JP2021172851A - Ni基合金部材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】強析出強化Ni基合金材料を用い、従来よりも低コストで製造可能なNi基合金部材の製造方法を提供する。【解決手段】母相となるγ相の中に析出するγ’相の700℃における平衡析出量が30〜80体積%となる化学組成を有するNi基合金粉末を用意する工程と、前記Ni基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって台板の上に溶射前駆体を形成する溶射前駆体形成工程と、前記台板から前記溶射前駆体を分離する溶射前駆体分離工程と、分離した前記溶射前駆体に対して、熱処理を施し、平均結晶粒径が50μm以下の前記γ相の結晶粒の粒界上に前記γ’相を20体積%以上析出させた軟化体を作製する軟化熱処理工程と、前記軟化体に対して、冷間塑性加工、温間塑性加工、熱間塑性加工および/または機械加工を施して成形加工体を形成する成形加工工程とを有する方法。【選択図】図2

Description

本発明は、Ni(ニッケル)基合金部材の製造方法に関し、特にタービン部材などの高温部材に好適な高温での機械的特性に優れるNi基合金部材の製造方法に関するものである。
航空機や火力発電プラントのタービン(ガスタービン、蒸気タービン)で用いられる高温部材の機械的特性(例えば、クリープ特性、引張特性、疲労特性)の向上は、重要な技術課題である。要求される種々の機械的特性を満たすため、タービン高温部材の材料としては、析出強化Ni基合金材料が広く利用されている。特に高温特性が重要になる場合は、母相となるγ(ガンマ)相中に析出させるγ’(ガンマ プライム)相(例えばNi3(Al,Ti)相)の比率を高めた強析出強化Ni基合金材料(例えば、γ’相を30体積%以上析出させるNi基合金材料)が使用される。
主たる製造方法としては、タービン動翼やタービン静翼のような部材では、クリープ特性の観点から、従来から精密鋳造法(特に、一方向凝固法、単結晶凝固法)が用いられてきた。一方、タービンディスクや燃焼器部材では、引張特性や疲労特性の観点から、しばしば熱間鍛造法が用いられてきた。
ただし、析出強化Ni基合金材料は、γ’相の体積率を更に高めると加工性・成形性が悪化して、高温部材の製造歩留まりが低下する(すなわち製造コストが増大する)という弱点があった。そのため、高温部材の特性向上の研究と並行して、該高温部材を安定して製造する技術の研究も種々行われてきた。
例えば、特許文献1(特開平9-302450)には、制御された結晶粒度を有するNi基超合金物品を鍛造用プリフォームから製造する方法であって、γ相とγ’相との混合物を含むミクロ組織、再結晶温度及びγ’ソルバス温度を有するNi基超合金プリフォームを準備し(ここで、γ’相はNi基超合金の少なくとも30容量%を占める)、約1600°F以上であるがγ’ソルバス温度よりは低い温度で、歪み速度を毎秒約0.03〜約10として前記超合金プリフォームを熱間金型鍛造し、得られた熱間金型鍛造超合金工作物を等温鍛造して加工済物品を形成し、こうして仕上げた物品をスーパーソルバス熱処理して略ASTM 6〜8の実質的に均一な粒子ミクロ組織を生成させ、物品をスーパーソルバス熱処理温度から冷却する、ことからなる方法が開示されている。
特開平9−302450号公報 特許第5869624号公報 米国特許第5649280号明細書
特許文献1によると、γ’相の体積率が高いNi基合金材料であっても、ひび割れさせることなく高い製造歩留まりで鍛造品を製造できるとされている。しかしながら、特許文献1の技術は、低ひずみ速度による超塑性変形の熱間鍛造工程およびその後に等温鍛造工程を行うことから、高価で特殊な製造装置が必要であるとともに長いワークタイムを必要とする。
特許文献2(特許第5869624)には、γ’相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、前記軟化処理工程は、前記γ’相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ’相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ’相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ’相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法、が開示されている。
ただし、γ’相の体積率が45体積%以上のような超強析出強化Ni基合金材料では、γ’相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する工程において、通常の鍛造設備(特別な加熱保温機構を装備していない鍛造装置)を用いた場合に鍛造プロセス中の温度低下、それによるγ’相の望まない析出、に起因して製造歩留まりが低下し易い。
一方、難加工材料の成形体/成型体を低コストで製造する技術の一つとして、金属粉末を用いた粉末冶金技術がある。
例えば、特許文献3(米国特許第5649280)には、微細粒Ni基超合金予備成形体(例えば、固めた金属粉末予備成形体)に対して、後工程の熱処理で完全に再結晶させて均一で微小粒径の微細組織を形成するための残留ひずみを付与するように鍛造する工程と、当該鍛造材に対して、再結晶温度より高くかつγ’相ソルバス温度より低い温度において長時間のサブソルバス熱処理を施す工程と、引き続いて、当該合金材料中にγ’相を析出させ分布を制御するために当該サブソルバス温度から所定の冷却速度で冷却する工程とを行って、Ni基超合金材料の粒径を制御する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献3の方法は、最終的なNi基超合金材料の粒径を制御するために、鍛造しようとする予備成形体の粒径を微細化する手段として粉末冶金技術を利用しており、難加工材料の成形加工性/成型加工性を向上させる技術は、教示・示唆されていない。
強析出強化Ni基合金材料は、たとえ粉末であっても、各粉末粒子の硬さ故に成形加工性/成型加工性が良好とは言い難い。そのため、従来は、粉末冶金技術を適用する場合でも、高温および/または高圧力での成形/成型加工が必要となり、強析出強化Ni基合金部材の製造コストを劇的に低減するのは難しい。
工業製品に対しては、低コスト化(例えば、成形加工性/成型加工性の向上、製造歩留まりの向上)の強い要求がある。
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、強析出強化Ni基合金材料を用い、従来よりも低コストで製造可能なNi基合金部材の製造方法を提供することにある。
本発明の一態様は、Ni基合金部材の製造方法であって、
前記Ni基合金部材は、母相となるγ相の中に析出するγ’相の700℃における平衡析出量が30体積%以上80体積%以下となる化学組成を有し、
前記製造方法は、
前記化学組成を有するNi基合金粉末を用意する合金粉末用意工程と、
前記Ni基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって所定の台板の上に溶射前駆体を形成する溶射前駆体形成工程と、
前記台板から前記溶射前駆体を分離する溶射前駆体分離工程と、
分離した前記溶射前駆体に対して、前記γ’相の固溶温度以上で前記γ相の融点未満の温度に加熱して前記γ’相を前記γ相中に固溶させた後、当該温度から前記γ’相の前記固溶温度より50℃以上低い温度まで100℃/h以下の冷却速度で徐冷する熱処理を施すことにより、平均結晶粒径が50μm以下の前記γ相の結晶粒の粒界上に前記γ’相を20体積%以上析出させた軟化体を作製する軟化熱処理工程と、
前記軟化体に対して、冷間塑性加工、温間塑性加工、熱間塑性加工および/または機械加工を施して所望形状の成形加工体を形成する成形加工工程と、を有することを特徴とするNi基合金部材の製造方法、を提供するものである。
本発明は、上記のNi基合金部材の製造方法において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記高速衝突溶射プロセスは、高速フレーム溶射法またはコールドスプレー法である。
(ii)前記溶射前駆体形成工程は、切りしろ形成素工程と本体形成素工程とを含む。
(iii)前記軟化体の室温のビッカース硬さが390 Hv以下である。
(iv)前記合金粉末用意工程は、アトマイズ素工程を含む。
(v)前記成形加工工程の後に、前記成形加工体に対して、前記粒界上の前記γ’相を10体積%以下にする溶体化熱処理を施した後に、前記γ相の結晶粒内に30体積%以上の前記γ’相を析出させる時効熱処理を施す溶体化−時効熱処理工程を更に有する。
(vi)前記化学組成は、5質量%以上25質量%以下のCr(クロム)と、0質量%超30質量%以下のCo(コバルト)と、1質量%以上8質量%以下のAl(アルミニウム)と、合計1質量%以上10質量%以下のTi(チタン)、Nb(ニオブ)およびTa(タンタル)と、10質量%以下のFe(鉄)と、10質量%以下のMo(モリブデン)と、8質量%以下のW(タングステン)と、0.1質量%以下のZr(ジルコニウム)と、0.1質量%以下のB(ホウ素)と、0.2質量%以下のC(炭素)と、2質量%以下のHf(ハフニウム)と、5質量%以下のRe(レニウム)と、0.003質量%以上0.05質量%以下のO(酸素)とを含有し、残部がNiおよび不可避不純物からなる。
(vii)前記化学組成は、前記γ’相の固溶温度が1110℃以上となる化学組成である。
(viii)前記Ni基合金部材は、前記γ’相の700℃における前記平衡析出量が45体積%以上80体積%以下となる化学組成を有する。
なお、本発明において、γ’相の700℃における平衡析出量と固溶温度およびγ相の融点(固相線温度)は、Ni基合金材料の化学組成に基づいた熱力学計算から求められる平衡析出量および温度を用いることができる。
本発明によれば、強析出強化Ni基合金材料を用い、従来よりも低コストで製造可能なNi基合金部材の製造方法を提供することができる。
析出強化Ni基合金材料中のγ相とγ’相との関係を示す模式図であり、(a)γ相の結晶粒内にγ’相が析出する場合、(b)γ相の結晶粒の粒界上にγ’相が析出する場合である。 本発明に係るNi基合金部材の製造方法の工程例を示すフロー図である。 本発明に係る製造方法におけるNi基合金材料の微細組織の変化例を示す模式図である。 合金粉末P-1を用いて低圧プラズマ溶射(LPPS)法により形成した溶射前駆体の断面の電子線後方散乱回折(EBSD)図である。 合金粉末P-1を用いて高速フレーム溶射(HVOF)法により形成した溶射前駆体の断面のEBSD図である。
[本発明の基本思想]
本発明は、特許文献2(特許第5869624)に記載されたγ’相析出Ni基合金材料における析出強化/軟化のメカニズムをベースにしている。図1は、析出強化Ni基合金材料中のγ相とγ’相との関係を示す模式図であり、(a)γ相の結晶粒内にγ’相が析出する場合、(b)γ相の結晶粒の粒界上にγ’相が析出する場合である。
図1(a)に示したように、γ相の結晶粒内にγ’相が析出する場合、γ相を構成する原子1とγ’相を構成する原子2とが整合界面3を構成する(γ相に格子整合しながらγ’相が析出する)。このようなγ’相を粒内γ’相と称する(整合γ’相と称する場合もある)。粒内γ’相は、γ相と整合界面3を構成するが故にγ相結晶粒内での転位の移動を妨げると考えられ、それにより、Ni基合金材料の機械的強度を向上させていると考えられる。析出強化したNi基合金材料とは、通常、図1(a)の状態を意味する。
一方、図1(b)に示したように、γ相の結晶粒の粒界上に(言い換えると、γ相の結晶粒の間に)γ’相が析出する場合、γ相を構成する原子1とγ’相を構成する原子2とは非整合界面4を構成する(γ相と格子整合しない状態でγ’相が析出する)。このようなγ’相を粒界γ’相と称する(粒間γ’相や非整合γ’相と称する場合もある)。粒界γ’相は、γ相と非整合界面4を構成するためγ相結晶粒内での転位の移動を妨げない。その結果、粒界γ’相は、Ni基合金材料の強化にほとんど寄与しないと考えられる。これらのことから、Ni基合金材料において、粒内γ’相の代わりに粒界γ’相を積極的に析出させれば、該合金材料が軟化した状態となり成形加工性/成型加工性を飛躍的に向上させることができる。
本発明は、Ni基合金の軟化体を作製するにあたって、特許文献2のように合金塊(インゴット)に対してγ相/γ’相の二相共存温度領域で熱間鍛造を行うことによって粒界γ’相を析出させるのではなく、Ni基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって緻密なNi基合金溶射前駆体を用意し、該溶射前駆体に対して所定の熱処理を施すことにより粒界γ’相を20体積%以上析出させた軟化体を作製するものである。
前述したように、強析出強化Ni基合金材料は、その硬さ故に成形加工性/成型加工性が基本的に低い。そのため、強析出強化Ni基合金塊への熱間鍛造では、被加工材の温度管理(鍛造プロセス中の温度低下によるγ’相の望まない析出の抑制)が非常に重要になる上に、高圧力が必要という難しさがある。
また、粉末冶金技術を利用する場合でも、各粉末粒子の硬さ故に成形加工性/成型加工性が良好とは言い難い。そのため、合金塊への熱間鍛造と同様に、被加工材の温度管理と高圧力が必要になる。特に圧粉成形の最終段階では、被加工材の状態が合金塊とほぼ同じになることから、その成形/成型加工性が大きく低下する。
これらに対し、本発明では、Ni基合金溶射前駆体の形成に粉末材料の高速衝突溶射プロセスを利用するところに大きな特徴がある。本発明で言う高速衝突溶射プロセスとは、射出する粉末粒子を固相状態で、台板に高速で衝突させて付着堆積させるプロセスであり、例えば、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)法やコールドスプレー(CS)法を好適に利用できる。
高速衝突溶射プロセスでは、射出される粉末粒子の運動エネルギーが非常に大きいことから衝突エネルギーも大きくなり、高硬度金属粒子であっても大きく塑性変形して、微細な結晶粒が堆積した溶射前駆体が得られる。言い換えると、高速衝突溶射プロセスの利用によって、熱間鍛造プロセスや粉末冶金プロセスのような精密な温度管理や高い加工圧力制御が不必要となることから、プロセスコストを大幅に低減できる利点がある。
この微細結晶粒からなる溶射前駆体に対して所定の熱処理を施すと、粒界γ’相が20体積%以上析出して室温のビッカース硬さが390 Hv以下となるような軟化体が得られる。得られた軟化体は、強析出強化Ni基合金材料からなるにも関わらず、冷間塑性加工、温間塑性加工、熱間塑性加工および/または機械加工によって所望形状に成形加工することができる。
粒界γ’相の析出メカニズムとして次のようなモデルが考えられる。γ相からのγ’相の析出には、基本的にγ’相を形成する原子の拡散・再配列が必要である。鋳造材のようにγ相結晶粒が大きい場合には、通常、原子の拡散・再配列の距離が短くて済むγ相結晶の粒内にγ’相が優先的に析出すると考えられる。なお、鋳造材であってもγ相結晶の粒界上にγ’相が析出することを否定するものではない。
一方、γ相結晶粒が微細になると、結晶粒界までの距離が短くなる上に、結晶粒の体積エネルギーに比して粒界エネルギーが高くなることから、γ’相形成原子がγ相の結晶粒内で固相拡散し再配列するよりも、γ相の結晶粒界上を拡散し該粒界上で再配列する方がエネルギー的に有利になり優先して起こり易くなると考えられる。
ここで、γ相の結晶粒界上でのγ’相形成を促進するためには、少なくともγ’相形成原子が拡散し易い温度領域(例えば、γ’相の固溶温度近傍)においてγ相結晶粒を微細な状態(例えば、平均粒径50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下)に維持することが重要になる。言い換えると、γ相結晶粒の粒成長を抑制することが重要になる。そこで、本発明者等は、γ’相の固溶温度以上の温度領域であってもγ相結晶粒の粒成長を抑制する技術について鋭意研究を行った。
その結果、所定量の酸素成分を制御して含有させたNi基合金粉末を用意すること、および当該Ni基合金粉末の高速衝突溶射プロセスによって緻密なNi基合金溶射前駆体を形成することで、微細な結晶粒からなる溶射前駆体が得られ、該溶射前駆体をγ’相の固溶温度以上の温度まで昇温してもγ相結晶粒の粒成長を抑制できることを見出した。さらに、微細結晶粒からなる当該Ni基合金溶射前駆体に対して、γ’相固溶温度以上の温度から徐冷することによって、γ相の微細結晶の粒界上に非整合γ’相を積極的に析出・成長させられることを見出した。本発明は該知見に基づくものである。
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を説明する。
[Ni基合金部材の製造方法]
図2は、本発明に係るNi基合金部材の製造方法の工程例を示すフロー図である。図2に示したNi基合金部材の製造方法は、概略的に、所定の化学組成を有するNi基合金粉末を用意する合金粉末用意工程(S1)と、該Ni基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって台板の上に溶射前駆体を形成する溶射前駆体形成工程(S2)と、該溶射前駆体を台板から分離する溶射前駆体分離工程(S3)と、分離した溶射前駆体に対して所定の熱処理(γ’相の固溶温度以上の温度に加熱してγ’相をγ相中に固溶させた後、当該温度からγ’相の固溶温度より50℃以上低い温度まで100℃/h以下の冷却速度で徐冷する熱処理)を施すことにより粒界γ’相を20体積%以上析出させた軟化体を作製する軟化熱処理工程(S4)と、該軟化体に対して冷間塑性加工、温間塑性加工、熱間塑性加工および/または機械加工を施して所望の形状を有する成形加工体を形成する成形加工工程(S5)と、該成形加工体に対して粒界γ’相をγ相中に固溶させて10体積%以下にする溶体化熱処理を施した後に、γ相の結晶粒内に30体積%以上の粒内γ’相を析出させる時効熱処理を施す溶体化−時効熱処理工程(S6)と、を有する。その結果、所望形状を有しかつ十分に析出強化された強析出強化Ni基合金部材が得られる。
前述したように、特許文献2の技術は、粒内γ’相を意図的に残しながら粒界γ’相を析出させた軟化体を作製するため、精度の高い制御が必要になる。これに対し、本発明の製造方法は、粒内γ’相を一旦消失させた後に粒界γ’相を析出させた軟化体を作製する。本発明では、比較的技術難度の低い溶射前駆体形成工程S2と軟化熱処理工程S4との組合せによって軟化体を得られることから、特許文献2の技術よりも汎用性が高く、製造プロセス全体としての低コスト化が可能である。特に、γ’相の体積率が45体積%以上のような超強析出強化Ni基合金部材の製造に効果的である。
図3は、本発明に係る製造方法におけるNi基合金材料の微細組織の変化例を示す模式図である。図2〜3を参照しながら、上記S1〜S6の各工程についてより詳細に説明する。
(合金粉末用意工程S1)
本工程S1は、所定の化学組成を有する(特に、所定量の酸素成分を意図的に含有させた)Ni基合金粉末を用意する工程である。Ni基合金粉末を用意する方法・手法としては、基本的に従前の方法・手法を利用できる。例えば、所定の化学組成となるように原料を混合・溶解・鋳造して母合金塊(マスターインゴット)を作製する母合金塊作製素工程(S1a)と、該母合金塊から合金粉末を形成するアトマイズ素工程(S1b)とを行えばよい。
酸素含有量の制御はアトマイズ素工程S1bで行うことが好ましい。アトマイズ方法は、Ni基合金中の酸素含有量を制御する以外は従前の方法・手法を利用できる。例えば、アトマイズ雰囲気中の酸素量(酸素分圧)を制御しながらのガスアトマイズ法や遠心力アトマイズ法を好ましく用いることができる。
Ni基合金粉末における酸素成分の含有率は、0.003質量%以上0.05質量%以下が望ましく、0.005質量%以上0.04質量%以下がより望ましく、0.007質量%以上0.02質量%以下が更に望ましい。0.003質量%未満ではγ相結晶の粒成長抑制の効果が少なく、0.05質量%超含有すると最終的なNi基合金部材の機械的強度や延性を低下させる。なお、酸素原子は、粉末粒子の内部に固溶したり表面や内部で酸化物の核を生成したりしていると考えられる。
強析出強化の観点および非整合γ’相粒の形成の効率化の観点から、Ni基合金の化学組成としては、γ’相の固溶温度が1020℃以上となるものを採用することが好ましく、1050℃以上となるものを採用することがより好ましく、1110℃以上となるものを採用することが更に好ましい。酸素成分以外の化学組成の詳細については後述する。
Ni基合金粉末の粒度は、平均粒径で、10μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上80μm以下がより好ましく、15μm以上60μm以下が更に好ましい。Ni基合金粉末の平均粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
合金粉末の平均粒径が10μm未満になると、粒子が小さくなり過ぎて次工程S2での射出速度を十分に高めることが難しくなり(すなわち、粉末粒子の衝突エネルギーが小さくなり)、緻密な溶射前駆体の形成が困難になる。一方、合金粉末の平均粒径が100μm超になると、十分な射出速度を確保するために非常に高い供給ガス圧力が必要になり、高速衝突溶射装置のシステムコストおよびランニングコストが急激に増大する。
なお、Ni基合金粉末の各粒子は、図3に示したように、基本的に母相であるγ相と該γ相の結晶粒内に析出した粒内γ’相とからなる。また、1粒子がγ相の1結晶粒からなるものと、1粒子がγ相の多結晶粒からなるものとが混在していると考えられる。合金粉末粒子におけるγ相の平均結晶粒径としては5μm以上50μm以下が好ましい。
(溶射前駆体形成工程S2)
本工程S2は、前工程S1で用意したNi基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって緻密な溶射前駆体を形成する工程であり、切りしろ形成素工程(S2a)と本体形成素工程(S2b)とからなる。高速衝突溶射プロセスは、前述したように、射出する粉末粒子を固相状態(溶融させない状態)で、台板の上に高速(例えば、音速以上の速度)で衝突させて付着堆積させるプロセスであり、例えば、HVOF法やHVAF法やCS法(キネティック・スプレー法とも言う)を好適に利用できる。
切りしろ形成素工程(S2a)は、台板の上に粉末粒子を付着堆積させるプロセスにおいて、後工程(S3)で溶射前駆体を台板から分離する部分を形成する素工程である。切りしろの厚さに特段の限定はなく、分離するのに十分な厚さを形成すればよい。本体形成素工程(S2b)は、切りしろの上に粉末粒子を付着堆積し、溶射前駆体の本体を形成する素工程である。本体を形成する射出速度は、切りしろの射出速度と同じでもよく、変更してもよい。
溶射前駆体を形成する際、高速衝突による巨大な衝突エネルギーによって粉末粒子は大きく塑性変形し、塑性変形に伴って、粉末粒子内に大きな内部ひずみが蓄積されると共に一部に新たな結晶粒界が導入される。新たに導入される結晶粒界は、粒内γ’相粒子の存在によってピン止めされるため、γ相の平均結晶粒径が小さくなる。すなわち、用いた合金粉末粒子よりも平均結晶粒径が小さいγ相マトリックスからなる緻密な溶射前駆体が得られる。
γ相の平均結晶粒径は、電子顕微鏡などによる微細組織観察および画像解析(例えば、ImageJ:米国National Institutes of Health(NIH)開発のパブリックドメインソフトウェアや、電子線後方散乱回折(EBSD)法など)により測定することができる。
溶射前駆体形成の土台となる台板は、粉末粒子の高速衝突に耐えられる限り特段の限定はなく、例えば、射出する粉末粒子よりも高い硬度を有する合金板(超強析出強化Ni基合金板、超硬合金板など)を適宜利用できる。
(前駆体分離素工程S3)
本工程S3は、前工程S2で形成した溶射前駆体を、土台となる台板から分離する工程である。溶射前駆体の分離方法に特段の限定はなく、例えば、切断などの従前の方法を適宜利用すればよい。溶射前駆体の分離は、前素工程S2aで形成した切りしろを考慮して分離することが好ましい。
(軟化熱処理工程S4)
本工程S4は、前工程S3で分離したNi基合金溶射前駆体に対して、γ’相の固溶温度以上の温度に加熱してγ’相をγ相中に一旦固溶させた後、当該温度から徐冷することで粒界γ’相を生成・増加させて粒界γ’相が20体積%以上析出した軟化体を作製する工程である。本工程中におけるγ相結晶粒の望まない粗大化をできるだけ抑制するため、徐冷開始温度は、γ相の固相線温度未満が好ましく、γ’相の固溶温度より25℃高い温度以下がより好ましく、γ’相の固溶温度より20℃高い温度以下が更に好ましい。
なお、γ相の固相線温度が「γ’相の固溶温度+25℃」や「γ’相の固溶温度+20℃」よりも低い場合は、「γ相の固相線温度未満」を優先する。熱処理雰囲気は、大気圧以下の非酸化性雰囲気(例えば、窒素ガス中、アルゴンガス中、真空中)が好ましい。
加熱温度がγ’相の固溶温度以上になると、熱平衡論的には全てのγ’相がγ相中に固溶してγ相単相となる。ただし、本発明においては、粒内γ’相が完全に消失せず、わずかに残存することまでを否定するものではない。例えば、粒内γ’相の残存量が5体積%以下であれば、後の成形工程における成形加工性を強く阻害するものではないことから許容される。粒内γ’相の残存量は、3体積%以下がより好ましく、1体積%以下が更に好ましい。また、この段階でγ相結晶粒が微細な状態を維持することが重要である。
本発明においては、合金粉末用意工程S1で用意したNi基合金粉末が、合金組成として酸素成分を従来のNi基合金よりも多く含有している。そして、そのような合金粉末を用いて形成した溶射前駆体は、該溶射前駆体の形成過程において、含有する酸素原子が合金の金属原子と化合して局所的な酸化物を形成すると考えられる。
このとき形成した酸化物はγ相結晶粒の粒界移動(粒成長)を抑制すると考えられる。すなわち、本工程S4においてγ’相を消失させても、γ相結晶粒の粗大化を防げると考えられる。
徐冷過程における冷却速度は低くする方が粒界γ’相の析出・成長に優位となる。冷却速度は、100℃/h以下が好ましく、50℃/h以下がより好ましく、10℃/h以下が更に好ましい。冷却速度が100℃/hより高いと、粒内γ’相が優先析出して、本発明の作用効果を得ることができない。
γ’相固溶温度が比較的低い1020℃以上1110℃未満の場合、徐冷過程の終了温度は、γ’相固溶温度から50℃以上低い温度が好ましく、γ’相固溶温度から100℃以上低い温度がより好ましく、γ’相固溶温度から150℃以上低い温度が更に好ましい。また、γ’相固溶温度が比較的高い1110℃以上の場合、徐冷過程の終了温度は、γ’相固溶温度から100℃以上低い温度が好ましく、γ’相固溶温度から150℃以上低い温度がより好ましく、γ’相固溶温度から200℃以上低い温度が更に好ましい。より具体的には、1000℃以下800℃以上の温度まで徐冷することが好ましい。徐冷終了温度からの冷却は、冷却中の粒内γ’相の析出を抑制するため(例えば、粒内γ’相の析出量を5体積%以下とするため)冷却速度が高い方が好ましく、例えば、水冷やガス冷が好ましい。
前述したように、析出強化Ni基合金材料の強化機構は、γ相とγ’相とが整合界面を形成することで強化に寄与するというものであり、非整合界面は強化に寄与しない。すなわち、粒内γ’相の量を減少させ、粒界γ’相の量を増加させることで、優れた成形加工性を有する軟化体を得ることができる。
より具体的には、粒内γ’相の残存量を少なくとも5体積%以下とし、粒界γ’相の析出量を20体積%以上とすることが好ましい。粒界γ’相の析出量は30体積%以上がより好ましい。γ’相の析出量は、微細組織観察および画像解析により測定することができる。
成形/成型加工性の指標としては、軟化体の室温におけるビッカース硬さ(Hv)を採用することができる。本工程S4を行うことで得られるNi基合金軟化体は、γ’相の700℃における平衡析出量が45体積%以上となるような超強析出強化Ni基合金材料であっても、室温ビッカース硬さが390 Hv以下のものを得ることができる。当該室温ビッカース硬さが370 Hv以下となるようにすることがより好ましく、350 Hv以下となるようにすることが更に好ましい。
(成形加工工程S5)
本工程S5は、前工程S4で用意したNi基合金軟化体に対して、所望の形状となるように成形加工を施して成形加工体を形成する工程である。このときの成形加工方法に特段の限定はなく、低コストの従前の塑性加工や機械加工を利用することができる。
言い換えると、前工程S4で用意した軟化体は、390 Hv以下の室温ビッカース硬さを有することから、成形加工にあたって、恒温鍛造設備を用いた超塑性加工のような高コストの加工方法を利用する必要がない。成形加工の容易性は、装置コストの低減、プロセスコストの低減、製造歩留まりの向上につながる。
(溶体化−時効熱処理工程S6)
本工程S6は、前工程S5で用意したNi基合金成形加工体に対して、γ’相をγ相中に固溶させる溶体化熱処理およびγ相の結晶粒内に粒内γ’相を再析出させる時効熱処理を施す工程である。溶体化熱処理および時効熱処理の条件は、当該Ni基合金部材の使用環境に合せた条件を適宜適用することができる。熱処理雰囲気は、大気圧以下の非酸化性雰囲気(例えば、窒素ガス中、アルゴンガス中、真空中)が好ましい。
なお、本工程S6においては、粒界γ’相が完全に消失せず、わずかに残存することまでを否定するものではない。例えば、Ni基合金部材に要求される機械的強度を満たすための粒内γ’相の析出量が確保されれば、10体積%以下の範囲の粒界γ’相の残存が許容される。言い換えると、本工程S5は、粒界γ’相が10体積%以下となるように溶体化熱処理を施した後に、粒内γ’相が30体積%以上となるように時効熱処理を施すものである。また、粒界γ’相の少量の残存は、本発明の強析出強化Ni基合金部材において延性・靭性を向上させる副次的な作用効果がある。
本工程S6により、所望の機械的特性を有する強析出強化Ni基合金部材を得ることができる。得られたNi基合金部材は、次世代のタービン高温部材(例えば、タービン動翼、タービン静翼、ロータディスク、燃焼器部材、ボイラー部材)として好適に利用できる。
(Ni基合金部材の化学組成)
本発明で用いるNi基合金材料の化学組成について説明する。当該Ni基合金材料は、700℃におけるγ’相の平衡析出量が30体積%以上80体積%以下となる化学組成を有する。具体的には、質量%で、5%以上25%以下のCr、0%超30%以下のCo、1%以上8%以下のAl、TiとNbとTaの総和が1%以上10%以下、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.1%以下のZr、0.1%以下のB、0.2%以下のC、2%以下のHf、および5%以下のRe、および0.003%以上0.05%以下のOを含有し、残部がNiおよび不可避不純物である化学組成が好ましい。以下、各成分について説明する。
Cr成分は、γ相中に固溶すると共に、Ni基合金材料の実使用環境下で表面に酸化物被膜(Cr2O3)を形成して耐食性と耐酸化性とを向上させる効果がある。タービン高温部材へ適用するためには、5質量%以上の添加が必須である。過剰の添加は有害相の生成を助長するため、25質量%以下とすることが好ましい。
Co成分は、Niに近い元素でありNiと置換する形でγ相中に固溶し、クリープ強度を向上させると共に耐食性を向上させる効果がある。さらに、γ’相の固溶温度を下げる効果もあり、高温延性を向上する。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長するため、0%超30質量%以下とすることが好ましい。
Al成分は、Ni基合金の析出強化相であるγ’相を形成するための必須成分である。さらに、Ni基合金材料の実使用環境下で表面に酸化物被膜(Al2O3)を形成することで耐酸化性と耐食性との向上に寄与する。所望のγ’相析出量に応じて、1質量%以上8質量%以下とすることが好ましい。
Ti成分、Nb成分およびTa成分は、Al成分と同様にγ’相を形成し高温強度を向上させる効果がある。また、Ti成分およびNb成分は、耐食性を向上させる効果もある。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長するため、Ti、NbおよびTa成分の総和を1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
Fe成分は、Co成分やNi成分と置換することで、合金の材料コストを低減する効果がある。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長するため、10質量%以下とすることが好ましい。
Mo成分およびW成分は、γ相中に固溶して高温強度を向上させる効果があり、少なくともどちらかは添加することが好ましい成分である。また、Mo成分は、耐食性を向上させる効果もある。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長したり延性や高温強度を低下させたりするため、Mo成分は10質量%以下、W成分は8質量%以下とすることが好ましい。
Zr成分、B成分およびC成分は、γ相の結晶粒界を強化して(γ相の結晶粒界に垂直な方向の引張強さを強化して)、高温延性やクリープ強度を向上させる効果がある。ただし、過剰の添加は成形加工性を悪化させるため、Zr成分は0.1質量%以下、Bは0.1質量%以下、Cは0.2質量%以下とすることが好ましい。
Hf成分は、耐酸化性を向上させる効果がある。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長するため、2質量%以下とすることが好ましい。
Re成分は、γ相の固溶強化に寄与すると共に、耐食性の向上に寄与する効果がある。ただし、過剰の添加は有害相の生成を助長する。また、Reは高価な元素であるため、添加量の増加は合金の材料コストを増加するデメリットがある。よって、Reは5質量%以下とすることが好ましい。
O成分は、通常は不純物として扱われ、できるだけ低減しようとする成分であるが、本発明においては、前述したようにγ相結晶の粒成長を抑制して粒界γ’相粒の形成を促進するための必須成分である。O含有量は、0.003質量%以上0.05質量%以下とすることが好ましい。
Ni基合金材料の残部成分は、Ni成分およびO成分以外の不可避不純物となる。O成分以外の不可避不純物としては、例えば、N(窒素)、P(リン)、S(硫黄)が挙げられる。
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実験に限定されるものではない。
[実験1]
(Ni基合金粉末の作製)
所望の組成となるように、Ni基合金の原料を混合・溶解・鋳造してマスターインゴット(10 kg)を用意した。溶解は真空誘導加熱溶解法により行った。次に、得られたマスターインゴットを再溶解し、アトマイズ雰囲気中の酸素分圧を制御しながらのガスアトマイズ法により合金粉末を形成して、Ni基合金粉末P-1〜P-6(平均粒径50μm)を用意した。得られたNi基合金粉末P-1〜P-6の化学組成を表1に示す。
Figure 2021172851
[実験2]
(Ni基合金溶射前駆体の作製)
実験1で作製したNi基合金粉末P-1〜P-5を用いて高速フレーム溶射(HVOF)法または低圧プラズマ溶射(LPPS)法により溶射前駆体を形成した。溶射前駆体形成の台板としては超強析出強化Ni基合金板を用いた。LPPS法は、合金粉末を完全溶融させた状態で射出する方法であり、溶射前駆体は、台板に飛来した合金液滴が付着・凝固しながら堆積・形成される。
[実験3]
(Ni基合金溶射前駆体の調査)
図4Aは、合金粉末P-1を用いてLPPS法により形成した溶射前駆体の断面の電子線後方散乱回折(EBSD)図であり、図4Bは、合金粉末P-1を用いてHVOF法により形成した溶射前駆体の断面のEBSD図である。図4A〜4Bにおいて、黒色の領域は結晶方位を判定できない領域を意味する。
図4Aに示したように、LPPS法により形成した溶射前駆体では、各結晶粒の大きさは十分に小さいが、多くの結晶粒が結晶方位を判定できる状態にあることが判る。結晶方位を判定できる状態の結晶粒とは、当該結晶粒内部にひずみが少ない状態(内部ひずみが少ない結晶粒)を意味する。これは、LPPS法が完全溶融した合金液滴の付着・凝固による堆積方法であり、合金液滴の凝固の際に内部ひずみが少なくなるように結晶化するためと考えられる。
これに対し、図4Bに示したように、HVOF法により形成した溶射前駆体では、各結晶粒は大きさが十分に小さいと共に、結晶方位を判定することがほとんどできないことが判る。これは、各結晶粒に多くの内部ひずみが蓄積されていることを強く示唆するものであり、飛来した各粉末粒子がHVOF法による大きな衝突エネルギーによって大きく塑性変形したことに起因すると考えられる。
つぎに、図4A〜4Bのような溶射前駆体をγ’相固溶温度以上に昇温して、γ相結晶粒の再結晶の様子を調査した。具体的には、合金粉末P-1のγ’相固溶温度よりも20℃高い温度(1102+20℃)に昇温して30分間保持する熱処理を行った後、微細組織観察を行った。
その結果、HVOF法によって形成した溶射前駆体では、γ相結晶粒が再結晶するものの、各結晶粒の大きさは溶射前駆体形成直後の状態(平均粒径50μm以下)を維持していた。これは、合金粉末に含まれる酸素成分による結晶粒界のピン止め作用、および固相状態の粉末粒子の付着堆積による溶射前駆体形成に起因すると思われる。
一方、LPPS法によって形成した溶射前駆体では、γ相結晶粒が再結晶する際に粗大化してγ相結晶粒の平均粒径が50μm超になっていた。この要因としては、LPPS法が粉末粒子を完全溶融させた状態で付着堆積する方法であることから、粉末粒子の溶融凝固の際に合金粉末に含まれる酸素成分が凝集・偏析して、結晶粒界のピン止め作用が弱まった可能性が考えられる。
上記のような試験・調査から、γ相の再結晶粒を微細な状態に維持するためには、溶射前駆体の形成方法として、粉末粒子を固相状態のままで付着堆積する高速衝突溶射プロセスが好ましいことが確認された。
他の合金粉末P-2〜P-5を用いてLPPS法またはHVOF法によって形成した溶射前駆体においても、図4A〜4Bと同様の微細組織が得られることを別途確認した。
また、形成した各溶射前駆体の表面の室温ビッカース硬さを、マイクロビッカース硬度計(株式会社明石製作所、型式:MVK-E)を用いて別途測定した。その結果、LPPS法で形成した溶射前駆体は、400〜500 Hvの室温ビッカース硬さを示した。一方、HVOF法で形成した溶射前駆体は、800〜900 Hvの室温ビッカース硬さを示した。これらの硬さの差異は、溶射前駆体の形成方法の差異による各結晶粒の内部ひずみの蓄積の差異に起因すると考えられる。
[実験4]
(Ni基合金軟化体の作製)
まず、実験2においてHVOF法で形成したNi基合金溶射前駆体に対して、放電加工により円柱形状(直径20 mm)の溶射前駆体を切り出して軟化材用の供試材とした。また、実験1で作製した合金粉末P-6を用いてHVOF法でNi基合金溶射前駆体を形成した後、放電加工を施して同様の直径20 mm円柱形状の溶射前駆体を切り出した。
つぎに、該溶射前駆体に対して、後述する表2に示した熱処理条件(徐冷開始温度、徐冷過程の冷却速度)で軟化熱処理を施して、実施例1〜5および比較例1〜6のNi基合金軟化体を作製した。徐冷過程の終了温度は、比較例1,4以外は950℃とした。比較例1,4では、徐冷開始温度から室温までガス冷却によって急冷した。
[実験5]
(Ni基合金軟化体の調査)
実験4で得られた各Ni基合金軟化体に対して、微細組織観察(粒界γ’相の析出量)および室温ビッカース硬さ測定を行い、成形/成型加工性を評価した。Ni基合金軟化体の諸元および評価結果を表2に示す。表2において、γ’相の700℃におけるγ’相の平衡析出量および固溶温度は、表1の合金組成から熱力学計算に基づいて求めたものである。
粒界γ’相の析出量は、電子顕微鏡観察および画像解析(ImageJ)により求めた。軟化体の室温ビッカース硬さは、実験3と同様にマイクロビッカース硬度計を用いて測定した。成形/成型加工性評価は、390 Hv以下の室温ビッカース硬さを「合格」と判定し、390 Hv超の室温ビッカース硬さを「不合格」と判定した。
Figure 2021172851
表2に示したように、軟化熱処理における徐冷過程の開始温度および/または冷却速度が本発明の規定を外れる比較例1〜5の軟化体は、粒界γ’相の析出量が20体積%未満であり(その代わり、粒内γ’相析出量の増加が確認され)、室温ビッカース硬さが390 Hv超である。その結果、成形/成型加工性が不合格と判定された。軟化熱処理における徐冷開始温度が低過ぎたり、徐冷過程の冷却速度が高過ぎたりすると、粒界γ’相がほとんど析出・成長しないため、十分な成形/成型加工性が確保できないことが確認された。
これら比較例1〜5に対し、実施例1〜5の軟化体では、いずれも粒界γ’相の析出量が20体積%以上であり、室温ビッカース硬さが390 Hv以下である。その結果、成形/成型加工性が合格と判定された。
なお、700℃におけるγ’相の平衡析出量が本発明の規定を外れる比較例6の軟化体は、γ’相の平衡析出量が30体積%未満であり、本発明が対象とする強析出強化Ni基合金材料に当てはまらない。ただし、γ’相析出量が少ないため、成形/成型加工性に特段の問題はない。
[実験5]
(Ni基合金部材の作製と評価)
成形/成型加工性評価が合格であった実施例1〜5および比較例6の軟化体に対して、室温環境でドローベンチを用いて直径10 mmまで引抜伸線加工を行って成形加工体を形成した。つぎに、成形加工体に対して溶体化−時効熱処理工程を行って、実施例1〜5および比較例6のNi基合金部材を作製した。溶体化熱処理条件はγ’相固溶温度より20℃高い温度とし、時効熱処理条件は700℃とした。
得られた実施例1〜5のNi基合金部材に対して、700℃の高温引張試験を行った。引張強さが1000 MPa以上のものを「合格」と判定し、1000 MPa未満のものを「不合格」と判定した。その結果、実施例1〜5のNi基合金部材は、全て合格であったが、比較例6のNi基合金部材は、不合格であった。このことから、実施例1〜5のNi基合金部材は、強析出強化Ni基合金材料として期待される機械的特性を示すことが確認された。
以上の結果から、本発明に係るNi基合金部材の製造方法を適用することで、強析出強化Ni基合金材料や超強析出強化Ni基合金材料であっても、良好な成形/成型加工性を示す軟化体を提供することができ、Ni基合金部材を低コストで提供できることが示された。
上述した実施形態や実験例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験例の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
1…γ相を構成する原子、2…γ’相を構成する原子、
3…γ相とγ’相との整合界面、4…γ相とγ’相との非整合界面。

Claims (9)

  1. Ni基合金部材の製造方法であって、
    前記Ni基合金部材は、母相となるγ相の中に析出するγ’相の700℃における平衡析出量が30体積%以上80体積%以下となる化学組成を有し、
    前記製造方法は、
    前記化学組成を有するNi基合金粉末を用意する合金粉末用意工程と、
    前記Ni基合金粉末を用いた高速衝突溶射プロセスによって所定の台板の上に溶射前駆体を形成する溶射前駆体形成工程と、
    前記台板から前記溶射前駆体を分離する溶射前駆体分離工程と、
    分離した前記溶射前駆体に対して、前記γ’相の固溶温度以上で前記γ相の融点未満の温度に加熱して前記γ’相を前記γ相中に固溶させた後、当該温度から前記γ’相の前記固溶温度より50℃以上低い温度まで100℃/h以下の冷却速度で徐冷する熱処理を施すことにより、平均結晶粒径が50μm以下の前記γ相の結晶粒の粒界上に前記γ’相を20体積%以上析出させた軟化体を作製する軟化熱処理工程と、
    前記軟化体に対して、冷間塑性加工、温間塑性加工、熱間塑性加工および/または機械加工を施して所望形状の成形加工体を形成する成形加工工程と、を有することを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  2. 請求項1に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記高速衝突溶射プロセスは、高速フレーム溶射法またはコールドスプレー法であることを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記溶射前駆体形成工程は、切りしろ形成素工程と本体形成素工程とを含むことを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記軟化体の室温のビッカース硬さが390 Hv以下であることを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記合金粉末用意工程は、アトマイズ素工程を含むことを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記成形加工工程の後に、前記成形加工体に対して、前記粒界上の前記γ’相を10体積%以下にする溶体化熱処理を施した後に、前記γ相の結晶粒内に30体積%以上の前記γ’相を析出させる時効熱処理を施す溶体化−時効熱処理工程を更に有することを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記化学組成は、
    5質量%以上25質量%以下のCrと、
    0質量%超30質量%以下のCoと、
    1質量%以上8質量%以下のAlと、
    合計1質量%以上10質量%以下のTi、NbおよびTaと、
    10質量%以下のFeと、
    10質量%以下のMoと、
    8質量%以下のWと、
    0.1質量%以下のZrと、
    0.1質量%以下のBと、
    0.2質量%以下のCと、
    2質量%以下のHfと、
    5質量%以下のReと、
    0.003質量%以上0.05質量%以下のOとを含有し、
    残部がNiおよび不可避不純物からなることを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  8. 請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記化学組成は、前記γ’相の前記固溶温度が1110℃以上となる化学組成であることを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  9. 請求項8に記載のNi基合金部材の製造方法において、
    前記Ni基合金部材は、前記γ’相の700℃における前記平衡析出量が45体積%以上80体積%以下となる化学組成を有することを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
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