JP2020111538A - 成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】 成熟脂肪細胞におけるオートファジーを標的として、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療を行うこと。【解決手段】 オートファジーの抑制により、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療を行うことが可能であることを見出した。【選択図】 なし
Description
本発明は、オートファジーの抑制による、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物に関する。また、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性の評価方法に関する。さらに、本発明は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法、および当該検査に用いられる分子に関する。
代謝障害およびそれに関連するインスリン抵抗性は、先進国において絶えず増加し、生命を脅かす心血管疾患に関与してきたことから、世界規模の健康問題であった(非特許文献1〜4)。脂肪組織、特に白色脂肪組織(WAT)は、全身代謝を調節する中心として働くが(非特許文献5,6)、これは、単一の単層オルガネラである脂肪滴(LD)中に余剰エネルギーをトリグリセリドとして貯蔵すること(非特許文献7,8)のみならず、レプチンやアディポネクチンなどの複数のホルモンまたはサイトカイン(アディポサイトカインと称される)の分泌を介して、他の代謝器官の機能を調節すること(非特許文献9〜11)によって行われる。糖尿病、脂肪肝、脂質異常症は、老化と密接に関連しているため、老化プロセスの文脈における代謝合併症の機序的理解が、研究分野における重要な関心事となっている。実際、脂肪組織と老化との関連は、一連の証拠によって、さらに裏付けられている。具体的には、異所性脂質沈着および脂肪由来のホルモン変化、ならびに脂肪細胞の細胞老化(非特許文献12)といった、脂肪組織における加齢に関連した全身変化が挙げられる。糖尿病マウスの脂肪細胞では、インスリン抵抗性に関連した老化様変化が生じる(非特許文献13)。老化細胞の除去は、老化マウスの脂肪生成を回復させることから、老化個体の代謝恒常性に有益であり(非特許文献14)、これは全身性と細胞性の両方の老化が脂肪組織機能の調節に寄与していることを示唆している。しかし、結果的に脂肪細胞由来のホルモン変化および代謝性疾患を生じさせる、老化個体における脂肪細胞機能不全の直接的な原因が何であるかについては、依然として殆ど解明されていない。
オートファジーは、細胞恒常性を維持することと、神経変性(非特許文献15,16)、肝障害(非特許文献17,18)、心不全(非特許文献19)といった広い範囲の加齢性疾患を予防することにおいて中心的な役割を果たす細胞内バルク分解系である。本分野における最近の進歩により、一貫して、オートファジーが寿命および脂肪組織維持の両方にとって重要であることが示されている(非特許文献20)。年齢に伴うオートファジーの低下(非特許文献21,22)、および、基礎的オートファジーのアップレギュレーションによる寿命の延長(非特許文献23,24)は、老化の生理におけるオートファジーの関与を総括的に示している。さらに、脂肪細胞恒常性におけるオートファジーの役割は、褐色脂肪組織(BAT)内のオートファジーによるLD特異的分解(リポファジー)(非特許文献25〜27)、オートファジー欠損マウスにおける脂肪細胞分化の低下(非特許文献28,29)、若しくは、ベージュ脂肪細胞維持の低下(非特許文献30)を示す報告によって強く裏付けられている。
しかしながら、成熟脂肪細胞におけるオートファジーの基本的な役割は、殆ど解明されていない。
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本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、成熟脂肪細胞におけるオートファジーの役割を解明し、当該役割を担う分子を同定することにある。また、本発明は、当該分子を標的として、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療を行うことを目的とする。さらなる本発明の目的は、当該分子を標的として、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の検査を行うことにある。
従来、オートファジーは、幅広い加齢性疾患を抑制する上で本質的な役割を担うことが知られていた(非特許文献21、22)。そこで、本発明者は、他の加齢性疾患と同様、脂肪組織機能の低下を引き起こし得る老化脂肪細胞では、オートファジーが抑制されているという仮説を立て、それを検証した。しかしながら、驚くべきことに、老化個体の脂肪組織においては、逆に、オートファジーが促進されていることが判明した。
さらに、本発明者は、この脂肪細胞におけるオートファジーの機能と関連して、オートファジーの負の調節因子であるルビコンが、老齢マウスの脂肪細胞において抑制されていることを見出した。成熟脂肪細胞に特異的なルビコンの遺伝的欠損は、一貫して、望ましくないオートファジーの促進を引き起こし、成熟脂肪細胞における機能の低下もしくは異常とそれに起因する代謝異常(例えば、脂肪萎縮症や耐糖能異常)をもたらした。一方、脂肪生成のマスターレギュレーターであるPPARγの活性化によって脂肪萎縮症が回復した。
以上から、本発明者は、Rubiconの発現を介したオートファジーの調節が、成熟脂肪細胞の恒常性に密接にかかわっており、オートファジーの抑制やPPARγの活性化により、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療を行うことが可能であることを見出した。さらに、オートファジーの促進を指標として、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の検査を行うことも可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、より詳しくは、以下を提供するものである。
[1]オートファジーを抑制する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物。
[2]PPARγの発現または機能を促進する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物であって、成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象に投与される組成物。
[3]成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象が、成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現が抑制されている対象である、[2]に記載の組成物。
[4]被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
被検化合物と成熟脂肪細胞とを接触させる工程、および
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程、
を含み、
被検化合物がオートファジーを抑制する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
被検化合物と成熟脂肪細胞とを接触させる工程、および
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程、
を含み、
被検化合物がオートファジーを抑制する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
[5]被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および
被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconタンパク質と結合する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および
被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconタンパク質と結合する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
[6]被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubiconを発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内におけるRubiconの発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconの発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
Rubiconを発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内におけるRubiconの発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconの発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
[7]被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。
[8]成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程を含み、
オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程を含み、
オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。
[9]成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、
成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現を検出する工程を含み、
Rubiconの発現量が対照と比較して低い場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。
成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現を検出する工程を含み、
Rubiconの発現量が対照と比較して低い場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。
[10][9]に記載の方法において、Rubiconの発現を検出するための組成物であって、下記(a)または(b)を含む組成物。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
本発明によれば、オートファジーを抑制することにより、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療が可能となる。また、オートファジー活性を指標として、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の検査することも可能となる。従来、幅広い加齢性疾患を抑制する上でオートファジーを促進することが有効であると考えられてきたが、上記脂肪細胞における効果は、他の組織とは異なる、特異的な効果である。
<成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物>
本発明は、オートファジーを抑制する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物を提供する。
本発明は、オートファジーを抑制する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物を提供する。
「オートファジー」は、オートファゴソームと呼ばれる二重膜構造が細胞質の一部を隔離してリソソームと融合し、オートリソソームが形成され、その内容物が分解される、進化的に保存された細胞内メンブレントラフィック過程である。
本発明における「オートファジーを抑制する分子」としては、上記細胞内メンブレントラフィック過程を抑制する様々な分子を用いることができる。このような分子としては、例えば、オートファゴソームの形成に関与するULK複合体(ULK1/2、ATG13、FIP200、ATG101を含む)やP13K複合体I(VPS34[P13K]、p150、ATG14L、Beclin1を含む)を阻害する分子、隔離膜/オートファゴソーム膜へ結合するLC3−IIやその生成に関与する分子(例えば、LC3、LC3−I、Atg4、Atg7、Atg3)を阻害する分子、LC3−IIの隔離膜/オートファゴソーム膜への結合を促進するAtg16L1複合体(例えば、Atg16L1、Atg5、Atg12を含む)を阻害する分子、Atg16L1複合体の生成に関与する分子(例えば、Atg7、Atg10)を阻害する分子、オートファゴソームとリソソームとの融合に関与するP13K複合体II(VPS34、VPS15、UVRAG、Beclin1)を阻害する分子、およびリソソームの機能に関与する分子(例えば、液胞型プロトンATPaseやプロテアーゼなどの加水分解酵素)を阻害する分子が挙げられる(オートファジーにおけるこれら分子の役割については、「大隅ら,オートファジー 分子メカニズムの理解から病態まで, 株式会社南山堂, 第1版 2018年」を参照のこと)。
また、微小管の重合・脱重合は、オートファゴソームの成熟や、オートファゴソームとリソソームとの融合に必要であることから、その阻害剤(微小管の重合・脱重合の阻害剤)は、オートファジー阻害剤として利用可能である。
オートファジー阻害剤としては、例えば、抗マラリア薬であるクロロキンやその類縁体(例えば、ヒドロキシクロロキン、クロロキンジフォスフェート)、P13K阻害剤であるワートマニン、3−メチルアデニン、およびLY294002、プロテアーゼ阻害剤であるロイペプチン、ペプスタチンA、およびE−64d、液胞型プロトンATPase阻害剤であるバフィロマイシンA1およびコンカナマイシンA、微小管阻害剤であるノコダゾール、タキソール、およびビンブラスチン硫酸塩、ならびに、その他の多くの分子(例えば、DBeQ、GMX1778、スパウチン1、アセチルシステイン、カタラーゼ、タプシガルギン、ノルクロミプラミン、LY303511)が開発され、販売されている。
また、アルベンダゾ一ル、カルバゾクロ厶スルホン酸、カルベジロール、シナカルセ卜、クレマスチン、クロミフェン、ロラタジン、ピモベンダン、テストステロンェナント酸エステル、ゾニサミドが、オートファジー阻害効果を有することも報告されている(特開2018−002619号公報)。
オートファジーを抑制する分子は、このような公知の化合物であっても、後述の本発明の評価方法やスクリーニング方法で同定される化合物であってもよい。また、オートファジーを抑制する分子は、低分子化合物の形態でありうるが、他の形態であってもよい。
他の形態としては、例えば、核酸や抗体、具体的には、オートファジーの機序に関与する上記分子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA、上記遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に結合するRNAまたはDNA、および上記遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に結合する抗体が挙げられる。
本発明に用いる「遺伝子の転写産物に結合するRNAまたは該RNAをコードするDNA」の一つの態様は、遺伝子の転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA)または該dsRNAをコードするDNAである。dsRNAとしては、siRNA、shRNA(short hairpin RNA)、またはmiRNAが好ましい。
dsRNAは、遺伝子の配列情報を基に、例えば、それぞれの鎖を化学合成して調製することが可能である。dsRNAをコードするDNAは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)のいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスDNAと、該mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスDNAを含み、該アンチセンスDNAおよび該センスDNAより、それぞれアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させることができる。これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作製することもできる。
他の態様としては、遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAまたは該RNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)が挙げられる。アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制するが(平島および井上,「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,319−347 (1993))、本発明で用いられるアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、いずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。アンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAは、遺伝子の配列情報を基に、例えば、化学合成により調製することが可能である。
さらなる他の態様としては、遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNA、または該RNAをコードするDNAが挙げられる。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、1990年、35巻、2191ページ)。本発明においては、いずれの形態のリボザイムも利用することができる。
本発明に用いる「遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に結合するRNAまたはDNA」は、典型的には、核酸アプタマーである。核酸アプタマーとしては、生体内における安定性が高いという観点から、DNAが好ましい。
核酸アプタマーは、構造的特徴として、少なくとも1つのループ構造、デオキシグアノシン(グアノシン、グアノシンアナログを含む)を多く包含する一次構造、または、デオキシグアノシンが4量体クラスター構造(いわゆる「Gカルテット構造」)を含んでいてもよい。また、核酸アプタマーは、2本鎖からなる核酸および1本鎖からなる核酸のいずれでもよいが、1本鎖からなる核酸が好ましい。
核酸アプタマーは、当業者であれば、公知の手法を適宜選択して製造することができる。公知の手法としては、例えば、インビトロセレクション法(SELEX法)(Tuerk C. & Gold L., Science. 3;249(4968):505−510 (1990)、Green R. et al., Methods Compan Methods Enzymol. 2:75−86 (1991)、Gold L. et al., Annu Rev Biochem 64:763−97 (1995)、Uphoff K.W. et al.,, Curr. Opin. Struct. Biol. 6:281−288 (1996))が挙げられる。
上記核酸分子においては、生体内における安定性向上、標的(mRNAやタンパク質)との親和性増強、あるいはオフターゲット効果の抑制などの観点から、適宜、その一部または全部において修飾型核酸を用いてもよい。修飾型核酸としては、例えば、LNA(ロックド核酸(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2’,4’−BNA)とも称されるα−L−メチレンオキシ(4’−CH2−O−2’)BNAまたはβ−D−メチレンオキシ(4’−CH2−O−2’)BNA、ENAとも称されるエチレンオキシ(4’−(CH2)2−O−2’)BNA、β−D−チオ(4’−CH2−S−2’)BNA、アミノオキシ(4’−CH2−O−N(R3)−2’)BNA、2’,4’−BNANCとも称されるオキシアミノ(4’−CH2−N(R3)−O−2’)BNA、2’,4’−BNACOC、3’アミノ−2’,4’−BNAなどが挙げられる。
本発明に用いる「遺伝子の翻訳産物(タンパク質)に結合する抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。「抗体」には、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスが含まれる。抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的タンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495 (1975))や組換えDNA法(例えば、P.J.Delves, Antibody Production:Essential Techniques, (1997)、WILEY、P.Shepherd & C.Dean Monoclonal Antibodies, OXFORD UNIVERSITY PRESS (2000)、Vandamme A.M. et al., Eur.J.Biochem. 192:767−775 (1990))によって作製することができる。
抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が含まれる。抗体を治療薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体が望ましい。これら抗体の調製方法は、公知である(キメラ抗体;例えば、特開平8−280387号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報、ヒト化抗体;例えば、EP239400、EP125023、WO90/07861、WO96/02576、ヒト抗体;例えば、Jakobovits, A. et al., Nature 362, 255−258 (1993、LONBERG, N. & HUSZAR, D., INTERN. REV. IMMUNOL., 13, 65−93 (1995)、Marks J.D. et al., J Mol Biol. 5;222(3):581−97 (1991)、Mendez M.J. et al., Nat Genet. 15(2):146−156 (1997)、Tomizuka K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. Jan 18;97(2):722−727 (2000)、特開平10−146194号公報、特開平10−155492号公報、特許2938569号公報、特開平11−206387号公報、特表平8−509612号公報、特表平11−505107号公報)。
本発明において用いられる「オートファジーを抑制する分子」の他の一つの態様は、オートファゴソームとリソソームとの融合の抑制に関与するP13K複合体(VPS34、VPS15、UVRAG、Beclin1、Rubiconを含む)を活性化する分子が挙げられる。このような分子の好ましい態様は、Rubiconの発現または機能を促進する分子である。
「Rubicon」は、オートファゴソーム−リソソーム融合過程を阻害する、オートファジーの負の制御因子である(Matsunaga, K. et al., Nature cell biology 11, 385−396 (2009)、Zhong, Y. et al., Nat Cell Biol 11, 468−476 (2009))。本発明におけるRubiconは、その由来する生物を特に問わない。例えば、本発明の組成物がヒトを対象とする場合においては、ヒトのRubiconが標的となる。ヒトのRubiconタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:2に、該タンパク質をコードするcDNAの典型的な塩基配列を配列番号:1に示す(データベース登録番号:NM_014687.3)。また、対応するマウス、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線虫の各Rubiconタンパク質の典型的なアミノ酸配列を、順に配列番号:3〜7に示す。
なお、Rubiconの配列には、個体差や変異が生じうる。従って、本発明におけるRubiconタンパク質には、配列番号:2〜7のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、または付加されたアミノ酸配列からなり、機能的に同等なタンパク質が含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、20アミノ酸以内(例えば、10アミノ酸以内、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。また、「機能的に同等」とは、オートファジーを負に制御する機能を有することを意味する。
また、BLASTP 2.8.0+(Altschul S.F. et al., Nucleic Acids Res. 25:3389−3402 (1997)、Altschul S.F. et al., FEBS J. 272:5101−5109 (2005))のデフォルト設定での比較(Maxスコア)において、異なる種間におけるRubiconの同一性(同一アミノ酸割合)および類似性(類似アミノ酸割合)は、マウスとヒトの間で、それぞれ85%と89%(Gaps 2%)、ヒトとニワトリの間で、それぞれ73%と81%(Gaps 2%)、ニワトリとゼブラフィッシュの間で、それぞれ56%と66%(Gaps 10%)、ゼブラフィッシュとショウジョウバエの間で、それぞれ39%と57%(Gaps 6%)、ショウジョウバエと線虫の間で、それぞれ29%と47%(Gaps 6%)であった。従って、上記以外の種におけるRubiconのアミノ酸配列は、上記種のいずれかのRubiconのアミノ酸配列との間で、通常、同一性が25%以上(例えば、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上)であり、類似性が45%以上(例えば、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上)であると考えられる。従って、本発明におけるRubiconタンパク質には、配列番号:2〜7のいずれかに記載のアミノ酸配列と上記の同一性または類似性のアミノ酸配列を有し、機能的に同等なタンパク質が含まれる。ここで「機能的に同等」とは、オートファジーを負に制御する機能を有することを意味する。
「Rubiconの発現または機能を促進する分子」は、公知の化合物であってもよく、また、後述の本発明の評価方法やスクリーニング方法で同定される化合物であってもよい。
本発明に用いる「オートファジーを抑制する分子」の他の一つの態様は、ULK複合体を抑制するmTOR1(mTOR、Raptor、mLST8、pRAS40、DEPTORを含む)を活性化する分子である。mTOR活性化剤としては、例えば、MHY1485が知られている。
また、本発明は、PPARγの発現または機能を促進する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物であって、成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象に投与される組成物を提供する。ここで、「PPARγの発現または機能を促進する分子」としては、例えば、PPARγアゴニストであるチアゾリジンジオン(TZD)が挙げられる。また、イルべサルタンやテルミサルタンは、PPARγの活性化作用があることが知られている(Schupp Met al., Diabetes 54(12):3442−3452 (2005))。本発明の組成物が投与される「成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象」としては、好ましくは、成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現が抑制されている対象である。
本発明の組成物は、「成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常」の予防、改善、もしくは治療に用いられる。ここで「成熟脂肪細胞」とは、脂肪前駆細胞から分化した細胞を意味し、脂肪滴に中性脂肪やコレステロールなどの脂質を蓄えるという特性を有する。また、「成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常」としては、例えば、成熟脂肪細胞における脂質生成遺伝子の発現減少や脂肪滴の減少(トリグリセリドの減少)、成熟脂肪細胞のサイズの減少、脂肪組織の組織重量の減少、成熟脂肪細胞における過剰脂質の肝臓への移行、脂肪組織におけるアディポネクチンの減少が挙げられるが、これらに制限されない。「機能の低下」には、加齢に伴う機能の低下(老化)が含まれる。また、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常に起因する「代謝異常」としては、例えば、血漿中アディポネクチンやレプチンの減少、血漿中トリグリセリドやコレステロールの上昇、肝臓における異常な脂肪滴の形成(トリグリセリドの増加やコレステロールの増加)が挙げられるが、これらに制限されない。また、これら低下または異常が関係する疾患としては、例えば、脂肪萎縮症、耐糖能異常、糖尿病、脂肪肝、脂質異常症が挙げられるが、これらに制限されない。
なお、脂肪肝に関しては、ルビコンの肝臓特異的ノックアウトにより非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を改善することができることが報告されている(Tanaka, S. et al. Hepatology 64, 1994−2014 (2016))。これは、本発明において、ルビコンの脂肪細胞特異的ノックアウトにより、肝臓における異常な脂肪滴の形成(トリグリセリドの増加やコレステロールの増加)がみられたことと対照的である。
本発明の組成物には、人体における成熟脂肪細胞の機能異常またはそれに起因する代謝異常に対して用いられるもの、動物(例えば、実験動物、食用動物、ペットなどを含む)における成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常に対して用いられるもの、およびin vitro実験における成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常に対して用いられるもの、が含まれる。従って、本発明の組成物は、例えば、医薬組成物、飲食品(動物用飼料を含む)、あるいは研究目的(例えば、インビトロやインビボの実験)に用いられる試薬の形態であり得る。
医薬組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、注射剤、坐剤、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤などとして、非経口的または経口的に使用することができる。これら製剤化においては、薬理学上許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤などと適宜組み合わせることができる。また、リポソーム送達系などの形態で調製することもできる。
本発明の医薬組成物の投与形態としては特に制限はなく、例えば、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与および筋肉内投与、輸液による投与、直接投与(例えば、患部への局所投与)などが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、医療上の有用な特性を増進する補助部分と結合してもよい。代表的な有用な特性としては、例えば、標的領域(例えば、患部)に対する化合物の送達を促進すること、標的領域において化合物の治療濃度を持続させること、化合物の薬物動態特性や薬力学的特性を改変すること、または化合物の治療指数または安全性プロフィールを改善することなどが挙げられる。
また、本発明の医薬組成物は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療に用いられる他の組成物と併用してもよい。
本発明の組成物を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品、食品添加物、あるいは動物用飼料であり得る。飲食品は、上記のような組成物として摂取することができる他、種々の飲食品として摂取することもできる。飲食品の具体例としては、食用油、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリンなどの油分を含む製品;スープ類、乳飲料、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料、ドリンク剤、ゼリー状飲料、機能性飲料などの液状食品;飯類、麺類、パン類などの炭水化物含有食品;ハム、ソーセージなどの畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛などの水産加工食品;漬物などの野菜加工食品;ゼリー、ヨーグルトなどの半固形状食品;みそ、発酵飲料などの発酵食品;洋菓子類、和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓、氷菓などの各種菓子類;カレー、あんかけ、中華スープなどのレトルト製品;インスタントスープ,インスタントみそ汁などのインスタント食品や電子レンジ対応食品などが挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状またはゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。
飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術により実施することができる。当該飲食品においては、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療に有効な1種もしくは2種以上の成分を添加してもよい。また、他の機能を発揮する成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
本発明の組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができる。ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象とすることができる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどの哺乳類、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒルなどの鳥類などが挙げられるが、これらに制限されない。研究目的であれば、様々な実験用生物であってもよい。
本発明の組成物を投与または摂取する場合、その投与または摂取の量は、組成物の種類(医薬品、飲食品など)、対象の種類、年齢、体重、症状、健康状態などに応じて、適宜選択される。また、本発明の組成物の投与量(有効成分換算量)は、有効成分の種類に応じても異なるが、通常、0.1μg〜10mg/kg体重である。また、1日あたりの投与または摂取の回数としても、特に制限はなく、前記のような様々な要因を考慮して、適宜選択することができる。なお、特定のRNAやペプチドを発現するベクターを投与する場合には、適切な発現が保証されるようにベクターを構築して投与することが好ましい。
本発明は、このように、本発明の組成物を対象に投与する、または摂取させることを特徴とする、対象における成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療の方法をも提供する。
本発明の組成物(医薬品、飲食品、試薬など)またはその説明書は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療に用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで「製品または説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物などに表示を付したことを意味する。上記表示においては、本発明の組成物の作用機序についての情報(例えば、どのような分子を標的として、オートファジーのどの過程をどのように制御するのか、など)を含むことができる。
<被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法>
−オートファジーの抑制を指標とする方法(第一の態様)−
本実施例において、オートファジーの促進が成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を誘導することが見出された。従って、これら異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物の開発のための一つのステップとして、オートファジーを抑制する化合物を同定することは有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、被検化合物と成熟脂肪細胞とを接触させる工程、および、成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程、を含む方法を提供する。
−オートファジーの抑制を指標とする方法(第一の態様)−
本実施例において、オートファジーの促進が成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を誘導することが見出された。従って、これら異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物の開発のための一つのステップとして、オートファジーを抑制する化合物を同定することは有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、被検化合物と成熟脂肪細胞とを接触させる工程、および、成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程、を含む方法を提供する。
本発明の評価方法の対象とする「被検化合物」としては特に制限はなく、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、ポリヌクレオチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液および培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物、または動物から採取した抽出物などが挙げられる。
「オートファジー活性の検出」には、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、オートファジーマーカーであるLC3−IIやp62を指標としたオートファジー活性の検出系が確立され、検出のためのキットも市販されている。検出原理としては、例えば、これら分子に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングやELISAが挙げられるが、これらに制限されない。
検出の結果、被検化合物がオートファジーを抑制する場合、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される。
オートファジーの抑制は、例えば、被検化合物存在下で検出されるオートファジー活性と、被検化合物非存在下で検出されるオートファジー活性(対照値)とを比較することにより評価することができる。すなわち、被検化合物存在下におけるオートファジー活性が被検化合物非存在下におけるオートファジー活性と比較して低い場合(例えば、対照値の90%以下、好ましくは、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下の場合)に、該被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価することができる。
−Rubiconタンパク質への結合を指標とする方法(第二の態様)−
成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物の開発のための一つのステップとして、Rubiconタンパク質に結合する化合物を同定することは有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および、被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、を含む方法を提供する。
成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物の開発のための一つのステップとして、Rubiconタンパク質に結合する化合物を同定することは有効である。すなわち、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および、被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、を含む方法を提供する。
本発明の評価方法の対象とする「被検化合物」については、第一の態様と同様である。被検化合物は、Rubiconタンパク質の立体構造を基にしたin silicoでのデザインを基に合成したものであってもよい。
本発明の評価方法において使用する「Rubiconタンパク質」は、ヒトタンパク質の場合は、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質やその部分ペプチドが挙げられる。Rubiconタンパク質は、前記天然型のタンパク質やその部分ペプチドに加え、必要に応じて、その改変体や修飾体などを用いることができる。例えば、検出や精製を容易にするために、他の蛋白質(例えば、アルカリフォスファターゼ(SEAP)、β−ガラクトシダーゼなどの酵素、緑色蛍光蛋白質(GFP)などの蛍光蛋白質、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)などのタグ)との融合蛋白質を用いることができる。被検化合物とRubiconタンパク質との「接触」は、当該評価系への被検化合物の添加などにより行うことができる。
「被検化合物とRubiconタンパク質との結合の検出」には、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、固定したRubiconタンパク質に、これら被検化合物を接触させ、Rubiconタンパク質に結合する化合物を同定する方法が挙げられる。被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する手段としては、様々な公知の手段を利用することができるが、好適な手段の一例として、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーが挙げられる。
被検化合物が合成低分子化合物ライブラリーである場合には、例えば、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループット法(Wrighton N.C. et al., Science. 26;273(5274) 458−464 (1996)、Verdine, G.L. Nature 384 11−13 (1996)、Hogan J.C., Jr Directed combinatorial chemistry. Nature. 384:17−19 (1996))を利用することができる。また、被検化合物がポリヌクレオチドライブラリーである場合には、例えば、前述のインビトロセレクション法を、被検化合物が遺伝子ライブラリーである場合には、例えば、Rubiconタンパク質をベイトタンパク質として発現させて利用する酵母ツーハイブリッドシステムを、それぞれ利用することができる。
検出の結果、被検化合物がRubiconタンパク質に結合する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される。
−Rubiconの発現の促進を指標とする方法(第三の態様)−
本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、Rubicon遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および該細胞内におけるRubicon遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を提供する。
本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、Rubicon遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および該細胞内におけるRubicon遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を提供する。
本態様において用いる「被検化合物」については、第一の態様と同様である。
検出の対象となる「Rubicon遺伝子」としては、その由来する生物を特に問わないが、ヒトを対象とする組成物の開発においては、ヒトのRubicon遺伝子が好適である。ヒト遺伝子としては、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子)を対象とすることができる。また、「Rubicon遺伝子を発現する細胞」としては、例えば、ヒトやマウス由来の成熟脂肪細胞などの脂肪細胞が挙げられるが、これらに制限されない。ヒトやマウス由来の脂肪細胞としては、例えば、SGBS細胞や3T3−L1細胞(例えば、それらを分化誘導して得られる成熟脂肪細胞)などが挙げられる。一次的な評価として、脂肪細胞以外の細胞を用いることも考えられる。Rubicon遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、例えば、前記細胞の培養液への被検化合物の添加などにより行うことができる。
「Rubicon遺伝子の発現の検出」には、公知の手法を用いることができる。「遺伝子の発現の検出」は、転写レベル(mRNAレベル)で検出してもよく、翻訳レベル(タンパク質レベル)で検出してもよい。転写レベルで検出する方法としては、例えば、RT−PCR、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、ドットブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法などが挙げられる。また、翻訳レベルで検出する方法としては、例えば、ウェスタンブロット法、放射免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、イムノクロマトグラフィー、免疫組織化学的染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラテックス凝集法、質量分析法(MS)などが挙げられる。
検出の結果、被検化合物がRubicon遺伝子の発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される。
Rubicon遺伝子の発現の促進は、例えば、ウェスタンブロット法を用いた場合においては、被検化合物存在下で検出されるRubiconタンパク質の量(例えば、Rubiconタンパク質に由来するバンドの強さ)と、被検化合物非存在下で検出されるRubiconタンパク質の量(対照値)とを比較することにより評価することができる。すなわち、被検化合物存在下におけるRubiconタンパク質の量が被検化合物非存在下の量と比較して高い場合(例えば、対照値の110%以上、好ましくは、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上の場合)には、該被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価することができる。前記発現の検出において、ウェスタンブロット法以外の方法を用いる場合も同様に、被検化合物非存在下における前記発現量を対照値として用いて評価することができる。
−レポーター系(第四の態様)−
被検化合物がRubicon遺伝子の発現レベルを減少させるか否かの評価は、レポーター遺伝子を用いた系で行うこともできる。すなわち、本発明は、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および、該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を提供する。
被検化合物がRubicon遺伝子の発現レベルを減少させるか否かの評価は、レポーター遺伝子を用いた系で行うこともできる。すなわち、本発明は、本発明は、被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および、該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、を含む方法を提供する。
「Rubicon遺伝子のプロモータ−領域」は、Rubicon遺伝子の転写を制御する領域であり、転写因子が結合することのできるRubicon遺伝子のコーディング領域の上流領域を意味する。「Rubicon遺伝子のプロモータ−領域」は、当業者であれば、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列またはその一部をプローブとしたゲノムDNAライブラリーのスクリーニングにより取得することができる。取得したゲノムDNAの下流にレポーター遺伝子を結合したベクターを調製して、適当な細胞内に導入した場合に、当該レポーター遺伝子の発現を誘導することができれば、当該ゲノムDNAを、Rubicon遺伝子のプロモータ−領域として同定することができる。
「レポーター遺伝子」としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子を挙げることができる。
ここで、Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が「機能的に結合した」とは、Rubicon遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、Rubicon遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。
なお、「Rubicon遺伝子」、「被検化合物」、および「接触」は、前記第三の態様と同様である。
本態様において使用する「細胞」としては、当該レポーター系を導入した場合に、Rubicon遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導される細胞であればよく、例えば、ヒトやマウス由来の成熟脂肪細胞などの脂肪細胞が挙げられるが、これらに制限されない。ヒトやマウス由来の脂肪細胞としては、例えば、SGBS細胞や3T3−L1細胞(例えば、それらを分化誘導して得られる成熟脂肪細胞)などが挙げられる。一次的な評価として、脂肪細胞以外の細胞を用いることも考えられる。
レポーター遺伝子の発現は、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により検出することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現を検出することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による化学発光を検出することにより、また、GUSである場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるグルクロンの発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現を検出することができる。
検出の結果、被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される。
レポーター遺伝子の発現の促進は、例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合においては、被検化合物存在下で検出される化学発光の強度と、被検化合物非存在下で検出される化学発光の強度(対照値)とを比較することにより評価することができる。すなわち、被検化合物存在下における発光強度が被検化合物非存在下における発光強度と比較して高い場合(例えば、対照値の110%以上、好ましくは、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上の場合)には、該被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価することができる。前記発現の検出において、ルシフェラーゼ遺伝子以外のレポーター遺伝子を用いる場合も同様に、被検化合物非存在下で検出される前記発現量を対照値として用いて評価することができる。
以上、本発明の評価方法について説明したが、複数の被検化合物に対して、本発明の評価方法を実施して、上記のオートファジーの抑制、Rubiconタンパク質への結合、Rubicon遺伝子の発現の促進、あるいはレポーター遺伝子の発現の促進を指標に化合物を選択すれば、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。従って、本発明は、このようなスクリーニング方法をも提供する。
<成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法>
後述の実施例において示す通り、オートファジーの促進が成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の起因となることが示唆された。従って、オートファジーの促進を指標に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査することが可能である。すなわち、本発明は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程を含み、オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法を提供する。本発明の検査方法は、医師や獣医師などによる診断のための情報を提供する方法、あるいは医師や獣医師などによる診断を補助する方法と表現することもできる。
後述の実施例において示す通り、オートファジーの促進が成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の起因となることが示唆された。従って、オートファジーの促進を指標に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査することが可能である。すなわち、本発明は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程を含み、オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法を提供する。本発明の検査方法は、医師や獣医師などによる診断のための情報を提供する方法、あるいは医師や獣医師などによる診断を補助する方法と表現することもできる。
本発明の検査方法は、ヒトを含む動物を対象とすることができる。ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物などを対象とすることができる。具体的には、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、マウス、ラット、サルなどの哺乳類、ニワトリ、カモ、ダチョウ、アヒルなどの鳥類などが挙げられるが、これらに制限されない。研究目的であれば、様々な実験用生物であってもよい。
本発明の検査方法に用いる被検試料としては、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する対象から分離された成熟脂肪細胞を用いることができる。
「オートファジー活性の検出」には、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、オートファジーマーカーであるLC3−IIやp62を指標としたオートファジー活性の検出系が確立され、検出のためのキットも市販されている。検出原理としては、例えば、これら分子に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングやELISAが挙げられるが、これらに制限されない。
検出の結果、オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される。ここで「疑い」には、上記低下または異常が現在発生している疑い、および将来発生する疑いの双方が含まれる。対照としては、例えば、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常が発生していない個体から分離した試料におけるオートファジー活性を利用することができる。
Rubiconは、上記の通り、オートファジーにおける負の制御因子である。従って、本発明におけるオートファジーの促進は、Rubiconの発現の抑制を指標に検出することが可能である。すなわち、すなわち、本発明は、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、被検試料におけるRubiconの発現を検出する工程を含み、Rubiconの発現量が対照と比較して低い場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法を提供する。
「Rubiconの発現産物の検出」には、公知の手法を用いることができる。転写産物(mRNA)を対象に検出してもよく、翻訳産物(タンパク質)を対象に検出してもよい。転写産物を対象に検出する方法としては、例えば、RT−PCR、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、ドットブロット法、RNaseプロテクションアッセイ法などが挙げられる。また、翻訳産物を対象に検出する方法としては、例えば、ウェスタンブロット法、放射免疫測定法、化学発光免疫測定法、化学発光酵素免疫測定法、酵素免疫測定法、免疫沈降法、イムノクロマトグラフィー、免疫組織化学的染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ラテックス凝集法、質量分析法(MS)などが挙げられる。
検出の結果、被検試料中のRubiconの発現量が対照と比較して低い場合、対象が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される。対照としては、例えば、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常が発生していない個体から分離した試料におけるRubiconの発現量を利用することができる。
また、本発明は、上記方法において、Rubiconの発現を検出するための組成物であって、下記(a)または(b)を含む組成物を提供する。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
上記オリゴヌクレオチドプライマー(以下、単に「プライマー」と称する)は、RubiconをコードするcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:1)に基づき、Rubicon遺伝子の転写産物以外の転写産物が極力増幅されないように設計すればよい。このようなプライマー設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。プライマーの長さは、通常15〜50塩基長、好ましくは15〜30塩基長であるが、手法および目的によってはこれより長くてもよい。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
上記オリゴヌクレオチドプライマー(以下、単に「プライマー」と称する)は、RubiconをコードするcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:1)に基づき、Rubicon遺伝子の転写産物以外の転写産物が極力増幅されないように設計すればよい。このようなプライマー設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。プライマーの長さは、通常15〜50塩基長、好ましくは15〜30塩基長であるが、手法および目的によってはこれより長くてもよい。
上記オリゴヌクレオチドプローブ(以下、単に「プローブ」と称する)は、RubiconをコードするcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:1)に基づき、Rubicon遺伝子の転写産物以外の転写産物に極力結合しないように設計すればよい。このようなプローブ設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。プローブの長さは、通常、15〜200塩基長、好ましくは15〜100塩基長、さらに好ましくは15〜50塩基長であるが、手法および目的によってはこれより長くてもよい。また、プライマーおよびプローブは、適宜標識して用いることができる。
プライマーおよびプローブは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理などによって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。また、プライマーおよびプローブは、天然のヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA))のみから構成されていてもよいが、必要に応じて、一部または全部において、上記した化学修飾された核酸を用いてもよい。また、プライマーおよびプローブは、適宜標識して用いることができる。
Rubiconタンパク質に結合する抗体は、直接法により、Rubiconタンパク質を検出する場合、通常、標識物質を結合させた抗体が用いられる。一方、間接法により、Rubiconタンパク質を検出する場合、Rubiconタンパク質に結合する抗体には標識物質を結合させず、標識物質が結合した二次抗体などを利用して検出することができる。ここで「二次抗体」とは、Rubiconタンパク質に結合する抗体に対して反応性を示す抗体である。例えば、Rubiconタンパク質に結合する抗体をマウス抗体として調製した場合には、二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、Rubiconタンパク質に結合する抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
標識物質としては、検出可能であれば、特に制限はないが、例えば、125I、131I、3H、14C、32P、33P、35Sなどの放射性同位元素、アルカリホスファターゼ(ALP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダーゼ(β−gal)などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素、アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R−PE)などの蛍光タンパク質、アビジン、ビオチン、金属粒子、ラテックスなどが挙げられる。
本発明の組成物においては、有効成分としての上記分子の他、必要に応じて、滅菌水や生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、試薬として許容される他の成分を含むことができる。
また、当該組成物は、当該検査に必要な他の標品と組み合わせてキットとすることもできる。他の標品としては、例えば、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液などが挙げられる。また、標識されていない抗体を標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインAなど)を標識化したものを、キットに含めることができる。さらに、キットには、その使用説明書を含めることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[材料と方法]
(1)試薬および抗体
次の抗体および希釈液を使用した。ウサギモノクローナル抗ルビコン(セル・シグナリング・テクノロジー社、#8465、1:1000)、ウサギポリクローナル抗Atg12(Cell Signaling Technology社、#2011、1:2000)、ウサギポリクローナル抗LC3(医学生物学研究所、PM036、1:2000)、ウサギポリクローナル抗p62(医学生物学研究所、PM045、1:5000)、ラットモノクローナル抗アディポネクチン(R&Dシステムズ社、MAB1119、1:2000)、およびマウスモノクローナル抗PPARγ(サンタクルーズ社、sc−7273、1:2000)。バフィロマイシンA1は、ケイマン・ケミカル社から購入した。
(1)試薬および抗体
次の抗体および希釈液を使用した。ウサギモノクローナル抗ルビコン(セル・シグナリング・テクノロジー社、#8465、1:1000)、ウサギポリクローナル抗Atg12(Cell Signaling Technology社、#2011、1:2000)、ウサギポリクローナル抗LC3(医学生物学研究所、PM036、1:2000)、ウサギポリクローナル抗p62(医学生物学研究所、PM045、1:5000)、ラットモノクローナル抗アディポネクチン(R&Dシステムズ社、MAB1119、1:2000)、およびマウスモノクローナル抗PPARγ(サンタクルーズ社、sc−7273、1:2000)。バフィロマイシンA1は、ケイマン・ケミカル社から購入した。
(2)動物
Evan Rosen博士(ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター)と水島昇博士(東京大学)からAdipoq−Creマウス(Eguchi, J. et al. Diabetes 62, 3394−3403 (2013))およびAtg5−floxedマウス(非特許文献16)を入手した。Adipoq−Creマウスを、Rubicon−floxedマウス(Tanaka, S. et al. Hepatology 64, 1994−2014 (2016))またはAtg5−floxedマウスと交配させて、それぞれ脂肪細胞に特異的にルビコンまたはAtg5のホモ接合性欠失を有するマウスを作製した。Rubicon−floxedマウスをAtg5ad−/−マウスと交配させて、脂肪細胞に特異的にルビコンとAtg5の両方のホモ接合性欠失を有するマウスを作製した。本実施例で使用した全てのマウスは、C57BL/6Jバックグラウンドで維持した。特に明記しない限り、実験に使用したマウスは全て21週齢の雄マウスである。これらのマウスは、12時間の明および12時間の暗のサイクルの下、通常の飼料で維持した。食物と水を自由に与えた。遺伝子型決定に使用されるプライマー対の配列情報は、要望に応じて入手可能である。マウスを用いた実験手順は、大阪大学機関委員会の承認を受けた。
Evan Rosen博士(ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター)と水島昇博士(東京大学)からAdipoq−Creマウス(Eguchi, J. et al. Diabetes 62, 3394−3403 (2013))およびAtg5−floxedマウス(非特許文献16)を入手した。Adipoq−Creマウスを、Rubicon−floxedマウス(Tanaka, S. et al. Hepatology 64, 1994−2014 (2016))またはAtg5−floxedマウスと交配させて、それぞれ脂肪細胞に特異的にルビコンまたはAtg5のホモ接合性欠失を有するマウスを作製した。Rubicon−floxedマウスをAtg5ad−/−マウスと交配させて、脂肪細胞に特異的にルビコンとAtg5の両方のホモ接合性欠失を有するマウスを作製した。本実施例で使用した全てのマウスは、C57BL/6Jバックグラウンドで維持した。特に明記しない限り、実験に使用したマウスは全て21週齢の雄マウスである。これらのマウスは、12時間の明および12時間の暗のサイクルの下、通常の飼料で維持した。食物と水を自由に与えた。遺伝子型決定に使用されるプライマー対の配列情報は、要望に応じて入手可能である。マウスを用いた実験手順は、大阪大学機関委員会の承認を受けた。
(3)細胞培養
3T3−L1細胞は、医薬基盤研究所、JCRB細胞バンクから購入した。細胞を、ウシ胎児血清(FBS)10%、ペニシリン−ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社、P4333)1%を含有するダルベッコ変法イーグル培地(シグマアルドリッチ社、DMEM D6429)中、5%CO2で37℃にて培養した。コンフルエント後2日目(0日目と定義する)に、細胞を、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(ナカライテスク社)0.5mM、デキサメタゾン(シグマアルドリッチ社)1μM、インスリン(ナカライテスク社)1μM、およびピオグリタゾン(和光社)10μMを含む脂肪生成カクテルで48時間処理した。その後、培地を、10%FBSを含むDMEMと交換した。オイルレッドO染色を標準プロトコールに従って行った。
3T3−L1細胞は、医薬基盤研究所、JCRB細胞バンクから購入した。細胞を、ウシ胎児血清(FBS)10%、ペニシリン−ストレプトマイシン(シグマアルドリッチ社、P4333)1%を含有するダルベッコ変法イーグル培地(シグマアルドリッチ社、DMEM D6429)中、5%CO2で37℃にて培養した。コンフルエント後2日目(0日目と定義する)に、細胞を、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(ナカライテスク社)0.5mM、デキサメタゾン(シグマアルドリッチ社)1μM、インスリン(ナカライテスク社)1μM、およびピオグリタゾン(和光社)10μMを含む脂肪生成カクテルで48時間処理した。その後、培地を、10%FBSを含むDMEMと交換した。オイルレッドO染色を標準プロトコールに従って行った。
(4)RNA干渉
siRNA二本鎖オリゴマーは、シグマアルドリッチ社から購入した。設計は、次の通りである。ルシフェラーゼの5′−UCGAAGUAUUCCGCGUACGdTdT−3′(センス/配列番号:8)、5′−CGUACGCGGAAUACUUCGAdTdT−3′(アンチセンス/配列番号:9);ルビコンの5′−GAGCUGAUGAAGUGCAACAUGAUGAGC−3′(センス/配列番号:10)、5′−UCAUCAUGUUGCACUUCAUCAGCUCAA−3′(アンチセンス/配列番号:11)。Opti−MEM(Gibco)およびLipofectamine RNAiMAX(インビトロジェン)を製造社の指示に従って使用して、合計50nMのsiRNAを細胞に導入した。発現レベルは、イムノブロッティングまたはqRT−PCRによって48時間後に評価した。
siRNA二本鎖オリゴマーは、シグマアルドリッチ社から購入した。設計は、次の通りである。ルシフェラーゼの5′−UCGAAGUAUUCCGCGUACGdTdT−3′(センス/配列番号:8)、5′−CGUACGCGGAAUACUUCGAdTdT−3′(アンチセンス/配列番号:9);ルビコンの5′−GAGCUGAUGAAGUGCAACAUGAUGAGC−3′(センス/配列番号:10)、5′−UCAUCAUGUUGCACUUCAUCAGCUCAA−3′(アンチセンス/配列番号:11)。Opti−MEM(Gibco)およびLipofectamine RNAiMAX(インビトロジェン)を製造社の指示に従って使用して、合計50nMのsiRNAを細胞に導入した。発現レベルは、イムノブロッティングまたはqRT−PCRによって48時間後に評価した。
(5)組織学的分析
組織を、4%パラホルムアルデヒドで一晩、続いて70%エタノールで、処理を行うまで固定した。組織をパラフィン包埋し、ミクロトーム(ライカ社)によって5μmで切片化した。標準的なプロトコールに従って、スライドをHE染色した。BX63(オリンパス社)またはBZ−X700(キーエンス社)で画像を取得した。
組織を、4%パラホルムアルデヒドで一晩、続いて70%エタノールで、処理を行うまで固定した。組織をパラフィン包埋し、ミクロトーム(ライカ社)によって5μmで切片化した。標準的なプロトコールに従って、スライドをHE染色した。BX63(オリンパス社)またはBZ−X700(キーエンス社)で画像を取得した。
(6)代謝の調査
体重および食物摂取量を毎週測定した。小型動物用のO2/CO2代謝測定システムMK−5000RQ(室町機械社)を用いて、全身のO2消費量とCO2生産量をモニターした。GTT実験では、17週齢のマウスに、4時間の絶食後グルコース(体重1kg当たり1g)を腹腔内注射した。ITT実験では、19週齢のマウスに、4時間の絶食後インスリン(体重1kg当たり0.75U)を腹腔内注射した。グルテストNeoアルファ(三和化学研究所)を用いて、指定の時点における血糖値を測定した。特に明記しない限り、血液サンプルは4時間の絶食条件下で収集した。
体重および食物摂取量を毎週測定した。小型動物用のO2/CO2代謝測定システムMK−5000RQ(室町機械社)を用いて、全身のO2消費量とCO2生産量をモニターした。GTT実験では、17週齢のマウスに、4時間の絶食後グルコース(体重1kg当たり1g)を腹腔内注射した。ITT実験では、19週齢のマウスに、4時間の絶食後インスリン(体重1kg当たり0.75U)を腹腔内注射した。グルテストNeoアルファ(三和化学研究所)を用いて、指定の時点における血糖値を測定した。特に明記しない限り、血液サンプルは4時間の絶食条件下で収集した。
代謝パラメータを測定するために、次のキットを使用した。トリグリセリド測定キット(和光社)、総コレステロールキット(和光社)、遊離脂肪酸測定キット(和光社)、インスリンELISAキット(森永生科学研究所)、レプチンELISAキット(森永生科学研究所)、およびアディポネクチンELISAキット(R&Dシステムズ社)。
(7)肝臓TG含量
肝臓サンプル(50mg)を、組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を使用してFolch溶液(2:1v/v クロロホルム/メタノール)1ml中でホモジナイズした。ホモジネートに0.9%NaCl溶液200μlを添加した。下層を採取し、トリグリセリド測定キット(和光社)を用いてTG含量を測定した。
肝臓サンプル(50mg)を、組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を使用してFolch溶液(2:1v/v クロロホルム/メタノール)1ml中でホモジナイズした。ホモジネートに0.9%NaCl溶液200μlを添加した。下層を採取し、トリグリセリド測定キット(和光社)を用いてTG含量を測定した。
(8)細胞内TG含量
細胞を溶解緩衝液(25mM Tris−HCl、pH7.5、1mM EDTA、1%Triton X−100)200μl中に採取した。ライセートのアリコートを同量のFolch溶液(2:1v/v クロロホルム/メタノール)と混合した。下層を採取し、トリグリセリド測定キット(和光社)を用いてTG含量を測定した。他の溶解物のアリコートをBCAアッセイによるタンパク質測定(ナカライテスク社)に使用した。
細胞を溶解緩衝液(25mM Tris−HCl、pH7.5、1mM EDTA、1%Triton X−100)200μl中に採取した。ライセートのアリコートを同量のFolch溶液(2:1v/v クロロホルム/メタノール)と混合した。下層を採取し、トリグリセリド測定キット(和光社)を用いてTG含量を測定した。他の溶解物のアリコートをBCAアッセイによるタンパク質測定(ナカライテスク社)に使用した。
(9)RNA単離および定量的PCR分析
マウス組織を、組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を用いてQIAZOL(キアゲン社)に採取した。RNeasy Plus Mini kit(キアゲン社)を用いて全RNAを抽出した。iScript(バイオ・ラッド社)を用いてcDNAを生成した。qRT−PCRは、QuantStudio 7 FlexリアルタイムPCRシステム(アプライド・バイオシステムズ社)でPower SYBR Green(アプライド・バイオシステムズ社)を用いて行った。各反応につき4回の技術的複製を行った。36b4を内在性対照として使用した。qRT−PCRプライマーの配列を表1に示す。
マウス組織を、組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を用いてQIAZOL(キアゲン社)に採取した。RNeasy Plus Mini kit(キアゲン社)を用いて全RNAを抽出した。iScript(バイオ・ラッド社)を用いてcDNAを生成した。qRT−PCRは、QuantStudio 7 FlexリアルタイムPCRシステム(アプライド・バイオシステムズ社)でPower SYBR Green(アプライド・バイオシステムズ社)を用いて行った。各反応につき4回の技術的複製を行った。36b4を内在性対照として使用した。qRT−PCRプライマーの配列を表1に示す。
なお、表中の「F」は、フォワードプライマーを、「R」は、リバースプライマーを示す。
(10)イムノブロッティング
組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を用いて、RIPA緩衝液(50mM Tris−HCl pH8.0、150mM NaCl、1%w/v Triton X−100、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)中でマウス組織を採取した。細胞を同じRIPA緩衝液中で溶解した。溶解物に5×SDSサンプル緩衝液を加え、5分間煮沸した。遠心分離後、得られた上清をBCAアッセイ(ナカライテスク社)およびイムノブロッティングによりタンパク質定量に供した。タンパク質ライセートを7%または13%SDS−PAGEによって分離し、PVDF膜に移した。膜をPonceau−Sで染色し、次いで、これを1%スキムミルクTBS−Tでブロックし、特異的な一次抗体と共にインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ)、Luminata Forte(メルクミリポア)、またはImmunoStar LD(和光社)、およびChemiDoc Touch(バイオ・ラッド社)を用いてイムノリアクティブバンドを検出した。バンド強度は、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて定量した。
組織ホモジナイザーPrecellys Evolution(バーティン社)を用いて、RIPA緩衝液(50mM Tris−HCl pH8.0、150mM NaCl、1%w/v Triton X−100、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)中でマウス組織を採取した。細胞を同じRIPA緩衝液中で溶解した。溶解物に5×SDSサンプル緩衝液を加え、5分間煮沸した。遠心分離後、得られた上清をBCAアッセイ(ナカライテスク社)およびイムノブロッティングによりタンパク質定量に供した。タンパク質ライセートを7%または13%SDS−PAGEによって分離し、PVDF膜に移した。膜をPonceau−Sで染色し、次いで、これを1%スキムミルクTBS−Tでブロックし、特異的な一次抗体と共にインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ)、Luminata Forte(メルクミリポア)、またはImmunoStar LD(和光社)、およびChemiDoc Touch(バイオ・ラッド社)を用いてイムノリアクティブバンドを検出した。バンド強度は、ImageJソフトウェア(米国国立衛生研究所)を用いて定量した。
(11)オートファジーフラックスアッセイ
細胞を、125nMのバフィロマイシンA1の存在下または非存在下、5%CO2で37℃にて2時間DMEM内でインキュベートした。細胞を溶解し、LC3またはp62についてイムノブロットした。オートファジーフラックスは、バフィロマイシンA1処理サンプルにおけるLC3−IIまたはp62のデンシトメトリー値からバフィロマイシンA1未処理サンプルを差し引くことによって計算した。
細胞を、125nMのバフィロマイシンA1の存在下または非存在下、5%CO2で37℃にて2時間DMEM内でインキュベートした。細胞を溶解し、LC3またはp62についてイムノブロットした。オートファジーフラックスは、バフィロマイシンA1処理サンプルにおけるLC3−IIまたはp62のデンシトメトリー値からバフィロマイシンA1未処理サンプルを差し引くことによって計算した。
(12)統計解析
すべての結果は、平均値±S.E.M.として示されている。統計解析は、スチューデントの両側t検定か、一元配置分散分析に続くテューキーの検定か、または二元配置反復測定分散分析に続くフィッシャーの最小有意差検定によって、若しくは、GraphPad Prism7(グラフパッド・ソフトウェア社)を用いたテューキーの検定によって行った。
すべての結果は、平均値±S.E.M.として示されている。統計解析は、スチューデントの両側t検定か、一元配置分散分析に続くテューキーの検定か、または二元配置反復測定分散分析に続くフィッシャーの最小有意差検定によって、若しくは、GraphPad Prism7(グラフパッド・ソフトウェア社)を用いたテューキーの検定によって行った。
[結果]
(1)分化した脂肪細胞におけるルビコン欠失による、脂肪老化により表現型模写される全身脂肪萎縮症の発症
幅広い加齢性疾患を抑制する際のオートファジーの本質的な役割およびその加齢に伴う減少(非特許文献21,22)を考慮して、脂肪組織機能の低下を引き起こし得る老化脂肪細胞においてオートファジーがダウンレギュレートされるという仮説を検討した。驚くべきことに、本発明者は、老齢マウスの脂肪組織においては、若齢マウスと比較して、オートファジー基質p62(非特許文献18)およびオートファジーの負の調節因子であるルビコン(Matsunaga, K. et al. Nat Cell Biol 11, 385−396 (2009))が有意に減少することを見出した(図1A)。これは、他の組織とは異なり、ルビコンの減少によって老化プロセスによる脂肪組織内のオートファジーのアップレギュレーションが引き起こされる一方、このことは脂肪細胞機能にとって有益ではないことを示唆している。
(1)分化した脂肪細胞におけるルビコン欠失による、脂肪老化により表現型模写される全身脂肪萎縮症の発症
幅広い加齢性疾患を抑制する際のオートファジーの本質的な役割およびその加齢に伴う減少(非特許文献21,22)を考慮して、脂肪組織機能の低下を引き起こし得る老化脂肪細胞においてオートファジーがダウンレギュレートされるという仮説を検討した。驚くべきことに、本発明者は、老齢マウスの脂肪組織においては、若齢マウスと比較して、オートファジー基質p62(非特許文献18)およびオートファジーの負の調節因子であるルビコン(Matsunaga, K. et al. Nat Cell Biol 11, 385−396 (2009))が有意に減少することを見出した(図1A)。これは、他の組織とは異なり、ルビコンの減少によって老化プロセスによる脂肪組織内のオートファジーのアップレギュレーションが引き起こされる一方、このことは脂肪細胞機能にとって有益ではないことを示唆している。
脂肪組織内でオートファジーを調節する際のルビコンの基本的な役割を決定し、脂肪細胞内でのルビコンの欠損の結果を明らかにするために、脂肪細胞に特異的なルビコンを遺伝的に欠失させた。オートファジーは脂肪細胞分化に関与しているため、脂肪細胞分化後に働くAdipoq−Creを利用した(Eguchi, J. et al. Diabetes 62, 3394−3403 (2013)、Lee, K. Y. et al. Diabetes 62, 864−874 (2013))。Rubiconflox/flox;Adipoq−Creマウスを作製するために、Adipoq−CreマウスをRubicon−floxedマウス(Tanaka, S. et al. Hepatology 64, 1994−2014 (2016))と交配させ(図5A)、Cre媒介組換えおよびRubiconの非存在が、Rubiconflox/flox;Adipoq−Creの脂肪組織において特異的に起こることを確認した(図5Bおよび5C)。マウスはメンデル比で生まれ、出生時に明らかな異常を示さず、5週齢で正常体重を有していた。従って、Adipoq−Creを用いたRubiconfloxシステムは、脂肪細胞分化の前に有意な異常を引き起こさない。特に、7週齢の後、Rubiconflox/flox;Adipoq−Creマウスの体重は、対照よりも低い割合で増加し、21週齢でも追いつくことができなかった(図1B左パネルおよび1C)。一貫して、精巣上体、腸間膜、および鼠径部WATだけでなく、褐色脂肪組織をも含む一連の脂肪細胞組織の組織重量が有意に減少することを観察したが、肝臓組織では減少は認められなかった(図1D左パネルおよび1E)。組織切片のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色により、ルビコン欠損が精巣上体WAT(図1F上部パネル)および肩甲骨間褐色脂肪細胞組織(図1G上パネル)の脂肪細胞サイズの減少を引き起こすことが示されたため、上述した減少は、単に脂肪細胞数の減少によって引き起こされたのではない。これらの事実により、ルビコンが脂肪細胞の維持のために重要な役割を有することが示唆される。
注目すべきことにこれらの特徴は、ルビコンだけでなくオートファジーに必須の遺伝子であるAtg5(Rubiconflox/flox;Atg5flox/flox;Adipoq−Cre)をも欠いているマウスの脂肪細胞において認められなかった(図1B右パネル、1D右パネル、1F下パネル、および1G下パネル)。さらに、Rubiconflox/flox;Adipoq−Creマウスは、LC3−IIおよびp62双方の劇的な減少によって示されるオートファジーのアップレギュレーションの徴候を示し、その減少は更なるAtg5欠失により完全に相殺された(図5D)。これらのデータは、Rubiconflox/flox;Adipoq−Creマウスにおいて観察される全身性脂肪萎縮症が、当該マウスにおけるオートファジーの不適切なアップレギュレーションによって引き起こされることを強く示している。
注目すべきは、ルビコンやAtg5いずれの欠損も食餌摂取量(図6A)、酸素消費量、および二酸化炭素産生量(図6bおよび6C)には何ら影響を及ぼさず、観察された表現型は、食物摂取量またはエネルギー消費量の変化とは無関係であることを示している。また、ルビコンノックアウトマウスの脂肪萎縮症が、インビボでのグルコースおよび脂肪利用の切り替えによって引き起こされる可能性を除いて、ルビコンまたはAtg5ノックアウトが呼吸商(RQ)に一切の影響を及ぼさないこと(図6D)も見出した。
以上から、ルビコンの欠損が、機能的オートファジーに依存して脂肪細胞恒常性の不全による全身性萎縮症を引き起こすと結論付けられる。
(2)ルビコンの脂肪細胞特異的欠損によるマウスの代謝障害の発生
ルビコンノックアウトマウスの全身脂肪萎縮症が、代謝の全身変化に関連しているか否かを調べるため、代謝障害の一連の指標を測定した。驚くべきことに、本発明者は、Rubiconad−/−マウスの血漿中トリグリセリドおよびコレステロールレベルが、対照マウスよりも有意に高いことを見出した(図2Aおよび2B)。対照的に、脂肪細胞におけるルビコン欠失は、血漿中の遊離脂肪酸(FFA)レベルに一切の影響を及ぼさなかった(図7A)。最も注目すべきことに、脂質代謝だけでなく、Rubiconad−/−マウスは、オートファジー欠損のバックグラウンドにおいて有意度の低い耐糖能異常を示すことが判明した(図2C)。これはルビコンが、適切なオートファジーの調節を介した全身代謝にとって重要な保護因子であることを強く示唆する。
ルビコンノックアウトマウスの全身脂肪萎縮症が、代謝の全身変化に関連しているか否かを調べるため、代謝障害の一連の指標を測定した。驚くべきことに、本発明者は、Rubiconad−/−マウスの血漿中トリグリセリドおよびコレステロールレベルが、対照マウスよりも有意に高いことを見出した(図2Aおよび2B)。対照的に、脂肪細胞におけるルビコン欠失は、血漿中の遊離脂肪酸(FFA)レベルに一切の影響を及ぼさなかった(図7A)。最も注目すべきことに、脂質代謝だけでなく、Rubiconad−/−マウスは、オートファジー欠損のバックグラウンドにおいて有意度の低い耐糖能異常を示すことが判明した(図2C)。これはルビコンが、適切なオートファジーの調節を介した全身代謝にとって重要な保護因子であることを強く示唆する。
この考え方に即して、本発明者は、Rubiconad−/−マウスは脂肪の再分配を示し、その肝臓組織は正常なルビコン遺伝子を保持することを見出した。脂肪細胞におけるルビコンノックアウトは、肝臓トリグリセリド含量およびコレステロールを増加させた(図2Dおよび2E)。組織学的分析により、脂肪細胞におけるルビコン欠損が肝臓における異常なLD形成を引き起こすことが判明した(図2F)。注目すべきことに、定量的RT−PCRアッセイによって、脂肪細胞におけるルビコン欠失が、肝臓における新たな脂質生成の兆候を有さないことが判明した(図7B)。これは、脂肪細胞からの過剰脂質がRubiconad−/−マウスの肝臓に移行することを示唆する。
(3)ルビコンによる、脂肪細胞の内分泌機能の維持と代謝恒常性の保証
本発明者は、ルビコンの脂肪細胞特異的欠損が、全身代謝恒常性の破壊に関連する脂肪細胞機能の低下を引き起こすことを示した。そして、ルビコンKOマウスで観察された代謝障害が、耐糖能異常によって示されるエネルギー貯蔵としての低下した脂肪細胞機能の直接的な効果だけでなく、内分泌組織としての調節的な役割にも起因していると想定した。実際、本発明者は、ルビコンKOマウスにおいて、ともにグルコースおよび脂質代謝を全身で維持する脂肪細胞由来ホルモンとして知られる(Maeda, N. et al. Nat Med 8, 731−737 (2002)、Pelleymounter, M. A. et al. Science 269, 540−543 (1995)、Shimomura, I. et al. Nature 401, 73−76 (1999)、Yamauchi, T. et al. Nat Med 7, 941−946 (2001))血漿中アディポネクチンおよびレプチンのレベルが有意に低い(図2Gおよび2H)一方、Atg5KOバックグラウンドにおけるルビコン欠失は、これらのレベルにおいて検出可能な変化を示さないことを見出した。続いて、WATライセートのウエスタンブロットにより、Rubiconad−/−マウスにおいてアディポネクチンが顕著に減少することが示された(図2I)。この減少は、Rubiconad−/−;Atg5ad−/−マウスでは消失しているが、これは脂肪細胞におけるルビコン欠失がオートファジーに依存する形でアディポネクチン産生量を減少させることを示唆する。
本発明者は、ルビコンの脂肪細胞特異的欠損が、全身代謝恒常性の破壊に関連する脂肪細胞機能の低下を引き起こすことを示した。そして、ルビコンKOマウスで観察された代謝障害が、耐糖能異常によって示されるエネルギー貯蔵としての低下した脂肪細胞機能の直接的な効果だけでなく、内分泌組織としての調節的な役割にも起因していると想定した。実際、本発明者は、ルビコンKOマウスにおいて、ともにグルコースおよび脂質代謝を全身で維持する脂肪細胞由来ホルモンとして知られる(Maeda, N. et al. Nat Med 8, 731−737 (2002)、Pelleymounter, M. A. et al. Science 269, 540−543 (1995)、Shimomura, I. et al. Nature 401, 73−76 (1999)、Yamauchi, T. et al. Nat Med 7, 941−946 (2001))血漿中アディポネクチンおよびレプチンのレベルが有意に低い(図2Gおよび2H)一方、Atg5KOバックグラウンドにおけるルビコン欠失は、これらのレベルにおいて検出可能な変化を示さないことを見出した。続いて、WATライセートのウエスタンブロットにより、Rubiconad−/−マウスにおいてアディポネクチンが顕著に減少することが示された(図2I)。この減少は、Rubiconad−/−;Atg5ad−/−マウスでは消失しているが、これは脂肪細胞におけるルビコン欠失がオートファジーに依存する形でアディポネクチン産生量を減少させることを示唆する。
(4)過剰なオートファジーを避け、脂肪細胞機能を維持するための、脂肪生成中のルビコンのアップレギュレート
ルビコンが脂肪細胞恒常性を維持する分子的な詳細を決定するために、脂肪生成と併せて、オートファジーおよびルビコン発現の変化をモニターした。本発明者は、脂肪細胞分化誘導後10日目において、3T3−L1細胞株が、オートファジー基質であるLC3−IIおよびp62の分解速度によって測定したオートファジーフラックスの有意な減少を示すことを見出した(図3A)。これは、ルビコンタンパク質(図3B)および転写物(図3C)の増加に関連している。
ルビコンが脂肪細胞恒常性を維持する分子的な詳細を決定するために、脂肪生成と併せて、オートファジーおよびルビコン発現の変化をモニターした。本発明者は、脂肪細胞分化誘導後10日目において、3T3−L1細胞株が、オートファジー基質であるLC3−IIおよびp62の分解速度によって測定したオートファジーフラックスの有意な減少を示すことを見出した(図3A)。これは、ルビコンタンパク質(図3B)および転写物(図3C)の増加に関連している。
オートファジーのアップレギュレーションをもたらす、siRNAによるルビコンのノックダウン(図3D)は、分化誘発3T3−L1細胞におけるアディポネクチン発現を示すことができなかった(図3E)が、脂質生成に伴うルビコンの増加は、この過程において必須の事象である。実際、分化後8日目のルビコンノックダウンにより、Adipoq、Lep、Fabp4、Cd36、Glut4、AcacaおよびFasnをも含む幅広い脂肪生成遺伝子の発現が減少することを見出した(図3F)。一貫して、本発明者は、インビボでの脂肪細胞におけるルビコン欠損により、これらの脂肪生成遺伝子の発現低下が生じ、さらなるAtg5ノックアウトによって再び戻ったことを見出した(図3g)。
脂肪組織における炎症は、脂肪細胞における脂肪生成遺伝子の発現を抑制することが多い点に留意すべきである。しかし、本発明者は、ルビコン欠失が炎症性サイトカインの発現に影響しないことを見出した(図8A)。また、組織学的分析により、Rubiconad−/−マウスからのWATでは、炎症性細胞浸潤は見られないことが判明した(図1F)。これらのデータは、脂肪細胞におけるルビコンノックアウトによって炎症とは無関係に脂肪生成遺伝子の発現が減少することを示唆している。さらに、定量的RT−PCRアッセイによって、ルビコン欠失が褐色脂肪細胞組織の特徴に一切影響を及ぼさないことが判明した(図8B)。
以上から、脂肪生成後のルビコンを維持することが、代謝合併症の抑制に必要な脂肪細胞の基本的特徴を維持するために不可欠であると結論付けられる。
(5)PPARγの活性化による、ルビコンのダウンレギュレーションによって引き起こされる脂肪細胞の機能不全の回復
本発明者のデータによれば、ルビコンの病理学的ダウンレギュレーションにより、老化によって引き起こされる脂肪細胞の機能不全の治療標的となり得る脂肪細胞機能が損なわれることが示唆される。
本発明者のデータによれば、ルビコンの病理学的ダウンレギュレーションにより、老化によって引き起こされる脂肪細胞の機能不全の治療標的となり得る脂肪細胞機能が損なわれることが示唆される。
ルビコン欠失は幅広い脂肪生成遺伝子の減少を引き起こすため、本発明者は、これらの転写様式における活性化が、脂肪細胞の機能不全を回復させる有効なアプローチになり得ると推測した。PPARγは脂肪生成に関与するマスター転写因子である(Wang, F. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 18656−18661 (2013))ため、ルビコンノックダウン細胞を、PPARγの外因性リガンドであるチアゾリジンジオン(TZD)(Sauer, S. et al. Trends in Pharmacological Sciences 36, 688−704 (2015))で処理した。驚くべきことにTZD処理は、アディポネクチンタンパク質レベルの低下(図4A)と、脂肪生成遺伝子の発現低下(図4B)と、ルビコンノックダウンに起因するトリグリセリド含量の低下(図4C)とを回復させた。これと一致して、オイルレッドO染色によって、ルビコンノックダウンがLDを減少させる一方、TZD処理では減少が見られないことが判明した(図4D)。
以上から、ルビコンは脂肪細胞機能の中心的なケアテイカーであり、ルビコンの病理学的ダウンレギュレーションがPPARγの活性化によって対処可能であることが判明した。
以上説明したように、本発明によれば、オートファジーの抑制により、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療することが可能となる。また、オートファジー活性を標的として、これらの低下または異常を検査することも可能となる。従って、本発明は、特に、医療分野に大きく貢献しうるものである。
Claims (10)
- オートファジーを抑制する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物。
- PPARγの発現または機能を促進する分子を有効成分とする、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の予防、改善、もしくは治療のための組成物であって、成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象に投与される組成物。
- 成熟脂肪細胞においてオートファジーが促進されている対象が、成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現が抑制されている対象である、請求項2に記載の組成物。
- 被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
被検化合物と成熟脂肪細胞とを接触させる工程、および
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程、
を含み、
被検化合物がオートファジーを抑制する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。 - 被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
被検化合物とRubiconタンパク質とを接触させる工程、および
被検化合物とRubiconタンパク質との結合を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconタンパク質と結合する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。 - 被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubiconを発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内におけるRubiconの発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物がRubiconの発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。 - 被検化合物が、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性を評価する方法であって、
Rubicon遺伝子のプロモータ−領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞に、被検化合物を接触させる工程、および
該細胞内における前記レポーター遺伝子の発現を検出する工程、
を含み、
被検化合物が前記レポーター遺伝子の発現を促進する場合、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を予防、改善、もしくは治療する活性を有する蓋然性があると評価される方法。 - 成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、
成熟脂肪細胞におけるオートファジーを検出する工程を含み、
オートファジーが対照と比較して促進されている場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。 - 成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常を検査する方法であって、
成熟脂肪細胞におけるRubiconの発現を検出する工程を含み、
Rubiconの発現量が対照と比較して低い場合に、成熟脂肪細胞の機能の低下もしくは異常またはそれに起因する代謝異常の疑いがあると評価される方法。 - 請求項9に記載の方法において、Rubiconの発現を検出するための組成物であって、下記(a)または(b)を含む組成物。
(a)Rubicon遺伝子の転写産物に結合するオリゴヌクレオチドプライマーまたはオリゴヌクレオチドプローブ
(b)Rubiconタンパク質に結合する抗体
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Non-Patent Citations (3)
Title |
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"肝細胞と脂肪細胞におけるRubiconを介した脂肪代謝の制御", 科学研究費助成事業データベース、2018, JPN6022041538, ISSN: 0004887005 * |
AUTOPHAGY, 2014, VOL. 10, ISSUE 10, PP. 1776-1786, JPN6022041539, ISSN: 0004887006 * |
日本消化器病学会雑誌、第114巻、第5号、第807−812頁, JPN6022041540, ISSN: 0004887007 * |
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