JP2020176977A - 皮膚バリア機能に与える影響の評価方法 - Google Patents

皮膚バリア機能に与える影響の評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】非侵襲的で、被験者に対して負担が少なく安全、簡便かつ短時間に、皮膚に接触する物品又は物質が皮膚バリア機能に与える影響を評価し得る方法を提供する。【解決手段】以下の工程(a)〜(c)を含む、皮膚に接触する物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法;(a)被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させる工程、(b)前記接触解除後に当該ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定する工程、(c)前記細胞間脂質の分子会合状態を基準値と比較し、前記被験物品又は物質が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する工程。【選択図】なし

Description

本発明は、被験物品又は物質が皮膚バリア機能に与える影響を評価する方法に関する。
皮膚は、体内からの水分や生体成分の損失、並びに外部からの異物の進入を防ぐ機能を有している。このような機能は一般に、「皮膚のバリア機能」と呼ばれている。皮膚のバリア機能は主に、皮膚の最外層である角層が担っている。
健常な皮膚の一般的性質として、角層の水分量は皮膚表面で約20%〜30%であることが知られている。深さ方向へ進むにつれ徐々に水分量は増加し、顆粒層では水分量は約70%となる。そして、角層は人の目に触れる部分であるため、化学物質などの異物が皮膚に侵入した場合、炎症などの肌トラブルが一目瞭然で認識される。
おむつ、生理用品などで皮膚を被覆すると接触性皮膚炎の発症リスクが高まることが報告されている。実際に、多くの女性が生理用品などの使用期間中にかゆみやかぶれなどに悩んでいる。同様に、乳幼児もおむつかぶれが多発していることが報告されている。これらはサニタリー製品による非アレルギー性の接触性皮膚炎とされ、消費者が抱える健康上の大きな悩みである。
サニタリー製品被覆による接触性皮膚炎のメカニズムとして、1)サニタリー製品の被覆によって尿、経血や汗などの液体が直接皮膚に接触したり、水分蒸散が抑制されたりすることで角層が水和する。2)角層が水和すると物質浸透性が亢進し、すなわち外部からの刺激物質が浸透しやすくなり、表皮で炎症が起こると推察されている(非特許文献1〜2)。
従来、皮膚の物質浸透性の変化は、ニコチン酸メチルを皮膚に塗布し、それが有する血管拡張作用により誘導される紅斑に基づきその浸透性を評価する方法によって把握されていた(非特許文献1、3〜4)。しかしながら、紅斑は、被検者の皮膚色などの皮膚状態によって判断が困難な場合もある。また、被験者の皮膚にニコチン酸メチルを塗布すること自体が負担となる可能性もある。
また、皮膚の物質浸透性を担う皮膚バリア機能を、被験者に負担をかけることなく非侵襲的に評価する方法が提案されている(特許文献1、2)。この方法では、皮膚バリア機能低下に伴う物質浸透性の変化を、角層厚の変化や角層内における開口部の出現といった角層構造の変化を指標として、2光子励起顕微鏡を用いて非侵襲的に評価している(特許文献1)。同様に、皮膚バリア機能低下に伴う物質浸透性の変化を、角層の水分量や水分布の変化を指標として、ラマン分光顕微鏡を用いて非侵襲的に評価している(特許文献2)。
特許第6326558号公報 特許第6326557号公報
Zhai H, Maibach HI. Occlusion vs. skin barrier function. Skin Research and Technology 2002: 8: 1-6. Schafer P, Bewick-Sonntag C, Capri MG, Berardesca E. Physiological changes in skin barrier function in relation to occlusion level, exposure time and climatic conditions Skin Pharmacology and Applied Skin Physiology 2002; 15: 7-19. Berardesca E, Cespa M, Farinelli N, Rabbiosi G, Maibach H. In vivo transcutaneous penetration of nicotinates and sensitive skin. Contact Dermatitis 1991; 25: 35-38. Zimmerer RE, Lawson KD, Calvert CJ. The effects of wearing diapers on skin. Pediatric Dermatology 1986; 3: 95-101.
本発明は、非侵襲的で、被験者に対して負担が少なく安全、簡便かつ短時間に、皮膚に接触する物品又は物質が皮膚バリア機能に与える影響を評価し得る方法を提供することに関する。
本発明者は、ヒト皮膚に対する長時間の水接触が、角層バリア機能与える影響を非侵襲で検討したところ、水和による細胞間脂質の分子会合状態の変化が、皮膚への物質浸透性と高い関連性があることを見出し、これを指標として、皮膚に接触する物品又は物質が皮膚バリア機能に与える影響を評価できること、皮膚への物質浸透性と高い関連性のある細胞間脂質の分子会合状態を指標として皮膚バリア機能を評価できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の1)〜3)に係るものである。
1)以下の工程(a)〜(c)を含む、皮膚に接触する物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法;
(a)被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させる工程、
(b)前記接触解除後に当該ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定する工程、
(c)前記細胞間脂質の分子会合状態の測定値を基準値と比較し、前記被験物品又は物質が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する工程。
2)被験物品又は物質のヒト皮膚への接触による当該皮膚の細胞間脂質の分子会合状態と当該皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、当該情報に基づき被験物品又は物質の接触後の皮膚の細胞間脂質の分子会合状態から、被験物品又は物質が皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
3)ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定し、基準値と比較する工程を含む、皮膚バリア機能の評価方法。
本発明によれば、被験者の細胞間脂質の分子会合状態の変化から、皮膚に接触する物品又は物質が皮膚のバリア機能へ与える影響を、非侵襲的で、被験者に対して負担が少なく安全、簡便かつ短時間に知ることができる。さらに細胞間脂質の分子会合状態から、被験者の皮膚バリア機能の状態を知ることができる。
水負荷の方法を示す模式図。 角層の水分量の変化。(A)水負荷前(D1)と水負荷直後(D2)の水分布の変化;◇:D1、△:D2(角層全体の水分布:外から負荷した水(重水)と生体の水を合わせたもの)、□:D2(外から負荷した水(重水))、(B)水負荷前(D1)と解除から24時間後(D3)の水分布の変化;◇:D1、■:D3。 皮膚への水分負荷前の2光子励起顕微鏡を用いて観察した角層の構造を示す、皮膚の深さ方向の連続写真(図面代用写真)である。なお図3において、白抜きの矢印は細胞核を示す。 24時間水負荷した後の、2光子励起顕微鏡を用いて観察した角層の構造の変化を示す、皮膚の深さ方向の連続写真(図面代用写真)である。なお図4において、白矢印は開口部の存在部位を示す。 水負荷から解除後から24時間後の2光子励起顕微鏡を用いて観察した角層の構造の変化を示す、皮膚の深さ方向の連続写真(図面代用写真)である。なお図5において、白抜きの矢印は細胞核を示す。
従来、サニタリー製品の被覆によって尿、経血や汗などの液体が直接皮膚に接触したり、水分蒸散が抑制されたりすることで角層が水和すること、さらに角層が水和すると物質浸透性が亢進することが報告されている(前記非特許文献1、2)。
後述する実施例に示すとおり、角層水和(水負荷)による物質浸透性(ニコチン酸メチルの浸透性)の亢進は、水和が解除された後もその亢進状態が継続することが明らかにされた。一方、角層水和の状態解析より、角層水分量や断面像から水負荷直後に角層が強く水和することが確認されたが、水和解除後にはこれらは速やかに回復することが示された。これに対して、細胞間脂質の分子会合状態(パッキング)は水負荷直後、及び解除から24時間後のいずれにおいても水負荷前と比較して低下、すなわちパッキングが疎であり、物質浸透性の亢進とその挙動がよく似ていた。よって、細胞間脂質の分子会合状態が低下することで、物質浸透性が亢進した可能性が示唆され、細胞間脂質の分子会合状態を指標として、物質浸透性が評価でき、皮膚バリア機能に与える影響を評価できると考えられる。
また、サニタリー製品の被覆によって角層が水和する機会に晒されやすい皮膚部位では角層間脂質の分子会合状態が疎となり、バリア機能か低下した状態(物質浸透性が更新した状態)にあることが示唆され、細胞間脂質の分子会合状態を指標として皮膚バリア機能を評価できると考えられる。
したがって、本発明の皮膚に接触する物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価は、被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させ(工程a)、接触解除後に当該ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定し(工程b)、当該細胞間脂質の分子会合状態の測定値を基準値と比較し、当該比較結果に基づいて評価する(工程c)、ことにより行われる。
また、皮膚バリア機能の評価は、ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定し、当該測定値を基準値と比較することにより行われる。
本発明において「バリア機能」とは、主として皮膚外部から内部への物質の浸透性を指す。
本発明において、被験物品又は物質を接触させる「ヒト皮膚」としては、性別や年齢は特に限定されないが、健常者の皮膚、すなわち、被験物品又は物質を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒトの皮膚であるのが好ましく、吸収性物品を使用する部位の皮膚であることが好ましい。また、皮膚バリア機能を評価する「ヒト皮膚」としては、健常者の皮膚であれば性別や年齢は特に限定されないが、吸収性物品の使用によって被覆される部位の皮膚であることが好ましい。
本発明の評価対象である皮膚に接触する物品、すなわち被験物品となり得る物品としては、皮膚に接触して湿潤状態をもたらすような物品が挙げられ、例えば、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、蒸気温熱具、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク、ゴム手袋などが挙げられる。
また、皮膚に接触する物質、すなわち被験物質となり得る物質としては、皮膚との接触や皮膚への適用により湿潤状態をもたらすような物質が挙げられ、例えば水若しくは水蒸気、化粧料、保湿剤若しくは外用剤、蒸気温熱具に含まれる有効成分や薬効成分、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び生体由来の分泌物や排泄物である尿、汗、経血、便などが挙げられる。
工程aにおけるヒト皮膚への被験物品又は物質の接触は、被験物品又は物質を一定時間継続してヒトの皮膚へ接触することが挙げられる。
接触時間は適宜設定することができるが、例えば、12時間以上48時間以下、好ましくは16時間以上36時間以下、より好ましくは20時間以上30時間以下、さらに好ましくは23時間以上25時間以下である。
被験物品又は物質のヒト皮膚への接触解除後に、被験物品又は物質を接触させたヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態が測定される(工程b)。
ここで、「接触解除後」とは、被験物品又は物質の皮膚への接触を解除した直後の他、接触解除後一定時間経過後が挙げられる。一定時間としては、好ましくは接触解除後6時間以上42時間以下であり、具体的には接触解除後6時間、12時間、24時間、36時間が挙げられ、より好ましくは接触解除後12時間以上36時間以下であり、さらに好ましくは18時間以上30時間以下である。接触解除直後は角層が水和により膨潤、すなわち角層厚が増加している場合もあるため、深さ方向の細胞間脂質の分子会合状態の正確な比較が難しいことがある。よって、接触を解除した直後ではなく、接触解除後一定時間経過した後のほうが、正確に深さ方向の比較ができるため好ましい。
また、測定は、被験物品又は物質を接触させた部位の皮膚に対して行うことが好ましい。
本発明において、「細胞間脂質の分子会合状態」(「細胞間脂質の分子会合構造」とも称される)とは、細胞間脂質のパッキング状態を意味し、詳細には、ラメラ構造を形成する細胞間脂質において、ラメラ方構造の疎水ドメインにおける炭素鎖の並び方すなわち側方充填構造を指す。斯かる側方充填構造は、密に炭素鎖が充填されている直方晶構造と、疎に炭素鎖が充填されている六方晶構造が知られており、本発明の細胞間脂質の分子会合状態にはそれらの構造を包含する。
なお、細胞間脂質は、角質細胞の周囲を取り囲む脂質であり、セラミド、コレステロール、脂肪酸などからなる。細胞間脂質はラメラ構造を形成し、長周期ラメラ構造と短周期ラメラ構造が存在する(Van Smeden J, Janssens M, Gooris GS, Bouwstra JA. The important role of stratum corneum lipids for the cutaneous barrier function. Biochimica et Biophysica Acta - Molecular and Cell Biology of Lipids. 2014; 1841; 295-313.)。しかし本発明は、特定の周期の構造に限定されるものではない。
細胞間脂質の分子会合状態は、X線回析、電子線回析、フーリエ変換IR(FT−IR)、電子顕微鏡観察、ラマン分光法などを用いて測定することができるが、本発明においては、皮膚試料を剥離することなく非侵襲で測定できる点、及びハイスループットである点、及び皮膚表面に存在する皮脂による妨害を回避できる点から、共焦点ラマン分光法を用いて測定するのが好ましい。
ラマン分光法を用いて角層のスペクトルを測定し、それに基づき細胞間脂質の分子会合状態を評価する手段は、例えば特開2013−61284号公報に記載の方法に従って行うことができる。
すなわち、ラマン分光により皮膚の角層のスペクトルを測定し、測定したスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去し、細胞間脂質に特異的な信号(CH対称伸縮振動に由来するスペクトル中2850cm−1付近で検出される信号、及び/又はCH逆対称伸縮振動に由来するスペクトル中2880cm−1付近で検出される信号)を抽出したスペクトルを得、これに基づいて細胞間脂質の分子会合状態を評価することができる。
ヒトの角層のラマンスペクトルを測定した場合、細胞間脂質のCH伸縮振動由来の信号(2850cm−1付近の信号と2880cm−1付近に出現)と、タンパク質のCH伸縮振動に由来する信号(2930cm−1付近に出現)は、一部が重複した波数領域で観察される。そのため、タンパク質、脂質及び水を主要構成成分とする角層のラマンスペクトルを測定すると、タンパク質及び脂質にそれぞれ由来とする信号が重畳したスペクトルが得られる。そこで、角層のラマンスペクトルからタンパク質のCH伸縮振動の影響を除去して、細胞間脂質由来の信号を正確に抽出する必要がある。特開2013−61284号公報に記載の通り、角層から細胞間脂質などの油性成分とアミノ酸などの水溶性成分を除去した後の脱脂角層に含水させた含水脱脂角層モデルのラマンスペクトルを解析すると、該ラマンスペクトル中のCH伸縮振動に由来する信号の極大吸収波長が、角層のラマンスペクトル中のCH伸縮振動に由来する信号の極大吸収波長とほぼ一致する。よって、同公報に従って角層のラマンスペクトルから含水脱脂角層の寄与分を除去することで、細胞間脂質に特異的な信号を抽出することができる。この場合、角層のラマンスペクトルの信号強度と含水脱脂角層モデルのラマンスペクトルの信号強度は必ずしも一致しないため、ラマンスペクトル中2930cm−1付近に出現する、CH伸縮振動由来の信号強度に基づき、両スペクトルを規格化してから抽出することで、細胞間脂質に特異的な信号を正確に抽出することができる。このように抽出した細胞間脂質に関する2つの信号を指標として、細胞間脂質の分子会合構造を評価することができる。
細胞間脂質がラメラ構造を形成し測定部位における細胞間脂質の分子間相互作用が大きくなると細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性が低下し、2880cm−1付近の信号が大きくなる。これに対して、測定部位における細胞間脂質の分子間相互作用が小さくなると細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性が上昇し、2880cm−1付近の信号が小さくなる。以下に示す2850cm−1付近の信号に対する2880cm−1付近の信号の強度比(以下、R値と表記)が、細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性や細胞間脂質の結晶構造を反映することが知られている(P.R.Carey ラマン分光学―基礎と生化学への応用 共立出版 1984)。
R値を算出し、層構造形成の有無、細胞間脂質の会合状態、細胞間脂質を構成するアルキル鎖の運動性、細胞間脂質の結晶構造などを評価する。R値が大きくなると、細胞間脂質の分子会合状態は秩序度が高い状態(パッキングが密)であり、R値が小さくなると、細胞間脂質の分子会合状態は秩序度が低い状態(パッキングが疎)となる。
よって、本発明における細胞間脂質の分子会合状態は、斯かるR値を指標として評価することができる。
当該細胞間脂質の分子会合状態は、角層の任意の深さ(皮膚表面からの深さが0〜40μm)において測定されるが、本発明においては、皮膚表面からの深さが0〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは2〜6μmにおける角層の細胞間脂質の分子会合状態を測定するのが好ましい。
測定された細胞間脂質の分子会合状態の測定値は、基準値と比較し、被験物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響が評価される。一方、皮膚バリア機能の評価においては、評価部位の細胞間脂質の分子会合状態の測定値が基準値と比較され、その比較結果に基づいて皮膚バリア機能が評価される。
基準値は、例えば以下のように設定することができる。しかし本発明は、これに制限するものではない。
皮膚バリア機能が影響を受け物質透過性が亢進状態となっている皮膚、例えば皮膚のバリア機能と皮膚の水和との関連性を評価する水負荷試験において水負荷解除から24時間経過後のR値(平均値)を基準点として基準値を設定する。基準点をそのまま基準値としても良いし、基準点の近傍の任意の値を基準値としても良い。または、皮膚のバリア機能と皮膚の水和との関連性を評価する水負荷試験における水負荷解除から24時間経過後のR値に関する標準偏差(SD)等の統計数値を用い、基準点(R値の平均値)を中心とした上下の一定範囲(例えばSD、1/2SD、1/3SD等の範囲)を物質透過性の亢進状態に関連するR値の数値範囲と定義し、この数値範囲の上限又は下限を基準値と設定することも可能である。
基準値を用いた物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法としては、例えば、被験物品又は物質接触解除後のR値の平均値が基準値以下の場合(又は基準値より小さい場合)、当該被験物品又は物質により、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、すなわち「バリア機能が低下した」と評価することができる。また、基準値と同等あるいは基準値以上の場合(又は基準値より大きい場合)を「影響がない」と評価することができる。
また、基準値を用いた皮膚バリア機能の評価方法としては、例えば、評価部位の皮膚のR値が基準値以下の場合(又は基準値より小さい場合)、当該部位は皮膚外部から内部へ物質が浸透し易い、すなわちバリア機能が低下した状態にあると評価することができる。また、基準値と同等あるいは基準値以上の場合(又は基準値より大きい場合)、バリア機能は低下していない、あるいは正常な状態にあると評価することができる。
あるいは基準値として、被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させる前を基準点として、接触前に測定したR値を基準値として設定することもできる。この場合、物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法としては、例えば、被験物品又は物質接触解除後のR値が基準値よりも有意に低下した場合、当該被験物品又は物質により、皮膚外部から内部への物質の浸透性が亢進した、すなわち「バリア機能が低下した」と評価することができる。また、被験物品又は物質接触解除後のR値が基準値よりも有意に増加した場合、当該被験物品又は物質により、皮膚外部から内部への物質の浸透性が低下した、すなわち「バリア機能が向上した」と評価することができる。そして、被験物品又は物質接触解除後のR値と基準値との間で有意な差がない場合、「バリア機能には影響がない」と評価することができる。
本発明の評価方法を利用することにより、吸収性物品(脱脂綿、生理用ナプキン、紙おむつ、布おむつ、トレーニングパンツ、成人用おむつ、汗止めパット、尿取りパット、産褥パット、パンティーライナー、吸収パットなど)、皮膚化粧料若しくは外用剤、創傷保護材(絆創膏、ガーゼ、包帯など)、マスク若しくはゴム手袋、蒸気温熱具などの製品の性能を評価することができる。例えば、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋については、これらの着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品の性能(例えば、皮膚トラブルの起こしやすさ)を、安全で簡便に短時間で評価できる。なお、吸収性物品の評価の際には、生理食塩水や擬似尿などを含ませた吸収性物品を評価に用いてもよい。
本発明の方法によれば、ヒトの皮膚にニコチン酸メチルなどの物質を塗布する必要なく、物質の浸透性を評価することができる。具体的には、吸収性物品、創傷保護材、並びにマスク若しくはゴム手袋について、現行品と改良品との比較の際に、装着前後の皮膚の細胞間脂質の分子会合状態から物質浸透性を推し量ることができる。このようにすれば、吸収性物品などの開発を効率よく行うことができる。
また、本発明の方法によれば、例えば、常時吸収性物品を使用している部位に対して、細胞間脂質の分子会合構造を評価することで、ニコチン酸メチルを塗布して物質透過性を確認することなく、皮膚バリア機能を判断できる。吸収性物品を常に被覆している部位は尿、便、経血などの刺激物質が接触しやすい状況にある。皮膚バリア機能が低下していること(刺激物質の透過性が亢進していること)を本発明の評価方法を利用して評価することで、炎症が起こる前に、刺激物質を取り除くための処置、例えば水洗い等や、角層水和を抑えるための処置、例えば一定時間吸収性物品を装着しないなどを講ずるようアドバイスを与えることができる。
また、皮膚の水和状態を利用して、化粧料、外用剤などに含まれる有効成分を皮膚に浸透させることができることが報告されている(例えば、J. Inve st. Dermatol., 1963, vol. 41, p. 307-311参照)。よって、化粧料、外用剤、蒸気温熱具などの皮膚への塗布、貼付又は着用前後の皮膚のバリア機能を本発明の評価方法を利用して評価することで、これらの製品に含まれる有効成分などの皮膚への浸透性を、安全で簡便に短時間で評価できる。また、有効成分の浸透性を促進させるにはどの程度の着用時間が適しているか評価するができる。また、被覆する素材に関してもどの素材が最も促進しやすいかを評価することができる。
本発明の、被験物品又は物質が、皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステムは、被験物品又は物質のヒト皮膚への接触による当該皮膚の細胞間脂質の分子会合状態と当該皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、当該情報に基づき被験物品又は物質の接触後皮膚の細胞間脂質の分子会合状態から、前記影響を評価する。
本発明のシステムはいわゆるコンピュータであり、例えば、バスで相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インタフェース等を有する。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。入出力インタフェースは、表示装置や入力装置等のようなユーザインタフェース装置と接続される。入出力インタフェースは、ネットワークを介して他のコンピュータと通信を行う通信装置等と接続されてもよい。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の評価方法、及び評価システムを開示する。
<1>以下の工程(a)〜(c)を含む、皮膚に接触する物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法;
(a)被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させる工程、
(b)前記接触解除後に当該ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定する工程、
(c)前記細胞間脂質の分子会合状態の測定値を基準値と比較し、前記被験物品又は物質が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する工程。
<2>細胞間脂質の分子会合状態の測定値が基準値より低下した場合、バリア機能が低下したと評価する、<1>の方法。
<3>皮膚バリア機能が、皮膚外部から内部への物質浸透性である、<1>又は<2>の方法。
<4>皮膚に接触する物品又は物質が、皮膚への接触によって皮膚に湿潤状態をもたらす物品又は物質である、<1>〜<3>のいずれかの方法。
<5>皮膚に接触する物品又は物質が吸収性物品又は創傷保護材である、<4>の方法。
<6>被験物品又は物質のヒト皮膚への接触による当該皮膚の細胞間脂質の分子会合状態と当該皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、当該情報に基づき被験物品又は物質の接触後の皮膚の細胞間脂質の分子会合状態から、被験物品又は物質が皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
<7><1>〜<6>において、ヒト皮膚は、好ましくは被験物品又は物質を負荷していない状態で正常なバリア機能を有するヒトの皮膚であり、より好ましくは、吸収性物品を使用する部位の皮膚である。
<8><1>〜<5>において、工程(b)の接触解除後は、好ましくは接触解除後6時間、12時間、24時間又は36時間経過後であり、好ましくは12時間〜24時間経過後である。
<9><1>〜<6>において、細胞間脂質の分子会合状態は、皮膚表面からの深さが0〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは2〜6μmにおける角層の細胞間脂質の分子会合状態である。
<10>ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定し、基準値と比較する工程を含む、皮膚バリア機能の評価方法
<11>細胞間脂質の分子会合状態の測定値が基準値より小さい場合、皮膚バリア機能は低下した状態にあると評価する、<10>の方法。
<12>皮膚バリア機能が、皮膚外部から内部への物質浸透性である、<10>又は<11>の方法。
<13><10>〜<12>において、ヒト皮膚は、吸収性物品の使用時に被覆される部位のヒト皮膚である。
<14><10>〜<13>において、細胞間脂質の分子会合状態は、皮膚表面からの深さが0〜10μm、好ましくは1〜8μm、より好ましくは2〜6μmにおける角層の細胞間脂質の分子会合状態である。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<水負荷試験>
(1)水負荷方法
健常な男性9名(20代〜50代)を被験者とした。前腕内側を対象とし水負荷部位とコントロール部位(負荷なし)を左右の前腕内側にそれぞれ1ヶ所ずつ設け、試験参加者ごとにランダムに割り付けた。負荷時間は24時間負荷とした。水は、蒸留水(UltraPure(登録商標) DNase/RNase-Free Distilled Water Invitrogen(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)を用いた。ただし、ラマン分光法を用いた水分布の測定の際には重水(Deuterium oxide deuteration degree min. 99.9% for NMR spectroscopy MagniSolv(登録商標)、Merck Life Science)を使用した。
水負荷方法は以下の通りである。プラスチック製のカップ(直径30mm、高さ8mm、カップの底面に水の注入が可能となるよう直径5mm程度の穴を開けた)を皮膚表面に被せて密着させ、テガダーム(登録商標) トランスペアレント ドレッシング(スリーエムジャパン)を用いてカップ全体を覆うように皮膚に貼りつけた(図1)。その後、カップの底面の穴のテガダームを破りシリンジを用いて水を注入し、再度テガダームを貼り、水漏れを防いだ。なお、水が漏れた場合などには試験参加者がカップの底面の穴から同様の操作を行い、水を補給した。
(2)測定項目及び測定方法
1)経表皮水分蒸散量(TEWL)
Tewameter TM300(Courage+Khazaka)を使用し、試験部位1ヶ所に対して3回測定した。
2)物質透過性の評価(ニコチン酸メチル水溶液負荷による紅斑判定)
0.01%ニコチン酸メチル水溶液7.2μlを含浸させたろ紙(φ5mm)を30秒間貼付し、皮膚血流上昇に伴う紅斑を誘導し、20分後に生じた紅斑を下記の評価基準に従い目視判定を行った。目視判定により得られた紅斑スコアから、各水分負荷量でのニコチン酸メチルの浸透性を評価した。
(評価基準)
スコア0:反応なし。
スコア0.5:若干紅い。
スコア1:ろ紙の面積の半分以上紅い。
スコア2:ろ紙を当てた面積がはっきり紅い。
スコア3:ろ紙の面積より大きく紅い。
スコア4:紅みがろ紙の面積より大きく、腫れている。
3)水分布
共焦点ラマン分光顕微鏡(商品名:ナノファインダー30、東京インスツルメンツ社製)を用い、以下の測定条件で、皮膚水分量を測定した。
(測定条件)
励起波長:633nm
積算時間:3秒/1スペクトル
回析格子:150本/mm
対物レンズ:100倍、油浸、NA=1.3(ニコン)
深さ方向スキャン条件:2μm間隔で計21点
1部位あたり5回測定
共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた測定で得られたラマンスペクトルから水分量を近似的に算出する方法は、特開2012−50739号公報に記載の方法を参照して行った。
すなわち、ラマン分光法による皮膚の水分量の測定は、同公報に記載のとおり、皮膚試料をタンパク質、水、及び脂質の三成分系で近似し、脂質由来のラマンスペクトルの寄与分を、皮膚の実測ラマンスペクトルから差し引いた補正ラマンスペクトルを作成し、タンパク質由来のCH伸縮信号強度に対する水のOH伸縮振動由来の信号強度の比率に基づき皮膚水分量を測定することにより行われる。
具体的には、まず、ベースラインの蛍光の補正をおこなう。測定した皮膚のラマンスペクトルから蛍光によるベースラインのゆがみを排除するため、2000〜2800cm-1及び3800〜4200cm-1の波数領域のデータより、最小二乗法をもちいた三次関数近似に基づきベースラインを予測し、これを差し引く。
蛍光の影響を排除した補正後の皮膚のスペクトルを、同公報記載の式(4)を用いて脱脂乾燥角層、モデル皮脂、モデル細胞間脂質及び水のラマンスペクトル4つの重ねあわせで近似する。すなわち、最小二乗法により前記式(4)における係数C1〜C4を決定する。このときC2SEB(ω)が皮脂の寄与分、C3CER(ω)が細胞間脂質の寄与分となる。以下に示すモデル脂質のラマンスペクトルにおけるモデル脂質の寄与量を最小二乗法で見積もる。
そして、皮脂の寄与分及び細胞間脂質の寄与分を差し引いた同公報記載の式(5)で表される補正ラマンスペクトルを得る。次に、式(5)で表される補正ラマンスペクトルにおけるCH伸縮信号(波数領域:2800〜3030cm-1)のピーク面積に対するOH伸縮振動のピーク面積(波数領域:3100〜3750cm-1)の比率を算出する。そして、ラマンスペクトルにおけるタンパク質のCH伸縮振動由来の信号強度に対する水のOH伸縮振動由来の信号強度の比率と、該脱脂皮膚試料に含まれる水分量とタンパク質量の比とをプロットして得られる検量線(例えば、同公報の図5参照)に基づいて皮膚の水分量(質量%)を算出する。
前述の脱脂乾燥角層、モデル皮脂、モデル細胞間脂質の調製方法を以下に示す。
脱脂乾燥角層
健常男性(40代)のかかとより角層片をナイフで切除後、クロロホルムーメタノール(1:1)に一昼夜浸漬する。その後角層片試料を取り出し、自然乾燥させることで、脂質等の油溶性成分と、アミノ酸などの水溶性成分を除去した脱脂乾燥角層を調製する。
モデル皮脂
下記成分を混合し、モデル皮脂を調製する。
オレイン酸(関東化学製):17.4質量%
トリオレイン酸(関東化学製):43.4質量%
オレイン酸デシル(和光純薬製):26.5質量%
スクワレン(関東化学製):12.7質量%
モデル細胞間脂質
non-hydroxy fatty cermaide(シグマ社製)をモデル細胞間脂質とする。
次いで、深さ方向の皮膚内の水分量分布をグラフにプロットした。その結果を図2に示す。X軸は皮膚の深さ(μm)、Y軸は水分量(wt%)を示す。さらに、IFSCC Magazine, 2009, vol. 12(1), p. 9-15に記載の方法に準じて、ラマン分光法により取得した水分プロファイルを2本の1次直線で近似し、その交点までの深さを初期の角層厚として定義した。
ラマン分光法による皮膚の水分量の測定で、外部から負荷した水の浸透深さや浸透量を解析するには、特開2010−12076号公報に記載の方法を参照して行うことができる。
すなわち、重水を皮膚に接触、浸透させることで、外部から侵入した水(重水)と、もともと皮膚内部に存在した水(軽水)を別々に定量することで、皮膚の水の動態を解析する。重水を浸透させた皮膚のラマンスペクトルを測定し、得られたラマンスペクトル中の信号強度より測定する。測定したラマンスペクトルの中には重水由来の信号の他に、軽水由来の信号も観察される。この軽水は皮膚内部にもともと存在していたものであり、皮膚外部から浸透した水分量の他に、皮膚内部にもともと存在していた水分量も測定できる。
以下、ラマン分光法による皮膚内部の水の動態の測定方法について詳細に説明する。角層の主要成分は水(軽水)とタンパク質であるため、二成分系で近似すると、特開2010−12076号公報に記載の式(1)で表される。重水のOD伸縮信号由来の信号とタンパク質のCH伸縮振動に由来する信号の強度比は間接的に軽水のOH伸縮振動由来のピークと重水のOD伸縮振動由来のピークの強度比より求め、同公報に記載の式(4)で表される。角層の成分をタンパク質、軽水、重水の三成分で近似した場合、軽水分量CH2O(mass%)及び重水分量CD2O(mass%)は同公報に記載の式(5)(6)で表される。重水はH(水素)がD(重水素)になり、分子量が増加したので密度も上昇する。1gの軽水と1.11gの重水は同じ体積を示すので、これらを同等として扱い、重水を軽水に換算した場合の濃度C‘D2O、すなわち重水分量を同公報に記載の式(8)で表し、軽水分量を同公報に記載の式(7)と定義した。
4)角層構造の評価(開口部面積比の算出)
2光子励起顕微鏡(商品名:DermaInspect、JenLab社製)を用い、以下の条件で角層の深さ方向の断面画像を取得した。
(観察条件)
励起光:780nm
1画像あたりの取得時間:3.7秒
画像のピクセル寸法:256×256ピクセル
視野:120×120μm
1部位につき近傍の3視野計測
深さ方向の連続画像のステップ間隔:
水負荷前と解除から24時間後は、表層から1.2μm毎に顆粒層が現れるまで
水負荷直後は、表層から2.3μm毎に顆粒層が現れるまで
レーザーパワー:
水負荷前と解除から24時間後は、深さ0μm、7mWから深さ25μm、25mW まで直線的に増加、25μm以降は25mWで一定
水負荷直後は、深さ0μm、15mWから深さ15μm、23mW まで直線的に増加、さらに、深さ58μm、50mWまで直線的に増加
2光子励起顕微鏡を用いた撮影画像から角層構造の変化を評価する方法は、特許文献1に記載の方法に順じて行った。
すなわち、水負荷前と、水負荷の解除後、並びに解除から24時間後に対象の皮膚の角層構造を2光子励起顕微鏡の対物レンズに油浸オイル(Immersol 518, ZEISS)を滴下し、対物レンズとカバーガラスを密着させた。次に、カバーガラスにコンタクト剤としてJohnson’s baby ベビーオイル(ジョンソン&ジョンソン)を5μl程度滴下した後、皮膚を密着させて観察を行った。
角層は主に450nmにピークを持つケラチンなどの自家蛍光により白く見える。角層の表層では角層の領域が白く、すなわち皮丘領域が観察される。一方、皮丘以外の部位はコンタクト剤が存在する層、すなわち自家蛍光が存在しないため黒く観察されるため、皮丘と皮溝が識別できる。深さ方向の観察が進むにつれ皮丘領域の面積は増加し、さらに内部に進み深さ方向の連続画像を取得していくと、細胞核が黒く見え、その周囲にミトコンドリア由来のNADHの自家蛍光が粒状に見える。すなわち、細胞核やNADHの自家蛍光が検出された部位を顆粒細胞と識別できる。このようにして、顆粒層まで撮影を行った。
特許文献1で報告されているように、皮膚に水分を負荷すると角層構造に変化が生じ、角層内部に穴状や楕円状の構造が現れる。この変化は、2光子励起顕微鏡により取得した角層の断面画像中、皮丘領域に現れる開口部として観察される。
そして、取得画像中の皮丘領域の面積の総和と開口部の面積の総和を計測し、皮丘全体の面積に占める、開口部の総面積の割合を100分率で計算して開口部面積比を算出し、角層構造の変化の指標として用いることができる。
5)パッキング(共焦点ラマン使用)
共焦点ラマン分光顕微鏡を用いた測定で得られたラマンスペクトルから細胞間脂質の分子会合状態を評価する方法は、特開2013−61284号公報に記載の方法を参照して行った。実際の測定条件を以下に記載する。
共焦点ラマン分光顕微鏡(商品名:ナノファインダー30、東京インスツルメンツ社製)
(測定条件)
励起波長:633nm
積算時間:60秒/1スペクトル
回析格子:600本/mm
対物レンズ:100倍、油浸、NA=1.3(ニコン)
1部位あたり5回測定
深さ方向スキャン条件:5μm
(3)測定のタイミング
測定の時期は、水負荷前(D1)、水負荷解除直後(D2)、水負荷解除から24時間後(D3)の連続した3日間とした。
1)D1
i)試験部位を市販の洗顔料で洗浄後、キムタオルでふき取った。測定室(温度24℃、湿度40%)へ入り20分間順化した。
ii)試験部位の初期値を測定した。
iii)24時間負荷を開始した。
2)D2
i)コントロール部位のみ市販の洗顔料で洗浄後、測定室へ入室し20分間順化した。
ii)24時間負荷した部位を解除し、その部位をキムタオル(登録商標)で2回軽く押し当てるように拭き取り、1分後に試験部位を測定した。
3)D3
i)試験部位を市販の洗顔料で洗浄後、測定室へ入室し20分間順化した。
ii)水負荷を解除した24時間後に試験部位を測定した。
以上の3日間にわたる試験を皮膚の測定項目を変えて3回行った。各回における皮膚の測定項目並びに水負荷に使用した水の種類を以下に示す。なお、前腕内側の試験部位への水負荷は2週間以上のウォッシュアウト期間を設けて実施した。
1回目:経表皮水分蒸散量(TEWL)及び角層断面画像の取得。蒸留水を負荷。
2回目;パッキングの測定。蒸留水を負荷。
3回目;物質透過性の評価及び水分布。外からの水と生体内に存在する水を区別するため、重水を負荷。
(4)結果
結果を以下に示す。なお、統計解析にはIBM SPSSバージョン23のソフトウェアを使用した。
1)角層のバリア機能に対する影響
24時間の水負荷が角層のバリア機能に与える影響を検証した。結果を表1に示す。
表1より、ΔTEWL値(D3−D1)はコントロール−0.10(平均値)、水負荷0.77であった。ΔTEWLは水負荷すると9名中7名上昇したものの統計的に有意差は認められなかった。
2)物質浸透性に与える影響
解除から24時間後(D3)のニコチン酸メチルの浸透性を表2に示す。
表2より、コントロールと比較して有意に紅斑スコアが上昇した。
よって、水負荷解除から24時間後においても、外部からの物質の浸透が促進されていることが示された。
3)角層水和の状態に対する影響
水分布を測定した結果を図2に示す。
負荷前の角層厚を基準として、角層内水分量すなわち深さ1μmから15μmの曲線下面積;AUC(1−15μm)を求めたところ、水負荷前は712±84(AUC1−15μm)に対して直後は1294±48(AUC1−15μm)であり約1.8倍に増加した。深さ2μmの表面水分量も水負荷前は22.5±3.7(wt%)に対して直後は69.4±7.9(wt%)と約3.0倍に増加した。よって、水負荷直後は水負荷前と比較して角層中により多くの水分量が存在しているとわかった(図2(A))。水負荷解除から24時間後には、曲線下面積は729.7±77AUC(1−15μm)、表面水分量は24.3±3.5(wt%)でありいずれも水負荷前とほぼ同等の状態に戻った(図2(B))。また、角層厚に関しても、水負荷前は14.7±3.0μm、解除から24時間後は14.0±1.9μmであり、負荷前とほぼ同等に戻った。以上より、角層水分量は水負荷直後は増加するが、解除から24時間後には元に戻ることを確認し、重水も検出されなかった。重水は蒸散、拡散したと考えられる。なお、コントロール部位はいずれの測定においても変化はなかった。
4)水負荷による角層構造の変化
2光子励起顕微鏡を用いて、角層の構造変化を深さ方向で観察した結果を図3〜5に示す。水分負荷前(D1)の結果を図3に、水負荷直後(D2)の結果を図4に、解除から24時間後(D3)の結果を図5にそれぞれ示す。
図3と4に示すように、水分負荷の前後で、角層構造に開口部が観察された。図3に示すように角層は、主に450nmにピークを有するケラチンなどの自家蛍光により、白く見える。さらに内部に進み連続画像を取得していくと細胞核が黒く見え、その周囲にはミトコンドリア由来のNADHの自家蛍光が粒状に見え、顆粒細胞が出現する。水分負荷前はケラチンなどの自家蛍光が皮丘全体に均一に計測されるのに対し、図4に示すように水分負荷後では皮丘領域内に黒く抜けた開口部が計測された。図5に示すように、解除から24時間後(D3)は開口部が観察されなかった。よって、断面像の結果からも24時間の水負荷によって、角層の内部構造が大きく変化するが、解除から24時間後には回復することがわかった。
2光子励起顕微鏡により取得した角層の断面画像から皮丘全体に対する開口部面積比を算出した結果を表3に示す。なお、開口部面積比の算出には、皮膚表面からの深さが、水負荷前と解除から24時間後は2.4μmから4.8μm、水負荷直後は4.6μmから9.2μmの範囲の取得画像を使用した。
表3に示すように、角層における開口部面積比は、負荷直後(D2)に有意に増加し、皮膚の角層の構造が変化した。解除から24時間後(D3)には開口部面積比は水負荷前(D1)とほぼ同等であり、回復したことがわかった。なお、コントロール部位は変化がなかった。
5)細胞間脂質の分子会合状態(パッキング)
細胞間脂質の分子会合状態(R値)の測定結果を表4及び表5に示す。
表5に示すとおり、水処理部位のR値は、水負荷前(D1)1.24±0.06、水負荷直後(D2)1.19±0.07であり、水負荷直後は水負荷前と比較して有意に低下、すなわちパッキングが疎であった。また、表6に示すとおり、解除から24時間後(D3)1.18±0.07であり、解除から24時間後は水負荷前と比較して有意に低下、すなわちパッキングが疎であった。なお、コントロール部位はいずれの測定においても変化はなかった(表4)。
以上より、角層水和(水負荷)による物質浸透性(ニコチン酸メチルの浸透性)の亢進は、水和が解除された後もその亢進状態が継続することが明らかにされた。一方、角層水和の状態解析より、角層水分量から水負荷直後に角層が強く水和することを確認されたが、水和解除から24時間経過後にはこれらは回復することが示された。また、水負荷により現れる角層内部の構造変化に関しても、水和解除後に回復することが示された。これに対して、細胞間脂質の分子会合状態(パッキング)は水負荷直後、及び解除から24時間後のいずれにおいても水負荷前と比較して低下、すなわちパッキングが疎であった。よって、細胞間脂質の分子会合状態が低下することで、物質浸透性が亢進した状態が継続する可能性が示唆された。
すなわち、皮膚のバリア機能のひとつである物質透過性(out−in)を抑制する機能が低下したことは、刺激物質が接触すると浸透しやすい状況であるため、表皮に到達しやすく炎症をよりおこしやすい可能性であることが推測される。よって、皮膚の脆弱性を示す指標となる可能性が考えられる。被覆による皮膚の脆弱性を角層のバリア機能のひとつである水分透過性(in−out)の指標であるTEWLでは評価できなかったが、本発明によって細胞間脂質のパッキング性を計測することにより、評価できるようになった。

Claims (8)

  1. 以下の工程(a)〜(c)を含む、皮膚に接触する物品又は物質の皮膚バリア機能に与える影響の評価方法;
    (a)被験物品又は物質をヒト皮膚に接触させる工程、
    (b)前記接触解除後に当該ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定する工程、
    (c)前記細胞間脂質の分子会合状態の測定値を基準値と比較し、前記被験物品又は物質が、皮膚バリア機能に与える影響を評価する工程。
  2. 細胞間脂質の分子会合状態の測定値が基準値より低下した場合、バリア機能が低下したと評価する、請求項1記載の方法。
  3. 皮膚バリア機能が、皮膚外部から内部への物質浸透性である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 皮膚に接触する物品又は物質が、皮膚への接触によって皮膚に湿潤状態をもたらす物品又は物質である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 皮膚に接触する物品又は物質が吸収性物品又は創傷保護材である、請求項4記載の方法。
  6. 被験物品又は物質のヒト皮膚への接触による当該皮膚の細胞間脂質の分子会合状態と当該皮膚のバリア機能との関連性に関する情報を格納し、当該情報に基づき被験物品又は物質の接触後の皮膚の細胞間脂質の分子会合状態から、被験物品又は物質が皮膚のバリア機能に与える影響を評価するためのシステム。
  7. ヒト皮膚の細胞間脂質の分子会合状態を測定し、基準値と比較する工程を含む、皮膚バリア機能の評価方法。
  8. ヒト皮膚は、吸収性物品の使用時に被覆される部位のヒト皮膚である、請求項7記載の方法。
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