JP2021097603A - 短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法 - Google Patents

短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法 Download PDF

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正浩 瀧ノ上
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佑介 佐藤
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【課題】マイクロメートルサイズで生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法を提供する。【解決手段】2種以上の配列の異なる核酸を含み、前記核酸は、粘着末端部位と、ステム部位と、をそれぞれ備え、前記核酸のうち1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記核酸のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす、短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法である。0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)【選択図】図1

Description

本発明は、分子構造を選択的に制御可能な短鎖核酸と、それを用いた短鎖核酸が凝集してなる液滴、及びそれを用いた生体分子の制御方法、すなわち分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング等の方法に関する。
核酸分子はその塩基配列によって、遺伝情報を伝達する他、様々な物理的及び化学的性質を持つ。核酸分子のそれらの性質を利用して、機能的な素材の役割を果たす分子として用いる技術が開発されている。例えば、核酸分子のナノテクノロジーを利用したナノメートルサイズの分子ロボットの構築が行われ、新規のバイオナノデバイスやマイクロマシンへの応用が期待されている。
例えば、特許文献1の技術は、RNA−タンパク質結合体を用いて、RNA構造と機能を制御することができるRNAナノマシンを提供しようとするものである。
再公表WO2017/10568号公報
従来の核酸分子のナノテクノロジーの技術は、核酸分子の熱統計力学に基づく塩基配列設計を基軸とし、いわゆるナノメートルサイズの機能設計に用いることができる。しかし、一方でいわゆるマイクロメートルサイズのシステムを設計するには、核酸分子の大きさの面から限界がある。例えば、より大きなサイズのシステムに用いることのできる核酸分子を考えた場合、数千塩基やそれ以上といった大きさの長鎖の核酸分子を設計し合成する必要があり、設計も容易ではなく、合成にも多大なコストを要する。
一方、合成が容易な短鎖の核酸分子の応用については、短い核酸分子と水などの溶媒とによってゲル状に形成することで、より大きな素材とすることもできるが、従来は短鎖の核酸分子に高い機能性を持たせることは難しい。
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、マイクロメートルサイズで生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] 2種以上の配列の異なる核酸を含み、
前記核酸は、粘着末端部位と、ステム部位と、をそれぞれ備え、
前記核酸のうち1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記核酸のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、
前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす、短鎖核酸。
0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
[2] 前記粘着末端部位が、相互に粘着可能な配列を有する、前記短鎖核酸。
[3] 前記核酸が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記核酸が3以上結合した結合単位を備える、前記いずれかに記載の短鎖核酸。
[4] 前記結合単位を2種以上備え、前記結合単位のうち1種及び他の1種は、前記結合単位のうち1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位が、前記結合単位のうち他の1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位とは粘着できない配列を有する、前記いずれかに記載の短鎖核酸。
[5] 前記ステム部位が前記粘着末端部位よりも長い、前記いずれかに記載の短鎖核酸。
[6] 前記いずれかに記載の短鎖核酸と、溶媒とを含んでなる、短鎖核酸が凝集してなる液滴。
[7] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む、分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[8] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の温度を変化させることにより行う、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[9] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に酵素又は核酸分子を添加することにより行う、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[10] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記核酸を切断し、又は前記核酸の2本鎖結合を解離する、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[11] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に分子又は粒子を包含させ、前記物質の捕集、輸送又は配置を行う、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[12] 前記分子又は粒子は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾したものを用いる、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[13] 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、核酸分子を用いる、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[14] 前記分子又は粒子は、タンパク質分子、核酸分子、又はこれらを含む粒子である、前記いずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
本発明によれば、マイクロメートルサイズで生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法が得られる。
第1の実施形態の短鎖核酸の配列、及び結合単位(Yモチーフ)を示す模式図である。 第1の実施形態の分散相、液滴相、ゲル相を示す模式図である。 第1の実施形態の分子又は粒子を備えた液滴を示す模式図である。 第2の実施形態の液滴を示す模式図である。 試験例1の各相の形成を示す顕微鏡写真図である。 試験例1の液滴相の連続写真である。 試験例1のゲル相の連続写真である。 図6の液滴相の別の連続写真である。 図7のゲル相の別の連続写真である。 試験例2の液滴相のFRAPの連続写真である。 試験例2の液滴相のFRAPの結果を示すグラフ図である。 試験例2のゲル相のFRAPの連続写真である。 試験例2のゲル相のFRAPの結果を示すグラフ図である。 Yモチーフにおける粘着末端配列と温度に基づいた相図である。 図14の相図の作成に使用した粘着末端配列を示す図である。 モチーフ内の分岐数に対する相変化温度のグラフ図である。 試験例3で用いたYモチーフ、直交Yモチーフの模式図及び配列を示す図である。 試験例3のYモチーフ及び直交Yモチーフの液滴を示す写真図である。 試験例4で用いたSモチーフと、そのYモチーフ及び直交Yモチーフとの結合、Sモチーフの配列を示す模式図である。 試験例4のSモチーフを含む液滴を示す模式図である。 試験例4の各発色を示す写真図である。 試験例4のmerge発色の時間変化を示す連続写真である。 試験例5で用いるストレプトアビジンへのビオチン標識短鎖DNAの修飾の模式図である。 試験例5の液滴を示す模式図である。 試験例5のYモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す図である。 試験例5の直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す図である。 Yモチーフと直交Yモチーフが左右それぞれに分布した非対称DNA液滴で、Yモチーフ側にタンパク質が配置された液滴を示す図である。 Yモチーフと直交Yモチーフが左右それぞれに分布した非対称DNA液滴で、直交Yモチーフ側にタンパク質が配置された液滴を示す図である。 試験例5の他のYモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す図である。 試験例5の他の直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の規格化強度プロファイルを示す図である。 RNaseAを作用させたYモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の規格化強度プロファイルを示す図である。 RNaseAを作用させた直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真と蛍光写真の規格化強度プロファイルを示す図である。
以下、本発明に係る短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(第1の実施形態)
(短鎖核酸)
本実施形態の短鎖核酸は、2種以上の配列の異なる核酸を含み、核酸の溶解温度(融解温度)が後述する特定の条件を満たしてなる。
核酸は、DNA及びRNAであってもよく、塩基配列ごとにそれらを適宜組み合わせていてもよい。例えば、後述するステム部位は特にDNAで構成されていることで、RNAよりも安定性が高くなる。
2種以上の配列の異なる核酸を含むとは、具体的には、本実施形態では、核酸のうち1種は、配列の少なくとも一部が、核酸のうち他の1種の配列の少なくとも一部と相補的な配列を有することが好ましい。
さらに、核酸は、粘着末端部位とステム部位とをそれぞれ備え、核酸のうち1種は、ステム部位の少なくとも一部が、核酸のうち他の1種のステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有することも好ましい。ステム部位(Stem、後述する分岐の幹となる部分)は、核酸同士がいわゆる核酸2重結合し、後述する結合単位を形成するための配列である。粘着末端部位(Sticky End)は、結合単位が相互に粘着するための配列である。2種以上の核酸からなる結合単位がさらに結合することで、核酸の鎖と空間からなる、いわゆる網目状の構造が形成される。この網目状の構造が後述する溶媒の中で形成されると、空間に水分子が入り込み、後述する短鎖核酸が凝集してなる液滴や、ハイドロゲルの構造をとり得る。
ステム部位は、前記粘着末端部位よりも長いことが好ましい。ステム部位が粘着末端部位よりも充分に長いことで、安定して後述する結合単位を形成することができる。また、ステム部位は8塩基以上であることが好ましい。ステム部位の長さが8塩基を下回ると、後述する結合単位を形成するのに充分でない。具体的には、結合の強さ、配列の認識、及び後述する液滴やハイドロゲルの形成に不十分となる場合がある。一方、ステム部位の長さには上限はないが、長いほど合成にコストを要する。目安として、30〜40塩基であれば結合や配列の認識が充分に行え、ある程度低コストで製造することができる。
粘着末端部位は、相互に粘着可能な配列を有する。ここで粘着とは、核酸二重結合や、その他の化学結合でもよく、他の相互作用による結合でもよい。本実施形態では、核酸の粘着末端部位同士の少なくとも一部が核酸二重結合することを特に指す。相互に結合可能な配列とは、少なくとも一部が相補的な配列で核酸二重結合が形成可能なものであってもよいし、その他に物理的、化学的に結合可能なものであってもよい。
本実施形態では、前記核酸が結合した結合単位を備えていることも好ましい。結合単位は、核酸が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記核酸が3以上結合していることも好ましい。
ここで、核酸が3以上結合している状態のうち、3結合している状態について、図1に例示して説明する。本実施形態の短鎖核酸は、図1(a)に示すように、核酸Y1、Y2及びY3を含んでいる。核酸Y1の一部(ステム部位の5’側)と核酸Y2の一部(ステム部位の3’側)、核酸Y2の一部(ステム部位の5’側)と核酸Y3の一部(ステム部位の3’側)、核酸Y3の一部(ステム部位の5’側)と核酸Y1の一部(ステム部位の3’側)は、それぞれ相補的な配列となっている(図1(b))。
核酸Y1、Y2及びY3の相補的な配列が互いに結合し、それぞれの配列が核酸2本鎖の構造をとることで、核酸Y1、Y2及びY3が図1(c)に示すような核酸が3結合した結合単位(Yモチーフ、3分岐構造)を形成する。
核酸Y1、Y2及びY3は、5’側にいずれも同じ配列の粘着末端部位を有する。粘着末端部位は8塩基からなり、5’側からの4塩基と3’側からの4塩基とが互いに相補的な配列となっているので、この配列の一部又は全部が相互に粘着しやすい。
なお、本実施形態の短鎖核酸は、核酸が3以外にもそれ以上結合した結合単位を備えていてもよい。例えば、短鎖核酸が4、5、6(4分岐、5分岐、6分岐構造)結合していてもよい。また、核酸が結合した数が相互に異なる結合単位のものを混合して用いてもよい。
本実施形態の短鎖核酸は、粘着末端部位及びステム部位が、以下の条件を満たすような配列を備えてなる。粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)、ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす必要がある。
0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
ここで、粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)、ステム部位の溶解温度Tm(stem)とは、以下のように計算することができる。
Figure 2021097603
ΔH(sticky end): 1 M の陽イオン濃度の場合のsticky endの会合のエンタルピー変化(単位: kcal/mol)
ΔS(sticky end): 1 M の陽イオン濃度の場合のsticky endの会合のエントロピー変化(単位: kcal/(mol・K))
N(sticky end): (sticky endの塩基数)-1
ΔH(stem): 1 M の陽イオン濃度の場合のstemの会合のエンタルピー変化(単位: kcal/mol)
ΔS(stem): 1 M の陽イオン濃度の場合のstemの会合のエントロピー変化(単位: kcal/(mol・K))
N(stem): (stemの塩基数)-1
C: トータルのDNA 濃度(単位: M)
R: 気体定数=1.987×10-3 kcal/(mol・K)
In, [Ion]は水溶液中の陽イオンの実効濃度(単位: M)で、次の式で計算できる。
Figure 2021097603
ΔHとΔSはNearest-neighbor法で計算できる。Nearest-neighbor法は、例えばJohn SantaLucia Jr., “A unified view of polymer, dumbbell, and oligonucleotide DNA nearest-neighbor thermodynamics”, Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol. 95, pp1460-1465 (1989)などを参照できる。
本実施形態の短鎖核酸は、上述の(1)の式を満たす配列から任意に選択できる。上述の(1)の式を満たすことで、粘着末端部位の溶解温度がステム部位の溶解温度より低い。そのため、水の沸点(100℃)未満、さらにステム部位の溶解温度未満において、温度を調節することで、ステム部位が結合したまま(後述する結合単位を保ったまま)、粘着末端部位が相互に完全に解離した状態から、一部結合又はほぼすべて結合した状態まで調節することができる。このため、後述するように短鎖核酸の結合単位を含む溶液を分散相、液滴相及びゲル相へと、状態を制御することができる。
(短鎖核酸が凝集してなる液滴)
ついで、短鎖核酸が凝集してなる液滴について説明する。本実施形態の短鎖核酸が凝集してなる液滴は、短鎖核酸と、溶媒とを含んでなる。短鎖核酸が凝集してなるとは、短鎖核酸が相互に結合している状態の他、分子間力などで集まっている場合なども含む。
溶媒は水であることが好ましい。本実施形態の液滴は、短鎖核酸が水に溶解した状態から各種の相に移行することによって形成される。溶媒は水が主であれば(例えば90質量%以上)他の成分を含んでいてもよい。例えば核酸の溶解度を上下させるpH調整剤を含んでいてもよい。
本実施形態の液滴の形成について、図2に示して説明する。短鎖核酸と溶媒とを含む溶液、本実施形態では短鎖核酸を水に溶解した水溶液は、図の左側(Dispersed Phase)に示す分散相では、液状臨界温度を超え、核酸のTm(Stem)以下の温度では、短鎖核酸の結合単位は、それぞれ結合単位ほぼ1つごとに分離し、溶液中に均一に分散した分散状態となっている。そのため、結合単位の水溶液という液体1相のみの状態となっている。なお、液状臨界温度は、核酸のTm (Sticky End)より高く,核酸のTm(Stem)より低いという関係を持つ。
一方、液状臨界温度以下、ゲル臨界温度以上の温度では、短鎖核酸の結合単位のうち一部が相互に結合している。この温度の図の中(Droplet Phase)に示す液滴相では、複数の結合単位が粘着末端部位において結合、又は会合している。この状態の核酸分子の隙間に水分子が含まれた分子集合体が、短鎖核酸が凝集してなる液滴(Droplet)となっている。溶液としては、核酸分子の濃度が希薄な主に溶液の相と、流動性を持ったマイクロ構造(液滴)に自己集合した相とに相分離した2つの相を持つ。なお、ゲル臨界温度は、液状臨界温度および核酸のTm(Stem)より低いという関係を持つ。
個々の液滴の内部に関しては、短鎖核酸の結合単位が互いに結合して目の大きい網目状となり、その網目内を水分子が満たしている。
なお、本実施形態の液滴の大きさは主にマイクロメートルサイズをとり得る。マイクロメートルサイズとは、0。1〜10000μm程度の範囲であり、主には、μmの単位で表される範囲、すなわち1〜1000μmである。特に、後述する粒子又は分子の制御に適しているものとしては、数十μmまで(1〜100μm程度)のものである。
短鎖核酸が凝集してなる液滴は、さらに温度を下げると液滴同士が凝集し、またさらに多くの短鎖核酸の結合単位が相互に結合して、大きな液滴を含むようになる。しかし、0℃〜100℃の温度では、液滴およびゲル粒子は溶液内を自由に移動可能であり、水溶液は全体として流動状態を保っている。
ついで、ゲル臨界温度未満の温度では、液滴相よりもさらにより多くの短鎖核酸が結合している。この温度の、図の右側(Gel Phase)に示すゲル相では、多くの短鎖核酸が結合し、さらに大きな液滴を形成している。液滴は溶液内を移動できないものが多く、全体として流動しないゲル状態となっている。特にこの核酸と水からなるゲルを本実施形態ではハイドロゲルとも呼ぶ。溶液としては、核酸分子の濃度が希薄な主に溶液の相と、流動性をほとんど有さないマイクロ構造(ハイドロゲル)とに自己集合した相に相分離した2つの相を持つ。
このように、本実施形態の短鎖核酸と溶媒とからなる溶液は、温度の変化により、溶液状態の分散相と、流動可能な液状ながらある程度の大きさの液滴を含む液滴相と、流動しないゲル相との間を移行することができる。
(分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法)
ついで、本実施形態の短鎖核酸及び液滴を用いた、分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法について説明する。この方法は、本実施形態の短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む。
短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記液滴の温度を変化させることにより行うことができる。図2のように、液滴の温度を変化させることで、液滴は前記結合単位の結合する構造が変化し、分散相、液滴相及びゲル相に変化する。本実施形態の短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴は、温度変化によってこれらの変化を相互に可逆的に、また繰り返し行うことができる。また、液滴の大きさは、マイクロメートルサイズの範囲内で温度により制御できる。このため、本実施形態の短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴は、マイクロメートルサイズで構造が制御可能な機能的な材料として用いることができる。
短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記核酸を切断することによっても行うことができる。核酸を切断することで、前記結合単位が分解し、又は結合単位同士の結合が分解するので、液滴を分解し、又は小さくすることができる。核酸を切断する手段としては、後述する酵素を添加することによって行うことができる。
また、短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記核酸の2本鎖結合を解離することによっても行うことができる。核酸の2本鎖結合を解離することによって、前記結合単位が分解し、又は結合単位同士の結合が分解するので、液滴を分解し、又は小さくすることができる。核酸の2本鎖結合を解離する工程は、前述の温度変化やその他の核酸の会合条件の変化、後述の酵素の添加、その他の核酸などの他の化合物の添加などによって行うことができる。
短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、液滴に酵素を添加することによっても行うことができる。ここで酵素とは、タンパク質酵素やRNA酵素(リボザイム)を含む。例えば、核酸配列との相互作用を触媒する酵素、特に、特定の核酸配列を切断する制限酵素を用いることができる。制限酵素によって、前記核酸を切断し、前述したように液滴を制御することができる。
例えば、短鎖核酸の一部の構造をRNAとしておけば、RNAse酵素によりRNAを切断することができるので、短鎖核酸を切断し、液滴を分散させることができる。すなわち、短鎖核酸に含まれるRNAの位置や量、RNAse酵素の活性にかかわる添加条件などにより、液滴の構造を制御することができる。
短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、液滴に核酸分子を添加することによっても行うことができる。ここで核酸分子は、上述の酵素以外の配列を含む。例えば、短鎖核酸の配列との競合又は置換によって、結合単位内の核酸の結合を阻害若しくは分離させ、又は、結合単位同士の相互の結合を阻害若しくは分離させることのできる核酸分子を用いることができる。このような分子には、例えばステム部位の結合を阻害若しくは分離させる配列、粘着末端部位の結合を阻害若しくは分離させる配列の核酸を用いることができる。
(分子又は粒子の包含)
本実施形態では、短鎖核酸が凝集してなる液滴に分子又は粒子を包含させ、さらに前記液滴の制御を行うことで、前記分子又は粒子の捕集、輸送、配置又はセンシングを行うことができる。
ここで分子は一分子のもの、粒子は分子の集合体で、大きさは下限はなく、上限は後述のマイクロメートルサイズまでのものを主に指す。
ここで分子又は粒子は、液滴に包含され得るものであれば、いかなる性質のものであってもよい。本実施形態の液滴はいわゆるマイクロメートルサイズであるため、分子又は粒子もマイクロメートルサイズであれば、有機物又は無機物等適宜選択できる。有機物としては例えばタンパク質、核酸、脂質や糖質などの生体分子、無機物としては例えば金属などの無機物の名の粒子がある。また、液滴よりも径の大きな分子又は粒子でも、液滴と相互に干渉、例えば複数の液滴により輸送され得るものであれば制御することが可能である。
分子又は粒子は、タンパク質分子、核酸分子、又はこれらを含む粒子であることも好ましい。
前記分子又は粒子は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾されていることも好ましい。液滴に親和性があるとは、液滴が含む溶媒又は核酸分子に親和性がある、すなわち結合若しくは会合しやすい等を指すが、核酸分子に対して親和性がある分子が設計しやすいので好ましい。
分子又は粒子を、前記液滴に親和性のある化合物によって修飾することで、分子又は粒子を液滴に包含されやすくする。また、親和性を高くするだけでなく、高低を調節することで、液滴の制御による分子又は粒子の制御をさらに細かく行うこともできる。例えば、後述するように特定の核酸分子に対して親和性を高く、別の核酸分子に対して親和性を低くすることで、特定の核酸分子を含む液滴と共に分子又は粒子を制御することができる。
短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、核酸であることも好ましい。前記化合物が核酸である場合、その配列の設計によって液滴に含まれる核酸分子に対する親和性を調節することができる。
また、前記化合物が核酸である場合は、粘着末端部位と粘着が可能な構造であることも好ましい。例えば、粘着末端部位と同じ配列の核酸であれば、短鎖核酸の粘着末端部位と粘着可能なので、結合体と粘着しやすく、前記親和性が高い。
分子又は粒子を液滴に親和性のある化合物によって修飾する手段は、従来知られた方法を用いることができる。例えば、分子又は粒子がタンパク質分子、タンパク質分子からなる粒子で、修飾する化合物が核酸である場合、タンパク質又はアミノ酸に核酸を修飾する従来の手段を用いることができる。
本実施形態では、図3に示すように、分子又は粒子21に対して、液滴10に親和性のある化合物22を修飾した修飾体20を準備し、液滴10に添加することで、包含対象20が液滴10に包含された包含体30となる。
この包含体30に対して、上述した短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を用いることで、分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング等を行うことができる。例えば、液滴に分子又は粒子を包含させることにより、分子又は粒子の集積を行うことができる。
また、液滴は前記手段で構造を制御し、流動可能な状態と流動できないゲル状態とを切り替えることができるので、包含体の輸送や配置を行うことができる。さらに、前記手段で構造を制御し、液滴から分散状態に切り替えることもできるため、包含体に含まれる液滴を分散状態とすれば、包含対象が有する分子又は粒子は放出される。そのため、分子や粒子を任意の位置やタイミングで輸送又は配置を行うことができる。
さらに、分子、粒子又はそれを修飾した修飾体と、短鎖核酸の親和性を特定に調整することで、分子又は粒子を判別することができる。例えば、修飾体のうち、短鎖核酸に対して親和性の高いものだけが液滴に包含され、親和性が低いものは液滴に包含されないので、修飾体の親和性によって分子又は粒子を判別することができ、センシングに用いることができる。
(本実施形態の効果)
短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法によれば、上記液滴のようにマイクロメートルサイズや、ゲルのようにそれ以上のサイズについて、構造を温度変化や化合物の添加などの容易な手段によって制御可能な、機能性の高い材料が得られる。これを利用して、高度に生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができる。用いる化合物が短鎖の核酸であるため、設計が容易で、かつ合成のコストが安価である。分子及び粒子としてタンパク質や核酸などの生体分子が好適に制御できるため、医療分野における生体分子の制御、捕集、輸送、配置、例えばドラッグデリバリーシステム等への応用に適している。高度に分子や粒子を選択的に制御できるため、センシングや分別にも適している。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係る短鎖核酸について説明する。なお、第1の実施形態に係る短鎖核酸と同じ構成については説明を省略する。
本実施形態の短鎖核酸は、前記結合単位を2種以上備えている。ここで2種以上とは、具体的には異なる配列の短鎖核酸からそれぞれ形成された結合単位である。前記結合単位のうち1種及び他の1種は、前記結合単位のうち1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位が、前記結合単位のうち他の1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位とは結合できない配列を有する。粘着できない配列とは、例えば、互いに相補的な連続した配列をほとんど有さない等、核酸二重結合の形成や、その他の結合、会合等が難しい配列である。
ここで、第1の結合単位と第2の結合単位を備えた例について説明する。第1の結合単位に含まれる核酸の前記粘着末端部位は、第2の結合単位に含まれる核酸の粘着末端部位とは粘着できない配列を有している。同様に、第2の結合単位に含まれる核酸の前記粘着末端部位は、第1の結合単位に含まれる核酸の粘着末端部位とは粘着できない配列を有している。
図4(a)に示すように、本実施形態の短鎖核酸が上述の液滴相を取った場合、第1の結合単位は第1の液滴10Aを形成し、第2の結合単位は第2の液滴10Bを形成する。上述のように液滴を制御する方法によって、液滴は分散や融合等による大きさの制御を行うことができる。しかし、第1の液滴10Aと第2の液滴10Bは、核酸に含まれる粘着末端部位が互いに粘着できない配列であるため、核酸同士が粘着することがなく、したがって、第1の液滴10Aと第2の液滴10Bは融合することがなく、同じ溶液中でもそれぞれ分離して存在している。
また、この応用として、第1と第2の結合単位が結合した結合単位を用いることもできる。第1と第2の結合単位を結合させる手段としては、例えば特定の相補的な配列を介して結合させた場合や、別の化合物(例えば短鎖核酸がDNAであれば、結合部位はRNAなど)、第1と第2の結合単位を構成する短鎖核酸の粘着末端部位に粘着し得る配列を備えた核酸、例えば第3の結合単位などが考えられる。
第1と第2の結合単位が結合した結合単位が形成する液滴は、図4(b)に示すように液滴10Cを形成している。ここで、第1と第2の結合単位の結合を切断することで、液滴10Cを液滴10Aと10Bとに分離し、又は図4(c)に示すように液滴内で第1と第2の結合単位が液滴内(図における左右)で相分離した液滴を形成することができる。結合を切断する手段としては、前記特定の配列や前記第3の結合単位の配列を分解する制限酵素、結合部位がRNAであればRNaseなどの酵素を用いることができる。このように、液滴の融合と分離を任意に制御することができる。
また、図4(d)に示すように、第1の実施形態と同様にして、包含対象20Bが液滴10Cに包含された包含体30Cを形成することができる。このとき、包含対象20Bは、第2の結合単位に対してのみ親和性を有する化合物で修飾されている。ここで、第1と第2の結合単位の結合を切断することで液滴30Cを液滴内で第1と第2の結合単位が相分離させる。このとき、包含対象20Bは液滴内の第2の結合単位の含まれる側(図の右側)のみに移動することとなる。このように、液滴内で包含対象となる分子又は粒子の配置を制御することができ、生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に有益に用いることができる。
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
(試験例1)
短鎖核酸として8塩基の粘着末端部位の配列を持つY字型(3分岐)DNAナノ構造(Yモチーフ)を、5μMの濃度で緩衝液(20 mM Tris-HCl、350 mM NaCl、pH 8.0)とともに試験管内に加えた。なお、このYモチーフを形成する短鎖核酸のTm(sticky end)とTm(stem)とは、
0°C < 9.3 °C (Tm(sticky end)) < 66°C (Tm(stem)) < 100 °C
の関係になっていた。
この試験管を85 °Cで3分間加熱し、85 °Cから-1 °C/minの冷却速度で25 °Cまで冷却した。冷却後、試験管から溶液を取り出し、牛血清アルブミンで被覆されたガラスで作製した観察容器に加えステージヒーター上に置き、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。なお、DNAは緑蛍光核酸染色試薬であるSYBR Goldを用いて標識した。
70、 62、 25 °Cの3つ温度間を ±20 °C/minの条件で温度を変化させ、各温度における溶液を撮影した。
図5では、染色されたDNAが緑蛍光で示されている。スケールバーは70℃では100μm、他の温度では10μmである。なお、以下の図でも特記しない限り、スケールバーは10μmである。図5に示すように、70 °Cでは緑蛍光は溶液全体に薄く散っており、溶液にDNAが分散し、分散相をとっていることが認められる。62°CではDNAの染色が円状の液滴が分散し、液滴相をとっていることが認められる。25°Cではこの液滴が相互に付着し、流動性が減っていると思われ、ゲル相をとっていることが認められる。また、図における右側にさらに温度を上げていくと、ゲル相から液滴相、再び分散相となることが示されている。この結果から、温度により各相に、また可逆的に制御することができることが示された。
図6に、図5と同じ条件で62°Cの状態(液滴相)の共焦点レーザー顕微鏡で撮影した連続画像を示す。図7に、図5と同じ条件で25°Cの状態(ゲル相)の共焦点レーザー顕微鏡で撮影した連続画像を示す。図8は図6と同じ条件、図9は図7と同じ条件を、縦軸を距離、横軸を時間となるよう処理したものである。
(試験例2)
試験例1と同様の短鎖核酸を設計し、緑色蛍光分子(6-FAM)が標識されたDNAをYモチーフに組み込んだ。DNA液滴/ハイドロゲルに対し蛍光光褪色後回復実験(Fluorescence After Photo Bleaching: FRAP)を行い、それぞれの内部におけるYモチーフの流動性を評価した。図中の白線で囲まれた枠内にレーザー光を照射し、蛍光分子を褪色させた。その後、褪色領域の蛍光強度の時間変化を、顕微鏡による連続撮影により測定した。
図10は、Yモチーフが液滴状に自己集合する温度(60 °C)におけるFRAPの様子を撮影した連続画像で、図12はFRAPの結果を示す。蛍光強度の回復が観察され、DNA液滴内のYモチーフが流動性を持つことが示されている。
図11は、Yモチーフがゲル状に自己集合する温度(30 °C)におけるFRAPの様子を撮影した連続画像で、図13はFRAPの結果を示す。蛍光強度はほとんど回復せず、Yモチーフが網目状に自己集合している(ほとんど移動しない)ことが示されている。
図14は、Yモチーフにおける粘着末端配列と温度に基づいた相図である。顕微鏡における視野が一様な蛍光を示す(DNAが溶液中を均一に分散している)場合を「分散相(dispersed phase)」と定義した。分散相から温度を-1 °C/minで冷却していき、液滴の形成が観察された温度を「液滴相(droplet phase)」と定義した。上述のFRAPにより、Yモチーフの流動性が大幅に低下した温度(蛍光強度の回復が観察されない温度)を「ゲル相(gel phase)」と定義した。上記定義に基づき、異なる粘着末端配列を持つYモチーフを用いて、温度と粘着末端配列の安定性により定まる相図を作成した。短い粘着末端配列ほど、相が変化する温度が低下していくことが示されている。
図15は、相図の作成に使用した粘着末端配列を示す。配列の長さ、二重らせん形成時のエンタルピー変化(ΔH)、実験条件下におけるDNAの溶解温度(Tm)が示されている。
図16は、モチーフ内の分岐数に対する相変化温度(分散-液滴、液滴-ゲル)のグラフを示す。粘着末端配列は8塩基を採用し、分岐数が3つ、(Y字型:Yモチーフ)4つ(十字型)、6つ(アスタリスク型)のモチーフを設計し、相変化温度を求めた。分岐数が増えると相変化温度が上昇することが示されている。各相の定義は当該図14の相図と同じである。
(試験例3)
ある結合単位(Yモチーフ)(図17(a))及び、別の種類の結合単位として、Yモチーフと同等の熱力学的パラメータ(TmとΔH)を持ち、かつYモチーフと非相補的な配列を持つDNAからなる「直交Yモチーフ」(図17(b))を設計した。
Yモチーフと直交Yモチーフは非相補的な配列のため、Yモチーフ、直交YモチーフそれぞれからなるDNA液滴は融合するが、異種モチーフからなるDNA液滴は融合しない(図17(c))。
Yモチーフの配列を図17(d)、直交Yモチーフの配列を図17(e)に示した。
Yモチーフと直交Yモチーフをそれぞれ5 μMの濃度で緩衝液に混合し、牛血清アルブミンで被覆されたガラスで作製した観察容器に加えステージヒーター上に置き、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。85 °Cから-1 °C/minの速度で60 °Cまで冷却し、60 °Cにおける溶液の様子を観察した。
図18に示すように、YモチーフはFAM(緑色蛍光)分子で標識され、直交YモチーフはAlexa405(青色蛍光)分子で標識されている。白線の枠はYモチーフからなるDNA液滴の融合を示しており、白点線枠は直交YモチーフからなるDNA液滴の融合を示している。なお図中のスケールバーは図18では10μmである。
(試験例4)
非相補な配列を持つDNAからなる異種の液滴を混合する試験を行った。図19に示すように、6分岐を持つSモチーフを作製した。6つの分岐のうち、3つはYモチーフと相補な粘着末端配列を持ち、残りの3つは直交Yモチーフと相補な粘着末端配列を持つ。図20に示すように、Sモチーフを介してYモチーフ、直交Yモチーフを有するDNAが互いに粘着するので、これらの3種のDNAを含む液滴が形成される。この設計により、SモチーフがYモチーフと直交Yモチーフを架橋し、融合しなかった異種の液滴が誘導できるようになる。
Yモチーフ5 μM、直交Yモチーフ 5 μM、Sモチーフ1.65 μMを緩衝液中に混合し、牛血清アルブミンで被覆されたガラスで作製した観察容器に加えステージヒーター上に置き、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。85 °Cから-1 °C/minの速度で60 °Cまで冷却し、60 °Cにおける溶液の様子を観察した。
図21はそれぞれの蛍光発色及びすべての発色のmerge、図22はmergeの時間変化である。なお図中のスケールバーは図21,22では10μmである。図21、22に示すように、液滴はSモチーフ、Yモチーフ、直交YモチーフのDNA(発色)を全て含んでいる。Sモチーフを加えたことにより、Yモチーフと直交Yモチーフが混じったDNA液滴が形成された。
(試験例5)
DNA液滴へのタンパク質の捕集の試験を行った。
試験の概要を示すと、図23に示すように、ストレプトアビジンへのビオチン標識短鎖DNAの修飾を行う。
ビオチンとストレプトアビジンタンパク質は、特異的に結合する特徴を有しており、ビオチン標識DNAとストレプトアビジンを混合することで、ストレプトアビジンにDNAを修飾することができる。本実験においては、2種類のビオチン標識短鎖DNAを用いた。一つはYモチーフの粘着末端と相補な配列を持つビオチン標識DNAであり、もう一方は直交Yモチーフの粘着末端と相補な配列を持つビオチン標識DNAである。
図24に示すように、Yモチーフの粘着末端と相補な配列を持つDNAで修飾されたストレプトアビジンは、YモチーフからなるDNA液滴にのみ集積され、直交Yモチーフの粘着末端と相補な配列を持つDNAで修飾されたストレプトアビジンは、直交YモチーフからなるDNA液滴にのみ集積される。
前記Yモチーフと直交Yモチーフをそれぞれ5 μMで緩衝液中に混合し、牛血清アルブミンで被覆されたガラスで作製した観察容器に加えステージヒーターを用いてDNA液滴を作製した。DNA液滴を含む溶液に、ビオチン標識短鎖DNAと蛍光標識ストレプトアビジン分子(タンパク質)の混合液を、最終濃度が20 μg/ml(蛍光標識ストレプトアビジン分子)と1.5 μM(ビオチン標識短鎖DNA)になるように加えた。
図25にYモチーフ、図26に直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真(図の上部)と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す。なお、図中のスケールバーは図25では30μm、図26、29〜32では20μmである。
また、DNA液滴内でのタンパク質の配置制御の概要も示す。Sモチーフを用いることで、Yモチーフ-直交Yモチーフからなる異種DNA液滴の混合が可能であることは上述の通りである。この技術を発展させることで、組成が非対称なDNA液滴を作成することができる。Sモチーフ内のDNAの一部をDNA-RNAのキメラ核酸と入れ替え、さらにRNA分解酵素であるリボヌクレアーゼA(RNase A)を作用させることで、DNA液滴内でYモチーフと直交Yモチーフが左右それぞれに分布(相分離)した非対称DNA液滴(ヤヌス液滴)を構築することができる。図27にYモチーフ側、図28に直交Yモチーフ側にタンパク質が配置された図を示す。この技術を応用し、DNA液滴内に集積させたストレプトアビジンタンパク質の配置を制御できる。
まず、Yモチーフまたは直交Yモチーフの粘着末端配列と相補なDNAで修飾されたストレプトアビジンを、Yモチーフ、直交Yモチーフ、Sモチーフで構成されたDNA液滴に集積させた。図29にYモチーフ、図30に直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真(図の上部)と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す。
そこにRNase Aを作用させることで、Yモチーフと相補な粘着末端配列で修飾されたストレプトアビジンは、ヤヌス液滴内のYモチーフ側に配置することができた。また、直交Yモチーフと相補な粘着末端配列で修飾されたストレプトアビジンは、ヤヌス液滴内の直交Yモチーフ側に配置することができた。図31にYモチーフ、図32に直交Yモチーフのストレプトアビジン分布の顕微鏡写真(図の上部)と蛍光写真の標準強度プロファイルを示す。
これらの結果より、DNA液滴内に集積させたストレプトアビジンタンパク質の配置を制御することができ、物質の修飾や酵素の選択によって、分子又は粒子の選択的な輸送や配置に応用可能なことが示された。
本発明の短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法によれば、マイクロメートルサイズで生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価である。

Claims (14)

  1. 2種以上の配列の異なる核酸を含み、
    前記核酸は、粘着末端部位と、ステム部位と、をそれぞれ備え、
    前記核酸のうち1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記核酸のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、
    前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす、短鎖核酸。
    0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
  2. 前記粘着末端部位が、相互に粘着可能な配列を有する、請求項1に記載の短鎖核酸。
  3. 前記核酸が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記核酸が3以上結合した結合単位を備える、請求項1又は2に記載の短鎖核酸。
  4. 前記結合単位を2種以上備え、
    前記結合単位のうち1種及び他の1種は、前記結合単位のうち1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位が、前記結合単位のうち他の1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位とは粘着できない配列を有する、請求項3に記載の短鎖核酸。
  5. 前記ステム部位が前記粘着末端部位よりも長い、請求項1から4のいずれか1項に記載の短鎖核酸。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の短鎖核酸と、溶媒とを含んでなる、短鎖核酸が凝集してなる液滴。
  7. 請求項6の短鎖核酸が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む、分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  8. 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の温度を変化させることにより行う、請求項7に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  9. 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に酵素又は核酸分子を添加することにより行う、請求項7又は8に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  10. 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴の制御は、前記核酸を切断し、又は前記核酸の2本鎖結合を解離する、請求項7から9のいずれか1項に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  11. 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に分子又は粒子を包含させ、前記分子又は粒子の捕集、輸送又は配置を行う、請求項7から10のいずれか1項に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  12. 前記分子又は粒子は、前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾したものを用いる、請求項11に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  13. 前記短鎖核酸が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、核酸分子を用いる、請求項12に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
  14. 前記分子又は粒子は、タンパク質分子、核酸分子、又はこれらを含む粒子である、請求項7から13のいずれか1項に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
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