JP2021048834A - 細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キット - Google Patents

細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キット Download PDF

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田畑 泰彦
Yasuhiko Tabata
泰彦 田畑
輝樹 新居
Teruki Nii
輝樹 新居
啓司 塚本
Keiji Tsukamoto
啓司 塚本
陽介 平岡
Yosuke Hiraoka
陽介 平岡
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【課題】がん細胞の浸潤能力を正確に評価する。【解決手段】細胞の浸潤性を評価する細胞浸潤性評価方法は、第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備する工程と、前記第1細胞を前記第1容器に収容する工程と、前記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、前記第2細胞および前記薬剤を含む細胞凝集体を前記第2容器に収容する工程と、前記第1容器および前記第2容器を前記隔膜を介して連結することにより、前記第1細胞および前記細胞凝集体中の前記第2細胞を共培養する工程と、前記第1細胞が前記隔膜を通過して前記第1容器から前記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、前記第1細胞の浸潤性を評価する工程とを含み、前記第1細胞と前記第2細胞とは、相互作用し、前記薬剤は、前記第2細胞を活性化する作用を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キットに関する。
がん患者の予後を改善する目的の下、がん細胞の原発性組織における浸潤、および二次性臓器への転移を防止する治療法の開発が切望されて久しい。このような状況の下、特表2017−506066号公報(特許文献1)は、上記治療法の開発に対して有効な手段を提供するため、原発性組織と二次性臓器との間のin vivo微小環境を模倣するように設計された細胞培養基材を開示している。上記特許文献1によれば、上記細胞培養基材を用いることによって、がん細胞の浸潤能力および転移能力の評価、ならびにがん治療薬の評価を行うことができるとされている。
特表2017−506066号公報
ところが上記特許文献1に開示された細胞培養基材に対し、上述したin vivo微小環境を、生体内の実環境により近づけるための更なる改良が求められている。なぜなら上記細胞培養基材においては、がん細胞の浸潤能力および転移能力が過小評価される傾向にあり、その原因が上記細胞培養基材において生体内の実環境を再現できていないことにあると推定されるからである。したがって、生体内の実環境を適切に再現することにより、がん細胞の浸潤能力および転移能力を正確に評価することができる技術は未だ実現されておらず、その開発が切望されている。
上記実情に鑑み、本発明は、がん細胞の浸潤能力を正確に評価することができる細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。具体的には、生体内においてがん細胞は、その周囲に存在する間質細胞と相互作用しながら原発性組織において浸潤することにより血管またはリンパ管に到達し、その後、血液またはリンパ液の流れに乗って二次性臓器への転移に至るという知見に注目した。この知見に基づき、原発性組織におけるがん細胞と間質細胞との相互作用を試験管内で再現することにより、がん細胞の浸潤能力を正確に評価できることを想到した。さらに架橋ゼラチン粉末と水とで形成されるゼラチンハイドロゲルに間質細胞と、間質細胞を活性化する作用を有する薬剤とを内包させることによって間質細胞の活性を高めることが、試験管内でがん細胞と間質細胞との相互作用を再現するのに有効であることを知見し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下のとおりの特徴を有する。
本発明に係る細胞浸潤性評価方法は、細胞の浸潤性を評価する細胞浸潤性評価方法であって、第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備する工程と、上記第1細胞を上記第1容器に収容する工程と、上記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、上記第2細胞および上記薬剤を含む細胞凝集体を上記第2容器に収容する工程と、上記第1容器および上記第2容器を上記隔膜を介して連結することにより、上記第1細胞および上記細胞凝集体中の上記第2細胞を共培養する工程と、上記第1細胞が上記隔膜を通過して上記第1容器から上記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程とを含み、上記第1細胞と上記第2細胞とは、相互作用し、上記薬剤は、上記第2細胞を活性化する作用を有する。
上記隔膜は、上記第1容器または上記第2容器に備えられ、上記隔膜は、基材と上記基材上に形成される被膜とを含み、上記被膜は、基底膜を構成する成分を含むことが好ましい。
上記基底膜を構成する成分は、IV型コラーゲンであることが好ましい。
上記第1細胞は、がん細胞であることが好ましい。
上記第2細胞は、間質細胞であることが好ましい。
上記第2細胞は、がん関連線維芽細胞およびtumor associated macrophargeの両方またはいずれか一方であることが好ましい。
上記薬剤は、上記第1細胞から分泌される分子、上記分子の誘導体、上記分子の前駆体および上記分子の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上を含むことが好ましい。
上記細胞凝集体は、上記第2細胞として上記がん関連線維芽細胞を含み、上記薬剤としてp53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上を含むことが好ましい。
上記細胞凝集体は、上記第2細胞として上記tumor associated macrophargeを含み、上記薬剤としてアデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種を含むことが好ましい。
上記ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmであることが好ましい。
上記細胞凝集体は、1種または2種以上含むことが好ましい。
上記細胞凝集体は、第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含み、上記第1細胞凝集体は、上記ゼラチンハイドロゲルと、上記がん関連線維芽細胞と、上記p53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上とを含み、上記第2細胞凝集体は、上記ゼラチンハイドロゲルと、上記tumor associated macrophargeと、上記アデノシンおよびインターロイキン6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種とを含むことが好ましい。
本発明に係る抗浸潤性化合物スクリーニング方法は、上記細胞浸潤性評価方法を用いることにより、化合物が抗浸潤作用を有するか否かを評価する抗浸潤性化合物スクリーニング方法であって、上記第1細胞、上記第2細胞、上記第1容器、上記第2容器、上記隔膜、上記薬剤および上記架橋ゼラチン粉末を準備する工程と、上記第1細胞を上記第1容器に収容する工程と、上記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、上記第2細胞および上記薬剤を含む細胞凝集体を上記第2容器に収容する工程と、上記第1容器および上記第2容器を上記隔膜を介して連結することにより、上記第1細胞および上記細胞凝集体中の上記第2細胞を共培養する工程と、上記第1細胞が上記隔膜を通過して上記第1容器から上記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程と、上記第1容器または上記第2容器に上記化合物を添加する工程とを含み、上記化合物を添加する工程を実行した後に、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程を実行することによって上記化合物が抗浸潤作用を有するか否かを評価する。
上記化合物は、抗がん剤候補化合物であることが好ましい。
本発明に係る架橋ゼラチン粉末は、上記細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる架橋ゼラチン粉末であって、上記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、上記ゼラチンハイドロゲルを形成する。
本発明に係る評価キットは、上記細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる評価キットであって、上記評価キットは、上記第1容器と、上記第2容器と、上記隔膜と、上記薬剤と、上記架橋ゼラチン粉末とを少なくとも備える。
上記評価キットは、上記第1細胞および上記第2細胞のいずれか一方を少なくとも備えることが好ましい。
上記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、上記ゼラチンハイドロゲルを形成し、上記ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmであることが好ましい。
本発明によれば、がん細胞の浸潤能力を正確に評価することができる細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キットを提供することができる。
図1は、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法を実行するために用いられる評価キットに基づいて構築された組立体の一例を示す模式図である。 図2は、図1に示した組立体を用いて行う細胞浸潤性評価方法の一例を説明する説明図であって、(a)は、第1細胞および細胞凝集体中の第2細胞の共培養が進行中の組立体を示す説明図であり、(b)は、共培養を終了した時点の組立体を示す説明図であり、(c)は、(b)に示す組立体から第1容器を除去した第2容器を示す説明図である。 図3は、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法を実行するために用いられる評価キットに基づいて構築された組立体の他の一例を示す模式図である。
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)について詳細に説明する。ここで本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに本明細書において「浸潤」とは、がん細胞などの細胞が原発性組織において広がり、血管またはリンパ管に至ることを意味する。さらに「浸潤性」とは、上述した「浸潤」により定義される性質を意味する。「転移」とは、上記細胞が上記浸潤によって血管またはリンパ管に至り、次いで血管内またはリンパ管内に侵入した後、血液またはリンパ液を通じて原発性組織とは異なる他の組織または臓器に移動することにより、当該他の組織または臓器において定着することを意味する。以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。図面においては、各構成要素を理解しやすくするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
〔細胞浸潤性評価方法〕
本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法は、細胞の浸潤性を評価する細胞浸潤性評価方法である。上記細胞浸潤性評価方法は、第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備する工程(第1工程)と、上記第1細胞を上記第1容器に収容する工程(第2工程)と、上記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、上記第2細胞および上記薬剤を含む細胞凝集体を上記第2容器に収容する工程(第3工程)と、上記第1容器および上記第2容器を上記隔膜を介して連結することにより、上記第1細胞および上記細胞凝集体中の上記第2細胞を共培養する工程(第4工程)と、上記第1細胞が上記隔膜を通過して上記第1容器から上記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程(第5工程)とを含む。さらに上記細胞浸潤性評価方法において、上記第1細胞と上記第2細胞とは、相互作用し、上記薬剤は、第2細胞を活性化する作用を有する。
このような特徴を備える細胞浸潤性評価方法は、たとえば第1細胞としてがん細胞を適用し、第2細胞として上記がん細胞と相互作用する間質細胞を適用した場合、第1細胞としてのがん細胞の浸潤能力(換言すれば、「浸潤性の強さ」とも称することができる)を正確に評価することができる。すなわち本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法において、浸潤性の強さを評価する対象となる細胞は、第1細胞である。
ここで第1細胞と第2細胞とが「相互作用」するとは、第1細胞と第2細胞とが後述する液性因子を相互に交換すること等に基づいて互いを認識することにより、当該認識に基づいた特異的な反応を第1細胞または第2細胞のいずれかが起こすことをいう。さらに第2細胞が「活性化」するとは、第2細胞が有する機能のうち少なくとも1つを奏功させること、または上記機能のうち少なくとも1つを向上させることをいう。以下、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法における各工程(第1工程〜第5工程)を具体的に説明する。
<第1工程>
第1工程は、第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備する工程である。第1工程により、細胞浸潤性評価方法を実行するために必要な材料を準備することができる。本明細書において「第1細胞」とは、上述のように浸潤性の強さを評価する対象となる細胞を意味する。第1細胞の種類は、特に制限されない。しかしながら本発明の効果を医薬分野などで有効に活用する観点から、第1細胞は、がん細胞であることが好ましい。上記がん細胞は、一般に上皮性腫瘍細胞として分類される上皮細胞に由来するがん細胞であることがより好ましい。第1細胞は、浸潤性を有するとされる白血球、リンパ球などの炎症性細胞であることも好ましい。
「第2細胞」とは、生体内において第1細胞と相互作用することが知られる細胞を意味する。第2細胞の種類としては、第1細胞と相互作用することが知られる細胞であれば、特に制限されない。しかしながら本発明の効果を医薬分野などで有効に活用する観点から、第2細胞は、間質細胞であることが好ましい。ここで「間質細胞」とは、生体組織の支持構造を構成する細胞をいい、たとえば間質細胞としてマクロファージなどの免疫細胞、線維芽細胞、周皮細胞、内皮細胞などに分類される各細胞を例示することができる。第1細胞ががん細胞である場合、第2細胞は、がん関連線維芽細胞(以下、「CAF」とも記す)であることがより好ましい。最近の研究によってCAFは、がん細胞と相互作用することによりがん細胞の原発性組織における浸潤を促進することが知見されたため、第2細胞としてCAFを用いた場合、がん細胞の浸潤性の強さをより正確に評価することができる。
さらに第1細胞ががん細胞である場合、第2細胞としてはCAF以外に、がん組織血管内皮細胞、組織間葉系幹細胞、tumor associated macropharge(TAM)、調節性T細胞、筋線維芽細胞などを用いることが可能である。
第2細胞は、上記がん関連線維芽細胞(CAF)および上記tumor associated macropharge(TAM)の両方またはいずれか一方であることがより好ましい。TAMは、がん細胞と相互作用することによって、T細胞等の標的からがん細胞を除外するようにする効果を奏し、もってがん細胞の原発性組織における浸潤を促進させることが知られている。したがって、第2細胞としてCAFおよびTAMの両方またはいずれか一方を用いた場合、がん細胞の浸潤性の強さをより正確に評価することができる。さらに第2細胞としては、上述した各種の細胞(CAF、がん組織血管内皮細胞、組織間葉系幹細胞、TAM、調節性T細胞、筋線維芽細胞)からなる群より選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
「第1容器」とは、後述する第2工程において第1細胞が収容される容器を意味する。さらに「第1容器」とは、後述する第4工程において第2容器と隔膜を介して連結可能な容器であり、かつ上記第4工程において第2容器に収容された第2細胞と、当該第1容器に収容された第1細胞とを共培養することができる容器を意味する。第1容器の大きさおよび形状は、第1細胞が所定量(たとえば、細胞数が10000〜100000個程度)収容可能な大きさおよび形状を有する限り制限されない。たとえば第1容器の大きさおよび形状は、直径4〜100mmの平皿(ペトリ皿)形状であることができる。第1容器の材質は、第1細胞および上記第1細胞とともに収容される培養液と反応しないことにより、これらに悪影響を与えない材質であれば制限されない。たとえば第1容器は、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂などの樹脂製の容器、ガラス製の容器などを適用することができる。
「第2容器」とは、後述する第3工程において第2細胞を含む細胞凝集体が収容される容器を意味する。さらに「第2容器」とは、後述する第4工程において第1容器と隔膜を介して連結可能な容器であり、かつ上記第4工程において第1容器に収容された第1細胞と、当該第2容器に収容された第2細胞とを共培養することができる容器を意味する。第2容器の大きさおよび形状は、細胞凝集体が所定量(たとえば1000〜10000個程度)収容可能な大きさを有していればよい。たとえば第2容器の大きさおよび形状は、直径4〜100mmの平皿(ペトリ皿)形状であることができる。第2容器の材質は、細胞凝集体および上記細胞凝集体とともに収容される培養液と反応しないことにより、これらに悪影響を与えない材質であれば制限されない。たとえば第2容器は、上記第1容器と同様にポリスチレン、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂などの樹脂製の容器、ガラス製の容器などを適用することができる。たとえば第1容器が樹脂製の容器である場合、第2容器は同じ樹脂製の容器であってもよく、異なる樹脂製の容器であってもよく、ガラス製の容器であってもよい。
「隔膜」とは、後述する第4工程において第1容器および第2容器とが連結される位置に配置される膜(メンブレン)状の構造体を意味する。隔膜は、これを介して第1容器および第2容器が連結されることにより、後述する第4工程において第1容器に収容された第1細胞、および第2容器に収容された細胞凝集体中の第2細胞を、共通する培養液によって共培養することができる。第1細胞および第2細胞は、培養液を共有することによって相互に液性因子を交換することが可能となり、もって第1細胞および第2細胞は、相互作用することができる。「液性因子」とは、ごく近傍の細胞間で受け渡されることにより、上記細胞間の情報伝達を担う因子として機能する分子量5000〜20000Da程度のタンパク質(単純タンパク質である場合と糖タンパク質である場合とがある)を意味する。隔膜が上述した位置に配置されることにより、上記細胞浸潤性評価方法は後述する第5工程において、第1細胞が当該隔膜を通過して第1容器から第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、第1細胞の浸潤性の強さを評価することが可能となる。
ここで第1細胞および第2細胞の共培養を容易に行う観点から、隔膜は、第1容器または第2容器に備えられることが好ましい。たとえば第1容器および第2容器が上下方向に重なるように配置されることにより、第1容器の底部において第1容器と第2容器とが連結される場合、第1容器の底部に上記隔膜を備えることができる。さらにたとえば、第1容器および第2容器が左右方向に並べて配置されることにより、第1容器の側部と、当該側部に対面する第2容器の側部とが連結される場合、第1容器の側部、第2容器の側部、または第1容器の側部と第2容器の側部との連結部のいずれかに上記隔膜を備えることができる。
さらに第1細胞の浸潤性の強さを正確に評価する観点から、隔膜は、基材と上記基材上に形成される被膜とを含むことが好ましい。隔膜によって、共培養中の第1容器および第2容器の間を、第1細胞および第2細胞が通過不能となり、かつ第1細胞および第2細胞から分泌される液性因子が通過可能となる。
基材は、薄板状であって、第1細胞が通過可能となる大きさの孔(ポア)を複数有することが好ましい。さらに基材は、表面に被膜を形成することが可能であり、かつ第1細胞、細胞凝集体、ならびにこれらとともに第1容器および第2容器に収容される培養液と反応しないことにより、これらに悪影響を与えない材質からなることが好ましい。たとえば基材の大きさおよび形状としては、ポア径0.4〜10μm、ポア密度1×105〜1×108個/cm2であって直径3.5〜100mmの円盤形状とすることができる。基材の材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂、またはステンレス、チタンなどの金属を適用することができる。
被膜は、基材上に形成されることが好ましい。被膜は、基材の表面全体を被覆するように形成されることが好ましい。さらに被膜は、基底膜を構成する成分を含むことが好ましい。なかでも上記基底膜を構成する成分は、IV型コラーゲンであることが好ましい。ここで「IV型コラーゲン」は、生体内において基底膜を構成する主要な構成成分の一つとして公知である。さらに「基底膜」とは、IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカン)、エンタクチン/ニドゲン、サイトカイン、成長因子などを含み、生体において上皮細胞の基底側に形成される組織を意味する。本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法は、隔膜を上述した基材と上記基材上に形成される被膜とを含む構造体とした場合、生体内において起こる「がん細胞の原発性組織における浸潤」を、第1細胞が上記隔膜において被膜を破壊し、かつ基材中のポアを通過する(すなわち第1細胞が隔膜を通過する)ことによって再現することができる。これにより第1細胞の浸潤性の強さをより正確に評価することができる。
隔膜は、基材上に上述した被膜を従来公知の方法により形成することにより製造することができる。たとえば上述したポリカーボネート製の基材に対し、レーザあるいは中性子線を用いて物理的に穴を開け、次に上述の基底膜を構成する成分をコーティングすることにより上記基材上に上述した被膜を形成し、もって隔膜を製造することができる。さらに隔膜は、市販品(たとえばニュークレオポア社製)により準備することができる。
「薬剤」とは、第2細胞を活性化する作用を有する化合物を意味する。具体的には、薬剤は、後述する第3工程において細胞凝集体中に第2細胞とともに含有されることにより、第2細胞を活性化することができる。薬剤は、第2細胞を活性化する作用を有する化合物であれば特に制限されず、無機化合物を含む薬剤であってもよく、有機合成反応によって製造可能な化合物を含む薬剤であってもよく、天然物などから抽出される化合物を含む薬剤でもよい。薬剤は、第2細胞を活性化する作用を有する化合物であれば、分子量が500Da未満の合成低分子製剤、分子量が500〜5000Da程度の核酸製剤またはペプチド製剤、分子量が数万Da以上のタンパク質製剤をいずれも適用することができる。たとえば細胞凝集体が第2細胞としてCAFを含み、上記薬剤としてp53阻害剤、TGF−β1(トランスフォーミング増殖因子−β1)、SDF−1(stromal derived factor−1)およびPGE2(プロスタグランディンE2)からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上を含むことが好ましい。この場合において、p53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる1種の薬剤を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
さらに、たとえば細胞凝集体が第2細胞としてTAMを含み、上記薬剤としてアデノシンおよびIL−6(インターロイキン6)からなる群より選ばれるいずれか1種または2種を含むことが好ましい。この場合において、アデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種の薬剤を単独で用いてもよく、2種を併用してもよい。
さらに薬剤は、上記第1細胞から分泌される分子、上記分子の誘導体、上記分子の前駆体および上記分子の塩からなる群より選ばれるいずれかを少なくとも含むことが好ましい。これにより生体内において上記第1細胞と第2細胞との相互作用によって起こる「がん細胞の原発性組織における浸潤」を、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法において再現することができる。ここで本明細書において分子の「誘導体」とは、分子に官能基を導入したり、分子に対して酸化還元反応を実行したりすることによって、分子の分子内の一部の構造を改変して形成される物質を意味する。分子の「前駆体」とは、分子が生合成または合成によって生成される前の段階にある物質を意味する。分子の「塩」とは、分子自身が有する活性を維持したまま、酸または塩基により処理されることにより形成される塩を意味する。
薬剤による第2細胞の「活性化」の有無およびその程度は、たとえば第2細胞がCAFである場合、当該細胞内で産生されたα平滑筋アクチン(αSMA)を、ELISA法を用いて定量することにより測定することができる。具体的には、ゼラチンハイドロゲル、CAFおよび薬剤を含む細胞凝集体を所定日数(たとえば、5日、10日、15日など)培養した後に、上記細胞凝集体から抽出したCAFに対してELISA法を適用することによってαSMA量を定量する。これにより、薬剤によるCAFの「活性化」の有無およびその程度を測定することができる。この場合において、定量されたαSMA量が多いほど、CAFが活性化されていると評価することができる。さらに薬剤によるCAFの「活性化」は、ゼラチンハイドロゲル、CAFおよび薬剤を含む細胞凝集体と、ゼラチンハイドロゲルおよびCAFを含み、薬剤を含まない細胞凝集体とを準備し、これらにおいて上述したELISA法を適用して得られたαSMA量を比較することにより、定性的に求めることもできる。
また薬剤による第2細胞の「活性化」の有無およびその程度は、たとえば第2細胞がTAMである場合、当該細胞内で産生された血管内皮増殖因子(VEGF)を、ELISA法を用いて定量することにより測定することができる。具体的には、ゼラチンハイドロゲル、TAMおよび薬剤を含む細胞凝集体を所定日数(たとえば、5日、10日、15日など)培養した後に、上記細胞凝集体から抽出したTAMに対してELISA法を適用することによってVEGF量を定量する。これにより、薬剤によるTAMの「活性化」の有無およびその程度を測定することができる。この場合において、定量されたVEGF量が多いほど、TAMが活性化されていると評価することができる。さらに薬剤によるTAMの「活性化」は、ゼラチンハイドロゲル、TAMおよび薬剤を含む細胞凝集体と、ゼラチンハイドロゲルおよびTAMを含み、薬剤を含まない細胞凝集体とを準備し、これらにおいて上述したELISA法を適用して得られたVEGF量を比較することにより、定性的に求めることもできる。
「架橋ゼラチン粉末」とは、後述する架橋ゼラチンの乾燥物を粉砕することにより得られる粉末を意味する。架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、ゼラチンハイドロゲルを形成することができる。ここで架橋ゼラチン粉末における「ゼラチン」とは、コラーゲンの三重らせん構造が酸変性、アルカリ変性および熱変性の少なくともいずれかによってほどけたポリペプチド、その化学修飾体、その誘導体およびその薬学上許容される塩を意味する。上記「コラーゲン」とは、脊椎動物の真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などの細胞外基質を由来とするタンパク質を意味する。コラーゲンは、3本のペプチド鎖からなる右巻きのらせん構造を有し、そのペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、グリシン残基が3残基ごとに繰り返される一次構造(所謂コラーゲン様配列)を有している。
上記ゼラチンは、ヒト、ブタ、ウシなどの哺乳類のほか、ダチョウなどの鳥類、サケ、タイ、サメなどの魚類などを含む種々の動物由来の上記コラーゲンに対し、アルカリ加水分解、酸加水分解または酵素分解などの処理を行なうことによって上記コラーゲンを変性させ、かつ温水を用いて抽出することにより得ることができる。ゼラチンは、微生物を用いた発酵法、化学合成または遺伝子組換え操作により得ることもできる。
ここで上記ポリペプチド(ゼラチン)の「化学修飾体」とは、ゼラチンを構成するアミノ酸残基におけるアミノ基、カルボキシル基またはヒドロキシ基が化学修飾されたポリペプチドを意味する。化学修飾を受けたゼラチンは、水に対する溶解性、等電点等を変化させることができる。具体的には、ゼラチンにおけるヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基に対しては、O−アセチル化などの化学修飾を実行することができる。ゼラチンにおけるグリシン残基のα−カルボキシル基に対しては、エステル化、アミド化などの化学修飾を実行することができる。ゼラチンにおけるプロリン残基のα−アミノ基に対しては、ポリペプチジル化、スクシニル化、マレイル化、アセチル化、脱アミノ化、ベンゾイル化、アルキルスルホニル化、アリルスルホニル化、ジニトロフェニル化、トリニトロフェニル化、カルバミル化、フェニルカルバミル化、チオール化などの化学修飾を実行することができる。
ゼラチンの化学修飾の具体的手段および処理条件は、従来公知の化学修飾方法を適用することができる。ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基の化学修飾については、水溶媒中または非水溶媒中で無水酢酸を作用させることなどにより、たとえばO−アセチル化を行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾については、メタノールへの懸濁後に乾燥塩化水素ガスを通気することなどにより、たとえばエステル化を行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾については、カルボジイミドなどを作用させることによりアミド化を行うことができる。
さらに上記ポリペプチド(ゼラチン)の「誘導体」には、ゼラチンに官能基を導入したゼラチン誘導体、およびゼラチンと乳酸、グリコール酸などとの共重合体、ゼラチンとポリエチレングリコール、プロピレングリコールとの共重合体などが含まれる場合がある。ゼラチン誘導体としては、ゼラチンに対してアニジル基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基、アルキル基、アシル基、フェニル基、ベンジル基などの官能基を導入したものなどを挙げることができる。
上記ポリペプチド(ゼラチン)の「薬学上許容される塩」とは、薬学上許容され、かつ元となるゼラチンの所望の活性(たとえば、ゲル化能)を有する塩を意味する。薬学上許容される塩としては、たとえば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩および臭化水素酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩およびマレイン酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩およびカルシウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機塩基塩などが挙げられる。常法に従ってゼラチン中の特定のペプチドを薬学上許容される塩にすることができる。
上記ゼラチンは、2000〜300000Daの重量平均分子量を有することが好ましく、10000〜200000Daであることがより好ましい。上記重量平均分子量は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めることが可能である。具体的には、以下の条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を実行することにより、ゼラチンの重量平均分子量を求めることが可能である。
移動相 :0.1%トリフルオロ酢酸含有45%アセトニトリル(55%水)固定相 :TSK−Gel−2000SWXLカラム(TOSOH製)
流速 :1.0ml/min
カラム温度 :40℃
分析時間 :15分
インジェクション量:10μL
検出波長 :214nm。
架橋ゼラチン粉末の原料となるゼラチンとしては、コラーゲンのアルカリ処理によって得られ、等電点が4.5〜5.5となる所謂酸性ゼラチンを用いることが好ましい。後述するゼラチンハイドロゲルにおいて、ゼラチンの等電点が4.5〜5.5である場合、静電相互作用によって薬剤および第2細胞を保持する保持能力を高く維持することができる。ただし、架橋ゼラチン粉末の原料となるゼラチンとしては、コラーゲンの酸処理によって得られる所謂アルカリ性ゼラチンを用いることも好ましい。すなわちゼラチンハイドロゲルは、等電点が8.5〜9.5のゼラチンからなる場合であっても好適に使用することができる。
架橋ゼラチン粉末の原料となるゼラチンとしては、市販品のゼラチンを用いてもよい。たとえば豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)を用いることができる。あるいは、架橋ゼラチン粉末として、既成の架橋ゼラチン粉末(商品名:「メドジェル(登録商標)粒子II(PI5)」、新田ゼラチン株式会社製)を用いてもよい。
架橋ゼラチン粉末は、上述のように水と接触した場合、ゼラチンハイドロゲルを形成することができる。このような架橋ゼラチン粉末は、原料となる上記ゼラチンを水に溶解することによりゼラチン水溶液を得、このゼラチン水溶液に対し従来公知の架橋剤を添加し、ゼラチンの分子間および分子内を架橋処理することにより架橋ゼラチンを得た後、上記架橋ゼラチンを凍結乾燥すること等によって製造することができる。ゼラチン水溶液に添加する架橋剤としては、グルタルアルデヒド、EDCなどの水溶性カルボジイミド、あるいは水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基などの間に化学結合を作る縮合剤などを用いることができる。さらに上記ゼラチン水溶液をゲル状とした後に、熱脱水処理、紫外線、ガンマ線、電子線照射などを行うことによってもゼラチンの分子間および分子内を架橋処理することができる。さらに上記ゼラチン水溶液をゲル状とした後に、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などの物理的な処理によってゼラチンの分子間および分子内を架橋処理することもできる。
架橋ゼラチン粉末を製造する場合、上記ゼラチン水溶液中のゼラチンおよび架橋剤の濃度は、ゼラチンが1〜20質量%、架橋剤が0.01〜1質量%であることが好ましい。架橋反応の条件は特に制限すべきではないが、たとえば0〜40℃、好ましくは25〜30℃とし、1〜48時間、好ましくは12〜24時間とすることができる。ゼラチンの架橋度は、製造しようとするゼラチンハイドロゲルの含水率によって規定することができる。たとえば後述する第3工程に用いるゼラチンハイドロゲルの含水率は、80〜98質量%であることが好ましい。ここでゼラチンハイドロゲルの「含水率」とは、ゼラチンハイドロゲルの全体質量に対するゼラチンハイドロゲル中の水の質量比率(質量%)をいう。
上記架橋ゼラチン粉末の具体的な形成方法は、複数存在するが、たとえば以下の形成方法とすることができる。まず等電点5の豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)を超純水に溶解し、37℃で加温しながら撹拌することにより5質量%または10質量%のゼラチン水溶液を調製する。このゼラチン水溶液に対し、25質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を所定量添加し、4℃、12時間の条件で架橋反応を進ませる。このとき、グルタルアルデヒド(GA)水溶液の添加量を調整することにより、水と接触することにより形成されるゼラチンハイドロゲルの含水率を調製することができる。たとえば5質量%のゼラチン水溶液10mLに対し、25質量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を20μL添加することによって、含水率98質量%のゼラチンハイドロゲルを製造することができる。
上記の架橋反応により、水に不溶の架橋ゼラチンが製造される。この架橋ゼラチンを、室温(25℃)、1時間の条件下で100mMのグリシン溶液に浸漬することにより、架橋ゼラチンに残存しているアルデヒド基およびグルタルアルデヒドを不活化する。続いて、架橋ゼラチンを室温で1時間、超純水中で洗浄することを複数回行い、その後、従来公知の凍結乾燥を行うことにより、粒径が20〜100μmとなる架橋ゼラチン粉末を製造することができる。凍結乾燥の期間としては、凍結物から水分を除去できる時間であれば特に制限はなく、たとえば1日〜1か月である。好ましい凍結乾燥の期間は、2日〜2週間である。
<第2工程>
第2工程は、上記第1細胞を上記第1容器に収容する工程である。本工程では、従来公知の細胞生物学的手法を用いることにより、第1細胞を必要量の培養液とともに第1容器に収容することができる。第1容器に対する第1細胞の収容量(播種量)は、1容器当たり細胞数が10000〜100000個程度とすることが好ましい。ここで上記培養液としては、この種の細胞を培養するのに通常用いられる基本培地に、必要な血清および抗生物質などを添加することにより調製することができる。たとえばイーグル最小必須培地(MEM)と呼ばれる基本培地に対し、ウシ胎児血清を10質量%濃度となるように添加し、かつ抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)を1質量%濃度となるように添加することにより調製することができる。1容器当たりの細胞数は、細胞播種数により求めることができる。
<第3工程>
第3工程は、上記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、上記第2細胞および上記薬剤を含む細胞凝集体を上記第2容器に収容する工程である。本工程では、上記架橋ゼラチン粉末を水と接触させることにより形成したゼラチンハイドロゲルと、第2細胞と、薬剤とを混合することにより、薬剤がゼラチンハイドロゲルに担持され、かつ上記ゼラチンハイドロゲルに第2細胞が付着することにより第2細胞が立体的に集約した細胞凝集体を形成する。さらに上記細胞凝集体を、従来公知の細胞生物学的手法を用いることにより、必要量の培養液とともに第2容器に収容する。第2容器に対する細胞凝集体の収容量は、上述のように1容器当たり細胞凝集体数が1000〜10000個程度とすることが好ましい。第2容器に第2細胞とともに収容する培養液は、後述する第4工程の共培養において第1容器と共有されるため、第1容器に収容する培養液と同一であることが好ましい。ゼラチンハイドロゲルの形成方法および細胞凝集体の形成方法については、それぞれ後述する。1容器当たりの細胞凝集体数は、細胞播種数に基づいて求めることができる。
(ゼラチンハイドロゲル)
ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmであることが好ましい。本明細書において「ゼラチンハイドロゲル」とは、架橋ゼラチン粉末から形成され、水に対して不溶性の三次元の網目構造を有することにより、内部に水を含んで膨潤した状態を呈するゲル状構造体を意味する。
ゼラチンハイドロゲルは、薬剤を確実に担持するため、薬剤との親和性および安定性の向上などの目的に応じてゼラチン以外の添加物を含むことができる。ゼラチン以外の添加物としては、たとえばアミノ糖またはその高分子量体、塩基性アミノ酸またはそのオリゴマー、もしくはその高分子量体、ポリアリルアミン、ポリジエチルアミノエチルアクリルアミド、ポリエチレンイミンなどの塩基性高分子などを挙げることができる。
ゼラチンハイドロゲルは、上述のように架橋ゼラチン粉末を水と接触させることにより、形成することができる。たとえば架橋ゼラチン粉末1gを、0.1〜10mLの水に添加することによって上記第3工程に用いるゼラチンハイドロゲルを形成することができる。上記第3工程に用いるゼラチンハイドロゲルの「含水率」は、80〜98質量%であることが好ましい。
ゼラチンハイドロゲルは、上述した「含水率」が高い程分解されやすいとされる。ゼラチンハイドロゲルの含水率は、80質量%未満となると、培養液中での分解速度が著しく低下することにより、第2細胞から分泌される液性因子の放出が抑制され、もって第1細胞および第2細胞間の相互作用が十分に行われない傾向がある。上記含水率が98質量%を超えると、培養液中で直ちに溶解するため、薬剤および第2細胞を保持することができない傾向がある。ゼラチンハイドロゲルの含水率の測定には、従来公知の測定方法を用いることができる。
ゼラチンハイドロゲルの平均粒径の測定方法は、次のとおりである。すなわち上述した方法によりゼラチンハイドロゲルを形成する。次いで、このゼラチンハイドロゲルの顕微鏡写真を撮り、顕微鏡写真中に現れる粒子の直径を目視で測定することによってゼラチンハイドロゲルの粒径を求めることができる。上述の測定を100個のゼラチンハイドロゲルに対して行い、これらすべてのゼラチンハイドロゲルの粒径を平均値化することにより、ゼラチンハイドロゲルの平均粒径を求めることができる。
(細胞凝集体)
細胞凝集体は、上述のように薬剤がゼラチンハイドロゲルに担持され、かつ上記ゼラチンハイドロゲルに第2細胞が付着することにより第2細胞が立体的に集約した形状を有することができる。このような細胞凝集体は、たとえば次のようにして形成することができる。まず所定の容器を準備し、1質量%濃度のポリビニルアルコールを含むリン酸緩衝生理食塩水溶液を上記容器に添加し、その状態において37℃、かつ15分間放置することにより、上記容器の内壁に第2細胞が付着しないように前処理する。この前処理した容器に対し、上述した培養液と同一成分の培養液とともにゼラチンハイドロゲル、第2細胞および薬剤をそれぞれ必要量添加し、次いで混合する。ゼラチンハイドロゲル、第2細胞および薬剤の添加量としては、たとえばゼラチンハイドロゲル1個に対し、第2細胞が10個の比率とし、薬剤は、上記培養液中で10μg/mL〜10mg/mL濃度とすることができる。さらにゼラチンハイドロゲル、第2細胞および薬剤が添加された上記容器を37℃、5体積%CO2条件下で5〜15日間培養することにより、細胞凝集体を形成することができる。あるいは、細胞凝集体を調製する目的のために、細胞凝集体を調製できる「スフェロイドマイクロプレート」(コーニング社製)などのマイクロプレートを使用してもよい。細胞凝集体を調製する際の薬剤の添加量としては、上記培養液中で200〜600μg/mL濃度とすることが好ましい。
細胞凝集体は、それ自身の安定性維持および成長因子の活性維持などの目的に応じ、薬学上許容し得る安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤などの各種の添加剤を含むことができる。
ここで細胞凝集体は、1種または2種以上含むことが好ましい。たとえば細胞凝集体は、2種である場合、第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含むことが好ましい。この場合において第1細胞凝集体は、上記ゼラチンハイドロゲルと、CAFと、p53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる1種または2種以上とを含み、第2細胞凝集体は、上記ゼラチンハイドロゲルと、TAMと、アデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種とを含むことが好ましい。これにより第1細胞の浸潤性の強さをより正確に評価することができる。特に、細胞凝集体が第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の2種を含む場合、第2容器に収容する上記第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率を、浸潤性の強さを評価しようとする第1細胞のがん細胞の種別(胃、大腸、膵臓などの消化器系がん細胞、肺がん細胞、乳がん細胞、肝がん細胞、前立腺がん細胞、腎がん細胞、甲状腺がん細胞等)に応じて適宜選択することにより、上記第1細胞の浸潤性の強さをより高精度に評価することが可能となる。
さらに細胞凝集体は、上記ゼラチンハイドロゲルと、CAFと、TAMと、p53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる1種または2種以上と、アデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種とを含むこともできる。細胞凝集体がこのような態様である場合も、第1細胞の浸潤性の強さを評価することができる。
<第4工程>
第4工程は、上記第1容器および上記第2容器を上記隔膜を介して連結することにより、上記第1細胞および上記細胞凝集体中の上記第2細胞を共培養する工程である。以下、本工程について図1を参照することにより具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法を実行するために用いられる評価キットに基づいて構築された組立体の一例を示す模式図である。
図1に示すように本工程では、まず第2工程により準備された第1細胞21が収容された第1容器11、および第3工程により準備された第2細胞22、薬剤4およびゼラチンハイドロゲル5を含む第1細胞凝集体Aが収容された第2容器12を、隔膜3を介して連結する。ここで図1において隔膜3は、第1容器11の底部に配置されている。すなわち図1に示す組立体の例では、第1容器11および第2容器12が上下方向に重なるように配置されることにより、第1容器11の底部において第1容器11と第2容器12とが連結される。図1に示す第1容器11の大きさは、第2容器12の大きさよりも小さい。この場合においては、たとえばアダプター11aを、第1容器11に適宜備えさせることにより、第1容器11と第2容器12とを、第1容器11の底部の隔膜3を介して容易に連結させることができる。第1容器11および第2容器12には、第2工程および第3工程においてそれぞれ共通する培養液Mが収容されている。
次いで、上記組立体において、第1細胞21および第1細胞凝集体A中の第2細胞22を第1容器11および第2容器12に共通する培養液Mを用いて共培養する。共培養の条件は、第1細胞21ががん細胞であり、第2細胞がCAFである場合、これらを培養するための公知の条件を用いることができる。たとえば共培養の条件は、以下のとおりとすることができる。共培養中の上記組立体においては、隔膜3によって、第1容器11および第2容器12の間を第1細胞21および第2細胞22を含む第1細胞凝集体Aが通過不能である一方、第1細胞21および第2細胞22から分泌される液性因子は通過可能となり、もって第1細胞21および第2細胞22が相互作用することができる。
(共培養条件)
培養時間:24時間
温度:37℃、5体積%CO2条件下
培養液Mの組成:
基本培地 Minimum Essential Medium Eagle(MEM、Sigma Aldrich製)
ウシ胎児血清 10質量%
抗生物質(ペニシリンまたはストレプトマイシン 1質量%)。
さらに本工程に関し、細胞凝集体が第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含む場合の態様について、図3を参照することにより具体的に説明する。図3は、本実施形態に係る細胞浸潤性評価方法を実行するために用いられる評価キットに基づいて構築された組立体の他の一例を示す模式図である。
細胞凝集体が第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含む場合、図3に示すように本工程では、図1と対比すれば、第2容器12に第1細胞凝集体Aに加えて第2細胞凝集体Bが収容されている点において異なり、その他の態様は同一である。この場合においては、第1細胞21、第1細胞凝集体A中の第2細胞(CAF)および第2細胞凝集体B中の第2細胞(TAM)を、第1容器11および第2容器12に共通する培養液Mを用いて共培養する。共培養の条件は、これらを培養するための公知の条件を用いることができ、たとえば共培養の条件は、上述したがん細胞と第2細胞としてCAFとを用いた共培養条件と同じとすることができる。
<第5工程>
第5工程は、上記第1細胞が上記隔膜を通過して上記第1容器から上記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程である。以下、本工程については図2を参照することにより具体的に説明する。図2は、図1に示した組立体を用いて行う細胞浸潤性評価方法の一例を説明する説明図であって、(a)は、第1細胞および細胞凝集体中の第2細胞の共培養が進行中の組立体を示す説明図であり、(b)は、共培養を終了した時点の組立体を示す説明図であり、(c)は、(b)に示す組立体から第1容器を除去した第2容器を示す説明図である。
まず上述した第4工程において、図2(a)に示すように隔膜3を介して連結された第1容器11および第2容器12に共通する培養液Mを用いて所定時間(たとえば24時間)共培養されることにより、第1細胞21および第1細胞凝集体A中の第2細胞22が相互作用する。次いで第1細胞21が浸潤性を有していた場合、上記共培養のための所定時間(たとえば24時間)が経過した時点で、図2(b)に示すように第1細胞21の一部または全部は、隔膜3において被膜(図示省略)を破壊し、かつ基材31中のポアを通過することによって第1容器11から第2容器12に移動することとなる。
この場合において第5工程では、図2(c)に示すように組立体から第1容器11を除去することにより、自身の浸潤性によって第1容器から移動してきた第1細胞のみを第2容器12に収容することができる。次いで第1細胞の浸潤率(%)として、第1容器11に収容(播種)した第1細胞21の細胞数に対する、第1容器11から隔膜3を通過することによって第2容器12に収容された第1細胞21の細胞数の割合を求めることができる。さらに上記第1細胞の浸潤率(%)の値が高いほど、第1細胞21は浸潤性が強いと評価することができる。
第1容器11から隔膜3を通過することによって第2容器12に移動した第1細胞21の細胞数は、第2容器12に対して比色定量法などを実行することにより求めることができる。具体的には、トリパンブルー染色された細胞を目視で計測することにより求めることができる。以上により、第1細胞21が隔膜3を通過するか否かを指標とすることにより、第1細胞21の浸潤性の強さを評価することができる。
ここで本工程に関し、細胞凝集体が第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含む図3に示すような組立体の態様である場合を説明する。この場合であっても、細胞凝集体として第1細胞凝集体Aのみを収容した図1に示すような組立体の態様により実行する上述の第5工程と同じ要領により、第1細胞21が隔膜3を通過するか否かを指標として第1細胞21の浸潤性の強さを評価することができる。
〔抗浸潤性化合物スクリーニング方法〕
本実施形態に係る抗浸潤性化合物スクリーニング方法は、上記細胞浸潤性評価方法を用いることにより、化合物が抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングする抗浸潤性化合物スクリーニング方法である。すなわち抗浸潤性化合物スクリーニング方法は、上記第1細胞、上記第2細胞、上記第1容器、上記第2容器、上記隔膜、上記薬剤および上記架橋ゼラチン粉末を準備する工程(A工程)と、上記第1細胞を上記第1容器に収容する工程(B工程)と、上記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、上記第2細胞および上記薬剤を含む細胞凝集体を上記第2容器に収容する工程(C工程)と、上記第1容器および上記第2容器を上記隔膜を介して連結することにより、上記第1細胞および上記細胞凝集体中の上記第2細胞を共培養する工程(D工程)と、上記第1細胞が上記隔膜を通過して上記第1容器から上記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、上記第1細胞の浸潤性を評価する(E工程)工程と、上記第1容器または上記第2容器に上記化合物を添加する工程(X工程)とを含む。特に抗浸潤性化合物スクリーニング方法は、上記化合物を添加する工程(X工程)を実行した後に、上記第1細胞の浸潤性を評価する工程(E工程)を実行することによって、上記化合物が抗浸潤作用を有するか否かを評価することができる。
上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法によれば、上記化合物が上記第1細胞の浸潤性を減弱させるかどうかを評価することにより、上記化合物が抗浸潤作用を有するか否かを確認することができる。これにより化合物の相違に基づく第1細胞の浸潤性の増強または減弱を評価することができ、もって化合物が抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングすることができる。したがって、たとえば上記第1細胞ががん細胞であって、上記第2細胞が上記がん細胞と相互作用する間質細胞である場合、上記化合物は、抗がん剤候補化合物であることが好ましい。この場合、第1細胞(がん細胞)に対して抗がん剤候補化合物が、抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングすることが可能となる。
ここで抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングする「化合物」は、無機化合物、有機合成反応によって製造可能な化合物(有機化合物)、天然物などから抽出される化合物(天然物由来有機化合物)、およびこれらの組合せなどである。さらに、分子量が500Da未満の無機化合物または合成低分子製剤、分子量が500〜5000Da程度の無機化合物、核酸製剤またはペプチド製剤、分子量が数万Da以上のタンパク質製剤を、いずれも抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングする「化合物」に含むことができる。換言すれば、抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングする「化合物」は、所謂リード化合物、および上記リード化合物が有する官能基に対して化学反応を起こすことにより形成される誘導体を含むことができる。
本実施形態に係る抗浸潤性化合物スクリーニング方法は、上述のように上記細胞浸潤性評価方法における第1工程〜第5工程に相当するA工程〜E工程、およびX工程を含む。以下、各工程(A工程〜E工程およびX工程)について説明する。
<A工程〜D工程>
A工程、B工程、C工程およびD工程は、それぞれ上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第1工程>、<第2工程>、<第3工程>および<第4工程>と同じ工程である。したがって、上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法におけるA工程〜D工程の説明については、上述した細胞浸潤性評価方法における第1工程〜第4工程に関する説明と同じとなるので繰り返さない。
<X工程>
X工程は、上記第1容器または上記第2容器に上記化合物を添加する工程である。本工程は、上記D工程とともに実行される。本工程では、具体的には第1細胞および細胞凝集体中の第2細胞を共培養している第1容器または第2容器の培養液中に、上記化合物を添加する。第1容器および第2容器においては、第1細胞および細胞凝集体中の第2細胞が共培養されているため、上記化合物は、上記第1容器および第2容器のいずれか一方のみに添加すればよい。
上記第1容器または上記第2容器に添加する上記化合物の濃度は、添加する化合物によって異なるが、第1容器または第2容器の培養液中でおおむね0.01〜10質量%濃度とすることができる。さらに上記化合物を上記第1容器または第2容器に添加する方法としては、化合物を水などの適宜の溶媒に溶解することによって溶液とし、当該溶液をスポイト、ピペットおよび注射器などの適宜の器具を用いて添加する方法を例示することができる。
<E工程>
E工程は、上記X工程を実行した後に、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第5工程>を実行することにより、第1細胞の浸潤性を評価する工程である。本工程における第1細胞の浸潤性を評価する具体的な方法については、上述した細胞浸潤性評価方法における第5工程と同じである。これにより第1細胞の浸潤率(%)として、第1容器に収容(播種)した第1細胞の細胞数に対する、第1容器から隔膜を通過することによって第2容器に収容された第1細胞の細胞数の割合を求めることができ、もってX工程において添加した化合物が、第1細胞の浸潤性を減弱させるかどうかを評価することができる。すなわち複数の化合物ごとに上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法を実行することによって、化合物の相違に基づく第1細胞の浸潤性の増強または減弱を評価することができ、もって上記化合物が抗浸潤作用を有するか否かをスクリーニングすることができる。
ここでE工程に関しては、細胞凝集体が第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含む図3に示すような組立体の態様である場合も、上述した細胞浸潤性評価方法における第5工程と同じ要領により、第1細胞の浸潤率(%)を求めることができる。これにより上記図3に示すような組立体の態様である場合も、X工程において添加した化合物が、第1細胞の浸潤性を減弱させるかどうかを評価することができる。
〔架橋ゼラチン粉末〕
本実施形態に係る架橋ゼラチン粉末は、上記細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる架橋ゼラチン粉末である。上記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、上記ゼラチンハイドロゲルを形成する。上記架橋ゼラチン粉末は、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第1工程>の項目で説明した「架橋ゼラチン粉末」と同一である。したがって、上記架橋ゼラチン粉末の具体的な説明については、上述した第1工程における架橋ゼラチン粉末と同じとなるので繰り返さない。
ここで上記架橋ゼラチン粉末は、架橋剤等によって架橋処理されているため、上述のように水と接触した場合、水に対して不溶性の三次元の網目構造を有し、内部に水を含んで膨潤した状態を呈する。これにより平均粒径が10〜200μmの粒子状の形状を有するゼラチンハイドロゲルを形成することができる。上記架橋ゼラチン粉末からゼラチンハイドロゲルを形成する方法等の説明については、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第3工程>の項目において説明した「ゼラチンハイドロゲル」の形成方法と同一となるので繰り返さない。さらに上記ゼラチンハイドロゲルと第2細胞と薬剤とから細胞凝集体を形成する方法の説明についても、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第3工程>の項目において説明した細胞凝集体の形成方法と同一となるので繰り返さない。
〔評価キット〕
本実施形態に係る評価キットは、上記細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる評価キットである。上記評価キットは、上記第1容器と、上記第2容器と、上記隔膜と、上記薬剤と、上記架橋ゼラチン粉末とを少なくとも備える。上記評価キットは、上記第1細胞および上記第2細胞のいずれか一方を少なくとも備えることが好ましい。
このような特徴を備える評価キットは、たとえば第1細胞としてがん細胞を適用し、第2細胞として上記がん細胞と相互作用する間質細胞を適用した場合、第1細胞としてのがん細胞の浸潤性の強さを正確に評価するキットとして提供することができる。すなわち本実施形態に係る評価キットは、第1細胞として所望の細胞を準備することにより、当該第1細胞の浸潤性の強さを評価することが可能となる。
ここで上記評価キットに備えることができる「第1容器」、「第2容器」、「薬剤」、「隔膜」、「架橋ゼラチン粉末」、「第1細胞」および「第2細胞」は、それぞれ上述した〔細胞浸潤性評価方法〕における<第1工程>の項目で説明した「第1容器」、「第2容器」、「薬剤」、「隔膜」、「架橋ゼラチン粉末」、「第1細胞」および「第2細胞」と同一である。したがって、これら用語の具体的な説明については、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕の第1工程における各用語に関する説明と同じとなるので繰り返さない。
上記評価キットは、これに備わる「第1容器」、「第2容器」、「薬剤」、「隔膜」、「架橋ゼラチン粉末」、「第1細胞」および「第2細胞」を用いて図1に示すような組立体を準備することにより、上述した細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法に適用することができる。上記組立体を用いた細胞浸潤性評価方法、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法の説明については、上述した〔細胞浸潤性評価方法〕および〔抗浸潤性化合物スクリーニング方法〕の項目における各種の説明と同じとなるので繰り返さない。
上記評価キットにおいて上記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、ゼラチンハイドロゲルを形成する。上記ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmであることが好ましい。すなわち上記評価キットにおいて架橋ゼラチン粉末は、水と接触させることにより、内部に水を含んで平均粒径が10〜200μmの粒子状の形状を有するゼラチンハイドロゲルの態様とし、この態様により上述した細胞浸潤性評価方法における第3工程、あるいは上記抗浸潤性化合物スクリーニング方法におけるC工程に適用することができる。
以下、いくつかの実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、上述した評価キットを用いた細胞浸潤性評価方法を実行することにより、後述する第1細胞(小細胞肺がん細胞株)の浸潤性を評価する浸潤性評価試験を行った。さらに上記浸潤性評価試験では併せて、抗浸潤作用を有するか否かを評価する化合物としてマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(MMP inhibitor、商品名:「マリマスタット」、Sigma Aldrich社製。以下、「MMPi」とも記す)を用いることにより、上述した評価キットを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法を実行した。これにより上記化合物(MMPi)が第1細胞に対して抗浸潤作用を有するか否かについても評価した。なお上記MMPiは、後述する小細胞肺がん細胞株に対し、抗浸潤作用を有することが既知の化合物である。
<試料1〜試料3>
(第1工程(A工程))
「第1細胞」、「第2細胞」、「第1容器」、「第2容器」、「隔膜」、「薬剤」および「架橋ゼラチン粉末」を以下のとおり準備した。本実施例ではE工程(第5工程)において、上述のように抗浸潤作用を有するか否かを評価する化合物を添加する場合、および第1細胞の浸潤性を評価する場合(上記化合物を添加しない場合)の2通りにおいて浸潤性評価試験を行う。このため「第1容器」、「第2容器」および「隔膜」については2つずつ準備し、「第1細胞」、「第2細胞」、「架橋ゼラチン粉末」および「薬剤」については必要量準備した。
第1容器、第2容器および隔膜として、市販の細胞培養プレート(商品名:「CytoSelect(TM) 96−well Cell invasion assay(b
asement membrane、fluorometric format)」、Cell biolab.inc製)を入手することにより準備した。上記細胞培養プレートにおいて隔膜は、第1容器の底部に備えられている。また隔膜は、ポア径8μmのポリカーボネートからなる基材と、この基材上に形成されたIV型コラーゲンを含む被膜とを含む。
第1細胞として、小細胞肺がん細胞株(細胞名:「WA−hT」、独立行政法人理化学研究所製)を入手することにより準備した。さらに第2細胞として、がん関連線維芽細胞(CAF、細胞名:「ヒト肺癌間質線維芽細胞」、コスモ・バイオ株式会社製)を入手することにより準備した。
薬剤として、p53阻害剤(商品名:「ピスフィリン−α」、富士フィルム和光純薬株式会社製)を入手することにより準備した。
豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)を入手するとともに、上記豚皮由来アルカリ処理ゼラチンに対し、上述したグルタルアルデヒドを用いた方法によって架橋処理を行うことにより架橋ゼラチン粉末を準備した。以上により、第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備した。
(第2工程(B工程))
上述した培養液を添加した第1容器に対し、上記第1細胞を50000個播種することにより収容した。
(第3工程(C工程))
上述した方法により、上記架橋ゼラチン粉末2mgと水20μLとを接触させることによりゼラチンハイドロゲル(平均粒径100μm、含水率88%)を形成した。さらに20000個の上記ゼラチンハイドロゲル、200000個の上記第2細胞、および上記薬剤(500μg/mL濃度)を用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって細胞凝集体(第1細胞凝集体)(1000個)を形成した。この細胞凝集体(第1細胞凝集体)(1000個)を、上述した培養液を添加した第2容器に収容した。第3工程においては、上記第1細胞凝集体をさらに複数個作製した上で10日間培養し、この第1細胞凝集体に対して上述したELISA法を適用することにより、p53阻害剤がCAFを活性化することも確認した。
(第4工程(D工程))
上述した第1細胞を収容した第1容器、および第2細胞を含む細胞凝集体(第1細胞凝集体)を収容した第2容器を隔膜を介して連結することにより図1および図2(a)に示す組立体を構築した。さらに上述した共培養条件により上記組立体中の第1細胞21および第2細胞22を24時間、共培養した。
(X工程)
ここで試料1〜試料3に対し、試料ごとに組立体が2つずつ構築されている。このため第4工程(D工程)を実行するとともに、各試料において一方の組立体における第2容器12の培養液中へ、注射器を用いて培養液中の最終濃度が7.5μMとなる量の上記化合物を添加した。一方、他方の組立体における第2容器12の培養液中へは、上記化合物を添加しなかった。
(第5工程(E工程))
図2(b)および図2(c)に示すように上記共培養のための24時間が経過した時点で、上記化合物を添加した組立体および上記化合物を添加しなかった組立体からそれぞれ第1容器11を除去した。次いで、第1容器11に収容(播種)した第1細胞21の細胞数に対する、隔膜3を通過することによって第1容器11から第2容器12に移動した第1細胞21の細胞数の割合を、第1細胞の浸潤率(%)として求めた。評価結果を表1に示す。表1においては、上記化合物を添加しなかった組立体における隔膜を通過した第1細胞の数および浸潤率(%)を「MMPi(−)」を表記した欄に示した。上記化合物を添加した組立体における隔膜を通過した第1細胞の数および浸潤率(%)を「MMPi(+)」を表記した欄に示した。さらに試料1〜試料3の平均値も示した。試料1〜試料3は、実施例である。
<試料11〜試料13>
第3工程(C工程)において細胞凝集体(第1細胞凝集体)を形成することなく、第2細胞のみを第2容器に収容したこと以外、試料1〜試料3と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表1に示す。試料11〜試料13は、比較例である。
<試料14〜試料16>
第3工程(C工程)において、上記薬剤を用いることなく、第2細胞およびゼラチンハイドロゲルのみから細胞凝集体を形成したこと以外、試料1〜試料3と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表1に示す。試料14〜試料16は、比較例である。
ここで本浸潤性評価試験では、第1細胞として小細胞肺がん細胞株を用い、第2細胞としてCAFを用いた。上記小細胞肺がん細胞株と上記CAFとは、生体内において相互作用することが既知である。さらに第1細胞に対し抗浸潤性を有するか否かを評価する化合物としては、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤(MMPi)を用いた。上記MMPiは、上記のとおり小細胞肺がん細胞株に対して抗浸潤性を有することが既知である。また薬剤としてはp53阻害剤を用いた。このp53阻害剤に対しては、上述の方法を用いることにより上記CAFを活性化させることを確認した。したがって、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できている場合、MMPiを添加しなかった組立体においては、小細胞肺がん細胞株とCAFとが相互作用することにより、小細胞肺がん細胞株の浸潤性が増強され、かつ小細胞肺がん細胞株の浸潤性が阻害されない。このため、小細胞肺がん細胞株が有する浸潤性によって「第1細胞の浸潤率(%)」が高くなると考えられる(表1の「MMPi(−)」の欄参照)。
さらに、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できている場合、MMPiを添加した組立体においては、小細胞肺がん細胞株とCAFとが相互作用することにより、小細胞肺がん細胞株の浸潤性が増強されるものの、小細胞肺がん細胞株の浸潤性がMMPiによって阻害される。このため上記第1細胞の浸潤率(%)は、MMPiを添加しなかった場合に比べて低くなると考えられる(表1の「MMPi(+)」の欄参照)。
一方、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できていない場合、小細胞肺がん細胞株とCAFとが十分に相互作用することができず、小細胞肺がん細胞株の浸潤性が増強されない。このためMMPiを添加した組立体、MMPiを添加しなかった組立体の両者において、「第1細胞の浸潤率(%)」は低くなると考えられる(表1の「MMPi(−)」および「MMPi(+)」の欄参照)。
Figure 2021048834
〔考察〕
表1によれば、以下のことが推察される。
(1) 試料11〜試料13は、MMPi(+)およびMMPi(−)の欄に示した結果において第1細胞の浸潤率(%)が低く、生体内の実環境を再現できていないことが示唆された。その原因は、第2細胞が細胞凝集体を形成しておらず、第2細胞が共培養中にダメージを受け、その一部または全部が細胞死したためであると推察された。
(2) 試料14〜試料16も、MMPi(+)およびMMPi(−)の欄に示した結果において第1細胞の浸潤率(%)が低く、生体内の実環境を再現できていないことが示唆された。その原因は、細胞凝集体中のゼラチンハイドロゲルによって第2細胞の生存は維持されるが、第2細胞の活性が薬剤によって高まらないため、液性因子を通じて第1細胞と相互作用することが不十分であったためであると推察された。
(3) 試料1〜試料3は、MMPi(−)の欄に示した結果において第1細胞の浸潤率(%)が高く、MMPi(+)の欄に示した結果において第1細胞の浸潤率(%)が低くなり、生体内の実環境を忠実に再現できることが示唆された。
(4) 試料1〜試料3と試料11〜試料16との対比から、細胞凝集体(第1細胞凝集体)中に薬剤(p53阻害剤)が含まれることにより、第2細胞であるCAFは、上記薬剤の作用によって活性化され、もって第1細胞である小細胞肺がん細胞株と相互作用することが可能となることが推察された。
〔実施例2〕
本実施例では、上述した評価キットを用いた細胞浸潤性評価方法を実行することにより、後述する第1細胞(肝がん細胞株:HepG2)の浸潤性を評価する浸潤性評価試験を行った。さらに後述する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体に関し、上記評価キット中の組立体(第2容器)に収容する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率を変えることにより、第1細胞(肝がん細胞株:HepG2)の浸潤性が変化するか否かについても評価した。なお、以下の試料21〜試料25は、いずれも実施例である。
<試料21>
(第1工程)
「第1細胞」、「第2細胞」、「第1容器」、「第2容器」、「隔膜」、「薬剤」および「架橋ゼラチン粉末」を以下のとおり準備した。本実施例では「第1容器」、「第2容器」および「隔膜」についてはそれぞれ1つ準備し、「第1細胞」、「第2細胞」、「架橋ゼラチン粉末」および「薬剤」については必要量準備した。
第1容器、第2容器および隔膜として、上記〔実施例1〕と同じ市販の細胞培養プレートを準備した。
第1細胞として、肝がん細胞株(細胞名:「HepG2」、JCRB Cell Bank製)を入手することにより準備した。第2細胞として、がん関連線維芽細胞(CAF、細胞名:「ヒト肺癌間質線維芽細胞」、コスモ・バイオ株式会社製)を入手することにより準備した。さらに他の第2細胞として、tumor associated macropharge(TAM、細胞名:「ヒト単球由来細胞株(THP−1)由来」、JCRB Cell Bank製)を入手することにより準備した。
薬剤として、TGF−β1(商品名:「Recombinant human TGF−β1」、R&D Systems株式会社製)を入手することにより準備した。さらに他の薬剤として、アデノシン(商品名:「アデノシン」、富士フィルム和光純薬株式会社製)を入手することにより準備した。
架橋ゼラチン粉末については、上記〔実施例1〕と同じように、豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)から調製することにより準備した。
(第2工程)
上記〔実施例1〕と同じように、上述した培養液を添加した第1容器に対し、上記第1細胞を50000個播種することにより収容した。
(第3工程)
上記〔実施例1〕と同じように、上記架橋ゼラチン粉末2mgと水20μLとを接触させることによりゼラチンハイドロゲル(平均粒径100μm、含水率88%)を形成した。さらに20000個のゼラチンハイドロゲル、200000個のTAM(第2細胞)、およびアデノシン(5μM濃度)を用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(1000個)を形成した。この第2細胞凝集体(1000個)を、上述した培養液を添加した第2容器に収容した。なお試料21においては、ゼラチンハイドロゲル、CAF(第2細胞)およびTGF−β1(5000μg/mL濃度)から第1細胞凝集体を形成しなかった。さらに第3工程においては、第2細胞凝集体をさらに複数個作製した上で10日間培養し、上記第2細胞凝集体に対し上述したELISA法を適用することにより、アデノシンがTAMを活性化することも確認した。
(第4工程)
上記〔実施例1〕と同じ要領により、第1細胞を収容した第1容器、および第2細胞を含む第2細胞凝集体を収容した第2容器を隔膜を介して連結することによって組立体を構築した。さらに上述した共培養条件により上記組立体中の第1細胞および第2細胞凝集体中の第2細胞を24時間、共培養した。
(第5工程)
上記共培養のための24時間が経過した時点で、組立体から第1容器を除去した。次いで、第1容器に収容(播種)した第1細胞の細胞数に対する、隔膜を通過することによって第1容器から第2容器に移動した第1細胞の細胞数の割合を、第1細胞の浸潤率(%)として求めた。さらに第2容器の培養液を抽出し、当該培養液中のマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)量を第1細胞が産生したMMP2産生量(単位は、ng)として定量することにより、第1細胞が浸潤性を有していることを生化学的に確認した。評価結果を表2に示す。表2中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料21に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料22>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(250個)を形成した。さらに15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(750個)を形成した。さらに第3工程においては、第1細胞凝集体をさらに複数個作製した上で10日間培養し、この第1細胞凝集体に対して上述したELISA法を適用することにより、TGF−β1がCAFを活性化することも確認した。それ以外については、試料21と同じ要領により、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表2に示す。表2中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料22に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料23>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを10000個と、10000個とに配分した。次いで10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(500個)を形成した。さらに10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(500個)を形成した。それ以外については、試料21と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表2に示す。表2中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料23に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料24>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(750個)を形成した。さらに5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(250個)を形成した。それ以外については、試料21と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表2に示す。表2中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料24に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料25>
第3工程において、20000個の上記ゼラチンハイドロゲルと、200000個の上記CAF(第2細胞)と、上記TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(1000個)を形成した。なお試料25においては、上記ゼラチンハイドロゲル、TAM(第2細胞)およびアデノシン(5μM濃度)から第2細胞凝集体を形成しなかった。それ以外については、試料21と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表2に示す。表2中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料25に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
Figure 2021048834
ここで本浸潤性評価試験では、第1細胞として肝がん細胞株(HepG2)を用い、第2細胞としてCAFおよびTAMを用いた。肝がん細胞株(HepG2)とCAFおよびTAMとは、生体内において相互作用することが既知である。また薬剤としてはTGF−β1およびアデノシンを用いた。TGF−β1に対しては、上述の方法を用いることによりCAFを活性化させることを確認した。アデノシンに対しては、上述の方法を用いることによりTAMを活性化させることを確認した。したがって、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できている場合、肝がん細胞株とCAFおよびTAMとが相互作用し、第1細胞の浸潤率(%)が高い数値で示されることにより、肝がん細胞株の浸潤性が認められるようになると考えられる。第1細胞の浸潤率(%)が10%以上である場合、肝がん細胞株が浸潤性を有すると評価することができる。さらに第1細胞の浸潤率(%)が15%以上である場合、肝がん細胞株が好ましい浸潤性を有すると評価することができる。
さらに、肝がん細胞株を活性化するために最適なCAFの量と、肝がん細胞株を活性化するために最適なTAMの量とは異なると推定される。この推定に基づき、組立体(第2容器)に収容するCAFおよびTAMの比率(第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率)を変化させて本浸潤性評価試験を実行することにより、本評価キットを用いた肝がん細胞株の浸潤性評価方法に最適なCAFおよびTAMの比率を見出すことができる可能性がある。
〔考察〕
表2によれば、以下のことが推察される。
(1) 試料21〜試料25は、第1細胞の浸潤率(%)が10%以上と高く、もって生体内の実環境を忠実に再現できることが示唆された。
(2) 特に試料22と、試料21および試料23〜25との対比から、TAM:CAFが3:1の比率で組立体(第2容器)に収容された場合に、第1細胞の浸潤率(%)が21%以上となり、より高くなることが示された。このことから肝がん細胞株に対して細胞浸潤性評価方法を実行する場合、TAM:CAFの比率を3:1とすることが好ましいことが示唆された。
〔実施例3〕
本実施例では、上述した評価キットを用いた細胞浸潤性評価方法を実行することにより、後述する第1細胞(乳がん細胞株:MCF−7)の浸潤性を評価する浸潤性評価試験を行った。さらに後述する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体に関し、上記評価キット中の組立体(第2容器)に収容する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率を変えることにより、第1細胞(乳がん細胞株:MCF−7)の浸潤性が変化するか否かについても評価した。なお、以下の試料31〜試料35は、いずれも実施例である。
<試料31>
(第1工程)
「第1細胞」、「第2細胞」、「第1容器」、「第2容器」、「隔膜」、「薬剤」および「架橋ゼラチン粉末」を以下のとおり準備した。本実施例では「第1容器」、「第2容器」および「隔膜」についてはそれぞれ1つ準備し、「第1細胞」、「第2細胞」、「架橋ゼラチン粉末」および「薬剤」については必要量準備した。
第1容器、第2容器および隔膜として、上記〔実施例1〕と同じ市販の細胞培養プレートを準備した。
第1細胞として、乳がん細胞株(細胞名:「MCF−7」、JCRB Cell Bank製)を入手することにより準備した。第2細胞として、がん関連線維芽細胞(CAF、細胞名:「ヒト肺癌間質線維芽細胞」、コスモ・バイオ株式会社製)を入手することにより準備した。さらに他の第2細胞として、tumor associated macropharge(TAM、細胞名:「ヒト単球由来細胞株(THP−1)由来」、JCRB Cell Bank製)を入手することにより準備した。
薬剤としては、上記〔実施例2〕と同じように、TGF−β1(商品名:「Recombinant human TGF−β1」、R&D Systems株式会社製)およびアデノシン(商品名:「アデノシン」、富士フィルム和光純薬株式会社製)を入手することにより準備した。
架橋ゼラチン粉末については、上記〔実施例1〕と同じように、豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)から調製することにより準備した。
(第2工程)
上記〔実施例1〕と同じように、上述した培養液を添加した第1容器に対し、上記第1細胞を50000個播種することにより収容した。
(第3工程)
上記〔実施例1〕と同じように、上記架橋ゼラチン粉末2mgと水20μLとを接触させることによりゼラチンハイドロゲル(平均粒径100μm、含水率88%)を形成した。さらに20000個のゼラチンハイドロゲル、200000個のTAM(第2細胞)、およびアデノシン(5μM濃度)を用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(1000個)を形成した。この第2細胞凝集体(1000個)を、上述した培養液を添加した第2容器に収容した。なお試料31においては、ゼラチンハイドロゲル、CAF(第2細胞)およびTGF−β1(5000μg/mL濃度)から第1細胞凝集体を形成しなかった。
(第4工程)
上記〔実施例1〕と同じ要領により、第1細胞を収容した第1容器、および第2細胞を含む第2細胞凝集体を収容した第2容器を隔膜を介して連結することによって組立体を構築した。さらに上述した共培養条件により上記組立体中の第1細胞および第2細胞凝集体中の第2細胞を24時間、共培養した。
(第5工程)
上記共培養のための24時間が経過した時点で、組立体から第1容器を除去した。次いで、第1容器に収容(播種)した第1細胞の細胞数に対する、隔膜を通過することによって第1容器から第2容器に移動した第1細胞の細胞数の割合を、第1細胞の浸潤率(%)として求めた。さらに第2容器の培養液を抽出し、当該培養液中のマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)量を第1細胞が産生したMMP2産生量(単位は、ng)として定量することにより、第1細胞が浸潤性を有していることを生化学的に確認した。評価結果を表3に示す。表3中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料31に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料32>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(250個)を形成した。さらに15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(750個)を形成した。それ以外については、試料31と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表3に示す。表3中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料32に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料33>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを10000個と、10000個とに配分した。次いで10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(500個)を形成した。さらに10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(500個)を形成した。それ以外については、試料31と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表3に示す。表3中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料33に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料34>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(750個)を形成した。さらに5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(250個)を形成した。それ以外については、試料31と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表3に示す。表3中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料34に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料35>
第3工程において、20000個の上記ゼラチンハイドロゲルと、200000個の上記CAF(第2細胞)と、上記TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(1000個)を形成した。なお試料35においては、上記ゼラチンハイドロゲル、TAM(第2細胞)およびアデノシン(5μM濃度)から第2細胞凝集体を形成しなかった。それ以外については、試料31と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表3に示す。表3中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料35に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
Figure 2021048834
ここで本浸潤性評価試験では、第1細胞として乳がん細胞株(MCF−7)を用い、第2細胞としてCAFおよびTAMを用いた。乳がん細胞株(MCF−7)とCAFおよびTAMとは、生体内において相互作用することが既知である。また薬剤としてはTGF−β1およびアデノシンを用いた。上述のとおりTGF−β1は、CAFを活性化し、アデノシンは、TAMを活性化する。したがって、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できている場合、乳がん細胞株とCAFおよびTAMとが相互作用し、第1細胞の浸潤率(%)が高い数値で示されることにより、乳がん細胞株の浸潤性が認められるようになると考えられる。第1細胞の浸潤率(%)が9%以上である場合、乳がん細胞株が浸潤性を有すると評価することができる。さらに第1細胞の浸潤率(%)が11%以上である場合、乳がん細胞株が好ましい浸潤性を有すると評価することができる。
さらに、乳がん細胞株を活性化するために最適なCAFの量と、乳がん細胞株を活性化するために最適なTAMの量とは異なると推定される。この推定に基づき、組立体(第2容器)に収容するCAFおよびTAMの比率(第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率)を変化させて本浸潤性評価試験を実行することにより、本評価キットを用いた乳がん細胞株の浸潤性評価方法に最適なCAFおよびTAMの比率を見出すことができる可能性がある。
〔考察〕
表3によれば、以下のことが推察される。
(1) 試料31〜試料35は、第1細胞の浸潤率(%)が9%以上と高く、もって生体内の実環境を忠実に再現できることが示唆された。
(2) 特に試料33と、試料31〜試料32および試料34〜35との対比から、TAM:CAFが2:2の比率で組立体(第2容器)に収容された場合に、第1細胞の浸潤率(%)が16%以上となり、より高くなることが示された。このことから乳がん細胞株に対して細胞浸潤性評価方法を実行する場合、TAM:CAFの比率を2:2とすることが好ましいことが示唆された。
〔実施例4〕
本実施例では、上述した評価キットを用いた細胞浸潤性評価方法を実行することにより、後述する第1細胞(肺がん細胞株:WA−hT)の浸潤性を評価する浸潤性評価試験を行った。さらに後述する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体に関し、上記評価キット中の組立体(第2容器)に収容する第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率を変えることにより、第1細胞(肺がん細胞株:WA−hT)の浸潤性が変化するか否かについても評価した。なお、以下の試料41〜試料45は、いずれも実施例である。
<試料41>
(第1工程)
「第1細胞」、「第2細胞」、「第1容器」、「第2容器」、「隔膜」、「薬剤」および「架橋ゼラチン粉末」を以下のとおり準備した。本実施例では「第1容器」、「第2容器」および「隔膜」についてはそれぞれ1つ準備し、「第1細胞」、「第2細胞」、「架橋ゼラチン粉末」および「薬剤」については必要量準備した。
第1容器、第2容器および隔膜として、上記〔実施例1〕と同じ市販の細胞培養プレートを準備した。
第1細胞として、小細胞肺がん細胞株(細胞名:「WA−hT」、独立行政法人理化学研究所製)を入手することにより準備した。第2細胞として、がん関連線維芽細胞(CAF、細胞名:「ヒト肺癌間質線維芽細胞」、コスモ・バイオ株式会社製)を入手することにより準備した。さらに他の第2細胞として、tumor associated macropharge(TAM、細胞名:「ヒト単球由来細胞株(THP−1)由来」、JCRB Cell Bank製)を入手することにより準備した。
薬剤としては、上記〔実施例2〕と同じように、TGF−β1(商品名:「Recombinant human TGF−β1」、R&D Systems株式会社製)およびアデノシン(商品名:「アデノシン」、富士フィルム和光純薬株式会社製)を入手することにより準備した。
架橋ゼラチン粉末については、上記〔実施例1〕と同じように、豚皮由来アルカリ処理ゼラチン(商品名:「beMatrix(登録商標)ゼラチンLS−H」、新田ゼラチン株式会社製)から調製することにより準備した。
(第2工程)
上記〔実施例1〕と同じように、上述した培養液を添加した第1容器に対し、上記第1細胞を50000個播種することにより収容した。
(第3工程)
上記〔実施例1〕と同じように上記架橋ゼラチン粉末2mgと水20μLとを接触させることによりゼラチンハイドロゲル(平均粒径100μm、含水率88%)を形成した。さらに20000個のゼラチンハイドロゲル、200000個のTAM(第2細胞)、およびアデノシン(5μM濃度)を用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(1000個)を形成した。この第2細胞凝集体(1000個)を、上述した培養液を添加した第2容器に収容した。なお試料41においては、ゼラチンハイドロゲル、CAF(第2細胞)およびTGF−β1(5000μg/mL濃度)から第1細胞凝集体を形成しなかった。
(第4工程)
上記〔実施例1〕と同じ要領により、第1細胞を収容した第1容器、および第2細胞を含む第2細胞凝集体を収容した第2容器を隔膜を介して連結することによって組立体を構築した。さらに上述した共培養条件により上記組立体中の第1細胞および第2細胞凝集体中の第2細胞を24時間、共培養した。
(第5工程)
上記共培養のための24時間が経過した時点で、組立体から第1容器を除去した。次いで、第1容器に収容(播種)した第1細胞の細胞数に対する、隔膜を通過することによって第1容器から第2容器に移動した第1細胞の細胞数の割合を、第1細胞の浸潤率(%)として求めた。さらに第2容器の培養液を抽出し、当該培養液中のマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)量を第1細胞が産生したMMP2産生量(単位は、ng)として定量することにより、第1細胞が浸潤性を有していることを生化学的に確認した。評価結果を表4に示す。表4中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料41に対し上記方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料42>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(250個)を形成した。さらに15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(750個)を形成した。それ以外については、試料41と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表4に示す。表4中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料42に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料43>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを10000個と、10000個とに配分した。次いで10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(500個)を形成した。さらに10000個のゼラチンハイドロゲルと、100000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(500個)を形成した。それ以外については、試料41と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表4に示す。表4中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料43に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料44>
第3工程において、まず20000個のゼラチンハイドロゲルを5000個と、15000個とに配分した。次いで15000個のゼラチンハイドロゲルと、150000個のCAF(第2細胞)と、TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(750個)を形成した。さらに5000個のゼラチンハイドロゲルと、50000個のTAM(第2細胞)と、アデノシン(5μM濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第2細胞凝集体(250個)を形成した。それ以外については、試料41と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表4に示す。表4中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料44に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
<試料45>
第3工程において、20000個の上記ゼラチンハイドロゲルと、200000個の上記CAF(第2細胞)と、上記TGF−β1(5000μg/mL濃度)とを用い、公知のシャーレで37℃、5体積%CO2条件下で10日間培養することによって第1細胞凝集体(1000個)を形成した。なお試料45においては、上記ゼラチンハイドロゲル、TAM(第2細胞)およびアデノシン(5μM濃度)から第2細胞凝集体を形成しなかった。それ以外については、試料41と同じとすることにより、浸潤性評価試験を実行した。評価結果を表4に示す。表4中に示す第1細胞の浸潤率(%)およびMMP2産生量の各値は、試料45に対し上記評価方法を3回実行することにより得られた値の平均値である。
Figure 2021048834
ここで本浸潤性評価試験では、第1細胞として小細胞肺がん細胞株(WA−hT)を用い、第2細胞としてCAFおよびTAMを用いた。小細胞肺がん細胞株(WA−hT)とCAFおよびTAMとは、生体内において相互作用することが既知である。また薬剤としてはTGF−β1およびアデノシンを用いた。上述のとおりTGF−β1は、CAFを活性化し、アデノシンは、TAMを活性化する。したがって、本浸潤性評価試験において生体内の実環境を再現できている場合、小細胞肺がん細胞株とCAFおよびTAMとが相互作用し、第1細胞の浸潤率(%)が高い数値で示されることにより、小細胞肺がん細胞株の浸潤性が認められるようになると考えられる。第1細胞の浸潤率(%)が8%以上である場合、小細胞肺がん細胞株が浸潤性を有すると評価することができる。さらに第1細胞の浸潤率(%)が13%以上である場合、小細胞肺がん細胞株が好ましい浸潤性を有すると評価することができる。
さらに、小細胞肺がん細胞株を活性化するために最適なCAFの量と、小細胞肺がん細胞株を活性化するために最適なTAMの量とは異なると推定される。この推定に基づき、組立体(第2容器)に収容するCAFおよびTAMの比率(第1細胞凝集体および第2細胞凝集体の比率)を変化させて本浸潤性評価試験を実行することにより、本評価キットを用いた小細胞肺がん細胞株の浸潤性評価方法に最適なCAFおよびTAMの比率を見出すことができる可能性がある。
〔考察〕
表4によれば、以下のことが推察される。
(1) 試料41〜試料45は、第1細胞の浸潤率(%)が8%以上と高く、もって生体内の実環境を忠実に再現できることが示唆された。
(2) 特に試料44および試料45と、試料41〜試料43との対比から、TAM:CAFが1:3および0:4の比率で組立体(第2容器)に収容された場合に、第1細胞の浸潤率(%)が19%以上となり、より高くなることが示された。このことから小細胞肺がん細胞株に対して細胞浸潤性評価方法を実行する場合、TAM:CAFの比率を1:3または0:4とすることが好ましいことが示唆された。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
11 第1容器、11a アダプター、12 第2容器、21 第1細胞、22 第2細胞、3 隔膜、31 基材、4 薬剤、5 ゼラチンハイドロゲル、A 第1細胞凝集体、B 第2細胞凝集体、M 培養液。

Claims (18)

  1. 細胞の浸潤性を評価する細胞浸潤性評価方法であって、
    第1細胞、第2細胞、第1容器、第2容器、隔膜、薬剤および架橋ゼラチン粉末を準備する工程と、
    前記第1細胞を前記第1容器に収容する工程と、
    前記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、前記第2細胞および前記薬剤を含む細胞凝集体を前記第2容器に収容する工程と、
    前記第1容器および前記第2容器を前記隔膜を介して連結することにより、前記第1細胞および前記細胞凝集体中の前記第2細胞を共培養する工程と、
    前記第1細胞が前記隔膜を通過して前記第1容器から前記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、前記第1細胞の浸潤性を評価する工程とを含み、
    前記第1細胞と前記第2細胞とは、相互作用し、
    前記薬剤は、前記第2細胞を活性化する作用を有する、細胞浸潤性評価方法。
  2. 前記隔膜は、前記第1容器または前記第2容器に備えられ、
    前記隔膜は、基材と前記基材上に形成される被膜とを含み、
    前記被膜は、基底膜を構成する成分を含む、請求項1に記載の細胞浸潤性評価方法。
  3. 前記基底膜を構成する成分は、IV型コラーゲンである、請求項2に記載の細胞浸潤性評価方法。
  4. 前記第1細胞は、がん細胞である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  5. 前記第2細胞は、間質細胞である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  6. 前記第2細胞は、がん関連線維芽細胞およびtumor associated macrophargeの両方またはいずれか一方である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  7. 前記薬剤は、前記第1細胞から分泌される分子、前記分子の誘導体、前記分子の前駆体および前記分子の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  8. 前記細胞凝集体は、前記第2細胞として前記がん関連線維芽細胞を含み、前記薬剤としてp53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  9. 前記細胞凝集体は、前記第2細胞として前記tumor associated macrophargeを含み、前記薬剤としてアデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  10. 前記ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmである、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  11. 前記細胞凝集体は、1種または2種以上含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  12. 前記細胞凝集体は、第1細胞凝集体および第2細胞凝集体を含み、
    前記第1細胞凝集体は、前記ゼラチンハイドロゲルと、前記がん関連線維芽細胞と、前記p53阻害剤、TGF−β1、SDF−1およびPGE2からなる群より選ばれる少なくとも1種または2種以上とを含み、
    前記第2細胞凝集体は、前記ゼラチンハイドロゲルと、前記tumor associated macrophargeと、前記アデノシンおよびIL−6からなる群より選ばれるいずれか1種または2種とを含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法。
  13. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法を用いることにより、化合物が抗浸潤作用を有するか否かを評価する抗浸潤性化合物スクリーニング方法であって、
    前記第1細胞、前記第2細胞、前記第1容器、前記第2容器、前記隔膜、前記薬剤および前記架橋ゼラチン粉末を準備する工程と、
    前記第1細胞を前記第1容器に収容する工程と、
    前記架橋ゼラチン粉末を用いて形成されるゼラチンハイドロゲル、前記第2細胞および前記薬剤を含む細胞凝集体を前記第2容器に収容する工程と、
    前記第1容器および前記第2容器を前記隔膜を介して連結することにより、前記第1細胞および前記細胞凝集体中の前記第2細胞を共培養する工程と、
    前記第1細胞が前記隔膜を通過して前記第1容器から前記第2容器へ移動するか否かを指標とすることにより、前記第1細胞の浸潤性を評価する工程と、
    前記第1容器または前記第2容器に前記化合物を添加する工程とを含み、
    前記化合物を添加する工程を実行した後に、前記第1細胞の浸潤性を評価する工程を実行することによって前記化合物が抗浸潤作用を有するか否かを評価する、抗浸潤性化合物スクリーニング方法。
  14. 前記化合物は、抗がん剤候補化合物である、請求項13に記載の抗浸潤性化合物スクリーニング方法。
  15. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法、あるいは請求項13または請求項14に記載の抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる架橋ゼラチン粉末であって、
    前記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、前記ゼラチンハイドロゲルを形成する、架橋ゼラチン粉末。
  16. 請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の細胞浸潤性評価方法、あるいは請求項13または請求項14に記載の抗浸潤性化合物スクリーニング方法に用いられる評価キットであって、
    前記評価キットは、前記第1容器と、前記第2容器と、前記隔膜と、前記薬剤と、前記架橋ゼラチン粉末とを少なくとも備える、評価キット。
  17. 前記評価キットは、前記第1細胞および前記第2細胞の少なくとも一方を備える、請求項16に記載の評価キット。
  18. 前記架橋ゼラチン粉末は、水と接触した場合、前記ゼラチンハイドロゲルを形成し、
    前記ゼラチンハイドロゲルは、粒子状であって、平均粒径が10〜200μmである、請求項16または請求項17に記載の評価キット。
JP2020100005A 2019-09-19 2020-06-09 細胞浸潤性評価方法、それを用いた抗浸潤性化合物スクリーニング方法、ならびにそれらの方法に用いられる架橋ゼラチン粉末および評価キット Pending JP2021048834A (ja)

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