、選択したメッセージキュー24の状態をReady状態からPeek状態に遷移させる。OSステートマシン22は、タスクIDを選択することで起動するべきタスクメッセージMSGを選択する。
<Disp状態>
OSステートマシン22は、起動するべきタスクメッセージMSGの選択を終えると、Disp状態に遷移し、Peek状態で選定されたタスクメッセージMSGをタスクトレイ25に転送し、WORKER6にタスクメッセージMSGを実行指令する。
FPUOS3は、Disp状態において、メッセージキュー24の中の状態のパラメータがPeek状態に該当しているタスクIDをメッセージリスト4の中で検索し、照合されたタスクIDに紐づけられた開始アドレス及び終了アドレスを決定する。
そしてOSステートマシン22は、メッセージリスト4の中で決定された開始アドレス/終了アドレスを、インタフェース27を経由してタスクトレイ25の中の通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常開始アドレスNTT_STA_ADDR/通常終了アドレスNTT_STP_ADDRにそれぞれ格納する。
そしてOSステートマシン22は、メッセージキュー24の状態をPeek状態からRun状態に遷移させ、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク実行状態ST2」に遷移させる。WORKER6は、タスクトレイ状態TTRAY_STをポーリングすることでタスク実行指令S5を受領する。
<Post状態>
FPUOS3が、WORKER6へのタスク実行指令S5を終えると、OSステートマシン22は、Post状態に遷移する。FPUOS3は、Post状態において、後処理としてメッセージキュー24を整理整頓する。具体的に、FPUOS3は、メッセージキュー24にNothing状態となっているタスクメッセージMSGがある場合にはメッセージキュー24を空にする。
他方、WORKER6が、演算タスクを実行中にはメッセージキュー24に格納されるタスクメッセージMSGがNothing状態になることはない。WORKER6が、演算タスクを実行中の場合には、OSステートマシン22は、Post状態を通過しSend状態に戻ってサイクリックに状態遷移する。
WORKER6が、演算タスクを実行終了すると、WORKER6はタスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク完了状態ST3」に遷移させる。OSステートマシン22は、Disp状態に遷移し、実行中のメッセージキュー24の状態をRun状態からNothing状態に遷移させる。OSステートマシン22は、Post状態に遷移する。OSステートマシン22は、Post状態にてNothing状態のメッセージキュー24がある場合、当該メッセージキュー24を空にする。
<タスクIDを用いる技術的意義の説明>
通常、メッセージリスト4に格納される開始アドレス/終了アドレスは、2^nビット、例えば16ビット、32ビットなど多ビット表現される。アドレス番地が比較的大きな値になると、このアドレス番地を他の情報と紐付けて記憶保持するためのレジスタなどのハードウェア記憶部を必要以上に多く必要とし、特にメッセージトレイ23及びメッセージキュー24のハードウェア回路の規模が大きくなりやすい。
しかし本実施形態では、OSステートマシン22が、取り扱うデータを開始アドレス/終了アドレスそのものにするのではなく、タスクIDを用いている。タスクIDは、1ビット又は2ビット程度で表現可能であり、少なくとも開始アドレス/終了アドレスのアドレス番地よりも少ない情報量で表現可能となっている。このため、メッセージトレイ23及びメッセージキュー24のハードウェア記憶部に必要な記憶容量を少なくでき、メッセージトレイ23及びメッセージキュー24の回路規模を抑制できる。
<バンク切替インタフェース28を用いる技術的意義の説明>
前述の構成では、タスクIDは1ビット又は2ビット程度の例を挙げたが、仮にタスクIDの種類が多くなると、タスクIDの情報量が多くなり、この場合、メッセージトレイ23やメッセージキュー24のハードウェア回路規模の増加に繋がる虞がある。
このような場合、図2に示すように、スケジューラ10とメッセージリスト4との間を仲介し外部からバンク切替えするためのバンク切替インタフェース28を設けることが望ましく、またメッセージリスト4には、当該メッセージリスト4の中の情報をバンク切替えするバンク情報保持領域を備えることが望ましい。これにより、外部のスケジューラ10が、メッセージリスト4に紐づけられたタスクIDと開始アドレス/終了アドレスとの関係性をバンク切替えできるようになる。
メッセージリスト4のバンク情報保持領域にはバンク切替情報が記憶される。バンク切替情報は例えば1ビット程度の少数の情報量によるもので、少数の情報によりタスクIDと開始アドレス/終了アドレスとの関係性を大きく変更できる。このため、外部からバンク切替えするためのバンク切替インタフェース28を設けることで、記憶すべきタスクIDの情報量を削減でき、この結果、メッセージトレイ23及びメッセージキュー24を構成するハードウェア回路を小規模化できる。
<WORKER6の詳細説明>
図1に例示したように、WORKER6は、プログラムカウンタブロック31、演算命令デコーダ32、及びセレクタ33を備える。FPUOS3とWORKER6とは、ハードウェア上、独立してASIC内に構成されている。
WORKER6は、FPUOS3から演算イベントに係るタスクメッセージMSGに紐付いたメッセージリスト4、演算命令テーブル5の開始アドレスと終了アドレス(通常開始アドレスNTT_STA_ADDR/通常終了アドレスNTT_STP_ADDR、又は、優先開始アドレスPTT_STA_ADDR/優先終了アドレスPTT_STP_ADDR)を受付けると、プログラムカウンタブロック31を直接的に制御する。FPUOS3とプログラムカウンタブロック31とのインタフェース構造は、その詳細を後述する。
WORKER6は、FPUOS3から演算タスクに係る実行指令を受付けると、演算タスクの実行指令に紐付いて予め設定されたメッセージリスト4の開始アドレスから終了アドレスに至るまで、演算命令デコーダ32により演算命令テーブル5の中の演算命令セットを参照する。
WORKER6は、演算命令デコーダ32にて参照した演算命令セットを、FPU演算命令S17、引数選択S27〜S28に分解し、FPU第1引数汎用レジスタ群7、FPU第2引数汎用レジスタ群8、及び、FPU9に出力する。
FPU第1引数汎用レジスタ群7は、複数の引数を記憶可能なレジスタの集合と、レジスタの集合の後段に接続されるレジスタ選択セレクタと(何れも図示せず)により構成されている。レジスタ選択セレクタは、セレクタ33の出力S15も入力するように接続されている。
FPU第2引数汎用レジスタ群8もまた、複数の引数を記憶可能なレジスタの集合と、レジスタの集合の後段に接続されるレジスタ選択セレクタと(何れも図示せず)により構成されている。レジスタ選択セレクタは、セレクタ33の出力S16も入力するように接続されている。
前記したセレクタ33は、外部メモリ11から外部データS13を入力可能に接続されている。演算命令デコーダ32は、外部アドレス信号S12により外部メモリ11のアドレスを指定することで、入力する外部データS13を指定できる。またセレクタ33は、FPU9による浮動小数点演算結果、FPU第1引数汎用レジスタ群7の記憶値、FPU第2引数汎用レジスタ群8の記憶値、を入力可能に接続されている。
演算命令デコーダ32は、入力される演算命令テーブル5の演算命令セットに基づいて、セレクタ33の入力元及び出力先を選択する。セレクタ33は、演算命令デコーダ32から入力した演算命令デコーダ選択S29に基づいて、前述の入力値を、FPU第1引数汎用レジスタ群7にFPU第1引数汎用レジスタ入力選択結果として出力S15を振り分けたり、FPU第2引数汎用レジスタ群8にFPU第2引数汎用レジスタ入力選択結果として出力S16を振り分ける。
これにより、FPU第1引数汎用レジスタ群7の何れかのレジスタや、FPU第2引数汎用レジスタ群8の何れかのレジスタには、外部メモリ11の外部データS13、又は、FPU9による浮動小数点演算結果を保持させることができる。
演算命令デコーダ32は、引数選択S27に基づいてFPU第1引数汎用レジスタ群7の何れかのレジスタに記憶された記憶値をFPU9に出力したり、セレクタ33の出力S15を直接FPU9に出力できる。
演算命令デコーダ32は、引数選択S28に基づいてFPU第2引数汎用レジスタ群8の何れかのレジスタに記憶された記憶値をFPU9に出力したり、セレクタ33の出力S16を直接FPU9に出力できる。
FPU9は、FPU第1引数汎用レジスタ群7、FPU第2引数汎用レジスタ群8の出力引数を用いて、FPU演算命令S17により指定される四則演算や比較、型変換等の演算を行うことができ、これにより浮動小数点の演算処理を実行できる。FPU9は、浮動小数点の演算結果をFPU演算結果S14として出力する。FPU9は、多種多様な入力データを引数として浮動小数点の演算タスクを実行できる。
WORKER6は、演算毎にプログラムカウンタブロック31のプログラムカウンタ41(図4参照)を更新しつつ、2項演算処理を順次実行し、終了アドレスまで到達すると、WORKER6は、FPUOS3にタスク完了通知を出力することで、一連の浮動小数点演算タスクを完了させることができる。
<<プログラムカウンタブロック31の構成及び基本動作>>
以下、プログラムカウンタブロック31の構成及び基本動作について、図4を参照しながら説明する。プログラムカウンタブロック31は、プログラムカウンタ41、一致比較部42、遷移検出部43、中断判定部44、開始アドレスセレクタ45、及び、終了アドレスセレクタ46を備える。
開始アドレスセレクタ45は、タスクトレイ状態TTRAY_STに記憶された状態に基づいて、通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常開始アドレスNTT_STA_ADDR、又は、優先タスクトレイPTASK_TRAYの優先開始アドレスPTT_STA_ADDRの何れかを選択し、プログラムカウンタ41に何れかの開始アドレスを出力する。
終了アドレスセレクタ46は、タスクトレイ状態TTRAY_STに記憶された状態に基づいて、通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常終了アドレスNTT_STP_ADDR又は優先タスクトレイPTASK_TRAYの優先終了アドレスPTT_STP_ADDRの何れかを選択し、一致比較部42に何れかの終了アドレスを出力する。
遷移検出部43は、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク空状態ST1」から「通常タスク実行状態ST2」へ遷移したこと、「通常タスク中断状態ST4」から「優先タスク実行状態ST5」へ遷移したことを検出し、これらのタイミングでロード指令S33をプログラムカウンタ41に出力する。
プログラムカウンタ41は、ロード指令S33を入力することで開始アドレスセレクタ45を通じて開始アドレスをロードし、当該開始アドレスから順にカウント開始し、一致比較部42にカウントしたアドレスカウンタ値を出力すると共に、演算命令テーブル5にカウントしたアドレスカウンタ値を演算命令テーブルアドレスS10として出力する。これにより、演算命令デコーダ32は、演算命令テーブルアドレスS10に対応した演算命令セット選択結果S11を参照し、当該演算命令をデコードできる。
他方、一致比較部42は、プログラムカウンタ41のアドレスカウンタ値が終了アドレスセレクタ46により選択された終了アドレスと一致しているか否かを判定し、終了アドレス一致信号S32を出力したときにタスクトレイ状態TTRAY_STの状態を遷移させる。
このとき、図3に例示したように、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク実行状態ST2」であれば一致比較部42の指令によりタスクトレイ状態TTRAY_STは「通常タスク完了状態ST3」に遷移する。またタスクトレイ状態TTRAY_STが「優先タスク実行状態ST5」であれば一致比較部42の指令によりタスクトレイ状態TTRAY_STは「通常タスク中断状態ST4」に遷移する。
また中断判定部44は、タスク中断フラグのセット/リセット状態に基づいて、現在実行中のタスクを継続するか中断するかを判定する。中断判定部44は、タスク中断フラグがセットされたタイミング以降、演算命令テーブル5から出力される演算命令セット選択結果S11を確認する。
また中断判定部44は、確認した演算命令セットに基づいて中断アドレスを決定し、プログラムカウンタ41のアドレスカウンタ値が中断アドレスに到達した後に、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRを格納する格納領域に中断アドレスを退避させる。中断アドレスを退避させる格納領域は、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRの格納領域に限られるものではなく、例えば、プログラムカウンタブロック31の内部に別途レジスタを設けて中断アドレスを退避させるようにしても良い。
そして中断判定部44は、WORKER中断完了S31を出力しタスクトレイ25のタスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク実行状態ST2」から「通常タスク中断状態ST4」に遷移させる。
遷移検出部43は、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」から「通常タスク実行状態ST2」へ遷移する時に再開ロード信号S30をトリガ出力する。遷移検出部43は、この再開ロード信号S30のトリガ出力にて中断時に通常開始アドレスNTT_STA_ADDRを格納する格納領域に退避した中断アドレスをプログラムカウンタ41に再ロードさせる。
すると、演算命令デコーダ32は、プログラムカウンタ41のカウント値の示す通常タスクに係る演算命令コードをデコード再開し、FPU9が通常タスクに係る演算処理を実行再開する。その後の流れは、前述と同様である。
次に、FPUOS3によるオーバーヘッド削減効果について比較例と共に説明する。
<比較例の説明>
従来より用いられるマイコンでは、アプリケーション未処理中に割込みが発生すると、割込みベクタにジャンプし、割込みハンドラ処理にジャンプし、割込みハンドラ処理の先頭で、汎用レジスタやステータスレジスタ、ジャンプ元のプログラムカウンタ等、中断元に戻るための情報を退避する割込み時にコンテキストスイッチが行われる。
その後、割込みハンドラが、メイン処理として各種割込みに応じたタスク選定を行い、OSに向けて選定したタスクをメッセージ送信し、割込みハンドラの後処理として復帰時コンテキストスイッチを行うことで中断元に復帰する。その後、OS内にてメッセージ受信し、アプリケーションタスクを起動する。
システムがアプリケーションタスクを実行するときに、その先頭で起動元に戻るための情報を退避するアプリ起動時コンテキストスイッチを行い、アプリケーションタスクのメイン処理を実行する。
高優先度タスク実行中に割込みが発生すると、前述同様に割込みハンドラ処理にジャンプすると共に、割込み時コンテキストスイッチが行われ、割込みハンドラのメイン処理として、各種割込みに応じたタスク選定を行い、OSに向けて選定したタスクをメッセージ送信し、割込みハンドラの後処理として復帰時コンテキストスイッチを行って中断元に復帰する。
一般的なマイコンでは、割込みが発生すると、割込み時及び復帰時におけるコンテキストスイッチのオーバーヘッド時間と、割込みハンドラ処理時間分、アプリケーションタスク処理が中断される構造となっている。このため、割込発生時にアプリケーションのタスク処理が中断されるため、タスク処理のスピードが劣ってしまう。
<本実施形態の動作説明>
これに対し、本実施形態では、FPUOS3とWORKER6とがハードウェア的に独立して構成されている。このため、実行タスクを中断させることなくアプリケーションタスクを処理でき、割込み時及び復帰時におけるコンテキストスイッチのオーバーヘッド時間分だけ短縮できる。
以下、この処理動作に係る詳細説明を行う。図5は、WORKER6が最優先となる高優先度(第1優先度相当)の演算タスクを実行している最中に低優先度(第2優先度相当)の演算イベントが発生した場合のケースを示している。
まずWORKER6が演算タスクを実行待機している最中に、最優先の高優先度の演算イベントが発生すると、FPUOS3は、OSステートマシン22によりメッセージトレイ23にタスクIDと優先度とを紐づけてタスクメッセージMSG1を格納する。ここでは、高優先度のタスクメッセージMSGをタスクメッセージMSG1と定義している。
図5に示すタスクメッセージMSG1の格納タイミングt1は、OSステートマシン22のSend message状態(以降、Send状態と略す)を過ぎていることを想定している。この場合、OSステートマシン22は、Peek message状態(以降、Peek状態と略す)、Dispatch message状態(以降、Disp状態と略す)、Post processing状態(以降、Post状態と略す)を遷移後の次のSend状態のタイミングt2にて、メッセージトレイ23の第1トレイNo1からメッセージキューMQ1にタスクメッセージMSG1を転送すると共に、メッセージトレイ23の第1トレイNo1を空状態にクリーニングする。
OSステートマシン22は、タイミングt2においてメッセージキューMQ1の状態をReadyから次ステートのPeek状態に遷移させ、起動タスクを決定する。OSステートマシン22は、Peek状態においてメッセージキュー24の中から起動するべきタスクメッセージMSG1を選択する。ここでは、タスクメッセージMSG1を選択したものとして説明する。OSステートマシン22は、タイミングt3においてDisp状態に遷移し、Peek状態で選択された起動待機中のタスクメッセージMSG1を起動する。
OSステートマシン22は、タイミングt4において、メッセージキューMQ1に係るタスクメッセージMSG1の状態をPeek状態からRun状態に遷移させると共に、タスクメッセージMSG1に紐づいたタスクIDの演算命令テーブル5の開始アドレス及び終了アドレスをメッセージリスト4の中で検索する。
そしてOSステートマシン22は、開始アドレス及び終了アドレスをインタフェース27を経由して読み出し、FPUOS3のタスクトレイ25の中の通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常開始アドレスNTT_STA_ADDR及び通常終了アドレスNTT_STP_ADDRに格納し、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク空状態ST1」から「通常タスク実行状態ST2」に遷移させる。
WORKER6の側では、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク空状態ST1」から「通常タスク実行状態ST2」へ遷移することをもって、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRから通常終了アドレスNTT_STP_ADDRにかけた演算内容を演算命令テーブル5から読出しながら、FPU9、FPU第1引数汎用レジスタ群7、及び、FPU第2引数汎用レジスタ群8を用いて浮動小数点の2項演算を順次処理する。
WORKER6が高優先度の演算タスクを実行中に、タイミングt5にて低優先度の演算イベントが発生すると、FPUOS3の中のメッセージトレイ23の第1トレイNo1に低優先度のタスクメッセージMSG2を格納させる。ここでは、低優先度のタスクメッセージMSGをタスクメッセージMSG2としている。
その後、OSステートマシン22がSend状態にされたとしても、メッセージキューMQ1が空状態ではない。このため、OSステートマシン22は、タイミングt6においてタスクメッセージMSG2をメッセージキューMQ2に転送すると共に、メッセージトレイ23の第1トレイNo1を空状態にクリーニングする。続いて、OSステートマシン22がPeek状態になると、起動タスクを選択しようとするが、すでに高優先度演算タスクが実行されている状態であるため、Peek状態では何もせずDisp状態に移行する。
このときFPUOS3の側では、タスクトレイ状態TTRAY_STが通常タスク実行状態ST2に維持されていることから、WORKER6の側で実行しているタスクメッセージMSGが、タスクメッセージMSG1であることを把握できる。
またさらに、FPUOS3が、WORKER6とは独立したハードウェアにより構成されている。このため、WORKER6が高優先度の演算タスクを実行している最中に、低優先度の演算イベントが発生したとしても、WORKER6は、タイミングt5以降において高優先度の演算タスクの実行を中断することなく、高優先度の演算タスクを集中的に処理できる。
WORKER6の側で特に最優先となる高優先度の演算タスクを実行しているときには、FPUOS3が低優先度の演算タスクをWORKER6に対して実行指令に移さないようにしているため、WORKER6は当該高優先度の演算タスクを中断することなく、当該演算タスクを最速処理できる。
続いて、他の実行例を挙げて、FPUOS3による処理オーバーヘッド時間抑制効果を説明する。以下では、図6に例示したように、最優先よりも低い低優先度(第3優先度相当)の演算タスクを実行中に、この演算タスクよりも高優先度(第4優先度相当)の演算イベントが発生した時の挙動を例に挙げて動作概要を説明する。
WORKER6が、未処理状態にて待機している最中に、スケジューラ10から低優先度の演算イベントが発行されると、低優先度の演算イベントにて実行したいタスクのタスクIDと優先度がメッセージトレイ23に格納される。
図6に示すように、低優先度の演算イベントに係るタスクメッセージMSG1のメッセージトレイ23への格納タイミングt11は、OSステートマシン22のSend状態を過ぎている。このため、OSステートマシン22は、Peek状態、Disp状態、Post状態を遷移した後の次のSend状態の終了タイミングにて、メッセージトレイ23からメッセージキューMQ1にタスクメッセージMSG1を転送すると共に、メッセージトレイ23の第1トレイNo1を空状態にクリーニングする。
OSステートマシン22は、タイミングt12においてメッセージキューMQ1の状態をReadyから次ステートのPeek状態に遷移させ、起動タスクを決定する。OSステートマシン22は、Peek状態においてメッセージキュー24の中から起動タスクを選択する。OSステートマシン22は、タイミングt13においてDisp状態に遷移し、Peek状態で選択された起動待機中のタスクを起動する。
OSステートマシン22は、タイミングt14においてメッセージキューMQ1のタスクメッセージMSG1の状態をPeek状態からRun状態に遷移させると共に、メッセージキューMQ1のタスクIDに紐づいた演算命令テーブル5の開始アドレス及び終了アドレスを検索する。
そしてOSステートマシン22は、開始アドレス及び終了アドレスをインターフェース27を経由して読み出し、FPUOS3のタスクトレイ25の通常タスクトレイNTASK_TRAYの通常開始アドレスNTT_STA_ADDR及び通常終了アドレスNTT_STP_ADDRに格納し、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク空状態ST1」から「通常タスク実行状態ST2」に遷移させる。
WORKER6の側では、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク空状態ST1」から「通常タスク実行状態ST2」へ遷移することをもって、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRから通常終了アドレスNTT_STP_ADDRにかけた演算内容を演算命令テーブル5から読出しながら、FPU9、FPU第1引数汎用レジスタ群7、FPU第2引数汎用レジスタ群8を用いて浮動小数点の2項演算を順次処理する。
<プログラムカウンタブロック31の動作概要>
OSステートマシン22がDisp状態とされている時、図4に示すプログラムカウンタブロック31は、遷移検出部43によるロード指令S33の出力のタイミングにおいて通常開始アドレスNTT_STA_ADDRをプログラムカウンタ41にロードする。
このロードしたタイミングにおいて、タスクトレイ状態TTRAY_STは、「通常タスク実行状態ST2」とされている。このため、開始アドレスセレクタ45は、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRの格納領域を選択し、プログラムカウンタ41に通常開始アドレスNTT_STA_ADDRをロードする。他方、終了アドレスセレクタ46は、通常タスクトレイNTASK_TRAYに格納される通常終了アドレスNTT_STP_ADDRを選択し、一致比較部42に通常終了アドレスNTT_STP_ADDRを入力させる。
演算命令デコーダ32は、演算命令テーブル5の中でプログラムカウンタ41の指し示すアドレスを指定し演算命令コードをデコードする。プログラムカウンタ41は、クロック入力に伴いカウントを進行させることで演算命令テーブル5を参照しながら演算命令コードを順次デコードし、FPU9は、通常終了アドレスNTT_STP_ADDRまで演算命令を実行する。
<低優先度の演算イベントを実行中に高優先度の演算イベントを発行>
他方、WORKER6が、タイミングt14以降にて低優先度の演算タスクを実行中に、タイミングt15にて高優先度の演算イベントを発生すると、FPUOS3は、当該高優先度の演算イベントに係るタスクを低優先度の演算イベントに係るタスクよりも優先してWORKER6に実行指令する。
このとき、外部のスケジューラ10がメッセージトレイ23の第1トレイNo1に高優先度のタスクメッセージMSG2を格納させる。その後、OSステートマシン22はSend状態になると、メッセージキューMQ1が空状態ではないため、タイミングt16においてタスクメッセージMSG2をメッセージキューMQ2に転送すると共に、メッセージトレイ23を空状態にクリーニングする。
続いて、OSステートマシン22がPeek状態になると、起動するタスクメッセージMSGを選択しようとするが、WORKER6が低優先度のタスクメッセージMSG1を実行中の状態であるため、メッセージキューMQ2はReady状態をキープし、FPUOS3は、OSステートマシン22の状態がPeek状態のときにタスク中断フラグをセットする。
FPUOS3は、タスク中断フラグをセットすることで、WORKER6に実行中の低優先度のタスクメッセージMSG1の中断指令を行い、低優先度のタスクメッセージMSG1の中断ハンドシェークを行う。サイクリックに遷移していたOSステートマシン22は、中断ハンドシェーク期間t17〜t18においてDisp状態に保持される。
<WORKER6による演算実行>
FPUOS3がタスク中断フラグをセットするタイミングt17以降、WORKER6がタスク中断フラグを認識する。WORKER6は、演算命令テーブル5を参照して演算命令セット選択結果S11を確認する。そして、WORKER6は、タイミングt18において演算命令を一時中断可能な区切りのよいタイミングで中断アドレスを判断し、処理中断を完了させると共に、判断した中断アドレスを退避させる。このとき、WORKER6は、中断アドレスをタスクトレイ25の通常開始アドレスNTT_STA_ADDRの格納領域に退避させる。
また中断判定部44は、WORKER中断完了S31を経由してタスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク実行状態ST2」から「通常タスク中断状態ST4」に遷移させる。
FPUOS3の側では、当該FPUOS3とは独立して動作するWORKER6の演算処理中断の応答を待機している。FPUOS3は、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク実行状態ST2」から「通常タスク中断状態ST4」へ遷移したことをもって、WORKER6が演算実行を中断したと判断する。
FPUOS3は、タイミングt18にてメッセージキューMQ1の状態をRun状態からWait状態に遷移させると共に、Disp状態からサイクリック遷移を再開し、Post状態に遷移する。
FPUOS3とWORKER6との間の中断ハンドシェーク期間t17〜t18の間、OSステートマシン22は、Disp状態に留まっている。OSステートマシン22は、サイクリックに状態を遷移させずDisp状態に留まているため、FPUOS3は、WORKER6による演算タスクの実行に係る中断応答に対し即時対応できる。これにより、タスク中断オーバーヘッド時間の増加を抑制できる。
その後、OSステートマシン22がサイクリック状態遷移を再開し、Peek状態まで遷移すると、FPUOS3は、タイミングt19においてタスク中断フラグをクリアする。
またOSステートマシン22は、高優先度のタスクメッセージMSG2が格納されているメッセージキューMQ2の状態をReady状態からPeek状態に遷移させ、タスク起動待ち状態にした後、Disp状態に遷移させる。
通常、OSステートマシン22は、Disp状態においてタスクトレイ25に、メッセージリスト4の開始アドレス及び終了アドレスを格納する。しかし、現状態では、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」であるため、通常タスクトレイNTASK_TRAYに中断アドレスを残留したまま保持しておく。
FPUOS3は、メッセージキュー24のPeek状態に紐付いたタスクIDの演算命令テーブル5の開始アドレス/終了アドレスを、メッセージリスト4の中で検索し、検索された開始アドレス/終了アドレスをインターフェース27を経由して読み出す。
FPUOS3は、読み出した開始アドレス/終了アドレスを、タイミングt20にて優先タスクトレイPTASK_TRAYの優先開始アドレスPTT_STA_ADDR及び優先終了アドレスPTT_STP_ADDRの格納領域に格納し、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク中断状態ST4」から「優先タスク実行状態ST5」に遷移させる。OSステートマシン22は、Disp状態に留まるように保持させると共に、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」に戻ることをポーリングする。
<WORKER6によるタスク実行>
WORKER6の側では、タスクトレイ状態TTRAY_STが「優先タスク実行状態ST5」に遷移すると、開始アドレスセレクタ45が優先開始アドレスPTT_STA_ADDRを選択すると共に、終了アドレスセレクタ46が優先終了アドレスPTT_STP_ADDRを選択する。
遷移検出部43は、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」から「優先タスク実行状態ST5」へ遷移する時にロード指令S33を出力する機能を有しており、このロード指令S33のトリガ出力により優先開始アドレスPTT_STA_ADDRをプログラムカウンタ41にロードする。
このロード時点では、タスクトレイ状態TTRAY_STは「優先タスク実行状態ST5」に遷移している。開始アドレスセレクタ45は、優先開始アドレスPTT_STA_ADDRの側を選択しているため、プログラムカウンタ41は、優先開始アドレスPTT_STA_ADDRをロードする。その後、演算命令デコーダ32は、プログラムカウンタ41の指し示す演算命令テーブル5の中の演算命令コードをデコードする。
従ってWORKER6は、「優先タスク実行状態ST5」への遷移をもって、優先開始アドレスPTT_STA_ADDRから優先終了アドレスPTT_STP_ADDRまでのアドレスに従った演算内容について、演算命令テーブル5を参照しながら、FPU9、FPU第1引数汎用レジスタ群7、及びFPU第2引数汎用レジスタ群8を用いて、浮動小数点の2項演算を順次処理する。これにより、最小限のレイテンシにて高優先度演算タスクを起動できる。
高優先度演算タスクが、優先終了アドレスPTT_STP_ADDRまで実行されると、プログラムカウンタ41が優先終了アドレスPTT_STP_ADDRに一致することで一致比較部42がアクティブとなる。一致比較部42は、終了アドレス一致信号S32を出力することで、タスクトレイ状態TTRAY_STを「優先タスク実行状態ST5」から「通常タスク中断状態ST4」に遷移させる。
図7は図6に続くタイミングチャートである。WORKER6が、優先開始アドレスPTT_STA_ADDRから優先終了アドレスPTT_STP_ADDRまで実行を完了すると、図7のタイミングt21にてタスクトレイ状態TTRAY_STを「優先タスク実行状態ST5」から「通常タスク中断状態ST4」に遷移させる。
他方、OSステートマシン22は、少なくともWORKER6が高優先度演算タスクを実行中にDisp状態に留まっている。このため、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」に遷移したことを確認することで、WORKER6が高優先度演算タスクを実行終了したことを即時把握できる。
OSステートマシン22は、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」に遷移したことを確認した後、メッセージキューMQ2の状態をRun状態からNothing状態に遷移させる。OSステートマシン22は、サイクリック遷移を再開し、Post状態に遷移する。
FPUOS3は、メッセージキューMQ2をRun状態からNothing状態に遷移させる機能を、OSステートマシン22の任意の固定状態、ここではDisp状態に限定している。
なお仮に、OSステートマシン22がDisp状態にて待機することなくサイクリック遷移を継続し、Disp状態以外のタイミングでWORKER6がタスク処理を完了すると、次回のDisp状態までサイクリック遷移を待機する必要があり、リアルタイム応答性に劣ることになる。
本実施形態では、OSステートマシン22は、WORKER6が高優先度演算タスクを実行している最中に、Disp状態に留まっているため、FPUOS3は、WORKER6による高優先度演算タスク処理を終了したタイミングt21にてこの状態遷移を受付けることができ、即時対応できる。
このように、WORKER6が高優先度演算タスクを実行中には、OSステートマシン22の状態をDisp状態に保持しているため、WORKER6が高優先度演算タスクを実行完了したときに、OSステートマシン22はWORKER6が実行完了したことを即時認識できる。この結果、OSステートマシン22は即時対応でき、タスク完了オーバーヘッド時間の増加を抑制できる。
その後、OSステートマシン22が、サイクリック遷移を再開して再度Peek状態まで遷移すると、タイミングt23において、OSステートマシン22は、中断していたメッセージキューMQ1の状態をWait状態からPeek状態に遷移させることで、タスク起動待ち状態にした後、OSステートマシン22のサイクリック遷移をDisp状態に遷移させる。OSステートマシン22は、タイミングt23のDisp状態においてメッセージキューMQ1の状態をPeek状態からRun状態に遷移させる。
通常、OSステートマシン22が、Disp状態に遷移すると、通常タスクトレイNTASK_TRAYにメッセージリスト4から開始アドレス及び終了アドレスを格納するが、タイミングt23においては、タスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク中断状態ST4」であり、タスクトレイ25の通常開始アドレスNTT_STA_ADDRには中断アドレスが記憶されている。
このためOSステートマシン22は、メッセージリスト4におけるアドレス検索処理をスキップし、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク中断状態ST4」から「通常タスク実行状態ST2」に遷移させ、OSステートマシン22がサイクリック遷移を再開する。
タスクトレイ25のタスクトレイ状態TTRAY_STが、「通常タスク中断状態ST4」から「通常タスク実行状態ST2」へ遷移すると、WORKER6の側では、遷移検出部43が「通常タスク中断状態ST4」から「通常タスク実行状態ST2」への遷移を検出し、このタイミングにて再開ロード信号S30を出力する。
再開ロード信号S30がトリガ出力されると、中断時に退避した中断アドレスがプログラムカウンタ41にロードされる。再開ロードする時点において、タスクトレイ状態TTRAY_STは「通常タスク実行状態ST2」となっている。このため開始アドレスセレクタ45は、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRの側を選択し、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRの格納領域に退避された中断アドレスをプログラムカウンタ41にロードする。プログラムカウンタ41に中断アドレスがロードされると、中断アドレスから演算命令テーブル5の中の演算命令コードが順次実行される。
一方、終了アドレスセレクタ46も、通常終了アドレスNTT_STP_ADDRの側を選択しているため、演算命令デコーダ32が、プログラムカウンタ41の指示する演算命令テーブル5を読み取り、通常終了アドレスNTT_STP_ADDRまで順次実行する。
一致比較部42は、プログラムカウンタ41の示すアドレス値が通常終了アドレスNTT_STP_ADDRに一致したと判定すると、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク実行状態ST2」から「通常タスク完了状態ST3」に遷移させる。これにより、低優先度演算タスク処理を再開、完了できる。
WORKER6は、タイミングt24以降において、中断アドレスから通常終了アドレスNTT_STP_ADDRまでの実行アドレスに従った演算内容を演算命令テーブル5から読出し、FPU9、FPU第1引数汎用レジスタ群7、FPU第2引数汎用レジスタ群8を用いて、浮動小数点の2項演算を順次処理できる。
WORKER6が高優先度の演算タスクを実行中には、OSステートマシン22をDisp状態に保持しているため、WORKER6が高優先度演算タスクを実行完了したときに、OSステートマシン22はWORKER6が実行完了したことを即時認識できる。この結果、OSステートマシン22は即時対応でき、タスク完了オーバーヘッド時間の増加を抑制できる。
<比較例>
現在、一般化されているマルチタスクOSでは、複数のプロセスのタスクが衝突したときにコンテキストスイッチ等を発生することを考慮に入れると、処理オーバーヘッドを生じることから高速演算には不向きである。
<本実施形態のまとめ>
本実施形態では、FPUOS3とWORKER6とがハードウェア的に分離して独立して構成されている。このため、高優先度の実行タスクを中断させることなくアプリケーションタスクを処理でき、割込み時及び復帰時におけるコンテキストスイッチのオーバーヘッド時間分だけ短縮できる。
また、WORKER6の側で特に最優先となる高優先度の演算タスクを実行しているときには、FPUOS3が低優先度の演算タスクをWORKER6に対して実行指令に移さないようにしているため、WORKER6は当該高優先度の演算タスクを中断することなく、当該演算タスクを最速処理できる。
また、本実施形態においては、FPUOS3とWORKER6との間の中断ハンドシェーク期間t17〜t18の間、低優先度の演算タスクに係るメッセージキューMQ1をRun状態に保持したまま、OSステートマシン22はDisp状態に留まっている。OSステートマシン22は、サイクリックに状態を遷移させずDisp状態に留まっており、メッセージキュー24をRun状態に保持しているため、FPUOS3は、WORKER6による演算タスクの実行に係る中断応答に対し、メッセージキュー24をWait状態に即時変更でき、即時対応できる。これにより、タスク中断オーバーヘッド時間の増加を抑制できる。
また本実施形態において、WORKER6が、高優先度の演算タスクに係るタスクメッセージMSG2を実行開始するタイミング以降、「通常タスク中断状態ST4」にタスクトレイ状態TTRAY_STを遷移させるまでの期間t20〜t21には、FPUOS3は、高優先度のタスクメッセージMSG2に係るメッセージキューMQ2をRun状態に保持したまま、OSステートマシン22がDisp状態に留まるステート制御を実行している。このため、WORKER6が高優先度の演算タスクを実行完了したときに、OSステートマシン22はWORKER6が実行完了したことを即時認識できる。この結果、OSステートマシン22は即時対応でき、タスク完了オーバーヘッド時間の増加を抑制できる。
(第3実施形態)
図8及び図9に第3実施形態の追加説明図を示している。従来のマイコンが、OS処理もアプリケーション処理も1つのハードウェアを用いて順次処理する場合、デッドロックしたか否かはOSが定期的に所定の状態に遷移するか否かを監視することで判定できる。この場合、ウォッチドッグタイマを1つ設ければデッドロックしたか否かを判定できる。
しかし、前述した第1実施形態の構成では、FPUOS3及びWORKER6がハードウェア上独立して構成されているため、ウォッチドッグタイマが一つだけ設けられていても、一方のハードウェア構成(例えば、FPUOS3)を監視可能になるものの、他方のハードウェア構成(例えば、WORKER6)は監視不能になるといった問題を生じる。
そこで図8に示すように、動作監視用のウォッチドッグタイマ2としては、FPUOS3の動作を監視するためのFPUOS監視ウォッチドッグタイマ2a(オペレーティングシステム処理監視WDT相当)、及び、WORKER6の動作を監視するためのWORKER監視ウォッチドッグタイマ2b(演算処理監視WDT相当)を独立に設け、FPUOS3及びWORKER6をそれぞれ監視するように構成することが望ましい。これにより、FPUOS3のハードウェア構成、WORKER6のハードウェア構成のそれぞれの動作を独立して監視できる。
FPUOS監視ウォッチドッグタイマ2a(以下、FPUOS監視WDT2a)はフリーランカウンタにより構成され、カウント値をフリーランカウントする。OSステートマシン22が、Send状態からPost状態までサイクリックに遷移する度に、FPUOS監視WDT2aはカウント値をクリアする。
OSステートマシン22がデッドロックし、FPUOS監視WDT2aのカウント値がFPUOS監視WDT閾値を超えると、FPUOS監視WDT2aはWDTエラーを外部に出力する。
他方、WORKER監視WDT2bはフリーランカウンタにより構成され、「通常タスク実行状態ST2」にてフリーランカウントされる。WORKER監視WDT2bは、FPUOS3のタスクトレイ状態TTRAY_STが「通常タスク実行状態ST2」以外になるとクリアされる。WORKER監視WDT2bのカウント値が、所定のWORKER監視WDT閾値を超えると、WORKER監視WDT2bはWDTエラーを出力する。
図9には、WORKER6が通常の演算タスクを実行中であることを示す「通常タスク実行状態ST2」から、WORKER6が演算タスクを正常終了するケースを実線により示している。また、「通常タスク実行状態ST2」から、WORKER6が演算タスクを異常終了するケースを破線により示している。
図9に示す「通常タスク実行状態ST2」が正常終了する実線ケースでは、WORKER6が暴走することなく正常動作し続ける。この際、WORKER6及びFPU9は、通常開始アドレスNTT_STA_ADDRから通常終了アドレスNTT_STP_ADDRまで演算タスクを終了する。すると、WORKER6の中のプログラムカウンタブロック31が、タスクトレイ状態TTRAY_STを「通常タスク実行状態ST2」から「通常タスク完了状態ST3」へ書き換える。このとき、ウォッチドッグタイマ2は、タイミングt31においてWORKER監視WDT2bをクリアする。このため、WDTエラーが出力されることはない。
しかし、「通常タスク実行状態ST2」にて正常終了しないと、タスクトレイ状態TTRAY_STには「通常タスク実行状態ST2」と保持され続けるため、WORKER監視WDT2bのカウント値がWORKER監視WDT閾値をいずれ超える。するとウォッチドッグタイマ2は、タイミングt32においてWDTエラーを出力する。これにより、WORKER6のデッドロックを回避できると共に、WORKER6の暴走を監視できる。
なお、FPUOS監視WDT閾値は、FPUOS3がタスクトレイ25にタスク中断フラグをセットしたタイミングt17から、WORKER6の側でタスクトレイ状態TTRAY_STを演算タスクを中断する「通常タスク中断状態ST4」に遷移させるタイミングt18までの時間T1(図6参照)、を少なくとも超える時間をカウント可能な閾値に設定することが望ましい。すなわち、FPUOS監視WDT閾値は、時間T1に所定の第1マージン時間を加算した時間以上をカウント可能な閾値に設定することが望ましい(第1条件)。
しかも、FPUOS監視WDT閾値は、WORKER6が高優先度の演算タスクを実行開始してから実行完了するまでの時間T2(図6及び図7参照)、を少なくとも超える時間をカウント可能な閾値に設定することが望ましい。すなわち、FPUOS監視WDT閾値は、時間T2に所定の第2マージン時間を加算した時間をカウント可能な値に設定することが望ましい(第2条件)。FPUOS監視WDT閾値は、前記した第1条件及び第2条件の双方を満たす閾値とすることが望ましい。
本実施形態によれば、ウォッチドッグタイマ2が、FPUOS3、WORKER6を監視する機能を備えているため、FPUOS3もWORKER6もそれぞれ独立して監視できる。FPUOS3の動作を監視できると共に、WORKER6のデッドロック及び暴走を監視でき異常を検知できる。
(他の実施形態)
前述実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形又は拡張が可能である。
浮動小数点の演算は、単精度、倍精度等に限定されるものではない。また、浮動小数点演算処理を例示して演算処理する形態を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば固定小数点演算処理に適用しても良い。
前述した複数の実施形態の構成、機能を組み合わせても良い。前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。