JP2020518716A - 新規な生分解性金属合金の特性およびパラメータ - Google Patents

新規な生分解性金属合金の特性およびパラメータ Download PDF

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Abstract

【解決手段】本発明は生分解性金属合金、それらの調製方法、およびそれらの用途に関する。合金はマグネシウムと、イットリウム、カルシウム、ジルコニウム、および亜鉛など他の成分を含む。これらの元素は、所望の特性および特徴を有する合金を達成するために、特定の組合せおよび量で一緒に合金化される。特定の実施形態では、ストロンチウムまたはセリウムが添加材として含まれる。結果的に得られる合金は、患者の体内に埋め込むための様々な医療装置を形成するのに特に適している。【選択図】図4.2

Description

<関連出願の相互参照>
本願は、2017年4月12日に出願された「PROPERTIES AND PARAMETERS OF NOVEL BIODEGRADABLE METALLIC ALLOYS」と題する米国仮特許出願第62/484,560号と、2017年4月12日に出願された「UNIQUE CHARACTERISTICS AND PROPERTIES OF NOVEL BIODEGRADABLE METALLIC ALLOYS」と題する米国仮特許出願第62/484,564号とに対し、米国特許法第119条(e)項に基づく優先権を主張し、これらの出願は、参照によって本明細書の一部となる。
<政府支援に関する陳述>
本発明は、米国科学財団(NSF)によって与えられた#EEC−0812348に基づく政府支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明に確たる権利を有する。
本発明は、金属合金およびそれから作製された物品と、にそれらの調製方法とに関する。本発明は特に、例えば整形外科、頭蓋顔面、気管支気管、エウスタキオ管およびステントや、尿管ステントや心血管インプラント装置のような患者の体内に埋め込むための生分解性材料および医療装置の作製に使用するのに適している。
プレート、ネジ、釘、およびピンなどの金属インプラント装置は、整形外科、頭蓋顔面、および心血管インプラント手術の実施に一般的に使用される。さらに、金属ステントもまた管腔、例えば冠動脈を支持するために患者の体内に埋め込まれる。現在使用されているこれらの金属インプラント装置の多くは、ステンレス鋼、コバルトクロム(Co−Cr)またはチタン合金から構成される。有利なことに、これらの構成材料は良好な生体力学特性を示す。しかし、不都合なことに、これらの材料から構成されたインプラント装置は長い期間が経過しても分解しない。したがって、インプラント装置の医学的必要性が無くなったとき、および様々な理由からインプラント装置を患者の体内から取り出すことが望ましい場合に、外科手術が必要になる。例えば小児への応用など、場合によっては、インプラント装置を取り除かなければ、最終的に身体によって拒絶され、患者の合併症を引き起こす懸念がある。したがって、(i)インプラント装置は期間の経過により分解することのできる材料から構成され、(ii)インプラント装置は医学的必要性が無くなったときに体内に残らないように、生理的環境で溶解し、かつ(iii)インプラント装置を患者の体内から取り出すための外科手術が不要になることが有利であろう。
現在、整形外科、頭蓋顔面、および心血管用途に使用される生体材料は主として、周期的荷重に耐え得る能力に基づいて選択される。特に金属製生体材料は、高い強度、延性、破壊靭性、硬度、耐食性、成形性、および生体適合性などの適切な性質を有しており、耐荷重性が必要な大半の用途にとって魅力的なものになっている。耐荷重性が必要な用途で最も一般的な金属はステンレス鋼、Ti、およびCo−Cr基合金であるが、それらのスチフネス、剛性、および強度は自然骨をはるかに超える。それらの弾性係数は骨とは著しく異なることから、応力遮蔽効果を引き起こし、これが骨の負荷の低下を招いて刺激が低下し、新たな骨の成長および再形成が不充分になり、インプラントの安定性を低下させる。現在の金属製生体材料はまた、腐食または摩耗により毒性金属イオンまたは粒子を放出し、インプラント部位の免疫反応を引き起こす危険性もある。それらはまた過敏症、発育不全(小児インプラントの場合に最も顕著である)、インプラント移動、および撮像干渉につながることもある。これらの合併症のため、患者の10%は、永久的な金属製のプレートおよびネジ、ならびに不活性金属を含む他の骨関連固定装置を取り出すために二回目の手術が必要になると推定され、患者はさらなる危険に曝され、かつ外科手術に関する時間および資源の増加を招く。
少なくともこれらの問題に鑑みて、骨が治癒する間は適切な支持を提供し、期間の経過により無害に分解することを目標として、新たな種類の耐荷重性生体材料を設計し開発することが望まれている。
永久固定インプラントに関連する合併症を回避するために、分解性生体材料が最近開発されてきた。これらは通常、ポリマー系を含む。しかし、吸収性ポリマーの固定プレートおよびネジは金属に比べて強度および剛性が相対的に低く、局所的炎症反応を示してきた。さらに、それらはいかなる骨形成性も示さない。例えば、インプラント装置の構築に現在使用されている生分解性材料は、ポリヒドロキシ酸、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)等のようなポリマーを含む。しかし、これらの材料は比較的低い強度および延性を示し、ヒトの組織と反応して骨の成長を制限しうる傾向のあることが明らかになっている。
マグネシウム合金は、自然骨により近い性質を持つ整形外科用の新しい種類の生分解性材料として最近登場した。マグネシウムは生理的環境で分解する非毒性金属元素であることが知られており、したがって、生分解性インプラント装置の構築に使用するのに適した元素であると考えられる。マグネシウムは幾つかの理由から生体材料として魅力的である。それは、密度がステンレス鋼、チタン合金、およびCo−Cr合金よりずっと低く、皮質骨と同様の密度であり、非常に軽量である。マグネシウムの弾性係数は、一般的に使用されている他の金属インプラントと比較して自然骨に遥かに近く、したがって、応力遮蔽とその結果生じる埋め込まれた固定システムの取出しとに関連する骨折の危険性が低下する。また、マグネシウムはヒトの代謝に不可欠であり、多くの酵素の補因子であり、DNAおよびRNAの構造を安定させる。最も重要なことは、マグネシウムが分解すると可溶性で非毒性の水酸化物腐食生成物を発生し、それは尿により無害に排泄されることである。残念ながら、マグネシウム合金の加速的腐食は、インプラント周囲に水素ガスポケットの蓄積を導くと共に、分解および組織の治癒課程中に機械的性能およびインプラントの安定性が不充分になるおそれがある。生理的環境におけるマグネシウムの分解は、水酸化マグネシウムおよび水素ガスを発生する。このプロセスは当該技術分野でマグネシウム腐食として知られている。水素ガスを吸収または放出する人体の能力は限られているので、マグネシウム腐食の結果として患者の体内で発生する水素ガスは、合併症を引き起こすことがある。
当該技術分野で公知の様々な生分解性金属合金は、生体適合性が低く、かつ/または腐食速度が高いため、これらの材料はインプラント装置のような医療用に使用するには不適切である。さらに、インプラント装置用材料の組成物は、亜鉛およびアルミニウムのような毒性元素を含むべきではなく、少なくともこれらの元素は非毒性の含有量にとどめるべきである。さらに、組成物は、生理的環境すなわち患者の体内で埋込みに適した腐食速度を示すべきである。
生物医学的応用の分野では、優れた圧縮強度を有し、耐食性および生体適合性が向上した生分解性金属合金含有インプラント材料の開発が待望されている。さらに、生理的環境におけるマグネシウムの存在に関連する耐食性とそれによる水素発生とを制御することが望ましい。
一態様では、本発明は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.6〜1.0重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む生分解性金属合金を提供する。特定の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.6重量パーセントのカルシウムと、約1.0重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。他の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.6重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。
別の態様では、本発明は、組成物の総重量に基づいて、約4.0〜4.5重量パーセントの亜鉛と、約0.3〜0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む生分解性金属合金を提供する。特定の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントの亜鉛と、約0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。他の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.4重量パーセントの亜鉛と、約0.3〜0.4重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。金属合金はさらに、各々が金属合金の約0.25〜1.0重量パーセントを構成するストロンチウムまたはセリウムを含んでよい。特定の実施形態では、ストロンチウムまたはセリウムは、金属合金の約0.25重量パーセントまたは約1.0重量パーセントを構成する。不純物は鉄、ニッケル、および銅の一つ以上を含むことができ、総量で20ppm未満が金属合金に存在してよい。金属合金は固溶体単相であってよい。Mg‐Zn‐Zr合金系はMg(ZnZr)を含む主要相を含んでよい。Mg‐Zn‐Zr合金系はMgZn析出物を含む二次金属間相を含んでよく、それは金属合金において最小化または排除されてよい。
別の態様では、本発明は、生分解性金属合金を調製する方法であって、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウム、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウム、約0.5〜0.6重量パーセントのジルコニウム、約2.0重量パーセントの亜鉛、および不純物を含む残部のマグネシウムを溶融して溶融混合物を得る工程と、溶融混合物を鋳造して前記生分解性金属合金を得る工程とを含む、生分解性金属合金の調製方法を提供する。
別の態様では、本発明は、生分解性金属合金を調製する方法であって、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントの亜鉛と、約0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを溶融して溶融混合物を得る工程と、溶融混合物を鋳造して前記生分解性金属合金を得る工程とを含む、生分解性金属合金の調製方法を提供する。特定の実施形態では、この方法はさらに、各々が金属合金の0.25〜1.0重量パーセントを構成するストロンチウムまたはセリウムを溶融する工程を含む。
さらに別の態様では、本発明は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む生分解性金属合金含有物品を含む。
さらに別の態様では、本発明は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントの亜鉛と、約0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む生分解性金属合金含有物品を含む。特定の実施形態では、この金属合金はさらに、各々が金属合金の0.25〜1.0重量パーセントを構成するストロンチウムまたはセリウムを含む。
特定の実施形態では、物品は医療装置である。医療装置は患者の体内に埋込み可能とすることができる。別の実施形態では、医療装置は整形外科用装置とすることができる。さらに別の実施形態では、医療装置は頭蓋顔面装置とすることができる。さらに別の実施形態では、医療装置は心血管装置のみならず、エウスタキオ管および栓塞棹ならびに尿管ステントをはじめ、肺および気管支気管装置用途向けの装置とすることができる。
本発明のさらなる理解は、後述する発明を実施するための形態を、添付の図面に照らし合わせて読むことから得ることができる。
本発明の特定の実施形態に係る金属合金のXRDパターンを示す。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の光学顕微鏡写真を示す。 本発明の特定の実施形態に係るアズキャスト(as-cast)Mg合金のSEM顕微鏡写真である。 本発明の特定の実施形態に係るアズキャストMg‐Zn‐Zr合金のナノCTスキャン画像である。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金のパッシベーション層の形成を示す。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の腐食形態を示す。 本発明の特定の実施形態に係るMg合金の引張試験後の横断面の破面写真を示す。 本発明の特定の実施形態に係るMgおよびMg合金の1週間、2週間、および3週間の腐食速度を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係るアズキャストMg合金および溶体化処理したMg合金の腐食表面の表面形態を示す。 骨芽細胞培養したMC3T3細胞を示す。 固定したMC3T3細胞の形態を示す。 本発明の特定の実施形態に係るMgならびにアズキャストMg合金および溶体化処理したMg合金の細胞生存率を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係るMg合金のインプラントの局所部位の組織学的画像である。 本発明の特定の実施形態に係るMgならびにアズキャストMg合金および溶体化処理したMg合金の腐食速度を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金のXRDパターンを示す。 本発明の特定の実施形態に係るMg合金のBSE顕微鏡画像を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、7日間および35日間のMg合金の腐食速度を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係る、MgおよびMg合金の細胞生存率を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係る、7日間および14日間のALP活性を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係るサンプルのALPおよびOPN遺伝子の発現を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係るサンプル装置の埋込みを示す写真である。 本発明の特定の実施形態に係る、埋め込まれたMg合金を示すX線画像である。 本発明の特定の実施形態に係る、埋め込まれたMg合金のマイクロCT画像である。 本発明の特定の実施形態に係る、2週間後および14週間後の腐食速度および残存量を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係る、2週間後および14週間後の腎臓および肝臓におけるMg濃度を示すグラフである。 る肝臓および腎臓の組織切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色を示しており、本発明の特定の実施形態に係る、埋込みによる組織形態が例示されている。 ラット大腿骨切片の染色を示されており、本発明の特定の実施形態に係る、典型的な骨折治癒が例示されている。 アズキャスト純MgのXRDパターンを示す。 a〜f図は、本発明の特定の実施形態に係る、研磨およびエッチング後の合金の光学顕微鏡写真である。 a〜d図は、本発明の特定の実施形態に係る、研磨およびエッチング後の合金のSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る、押出合金のXRDパターンである。 a〜j図は、本発明の特定の実施形態に係る、押出比10で押し出したMg合金の微細構造を示す光学顕微鏡写真である。 a〜d図は、本発明の特定の実施形態に係る、研磨およびエッチング後のMg合金の指示位置のSEM画像およびEDX解析である。 本発明の特定の実施形態に係る、10%FBSを含むDMEM中におけるMg‐Y‐Ca‐Zr合金、アズキャスト99.99%純Mg、およびAS31の腐食特性を示す。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の表面形態を示すSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の表面形態を示すSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の表面形態を示すSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る押出金属合金の平均腐食速度を示す。 本発明の特定の実施形態に係る押出金属合金の表面形態を示すSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る押出金属合金の断面形態を示すSEM画像である。 本発明の特定の実施形態に係る押出Mg合金のビッカース微小硬度を示す。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金の機械的特性を示す。 本発明の特定の実施形態に係る押出Mg合金の平均極限引張強度および歪みを示す。 本発明の特定の実施形態に係る押出Mg合金の平均引張降伏強度およびヤング率を示す。 本発明の特定の実施形態に係る鋳造および鍛造Mg合金の降伏引張強度および伸びを示す。 本発明の特定の実施形態に係る金属合金に付着させた細胞の蛍光画像を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、研磨した押出Mg合金の表面上の細胞を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、研磨した押出Mg合金の表面上のMC3T3細胞のファロイジン染色を示す。 本発明の特定の実施形態に係る押出金属合金の表面に付着したMC3T3細胞のSEM画像を示す。 本発明の特定の実施形態に係る押出Mg合金サンプルの表面のCaおよびPの平均重量パーセントを示す。 本発明の特定の実施形態に係る、培養したMC3T3細胞の生存率を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、培養したMC3T3細胞の生存率を示す。 本発明の特定の実施形態に係る培養したMC3T3細胞の増殖を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、押出合金抽出物に曝露されたMC3T3細胞の蛍光画像を示す。 a、b、およびc図は、本発明の特定の実施形態に係る、それぞれ1日間、3日間、および5日間の抽出物濃度を示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係る、hMSCの蛍光画像を示す。 a、b、およびc図は、本発明の特定の実施形態に係る、それぞれ3日間、7日間、および14日間の抽出物濃度を示す棒グラフである。 a、b、およびc図は、本発明の特定の実施形態に係る、それぞれ7日間、14日間、および21日間培養したhMSCの遺伝子発現データを示す棒グラフである。 a、b、およびc図は、本発明の特定の実施形態に係る、それぞれ1日間、3日間、および5日間培養したhMSCの増殖テータを示す棒グラフである。 本発明の特定の実施形態に係るhMSCの蛍光画像を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、hMSCのSLP活性を示す棒グラフである。 a〜l図は、本発明の特定の実施形態に係る、7日後(a〜d図)、40日後(e〜h図)、および70日後(i〜l図)のインプラントの上の皮膚の組織画像を示す。 本発明の特定の実施形態に係る、40日目および70日目の腐食速度を示す棒グラフである。 a〜d図は、本発明の特定の実施形態に係る、埋込み70日後の表面形態を示すSEM画像である。 a〜d図は、本発明の特定の実施形態に係る、埋込み70日後の表面形態を示すSEM画像である。 aおよびb図は、本発明の特定の実施形態に係るピンおよびワイヤそれぞれの模式図および写真である。 a〜b図は、特定の実施形態に係るサンプル装置を示す。 a〜g図は、本発明の特定の実施形態に係るサンプル装置の埋込みを示す写真である。 a〜e図は、本発明の特定の実施形態に係る、埋め込まれたマグネシウム合金のX線画像である。 a〜c図は、本発明の特定の実施形態に係るインプラントのMg、Ca、およびZnそれぞれの濃度を示すグラフである。 a〜g図は、本発明の特定の実施形態に係る、8週後(a、b)および16週後(c、d)のH&E染色した腎臓の顕微鏡写真である。 a〜g図は、本発明の特定の実施形態に係る、8週後(a、b)および16週後(c、d)のH&E染色した腎臓の顕微鏡写真である。 a〜d図は、本発明の特定の実施形態に係る、それぞれ2週目、8週目、および14週目の分解性合金インプラントのマイクロCTスキャンである。 本発明の特定の実施形態に係るインプラントのそれぞれ2週目、8週目、および14週目の腐食率を示す棒グラフである。 a〜f図は、本発明の特定の実施形態に係る金属合金のピンによって固定された欠損部位の軟硬組織の染色切片の顕微鏡写真である。 a〜f図は、本発明の特定の実施形態に係る金属合金のピンによって固定された欠損部位の組織のALPの局在の顕微鏡写真である。 a〜c図は、本発明の特定の実施形態に係る金属合金のピンによって固定された欠損部位の軟硬組織の染色切片の顕微鏡写真である。
本発明は新規な生分解性金属合金に関する。さらに本発明は、本発明の生分解性金属合金から構成または製作される、患者の体内に埋め込むための医療装置などの物品に関する。さらに、本発明は、整形外科、頭蓋顔面、気管支気管、エウスタキオ管、尿管、および心血管の手術など、しかしそれらに限定されない医療用途に使用するための、これらの生分解性金属合金を含有する組成物および物品を調製する方法に関する。
本発明の金属合金は、生分解性に加えて、患者の体内でインプラント装置として使用するのに適した次の特徴、すなわち生体適合性、耐食性、細胞付着性、細胞生存率、および機械的強度の少なくとも一つを含む。
特定の実施形態では、本発明の生分解性金属合金は、マグネシウムの存在に基づいている。マグネシウムおよび追加元素の量は、結果的に得られる合金が本明細書で明らかにする所望の特性を示すように選択される。例えば、合金元素およびそれらの量は、合金が水および模擬体液の存在下で耐食性を示し、組成物をインビトロで、例えば患者の体内のような生理的環境で使用するのに適するように選択される。
他の実施形態では、本発明の生分解性金属合金は、合金が耐食性を示し、水素ガスの発生が最小限または零になるように、選択された元素を特定の量使用して調製される。水素気泡のような水素の発生は、患者の体内で合併症を引き起こすことがある。
本発明は、合金元素の導入および処理条件を通して、マグネシウム合金の腐食速度を制御し、機械的特性を改善することを含む。マグネシウムの腐食特性および機械的特性は、固溶体中の合金元素によって強く影響される。
合金元素は、固溶体単相合金をもたらすように選択される。例えば合金がマグネシウム、亜鉛、およびジルコニウムを含む場合、Mg(ZnZr)の所望の主要相はMg‐Zn‐Zr系に形成され、Mg‐Zn‐Zr系から二次相(金属間相)のMgZn析出物が形成されることがあるが、それは最小化または排除することが好ましい。マグネシウム合金の調製は粒界に沿って金属間相の形成を生じ得ることが明かになっている。本発明の金属合金は約100μm未満の平均粒度を有することができる。特定の実施形態では、平均粒度は約50〜100μmである。さらに、不純物の存在は最小化することが好ましい。不純物は鉄、ニッケル、および銅の一つ以上を含んでよい。特定の実施形態では、不純物の総量は合金の20ppm未満を構成する。
本発明の生分解性金属合金は、次の成分、すなわちイットリウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、およびマグネシウムを含む。特定の実施形態では、ストロンチウムおよび/またはセリウムを追加してもよい。また、本発明の生分解性金属合金は、次の成分、すなわち亜鉛およびマグネシウムならびに任意選択的にストロンチウムおよび/またはセリウム;およびジルコニウム、亜鉛、およびマグネシウムならびに任意選択的にストロンチウムおよび/またはセリウムをも含む。組成物におけるこれらの成分の各々の量は、変えられてよい。一般的に、これらの成分の各々の量は、結果的に得られる組成物の非毒性が許容範囲内であって、組成物が患者の体内に埋め込むのに充分な生体適合性を持ち、かつ一定期間にわたって生分解し、インプラント装置が患者の体内に長期間、例えばインプラント装置が医学的に必要である期間を超えて残存しないように、選択される。本発明に従って作製されたインプラント装置は分解してゆき、許容される期間内に完全に分解することが好ましい。例えば本発明に従って作製されたインプラント装置は、骨の治癒課程中はフィラーまたは支持材として働くことができ、この過程の完了後に、インプラント装置は許容期間内に分解し、したがって体内に長期間残存することはない。非毒性の許容範囲および分解の許容期間は変えることができ、患者の特定の身体的および生理学的特徴、インプラント装置の特定のインビボ部位、ならびにインプラント装置の特定の医療用途によって決めることができる。
特定の実施形態では、本発明の金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.6〜1.0重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。他の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.6重量パーセントのカルシウムと、約1.0重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。他の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.6重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。
特定の実施形態では、本発明の金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0〜4.5重量パーセントの亜鉛と、約0.3〜0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。特定の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントの亜鉛と、約0.5重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。他の実施形態では、金属合金は、組成物の総重量に基づいて、約4.4重量パーセントの亜鉛と、約0.3〜0.4重量パーセントのジルコニウムと、不純物を含む残部のマグネシウムとを含む。金属合金はさらに、それぞれ金属合金の約0.25〜1.0重量パーセントを構成するストロンチウムまたはセリウムを含んでよい。特定の実施形態では、ストロンチウムまたはセリウムは、金属合金の約0.25重量パーセントまたは約1.0重量パーセントを構成する。
前述の通り、不純物は鉄、ニッケル、および銅の一つ以上を含むことができ、総量で20ppm未満が金属合金に存在してよい。金属合金は固溶体単相であってよい。金属間相は最小化または排除されてよい。
いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、イットリウムの存在は生分解性金属合金含有組成物の機械的強度および耐食性の向上に寄与すると考えられる。カルシウムは、合金の鋳造中の酸化を防止するために、少量使用される。ジルコニウムは結晶粒微細化剤として作用することが知られており、組成物の機械的特性を向上させるために使用される。
本明細書で先述した通り、生理的環境でマグネシウム含有組成物を使用すると、水素ガスの発生または生成を引き起こす。マグネシウムの分解は、水素が放出される過程(すなわち腐食課程)を含む。本発明では、マグネシウムおよび他の合金元素の量は、腐食速度が許容できる水素生成速度に対応するように指定されるので、大量の水素気泡が生じたり、患者の体内に蓄積することはない。
特定の実施形態では、イットリウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、およびマグネシウムの量は、次の特徴すなわち耐食性、生分解性、生体適合性、毒性、細胞付着性、機械的強度、および可撓性の少なくとも一つを制御するように指定され、調整される。他の実施形態では、亜鉛、ジルコニウム、およびマグネシウムの量は、次の特徴すなわち耐食性、生分解性、生体適合性、毒性、細胞付着性、機械的強度、および可撓性の少なくとも一つを制御するように指定され、調整される。
さらに、特定の実施形態では、結果的に得られる生分解性金属合金含有組成物に追加の特徴および特性を与えるために、他の化合物を加えてもよい。前述の通り、ストロンチウムまたはセリウムを加えてもよい。さらに、アルミニウム、マンガン、および銀の一つ以上を、抗菌特性をもたらす有効量加えてよい。特定の実施形態では、アルミニウムは、組成物の総重量に基づいて約1.0〜9.0重量パーセントの量が存在する。他の実施形態では、アルミニウムは、組成物の総重量に基づいて約2.0重量パーセントの量が存在する。特定の実施形態では、マンガンは、組成物の総重量に基づいて約0.1〜約1.0重量パーセントの量が存在する。他の実施形態では、マンガンは、組成物の総重量に基づいて約0.2重量パーセントの量が存在する。特定の実施形態では、銀は、組成物の総重量に基づいて約0.25〜約1.0重量パーセントの量が存在する。他の実施形態では、銀は、組成物の総重量に基づいて約0.25重量パーセントの量が存在する。
本発明の組成物および物品を使用することのできる医療装置の非限定例として、プレート、ワイヤ、チューブ、ステント、膜、メッシュ、ステープル、ネジ、ピン、タック、ロッド、縫合糸アンカ、筒状メッシュ、コイル、X線マーカー、カテーテル、内部人工器官、パイプ、シールド、ボルト、クリップまたはプラグ、歯科インプラントまたは歯科用装置、グラフト装置、骨折治癒装置、骨置換装置、関節置換装置、組織再生装置、心血管ステント、気管支気管ステント、尿管ステント、エウスタキオ管および膜、頭蓋内動脈瘤装置、気管ステント、神経ガイド、外科手術用インプラントおよびワイヤが挙げられるが、それらに限らない。好適な実施形態では、医療装置は骨固定プレートおよびネジ、顎関節、心血管ステント、および神経ガイドを含む。
本明細書に記載する医療装置は、少なくとも一つの活性物質をそれに付着させることができる。活性物質は表面に付着させるか、あるいは内部に封入することができる。本明細書で使用する場合、用語「活性物質」とは、治療活性、診断活性、生体適合性、腐食等のような一つ以上の有利な活性を示す分子、化合物、錯体、付加物、および/または複合体を記述するものである。治療活性を示す活性物質は、生物活性剤、薬学的活性剤、薬剤等を含むことができる。本発明の組成物、物品、および装置に組み込むことのできる生物活性剤の非限定例は、成長因子のような骨成長促進剤、薬剤、タンパク質、抗生物質、抗体、リガンド、アプタマ、DNA、RNA、ペプチド、酵素、ビタミン、細胞等、およびそれらの組合せを含むが、それらに限らない。
本発明の生分解性金属合金含有組成物は、様々な方法およびプロセスを用いて調製することができる。一般的に、溶融および鋳造の方法およびプロセスが使用される。冶金技術の分野では、鋳造は、金属または金属混合物を溶融するまで加熱し、次いで鋳型に注湯して冷却させ、それによって固化させる製造技術であることが知られている。特定の実施形態では、溶融金属または溶湯または金属混合物は室温の軟鋼/銅製鋳型に注湯されて500℃になる。特定の実施形態では、溶融および/または鋳造に続いて、金属合金は、約250℃〜350℃の温度でその後の熱処理を受ける。特定の実施形態では、熱処理の温度は約300℃である。
本発明の組成物の鋳造は、砂型鋳造、重力鋳造、永久鋳型鋳造、直接チル鋳造、遠心鋳造、低圧/高圧ダイキャスト鋳造、スクイズ鋳造、連続鋳造、真空鋳造、石膏鋳型鋳造、消失模型鋳造、インベストメント鋳造、および射出成形を含むロストワックス鋳造など、しかしそれらに限らず、当該技術分野で公知の鋳造方法を使用することによって影響を受け得る。鋳造に使用される特定のプロセスは、鋳造された組成物の特性および特徴に影響を及ぼし得ると考えられる。さらに、溶融手順が実行される温度もまた、組成物に影響を及ぼし得ると考えられる。したがって、合金の所望の組成が維持されるように、温度は慎重に選択される。
本発明の特定の実施形態では、イットリウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、およびマグネシウム元素は(本明細書に記載する特定の量を)好ましくは保護雰囲気下で昇温にて加熱することによって溶融され、次いでセラミックフィルタの有無に拘わらず鋳型に注湯され、冷却され、固化される。本発明の別の実施形態では、亜鉛、ジルコニウム、およびマグネシウム元素は(本明細書に記載する特定の量を)好ましくは保護雰囲気下で昇温にて加熱することによって溶融され、次いでセラミックフィルタの有無に拘わらず鋳型に注湯され、冷却され、固化される。
特定の実施形態では、固化の前に、溶融混合物はその様々な成分の量を決定するために試験され、したがって固化の前に所望される量を調整する機会がもたらされる。
他の実施形態では、溶融および/または鋳造工程は、組成物中の成分の酸化/分解を排除、最小化、または低減するように、保護雰囲気下で実行される。特に、組成物中のマグネシウムの酸化/分解を排除、最小化、または低減することが望ましい。保護雰囲気は、アルゴン、六フッ化硫黄、二酸化炭素、乾燥空気、およびそれらの混合物など、しかしそれらに限らず、当該技術分野で公知のものから選択された化合物を含むことができる。
さらに他の実施形態では、鋳造プロセスの後、マグネシウム含有鋳造物は均質化される。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図することなく、均質化処理は、不純物、二次相、および金属間相が存在する場合に、それらを拡散させ、あるいはより均一または一様に分布させることができると考えられる。
さらなる実施形態では、結果的に得られた鋳造物は、当該技術分野で公知の様々な成形および仕上げプロセスを受けることができる。そのようなプロセスの非限定例として、押出、鍛造、圧延、剪断押出、打抜き、深絞り、伸線、研磨(機械的かつ/または化学的手段による)、表面処理(表面に表層を形成する)、射出成形、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限らない。押出が行われる特定の実施形態では、押出比は、約10〜700、または約10〜100、または約30である。さらに、押出温度は約350℃〜450℃であってよい。
結果的に得られた鋳造物は、患者の体内に埋め込むための医療装置など医療用途に使用される物品および装置を製造するために、成形、仕上げ、機械加工、および操作することができる。さらに、これらの医療装置は整形外科、頭蓋顔面、および心血管用途に使用することができる。
溶融および鋳造プロセスを実行するための詳細な例示的手順は、以下の実施例に示される。
本発明の生分解性金属合金含有組成物は、患者の体内への埋込みに適した医療装置など、様々な物品を製造するために使用することができる。好適な実施形態では、医療用インプラント装置は整形外科、気管支気管、エウスタキオ管およびステント、尿管ステント、頭蓋顔面および心血管装置を含む。
本発明の追加の目的、利点、および新規な特徴は、例示を目的として提供するものであって限定を意図していない以下の実施例に基づいて、当業者には明らかになるであろう。
<実施例1>
Mg‐Zn‐Zr合金は、特定の鋼材およびアルミニウム材に取って代わる耐食性で軽量の構造用途に適している。その耐食性および有利な機械的特性は、生分解性金属用途に不可欠な特徴である。低量の不純物および所望の微細構造を持つ高品質のMg合金を得るために、最適な処理条件は必要である。低量の不純物および微細構造は腐食および機械的特性に直接相関する。イオン(Fe)、ニッケル(Ni)、および銅(Cu)などの不純物は、腐食を開始し孔食を引き起こすための核形成部位として働き、孔食は生分解性Mg合金の不均一な分解を導く。微細構造はまた、Mg合金の機械的特性にも寄与する。溶融温度、静置時間、熱処理技術、および純インゴットの不純物レベルなどの処理条件は、不純物および微細構造に関してMg合金の品質を本質的に制御する。したがって、処理条件は不純物レベルおよび微細構造に影響し、例えば制御し、細胞適合性および生体適合性と相まって許容できる耐食性、機械的特性を達成する観点から、Mg合金の評価の統合性を調整することができる。
[実験計画]
[従来の溶融および鋳造]
高純度の純Mg(US Magnesium、99.97%)、Zn(Alfa aesar、99.99%)、およびZirmax(Mg‐33Zr母合金、Mg Elektron、商用グレード)を使用して、最終合金インゴットの不純物レベルを最小化するように、Mg‐4重量%Zn‐0.5重量%Zr(ZK40)合金を製造した。純Mg、Zn、およびZirmaxを計量し、電気抵抗炉を用いて保護雰囲気下で、700℃でステンレス鋼るつぼ内で溶融した。ステンレス鋼ロッドを用いて溶融金属を撹拌し、30分間静置させ、500℃に予熱した軟鋼鋳型で鋳造した。合金の溶融および鋳造後に、溶融および鋳造プロセスの結果生じたボイドおよび不純物が維持される確率を最小化するため、鋳造したインゴットの頂部、底部、および側部から1cmを相応に取り除き、インゴットの残片を使用した。
[後処理]
溶質をZK40合金の微細構造のαMgマトリクス中に可溶化する溶体化処理を主に調査した。Mg‐Zn二元状態図に基づいて、MgZnの共晶組成は固化中に325℃でαMgおよびMgZn金属間化合物に変態する。MgZn組成物は325℃より低い温度で共晶変態し、αMg(Zn,Zr)固溶体と、粒界に沿って核を形成する第二相析出物として存在することのできるMgZn金属間化合物とを形成することが知られている。これらの第二相析出物は、腐食の観点からはガルバニック腐食の一因となり、望ましくないが、機械的強度の向上には役立つ。しかしながら、加速的腐食は機械的強度の利点を上回り、したがって望ましくない。T4処理は、325℃より高い温度で行われる熱処理を含むので、上述の通り望ましくない第二相析出物、および大きい粒子が機械的強度の低下の一因になり得ることから同じく望ましくない結晶粒成長を引き起こし得る。したがって、ZK40合金は相応して300℃で1時間熱処理し、続いてシリコン油中で急冷してこれらの望ましくない二次相の析出を抑制した。
[相および微細構造の特性決定]
10〜80°の2θの範囲で45kVおよび40mAで動作するCuKα(λ=1.54056Å)放射線を用いるPhilips X’Pert Proシステムを利用して、X線回折(XRD)を実施し、相の形成を確認した。合金試料をエポキシ樹脂にマウントし、9、3、1μmダイヤモンドスラリ、および0.5μmコロイド状シリカスラリを用いて研磨し、鏡面仕上げ面を得た。研磨した表面を後方散乱走査電子顕微鏡(SEM)で撮像し、微細構造および析出物を観察した。SEMと共にエネルギ分散分光分析(EDS)プローブを使用して、抽出物の元素含有量および粒子マトリクスを分析する。最終的に、研磨した表面をエッチングし、光学顕微鏡を用いて観察し、微細構造の光学画像を得た。
[不純物の特性化]
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES,iCAP duo 6500 Thermo Fisher,Waltham,MA)を用いてZK40合金中の不純物を分析し、アズキャストインゴットの実際の化学組成を確認した。溶融プロセスは、鋳造インゴットの最終組成を蒸発および酸化のため変化させ得る。また、Fe、Ni、およびCuの存在は、前に述べた通り、Mg合金の腐食速度を上昇させ得る。したがって、Mg、Zn、Zr、Fe、Ni、およびCuを標準として利用して、ZK40のICP‐OES測定を実行した。後方散乱SEM微細構造分析で観察された粒界に沿った析出物の含有量を、SEMに取り付けられたEDSプローブを用いて評価し、望まない不純物が存在するかどうかを確認する。
[統計的考察]
様々な熱処理状態後のZK40合金の粒度は、t検定を用いて分析される。ICP分析から得た不純物レベルの含有量はANOVA分析のために保存し、腐食速度がバッチ間で非常に異なることが観察された場合、腐食速度を異なるバッチ間の従属変数とした。これらの統計的分析は社会科学のための統計パッケージ(SPSS)17.0(IBM)を用いて実施した。相応して結果の有意性をp<0.05で判定した。
[予想される結果]
アズキャストインゴットの微細構造では、第二相の析出が制限された単相形のMg、αMgが予想される。相応して、Fe、Ni、およびCuの不純物レベルが低い(20ppm未満)ことも予想される。機械的強度を維持するために、粒子成長もまた100μmより低い粒度範囲になるように制限される。したがって、不純物レベルを最適化し、所望の微細構造を達成するために、溶融温度、保護ガス、熱処理温度および期間を調査した。処理条件もまた耐食性、機械的特性、および生体適合性と相関させ、さらに生分解性Mg‐Zn基合金の開発中に最適化した。
[Mg合金の溶融および鋳造]
Mg(US Magnesium Inc. 99.97%)、Znショット(Alfa−Aesar 99.99%)の純元素インゴットを、電気抵抗炉(Wenesco Inc.)内の軟鋼るつぼの中で溶融した。典型的な溶融物サイズは200gであった。マグネシウムの燃焼および損失を防止するために、溶融物を(0.5%SF6+残部Ar)保護ガス雰囲気で覆った。所望の溶融温度(700℃)に達すると、Zirmax(登録商標)(Mg‐33.3重量%Zr)母合金(Magnesium Elektron Ltd.)を用いて同量のジルコニウムを追加した。ジルコニウム添加後の液状溶融物を、1分および5分の間隔を置いた後、10秒間攪拌し、ジルコニウム粒子を溶融物中に均等に溶解かつ分散させた。さらに、溶融物を700℃で30分間維持し、次いで500℃に予熱した軟鋼鋳型(直径44.5mm×82.5mm)に注湯した。
[熱処理]
得られたアズキャストインゴットを、ArおよびSFの保護雰囲気下で、ゲッタとしてマグネシウム粉末で被覆された管状炉内で、300℃で1時間溶体化処理し(T4)、次いで水中で急冷した。
[X線回折]
X線回折を用いて合金を相形成について特性決定した。したがって、10〜80°の2θの範囲で45kVおよび40mAで動作するCuKα(λ=1.54056Å)放射線を使用するPhilips XPERT PROシステムを用いて、X線回折(XRD)を実施した。
[微細構造分析]
光学顕微鏡(Axiovert 40MAT,Carl Zeiss,Jena,Germany)を用いて、アズキャストおよび溶体化処理された(T4)ZK40合金の微細構造を観察した。正方形の試料をエポキシ(EpoxiCure, Buehler)内にマウントし、半自動研磨システム(Tegramin−20,Struers,Ballerup,Denmark)を使用して9、3、および1μmダイヤモンドスラリに続いて0.5μmのコロイド状シリカを用いて機械的に研磨し、鏡面仕上げを得た。研磨後、試料は、5mLの酢酸、6gのピクリン酸、10mLの水、および100mLのエタノールの溶液中で化学的にエッチングし、イソプロパノールを用いてすぐに洗浄して粒界を明瞭に露呈させた。粒度はASTM E112リニアインターセプト法に従って算出し、ASTM結晶粒数Gを平均粒度に変換した。合金をさらに特性化し、ナノコンピュータ断層撮影を用いてボイド/不純物/酸化物スケールの有無を観察した。相応して、タングステンフィラメントを装備したPhoenix Nanotom−m 180kV/15W X線ナノCT(登録商標)システムを用いて、ナノコンピュータ断層撮影(ナノCT)画像を撮影した。アズキャストMg−4%Zn−0.5%Zr合金から直径1.5mm×高さ3mmの円板状サンプルを切り出し、〜300nmの最小ボクセル解像度でnanoCT画像を撮影して微細構造の細部をより明瞭に示した。
[元素分析]
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES, iCAP duo 6500 Thermo Fisher,Waltham,MA)によって決定された合金の名目組成を、表1.1に記載する。
[動電位分極(PDP)測定]
電気化学ワークステーション(CHI604A,CH Instruments,Inc.,Austin,TX)により、1mV/秒の走査速度および開路電位(OP)の上下500mV内の電位窓で、動電位分極(PDP)試験を実施した。正方形のサンプル(表面積〜1cm)を、銀エポキシを用いて銅線に接続し、エポキシ樹脂にマウントした。マウントされたサンプルを320、600、および1200グリットのSiC研磨紙を用いて機械的に研磨し、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、空気乾燥させた。電気化学腐食試験に三電極セルセットアップを使用し、プラチナを対電極、Ag/AgClを基準電極、エポキシにマウントされたサンプルを作用電極とした。試験は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンが添加されたダルベッコ変法イーグル培地(4.5g/Lのグルコース、L−グルタミン、およびピルビン酸ナトリウムを含むDMEM、Cellgro,Manassas,VA)中で、pH7.2±0.2で、37.4℃に維持された温度で実施された。各測定の前に、電圧の安定性をもたらすために、サンプルを開路電位で15分間DMEMに浸漬した。生成されたターフェルプロットのカソードおよびアノード分岐を線形外挿して、腐食電位Ecorrおよび腐食電流密度icorrを計算した。これらの三つのサンプル測定の平均および標準偏差を報告し、一元配置ANOVAを使用して、0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。試験測定後の腐食サンプルは、次に周囲温度で200g/Lのクロム酸および10g/LのAgNO溶液に10分間浸漬することによって洗浄して、腐食生成物を除去し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて腐食面を特性決定した。
[結果と考察]
[相分析]
図1.1は、純(pure)Mg、Mg−4%Zn−0.5%Zr(ZK40)のアズキャスト(as-cast)サンプルおよび溶体化処理されたサンプルのX線回折(XRD)パターンを示す。純Mgの場合、全てのピークは、六方稠密(hcp)結晶構造を持つ単相αMgマトリクスにインデックスされた。興味深いことに、Mg‐4%Zn‐0.5%Zrの場合、アズキャストサンプルおよび溶体化処理されたサンプルの両方とも、αMgのピークだけが見られた。このように明瞭に示されたXRDパターンは、最終微細構造に観察されるべきαMg(Zn、Zr)固溶体単相が固化中に形成されたことを示す。しかし、観察された最高回折ピーク強度はピラミッド面に対応しており、それはαMg(Zn、Zr)固溶体単相の配向が溶融および固化中に純αMgマトリクスと比較して変化したことを示唆し、核形成部位として働く溶融物を含む、るつぼ内の合金元素または偏析元素いずれかの影響で、好適な面内で固化元素の優先配列が生じたことを示唆している。
図1.2に、アズキャストおよび溶体化処理されたMg‐4%Zn‐0.5%Zr合金の対応する光学顕微鏡写真を示す。アズキャスト合金および溶体化処理された合金の両方の微細構造が、主要なαMgマトリクスおよび粒界に沿って析出したマイナーな二次相を含むことが分かる。アズキャスト合金および溶体化処理された合金の平均粒度はそれぞれ50±10μmおよび87±10μmであった。結晶粒は、微細構造全体で一様かつ等軸であり、おそらく、液状溶融物の固化中に加えられたZr接種剤の優れた結晶粒微細化能力を示唆している。Zrがマグネシウムのための優れた結晶粒微細化剤であり、溶質(ここでは亜鉛)の存在下で、核形成のための有効なバリアがおそらくずっと低減され、多数の臨界サイズのジルコニウム核が核形成のための活性部位として働くことにつながり、したがって構造を有効に微細化することはよく知られている。溶質として存在する亜鉛はまた、組成的過冷却中に成長粒子の固相/液相界面の前方の拡散層で分離する傾向があり、それはαMg粒子のさらなる成長を抑制するのに役立つ。溶質の結晶粒微細化の有効性は、発育不全因子(GRF)によって決定することができる。ZrおよびZnはそれぞれ38.29および5.31のGRF値を有することが突き止められており、したがって、それらは一緒に、結果的に得られる合金の強力な結晶粒微細化効果をもたらし、観察される微細構造を実証する。T4処理されたサンプルの平均粒度のわずかな上昇は、三叉粒界領域に沿ったより小さい粒子の合体、および析出物がマトリクス中に溶解した後の最終的な過飽和αMg(Zn、Zr)固溶体の形成が原因と思われた。アズキャスト合金および溶体化処理された合金のSEMも、後方散乱電子(BSE)モードを用いて撮影され、MgとZnおよびZrとの原子番号の大きい差のため、組成コントラストを明瞭に露呈した。図1.3(a)は、アズキャストZK40合金のBSEモードのSEM顕微鏡写真を示す。Zn/Zrに富む第二相が粒界領域に沿って連続的に分散されることを観察することができる。図1.3(a)に示すZnおよびZrに富む第二相のエネルギ分散スペクトル(EDS)分析は、析出物の元素組成がMgZnであることを明らかにした。マグネシウム−亜鉛状態図によれば、325℃までMgZnの共晶組成が存在し、それは固化中に最終的にαMgおよびMgZn金属間化合物に変態する。MgZnは共晶変態を受け、σMg(Zn、Zr)固溶体と、粒界に沿って観察される第二相であるMgZn金属間化合物とを形成すると考えられる。同様に、溶体化処理した合金の場合、粒界に沿ってMgZn金属間化合物が観察された(図1.3b参照)。しかし、溶体化処理中にMgZn金属間化合物がαMg粒子に急速に溶解したために、第二相の体積パーセントが減少したことは明白であった。
図1.4(a)はアズキャストMg‐Zn‐Zr合金のナノCTスキャン画像を示す。それは鋳造欠陥/内包物の不在を明瞭に示し、Mg‐Zn‐Zr合金組成物の優れた鋳造性およびこの試験に採用した溶融および鋳造方法の清浄性を示唆している。図1.4(b)に示す高解像度ナノCTスキャンには、粒内部と粒界との間の平均距離が示されている。また、表1.1に、合金組成物のICPデータを示す。このデータは、液状溶融物の不純物レベルが非常に低く(Fe、Ni、Mn、Cu、およびSiを含む合計不純物レベルは〜440ppmであった)、この合金の生理的環境における生体適合性および分解特性の向上が確実であることをさらに実証している。
純Mgおよびアズドローン(as‐drawn)AZ31合金と共に、アズキャスト状態および溶体化処理された(solution treated)状態の両方のZK40の動電位分極(PDP)挙動は、DMEM+10%FBS+1%P/Sの生理学的条件下で広範囲にわたって研究されてきた。DMEM+10%FBS+1%P/Sの組成を表1.2に記載する。〜1mV/秒の走査速度(scan rate)で記録された様々なサンプルおよび純Mgの動電位分極曲線(ターフェルプロット)を図1.5に示す。一般的に、ターフェルプロットのカソード分岐が還元プロセスによる水素発生を示す一方、アノード分岐は酸化によるマグネシウム溶解を表す。
純Mgのカソードプラトーは、水素発生のための腐食電位EcorrがAg/AgCl基準電極に対して−1.62Vで発生することを示唆する。純Mgの算出された腐食電流密度icorr(表1.3に示す)は〜29.26μAcm−2であり、一般腐食が表面に発生したと仮定した場合の〜0.7mm/年の腐食速度に相当する。他方、アズキャストZK40サンプルと、予想通りアズドローンAZ31サンプルとは、純Mgと比較して、改善された腐食電位と、より貴方向に変位したEcorr値を示した。亜鉛は腐食電位の上昇に寄与し、したがって腐食速度を改善することがすでに知られている。アズキャストZK40合金およびAZ31合金の腐食電位は、それぞれ−1.49Vおよび−1.48Vであると決定された。アズキャストZK40およびAZ31の算出された腐食速度icorr値(ターフェル外挿によって決定された)はそれぞれ〜0.90mm/年および0.43mm/年であった。溶体化処理されたZK40合金の腐食電位は−1.55Vであり、カソード方向に少し移動したが、アズキャストサンプルを超える腐食速度の改善があった。溶体化処理されたZK40サンプルの腐食速度icorrは0.87mm/年である。アズキャスト状態と比較して溶体化処理されたZK40合金の腐食電流密度(〜39.32μAcm−2)および腐食速度の改善は主に、先に述べた通りアズキャストサンプルで粒界に沿って不連続析出が観察された第二相(MgZn)金属間化合物の減少によるものである。300℃で1時間のアズキャストサンプルの溶体化処理は、共晶変態の結果発生する第二相[MgZn→αMg(Zn、Zr)+MgZn]の体積分率を低減させ、αMg(Zn、Zr)主要相の量の増大を引き起こし、したがって結果的に腐食電位の突然の降下をもたらす。
図1.5はまた、分極プロットのアノード分岐におけるパッシベーション層の形成を示す。純Mg、AZ31、アズキャストおよび溶体化処理された(solution treated)ZK40サンプルの破壊電圧(breakdown potential)Eは、それぞれ−1.41V、−1.35V、−1.41V、および−1.33Vであった。AZ31および溶体化処理されたZK40サンプルのEは、純Mgより高く、したがってより優れていたことを見ることができ、これは、純Mgが保護酸化物層の分裂による局所的腐食を生じやすいことを示唆している。他方、AZ31および溶体化処理されたZK40は両方とも、公知のパッシベーション現象により局所的腐食に対する耐性を示す。興味深いことに、アズキャストZK40合金は低い破壊電圧(−1.41V)を示した。一般的に、分極曲線のアノード分岐は、破壊電圧(E)として知られる勾配の変化を表すアノード電流の突然の降下によって特徴付けられる。アノード分極中に、表面に形成された不動態被膜は、腐食電流を低い値に維持して腐食損傷の程度を最小化する、保護バリアを提供する。効果的な保護層は、パッシベーション層の破壊に対する強い抵抗をもたらすものによって明らかに特徴付けられる。電位が上昇すると、腐食が発生する最下電圧である破壊電圧(E)と呼ばれる特定の電圧値で表面破壊を介する腐食が始まる。腐食は酸化速度の増加に関係するので、Eは、測定されたアノード電流の対応する増加によって決定される。Eの増加は耐食性の向上に関連付けられる。破壊電圧は不動態被膜の分裂を引き起こし、したがって表面の露出部位を、攻撃の傾向が非常に高く合金の加速的腐食の一因となる攻撃的な生理的環境に曝露させる。
図1.6は、サンプルの動電位分極試験中に発生した腐食生成物をCrOおよびAgNO処理によってそれぞれ洗浄した後の腐食形態を示す。従前の科学的研究は、多相合金では、腐食速度が主として次の因子、すなわちa)純度、b)マトリクスの組成、c)第二相の組成および微細構造中のその分布によって制御されることを示してきた。純Mgの場合、第二相が存在しないので、腐食メカニズムは主として存在する総純度および弱い粒界領域の存在によって影響された。図1.6(a)は、表面全体に横方向に広がった主として不規則な局所的腐食孔が明白であったことを示す。微細構造における小さい離散孔の存在は、純マグネシウムの場合、不純物の存在が局所的腐食に役割を果たしていることを示唆する。ところが、AZ31サンプルの場合、Mg17Al12(β相)は粒界に沿って存在する顕著な第二相である。第二相の存在は、隣接するαMgマトリクスの腐食を加速させる。図1.6(b)は、腐食面全体に小さい相互接続孔が存在することによって明らかなように、孔食が支配的な腐食メカニズムであったAZ31の腐食面を示す。図1.6(c)は、アズキャスト状態のZK40サンプルの腐食面を示し、ここで表面の不規則な孔の存在は孔食が実際に支配的な腐食メカニズムであったことを明瞭に示唆する。3.3.1節に概説したZK40アズキャストサンプルの微細構造の調査は、MgZnおよびMgZnの二次相が粒界に沿って存在し、おそらくαMgマトリクスの加速的腐食を引き起こすことを示している。しかし、溶体化処理されたZK40サンプルの場合、図1.6(d)に示す通り、明らかに表面孔が腐食面に観察されないので、第二相の百分率は腐食速度および変態に直接影響を及ぼす溶体化処理により減少する。
[結論]
アズキャストおよび溶体化処理されたMg‐4重量%Zn‐0.5重量%ZrまたはZK40合金の光学およびSEMによる微細構造分析は、微細構造全体において平均粒度がそれぞれ50±10μmおよび87±10μmの一様な等軸粒子の形成を示唆している。アズキャストZK40合金の後方散乱モードで実施されたSEMおよびEDS分析の実施は、粒界に沿ってMgZnの金属間相が存在することを明瞭に示し、それは300℃で1時間の溶体化処理中に共晶変態を受け、結果的にαMg(Zn、Zr)主要相およびMgZn二次相が形成され、耐食性の向上に寄与する。
<実施例2>
[インビトロ特性決定法を用いたMg‐Zn基合金の生分解性システムとしての潜在的能力の確認]
[理論的根拠]
耐食性、機械的特性、および細胞適合性は、整形外科用途に対する生分解性Mg合金の安全性および機能を証明するために包括的に評価することを要求される三つの主要な判定基準である。生分解性Mg合金のインビトロ評価は、生理的環境を模倣し、異なるMg合金のインビボ分解の傾向を再現することを重視するように計画される。純MgならびにAZ31およびWE43のような様々な市販のMg合金は、インビボおよびインビトロ実験の初期段階で適切な耐食性、機械的特性、および生体適合性を示すことが報告されてきた。したがって、純MgおよびAZ31は、ZK40合金のインビトロ特性を評価するための良好な陰性対照であり、その結果によりZK40合金を理解するためにインビボでの実験が必要であることを決定することができる。ZK40のインビトロでの耐食性、機械的特性、および細胞毒性を理解することにより、整形外科用途向けのMg‐Zn基合金の開発における有用な方向性がもたらされる。
[実験計画]
[腐食測定]
生分解性Mg合金の腐食測定は、質量損失浸漬、水素発生、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)、および動電位分極(PDP)など様々な方法を用いて達成することができる。この実験では、質量損失浸漬および動電位分極(PDP)を実施して、様々な時点における腐食特性を評価した。質量損失浸漬はまた、Mg合金の分解傾向が、インビボ皮下埋込みモデルでの観察と比較して、類似していることを示した。試料は、5%COの加湿雰囲気中で37.4℃で釣り糸を使用して細胞培養培地に浸漬した。表面積に対する培地体積の比は、ASTMG31‐72標準に従って20ml/cmに維持した。サンプルを1週間、2週間、および3週間の浸漬後に取り出し、蒸留水に洗浄し、室温で乾燥した。さらに、サンプルの腐食生成物層をクロム酸とAgNOの溶液混合物で洗浄した。浸漬後の重量差を記録し、ASTMG31‐72に従って分解速度(単位はmm/年)を得た。
[定/動電位分極(PDP)]
PDPを実施して、Mg合金の露出金属表面の電気化学的安定性を測定した。電気化学的腐食試験のために三電極セルセットアップを使用し、プラチナを対電極、Ag/AgClを基準電極、エポキシマウントサンプルを作用電極として使用した。37.4℃に維持されたpH7.2±0.2の同一の培養培地で試験を実施した。各測定の前に、電圧安定性をもたらすために、サンプルを開路電位(OCP)で15分間培地に浸漬した。生成されたターフェルプロットのカソードおよびアノード分岐を線形外挿して、腐食電位Ecorrおよび腐食電流密度icorrを算出した。
[機械的検査]
引張試験および圧縮試験を、引張試験のASTM‐E8‐04および圧縮試験のASTM‐E9‐09のASTM標準方法に従って室温で実施した。引張試験の場合、ゲージ長12.7mmおよびゲージ断面3×3mmの標準ドッグボーン試料を1.3mm/分のクロスヘッド速度を使用して機械加工し、破損するまで引っ張った。圧縮試験用の試料は直径10mmおよび長さ20mmの寸法に相当した。試料をインゴットの長軸から適切に機械加工し、2mm/分の率で破損するまで荷重を加えた。引張および圧縮応力ひずみ曲線を利用して、各合金試料の降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、引張中のヤング率(E)、総伸び率(%)、圧縮降伏強度、および総圧縮率(%)を求めた。
[細胞毒性]
マウスの骨芽細胞様細胞株MC3T3を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%p/sを含むダルベッコ変法イーグル培地(αMEM)中で5%COの加湿雰囲気中で37.4℃で培養した。細胞を試料表面に播種し、72時間培養した。その後、市販のキットで生死判別アッセイを実施し、蛍光顕微鏡を使用して、細胞の生存率/細胞毒性を決定した。蛍光撮像後に、試料上の細胞を2.5%グルタルアルデヒドで固定し、エタノールで脱水した。固定した細胞をパラジウムスパッタリング後に走査電子顕微鏡で撮像した。MTT(3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐yl)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウム臭化物)アッセイを使用して、培養培地に試料を72時間浸漬した後、分解性生成物の細胞毒性を評価した。24時間培養したMC3T3細胞に1×、2×、4×、および10×の希釈度の抽出物培地を加え、72時間後にMTTアッセイを実施する。
[統計的考察]
グラフィック統計および要約統計を含む一元配置ANOVAを使用して、分解速度、機械的特性、および細胞毒性結果を評価した。陰性対照(細胞培養プラスチック)によってMTT細胞毒性試験を正規化し、異なる合金群の間で細胞毒性レベルを比較した。したがって、ImageJソフトウェアを使用して生死判別アッセイ画像の細胞数を調べ、分析の正当性をさらに高めた。
[予想される結果]
純MgおよびアズドローンAZ31と比較して、ZK40合金は、分解速度に関して、純MgおよびAZ31に匹敵する特性を示すことが予想される。純MgおよびAZ31は優れた耐食性を有することが報告されており、アズキャストおよび熱処理したZK40合金は同様に機能することが予想される。機械的特性に関して、ZK40合金は純Mgより良好に機能することが予想される。しかし、延伸手法はかなり高レベルの粒子微細化をもたらすため、ZK40合金が市販のアズドローンAZ31の機械的特性に匹敵するとは予想されない。他方、ZK40合金の細胞毒性結果は、AZ31より優れ、かつMTTおよび生死判別アッセイの両方に続いて純Mgと同程度に良好であると予想される。
[材料および方法]
[引張試験および圧縮試験]
引張試験は、AZ31および純MgのみならずアズキャストおよびT4処理したZK40合金の両方に対し、引張試験のASTM‐E8‐04のASTM標準方法に従って室温で、50kNロードセルを備えたMTS11フレームおよびLX500レーザ伸縮計(MTS Systems Corporation,Eden Prairie,MN,USA)を使用して、OrthoKinetic(登録商標)試験技術によって実施した。ゲージ長12.7mmおよびゲージ断面3×3mmの標準ドッグボーン試料を機械加工し、引張試験に使用した。サンプルを1.3mm/分のクロスヘッド速度で破損するまで適切に引っ張った。引張応力ひずみ曲線を利用して、各合金試料の降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、引張中のヤング率(E)、および総伸び率(%)を決定した。三つのサンプルの測定値の平均を報告した。
[浸漬腐食測定]
浸漬腐食測定をASTM G31‐72に準拠して実施した。純Mg、アズキャストZK40、およびT4処理したZK40の試料を10×10×1mmの寸法で作製し、SiC研磨紙を用いて1200グリットまで研磨した。浸漬試験の前に各試料の表面積および重量を慎重に記録した。試料は超音波浴を用いてアセトン中で完全に洗浄し、次いで両面を30分間UV滅菌する。滅菌後に、試料を、5%COの加湿雰囲気中で37.4℃で釣り糸を使用してDMEM+10%FBS+100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンに浸漬した。DMEM+10%FBS培地の表面積に対する体積の比は、ASTMG31‐72標準に従って20ml/cmであった。試料は1週間、2週間、および3週間の浸漬後に取り出し、蒸留水で洗浄し、室温で乾燥した。さらに、試料を、200g/Lのクロム酸および10g/LのAgNO溶液で10分間洗浄して、腐食生成物を取り除いた。浸漬前後の重量差を記録し、ASTMG31‐72に従って分解速度(単位はmm/年)を得た。したがって、次式によって腐食速度が求められる。
腐食速度=(K×W)/(A×T×D)...式(1)
式中、時間変換係数K=8.76×10であり、Wは浸漬前後の重量差(g)であり、Aは溶液に曝露されるサンプルの面積(cm)であり、Tは曝露時間(h)であり、Dは材料の密度(gcm−3)である。浸漬試験中の溶液のpH値も記録した。三つのサンプル測定の平均および標準偏差を報告し、一元配置ANOVAを使用して、各時点に対し0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[間接MTT細胞生存率アッセイ]
純Mg、アズキャストZK40、およびT4処理ZK40の試料は10×10×1mmの寸法になるように切り出し、SiC研磨紙で1200グリットまで研磨し、イソプロパノール中で超音波洗浄し、抽出物の調製前に紫外線放射により30分間滅菌した。試料は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加した変法イーグル培地アルファ(αMEM)で5%COの加湿雰囲気中で37℃で72時間インキュベートした。抽出培地に対する試料の重量比は、EN ISO標準10993:12に従って0.2g/mLに維持した。この抽出比を100%抽出物として指定し、より低濃度の抽出物は、100%の抽出物をそれぞれ50%、25%、および10%の抽出物溶液に希釈することによって調製した。次いで抽出物は、細胞に加える前に、0.2μmのシリンジフィルタを用いて滅菌濾過した。
さらに、マウスの骨芽細胞株(MC3T3‐E1,American Type Culture Collection,Rockville,MD)をインビトロ細胞毒性実験に使用し、変法イーグル培地アルファ(αMEM)、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシン中で、5%CO加湿雰囲気中で37.4℃で培養した。細胞を96ウェルプレートの中で6000細胞/ウェルの細胞密度で播種し、抽出培地を加える前に、24時間インキュベートして付着させた。対照は、抽出物を含まない培養培地を陰性対照として使用し、10%DMSO培養培地を陽性対照として使用した。前培養した細胞を含む細胞培養培地は、抽出物希釈度が1x、2x、4x、および10xの200μlの抽出物培地と交換し、細胞培養条件下で72時間インキュベートした。MTTアッセイを使用して抽出物の細胞毒性を試験した。抽出物中のマグネシウムイオンの干渉がテトラゾリウム塩と相互作用するのを防止するために、培地および抽出物を新鮮な細胞培養培地と交換した。MTTアッセイはVybrant MTT細胞増殖キット(Invitrogen Corporation,Karlsruhe,Germany)に従って、最初に、リン酸緩衝液(PBS、pH=7.4)中に溶解した12mM3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐yl)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)を各ウェルに10μl加えることによって実施した。MTT塩を5mg/mLの比率でPBSに溶解し、1:11の比率でフェノールレッドを含まない培地中で希釈して、青色ホルマザン測定との干渉を避けるためマグネシウムイオンを含む培地に代わって使用した。72時間の培養後に抽出物培地を、MTT溶液とフェノールレッドを含まない培地の混合物に交換し、細胞培養条件下でさらに4時間インキュベートした。1mg/10mL(SDS‐HCl)の比率で0.01M塩酸に溶解したドデシルスルフィドナトリウムを使用して、ホルマザン結晶を可溶化した。各ウェルに100μlのSDS‐HClを加え、細胞培養条件下で12時間インキュベートした。次いでウェルプレートをELISAマイクロプレートリーダーにより、635nmを基準波長として570nmの波長で分析した。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、一元配置ANOVAを使用して、抽出物培地の各希釈係数に対し0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[生死判別細胞生存率アッセイ]
マウスの骨芽細胞様細胞株MC3T3を、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを含むダルベッコ変法イーグル培地(αMEM)で、37.4℃、5%COの加湿雰囲気で培養した。細胞を試料表面上に4×10細胞/mLの細胞密度で播種し、各ウェルは2mLの培地を含み、試料を完全に覆った。72時間のインキュベーション後に、市販のLIVE/DEAD判別生存率/細胞毒性キット(Invitrogen Inc.,Karlsruhe,Germany)を使用し、生細胞および死細胞を蛍光顕微鏡下で495nmの励起波長でそれぞれ緑色(エチジウムホモダイマ‐1)および赤色(カルセインAM)に発光するように染色して、生死判別アッセイを実施した。蛍光撮像後に、試料上の細胞を2.5%グルタルアルデヒドで15分間固定し、その後、希釈係数ごとに試料を70、80、90、95、および100%の希釈エタノール中に15分間浸漬することによって脱水した。固定した細胞を含む試料を空気乾燥し、SEMによって撮像した。
[インビボマウス皮下試験]
純Mg、アズドローンAZ31、およびアズキャストZK40サンプルの急性宿主反応を調べるために、インビボマウス皮下試験を実施した。マウス埋込みをシンシナティ大学でその動物実験委員会(IACUC)の承認を得て、Dr.Zhonghyun Dongと連携して実施した。この試験のために、直径5mmおよび厚さ1.4mmの円板をアズキャストZK40、純Mg、およびAZ31合金試料から切り出した。次いで、円板状のサンプルをアセトン中で超音波洗浄し、空気乾燥し、さらにUV放射線によって滅菌した。健康なヌードマウスを管理された条件下で飼育し、標準的飼料および水で維持した。マウスをイソフルランで麻酔し、皮下領域に円板を埋め込むために小さい皮膚切開を行った。外科用ステープルを使用して切開を閉じた。40日後および70日後に、COガスチャンバを用いて動物を屠殺し、円板状サンプルを取り出し、続いて頸椎脱臼を行った。円板状インプラントを周囲の組織ごと回収し、組織から慎重に分離し、洗浄し、空気乾燥し、計量した。周囲の皮下組織を採取し、10%PBSホルマリン液を使用して固定し、パラフィン包埋し、ヘマトキシリン‐エオシン(H&E)染色のために切片化(4μm/切片)した。
[結果と考察]
[Mg‐Zn‐Zr合金の機械的特性]
表2.1は、自然骨との直接比較と共に本研究のために調査された純Mgのみならずアズキャストおよび溶体化処理されたMg‐4%Zn‐0.5%Zr(ZK40)合金の両方、および市販のアズドローンAZ31の機械的特性をまとめたものである。純Mgと比較して、亜鉛および少量のジルコニウムの添加は引張強度の値に劇的な効果を有する。アズキャストMg‐4%Zn‐0.5%Zrの降伏強度および極限引張強度(UTS)はそれぞれ96MPaおよび176MPaであった。しかし、溶体化処理されたMg‐4%Zn‐0.5%Zr合金の降伏強度およびUTSの値は、おそらく平均粒度の増大のため、アズキャスト合金と比較してわずかに低下した。平均粒度が増大すると、物理冶金学の文献で周知の通り、降伏強度は必ず低下する。アズドローンAZ31は、ここで調査した全ての合金の中で最も高い55MPaの降伏強度および202MPaのUTSを示した。純マグネシウムの弾性係数は低く、〜5GPaであったが、Mg‐4%Zn‐0.5%Zr合金は優れた弾性係数(〜64GPa)を示し、合金が引張試験下で高い強度を有することを示唆した。同様に、アズドローンAZ31もまた高いスチフネス値を示した。純マグネシウムを除き、ここで試験した全ての合金が自然骨と比較して高い弾性係数値を有することは注目すべきである。純マグネシウムおよびアズドローンAZ31サンプルの破断までの総伸び率(%)はそれぞれ7%および12%であった。
対照的に、アズキャスト状態および溶体化処理された状態のMg‐4%Zn‐0.5%Zr合金の張力下で破断までの総伸び率は、それぞれ4%および3%であることが観察された。アズキャストおよび溶体化処理されたMg‐4%Zn‐0.5%Zr合金両方の破断までの伸び率の低い値はおそらく、合金の硬度および強度を高める一方で破断までの総伸び率を低下させる第二相(MgZn)の存在のためである。同様の観察は文献に報告されており、そこでは5重量%を超える亜鉛を添加すると、固化中に粒界に沿って析出する複数のMgZn金属間相が存在するため、合金の機械的特性にマイナスの効果が生じることが観察された。市販のアズドローンAZ31合金は、ここで調査した全ての合金と比較して、より高い降伏強度および引張強度を示した。4%の亜鉛および0.5%のジルコニウムを純マグネシウムに加えることによる降伏値および引張強度の増加は主に、Hall‐Petch関係に基づいている合金の微細構造に対するジルコニウムの強力な粒子微細化効果に起因する。Mg‐Znの確立された状態図によれば、マグネシウムにおける亜鉛の最大固溶度は室温で1.6重量%である。したがって、亜鉛は主として主要相αMgに溶解し、固溶体をもたらし、合金の鋳造性の改善を強化する。また、Mg‐4%Zn‐0.5%Zr合金の粒界領域に沿ってMgZn金属間化合物が存在すると、塑性変形中に転位運動が阻害され、所望の可塑性を犠牲にして合金の強度が増大することに注意を向けることも重要である。しかし、粒界に沿って形成される不連続な析出物は時々、応力集中装置として働き、引張荷重下で合金の脆性破壊を導くことがある。
図2.1は、引張試験後の断面の破面写真を提供する。アズドローンAZ31合金試料(図2.1a参照)の破断面は、破断面全体にディンプルが存在する延性モード破断を示す。他方、図2.1bのアズキャストZK40の引張試験試料は、粒間割れおよび劈開パターンを含む混合破断モードを示す。劈開および擬似劈開パターンの存在は、Mg‐4%Zn合金には一般的であり、それは他者により検証されてきた。粒界に沿った金属間相の存在は引張荷重下で亀裂の伝播を導き、結果として脆性破壊を引き起こすことがある。しかし、溶体化処理されたZK40合金は、劈開面およびディンプルの存在によって支持される脆性‐延性両方の破壊モードを示した。破断面で観察されたディンプルの数(図2.1c)は最小限であり、おそらく溶体化処理中に第二相がαMgマトリクス中に再溶解したときに現われたものであり、粒子を軟化させ、延性モード破壊の可能性を導く。
[Mg‐Zn‐Zr合金の浸漬腐食特性]
純Mg、アズドローンAZ31、アズキャストおよび溶体化処理されたZK40合金の平均重量損失を図2.2に示す。純MgおよびAZ31の平均腐食速度は、DMEM+10%FBSへの7日間の静的浸漬後に、それぞれ0.69±0.13および0.66±0.05mm/年であることが決定された。腐食速度は、14日間および21日間の浸漬試験中にさらに低下した。それは文献に報告された数値と一致する。平均重量損失速度の低下はおそらく、腐食をさらに遅らせる表面上のパッシベーション層の形成のためであった。しかし、アズキャストおよび溶体化処理されたZK40サンプルの場合、逆の傾向が観察された。腐食速度は、DMEM+10%FBSへの7日間、14日間、および21日間の静的浸漬の順序で増大した。7日間の浸漬後のアズキャストおよびT4処理したZK40合金の平均重量損失は、それぞれ0.39±0.05mm/年および0.53±0.12mm/年であった。アズキャストZK40サンプルの場合、腐食速度は14日間および21日間の浸漬中にそれぞれ1.07±0.26mm/年および1.53±0.25mm/年に劇的に増大した。
腐食速度の増大は、静的浸漬中に表面に形成される保護層[Mg(OH)]が安定せず、さらなる腐食に寄与することを示唆する。上記の知見は、アズキャストZK40合金の破壊電圧E(−1.41V)が腐食電位Ecorr(−1.49V)に近く、結果的に腐食生成物の急速な腐食および溶解が同時に起きることを突き止めた電気化学的腐食の研究と一致した。溶体化処理されたZK40合金の平均腐食速度は、7日間後の0.53±0.12mm/年から14日間後の0.46±0.03mm/年までわずかに減少したが、21日間の静的浸漬後に再び0.89±0.09mm/年に増大した。この変則的な腐食速度の正確な理由はまだ不明であり、さらなる調査の課題である。考えられる説明として、溶体化処理のため形成された水酸化物の性質から、亜鉛がMgのα相に溶解し、MgZn金属間相が形成されることが挙げられる。Znの取込みのため水酸化マグネシウムの安定性が21日の期間に変化し、おそらく微細な析出物が形成され、固溶度を増大させ腐食速度の増大が観察された可能性が高いと思われる。しかし、これらは現時点ではほとんど推論であり、さらなる研究が必要である。
21日間の静的浸漬後のアズキャストおよび溶体化処理されたZK40合金の腐食面の表面形態を図2.3に示した。アズキャストおよび溶体化処理されたZK40合金は両方とも一様に腐食したように見える。しかし、大きい穴の存在の原因は、細胞培養培地に存在するCl、HCO 、SO イオン等によって局所的に攻撃される傾向のある第二相の析出物の存在ゆえに弱点個所となる粒界領域に沿った厳しい孔食のためである可能性が高かった。
[Mg‐Zn‐Zr合金の細胞適合性]
[生死判別アッセイを使用する直接MC3T3細胞適合性]
純Mg、AZ31、アズキャストおよび溶体化処理されたZK40サンプルの細胞生存率を、抽出物の3日間の細胞培養時間により調査した。図2.4は、直接αMEM+10%FBS中で3日間培養し、次いでカルセインAMおよびEthD‐1で染色した骨芽細胞MC3T3‐E1を示す。生細胞は細胞内エステラーゼ活性によりカルセインAMを緑色蛍光カルセインに変換する一方、EthD‐1は損傷した膜を持つ細胞に侵入し、そこで核酸と結合して明るい赤色蛍光を発する。アズキャストサンプルと同様に溶体化処理されたZK40サンプルも、AZ31および純マグネシウムと比較して、細胞密度がより高くかつ均等に分布していることが明瞭であるので、改善された細胞生存率を示す。対照群と調査サンプル群との間で生細胞(緑色)の形状に有意な差はなかった。各群にほんのわずかなアポトーシス細胞(核の赤色蛍光)が観察された。
図2.5は、αMEM中で3日間インキュベートした後、2.5%グルタルアルデヒド溶液中で15分間固定したMC3T3‐E1細胞の形態を示す。細胞がサンプルの表面に付着するのを観察することができ、また細胞が表面上で増殖し始めることも明白である。糸状仮足が形成され、細胞の拡散は均等であることを観察することができ、Mg‐Zn‐Zrサンプルが生理的環境で安定しており、保護層が形成されている可能性が高く、放出されるイオン濃度(Mg2+、Zn2+)が阻害され、細胞の成長および増殖を促進していることが示唆される。
[MTTアッセイを使用する間接MC3T3細胞適合性]
図2.6は、MC3T3‐E1細胞および3日抽出物のMTTアッセイを使用して実施した間接細胞毒性試験の結果を示す。3日間の培養期間の場合、細胞生存率は陰性対照と比較して、非希釈抽出物(100%)濃度ではほとんど無きに等しかった。しかし、腐食培地の抽出物を50%、25%、および10%に希釈し、新鮮な培地を細胞に加えると、細胞生存率は増加した。細胞生存率レベルは、アズキャストおよび純マグネシウムレベルの場合、50%の希釈レベルで〜80%と記録され、ZK40合金の良好な細胞適合性が示唆された。細胞適合性レベルは25%の抽出物希釈でさらに改善した。アズキャストおよび溶体化処理されたZK40ならびに純Mgの三つのサンプルは全て、陰性対照に対して、50%および25%の抽出物希釈で75%を超える細胞生存率を示した。上記の研究結果は、抽出物濃度が高いと本質的に細胞毒性が高く、放出されるイオン濃度のため浸透圧衝撃を招くという、文献に報告されている最近の研究結果とよく一致しており、10倍の抽出物希釈は様々なマグネシウム合金間の細胞毒性レベルを決定するのにより適しており、おそらく充分であることを示唆している。細胞毒性試験のISOプロトコルもまた75%以上の細胞生存率を非細胞毒性の指標としており、したがってここでの結果は、調査したZK40合金材料の生体適合性を示唆している。
[Mg‐Zn‐Zrのインビボ生体適合性]
図2.7は、40日および70日後にアズキャストZK40、純Mg、およびAZ31の周囲のマウス皮下組織で採取されたインプラントの局所部位の組織学的画像を示す。40日後にアズキャストZK40の埋込みの周囲に、ある可視量のガスポケットが観察され、動物を屠殺し、合金試料を取り出した後、純MgおよびAZ31と比較して、アズキャストZK40の有意な質量損失を測定した。H&E組織学的検査結果に軽度の炎症反応が観察された(図2.7参照)。線維芽細胞の豊富な集団がMg合金サンプルの周囲に観察された。アズキャストZK40の分解は、純MgおよびアズドローンAZ31より次第に目立つようなることが観察された(図2.8参照)。しかし、試料に明瞭な急性炎症反応は無かったが、より詳細で正確かつ説得力のある説明を提供するためには、分解分析と共に長期反応の分析が必要である。これらの研究は近い将来に計画される。
[結論]
本試験では、アズキャストおよび溶体化処理されたZK40合金を、整形外科および頭蓋顔面に適用可能な潜在的生分解性合金として調査した。ZK40合金は、純MgおよびアズドローンAZ31に匹敵する腐食速度を有する。しかし、静的浸漬技術による長期腐食は、アズキャストおよび溶体化処理されたZK40合金の腐食傾向が実際には、純MgおよびAZ31と逆であることを示している。純MgおよびAZ31の平均重量損失速度は、7日間の浸漬後に安定化し、14日間および21日間の静的浸漬後に徐々に低下するが、アズキャストZK40合金の平均重量損失速度は、おそらく腐食面で同時に起きる保護層の形成および溶解のため、平均重量損失速度の増加を示すことが観察された。マウス骨芽MC3T3細胞を使用する直接生死判別アッセイおよび間接MTTアッセイによるインビトロ分析は、純MgおよびAZ31と比較して良好な細胞生存率を示す。マウス皮下モデルにおけるアズキャストZK40サンプルの直接移植もまた急性炎症反応を示さず、かつ40日後および70日後に移植部位に沿って健康な線維芽細胞の形成が示され、ZK40合金を潜在的生分解性インプラントとして使用できることが示唆される。さらに、押出/圧延、および昇温での等チャネル角プレスは、アズキャストインゴットに存在するボイド、固化収縮等を除去することが可能であり、機械的強度および腐食特性を改善することが報告されている。したがって、熱間押出または熱間圧延について、Mg‐Zn‐Zr合金を潜在的生分解性インプラント材料として使用するための潜在的工程として調査した。
<実施例3>
[Mg‐Zn‐Zr合金の分解特性、機械的特性、および生物学的特性に対するSrおよびCeの添加の影響]
[理論的根拠]
各合金カテゴリについて上述したように、ここで考察する新たな種類の系は、SrおよびCeを含有する合金である。前に述べた通り、SrおよびCeは両方とも骨に自然に存在しており、骨のhMSC分化に関してそれらの生物学的影響が報告されてきた。他方、Srは粒子微細化効果を有することが知られ、CeはMg合金により強力な金属腐食保護層をもたらすことが知られており、したがって結果的に得られる合金の品質および予想される性能を著しく向上する。Mg合金の分解中のSrおよびCeの放出は、かくして骨組織の再生をさらに増強する潜在的可能性を有する。したがって、少量であるが目立つ量のSrおよびCeが合金元素としてベースMg‐Zn基合金に添加され、これらの元素の影響が調査されてきた。こうしてSrおよびCeの添加量を0.25重量%および1重量%に決定し、添加量と主要な三つの特性との相関のみならず骨形成能についても体系的に調査する。
[実験計画]
上記の実施例1で記載したのと同じ実験セットアップを使用して、Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr(Sr、Ce=1、0.25)合金を溶融し、鋳造した。したがって、Mg‐SrおよびMg‐Ce母合金を使用して、溶融中にSrおよびCeを添加した。SEMを用いた微細構造および不純物の分析後に、熱処理条件を最適化した。処理後にパラメータを決定し、生分解性Mg合金に必要な基本的特性を理解するために、実施例2の実験計画に従ってインビトロでの腐食特性、機械的特性、および生物学的特性の測定を実行した。
さらに、アルカリホスファターゼおよび石灰化アッセイを使用して、Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金の骨形成能を評価した。Mg、Sr、およびCeイオンを添加した分化培地でhMSCを培養し、直接細胞付着性に関わることなく、分解生成物の影響を試験した。アルカリ性リン酸塩アッセイをDNA定量化によって正規化した。1週間、2週間、3週間の培養後に、hMSC溶解物をpニトロフェニルリン酸塩(pNPP)溶液および基質容積と混合し、インキュベートし、405nmの吸光度で観察した。2週間および3週間の培養後に、アリザリンレッドアッセイを使用して骨芽細胞の石灰化を測定した。アリザリンレッド染色後に定量分析を実施し、染色した細胞を溶解して、プレートリーダーを使用して605nmの吸光度で定量した。
[統計的考察]
Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金に実施される繰り返し実験のために、明確な目的1(Specific Aim 1)および明確な目的2(Specific Aim 2)の同じ統計分析を使用した。したがって、ALPおよび石灰化の調査に対し、群および時間の独立変数を持つ二方向ANOVAを使用した。SrまたはCeの添加が骨形成能に効果を有するかどうかを立証するために、p<0.5で設定した有意水準を設定した。
[予想される結果]
上で概説したように、ZK40合金へのCeおよびSrの添加は耐食性を低下させるとは予想されないが、これらの合金元素は少量でも、粒界に沿ってまたは親Mgマトリクス相の内部に小さい析出物を形成する可能性が高い。機械的特性は相応して変化するが、引張強度については依然としてZK40合金の80%を維持すると予想される。Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金は、ALP活性および石灰化がかなり向上すると予測される一方、合金の細胞毒性についてはZK40との有意差は無いであろう。
[材料および方法]
[合金の設計および合成]
表3.1は、本章で調査するMg‐Zn合金の省略表記および化学組成を一覧にする。Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr(Sr、Ce=1、0.25)合金を、電気抵抗炉を用いて軟鋼るつぼ内で溶融し、500℃に予熱した軟鋼鋳型で鋳造した。Mg(US Magnesium Inc.,99.97%)、Znショット(Alfa‐Aesar,99.99%)、およびMg‐30Sr/Mg‐30Ce母合金の純元素インゴットを表に従って計量し、700℃で均質化して、Mg‐Zn‐Sr‐ZrおよびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金を250gのバッチサイズで合成した。平衡状態で、Zirmax(登録商標)Mg‐33.3重量%Zr(Magnesium Elektron,UK)を溶融混合物に添加した。1分後および5分後に10秒間の攪拌を行って、溶融物中のジルコニウム粒子の一様な分散および溶解を達成した。最終的に、温度を700℃に30分間維持し、次いで鋳造した。300℃で1時間溶体化処理した後、ノースカロライナA&T大学(Greensboro,NC)で30:1の押出比を用いて、熱間押出を行った。
[X線回折]
Si検出器を備えCu Kα(λ=1.54056Å)放射線源を用いるPhilips XPERT PROシステムを使用して、X線回折(XRD)位相分析を実施した。X線発生装置は45kVおよび40mAで10〜80°の2θ範囲で動作した。X’Pert HighScore Plusバージョン3.5ソフトウェアを使用し、ICSDデータベースと比較してXRDパターンを同定した。
[ICP分析]
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES,iCAP duo 6500,Thermo Scientific)を使用して、合金組成物に対する元素分析を実施した。ZK40、ZJ40/41およびZY40/41合金試料を1%硝酸中で溶解した。次いで、公知の標準を使用して、Mg、Zn、Zr、Ce、Sr、Fe、Mn、Ni、Al、およびCuの濃度について溶液を分析した。
[微細構造解析]
熱処理(T6)および押出ししたZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金の微細構造は、エポキシ樹脂(EpoxiCure,Buehler)にマウントし、半自動研磨システム(Vector,Buehler)を用いて、9μm、3μmおよび1μmのダイヤモンドスラリにより、次いで0.5μmのコロイド状シリカにより機械的に研磨して鏡面仕上げを達成した。次いで試料を、5mLの酢酸、6gのピクリン酸、10mLの水、および100mLのエタノールの溶液中で化学的にエッチングし、その直後にイソプロパノールを使用して洗浄して表面をきれいにした。熱処理(T6)および押出ししたZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金の微細構造は、光学顕微鏡(Nikon,Japan)を使用して観察した。また、ZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金試料の研磨されエッチングされた微細構造を、粒界内の二次析出物を同定するために、エネルギ分散分光計(INCA,Oxford Instruments)を備えた走査電子顕微鏡(JSM 6610LV,JEOL,Japan)も使用して分析した。コンピュータ断層撮影(Phoenix Nanotom‐m 180kV/15W X線ナノCT(登録商標)System,GE)画像も最小ボクセル解像度〜80μmで取り込み、アズキャスト焼鈍インゴット内に内包物、ボイド、および二次析出物が無いか分析した。
[浸漬腐食測定]
熱処理(T6)および押出ししたZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金の浸漬腐食特性をASTM G31‐72に準拠して評価した。熱処理(T6)および押出ししたZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金は、直径5mmおよび厚さ1.5mmの円板状に調製した。これらの円板はSiC研磨紙を用いて1200グリットまで研磨した。浸漬試験の前に各試料の表面積および重量を測定した。試料は次いで超音波洗浄器を用いてアセトン中で洗浄し、両面をUVにより30分間滅菌した。滅菌後、試料を37.4℃のハンクス液(HBSS)中に1週間、3週間、および5週間浸漬した。HBSS培地は体積対表面積比を20ml/cmに維持した。浸漬した試料はその後、各時点でHBSS培地から取り出し、蒸留水で洗浄し、室温で乾燥した。さらに、各試料の分解生成物を200g/Lのクロム酸および10g/LのAgNO溶液で10分間洗浄し、3章および4章に記載した手順と同様に質量損失を評価した。浸漬前後の質量の差を記録し、ASTMG31‐72に従って質量損失、密度、および表面積を用いて分解速度を算出した。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、Tukeyのpost‐hocテストによる一元配置ANOVAを使用して、各時点について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[引張試験]
ASTM‐E8‐04mに従って引張試験を実施した。ZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金を、ゲージ長が13.5mm、幅が3mm、厚さ3mmの標準ドッグボーン形状に機械加工した。5kNのロードセルを用いたInstronマシンを使用して、室温で1.3mm/分のクロスヘッド速度で一軸引張試験を実施した。各試料に対して得られた応力‐歪み曲線から、降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、ヤング率(E)、および伸び率(%)を得た。ヤング率は曲線の初期直線部分からも決定した。これら三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差は、この後に続く結果の節で報告する。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、Tukeyのpost‐hocテストによる一元配置ANOVAを使用して、各時点について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[MTT細胞生存率試験]
押出ししたZK40、ZJ40/41、およびZY40/41合金の細胞適合性を調査するために、マウスの骨芽細胞様細胞株MC3T3(ATCC,Rockville,MD)を、合金試料を培養培地に浸漬し、それらを72時間インキュベートすることによって調製した抽出物培地を用いて培養した。10%のFBSおよび100Uml−1のペニシリン‐ストレプトマイシンを含む変法イーグル培地アルファ(αMEM)を細胞培養培地として使用した。合金試料を直径10mmおよび厚さ5mmの円板状に機械加工し、SiC研磨紙を用いて1200グリットまで研磨した。試料の重量に対する培養培地の体積の比は、EN ISO10993:12に準拠して1mL:0.2gに維持された。抽出物培地を0.2μmの膜を用いて濾過し、このオリジナル抽出物を100%抽出物とみなす。100%抽出物中のMg、Zn、Zr、Sr、およびCeの化学的濃度は、前に3章および4章に記載した手順と同様に、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES)を使用して測定した。100%抽出物はさらに希釈して50%、25%、および10%の抽出物溶液にした。MC3T3細胞を96ウェルプレートに6000細胞/ウェルの細胞密度で播種し、24時間インキュベートした。MC3T3細胞を100%、50%、25%、および10%の抽出物培地でさらにインキュベートした。72時間のインキュベーション後、Vybrant MTT細胞増殖キット(Invitrogen Corporation,Karlsruhe,Germany)を使用して細胞生存率を評価した。MTTアッセイの前に、Mgイオンと3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐yl)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)との間の干渉を防止するために、抽出物培地を新鮮な培養培地に交換した。次いで、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1.2mMのMTTを110μLずつ各ウェルに加え、4時間インキュベートした。次いでドデシル硫酸ナトリウム‐塩酸溶液を加え、12時間インキュベートして、ホルマザン結晶を可溶化した。次いで、前に述べた手順と同様に、Synergy 2マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments,Winooski,VT)を使用して、570nmの波長でホルマザン染料の吸光度を測定した。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、一元配置ANOVAを使用して、抽出物培地の各希釈係数について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[食塩水によるヒト間葉系幹細胞の培養]
ヒト間葉系幹細胞(Lonza,Allendale NJ)を使用して、hMSCの骨形成分化に対するMg、Sr、およびCeイオンの効果を評価した。三番目の継体細胞は、Mg、Ce、およびSrイオンを含む成長培地および分化培地の両方で培養した。20%のFBSおよび100Uml−1mpペニシリン−ストレプトマイシンを含む変法イーグル培地アルファ(αMEM)を成長培地として使用した。100nMのデキサメタゾン、50μmのアスコルビン酸、および10mMのβグリセロリン酸塩をさらに成長培地に添加し、骨形成培地を生成した。加えて、表3.2に示すように、10mMのMgSO、0.1/1mMのSrCl、または0.1/1mMのCeClを分化培地に添加した。hMSCを6000細胞/cmの細胞密度で播種し、成長培地で7日間培養した。これに続いて、成長培地をサンプル培地に交換し、さらに7日間および14日間培養して、アルカリホスファターゼ活性および骨形成遺伝子発現を調査した。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、Tukeyのpost‐hocテストによる一元配置ANOVAを使用して、各時点について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[アルカリホスファターゼの測定]
アルカリホスファターゼ(ALP)活性は、酵素アッセイを使用し、ホスファターゼ基質としてのpニトロフェニルリン酸塩(pNPP)の変換を測定して評価した。hMSC細胞はPBSで洗浄し、溶解緩衝液(CelLytic M,Sigma Aldrich)を使用して溶解し、ALPを含有する細胞溶解物を調製した。pNPP基質溶液を細胞溶解物に添加して、酵素反応を評価した。30分間のインキュベーション後、次いで0.3NのNaOH溶液を添加して、酵素反応を停止させ、405nmで吸光度を測定した。pNPP基質溶液を0.02NのNaOH溶液で希釈することによって、異なる濃度のpNPP標準溶液を調製した。吸光度を標準曲線と比較することによってALP活性を決定し、総二重鎖DNAによって正規化した。
[qRT−PCRを使用した遺伝子発現調査]
hMSCは、5.2.8節で上述した様々な合金元素塩を含む成長培地および分化培地で培養した。市販のRNA抽出キット(Nucleospin RNA Extraction Kit,Macherey Nagel)を使用して、これらのhMSCにRNAの単離を実施した。260nmおよび280nmの波長でマイクロプレートリーダー(Synergy 2,BioTek Instruments)を使用して、RNA濃度を測定した。各逆転写反応に対し約50ngのRNAを使用した。逆転写は市販のキット(Improm‐II Reverse Transcription Kit,Promega)を使用して行った。その後、相補DNAは、SYBR緑色マスターミックス(Brilliant II,Agilent)および表3.3に記載したプライマーを使用して、qPCR反応に供された。
[結果]
[位相および元素分析]
図3.1は、押出し後のベース合金Mg‐Zn‐Zr(ZK40)、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金のX線回折(XRD)パターンを示す。パターンは純Mgのhcp結晶構造を持つ単相αMgマトリクスと同定された。Mg‐Zn‐Zr、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金は、Mg、Zn、Ce、Sr、またはZrと組み合わされた明瞭な金属間相が存在しないことを示した。XRDパターンは、種々の合金系の全てにαMg固溶体単相が形成され、検出可能な量の金属間化合物は観察されないことを明確に示した。しかし、純Mgとは異なり、Mg‐Zn‐Zr、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金の最高ピーク強度がピラミッド面に観察された。この観察は、αMg固溶体単相の配向が合金の合成および処理中に変化したことを示唆する。
様々な合金元素の影響を示し、合金マトリクスおよび析出物の元素分析を行うために、後方散乱電子(BSE)顕微鏡法を使用して押出Mg合金の微細構造を観察した。図3.2では、Mg合金のBSE画像が、Mで示されたマトリクスとPで示された析出物とで分析されて、粒界に沿った高いコントラスト領域として金属間化合物析出物が存在すること明らかにした。析出量の増加がSrおよびCeの量の増加と共に観察された(図3.2a対図5.2b〜e)。Mg‐Zn‐Zrは、その名目組成に近い固溶体の形成と、3章でZK40合金について記載した場合と同様のZn‐リッチMgZn析出物とを示した。Mg‐Zn‐Zrへの0.25重量%のSrの追加は合金マトリクスに影響しなかったが、析出物中にSrおよびより少ない含有量のZnの存在をもたらした(図3.2b)。Srの含有量をさらに追加してSrを1重量%増量しても、固溶体または析出物は同様の組成範囲を示し、組成が大きく変化することはないようであった。しかし、析出部位の数の増大が観察された(図3.2d)。セリウムの追加はまた、析出物に対しても同様の効果を示し、Ceの存在およびMg‐Zn‐Zrと比較してZnの量の低下が示唆された(図3.2c、e)。Mg‐Zn‐Ce‐Zrは、Mg‐Zn‐Sr‐Zrと比較してより多くの析出物を示した(図3.2b、d対図3.2c、e)。したがってCeの追加は、CeとMgの固溶限界がより高いため、Srの追加と比較してより多くの析出物をもたらすことが観察された。
[浸漬腐食測定]
Mg‐Zn‐Zr合金の耐食性に対するCeおよびSrをマイクロ合金元素として追加することの影響は、HBSSでの7日間および35日間の浸漬腐食測定を使用することによって調査した。図3.3では、Mg合金の質量損失は、4章で前述の通り、ミリメートル/年(mmpy)単位の浸漬腐食速度に変換された。Mg‐Zn‐Sr‐Zr合金は、Mg‐Zn‐Zrと比較して腐食速度に有意な差を示さない。他方、Mg‐Zn‐1Ce‐Zrは、35日間の浸漬後に腐食速度についてかなりの増加を示すが、Mg‐Zn‐0.25Ce‐Zrは依然として他のMg合金に匹敵する耐食性を維持した。5.3.1節においてBSE画像で観察し考察したように、Mg‐Zn‐1Ce‐Zrの場合、より多くの二次相含有量は結果的に、粒界に沿ったMg‐Zn‐Ce混合物から開始する破局的腐食を招く。全体として、0.25重量%および1重量%のSrの追加は、0.25重量%のCeの追加と同様に、市販のAZ31と比較して耐食性を著しく劣化させることはなかった。
[引張機械的特性]
引張試験を使用して種々の合金の機械的特性を決定し、その結果を表3.4に示す。Mg‐Zn‐Zr合金(ZK40)は45.8GPaの弾性係数、286.6MPaの降伏強度(YS)、および327.2MPaの極限引張強度(UTS)、および9.3%の伸び率を示した。0.25重量%および1重量%のSrをMg‐Zn‐Zrに追加しても、結果はUTSがわずかに増加して317.3MPaおよび320.9MPaになっただけである。弾性係数、YS、および伸び率に有意な差は無かった。他方、0.25重量%および1重量%のCeをMg‐Zn‐Zrに追加した場合、UTSは有意な増加を示し、それぞれ335.2MPaおよび341MPaになった。Mg‐Zn−1Ce‐Zrの場合、9.3%から7.6%への伸び率の有意の低下も観察された。
[MTTアッセイ]
Mg基合金の分解生成物を含有する抽出物培地で細胞を1日間および3日間培養した後、MTTアッセイを用いてMC3T3の細胞生存率を評価した。陰性対照としての成長培地と比較して、MTTアッセイの結果を図3.4に示すようにプロットした。Mg‐Zn‐Zr、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金の100%抽出物培地は予想通り、市販のAZ31Bまたは純Mgとは対照的に、1日間の培養後でもすぐに10%未満の細胞生存率を示した(図3.4a)。しかし、これらの合金の細胞生存率は、50%の抽出物培地で〜50%まで回復し、25%および10%の抽出物培地では〜90%まで増加した。図3.4bは、MC3T3を抽出物培地で3日間培養後した後のMTTアッセイに対し、同様の細胞生存率パターンを示した。4章で考察したように、総金属塩濃度の浸透圧衝撃によって誘発される細胞壊死を引き起こす静的培養の性質上、10%の抽出物培地は生分解性Mg合金の細胞毒性を決定するのに適していることが示唆される。ISO 10993:5プロトコルは、75%以上の細胞生存率の達成は一般的に非細胞毒性とみなされると規定している。したがって、10%の抽出物培地の細胞生存率は、これらの合金が実際にsMC3T3細胞株との細胞適合性を持つことを示唆している。
[ALP活性の測定]
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を成長培地で7日間培養した。合金元素を含む骨形成分化培地でhMSCを7日間および14日間培養した後、ALP発現レベルを測定した(図3.5)。全ての塩濃度で成長培地と比較して、より高いALPレベルが観察されたが、合金元素塩を加えた分化培地群では、ALPの発現に有意な改善は無かった。CeClを含む分化培地では7日後により低いレベルのALP活性が観察されたが、ALPレベルは14日後には分化培地と比較して回復した。MgおよびSrイオンを加えることによって、ALPの発現に他の有意な差が生じることは無かった。
[遺伝子発現]
アルカリホスファターゼ(ALPL)およびオステオポンチン(OPN)遺伝子発現を図3.6に示す。GAPDHハウスキーピング遺伝子の発現を減算し、かつ成長培地群の平均を減算することによって、ALPLおよびOPNの倍率変化が得られた。ALPLの発現はDM‐Mg‐1Sr群の有意な増加を示すものであった。OPNの場合、Mg、0.1/1mMのSr、および0.1mMのCeを添加した培地は、発現レベルの有意な増加を示したが、Ceを添加した培地は有意な改善を示さなかった。
[考察]
[耐食性および機械的特性に対するSrおよびCeの効果]
SrおよびCeをMg基合金、特にMg‐Zn‐Zr系に加えることによる効果を調査した。加えて、耐食性、機械的特性、細胞適合性について調査し、生分解性Mg‐Zn‐Zr合金にSrおよびCeを徐々に加えることを取り込んだ場合の骨形成反応について調査した。Mg‐Zn‐Zrは、構造用途のために開発され使用された市販のMg合金系である。それは適切な耐食性、機械的特性、および細胞適合性を有する。Mg‐Zn(MgZn)二次相析出物は粒界領域で形成することが観察される。これらの析出物はガルバニック腐食を受けやすく、孔食のイニシエータとして働く。したがって、SrおよびCeは、これらの析出物の組成を変えるマイクロ合金元素として選択されてきた。ストロンチウム(Sr)はMg合金の粒度を微細化し、Ceは、酸化セリウムを形成するための結合エネルギおよび結合強度ならびに親和性が高いため、安定酸化物を形成することができ、したがって、Mg‐Zn‐Zr合金を腐食から保護するように働く。加えて、SrおよびCeは、ヒト間葉系幹細胞の増殖および骨形成分化に対し肯定的な効果を有することが報告されている。
ストロンチウム(Sr)およびセリウム(Ce)はどちらもマイクロ合金元素として0.25重量%および1重量%の量を使用した。SrおよびCeの合金元素の固溶限度は低く、それを超えるとより多くの二次相析出物が形成されて、耐食性の低下を招き、ガルバニック腐食が発生し得るので、ごく少量のSrおよびCeを使用した。X線回折を用いてMg‐Zn‐Sr/Ce合金系に位相分析を実施した。図3.1に示すように、Mg‐Zn‐Zr、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zr合金系に、明らかな第二相、非合金単元素、または多相合金もしくは化合物は観察されなかった。しかしながら、Mg合金の粒界に沿った第二相析出物が依然として存在することが、図3.2に示すように後方散乱走査電子(BSE)顕微鏡下で明らかになった。これは、おそらく溶融物を完全に均質化処理するための充分な時間を与えない溶融および鋳造の処理条件であったため、あるいは、おそらく合金の押出中に、選択された時間、温度、およびリダクション比が悪くなって、析出物の不安定を引き起こし、粒界内部および粒界の周りにおける析出粒子のさらなる破壊および分布を招いたためである。
Mg‐Zn‐Zr合金系の析出物の組成は、したがって析出物組成をMg‐Zn‐Sr/Ce‐Zr合金系のMg、Zn、およびSr/Ceの三成分混合物に変態させ、したがってMg‐Zn‐Sr‐Zr系の場合Mg‐Zn‐Srの析出物、Mg‐Zn‐Zr‐Ce系ではMg‐Zn‐Ceの析出物が生じる。析出物の化学組成は各合金におけるベース合金(Mg‐Zn‐Zr(ZK40)系)の組成と同様であったが、BSE画像ではより多くの析出物が観察された。Ceの添加は、Srの添加と比較して粒界析出物を形成する傾向がより高かった(図3.2b、dおよび図3.2c、dを対比して参照されたい)。SrおよびCeの添加によるこれらの析出物の結果、浸漬腐食の測定は耐食性の有意の改善を示した。Mg‐Zn‐1Ce‐Zr合金組成の場合を除き、他の全ての組成でSrおよびCeを添加した場合、全般的に腐食速度は市販のAZ31に匹敵し、有意な差を示すことは無かった。Mg‐Zn‐1Ce‐Zrは実際、BSE画像から分かるように形成される析出物の量が大きいため、35日間の浸漬後に腐食速度の増加を示した。
粒界における析出物は、文献で知られているように、転位運動を妨げるようにも働くことができ、Mg合金の機械的強度の向上につながる。
析出硬化が日常的に使用されて、合金元素または内包物または不純物相からの第二相析出物の析出を、時間温度変態(TTT)図を介して特定の合金元素の融点より高い熱処理を実行することによって増大させることは、物理冶金学的原理からよく知られている。そのような最適化は本研究では実施されなかったが、本書に提示する最初の結果は、SrおよびCeの添加についてのこれらの最適化研究の潜在的可能性を実際に得るために、そのような最適化を実行することができることを明らかに示している。それでもなお、SrをMg‐Zn‐Zrに添加しても、引張特性に有意な差は示されないことが分かった。他方、極限引張強度は、Ceをそれぞれ0.25重量%および1重量%添加することにより、335MPaおよび342MPaへと有意に改善した。しかし、Ceを1重量%添加した場合によく見られる通り、通常通り、伸び率が低下して粒界強化が相殺された。
[Mg‐Zn‐Zr合金へのSrおよびCeによる細胞適合性および骨形成能]
生体材料の毒性は、インビボ実験を開始する前にしばしばインビトロ実験を用いて調査される。これに関連して、ISO 10993プロトコルは、MTTアッセイを用いて示される細胞生存率に基づいてポリマー製および金属製の生体材料をスクリーニングするために開発され、使用されてきた。Fischerらは最初に、MTTアッセイの後に行ったMg合金材料による直接細胞培養について、活発に腐食するMgイオンにより生じるホルマザン塩変換がアッセイ結果と干渉するように働いたため、結果が偽陽性になり得ることを報告した。動物に埋め込まれたMg合金が有意な組織損傷を示さないのに、細胞に浸透圧衝撃を引き起こすMgイオンのオスモル濃度の問題が知られている。したがって、本研究では、10%抽出物培地による細胞生存率を示し、Mg合金の毒性を格付けするためのより優れた許容可能な標識として役立つ、間接MTTアッセイ結果に研究の焦点を合わせた。静的浸漬試験中にMgによって示されたインビトロでの分解および細胞適合性が実際には、生分解性Mg合金のインビボ移植反応を表していないことは、広く受け入れられてきた。他方、Mg合金はインビボ移植中に分解速度が大きく低下し、したがって最小限の炎症反応を示す傾向がある。
修正を伴うISO標準に準拠して、MC3T3細胞株を使用してMg合金の細胞適合性を調べてきた。MC3T3細胞を10%抽出物培地で3日間培養した後、MTTアッセイは、純Mgと比較して、調査した全てのMg合金で良好な細胞適合性を示した。純Mgおよび市販のAZ31は実験対照群として使用され、100%抽出物培地を使用したとき、75%より高い細胞生存率を示した。
細胞適合性に加えて、Mg、Sr、およびCeなどの合金元素の骨形成効果を、MgSO、SrCl、およびCeCl3を添加した骨形成培地でヒト間葉系幹細胞(hMSC)を培養することによって調査した。しかし、hMSCの骨形成分化に対するZrまたはZnイオンの影響についてのレポートは無かったので、ZrまたはZnイオンは本研究では考慮しなかった。MgSOの濃度は、hMSCの増殖に最適であると報告されていたことから、10mMに維持した。Mg‐Zn‐Sr/Ce‐Zr合金中のSrおよびCeの含有量は本研究では1重量%に制限されることから、SrClおよびCeClは、1mMまたは0.1mMの濃度に達するように10mMのMgSOを含む骨形成培地に溶解される。さらに、hMSCは複数の系統に分化する能力を有するが、MC3T3はすでに骨芽細胞の初期段階にあるので、hMSCがMC3T3の代わりに使用される。hMSCを骨形成培地中で14日間培養した後に成熟骨芽細胞を得ることができるので、集密なhMSCを添加培地で7日間および14日間培養した。
アルカリホスファターゼはhMSCの骨形成分化の早期マーカーであるので、hMSCを7日間および14日間培養した後、アルカリホスファターゼを測定した。成長培地と比較して、骨形成培地および添加培地はより高いALP活性を示した。しかし、Mg、Sr、またはCeを添加した骨形成培地では、ALP活性の有意な向上は観察されなかった(図3.5参照)。したがって、これらの元素の骨形成効果を調べるために、qRT−PCRを使用して遺伝子発現を定量化した。GAPDHハウスキーピング遺伝子によって正規化されたALPLの発現は、図3.6に示すように、1mMのSrを含有する培地では有意に上方制御されているようであった。しかしながら、全般的に、Mg、Sr、およびCeイオンを添加された骨形成培地は、ALP活性およびmRNAの発現にさらなる改善を示さなかった。
[結論]
SrおよびCeをマイクロ合金元素として生分解性Mg‐Zn‐Zr合金に添加する効果は、腐食および機械的特性のみならず、石灰化に寄与しかつ骨形成能を示すこれらの合金元素の生物学的影響の観点からも調査された。これらのマイクロ合金元素を使用して、第二相析出物が形成されることが観察された。Zrの存在下でも同様に相応してMg‐Zn‐Sr/Ce三元相析出物を形成するため、二元Mg‐Zn相系におけるSrおよびCeの固溶度のおかげで、析出物は無事に形成されたようである。残念ながら、追加の合金元素を導入したことで、粒界に沿ってより多くの析出物の形成が誘発されたようである。したがって、耐食性の有意な改善は、予想されたが、観察されなかった。他方、SrおよびCeを追加した場合のMg‐Zn‐SrおよびMg‐Zn‐Ce析出物の形成を示す後方散乱SEM分析によって確認された、大量の析出物の形成のため、機械的特性は改善された。Mg‐Zn‐Zrの細胞適合性は、SrまたはCeの追加によって影響されないことが明らかになった。しかし、Znは、培養培地に溶解した塩化物塩の形の異なる合金元素によりMC3T3細胞を培養した後、細胞生存率に低い耐性を示した。したがって、Mg‐Zn‐(Sr/Ce)‐Zr合金のZn含有量は一定であるため、MTTアッセイで同様の細胞生存率が得られた。ALP活性およびALPL遺伝子発現は有意な改善を示さなかったが、OPN遺伝子はMg、Sr、およびCe塩を添加した骨形成培地でhMSCを培養した後、いくらか改善を示し、合金元素が合金系の石灰化能力に対し潜在的悪影響を持たないことを表した。しかし、ZnおよびZrに加えてSrおよびCeをも含むこれらの合金系の真の骨形成能を確認するには、インビボ試験が必要であろう。
<実施例4>
[Mg‐Zn‐Sr‐Zr合金の髄内ピンを使用したラット大腿骨骨折修復]
[理論的根拠]
生分解性Mg‐Zn合金は、様々な整形外科用途に望まれる適切な分解特性、機械的特性、および生体適合性特性を示すことが期待される。生分解性Mg‐Znインプラント装置が経験する荷重に応じて、分解速度が異なり、したがって埋め込まれた装置の破損が突然の炎症反応を誘発する可能性があることはよく知られている。機械的応力がMg‐Zn基合金の生分解性および石灰化反応に及ぼす影響を示すために、ラット大腿骨骨折モデルを選択し、耐荷重条件下でMg‐Zn合金の生体適合性および石灰化能を調査する。Mg‐Zn合金は潜在的に髄内ロッドとして使用することが可能であるが、合金は髄内領域に埋め込まれて、癒着不良部を支持かつ固定し、骨折した大腿骨の治癒をもたらし、再結合させる。それに対応して、Mg‐Zn合金およびその分解生成物の生体適合性が、血液検査のみならず肝臓および腎臓の組織学的検査をも使用して評価される。骨の治癒および局所的毒性は、骨の組織学的検査および筋肉の元素分析を用いて評価される。
[実験計画]
上述したラット大腿骨骨折モデルにおける合金の有効性を実証するために、インビトロでの耐食性および機械的特性に基づいてMg‐Zn合金の単一組成を慎重に選択した。同時に、Ti合金を対照群として使用し、骨の固定に現在使用されている最先端の臨床生体材料で観察される毒性レベルを模倣した。したがって、髄内ピンは同じ寸法に対応して機械加工した。各ピンは、骨切り術後に、各Sprague‐Dawleyラットの右大腿骨の髄内領域に挿入した。MgピンおよびTiピンの生体適合性を評価するために、インプラント装置を埋め込んだ動物を全て、2週間、8週間、および14週間後に屠殺した。
[血液検査]
全血サンプルを全血球数パネルについて適切に分析した。血清サンプルを分析して、代謝および化学プロファイルの包括的全体像を得た。化学プロファイルを使用して、血中のリンおよびマグネシウムのレベルを本質的に評価した。
[マイクロCT分析]
オリジナルのインプラントおよび採取した骨に対して、マイクロCT撮像も実施した。それに応じて、体積損失から分解速度を算出した。最後に、CT画像に基づいて、骨治癒応答を決定し、評価した。
[組織学的検査]
また、それに応じて、肝臓および腎臓の組織を、中性緩衝ホルマリンを使用して固定し、パラフィンに包埋し、ミクロトームを使用して切片化した。ヘマトキシリンおよびエオシン染色を実施して、組織の損傷または異常な反応が無いか検査した。次いで採取した大腿骨をその後非脱灰骨として処理し、プラスチックに包埋した。包埋した組織は相応して切片化され、ゴールドナーのマッソントリクロームおよびトルイジンブルーを含む様々な染色法にさらされた。
[統計的考察]
二方向ANOVA統計分析を使用して、独立変数の時間および群に関して、分解速度および血液検査の平均比較を決定した。SrまたはCeの添加が実際、骨形成能に対し効果を有することを立証するために、有意水準をp<0.5に設定した。主観的肯定的な結果のみを正当化するために、組織学的検査の結果についても相応に慎重に検討した。
[予想される結果]
14週間後、Mgピンの50%超の体積が分解後に残ると予想される。また骨折部位にカルス形成も起こり、固定の安定性の維持を助けることが予想される。血液検査結果および組織学的検査結果から、群および時点の間に有意な差は予想されない。化学パネル分析の分析後にMgのレベル上昇がおそらく予想され得る。しかし、レベルは正常範囲内に維持されることが予想される。
[大腿骨ピンの合金処理および作製]
電気抵抗炉(Wenesco Inc.)を用いてMg‐4Zn‐0.1Sr‐0.5Zr(Mg‐Zn)合金を合成した。純Mg(US Magnesium Inc. 99.97%)、Znショット(Alfa‐Aesar 99.99%)、Mg‐30Sr母合金を軟鋼るつぼ内で溶融した。総金属量は250gであった。溶融マグネシウム合金を酸素から保護するために、0.5%SF6+残部Arの保護ガス雰囲気を用いて溶融プロセスを実施した。Mg、Zn、およびSrの溶融混合物を、700℃で均質化し、Zirmax(登録商標)(Mg‐33.3重量%Zr)母合金(Magnesium Elektron Ltd.)を用いてジルコニウム成分を添加した。1分後および5分後に、液状溶融物は、ジルコニウム粒子を均等に溶解かつ分散させるために10秒間攪拌することによって、さらに均質化した。溶融物を700℃で30分間維持し、次いで溶融液を500℃に予熱した軟鋼鋳型(直径44.5mm×82.5mm)に注湯した。
頂部、側部、および底部の除去後のアズキャストMg‐Zn‐Sr‐Zr(Mg‐Zn)合金の中間部分を、旋盤を用いることによって直径37.6mmおよび高さ60mmの寸法に機械加工した。アズキャストMg‐Zn‐Sr‐Zr(Mg‐Zn)合金を300℃で1時間熱処理し、油中で急冷し、205℃で12時間焼鈍した。熱処理後、ノースカロライナA&T大学(Greensboro,NC)で、30:1の押出比を用いて熱間押出を実施した。
[動物実験計画]
動物実験はピッツバーグ大学の実験動物委員会(IACUC)によって承認されたプロトコルに従って実施した。行われた外科処理の概要を図4.1に示す。本章に関係する群、時点、および動物の数は表4.1に示す。体重約250gのSprague‐Dawleyラットを30匹使用した。Ti合金(Ti alloy)の埋込み用に15匹のラットを無作為に選択し、残りのラットにはMg合金ピンを埋め込んだ。各インプラント材料について、10匹のラットはピン(pin)を2週間および14週間埋め込み、5匹はカフ(cuff)を14週間埋め込んだ。埋め込む各ピンについて、各ラットの右大腿骨に側方から接近し、ダイヤモンドホイールブレード付きドレメルドリルを使用して大腿骨の真ん中に骨切り術を実施した。TiまたはMg合金のピンを髄内領域内に挿置して、骨折した大腿骨の安定した再結合を達成した。骨折治癒および毒性分析のために、埋込みから2週間後または14週間後にTi群およびMg群の両方から5匹を屠殺した。各カフインプラントについて、TiまたはMg‐Zn合金のカフは、14週間後に毒性分析のために、骨折していない大腿骨の周りに埋め込んだ。
[放射線撮影およびコンピュータ断層撮影分析]
7日後に全動物のX線画像を取得し、インプラント位置および骨折した大腿骨のアラインメントを観察した。埋込み前のMg‐Zn合金ピンを、マイクロコンピュータ断層撮影(microCT)(VivaCT40;Scanco Medical,Switzerland)を使用してスキャンした。採取した大腿骨もまた、プラスチックに包埋した後、マイクロCTを使用してスキャンした。マイクロCT画像の分析はMimics(Materialise,Belgium)を使用して実施し、Mg合金ピンの分解速度を算出し、骨折治癒を評価した。5つのサンプルの測定値の平均および標準偏差を報告し、t検定を使用して、様々な時点のMg‐Znピン群について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[血液検査]
手術前と2週間目および14週間目の安楽死後に血液サンプルを取得した。K2‐EDTAで採取されたサンプルは、血液学的分析のためにマーチフィールドラボ(Cleveland,OH)に送られた。赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、および白血球数は、Sysmex XT2000i自動血液分析装置(Sysmex Corporation,Japan)を用いて分析された。生化学分析のために、血液サンプルは30分間室温に維持して凝固させ、2,000rpmで10分間遠心分離した。上澄みの血清サンプルはOlympus AU化学分析装置(Olympus Corporation,Japan)を使用して分析した。アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総タンパク質、アルブミン、総および直接ビリルビン、コレステロール、グルコース、尿素、クレアチニン、リン、塩化物、カリウム、ナトリウム、およびマグネシウムを適切に測定した。三つのサンプルの測定値の平均を報告し、各パラメータの基準範囲と比較した。
[ICP分析]
採取した肝臓および腎臓の組織を70℃のオーブンで一晩乾燥させた。乾燥した組織サンプルを次いで、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。粉砕した組織0.5gを濃硝酸5mLに溶解し、それを130℃で14時間加熱し続け、30%過酸化水素1mLを添加した。次いでサンプル溶液を10倍に希釈し、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES,iCAP duo6500 Thermo Fisher,Waltham,MA)を分析対象の様々な元素の標準溶液と共に使用して測定した。三つのサンプルの測定値の平均および標準偏差が報告され、一元配置ANOVAを使用して、全ての他の群について0.05未満のp値で有意な平均差を決定した。
[軟組織の組織学的検査]
採取した肝臓および腎臓の組織を、10%中性緩衝ホルマリンで48時間固定した。固定した組織は小片に切り出し、70%〜100%のエチルアルコールシリーズで脱水し、キシレン代替品を使用して洗浄し、パラフィンに包埋した。次いでパラフィン組織ブロックは回転ミクロトームを使用して切片化した。組織切片は温水浴で適切に皺を取り除き、ガラススライドに移した。乾燥後、組織スライドは、ヘマトキシリンおよびエオシン(染料)で染色し、マウント溶液を使用してマウントした後、光学顕微鏡を使用して撮像した。
[骨組織の組織学的検査]
非脱灰埋込みを使用して、インプラントを含む採取した大腿骨の組織学的検査分析を実施した。採取した大腿骨を70%エチルアルコールで72時間固定した。固定した大腿骨を次いで、70%の希釈から連続して100%まで希釈したエチルアルコールで脱水した。大腿骨をキシレンで洗浄し、ポリメチルメタクリレート(PMMA)(OsteoBed,Life Technology)に包埋した。タングステンカーバイドブレード付き回転ミクロトームを使用して、包埋した大腿骨から7〜10μmの組織切片を得た。切片を、切片作製中の破壊を防止するためにテープに接着した。切片はゴールドナーのマッソントリクロームおよびアルカリホスファターゼ染色を受けた。染色した切片を、グリセロール溶液を使用してガラススライド上にマウントし、光学顕微鏡下で観察した。
[結果]
[マグネシウム‐亜鉛‐ジルコニウム‐ストロンチウム(Mg‐Zn‐Zr‐Sr)合金ピンのインビトロ分解]
図4.2は、骨切り手術から1週間後のTiピンおよびMg‐Znピンを埋め込まれたラットの代表的なX線画像を示す。画像を使用して、骨折した大腿骨の固定の質に基づいて各動物を安楽死させる時点を決定した。X線画像では、図4.2bおよび図4.2cに示すように、Mg‐Znインプラントの周囲に目に見える幾らかの水素ガスの発生が観察された。TiピンおよびMg‐Znピンの両方を埋め込まれたラットは、正常な運動および歩行挙動を示した。
採取した大腿骨は髄内ピンによる正常な骨折治癒反応を示した。傷の周囲にカルス形成が観察された。TiピンおよびMg‐Znピンの両方で大腿骨に形成されたカルスに、目に見える違いは示されなかった。しかし、埋込みから8週間後および12週間後に大腿骨に形成されたカルスは、埋込みから2週間後のカルスと比較して、より硬くなった。Mg‐Znピンを含む骨折大腿骨は、Tiピンを含む大腿骨ほど直線状に整列していなかった。
図4.3は、TiピンまたはMg‐Znピンを含むラット大腿骨のプラスチック包埋後の代表的なマイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)画像を示す。Mg‐Znピンが破損した大腿骨は、骨折した骨の位置ずれが生じた。2週間後、五本のMg‐Znピンのうち三本は二つに割れた。他方、Tiピンには荷重による破断や損傷は無かった。破損したMg‐Znピンによる大腿骨の変形癒合は、骨折治癒に大きな違いをもたらし得る。しかし、図4.3に示した、埋め込まれたTiピンおよびMg‐Znピン両方のマイクロCT画像は、14週間後に骨折治癒過程が完了していないことを示した。埋込みの2週間後、Mg‐Znピンの周囲に、マイクロCTでは区別できない水素気泡がより多く発生したが、後述するように組織学的検査では目立っていた。しかし、14週間後、気泡はマイクロCT画像では区別できなかった。
髄内領域のMg‐Znピンの残量をマイクロCT画像から分析した(図4.4b参照)。埋込みから2週間後のMg‐Znピンの残量は87.7%であった。14週間後、残量は42.0%に大幅に減少した。Mg‐Znピンの腐食速度を、図4.4aに示すように体積損失および元の表面積から算出した。埋込みから2週間後のMg‐Znピンは、0.91±0.65mmpyの腐食速度を示した。Mg‐Znピンは2週の時点で最大の機械的応力にさらされるので、2週の時点における腐食速度は他の時点より高いと予想された。埋込みから14週間のMg‐Znピンは分解し続け、より大きい表面積が曝露されて、結果的に0.77±0.30mmpyの腐食速度となる。
[血液検査結果]
表4.2は、TiおよびMg‐Znのピン/カフを2週間および14週間埋め込んだ場合の骨切り手術前後のラットの血液検査結果をまとめたものである。赤血球、ヘモグロビン、および血小板数は、異なるインプラントおよび異なる期間の群の間で有意な差を示さなかった。Tiピンの埋込みから2週間後の白血球数は、Mg‐Zn群と比較して著しく高かった。しかし、それは依然として基準範囲内にとどまった。
TiおよびMg‐Znのピン/カフの2週間および14週間の埋込みに対する骨切り手術前後のラットの生化学分析結果を表4.3に記載する。2週間の埋込み後のALTは、TiピンおよびMg‐Znピンの両方とも、他の時点のインプラントと比較してかなり高いレベルを示した。しかし、これらのALT値は依然として基準範囲内にとどまる。ALP、TBIL、TP、ALB、UA、CR、およびGLBについては、全ての群がインプラントおよび埋込み期間の間で有意な差を示さず、Mg‐Znピンの分解による肝臓または腎臓の損傷の徴候が無いことを示唆した。
埋込みの前と後の血清中のカルシウム、ナトリウム、塩化物、リン、およびマグネシウムイオンレベルを表4.4に示す。インプラントまたは埋込み期間の間でこれらのイオンレベルに有意な差はみられなかった。全ての値は基準範囲内にとどまり、Mg‐Zn‐Zr‐Sr合金ピンの埋込みおよびその結果として生じる分解による全身イオン濃度の変化が無いことを示唆した。
[肝臓および腎臓のICP分析]
肝臓または腎臓のICP分析を実施して、Mg‐Zn合金ピンおよびカフの埋込み後の組織におけるあらゆる形態のMg蓄積を、Ti対照と比較して調べた。図4.5aでは、Mg‐Znインプラントを含む実験群から採取した腎臓で決定されたMg濃度は、未手術群の腎臓の濃度と比較したときに、Mgの蓄積を示さなかった。図4.5bは、未手術対照(non-operated control)の肝臓組織で観察されたMg濃度が、乾燥組織1グラム当たり521μgの範囲内であることを示す。埋込み時間に関係無く、ピンを埋め込んだMg‐Zn合金群は、肝臓サンプルのMg濃度に対照レベルとの有意な差を示さなかった。観察は血液検査結果と一致しており、上述したラット大腿骨モデルにおけるMg‐Zn合金ピンおよびカフの埋込みが全身毒性を示さないことを示唆した。
[肝臓および腎臓のH&E染色]
TiピンおよびMg‐Znピンの埋込みによる組織形態の組織学的違いを可視化するために、肝臓および腎臓の組織切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色を実施した。図4.6に示す埋込みの2週間後および14週間後のTi群およびMg‐Zn群両方の肝臓切片は、核および中心静脈がはっきりと見える肝細胞の正常な分布を示した。腎臓の組織学的検査では、14週間の埋込み後にTi対照とMg‐Zn群との間に、糸球体の形態、ボーマン嚢腔、毛細管、および曲尿細管の目に見える違いは、観察されなかった。全ての実験群の肝臓および腎臓の組織の組織学的形態は、未手術対照と同様の形態を示し、データは示されないが、群間または異なる時点間で違いは観察されなかった。ICPおよび血液検査の結果に加えて、H&E染色は、生分解性Mg‐Znピンの埋込み後の分解による重要な腎臓および肝臓器官の損傷は確認されなかった。H&E染色はMgの蓄積を決定するために使用することはできないが、組織学的検査が正常で機能的な組織を示すということは、蓄積に関連する損傷が腎臓および肝臓組織に存在しない可能性が高く、または時間の経過と共に、体内で一般的に行われる正常な排泄プロセスに従ってMgが確実に除去されることが可能であることを示唆するのに役立つ。しかしながら、埋め込まれた合金ピンに存在するMg、Zn、Zr、およびSrの決定的な蓄積を確認するためには、より高度な技術が必要になるであろう。
[骨組織の組織学的検査]
プラスチック包埋後のラット大腿骨切片のゴールドナーのマッソントリクローム染色は、図4.7に示すように、典型的な骨折治癒反応を明らかにした。埋込みの2週間後、TiピンおよびMg‐Zn合金ピンを含む大腿骨は、骨折の周囲に軟骨内の骨発生および線維組織の形成を示した。埋込みの2週間後のMg‐Zn合金ピンを含む大腿骨の骨組織の切片は、Mg‐Znピンの分解によるガスポケットを示した。しかしながら、埋込みの14週間後に、TiピンおよびMg‐Zn合金ピンを備えた大腿骨は両方とも、骨再形成および膜内骨形成を示した。さらに、Mg‐Znピンを含む大腿骨のガスポケットは線維組織で満たされた。いずれにしても、TiまたはMg‐Zn群のどちらも、埋込みの14週間後に骨修復は完了しなかった。
[考察]
生分解性Mg合金は、生分解性ポリマーおよび恒久的な生体不活性金属装置と比較して、骨折の修復と骨固定において同等またはさらに改善された利点を提供する潜在的可能性について、かなりの注目を集めてきた。Mgは、ヒトの自然骨に合った機械的特性によって特徴付けられる。したがって、酸性の副産物をもたらす傾向があり、さらに容認できる骨足場システムとして機能するために望ましい骨形成能が欠如している生分解性ポリマーと比較して、合金は、自然骨とさらによく一致する機械的特性を示しながら、生体適合性がさらに高い分解生成物により時宜にかなった望ましい腐食速度を示すように設計される。生分解性Mg合金の急速な腐食は、水素ガスの発生および未熟な機械的破損を引き起こす可能性があり、機械的強度を維持しながら腐食速度を制御するために、改善された合金設計および他の表面工学戦略が必要になることは当然である。したがって、Mg合金のインビボでの分解および毒性試験は、埋込型装置の候補生体材料としてずっと望ましいバイオセイフティおよび有効性を実証する可能性がある。整形外科用装置は、しばしば耐荷重状態で使用され、よく知られた応力腐食メカニズムを介して応力が加えられたとき、金属はしばしばより急速に腐食する傾向がある。これは一般的なフィクスチャであり、かつ、応力に誘発される腐食、摩耗、および破片形成も見せる永久的な金属装置で、往々にしてこれまで多く観察された問題の様相である。
本研究では、Mg‐Zn‐Sr‐Zr合金の耐荷重条件下の分解特性および生体適合性を試験した。Mg合金は、体内で分解することが知られているので、大腿骨ロッドとしての使用は意図していない。しかし、髄内ピンを使用する大腿骨骨折モデルは、骨治癒、炎症反応、および全身毒性のような関連のある生理学的反応を調べるために、インプラント材料に大きな負荷をかけて、応力に誘発される腐食を引き起こすことができ、したがって応力の存在下で治癒を研究するのに理想的なモデルシステムとして役立つ。したがって、この骨折モデルを使用して、一群のラットに大腿骨カフを14週間埋め込んで、埋込み部位による全身毒性の差異を比較した。
Mg‐Znピンおよびカフのインビボでの分解を、手術の1週間後にX線画像を使用して評価した。早期時点で水素気泡が発生し、2〜3週間で速度論的に低下する傾向があることは広く受け入れられている。大きい負荷無く骨に埋め込まれたMg合金も分解が遅く、気泡が見られない一方、皮下領域のMg合金は、周囲の血管新生および血流の存在のため、かなりの気泡を示すことが報告されている。Mg‐Zn合金ピンおよびカフは両方とも、周囲の組織で水素ガスに包囲されることが観察された。骨組織学的検査結果もまた、Mg‐Znピン埋込みの2週間後の画像の骨折部位付近にガスポケットを示すX線画像と一致した(図4.2参照)。X線画像および骨組織学的検査結果は、ラット大腿骨におけるMg‐Zn合金インプラントの腐食が気泡を発生させるのに充分急速であったことを示唆する。しかし、骨組織の組織画像に示されるように、埋込みの14週間後に気泡は消えるようである。
骨折の治癒を行い、分解速度を定量的に決定するために、コンピュータ断層撮影を使用した。埋込みの2週間後に、骨折した大腿骨にMg‐Zn合金ピンの破損が観察された。しかし、14週間後、骨折部位の周囲にカルス形成および骨再形成が見られた。TiピンおよびMg‐Zn合金ピンを含む大腿骨は両方とも、同様の骨修復反応を見せた。ラット大腿骨骨折モデルは典型的には、骨折治癒過程を完了するまで最大五か月を要する。Mg‐Znピンを14週間埋め込んだ五匹のうち三匹のラットの大腿骨には、即時手術の後、ラットを歩き回らせて古典的な応力腐食骨折モデルとして役立つかなりの負荷をその領域に与えて、動物が経験する過度の応力によるピンの破損の結果生じた結合不良が観察された。それにも拘わらず、他の大腿骨が合同で示唆するように、インプラントが許容できる有利な骨治癒反応を示し、より多くの骨再形成および皮質骨上の結合カルス形成が行われて、より良好な骨治癒が見られたことは注目すべきである。この結果は、潜在的な整形外科用途向けの合金系の潜在的安全性および有効性を実証するのに役立つ。前に説明した通り、明らかにMg‐Zn合金ピンの加速的な腐食速度は、応力腐食の結果生じる。文献によると、非耐荷重条件下で、Mg‐Zn合金は実際、Mg合金と比較して、より高い腐食速度で分解することが知られている。ここに報告しかつ上述した分析に基づくと、耐荷重条件下のMg‐Zn合金ピンの急速な腐食は、有害な局所組織反応の観点から、骨折修復に大きく影響しなかった。しかし、Mg合金の機械的強度は腐食と共に低下することでMg‐Zn合金ピンは不具合を生じ、それは骨折治癒の結果に悪影響を及ぼす可能性はあったが、合金および処理パラメータのさらなる最適化によれば、必ずしもシステムの整形外科用途への潜在的適用性を否定するように働くわけではない。
インプラントの総体積の15%および55%が再吸収された埋込みの2週間後および14週間後に、Mg‐Zn合金ピンを使用したラットの全身毒性を評価した(図4.4参照)。さらに、一群のMg‐Zn合金カフを評価し、骨および筋肉の両方と接触するMg‐Zn合金の毒性を査定した。14週間後、カフは完全に再吸収された。血液および血清の検査は、血液、肝臓および腎臓の組織状態に破壊があればそれを検出するために、血液学的および生化学的分析に焦点を合わせた。赤血球数および生化学的パラメータは基準範囲に維持され、Ti、Mg‐Zn、および対照群の間に有意な差は無かった。最近の文献もまた、Mg合金のインビボでの分解後の血液検査結果に重大な異常は無かったことを報告している。血清分析からのBUN、CR、およびUAもまた、腎機能に有意な変化が無いことを示している。消化された組織に行われた誘導結合プラズマ分析の後、肝臓および腎臓にはMgの蓄積も見つからなかった。肝臓および腎臓の組織学的検査もまた、健康な組織を反映する組織形態学的パターンを示した。体内の過剰なMgは、腎濾過後に尿中に排泄されることが知られている。しかし、許容限度を超える身体Mg濃度は腎不全を引き起こす可能性がある。これまでに発表された文献に基づいて、体内の高用量のMgは肝臓または腎臓以外の特定の器官に局所蓄積を引き起こさないので、本明細書に記載した毒性試験方法は有効である。他の器官におけるMgの局所蓄積を追跡するために、バイオセンサまたは量子ドット染色法を使用して、蓄積の正確な位置および蓄積量を特定することを考慮することができる。全体的に、血液検査、Mg濃度、および組織学的検査結果からの観察は、ここで考慮されるMg‐Zn合金インプラントおよびそれらの分解生成物が、耐荷重条件下で可能な整形外科用インプラントとしての潜在的用途に対し実際に生体適合性があることを、一貫して示している。
[結論]
Mg‐Zn合金は、対照としてのTi合金と比較して、ラット大腿骨骨折モデルを使用して、耐荷重条件下で大腿骨ピンとして検査された。Mg‐Zn合金ピンの加速的な分解は、応力腐食のため発生した。したがって、初期に水素ガスポケットが観察されており、一部のピンは埋込み2週間の早期段階でそれらの機械的安定性を失う傾向がある。しかし、骨組織学的分析の後、正常な骨治癒が示された。Mg‐Zn合金インプラント装置の周辺の局所組織にも、線維性被膜の形成または有害な免疫反応は観察されなかった。さらに、Mg‐Znインプラントの分解は血液パネル検査を用いて評価した血液学的または生化学的マーカーに有意な変化を生じなかった。特定の合金元素についての組織の元素分析の後、肝臓および腎臓のマグネシウム濃度もまたこれらの器官にMgの蓄積が無いことを実証した。肝臓および腎臓の組織学的検査もまた、Mg‐Zn合金インプラントによる器官の損傷が無いことを示した。全体的に、結果は、Mg‐Zn合金が耐荷重条件下で有利な生体適合性を実証することを示唆している。
[一般的結論]
Mg‐Zn‐Zr合金は最初、整形外科用途向けの生分解性金属として使用する潜在的可能性を調べるために研究された。アズキャストおよび溶体化処理されたMg‐Zn‐Zrは両方とも、電気抵抗炉で溶融し、軟鋼鋳型で鋳造し、箱型炉で熱処理の後処理を行うことによって合成された。アズキャストおよび溶体化処理したMg‐Zn‐ZrのX線回折パターンは、金属間化合物の明確なピークの無いαMg相を示した。しかし、後方散乱電子顕微鏡法は粒界に沿ったMg/Zn金属間析出物を明らかにした。Mg‐Zn‐Zrの溶体化処理は、これらの析出物の相変態を引き起こしてMg‐Zn析出物とαMg材料との間のガルバニック腐食を低減させるために行われた。Mg‐Zn析出物は、合金の名目組成により近いMg‐Zn‐Zr相混合物に無事に変態した。しかし、動電位分極測定では、腐食電位または電流密度の有意な改善は見られなかった。
アズキャストおよび溶体化処理したMg‐Zn‐Zrは次いで、耐食性、機械的特性、および細胞適合性についてインビトロでの評価を受けた。Mg‐Zn‐Zrの腐食は、溶体化処理後、析出物の相変態のため改善した。溶体化処理したMg‐Zn‐Zrの浸漬腐食速度は、アズキャストMg‐Zn‐Zrより低いことが観察された。アズキャストおよび溶体化処理したMg‐Zn‐Zr両方の引張強度および圧縮強度は、純Mgより高いが、市販のアズドローンAZ31とは比べものにならないことが観察された。Mg‐Zn‐Zr合金の細胞適合性は、生分解性金属について変更したISO 10993標準を使用して評価された。MC3T3マウス前骨芽細胞の優れた細胞生存率がアズキャストおよび溶体化処理したMg‐Zn‐Zr合金の両方で示された。有望な予備インビボ分解および組織適合性結果もまた、アズキャストMg‐Zn‐Zrペレットがヌードマウスモデルの皮下に埋め込まれたときに、これらの合金によって示された。
粒界析出物中のZnリッチ金属間相を低減することによって耐食性をさらに改善するために、SrおよびCeをマイクロ合金元素としてMg‐Zn‐Zr合金に添加することについて調査した。後方散乱電子顕微鏡を用いた微細構造分析は、析出物の相変態を明瞭に示した。マイクロ合金元素の導入は、Mg中のSrおよびCeの固有の固溶度が低いため、0.25%および1%の添加がMg‐Zn‐Zr系に導入されただけであるが、より多くの析出物を生成した。鋳造および押出を行う前の合金溶融物の均質化処理に要求されるCeの融点がより高いため、CeはSrに比べて、粒界に沿って析出物を形成する傾向があった。全体的に、Mg‐Zn‐0.25Sr‐Zr、Mg‐Zn‐1Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐0.25Ce‐Zrの耐食性は、Mg‐Zn‐Zrと比較して有意な差を示さなかった。しかし、Mg‐Zn‐1Ce‐Zrは、ハンクス緩衝液に35日間浸漬した後、より高い腐食速度を示した。引張試験では、アズエクストルーデッド(as−extruded)Mg‐Zn‐Zr、Mg‐Zn‐Sr‐Zr、およびMg‐Zn‐Ce‐Zrは、市販のAZ31を上回った。より多くの析出物は転位障害に寄与し、強度の増大を導くため、極限引張強度はCeの添加により増大した。Mg‐Zn合金はMC3T3との良好な細胞適合性をも示した。MC3T3を用いてMg、Zn、Sr、およびCeイオンレベルの耐性を調べ、最高0.1mMの低いZn耐性が観察された。Mg、Sr、およびCeの骨形成分化能をヒト間葉系幹細胞でさらに調査した。ALP活性およびALPL遺伝子発現は、分化培地対照と比較して大きい変化を示さなかった。しかし、OPN遺伝子発現は、分化培地にMg、Sr、およびCeイオンを添加することにより、幾らかの改善を示した。
Mg‐Zn合金の生体適合性を実証するために、応力腐食環境を形成するように意図されたラット大腿骨骨折モデルに対し、Mg‐Zn‐0.25Sr‐Zr(Mg‐Zn)合金を選択した。骨切り術の後、Mg‐ZnおよびTi合金対照の髄内ピンを埋め込み、耐荷重条件下で分解および毒性を評価した。極端な応力腐食環境でMg‐Zn合金およびその分解生成物の毒性を試験するために選択されたモデルのため、応力腐食によるMg‐Zn合金の加速的腐食が予想された。Mg‐Znピンの埋込みから1週間後のX線画像には、急速な腐食のため、埋込み部位の周囲に水素ガスポケットが見られた。マイクロコンピュータ断層撮影分析は、Mg‐Zn合金のインビトロ腐食速度と比較して、Mg‐Znピンのより高い腐食速度を示した。しかし、埋込みから14週間後の骨組織学的検査およびCT分析で、Mg‐Znピンの周囲のガスポケットが線維組織で満たされていることが明らかになり、Ti合金対照と比較して、正常な骨折治癒が観察された。Mg‐Zn‐0.25Sr‐ZrおよびTi合金のカフをラット大腿骨に埋め込み、これらのインプラントが骨および軟組織の両方と接触したときの局所組織反応または全身毒性に差がでるかどうかを調査した。どちらのシナリオでも、Mg‐ZnおよびTi装置の埋込みから2週間後および14週間後の血液パネル検査および肝臓および腎臓のヘマトキシリン&エオシン染色に、有害な毒性反応は観察されなかった。消化された器官に対し誘導結合プラズマ分析を使用することによって、肝臓および腎臓におけるMgの蓄積は確認されなかった。したがって、四つの明確な目的の全てに基づき、調査は本質的に、Mg‐Zn合金系が実際に極めて有望であり、効果的に処理した場合、制御された量のSrおよびCeを添加することにより、改善された腐食、状況に応じた機械的強度、およびおそらく期待される骨形成能をももたらすことができることを示す。
実施された実施例に基づいて、インビトロおよびインビボ両方の条件下でMg‐Zn合金の望ましいバイオセイフティは明確に実証されたと解釈することができる。生分解性Mg‐Zn装置には、マイクロアーク酸化(MAO)、層状(LbL)高分子電解質コーティング、合成および天然ポリマーの使用、ならびに多種多様な金属コーティングなど、様々なコーティング技術を適用することができる。これらの戦略は、急速な腐食および早期の機械的破損を防止する一方で、成長因子および信号伝達分子の送達を増強し、足場としてだけでなく薬剤および生体分子の送達システムとしても働く「スマートな(smart)」足場およびインプラントシステムを生成するのに役立つことができる。
<実施例5>
[新規なMg‐Y‐Ca‐Zr基合金の合成と、材料特性化の実施と合金元素の添加および後処理処置後の微細構造の変化の評価]
Mg合金の加速的腐食は、インプラント周囲の水素ガスポケットの蓄積のためだけでなく、分解中および組織の治癒過程中の不充分な機械的性能およびインプラント安定性のためもあり、生体材料としてのその採用が制限されてきた。純Mgの耐食性を向上し、機械的特性を高めるために、この目的のための理論的根拠として概説したように、適切な合金元素Y、Ca、Zr、およびZnの添加が導入された。
Mgの合金化では、生物適合性合金元素の選択肢は限られており、Al、Mn、Zn、Ca、Li、Zr、Y、および希土類(RE)元素の中から選択することができ、Mgインプラント材料を生成するために使用され、一般的にMg合金の機械的特性および材料特性に影響を及ぼす。Mg‐Y‐Ca‐Zr合金は、耐酸化性を改善する能力のため、耐着火性合金として成功裏に製造されている。Yの導入は、それがマグネシウム合金の粒界強化に寄与しかつMgと合金化するときに3%より高い重量%で耐食性をも向上する能力によって、正当化することができる。Yと同様にCaも、密度汎関数理論計算によって示されるように、安定で化学反応性の低い水酸化物層の形成を助け、高い耐食性をもたらす。Caはまた、石灰化した自然骨の主成分であり、人体で最も豊富なミネラルであり、最高1重量%まで添加したときにMg合金の耐食性および機械的特性を改善することが知られている。他方、Zrは、粒界強化および耐食性をもたらすことによって効果的な粒子微細化剤として働く。Zrはまた、強力な鉄除去剤でもあり、通常、Zr含有マグネシウム合金の鉄の含有量を20ppm未満に減らすのを助け、こうして鉄不純物による腐食のリスクを低減する。さらに、CaをZr含有合金に添加すると溶質の過冷却が促進され、それがまた、Zr核の適切なサイズが効果的な核生成部位となるのを容易にし、粒度をさらに低減する。Znはまた、人体で最も豊富な必須元素の一つでもあり、Mg合金の耐食性および機械的特性のみならず、より大量(2重量%超)の鋳造性をも向上することができる。Mg合金中のYおよびZnの組合せは、結果的に特定の構造、すなわち原子のc軸に沿った最密面の周期的スタックから成る長周期積層(LPSO)構造の形成をもたらし、高い強度および延性が得られることも示されている。
予備研究で使用した元のMg‐Y‐Ca‐Zr合金系を変形かつ強化して、本論文で考察する第二合金群を作製した。第一に、Zrの含有量を0.4重量%から1重量%に増やした。それは、ICP‐OES測定から、溶液中に溶解するZrの量がMg‐合金鋳造インゴットで予想されるよりずっと低いことが示されたためである。Zrの量のこの減少は一般的に、Zr粒子がるつぼの底部のZrリッチ層に沈降するために観察されるものであり、溶融Mg溶液に残存するZrだけが粒子微細化プロセスに影響を及ぼす。したがってZrは、溶融、汚染、鉄のピックアップ、析出等の間の損失を補償し、さらなる処理無しで適切なレベルを維持するために、最終的な所望の重量パーセントを超える量が添加される。Mg合金に対するYの添加の効果をさらに決定するために、Yを含まない合金(Mg‐1Zr‐0.6Ca)も合成し、Yを含有する合金と比較した。
YおよびZrを含有する合金は、新規冠動脈病変の患者の薬剤溶出ステントおよび外反母趾手術におけるネジ(これらは欧州内で医療用途向けの医療装置のCEマークを受けている)に使用され、臨床的成功を収めてきた。両方の装置は、吸収性のポリマーおよび金属材料に代わるものとして良好な安全性プロファイルおよび性能を実証した。
合金元素の選択に加えて、処理方法もまた、合金の微細構造およびしたがって合金の特性に大きく影響する。本研究では、αMgマトリクス内への拡散を促進するべく推進力を提供することによって、二次相の体積分率を低減するために、525℃で8時間のT4溶体化処理を試みた。粒子の微細化をもたらすための手段として、熱間押出も実施した。これは実際、均質で微細な粒子を生成するには、圧延および鍛造など展伸用Mgを製造するための他の方法より効果的な方法である。
様々な合金の名目組成、およびこの明確な目的で考慮される合金を生成するために使用される処理方法を、表5.1に記載する。本明細書で考察する合金を指定するために使用する表5.1に示された合金の略語は、コード化に関するASTM B275標準を用いて決定されたものであり、量が最も多い二つの合金元素を表す二つ以下の文字が記載されている。Wはイットリウムを表し、Xはカルシウムを表し、KはZrを表し、ZはZnを表す。アズキャストおよびT4熱処理形態のコード表記WX11およびWX41合金は、1.0重量%Zrの添加後に、それが二番目に多く存在する合金元素となったので、カルシウムを表すXがジルコニウムを表すKに置き換えられ、WK11およびWK41と変更された。
[材料および方法]
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の冶金処理]
Mg(US Magnesium Inc.,Salt Lake City,UT、99.97%)、Ca(Alfa‐Aesar,Ward Hill,MA、99.5%)、およびZn(Alfa‐Aesar、99.99%)の元素インゴットを名目組成に従って計量し、電気抵抗炉(Wenesco Inc.,Chicago,IL)を用いて軟鋼るつぼ内で溶融し、純元素の酸化を回避するために超高純度(UHP)Arをパージし真空を引いた誘導炉(MTI Corporation,Richmond,CA)を用いて、黒鉛るつぼ内で溶融して調製した純MgおよびY(Alfa‐Aesar、99.99%)から溶融させたMg‐30Y重量%母合金を添加した。母合金および純元素は徹底的に洗浄して残留物および酸化物スケールを除去し、Ar+0.5%SF6カバーガスの保護下でWenesco電気抵抗炉を用いて軟鋼るつぼ内で溶融した。溶融注湯温度は750℃であり、この温度に達した後、Zirmax(Mg‐33.3%Zr)母合金(Magnesium Elektron Ltd.,Manchester,UK)を使用して、同量のジルコニウムを加えた。Mg‐Zr母合金を加えた後、溶融物を1分および5分の間隔で10秒間攪拌して、ジルコニウム粒子を溶融物中に均等に溶解かつ分散させた。溶融物をさらに30分間維持し、500℃に予熱した直径44.5mm×長さ82.5mmの円筒状軟鋼鋳型に注湯した。Zr粒子をZirmax母合金から放出させるための保持および攪拌時間は、溶融物中のZrのより高い固溶度および最適な粒子微細化を達成するために不可欠であった。アズキャストサンプルを溶体化処理したサンプルと比較するために、525℃で6時間の(T4)の熱処理が、連続UHPアルゴン流下で被覆された管状炉の内部で合金インゴットに対し実施され、室温の水中で急冷された。
押出合金は、付属書類Bに示すように、合金の延性を高め、二次相を均質化する一方で、結晶粒成長を引き起こさないように、最初に溶体化処理を400℃で20時間適用し、室温の水中で急冷することによって、アズキャスト合金から調製した。旋盤を使用してインゴットの直径を37.8mmに縮小した後、合金は10および30の押出比で以下の温度で熱間押出を行った。
報告する試験で、合金を、アズキャストMg(US Magnesium Inc.)、アズドローン99.9%純Mg(Goodfellow Corp.,Coraopolis,PA)、およびアズドローンAZ31(Goodfellow Corp.)と比較した。誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES,iCAP duo 6500 Thermo Fisher,Waltham,MA)を使用して、合金サンプルを15%硝酸に溶解し、水で5倍に希釈し、溶解した合金を含む溶液の合金元素および不純物元素の濃度を測定することによって、合金の組成および不純物の有無を実験的に確認した。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の相特性化]
相形成を決定するために、Si検出器(X’celerator)を有しており、CuKα(λ=1.54056Å)放射線を使用するPhilips X’Pert PRO 回折計を用いて、X線回折(XRD)を行った。X線発生装置は10〜80°の2θの範囲で45kVおよび40mAで動作した。ピーク同定はX’Pert High Score Plusソフトウェアを使用して行われた。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の微細構造分析]
Mg合金のサンプルはエポキシにマウントし、アルミナスラリーと共に1200グリットのSiC研磨紙により0.05μmまで機械的に研磨し(Tegramin‐20,Struers,Ballerup,Denmark)、5mLの酢酸、6gのピクリン酸、10mLの水、および100mLのエタノールの溶液中で化学的にエッチングした。微細構造は光学顕微鏡(Axiovert 40 MAT,Carl Zeiss,Jena,Germany)および走査型電子顕微鏡(SEM,JEOL JSM‐6610,JEOL Ltd.,Tokyo,Japan)を使用して観察し、エネルギ分散X線(EDX、EDAX Genesis,Mahwah,NJ)で元素分析を行った。ASTM E112に準拠して、各計算に最大70グレインまでを考慮してエイブラムズ三円法に従って平均粒度を測定した。
[結果]
[アズキャストおよび溶体化処理されたMg‐Y‐0.6Ca‐0.4Zr基合金の材料特性]
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP‐OES)による測定(表5.3)は、合金元素が、おそらく再溶融プロセスのため、それらの計量された名目組成から幾らか減少することを示した。Zrの減少は、主として液状溶融物中の大きいジルコニウム粒子およびクラスタが沈降するためであり、溶融時により多くのZrを加え、含有量を予備研究における0.4重量%(WX11およびWX41合金)から1.0重量%(KX11、WK11、WK41、およびWZ42合金)に増やすことによって対抗した。実質的なガルバニック腐食を回避するために必要に応じて、低い不純物レベルが観察された。
図5.1に示すように、Mg合金における様々な相の存在は、X線回折(XRD)によって特徴付られた。XRDパターンは、非合金Y、Ca、Zr、または金属間相の存在を検出することなく、全ての合金がhcpのαMgから構成されたことを示す。しかし、おそらくZrの存在が粒子微細化のための核生成部位として働き、可能な優先配向をもたらしたため、典型的なMg(002)面が最も強いピークであることを示すアズキャスト純Mgと比較して、合成されたアズキャストおよび溶体化処理合金の全てにMg面の明らかな優先配向が存在した。
図5.1は、アズキャスト純Mg、WX11、およびWX41のXRDパターンを示す。
図5.2は、αMgの結晶粒子を含むアズキャストおよび溶体化処理されたWX11およびWX41合金の微細構造の光学顕微鏡画像を示しており、粒界に二次相(暗い領域)があり、マトリクス内に析出物がある。
合金の平均粒度は、アズキャストWX11が79μm、T4処理WX11が98μm、アズキャストWX41が98μm、T4WX41が200μmであり、微細構造全体で均一等軸αMg粒子の存在が支配的であった。予想通り、溶体化処理は粒度の増大をもたらした。しかし、暗い二次相が明らかに無くなった図5.2eに示すように、合金元素の添加は、高純度Mgと比較して、粒度を大幅に低減させた。市販の引抜きプロセスのため粒子の微細化を受けたアズドローンAZ31は、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金WX11およびWX41、ならびにバルク形成プロセスを受けていない純Mgと比較して、(図5.2fに示すように)はるかに微細な粒度を示した。
SEMおよびEDX(図5.3に示す)は、WX11およびWX41アズキャスト合金が粒界および多量のYおよびCa(図5.2aおよびcに示す)の析出物を含むという光学顕微鏡画像を確認し、少量のY、Ca、およびZrを含むが、鋳造の一般的な現象である固化中の析出物の偏析のため、大部分がYから成る組成の二次相が粒界に存在することを示唆した。T4溶体化処理はこれらの二次相をバルクαMgに成功裏に溶解させ、アズキャスト合金の部分的な均質化処理をもたらした。Yリッチ金属間粒子は約75%重量%Yを含み、αYを形成し、それはT4溶体化処理後も依然として存在することが観察された(図5.3bおよびdに示す通り)。WX41合金は、そのY含有量がWX11と比較して高いため、より高い体積分率の第二相粒子が観察された。T4溶体化処理後の粒度の増大は、熱処理後に予想されるように、三点粒界領域に沿ってより小さい粒子の合体を推進するエネルギ、および析出物がマトリクスに溶解した後の過飽和αMg固溶体の形成のためと思われた。
[押出とMg‐Y‐1Zr‐0.6Ca基合金へのYおよびZnの添加による相および微細構造の変化]
修正されたMg‐Y‐Ca‐Zr合金系は1.0重量%のZrを含有した。Yを含まない合金(Mg‐1Zr‐0.6Ca)およびZnを含む合金(Mg‐4Y‐2Zn‐1Zr‐0.6Ca)をも合成し、Mg‐Y‐Zr‐Ca合金に対して材料特性およびインビトロ特性を比較した。これらの合金は10の押出比(初期断面積÷最終断面積)で表5.2に示す温度で押し出され、さらなる分析を受けた。
図5.1は、押し出されたKX11、WK11、WK41、およびWZ42のXRDパターンを示す。Mg合金のXRD(図5.1)は、KX11、WK11、およびWK41の場合、押出後に合金が依然として主として単相Mgから成ることを示す。Yの添加は、YをMgのhcp格子内に導入したことによって生じた格子膨張のため、全てのピーク位置に、特に〜37°2値の配向ピークに、ずれをもたらした。同様の好適な配向はここでは、Zrの含有量の増加によって影響されないことが分かる。予想通り、YおよびZnを含むWZ42合金には、LPSO相Mg12YZnが存在した。
図5.5は、押出比10で押し出されたMg合金の微細構造を示す光学顕微鏡写真を示しており、a)、f)はKX11、b)、g)はWK11、c)、h)はWK41、d)、i)はWZ42を示し、かつ押出比30では、e)、j)がWZ42を示し、断面は横断面(上部、a〜e)および縦断面(下部、f〜j)である。
押出後に、Mg合金は、微細構造の光学顕微鏡画像に示されるように、粒子がかなり微細化した(図5.5に示す通り)。図5.2に示すアズキャストおよびT4処理合金の微細構造と比較して、熱間押出後に、粒度は低減して50μmよりはるかに低くなった。WZ42合金は小さい粒子と大きい粒子の両方を含んでいたが、10と比較して30の押出比で押し出された場合、最大20〜40μmまでの大きい粒子の多くが、横方向に15μm未満のより微細化された粒子に破砕される結果となった。
SEMおよびEDXを使用して、微細構造のさらなる調査を行なった(図5.6に示す通り)。後方散乱SEM画像の明るい領域は、Mg、Ca、Y、およびZrのみならず不純物元素のAlからも成る金属間相を明らかにしたが、表5.3でICP‐OESを使用して合金中のAlの極めて低い濃度が測定されているので、EDXによって検出されたAlは、研磨中に使用したアルミナスラリーから生じた可能性がある。KX11およびWK11には合金元素を含む非平衡相が存在した(図5.6aおよびbに示す通り)。WK41は(図5.6cに示す通り)、〜1重量%のYしか含まないWK11と比較して、より多い〜4重量%のYを含むので、MgY相を含んでいた。WZ42合金では、Yの12倍の原子パーセントのMgを含むMg12YZnにおおまかに対応するMg、Zn、およびYから成る独自のLPSO相が、図5.2dに示すSEMおよびEDX分析によって確認された。合金中の析出物の明るい領域の量は、KX11<WK11<WK41<WZ42の順番に、Mg溶液に添加される合金元素の量が高くなるにつれて増大した。WZ42合金のLPSO相を除き、二次相のサイズは一般的に小さく、2μm未満であり、図5.3に示すアズキャストおよびT4熱処理合金と比較して、図5.6に示す押出合金中により多く分散されるようであった。
図5.2は、研磨およびエッチング後のマグネシウム合金、すなわちa)KX11、b)WK11、c)WK41、d)10の押出比で押し出された後のWZ42の指示位置におけるSEM画像およびEDX解析を示す。押出方向の横断面を断面とした。スケールバー=10μm。
[考察]
合金元素はマグネシウム合金の微細構造および機械的特性に強い影響を及ぼす。Yの含有量が高ければ粒子が粗くなると報告されており、それはWX11とWX41合金を比較したときに、図5.2にわずかに観察された。表5.3に示す通り、測定されたZrの含有量もまたWX41合金で低減したが、それは、WX11と比較してより高い粒度に寄与した可能性もある。〜75%のY重量%を持つYリッチ金属間粒子は、Mg‐Y二元合金で観察されたように、Mg‐Y‐Zr‐Ca合金で観察されたが、T4溶体化処理の実現は粒界からの第二相析出物の溶解および粒子の粗大化を引き起こした。
調査した合金組成は、アズキャストMg‐Y基合金を使用する初期研究後に修正され、拡張された。第一に、YおよびZnの添加の効果をさらに調査するために、Yを含まない組成物を添加してY含有合金と比較し、かつZnを添加してMg12YZn金属間化合物のLPSO相の効果を調査した。アズキャスト合金中に観察されたZrが溶融中に失われ、それぞれWX11およびWX41合金についてICP‐OESによって測定したときに、Zr含有量が0.40%の名目濃度から0.13%および0.074%の重量%に減少したため、初期溶融物に添加されるZrの量を増大した。Zrの損失は、Zrとの飽和に達した後、Zrがるつぼ由来の鉄および他の汚染物質と反応し、また水素と水素化物を形成し、Mg溶液から連続的に失われるために発生した。したがって、発生する損失を補償するために、活性Zrを溶融物に過剰に添加することが重要である。実現された他の変化は、熱処理のための温度を低下したことであった。図5.2bおよび図5.2dに示す通り、WX11およびWX11合金に525℃で熱処理を実施した後、著しい結晶粒成長が観察され、Zrの添加によってもたらされた粒子微細化のプラス効果が低減された。溶体化処理の温度を400℃に下げる一方、時間を8時間から20時間に延長したが、それでも腐食速度を低下させ、顕著な結晶粒成長を回避しながら、依然として析出物の拡散をもたらした。
この修正された合金系は次いで熱間押し出しされ、それは合金の微細構造を劇的に変化させた。X線回折パターンは、LPSO Mg12YZnを含むWZ42以外の全ての合金で、依然として単相Mgを含んでいたが、押出後に粒度は劇的に低下した。Mg合金の押出プロセスは、作業温度および押出比によって影響される熱機械処理である。押出温度を上げると、動的再結晶化のため、変形中に核生成および新しい結晶の成長が発生し、粒度が増大する。しかし、粒度に対する押出比の影響については矛盾した結果が生じたこともあり、押出比の増加により粒度が低減するという報告がある一方で、逆の報告もあった。ここでは、大きいLPSO相粒子の破壊が観察されたが、全体的に、縦断面に見られる粒子は劇的に変化しないようであった。押出の方向に沿って細長く伸びたこの繊維状のLPSO相の発生は、他のMg‐Zn‐Y含有合金で観察され、押出比30のWZ42合金に非常に効果的に見られるように、高い押出比は押出中により多くの熱を発生し、動的再結晶をもたらす。この効果は、合金が10の押出比で押し出されるときの425℃とは対照的に、押出比30で実施される押出に使用される高い温度(450℃)が、粒子を再結晶しかつ成長させるように作用する一方、より高い変形が粒度を低減させるように働くという、矛盾する影響による可能性がある。全ての合金は、微細な等軸粒子と、元の溶体化処理された微細構造から維持された細長い粒子との組み合わせによる部分的な動的再結晶を受けるように思われた。
<実施例6>
[マグネシウム‐イットリウム‐カルシウム‐ジルコニウムの腐食挙動と機械的特性に対するイットリウムおよび亜鉛の添加と後処理の効果の特徴決定]
本研究のMg‐Y‐Ca‐Zr基合金を深く理解するために不可欠なことは、腐食挙動の機能特性および機械的特性による微細構造と組成との間の関係を引き出すことであった。整形外科用生体材料の場合、装置の有効性を決定する上で両方の特性が不可欠である。
生分解性骨接合反応を発現させる上で第一の主要な課題は、永久的金属インプラントの機械的特性とおそらく同程度の範囲の機械的特性を達成することであった。生分解性材料は、張力、圧縮、および流体剪断応力を含む様々な機械的荷重の組合せに耐えて、複雑なインビボ環境で安定性を維持しなければならない。分解性ポリマーは、知識および製造方法の進歩により1980年代から改善してきたが、それらの機械的特性は依然として永久金属の機械的特性に近づいていない。したがって、生分解性ポリマーから作られる装置は、より大きく、より分厚い設計の使用を通して、強度および合成の欠如を補うように設計される。当然のことながら、骨格損傷の場所はインプラントおよび材料の機械的要件をしばしば決定づける。材料が分解するにつれて、強度の低下が着実に進み、それは予測可能かつ繰返し可能であるべきであり、結果的に負荷は周囲および新たに形成される骨に徐々に移行し、骨の成長は増大する荷重によって促される。
整形外科用装置の埋込材料の分解性は、自然組織の成長のための余地を提供しながら、二番目の手術で装置を取り出す必要性が排除されるという点でも興味深い。インプラント残渣は残すべきではないが、分解生成物は、所与の用途のために負荷を維持するように適切な速度で人体によって代謝することができる。
前に述べた通り、合金元素は、機械的特性および耐食性の改善に寄与するように添加された。それらを組み込むことの一般的な効果は、固溶体の強化、析出強化、および粒界強化をもたらすことであった。二次相を拡散させるための熱処理の後処理技術は、アノードαMgマトリクスがどの二次相より低い腐食電位を有し、ガルバニック対として優先的に腐食する、マイクロガルバニック腐食の範囲を限定する。熱間押出を介して達成される粒子微細化もまた、粒界強化によって機械的強度を改善することが期待された。この目的は、高強度で耐腐食性の合金を達成するための最適な処理条件を決定するために、結果として得られるMg合金系の機械的特性および分解に対する、これらの合金添加の効果、すなわちYの含有量およびZnの取込みを徐々に増加する効果のみならず、熱処理および押出の効果をも評価しようとしたものであった。
[材料および方法]
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の腐食試験]
動電位分極技術を使用して、WX11およびWX41アズキャストおよびT4処理合金の腐食を試験した。サンプルは銀エポキシを用いて銅線に接続し、エポキシ樹脂内に包埋した。寸法が10mm×10mm×1mmのマウントしたサンプルを機械的に研磨し、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、空気乾燥した。動電位腐食調査は、電気化学ワークステーション(CH‐604A,CH Instruments,Inc.,Austin、TX)を用いて、1mV/秒の走査速度および開路電位より500mV上または下の電位窓で実施した。三電極セルを使用し、プラチナを対電極、Ag/AgClを基準電極、サンプルを作用電極とした。試験は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンが添加されたダルベッコ変法イーグル培地(4.5g/lグルコース、L‐グルタミン、およびピルビン酸ナトリウムを含むDMEM、Cellgro,Manassas,VA)中で、pH7.2±0.2で、37.4℃に維持された温度で実施された。各測定の前に、安定性をもたらすためにサンプルを腐食培地に浸漬した。生成されたターフェルプロットのカソードおよびアノード部分を線形的に当てはめて、腐食電位Ecorrおよび腐食電流密度icorrの算出を可能にした。
腐食液中の質量損失を使用してMg合金の腐食をも測定した。アズキャストおよびT4処理したWX11およびWX41の研磨されたサンプルを、37℃で10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM中に浸漬する一方、押し出されたKX11、WK11、WK41、およびWZ42合金は37℃のHBSSに浸漬した。浸漬の最長5週間後に取り出したサンプルは室温で乾燥し、それらの表面および表面断面をSEMおよびEDXを用いて分析し、表面層の組成および形態を分析した。200g/Lのクロム酸および10g/LのAgNOを含む溶液に1分間浸漬して、腐食生成物を除去した後、サンプルの質量を測定した。腐食速度は、ASTM G31‐72に従って、次の式を用いて算出した。
C=(K×W)/(A×T×D)
式中、Cは腐食速度(mm年−1、mmpy)であり、定数Kは8.76x10であり、Wは質量損失(g)であり、Aは溶液に曝露されたサンプル面積(cm)であり、Tは曝露時間(時間)であり、Dは材料の密度(g・cm−3)である。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の微小硬度試験]
微細構造のために研磨しエッチングしたサンプルに100gの荷重を10秒間加え、光学顕微鏡法を使用して、四角錐ダイヤモンド圧子により形成された圧痕を測定することによって、ビッカース微小硬度を測定した。ビッカースピラミッドナンバー(HV)をF/Aによって決定した。ここでFはダイヤモンド圧子に加えられる力(重量キログラム単位)であり、Aは結果的に生じた圧痕の表面積(平方ミリメートル単位)である。Aは次式によって決定された。
A=d/{2sin(136°/2)}
ここで、dは、圧子によって残された対角線の平均長さ(ミリメートル単位)である。そうするとHVナンバーは次式によって算出される。
HV=F/A={2sin(136°/2)F}/d
ここでFはkgf単位である。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の機械的検査]
機械的検査のために、サンプルは、引張試験のためのASTM‐E8‐04および圧縮試験のためのASTM‐E9‐09に準拠する寸法のMg合金インゴットおよび押出ロッドの長軸に沿って機械加工した。3×3mmのゲージ面積および12mmの長さを持つ引張棒サンプルを引張サンプル用に機械加工した。直径10mm×長さ20mmの圧縮筒状サンプルを機械加工した。アズキャストおよびT4溶体化処理合金WX11およびWX41の圧縮および引張試験は、OrthoKinetic Testing Technologies,LLC(Southport,NC)によって、室温で、レーザ伸縮計付きのMTS11−50kN電子機械荷重フレーム(MTS,Eden Prairie,MN)を使用して実施された。静的アキシャルクリップオン伸縮計付きInstron 5566機械的検査システム(Instron,Norwood,MA)を使用して、押出合金KX11、WK11、WK41、およびWZ42に対する引張試験が実施された。引張試験は室温で、1.3mm/分のクロスヘッド速度で行われたが、圧縮試験は2mm/分の速度で行われた。応力‐歪み曲線から工学的降伏強度、極限強度、ヤング率(E)、伸び率を得た。合金の極限強度は応力‐歪み曲線から最大引張応力として決定された。降伏強度は引張試験中の降伏点における応力として決定された。
[統計分析]
統計分析はSPSS Statistics 17.0(SPSS Inc.,Chicago,IL)を使用して行われた。群のサイズが均一であればTukeyのテスト、群のサイズが不均一であればガブリエルのペアワイズテストを用いて、post‐hocテストによる一元配置ANOVAを使用して、群間の差を分析した。P<0.05は平均間の統計的有意差として受け入れられたものであり、図に示されている。図内の誤差バーは標準偏差を表す。
[結果]
[YおよびZnを添加した結果としてのMg‐Y‐Ca‐Zr基合金の腐食挙動]
アズキャスト純MgおよびアズドローンAZ31と比較したアズキャストおよびT4Mg‐Y‐Ca‐Zr合金(WX11およびWX41)の腐食速度は、浸漬後の質量損失のみならず、動電位分極測定にも基づいて算出したものであり、腐食電位および浸漬溶液に放出されたMgイオンの濃度と共に図6.1に示されている。WX41合金の腐食電位(図6.1b)は、WX11合金ならびに対照材料の純MgおよびAZ31それぞれより高かった。アズキャストWX11およびWX41合金に対して525℃で行われたT4溶体化処理合金もまた、それらに対応するアズキャスト合金と比較して、より高い腐食電位および破壊電圧を示した。WX41合金の動電位腐食速度はWX11合金より低く、かつ市販のAZ31のそれと同様であった。溶体化処理はWX11合金の動電位腐食速度を増大させたが、WX41には影響しなかった。
図6.1aは、質量損失浸漬試験から算出した合金の腐食速度が2週間の浸漬後に安定化し始めたようであることを示す。2週間の浸漬後、WX41アズキャストの腐食速度はWX11合金のそれより著しく低かった。WX41合金の2週間の腐食速度も高純度Mgと有意な差はなかった。3週間の浸漬後、再びWX41アズキャスト合金は、WX11と比較して低い腐食速度を示し、高純度Mgとは同様であった。T4溶体化処理は浸漬腐食速度に大きい影響を持たないようであった。質量損失腐食実験に使用した腐食培地は、溶液中に放出されたMgの1週間後、2週間後、および3週間後の濃度を決定するために使用した(図6.1c)。WX41合金はここでも、アズキャスト純Mgおよび市販のAZ31と比較して、各時点でより低い濃度のMgを放出し、WX11と比較して高い耐食性を示した。熱処理は放出されるMgイオンに影響しないようであった。
図6.1は、10%FBSを含むDMEM中のMg‐Y‐Ca‐Zr合金、アズキャスト99.99%純Mg、およびAZ31の腐食特性を示す。a)1週間、2週間、および3週間の浸漬後の質量損失を使用して測定した腐食速度(n=3/群/時点)および動電位腐食(n=1/群)。*と**の間、†と‡の間、§間の有意差(p<0.05)。b)腐食電位および破壊電圧(n=1/群);c)1週間、2週間、および3週間の浸漬後に腐食培地に放出されたMgの濃度(n=3/群/時点)。*と**の間、†と‡の間の有意差(p<0.05)。
図6.2は、CrO/AgNO溶液で洗浄して腐食生成物を除去した状態の動電位分極試験後のMg‐Y‐Ca‐Zr合金のSEM顕微鏡写真を示す。全てのサンプルが、Y含有合金を含めてMg合金で一般的に現れる現象である局部孔食を示したが、アズキャスト合金(図6.2aおよびc)もまた、より高い二次相の局在化のため腐食し易い粒界領域(矢印)に発生する腐食を示す。
図6.2は、10%FBSを含む37℃のDMEMでの動電位分極およびCrO/AgNO溶液による洗浄後のa)WX11アズキャスト;b)WX11T4熱処理;c)WX41アズキャスト;d)WX41T4熱処理;e)純Mg;f)AZ31の表面形態を示すSEM画像を示す。矢印は粒界の腐食を表す。
3週間の浸漬後の乾燥サンプルの顕微鏡写真は、腐食をさらに評価するためにSEMを使用して取得した(図6.3)。局部腐食は、CおよびOを豊富に含む腐食生成物の堆積と共に腐食面上に観察された(EDXは図6.3aおよびbに示す)。これらの腐食堆積物を直接取り囲む領域は一般的にMgが豊富である(図6.3aおよびe)。最後に、サンプルの表面の大部分は、O、Ca、P、およびMgを豊富に含む層に被覆された。骨の不可欠な成分であるCaおよびPは、インビボで分解後に希土類含有合金上に一層の非晶質リン酸カルシウム層を形成すると報告されてきた。腐食生成物の除去後、図6.4に示したSEMは、3週間の浸漬腐食サンプルが全ての材料で連結腐食キャビティを示したことを明らかにした。
図6.3は、10%FBSを含む37℃のDMEMで3週間の静的浸漬後のa)WX11アズキャスト;b)WX11T4熱処理;c)WX41アズキャスト;d)WX41T4熱処理;e)純Mg;f)AZ31の表面形態を示したSEM画像を示す。EDXは、矢印で示すように様々なスポットで実施された。
図6.4は、10%FBSを含む37℃のDMEMで3週間の静的浸漬およびCrO/AgNO溶液による洗浄後のa)WX11アズキャスト;b)WX11T4熱処理;c)WX41アズキャスト;d)WX41T4熱処理;e)純Mg;f)AZ31の表面形態を示したSEM画像を示す。
押出合金もまた、37℃で1週間、3週間、および5週間溶液に浸漬した後、腐食試験を行い、平均値を図6.5に記載した。大部分の合金の腐食速度は1週間の分解後はAZ31と大きく異ならないにも拘わらず、市販の対照材料と比較して、合金は、純Mgより著しく低いが、AZ31より一般的に高く、内製したAZ31とは同等またはそれより低い腐食速度を示した。他の新規な合金(内製AZ31)と同じ条件を使用して生成され、また10の比で押し出されたAZ31合金は、Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金と同様またはそれより高い腐食速度で、市販のAZ31より急速に腐食した。最後に、30の押出比で押し出されたWZ42は、同じ組成の合金がより低い10の押出比で押し出された場合より、腐食速度が高くなり、この結果は、30の押出比に要求される25℃の追加温度により、金属間化合物がさらに析出されるため、潜在的に悪化した。一般的に、Yの含有量を増大することによって腐食速度が低減するという傾向が観察された。WK41とZn(WZ42)の合金化は腐食速度に大きい影響を及ぼさなかった。腐食速度と浸漬時間との間に明確な相関性は観察されなかった。
押出合金の浸漬腐食速度をアズキャストおよび溶体化処理された合金と比較すると(図6.1)、どちらの群の合金も、押し出された市販のAZ31と比較して、より速く分解した。さらに、アズキャスト/溶体化処理合金および押出合金の両方とも、Yの含有量の増加が腐食速度を低下させ、Yの量の導入および増加の重要な一面であった。
図6.5は、押し出されたMg‐Y‐Ca‐Zr基合金の平均腐食速度を、押し出された純MgおよびAZ31(市販品および内製品)と比較して示す。*のマークが付いた群はその時点で相互に有意な差(p<0.05)があり、†のマークが付いた群はその時点で他の全ての群と有意な差(p<0.05)があった。全ての群の全ての時点でn=3である。
質量損失を測定するために分解生成物を取り除いた後、1週間浸漬したサンプルは、それらの表面形態を調べるために撮像し(図6.6)、5週間の浸漬後にSEMを使用して断面を撮像した(図6.7)。全てのMg合金の表面はピットの存在を伴う糸状腐食を明らかにした。それでも、1週間後の表面は腐食をほとんど受けず、ほぼ均一のままであった。しかしながら、純Mgはより深刻な孔食を受け、図6.7aに示される不連続な表面にピットが生じていた。合金のかなり均一な表面の形成は5週間後の断面画像に見られ、WK11、純Mg、および内製AZ31では、ピットが散らばった平坦に見える領域が最も多かった。ER10によるWZ42における腐食の深さは、ER30の場合より大きいように見えたが、後者の形の合金の表面は表面層に目に見える亀裂があり、より不連続であるように見えた。市販のAZ31と比較して内製のAZ31のより急速な腐食は図6.7cに示される深いピットに見ることができた。
図6.6は、37℃のHBSSで1週間静的に浸漬し、CrO/AgNO溶液で洗浄した後の、押し出されたa)純Mg(pure Mg)、b)市販の(commercial)AZ31、10の押出比で押し出された内製の(in-house)合金、c)AZ31、d)KX11、e)WK11、f)WK41、およびg)WZ42の表面形態を示した、50倍および250倍のSEM画像を示す。
図6.7は、37℃のHBSSで5週間静的に浸漬し、CrO/AgNO溶液で洗浄した後の、押し出されたa)純Mg、b)市販のAZ31、c)内製のAZ31、d)KX11、e)WK11、f)WK41、およびg)押出比10で押し出されたWZ42合金、およびh)押出比30で押し出されたWZ42の断面形態を示した、100倍および250倍のSEM画像を示す。サンプル金属およびマウント用エポキシの位置は、a)に示される。
[YおよびZnを添加した結果としてのMg‐Y‐Ca‐Zr基合金の微小硬度]
図6.8に示す微小硬度結果は、合金元素の添加による純Mgを超える顕著な増加値を実証した。さらに、Y含有合金にZnを添加することにより、微小硬度の顕著な増加が観察された。30と比較して10の押出比で押し出されたWZ42合金の微小硬度には、変化が観察されなかった。
図6.8は押し出されたMg合金のビッカース微小硬度を示す。*のマークが付いた群は他の全ての群とは有意な差があり(p<0.05)、†のマークが付いた群は他の全ての群とは有意な差があった(p<0.05)が、相互同士に有意な差はなかった。ER=押出比である。全ての群の全ての時点でn=5である。
[YおよびZnの添加および押出の結果としてのMg−Y−Ca−Zr基合金の機械的特性]
アズキャストおよび熱処理合金の圧縮および引張機械特性を図6.9に示す。アズキャストWX11およびWX41合金の極限圧縮歪み(図6.9a)は、アズキャスト純MgおよびアズドローンAZ31のそれより著しく大きかった。アズキャスト実験合金の極限圧縮強度(図6.9a)もまたアズキャスト純Mgより大きかったが、引抜きプロセスによってもたらされる著しい加工硬化および粒子微細化のため、AZ31は試験した他の全ての材料より著しく大きい極限圧縮強度を示した。アズキャスト合金に525℃で加えられたT4溶体化処理は、圧縮強度および歪みの著しい低下をもたらしたが、Yの含有量の増加による圧縮降伏強度(図6.9b)の増加が観察された。アズキャストWX41は、アズキャストWX11よりかなり高い極限引張強度(図6.9c)を実証した。圧縮試験結果と同様に、525℃でアズキャストMg‐Y‐Ca‐Zr合金に加えられるT4溶体化の適用は、アズキャスト合金と比較して極限引張強度および引張降伏強度の低下をもたらしたが、熱処理後に引張応力に対する有意な効果は観察されなかった。AZ31は他の試験材料よりずっと高い引張強度および歪みを示した。Mg‐Y‐Ca‐Zr合金の引張特性は、大幅に改善されるか、あるいは純Mgのそれに匹敵するようになることが観察された。試験した合金のヤング率(図6.9d)の値は、AZ31(42GPa)の測定値と同様に、34〜60GPaの間で変化し、群内で高い分散が観察された。
図6.9は、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金、純Mg、およびAZ31の機械的特性、すなわちa)極限圧縮強度および極限圧縮歪み;*と他の全ての群つまり†、‡、およびその他の群との間の有意差(p<0.05);b)圧縮降伏強度;*と他の全ての群つまり†、‡、およびその他の群との間の有意差(p<0.05);c)極限引張強度および極限引張応力;*、§と他の全ての群つまり†、‡とその他の群との間の有意差(p<0.05);d)引張降伏強度およびヤング率;§と他の全ての群つまり†、‡とその他の群との間の有意差(p<0.05)を示す。全ての群の全ての時点でn≦3である。
押出合金の引張機械特性を図6.10および図6.11に報告する。本研究で作製された全ての押出Mg合金の極限引張強度(図6.10)は、市販の対照、すなわち押し出された純MgおよびAZ31よりかなり高かった。極限引張強度はKX11、WK11、およびWK41については同様のままであるが、WZ42の形で組成物にZnを添加すると、それは劇的に改善され、ER10対30で押し出された場合、その強度は著しく高くなった。測定された全ての押出材料の極限引張応力は、KX11の場合を除いて全て同様であり、KX11は、AZ31を除く他の全ての群よりかなり高い伸びを有した。
押出合金KX11、WK11、WK41、およびWZ42の降伏強度(図6.11)は、市販の純Mgおよび市販の押出AZ31より高く、WK41はそのシステムでこれらの合金の間で最も低い降伏強度を有したが、再びWZ42合金はかなり高い強度を有した。試験した全ての合金のヤング率には互いに有意な差が無く、40〜60GPaの範囲であった。
図6.10は押出Mg合金の平均極限引張強度および歪みを示す。*のマークが付いた極限引張応力の測定値は、互いに有意な差(p<0.05)があった。†のマークが付いた極限引張応力の測定値は、他の全ての群とは有意な差(p<0.05)があったが、互いの間ではそれが無かった。†のマークが付いた極限引張応力の測定値は、他の全ての群とは有意な差があった。ER=押出比である。全ての群の全ての時点でn=5である。
図6.11は、押出Mg合金の平均引張降伏強度およびヤング率を示す。*のマークが付いた降伏強度の測定値は、他の全ての群とは有意な差(p<0.05)があった。†および‡のマークが付いた群は、他の全ての群とは有意な差(p<0.05)があったが、互いの間ではそれが無かった。ER=押出比であり、全ての群の全ての時点でn=5である。
[考察]
この明確な目的において、三つの主要な変更、すなわち1)合金組成(Yの量およびZnの添加を増やす)、2)押出対非押出、および3)アズキャスト対T4溶体化処理について、腐食挙動および機械的特性に対するそれらの効果を調査した。
耐食性は、150mmol/Lを超える生理学的塩化物環境に曝露された場合だけでなく、低水素過電圧部位でも、深刻な孔食がMg合金に観察されるため、マグネシウム合金の研究における主要な関心事であった。微細構造および粒度は腐食の制御に重要な役割を果たし、粒度の増大は耐食性を変化させるという報告がある。押出合金(図6.5)の浸漬腐食速度をアズキャストおよび溶体化処理合金(図6.1a)と比較した場合、どちらの群の合金も、市販の押出AZ31と比べて、より速く分解した。押出合金の腐食速度は、ここで検討したアズキャストおよびT4処理合金より大幅には改善せず、複数の原因が考えられる。一方では、AZ31B‐H24を様々な温度で熱処理することにより粒度が増大すると、粒界が物理的腐食バリアとして作用することによって説明されるように、腐食速度が増大することが実証されている。Mg‐Y‐REの摩擦攪拌処理およびAZ31の等チャネル角プレス(ECAP)によって処理した微粒合金の微細構造はまた、微粒合金の結果としてより良好な腐食挙動をも示した。小さい粒度は、合金が生理学的培地に曝露されたときに、リン含有化合物および水酸化マグネシウムのより緻密な層の存在によって、より高い耐食性をもたらし、塩化物イオンの作用から保護するように働き、結果的に電荷移動抵抗が高くなると共に、微細な粒度のためピットが小さくなり腐食がより均一になることが示唆された。しかしながら、他方では、矛盾する研究は、粒子微細化剤の添加またはECAPにより、粒界で腐食が始まりかつ伝播し、粒界経路に従って腐食フィラメントが生じ、マイクロガルバニック腐食部位として作用する結果、粒度の低下が耐食性の低下をもたらすことを示してきた。粒度の変化による腐食の顕著な変化の欠如は、微細構造のばらつきによる腐食へのこのような矛盾する効果の組合せに起因していることが予想される。
腐食速度を制御する別の方法は、T4溶体化処理を適用することによって、αMgマトリクスへの拡散により二次相の体積分率を低減し、こうして、アノードαMgマトリクスの腐食電位が二次相より低くガルバニック対として優先的に腐食する、マイクロガルバニック腐食の程度を制限することであった。これは、図6.1でアズキャスト合金の腐食面を溶体化熱処理合金と比較する際に観察されたものであり、粒界の二次相濃度が高いアズキャスト合金ではこれらの粒界に目視可能な腐食が生じていたが、溶体化処理合金では見られなかった。
Mg合金のY含有量が変わると、Liuおよび同僚らによって報告されたように、腐食挙動に影響する可能性がある。Y含有量を増加することによって、Y含有金属間相の体積分率が増加し、それによりマイクロガルバニック腐食が増強される。他方、Liuらは、Yを3%超に増やすと、より保護的なYのパッシベーション層が形成され、かつカソード電流が低下する可能性があることを突き止め、それは理論的にも突き止められた。
Yの含有量が増大した合金の強化されたパッシベーションは、アズキャストおよびT4処理バージョンのWX11と比較して、アズキャストおよびT4処理WX41の高くなった腐食電位(図6.1b)に示された。T4溶体化処理はまた、粒界に沿った金属間化合物粒子の固溶体への還元のため、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金の腐食電位をより貴な電位にシフトすることも観察され、Mg‐Zn‐RE‐Zr合金の熱処理後に、おそらく保護酸化物層が合金表面のより大きい領域を被覆することが可能になった。溶体化処理後に、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金のより多くの正の破壊電圧も観察され、不動態被膜の破壊および孔食の開始に対する耐性が高いことが示された。動電位腐食速度(図6.1a)は、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金の腐食電流密度を用いて計算した通り、Y含有量の増加により低下し、それは腐食過程におけるカソード反応の抑制により発生する。浸漬腐食(図6.1a)およびMg濃度測定(図6.1c)は、WX11からWX41合金への腐食速度のこの低下を確認した。押出合金では、Y含有量の増加は同様に、図6.5の結果に示されるように、腐食速度の低下を招いた。より均一な表面(図6.6)を示したYを含む合金と比較して、Yを含まずに処理された合金、KX11は、最も高い腐食速度を示したが、表面が腐食によって最も大きく影響されることをも示した。Mg‐Y含有合金では、糸状腐食が観察された。それは、表面の不均一な水酸化物膜が活発な腐食の場所を維持させるため発生し、それは伝播することができる。この活発な腐食部位は高濃度の局所Mg2+を生成し、それは塩化物イオンを引き付けて、糸状腐食が無作為の方向に維持されることを可能にする。この腐食メカニズムは、図6.7d〜hの実験合金の断面画像に見られるように腐食がMgサンプルの内部に伝播することを防止する、Mg(OH)の形成、およびYなど他の不動態化生成物の形成のため、表面に限定された。
アズキャスト合金WX11およびWX41の溶体化処理は、WX11の動電位腐食速度を大幅に増大させたが、WX41では腐食速度のわずかな増大が観察されただけであった。しかし、これらの傾向は、浸漬腐食およびMg濃度の測定には反映されず、ここではT4処理は腐食速度に際立った変化または低下をもたらさなかった。これは、金属間相を溶解し、マイクロガルバニック腐食を低減させる一方、粒度の増大をも引き起こし、パッシベーション速度を遅らせる可能性のある、T4処理の組合せによるものであった。合金の表面に見られる連結腐食キャビティは一般的に、腐食したMg合金に観察される。
動電位分極曲線から算出した腐食速度は、浸漬中の質量損失から算出した腐食速度より低かったが、それはおそらく、Mgの腐食メカニズムが中間工程として反応するごく少量のユニポジティブMgイオンを含み、化学的に反応するだけでなく、部分的に電気化学的にも反応するため、重量損失法または水素発生法と比較して、電気化学的測定では腐食速度が過少評価されるためであった。10%FBSを含むDMEM中で3週間の浸漬期間にわたって形成された腐食生成物(図6.3)は、カルシウム含有腐食生成物の凝集の観察と一致する、沈殿物中の大量のCaおよびPを明らかにした(図6.3aおよびbのEDX)。CaおよびPを含有するカチオンの存在は、リン酸塩および炭酸塩の析出のため、(図6.2に示すように)パッシベーションおよびピット形成をもたらす可能性がある。
興味深いことに、市販のAZ31と、AZ31アズキャストを熱処理し、押出比10で押し出して内製したものとの間に、明らかなコントラストが観察された。同様に、生産プロセスにも相違があり、内製AZ31を作製するために使用された実験室規模の作業と比較して、より管理された環境で大量に生産する産業規模の方法では、不純物が少なくより均質なAZ31が得られる。これらの不純物、欠陥、および内包物は、我々のAZ31のより急速な腐食を招いたようであった。
群内における浸漬腐食速度のばらつきをもたらした実験誤差の伝播は、機械加工および研磨に起因するサンプルの均質性と表面仕上げとの間のばらつきに加えて、目盛に起因する重量測定のばらつき、機械加工誤差による表面積のばらつき、および浸漬時間のわずかな差のために生じた可能性がある。
Mg合金の機械的特性は、より微細な粒子が粒界強化をより高めるというホールぺッチの関係に従って、微細構造の変化に敏感であることが知られている。本研究では、アズキャスト合金に対しT4溶体化処理を実施した後、粒度は増大したが、熱間押出を実施した後、減少した。的確には、溶体化処理から生じた粒子の粗大化後の合金と比較して、アズキャストMg‐Y‐Ca‐Zr合金は、より高い圧縮および引張強度、ならびにより高い圧縮歪みを維持した。アズキャストMg‐Y‐Ca‐Zr合金における二次相の高い存在感は、塑性変形中の転位運動に対する障害として働くことによって析出強化に寄与したと思われる。この現象は固溶体強化と同様に、RE含有合金で利用されてきたものであり、Y含有量がより高いアズキャスト合金のわずかにより高い引張強度を説明するかもしれない。アズドローンAZ31は微細粒度で固化して産業用途向けの機械的特性要件を満たすが、アズキャスト高純度Mgは合金元素を含まず、比較的低い機械的特性を示し、固溶体強化または析出強化の欠如を免れない。押出純Mgもまた、試験した全ての合金と比較してかなり低い強度を示した。押出後、かなりの粒子微細化が発生し、強度にかなりの増加をもたらし、アズキャストおよびT4処理合金の極限引張強度は、押出前の175MPa以下から、熱間押出後の合金では286MPa超にまで増大した。WX11と対比してアズキャストWX41(図6.9)のYの含有量を増加した後に見られた強度の増加とは異なり、押出合金ではYを増加しても強度は増加しなかった。高い割合の合金元素および析出物であるにも拘わらず、4重量%のYを含む押出WK41は、それぞれ0重量%および1重量%を含むKX11およびWK11より高い強度を示さなかった。これは、WK41の場合、鋳型を通過できるようにインゴットを軟化させるために要求される、押出中に保持される合金スラグを予熱するためのより高い温度が原因である可能性が高く、それにより合金が動的再結晶化および結晶粒成長を受ける度合いが高まり、したがって強度が低下する。Znが導入され、それによりWZ42合金にLPSO相が導入されると、ホールペッチの関係、および複合材料のような短繊維強化メカニズムを介して硬化相として機能する押出方向に沿ったLPSO相の整列により、中程度の伸びを伴う高い微小硬度および強度が観察された。30の押出比で押し出されたWZ42は、熱間押出中のより高い変形および温度上昇のため、さらなる動的再結晶化が生じ、極限引張強度のわずかな低下が見られた。最後に、固溶体および析出物中のYの含有量が高いと合金の延性が低下するため、Yの高い含有量は延性の低下につながるが、Yを含まないKX11合金では、かなり高い伸びが実験的に確認された。
試験した合金のヤング率は全て、自然骨(6〜24GPa)のヤング率に近かったので、整形外科用途向けにステンレス鋼またはチタンより適した、同様の範囲内にあった。これは、従来使用されている永久金属と比較して、応力遮蔽のリスクを低減するであろう。
群内の機械的検査結果にばらつきをもたらす実験誤差は、サンプル間の均質性の差異に加えて、機械加工誤差に起因するサンプル寸法のわずかなばらつき、機械的検査装置によって測定された力および歪みのデータ収集のばらつき、ならびにサンプルを配置するときのサンプルの位置合わせのばらつきにより発生したものと考えられる。
文献で報告されている他の合金と比較しても、WZ42合金の高い強度は特に遜色がない。生分解性金属の包括的な記述において(図6.12)、WZ42は、これまでに報告された他のどのMg合金よりはるかに高く、鍛鉄のそれに近い降伏引張強度を示し、中程度の伸びは〜15%である。高い強度および適度な延性のため、この合金は、明確な目的4で詳述したインビボでのラット動物試験用の最適な候補として選択された。他の押出合金、KX11、WK11、WK41も、比較的高い強度と中程度の伸びを示した。アズキャストWX11およびWX41合金は図に含まれる他のキャストMg合金と同様の機械的特性を示した。
図6.12は、本明細書の合金、すなわちアズキャストの形態のWX11およびWX41、ならびに10の押出比で押し出されたKX11、WK11、WK41、およびWZ42を含めて、鋳鍛造Mg合金の降伏引張強度および伸びを示す。
<実施例7>
[前骨芽細胞およびヒト間葉系幹細胞の細胞生存率および増殖に対するイットリウムおよび亜鉛の添加、後処理、および合金元素塩の効果を評価し、さらに骨芽細胞分化マーカーの発現およびマウス皮下組織における生体適合性を評価する。]
[序論]
Mg合金の分解は金属カチオン、酸化物、水酸化物、リン酸塩、および炭酸塩を生じさせる一方、局所pHの変化および水素ガスの発生も引き起こし、動物に埋め込まれるとガスポケットの形成をまねく。閾値濃度未満では、これらの分解生成物は人体に許容可能とみなされ、患者の生命の損失につながる壊滅的な結果をもたらすことはない。局所細胞および組織に対する分解生成物の影響、およびそれらが身体により除去される能力は、水溶液中のそれらの固溶度に大きく依存する。Mg合金分解の最も一般的で、これまで最も安定な副産物は、8.9×10−12の適度な固溶度(Ksp)を有するMg(OH)であり、水酸化物が塩に変換することによって形成される次の生成物は、対照的に極めて高い水溶性のMgClである。Mg合金の潜在的毒性を完全に理解するために、他の合金元素およびそれらの塩の毒性についても考慮しなければならない。重要なことは、Mg合金の分解生成物の毒性およびそれに対する細胞反応を理解することだけでなく、インプラントの表面と局所細胞との間の直接的な相互作用を考慮し、細胞がMgインプラント表面に付着して増殖することを確実にすることも、極めて重要である。
骨に適用する場合、インプラント材料は周囲の骨組織の成長を可能にし、それによってインプラントの緩みの発生を減らさなければならない。この観点から、Mgは、Mgインプラントの周囲でそれと接触している骨の形成を刺激し、インプラントの安定性の向上、周囲の骨との一体化、および天然組織による生体材料の置換を可能にするという利点を示してきた。高価で時間のかかる動物実験を進める前に、様々な材料およびそれらの特徴を比較し、かつこれらの試験の倫理的負担を軽減するために、インビトロ試験を使用して、適切なインプラント材料候補を事前選択する。
合金自体の試験に加えて、細胞反応に対する影響への各合金元素の個々の寄与を評価することも求められた。表6.1は、本研究で使用したMgおよび合金元素に関する毒性および耐性情報を掲載する。この目的のために、合金元素塩のこれらの試験を進展させる一方で、合金抽出物をも前骨芽細胞およびヒト間葉系幹細胞に添加して、それらの生存率、増殖、および骨芽細胞系統への分化について評価することが決定された。加えて、予備的マウス皮下インプラントモデルを使用して、インビボ生体適合性パイロット研究として、WX11およびWX41アズキャストサンプルを局所毒性および腐食について比較した。
[材料および方法]
[細胞培養および維持]
MC3T3前骨芽細胞株およびヒト間葉系幹細胞(hMSC)を使用して、研究対象の合金の細胞適合性を試験した。これら二つの細胞株を使用して、骨芽細胞前駆細胞であるhMSC、およびさらに分化した間葉系細胞である前骨芽細胞の両方に対する合金の効果を、完全な骨芽細胞の成熟前に試験した。それらの培養条件を以下に記載する。
[マウス前骨芽細胞株(MC3T3‐E1)]
マウス前骨芽細胞株(MC3T3‐E1,American Type Culture Collection,Rockville,MD)は、変法イーグル培地アルファ(αMEM,Life Technologies,Carlsbad,CA)、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンから成る成長培地で37℃で、5%COを含む相対湿度95%の環境で培養した。全ての実験で四代継代後の細胞を50,000細胞・mL−1の播種密度で使用した。骨形成分化の研究では、100nMのデキサメタゾン、50μmのアスコルビン酸、および10mMのβ‐グリセロリン酸エステルを添加した、分化誘導培地としても知られるMC3T3‐E1成長培地を使用した。
[ヒト間葉系幹細胞(hMSC)]
正常なヒト骨髄(Lonza,Allendale,NJ)から得たhMSCは、20%FBS、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを加えたαMEMの成長培地で37℃で、5%のCOを含む相対湿度95%の環境で培養した。三代継代後の細胞を使用した。骨形成分化の研究では、成長培地には、分化誘導培地として100nMのデキサメタゾン、50μmのアスコルビン酸、および10mMのβ‐グリセロリン酸エステルを添加した。
[直接LIVE/DEAD生存率および付着性試験]
MC3T3‐E1細胞は直接、Mg合金上で、すなわちアズキャストおよび押出純マグネシウム、ならびに押出AZ31上で培養した。厚さ1mmのサンプルを1200グリットまで研磨し、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、空気乾燥し、1時間UV滅菌した。合金サンプルは細胞培養培地中で10分間インキュベートし、その後、細胞を4×10細胞/mLの密度でサンプル上に播種した。LIVE/DEAD生死判別/細胞毒性試験キット(Invitrogen Corporation,Karlsruhe,Germany)を使用し、製造者のプロトコルに従って、1日目および3日目の細胞生存率を評価した。このキットは、生細胞と死細胞を二つの異なる波長の蛍光顕微鏡で区別することによって、細胞生存率を決定する。簡単に述べると、MC3T3‐E1細胞を付着させたMg‐Y‐Ca‐ZrサンプルをPBSで洗浄し、PBS中に2μmol/Lのエチジウムホモダイマ−1および4μmol/LのカルセインAMにより室温で30分染色した。LIVE/DEAD溶液中で室温で30分間インキュベートした後、蛍光顕微鏡を使用して生細胞および死細胞の画像を取得した。
[固定細胞のFアクチンおよび核染色、SEM/EDX撮像]
合金上に播種し72時間培養したMC3T3細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.1%のTween20溶液で透過処理した。Fアクチン染色はテトラメチルローダミンイソチオシアネート結合ファロイジンを用いて実施し核染色はDAPIを用いて実施した。蛍光画像は蛍光顕微鏡で可視化した。蛍光撮像後に、サンプルは、勾配エタノール/PBS混合液(30%、50%、70%、90%、95%、100%)で各々約10分間脱水し、乾燥した。細胞を付着させたサンプル表面を次いでSEMにより観察し、EDXを使用して表面の元素組成を測定した。
[間接インビトロ試験の合金分解生成物の抽出物の回収]
Mg合金サンプル、すなわちアズキャストおよび押出純マグネシウム、ならびに押出AZ31は、1200グリットまで研磨し、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄し、空気乾燥し、紫外線放射により1時間滅菌した。試料は、MC3T3成長培地、hMSC成長培地または分化培地中で37℃で、5%のCOを含む加湿雰囲気で72時間インキュベートした。アズキャストおよびT4処理されたWX11およびWX41の場合、サンプル重量対抽出培地の比率は、EN ISO標準10933:12に従って0.2g/mLであったが、押出KX11、WK11、WK41、およびWZ42を含む研究の場合、使用した比率は、さらなる希釈をもたらすために、〜0.8cm/mlの培地とした。この開始抽出比は100%抽出物と指定され、より広範囲の濃度を調べるために、100%抽出物を50%、25%、および10%、または25%、10%、1%、および0.1%の濃度に希釈することによって、より低濃度の抽出物が調製された。抽出物は、以下のMTT、CyQUANT、アルカリホスファターゼアッセイで細胞に添加する前に、0.2μmシリンジフィルタを通して滅菌濾過した。
[MTT細胞毒性試験]
MC3T3細胞を、96ウェル細胞培養プレートの各ウェルの6×10細胞/200μlの培地に播種し、24時間インキュベートした。抽出物を含まない培養培地は陰性対照として働き、10%DMSO培養培地は陽性対照として働く。24時間のインキュベーション後に、培地を様々な濃度の200μlの抽出培地と交換し、1日および3日間インキュベートした。腐食抽出物の細胞毒性は、MTTアッセイを使用して試験した。培地および抽出物は、抽出物中のマグネシウムがテトラゾリウム塩と干渉するのを防止するために、新鮮な細胞培養培地と交換した。MTTアッセイは、VybrantMTT細胞増殖キット(Invitrogen Corp.)に従って、最初に、リン酸緩衝液(PBS)中に溶解した10μlの12mM3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐yl)‐2,5‐ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)を各ウェルに加えることによって実施した。サンプルをMTTにより4時間インキュベートし、その後、100μlのホルマザン可溶化SDS‐HCl溶液を各ウェルに加え、最長12時間インキュベートした。サンプルの吸光度を、Synergy2マルチモードマイクロプレートリーダー(BioTek Instruments,Winooski,VT)を使用して570nmの波長で測定した。平均陽性対照を減算したサンプルの吸光度を、平均陰性対照から減算した平均陽性対照の吸光度で割って、対照と比較した細胞のパーセント生存率を決定した。新鮮な培地で培養された細胞は100%細胞生存率を構成した。
[CyQUANT増殖試験]
MC3T3およびhMSC細胞を、96ウェル細胞培養プレートで各ウェルにて6×10細胞/200μl培地に播種し、24時間インキュベートした。抽出物を含まない培養培地は陰性対照として働き、10%DMSO培養培地は陽性対照として働いた。24時間のインキュベーション後に、培地を様々な濃度の200μlの抽出培地に交換し、1日、3日および5日間インキュベートした。腐食抽出物からの細胞増殖に対する影響をCyQUANTアッセイを用いて試験した。CyQUANT色素結合溶液は、高度に規制されかつ細胞数に密接に比例する細胞DNAに結合する。培地を除去し、細胞をダルベッコリン酸緩衝整理食塩水(DPBS)ですすいだ。DPBSを除去した後、50μLのCyQUANT染料結合溶液を各ウェルに加え、次いでカバーをかけ、37℃で30分間インキュベートし、485nmで励起し、530nmで発光検出するマイクロプレートリーダーを使用して、各サンプルウェルの蛍光強度を測定した。サンプルの蛍光強度を平均陰性対照(新鮮な培地で培養した細胞)の強度で割って、対照と比較した細胞のパーセント生存率を決定した。新鮮な培地で培養された細胞は、100%正常な増殖を構成する。測定後に、〜494nmの励起波長を持ち〜517nmで発光する蛍光顕微鏡を使用して、細胞の撮像も行った。
[アルカリホスファターゼ活性]
アルカリホスファターゼは、有機リン酸塩基質を加水分解して石灰化促進剤である遊離無機リン酸塩を放出し、鉱物形成の阻害剤である細胞外ピロリン酸の濃度を低減することによって、石灰化プロセスに重要な役割を果たす。ALP活性を、リン酸pニトロフェノール(pNPP)技術を使用して定量化した。成長培地で収集した異なる抽出物培地でhMSCを3日間、7日間、および14日間培養した後、細胞をDPBSですすぎ、細胞溶解物を使用して20分間溶解させた(Sigma―Aldrich)。ALP活性は、製造者のプロトコルに従ってpNppを基質として使用して測定した。基質溶液を細胞溶解上澄みと共に37℃で1時間、光に曝さずにインキュベートし、その後、0.5MのNaOHを加えることによって反応を停止させた。生成されたpNppをマイクロプレートリーダーを使用して410nmで測定し、Quant‐iT DNAアッセイ(Thermo Fisher)を使用して測定された総DNA含有量に対して正規化した。ALP活性を成長培地および分化培地で培養したhMSCと比較した。
[定量的実時間ポリメラーゼ連鎖反応(qRT‐PCR)]
骨形成培地での培養後、NucleoSpin RNA IIキット(Macherey Nagel,Bethlehem,Pa)を使用して、製造者のプロトコルに従って、RNA抽出を実施した。マイクロプレートリーダーを使用して260nmおよび280nmで吸光度を測定することによって、RNAの濃度および純度を決定した。次いで、ImProm II Promega逆転写キット(Promega,Madison,WI)を使用して、製造者のプロトコルに従って逆転写を実行した。qRT−PCR実験(表6.2)では、ヒトグリセルアルデヒド3‐リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ラント関連転写因子2(RUNX2)、アルカリホスファターゼ(ALP)、およびオステオカルシン(OCN)のプライマーを使用した。RUNX2は、間葉系細胞を未成熟骨芽細胞に誘導するために必要な最初の転写因子であり、そこでその発現は増加する。ALPは、骨芽細胞分化のマトリクス成熟段階で最大限に発現する重要な酵素であり、鉱物沈着部位に高濃度のリン酸塩を提供する。OCNは、骨芽細胞によって合成される骨特異的タンパク質であり、骨形成の成熟を示し、骨の石灰化およびカルシウムイオンの恒常性を暗示する。
[インビボマウス皮下試験]
マウス皮下試験のための全ての実験手順は、シンシナティ大学の動物実験委員会(IACUC)によって承認された。健康なヌードマウスを管理された条件下で飼育し、標準的なペレット飼料および水で維持した。イソフルランを使用し、ノーズコーンを通してマウスに麻酔をかけた。皮膚切開を行って、マウスの背中に皮下ポケットを形成した。寸法が直径5mm×厚さ1.4mmの純Mg、AZ31、ならびにWX11およびWX41アズキャスト合金をポケット内に挿入し、外科用ステープルによって切開を閉じた。7日、40日、および70日後に、マウスをCOチャンバで屠殺し、続いて頸椎脱臼を行った。Mg/Mg合金インプラントを周囲の組織と共に回収し、組織から慎重に分離し、洗浄し、空気乾燥し、最終質量を測定して、腐食による質量の変化を決定し、0章に示した質量損失方程式に従って腐食速度を算出した。インプラントの周囲の組織はPBS中10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋し、ヘマトキシリン‐エオシン(H&E)染色のために切片化した(4μm/切片)。70日間の外植サンプルも、腐食生成物を除去する前後にSEMを使用して撮像し、EDXを使用して分析した。
[結果]
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の表面の細胞生存率および付着性]
図7.1は、直接WX11およびWX41合金上で1日および3日間培養し、次いでカルセインAM(生細胞で緑色の蛍光)およびエチジウムホモダイマ‐1(死細胞で赤色蛍光)で染色した前骨芽細胞のMC3T3‐E1細胞を示す。1日および3日間の培養後、WX11およびWX41のアズキャストおよびT4熱処理合金(図7.1a〜d、h〜k)は両方とも、純Mg(図7.1eおよびl)およびAZ31(図7.1fおよびm)と比較して、同等の生細胞密度を示した。生細胞に比べて比較的少数のアポトーシス細胞が各材料で観察され、一般的に良好な細胞生存率を示した。組織培養プラスチックは、Mg系材料と比較してより高い細胞生存率を示した。異なる群の間で細胞形態に有意な差は観察されなかった。1日の場合と比較して、3日間の培養後も、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金の間の細胞密度は依然として高く、細胞が腐食環境に長時間直接曝露されることによって大きく影響されないことを示した。
図7.1は、1日および3日間の培養後に以下のサンプルに付着しているMC3T3‐E1細胞の生細胞(緑色)および死細胞(赤色)の蛍光画像を示す。aおよびh)WX11アズキャスト;bおよびi)T4熱処理したWX11;cおよびj)WX41アズキャスト;dおよびk)T4熱処理したWX41;eおよびl)純Mg;fおよびm)AZ31アズドローン;gおよびn)組織培養プラスチック。
押出合金の直接生死判別アッセイ(図7.2)は、1日および3日間の培養後に押出合金上に付着している生きたMC3T3細胞の高い細胞密度を示した。生細胞および正常な細胞形態と比べて、比較的少ないアポトーシス細胞が各合金で観察され、高い細胞生存率を示した。1日後のWZ42合金上の細胞密度は、組織培養プラスチック(tissue culture plastic)のそれと同様であるように見え、かつ他の合金より高いように見えた。3日間の培養後に、WK41およびWZ42合金上の生細胞の付着性は非常に高く、組織培養プラスチック上のそれと同様であった。1日から3日間の合金上の細胞密度を比較すると、増大する数字は健康な細胞増殖を示していた。図7.3のFアクチンおよび核染色に示された細胞形態は、フィラメントが明瞭に観察される、健康な、伸展した細胞形態を示し、良好な細胞付着性を実証している。
図7.2は、1日(上)および3日間(下)の培養後の研磨された押出Mg合金の表面上MC3T3細胞の生細胞(緑色)および死細胞(赤色)を示す。スケールバー=200μm。
図7.3は、3日間の培養後の研磨した押出Mg合金表面のMC3T3細胞のFアクチン(赤色)のファロイジン染色および細胞核(青色)のDAPI染色を示す。スケールバー=20μm。
MC3T3細胞が表面に付着した合金サンプルは次に、SEMを使用して撮像した(図7.4)。特にWK41およびWZ42合金のサンプルに見られた高い細胞付着性が、KX11合金に付着した比較的低い細胞数と共に確認された。腐食生成物の沈着は、SEM画像のより明るい領域に示されるように、腐食したMg合金の表面でも観察された。
図7.4は、押し出されたa)市販のAZ31、b)純Mg、c)KX11、d)WK11、e)WK41、およびf)3日間の培養後のWZ42の表面に付着したMC3T3細胞のSEM画像を示す。
SEMでの撮像中にサンプル全体の様々な領域で、フルフレームEDX分析も実施した。カルシウムおよびリンの重量パーセントは図7.5にグラフで示され、これは、WZ42合金中に存在する最大限のCaおよびPの含有量を示すが、KX11合金の表面の濃度は最小限である。基質表面に存在するパーセンテージPは、合金にYを添加することにより上昇した。
図7.5は、EDXで決定された、MC3T3細胞を3日間培養した後の押出Mg合金サンプルの表面上のCaおよびPの平均重量%を示す。*のマークが付いた群は互いに有意差があった。各群でn=4である。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の分解生成物に間接的に曝露された細胞の生存率および増殖]
図7は、MC3T3‐E1細胞およびMTTアッセイを使用して実施したWX11サンプルの間接細胞毒性結果を示す。両方の培養期間で、細胞生存率は予想通り100%の抽出物濃度で最も大きく低下し、抽出物の割合が減少するにつれて上昇した。抽出物による1日の培養後(図7.a)、細胞生存率の低下は観察されず、25%および10%の抽出物濃度では細胞毒性は観察されなかった。3日間の培養後(図7.b)、25%および10%の抽出物濃度で、細胞生存率は70%超まで低下した。これは、高濃度の抽出物が細胞毒性であり、浸透圧衝撃を引き起こすことを示す知見と一致しており、10倍の抽出物希釈がアズキャストマグネシウム材料の許容可能な細胞適合性応答のための指標として使用されることを示唆している。WX11アズキャストもまた、抽出物培地で1日および3日後にWX11T4、WX41アズキャスト、WX41T4、および純Mgと比較して、50%の抽出物濃度でかなり高い細胞生存率を示した。しかし、抽出物で1日培養した後、WX11およびWX41のアズキャストおよびT4処理合金は、25%の抽出物濃度で純Mgと比較して、かなり高い細胞生存率を示したが、それらの間の違いは3日間の培養後には観察することができなかった。
図7.6は、アズキャストおよびT4熱処理WX11およびWX41合金ならびにアズキャスト純Mgからの抽出物培地で、a)1日、およびb)3日間培養したMC3T3細胞の生存率を示す。*と他の群または接続されたままとの間の有意差(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=5。
MC3T3細胞と押出合金からの抽出物により行われたMTTアッセイ(図7.6)は、合金抽出物の低毒性を示し、全ての抽出物希釈液で少なくとも70%の細胞生存率が観察された。細胞生存率の30%を超える低下は、EN ISO 10993:5によれば細胞毒性効果と考えられ、したがって合金は非細胞毒性であるとみなされる可能性がある。合金を比較すると、WK11およびWK41は、100%の抽出物濃度で3日間の培養後に生存率がわずかに低下することが観察されたが、生存率は3日間の培養後に回復した。
図7.6は、押出合金ならびに市販のAZ31および純Mgからの分解生成物を含む抽出物培地で、a)1日、およびb)3日間培養したMC3T3細胞の生存率を示す。*のマークが付いた群は相互に有意差がある(p<0.05)。†のマークが付いた群は‡のマークが付いた群とは有意差がある(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=4。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の分解生成物に間接的に曝される前骨芽細胞およびヒト間葉系幹細胞の増殖]
MC3T3細胞の増殖はCyQUANTアッセイを用いて評価された。それはピコグリーン蛍光色素を利用してdsDNAに結合し、増殖の相対的なレベルを示す。押出合金抽出物によりMC3T3細胞を3日間培養した後(図7.7)、増殖は再び100%の抽出物濃度で最も大きく減少し、抽出物の割合が低下するにつれて増加した。100%の抽出物濃度では、WZ42は他の群と比較してかなり高い増殖をもたらした。全ての合金が他の全ての濃度で同様の増殖を示した。しかし、市販の押出AZ31から収集した抽出物は、1%および0.1%に希釈された場合、他の群と比較して低い増殖をもたらした。一方、10:1の比率で押し出された内製のAZ31は、市販のAZ31よりはるかに高い増殖を示し、他のMg合金とは同様の増殖であった。DNA結合染料を組み込んだ細胞を示す蛍光画像は図7.8に示されており、合金抽出物に曝露された細胞の安定した増殖を確認し、抽出物濃度が低下するにつれて、細胞密度は一般的に高くなる。
図7.7は、AZ31、KX11、WK11、WK41、およびWZ42の25%、10%、1%、および0.1%に希釈された押出合金抽出物で3日間培養したMC3T3細胞の増殖を、市販の純MgおよびAZ31と比較して、通常の抽出物培地で培養した対照細胞の百分率として示す。*のマークが付いた群は、同一抽出物濃度でも、他の群とは有意差がある(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎に、n=4。
図7.8は、DNAに結合するCyQUANT染料を用いて、3日間の培養後に25%、10%、1%、および0.1%に希釈した押出合金抽出物に曝露したMC3T3細胞の蛍光画像を示す。スケールバー(右下部、全ての画像で同じ)=200μm。
細胞増殖についても、hMSCを使用して1日、3日、および5日間培養して試験した(図7.9)。試験した合金の場合、抽出物を含まない成長培地対照と比較して、100%近くまたはそれを超える増殖が三つの全ての時点で観察された。細胞数も、1日の培養後にAZ31と比較して、かつ100%の抽出物濃度時に3日間および5日間の培養後に、著しく高かった。5日間の培養後にDNA結合染料を取り込んだ細胞を示す蛍光画像。合金抽出物に曝された細胞の増殖の付着を確認する。
図7.9は、市販の純MgおよびAZ31と比較して、AZ31、KX11、WK11、WK41、およびWZ42の押出合金抽出物を50%、25%、および10%に希釈して、a)1日、b)3日、およびc)5日間培養したhMSCの増殖を通常の抽出物培地で培養した対照細胞の百分率として示す。*のマークが付いた群は、互いに有意差がある(p<0.05)。†のマークが付いた群は、その時点において他の群とは有意差がある(p<0.05)。‡のマークが付いた群は、その時点において、WK41を除き、他の全ての群と有意差がある。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=4。
図7.10は、DNAに結合するCyQUANT染料を用いて、5日間の培養後に、50%、25%、および10%に希釈した押出合金抽出物に曝露したhMSCの蛍光画像を示す。スケールバー(右下、全ての画像で同じ)=200μm。
[Mg‐Y‐Ca‐Zr基合金の分解生成物に間接的に曝露したヒト間葉系幹細胞の分化]
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は、成長培地で収集されたMg合金の分解生成物に曝され、それらのALP活性は、抽出物での3日、7日、および14日間の培養後に、新鮮な成長培地および分化培地で培養した細胞と適切に比較された(図7.11)。全体的に、抽出物の濃度が低ければ、ALP活性が高くなることが観察され、hMSCの最も高いALP活性は、10%の抽出物培地に曝されたときに発生した。10%および25%などの低い濃度のMg合金抽出物に曝された細胞のALP活性は、3日後に通常の成長培地で培養された細胞のそれと同様であったが、全ての群は予想通り、分化培地で培養された細胞より低いALP活性を示した。3日後に、合金抽出物間でALP活性の差は観察されなかった。Mg合金WZ42では、7日目に市販のAZ31および純Mgと比較して、50%、25%、および10%の抽出物濃度でより高いALP活性が観察された。14日間の培養後に、合金抽出物群と成長培地対照との間にALP活性の有意差は観察されなかった。
図7.11は、50%、25%、および10%に希釈した抽出物で、a)3日、b)7日、およびc)14日間の培養後に、押し出されたMg合金に対し、間接法でhMSCを用いて行うALPの定量化(DNAで正規化)を示す。GM=成長培地対照;DM=分化培地対照。*のマークが付いた群は互いに有意差がある(p<0.05)。†のマークが付いた群はその時点で他の全ての群と有意差がある(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=4。
hMSC分化培地で収集された10%希釈抽出物に7日、14日、および21日間曝露した後、間葉系幹細胞の分化におけるアップレギュレーションの段階にほぼ基づく骨形成分化マーカー、すなわち初期(RUNX2)、中期(ALP)、および後期(OCN)を測定して、hMSCの分化に対するMg合金の分解生成物の影響を決定した(図7.12)。WZ42は、骨形成マーカーのアップレギュレーションをもたらすようであることが観察された唯一の合金であった。ALPの抽出物を含まない分化培地で培養した細胞と比較して、培養7日後および21日後にはより高い倍数の増加があり、14日後にはより高いオステオカルシンの発現が観察された。14日目および21日目の後期骨形成分化マーカーであるオステオカルシンの厳しいダウンレギュレーションは、AZ31および純Mgの抽出生成物に曝された細胞に観察された。これらの対照材料、すなわちAZ31および純Mgと比較して、試験した新規な合金は、7日後にRUNX2の、14日後にALP(WK11を除く)の、そして21日後にOCNのアップレギュレーションを示した。しかしながら、本研究はn=1について完了しただけであり、大きいサンプルサイズの追加的実験が必要である。
図7.12は、成長培地(growth media)で培養した細胞に対して正規化された分化培地(differentiation media)で希釈された10%抽出物により、a)7日間、b)14日間、およびc)21日間培養したhMSCでRUNX2、ALP、およびOCNの発現を示したqRT−PCR遺伝子発現データを、培地が抽出物を含まない分化培地群と比較して示す。全ての群に対して、n=1。
[Mg、Y、Ca、Zr、Zn、およびAlの塩に曝されるヒト間葉系幹細胞の増殖]
Mg(50mM、20mM、10mM、および1mMの濃度)ならびにY、Ca、Zr、Zn、およびAl(1mM、0.1mM、0.01mM、および0.001mMの濃度)の成長培地中で塩化物塩と共に培養されたhMSCは、1日、3日、および5日間の培養後にCyQUANTアッセイを用いて増殖について評価され、通常の成長培地に対して正規化された。1日の培養後(図7.13a)、Ca、Y、Zr、およびAlの存在下での増殖は一般的に、全ての濃度で金属塩の存在によって影響されなかった。MgおよびZnの場合、試験した高い濃度では(Mgは50mM、Znは1mM)どちらも、hMSCの増殖の低下を示したが、これはさらに希釈することで回復した。培養の3日目に(図7.13b)、再び高濃度のMgおよびZnは細胞数を減らしたが、高い濃度のY、Zr、およびAlでは細胞数の増加が観察された。これらの傾向は5日間の培養後も維持された。染色した細胞は撮像され、図7.14に示されており、定量化された細胞数の変化が図7.13で確認される。
図7.13は、成長培地に溶解したMg(50mM、20mM、10mM、および1mMの濃度)ならびにY、Ca、Zr、Zn、およびAl(1mM、0.1mM、0.01mM、および0.001mMの濃度)の塩化物塩と共に、a)1日、b)3日、およびc)5日間培養したhMSCの増殖を、成長培地および分化培地で培養された対照細胞の百分率として示す。*のマークが付いた群は、新鮮な成長培地で培養された対照細胞とは有意差がある(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=3。
図7.14は、成長培地に溶解したMg(50mM、20mM、10mM、および1mMの濃度)ならびにY、Ca、Zr、Zn、およびAl(1mM、0.1mM、0.01mM、および0.001mMの濃度)の合金元素塩化物塩に曝されたhMSCの5日間の培養後の蛍光画像を、DNAに結合するCyQUANT染料を使用して示す。スケールバー(右下、全ての画像で同じ)=200μm。
[Mg、Y、Ca、Zr、Zn、およびAlの塩に曝されたヒト間葉系幹細胞の分化]
Mg合金に存在する元素の金属塩に曝されたhMSCのALP活性は、14日間の培養後に、新鮮な成長培地および分化培地で培養された細胞に匹敵した(図7.15)。成長培地と比較して、塩すなわち20mMおよび10mMのMg、0.01mMのCa、および1mMのZnが溶解している希釈液では、細胞のALP活性は成長培地より高く、分化培地で培養されたhMSCの場合と同程度となった。高濃度のAl(1mMおよび0.1mM)はALPの細胞発現を低減した。
図7.15は、成長培地に14日間溶解しているMg(50mM、20mM、10mM、および1mMの濃度)ならびにY、Ca、Zr、Zn、およびAl(1mM、0.1mM、0.01mM、および0.001mMの濃度)の塩化物塩で培養中のhMSCを使用して行うALPの定量化(DNAで正規化)を示す。*のマークが付いた群と成長培地対照との間のALP活性に有意差がある。GM=成長培地対照;DM=分化培地対照。抽出物濃度毎、群毎、時点毎にn=3。
[インビボマウス皮下試験]
ヌードマウスの皮下組織におけるMg‐Y‐Ca‐Zrアズキャスト合金、純Mg、およびAZ31の埋込の局所部位のH&E染色を図7.16a〜lに示す。周囲組織に対する埋め込まれた合金の最小限の毒性が観察されたが、インプラントの周囲の領域は、正常な組織修復を受けているように見えた。炎症細胞の有意な蓄積は観察されなかったが、ピンク色に染色されたコラーゲン線維および反応性線維芽細胞から構成される一層の組織が7日後に見られた。この時点で、アズキャストWX11およびWX41合金ペレットに隣接する組織における比較的高密度の線維芽細胞は、それらの存在が埋込部位の正常な治癒反応を阻害しなかったことを示唆している。埋込の40日後および70日後に、高密度の慢性炎症細胞が存在することなく、密なコラーゲン性結合組織がMgインプラントの位置の周囲に見られた。正常な脂肪細胞が真皮を過ぎてかすかに認められた。
図7.16は、ヌードマウスの皮下組織におけるa、e、i)WX11、およびb、f、j)WX41アズキャスト合金、c、g、k)純Mg、およびd、h、l)AZ31のインプラントの上の皮膚の7日後(a〜d)、40日後(e〜h)、および70日後(i〜l)のa〜l)組織画像(H&E染色)を示す。
アズキャストWX41の質量損失(図7.17)を通して決定されたインビボ腐食は、70日後に、アズキャストWX11よりはるかに低く、純Mgと同程度であり、AZ31と比較してわずかに高かった。この結果は、Yの含有量が高いY含有合金つまりWX41がWX11より遅く腐食したMg‐Y‐Ca‐Zr合金のインビトロ腐食挙動と合致している。
図7.17は、マウス皮下埋込の前後の、40日目および70日目におけるペレットサンプルの質量損失によって算出した腐食速度を示す。各群に対してn=1。
埋込の70日後に取り出されたサンプルを、乾燥させ、SEMを用いて撮像し、形成された腐食生成物(図7.18)を静的浸漬後に形成されたもの(図6.3)と比較して評価した。インビボ腐食後に、腐食生成物の元素マップから見ることができることは、浸漬の研究からの結果と同様に、CおよびOが豊富な層が合金の表面上に形成されていることが観察されたことである。亀裂のある腐食層は、腐食堆積物の凝集体と比較して、より高いCaおよびPの含有量を含むことが分かった。腐食生成物を取り除くと、腐食の広がりが明らかになり、図7.19に示すように、取り出した合金材料の全てに凸凹した表面トポグラフィーが生じていた。
図7.18は、マウス皮下組織への埋込から70日後のa)WX11アズキャスト;b)WX41アズキャスト;c)純Mg;d)AZ31の表面形態を示したSEM画像を示す。矢印によって示すように様々なスポットでEDXを実施した。
図7.19は、マウス皮組織への埋込から70日後、CrO/AgNO溶液で洗浄した、a)WX11アズキャスト;b)WX41アズキャスト;c)純Mg;d)AZ31の表面形態を示したSEM画像を示す。
[考察]
本研究で使用した合金元素は全て、文献に基づいて、かつ毎日の許容量および毒性を示した表6.1にも示されるように、生体適合性があることが示された。Yは長寿研究で非毒性であり、非肝毒性であることが示されており、吸収性金属ステントおよび外反母趾手術におけるシェブロン骨切り術用の固定ネジとして臨床的に充分耐えられる合金に組み込まれてきた。Yはまた、有機マトリクス形成につながるイベントを介して、骨の骨芽細胞活性領域に対する高い親和性をも有し、それぞれ1×10−9〜1×10−4Mおよび1×10−7Mの濃度で骨芽細胞の増殖および分化を促進する可能性があり、それは変性ビトロネクチンおよびコラーゲンの立体構造および生物活性に関係がある可能性がある。Caはよく知られており、骨の不可欠な成分であるが、骨に取り込むためにはMgが必要である。Zrイオンは細胞毒性が低く、ジルコニウムコーティングはインビボで金属インプラントの骨結合を改善することを実証してきた。上述したMg‐Y‐Ca‐Zr合金によるインビトロ細胞適合性、増殖、および分化に対する影響は、1)マウス前骨芽細胞およびヒト間葉系幹細胞を材料の分解生成物を含む培地に曝し、2)細胞を合金に直接播種し、かつ生死判別アッセイを介して生死細胞密度を観察し、3)様々な濃度の合金元素塩を含む培地を細胞に加えることによって決定された。
図7および図7.6は、MTTアッセイからの結果を提示しており、高い抽出物濃度では(100%および50%)、図7のアズキャストおよびT4処理合金だけでなく、押出WK11合金でも1日目に、細胞生存率は低下し、WK11およびWK41合金でも100%の抽出物濃度で3日目に低下した。これは、おそらく、高い抽出物濃度が細胞の浸透圧衝撃を引き起こすという報告のためであり、アズキャストマグネシウム材料に受け入れられる希釈液として、10倍の抽出物希釈が示唆される。実際、抽出物の濃度が低ければ(アズキャストおよびT4処理WX11およびWX41合金では25%および10%、全ての押出合金では50%、25%、および10%)、合金に高い細胞生存率が観察され、高い合金の分解生成物が低い細胞毒性をもたらすことが示唆された。1日の培養後にWX11およびWX41アズキャストおよびT4処理合金の25%および10%抽出物から、100%より高い細胞生存率が観察され、それは腐食生成物の水酸化マグネシウムの存在下で、高まる骨芽細胞活性によって促進される可能性がある。同様に、細胞をMg合金基質上で直接培養することによって、図7.1および図7.2で、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金の表面に付着した高密度の生細胞が観察され、アッセイは、細胞付着性および細胞生存率に対する水素ガスの発生、pHレベルの上昇、および腐食生成物の局所濃度の影響を定性的に示す。しかしながら、腐食速度に見られた差異は、インビトロ細胞適合性結果に影響を与えないようであり、全てのアズキャストおよびT4処理したMg合金には同様の数の活性細胞が付着したようであるが、組織培養プラスチックと比較すると細胞密度は低くなるようであった。これは、100%および50%の抽出物濃度で細胞生存率が対照より低くなる、これらの合金の3日間のMTT結果と一致する。1日および3日間両方の培養後のMg‐Y‐Ca‐Zr合金上の接着細胞の細長く広がった形態は、細胞付着性を阻害するほど腐食速度が速くない合金の細胞適合性を確認した。高い密度は腐食速度が比較的遅い合金(KX11と比較してWK41およびWZ42)に存在するようであり、細胞が付着しているそれらの表面に堆積するCaおよびPの百分率が高くなることも明らかになった(図7.5)。これは、腐食安定性とMg合金の表面に形成される多量のCaP堆積物との相関性を示している可能性があり、チタンの表面のCaPコーティングで観察されてきたように、骨芽細胞の接着および増殖を改善させるかもしれない。
本研究では、細胞適合性は、サンプルをαMEM+10%FBSに浸漬し、MC3T3‐E1細胞を用いて実施し、提示される結果は異なる細胞株の使用およびそれぞれの細胞培養培地により変化する可能性がある。DMEMなど他の培地で培養された細胞は、マグネシウムイオンのキレート剤として機能するDMEM中のLグルタミン含有量が高い場合、DMEMに浸漬された合金からのMgイオンの放出が潜在的に増加し、αMEMと比較して異なる細胞適合性結果を示すことがあり得る。したがって、ここに提示する得られた細胞適合性結果は、αMEMを使用する細胞培養条件下でのみ考慮すべきであり、DMEMまたはHBSSなど他の培地の場合、培養細胞に異なる局所環境を与え、試験対象合金の腐食速度はもっと高くなる可能性が高いであろう。
押出合金の増殖もまた、DNA定量化のCyQUANTアッセイを使用して測定した。MTTアッセイで見られた生存率の低下と同様に、増殖は、図7.7でMg合金抽出物の濃度が高くなるにつれて低減した。他方、hMSCの増殖は、抽出物培地の存在下でMC3T3細胞より高かった。これはhMSCの耐性がMC3T3細胞と比較して高いことを示唆している。培養5日後のhMSCでは、増殖は通常の成長培地で培養した細胞より高かった。Mg−2Ca合金と比較して増殖に対する優れた効果を有するMg‐1Y(重量%)合金では、hMSCの増殖の増加が観察された。増殖の増加はSMAD依存性シグナル伝達経路を介して影響され、SMAD4の最大の増加はY含有合金で観察された。Y3+イオンはマウス骨芽細胞の増殖をも促進した。しかし、AZ31はMC3T3細胞およびhMSC両方の増殖を低減し、細胞生存率に対するこの負の効果はAZ31およびAZ91を調べる他の群でも観察されている。Mg合金抽出物培地の存在による分化の誘発は、ALP活性(図7.11)ならびにRUNX2、ALP、およびOCNの発現(図7.12)によって測定したが、ほとんど観察されず、WZ42合金は、骨形成分化を促進するために調査している他のMg合金および純Mg群と比較して、高い傾向を示した。これは、この合金が、低濃度で骨芽細胞への分化を促進するYを含有する一方、1〜25μMの濃度で試験するとALP活性およびコラーゲン濃縮を刺激し、他の合金で除外されているZnをも含んでいるためかもしれない。Mg‐Yはまた、他のMg合金および純Mgと比較して、hMSCのALPレベルを高めることも明らかになった。
細胞に合金を添加することの影響を解明するために、各合金元素を塩化物塩の形で、細胞培養および評価のために使用する培地に個別に溶解することも検討された。試験される濃度範囲(0.001mM〜1mM)のCa、Y、Zr、およびAlでは、細胞増殖は影響を受けなかった一方、高濃度のMg(50mM)およびZn(1mM)では増殖は低減したが、さらに希釈すると増殖の低下が回復することが分かった。50mMのMg濃度は、MG‐63骨芽細胞の生存率を約50%低下させたことが文献で観察された10mMのMgイオンを超えるものであった。1mMのZn濃度もまた、MC3T3およびL929細胞に対し、文献で報告された0.09mMのIC50のIC50を超えていた。また文献は、ZrについてMC3T3細胞のIC50を2.83mM、Alについては2.92mMと報告しており、最大1mM超を使用しても、増殖の損失は起きなかった。しかし、Yに曝されたMC3T3細胞のIC50は0.142mMであった。本研究では、図7.10に示すように、1mMのY塩濃度はhMSCの増殖の低下を招かなかった。
合金元素塩によるhMSCの骨芽細胞分化の促進も調査され、濃度10〜20mMのMgは分化培地の細胞のALP活性を高めると結論した。5mMおよび10mMのMgSO4の濃度はヒト骨髄間質細胞(hBMSC)からのECMの石灰化を増強させることが観察され、HIF‐2αおよびPGC‐1αを介して10mMのMgで骨形成因子は最大限促進された。ALP活性はDNA量に正規化されるので、1mM濃度のZnの活性の増加は、図7.13に示すようにZnの添加がもたらす細胞数の減少による分化への好ましい影響を示唆するものではないかもしれない。
この明確な目的のために行われた様々なインビトロ細胞テストの変動は、複数の因子による可能性がある。第一に、細胞数はウェルによって異なる場合がある一方、合金サンプルの寸法および表面仕上げのばらつきが大きくなり、細胞が曝される分解生成物の局所環境に差が生じた可能性がある。試薬および培地の分注量の変動もまた、マイクロプレートリーダーのような測定の方法と同様に、わずかな実験誤差を招いた可能性がある。
過去の研究は、インビボでの埋込時のRE含有Mg合金の受入れ可能な宿主反応および生体適合性を示してきた。0.4%Caの有無に拘わらずMg−1.5%Nd−0.5%Y−0.5%Zr合金の皮下埋込は、Ti‐6Al‐4V対照インプラントとして、適切なMg代謝、腎機能、および宿主組織反応を示した。選択された材料すなわちWX11アズキャスト、WX41アズキャスト、純Mg、およびAZ31のインビボ腐食および局所組織反応を比較するために、ここでマウス皮下試験を実施した。H&Eを用いて染色した組織学的スライド(図7.16)は、Mg‐Y‐Ca‐Zr合金が周囲の組織に対し毒性または過度の炎症反応を誘発せず、受入れ可能な宿主反応を呈し、組織修復過程で新しい細胞外マトリクスを形成するためにコラーゲン線維を沈着する、高密度の線維芽細胞の存在下で見られるような、自然な創傷治癒が発生することを示した。この密な結合組織は、全ての時点でMg合金 インプラントに隣接して観察され、様々な大きさの合金分解における生体適合性を示している。試験したMg合金のインビボ質量損失腐食速度(図7.17)は、インビトロ浸漬から測定した場合より低かった。インビトロの場合と比較してインビボの腐食速度の4桁の減少を観察した後、インビトロ腐食試験はインビボ腐食速度を正確に予測できないと結論付けられた。異なる環境条件、インプラントの周囲の動的な血流、およびpHの変動のみならず、緩衝イオンの局所的化学環境もまた、矛盾を説明するために提供することのできる理由の中に含めることができた。インビトロに対しインビボで測定される低い腐食速度は、モルモットの大腿骨およびLewisラットの皮下環境に髄内移植されたMg合金の調査と一致した。外植サンプルは、浸漬試験からのサンプルと同様の腐食生成物の形成および形態を示した。図7.18および図7.19に示す表面のSEM画像から理解できるように、埋込70日後のインビボ腐食の範囲は明らかに3週間後のインビトロより大きい。同時に、CaおよびPの存在と共にCおよびOに富む腐食生成物が依然として確認された。インビトロおよびインビボ両方に見られる、亀裂のある腐食層の上に腐食生成物が堆積した腐食生成物形態は、他の調査で明らかになった結果と一致する。
それでもなお、埋込みから40日後および70日後のインビボ腐食速度はアズキャストWX41の場合、アズキャストWX11の場合より低く、かつ70日後の純MgおよびAZ31の場合と同等であり、それは測定されたインビトロ腐食速度(図6.1)と一致した。この結果は、インビトロ腐食試験がインビボで見られるものを現在は正確に予測できないが、Mg合金の相対的耐食性を評価するための比較的安価なスクリーニング方法として役立つ可能性があるという確立された知識と一致する。したがって、より安定な系と比較して速く腐食する合金組成物は、インビボ条件下でもより速い腐食を示す可能性があるので、インビボで有利な反応を潜在的にもたらすことのできる合金を選択するのに役立てることができる。絶対的な尺度で、所与のマグネシウム合金の腐食反応に影響を及ぼし得る局所化学的および生物学的環境のみならず材料の様々な因子のため、同じ結論を導き出すことは容易ではないかもしれない。
<実施例8>
[ラット大腿骨骨切りモデルでマグネシウム‐イットリウム‐亜鉛‐カルシウム‐ジルコニウム合金のインビボ腐食、骨形成、および宿主反応を評価]
[序論]
マグネシウム基合金は、この千年紀になってそれが生物医学研究に再導入されて以来ずっと、整形外科用途向けの医療製品の分野で最も注目を集めてきた。小動物(例えばマウス、ラット、モルモット、およびウサギ)、大型動物(例えばヒツジおよびヤギ)、およびヒトによる多くの研究は全体的に、マグネシウム合金が骨内または骨の周囲に埋め込まれた場合にその良好な生体適合性を示してきた。これは、Mgの高い強度対重量比およびその分解能と相まって、永久金属ハードウェアに対して行われるような二次的除去手術の必要性を低減し、MgおよびMg合金を、現在の最新技術の不活性金属および生分解性ポリマーの整形外科用装置の大勢的優位性に挑戦する最前線に立つ魅力的な選択肢にする。実証されてきたマグネシウムの他の重要な特性は、Mg合金に隣接してまたはその近辺で増強される骨形成、Ca‐P鉱物の高度な堆積、およびMgの分解生成物層と新しい骨との間の直接接触を含む。
Mg合金の骨内への埋込みを含む様々な研究の中で、大多数の研究は、Mg合金のロッド、ピン、またはネジを大腿骨幹に埋め込むことを含むものであり(〜8)、大腿顆および髄腔への埋込は少数であった。Zhengらによって検討された、Mg合金が骨に埋め込まれる23の論文では、いずれも耐荷重モデルを表しておらず、いずれも場合も、骨に穴が事前にあけられ、次いでインプラントが圧入されるかねじ込まれるものであった。骨折した骨を固定するために荷重を支えるようにMgインプラントが使用された唯一の事例は、Chayaらによって行われたプレートおよびネジの研究であった。これらの研究では、ニュージーランド白ウサギの尺骨に完全な骨折が形成され、骨折を安定させるためにプレートおよびネジを配置できるように、骨折した尺骨の両側に穴が事前にあけられた。これらの研究はMgの整形外科用インプラントを評価する唯一の荷重骨折環境のアセスメントであるにも拘わらず、全てのウサギの橈骨は治癒中に無傷のままであり、それは骨折に追加的な支持をもたらし、プレートおよびネジの支持を補完した。
本研究では、ラット大腿骨の完全骨折がMg合金であるMg‐Y‐Zn‐Zr‐Ca(WZ42)のインプラントピンのみを使用して固定される完全耐荷重モデルを追及することを決定した。この合金の材料および生物学的特性は前の節に記載されており、一般的な医療用チタン合金であるTi6Al4Vの性能と比較された。骨の治癒に対する応力腐食環境の影響を評価しながら、合金の安全性および毒性をも評価するために、意図的にピンを動かなくするための追加的な支持体は使用しなかった。選択されたこのモデルは、最適な骨治癒のために要求される解剖学的調和および生体力学的安定性を維持するために骨折フラグメントに貫通させる細いロッドであるキルシュナーワイヤ(Kワイヤ)およびスタインマンピンのような整形外科用固定装置に似た概念的な類似性を有する。残念ながら、現在使用されているKワイヤは骨の治癒後に取り出す必要があり、二次的な処置が必要になる。容易に取り出すことを可能にするために、ワイヤの両端は通常、皮膚の外側に残され、感染および他の合併症を引き起こす導管として作用する「ピントラクト(pin-tract)」を形成する。しかしながら、これらの一般的な整形外科用装置のこのような欠点は、生分解性Mg合金のKワイヤを使用することにより、回避することができる。
髄内骨折固定ピンに加えて、別の動物では、骨折していない大腿骨の中骨幹領域の周りにWZ42ワイヤを巻き付けてカフを形成し、異なる領域(髄内vs皮質骨上)に埋め込まれたMg合金に対する分解および組織反応を比較した。さらに、本研究の別の目標は、完全な血液プロファイルだけでなく、腎臓および肝臓を含む器官および組織分析をも通して、全身毒性を評価することであった。
[材料および方法]
[Mg‐Y‐Zn‐Ca‐Zrインプラントの調製]
Mg‐4.0%Y‐2.0%Zn‐1.0%Zr‐0.6%Ca(重量%)の名目組成で、WZ42合金を溶融し、鋳造した。鋳造後に、400℃の溶体化処理を20時間適用し、インゴットを、合金の延性を高めかつ二次相を均質化するために、室温水で急冷した。450℃に加熱しながら30の押出比で押し出すことができるように、インゴットの直径が37.8mmになるまで旋盤を使用して機械加工した。直径〜6.9mmの押出WZ42ロッドおよび直径5mmのTi6Al4Vロッドの対照材料(Goodfellow Corporation,Coraopolis,PA)を、寸法が長さ15mm×直径1.66mmのピンおよび長さ20mm、直径0.68mmのワイヤになるまで旋盤を使用して機械加工した。機械加工されたピンおよびワイヤカフの略図および写真を図8.20に示す。インプラントをアセトンおよびイソプロパノールの洗浄液中で超音波洗浄し、ガンマ線(2×106cGy、23.5Gy/分、セシウム137線源、Mark I 68、JL Shepherd and Associates,San Fernando,CA)によって滅菌する前に乾燥させた。
図8.20。大腿骨髄内キャビティに挿入されたピン(下)、および中骨幹領域に巻き付けられたワイヤカフ(上)の略図(a)および写真(b)。a)では、ワイヤは直線状に機械加工され、次いで手術中に大腿骨に巻き付けられた。
[動物モデル]
全ての動物実験は、ピッツバーグ大学の実験動物委員会(IACUC)によって承認された。手術前に、鎮静の開始のために、体重約250〜300gの雌のSprague‐Dawleyラットに、鎮静の開始のために濃度2〜5%、および維持のために0.25〜4%のイソフルランの吸入によって麻酔をかけた。各ラットは右後肢のみで手術を受けた。外科的処置の写真を図8.21に示す。最初に、右後肢の毛を剃り、消毒し、図8.21aに示す位置で右大腿骨に約2cmの切開を施した。側方アプローチを介して右大腿の皮膚および中骨幹領域を露出させた。完全な大腿骨骨切り術はハンドヘルドドリルを使用して行われた(図8.21(b))。WZ42またはTi6Al4Vの固定ピンを最初に骨折した大腿骨の遠位端部の髄内空間に挿入し(図8.21c)、次いで大腿近位部の髄内空間に挿入し(図8.21d)、図8.21eに示すように骨折を接合した。ワイヤカフの場合、右大腿は切開せず、骨幹の中間部にワイヤを巻き付け、大腿骨の骨幹軸に沿って平行移動または移動を回避するように骨に押し付けた(図8.21g)。サンプルを埋め込んだ後、VICRYL(J315)で筋膜および筋肉を閉じ、非吸収性モノフィラメントポリアミド縫合糸を用いて皮膚を閉じた。
術後の痛みと苦痛について、ストレスの表出や行動異常、運動、食物、および水分摂取の変化が無いか毎日観察した。さらに、感染の徴候またはガスポケットの存在について右後肢を視覚的に観察した。
図8.21。金属製サンプルを埋め込むために使用した外科的処置:a)大腿骨髄内キャビティに挿入されたピンの写真(下)、および中骨幹領域の周りに巻き付けられたワイヤカフの写真(上)。ピンモデル−a)線は、大腿骨を露出させるために切開が行われた位置を示す;b)丸鋸を用いてラット大腿骨に骨折を形成する;c)骨折した大腿骨の片側の髄空間にピンを挿入する;d)骨折した大腿骨に橋をかけるように、大腿骨の反対側にピンを挿入する;e)ピンで位置合わせと固定を維持しながら骨折部を閉じる;f)手術部位を完全に閉じ、縫合する。カフモデル−g)切開して大腿骨を露出させた後、骨切り術を行わず、骨を無傷のままにしておき、大腿骨の中央部の周囲にワイヤを巻き付けた。
表8.3に示すように、WZ42ピンおよびTi6Al4Vピンの両方について5匹の動物の群を、血液、肝臓、腎臓、組織学的、およびマイクロCTの分析の2週間、8週間、および14週間の各時点に使用し、かつ6匹の動物の群に14週間の単一時点でワイヤカフを埋め込んだ。ラットは二酸化炭素を徐々に過剰投与して屠殺した後、頸椎脱臼させた。屠殺直後に、肝臓、腎臓、および実験群大腿骨を回収し、以下の節で述べるようにさらなる分析のために保存した。手術を受けなかった3匹のラットもまた、手術対照群として役立てるために屠殺した。
[X線撮像]
インプラントの位置および骨折の安定性を調べるために、手術後1週間でラットのX線撮像を実施した。
[血球数および血清の生化学的測定]
血液サンプルを、動物から手術前に麻酔下で、テールスニップによって、かつ終末的に(埋込の2、8、および14週間後)に心穿刺および吸引によって採取した。血球数を決定するために、血液はK2‐EDTAチューブに採取され、分析は、Marshfield Labs(Cleveland,OH)によって、Sysmex XT000i Automated Hematology Analyzer(Sysmex Corporation,Kobe,Japan)を用いて実施された。血清サンプルは、採取した血液を2000rpmで10分間4℃で遠心分離することによって得た。血清生化学検査は、Marshfield Labsによって、Olympus AU化学分析装置(Olympus Corporation,Tokyo,Japan)を使用して実施された。
[マイクロコンピュータ断層撮影]
プラスチック包埋したラット大腿骨を使用して、高解像度マイクロコンピュータ断層撮影(μCT)スキャンを行った。サンプルは、埋込前および手術後2、8、および14週間の回収直後に、連続回転μCTにより、10.5μmのボクセルサイズでスキャンした。再構築したデータセットを使用して3Dボリュームを生成し、密度に基づくグレー値のヒストグラムを使用することによって、周囲の分解生成物および骨から残留金属ロッドを区別した。金属ピンの密度閾値を使用して、残留マグネシウム合金の堆積を周囲の物質から分離し、埋込前のピンの堆積と比較して、次の式を用いてインビボ腐食速度を推算した。
C=(K×V)/(A×T)
式中、Cは腐食速度(mm・年−1、mmpy)であり、定数Kは8.76×10であり、Vは堆積損失(cm)であり、Aは露出した初期サンプル面積(cm)であり、Tは露出時間(時)である。
[組織学的標本作製および分析]
肝臓および腎臓の試料を、10%の中性緩衝ホルマリンで固定し、脱水し、パラフィンに湿潤させ、包埋した。次いでそれをヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色により検査して、WZ42合金の分解が重要な内蔵器官に何らかの病理学的変化をもたらすか否かを評価した。
大腿骨を70%エタノールで固定し、脱水し、Osteo‐Bed Plusメタクリル酸メチルベースの包埋キット(Polysciences,Inc.,Warrington,PA)で湿潤させ、包埋した。プラスチックブロックは回転ミクロトーム(Leica RM2255、Leica Biosystems,Buffalo Grove,IL)により切片化し、ゴールドナーのトリクロームおよびアルカリホスファターゼ染料を使用して染色した。
[組織の消化および元素分析]
肝臓および腎臓組織を、元素の濃度測定ができるようにICP‐OESを使用して消化させた。最初に、組織を70℃で24時間乾燥させ、次いで均質化して計量した。次にサンプルを20ml硝酸/g組織に70℃で6時間浸漬し、続いて4mlの過酸化水素/g組織を1時間、4mlの硫酸/g組織を1時間加えることによって消化させた。次いでサンプルをMilli‐Qシステム(18MΩ・cm脱イオン水、Milli‐Q Academic,Millipore,Billerica,MA)で精製した水で50倍に希釈し、0.45μmシリンジフィルタで濾過し、ICP‐OES(Thermo Fisher)によってMg濃度を分析した。
[結果]
[Mg‐Y‐Zn‐Ca‐Zr合金ピンを使用する大腿骨欠損の固定]
大腿骨の中央部に完全な骨切り術の固定を提供するために、尖った端部を持つピンをWZ42合金およびTi6Al4V合金から作製し、断片化した大腿骨の二つの半部分の髄内キャビティに挿入した。加えて、WZ42およびTi6Al4Vのワイヤを自然大腿骨の中央部の周りに巻き付けて、骨に挿入した生体材料の組織反応を、骨の外表面における組織反応と比較した。ピンは手術中に全ての大腿骨内に無事に挿入され、with一部の事例では(図8.22c、赤い矢印)ピンの直径と髄内キャビティの直径との間にわずかな不一致が見られ、小さい間隙が生じるにも拘わらず、図8.22aおよびbの7日目のX線画像に見られるように、断片は接合される。ワイヤカフによっては埋込中にスナップ止めされるものもあったが、図8.22dおよびeに示すように、全てが大腿骨の周りに固定状態に維持された。
図8.22は、ラットの右大腿骨に埋め込まれたWZ42マグネシウム合金(a)およびTi6Al4V(b)のKワイヤ(白矢印で指定)の1週間のX線画像を示す。c)一部のX線画像では、断片の位置ずれ(赤矢印)およびWZ42インプラント付近の空の空間(黄矢印、丸で囲まれている)が観察された。ラットの右大腿骨に埋め込まれたWZ42マグネシウム合金(d)およびTi6Al4V(e)のワイヤカフ(白矢印で指定)の1週間のX線画像。
図8.22cに示されるように、黄矢印で指摘した空の空間の小さいポケットは、WZ42合金ピンまたはカフを埋め込まれたラットの75%のX線画像で観察された。原因は、Mgインプラントの分解から発生した水素ガスによる可能性が高い。X線画像におけるそれらの存在にも拘わらず、頻繁に行われたラットの目視検査中に、ラット後肢に皮膚の膨隆は観察されなかった。ラットは手術後7日までに移動性を回復した。
[Mg‐Y‐Zn‐Ca‐Zrインプラントの全身毒性]
総血球数を下の表8.4に列挙するが、これは概ね血球数の乱れを示さず、パラメータは基準範囲内か、手術前のレベルに近い状態を維持した。WZ42のカフ、ならびにWZ42およびTi6Al4Vのピンでは、14週で低血小板数から基準範囲または未手術レベルとの小さい差が観察される一方、WZ42およびTi6Al4Vのピン両方で2週目に術後白血球数の上昇が見られた。
同様に、血清生化学パラメータを表8.5に示す。腎機能はクレアチニンおよび尿素レベルによって測定され、肝機能はアルブミン、アルカリホスファターゼ、ビリルビン、およびグルコースによって測定される。全てのパラメータは基準範囲内か、手術前のレベルを維持し、腎臓および肝臓の機能および代謝に対する埋め込まれた合金材料の影響がほとんど無いことを実証した。
血清サンプルから電解質パラメータ(カルシウム、ナトリウム、塩化物、リン、およびマグネシウム)を測定した。それらを表8.6に示す。重要なことは、マグネシウムレベルが基準範囲の下限内を維持し、採取した血液中にインプラントから分解したMgの蓄積が見られないことを示していることである。他の全ての電解質も同様に、未手術ラットおよび規定された許容基準範囲との一致を維持した。
酸消化された肝臓および腎臓(図8.23)のICP‐OES結果は、未手術対照ラットで見られる正常レベルを超えるMgの蓄積がWZ42またはTi6Al4V群で採取された肝臓および腎臓の組織に観察されないことを実証した。肝臓および腎臓におけるCaおよびZnの濃度もまた、正常レベルを逸脱しなかった。消化された肝臓および腎臓から測定された他の合金元素(YおよびZr)の濃度も、低すぎて正常レベルと区別できないと判断され、Yについては、肝臓および腎臓の両方に<0.7μg/g乾燥質量が存在し、Zrについては、肝臓および腎臓の両方に<2.2μg乾燥質量が存在した。
図8.23は、WZ42およびTi6Al4Vの大腿骨ピンおよびカフを埋め込んだラットの消化された肝臓および腎臓サンプル中の8週および14週のMg(a)、Ca(b)、およびZn(c)の平均濃度を、未手術対照ラットと比較して示す。WZ42ピンを埋め込んだラットの腎臓の8週のMg濃度と未手術対照ラットとの間の有意差*(p<0.05)、ならびにWZ42ピンおよびカフを埋め込んだラットの腎臓の8週のZn濃度との有意差†(p<0.05)。抽出物濃度毎、群毎、時点毎に、n≦3。
[肝臓および腎臓の組織学的検査]
8週および14週で屠殺されたSprague‐Dawleyラットから外植された肝臓および腎臓は、病理切片に加工し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。光学顕微鏡画像(腎臓は図8.24、肝臓は図8.25)は、肝臓および腎臓の細胞組織が炎症細胞による形態学的変化または浸潤を受けなかったことを明らかにした。明らかな異常の徴候は、器官切片のいずれにおいても観察されなかった。
図8.24は、大腿骨をWZ42(a、c)およびTi6Al4V(b、d)のピンで固定したラットの8週後(a、b)および16週後(c、d)のH&E染色腎臓の顕微鏡写真を示す。骨の周りに巻き付けるWZ42(e)およびTi6Al4V(f)のワイヤカフを埋め込んだラットの14週間の腎臓の染色画像。手術を受けなかったラットの顕微鏡写真(g)。スケールバー=50μm。
図8.25は、大腿骨をWZ42(a、c)およびTi6Al4V(b、d)のピンで固定したラットの8週(a、b)後および16週(c、d)後のH&E染色肝臓の顕微鏡写真を示す。骨の周りに巻き付けるWZ42(e)およびTi6Al4V(f)のワイヤカフを埋め込んだラットの14週間の肝臓の染色画像。手術を受けなかったラットの顕微鏡写真(g)。スケールバー=50μm。
[Mg‐Y‐Zn‐Ca‐Zr合金ピンのインビボ腐食および周囲の骨の形態]
大腿骨‐インプラント複合体から得たマイクロCTスライスの例を図8.26に示す。
図8.26は、分解するWZ42合金の体積を決定する。ピンは、埋込みからa)2週、b)8週、c)14週後に、緑色で強調表示された代表的実施例で密度の閾値化に基づいて、マイクロCTスキャンで周囲の骨から区別された。カフは14週後(d)に完全に分解したが、ワイヤが占めていた領域に新生骨形成が見られた(矢印)。
2週後に、ピンは図8.26aに示すように破損した。これらのピンの破損は大腿骨の骨折部位で発生し、機能不全をもたらす。加えて、腐食部位は機械加工中にピンがコレットに固締された接合部で発生した。腐食/破損が発生したこれら二つの領域は両方とも、応力が高い領域に対応していた。ピン全体の漸進的な分解は8週および14週で観察された(図8.26bおよびc)。皮質骨によって囲まれたピンの領域は、より低速度分解するように見えた。骨幹の中央部にWZ42ワイヤカフが巻き付けられた無傷の大腿骨のマイクロCTスキャン(図8.26d)は、カフが14週後に完全に分解し、埋め込まれたMg合金の有利な反応を示しているにも拘わらず、分解するカフの周囲の領域に新生骨形成のように見えるものを明らかにした。
周囲の分解生成物および骨から残留しているWZ42ピンをセグメント化した後、ピンの3D再構築を形成し、そこから体積を再計算した。この残留体積は、図8.27に示すように、2週、8週、および14週の終わりに、腐食速度を算出するために使用した。
図8.27は、ラット大腿骨に埋め込まれたWZ42ピンの2週間、8週間、および14週間の腐食速度および残留体積%を示す。群毎、時点毎に、n≧2。*および†は他の時点に行われた測定と比較した有意差(p<0.05)を表す。
分解は最初、2週間でより速く発生することが明らかになり、その後は、8週および14週で認識されたより低い腐食速度によって示されるように、腐食は低減し、安定化するように見えた。これは、WZ42合金のパッシベーションおよび仮骨形成に関係しており、骨治癒の早期段階後に分解する合金への流体曝露を制限する可能性がある。
[Mg‐Y‐Zn‐Ca‐Zr合金ピンへの局所組織反応]
2週、8週、および14週後に大腿骨外植物を回収し、WZ42ピンおよびカフへの局所組織反応を評価し、骨折の治癒を観察した。ピンを含む大腿骨からの骨の切片はゴールドナーのトリクロームを使用して染色した。それを図8.28に示す。
2週後に、WZ42合金を埋め込んだラットで、骨折部位の骨上の線維組織に空のポケットが観察された。これはTi6Al4Vピンでは観察されないので、分解するマグネシウム合金からガスポケット(GP)を形成する水素ガスの蓄積が原因の可能性が高い。インプラントと骨の境界面を画定する破線によって示される骨折部位を包囲する線維組織(Ft)と共に、骨を包囲するオステオイド(Od)の存在が観察された。8週後、骨折部位のガスポケットは、潜在的に腐食速度の低下、ガスの消散、および線維組織の内方成長のため、顕著とは認識されなかった。骨膜領域でオステオイドの存在のみならず新生骨形成(Nb)についても、8週および14週後に漸進的な増大が観察された。14週後、WZ42またはTi6Al4Vピンのいずれかで固定された場合、骨折はまだ完治していなかった。
図8.28は、WZ42マグネシウム合金(a、c、e)およびTi6Al4V(b、d、f)のピンで固定された欠損部位の、埋込みの2週後(a、b)、8週後(c、d)、および14週後(e、f)の軟硬組織のゴールドナーのトリクローム染色切片の顕微鏡写真(40×)を示す。g)欠損部位で縦断面に沿って撮像された関心領域を表す。細胞質、フィブリン、筋肉、およびオステオイドは赤色で表す。コラーゲンおよび骨は緑色で表す。破線はインプラントピンと骨の境界面を略示する。スケールバー=200μm。略語:GPはガスポケット;Odはオステオイド;FTは線維組織;Nbは生成骨。
欠損部の周りの領域における骨芽細胞活性および新生骨形成のプロセスを示すために、アルカリホスファターゼ染色を行った。骨芽細胞活性は、Ti6Al4Vを含む大腿骨(図8.29b、d、f)と比較して、WZ42を含む大腿骨の骨折の周囲(図8.29a、c、e)の方がより多かった。WZ42群の場合、骨芽細胞の存在は8週目がピークのようであった。
図8.29は、WZ42マグネシウム合金(a、c、e)およびTi6Al4V(b、d、f)のピンで固定された欠損部位の組織の埋込みから2週後(a、b)、8週後(c、d)、および14週後(e、f)のALPの局在性の40×および100×(差込み図)の顕微鏡写真を示す。スケールバー=200μm(40×画像)、100μm(100×画像)。ピンは全ての図で画像の左側に位置する。
ワイヤカフ埋込み部位付近の組織のゴールドナーのトリクローム染色切片において(図8.30)、明るい青緑色で示された新生骨のみならず、線維組織もまたMg合金カフインプラントの周囲に見られた(図8.30a)。他方、不活性なTi6Al4Vカフ付近には新生骨形成は見られなかった(図8.30b)。
図8.30は、WZ42マグネシウム合金(a)およびTi6Al4V(b)のワイヤカフが埋込みから14週間骨の周りに巻き付けられた場合のインプラントと骨の境界面の軟硬組織のゴールドナーのトリクローム染色切片(40×)の顕微鏡写真を示す。c)欠損部位で縦断面に沿って撮像された関心領域を表す。細胞質、フィブリン、筋肉、およびオステオイドは赤色で表す。コラーゲンおよび骨は緑色で表す。破線はWZ42ワイヤの位置を略示する。スケールバー=200μm。略語:FTは線維組織;Nbは生成骨;Mは筋肉;TiはTi6Al4Vワイヤ。
[考察]
この明確な目的のために、生体適合性および全身毒性、分解挙動、ならびに局所組織反応および治癒の観点から、WZ42マグネシウム合金の効果を調査した。この動物モデル、すなわち髄内ピンによって安定化した閉鎖大腿骨骨折は、骨および軟骨マトリクス成分ならびに成長因子の遺伝子の発現、サイトカインの生成、細胞増殖、ならびにアポトーシスを研究している様々なグループによって、永久金属による骨治癒および石灰化について金属を比較するために、特徴付けられてきた。これらの場合にラットの完全骨切りを固定するためにステンレス鋼およびNi‐Ti合金が使用されるにも拘わらず、腐食に有利に働く大きい動的応力の顕現を表すそのような攻撃的モデルは、マグネシウム合金では試験されたことが無かった。実際、完全耐荷重のモデルは今日まで、マグネシウムから製造された骨折固定装置に適用されたことが無かった。この攻撃的モデルでMgの安全性を確認し、Mgピンにかかる高い応力の結果としての分解挙動を分析することも意図した。
WZ42インプラントの安全性を評価するために、血液および血清の生化学分析も行った。14週のWZ42およびTi6Al4Vピン群、および同じく14週のWZ42ワイヤカフ群の予想より低い血小板レベルは、分析した多くのサンプルで報告されたサンプル中の血小板の凝集による可能性が高かった。WZ42およびTi合金両方の手術2週後の白血球のレベル上昇は、外科的処置が実施された後に見られる正常な炎症の一般的な徴候を表す。後の時点で測定された血球数は、白血球数の正常レベルへの回復を示し、即時感染または長期炎症反応の徴候が無かったことを示唆した。血液で測定された一貫した電解質レベル、および消化された腎臓および肝臓で測定された安定したMg濃度は、WZ42の分解が身体の正常な機能のために必要な電解質の均衡の乱れを引き起こさなかったことを意味する。他の研究も同様に、骨に埋め込まれたときに、血液生化学ならびに肝機能および腎機能がマグネシウム合金の分解によって影響されなかったことを明らかにし、分解Mg合金の一般的な安全性を示した。血液検査に観察されるばらつきは、予想通り動物の個体毎に異なり、溶血、血餅、および脂肪血など血液サンプルの品質の差に起因する追加的な誤差もある。
変化しない血清パラメータが肝機能および腎機能がWZ42合金の分解によって影響されないことを示唆すると共に、肝臓および腎臓中のMg、Ca、およびZn(WZ42合金の含有元素)の濃度は、未手術ラットで測定されたレベルより高く上昇せず(図8.23)、YおよびZrは低すぎてベースラインから区別することができなかった。濃度は、同じ時点で比較すると、Ti6Al4Vサンプルを埋め込んだラットとも一致した。動物間の予想される固体差、組織の潜在的に不完全な酸中溶解、およびICP‐OES測定値のばらつきは、群内のイオン濃度のばらつきをもたらした可能性がある。
全身生体適合性をさらに実証すると、肝臓および腎臓のH&E染色法は臓器障害の徴候を一切示さなかった。腎臓組織内では、集中的な石灰化の黒い堆積物、急性炎症細胞、または壊死は全く観察されなかった。肝臓内では、炎症細胞の集合体や、凝固壊死の不規則でムラのある範囲のような肝細胞壊死の特徴は観察されなかった。これらの結果は、WZ42合金の分解成分が優れた全身生体適合性を有することを明白に示唆している。Hartwigは、高濃度のMgイオンを摂取しても、腎臓の排出系の高い能力と、骨からの貯蔵緩衝機能とによって身体が血清マグネシウムの均衝を保てるため、反作用を生じることはないと述べている。
図8.26(a〜c)に示すインプラント断面積の減少に見られるように、また、図8.27に示す算出された腐食速度および体積損失からわかるように、髄内のWZ42ピンでは緩徐な分解が観察された。分解は優先的に、埋め込んだピンに作用する応力が最も大きいことが認められた骨折部位にて破砕に対し垂直に生じるようである。この機械的荷重と周囲にある体液がもたらす腐食環境との共同作用により、周知の応力腐食割れ(SCC)機構を介してインプラントの突然の破砕を引き起こすことが示されている。この脆化現象は、材料の降伏強度を超えない応力を付与しただけでも起こり得るので、破断のための時間が短縮され、早期の易破砕性を招く。マグネシウム、孔食の害、SCCが発達し得る原因は、塩化物溶液中および疑似体液中でのSCCに対する脆さを示した。例えば図8.26aのピンの端部付近のような、その他の局所的な腐食領域は、加工中にできた既存の欠陥により生じ、これがSCCに対する脆さを増大させる。破砕部位での分解も、流体剪断応力を生成し、局所的にOHイオンを除去して、パッシベーション層からの保護を低減するように働く周囲の流体電解質への露出が多くなることにより、やはり促進された。最初の2週間の時点後における腐食速度の低減は、Mgの骨内への埋め込みのその他の研究で観察されたように、MGインプラントの表面が予想どおりに不動態化し、線維組織および新形成骨内に封入されたときに生じた。測定は時点毎に異なるサンプルから取られたため、残部のパーセンテージ体積は2週間と8週間の間で著しく変化しなかった。8週間目の測定を算出するために用いたインプラントでは、腐食速度は遅かったので、時間の経過と共に、残部体積が、2週間目に測定されたはるかに早い速度で分解したサンプルと著しく変わらない結果となった。別の意味において、8週間目のサンプルの腐食速度は2週間目の腐食速度のほぼ1/4であったが、残部体積は4倍の述べ時間にわたって調合されたため、残部体積はあまり変化しなかった。2週間目と8週間目のサンプルにおける分解の違いにより生じるサンプル間のばらつきは、ピンが破損した場合や、ピンが皮質骨によって完全に包囲されていないことでより多くの周囲流体に露出してしまった結果、腐食が加速した場合の可変性により起こり得る。
Mg合金の分解が周囲の組織に与える影響を、Goldner’s TrichromeおよびALP染色法を用いて、WZ42およびTi6Al4V髄内ピンならびに皮質外カフの埋め込みの2週間後、8週間後、および14週間後に調査した。ラットにWZ42合金を埋め込んだ2週間後(図8.22a、図8.28a)、骨折部位にかけてガスポケット(GP)を観察し、このガスポケットは周囲の線維組織内に空洞を形成していた。これは、Ti6Al4Vピンでは観察されていないため、分解中のマグネシウム合金からの水素ガスが蓄積したものと考えられる。骨折部位が線維組織(Ft)または皮膚硬結で包囲された状態の類骨(Od)の存在を骨付近に観察したが、これは正常な骨治癒過程の一部である。8週間後(図8.7c)に、骨折部位上のガスポケットは、潜在的に、腐食速度の遅速化、ガスの散逸、および線維組織の内植により、それほど顕著ではなかった。8週間後と14週間後には、髄膜領域内に類骨ならびに新生骨形成(Nb)がより多く存在していることを徐々に観察した。WZ42またはTi6Al4Vピンのどちらかで固定した場合には、14週間後で(図8.28e)骨折はまだ完全には治癒していなかった。8週間目および14週間目には、WZ42群内に上昇した新生骨形成が見られ、これをALP染色法でさらに確認した。ALP染色法が示す骨芽細胞活性は、欠損部を包囲する領域内の、骨折の治癒部分の先端にて新生骨形成が促進されていることを実証した。WZ42群の場合、骨芽細胞の存在は8週間目でピークに達したが、これはTi6Al4V群と比べてより急速な活性である。皮質骨上に配置したワイヤカフのケース(図8.30a)では、不活性なTi6Al4Vと比較し、Mg合金カフインプラントを包囲する領域内に青色で示す新生骨形成が見つかった。髄内固定の不安定さのために骨折が完全に治癒していないにも拘わらず、治癒過程は妨げられていないようであった。実際、石灰化した新生骨に見られるような新生骨形成の普及、および両タイプのMg合金インプラント付近の領域における骨芽細胞活性は、Mgの細胞活性に関連した、またマグネシウムベースのインプラントの表面に形成されるリン酸皮膜の骨伝導性による、Mgベースのインプラントの周囲での新生骨形成の増進を報告する多数の研究結果を確証するものである。加えて、優れた生体適合性を示している他のMg足場の報告に見られるような埋め込み部位での炎症細胞の異常な存在を伴わない、手術部位を封入する線維嚢の正常な治癒反応を一貫して観察した結果、Mg合金の局所的なバイオセイフティが示された。
総体的に、確実な生体互換性と、新生骨形成による治癒の徴候とは、WZ42合金が整形外科適用への適切な候補であることを示す。しかし、インプラント上に配置する機械応力を制御する注意を払う必要があり、また、急速な腐食の発現と、応力腐食割れによりもたらされる潜在的な破損の発現とを減少させるように機械加工することで、合金の安定した表面仕上がりを達成できる。本明細書で試験したモデルは、動的応力が著しくに高い開始因子を埋め込み部位上に表しており、これで大腿骨に荷重をかけ、荷重をMg髄内ピンに完全に伝播させて、非常に大胆な荷重と腐食状態へ意図的に導いた結果、最終的にピンが破損する。それでも、この積極的な荷重モデルは、過激なイベントとして認識されかねないこうした積極的な状態を有するにも拘わらず、合金の局所的および全体の安全性はこのような高い応力の下でも依然として維持されるので、合金は腐食を加速させる。この分解成分の解放にも拘わらず、水素ガス形成は外側からは気付かない程であったので、周囲組織の反応、腎臓、肝臓および血液のパラメータは全て正常を保った。そのため、整形外科的損傷の治療に必要であるように一時的に荷重を解除すると、WZ42合金が破損する危険が減少する傾向にあるが、それでも、合金を有望な整形外科インプラント材料にし、他の医療装置用途における可能性を探求することを可能にする。要するに、記述した結果により実証されたとおりの、本モデルの高い応力および加速する腐食状態を提供する攻撃的な性質をまず考慮すると、骨治癒が観察された事実、ならびにより重要なことに、全ての結晶および血液の病理的プロフィールが、生命を維持する臓器(肝臓および腎臓)の組織学的分析と組み合わせて正常であるという事実は、整形外科的な固定用途にとって、特定の合金つまりWZ42が有望であることを示している。優れた強度と望ましいインビトロでの結果は、さらに本明細書で述べたインビボでの結果を補完し、本システムが他の医療装置用途においてその有効性を探求できる有望性を示す。半荷重または無荷重環境を整形外科のMgインプラント上に配置し、これらの設定にてその安全性と効率を実証した後に、インプラントを動的な機械応力に晒すより要求の高い用途を対象にするというのが発明者の意見である。通常、整形外科的損傷は処置の早期に固定されるので、本明細書のモデルに見られるようにMg装置の故障の危険が低減するはずである。すでに、この抵抗が低減する過程は、必要最小限の要求で済む骨固定に使用されるSyntellix and K−Metのネジで観察されている。さらに合金を向上させるべく、類似の、機械応力の必要性が低い用途を対象とするために、応力腐食の影響を最小にするように外部固定具または不動化装置を用いて、その対象の応答を研究する。
<総体的結論>
特性を向上させるために、様々な合金設計パラメータを改良した。この改良は、0〜4.0重量%の多様な量のイットリウムを追加すること、Znを追加すること、溶体化処理を適用すること、および多様な押出比での熱間押出を用いて合金を熱間加工することを含む。本明細書で提示するこの研究は医療装置用の新規の合金材料の開発を表し、これには、動物研究で試験した整形外科用インプラント向けの材料を審査することを最終的な目的として、合金材料成分を選択しし、様々な試験のために、分解可能金属に採用されたFDA、ISO、およびASTM規格に基づいて所望の性質を分析することが包含される。本明細書で記述および説明したこの一貫した工程は、他の分解可能金属に適用されて、吸収性の整形外科用装置を試験する材料の基礎として役立つことができる。
分解速度を制御し、機械特性を向上させ、インビトロおよびインビボ研究にて低い毒性を維持する目的で、様々なMg基の合金の処理を実施した。アズキャストと、1重量%および4重量%のYを含有する溶液熱処理したMg‐Y‐Ca‐Zr合金を調査した最初の研究では、WX41中の高いYの含有量が粒度の増加に寄与する一方で、T4溶液処理も粗粒化をもたらすことがわかった。鋳造合金と熱処理合金に押出を適用したところ、熱間加工工程と動的再結晶化工程を介して粒度が劇的に減少した。X線解析は、アズキャストWZ42中に観察されたLPSO相を除く単相マグネシウムが全ての合金中に存在し、Y、Ca、Zr、Znの合金元素を含有する二次相析出物が、全ての合金中の、粒界と粒子中との両方に存在することを示した。これらの析出物は、熱処理されて押出中に破壊された後にはさらに分散した。YおよびZnを含有するWZ42合金は二次相Mg12YZn金属間化合物も含有し、これによって特性が向上した。
合金を合成および処理した後に、Mg基合金の腐食特性と機械特性を調査した。押出または熱処理を通して粒度が変化することで、二次相が溶解または破裂してマイクロガルバニック腐食部位が分散した、より均一な腐食が得られた。以前に群内で実施されたMg合金におけるYの安定性についての第1原理の研究で報告されているように、Mg基合金中のY含有量を増加させることでより静的な層が形成された。アズキャストフォーム中のYの含有量を増やすことで合金の強度も向上したが、押出合金では、押出により高い温度が必要なため、Yを追加しても強度は著しく増加せず、動的再結晶化と粒成長をもたらし、さらに、押出の粒研磨効果と二次相の析出強度を部分的に無効にした。顕著な押出および粒研磨が付与されたことで、強度と伸長性が劇的に向上したが、その発生の仕方はHall‐Petch関係を用いて説明したとおりである。全ての合金の中からとりわけ商業用の純MgおよびAZ31材料を試験した。WZ42(Mg‐Y‐Zn‐Zr‐Ca)合金は著しく高い強度を実証して、文献に報告されたMg合金のトップに位置付けられたが、試験を受けたものの中でも比較的遅い分解速度を維持した。
先行の章における結果は、骨芽細胞と、そして、合金と直接接触しているときにインビトロで、先に述べた合金の分解生成物および合金元素塩化物塩を含んだ培地がある場合には間接的に培養したヒト間葉系幹細胞とに与える効果を明確にした。特に押出状態での合金の高い実行可能性はMTTおよび生死判別アッセイで確認された。間接的な研究のインスピレーションは、インプラント材料から抽出物を採取して細胞に曝露されるFDAによるISO10993:12の利用の推奨と、分解可能材料の信頼性の高いインビトロ細胞毒性結果を入手するためには、採取した抽出物を少なくとも10倍に希釈することを要するとの報告とに基づいている。合金抽出と合金元素塩化物塩の両方を試験する場合は、Mg−Y合金分解生成物とY塩が増殖とALP活性を向上させ、骨形成分化の促進を示唆した。特にWZ42合金は最大の増殖と骨形成分化を可能にした。
材料開発からインビボ安全性の評価への遷移を計算するには、破砕したラット大腿骨の髄内空洞にWZ42ピンを埋め込み、未変化の大腿骨の中間部分の周囲にワイヤを巻き付け、合金をTi6Al4Vと比較した。2週間目、8週間目、14週間目にラットを屠殺し、材料性能を、(1)血液検査、肝臓、腎臓の細胞学、分解生成物蓄積によって分析した全身毒性と、(2)残っているWZ42インプラントのマイクロCT再構成によって測定した分解と、(3)局所骨および周囲の軟組織の病理組織学によって評価した局所組織反応とに基づいて評価した。埋め込みが成功し、1週間後にX線で破砕安定性の維持を確認した後、発生した分解により、髄内ピンが、腐食に関連する確認された高い応力で故障したことがわかった。2週間以後のマイクロCT分析から、応力腐食割れが高い機械荷重がかかる骨切り術部位にて発生するという仮説を、合金ピンの分解および破砕が確証することが明らかになった。しかし、WZ42合金は、依然として、血液、肝臓、腎臓内にMgまたは合金元素の認識可能な蓄積を生じず、血球数、代謝、または腎臓および肝臓機能に有害作用を及ぼさないことがわかった。最終的に、埋め込み部位における局所範囲の組織学は、正常な骨折治癒と新生骨形成を示した。インプラント周囲には異常な炎症反応は観察されなかった。
総体的に、Mg‐Y‐Ca‐Zn‐Zr合金、特にWZ42合金の、奨励される機械特性、生体腐食特性、および生物学的特性は、整形外科および頭蓋顔面に適用可能なインプラント生体材料としてのその潜在性を示している。Mg‐Y‐Ca‐Zn‐Zr系の様々な合金は、密接に関係し合いかつ重要で多様な整形外科医療装置での使用に適しており、また、低荷重、半荷重の下で、ならびに、腐食と機械反応の均衝を取って所望の生体的成果を得るように適切に対象とされた耐荷重条件下で使用するのに適している。

Claims (15)

  1. 組成物の総重量に基づいて、
    約4.0重量パーセントのイットリウムと、
    約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、
    約0.6〜1.0重量パーセントのジルコニウムと、
    約2.0重量パーセントの亜鉛と、
    不純物を含む残部のマグネシウムと、
    から構成される生分解性金属合金。
  2. カルシウムは約0.6重量パーセントを占めており、ジルコニウムは約1.0重量パーセントを占めている、請求項1に記載の金属合金。
  3. ジルコニウムは約0.6重量パーセントを占めている、請求項1に記載の金属合金。
  4. 組成物の総重量に基づいて、
    約4.0〜4.5重量パーセントの亜鉛と、
    約0.3〜0.5重量パーセントのジルコニウムと、
    不純物を含む残部のマグネシウムと、
    から構成される生分解性金属合金。
  5. 亜鉛は約4.0重量パーセントを占めており、ジルコニウムは約0.5重量パーセントを占めている、請求項4に記載の金属合金。
  6. 亜鉛は約4.4重量パーセントを占めており、ジルコニウムは約0.3〜0.4重量パーセントを占めている、請求項4に記載の金属合金。
  7. ストロンチウムおよびセリウムから成る群から選択された元素をさらに含む、請求項4に記載の金属合金。
  8. 前記元素は、金属合金の約0.25〜1.0重量パーセントを占める、請求項7に記載の金属合金。
  9. 前記元素は約0.25重量パーセントを占める、請求項8に記載の金属合金。
  10. 前記元素は約1.0重量パーセントを占める、請求項8に記載の金属合金。
  11. 不純物は、鉄、ニッケル、および銅の一つ以上を含む、請求項1に記載の金属合金。
  12. 不純物は20ppm以下を占める、請求項1に記載の金属合金。
  13. 前記合金は固溶体単相である、請求項1に記載の金属合金。
  14. 生分解性金属合金を調製する方法であって、
    組成物の総重量に基づいて、約4.0重量パーセントのイットリウムと、約0.5〜0.6重量パーセントのカルシウムと、約0.6〜1.0重量パーセントのジルコニウムと、約2.0重量パーセントの亜鉛と、不純物を含む残部のマグネシウムとを溶融させる工程と、
    溶融混合物を得る工程と、
    生分解性金属合金を得るために前記溶融混合物を鋳造する工程と、
    を含む方法。
  15. 鋳造する工程の後に、合金が約250℃〜350℃の温度の熱処理を受ける、請求項14に記載の方法。
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