JP2020073914A - 真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法 - Google Patents

真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】真皮に落ち込んだメラニンによるシミの予防・改善剤及び/又はマクロファージを誘引する剤をスクリーニングする方法を提供する。【解決手段】真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法であって、培養線維芽細胞にメラノソームを添加する工程を含み、培養線維芽細胞のメラノソーム貪食により変化する遺伝子及び/又はタンパク質の発現量、或いは、培養線維芽細胞間でのメラノソームの移送度を指標とする工程を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法に関し、更に詳しくは、マクロファージによる貪食を促進する、真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法に関する。
私たちの肌は常に外的環境から様々なストレスを受けている。特に紫外線による皮膚への傷害は、シミ、そばかす、日焼けの大きな原因になっている。その対策としては、従来、メラニン産生に影響を及ぼす酵素であるチロシナーゼを阻害する物質や、培養したメラノサイトに有効成分を添加して、メラノサイトのメラニン産生を抑制する物質を有効成分として配合する化粧料が利用されてきた。コウジ酸、ハイドロキノン誘導体および、桑白皮、甘草等種々植物抽出物はメラノサイトのメラニン産生を抑制することにより、美白作用を期待するものである。これらの物質はメラノサイトに直接働きかけ、その作用によりメラニン産生を抑制することにより美白効果を期待するものであった。
紫外線照射などにより、基底層で産生されたメラニンは、表皮細胞に移行して角層に到達し、垢となって排出される。しかし、産生されたメラニンの一部は真皮で検出され、長期間にわたって存在し外見上、青味がかったシミとなって残ってしまう。これら真皮に存在するメラニンによるシミに対しては、従来の美白剤では、その効果が十分ではなかった。したがって、真皮に存在するメラニンによるシミに対しても美白効果の高い化粧料の開発が望まれていた。
マクロファージは貪食能が高い細胞と定義され、体に生じた廃棄物の処理が主な役割であり、古くなった細胞や死滅した細胞の処理を行っていることが知られている。この性質を利用して、マクロファージ活性化剤の提案がされている(特許文献1)。しかしながら、本マクロファージ活性化剤は、真皮に存在するメラニン(メラノソーム含む。以下同じ。)の貪食を促進するものであり、真皮に存在するメラニンを取り込んだ線維芽細胞の貪食を想定しているものではない。
マクロファージは遊走因子、例えば MCP−1(CCL2)によって標的の場所まで移動して貪食することが知られている(非特許文献1、2)。
また、線維芽細胞がメラニン顆粒を含むメラノソームを貪食する機能を持つことが確認されたが、線維芽細胞のメラノソーム貪食が真皮のシミにどのように関与しているのかは明らかにされていない(非特許文献3)。
特開2005−281205号
Essential Contribution of Monocyte Chemoattractant Protein-1/C-C Chemokine Ligand-2 to Resolution and Repair Processes in Acute Bacterial Pneumonia. Hideaki Amano, Kounosuke Morimoto. J Immunol 2004; 172: 398-409 Monocyte chemotactic protein-1 (MCP-1), -2, and -3 are chemotactic for human T lymphocytes. Carr MW1, Roth SJ, Luther E, Rose SS, Springer TA, Proc Natl Acad Sci USA. 1994; 91 (9): 3652-6 ケラチノサイトとファイブロブラストのメラノソーム貪食能に関する比較研究。安藤秀哉、井上紗由美、大坪佳乃子、小野衣里奈、乗松毅、市橋正光、Aesthetic Dermatology、2012; 22(3):284
本発明は、真皮に存在するメラニンによるシミ(以下、「真皮シミ」という場合がある。)の予防・改善剤及び/又はマクロファージを誘引する剤をスクリーニングする方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記背景に鑑み、線維芽細胞のメラノソーム貪食と真皮シミに関する研究を進めたところ、線維芽細胞がメラノソームを貪食すると、細胞の情報伝達物質であるサイトカインのうち、白血球などの遊走を引き起こし、炎症の形成に関与することが知られているケモカインの発現を大きく増加させることを突き止めた。更に詳しく調べたところ、これらのケモカインにはマクロファージおよび単球のケモタキシスを誘発することが知られているMCP−1や、MCP−2、MCP−3、MCP−4等のMCPsが含まれていることを発見した。
興味深いことに、線維芽細胞にメラノソームを添加すると、一旦メラノソームを貪食した後、近傍の特定の線維芽細胞にメラノソームを集める(移送する)現象が生じ、当該メラノソームが集められた線維芽細胞に優先的にマクロファージが集まってくることを突き止めた。
他方、図2に示すように、線維芽細胞にメラノソームを添加すると、添加量に比例してMCP−1量の増加が確認されたことから、真皮にメラノソームが存在した場合、線維芽細胞がメラノソームを貪食すると、MCPsの発現を高め、マクロファージのケモタキシスを誘発し、メラノソームを貪食した線維芽細胞の貪食を促しているものと考えられた。
更に具体的には、メラノソームを貪食した線維芽細胞が、その後、近傍の特定の線維芽細胞にメラノソームを移送することで、特定の線維芽細胞におけるMCPsの発現が更に高まることになる結果、メラノソームをより多く含んだ線維芽細胞に対し特異的にマクロファージを呼び寄せることができ、メラノソームを貪食した線維芽細胞の貪食を優先的に行っているものと考えられた。
発明者らは、以上の知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法であって、線維芽細胞にメラノソームを添加する工程を含み、線維芽細胞のメラノソーム貪食により変化する遺伝子及び/又はタンパク質の発現量、或いは、線維芽細胞間でのメラノソームの移送度を指標とする工程を含むことで、上記課題を解決した。
本発明によれば、これまで難しいと考えられてきた真皮シミを改善する成分の提供が可能となる。
線維芽細胞間でのメラノソームの移送経過写真。番号は時間の経過順を示す。下段の写真は上段の写真に対応している。写真の観察を助けるため、上段の写真に細胞の形に補助線を入れたものが下段の写真である。 メラノソーム添加量に対するMCP−1(CCL−2)タンパク量変化 メラノサイトを貪食した線維芽細胞とマクロファージの共培養写真。左側が共培養開始直後(0時間)の写真、右側が共培養から96時間後の写真、上段はメラノソームを貪食した線維芽細胞とマクロファージの共培養写真、下段はメラノソームを貪食していない線維芽細胞とマクロファージの共培養写真である。
本発明は、真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法であって、線維芽細胞にメラノソームを添加した際、線維芽細胞がメラノソームを貪食することによって、線維芽細胞中の特定の遺伝子及び/又はタンパク質の発現量が変化していることを発見し、更には、メラノソームを貪食した線維芽細胞がメラノソームを特定の線維芽細胞に移送し、メラノソームの移送を受けた特定の線維芽細胞にマクロファージが特異的に集まるという知見に基づくものである。
第1には、真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤をスクリーニングする方法において用いることのできる指標の決定方法を提供する。
第2には、第1発明で選択した指標を用いた真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤をスクリーニングする方法を提供する。
第3には、特定の遺伝子及び/又はタンパク質を指標とする真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法を提供する。
第4には、メラノソームを線維芽細胞に添加する工程を含み、被験物質を評価する際に、線維芽細胞間におけるメラノソームの移送度を指標として真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤をスクリーニングする方法を提供する。
<線維芽細胞>
本発明に用いる線維芽細胞は、理化学研究所のCELL BANKやJCRB細胞バンク等で購入することができる。例えば、正常ヒト皮膚由来線維芽細胞を使用することができ、培養に用いる培地も各社がそれぞれ細胞種に対して推奨している培地を使用して差し支えない。試験に用いるこれらの細胞は、細胞活動が正常に行えるという点で、継代数が1〜8までが好ましいが、それ以降のものでも増殖性などが著しく低下せず、細胞形態が異常でなければ使用できる。本発明では、培養線維芽細胞を単に線維芽細胞と称する場合がある。
<メラノソーム>
メラノソームは、線維芽細胞が貪食することができれば特に限定されないが、本発明ではメラニンも含む概念で用いる。
メラノソームとしては、特に限定されないが、ヒト、マウスなどのメラノサイトもしくはメラノーマより抽出、精製したもの、チロシン等から合成したもの等が使用できる。
<線維芽細胞のメラノソーム取り込み>
線維芽細胞にメラノソームを取り込ませるには、培地にメラノソームを添加するだけで良い。メラノソームを適量添加すると、線維芽細胞は容易にメラノソームの取り込みを行う。
線維芽細胞がメラノソームを取り込んだか否かの確認は、任意の方法で行うことができるが、例えば、フォンタナマッソン染色によりメラニンを染色する方法を用いて確認することができる。また、染色しなくとも、十分な量のメラノソームが添加されている場合、明視野での顕微鏡観察でも細胞内にメラノソームが取り込まれている様子が確認できる。細胞の状態、添加するメラノソームの量にもよるが、線維芽細胞への取り込みが顕微鏡ではっきり確認できるのは、メラノソーム添加後概ね1日程度である。
もっとも、発明者らは、線維芽細胞にメラノソームを添加後、遅くとも1時間後には取り込みがされていることをタイムラプス動画撮影にて確認しているので、上記確認作業を行わなくても、メラノソームを添加すれば、線維芽細胞はメラノソームを取り込んでいると判断しても差し支えない。
本願のスクリーニング方法において、線維芽細胞にメラノソームを取り込ませる場合には、用いた線維芽細胞の一部がメラノソームを取り込んでいれば良く、すべての線維芽細胞がメラノソームを取り込んでいる必要はない。
<線維芽細胞におけるメラノソームの移送>
本願発明者らは、前述の方法で、線維芽細胞にメラノソームを取り込ませると、一定時間後に近傍の他の線維芽細胞にメラノソームを受け渡す現象が生じることを発見した。本願では本現象をメラノソームの移送と呼ぶ。このメラノソームの移送は、どの細胞がどの細胞に移送するのかは定まっていないが、どの細胞にも均等に移送されるのではなく、いくつかの特定の細胞に対してメラノソームが受け渡される様子が観察される(図1参照)。移送が開始される時間は、培養細胞の状態、メラノソームの添加量等により当然変動するが、本発明者らは、線維芽細胞にメラノソーム添加後、概ね72時間後には当該移送が終了されることをタイムラプス動画撮影にて確認している。
<マクロファージ>
本発明に用いるマクロファージは、JCRB細胞バンクなどで購入することができる。例えば、THP−1(ヒト由来単球細胞)を使用することができ、培養に用いる培地も各社がそれぞれ細胞種に対して推奨している培地を使用して差し支えない。THP−1のマクロファージへの分化にはホルボール12−ミリスタート13−アセタート(PMA)を用いる。和光純薬のものを用いてもよいし、他の会社の他の物質でもTHP−1をマクロファージに分化できれば何を用いてもよい。
<被験物質>
被験物質は特に限定されないが、植物乾燥物より抽出したエキスや、市場にある製品化されたエキス等を用いることができる。エキスの抽出の方法は、特に限定されない。又、被験物質は植物エキスに限らず、線維芽細胞に添加出来るものであれば特に限定はなく、動物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被験物質として用いることが出来、液状の他、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。また、そのままでは培地に溶解しない場合は、界面活性剤等の可溶化剤を適宜使用することにより溶解させることで被験物質として用いることができる。
添加濃度については、被験物質添加から24時間後に明らかに細胞が死滅していなければ、どの濃度でも問題ない。なお、被験物質に、抽出溶媒や可溶化剤が含まれている場合は、抽出溶媒や可溶化剤のみを同濃度になるように細胞に添加したサンプルも用意し、その影響を考慮することが好ましい。
線維芽細胞に被験物質を添加するタイミングは特に問わない。線維芽細胞、メラノソーム、被験物質が並存するタイミングがあれば良く、線維芽細胞にメラノソームを添加した後に被験物質を添加しても良いし、メラノソームと被験物質を同時に添加しても良いし、メラノソームを添加する前に添加しても良い。
<指標の決定>
真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤を選別する際に用いる指標は、線維芽細胞にメラノソームを添加し、線維芽細胞がメラノソームを取り込むことで、遺伝子発現量及び/又はタンパク質発現量が変化しているものを指標にすることができる。これらの発現量は、添加するメラノソームの量にも依存するので、単に線維芽細胞がメラノソームを取り込むことで、コントロールと比較してその発現量が増加しているものを選択すれば良い。所望する効果の程度に応じて、1.5倍以上、2倍以上を選択することができ、より好ましくは4倍以上増加している遺伝子を選択することである。中でも、マクロファージのケモタキシス促進効果が既知である遺伝子及び/又はタンパク質を指標とすることが好ましい。
<遺伝子発現量及び / 又はタンパク質量の測定>
遺伝子発現量は、回収した培養細胞からTotal RNAを抽出し、このTotal RNA中に含まれる標的遺伝子のmRNA発現量を測定することによって定量することができる。
Total RNAの抽出方法は特に限定されず、たとえば、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski P et al. Anal. Biochem, 162, 156−159,1987.)等を採用することができる。例えば、市販品であるRNeasy Mini Kit(QIAGEN)などが使用できる。抽出されたTotal RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いてもよい。
遺伝子の発現量は、遺伝子チップ、アレイ等の固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT−PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法など公知の方法を用いて測定することができる。
タンパク質量は、培養細胞の細胞内タンパク質もしくは、細胞培養上清に放出された細胞外タンパク質中に存在するタンパク質量を測定することによって定量する。細胞内タンパク質は、市販の細胞抽出液を用いた方法や、物理的に細胞膜を破壊する超音波破砕法などを用いて抽出することができるが、特に限定されない。細胞外タンパク質に関しては、細胞培養上清をそのまま用いても良いが、タンパク質の濃縮、脱塩などの精製を行うことが好ましい。
上述の方法で抽出したタンパク質より、標的タンパク質量を検出、定量するためには、ウェスタンブロッティングやELISAなどの抗体を用いた方法にて実施することが一般的であるが質量分析計などその他技術を用いても測定することができ、特に限定されない。
本願発明において、「発現量が増加するタンパク質」とは、線維芽細胞がメラノソームを貪食することに起因して結果として増加するタンパク質を全般指す。例えば、ある遺伝子がタンパク質を糖鎖で修飾する酵素をコードするものであった場合には、該当する酵素の他、当該酵素によって修飾されてできる糖タンパク質も含まれる概念である。
<線維芽細胞のメラノソーム移送度>
本願発明者らは、メラノソームを貪食した線維芽細胞が、一定時間後近傍の特定の線維芽細胞にメラノソームの移送を始めることを発見した。メラノソームの移送を受けた線維芽細胞は、他の周辺の線維芽細胞よりメラノソームの含有量が多くなるので、他の周辺の線維芽細胞よりMCPs発現量が高くなることが推測された。本発明では、この関係をスクリーニングにおける指標の一つとして使用する。
本発明で言う移送度は、2つの意味合いで用いる。以下、代表してMCP−1を例に説明する。
一つ目は、メラノソームを貪食した線維芽細胞が移送を始めるまでの時間(速度)をさす場合である。
メラノソームを線維芽細胞に添加した後、被験物質を添加しない場合にメラノソームの移送が始まるまでの時間をコントロールとし、被験物質添加によりコントロールと比べてメラノソームの移送が始まる時間、或いは移送が終了する時間が短い場合、短時間で特定の線維芽細胞にメラノソームが集められ、移送を受けない他の線維芽細胞に比べてMCP−1の発現量が高くなるので、結果として短時間にマクロファージを呼び寄せ、マクロファージがメラノソームの移送を受けた線維芽細胞を貪食することを誘発させることが期待できる。
もっとも、この場合において、一度の実験においてコントロールと被験物質添加群とを同時に観察することもできるし、予め、線維芽細胞に一定量のメラノソームを添加してからメラノソームの移送が開始する平均的な時間及び完了する平均的な時間を調べておき、別の実験において、予め確認したコントロールの移送開始又は終了時間を基準として、それよりも短時間で移送が開始又は終了する被験物質を効果物質として選択することは、言うまでもない。
移送の開始、終了を確認する方法は特に限定されないが、例えば、顕微鏡(BZ−X700、KEYENCE、位相差10倍レンズ)で観察した際に、少なくとも1視野、好ましくは2〜3視野で確認することが好ましい。移送が開始・終了したか否かは、厳密に確認する必要はない。1視野中で移送が観察された時点で移送が開始、観察されなくなった時点で移送が終了したとして判断して良い。又、線維芽細胞は常に細胞遊走しているが、移送が終了に近づくと、メラノソームが移送された線維芽細胞の細胞遊走が盛んでなくなる。その時点を移送の終了と見なしても良い。
二つ目は、メラノソームを貪食した線維芽細胞が移送をさせた量を指す場合である。一旦メラノソームを貪食した線維芽細胞は、一定時間後近傍の他の線維芽細胞にメラノソームを移送する。メラノソームを線維芽細胞に添加後一定時間後に、被験物質を添加しない場合に移送されるメラノソームの平均量をコントロールとし、被験物質添加によりコントロールと比べてより多くの量のメラノソームの移送が促されれば、移送を受けない他の線維芽細胞と比べて、メラノソームの移送を受けた特定の線維芽細胞においてMCP−1の発現量が高くなるので、結果として短時間にマクロファージを呼び寄せ、マクロファージがメラノソームの移送を受けた線維芽細胞を貪食することを誘発させることが期待できる。
この場合におけるメラノソームの平均量は、具体的にメラノソームの量を比較する他、目視比較、顕微鏡写真の画像等を利用して、例えば二値化等の手法により細胞中に占めるメラノソームの画像上の面積を比較する方法等を用いて判断することもできる。この場合においても、同一実験で対比することもできるし、予め平均的なメラノソームの移送量、或いは画像面積等の情報を入手しておき、それと比較することで判定することができることは、言うまでもない。
<真皮シミ予防・改善剤、マクロファージ誘引剤の選別>
本願発明は、真皮に存在するメラニンを線維芽細胞が貪食することに起因して、線維芽細胞がマクロファージ誘引物質を放出することを発見したことに基づくものであるから、線維芽細胞がメラノソームを貪食しMCP−1等のマクロファージ誘引物質を十分放出させる有効成分を選択出来れば良い。その意味においては、移送度を指標とする工程は、必ずしも必要ではない。
真皮シミ予防・改善剤、マクロファージ誘引剤の選別をするには、指標が遺伝子及び/又はタンパク質の発現量である場合は、その発現量を高めるものを選択すれば良く、指標がメラノソームの移送度である場合は、その移送速度を速くさせるものや、メラノソームの移送量を多くするものを選択すれば良い。効果成分の選別は、希望する効果の程度に応じて各発現量の促進の程度を調整すればよい。
以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
−メラニンを貪食した線維芽細胞のメラニンの移送−
<メラノソームの調製>
ヒト由来メラノーマ細胞HM3KOを5%CO下、37℃のインキュベーター内で、5%FBSを含むD−MEM培地(Invitrogen社製Gibco)を用いて培養した。
100%コンフルエント近くになり、メラニン産生が進んだ細胞を、トリプシンを用いて7.0×10cells/ tubeになるようにエッペンドルフチューブに回収、遠心(1000g、4℃、3分)によって細胞ペレットを作成した。その後ペレットをPBS(−)にて洗浄した。
細胞ペレットに対し、1mLのcold lysis buffer(1% octylphenoxy poly (ethyleneoxy)ethanol(IGEPAL CA−630 )、0.01% SDS含有0.1M Tris−HCl溶液pH7.5)を添加した。これを10分ごとに攪拌しながら、20分室温にて静置した。この分散溶液を遠心分離(1000g、4℃、3分)、不要物を沈殿させ、メラノソームを含む上清を回収した。回収した上清を再度、遠心分離し(1000g、4℃、3分)、上清を回収した。この上清を遠心分離し(20000g、4℃、3分)、得られた沈殿をメラノソームリッチ画分とした。上清を吸引除去し、メラノソームのペレットをPBSにて2度洗浄した。(20000g、4℃、3分)これにPBSを添加し、50回以上ピペッティングすることによってメラノソームを分散させた。このメラノソーム懸濁液をメラノソームとした。
<メラノソームの移送>
ヒト由来正常真皮線維芽細胞を、2.0×10cell/mLになるように10%FBSを含むD−MEM培地(Invitrogen社製Gibco)に懸濁し、24ウェル細胞培養プレートに500μLを播種した。5%のCO下、37℃のインキュベーター内で24時間培養した。培養後、新しい培地に交換し、メラノソームを50μL添加した。なお、用いたメラノソームを5倍希釈した溶液100μLのAbs405nmは0.094であった。メラノソーム添加後、顕微鏡(BZ−X700、KEYENCE、位相差10倍レンズ)を用いてタイムラプス動画撮影(30分毎に撮影)を行った。
図1中の番号は、時間の経過を示している。上段の写真と下段の写真はそれぞれ対応しており、写真の理解を助けるため、上段の写真に線維芽細胞の輪郭を補助線として記載したのが下段の写真である。各写真中、向かって左側の線維芽細胞(メラノソームを貪食した細胞)から右側の線維芽細胞(近傍の線維芽細胞)にメラノソームの移送がされていることが分かる。この挙動は、線維芽細胞にメラノソームを添加してから、約72時間後には線維芽細胞の遊走が盛んではなくなり、移送が終了したことをタイムラプス動画によって確認した。
−線維芽細胞のメラノソーム貪食による遺伝子発現及びタンパク質量の変化−
<線維芽細胞の培養>
ヒト由来正常真皮線維芽細胞を、1.25×10cell/mLになるように10%FBSを含むD−MEM培地(Invitrogen社製Gibco)に懸濁し、12ウェル細胞培養プレートに播種した。5%のCO下、37℃のインキュベーター内で培養した。
72時間経過後、細胞が30−50%コンフルエントに達していることを確認し、新しい培地に交換した後、前記メラノソームを培地に50μL添加した。なお、用いたメラノソームを5倍希釈した溶液100μLのAbs405nmは0.110であった。この時、線維芽細胞にメラノソームを添加していないサンプルをコントロールとした。さらに5%のCO下、37℃のインキュベーター内で24時間培養することで、線維芽細胞にメラノソームを取り込ませた。
<遺伝子発現量の変化確認>
培養後、メラノソームを添加した線維芽細胞及びメラノソームを添加していない線維芽細胞(コントロール)から、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いて、Total RNAを抽出した。このTotal RNAに対してPrime Script RT RCR Kit (TaKaRa) を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAにおけるmRNAの発現を次世代シーケンサー(Ion ProtonTMシステム Thermofisher Scientific)にて網羅的に解析した。得られたデータは、EdgeRを用いて解析を行い、メラノソーム添加後の遺伝子発現のRPM値(各遺伝子に対するリード数を遺伝子発現量として換算した値)が50以上かつFDR値が0.05以上かつコントロールに対して、メラノソーム添加時の遺伝子発現量の変化が4倍以上の遺伝子を抽出した(表1)。
その結果、53個の遺伝子が選択された。その中にはマクロファージの誘引作用を有するMCP−1,2,3,4等が含まれていた(表1)。
一方、線維芽細胞において産生されることが知られており、かつマクロファージの誘引作用も既知であるCCL1、CCL3(MIP−1α)等はコントロールおよびメラノソーム添加時ともにRPM値がほぼ0であったため、発現していなかった(表2)。このことは、線維芽細胞がメラノソームを取り込んだ場合、すべてのマクロファージ誘引促進の遺伝子発現を増加させるのではなく、特定の因子にのみ影響を与えていることを示している。
表1、表2の結果から、線維芽細胞がメラノソームを貪食した際にマクロファージの誘引を促進するのは、マクロファージの誘引作用を有する既知の遺伝子の中でも、MCP−1,2,3,4が特に重要であると言える。
―貪食したメラノソーム量とタンパク質発現量との関係―
<線維芽細胞の培養>
培養は〔0035〕〔0036〕と同様の実験を行い(ただし、ELISAでのバックグラウンド低減のため、培地中の血清は抜いた状態で培養した)、メラノソーム添加から96時間培養した。なお、今回の実験ではメラノソームをそれぞれ12.5、25、50μL添加した細胞を用意した。培養後、上清に存在するMCP−1をELISA(RayBio Human MCP−1 ELISA kit)にて測定した。
その結果、与えたメラノソームの濃度依存的に、線維芽細胞が放出するMCP−1の量が増加した(図2)。この結果から、貪食或いは移送によりメラノソームを多く蓄積した線維芽細胞からはMCP−1が多く放出されると考えられ、それによりマクロファージが多く(或いは早く)誘引され、結果としてメラノソームを多く蓄積した線維芽細胞が優先的に貪食されることが期待できると考えられた。
−メラノソームを貪食した線維芽細胞とマクロファージの共培養−
線維芽細胞を1.0×10cell/mLおよびTHP−1を1.0×10cell/mLになるように5%FBSを含むRPMI1640培地(Invitrogen社製Gibco)に懸濁し、それぞれの細胞を70μLずつculture-Insert in μ-Dish 35 mm, high, ibiTreat(ibidi)のウェルに播種した。5%のCO下、37℃のインキュベーター内で24時間培養した。培養後線維芽細胞のウェルにはメラノソーム10μLを添加し、THP−1のウェルには、THP−1をマクロファージに分化させるために、3.2mM PMAをそれぞれ添加した。5%のCO下、37℃のインキュベーター内で72時間培養した。その後、インサートを除去して共培養を開始した。なお、72時間培養後に共培養を開始したのは、メラノソームを添加した線維芽細胞が特定の線維芽細胞にメラノソームを移送終了するのが概ね72時間後であることからである。
図3は、左側が共培養開始直後(0時間)の写真、右側が共培養から96時間後の写真、上段はメラノソームを貪食した線維芽細胞とマクロファージの共培養写真、下段はメラノソームを貪食していない線維芽細胞とマクロファージの共培養写真である(BZ−X700、KEYENCE、位相差10倍レンズ)。メラノソームを貪食してない線維芽細胞は明視野では見にくいため、位相差顕微鏡画像を使用しており、マクロファージは白っぽく光って見えている。メラノソームを貪食した線維芽細胞には多くのマクロファージが誘引されている様子が観察された。一方、メラノソームを貪食していない線維芽細胞にはマクロファージの誘引は観察されなかった。
これは、貪食又は移送によって多くのメラノソームを細胞内に蓄積している線維芽細胞がMCP−1等を放出し、マクロファージを呼び寄せているからであると考えられる。
以上より、メラノソームを多く蓄積した線維芽細胞はMCP−1を放出し、多くのマクロファージを呼び寄せることによって、メラノソームを多く蓄積した線維芽細胞が貪食されることが分かる。そのため、メラノソームを取り込んだ線維芽細胞のMCP−1等のマクロファージの誘引に関連する遺伝子及び/又はタンパク質の発現量を調べることによって、真皮シミの予防・改善度を測ることができるものと期待できる。
<MCP-1を指標としたスクリーニング方法>
線維芽細胞を、5.0×10cell/mLになるように5%FBSを含むRPMI1640培地(Invitrogen社製Gibco)に懸濁し、24ウェルプレートに500μLずつ播種した。その後、37℃、5%CO条件下で24時間培養した。新しい培地に交換し、メラノソームを培地に100μL添加した。なお、用いたメラノソームを5倍希釈した溶液100μLのAbs405nmは0.112であった。さらに、メラノソームを添加したウェルと添加していないウェルのそれぞれに被験物質を添加した。37℃、5%CO条件下で72時間培養後、線維芽細胞のTotal RNAを抽出した。
培養後、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いて、Total RNAを抽出した。このTotal RNAに対してPrime Script RT RCR Kit (TaKaRa) を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、MCP−1、GAPDHの発現量を以下のプライマー及び酵素を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System 、Applied Biosystems)にて測定した。
プライマーは、MCP−1用センスプライマー(5‘−CAGCCAGATGCAATCAATGC−3’)、アンチセンスプライマー(5‘−GCACTGAGATCTTCCTATTGGTGAA−3’)、GAPDH(グリセルアルデヒド3−リン酸 デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)用センスプライマー(5‘−CCACATCGCTCAGACACCAT−3’)、アンチセンスプライマー(5‘−TGACCAGGCGCCCAATA−3’)を用いた。PCRの反応にはSYBR Select Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を使用し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。比較Ct法ではコントロールとして被験物質およびメラノソームを添加していない線維芽細胞のMCP−1遺伝子発現量(〔被験物質(―)メラノソーム(―)〕)および被験物質を添加せず、メラノソームを添加した線維芽細胞のMCP−1遺伝子発現量(〔被験物質(―)メラノソーム(+)〕)を用い、被験物質およびメラノソームを添加した線維芽細胞のMCP−1遺伝子発現量(〔被験物質(+)メラノソーム(+)〕)、ならびに被験物質を添加し、メラノソームを添加していない線維芽細胞のMCP−1遺伝子発現量(〔被験物質(+)メラノソーム(―)〕)を計算し、〔被験物質(+)メラノソーム(+)〕の値が〔被験物質(―)メラノソーム(+)〕よりも増加し、〔被験物質(+)メラノソーム(―)〕の値が〔被験物質(―)メラノソーム(―)〕と同程度の被験物質を真皮シミ改善成分として選択するのが好ましいが、〔被験物質(―)メラノソーム(+)〕の値に対する〔被験物質(+)メラノソーム(+)〕の値の増加が、〔被験物質(―)メラノソーム(―)〕の値に対する〔被験物質(+)メラノソーム(―)〕の値の増加よりも、はるかに高い被験物質を選別することもできる。これによって、メラノソームを貪食していないにも関わらず、被験物質の作用により、MCP−1の発現が増加してしまう物質ではなく、メラノソームを貪食した線維芽細胞に対して特異的に被験物質が作用することにより、MCP−1の発現が増加する物質のスクリーニングが可能となる。
尚、本段落中「メラノソーム(+)」は、メラノソーム添加を意味し、「メラノソーム(−)」はメラノソーム不添加を意味し、被験物質における(+)、(−)も同様の意味で用いている。
<メラノソームの移送度を指標としたスクリーニング方法1>
線維芽細胞を、2.0×10cell/mLになるように5%FBSを含むRPMI1640培地(Invitrogen社製Gibco)に懸濁し、24ウェル細胞培養プレートに500μLを播種した。5%のCO下、37℃のインキュベーター内で24時間培養した。培養後、新しい培地に交換し、メラノソームを50μL添加した。なお、用いたメラノソームを5倍希釈した溶液100μLのAbs405nmは0.094であった。メラノソーム添加後、被験物質を添加するウェル(被験物質群)と、被験物質無添加のウェル(コントロール)を用意した。その後、顕微鏡(BZ−X700、KEYENCE)を用いてタイムラプス動画撮影を行い、メラノソームの移送が開始される時間と移送終了時間を観察した。コントロールよりメラノソームの移送開始時間が早いもの及び移送終了時間が早いものを効果物質として選択した。
<メラノソームの移送度を指標としたスクリーニング方法2>
実施例1と同様の方法で、被験物質群とコントロールを用意した。線維芽細胞にメラノソームを添加してから72時間後に、顕微鏡(BZ−X700、KEYENCE)を用いて写真を撮影した。撮影した写真を目視により、被験物質群とコントロールを比較し、コントロールよりメラノソームの移送量が多いものを、効果物質として選択した。
本発明によれば、メラノソームを貪食した線維芽細胞を標的にマクロファージを誘引させることができる効果物質が選別でき、マクロファージの貪食によって、優先的にクリアランスできる真皮シミ予防・改善剤を選別することが可能となる。これにより、真皮シミの改善が期待できる化粧料の提供に利用できる。

Claims (1)

  1. 真皮シミ予防・改善剤及び/又はマクロファージ誘引剤のスクリーニング方法であって、
    (1)メラノソームを線維芽細胞に添加する工程
    (2)被験物質を添加する工程
    を含み、線維芽細胞間におけるメラノソームの移送度を指標として被験物質を選定する工程を含んでなるスクリーニング方法。
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