JP2021122233A - 細胞外マトリックス、成熟心筋細胞製造方法、創薬支援方法、治療方法、成熟心筋細胞、及び心筋細胞成熟キット - Google Patents

細胞外マトリックス、成熟心筋細胞製造方法、創薬支援方法、治療方法、成熟心筋細胞、及び心筋細胞成熟キット Download PDF

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【課題】未成熟の心筋細胞を成熟させる細胞外マトリックスを提供する。【解決手段】細胞外マトリックスは、多能性幹細胞等に由来する未成熟の心筋細胞を成熟させるためのものである。具体的には、ラミニン断片を含むことを特徴とする。このラミニン断片は、ラミニンタンパク全体ではなく、ラミニンE8断片を用いる。このラミニンE8断片は、ラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片であることが好適である。このラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片を用いて、分化誘導された心筋細胞を培養することで、ギャップジャンクション(Cx43)が形成され、ミトコンドリアも成熟した、成熟心筋細胞を取得可能となる。【選択図】図19

Description

本発明は、特に、多能性幹細胞等から分化誘導された未成熟の心筋細胞を成熟化させる細胞外マトリックス、成熟心筋細胞製造方法、創薬支援方法、治療方法、成熟心筋細胞、及び心筋細胞成熟キットに関する。
日本生活習慣病予防協会(JPALD)の統計調査によると、特に成人以降に発症する心筋症等である心疾患の総患者数は172万9000人(2016年4月19日)、虚血性心疾患の年間死亡数、「急性心筋梗塞」3万7222人、「その他虚血性心疾患」3万4451人、心疾患による死亡数は年間19万6113人(2016年10月13日)と報告されている。また、心筋梗塞が含まれる虚血性心疾患の医療費は7,503億円、このうち65歳以上で5630億円を占める(2015年11月10日)。高齢化が進むことにより、これらが更に増加することが予想されている。
このような心疾患の治療のために、再生医療を用いることが検討されている。たとえば、ES細胞(Embryonic Stem Cell)やiPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)等の多能性幹細胞を分化誘導して心筋細胞を作成し、これを移植することで、十度の心疾患を治療可能になると考えられる。さらに、このような分化誘導して作成した心筋細胞を用いることで、心疾患の解析や薬剤の毒性評価を行う技術も期待されている。
ここで、特許文献1を参照すると、心筋細胞前駆細胞及び成熟心筋細胞を多能性幹細胞から分化させる方法が記載されている。この方法では、(i)ラミニン511又は521及び(ii)ラミニン221の混合物を含む基材上で多能性幹細胞を分化させる。
米国特許出願公開第2016/0122717号明細書
しかしながら、特許文献1に記載された技術等を用いて、多能性幹細胞等から分化誘導して作成された心筋細胞は、胎児(胎仔)型〜新生児型となり、完全に成熟した大人(成人、成体)の心臓の心筋細胞と同様にはならなかった。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
本発明の細胞外マトリックスは、未成熟の心筋細胞を成熟させるための細胞外マトリックスであって、ラミニン断片を含むことを特徴とする。
本発明の細胞外マトリックスは、前記ラミニン断片は、ラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片であることを特徴とする。
本発明の成熟心筋細胞製造方法は、未成熟の心筋細胞を、前記細胞外マトリックスを含む培地で培養し、成熟した心筋細胞を取得することを特徴とする。
本発明の創薬支援方法は、前記成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞を培養し、培養された前記心筋細胞に対して、創薬のための毒性及び/又は疾患に関する薬物を投与し、前記心筋細胞の状態を評価することを特徴とする。
本発明の治療方法は、前記成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞を培養し、培養された前記成熟心筋細胞を移植することを特徴とする。
本発明の成熟心筋細胞は、前記成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞であって、心筋細胞の成熟に伴い発現が増加する成熟心筋細胞マーカーを指標として、前記未成熟の心筋細胞から、前記成熟した心筋細胞を取得することを特徴とする。
本発明の心筋細胞成熟キットは、未成熟の心筋細胞を成熟させるための細胞外マトリックスを含み、前記細胞外マトリックスは、ラミニン断片を含むことを特徴とする。
本発明によれば、多能性幹細胞等に由来する未成熟の心筋細胞から、従来より成熟した成熟心筋細胞を得ることが可能な、ラミニン断片を含む細胞外マトリックスを提供することができる。
本発明の実施の形態に係る心筋細胞の写真である。 本発明の実施の形態に係る心筋細胞の写真である。 本発明の実施例に係る各細胞外マトリックス(ECM)の各ステージでの発現をクラスタリングした結果を示すヒートマップである。 本発明の実施例に係る各ECMの発現プロファイルのグラフである。 本発明の実施例に係る各ECMによる成熟に対する影響の評価試験の概念図である。 本発明の実施例に係る各ECM処理による成熟に対する影響の評価試験の結果を示すグラフである。 本発明の実施例に係る各ECM処理による成熟に対する影響の評価試験の結果をまとめたグラフである。 本発明の実施例に係る各ECM処理後の心筋細胞を免疫染色で形態評価した写真である。 本発明の実施例に係る各ECM処理後の心筋細胞を免疫染色で形態評価した結果のグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理による心筋細胞の2核化の測定を示すグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるギャップジャンクションの形成を示す写真である。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるミトコンドリア活性の代表的なトレースのグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるミトコンドリア活性の評価のグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理による細胞内カルシウムのトランジェント現象の代表的なトレースのグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理による細胞内カルシウムのトランジェント現象の評価のグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるサルコメア短縮アッセイの結果を示す写真及びグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるトランスクリプトーム分析の全体の結果を示すグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理によるトランスクリプトーム分析の詳細解析の結果を示すグラフである。 本発明の実施例に係るLN511/521処理による成熟度スコアを示すグラフである。
<実施の形態>
図1に、多能性幹細胞から分化誘導して得られる心筋細胞(以下、「PSC−CMs」という。)の例を示す。PSC−CMsは、胎児(胎仔)型〜新生児型となり、完全に成熟した心臓の心筋細胞と同様にはならないことが分かっている。たとえば、図1(a)は、マウスのES細胞のような多能性幹細胞から分化誘導したPSC−CMsの例を示す。図2(b)は、実際のマウスの胎仔の心筋細胞の例を示す。図2(a)は、マウスのES細胞から分化誘導したPSC−CMsについて、それぞれ分化10日目、図2(b)は分化20日目、図2(c)は、分化30日目の様子を示す。このように、PSC−CMsは培養することで、多少、成熟するものの、マウス新生仔から単離した細胞と同程度にしかならない。このような状態では、マウス成体の細胞とは形態的にも大きな差がある。さらに、細胞内のカルシウム量の変化を見るカルシウムトランジェントでも、その未成熟パターンであることは明らかであった。
このため、PSC−CMsをより成熟させる成熟方法が求められていた。
ここで、本発明者らは、発達の各段階(ステージ)にある細胞外マトリックスが、時期特異的に発現していることを見いだした。
このため、鋭意実験を繰り返し、この時期特異的に発現している細胞外マトリックスのうち、どの細胞外マトリックスが、心筋細胞の成熟に特異的な効果を持つかどうかを、網羅的に調べた。この際に、心筋細胞が成熟するのに合わせて発現が増加する遺伝子座に対し、蛍光タンパク質を挿入した多能性幹細胞株(レポーター細胞)を用いた。
そして、ラミニンE8フラグメント(E8断片)に効果があり、更に、ラミニン511 cE8断片及び/又はラミニン521 E8断片により、レポーター細胞の蛍光強度が増加し、形態や生理的な活性等が成熟することを確認して、本発明を完成させるに至った。
〔細胞外マトリックス〕
細胞外マトリックス(Extracellular Matrix、細胞外基質、細胞間マトリックス)は、生物において、細胞の外に存在する不溶性物質である。細胞外マトリックスは、細胞にとって、物理的な足場となり、更に、組織の形態の形成、分化、ホメオスタシス等についての、生化学的、生物力学的なシグナルカスケードに関連する。動物において、細胞外マトリックスは、繊維状のタンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン等から構成される。このうち、繊維状のタンパク質は、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン(Laminin)を含む。このうち、ラミニンは、細胞外マトリックスである基底膜を構成する巨大なタンパク質である。
本実施形態の細胞外マトリックスは、心筋細胞の成熟を促進させるための特異的な細胞外マトリックスであり、ラミニン断片を含むことを特徴とする。
ここで、ラミニンは、3つの鎖(α鎖、β鎖、γ鎖)から構成される非常に大きなタンパク質である。本発明者らは、ラミニン全体を用いると、心筋細胞の成熟を逆に抑制して、前駆細胞の段階で安定的に止めてしまうことを見いだした。実際に、従来の組み換えラミニン521は、ヒト初期胚細胞で発現するラミニンとして、ヒト多能性幹細胞のような未分化の細胞を分化させずに維持させるのに用いられている(例えば、<URL=”https://www.veritastk.co.jp/sciencelibrary/pickup/laminin−521.html”>等参照)。
しかしながら、本発明者らは、上述の細胞外マトリックスの網羅的な解析により、従来のラミニン全体とは逆に、ラミニンタンパクの断片(ラミニン断片)を用いることで、心筋細胞の成熟を促進させることを見いだした。すなわち、本実施形態の細胞外マトリックスは、細胞の成熟を促すシグナル伝達分子として機能し、それ以外の、細胞の成熟を抑えるシグナル伝達分子の箇所を含まないものと考えられる。また、本実施形態のラミニン断片は、心筋細胞が成熟するのに必要である、構造的な足場を提供するため、心臓の発達に役立つと考えられる。
ここで、本実施形態のラミニン断片としては、E8断片を用いることが好適である。ラミニンのE8断片は、細胞表面のインテグリンと結合する最小構成部位のタンパク片(ペプチド鎖)である。このうち、ラミニン511及び/又はラミニン522のE8断片を用いることが、特に、ヒトやマウスを含む脊椎動物の心筋細胞の成熟化に好適である。このラミニン511及び/又はラミニン522 E8断片は、それぞれの種の配列のものを用いることが好適である。また、化学的に修飾されていても、ペプチドの配列が一部異なっていても、他のペプチドと合成されたものであっても、その他の化学的な修飾を受けたものであってもよい。
本実施形態の動物は、特に限定されるものではなく、心臓がありラミニンを備える脊椎動物及び無脊椎動物を広く含む。脊椎動物としては、魚類、両生類、は虫類、鳥類、及び哺乳類を含む。具体的には、例えば、哺乳類は、例えば、マウス、ラット、フェレット、ハムスター、モルモット、又はウサギ等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、又は、アカゲザル、チンパンジー、オランウータン、ヒト等を含む霊長類等であってもよい。また、哺乳類の他にも、魚類、家禽を含む鳥類、爬虫類等を含む。また、無脊椎動物等であっても、脊索動物、軟体動物、環形動物、節足動物等、心臓を備える動物も広く含む。
本実施形態の心筋細胞は、各種の中胚葉系への分化誘導因子等を用いた手法により多能性幹細胞から分化されたPSC−CMsであってもよい。加えて、本実施形態の心筋細胞は、患者等の線維芽細胞や血液細胞に転写因子を導入して誘導されるinduced cardiomyocyte(iCM)であってもよい。さらに加えて、本実施形態の心筋細胞は、患者等の心臓から得られた初代培養(Primary Cell Culture)心筋細胞であってもよい。
さらに、本実施形態の心筋細胞は、心筋細胞に分化誘導された細胞を、各種マーカーや目視等によりコロニー等の形式で選択したものであってもよい。また、本実施形態の心筋細胞は、各種細胞の混合細胞集団、組織、臓器等(以下、「組織等」という。)であってもよい。これらの心筋細胞は、後述する成熟度スコアで示されるような様々な状態のものを混合して含んでいてもよい。すなわち、各細胞は、十分分化していなかったり、未成熟であったり、成体の細胞程、成熟していなかったりしてもよい。さらに加えて、本実施形態の心筋細胞は、後述するレポーター細胞を分化誘導したものを含んでいてもよい。
また、以下、これらの心筋細胞のうち、成熟した心筋細胞を、単に「成熟心筋細胞」という。
ここで、本実施形態の多能性幹細胞は、例えば、ヒトを含む霊長類、霊長類以外のほ乳類、その他の脊椎動物等の生物で各種細胞に分化可能な、多分化能を備える幹細胞(Stem Cell)を含む。ここで、本実施形態の多能性幹細胞は、継代可能であり、継代しても分化が進まない状態を保ち、核型等が変化しにくく、又はエピジェネティックな表現型が変化しにくい性質を有することが好適である。また、本実施形態の多能性幹細胞は、これに関連して、生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で十分な増殖能力を備えていることが好適である。このような本実施形態の多能性幹細胞の具体例としては、胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell、以下、「ES細胞」という。)、人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cell、以下、「iPS細胞」という。)、その他の人工的に生成され若しくは選択された多能性を備える幹細胞等が挙げられる。これら本実施形態の多能性幹細胞は、特定の遺伝子を含むレトロウイルスやアデノウイルスやプラスミド等の各種ベクター、RNA、低分子化合物等により、体細胞を再プログラミングして作成された幹細胞であってもよい。
なお、本実施形態の多能性幹細胞としては、必ずしも全能性に近い多分化能を備えている細胞である必要はないものの、通常より多分化能が高いナイーブ(Naive)な細胞を用いることも可能である。また、本実施形態の多能性幹細胞は、疾患の患者から得られた細胞から作成された細胞、その他の疾患のモデルとなる細胞、レポーター遺伝子が組み込まれた細胞(レポーター細胞)、コンディショナルノックアウトが可能な細胞、その他の遺伝子組み換えされた細胞等であってもよい。この遺伝子組み換えは、染色体内の遺伝子の追加や修飾や削除、各種ベクターや人工染色体による遺伝子等の付加、エピジェネティック制御の変更、PNA等の人工遺伝物質の付加、その他の遺伝子組み換えを含む。
〔成熟心筋細胞製造方法、成熟心筋細胞〕
本実施形態の成熟心筋細胞製造方法は、未成熟の心筋細胞を、本実施形態の細胞外マトリックスを含む培地で培養し、成熟した心筋細胞(成熟心筋細胞)を取得することを特徴とする。
本実施形態の成熟心筋細胞は、本実施形態の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞であって、心筋細胞の成熟に伴い発現が増加する成熟心筋細胞マーカーを指標として、未成熟の心筋細胞から、成熟した心筋細胞(成熟心筋細胞)を取得することを特徴とする。
ここで、本実施形態の成熟心筋細胞マーカーは、心筋細胞の成熟に伴い発現が増加するAcadvl、Acsl1、Acss1、Ankrd23、Aqp1、Atp1a2、Casq2、Cd36、Cep85l、Ckmt2、Clu、Cmya5、Coq10a、Cox7a1、Cox8b、Cryab、Dcn、Ech1、Ephx2、Fndc5、Gsn、Gstm1、Hfe2、Hrc、Hspb6、Hspb8、Kcnip2、Klf9、Lpi1、Lrrc2、Lrtm1、Mb、Mgp、Myom2、Myoz2、Myzap、Nfix、Pdk2、Perm1、Pink1、Ptgds、Rgs5、Rpl3l、S100a1、Sgcg、Slc2a4、Sparcl1、Tcap、Tmem182、Tuba4a、Txlnb、Xirp2、及びYipf7からなる群の一種又は任意の組み合わせを含む。
このうち、Myom2は、成人の心筋で発現し、Mバンド構造を含むタンパク質の3次元配列を安定化するタンパクの遺伝子である。
具体的には、本実施形態の成熟心筋細胞は、上述の成熟心筋細胞マーカーの遺伝子座にレポーター遺伝子をノックインした多能性幹細胞を作成し、これをレポーター細胞として用いて、このレポーター細胞を成熟させることで製造可能である。
すなわち、まず、レポーター遺伝子をノックインした多能性幹細胞としてレポーター細胞を用意することが可能である。この上で、このレポーター細胞を分化誘導してPSC−CMsを作成し、レポーター遺伝子が活性化(発現)したものを指標としてフローサイトメトリーを用いた蛍光活性化セルソーティング(Fluorescence Activated Cell Sorting、以下、「FACS」という。)等で選択して取得することで、成熟心筋細胞を純化して取得することが可能である。
より具体的に、本実施形態のレポーター細胞は、例えば、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescent Protein、以下「RFP」という。)やGFP緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、以下「GFP」という。)等の蛍光タンパク質の遺伝子を成熟心筋細胞マーカーの遺伝子座にノックインして作成可能である。
さらに、本実施形態のレポーター細胞は、例えば、マウスES細胞を用いる場合、キメラマウスを作成することが可能であってもよい。これにより、レポーター細胞を、動物の心臓の発達段階に対する実験等に広く用いることが可能となる。具体的には、本実施形態のレポーター細胞は、心筋細胞の成熟をより進めるための、細胞外マトリックス(Extracellular Matrix、以下、「ECM」とも省略する。)、ホルモン等の心筋細胞の成熟に関連する外部刺激のスクリーニング、成熟の最適化等に関するツールとして使用可能である。より具体的には、本実施形態のレポーター細胞は心臓病のモデリングや、後述する本実施形態の創薬支援方法において、治療薬の候補(候補薬物)、心疾患を治療するための候補薬物等のスクリーニングに用いることが可能である。
本実施形態の成熟心筋細胞は、上述のレポーター細胞を成熟させた蛍光を発する成熟心筋細胞をFACSで取得して、純化することが可能である。この際、Cd36については、表面抗原に対応する、蛍光色素結合した抗体を指標として、成熟度を評価して取得することが可能である。この表面抗原は、Cd36の転写産物の細胞膜外の部分である。
以下の実施例では、Myom2に、レポーター遺伝子としてRFP遺伝子をノックインしたレポーター細胞を用いる例を示している。
なお、蛍光タンパク以外にも、薬剤耐性遺伝子を導入した細胞を用意し、これを分化誘導してPSC−CMsを作成し、成熟することで薬剤耐性を獲得した心筋細胞を純化することも可能である。すなわち、薬剤耐性遺伝子を、広義の「レポーター」細胞として用いることが可能である。
上述のように、本実施形態の成熟心臓細胞は、レポーター細胞を成熟させたPSC−CMsであってもよい。または、レポーター遺伝子をノックインしていないPSC−CMsであってもよい。すなわち、本実施形態の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞は、上述のレポーター細胞を含む、多能性幹細胞を分化誘導した任意の心筋細胞を用いることが可能である。つまり、本実施形態の成熟心筋細胞は、レポーター細胞及びレポーター細胞以外のPSC−CMsを用いることも可能である。さらに、多能性幹細胞の分化誘導を行う際に、心筋細胞成熟剤を同時に用いることも可能である。または、心筋細胞成熟剤を多能性幹細胞の分化誘導のために用いてもよい。これらは、例えば、適当な核内移行するウイルスベクター、各種プラスミド、PNA等を用いることが可能である。このウイルスベクターは、例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス等の当業者に一般的なウイルスを用いて構成されてもよい。加えて、心筋細胞成熟剤を、適切なDDS(Drug Delivery System)、エレクトロポーション、その他の当業者に用いられる手法で細胞内、核内に導入することが可能である。
本実施形態の成熟心筋細胞製造方法にて製造されたPSC−CMs(成熟心筋細胞)は、集合し線維状のサルコメア構造を形成することが可能である。本実施形態の成熟方法にて成熟させたPSC−CMsが培養された細胞塊中にサルコメア構造が認められる場合、心筋細胞が機能性の心筋を構成していると判定することが可能である。または、本実施形態の成熟方法にて成熟させたPSC−CMsの細胞塊の一部を取得し、本実施形態の成熟度評価方法にて成熟度スコアを評価することも可能である。
ここで、本実施形態の成熟心筋細胞製造方法にて製造された成熟心筋細胞は、生体内に存在する成人の心筋細胞と機能的及び形態的に近似した心筋細胞となる。すなわち、本実施形態の成熟心筋細胞は、細胞内カルシウムのトランジェント現象及びサルコメア短縮が観察され、ミトコンドリア活性が高くなる。さらに、イオンチャネル機能が発達し、例えば、静止膜電位、ピーク電圧、振幅等も、より生体内の成人の心筋細胞に類似した細胞となる。さらに、下記で説明するように、本実施形態の心筋細胞の成熟度評価方法で評価した場合、本実施形態のマウスの成熟心筋細胞は、高スコアになる。このため、従来の分化誘導方法において分化誘導した心筋細胞と、製造物として区別することが可能である。
本実施形態の成熟心筋細胞は、トランスクリプトームデータのうち、共通の遺伝子についての参照により、他の種の心筋細胞の成熟度を定量的に評価することで、実際の成熟度を評価することも可能である。すなわち、心筋細胞の成熟度評価方法により成熟度を評価して、この結果に対応して、成熟心筋細胞を取得することも可能である。これは、例えば、生体組織やPSC−CMsのコロニーの一部等を取得して、成熟度を評価し、残りの心筋細胞を取得するにして対応可能である。
ここで、本実施形態の発達段階にある動物の心臓のトランスクリプトームのデータは、例えば、次世代シーケンサーによる大規模RNAシークエンス(以下、「RNA−seq」という。)、複数の遺伝子を設定した評価パネル(Targeted RNA−seq、又はqPCR)、DNAチップ、その他の複数の遺伝子発現を測定したものを解析したデータを用いることが可能である。このデータは、例えば、受精からの日数に対応した胎児又は胎仔〜出生後の新生児〜成熟の各段階(ステージ)において、各遺伝子の発現量のデータを含んでいる。RNA−seqの場合、発現量は、転写産物の量であるTranscript per million(以下、「TPM」という。)のデータとなる。
本実施形態においては、例えば、後述する実施例で示すように、発達の各段階にあるマウスの心臓のRNA−seqによるトランスクリプトームデータのうち、マウスとヒトで共通の遺伝子を参照として、ヒトのiPS細胞から分化誘導されたPSC−CMsのRNA−seqの結果データ120から、成熟度を評価することが可能である。すなわち、特にヒトPSC−CMsについて、どの程度成熟しているかを定量的に評価することが可能である。
本実施形態の成熟心筋細胞製造方法にて製造された成熟心筋細胞は、後述するように、本実施形態の創薬支援方法や治療方法に用いることが可能である。
なお、生物基礎医学分野において、特定の時点において、数万の遺伝子の発現と、生体細胞内において実際に進行している物質的、化学的変化、動作の関係とを完全に知ることは不可能である。よって、本実施形態のように遺伝子の発現レベル(トランスクリプトーム)を用いた成熟度スコア以上に、定量的に心筋細胞の成熟度を測定することは、当業者にとって非常に難しいため、本実施形態の成熟心筋細胞をその構造又は特性により直接特定することは困難であるという特段の事情が存在する。
〔心筋細胞成熟キット〕
本実施形態の心筋細胞成熟キットは、未成熟の心筋細胞を成熟させるための細胞外マトリックスを含み、細胞外マトリックスは、ラミニン断片を含むことを特徴とする。
本実施形態の心筋細胞成熟キットは、本実施形態の成熟心臓細胞の製造方法に必要な各種試薬を含む。これらの試薬には、例えば、培養用の培地、細胞外マトリックス、培地、FACS用の試薬、抗体、容器等を含む。この細胞外マトリックスは、例えば、ラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片のペプチドを含んでいてもよい。さらに、細胞外マトリックスは、発現ベクター等として、心筋細胞自体やフィーダー細胞等で発現されるように提供されてもよい。加えて、上述のレポーター細胞自体、更に、各種ホルモンやアゴニスト、転写因子を含む心筋細胞成熟剤、その他が含まれる特別の培地や薬剤についても、本実施形態の心筋細胞成熟キットに加えられていてもよい。さらに、レポーター細胞を保存したり維持したりするための特別の培地、分化誘導や成熟に必要な薬剤等も含んでいてもよい。
〔創薬支援方法〕
本実施形態の創薬支援方法は、上述の成熟心筋細胞製造方法により成熟させた成熟心筋細胞を培養し、培養された成熟心筋細胞に対して、創薬のための毒性及び/又は疾患に関する薬物を投与し、成熟心筋細胞の状態を評価することを特徴とする。
本実施形態の創薬のための毒性及び/又は疾患に関する薬物としては、心毒性を調べる必要のある薬剤スクリーニングの候補薬物、心疾患を治療するための候補薬物等を用いることが可能である。本実施形態の候補薬物は、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、細胞の抽出物や上清や発酵産物、その他の合成化合物や天然化合物等が挙げられる。これらの候補薬物は、純度や精製度等が任意であってもよい。また、本実施形態の薬剤スクリーニングが対象とする疾患は、心疾患以外の任意の疾患を含む。
本実施形態の心毒性としては、患者に重篤な不整脈を引き起こす疾患である、薬物誘発性(後天性)QT延長症候群を、下記で説明する生理学的特性の解析により評価してもよい。薬物誘発性QT延長症候群は、薬物の投与後に心電図上のQT間隔の延長が起こり、TdP(Torsades de pointes、トルサード・ド・ポアンツ、非持続性多形性心室頻拍)から、しばしば心室細動が起こり、失神や突然死をきたす、重篤な疾患である。
本実施形態の成熟心筋細胞の状態の評価としては、生理学的特性の解析、毒性マーカー遺伝子の発現解析等を行うことで評価が可能である。このうち、生理学的特性の解析は、例えば、得られたPSC−CMsを1個の細胞又は細胞塊として、電気生理学的特性をパッチクランプ試験、又はフィールドポテンシャル(細胞外活動電位)等を測定して解析することが可能である。この細胞外活動電位は、例えば、多数の電極を有するディッシュ上に、サンプルを載せて測定する。細胞外活動電位の測定により、QTインターバル、拍動(BPM)解析、Naピーク解析等を行うことが可能である。QTインターバルは、心室筋の収縮から拡張期に入るまでの時間であり、Naチャネルによる脱分極からKチャネルによる再分極が起こり、静止膜電位となるまでの時間をいう。このQTインターバルが長くなるQT延長が認められる場合、Kチャンネルの阻害による薬物誘導性の不整脈の原因となり得るので、スクリーニングにて不適なものとして候補薬物から除くような評価をすることが可能である。
この他にも、各種、毒性マーカー遺伝子の発現解析を行うことで、心毒性の評価が可能である。さらに、臨床試験のプロトコルに合わせたり、当業者に任意の方法を用いたりして、スクリーニングを行ってもよい。
これらの解析において、候補薬物を投与した成熟心筋細胞において、正常な機能が維持された場合に、当該候補薬物が心毒性の少ないものと推定可能である。
〔心疾患の治療方法〕
本実施形態の心疾患の治療方法は、本実施形態の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞を培養し、培養された前記成熟心筋細胞を移植することを特徴とする。
具体的には、本実施形態の治療方法においては、心臓の再生医療として、ヒトを含む動物の心臓疾患(心臓病、心疾患)を治療するために、本実施形態の成熟心筋細胞を用いることが可能である。この心疾患としては、心筋梗塞、虚血性心疾患、心筋炎、その他の心不全等が挙げられる。
たとえば、本実施形態の成熟心筋細胞は、当該患者から取得して作成又は生成された多能性幹細胞、又は、HLA等の型が近い多能性幹細胞のライブラリーから取得され、分化誘導され、その後、心筋細胞成熟剤を加えて特定期間培養されて成熟させる。そして、成熟させた成熟心筋細胞は、分離された細胞又は細胞塊の状態で心疾患等の患者の疾病の心臓に注入、心筋シートや心筋組織や心臓臓器(以下、「心筋シート等」という。)を形成しての移植等の治療に用いることができる。この心筋シート等は、当業者に用いられる培養器材を用いて単層又は多層のシートを作成し、心疾患患者の心臓に移植してもよい。さらに、本実施形態の成熟心筋細胞を、サルコメア構造をもつ心臓の筋繊維や組織の状態にして、心疾患患者の心臓に移植してもよい。さらに、適切な担体を用いて培養したり、3Dプリンター等を用いて積層したりして、より組織化された培養物を心疾患患者の心臓に移植することも可能である。これらの担体や培養基材、及び/又は培地に、本実施形態の細胞外マトリックスを含ませることが可能である。
なお、本実施形態の成熟心筋細胞は、再生医療以外の治療用途、例えば、バイオリアクター、人工臓器の製造、クローン個体の作成等、各種用途に使用可能である。
また、本発明を日本で実施する場合、培養物の提供より後の治療は医師により行われるため、本発明の治療方法の「動物」は、ヒト(Homo sapiens)を含まないものとする。一方、それ以外の国においては、「動物」「治療法」の定義は、限定されない。
本発明の実施の形態に係る成熟心筋細胞を上述の治療に用いる際に、投与(導入)間隔及び投与量は、疾患の状況、さらに対象の状態等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。
本発明の実施の形態に係る成熟心筋細胞の1回の投与量及び投与回数は、投与の目的により、更に、患者の年齢及び体重、症状及び疾患の重篤度等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。
投与回数及び期間は、1回のみでもよいし、1日1回〜数回、数週間程度投与し、疾患の状態をモニターし、その状態により再度又は繰り返し投与を行ってもよい。
加えて、本発明の成熟心筋細胞は、本実施形態の細胞外マトリックスに加えて、他の組成物や薬剤等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
さらに、本実施形態の細胞外マトリックスを、そのまま心筋細胞成熟用医薬として用いることも可能である。この医薬としては、例えば、未成熟の心筋細胞が存在することが原因となっている疾病、心筋シート等を移植された際の最終的な成熟等に用いることが可能である。具体的には、ゲル状物質等の各種担体に本実施形態の細胞外マトリックスを含ませたものを移植時に付加することが可能である。
また、本発明の実施の形態に係る心筋細胞成熟用医薬は、任意の製剤上許容しうる担体を含んでいてもよい。この担体は、例えば、リポソーム担体、コロイド金粒子、ポリペプチド、リポ多糖類、多糖類、脂質膜等であってもよい。これらの中で、機能活性調整剤の発現調整効果を向上させる担体を用いることが好適である。
さらに、製薬上許容される担体としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム等を含んでいてもよい。さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50等と共に投与することが可能である。また、適切な賦形剤等を更に含んでもよい。
また、本実施形態の心筋細胞成熟用医薬は、製剤上許容しうる担体を調製するために、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含んでいてもよい。このキャリアは、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。また、キャリアは、乳濁液として提供されてもよい。さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤等の製剤用添加物のいずれか又は任意の組み合わせを含有させてもよい。
本実施形態の心筋細胞成熟用の投与経路は、特に限定されず、非経口的又は経口的に投与を行うことが可能である。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内、腹腔内の投与、又は、腎臓等への直接投与が可能である。
本発明の実施の形態に係る心筋細胞成熟用医薬は、非経口的又は経口的の投与に適した投与形態において、当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、患者から得られた初代培養の心筋細胞は、ディッシュで維持することが困難であった。このため、多能性幹細胞に成長因子又は小分子を順次添加することにより、心臓分化誘導させるプロトコルが開発された。これにより生成された多能性幹細胞由来の心筋細胞(PSC−CMs)は、疾患モデリング及び薬物スクリーニングのために用いられることが期待されている。
ここで、従来のPSC−CMsは、その構造と機能に関して、胎児又は新生児の心筋細胞に近い未成熟の状態であり、典型的なin vivoの出生後の成熟した心筋細胞とは異なっていた。そのため、特に成人以降に発症する心筋症等の心疾患の病態の再現や解析、薬剤の毒性評価を行う用途では不十分であった。この制限により、特にin vitroモデル及び創薬のための医療目的でのPSC−CMsの有用性が毀損されていた。したがって、PSC−CMsを、成体の細胞に近いレベルまで成熟させるための方法が求められていた。
これに対して、本実施形態のラミニン断片を用いてPSC−CMsを成熟させることで、従来の手法で得られるよりも明らかに成熟した成熟心筋細胞が得られた。
この本実施形態の成熟心筋細胞を疾患のモデルとなるiPS細胞等に応用することで、これまで病態が再現できなかったものであっても、再現できるようになる可能性がある。具体的には、心筋梗塞等、虚血性心疾患を原因とする特発性心疾患等についても候補薬物を選択可能になる。また、QT延長について、子供では症状がないものの大人では症状が出るといった状態に対応して、候補薬物をふるい分けることが可能となる。このため、心筋症治療に向けた再生医療への応用に資することができる。
一方、従来、特許文献1の段落[0057]に記載されているように、全長のラミニン511及びラミニン521は、多能性幹細胞が接着可能な足場となり得るため、自発的な分化や遺伝的変化のリスクなしに、長期的に維持するのに用いられていた。一方、ラミニン211及びラミニン221は、心筋及び骨格筋線維(細胞)に非常に特異的であり、特許文献1の段落[0060]に記載されているように、このラミニン221を含む基材で培養することで、多能性幹細胞をPSC−CMsに分化させていた。
すなわち、従来、ラミニン511及びラミニン521が多能性幹細胞から心筋細胞への成熟に有効であるという知見は存在しなかった。
これに対して、本実施形態のラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片は、従来の常識と異なり、それだけで未成熟の心筋細胞を成熟させ、成熟心筋細胞を作製させることが可能な細胞外マトリックスとなる。
さらに、本実施形態では、成熟に伴い発現が増加する成熟心筋細胞マーカーの遺伝子座に、レポーター遺伝子として蛍光タンパク質の遺伝子をノックインした多能性幹細胞であるレポーター細胞を用いた。そして、成熟心筋細胞(群)から、レポーター細胞におけるレポーター、又は、Cd36の表面抗原を指標として、FACS等で分離することにより、高純度な成熟心筋細胞を得ることができる。
本実施形態のレポーター細胞から作成した成熟心筋細胞は、病態モデルの作成が可能となり、心筋症の治療に向けた再生医療への応用に近づく可能性がある。たとえば、大人になって発症する心筋症の治療法開発に役立つ可能性がある。
より具体的には、本実施形態においては、実施例に示すように、Myom2遺伝子座にRFPをノックインした多能性幹細胞株をラミニン511 E8断片及び/又はラミニン 521 E8断片を用いて処理し、RFP強度を測定することで、成熟心筋細胞を取得した。Myom2はニワトリ、マウス、ヒトの間で、強く保存されていることが知られている。このため、心筋細胞の成熟のレポーター細胞として、病態解析等に、より適切に使用可能となる。
なお、本発明者らは、Myom2以外にも、Ckmt2、Hspb8、Tcapについてノックイン細胞を作成済みであり、予備実験にて同様の結果を示した。これらでは、キメラマウスの作成も可能であり、胎仔〜成熟したマウスの心臓を取得して、成熟した細胞を取得することが可能である。また、それ以外の成熟心筋細胞マーカーの遺伝子についても、各遺伝子座にノックインを行うと同様の結果を示すものと考えられる。
また、上述の実施形態においては、セルソーティングにFACSを用いる例について記載したものの、FACS以外のセルソーティングも使用可能である。
以下で、本発明の実施の形態に係る細胞外マトリックス、成熟心筋細胞製造方法、創薬支援方法、心疾患の治療方法、成熟心筋細胞、及び心筋細胞成熟キットについて、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
〔材料と方法〕
(ノックインES細胞株(レポーター細胞)の樹立)
心筋細胞の成熟度レポーター細胞は、マウスES細胞であるsyNP4細胞に対し、ゲノム編集を行うことで樹立した。Myom2は骨格筋細胞でも発現しているため、sodium−calcium exchanger 1 promoterによって駆動されるピューロマイシン耐性カセットを含んでいるsyNP4株の細胞を用いることで、in vitroで心筋細胞を、確実に純化することが可能となる。また、ゲノム編集はCRISPR/Cas9によりゲノムを切断し、ノックインベクターを目的部位に挿入することで行った。Cas9タンパク及びsingle guide RNAを一つのベクターから発現するpx330のguide RNA cloning位置に、Myom2のストップコドン直上となるguide RNAを設計し、挿入したpx330−Myom2を作成した。ノックインベクターはgRNA標的部位より約1000bpのホモロジーアームを持ち、Myom2遺伝子と同一フレームでTagRFPが挿入されている。また、TagRFPより下流にFRT−Blastcidin耐性遺伝子−FRTというカセットを持つ(Myom2−TagRFP−Blast)。Px330−Myom2、及びMyom2−TagRFP−BlastをSynp4にリポフェクションで導入し、blastcitidin処置を行うことで、ノックイン細胞を得た。ノックイン細胞はクロナール密度から培養することで、単一細胞由来のコロニーを得た。それぞれのコロニーについて、ノックインが正しく行われていることをPCR及びシーケンスで確認し、心筋細胞分化能が維持されていることを合わせて確認した。このようにして得られたMyom2−RFPノックインマウスES細胞を、SMM18と名付けた。さらに、pCAG−Flpe−IRES−puroプラスミドをリポフェクションにより導入し、短期間のpuromycynセレクションを行うことで、FRT−Blast−FRTカセットを喪失した、別のMyom2−RFP株を樹立し、SMM−B2と名付けた。カセットの喪失は薬剤の感受性試験及びPCRにより確認した。本研究では、SMM18又はSMM−B2(以下、これらを単に「Myom2−RFP株」という。)を用いて実験を行った。
(マウスES細胞の培養と分化誘導、ECMでの成熟処理)
Ncxプロモーター下にPuromycin耐性遺伝子を発現するトランスジェニックマウスES細胞(syNP4)を、LIF、CHIR00021、PD0325901、及び血清存在下で未分化維持培養を行い、週3回継代を行った。
分化誘導は、血清の代わりにB27サプリメント(Vitamin A不含),N2サプリメント存在下で浮遊培養にて胚様体を形成させた。分化2日目からはActivin A,BMP4,VEGFを加え、分化を継続した。分化4日目に胚様体をTrypleにより単離し、高密度平面培養(250k cells/cm2程度)をbFGF,FGF10,VEGF存在下で行った。分化7日目頃より拍動する心筋細胞が観察される。Puromycinを加えることにより、心筋細胞へと分化しなかった細胞を死滅させ、純度の高い心筋細胞を得た。また、この手法は以下で記載するノックイン細胞でも同様であった。
分化10日目にはTrypleを用いて細胞を単離し、50k/cm2で播種し直した。播種する際には培養プレートを0.1%ゼラチンでコートしたものを用い、上記分化培地に10%の血清を加えた(分化11日目まで)。ウイルス感染は分化11日目〜12日目にかけて行った。分化12日目〜14日目はPuromycinによる心筋細胞の純化を継続した。アゴニスト等を加えるアゴニスト処理については、分化11日目〜14日目までPuromycin処理を行った後、分化14日目から最大4週間アゴニスト等を添加する処理を行った。
ECMを加えて培養するECMでの成熟処理は、濃度0.125、0.5、1μg/cm2、培養期間は1、2、4週で、それぞれ行った。
(RNAサンプルの調製とRNA−sequence(RNA−seq))
マウスの心臓を胎生11日〜生後10ヶ月から摘出し、心房及び心室に分離、TRIzolを用いて溶解した。また、PSC−CMsは、分化10日目のものを0.1% Gelatin上に播種し、分化14日目からアゴニスト処理を行い、2週後にTRIzolにて溶解した。RNAの抽出は、マウス心臓についてはフェノールクロロホルム抽出、又はDirect−zol RNA kit(ザイモリサーチ社製)、PSC−CMsについてはDirect−zol RNA kitにより抽出した。RNAは、Nanodrop(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)又はQubit Fluorometer(Invitrogen社製)を用いて定量した。また、Bioanalyzerを用いて、RNAが分解されていないことを確認した。それぞれ500ngのRNAを100ng/uLに調製し、QUANT−seq 3’mRNA−Seq Library Prep Kit(Lexogen社製)を用いて、RNA−seq用のライブラリーを作成した。得られたライブラリーサイズはBioanalyzer(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて確認し、その濃度はBioanalyzerの結果ないしQubit Fluorometerを用いて定量した。それぞれのサンプルについて同量ずつになるよう混合し、Next−seq high output 75SE(イルミナ株式会社製)を用いて、超並列シーケンスを行った。なお、心臓サンプルは48サンプルずつ、PSC−CMsは96サンプルずつ混合した。追加で行った心臓サンプルは、生後10日目、30週、10ヶ月のものを、96サンプルずつシーケンスした。
RNA−seqで得られたサンプルごとのFastqファイルは、BBtoolsのBBDukを用いてpoly A配列及びシーケンス末端の配列、アダプター配列、シーケンスクオリティの低い配列などをトリミングした。続いて、STAR RNA−seq alignerを用いて、マウスゲノム(GRC mm10)へとマッピングを行った。最後にSubread packageに含まれるfeature Countsを用いてそれぞれの遺伝子ごとのカウントデータを得た。カウントデータは更に、独自に開発した心筋細胞成熟度評価プログラムと、統計解析用のプログラム「R」とを用いて解析を行った。まず、100万カウント以下のサンプルを除外し、遺伝子ごとのカウントを総カウント数で除した、Transcript per million(TPM)を各サンプル、各遺伝子について算出した。2019年8月末時点で実験済みの全ての実験データ(マウス)を用いて、平均して、1TPM以上ある遺伝子を発現遺伝子と定義し、以下の解析では発現遺伝子のみを用いて解析を行った。
(定量的成熟度評価法(マウス))
マウスの胎仔(E)11〜生後(P)56まで、さらに10ヶ月までの各段階(Stages)の心臓サンプルについてRNA−seqを行った結果のデータについて、主成分分析を行い、成熟度スコア(Maturation Score)を算出する基準(以下、「参照」という。)となる各遺伝子の固有ベクトル(係数)を算出した。この際、TPMに1を加えた数字に、10を底とする対数に変換した上で、主成分分析を行った。成熟度スコアは、各遺伝子発現に第一主成分に対応する係数を掛けたものの総和を用い、一定のオフセット値(32)を加え、係数(1.5)を掛けることで得た。この計算により、成熟度スコアは、概ね0〜100の幅となった。
(定量的成熟度評価法(ヒト))
biomaRt(RからBioMartを利用するパッケージ)を用いて、ヒトとマウスで対応する遺伝子リストを得た。この際、hsapiens_gene_ensemblと、mmusculus_gene_ensemblの2つのデータセットを用いた。同一遺伝子名を持つものに加えて、orthologueとして単一の遺伝子が登録されている遺伝子を、対応リストとして設定した。
ヒト心筋細胞の定量的成熟度評価は、これらの遺伝子のRNA−seqのデータをマウスのデータへと投写することで行った。ヒト胎児心臓RNAサンプル、ヒト成人心臓RNAサンプル、及び、in houseで分化誘導を行ったヒトPSC−CMsを用いて分化誘導後18日目、32日目、46日目のサンプルについてRNA−seqを行い、マウスのデータへ投写した。また、ヒトPSC−CMsについては、成熟を促進するホルモン処理として、Hydrocortisone(HC)と甲状腺ホルモンT3の処理を行ったものも作成した。
具体的には、対応リストに含まれる遺伝子のみを用いて、上述の各サンプルについてのRNA−seqのデータの主成分分析を行い、成熟度スコアを算出する基準となる各遺伝子の固有ベクトル(係数)を算出した。同様に、概ね0〜100の幅となるように、第一主成分得点に対し、オフセット値(30)、係数(1.5)を算出した。
ヒト胎児心臓RNAサンプル、ヒト成人心臓RNAサンプルを用いてRNA−seqを行い、マウスデータへ投写すると、胎児は胎仔相当に、成人は成体相当の成熟度スコアが得られた。また、ヒトPSC−CMs分化誘導後18日目、32日目、46日目のサンプルは、培養期間に伴い成熟度スコアが増加した。
(免疫染色)
心臓の場合、組織を埋め込み、最適切断温度(OCT)コンパウンドで(Tissue−Tek、Sakura製)直接凍結し、Leica Cryostat(4μm)で切断した。切片は、PBSで洗浄してから4%パラホルムアルデヒド(PFA、Wako製)を用いて4°Cで30分間処理し、固定した。その後、PBSで0.1%トリトンX−100(アマーシャム バイオサイエンス社製)を用いて、室温で15分間、切片を洗浄し、透明化した。透明化後、細胞を3%ウシ血清アルブミンでブロックし、続いて抗Myom2ポリクローナル抗体(LS−B9842、1:100、LifeSpan バイオサイエンス社製)、及び抗α−アクチニンモノクローナル抗体(EA−53、1:100、シグマアルドリッチ社製)を4°Cで一晩、反応させた。次いで、0.2%Tween−20(ナカライテスク社製)を含むPBSで洗浄し、二次抗体、抗ウサギIgG(1:500、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、及び抗マウスIgG(1:500、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で染色し、Alexa Fluor Plus 555及び488でそれぞれ重合させた。DAPI(Dojindo Laboratories製)は、核染色に用いた。スライドは、VECTASHIELDアンチフェード取り付け媒体(Vector Laboratories製)に取り付けられまた。
PSC−CMsの場合、CellCarrier 96ウェルブラックポリスチレンマイクロプレート(PerkinElmer社製)で培養したPSC−CMを4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した。次に、細胞をPBSで洗浄し、0.2%Triton X−10を含むPBS中を使用して、室温で15分間透過処理した。透過処理後、細胞をPBS中の2%FBSでブロックした後、抗α−アクチニン抗体(1:500、Sigma−Aldrich社製)又は抗カーディアックトロポニンT抗体(13−11、1:500、Thermo Fisher Scientific社製)、及び抗tRFP抗体(AAB233、1:500、Evrogen社製)で一晩処理した。細胞を洗浄し、二次抗体、抗マウスIgG(1:500、Thermo Fisher Scientific社製)及び抗ウサギIgG(1:500、Thermo Fisher Scientific社製)で染色し、それぞれAlexa Fluor 488及び555と重合させた。核は、DAPI溶液で染色された。共焦点レーザー走査顕微鏡(オリンパス社製、FluoView FV1200)又は倒立蛍光顕微鏡(オリンパス社製、IX83)により免疫蛍光画像を収集した。サルコメアの長さ、細胞の大きさ、真円度、周囲、及び細胞の形状は、ImageJソフトウェアによって分析された。
(カルシウムトランジェントとサルコメア短縮)
細胞内カルシウムトランジェントを測定するために、PSC−CMsを、ガラス底の24ウェルプレート(MatTek Corporation社製)で28日間培養した。次に、細胞をPBSで洗浄し、カルシウム指示薬Calbryte 520−AM(AAT Bioquest社製)を含むタイロード液(140mM NaCl、5.4mM KCl、0.5mM MgCl2、0.33mM NaH2PO4、2 mMCaCl2、5mM HEPES、及び11mM D−グルコース、NaOHでpHを7.4に調整)で30分間、処理された。細胞は、1Hzの電界刺激された(C−Pace、IonOptics社製)。倒立蛍光顕微鏡(オリンパス社製IX83、ORCA−Flash 4.0 V3搭載)により、40倍の対物レンズ、露出10ミリ秒、20ミリ秒の間隔で細胞内カルシウムのトランジェント現象を記録した。ImageJを使用して、細胞内カルシウムトランジェントを定量化した。サルコメア短縮については、生細胞イメージング用のタイムラプス記録で細胞収縮を継続的に記録した。タイムラプス記録は、ImageJに対してSarcOptiMによって分析された。
(ミトコンドリア活性アッセイ)
ミトコンドリア機能をSeahorse XF96 extracellular flux analyzerで解析した。Seahorse XF96マイクロプレートを、0.1%ゼラチン(コントロール)又は各ECMでコーティングした。分化誘導後、10日目に、PSC−CMsを50000細胞/ウェルの密度で、プレート上に播種した。アッセイを開始する前に、38日目まで細胞を培養した。アッセイを実行する1時間前及び測定中に、培養培地をベース培地(1mM ピルビン酸、2mM グルタミン、25mM グルコースを添加したSeahorse XF RPMI培地)に交換した。選択的阻害剤は、最終濃度3μMのオリゴマイシン(ミトコンドリア電子輸送チェーン[METC]の複合体V[ATPアーゼ]のための阻害剤)、0.5μMのCarbonyl cyanide−p−trifluoromethoxyphenylhydrazone(FCCP、ミトコンドリア酸化リン酸化アンカプラー)、3μMロテノン(METCの複合体Iの阻害剤)、及びアンチマイシンA(METCの複合体IIIの阻害剤)が、測定中に、逐次的に注入された。ミトコンドリア呼吸における主要な指標である基礎呼吸(Basal respiration)は、オリゴマイシンを適用する前に、酸素消費量率(Oxygen Consumption Rate、OCR)で表された。ATP産生関連呼吸(ATP−linked respiration)は、オリゴマイシン感受性呼吸数で表された。プロトンリークは、オリゴマイシンとロテノン/アンチマイシンAの割合との差分によって算出された。最大呼吸(Maximal respiration、最大ミトコンドリア呼吸)はFCCPに対応して算出した。
(フローサイトメトリー)
Myom2−RFP株から生成されたPSC−CMsを、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社製)にて10分、37℃で処理して、単一細胞に解離した。PBSで洗浄した後、細胞を、DAPI(1:2000)を含むPBS中の2%FBSで懸濁した。RFP陽性(以下「RFP+」と称する。)、及びRFP強度の割合の測定と細胞選別は、SH800(SONY社製)を使用して実行された。
(統計分析)
データは、少なくとも3つの繰り返しサンプルの平均±標準偏差(SD)として表示された。トランスクリプトームデータ等、それ以下のサンプル数の実験については、すべてのデータ点を示した。スチューデントのt検定、デネット(Dunnett)検定、カイ2乗検定、又は一元配置分散分析は、適切な場所で使用された。統計分析はすべて、統計プログラム「R」を使用して行った。0.05未満のp値(p<0.05)は有意と見なされた。
〔結果〕
Myom2−RFP株を心筋細胞の成熟のスクリーニングに使用できるかどうかをテストするために、PSC−CMsの成熟に対する細胞外マトリックス(ECM)の影響を調べた。心筋細胞の成熟を促進するECMの候補を特定するために、E11からP56までの各ステージの野生型マウス心室のRNA−seqを実行した。
図3は、RNA−seqを行った際の各ECMの発現の階層的クラスタリングの結果を示す。濃度は正規化されたトランスクリプト(TPM)を最も高い発現量で割り、発現量が低いもの又は高いものを濃色とした。
この階層的クラスタリングでは、初期胚、新生児、及び成熟したものの心室の遺伝子発現パターンがグループ化を示した。これらから、代表的なものを選択した。
図4は、発生時の心臓のラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンを含むECMの発現プロファイル(E11〜P56)を示す。フィブロネクチン(Fn1)、及びコラーゲンタイプII(Col2a1)及びタイプIV(Col4a6)は、胎仔の心臓で豊富に発現した。また、コラーゲンタイプI(Col1a1及びCol1a2)及びIII(Col3a1)は、新生児の心臓で高度に発現上昇していた。一方、ラミニン(α2、α5、及びβ2)及びコラーゲンIV型メンバーの1つ(Col4a4)は、成熟したマウスの心臓で発現した。これにより、心筋細胞の発達、成熟時期に合わせたECM発現があるという予測がなされた。
次に、図5により、ECMによる心筋細胞の成熟に対する影響の評価試験について説明する。具体的には、分化誘導10日後に、各ECMとして、さまざまな濃度(0.125〜1μg/cm2の範囲)のラミニンE8断片(アイソフォーム111、121、211、221、311、321、332、411、421、511、及び521)、コラーゲン(I、III、及びIV型)、フィブロネクチン、及びコントロールの0.1%ゼラチン(Gelatin)を、それぞれプレーティングした。その後、RFP+のPSC−CMsのRFP強度を定量的に測定するために、PSC−CMsを7日間(1週間、1w)、14日間(2週間、2w)、及び28日間(4週間、4w)、すなわち分化誘導後、計17日〜38日間、培養した(以下、分化誘導後のPSC−CMsにECMを加えて、所定期間、培養することを「ECM処理」という。後述する「ラミニン511/521処理」も同様である。)。その後、フローサイトメトリーを行った。
図6は、この各ECMの影響の評価の試験の結果を示す。具体的には、各ECM処理として、分化誘導から17日(d17、1w)、24日(d24、2w)、38日(d38、4w)後に、RFP+のPSC−CMsの割合と、RFP強度とを測定した。データは平均値±SD(n=3)、RFPの蛍光強度(RFP強度)は任意単位(a.u.)として示す。
結果として、RFP+のPSC−CMsの割合及びRFP強度の両方が17〜38日まで増加したことが分かった。一部のECMのPSC−CMsでは、RFP強度の増加が用量依存的に観察された。
図7は、上述の図6における、分化の38日目のECMの1μg/cm2の結果をまとめたグラフである。Dunnett検定を使用して、各ECMの分画をコントロール(ゼラチン)と比較した。「*」はP<0.05、「§」はP<0.01、「#」はP<0.001、「†」はP<0.0001を、それぞれ示す。
これらのECMの中で、RFP+のPSC−CMsの割合は同じままであった。すなわち、成熟を惹起する効果はないと考えられた。これに対して、RFP強度は、複数のECMで増加した。特に、ラミニン511 E8断片、及びラミニン522 E8断片(以下、「ラミニン511/521」と省略する。)は、他と比較して、最も高いRFP強度を示した。この結果は、ECM、特にラミニン511/521が、成熟を惹起するのではなく、in vitroで心筋細胞の成熟を促進したことを示唆している。
図8は、ラミニン511が心筋細胞の成熟を促進するかどうかを検証するために、PSC−CMs上のECMの構造と形態を調べた写真である。図8(a)はTagRFP、図8(b)はα−アクチニン抗体、図8(c)は核のDAPIで、それぞれ染色したものを示す。スケールバーは、20μmである。
各ECMで処理すると、特に、細胞サイズ及びサルコメア長が増加していた。
図9は、構造的及び形態学的特徴についての測定結果を統計計算した結果を示す。図9(a)はサルコメア長(μm)、図9(b)は細胞長(μm)、図9(c)は細胞面積(μm2)、図9(d)は細胞幅(μm)について、それぞれ、測定結果をバイオリンプロットにより表現した。このバイオリンプロットにおいて、白いボックスの黒い線は中央値を示し、ボックスの制限は25パーセンタイルと75パーセンタイルを示し、ウィスカーは25パーセンタイルと75パーセンタイルの四分位範囲の1.5倍を示し、多角形はデータの密度推定値を示し、極値まで描画した。
結果として、ECM処理した心筋細胞は、特にラミニン(LN)511/521による処理で、コントロール(ゼラチン)と比較して、サルコメア長、細胞面積、細胞長、及び細胞幅の有意な増加を示した。
また、Dunnett検定を使用して、各ECM治療をコントロール(ゼラチン)と比較した。「*」はP<0.05、「§」はP<0.01、「#」はP<0.001、「†」はP<0.0001であることを示す。すると、ラミニン511/521で培養されたPSC−CMsは、細胞サイズ、細胞長、及び細胞幅の有意な増加を示した。さらに、PSC−CMsのサルコメア長は、コントロールと比較してラミニン−511/521で長かった。
これらの結果は、ラミニン511/521が、心筋細胞の構造的成熟を強く促進することを示した。
次に、ラミニン511/521がPSC−CMの機能的および転写成熟を増強したかどうかの詳細解析として、まず細胞の2核化について調べた。
図10は、ラミニン511/521処理して培養したPSC−CMsにおける単核細胞と2核細胞の割合を、ゼラチンと比較したものである(n>100)。薄色が単核細胞(Mononuclear Cells)、濃色が2角細胞(Binuclear Cells)の割合を示す。「†」は、P<0.0001有意であることを示す。
結果として、ラミニン511/521処理したPSC−CMsは、コントロールのゼラチン(7.77%)よりも、2核細胞の集団が多くなった。具体的には、ラミニン511 E8断片では38.68%、ラミニン521 E8短辺では54.72%であった。
次に、心筋細胞成熟を反映したギャップ接合タンパク質であるコネキシン−43(Cx43)の局在化により、ラミニン511/521処理で、ギャップジャンクションが形成されるかどうか調べた。
ここで、胚性心筋細胞では、Cx43は細胞質中で拡散発現される。その後、新生児から若年期には、心筋細胞の側面に局在する。心筋細胞が完全に成熟すると、Cx43は主に心筋細胞のインターカレーションディスクに局在化する。このような形態変化が見られるかどうか観察した。
図11は、分化後38日目に、Cx43用に染色されたPSC−CMsの代表的な写真を示す。スケールバーは、20μmである。
コントロールのゼラチン上のPSC−CMsは、Cx43を弱く発現した。これに対して、ラミニン511/521処理したPSC−CMsは、細胞の側面にCx43を強く発現した。すなわち、ラミニン511/521処理での培養により、ギャップジャンクション(Cx43)が形成されていた。
これらの結果は、ラミニン511/521処理により、PSC−CMsがより成熟し、少なくとも、新生児又は若年期の段階に達したことを示唆した。
次に、酸素消費量率(OCR)を用いたPSC−CMsのミトコンドリア活性について測定した。心筋細胞は、出生後、エネルギー産生のために糖質を脂肪酸酸化させるためである。
図12は、ラミニン511/521処理したPSC−CMs及びゼラチンについて、オリゴマイシン、FCCP、及び、ロテノン/アンチマイシンAに対応する代表的なトレースを示す。
図13(a)は基礎呼吸、図13(b)はATP産生関連呼吸、図13(c)はプロトンリーク、図14(d)は最大呼吸についてのOCRの統計分析結果を示す。データは平均値±SD(n=3)として示される。ラミニン上のPSC−CMsとゼラチン上のPSC−CMsを対照として比較するために、Dunnett検定を行った。「*」はP<0.05、「§」はP<0.01、「#」はP<0.001、「†」はP<0.0001であることを示す。
結果として、ラミニン511/521処理したPSC−CMsは、基礎呼吸及び最大呼吸レベルがより高く、コントロールのゼラチン上のPSC−CMsよりも高いミトコンドリア活性を示唆した。
次に、生理学的変化をさらに調べるために、ラミニン511/521処理したPSC−CMsのカルシウムトランジェントについて調べた。
図14は、38日目に1Hzで刺激されたカルシウムトランジェントの代表的なトレースを示す。ラミニン−511/521で培養したPSC−CMsと、ゼラチンのコントロールとを比較した。
図15(a)は、カルシウムトランジェントのピークまでの時間の平均値、図15(b)はピーク振幅、図15(c)は減衰時間(n>80)を示す。Dunnett検定にて、「*」はP<0.05、「†」はP<0.0001であることを示す。
結果として、ラミニン521処理したPSC−CMsは、ピークまでの時間が大幅に短縮され、減衰までの時間も有意に減少し、ピーク振幅も高かった。
次に、ラミニン511/521処理したPSC−CMsのサルコメア短縮についても調べた。
図16(a)は、電気パルス(1Hz)刺激中のサルコメア長の代表的なトレースを示す。図16(b)は、サルコメア短縮の平均データを示す。データは平均±SD(n>40)として示される。Dunnett検定にて、「*」はP<0.05、「§」はP<0.01であることを示す。
結果として、ラミニン511/521処理を行うと、サルコメア短縮の割合を有意に増加させることが分かった。
これらの結果は、ラミニン511/521処理にて、PSC−CMの生理特性を改善することを示した。
次に、ラミニン511/521処理したPSC−CMsのトランスクリプトーム解析を行った。
図17は、トランスクトリーム解析として、生物学的プロセスに対して選択された8つのGOタームの遺伝子の合計発現を示す。観察された形態学的又は生理学的変化と比較して、特定のGOタームの発現は、大まかには変化しなかった。
図18は、トランスクトリームの詳細な分析を行った結果を示す。上述の合計発現と異なり、ゼラチンと比較すると、心筋細胞の発達に関連する既知の遺伝子は、ラミニン511/521処理されたPSC−CMsでアップレギュレートされた。たとえば、心臓マーカー遺伝子(Tnnt2及びActc1)、心臓遺伝子発現に関する転写因子の遺伝子(Ankrd23)、カルシウム関連遺伝子(Casq2)、及びサルコメア遺伝子(Mybpc2、Mybpc3、Myh7、及びMyl2)等である。
これらの結果によれば、サルコメア遺伝子と成熟関連遺伝子とは、ラミニン511/521処理されたPSC−CMsでアップレギュレートされる傾向があり、ECMの効果は、転写量の変化ではなく、翻訳量の変化であることが示唆された。
次に、ラミニン511/521処理したPSC−CMsについて、どの程度成熟しているのかを定量的に測定するため、トランスクリプトームに基づく心筋細胞成熟度評価を行った。
図19は、成熟度スコアを解析した結果を示すグラフである。Myom2−RFP株を分化誘導後10日後から2週間(2w)及び4週間(4w)、ラミニン511/521処理したPSC−CMsと、ゼラチンのみのコントロールのPSC−CMsとをフローサイトメトリーでセルソーティングして取得した後、成熟度スコアを測定した。
結果として、ラミニン511/521処理したPSC−CMsは、2wであっても、ゼラチンで4w培養したものよりも成熟していた。
以上をまとめると、Myom2−RFP株を分化したRFP+のPSC−CMsは、ラミニン511/521処理により、サルコメア短縮が観察され、RFP−のPSC−CMsよりも形態的、構造的、機能的に成熟していた。よって、ラミニン511/521処理したPSC−CMsを取得することで、成熟心筋細胞を取得可能となる。
なお、上述の結果では示していないものの、予備的な実験において、ヒトのPSC−CMsについても、ラミニン511/521処理を行って、成熟度スコアを評価している。これにより、実際に、ゼラチン等のコントロールと比べて、成熟度が増加していることを確認している。
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明によれば、成熟心筋細胞製造方法により実際に成熟した心筋細胞を提供し、これを移植医療や創薬支援等に用いることができ、産業上利用可能である。

Claims (7)

  1. 未成熟の心筋細胞を成熟させるための細胞外マトリックスであって、
    ラミニン断片を含む
    ことを特徴とする細胞外マトリックス。
  2. 前記ラミニン断片は、ラミニン511 E8断片及び/又はラミニン521 E8断片である
    ことを特徴とする請求項1に記載の細胞外マトリックス。
  3. 未成熟の心筋細胞を、請求項1又は2に記載の細胞外マトリックスを含む培地で培養し、
    成熟した心筋細胞を取得する
    ことを特徴とする成熟心筋細胞製造方法。
  4. 請求項3に記載の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞を培養し、
    培養された前記心筋細胞に対して、創薬のための毒性及び/又は疾患に関する薬物を投与し、
    前記心筋細胞の状態を評価する
    ことを特徴とする創薬支援方法。
  5. 請求項3に記載の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞を培養し、
    培養された前記成熟心筋細胞を移植する
    ことを特徴とする心疾患の治療方法。
  6. 請求項3に記載の成熟心筋細胞製造方法により製造された成熟心筋細胞であって、
    心筋細胞の成熟に伴い発現が増加する成熟心筋細胞マーカーを指標として、前記未成熟の心筋細胞から、前記成熟した心筋細胞を取得する
    ことを特徴とする成熟心筋細胞。
  7. 未成熟の心筋細胞を成熟させるための細胞外マトリックスを含み、
    前記細胞外マトリックスは、ラミニン断片を含む
    ことを特徴とする心筋細胞成熟キット。
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