JP2021066913A - 金属微粒子分散オイル、並びに、その製造方法及びその製造装置 - Google Patents

金属微粒子分散オイル、並びに、その製造方法及びその製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】界面活性剤を含むことなく、凝集沈降がない、安定した金属化合物の微粒子分散オイルを提供すると共に、その製造方法及び製造装置を提供する。【解決手段】本発明の微粒子分散オイルは、物理蒸着(PVD)法を用いて、金属化合物から放出される粒子状物質が、対流しているオイル内部と略揺動しないオイル表面とが形成されているオイル表面上に投下されて製造されることを特徴とする、平均粒子径が5〜500nmである金属化合物の微粒子分散オイルである。また、その製造法は、PVD法を用い、上記粒子状物質が、対流しているオイル内部と略揺動しないオイル表面とが形成されているオイル表面上に投下されて製造されることを特徴とする。微粒子分散オイルの製造装置は、上記粒子状物質が飛行する空間とオイル表面が接触するように、オイルの容器が配備されている。【選択図】図1

Description

本発明は、金属、合金、及び、金属酸化物等の微粒子分散オイル及びその製造方法に関する。特に、分散剤を含まない、電子・電気的機能、光学的機能、力学的機能、及び、生化学的機能等を有する金属ナノ粒子分散オイル及びその製造方法に関する。
1960年頃に、ナノテクノロジーが提唱されて以来、微粒子、特に、サブミクロンオーダー以下の粒子径であるナノ粒子の寸法及び形態の効果、すなわち、比表面積及び特性の激変、に対する期待が高まり、ナノ粒子の材料技術から製造及び加工技術まで幅広いテクノロジーが開発されてきた(非特許文献1)。
特に、材料技術に関しては、従来にない、電気的、磁気的、光学的、力学的、及び、生化学的等の機能を有する高機能性材料として、有機物質から無機物質まで各種素材のナノ粒子が開発され、電子デバイス分野ばかりではでなく、生活に密着した化粧品、建材、及び、スポーツ製品等あらゆる分野で実用化されつつある(非特許文献2〜4)。
電気的機能材料に関しては、超微細配線のための導電体、無抵抗送電線のための高温超電導体、リチウムイオン電池、太陽電池、及び、燃料電池のための半導体及び固体電解質、光触媒、人工光合成、及び、熱電変換素子のための半導体等に、磁気的機能については、磁気抵効果素子(MR素子、Magneto Resistive Sensor)及び磁気抵抗メモリ(MRAM、Magnetoresistive Random Access Memory)のための磁性体、並びに、強誘電体メモリ、センサ、インクジェットヘッドのための強誘電体等への適用が検討されている。光学的機能材料に関しては、ディスプレイ等のための蛍光体及び発光体等のナノ粒子化に対する関心が高い(非特許文献1、2、及び、5)。力学的機能材料に関しては、構造材料のための無機材料のナノ粒子化及びその分散技術に注力されているが、軽量化という観点から、セルロースナノファイバーに代表される有機材料のナノ粒子化及びその応用の開発も進んでいる(非特許文献6)。そして、生化学的機能材料としては、化粧品、食品、及び、包材等への抗菌性金属ナノ粒子の応用が注目され、既に実用化されている(非特許文献3及び4)。
特に、電子デバイスの小型化及び高密度化の鍵となる超微細配線は、フォトリソグラフィーの限界もあり、導電体として、銅(Cu)、銀(Ag)、及び、金(Au)ナノ粒子を様々な方法で活用することが活発に試みられている。Agペーストのインクジェットプリンティング、或いは、無電解メッキ等のAuナノ粒子の選択的吸着又は集積等により、数μm幅の微細配線が可能となってきた(非特許文献7〜9)。
また、化粧品分野では、既に、日焼け止めのためのに酸化ケイ素(SiO)や酸化亜鉛(ZnO)等の微粒子やナノ粒子が利用されてきたが(非特許文献4)、近年、Pt、Au、及び、Ag等のナノ粒子が、皮膚及び頭皮等の酸化を抑制する効果を有していることが明らかとなり、化粧品や皮膚外用剤に応用されつつある(特許文献1及び2)。
このように、種々の材料の微粒子及びナノ粒子に対する期待が高く、これらの製造技術の開発が、気相法及び液相法を中心に活発に進められてきた。しかし、これらの製造技術には、次のような様々な課題がある。なお、固相法は、様々な物質の粒子の量産技術として使用されているものの、粒子サイズの限界が1μm程度であり、微細な純度の高いナノ粒子を製造することは困難である上、分級という操作が必要であり、本技術分野の微粒子及びナノ粒子の製造技術には相応しくないと考えられる。
微粒子及びナノ粒子を、上述したように、電子素子、家庭・台所用品、食品容器・包材、衣料品、文具・おもちゃ、電子・電気素子や機器の筐体、住宅・建材等に適用する場合にも、機能水、化粧品、及び、皮膚外用剤等に微粒子及びナノ粒子を適用する場合、用途に応じた媒体に分散する必要があるが、微粒子及びナノ粒子の寸法及び形態の効果、すなわち、比表面積及び特性の激変が、逆に、一次粒子への分散の弊害となり、微粒子及びナノ粒子を凝集させてしまうため、微粒子及びナノ粒子の寸法及び形態の効果を発現することが困難になるという矛盾を生じる。一方、粒子径分布が広い微粒子及びナノ粒子は、媒体への分散においても、機能的にも、粒子径の大きな粒子の悪影響が大きいため、粒子径分布の狭い微粒子及びナノ粒子が好ましい。
このような微粒子及びナノ粒子の分散の問題を解決するため、分散剤と呼ばれる親水性部と疎水部を有する界面活性能を有する有機物質が添加されるのが一般的である。これは、微粒子及びナノ粒子の表面に吸着し、粒子径分布が多少広くても、媒体中における安定した分散を実現することができる。しかし、実際に使用する媒体を除去した状態では分散剤が残存するため、それらの特性を発揮するための阻害要因になるという問題がある(特許文献2及び3)。
このような問題がある中で、従来、微粒子及びナノ粒子の分散液を製造する方法として、液相法の一つである還元法がよく利用されてきた(例えば、特許文献1及び4)。この還元法には様々な方法があるが、一般に、金属塩又は金属錯体の水溶液又は有機溶媒溶液を加熱又は還元剤で還元することによって金属微粒子及びナノ粒子を容易に生成することができる。しかし、この還元法においては、金属微粒子及びナノ粒子が、安定した分散液として存在するための分散剤が必要とされる上、酸化還元に伴う副反応によって生起する残存物が混入し、これらが、金属微粒子及びナノ粒子が有する各種効能を低下する原因になるという問題がある。また、使用できる媒体の種類が限定されるという弊害もある。その他液相法としては、超臨界液体を用いる水熱合成法、加水分解、重縮合という化学反応を用いるゾル−ゲル法、溶解性金属塩から難溶性金属塩に変化させ、その沈殿物を焼成して製造する沈澱法、逆ミセル、ミセルを化学反応の場として利用する液中分散法等があるが、核形成、成長、停止という過程を経るため、粒子径の制御が困難で、数nm以下の微細なナノ粒子を製造することが難しく、分散剤を必要とし、不純物の混入を避けることができないこと、選択できる媒体の種類に限界があるという還元法と共通した問題がある。
分散剤を必要としないナノ粒子の製造方法には気相法がある。気相法には、化学蒸着(CVD)法、気相合成法、蒸発・凝集法等がある。CVD法は、プラズマ等によって活性化された反応性モノマーが加熱炉において化学反応し、核生成、凝縮、凝集を経てナノ粒子が形成されるものであるが、生産効率が低く、エネルギー効率が悪いため、製造コストが高い上、核生成、凝縮、凝集というプロセスを経るため、粒子径が不均一になるという課題もある。気相合成法は、金属塩化物の反応ガス中で、酸化・還元・窒化することによって、ナノ粒子を生成する方法で、分散剤は用いないが、原料に基づく不純物の混入という問題がある。蒸発・凝集法は、不活性ガス中で、レーザーアブレーション、スパッタリング、真空蒸着等の方法で金属を一旦蒸発させた後、冷却することによってナノ粒子を製造する方法であり、CVD法と同様の問題がある。しかも、このような気相法で製造された微粒子及びナノ粒子の表面に、微粒子及びナノ粒子を媒体中で安定して分散させることができる官能基等が形成されることがなく、使用する用途に応じた媒体に均一に分散するためには、やはり分散剤を必要とする。
このような状況において、分散剤を必要としない微粒子及びナノ粒子の製造方法が開発されている。例えば、金属のハロゲン化物を含む溶融塩にプラズマ照射することにより、金属イオンが還元され、金属微粒子を生成するプラズマ誘起カソード電解法(特許文献5)、液体中に設置した金板に、パルスレーザーをレーザースポットが金板上で重ならないようにスキャンして照射し、金ナノ粒子を液体中に分散させる液相レーザーアブレーション法(特許文献6)、及び、超音波を照射して水系溶媒中に貴金属酸化物を分散させた貴金属酸化物分散液に還元剤を添加し、マイクロ波を照射して貴金属ナノ粒子を得るマイクロ波合成法(特許文献7)等が提案されている。プラズマ誘起カソード電解法は、溶融塩中に微粒子が生成するため、プラズマ照射終了後、冷却した溶融塩を蒸留水等で洗浄、乾燥して微粒子を取り出さなければならないという問題がある上、結局媒体への分散には分散剤が必要である。液相レーザーアブレーション法も、均一な微粒子を生成することが困難であるという課題があり、フェムト秒の極短パルスレーザーレーザーの使用及びレーザーの照射方法の工夫が必要である。また、いずれも、極めて生産性が悪く、エネルギーロスが大きいため、実用化されるには更なる装置上の改良が必要であると考えられる。マイクロ波合成法は、上記還元法と同様、酸化還元に伴う副反応によって生起する残存物の混入という問題がある上、球状カーボンを金属ナノ粒子の担体として使用するため、不純物の混入が避けられないという問題もある。
一方、生産安定性という観点からは、工業的に実用化されている真空蒸着やスパッタリング等の物理蒸着(PVD)法を微粒子及びナノ粒子の製造に適用することができれば好ましい。PVD法による微粒子及びナノ粒子の生成は、PVD法による成膜に至るまでのプロセスの制御、すなわち、真空蒸着やスパッタリング等によって放出される金属蒸気が、基板や担持体上で金属微粒子となった時点で成長を停止することによって行われることが認められており、太陽電池の半導体層への適用が開示されている(特許文献8)。この方法によれば、粒子径及びその分布を制御することが可能で、不純物を含まない金属及び金属酸化物等多岐に亘る種類の微粒子及びナノ粒子を製造することができるが、プロセス制御が困難なため、その製造方法の改良が施されてきた(特許文献9及び10)。また、この場合も乾式の微粒子及びナノ粒子製造法であり、製造後、使用する用途に応じた媒体に均一に分散しなければならない。
その点、活性液面連続真空蒸発法は、PVD法を用い直接金属ナノ粒子分散液を合成する方法として興味が持たれる(特許文献11)。すなわち、界面活性剤を含むオイルを回転自在な真空ドラム内に注入し、真空ドラム内に備えられた坩堝に非磁性金属材料を装填してから、真空ドラム内を減圧するとと共に真空ドラムを回転させた状態で、真空ドラムの内壁面に非磁性金属材料を蒸着して金属ナノ粒子分散オイルを製造する方法である。しかし、この方法から明らかなように、界面活性剤を必要とするという問題がある。
特開2005−179500号公報 特開2015−067556号公報 特開2006−176475号公報 特開2007−176944号公報 特許第4755567号 特開2009−299112号公報 特許第4872083号 特開2009−246025号公報 特開2009−511754号公報 特許第5802811号 特許第5696999号
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本発明は、上記従来技術の課題を解決した、分散剤を含まず、粒子径分布の狭い金属、合金、及び、金属酸化物等の微粒子及びナノ粒子が安定に分散されたオイルを提供すると共に、その製造方法を提供することを目的としている。
本発明者らは、ターゲット物質として銀を用いた直流電源(DC)マグネトロンスパッタリングによって、低粘度で、引火点が高く揮発性の低い、シリコンオイル表面に銀粒子を衝突させることによって、分散剤を必要とせず、長期間に亘って安定した銀ナノ粒子分散オイルを維持することを見出し、種々検討、改良を加えることによって本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、PVD法を用いて金属化合物から放出される粒子状物質が、対流しているオイル内部と略揺動しないオイル表面とが形成されている、オイル表面上に投下されて製造されることを特徴とする、平均粒子径が5〜500nmである金属化合物の微粒子分散オイルを提供するものである。微粒子分散オイルの分散安定性の観点から、平均粒子径は、50〜300nmの範囲にあることがより好ましく、100〜200nmであることがより更に好ましい。また、微粒子の濃度も、分散安定性の観点から、300〜20,000ppmであることが好ましく、300〜10,000ppmであることがより好ましい。しかし、微粒子分散オイルを利用するためには、濃度が高い程好ましいが、分散安定性も考慮すると、500ppm〜20,000ppmであることが好ましく、1,000〜10,000ppmであることがより好ましい。
金属化合物としては、特に限定されないが、金属、合金、金属酸化物、合金酸化物、並びに、前記金属、前記合金、前記金属酸化物、及び、前記合金酸化物から選択される少なくとも二つ以上が含まれる金属化合物のいずれか一つ以上の金属化合物を適用することができる。
金属は、高軽度金属以外の、遷移金属、ポスト遷移金属、及び、半金属から選択される一つ以上の金属を用い微粒子分散オイルを製造することができる。特に、金(Au)、プラチナ(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、及び、シリコン(Si、Silicon)から選択されるいずれか一つ以上を含む微粒子分散オイルは、電気的、磁気的、光学的、力学的、及び、生化学的等の機能を有する高機能性材料への利用可能性が高く、望ましい素材である。これらの金属の酸化物から選択されるいずれか一つ以上を含む微粒子分散オイルも同様である。
中でも、導電性ペースト等の電気的機能材料としては、Cu、Ag、及び、Au等、化粧品等の生化学的機能材料としては、抗菌性や抗酸化性を有する、Pt、Au、Ag、Cu、及び、Zn等の微粒子分散オイルが期待される。また、既に、日焼け止めのために利用されてきたSiOやZnO等の微粒子の分散オイルにも適用可能である。
本発明の微粒子分散オイルには、合金も、一般的な、鉄基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、及び、ニッケル基合金から選択されるいずれか一つ以上を適用することができ、並びに、これらの合金の酸化物から選択されるいずれか一つ以上を含む微粒子分散オイルとすることによって、様々な機能材料として応用できる可能性がある。その他の合金の酸化物としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)やアンチモンドープ酸化スズ(ATO)の微粒子分散オイルも製造でき、電気的機能材料として期待される。
一方、オイルは、引火点が200℃以上で150℃×24時間の揮発分が0.5%以下、220℃における蒸気圧が1tоrr以下、25℃における動粘度が30〜5,000cSt、及び、25℃における比重が0.960〜1.100の少なくともいずれか一つ以上の条件を満足するオイルであれば、特に限定されず、合成オイル、鉱物オイル、植物オイル、及び、動物オイルを用いることができる。これら3条件のうち、前二者は、PVD法が、真空系で行われることに起因しており、後二者は、微粒子の安定した分散状態の生成と密接に関係している。特に、25℃における動粘度は、微粒子分散オイルの製造及び分散安定性の観点から、50〜1000cStであることが好ましく、50〜500cStであることがより更に好ましい。動粘度が低すぎると、分散安定性が低下し、動粘度が高すぎると、微粒子分散オイルの製造が困難となる。
しかし、不純物が少なく、熱的及び化学的等の安定性に優れている合成オイルが好ましい。合成オイルは、化学構造や含有元素等により様々に分類されるが、含有元素により分類した名称でいえば、上記条件を満足する、炭化水素系オイル、エステル系・エーテル系オイル、リン酸エステル系オイル、シラン系オイル、シリコーン(Silicone)系オイル、フッ素系オイル、塩素系オイルをいずれも適用することができる。
そして、合成オイルでも、炭素(C)及び水素(H)を構成元素とする炭化水素系オイル、C、H,及び、酸素(O)を構成元素とするエーテル系オイル、C、H、及び、Siを構成元素とするシラン系オイル、並びに、C、H、O、及び、Siを構成元素とするシリコーン系オイルが、熱的及び化学的安定性が高く好ましく用いられる。
特に、炭化水素系オイルとしては、ポリオレフィンオリゴマー及びアルキルベンゼン、エーテル系オイルとしては、ポリグリコール及びポリフェニルエーテル、シラン系オイルとしては、ポリアルキルシラン及びポリフェニルシラン、シリコーン系オイルとしては、ポリシロキサンを骨格構造とするシリコーン化合物であれば、特に限定されないが、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、及び、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、並びに、エポキシ基、アミノ基、水酸基、フェノール基、カルビノール基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、及び、アルコキシ基等を化学結合させて変性した反応性の各種ポリシロキサン、並びに、ポリエーテル基、アルキル基、アラルキル基、フロロアルキル基、脂肪酸エステル基、脂肪酸アミド基、及び、フェニル基等を化学結合させて変性した非反応性の各種ポリシロキサンの化学構造を有する有機化合物を適用することが好ましい。反応性を有する各種ポリシロキサンは、これらから選択される一つ以上を用い、また、その他の反応性樹脂とブレンドすることによって、フィルムや成形体に架橋することができるので、使用方法に応じて選択することができる。
中でも、シリコーン系オイルを用いた場合、微粒子分散オイルを安定して製造することができる上、製造後も長期間に亘って凝集することがない分散安定性に優れた微粒子分散オイルとして維持されるため、最も好ましい。これは、シリコーン系オイルが、熱的及び化学的安定性に加え、不燃性で安全性が高く、耐寒性、粘度安定性、及び、腐食性に優れ、電気及び熱伝導性が低く、安定している上、表面張力が小さいという特性に基づいている。
そして、このようなシリコーン系オイルは、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社等から多数市販されている。特に、信越化学工業(株)製のKFシリーズのストレートシリコーンや変性シリコーン、東レ・ダウコーニング(株)のXIAMETER(登録商標)PMX−200シリーズのポリジメチルシロキサン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSFシリーズのストレートシリコーンや変性シリコーン等が好ましい。
これらの特性を有するシリコーン系オイルが、金属化合物の微粒子分散オイルに適している理由は定かではないが次のように考えられる。既に、シリコン基板上等には、金属ナノ粒子が形成されている報告があるので、まず、その場合の金属ナノ粒子の生成機構を考える(特許文献8)。蒸着やスパッタリング等のPVDにより金属化合物等から放出される粒子状物質の基板上における成膜機構は、一般的に、Volmer−Weber(VW)成長、Frank−van der Merwe(FM)成長、Stranski−Krastanov(SK)成長の3様式があると言われている(非特許文献10)。そして、この中でも、VW成長様式、つまり、成長の初期段階から三次元的な島状の核が形成され,それらが蒸着量の増加と共に成長して合体し、やがて連続的な膜となる「島状成長(Island Growth)様式」に着目すると、PVD法により金属化合物等から放出される粒子状物質が、成膜初期において、基板上に3次元の島状構造を形成し、隣接する3次元の島状構造と合体して成長、又は、3次元の島状構造への粒子状物質の堆積による成長が生じるが、これらが連続した膜になる前にPVDを停止すれば、金属化合物等のナノ粒子又は微粒子が生成することになる。そして、この停止条件は、PVDにより放出される物質の種類、基板の表面エネルギー、温度等様々なパラメーターによって差異があり、ナノ粒子又は微粒子の生成の難易度が異なるものと考えられる。このような基板上で生成するナノ粒子又は微粒子の生成機構が、オイル表面上でも生起しているものと推測される。そこで、シリコーン系オイルが最も好ましいのは、表面張力が小さいため、PVDにより金属化合物等から放出される粒状物質との濡れ性が悪いため、3次元の島状構造を形成し易く、隣接する3次元の島状構造と合体して成長、又は、3次元の島状構造への粒子状物質の堆積による成長が生じ易いものと推測される。そして、これらが成膜に至る前に、適切な動粘度及び比重のオイルであれば、オイル内に沈降するが、長期間に亘り凝集することなく、分散安定性に優れた微粒子分散オイルが生成される。通常、微粒子を液体に分散するためには、分散剤を使用するように、固液界面の表面張力を低下させるので、本発明の微粒子分散オイルの高度な分散安定性は、表面張力の小さいシリコーン系オイル中に微粒子が存在していることが関係しているのではないかと推測している。
このような微粒子分散オイルが生成するのは、その製造方法が密接に関係している。すなわち、本発明の微粒子分散オイルの製造方法は、PVD法を用い、金属化合物から放出される粒子状物質が、対流している動的オイル内部と略揺動しない静的オイル表面とが形成、維持されている、オイル表面上に投下されて製造されることを特徴としている。
特にここで重要な点は、相反する状態の動的なオイル内部と静的オイル表面とが、容器に貯留されるオイルに形成されている静的オイル表面に、PVD法により、金属化合物から放出される粒状物質が投下されることである。上述したような、オイル表面上における微粒子の生成機構のためには、基板のように安定した平面が必要であり、生成した微粒子がオイル中で分散するためには、オイル内部は対流している必要があると考えられる。
PVD法については、特に限定されないが、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、及び、イオンビーム蒸着法のいずれかであることが好ましい。新旧蒸着法は、抵抗加熱式、高周波誘導加熱式、電子ビーム加熱式、アーク放電式、レーザーアブレーション、及び、分子線エピタキシ等を、スパッタリング法は、二極マグネトロン式、DCマグネトロン式、交流電源(AC)マグネトロン式、高周波(RF)マグネトロン式、デュアル(Dual)マグネトロン式、ECR(Electron Cyclotron Resonance)式、カソードアーク式、及び、反応性スパッタリング等を、イオン化蒸着法としては、DCイオンプレーティング、RFイオンプレーティング、クラスタイオンプレーティング、及び、ホロカソードディスチャージ等を、そして、イオンビーム蒸着法は、イオンビーム蒸着、イオンビームアシスト蒸着、及び、イオンビームスパッタリング等を適用することが好ましい。特に、様々な金属化合物をターゲットとして使用することが可能なスパッタリング法がより好ましい。
本発明の微粒子分散オイルの製造方法において、重要な点は、容器に貯留されたオイルの内部は動的オイルの状態に、その表面は静的オイルの状態を形成し、維持することであることを説明したように、本発明の微粒子分散オイルの製造装置には、そのような状態を形成し、維持することができる機構を備えていることを特徴としている。すなわち、本発明の微粒子分散オイルの製造装置は、PVD装置を備え、金属化合物等から放出される粒子状物質が飛行する空間とオイル表面が接触するように、オイルの容器が配備されていることを特徴とする微粒子分散オイルの製造装置である。好ましくは、更に、オイル表面が略揺動されない状態で、オイルが撹拌される撹拌手段が備えられていることを特徴とする微粒子分散オイルの製造装置である。
上記撹拌手段は、より具体的に説明すると、オイルが貯留される容器に、一つ以上の撹拌羽が周設される撹拌軸を含む撹拌手段であって、少なくともその撹拌羽が、オイルに浸漬されて回動可能に備えられ、撹拌軸の回動によってオイルが撹拌されることを特徴としている。撹拌軸は、オイルに必ずしも浸漬されている必要はないが、浸漬されていることが好ましい。撹拌羽の枚数は、少なくとも一枚あればよいが、2〜4枚であることが、容器に貯留されているオイルに、動的オイル内部と静的オイル表面を形成し、維持する上で好ましい。特に、この撹拌羽が、長方形の平板状で、水平面に対し0〜45°の傾斜角を持って、撹拌軸に周設されることが、容器に貯留されるオイルに、動的オイル内部と静的オイル表面を形成し、維持する上でより好ましい。しかし、撹拌軸の回転速度、撹拌羽の形状、及び、オイルの粘度等により傾斜角を調整する必要があり、同じ粘度のオイルでも、撹拌軸の回転速度及び撹拌羽の形状等により傾斜角を調整する必要がある。本発明のオイルの動粘度範囲であれば、長方形の平板状の大きさにかかわらず、回転速度10〜70RPMの範囲において、0〜45°、より好ましくは、5〜30°の傾斜角であれば、動的オイル内部と静的オイル表面を容易に形成することができる。回転速度が速く、傾斜角が大きいと、静的オイル表面が揺動するため、微粒子の形成が不安定で、皮膜を形成する場合もある。逆に、回転速度が遅く、傾斜角が小さいと、動的オイル内部の対流が不足して微粒子の分散が不十分になる。
ただし、本発明の製造装置を用いて微粒子分散オイルを製造する場合、周辺の温度差や圧力差により、オイルが自発的に対流を生じるため、撹拌装置を必ずしも必要とすることなく、微粒子分散オイルの製造を行うことが可能である。しかし、微粒子の均一な分散や製造速度を考慮した場合、上記撹拌装置があることが好ましい。
更に、本発明の微粒子分散オイルの製造装置は、オイルが貯留される容器の直上に、オイル表面だけが粒子状物質に暴露されるように、粒子状物質の遮蔽手段が備えられていることを特徴としている。これは、オイルを貯留する容器の器壁とオイル界面や撹拌軸がオイル表面から出ている場合の撹拌軸とオイル界面では、撹拌によるオイルの速度勾配が生じ、粘性のあるオイルの揺動が激しく、静的オイル表面が破壊されるため、微粒子が凝集したり、金属化合物から放出される粒状物質が皮膜を形成するためである。この点に関しても、シリコーン系オイルは、表面張力が小さいため、器壁に沿って濡れ上がる量が少なく、撹拌によるオイルの速度勾配によるオイル表面の揺動が抑制され有利である。
また、PVD源から放出される粒状物質は飛散されるので、上記遮蔽手段により形成される、オイル表面直上の開口部の外周形状は、PVD源の外周形状を拡大した相似形であることが特に好ましい。このような形状の遮蔽手段とすることにより、効率的に微粒子分散オイルを製造することが可能となるためである。
なお、本発明の微粒子分散オイル製造装置に適用可能なPVD装置は、真空蒸着装置、スパッタリング装置、イオン化蒸着装置、及び、イオンビーム蒸着装置のいずれかであることが好ましい。微粒子分散オイルの製造法において、既に好ましいPVD法を説明したので、ここではその装置の説明を省略する。
本発明により、従来技術では混入される分散剤や反応生成物等の不純物を含まない、長期間に亘って分散安定性に優れた、平均粒子径5〜500nm、濃度300〜20,000ppmの金属化合物の微粒子分散オイルを製造し、提供することができる。すなわち、引火点が200℃以上で150℃×24時間における揮発分が0.5%以下、220℃における蒸気圧が1tоrr以下、25℃における動粘度が30〜5,000cSt、及び、25℃における比重が0.960〜1.100少なくともいずれか一つ以上の条件を満足するオイル、特に、シリコーン系オイルが、対流しているオイル内部と略揺動しないオイル表面とから形成されており、そのオイル表面とPVD法により金属化合物から放出される粒状物質が飛行する空間とが接触するように配備され、オイルを貯留する容器とオイルとの界面やオイルと撹拌装置の撹拌羽及び撹拌軸との界面が遮蔽された状態で、オイル表面だけにその粒状物質が投下されることによって、このような微粒子分散オイルを実現することができる。
本発明の一実施形態に係る、DCマグネトロンスパッタリングを用いたAg微粒子分散オイル製造装置の概略模式図である。 (a)本発明の一実施形態に係る、図1に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナ部だけを側面から見た概略模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る、図1に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナ部だけを上面から見た概略模式図である。 (a)本発明の一実施形態に係る、図2(b)に示す撹拌装置を備えたシリコーンオイルコンテナを上面から見た概略模式図の一部である。(b)図3(a)の撹拌装置のプロペラ及びプロペラ回転軸を矢印E方向から見た概略模式図である。 (a)本発明の一実施形態に係る、図2(a)に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナにオイルコンテナ外周壁を覆うオイルコンテナカバーが載設されているオイルコンテナを側面から見た概略模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る、図4(a)を上面から見た概略模式図である。 (a)本発明の一実施形態に係る、図2(a)に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナ及びプロペラ回転軸に、それぞれ、オイルコンテナ外周壁を覆うオイルコンテナカバーとプロペラ回転軸カバーが載設されているオイルコンテナを側面から見た概略模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る、図5(a)を上面から見た概略模式図である。 (a)本発明の一実施形態で使用したシリコーンオイルが封入されている透明なサンプル瓶を側面から撮影した写真である。(b)本発明の一実施形態に係る、図1に示すDCマグネトロンスパッタリングを用いたAg微粒子分散オイル製造装置を用いて製造された、約122nmの平均粒子径であるAgナノ粒子が1,000ppm含まれているAgナノ粒子分散シリコーンオイルで、それが封入されている透明なサンプル瓶を側面から撮影した写真で、8ヵ月、室温で放置した後に撮影された写真である。 (a)透明なサンプル瓶に注入されているシリコーンオイルに、図6(b)のAgナノ粒子分散シリコーンオイルを注入した直後のシリコーンオイル及びAgナノ粒子分散シリコーンオイルの状態をそのサンプル瓶側面から撮影した写真である。左から、シリコーンオイル:Agナノ粒子分散シリコーンオイルの比が、15:0.3、15:0.6、及び、15:0.9のサンプルである。(b)図7(a)の三種のサンプルを撹拌した後のシリコーンオイル及びAgナノ粒子分散シリコーンオイルの状態をそのサンプル瓶側面から撮影した写真である。左から、シリコーンオイル:Agナノ粒子分散シリコーンオイルの重量比が、15:0.3、15:0.6、及び、15:0.9のサンプルである。 図6(b)の約122nmの平均粒子径であるAgナノ粒子が1,000ppm含まれているAgナノ粒子分散シリコーンオイルのシリコーンオイルを除去したサンプルを走査型電子顕微鏡を用い、直接倍率10,000倍で観察して撮影された電子顕微鏡写真である。
以下、図面や写真を用いて、本発明の一実施形態を用い、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
まず、オイルとしては、ポリジメチルシロキサンの化学構造である信越化学工業(株)製シリコーンオイルKF−96−500csを用いた。このシリコーンオイルの引火点は315℃以上、150℃×24時間における揮発分が0.5%以下、220℃における蒸気圧が1tоrr以下、25℃における動粘度が500cSt、そして、25℃における比重が0.970である。
PVD法としては、AgをターゲットとするDCマグネトロンスパッタリング法を用い、図1の概略模式図に示すような微粒子分散オイル製造装置を使用した。この微粒分散オイル製造装置は、(図示されていない)アルゴン(Ar)ガスタンクや流量制御装置等を備えた不活性ガス導入装置2、真空排気装置3、並びに、Agのターゲット5、スパッタリング源4、及び、DC電源装置6を備えたDCマグネトロンスパッタリング装置等から構成される真空槽1内のオイルコンテナ支持台8上に、プロペラ11、プロペラ回転軸12、モーター13、及び、ギアボックス14等から構成される撹拌装置を装備したオイルコンテナ7が配置されている。
図2(a)には、本発明の一実施形態に係る、図1に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナ部だけを側面から見た概略模式図を、図2(b)には、図1に示す撹拌装置を備えたオイルコンテナ部だけを上面から見た概略模式図を示している。
更に、撹拌装置のプロペラ11とプロペラ回転軸12とは、図3に示すような位置関係にしている。図2(b)の一部を示す図3(a)の矢印Eの方向からみたプロペラ11とプロペラ回転軸12の側面概略図を図3(b)に示す。この図に示す長方形の平板上のプロペラ11と水平面との成す傾斜角αが、回転速度10〜70RPMにおいて、0〜45°であることが好ましい。本実施例では、回転速度20〜60RPMとし、α=15°とした。
このようなオイル10を貯留したオイルコンテナ7は、ターゲット5の直下に配置されるが、ターゲット5から放出されるAgの粒状物質は、広範囲に飛散するため、オイル10の表面上だけでなく、オイル10とオイルコンテナ7の器壁との界面にも投下される。オイル10が粘性流体であるため、この界面付近には、撹拌によるオイル10の速度勾配ができ、オイル10の表面が揺動し、Agの粒子状物質が微粒子となって、オイル10内に沈降するするのではなく、合体や凝集が激しく、皮膜化するという現象が認められる。このような状態であっても、皮膜化したAgを除去すれば、Ag微粒子分散オイルは製造できるが、収率が極めて悪くなる。
そこで、図4に示すような、オイルコンテナカバー16を取り付けて、ターゲット7から放出されるAgの粒状物質は、オイル表面だけに投下されるようにした。このオイルコンテナカバー16によって、Agの粒状物質の皮膜化が解消され、Ag微粒子が均一に分散したオイルだけを安定して製造できるようになった。
また、プロペラ回転軸12が、オイル表面から突出している場合には、オイル10とプロペラ回転軸12との界面で、オイル10とオイルコンテナ7の器壁との界面と同様、Ag皮膜が形成されるため、図5に示すように、オイルコンテナカバー16に加え、プロペラ回転軸カバー17を設けることによって、プロペラ回転軸付近のAgの皮膜化を解消することができる。
以下、Ag微粒子シリコーンオイルの製造工程を具体的に説明するが、本実施例では、オイルコンテナとしては、図5のタイプのオイルコンテナカバー16及びプロペラ回転軸カバー17を備えたを用いた。
本発明によるAg微粒子製造工程は、微粒子の製造と微粒子の分散過程が独立的なものではなく、真空槽内でAg微粒子を製造すると同時にAg微粒子をシリコーンオイル内部に分散させる一括工程であり、極めて簡単な工程であるという点にも特徴がある。
本発明によるAg微粒子分散シリコーンオイルを製造するための工程の概略を説明する。製造するAg微粒子の素材であるAgターゲット(直径:100mm、厚み:10mm)を真空槽1内のスパッタリング源4に締結し、真空槽1内のオイルコンテナ支持台上に配備した、撹拌装置を備えるオイルコンテナ7にシリコーンオイルを1L注入する。
材料の準備完了後、真空槽1を密閉して、真空排気装置3の(図示されていない)低真空用pump(Rotary pump)ロータリーポンプと高真空用油拡散ポンプを利用して真空排気を開始する。真空槽の真空度が5E−4〜5E−5Torr範囲内に到達したら、撹拌装置のモーター13を作動させ、シリコーンオイルを対流させる。ここで、撹拌装置の回転速度は20〜60RPMの範囲内に制御した。
次いで、Arガスを約20sccm(0℃、1atm)流量で真空槽1内に流入させ後、DC電源装置6を作動し、Agターゲット5周辺にArプラズマを発生させて、Agをスパッタリングした。ここで、入力電力は、150〜300Wの範囲内に制御し、真空槽1内の真空度は約5E−2〜1E−3Torrの範囲内となるようにArガスの流入量を調節し、安定したプラズマ状態の維持を確認しながら行った。
なお、本発明の製造装置を用いて微粒子分散オイルを製造する場合、周辺の温度差や圧力差により、シリコーンオイルが自発的に対流を生じるため、撹拌装置を必ずしも必要とすることなく、微粒子分散オイルの製造を行うことが可能である。しかし、微粒子の均一な分散及び製造速度を考慮すると撹拌装置を用いる方が好ましい。
シリコーンオイル内に所望する濃度のAg微粒子を分散させるためには、入力電力及びスパッタリング時間が制御される。具体的には、事前の先行実験において、指定された入力電力に対する時間別Agターゲットの消耗量データとAgシリコーンオイル中のAg含量分析を行って得られたAg含有量データに基づいて、蒸着時間を決定する。本実験では、174Wの入力電力で、ターゲット消耗量は単位時間当たり2.4g/hrであり、蒸着時間は180minとすると、1,000ppmのAg微粒子分散オイルを製造することができた。
上記工程条件は、Ag微粒子分散オイルを製造するための代表例で、このような工程条件は真空槽の大きさ、入力電源の仕様、真空排気装置の容量、不活性ガスの種類及び流量、ターゲットの種類及び大きさ、シリコンオイルの量等によって異なる。
このような工程で製造されたAg微粒子分散オイルを図6に示す。図6(a)は、上記一実施形態で使用したシリコンオイルが封入されている透明なサンプル瓶を側面から撮影した写真であり、図6(b)が、一実施形態に係る、上記工程条件で製造された、平均粒子径122nmで、濃度1,000ppmのAg微粒子分散シリコーンオイルで、それが封入されている透明なサンプル瓶を側面から撮影した写真である。この微粒子分散シリコーンオイルは、8ヵ月、室温で放置したサンプルで、サンプル瓶の底にAg微粒子の沈降が認められず、シリコーンオイル中の凝集現象も肉眼上確認されず、極めて分散安定性に優れている。
更に、分散性に優れていることを示す実験結果を図7に示す。図7(a)は、透明なサンプル瓶に注入されているシリコーンオイルに、図6(b)のAgナノ粒子分散シリコーンオイルを注入した直後のシリコーンオイル及びAgナノ粒子分散シリコーンオイルの状態をそのサンプル瓶側面から撮影した写真である。左から、シリコーンオイル:Agナノ粒子分散シリコーンオイルの比が、15:0.3、15:0.6、及び、15:0.9のサンプルである。図7(a)の三種のサンプルを撹拌した後のシリコーンオイル及びAgナノ粒子分散シリコーンオイルの状態をそのサンプル瓶側面から撮影した写真である。左から、シリコーンオイル:Agナノ粒子分散シリコーンオイルの重量比が、15:0.3、15:0.6、及び、15:0.9のサンプルである。図から明らかなように、Ag微粒子分散シリコーンオイルは、原材料のシリコーンオイルに極めて容易に均一に分散することができる。
図8は、図6(b)の約122nmの平均粒子径であるAgナノ粒子が1,000ppm含まれているAgナノ粒子分散シリコーンオイルのシリコーンオイルを除去したサンプルを走査型電子顕微鏡を用い、直接倍率10,000倍で観察して撮影された電子顕微鏡写真である。写真中央の白い粒が、代表的な122nmの粒子径のAg微粒子であり、写真から明らかなように、粒子径分布が狭い。なお、平均粒子径は、電子顕微鏡による粒子径測定法を採用し、粒子の長径及び短径の和の1/2を粒子径として、150個の平均値とした。
本発明の金属化合物の微粒子分散オイルは、分散剤及び不純物を含んでいないため、微粒子自体の特性が損なうことがないため、微粒子の素材に応じて、そのまま利用することも可能であるし、オイルを架橋して、微粒子を含む成形体としても利用することが可能であり、電気的、磁気的、光学的、力学的、及び、生化学的等の機能を有する高機能性材料として幅広く利用できる。また、本発明の金属化合物の微粒子分散オイルの製造方法及び製造装置により、液体の被蒸着体に真空系が必要であるPVD法及び装置に適用されることが可能になったので、オイル以外の液体への利用できる可能性があると同時に、化学蒸着(CVD)法及び装置に、液体の被蒸着体を利用できる可能性があるので、更に様々な微粒子分散液の誕生を示唆している。
1 真空槽
2 不活性ガス導入装置
3 真空排気装置
4 スパッタリング源
5 ターゲット
6 DC電源装置
7 オイルコンテナ
8 オイルコンテナ支持台
9 冷却ジャケット
10 オイル
11 プロペラ
12 プロペラ回転軸
13 モーター
14 ギアボックス
15 ギアボックス支持台
16 オイルコンテナカバー
17 プロペラ回転軸カバー

Claims (22)

  1. 物理蒸着(PVD)法を用いて金属化合物から放出される粒子状物質が、対流しているオイル内部と略揺動しない前記オイル表面とが形成されている、前記オイル表面上に投下されて製造されることを特徴とする、平均粒子径が5〜500nmである金属化合物の微粒子分散オイル。
  2. 前記金属化合物は、金属、合金、金属酸化物、合金酸化物、並びに、前記金属、前記合金、前記金属酸化物、及び、前記合金酸化物から選択される少なくとも二つ以上が含まれる金属化合物のいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子分散オイル。
  3. 前記金属は、遷移金属、ポスト遷移金属、及び、半金属から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項2に記載の微粒子分散オイル。
  4. 前記金属は、金(Au)、プラチナ(Pt)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、及び、シリコン(Si)から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項3に記載の微粒子分散オイル。
  5. 前記合金は、鉄基合金、銅基合金、アルミニウム基合金、及び、ニッケル基合金から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項2に記載の微粒子分散オイル。
  6. 前記金属酸化物は、請求項4に記載されている金属の酸化物から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項2に記載の微粒子分散オイル。
  7. 前記合金酸化物は、請求項5に記載記載されている合金の酸化物から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項2に記載の微粒子分散オイル。
  8. 前記オイルは、引火点が200℃以上で150℃×24時間における揮発分が0.5%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  9. 前記オイルは、220℃における蒸気圧が1tоrr以下であるオイルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  10. 前記オイルは、25℃における動粘度が30〜5,000cStであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  11. 前記オイルは、25℃における比重が0.960〜1.100であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  12. 前記オイルが、シリコーン化合物であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  13. 前記オイルが、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、及び、ポリメチルハイドロジェンシロキサンから選択される一つ以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の微粒子分散オイル。
  14. PVD法を用い、金属化合物から放出される粒子状物質が、対流しているオイル内部と略揺動しない前記オイル表面とが形成されている、前記オイル表面上に投下されて製造されることを特徴とする微粒子分散オイルの製造方法。
  15. 前記PVD法が、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、及び、イオンビーム蒸着法のいずれかであることを特徴とする請求項14に記載の微粒子分散オイルの製造方法。
  16. PVD装置を備え、金属化合物から放出される粒子状物質が飛行する空間とオイルの表面が接触するように、前記オイルの容器が配備されていることを特徴とする微粒子分散オイルの製造装置。
  17. 前記オイルの表面が略揺動されない状態で、前記オイルが撹拌される撹拌手段が備えられていることを特徴とする請求項16に記載の微粒子分散オイルの製造装置。
  18. 前記オイルが貯留される容器に、一つ以上の撹拌羽が周設される撹拌軸を含む撹拌手段の少なくとも前記撹拌羽が、前記オイルに浸漬されて回動可能に備えられ、前記撹拌軸の回動によって前記オイルが撹拌されることを特徴とする請求項16又は17に記載の微粒子分散オイルの製造装置。
  19. 前記撹拌羽が水平面に対し0〜45°の傾きを持って、前記撹拌軸に周設されることをを特徴とする請求項18に記載の微粒子分散オイルの製造装置。
  20. 前記オイルが貯留される容器の直上に、前記オイル表面だけが前記粒子状物質に暴露されるように、前記粒子状物質の遮蔽手段が備えられていることを特徴とする請求項16又は17に記載の微粒子分散オイルの製造装置。
  21. 前記遮蔽手段により形成される、前記オイル表面直上の開口部の外周形状が、前記PVD源の外周形状を拡大した相似形であることを特徴とする請求項21に記載の微粒子分散オイルの製造装置。
  22. 前記PVD装置が、真空蒸着装置、スパッタリング装置、イオン化蒸着装置、及び、イオンビーム蒸着装置のいずれかであることを特徴とする請求項16〜21のいずれか一項に記載の微粒子分散オイルの製造装置。

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