JP2021080445A - pH及び温度二重応答性高分子 - Google Patents

pH及び温度二重応答性高分子 Download PDF

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Abstract

【課題】pHによりUCST型/LCST型がスイッチングし、且つより鋭敏な温度応答性相転移を示す高分子を提供すること。【解決手段】本発明によれば、複数の分岐部分と複数の末端基を有するpH及び温度二重応答性樹状ポリマーであって、前記複数の分岐部分が第三級アミンであり、前記複数の末端基の少なくとも一部がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含み、該フェニルアラニン残基と強酸基又はその塩とを含む末端基はそのフェニルアラニン残基のカルボニル基側で前記分岐部分に連結していることを特徴とするpH及び温度二重応答性樹状ポリマーが提供される。【選択図】図3

Description

本発明は、pH及び温度二重応答性高分子に関する。より詳細には、本発明は、より鋭敏な温度応答性相転移を示す高分子(特に、末端修飾樹状ポリマー)に関する。
温度応答性高分子は、加温によって白濁するLCST(下限臨界溶液温度)型の相転移を示すものと、加温によって溶解するUCST(上限臨界溶液温度)型の相転移を示すものに分類される。
末端部をフェニルアラニンなどのアミノ酸で修飾し、最末端をアミノ基としたポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー(末端基:-NH-CO-CH(CH2-C6H5)-NH2)は、高pH(塩基性)条件下でLCST型の相転移を示す(非特許文献1)。また、リンカーを用いて、アミノ基とカルボキシ基を入れ替えてフェニルアラニンで修飾したPAMAMデンドリマー(末端基:-NH-CO-R-CO-NH-CH(CH2-C6H5)-COOH;R=エチレン基;1,2-フェニレン基;1,2-シクロヘキセン基)は低pH(酸性)条件下でUCST型の相転移を示す(非特許文献2)。
更に、非特許文献2に記載の末端修飾デンドリマーにおいて、末端基中のフェニルアラニンとカルボン酸(コハク酸)を入れ替えたPAMAMデンドリマー(末端基:-NH-CO-CH(CH2-C6H5)-NH-CO-CH2-CH2-COOH)は、pHによりUCST型/LCST型がスイッチングし、高pH(塩基性)条件下でUCST型の相転移を示し、低pH(酸性)条件下でLCST型の相転移を示す(非特許文献3〜6)。
Y. Tono, C. Kojima, Y. Haba, T. Takahashi,A. Harada, S. Yagi and K. Kono, Langmuir, 2006, 252, 4920-4922. M. Tamaki, D. Fukushima and C. Kojima, RSC Advances, 2018, 8, 28147-28151. 第64回高分子研究発表会(神戸)発表要旨集 (F-14) 玉木万美子, 児島千恵,2019年9月 第67回高分子討論会発表要旨集 (2U12) 児島千恵、玉木万美子、福嶋大地,2018年8月29日 The 12th SPSJ International Polymer Conference (IPC2018), (6P-T8-058d) M. Tamaki, C. Kojima, 2018年11月 第68回高分子学会年次大会要旨集 (3G11)児島千恵、玉木万美子, 2019年5月14日
しかしながら、非特許文献3〜6に記載の末端修飾デンドリマーは、温度応答性が緩慢である(すなわち、相転移に要する温度変化が幅広い)ため、その応用は限定的であった。
そこで、pHによりUCST型/LCST型がスイッチングし、且つより鋭敏な温度応答性相転移を示す高分子の開発が求められていた。
したがって、本発明は、複数の分岐部分と複数の末端基を有するpH及び温度二重応答性樹状ポリマーであって、前記複数の分岐部分が第三級アミンであり、前記複数の末端基の少なくとも一部がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含み、該フェニルアラニン残基と強酸基又はその塩とを含む末端基はそのフェニルアラニン残基のカルボニル基側で前記分岐部分に連結していることを特徴とするpH及び温度二重応答性樹状ポリマーを提供する。
また、本発明は、可溶性物質を含む溶液から該可溶性物質を分離する物質の分離方法であって、前記溶液中において、上記pH及び温度二重応答性樹状ポリマーの下限臨界溶液温度(LCST)より低い温度又は上限臨界溶液温度(UCST)より高い温度で形成される該樹状ポリマーの溶媒和物に前記可溶性物質を担持させ、LCSTより高い温度又はUCSTより低い温度で該可溶性物質を担持した前記樹状ポリマーを不溶化させることを特徴とする方法を提供する。
本発明によれば、pHによりUCST型/LCST型がスイッチングし、且つより鋭敏な温度応答性相転移を示すpH及び温度二重応答性樹状ポリマーが提供される。
(a)〜(e)実施例で合成した樹状ポリマー(a:G4-Phe;b:G4-Phe-SO3H;c:G4-Phe-Suc;d:QG4-Phe-Suc;e:QG4-Phe-SO3H)の1H NMRスペクトルを示す。(f)(a)〜(e)に示した1H NMRの帰属を説明するためにPAMAMデンドリマーの分岐部分に付した記号を示す。 実施例で合成した4種の樹状ポリマー(A:G4-Phe-SO3H;B:G4-Phe-Suc;C:QG4-Phe-Suc;D:QG4-Phe-SO3H)の種々のpHでの温度依存性透過率曲線を示す。 本発明の1つの実施形態の樹状ポリマー(G4-Phe-SO3H)の種々のpHでの温度依存性透過率曲線を示す。 本発明の1つの実施形態の樹状ポリマー(G4-Phe-SO3H)の水溶液の種々のpH及び温度での顕微鏡画像を示す。丸印で囲った部分で液―液相分離構造が観察された。 モデル物質(ローズベンガル:RB)を担持した本発明の1つの実施形態の樹状ポリマー(G4-Phe-SO3H)の温度応答曲線を示す。 (A)遠心前(a)、40℃で遠心後(b)、4℃で遠心後(c)に測定したRB/樹状ポリマーG4-Phe-SO3H溶液の吸光スペクトルを示す。(B)RB残存率を示す。 実施例で合成した別の4種の樹状ポリマーG4-Phe-SO3Na(a)、G3-Phe-SO3Na(b)、G5-Phe-SO3Na(c)及びG4-SO3Na(d)の1H NMRスペクトルを示す。 樹状ポリマーG4-SO3NaのpH 5及び6.5での温度依存性透過率曲線を示す。 樹状ポリマーG3-Phe-SO3Na(G3)、G4-Phe-SO3Na(G4)及びG5-Phe-SO3Na(G5)の1 mg/mLサンプルにおけるpH 5及び6.5での温度依存性透過率曲線を示す。 樹状ポリマーG3-Phe-SO3Na(G3)、G4-Phe-SO3Na(G4)及びG5-Phe-SO3Na(G5)の32 μMサンプルにおけるpH 5及び6.5での温度依存性透過率曲線を示す。 実施例で合成した樹状ポリマーG4-Phe-BSO3Naの1H NMRスペクトルを示す。 実施例で合成した樹状ポリマーPEI-Phe-Boc(a)、PEI-Phe(b)及びPEI-Phe-SO3Na(c)の1H NMRスペクトルを示す。 実施例で合成した樹状ポリマーDGL-Phe-Boc(a)、DGL-Phe(b)及びDGL-Phe-SO3Na(c)の1H NMRスペクトルを示す。 樹状ポリマーG4-Phe-BSO3Naの1〜5 mg/mLサンプルにおけるpH 5及び7(a)並びにpH 8及び9(b)での温度依存性透過率曲線を示す。 樹状ポリマーPEI-Phe-SO3Naの1 mg/mLサンプルにおけるpH 5〜8での温度依存性透過率曲線を示す。 樹状ポリマーDGL-Phe-SO3Naの1 mg/mLサンプルにおけるpH 4〜7での温度依存性透過率曲線を示す。
<樹状ポリマー>
本発明の樹状ポリマーは、その複数の分岐部分が第三級アミンであり、その複数の末端基の少なくとも一部がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含み、該フェニルアラニン残基と強酸基又はその塩とを含む末端基がそのカルボニル基側で前記分岐部分に連結しており、pH及び温度二重応答性であることを特徴とする。
本発明において、「樹状ポリマー」には、(存在する場合)「コア」と、3以上の分岐を有する複数の「分岐部分」と、複数の「末端基」とからなる「樹状ポリマー」が含まれる。
本発明の樹状ポリマーには、より具体的には、デンドリマー、デンドロン、ハイパーブランチポリマーが含まれる。
樹状ポリマーのうち、分岐の規則性が非常に高い樹状ポリマーは「デンドリマー」と呼ばれ、デンドリマーを構成する部分構造であって、コアの部分の少なくとも1つの官能基が分岐していない構造を有するもの(下記式(I)においてp=1のもの)は特に「デンドロン」とも呼ばれる。一方、樹状ポリマーのうち、樹状構造における分岐の規則性が比較的低いものには「ハイパーブランチポリマー」がある
(デンドリマー)
第m世代の「デンドリマー」(「世代」については下記を参照)は、式(I):
Zs(X1(X2(X3(...(Xm-1(XmYm (qm)-1)(qm-1)-1-(rm-1)Ym-1 (rm-1))...)q3-1-r3Y3 r3)q2-1-r2Y2 r2)q1-1-r1Y1 r1)p
で表し得る。
上記式中、
存在する場合、Zはコアであり;
X1、X2、X3、...、Xm-1、Xmは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐構造単位であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するX1、X2、X3、...、Xm-1、Xmは、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよい;
Y1、Y2、Y3、...、Ym-1、Ymは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐構造単位に結合した末端基であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するY1、Y2、Y3、...、Ym-1、Ymは、それぞれ異なってもよく(すなわち、例えば、Y1が複数存在する場合、全てのY1が同じ基である必要はなく、一部のY1は別の基であってもよい);
sは0又は1であり、
pは、sが0のとき1又は2、好ましくは2であり、sが1のとき、コアの分岐部分との結合手の数であって、1以上の整数である。pは例えば1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4の整数であり(更に好ましくは4);
q1、q2、q3、...、qm-1、qmは、それぞれ1、2、3、...、m-1、m世代目の分岐構造単位の分岐数であって、一般には3以上の整数(例えば、3〜10、好ましくは3〜8、より好ましくは3〜6、より好ましくは3又は4)であり、全てが同一であっても異なってもよいし、任意の組合せが同一であってもよく、また、複数存在するq1、q2、q3、...、qm-1、qmは、それぞれ異なってもよく;
r1、r2、r3、...、rm-1は、それぞれ1、2、3、...、m-1世代目の分岐構造単位の分岐のうち(次世代の分岐単位に結合せず)末端基に結合している分岐の数であって、rm-1は0〜(qm-1)-1の整数であり、複数存在するr1、r2、r3、...、rm-1は、それぞれ異なってもよい。
本発明において、デンドリマー又はデンドロンは、コアの官能基に分岐構造単位が結合したもの(コアが存在する場合)又は(中心の)2つの分岐構造単位同士が結合したもの(コアが存在しない場合)を第1世代(G1)、第1世代の分岐構造単位の端部に更に別の分岐構造単位が結合したものを第2世代(G2)というように、分岐構造単位の繰り返し数(m;又は分岐構造単位の層数)に応じて、「第m世代(Gm)のデンドリマー又はデンドロン」と呼ぶ。
デンドリマー又はデンドロンは、世代数mが2以上であれば特に制限されないが、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜8、より好ましくは3〜5である。
(ハイパーブランチポリマー)
「ハイパーブランチポリマー」は、一般に、AB2型モノマーを重合させることにより、分岐を展開させたポリマーである。ここで、A及びBは、それぞれ重合反応可能な官能基の組み合わせを示し、例えば、水酸基とカルボキシル基、アミノ基とカルボキシル基などの組み合わせが挙げられる。あるいは、分岐のコアとして機能する物質を併用してもよい。また、グリシドールやエチレンイミンなどの開環重合によって、ハイパーブランチポリマーを作製してもよい。ハイパーブランチポリマーはデンドリマーと同様に分岐部分を有するが、コアは必須ではない。また、ハイパーブランチポリマーの分岐部分には、一部欠損して不規則又は不連続な箇所があってもよい。
ハイパーブランチポリマーは、分子量の下限が例えば2500、5000、10000であり得、分子量の上限が例えば100,000、80,000、50,000であり得る。ハイパーブランチポリマーの分子量は、例えば、5千〜10万、好ましくは1万〜5万である。
以下に、本発明の「樹状ポリマー」における「コア」、「分岐部分」及び「末端基」を説明する。
(コア)
コアは、存在する場合、1つ以上の官能基を有する化合物から誘導されるものである。官能基としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、チオール基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基などが挙げられ、好ましくは、第一級アミノ基及び第二級アミノ基である。コアの具体例としては、例えば、C〜C12アルキル(好ましくは、C〜Cアルキル)ジアミンが挙げられ、より具体的には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカンが挙げられる。SS結合を含むアルキルジアミン(シスタミン)でもよい。
(分岐部分)
本発明において、分岐部分は第三級アミンであり、下記に示すような構造であり得る。
Figure 2021080445
(nは1以上の整数。)
本発明の樹状ポリマーを水溶性とする場合、分岐部分は、親水性であることが好ましく、そのため、アミド基、エステル基、(二級)アミノ基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基を含むことが好ましく、アミド基、エステル基、アミノ基及び/又はカルボニル基を含むことが特に好ましい。分岐部分は、例えば、式:(−RXRN<) (式中、Xは結合手、-CONH-、-CO-、-NH-、-COO-又は-O-を表し、R及びRは各々独立してC〜C、より好ましくはC〜C、より好ましくはC〜Cアルキレンを表す)で表されるものであり得る。
分岐部分は、好ましくはアミドアミン又はアルキレンアミン、より好ましくは直鎖アミドアミン又は直鎖アルキレンアミンである。
分岐部分がアミドアミンである場合、好適な分岐部分は、例えば、式:(−RCONHRN<) (式中、R及びRは各々独立してC〜C、より好ましくはC〜C、より好ましくはC〜Cアルキレンを表す)で表されるものである。分岐部分の具体例は、(−CHCHCONHCHCHN<)又は(−CHCHCHCONHCHCHCHN<)である。
分岐部分がアルキレンアミンである場合、好適な分岐部分は、例えば、式:(−RN<) (式中、Rは各々独立してC〜C、より好ましくはC〜C、より好ましくはC〜Cアルキレンを表す)で表されるものである。分岐部分の具体例は、(−CHCHN<)、(−CHCHNHCHCHN<)又は(−CHCHCHN<)である。
(末端基)
本発明の樹状ポリマーの複数の末端基の少なくとも一部は、フェニルアラニン残基と該フェニルアラニン残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む。
強酸基としては、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基及び硫酸基が挙げられる。好ましくは、強酸基はスルホン酸基である。
末端基は-(フェニルアラニン残基)-R-SOH、-(フェニルアラニン残基)-R-OSOH、-(フェニルアラニン残基)、-R-P(O)(OH)及び-(フェニルアラニン残基)-R-OP(O)(OH)からなる群より選択される基又はその塩である。ここで、Rはフェニルアラニン残基のアミノ基に結合しており、C〜C(好ましくはC〜C、より好ましくはC〜C)アルキレン、C〜Cシクロアルキレン又はフェニレンであり、これらはハロゲン、C〜Cアルキル及びC〜Cアルコキシの1以上で置換されていてもよい。
塩は、一価金属塩、例えばアルカリ金属塩(より具体的には、ナトリウム塩又はカリウム塩)又は二価金属塩、例えばアルカリ土類金属塩(より具体的には、マグネシウム塩又はカルシウム塩)の形態であり得る。
フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基は、フェニルアラニン残基のカルボニル基側で分岐部分に直接又は間接に連結している。
本発明の樹状ポリマーは、その全ての末端基が同一である必要はなく、2種以上の末端基を有していてもよい。末端基が2種以上である場合、そのうちの少なくとも1種がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基であればよい。樹状ポリマーの末端基の総数(例えば、G4デンドリマーの場合には64、G5デンドリマーの場合には128)の50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基である。
本発明の樹状ポリマーが有し得る、フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含まない末端基は、特に制限されないが、フェニルアラニン残基を含むが強酸基もその塩も含まない末端基、フェニルアラニン残基を含まないが強酸基若しくはその塩を含む末端基又はフェニルアラニン残基も強酸基もその塩も含まない末端基であり得る。
フェニルアラニン残基も強酸基もその塩も含まない末端基は、分岐部分の最後の繰り返し単位の構造を有してもよいし、末端基は、分岐部分とは別の構造を有してもよい。フェニルアラニン残基も強酸基もその塩も含まない末端基としては、例えば、アミノ基、アミノ(C〜C)アルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシ(C〜C)アルキル基、カルボキシル基、カルボキシル(C〜C)アルキル基などが挙げられ、好ましくはアミノ基、カルボキシル基、より好ましくはアミノ基である。
末端基は、分岐部分の分岐末端部の基と一緒になって上記のような基を形成していてもよい。
本発明の樹状ポリマーは、pH及び温度の両方に対して応答性(すなわち二重応答性)を示す。
本樹状ポリマーの水溶液は、例えば、より低いpH条件(例えばpH 3〜8、より具体的にはpH 4〜8、より具体的には pH 5〜8)下でLCST型相転移挙動を示し、より高いpH条件(例えばpH 4〜9、より具体的には pH 5〜9、より具体的には pH 6〜9)下でUCST型相転移挙動を示す。「LCST型相転移」とは、特定の温度(下限臨界溶液温度:LCST)以下では水溶性である一方、LCST以上では水不溶性となる(すなわち、相分離する)ことをいう。「UCST型相転移」とは、特定の温度(上限臨界溶液温度:UCST)以上では水溶性である一方、UCST以下では水不溶性となることをいう。
本樹状ポリマーは、例えば、pH4〜8の間、より具体的にはpH5〜7、より具体的にはpH5〜6で、LCST型及びUCST型の性質を併せ持つ。
また、本樹状ポリマーは、強酸基又はその塩に代えて弱酸基又はその塩を末端基に含むものと比較して鋭敏な温度応答性を示す。例えば、本発明の樹状ポリマーは、約5〜70℃、好ましくは約10〜70℃、好ましくは約20〜70℃、より好ましくは約20〜60℃、より好ましくは約20〜60℃、より好ましくは約20〜50℃で相転移し、相転移(光透過率20%から80%への変化)は、20℃以内、好ましくは10℃以内の温度幅で生じる。
本発明の樹状ポリマーは、デンドリマーであることが好ましい。デンドリマーの分岐部分は、例えば、上記(1)、(2)、(3)、(4)の構造であり得る。より具体的には、デンドリマーは、分岐部分がアミドアミンであるデンドリマー(「ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー」と呼ぶ)又は分岐部分がアルキレンアミンであるデンドリマー(「ポリアルキレンイミンデンドリマー」と呼ぶ)である。アミドアミン及びアルキレンアミンの具体例は上記のとおりである。
また、本発明の樹状ポリマーは、ポリアルキレンイミンであるハイパーブランチポリマーであり得る。ポリアルキレンイミンの具体例は、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンである。
<製造方法>
本発明の樹状ポリマーは、公知の製造方法により作製した樹状ポリマーに、フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基を付加(又は該樹状ポリマーを該末端基で修飾)することにより製造できる。
例えば、上記(1)〜(4)のような分岐部分を有する樹状ポリマーの製造方法は、下記の文献に記載されている:
(1):D.A. Tomaliaら、Polym. J. 17, 117 (1985);D.A. Tomaliaら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 29, 138 (1990);
(2):E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1308 (1993);E.M.M. de Brabander-van den Bergら、Macromol. Symp. 77, 51 (1994);J.C. Hummelenら、Chem. Eng. J. 3, 1489 (1997);C. Wanerら、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32, 1300 (1993);
(3):K.E. Uhrichら、J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1623 (1992);
(4):S.R. Rannardら、J. Am. Chem. Soc. 122, 11729 (2000)。
本発明の樹状ポリマーは、第m世代PAMAMデンドリマーである場合、例えば、コアとなる第一級アミン(例えば、エチレンジアミン)に、(例えばアクリル酸エステルを反応させる)マイケル付加反応とそれに続く(例えばジアミノアルカンを用いる)エステルアミド交換反応とからなる1サイクルの反応をm回繰り返し(Tomalia, D. A.ら,Polym. J. 17, 117 (1985);Frechet, J. M. J., Tomalia, D. A.編、(2001) Dendrimers and other dendritic polymers, J. Wiley & Sons, West Sussexを参照)、フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基を付加(又は該末端基で修飾)することにより製造できる。
本発明の樹状ポリマーは、ハイパーブランチポリマーである場合、例えば、AB型モノマーを重合させ又はグリシドールやエチレンイミンなどを開環重合させ、フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基を付加(又は該末端基で修飾)することにより製造できる。
フェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む末端基の付加(又は該末端基での修飾)は、第m世代の分岐構造単位の末端部の種類に応じて公知の技法から適宜選択できる。例えば、末端部がアミノ基又はヒロドキシル基である場合、当該基と、遊離カルボン酸を有するフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む化合物中の該遊離カルボン酸(すなわち、カルボキシル基)とを、(必要に応じて、前記化合物中の遊離カルボン酸以外の官能基を保護した後に)反応させることにより行うことができる。或いは、前記アミノ基又はヒロドキシル基と、アミノ基を保護したフェニルアラニンのカルボキシル基と反応させた後、フェニルアラニンのアミノ基と強酸基を付与し得る化合物(例えば、スルホン化剤、ホスホン化剤)とを反応させることにより得ることができる。
スルホン酸基又は硫酸基を付与し得る化合物としては、例えば、ω-ハロアルキルスルホン酸若しくは硫酸又はその塩、スルトン化合物などが挙げられる。スルトン化合物の具体例は、例えば、1,2-エタンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、2,5-ペンタンスルトンである。
ホスホン酸基又はリン酸基を付与し得る化合物としては、例えば、ω-ハロアルキルホスホン酸若しくはリン酸又はその塩、オルトリン酸、ジオキサホスホラン-2-オキシド、ジオキサホスホリナン-2-オキシドなどが挙げられる。
<物質の分離方法>
本発明の物質の分離方法は、可溶性物質を含む溶液中において、上記で説明した本発明に係る樹状ポリマーの下限臨界溶液温度(LCST)より高い温度又は上限臨界溶液温度(UCST)より低い温度で形成される不溶化状態の該デンドリマーに前記可溶性物質を担持させることにより、前記溶液から可溶性物質を分離することを特徴とする。
分離対象の可溶性物質は、溶液中でアニオン性を示すか又はイオン解離しない物質であることが好ましい。また樹状ポリマーと相互作用することができる遷移金属イオンであってもよい。例えば、PAMAMデンドリマーはCu2+, Ag+ , Pt2+, Pd2+, Ru3+, Ni2+を内部に保持できることが知られている(Mingqi Zhao & Richard M. Crooks, Adv. Mater. 1999, 11, 217)。例えば、有機反応の混合物からの目的物の回収・不要物の除去、水溶液中からの蛋白質の分離・回収、廃水から金属イオンの除去・回収などが挙げられる。
不溶化した可溶性物質担持デンドリマーを含む懸濁液からの不溶化デンドリマーの分離は、例えば、遠心分離又は沈降により行うことができる。
本発明の物質の分離方法によれば、可溶性物質を含む溶液から該可溶性物質を簡便及び/又は効率的に分離できる。
1.G4-Phe-SO3Hの合成
デンドリマー「G4-Phe-SO3H」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<であり、末端基に-フェニルアラニン残基-SO3Hを有し、下記の模式図に示される構造を有する第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
G4-Phe-SO3Hの合成は下記のように行った。
Figure 2021080445
・G4-Phe-Bocの合成
Boc-Phe 462 mg(1.74 mmol)をジメチルホルムアミド(DMF) 4.8 mLに溶解させ、N-ヒドロキシコハク酸イミド 241 mg(2.09 mmol)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) 466 mg (2.26 mmol)及びトリエチルアミン 364 μL(2.61 mmol)を加えて氷浴で攪拌した(溶液a)。第4世代PAMAMデンドリマー(末端基:分岐部分の末端部NH2) 255 mg(17.9 μmol)をジメチルスルホキシド(DMSO) 4.8 mLに溶解させ、これと溶液aとを混合した後、室温で7日間攪拌した。塩をろ過により除去し、Sephendex LH-20カラムに付した。真空乾燥により、G4-(Phe-Boc)を得た(透明膜状;収量:437.1 mg;収率:93%)。
図1(a)に、得られたG4-(Phe-Boc)の1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った。
図1(a)より2.15 ppmのピークの積分値248を基準にして、1.16〜1.28 ppmのBoc基のピークの積分値を算出して得られる値から、Boc-Pheの結合数は49と見積もられた。この値は、PheのHαのピーク4.08 ppmの積分値から見積もられた値と一致した。よって、上記で得られたG4-(Phe-Boc)は、49末端に(Phe-Boc)を有するG4-(Phe-Boc)49であると判明した。
・G4-Pheの合成
Boc-Phe-G4 66.4 mgをトリフルオロ酢酸(TFA) 2.8 mLに溶解させ氷浴(4℃以下)で4時間静置した。エバポレーターでTFAを減圧留去した。蒸留水と混合させ減圧留去する操作を酢酸の匂いがなくなるまで(4回)行った。真空乾燥を一晩行い、G4-Phe49を得た(収量:92.2 mg;収率:127%;透明膜状)。
・G4-Phe-SO3Hの合成
Chen,H.-T.ら(J. Am. Chem. Soc., 2004, 126 (32), 10044-10048)の方法を参考にして、G4-Pheの末端をスルホン酸化した。
1,3-プロパンスルトン 142.3 mg(1.17 mmol)をアセトニトリル(2.8 mL)に溶解させた。G4-Phe 92.2 mg(3.20 μmol)を125 mM NaHCO3水溶液(2.8 mL)に溶解させた。これら2つの溶液を混合し、窒素バブリング後、室温で攪拌した。3日目にpHが1以下になったため4M NaOH水溶液を加えて塩基性とし、窒素バブリング後、室温で攪拌した。4日目にpH7〜8になったため、4M NaOH水溶液で約pH9とした。5日目にpHは約pH8となったため、HCl水溶液を添加してpHを一旦下げた後、4M NaOH水溶液で約pH8とした。次いで、エバポレーターで溶液の量を少し減らした後、蒸留水を2.1 mL加え、蒸留水で透析した。凍結乾燥後、G4-Phe-SO3Hを得た(収量:60.9 mg;収率:64%)。
図1(b)に1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った。
7 ppm台のフェニルアラニンのピーク値245を基準として、G4-Pheの末端に結合したスルホン酸のメチレン(2)のピークを算出すると115であり、これを2で割ると57.5となり、58個の末端にSO3H基が結合したと見積もることができた。よって、上記の合成法により得られたG4-Phe-SO3Hは、G4-Phe49-SO3H58であることが判明した。
2.G4-Phe-Sucの合成
デンドリマー「G4-Phe-Suc」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が(-CH2CH2CONHCH2CH2N<)であり、末端基が-フェニルアラニン残基-CO-CH2CH2-COOHであり、下記の模式図に示される構造を有する(すなわち、弱酸基の塩を含む末端基を有する)第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
G4-Phe-Sucの合成は下記のように行った。
G4-Pheの合成までは、「1.G4-Phe-SO3Hの合成」で記載したとおりに行った。
G4-Phe 121.4 mg(4.23 μmol)を125 mM NaHCO3水溶液3 mLに溶解させて過剰量の無水コハク酸0.3331 gを加えた。pHをモニターしながら氷浴上で4M NaOH水溶液を用いてpH8〜10に調整し、4℃で一晩攪拌した。0.1M HCl水溶液を滴下し、溶液(pH 5)の白濁を確認後、蒸留水での透析を3.5時間行った。更に、外層を125 mM NaHCO3水溶液で3.5時間透析した後、蒸留水透析を1日かけて行い、G4-Phe-Suc(収量:67.6 mg;収率:56%)を得た。
図1(c)に1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った。
図1(c)より、出発PAMAMデンドリマー(末端基:NH2)由来の(A),(A')ピーク(2.55 ppm)の積分値(248)を基準に、コハク酸由来のメチレンプロトン及び出発デンドリマー由来の(B),(B')ピーク(2.19 ppm)の合計の積分値(475)から、出発デンドリマー由来分を差し引くことでSuc(-CO-CH2CH2-COOH)の結合数を見積もった。
コハク酸由来のメチレンプロトンの理論値は256であり、実験値は246となったことから、Sucがデンドリマーの57末端に結合した(すなわち、G4-Phe49-Suc57)と見積もられた。
3.QG4-Phe-Sucの合成
デンドリマー「QG4-Phe-Suc」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が(-CH2CH2CONHCH2CH2N<)(ただし、-N<は四級化されている;すなわち、該分岐部分は第四級アミンである)であり、末端基が-フェニルアラニン残基-CO-CH2CH2-COOHであり、下記の模式図に示される構造を有する第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
QG4-Phe-Sucの合成は下記のように行った。
G4-Phe-Sucの合成までは上記のとおりに行った。
G4-Phe49-Suc62(34.0 mg、1.20 μmol)をDMF 3 mLに溶解させ、内部第三級アミンに対して9倍当量のヨウ化メチル(MeI;43.2 μL, 693μmol)を加え、37℃で25時間撹拌した(撹拌後、液の色が黄色に変化した)。反応混合物にジエチルエーテル30 mLを加え、氷浴で1時間20分間放置して結晶化させた後、エバポレーターで懸濁液を約3 mLまで濃縮した(黄色懸濁液)。得られた懸濁液を2MNaCl水溶液で1日半透析すると、黄白色(不透明)から透明へと変化した。次いで、蒸留水で透析を1日行った。凍結乾燥によりQG4-Phe49-Suc62を得た(収量:29.2 mg;収率:77%)。
図1(d)に1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った。
図1(d)において2.98 ppmがN+CH3のピークであると考えられた。Hαの積分値を49としてN+CH3のピークの積分値を算出すると215となることから、71個の第三級アミンが四級化されたと考えられた。また、(c)の2.2〜3.1 ppmの積分値(2.24 ppmの遊離Sucの積分値46を除く)を、(d)の2.2〜3.5 ppmの積分値から差し引くことにより得られる値を3で割る方法でも四級化したアミンの数は67と見積もられた。これらの結果から、内部第三級アミンはすべて四級化したと考えられた。
4.QG4-Phe-SO3Hの合成
デンドリマー「QG4-Phe-SO3H」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が(-CH2CH2CONHCH2CH2N<)(ただし、-N<は四級化されている;すなわち、該分岐部分は第四級アミンである)であり、末端基が-フェニルアラニン残基-SO3Hであり、下記の模式図に示される構造を有する第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
QG4-Phe-SO3Hの合成は下記のように行った。
G4-Phe-SO3Hの合成までは上記のとおりに行った。
G4-Phe-SO3H(17.8 mg、0.63 μmol)をDMF 2mLに溶解させ、内部第三級アミンに対して4.5倍当量のMeI(11.0 μL, 177 μmol)を加え、37℃で3時間撹拌した後、更にMeI(11.0 μL, 177μmol)を追加して21時間攪拌した(液の色が黄色に変化した)。反応混合物を2M NaCl水溶液で1日半透析すると、内相は透析開始直後の黄色から無色透明へ変化した。外相を蒸留水に代え2日間透析すると、無色透明な液体から白濁液体に変化した。これを凍結乾燥して、QG4-Phe-SO3Hを得た(白色固体;収量:21.3 mg;収率:91%)。
しかし、この段階で得られたQG4-Phe-SO3Hは、1H NMR測定により、四級化率が57%であった(Q57%G4-Phe-SO3H)ため追反応を行った。
Q57%G4-Phe-SO3H(12.8 mg、0.43 μmol)をDMF 1 mLに溶解させ、内部第三級アミンとスルホン酸の隣の第一級アミノ基に対して4.3倍当量のMeI(20.3 μL, 326 μmol)を加え、37℃で24時間攪拌した(液の色が黄色に変化した)。上記と同様に精製して、QG4-Phe-SO3Hを得た(白色固体;収量:4.5 mg;収率:20%)。
図1(e)に1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った。
図1(e)においてPheのフェニル環のピークを基準(245)として、(A),(A')のピークから(2)のピークまでの積分値を求めると2097となった。四級化前の1H NMRスペクトルにおいても同様の操作を行い、(C),(C'),(D)から(2)のピークまでの積分値を求めると1501となるため、上記の四級化反応により596個水素が増加したことになる。596を3で割ると198となることから、四級化されたアミノ基は198個と見積もられる。G4-Phe-SO3Hデンドリマーの内部第三級アミノ基62個及びスルホ基の隣の(フェニルアラニンに由来する)第二級アミノ基57個を全て四級化するに要する水素の数は176個であることから、当該デンドリマーの内部第三級アミノ基及びスルホ基の隣の第二級アミノ基の全てが四級化したと考えられた。
5.温度依存性透過率(濁度)の測定(1)
5.1.測定手順
1 mg/mL(buffer濃度20 mM)のデンドリマーサンプルについて温度変化透過率測定を行った。pHを酢酸緩衝液(pH 5.5以下)及びリン酸緩衝液(pH 6)で調整した後、UV/Vis Spectrophotometer(V-630, JASCO)により透過率の温度変化測定を行った。測定条件は次のとおりであった:測定波長:500 nm、昇温速度:1℃/min、測定間隔:0.1℃、バンド幅:1.5 nm。温度の調整にはペルチェホルダ(ETC-717, JASCO)を用いた。
5.2.測定結果(1)
測定結果を図2に示す。
G4-Phe-SO3Hは、pH 5.0でLCST型相転移(LCST=52℃)、pH 6.5でUCST型相転移(UCST=36℃)を示した(図2(A))。いずれの相転移も温度変化に鋭敏に反応し(すなわち、相転移が狭い温度範囲内で生じ)、高い温度応答性を示した。
この高い応答性は、理論に拘束されることを意図しないが、末端基に強酸基を含むことにより、溶液中でのデンドリマー間の相互作用が、その内部のカチオンの増減のみに依存して変化することとなった結果であると考えられる。
G4-Phe-Sucは、pH 4でLCST型相転移、pH 6でUCST型相転移を示したが、その相転移はいずれも、温度応答性がG4-Phe-SO3Hのものと比較して劣っていた(図2(B))。
また、pH 3.5では、測定温度範囲内では透明なまま白濁せず、温度応答性を示さなかった。これは、理論に拘束されることを意図しないが、デンドリマー内部の第三級アミノ基がpH 3.5で全てプロトン化された結果、デンドリマー内部が親水性となったことに起因すると考えられる。
QG4-Phe-Sucは、pH 4及びpH 5のいずれでも溶解したままであり、温度依存性の相転移を示さなかった(図2(C))。
pH調整の際に、pH 5.7〜pH 4の間で白濁することなく透明であったため、G4-Phe-SucのpH応答性は内部第三級アミンの四級化により失われたと考えられる。これは、理論に拘束されることを意図しないが、内部第三級アミンの四級化により、デンドリマー全体がいずれのpHにおいてもカチオン性となり、親水性であることに起因すると考えられる。
QG4-Phe-SO3H溶液は、pHを2から10に変化させたとき、透明なままであったため、QG4-Phe-SO3HはpH応答性を失ったと考えられる。
QG4-Phe-SO3Hは、pH 5で、透明なまま温度応答性を示さなかった(図2(D))。これは、理論に拘束されることを意図しないが、負電荷をもつスルホン酸基の数に比べて、正電荷である第四級アミノ基が多いため、デンドリマーがいずれのpHにおいてもカチオン性となり親水性であることに起因すると考えられる。
上記で合成した4種のデンドリマーのpH及び温度依存性を表1にまとめる。
Figure 2021080445
内部に強塩基である第四級アミノ基を有するデンドリマーは、末端基に強酸基を有するか弱酸基を有するかにかかわらず、pHによらず溶解し、温度応答性も示さなかった。
一方、内部に弱塩基である第三級アミノ基を有し、末端基に強酸基又は弱酸基を有するデンドリマーは、pHに依存してLCST型/UCST型の温度相転移がスイッチした。加えて、末端基に強酸基を有するデンドリマーの温度相転移の温度応答性は、末端基に弱酸基を有するデンドリマーのものより鋭敏であった。
以上の結果から、デンドリマーの内部第三級アミノ基(のプロトン化)及び末端強酸基がpH及び温度二重応答性に関与していることが示された。
5.3.測定結果(2)
G4-Phe-SO3Hについて、pH 4.0、5.0、5.1、5.2、5.5、5.7、6.0、6.2、6.5及び7.0においても測定した。結果を図3に示す。図3において、(A)はpH 4.0〜5.2、(B)はpH 5.5〜5.7、(C)はpH 6.0〜7.0における温度応答性を示す。
図3(A)から明らかなとおり、pH 4.0のとき、測定温度範囲内において透明であり、温度応答性を示さなかった一方、pH 5.0〜5.2のとき、加温により白濁するLCST型の相転移を示した。pHが0.1上昇すると温度応答領域が約10℃上昇した。
理論に拘束されることを意図しないが、pH 4.0のとき、測定温度範囲内において溶解性を示した理由は、内部第三級アミノ基がプロトン化して、内部がカチオン性となって親水性が高くなった結果と考えられる。pH 5.0〜5.2のときにLCST型の温度応答性を示す理由としては、末端強酸基のカウンターカチオンとしてプロトン化した内部第四級アミンが作用し、G4-Pheと類似する表面構造をとる結果と考えられる。pHの0.1上昇はカチオン数を増加させるため、温度応答領域が上昇すると考えられる。
図3(B)から明らかなとおり、pH 5.5〜5.7のとき、低温領域ではLCST型相転移を示し、高温領域ではUCST型相転移を示すU字型の温度応答曲線が得られた。
図3(C)から明らかなとおり、pH 6.0〜6.5においてUCST型の温度応答性を示し、より高いpHでより鋭敏な温度応答性を示した一方、pH 7.0のとき、測定温度範囲内において透明であり、温度応答性を示さなかった。
理論に拘束されることを意図しないが、pH 6.0〜6.5のときにUCST型の温度応答性を示す理由としては、デンドリマーが双性イオン構造を持つためと考えられ、より高いpHでより鋭敏な温度応答性を示す理由は、四級化された第三級アミノ基の数が増える結果として相互作用が強くなるためと考えられる。一方、pH 7.0のとき、測定温度範囲内において溶解性を示した理由は、第三級アミノ基が脱プロトン化しており、デンドリマーが負電荷を有するため、電荷反発により溶解したものと考えられる。
G4-Phe-SO3Hの種々のpHでの温度応答性を下記表2にまとめる。
Figure 2021080445
以上の結果から、G4-Phe-SO3Hは、酸性条件下で、鋭敏なLCST型及びUCST型相転移を起こすことが理解できる。
6.顕微鏡観察
6.1.観察手順
1 mg/mLのデンドリマー(G4-Phe-SO3H)溶液について、pH 7.0、6.5、6.2、6.0及び5.2において、室温(25℃)、40℃及び60℃で顕微鏡観察を行った。顕微鏡観察には、細胞培養用ガラスヒーターユニット(C-140A、BLAST Inc.、Kanagawa、Japan)を備えた倒立蛍光顕微鏡(ECLIPSE Ti-U、Nikon Corp., Tokyo, Japan)を用いた。
6.2.結果
顕微鏡画像を図4に示す。
いずれのpHにおいても溶解条件下では、液滴は観察されなかった一方、白濁条件下では液滴(図中、点線円内)が観察された。よって、G4-Phe-SO3HのLCST型及びUCST型の相転移は液液相分離(すなわち、コアセルベーション形成)によるものと考えられる。
7.G4-Phe-SO3Hの温度応答性分離能
7.1.RB担持G4-Phe-SO3Hデンドリマーの温度応答性
モデル物質としてローズベンガル(RB):
Figure 2021080445
を担持させたG4-Phe-SO3Hデンドリマーの温度変化透過率測定を行った。
(1)実験手順
1 mg/mL(35 μM、リン酸緩衝液濃度20 mM)のデンドリマー(G4-Phe-SO3H)に対して、RBが10当量(350 μM)又は5当量(175 μM)になるように1 mM RB水溶液を加えたサンプル(pH 6.5)を作製した。このサンプルについて、UV/Vis Spectrophotometer(V-630, JASCO)により温度変化透過率測定を行った。測定条件は次のとおりであった:測定波長:700 nm、測定温度:20℃→60℃、バンド幅:1.5 nm。温度の調整にはペルチェホルダ(ETC-717, JASCO)を用いた。
(2)測定結果
結果を図5に示す。
RB担持デンドリマー(RB 5 eq及びRB 10 eq)は、デンドリマー単独(RB 0 eq)と比べて、温度応答曲線が高温側にシフトした。これは、RBが疎水性分子であるため、RB担持デンドリマーの溶解性が低下したためと考えられる。G4-Phe-SO3Hデンドリマーは、RBを担持した状態でも、シャープな温度応答性を示すことが分かった。
7.1.分離能実験
(1)実験手順
上記の5当量RBを含む(1 mg/mL)デンドリマー水溶液(pH 6.5)を、エッペンドルフチューブに100 μL取り、4℃又は60℃で30分間以上静置した。遠心分離を4℃又は40℃で5分間行った(11000 rpm)。遠心分離前のサンプル及び遠心分離後のサンプルの上澄み液を取り、RB濃度が4 μMになるように20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)を用いて希釈した。希釈後、UV/Vis Spectrophotometer(V-630, JASCO)を用いて吸光度を測定した(測定波長:400〜800 nm)。40℃のサンプルは、希釈後から測定直前まで50℃で保温した。測定は3回行い、標準偏差を算出した。
(2)結果
図6(A)にRB/G4-Phe-SO3Hデンドリマーのスペクトル測定の結果を示す。(a)は40℃、遠心分離前、(b)は40℃、遠心分離後、(c)は4℃、遠心分離後の結果である。図6に示されたスペクトルから、ピークトップ波長(549 nm)での吸光度を下記式
残存率=([4℃又は40℃での遠心分離後の吸光度]/[40℃での遠心分離前の吸光度])×100−[ピークトップ波長(549 nm)での吸光度]
に代入して溶液中の残存率を算出した。結果を図6(B)に示す。サンプル中のRB残存率は4℃で4%であり、40℃で82%であった。この結果より、本発明のデンドリマーは、温度変化を利用した効率的な物質分離に利用可能であることが示された。
8.G4-Phe-SO3Na、G3-Phe-SO3Na、G5-Phe-SO3Na及びG4-SO3Naの合成
デンドリマー「G4-Phe-SO3Na」、「G3-Phe-SO3Na」及び「G5-Phe-SO3Na」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<であり、末端基に-Phe残基-(CH2)3-SO3Naを有する、それぞれ第4世代(G4)、第3世代(G3)及び第5世代(G5)デンドリマーである。
デンドリマー「G4-SO3Na」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<であり、末端基にPhe残基を含むことなく-SO3Naを有する、下記の模式図に示される構造を有する第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
G4-Phe-SO3Naは次のとおりに合成した。
G4-Pheの合成までは、「1.G4-Phe-SO3Hの合成」で記載したとおりに行い、G4-Phe56を得た。
G4-Phe56 92.2 mg(2.27 μmol)を125 mM NaHCO3水溶液(2.8 mL) に溶解させた。1,3-プロパンスルトン 142.3 mg(1.17 mmol)をアセトニトリル(2.8 mL)に溶解させた。これら2つの溶液を混合し、窒素バブリング後、pH 8〜9下で室温にて攪拌した。5日後、HCl水溶液を加えてpHを一旦下げた後、NaOHを加えて約pH 8まで上げた。蒸留水で透析した後、125 mM NaHCO3水溶液で透析した。更に1日半、純水で透析した後、凍結乾燥し、G4-Phe-SO3Naを得た(収量:61 mg;収率:95%)。
図7(a)に、得られたG4-Phe-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。1H NMRの帰属は図1(f)に示したとおりに付した記号を用いて行った(特に言及しない限り、以下同様)。
7 ppm付近のPheのピークの積分値280を基準として、G4-Pheの末端に結合したスルホン酸のメチレン(2)のピークの積分値を算出すると128であることから、64末端の全てにSO3Na基が結合したと見積もることができた。よって、得られたG4-Phe-SO3Naは、G4-Phe56-(SO3Na)64であることが判明した。
G3-Phe-SO3Naは次のとおりに合成した。
G3-Pheの合成までは、第3世代PAMAMデンドリマー(末端基:分岐部分の末端部NH2)を用いて「1.G4-Phe-SO3Hの合成」で記載した方法に準じて行い、G3-Phe28を得た。
G3-Phe-SO3Naは、G3-Phe28117.0 mg(7.97 μmol)と1,3-プロパンスルトン 313.8 mg(2.57 mmol)とを用いてG4-Phe-SO3Naについてと同様にして得た(収量:78 mg;収率:88%)。
図7(b)に、得られたG3-Phe-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
G4-Phe-SO3Naについてと同様にして、全32末端中30にSO3Na基が結合したと見積もることができた。よって、得られたG3-Phe-SO3Naは、G3-Phe28-(SO3Na)30であることが判明した。
G5-Phe-SO3Naは次のとおりに合成した。
G5-Pheの合成までは、第5世代PAMAMデンドリマー(末端基:分岐部分の末端部NH2)を用いて「1.G4-Phe-SO3Hの合成」で記載した方法に準じて行い、G5-Phe112を得た。
G5-Phe-SO3Naは、G5-Phe112138.1 mg(1.94 μmol)と1,3-プロパンスルトン 381.3 mg(3.12 mmol)とを用いてG4-Phe-SO3Naについてと同様にして得た(収量:82 mg;収率:97%)。
図7(c)に、得られたG5-Phe-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
G4-Phe-SO3Naについてと同様にして、全128末端中121にSO3Na基が結合したと見積もることができた。よって、得られたG5-Phe-SO3Naは、G5-Phe112-(SO3Na)121であることが判明した。
G4-SO3Naは、第4世代PAMAMデンドリマー(末端基:分岐部分の末端部NH2) 36.4 mg(2.56 μmol)と1,3-プロパンスルトン168.4 mg(1.38 mmol)とを用いてG4-Phe-SO3Naについてと同様にして得た(収量:45 mg;収率:93%)。
図7(d)に、得られたG4-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
2.27 ppmのピークの積分値248を基準として、G4の末端に結合したスルホン酸のメチレン(1)(1.75 ppm)のピークの積分値を算出すると172であることから、スルホン酸の結合数は86と見積もられた。
9.温度依存性透過率(濁度)の測定(2)
9.1.測定手順
1 mg/mL(バッファー濃度20 mM)のデンドリマーサンプルについて、UV/Vis Spectrophotometer(V-630, JASCO)により、透過率の温度変化を測定した。温度の調整にはペルチェホルダ(ETC-717, JASCO)を用いた。測定条件は次のとおりであった:測定波長:500 nm、昇温速度:1℃/min、測定間隔:0.1℃、バンド幅:1.5 nm。
1 mg/mLサンプルは次のように作製した。700 μLの蒸留水に100 μLの10 mg/mLデンドリマー水溶液を混ぜ、目標のpHになるようにpHが異なるバッファー液を200 μL加えた。バッファー液としては、目標pHが5以下4以上のときには100 mM酢酸バッファー液(酢酸水溶液+酢酸ナトリウム水溶液)を、目標pHが6以上のときのときには100 mMリン酸バッファー液(リン酸二水素ナトリウム水溶液+リン酸水素二ナトリウム水溶液)を、目標pHが3以下のときにはグリシン-塩酸バッファー液を用い、目標pHが11以上のときにはリン酸バッファー液を100 mM NaOH水溶液と共に用いた。
G4-Phe-SO3Na、G3-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naについては、比較のために、等モル濃度(32 μM)のサンプルでも測定を行った。
9.2.測定結果(1)
G4-SO3Naについての測定結果を図8に示す。
G4-SO3Naのサンプルは、pH 5及び6.5のいずれでも、測定温度範囲内で透過率が100%であり、温度応答性もpH応答性も示さなかった。このことと、「5.2.測定結果(1)」に示した結果から、デンドリマーの内部三級アミノ基並びに末端のPhe残基及び強酸基がpH応答性及び温度応答性の発現に重要な役割を果たしていることが理解できる。
9.3.測定結果(2)
G4-Phe-SO3Na、G3-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naについて、1 mg/mLサンプルでの測定結果を図9及び表3に、32 μMサンプルでの測定結果を図10及び表3に示す。
Figure 2021080445
図9及び10並びに表3より、G4-Phe-SO3Na、G3-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naはいずれも、pH 5でLCST型相転移を示し、pH 6.5でUCST型相転移を示す。このことから、デンドリマーの世代数に関わらずpHに応じてLCST型/UCST型の温度相転移がスイッチすることが理解できる。
32 μMサンプルで、LCST型相転移を示すpH 5にて、G4-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naは45℃で相転移したが、G3-Phe-SO3Naはより高い63℃で相転移した。この結果は、G3-Phe-SO3Naが、G4-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naと比較して、疎水性になり難いことを示している。これは、理論に拘束されることを意図しないが、G3-Phe-SO3Naが球状でないため、Phe分子間に効果的な相互作用が生じ難いからであると考えられる。
一方、UCST型を示すpH 6.5において、相転移温度は、G3-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3Naについて高温側にシフトした。この結果は、G3-Phe-SO3Na及びG5-Phe-SO3NaがG4-Phe-SO3Naと比較して、溶解し難いことを示している。これは、理論に拘束されることを意図しないが、G3-Phe-SO3Naについては、球状でないため表面積が大きくなり、分子間相互作用が強くなったからであると考えられ、G5-Phe-SO3Naについては、分子間相互作用の作用点が増えた結果、凝集し易くなったからであると考えられる。
10.G4-Phe-BSO3Na、PEI-Phe-SO3Na及びDGL-Phe-SO3Naの合成
デンドリマー「G4-Phe-BSO3Na」は、コアがエチレンジアミンであり、分岐部分が-CH2CH2CONHCH2CH2N<であり、末端基に-Phe残基-(CH2)4-SO3Naを有し、下記の模式図に示される構造を有する第4世代(G4)デンドリマーである。
Figure 2021080445
ハイパーブランチポリマー「PEI-Phe-SO3Na」は、末端基に-Phe残基-(CH2)3-SO3Naを有し、下記の模式図に示される構造を有するポリエチレンイミン(PEI)である。PEIの分岐部分は第三級アミンである。PEIは、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンを1:2:1の割合で含むとされる。
Figure 2021080445
デンドリグラフトポリマー「DGL-Phe-SO3Na」は、末端基に-Phe残基-(CH2)3-SO3Naを有するデンドリグラフトポリリシン(DGL)である。DGLの分岐部分は炭化水素基(-CH<)である。
G4-Phe-BSO3Naは、G4-Phe62120 mg(3.95 μmol)と1,4-ブタンスルトン 303 mg(2.98 mmol)とを用いて上記8でG4-Phe-SO3Naについて記載した方法に従って得た(収量:27 mg;収量:33%)。
Figure 2021080445
図11に、得られたG4-Phe-BSO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
7 ppm付近のPheのピークの積分値310を基準として、4.2 ppm〜1.5 ppmのピークの積分値は1512であった。この値からデンドリマーとPheのHα(4.2 ppm)及びHβ(3.32 ppm)のピークの積分値を減算してメチレン(1)〜(4)に相当するピークの積分値を算出すると334であることから、42の末端にSO3Na基が結合したと見積もられた。よって、得られたG4-Phe-BSO3Naは、G4-Phe62-(SO3Na)42であることが判明した。
PEI-Phe-SO3Naの合成は下記のように行った。
Figure 2021080445
PEI 70k(30%水溶液,ナカライテスク)から凍結乾燥により得たPEI 70K 65.3 mg(0.933 μmol)をメタノール2 mLに溶解させ、続いてPhe-Boc 181 mg(0.682 mmol)及びDMT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド) 283 mg(1.023 mmol)を順に加えた。pH試験紙でpH 7であることを確認し、室温で24時間攪拌した。メタノールで透析を1日半行った。メタノールを減圧留去後、凍結乾燥してPEI-(Phe-Boc)を得た(収量:206 mg;収率 〜100%)。
図12(a)に、得られたPEI-(Phe-Boc)の1H NMRスペクトルを示す。
7 ppm付近のPheのピーク(Phenyl)の積分値5を基準として、Boc基(1.31 ppm)のピーク(Boc)の積分値を算出すると9であり、4.3 ppm〜2.2 ppmの積分値(PEI)は溶媒のピークの積分値を減じて15と求まった。よって、PEIの全末端にPhe-Bocが結合すれば、Phenyl:Boc:PEI = 5 : 9 : 15になる。PEIの繰返しユニットに由来するプロトン数は15であることから、得られたPEI-(Phe-Boc)はPEI-(Phe-Boc)allであることが判明した。
次いで、G4-Pheの合成について上記1に記載された方法と同様にして、TFAを用いてBoc基の脱保護を行い、PEI-Pheを得た(収量:104 mg;収率:132%)(図12(b))。
更に、G4-Phe-SO3Naについて上記8に記載された方法と同様にして、1,3-プロパンスルトン 390.9 mg(3.20 mmol)を用いてPEI-Phe-SO3Naを得た(収量:10 mg;収率:9%)。
図12(c)に、得られたPEI-Phe-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
7 ppm付近のPheのピークの積分値5を基準として、スルホン酸側鎖のメチレン(2)に由来するピークの積分値を算出すると0.7であることから、35%の末端にスルホ基が結合したと見積もることができた。
DGL-Phe-SO3Naの合成は下記のように行った。
Figure 2021080445
デンドリグラフトポリL-リシン(DGL)(Dendri-Grafted Poly-L-Lysine G3 Amino Surface,COLCOM社;アミノ末端数123) 40.8 mg(1.85 μmol)を蒸留水/DMF(v/v%=1)混合溶媒に溶解させ、PEI-Phe-SO3Naの合成について記載された方法と同様にして、DGL-(Phe-Boc)を得た(収量:62 mg;収率:64%)。
図13(a)に、得られたDGL-(Phe-Boc)の1H NMRスペクトルを示す。
7 ppm付近のPheのピーク(Phenyl)の積分値5を基準として、リシン由来のHα及びHε並びにPhe由来のHα及びHβのピーク(2.60〜4.67 ppm)の積分値は、溶媒のピーク(3.23 ppm)の積分値を減じて7と求まった。また、リシン由来のHβ、Hγ及びHδ並びにBoc基のピークの積分値は15と求まった。得られた積分値の比がDGLの全末端にPhe-Bocが結合した場合のプロトン比と一致することから、得られたDGL-(Phe-Boc)は、DGLの全ての末端にPheが結合したもの(DGL-(Phe-Boc)123)と考えられた。
次いで、G4-Pheの合成について上記1に記載した方法と同様にして、TFAを用いてBoc基の脱保護を行い、DGL-Phe123を得た(収量:56 mg;収率:86%)(図13(b))。
更に、37℃にて、G4-Phe-SO3Naについて上記8に記載した方法と同様にして、1,3-プロパンスルトン 131.4 mg(1.07 mmol)を用いてDGL-Phe-SO3Naを得た(収量:19 mg;収率:36%%)。
図13(c)に、得られたDGL-Phe-SO3Naの1H NMRスペクトルを示す。
2.6 ppm〜4.4 ppmのピークの積分値は1088であった。この値からポリ-L-リシン及びPhe由来のピークの積分値を減算してメチレン(1)及び(3)に相当するピークの積分値を算出すると341であることから、85の末端にSO3Naが結合したと見積もられた(結合率69%)。よって、得られたDGL-Phe-SO3Naは、DGL-Phe123-(SO3Na)85であることが判明した。
11.温度依存性透過率(濁度)の測定(3)
11.1.測定手順
測定手順は、上記9.1に記載のとおりである。測定は、1〜5 mg/mL(バッファー濃度20 mM)のサンプルについて行った。

11.2.測定結果
G4-Phe-BSO3Naについて、pHに加えて濃度も変化させたときの測定結果を図14に示す。
G4-Phe-BSO3Naは、pH 5及びpH 9では、測定温度範囲内において溶解しており、温度応答性を示さなかった一方、pH 7では、1〜5 mg/mLの濃度にてLCST型相転移を示した。
また、pH 8では高濃度(5 mg/mL)にてUCST型の温度応答性を示した。これは、理論に拘束されることを意図しないが、高濃度では分子間で相互作用し易くなるため、低温領域での透過率が顕著に低くなったためと考えられる。
PEI-Phe-SO3Naについての測定結果を図15に示す。
PEI-Phe-SO3Naは、pH 5では、測定温度範囲内において溶解しており、温度応答性を示さなかった。
一方、pH 6.5及び7での透過率は、温度上昇につれ、一旦低下した後上昇するU字型温度応答性を示した。このことから、PEI-Phe-SO3Naは、pH 6付近〜7付近のとき、低温領域ではLCST型相転移を示し、高温領域ではUCST型相転移を示すことが理解できる。
DGL-Phe-SO3Naについての測定結果を図16に示す。
DGL-Phe-SO3Naは、pH 7ではUCST型相転移を示す一方、pH 4及び6.5では、測定温度範囲内において凝集状態で分散し、LCST型の相転移を示さなかった。このことから、末端基(この場合、-Phe-SO3Na)がUCST型相転移に関与し、樹状ポリマーの内部第三級アミンがLCST型の相転移に必要であると考えられる。
上記で合成した4種の樹状ポリマー(G4-Phe-SO3Na、G4-Phe-BSO3Na、PEI-Phe-SO3Na及びDGL-Phe-SO3Na)のpH及び温度依存性を表4にまとめる。
Figure 2021080445
上記結果から、本発明の樹状ポリマーの末端におけるPhe残基と強酸基(又はその塩)との間の結合態様(例えば、間隔)が変化しても、pHによるLCST/UCSTスイッチングは保持されることが理解できる。
また、樹状ポリマーの内部第三級アミン及び末端強酸基がpH及び温度二重応答性に関与していることが再度確証された。すなわち、樹状ポリマーは、分岐部分が第三級アミンであれば、末端基にPhe残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含むことにより、pH及び温度二重応答性を示すこと、より具体的には、pHに依存して、LCST型/UCST型の温度相転移がスイッチし得ることが示された。
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書または添付図面に記載された具体的な構成および配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法、および装置は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解すべきであり、そして容易に認識する。

Claims (11)

  1. 複数の分岐部分と複数の末端基を有するpH及び温度二重応答性樹状ポリマーであって、前記複数の分岐部分が第三級アミンであり、前記複数の末端基の少なくとも一部がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含み、該フェニルアラニン残基と強酸基又はその塩とを含む末端基はそのフェニルアラニン残基のカルボニル基側で前記分岐部分に連結していることを特徴とするpH及び温度二重応答性樹状ポリマー。
  2. より低いpH条件下でLCST型相転移挙動を示し、より高いpH条件下でUCST型相転移挙動を示す、請求項1に記載の樹状ポリマー。
  3. 強酸基がスルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基及び硫酸基からなる群より選択される、請求項1又は2に記載の樹状ポリマー。
  4. 強酸基がスルホン酸基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹状ポリマー。
  5. 末端基が-(フェニルアラニン残基)-R-SOH (式中、Rは、ハロゲン、C〜Cアルキル及びC〜Cアルコキシの1以上で置換されていてもよいC〜Cアルキレン又はC〜Cシクロアルキレンであり、フェニルアラニン残基のアミノ基に結合している)又はその塩である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹状ポリマー。
  6. 樹状ポリマーがデンドリマーである請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹状ポリマー。
  7. 末端修飾ポリアミドアミンデンドリマー又は末端修飾ポリプロピレンイミンデンドリマーである請求項6に記載の樹状ポリマー。
  8. 樹状ポリマーがハイパーブランチポリマーである請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹状ポリマー。
  9. 末端修飾ポリエチレンイミン又は末端修飾ポリプロピレンイミンである請求項8に記載の樹状ポリマー。
  10. 複数の末端基の少なくとも50%がフェニルアラニン残基と該残基のアミノ基側の強酸基又はその塩とを含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹状ポリマー。
  11. 可溶性物質を含む溶液から該可溶性物質を分離する物質の分離方法であって、前記溶液中において、請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹状ポリマーの下限臨界溶液温度(LCST)より高い温度又は上限臨界溶液温度(UCST)より低い温度で形成される不溶化状態の該樹状ポリマーに前記可溶性物質を担持させることを特徴とする方法。
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