本発明は、季節性A型インフルエンザワクチンをワクチン接種した個体から、異なる亜型のA型インフルエンザウイルスを広範に中和する天然ヒトモノクローナル抗体を検出及び単離すること、並びに本発明の抗体が結合する新規エピトープに一部基づく。このような抗体は、異なる亜型のA型インフルエンザウイルスを中和するために1種又は数種の抗体のみが必要とされるので、望ましい。更に、広範に中和を行うヘテロ亜型抗体を高力価で製造し、抗体を含む薬剤の製造コストを削減する。加えて、このような抗体により認識されるエピトープは、異なる季節性の亜型単離体及び世界的流行を引き起こし得る亜型単離体のいずれに対しても、多様な防御を誘導できるワクチンの一部となり得る。
したがって、一態様では、本発明は、第1群及び第2群亜型に含まれる少なくとも2種のA型インフルエンザウイルスを中和する、単離抗体及びそれらの抗原結合断片を提供する。一実施形態では、本発明は、A型インフルエンザウイルスの第1群亜型及び第2群亜型の感染を中和する単離抗体又はそれらの抗原結合断片を提供する。
他の実施形態では、本発明は、A型インフルエンザウイルスの第1群亜型及び第2群亜型の感染を中和し、かつA型インフルエンザのHA三量体のステム領域に存在するエピトープに特異的に結合する単離抗体又はそれらの抗原結合断片を提供し、抗体の重鎖及び軽鎖又はそれらの抗原結合断片は、HA三量体の第一の近位のモノマーおよび第二の遠位右側のモノマー中のアミノ酸に接触する。
上記に述べた通り、HAタンパク質は、3つの同一のモノマーを含む、三量体前駆体ポリペプチドHA0(ホモ三量体)として合成される。各モノマーは、他の2つのモノマーとは独立して切断されてよく、又は切断されなくてもよい。翻訳後切断されると、各モノマーは、2つのポリペプチド、HA1及びHA2を形成するが、これらはそうでなければ1箇所のジスルフィド結合により連結される。本発明の抗体の重鎖及び軽鎖は、HA三量体の3つのモノマーのうち2つと接触する。本発明の抗体により接触されたモノマーは切断されてよく、又は切断されなくてもよい。目的の明確さのため、及び図中の略図を理解する目的のため、我々は、本発明の抗体により接触される2つのモノマーを近位のモノマー及び遠位の右側モノマーと呼ぶ。
本明細書で使用するとき、用語「抗原結合断片」、「断片」及び「抗体断片」は、抗体の抗原結合活性を保持する本発明の抗体の任意の断片を指すために互換的に使用される。抗体断片の例としては限定するものではないが、一本鎖抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv又はscFvが挙げられる。更に、本明細書で使用するとき、用語「抗体」は、抗体及びそれらの抗原結合断片の両方を含む。
本明細書で使用するとき、「中和抗体」は、中和することのできるものであり、すなわち、病原体が宿主への感染を開始する及び/又は維持する能力を予防、阻害、減少、遅延又は干渉することのできるものである。用語「中和抗体」及び「中和する抗体(単数又は複数)」は、本明細書において互換的に使用される。これらの抗体は、活性なワクチンと関連させて適切な処方に基づき予防剤又は治療剤として、診断ツールとして、あるいは本明細書に記載される通りの製造ツールとして、単独で又は組み合わせて使用することができる。
当該技術分野において既知のH1及びH5 HAと共結晶化させた、第1群に特異的なヘテロ亜型抗体のX線結晶構造解析により、抗体は、HA三量体のうちの1つのモノマーのみと相互作用することが示される。更に、試験により、抗体は軽鎖ではなく重鎖のCDR残基のみでHAと接触することが示される。対照的に、本発明の抗体又は抗原結合断片は、3つのHAモノマーのうちの1つではなく2つと接触する。加えて、本発明の抗体は、重鎖及び軽鎖の両方のCDR残基によりHAと接触する。加えて、本発明の抗体又は抗原結合断片とHAとによりなされる相互作用の性質は、他の抗体、CR6261及びF10によりなされるものと著しく異なる。最も著しい違いは、本発明の抗体とHA上の疎水性の溝との相互作用が単に重鎖CDR3(HCDR3)によってのみ介在されるのに対し、CR6261及びF10では3つのすべてのHCDRが結合に関与するということである。
一実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片の重鎖は、近位のモノマー中のアミノ酸残基と接触し、本発明の抗体又は抗原結合断片の軽鎖は、HA三量体の近位のモノマー及び遠位右側のモノマーのいずれのアミノ酸残基と接触する。本発明の抗体により接触されるモノマー、すなわち、近位のモノマー及び遠位右側のモノマーは、未切断のものであってよく、あるいは切断されてHA1及びHA2ポリペプチドを生成してもよい。一実施形態では、近位のモノマー及び遠位右側のモノマーは切断される。他の実施形態では、近位のモノマー及び遠位右側のモノマーは未切断のものである。
本発明の抗体及び抗原結合断片は、A型インフルエンザウイルスの16種の亜型の16種の異なるHA間に保存されているエピトープに特異的に結合する。一実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、HA1の第329番目のアミノ酸残基、及びHA2の第1、2、3及び4番目のアミノ酸残基を含むエピトープに結合し、HA1及びHA2は、HA三量体の未切断モノマー中に存在する。
他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片の重鎖は、近位又は遠位右側モノマーのHA1の第318番目アミノ酸残基、並びにHA2の第18、19、20、21、38、41、42、45、49、53、及び57番目のアミノ酸残基と接触する。モノマーは未切断のものであっても、あるいは切断されていてもよい。
更に他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片の軽鎖は、未切断の近位のモノマーのHA2の第38、39、及び43番目のアミノ酸残基、並びに未切断の遠位右側モノマーのHA1の第327、328及び329番目のアミノ酸残基及びHA2の第1、2、3及び4番目のアミノ酸残基と接触する。
更に別の実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は、未切断の近位のモノマーのHA1の第318番目のアミノ酸残基、並びにHA2の第18、19、20、21、38、39、41、42、43、45、48、49、53、56及び57番目のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する。加えて、抗体は、未切断の遠位右側モノマーのHA1の第327、328、329番目のアミノ酸残基並びにHA2の第1、2、3、及び4番目のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する。
他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片の軽鎖は、近位のモノマーのHA2の第38、39、42、及び46番目のアミノ酸残基、並びに遠位右側モノマーのHA1の第321及び323番目のアミノ酸残基、及びHA2の第7及び11番目のアミノ酸残基と接触する。この実施形態では、近位及び遠位右側モノマーは切断されている。
更に別の実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は、切断型近位のモノマーのHA1の第318番目のアミノ酸残基、及びHA2の第18、19、20、21、38、39、41、42、45、46、49、52、53、及び57番目のアミノ酸残基、並びに切断型遠位右側モノマーのHA1の第321及び323番目のアミノ酸残基、及びHA2の第7及び11番目のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する。
本明細書に示す通り、本発明の抗体又は抗原結合断片は、A型インフルエンザウイルスの全16種類の亜型のHAに特異的に結合することができる。一実施形態では、本発明の抗体は、A型インフルエンザのHAの亜型H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、及びH16に特異的に結合する。
本発明の他の実施形態では、本発明は、高い産生力価を有する抗体を提供する。例えば、本発明の非常に類似する2種類の抗体、FI6変異体1及びFI6変異体2が単離されると、これらの抗体の複数種の変異体(具体的には、FI6変異体2の変異体)が合成されて、形質移入細胞の産生性を向上させた。一実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、形質移入細胞において、FI6変異体2の産生時の力価と比較して少なくとも1.5倍高い力価で産生される。他の実施形態では、本発明の抗体は、FI6変異体2の産生時の力価と比較して少なくとも1.8、2、2.2、2.5、2.7、3、3.2、3.4、3.6、3.8、4、4.2、4.4、4.6、4.8、5、5.3、5.6又は6倍高い力価で産生される。一部の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、形質移入細胞において、FI6変異体2の産生時の力価と比較して少なくとも3、少なくとも4、又は少なくとも4.5倍高い力価で産生される。
したがって、一実施形態では、本発明は、A型インフルエンザウイルスの第1群亜型及び第2群亜型の感染を中和し、かつA型インフルエンザのHA三量体のステム領域に存在するエピトープに特異的に結合する単離抗体又はそれらの抗原結合断片を提供し、抗体の重鎖及び軽鎖又はそれらの抗原結合断片は、HA三量体の第一の近位のモノマーおよび第二の遠位右側のモノマー中のアミノ酸に接触し、抗体又はそれらの抗原結合断片は、FI6変異体2の産生時の力価と比較して例えば少なくとも3倍高い力価で形質移入細胞において産生される。
本明細書で記載するとき、形質移入細胞は、本発明の抗体をコードしている核酸配列を発現させるための細胞であり、当業者により現在既知である、あるいは今後発見されることになる任意の細胞であってよい。このような細胞の例としては、限定するものではないが、CHO、HEK293T、PER.C6、NS0、骨髄腫又はハイブリドーマ細胞などの哺乳類宿主細胞が挙げられる。更に、細胞には、一過性又は安定的のいずれかで、形質移入させることができる。形質移入に使用するのに好適な形質移入法並びに細胞型は、当業者の範囲内のものである。
他の実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、配列番号37、38、39、又は40のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合する。
ヒトモノクローナル抗体、不死化B細胞クローン、又は形質移入されており本発明の抗体を分泌する宿主細胞、及び本発明の抗体をコードしている核酸もまた本発明の範囲内に含まれる。本明細書で使用するとき、用語「広範に特異的」は、A型インフルエンザウイルスの第1群亜型のうちの1つ以上及び第2群亜型のうちの1つ以上に結合及び/又は中和することのできる本発明の抗体又は抗原結合断片を指すのに使用される。
本発明の抗体又は抗原結合断片は、第1群のA型インフルエンザウイルス亜型(H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、及びH16、並びにこれらの変異体)のうち1種以上、及び第2群のA型インフルエンザウイルス亜型(H3、H4、H7、H10、H14及びH15、並びにこれらの変異体)のうち1種以上を中和する。一実施形態では、第1群の代表的な亜型としては、H1、H2、H5、H6、及びH9が挙げられ、第2群の代表的な亜型としては、H3、及びH7が挙げられる。
本発明の抗体及び抗体断片は、A型インフルエンザウイルス亜型の多様な組み合わせを中和することができる。一実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルスのH1及びH3亜型、又はH2及びH3亜型、又はH3及びH5亜型、又はH3及びH9亜型、又はH1及びH7亜型、又はH2及びH7亜型、又はH5及びH7亜型、又はH7及びH9亜型を中和することができる。
他の実施形態では、本発明の抗体及び抗体断片は、A型インフルエンザウイルスのH1、H2及びH3亜型、又はH1、H3及びH5亜型、又はH1、H3及びH9亜型、又はH2、H3及びH5亜型、又はH2、H3及びH9亜型、又はH3、H5及びH9亜型、又はH1、H2及びH7亜型、又はH1、H5及びH7亜型、又はH1、H7及びH9亜型、又はH2、H5及びH7亜型、又はH2、H7及びH9亜型、又はH5、H7及びH9亜型、又はH1、H3及びH7亜型、又はH2、H3及びH7亜型、又はH3、H5及びH7亜型、又はH3、H7及びH9亜型を中和することができる。
更に別の実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルスのH1、H2、H3及びH7亜型、又はH1、H3、H5及びH7亜型、又はH1、H3、H7及びH9亜型、又はH2、H3、H5及びH7亜型、又はH2、H3、H7及びH9亜型、又はH3、H5、H7及びH9亜型又はH1、H2、H3及びH5亜型、又はH1、H2、H3及びH9亜型、又はH1、H3、H5及びH9亜型、又はH2、H3、H5及びH9亜型、又はH1、H2、H5及びH7亜型、又はH1、H2、H7及びH9亜型、又はH1、H5、H7及びH9亜型、又はH2、H5、H7及びH9亜型を中和することができる。
更に別の実施形態では、本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスのH1、H2、H3、H5及びH7亜型、又はH1、H2、H3、H7及びH9亜型、又はH1、H3、H5、H7及びH9亜型、又はH2、H3、H5、H7及びH9亜型、又はH1、H2、H3、H5及びH9亜型、又はH1、H2、H5、H7及びH9亜型、又はH1、H2、H3、H5、H7及びH9亜型を中和することができる。更に別の実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は、A型インフルエンザウイルスのH6亜型を中和するのに加えて、上記の組み合わせの1つ以上を中和する。
本発明の抗体及び抗原結合断片は高い中和力価を有する。A型インフルエンザウイルスのうち50%を中和するのに必要とされる、本発明の抗体の濃度は、例えば、約50μg/mL以下となり得る。一実施形態では、A型インフルエンザウイルスのうち50%を中和するのに必要とされる本発明の抗体の濃度は、約50、45、40、35、30、25、20、17.5、15、12.5、11、10、9、8、7、6、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5又は約1μg/mL以下である。他の実施形態では、A型インフルエンザウイルスのうち50%を中和するのに必要とされる本発明の抗体の濃度は、約0.9、0.8、0.75、0.7、0.65、0.6、0.55、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.25、0.2、0.15、0.1、0.075、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.008、0.006、0.004、0.003、0.002又は約0.001μg/mL以下である。これは、A型インフルエンザウイルスのうち50%を中和するのに必要とされる抗体濃度が非常に低濃度であることを意味する。特異性及び力価は、当業者に既知の通りの標準的な中和アッセイを用いて測定することができる。
本発明は、HAに対し非常に広範な特異性を有し、かつ第1群の1種以上のA型インフルエンザウイルス亜型及び第2群の1種以上のA型インフルエンザウイルス亜型を中和する、抗体を提供する。本発明の抗体は、第1群又は第2群から選択された2種又はそれ以上のA型インフルエンザウイルス亜型間で保存されている、HA領域内のエピトープに結合する。
一実施形態では、本発明は、第1群及び第2群のA型インフルエンザウイルス亜型のHAのステム領域において保存されているエピトープに特異的に結合し、ウイルスの複製又は拡散に干渉する抗体(例えば、単離抗体又は精製抗体)を提供する。本発明はまた、第1群及び第2群の亜型のHAのステム領域において保存されているエピトープに特異的に結合し、細胞へのウイルスの侵入を阻害する抗体(例えば、単離抗体又は精製抗体)を提供する。理論に束縛されるものではないが、代表的な実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、A型インフルエンザウイルスのステム領域において保存されているエピトープに結合し、融合工程を干渉することにより、細胞へのウイルスの侵入を阻害する。一実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、補体及びFcR発現型キラー細胞を補充し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介在することにより、ウイルスの拡散を制限する。タンパク質のエピトープ又は抗原決定基は、該当する分子において、抗体結合部位(又はパラトープ)により特異的に認識される箇所に相当する。したがって、エピトープは、使用上認識する際に相補的なパラトープを必要する、相関性のある部位である。エピトープがタンパク質の異なる変異体間で保存されている場合、同一のパラトープが分子の同一の部位に接触することにより、これらの異なる変異体を特異的に認識し得ることを意味する。
本発明の抗体は、モノクローナルであってよく(例えば、ヒトモノクローナル抗体)、又は組み換え抗体であってよい。本発明は、本発明の抗体の断片も提供し、特に、抗体の抗原結合活性を保持している断片も提供する。特許請求の範囲を含め、本明細書では、一部の箇所に明確に抗原結合断片(1つ又は複数)、抗体断片(1つ又は複数)、変異体(1つ又は複数)及び/又は抗体誘導体(1つ又は複数)と記載するが、用語「抗体」又は「本発明の抗体」には、抗体に分類されるものがすべて包含されること、すなわち、抗原結合断片(1つ又は複数)、抗体断片(1つ又は複数)、変異体(1つ又は複数)及び抗体誘導体(1つ又は複数)が包含されることは理解されたい。
一実施形態では、本発明の抗体及び抗体断片は、第1群及び第2群のA型インフルエンザウイルス亜型のうち2種以上の組み合わせを中和する。代表的なA型インフルエンザウイルス亜型としては、限定するものではないが、H5N1(A/Vietnam/1203/04)、H1N1(A/New Caledonia/20/99)、H1N1(A/Salomon Island/3/2006)、H3N2(A/Wyoming/3/03)、及びH9N2(A/chicken/Hong Kong/G9/97)が挙げられる。他の実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルス亜型の第1群及び第2群のうちの3、4、5、6、又は7つ以上の組み合わせを中和する、及び又は、これらに特異的なものである。
代表的な実施形態では、本発明は、A型インフルエンザウイルス亜型H1及びH3(例えば、H1N1及びH3N2);又はH1、H3、H5及びH9(例えば、H1N1、H3N2、H5N1、及びH9N2)に特異的な抗体又はそれらの抗体断片を含む。更に別の実施形態では、抗体又はそれらの抗体断片は、H1、H3、H5、H7及びH9に特異的なものである(例えば、H1N1、H3N2、H5N1、H7N1、H7N7、H9N2)。A型インフルエンザウイルス亜型の他の例示的な組み合わせは、本開示において上述してある。
本発明の代表的な抗体の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列配列番号、並びにこれらをコードしている核酸配列の配列番号を表1に掲載する。
一実施形態では、本発明の抗体又は抗体断片は、配列番号13、33、55、59、29、又は35のいずれか1つに引用される配列と約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。他の実施形態では、本発明の抗体又は抗体断片は、配列番号14、57、61、又は30に引用される配列と約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
更に別の実施形態では、本発明の抗体の重鎖可変領域は、配列番号15、34、56、60、31、又は36のいずれか1つに引用される配列と約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%同一である配列を有する核酸によりコードされ得る。更に別の実施形態では、本発明の抗体の軽鎖可変領域は、配列番号16、58、62、又は32に引用される配列と約70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%同一である配列を有する核酸によりコードされ得る。
抗体重鎖のCDRは、それぞれ、CDRH1(又はHCDR1)、CDRH2(又はHCDR2)及びCDRH3(又はHCDR3)として参照される。同様にして、抗体軽鎖のCDRは、それぞれ、CDRL1(又はLCDR1)、CDRL2(又はLCDR1)及びCDRL3(又はLCDR1)として参照される。CDRアミノ酸の位置は、IMGT付番法に従って決定される:CDR1−IMGTによる位置は27〜38である、CDR2−IMGTによる位置は56〜65である、かつCDR3−IMGTによる位置は105〜117である。
表2は、本発明の代表的な抗体のそれぞれの重鎖及び軽鎖の6つのCDRのアミノ酸配列の配列番号を提供する。
一実施形態では、本発明の抗体又は抗体断片は、配列番号1〜6、41〜44、又は17〜22のいずれか1つと少なくとも95%配列同一性を有する配列を有する少なくとも1つのCDRを含む。
他の実施形態では、本発明は、FI6変異体1、FI6変異体2、FI6変異体3、FI6変異体4、FI6変異体5、FI28変異体1、又はFI28変異体2由来の1つ以上の(すなわち、1つ、2つ又は3つすべての)重鎖CDRを含む重鎖を含む抗体を提供する。代表的な実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、配列番号1又は配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖CDR1;配列番号2、配列番号41又は配列番号18のアミノ酸配列を有する重鎖CDR2;及び配列番号3、配列番号42、配列番号43又は配列番号19のアミノ酸配列を有する重鎖CDR3を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供されている抗体又は抗体断片は、(i)CDRH1に配列番号1、CDRH2に配列番号2及びCDRH3に配列番号3を含む重鎖、(ii)CDRH1に配列番号1、CDRH2に配列番号41及びCDRH3に配列番号42を含む重鎖、(iii)CDRH1に配列番号1、CDRH2に配列番号41及びCDRH3に配列番号43を含む重鎖、あるいは(iv)CDRH1に配列番号17、CDRH2に配列番号18及びCDRH3に配列番号19を含む重鎖、を含む。
FI6変異体1、FI6変異体2、FI6変異体3、FI6変異体4、FI6変異体5、FI28変異体1又はFI28変異体2由来の1種以上の(すなわち、1つ、2つ、又は3つすべて)軽鎖CDRを含む軽鎖を含む抗体も提供される。代表的な実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、配列番号4、配列番号44又は配列番号20のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1;配列番号5又は配列番号21のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2;及び配列番号6又は配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供されている抗体は、(i)CDRL1に配列番号4、CDRL2に配列番号5及びCDRL3に配列番号6を含む軽鎖、(ii)CDRL1に配列番号44、CDRL2に配列番号5及びCDRL3に配列番号6を含む軽鎖、あるいは(iii)CDRL1に配列番号20、CDRL2に配列番号21、及びCDRL3に配列番号22を含む軽鎖を含む。
一実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI6変異体1のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI6変異体2のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI6変異体3のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI6変異体4のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI6変異体5のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。
更に他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI28変異体1のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。更に他の実施形態では、本発明の抗体又はそれらの抗原結合断片は、表2に掲載される通り、抗体のFI28変異体2のすべてのCDRを含み、かつA型インフルエンザウイルスの感染を中和する。
本発明の抗体の例としては、限定するものではないが、FI6変異体1、FI6変異体2、FI6変異体3、FI6変異体4、FI6変異体5、FI28変異体1、及びFI28変異体2が挙げられる。
本発明は、更に、本発明の抗体のものと同一のエピトープに結合する抗体又はそれらの断片、又は本発明の抗体又は抗原結合断片と競合する抗体を含む。
本発明の抗体としては、本発明の抗体に由来する1つ以上のCDR、及び同一のエピトープに対する他の抗体に由来する1つ以上のCDRを含む、ハイブリッド抗体分子も挙げられる。一実施形態では、このようなハイブリッド抗体は、本発明の抗体由来の3つのCDR及び同一のエピトープに対する別の抗体由来の3つのCDRを含む。代表的なハイブリッド抗体は、i)本発明の抗体由来の3つの軽鎖CDR及び同一のエピトープに対する別の抗体由来の3つの重鎖CDR、あるいはii)本発明の抗体由来の3つの重鎖CDR及び同一のエピトープに対する別の抗体由来の3つの軽鎖CDR、を含む。
変異型抗体もまた本発明の範囲内に含まれる。したがって、本出願に記載されている配列の変異型もまた本発明の範囲内に含まれる。このような変異体としては、免疫応答時に生体内で、不死化B細胞クローンの培養時に試験管内で、体細胞変異により生成される、天然の変異体が挙げられる。あるいは、変異体は、上記の通り、遺伝子暗号の縮重により生じる場合もあり、あるいは、転写又は翻訳時のエラーにより生成される場合もある。
親和性及び/又は力価の向上された抗体配列をもつその他の変異体は、当該技術分野において既知の手法により得ることができ、このような変異体も本発明の範囲内に包含される。例えば、アミノ酸置換を使用して、更に親和性の向上された抗体を得ることもできる。あるいは、ヌクレオチド配列のコドン最適化を用いて、抗体を産生するための発現系における翻訳効率を向上させることもできる。更に、本発明の任意の核酸配列に対し、定向進化法を行い、抗体特異性又は中和活性について最適化された配列を含むポリヌクレオチドも、本発明の範囲内のものである。
一実施形態では、変異型抗体配列は、本出願に記載されている配列と、70%以上(すなわち、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%以上)のアミノ酸配列同一性を共有している。一部の実施形態では、このような配列同一性は、参照配列(すなわち、本出願に記載されている配列)の全長に対して算出される。一部の更なる実施形態では、本明細書で参照される同一性(%)は、NCBIにより規定されたデフォルトパラメータを用い、BLAST(ver.2.1.3)により決定されるものである(国立バイオテクノロジー情報センター(the National Center for Biotechnology Information);http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)[Blosum 62 matrix;gap open penalty=11及びgap extension penalty=1]。
他の態様では、本発明は、本発明の抗体の軽鎖及び重鎖並びにCDRの一部又はすべてをコードしている核酸配列も包含する。本明細書では、本発明の代表的な抗体の軽鎖及び重鎖並びにCDRの一部又はすべてをコードしている核酸配列が提供される。表1には、本発明の代表的な抗体の重鎖及び軽鎖可変領域をコードしている核酸配列の配列番号を提供する。例えば、本明細書で提供される核酸配列としては、配列番号15(FI6変異体1重鎖可変領域をコードしている)、配列番号16(FI6変異体1及びFI6変異体2軽鎖可変領域をコードしている)、配列番号34(FI6変異体2重鎖可変領域をコードしている)、配列番号56(FI6変異体3重鎖可変領域をコードしている)、配列番号58(FI6変異体3及びFI6変異体4軽鎖可変領域をコードしている)、配列番号60(FI6変異体4及びFI6変異体5重鎖可変領域をコードしている)、配列番号62(FI6変異体5軽鎖可変領域をコードしている)、配列番号31(FI28変異体1重鎖可変領域をコードしている)、配列番号36(FI28変異体2重鎖可変領域をコードしている)及び配列番号32(FI28変異体1及び変異体2軽鎖可変領域をコードしている)が挙げられる。
表3は、本発明の代表的な抗体CDRをコードしている核酸配列の配列番号を提供する。遺伝子暗号の重複により、これらの配列と同一のアミノ酸配列をコードしている変異体が存在する場合がある。
一実施形態では、本発明による核酸配列としては、本発明の抗体の重鎖又は軽鎖をコードしている核酸と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一性を有する核酸配列が挙げられる。他の実施形態では、本発明の核酸配列は、本発明の抗体の重鎖又は軽鎖CDRをコードしている核酸配列を有する。例えば、本発明による核酸配列は、配列番号7〜12、15、16、34、23〜28、31、32、36、45〜54、56、58、60、又は62の核酸配列と少なくとも75%同一である配列を含む。
更に、本発明による核酸配列を含むベクター(例えば、発現ベクター)は、本発明の範囲内に包含される。このようなベクターにより形質移入された細胞もまた本発明の範囲内に含まれる。このような細胞の例としては、限定するものではないが、真核細胞、例えば、酵母細胞、動物細胞又は植物細胞が挙げられる。一実施形態では、細胞は哺乳動物のものであり、例えば、ヒト、CHO、HEK293T、PER.C6、NS0、骨髄腫又はハイブリドーマ細胞である。
本発明は、本発明の抗体に結合できるエピトープに結合するモノクローナル抗体にも関し、これらとしては、限定するものではないが、FI6変異体1、FI6変異体2、FI6変異体3、FI6変異体4、FI6変異体5、FI28変異体1及びFI28変異体2からなる群から選択されるモノクローナル抗体が挙げられる。
モノクローナル及び組み換え抗体は、検出されることになる個々のポリペプチド又はその他の抗原の同定及び精製に特に有用である。本発明の抗体は、免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)の試薬として採用できるという点で、更なる有用性も有する。これらの用途では、放射性同位体、蛍光分子又は酵素など、分析時に検出できる試薬により抗体を標識することができる。抗体は、抗原分子の同定及び性質決定(エピトープマッピング)に使用することもできる。
本発明の抗体は、治療部位に送達するために薬剤と連結させることができ、あるいはA型インフルエンザウイルスに感染している細胞などの、対象とする細胞を含む部位の撮像を容易にするために、検出可能な標識と連結させることができる。検出可能な標識を使用して撮像する手法などのように、抗体を薬剤及び検出可能な標識とカップリングする方法は、当該技術分野において周知である。標識抗体は各種標識を使用する各種アッセイにおいて使用することができる。本発明の抗体と、対象とするエピトープ(A型インフルエンザウイルスのエピトープ)とにより形成された抗原抗体複合体の検出は、検出可能な物質を抗体に取り付けることにより容易にすることができる。好適な検出法には、放射性核種、酵素、補酵素、蛍光物質、化学発光物質、色素原、酵素基質又は補因子、酵素阻害剤、補欠分子族複合体、フリーラジカル、粒子、及び染料などの標識の使用が包含される。好適な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチン;好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィリコエリトリンが挙げられ;発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ;生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ;並びに、好適な放射活性物質の例としては、125I、131I、35S、又は3Hが挙げられる。このような標識を行った剤は、放射免疫測定法、酵素免疫測定法、例えば、ELISA及び蛍光免疫測定法などの、多様な周知のアッセイ法に使用することができる。(例えば、米国特許第3,766,162号;同第3,791,932号;同第3,817,837号;及び同第4,233,402号を参照されたい)。
本発明による抗体は、細胞毒、治療薬、又は放射活性金属イオン若しくは放射性同位体などの、治療成分と複合させることができる。放射性同位体の例としては、限定するものではないが、I−131、I−123、I−125、Y−90、Re−188、Re−186、At−211、Cu−67、Bi−212、Bi−213、Pd−109、Tc−99、及びIn−111などが挙げられる。所定の生物応答を修飾するために、このような抗体複合体を使用することができ、薬剤成分は、古典的な化学療法剤に限定されるものとして解釈されない。例えば、薬剤成分は、所望の生物活性をプロセシングするタンパク質又はポリペプチドであってよい。このようなタンパク質としては、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、又はジフテリア毒素などの毒素を挙げることができる。
抗体にこのような治療成分を複合させるための手法は周知である。例えば、Arnon et al.(1985年)「がん治療において薬剤を免疫標的化するためのモノクローナル抗体(Monoclonal Antibodies for Immunotargeting of Drugs in Cancer Therapy)」(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,ed.Reisfeld et al.(Alan R.Liss,Inc.),pp.243〜256);Hellstrom et al.編(1987年)「薬剤送達用の抗体(Antibodies for Drug Delivery)」(Controlled Drug Delivery,Robinson et al.編(第2版;Marcel Dekker,Inc.),pp.623〜653);Thorpe(1985)「がん治療における細胞毒性剤の抗体担体:総説(Antibody Carriers of Cytotoxic Agents in Cancer Therapy)」(「モノクローナル抗体’84:生物学的及び臨床的応用(Monoclonal Antibodies' 84:Biological and Clinical Applications)」,Pinchera et al.編、pp.475〜506(Editrice Kurtis,ミラノ,イタリア,1985年);「がん治療における治療用放射性標識抗体の分析、結果及び将来の展望(Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy)」(Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,Baldwin et al.編(Academic Press,ニューヨーク,1985年)、pp.303〜316);並びにThorpe et al.(1982年)Immunol.Rev.62:119〜158を参照されたい。
あるいは、米国特許第4,676,980号に記載のように、抗体又はそれらの抗体断片を、二次抗体又はそれらの抗体断片と複合させて、抗体ヘテロ複合体を形成させることもできる。加えて、標識と本発明の抗体との間にはリンカーを使用することもできる(例えば、米国特許第4,831,175号)。抗体又はそれらの抗原結合断片は、放射性ヨウ素、インジウム、イットリウム、又は当該技術分野において既知の他の放射活性粒子により直接標識してもよい(例えば、米国特許第5,595,721号)。処置は、複合又は非複合抗体の同時又は連続的投与による処置の組み合わせから構成してもよい(例えば、国際公開第00/52031号;同第00/52473号)。
本発明の抗体はまた、固体支持体に結合させてもよい。加えて、本発明の抗体又はそれらの機能性抗体断片には、共有結合によりポリマーと複合体を形成させて、化学的に修飾を行い、例えば、循環半減期を延長させることができる。ペプチドに結合させるポリマー及び方法の例は、米国特許第4,766,106号;同第4,179,337号;同第4,495,285号及び同第4,609,546号に記載されている。一部の実施形態では、ポリマーは、ポリオキシエチル化ポリオール及びポリエチレングリコール(PEG)から選択され得る。PEGは室温で水溶性であり、かつ一般式:R(O−CH2−CH2)n O−Rを有し、式中、Rは水素、又はアルキル若しくはアルカノール基などの保護基であってよい。一実施形態では、保護基は、炭素原子を1〜8個有し得る。更なる実施形態では、保護基はメチルである。記号nは正の整数である。一実施形態では、nは1〜1,000である。他の実施形態では、nは2〜500である。一実施形態では、PEGは、平均分子量1,000〜40,000を有する。更なる実施形態では、PEGは、分子量2,000〜20,000を有する。更に追加的な実施形態では、PEGは、分子量3,000〜12,000を有する。一実施形態では、PEGは、ヒドロキシ基を少なくとも1つ有する。他の実施形態では、PEGは末端ヒドロキシ基を有する。更に他の実施形態では、阻害剤上のフリーのアミノ基と反応させるために活性化させるのは末端ヒドロキシ基である。しかしながら、反応基の種類及び量は、共有結合による、PEGと本発明の抗体との複合体形成を行うにあたり変化させてよいことは理解されるであろう。
水溶性ポリオキシエチル化ポリオールも本発明に有用である。有用な水溶性ポリオキシエチル化ポリオールとしては、ポリオキシエチル化ソルビトール、ポリオキシエチル化グルコース、及びポリオキシエチル化グリセロール(POG)などが挙げられる。一実施形態では、POGが使用される。いずれの理論にも束縛されるものではないが、ポリオキシエチル化グリセロールのグリセロール主鎖は、例えば、動物及びヒトにおいて、天然にモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドとして生成される主鎖と同一のものであることから、この分枝により生体において異質な分子として認識される必要はない。一部の実施形態では、POGは、PEGと同範囲の分子量を有する。循環半減期を延長させるのに使用できるその他の薬物送達システムには、リポソームがある。リポソーム系送達システムの調製法は、Gabizon et al.(1982)、Cafiso(1981)及びSzoka(1980)に議論されている。他の薬物送達システムも当該技術分野において既知であり、例えば、Poznansky et al.(1980)及びPoznansky(1984)に言及されている。
本発明の抗体は、精製された状態で提供することもできる。典型的には、抗体は、他のポリペプチドをほぼ含まない組成物中に存在し、例えば、このような場合には、組成物の90%(重量)未満、一般的には60%未満、及びより一般的には50%未満がその他のポリペプチドから構成される。
本発明の抗体は、ヒト以外(又は異種)の宿主、例えばマウスにおいて免疫原性である場合がある。詳細には、抗体は、ヒト以外の宿主においては免疫原性であるもののヒト宿主においては免疫原性ではないイディオトープを有し得る。ヒトでの使用に関係する本発明の抗体には、マウス、ヤギ、ウサギ、ラット、霊長類以外の哺乳類などの宿主から容易に単離することができず、かつ一般的にヒト化又はキセノマウスにより得ることのできないものが包含される。
本発明の抗体は、任意のアイソタイプ(例えば、IgA、IgG、IgM、すなわち、α、γ又はμ重鎖)であってよいものの、一般的にはIgGである。IgGアイソタイプに含まれる抗体としては、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブクラスのものが挙げられる。本発明の抗体は、κ又はλ軽鎖を有し得る。
抗体産生
本発明による抗体は、当該技術分野において既知の任意の方法により製造することができる。例えば、ハイブリドーマ技術を用いモノクローナル抗体を製造するという一般的な手法は周知のものである(Kohler,G.and Milstein,C,.1975;Kozbar et al.1983)。一実施形態では、国際公開第2004/076677号に開示されているEBV不死化法が代わりに使用される。
国際公開第2004/076677号に記載の方法を使用し、ポリクローナルB細胞活性化因子の存在下で、本発明の抗体を産生するB細胞をEBVにより形質転換させることができる。EBVによる形質転換は一般的な手法であり、かつ容易にポリクローナルB細胞活性化因子を含有するよう構成することができる。
所望により、形質転換工程中に、細胞の生育及び分化に関係するその他の刺激剤を添加して、効率を更に増加させることもできる。これらの刺激剤は、IL−2及びIL−15などのサイトカインであってもよい。一態様では、不死化工程中にIL−2を添加して、不死化効率を更に向上させるが、IL−2の使用は必須ではない。これらの手法を使用して産生された不死化B細胞を、次に、当該技術分野において既知の手法により培養し、培養物から抗体を単離することができる。
英国特許出願第0819376.5号に記載の手法を使用すると、マイクロウェル培養プレートにおいて、単一の形質細胞を培養することができる。単一の形質細胞培養物から、抗体を単離することができる。更に、当該技術分野において既知の手法を用い、単一の形質細胞培養物からRNAを抽出し、かつ単一細胞のPCRを実施することができる。抗体のVH及びVL領域をRT−PCRにより増幅させ、配列決定し、発現ベクターにクローン化し、次に、この発現ベクターをHEK293T細胞又はその他の宿主細胞に形質移入させることができる。発現ベクター中の核酸のクローン化、宿主細胞の形質移入、形質移入させた宿主細胞の培養、及び産生された抗体の単離は、当業者に既知の任意の手法を用い実施することができる。
必要に応じて、抗体は、濾過、遠心沈降及びHPLC又は親和性クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー法を使用して更に精製してもよい。製薬等級の抗体の製造技術を含め、抗体(例えば、モノクローナル抗体)精製法は、当該技術分野において周知である。
本発明の抗体断片は、ペプシン又はパパインなどの酵素による消化を包含する手法により、及び/又は化学的還元によるジスルフィド結合の開裂により、抗体から得ることができる。あるいは、抗体断片は、重鎖又は軽鎖配列の一部をクローン化し、かつ発現させることにより得ることができる。抗体「断片」には、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvフラグメントが包含される。本発明には、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖に由来する一本鎖Fv断片(scFv)も包含され、例えば、本発明は、本発明の抗体に由来するCDRを含むscFvを包含する。同様に、重鎖又は軽鎖単量体及び二量体、重鎖単一ドメイン抗体、軽鎖単一ドメイン抗体、並びに一本鎖抗体、例えば、重鎖及び軽鎖可変領域がペプチドリンカーにより連結されている一本鎖Fvも包含される。
本発明の抗体断片には一価又は多価相互作用を付与することができ、上記の通り各種構造を含有させることができる。例えば、scFv分子を合成して、三価の「三量体抗体」又は四価の「四量体抗体」を作製することもできる。scFv分子には、二価ミニ抗体から得られるFc領域ドメインを含有させることができる。加えて、本発明の配列は、多特異性分子成分であってよく、本発明の配列は、本発明のエピトープと、分子の結合する他の標的に関係する他の領域とを標的とする。例示的な分子としては、限定するものではないが、二重特異性Fab2、三重特異性Fab3、二重特異性scFv、及び二重特異性抗体が挙げられる(Holliger and Hudson,2005,Nature Biotechnology 9:1126〜1136)。
分子生物学の一般的な手法を使用して、本発明の抗体又は抗体断片をコードしているDNA配列を調製することもできる。オリゴヌクレオチド合成法を使用して、所望のDNA配列を完全に、又は一部合成することもできる。必要に応じて、部位特異的変異導入法及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用してもよい。
本発明の抗体分子又はそれらの断片をコードしているDNA配列の発現には、任意の好適な宿主細胞/ベクター系を使用することができる。Fab及びF(ab’)2断片などの抗体断片、及び特にFv断片、並びに例えば、一本鎖Fvsなどの一本鎖抗体断片を発現させるために、一部、細菌(例えば、大腸菌(E. coli))及び他の微生物系を使用することができる。完全な抗体分子などの、より大きな抗体分子の産生には、真核生物(例えば、哺乳類)宿主細胞による発現系を使用することもできる。好適な哺乳動物宿主細胞としては、限定するものではないが、CHO、HEK293T、PER.C6、NS0、骨髄腫又はハイブリドーマ細胞が挙げられる。
本発明は、本発明による抗体分子の製造法も提供し、製造法は、本発明の抗体分子をコードしているDNAからタンパク質を発現させるのに好適な条件下で、本発明の核酸をコードしているベクターを含む宿主細胞を培養する工程、並びに抗体分子を単離する工程、を含む。
宿主細胞への形質移入に、重鎖又は軽鎖ポリペプチドコード配列のみが使用される必要がある場合、抗体分子には、重鎖又は軽鎖ポリペプチドのみを含有させてもよい。重鎖及び軽鎖をいずれも含む産物を製造する場合、細胞株は、二種類のベクターにより形質移入させることができる。第1のベクターは軽鎖ポリペプチドをコードするものであり、第2のベクターは重鎖ポリペプチドをコードするものである。あるいは、単一のベクターを使用してもよく、このベクターは、軽鎖及び重鎖ポリペプチドをコードしている配列を含有する。
あるいは、本発明による抗体は、i)本発明による核酸配列を宿主細胞において発現させる工程、並びにii)発現させた抗体産物を単離する工程、により製造することもできる。加えて、方法には、iii)抗体を精製する工程、を包含させてもよい。
形質転換したB細胞、培養した単一の形質細胞及び形質移入されたHEK293T細胞のスクリーニング
形質転換したB細胞及び培養した単一の形質細胞は、所望の特異性又は機能をもつ抗体の産生についてスクリーニングすることができる。
スクリーニング工程は、任意のイムノアッセイ(例えば、ELISA)により、組織又は細胞染色(形質移入された細胞を含む)により、又は中和アッセイにより、あるいは所望される特異性又は機能を識別するための当該技術分野において既知であるその他の数多くの手法のうちのいずれかにより、実施することができる。アッセイは、1つ以上の抗原を単純に認識することに基づいて選択することができ、あるいは更に所望の機能、例えば、単に抗原に結合する抗体よりもむしろ中和抗体を選択するのに望ましい機能、標的細胞の特性を変更し得る抗体を選択するのに望ましい機能、例えば、シグナルカスケード、細胞の形状、増殖速度、他の細胞に影響を及ぼす能力、他の細胞による、又は他の試薬による、又は条件、分化状態などの変化による影響に対する応答に基づいて選択することもできる。
次に、形質転換した陽性のB細胞培養物から、形質転換した個々のB細胞のクローンを製造することができる。陽性細胞混合物から個々のクローンを分離するためのクローン化工程は、限界希釈法、顕微操作、細胞選別による単一細胞沈着法、あるいは当該技術分野において既知のその他の方法を使用して実施することができる。
培養した単一の形質細胞から核酸を単離し、クローン化し、HEK293T細胞で発現させることができ、あるいは当該技術分野において既知の手法により他の宿主細胞で発現させることができる。
本発明の不死化させたB細胞クローン又は形質移入されたHEK293T細胞は、研究のために、各種手法において、例えば、モノクローナル抗体の供給源として、対象とするモノクローナル抗体をコードしている核酸(DNA又はmRNA)の供給源として使用することができる。
本発明は、第1群及び第2群亜型から選択されたA型インフルエンザウイルスの少なくとも2つの異なる亜型を中和する抗体を産生する不死化B記憶細胞又は形質移入された宿主細胞を含む組成物を提供する。
エピトープ
上記の通り、本発明の抗体を使用して、それらの結合するエピトープのマッピングを行うことができる。本発明者らは、A型インフルエンザウイルスの感染を中和する抗体が、HA上に見られるエピトープに対するものであることを発見した。一実施形態では、抗体は、A型インフルエンザウイルスの第1群及び第2群亜型のうちの1つ以上の間で保存されている、HAのステム領域中の1つ以上のエピトープに対するものである。本発明の抗体が結合するエピトープは、直鎖(連続)型又は立体構造(非連続)型のものであってよい。一実施形態では、本発明の抗体及び抗体断片は、本明細書で開示される通りの、配列番号37、38、39又は40を含むポリペプチド領域に結合する。
他の実施形態では、本発明の抗体が結合するエピトープは、上記の通りの1つ又は2つのHAモノマーからなるHA1及びHA2ポリペプチド中のアミノ酸残基を含む。HAモノマーは未切断のものであっても、又は切断されていてもよい。
本発明の抗体により認識されるエピトープには、数多くの用途が存在し得る。精製又は合成した形態のエピトープ及びそれらのミモトープを使用して、免疫応答(すなわち、ワクチンとして、あるいはその他の用途に関係する抗体を産生するための免疫応答)を生じさせることができ、あるいはエピトープ又はそれらのミモトープと免疫反応する抗体について血清をスクリーニングすることができる。一実施形態では、このようなエピトープ又はミモトープ、又はこのようなエピトープ若しくはミモトープを含む抗原は、免疫反応を生起させるためのワクチンとして使用することもできる。本発明の抗体及び抗体断片は、ワクチンの品質をモニタリングするための方法に使用することもできる。詳細には、抗体を使用して、ワクチン中の抗原が、適切な立体構造をとっている適切な免疫原生のエピトープを含有していることを確認することができる。
エピトープは、このようなエピトープに結合するリガンドのスクリーニングにも有用である場合がある。このようなリガンドとしては、限定するものではないが、抗体(ラクダ、サメ、及び他の種由来のものを含む)、抗体断片、ペプチド、ファージ・ディスプレイ法による生成物、アプタマー、又はアドネクチンが挙げられ、あるいはエピトープをブロックし、ひいては感染を予防し得る、その他のウイルス又は細胞タンパク質の断片が挙げられる。このようなリガンドは、本発明の範囲内に包含される。
組み換え発現
本発明の不死化B細胞クローン又は培養した形質細胞は、以降で組み換え発現を行うために抗体遺伝子をクローン化するための核酸資源として使用することもできる。製薬用途では、例えば、安定性、再現性、培養のし易さなどといった理由から、B細胞又はハイブリドーマから発現させるよりも、組み換え資源から発現させる方が一般的である。
したがって、本発明は、(i)B細胞クローン、又は対象とする抗体をコードする単一の形質細胞培養物から、1つ以上の核酸(例えば、重鎖及び/又は軽鎖mRNA)を得る工程と、(ii)この核酸を発現ベクターに挿入する工程と、(iii)対象とする抗体を宿主細胞において発現させるために、このベクターを宿主細胞に形質移入させる工程と、を含む、組み換え細胞の製造方法を提供する。
同様にして、本発明は、(i)B細胞クローン又は単一の形質細胞培養物から、対象とする抗体をコードしている核酸(1つ又は複数)を配列決定する工程と、並びに(ii)対象とする抗体を宿主細胞において発現させるために、工程(i)から得られた配列情報を使用して、宿主細胞に挿入する核酸(1つ又は複数)を調製する工程と、を含む組み換え細胞の製造方法を提供する。必須ではないものの、工程(i)と(ii)の間に、核酸には制限部位を導入する操作を行って、使用するコドンを変更することもでき、並びに/あるいは転写及び/又は翻訳制御配列を最適化することもできる。
本発明は、対象とする抗体をコードしている1つ以上の核酸を宿主細胞に形質移入させる工程を含む、形質移入された宿主細胞の製造方法も提供し、核酸は、本発明の不死化B細胞クローン又は単一の形質細胞培養物に由来する核酸である。したがって、最初に核酸(1つ又は複数)を調製する工程、及び次にこの核酸を使用して宿主細胞に形質移入させる工程についての手順は、異なる場所(例えば、異なる国)において、異なる人々により異なる回数だけ実施することができる。
次に、発現及び培養のために、本発明のこれらの組み換え細胞を使用することができる。これらは、大規模での医薬品製造の際に、抗体を発現させるのに特に有用である。これらは医薬組成物の有効成分として使用することもできる。限定するものではないが、静置培養、ローラーボトル培養、腹水液、中空繊維型バイオリアクターカートリッジ、モジュラー式小型発酵槽、撹拌槽、マイクロキャリア培養、セラミックコア灌流などの任意の好適な培養法を使用することができる。
B細胞又は形質細胞由来の免疫グロブリン遺伝子の入手及び配列決定法は、当該技術分野において周知のものである(例えば、「キュービー免疫学(Kuby Immunology)」第4版、2000年の第4章を参照されたい)。
形質移入される宿主細胞は、酵母及び動物細胞、特に哺乳類細胞(例えば、CHO細胞、NS0細胞、PER.C6(Jones et al 2003)又はHKB−11(Cho et al.2001;Cho et al.2003)細胞などのヒト細胞、骨髄腫細胞(米国特許第5,807,715号;同第6,300,104号など))、並びに植物細胞などの真核細胞であってよい。好ましい発現宿主は、特に、ヒトにおいてそれ自身は免疫原性を示さない糖鎖構造により、本発明の抗体をグリコシル化することができる。一実施形態では、形質移入された宿主細胞は、無血清培地で生育させることができる。更なる実施形態では、形質移入された宿主細胞は、動物由来の成分を存在させずに、培養により生育させることもできる。形質移入された宿主細胞を培養して細胞株を得ることもできる。
本発明は、(i)本発明による不死化B細胞クローンを調製する工程、又は形質細胞を培養する工程と、(ii)B細胞クローン又は単一の形質細胞培養物から対象とする抗体をコードしている核酸を得る工程と、を含む、対象とする抗体をコードしている1つ以上の核酸分子(例えば、重鎖及び軽鎖遺伝子)の製造方法を提供する。本発明は、(i)本発明による不死化B細胞クローンを調製する工程、又は単一の形質細胞を培養する工程と、(ii)対象とする抗体をコードしているB細胞クローン又は形質細胞培養物由来の核酸の配列決定をする工程と、を含む、対象とする抗体をコードしている核酸配列を得る方法も提供する。
本発明はまた、本発明の形質転換させたB細胞クローン又は形質細胞から得られた核酸を得る工程を含む、対象とする抗体をコードしている核酸分子(1つ又は複数)の製造方法を提供する。したがって、最初にB細胞クローン又は形質細胞培養物を得る工程、及び次にB細胞クローン又は形質細胞培養物から核酸(1つ又は複数)を得る工程についての手順は、異なる場所(例えば、異なる国)において、異なる人々により異なる回数だけ実施することができる。
本発明は、(i)選択されたB細胞クローン又は対象とする抗体を発現している形質細胞培養物から、1つ以上の核酸(例えば、重鎖及び軽鎖遺伝子)を得る工程及び/又は配列決定する工程と、(ii)核酸(1つ又は複数)を挿入して、又は核酸(1つ又は複数)配列(1つ又は複数)を使用して、発現ベクターを調製する工程と、(iii)対象とする抗体を発現できる宿主細胞に形質移入させる工程と、(iv)形質移入された宿主細胞を、対象とする抗体が発現される条件下で培養又は継代培養する工程と、所望により、(v)対象とする抗体を精製する工程と、を含む、抗体(例えば、製薬用)の製造法を提供する。
本発明は、形質移入された宿主細胞集団を、対象とする抗体が発現される条件下で、培養又は継代培養する工程と、所望により、対象とする抗体を精製する工程と、を含む、抗体の製造方法も提供し、このような形質移入された宿主細胞集団は、(i)上記の通り調製したB細胞クローン又は形質細胞培養物により産生される、選択された対象とする抗体をコードしている核酸(1つ又は複数)を用意する工程と、(ii)核酸(1つ又は複数)を発現ベクターに挿入する工程と、(iii)対象とする抗体を発現できる宿主細胞にベクターを形質移入させる工程と、(iv)挿入された核酸を含む、形質移入された宿主細胞を培養又は継代培養して、対象とする抗体を製造する工程と、により製造されたものである。したがって、最初に組み換え宿主細胞を用意する工程、及び次にこの細胞を培養して抗体を発現させる工程についての手順は、異なる場所(例えば、異なる国)において、異なる人々により異なる回数だけ実施することができる。
医薬組成物
本発明は、本発明の抗体及び/又は抗体断片並びに/あるいはこのような抗体をコードしている核酸並びに/あるいは本発明の抗体により認識されるエピトープを含有している医薬組成物を提供する。医薬組成物には、投与を可能にするために製薬上許容可能な担体を含有させることもできる。担体は、それ自体が、組成物を受容する各個体にとって有害になるほど抗体産生を誘導することのないものであるべきであり、かつ非毒性のものであるべきである。好適な担体は、大型で、ゆっくりと代謝される巨大分子、例えば、タンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸コポリマー及び不活性なウイルス粒子などであってよい。
例えば、鉱酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩及び硫酸塩など)又は有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩及び安息香酸塩など)の、製薬上許容可能な塩を使用することができる。
治療用組成物における製薬上許容可能な担体には、更に、水、生理食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体を含有させてもよい。加えて、このような組成物には、湿潤剤又は乳化剤又はpH緩衝物質などの補助成分を存在させてもよい。このような担体により、対象者による摂取の際に、医薬組成物を、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー及び懸濁液として処方することが可能になる。
本発明の範囲内に含まれる、投与形態としては、非経口投与に適切な形態が挙げられ、例えば、注射又は輸液(例えば、ボーラス投与又は持続点滴など)が挙げられる。製品が注射又は輸液用のものである場合、製品は油性又は水性賦形剤による懸濁液、溶液又はエマルションの形態をとってよく、製剤用添加剤、例えば、懸濁剤、防腐剤、安定剤及び/又は分散剤を含有し得る。あるいは、抗体分子は、使用前に適切な無菌液に溶解させる乾燥形態であってもよい。
処方したならば、本発明の組成物は対象者に直接投与することができる。一実施形態では、組成物は、対象とするヒトの投与に合わせて調節される。
本発明の医薬組成物は、限定するものではないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、腹腔内、髄腔内、心室内、経皮(transdermal)、経皮(transcutaneous)、局所、皮下、経鼻、経腸、舌下、膣内又は直腸経路などのあらゆる経路により投与することができる。本発明の医薬組成物の投与には、皮下噴射器を使用することもできる。典型的には、治療用組成物は、溶液又は懸濁液のいずれかの状態の注射剤として調製することができる。注射前に液体賦形剤に溶解又は懸濁させるのに好適な固形形態としても調製できる。
組成物の直接的な送達は、一般的に、皮下、腹腔内、静脈内又は筋肉内注射により実施され、あるいは組織の間質腔に送達される。組成物は病変内に投与することもできる。投薬処置は、単回投与スケジュール又は複数回投与スケジュールであってよい。既知の抗体医薬に関しては、例えば、薬剤は、日毎、週毎、月毎などのいずれで送達すべきかなど、投与頻度に関する指針が提供されている。頻度及び投与量は、症状の重症度によっても異なる。
本発明の組成物は、各種形態で調製することができる。例えば、組成物は、溶液又は懸濁液のいずれかの形態の注射剤として調製することができる。注射前に液体賦形剤に溶解又は懸濁するのに好適な形態の固体を調製してもよい(例えば、防腐剤を含有させた滅菌水に溶解させて調製するためのSynagis(商標)及びHerceptin(商標)などの凍結乾燥組成物)。組成物は、局所投与用に、例えば、軟膏、クリーム又は粉末として調製することができる。組成物は、経口投与用に、例えば、錠剤若しくはカプセル剤として、噴霧剤として、又はシロップ(所望により着香される)として調製することができる。組成物は、経肺投与用に、例えば、微粉末又は噴霧剤を使用し、インヘラーとして調製することができる。組成物は、坐剤又は膣座薬として調製することができる。組成物は、鼻、耳又は眼球への投与用に、例えば、液滴として調製することができる。組成物は、対象者への投与の直前に、組成物を組み合わせて溶液を調製するなどといったキットの形態であってもよい。例えば、凍結乾燥させた抗体は、滅菌水又は滅菌緩衝液が含まれるキット形態で提供することができる。
当然のことながら、組成物中の有効成分は、抗体分子、抗体断片又はそれらの変異体及び誘導体である。そのため、有効成分は胃腸管で分解されやすい。したがって、胃腸管を用いる経路によって組成物を投与する場合、組成物には、抗体を分解から保護するものの、胃腸管により吸収された時点で抗体を放出する剤を含有させる必要があることになる。
製薬上許容可能な担体についての徹底的な考察は、Gennaro(2000)Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th edition,ISBN:0683306472のものを利用することができる。
本発明の医薬組成物は、一般的に、pH 5.5〜8.5を有し、一部の実施形態では6〜8であってよく、更なる実施形態では約7であってよい。pHは、緩衝剤の使用により維持してもよい。組成物は、滅菌されており及び/又は発熱物質を含まないものであり得る。組成物は、ヒトに対して等張性のものであってもよい。一実施形態では、本発明の医薬組成物は、密閉容器で提供される。
医薬組成物は、本発明の1つ以上の抗体及び/又は本発明の抗体に結合するエピトープを含むポリペプチドを有効量、すなわち、所望の疾患又は症状の処置、寛解又は予防を行うのに十分、あるいは、検出できる治療効果を示すのに十分な量、含む。治療効果には、身体症状の減少も包含される。任意の特定の対象者に対する正確な有効量は、対象者の体格及び健康状態、症状の性質及び程度、並びに投与するために選択された治療法又は治療法の組み合わせによって異なる。所定の状況に対する有効量は、所定の実験法により決定され、臨床医により判断される。本発明の目的では、有効投与量は、一般的に、投与を受ける対象者において、本発明の組成物が約0.01mg/kg〜約50mg/kg、又は約0.05mg/kg〜約10mg/kgとなるようなものである。既知の抗体医薬はこの点で指針を提供しており、例えば、ハーセプチン(商標)は21mg/mL溶液を静脈内注射することにより投与され、初回投与量は体重毎に4mg/kgであり、一週あたりの維持量は体重毎に2mg/kgであるのに対し、リツキサン(商標)は一週あたり375mg/m2投与される。
一実施形態では、組成物に、本発明の抗体を1種以上(例えば、2種、3種など)含有させて、追加的な又は相乗的な治療効果を提供することができる。他の実施形態では、組成物には、本発明の抗体を1種以上(例えば、2種、3種など)と、A型インフルエンザ又はB型インフルエンザに対する1種以上の(例えば、2種、3種など)追加の抗体を含有させてもよい。例えば、1種の抗体がHAのエピトープに結合する一方で、他の抗体がHA上の異なるエピトープに、あるいは、ノイラミニダーゼ及び/又はマトリックスタンパク質上のエピトープに、結合してもよい。更に、A型インフルエンザワクチンと共に、又はA型インフルエンザウイルス以外(例えば、B型インフルエンザ)に特異性をもつ抗体と共に、本発明の抗体を投与するものは、本発明の範囲内のものである。本発明の抗体は、インフルエンザワクチン又はA型インフルエンザウイルス以外に特異性をもつ抗体と組み合わせて/同時に、あるいは別の時点で、のいずれかで投与することができる。
他の実施形態では、本発明は、2つ又はそれ以上の抗体を含む医薬組成物を提供し、第1の抗体は、本発明の抗体であり、かつHAエピトープに特異的なものであり、第2の抗体は、ノイラミニダーゼエピトープ、第2のHAエピトープ、及び/又はマトリックスエピトープに特異的なものである。例えば、本発明は、2つ又はそれ以上の抗体を含む医薬組成物を提供し、第1の抗体はA型インフルエンザウイルスのHAのステム中のエピトープに特異的なものであり、第2の抗体は、ノイラミニダーゼエピトープ、第2のHAエピトープ(例えば、HAの球状頭部中のエピトープ、HAのステム中の第2のエピトープ)、及び/又はマトリックスエピトープに特異的なものである。ステム中の第2のエピトープ、又はA型インフルエンザウイルスHAの球状頭部中のエピトープは、1種を超えるA型インフルエンザウイルス亜型間で保存されているものであり得るが、保存されている必要はない。
更に他の実施形態では、本発明は、2つ又はそれ以上の抗体を含む医薬組成物を提供し、第1の抗体は、ノイラミニダーゼエピトープに特異的なものであり、第2の抗体は、第2のノイラミニダーゼエピトープ、HAエピトープ、及び/又はマトリックスエピトープに特異的なものである。
更に他の実施形態では、本発明は、2つ又はそれ以上の抗体を含む医薬組成物を提供し、第1の抗体は、マトリックスエピトープに特異的なものであり、第2の抗体は、第2のマトリックスエピトープ、HA及び/又はマトリックス上のエピトープに特異的なものである。
A型インフルエンザウイルスの標的タンパク質に特異的な、本発明の代表的な抗体としては、限定するものではないが、FI6変異体1、FI6変異体2、FI6変異体3、FI6変異体4、FI6変異体5、FI28変異体1又はFI28変異体2が挙げられる。
一実施形態では、本発明は、抗体FI6変異体1又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、本発明は、抗体FI6変異体2又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、本発明は、抗体FI6変異体3又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、本発明は、抗体FI6変異体4又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。他の実施形態では、本発明は、抗体FI6変異体5又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。更に他の実施形態では、本発明は、抗体FI28変異体1又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。更に他の実施形態では、本発明は、抗体FI28変異体2又はそれらの抗原結合断片、及び製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
本発明の抗体は、他の治療薬、例えば、化学療法剤、放射線療法剤などとともに(併用して又は別々に)投与してもよい。一実施形態では、治療用化合物としては、タミフル(商標)などの抗ウイルス化合物が挙げられる。このような併用治療により、治療有効性において、各治療薬を単独で投与した場合と比較して相加的又は相乗的な向上がもたらされる。用語「相乗効果」は、2つ又はそれ以上の活性剤の効果を組み合わせたものが、各活性剤の個々の効果を合計したよりも大きいことを記載するために使用される。したがって、2つ又はそれ以上の剤の複合効果により、活性又はプロセスの「相乗的な阻害」がもたらされる場合、活性又はプロセスの阻害が、個々の活性剤の阻害効果を合計したものよりも大きいことを意図する。用語「相乗的な治療効果」は、2つ又はそれ以上の治療を組み合わせた場合に観察される治療効果を指し、この場合の治療効果(数多くの何らかのパラメーターにより測定される)は、個々の治療について観察される個々の治療効果を合わせたものよりも大きい。
抗体は、それ以前にA型インフルエンザウイルスの感染に対する処置に応答を示していない対象者、すなわち、抗インフルエンザ治療に対して反応を示すことが判明している対象者に投与することができる。このような処置としては、抗ウイルス剤による既存の処置が挙げられる。このような状態は、例えば、A型インフルエンザウイルスのうちの抗ウイルス剤耐性株による感染により生じ得る。
一実施形態では、本発明の組成物は、本発明の抗体を含有してよく、抗体は、組成物の総タンパク質のうち少なくとも50重量%(例えば、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又はそれ以上)を構成し得る。このような組成物では、抗体は精製された状態である。
本発明は、(i)本発明の抗体を調製する工程と、(ii)精製抗体を1つ以上の製薬上許容可能な担体と混合する工程と、を含む、医薬品の製造方法を提供する。
また、本発明は、抗体を1つ以上の製薬上許容可能な担体と混合する工程を含む医薬品の製造方法を提供し、抗体は、形質転換させたB細胞又は本発明の形質細胞培養物から得られたモノクローナル抗体である。したがって、最初にモノクローナル抗体を得る工程、及び次に医薬品を製造する工程についての手順は、異なる場所(例えば、異なる国)において、異なる人々により異なる回数だけ実施することができる。
治療目的で抗体又はB細胞を送達するのに代わる手段として、B細胞又は形質細胞培養物由来の対象とするモノクローナル抗体(又はそれらの活性な断片)をコードする核酸(典型的にはDNA)を対象者に送達して、患者において核酸をその場で発現させて、所望される治療効果を提供することもできる。好適な遺伝子治療及び核酸送達ベクターは、当該技術分野において既知である。
本発明の組成物は免疫原性組成物であってよく、一部の実施形態では、本発明の抗体により認識されるエピトープを含む抗原を含むワクチン組成物であってよい。本発明によるワクチンは、予防用(すなわち、感染を予防するためのもの)又は治療用(すなわち、感染を処置するためのもの)のいずれのものであってもよい。一実施形態では、本発明は、配列番号37、38、39又は40のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むワクチンを提供する。他の実施形態では、本発明は、上記の通り1つ又は2つのHAモノマーからなるHA1及びHA2ポリペプチド中のアミノ酸残基を含むポリペプチドを含むワクチンを提供する。HAモノマーは未切断のものであっても、又は切断されていてもよい。
組成物には、特に複数回投与形式で包装する場合には抗微生物剤を含有させてもよい。組成物には、例えば、Tween 80などのTween(ポリソルベート)といった界面活性剤を含ませてもよい。界面活性剤は、一般的に低濃度、例えば0.01%未満で存在させる。組成物には、張度を調整するためにナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)を含有させてもよい。NaCl濃度は10+2mg/mLが一般的である。
更に、特に、組成物が凍結乾燥品である場合、あるいは凍結乾燥させた材料を溶液に溶かし調製した(has been reconstituted)成分を含む場合には、組成物には糖アルコール(例えば、マンニトール)又は二糖(例えば、スクロース又はトレハロース)を、例えば、約15〜30mg/mL(例えば、25mg/ml)含有させてもよい。凍結乾燥させるために、組成物のpHは、凍結乾燥前に約6.1に調節することができる。
本発明の組成物には、1つ以上の免疫調節剤を含有させてもよい。一実施形態では、1つ以上の免疫調節剤は、アジュバント(1つ又は複数)を含有する。
A型インフルエンザウイルスの感染に効果的に対処する目的で、本発明のエピトープ組成物は、細胞介在性の免疫応答並びに体液性免疫反応の両方を誘起し得る。この免疫応答は、A型インフルエンザウイルスへの曝露に応じ迅速に応答できる、抗体及び細胞介在性の、長期にわたる免疫応答を誘導することができる。
医学的処置法及び使用法
本発明の抗体及び抗体断片又はそれらの誘導体及び変異体は、A型インフルエンザウイルスの感染の処置、A型インフルエンザウイルスの感染予防、又はA型インフルエンザウイルスの感染診断に使用することができる。
診断方法には、抗体又は抗体断片を試料と接触させる工程が含まれる。このような試料は、例えば、鼻腔、鼻道、唾液腺、肺、肝臓、膵臓、腎臓、耳、眼、胎盤、消化管、心臓、卵巣、下垂体、副腎、甲状腺、脳又は皮膚から採取された組織試料であってよい。診断方法には、抗原/抗体複合体の検出も含む。
したがって、本発明は、(i)本発明による抗体、抗体断片、又はそれらの変異体及び誘導体、(ii)本発明による不死化B細胞クローン、(iii)本発明の抗体に結合できるエピトープ、又は(iv)リガンド、好ましくは、本発明の治療用の抗体に結合するエピトープに結合することのできる抗体を提供する。
本発明は、対象者に本発明の抗体、抗体断片、又はそれらの変異体及び誘導体、あるいはリガンド、好ましくは本発明の抗体に結合するエピトープに結合できる抗体を投与する工程、を含む、対象者の処置法も提供する。一実施形態では、本方法により、対象者におけるA型インフルエンザウイルスの感染が減少する。他の実施形態では、本方法は、対象者におけるA型インフルエンザウイルスの感染を予防し、感染リスクを減少させ、又は感染を遅延させる。
また、本発明は、A型インフルエンザウイルスの感染予防又は処置用の薬剤の製造時の、(i)本発明による抗体、抗体断片、又はそれらの変異体及び誘導体、(ii)本発明による不死化B細胞クローン、(iii)本発明の抗体に結合できるエピトープ、あるいは(iv)リガンド、好ましくは、本発明の抗体に結合できるエピトープに結合する抗体の使用も提供する。
本発明は、A型インフルエンザウイルスの感染の予防又は処置用の薬剤として使用するために本発明の組成物を提供する。対象者の処置及び/又は診断用の薬剤の製造時の、抗体に結合するエピトープを含む本発明の抗体及び/又はタンパク質の使用も提供する。本発明の組成物を対象者に投与する工程を含む、対象者を処置するための方法も提供される。一部の実施例では、対象者はヒトであってよい。治療処置の有効性を確認する手法のうち、あるものには、本発明の組成物の投与後に疾患の症状をモニタリングする工程が包含される。処置は、単回投与スケジュール又は複数回投与スケジュールであってよい。
一実施形態では、本発明による抗体、抗体断片、不死化B細胞クローン、エピトープ又は組成物を、処置を必要としている対象者に投与する。このような対象者としては、限定するものではないが、A型インフルエンザウイルスの感染リスクが高い者、又は感染しやすい者、例えば、易感染性の対象者が挙げられる。受動免疫又はワクチン接種による活性化に本発明の抗体又は抗体断片を使用することもできる。
本発明に記載の通りの抗体及びそれらの断片は、A型インフルエンザウイルスの感染診断用キットに使用することもできる。更に、本発明の抗体を結合できるエピトープは、予防のための抗A型インフルエンザウイルス抗体の存在を検出することにより予防接種の有効性をモニタリングするためのキットに使用することもできる。本発明に記載の通りの抗体、抗体断片、又はそれらの変異体及び誘導体は、所望の免疫原性を有するワクチンが製造されているかモニタリングするためのキットに使用することもできる。
また、本発明は、モノクローナル抗体を1つ以上の製薬上許容可能な担体と混合する工程を含む、医薬品の製造方法を提供し、モノクローナル抗体は、形質移入された本発明の宿主細胞から得られたモノクローナル抗体である。したがって、最初にモノクローナル抗体を得る工程(例えば、モノクローナル抗体を発現させる及び/又は精製する工程)、及び次に得られたモノクローナル抗体を医薬担体と混合する工程についての手順は、異なる場所(例えば、異なる国)において、異なる人々により異なる回数だけ実施することができる。
本発明の形質転換させたB細胞又は形質細胞培養物により開始される、各種培養、継代培養、クローニング、サブクローニング、配列決定、核酸調製などの工程は、形質転換させたB細胞又は形質細胞培養物により発現される抗体を永続化するために、各工程において所望により最適化を行い実施することができる。好ましい実施形態では、上記方法は、更に抗体をコードしている核酸を最適化する技術を含む(例えば、親和性成熟又は最適化)。本発明は、このような工程時に使用され、調製される細胞、核酸、ベクター、配列、抗体などのすべてのものを包含する。
これらの方法のすべてにおいて、発現宿主において使用される核酸は、挿入、欠失又は改変用に操作することができる。このような操作による変更としては、限定するものではないが、制限部位の導入、使用されるコドンの改変、転写及び/又は翻訳制御配列の付加又は最適化などのための変更が挙げられる。核酸を変更することで、コードされるアミノ酸を変更させることもできる。例えば、このような変更は、抗体のアミノ酸配列に1つ以上の(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)アミノ酸置換、欠失及び/又は挿入を導入するのに有用なものであり得る。エフェクター機能,抗原結合親和性、翻訳後修飾、免疫原性などを改変し得るこのような点変異により、共有結合基(例えば、標識)を結合させるためのアミノ酸を導入することができ、あるいはタグを導入することができる(例えば、精製目的で)。変異は特定の部位に導入することができ、あるいはランダムな位置に導入した後に選別することができる(例えば、分子進化)。例えば、コードされているアミノ酸に異なる特性を導入するために、本発明の抗体のCDR領域、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のいずれかをコードしている1つ以上の核酸に、ランダムに又は直接的に変異を導入することができる。このような変更は、反復プロセスにより生じ得るものであり、開始時の変更が保持され、かつ他のヌクレオチド位置に新しい変更が導入される。更には、変更には、独立した工程で実施したものを合わせてもよい。コードされるアミノ酸導入される異なる特性としては、限定するものではないが、親和性の向上が挙げられる。
一般用語
用語「含む(comprising)」は、「含有する(including)」並びに「から構成される(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、ほぼXから構成されてもよく、又は例えばX+Yなどのように何か他の追加成分を共に含有してもよい。
用語「実質的に」は、「完全に」を排除するものではなく、例えば、組成物がYを「実質的に含まない」とする場合、Yを全く含まなくてもよい。必要に応じ、用語「実質的に」は、本発明の記載から割愛してもよい。
数値xに関する用語「約」は、例えば、x+10%を意味する。
本明細書で使用するとき、用語「疾患」は、一般的に用語「疾患」及び「症状」(医学的症状にあるものとする)と同義であり、かつこれらの用語と互換的に使用され、正常な機能が損なわれたヒト又は動物の身体又は身体の一部の状態の異常をすべて反映し、典型的には、兆候及び症状とは区別され、かつヒト又は動物の寿命又は生活の質を減少させるものを意図する。
本明細書で使用するとき、対象者又は患者に関する参照「処置」は、予防(prevention)、予防(prophylaxis)及び治療を包含することを意図する。用語「対象者」又は「患者」は、本明細書において互換的に使用され、ヒトを含むすべての哺乳動物を意味する。対象者の例としては、ヒト、乳牛、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、及びウサギが挙げられる。一実施形態では、患者はヒトである。
本発明の代表的な実施形態を以降の実施例に提供する。以降の実施例は例示目的でのみ表されるものであり、本発明の使用時に当業者の手助けをするためのものである。実施例は、決してそれにより本発明の範囲を制限することを意味するものではない。
実施例1.A型インフルエンザウイルスを広範に中和する、形質細胞由来の抗体の生成及び特性評価
季節性インフルエンザワクチン(H1及びH3 HAを含有)に応答してヘテロ亜型抗体を産生できる個体を特定するため、我々は、ワクチン又は陰性対照のH5 HA(A/VN/1203/04)と結合する抗体の分泌能を増幅させるため、ワクチン接種から7日後に、循環している形質細胞をELISPOTによりスクリーニングした。顕著なことに、H5特異的形質細胞について試験した5名のドナーの内4名で未検出だったのに対し、1名のドナーでは、IgG分泌形質細胞の14%がH5に対して抗体を産生し、57%がワクチンに対する抗体を産生していた。ワクチン接種から7日後に採取した末梢血単核細胞(PBMCs)から、磁気マイクロビーズを使用し、続いてFACSAriaを使用してセルソーティングすることにより、CD138+形質細胞を単離した。限界数の形質細胞を、マイクロウェル培養プレートに播種した。組み換えH5又はH9 HAを抗原として使用し、及び破傷風トキソイドを陰性対照として使用し、ELISAを平行して3つ行い、培養上清を試験した。スクリーニングした4,928種の培養上清のうち、12種はH5に結合したもののH9 HAには結合せず、25種はH9に結合したもののH5 HAには結合せず、54種はH5及びH9の両方に結合した。54種の培養物のうち、最も高いODシグナルを有していた一部の培養物にRT−PCRを行い、2対のVH及びVL遺伝子を回収した。
VH及びVL遺伝子を発現ベクターにクローン化し、HEK293T細胞に形質移入して組み換え抗体を産生させた。2つのモノクローナル抗体、FI6変異体2及びFI28は、ほとんどのV、D及びJ遺伝子断片(IGHV3−30*01、IGHD3−9*01、IGHJ4*02及びIGKV4−1*01)を共有していたものの、N領域、IGKJの使用及び体細胞変異のパターンに違いがみられ、したがって、クローンとして関連性はなかった。
異なる亜型に属する一連のHAを使用し、組み換え抗体の特異性をELISAにより調査した。顕著なことに、FI6は、第1群(H1、H5及びH9)及び第2群(H3及びH7)を含む試験したすべてのA型インフルエンザHA亜型に結合し、かつB型インフルエンザ由来のHAには結合しなかった。対照的に、FI28は第1群のうちの3つのHAにのみ結合した(H1、H5及びH9)。
2つの抗体のVH及びVL配列の相同性を考慮して、FI6変異体2、FI28変異体1及びhCMV特異的抗体7I13(H鎖と同一のV、D及びJ配列を使用する抗体)のH及びL鎖を使用し、シャッフリング実験を実施した。H7への結合にはFI6変異体2 H及びL鎖対が必要とされたのに対し、H5に対する結合は、FI6変異体2及びFI28変異体1のL鎖がシャッフルされた場合にも維持された。更に、FI6変異体2のH鎖を未改変の7I13のL鎖と組み合わせた場合にもH5に対する結合は観察された。対照的に、相同体の7I13 H鎖を、FI6変異体2のL鎖と組み合わせた場合には、H5に対する結合は観察されなかった。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、これらの結果により、H5に対する結合は主にH鎖によるものであり、それに対しH7に対する結合には、FI6変異体2のH及びL鎖間の正確な対形成が必要とされることが示唆された。
次に、偽型ウイルス(表5)並びに感染性ウイルス(表6)を使用し、A型インフルエンザ第1群及び第2群の亜型に対する中和能について、FI6変異体2及びFI28変異体1を試験した。注目すべきことに、FI6変異体2は、antigenically divergent clades 0、1、2.1、2.2及び2.3に属する6つのH5単離体と、2つのトリH7単離体を包含する試験したすべての偽ウイルスを中和した。更に、FI6変異体2は、2種のH3N2ウイルス及び4種のH1N1ウイルスを含む試験したすべての感染性ウイルスを、近年のH1N1感染爆発性単離株A/CA/04/09と比較して最大で数十倍も中和した(表6)。FI28変異体1はすべてのH5偽ウイルスを中和したものの、H7偽ウイルス並びに試験した感染性ウイルスは中和しなかった。偽ウイルスに対する中和力価は、感染性ウイルスに対する力価よりも高かった。
実施例2.FI6変異体2及びFI28変異体1の抗原結合部位
抗体FI6変異体2及びFI28変異体1が結合する抗原性の部位を特定するため、我々は、まずマウスモノクローナル抗体のC179(HAステム領域の保存配列にマッピングされる)に対する結合阻害能について、これらの抗体を試験した(Y.Okuno,et al.,J Virol 67,2552(1993))。FI6変異体2及びFI28変異体1のいずれもが、リコンビナントなH5 VN/1203/04 HAに対するC179の結合を完全に阻害したことから、これらの抗体が認識するエピトープがオーバーラップしていることが示唆された。対照的に、FI6変異体2及びFI28変異体1は、H5N1免疫ドナーから単離された一連のH5特異的抗体とは競合せず、HAの球状頭部中の異なるエピトープを認識する(C.P.Simmons et al.,PLoS Med 4,e178(2007);S.Khurana et al.,PLoS Med 6,e1000049(2009))。欠陥をもつエスケープ変異体をスクリーニングし、FI6変異体2エピトープのマッピングを試みたところ、このエピトープには、ウイルスに対する適応性を損なわずに容易に変異を起こすことはできないことが示唆された。
次に我々は、線状であり及び環化させたペプチドHA A/VN/1194/04のライブラリを用いペプチドマッピングを実施し、並びにPepscan Presto BVシステム(レリスタット、オランダ)によりヘリックススキャンを行った。この解析により、HA2融合ペプチドFGAIAG(H3付番に従い第3〜8番目のアミノ酸;配列番号37)、HA2ヘリックスAペプチドDGVTNKVNS(第46〜54番目のアミノ酸;配列番号38)、HA2ヘリックスBペプチドMENERTLDFHDSNVK(第102〜116番目のアミノ酸;配列番号39)並びにHA1 C末端ペプチドLVLATGLRNSP(第315〜325番目のアミノ酸;配列番号40)を包含する、FI6変異体2の結合領域が特定された。抗体がHA1 C末端ペプチド及びHA2ヘリックスBペプチドと反応しなかったことから、FI28変異体1の結合領域はFI6のものとは異なっていた。
実施例3.産生性の改善されたFI6変異体3、4及び5の生成及び特性評価
哺乳類細胞における産生性を向上させ、不要な体細胞変異及び望ましくない特性を排除するために、FI6変異体2のVH及びVLの変異体を数種類合成した。VH及びVL遺伝子を、それぞれIgG1の定常部及びCκをコードしている発現ベクターによりクローン化させた。IMGTデータベースを参照し、FI6変異体2に関係する生殖細胞系の配列を特定した。合成(Genscript、Piscatawy、NJ)又は部位特異的変異導入(Promega)により、単一の又は複数の生殖細胞系列変異が生殖系列に復帰している抗体変異体を産生し、配列を確認した。ヒト細胞における発現を最適化させるため、GenScriptのOptimumGene(商標)システムを使用し、すべての変異体の配列をコドン最適化させた。懸濁培養したFreestyle 293細胞(インビトロジェン)に、PEIにより一過性形質移入を行い、モノクローナル抗体を産生させた。培養開始から7日後に形質移入細胞由来の上清を回収し、プロテインAクロマトグラフィー(GEヘルスケア)によりIgGをアフィニティー精製し、PBSにより脱塩した。複数回の独立試験により、一過性発現系における産生性を評価した。中央値を図1に示す。図1に示すとおり、FI6変異体2は13.5μg/mLの力価で産生され、FI6変異体3は46.3μg/mLの力価で産生され、FI6変異体4は60.7μg/mLの力価で産生され、かつFI6変異体5は61.6μg/mLの力価で産生される。したがって、我々は、FI6変異体3、4及び5の産生力価を、FI6変異体2と比較してそれぞれ3.4倍、4.5倍、及び4.6倍に上昇させることができた。
また、リコンビナント抗体には、ELISAによりH5及びH7 HAに対する結合性についての特性評価を行い、かつH5及びH7偽ウイルス(表7)の中和についての特性評価も行い、オリジナルのFI6変異体2 IgGと比較した。ELISAプレート(コーニング)の半分の領域には、1μg/mLのバキュロウイルス由来の組み換えHA(Protein Sciences社)PBS溶液5μlによりコーティングを行った。1% PBS/BSAによるブロッキング後、抗体を加え、アルカリ−ホスファターゼ標識F(ab’)2ヤギ抗ヒトIgG(Southern Biotech)を使用して結合性を明らかにした。次にプレートを洗浄し、基質(p−NPP,シグマ)を添加し、405nmでプレートの読み取りをした。最大結合の50%(EC50)を得るのに必要とされた抗体濃度を、ELISAにより測定し、HAに結合する抗体の相対的な親和性を定量した。偽ウイルスの中和アッセイのため、段階希釈した抗体を、一定濃度の偽ウイルスを含有させた培地上清とともに37℃で1時間インキュベートした。次に混合物にHEK 293T/17細胞を加え、37℃で3日間インキュベートした。次に細胞をBritelite試薬(パーキンエルマー)により可溶化し、ルミノメーターマイクロプレートリーダー(Veritas,Turner Biosystems)で、細胞可溶化液の相対発光量(RLU)を測定した。抗体の存在下及び非存在下でRLUを比較して、感染力の低下を測定し、これを中和率として表した。50%阻害濃度(IC50)は、細胞のみの対照ウェルにおけるバックグラウンドRLUを減算した後に、ウイルス対照ウェルと比較してRLUが50%減少する試料濃度として定義した。表7は、配列特性の向上に基づき、結合活性が保存された又は向上されたものを選択したFI6変異体3〜5を示す。
FI6変異体2及びFI6変異体3は、第1群(H1、H2、H5、H6、H8及びH9)並びに第2群(H3、H4、H7及びH10)に属し、10〜270ng/mLの範囲のEC50値を有する、試験したすべての組み換え型又は精製HAに結合した(表8)。更に、FI6変異体2及びFI6変異体3は、第1群(H11、H12、H13及びH16)及び第2群(H4、H10、H14及びH15)に属するHA遺伝子により形質移入された細胞を染色した(表8)。
(1)EC50値(ng/mL)はELISAにより測定されたものである
(2)「+」は、HAを形質移入された293細胞が染色に陽性だったことを意味する。
実施例4.H1及びH3 HA上のFI6変異体3エピトープの構造評価
FI6変異体3により第1群及び第2群のHA上で認識されるエピトープを特定し、抗体及びその標的とする抗原間の分子相互作用について説明するため、我々はFI6変異体3 Fab断片と、H1(第1群)及びH3(第2群)HAホモ三量体とからなる複合体を結晶化させた。FI6変異体3/H1ホモ三量体HA複合体を結晶化するため、H1 HA0の外部ドメインをSf9昆虫細胞で発現させた。GP67分泌シグナルを組み込んだBioFocus発現ベクターに、残基11〜329(HA1)及び1〜176(HA2)(H3付番による)に相当するcDNAをクローン化し、発現したタンパク質を培養培地に分泌させた。クローン化したcDNAを、C末端の三量体形成フォルドン配列(foldon sequence)と融合させて、H1 HA0の三量体を形成させた。結晶化前にフォルドンタグを除去するために、HA2のフォルドン配列とC末端との間にトロンビン切断配列を導入し、かつアフィニティー精製の際に使用する6−Hisタグを、発現させるポリペプチド配列のC末端の最も外側に組み込んだ。
Sf9昆虫細胞に組換え型バキュロウイルスを感染させ、培養培地に、Ni−NTA樹脂(Qiagen)を通過させ、ゲルろ過(S200カラム)することで、培養培地から、6−Hisタグを付加したH1 HA0を回収した。溶出させたタンパク質のうち三量体H1 HA0に相当するものを1mg/mLに濃縮した後、トロンビン(HA0に対し5U/mg)により20℃にて2時間処理し、C末端タグを除去した。最後に、精製した切断タンパク質H1 HA0を、Mono Qアニオン交換カラムで分画した。Fab−FI6変異体3と複合体を形成させるため、0.5〜1mg/mLの精製H1 HA0を、2倍モル過剰な精製Fab−FI6変異体3と混合した。4℃で3時間インキュベートして複合体を形成させた後、S200ゲル濾過カラムで分画して過剰なFab−FI6変異体3を分離した。
精製した、Fab−FI6変異体3と未切断のH1 HA0三量体との複合体を、結晶化に使用するため12mg/mLに濃縮した。0.1Mビストリスプロパン(pH 7.0)、2.2M硫酸アンモニウムからなるウェル溶液から蒸気を拡散させて、ハンギングドロップ法により、Fab−FI6変異体3とH1 HA0との複合体結晶を成長させた。結晶を20℃で4週間成長させ、凍結保護のためドロップからウェル溶液と3.4Mマロン酸ナトリウム(pH 7.0)との1:1混合物に回収した後、液体窒素により瞬間凍結した。Diamond Light SourceによりビームラインIO3でデータを収集し、それぞれMOSFLM及びSCALAにより指数付けし、積分し、スケール化した。
単位セルパラメータ及びタンパク質の分子量の統計解析により、非対称性の単位あたりに赤血球凝集素モノマー1つとFab断片1つとが含まれることが示唆されたため、単量体状態での研究モデルを用い、分子置換を実施した。CCP4プログラムPHASERによる検索モデルとして、H1 HA(PDB ID:1RD8)単量体の座標を使用し、初期位相を得た。自動モデル構築プログラムFFFEARにより、重鎖の可変ドメインに首尾よく密度を当てはめ、続いて、HA−抗体構造3FKU及び3GBNと比較して軽鎖可変ドメインを配置した。それぞれCOOT及びREFMAC5によりモデルの構築及び微調整を交互に行った。電子密度マップが可能な限り十分に充填され、R−work値及びR−free値が横ばいになるまでこの工程を繰り返した。
カバットの慣例方法に従い、最終的なPDBファイル中のアミノ酸に付番した。最終モデルは、H1 HA及び重鎖及び軽鎖可変ドメインのすべてを含有する。FI6変異体3/H3ヘテロ三量体HA複合体の結晶化のため、X−31(H3N2)ウイルス及びブロメラインにより放出されたHA(BHA)を精製し、パパイン消化によりFab断片を調製した。プロテインAセファロースアフィニティクロマトグラフィー(HiTrapプロテインA HP、1mL)と、続いてS−200サイズ排除カラムとにより、FI6変異体3 Fabを精製した。3.5mgのFabを3mgのX−31 BHAと混合し、4℃で一晩インキュベートして複合体を形成させ、superose 6 SECカラムにより複合体を精製した。結晶化のため、Fab−HA複合体に相当するピーク画分をプールし、濃縮した。
Oryx−6結晶化ロボット(Douglas Instruments)によりシッティングドロップ蒸気拡散法を行い、FI6変異体3−H3複合体結晶を成長させた。リザーバー溶液に25%グリセロールを加え、結晶を凍結保護した。Diamond Light SourceによりビームラインIO3でデータを収集し、それぞれDenzo及びScalepackにより指数付けし、積分し、スケール化した。Amoreにより分子置換を行い、非対称ユニット中に3つのFI6変異体3 Fabを有するH3 HA三量体複合体を含有している結晶を解析した。分子置換計算は、独立した探索対象としてH3 HA三量体、FI6変異体3/H1複合体のFI6変異体3の重鎖及び軽鎖可変ドメイン、並びに定常ドメイン(PDB ID:3HC0.pdb)の2Å構造の座標を使用して行った。分子置換により得られた解を、Cootを使用し、手動で調節を行う回を織り交ぜてRefmac5及びPheonixにより精密にした。電子密度マップは、DMを使用する結晶学に基づくものではない平均化を行い大幅に改良した。
X線結晶構造解析により、FI6変異体3が、Fサブドメインの保存エピトープに結合していることが示された。2つのHAは、系統学的に及び構造的に異なり、複合体は異なる充填配置で結晶化されるものの、相互作用表面は非常に類似していることが判明した(図2、A及びB)。いずれの場合にも、HA三量体の各モノマーは、1分子のFI6変異体3に結合する(図3)。FI6変異体3のHCDR3ループは、HAのFサブドメイン上にある浅い溝に結合する。この溝の面は、HA2のAヘリックス由来の残基と、HA1の二本のストランドの一部(38〜42及び318〜320)とにより形成されるのに対し、底部は残基18〜21を包含するHA2ターンにより形成される(図2、A及びB)。
HCDR3ループは、約45°の角度でヘリックスAを横切り、Leu−100A、Tyr−100C、Phe−100D及びTrp−100Fは溝中の残基と疎水的に接触できるようになる(図4)。Tyr−100C及びTrp−100Fは、HA1の側鎖のThr−318、及びHA1の第19番目の残基の主鎖炭素とも水素結合ポテンシャルを形成する。その他に2箇所で、HCDR3の主鎖カルボニルの残基98及び99と、ヘリックスA上のAsn−53及びThr−49とにより極性相互作用が形成される。これらをもとに、HCDR3とHA(H1及びH3)との相互作用により、抗体の約750Å2の表面が充填され、かつこの相互作用のうちの約2/3はHA2鎖との相互作用によるものであると考えられる。
最終的に、FI6変異体3と、H1及びH3の疎水性溝によりなされる相互作用は極めて類似している。FI6変異体3のLCDR1ループは、疎水性の溝に寄与する側とは反対側のヘリックスA側の2箇所に接触をもたらす;Phe−27Dは脂肪性のLys−39と疎水性の接触を行い、かつAsn−28はAsn−43と水素結合することから、これらを考慮すると、H1及びH3の両方で約190Å2の表面積が充填されるものと考えられる。未切断の状態で共結晶化させたH1 HAに関しては、LCDR1も、隣接する遠位右側HAモノマーの未切断の「融合ペプチド」と広範に接触しており(図3、B及びC並びに図4、A及びB)、これによりFI6変異体3の充填表面は更に320Å2となる。
LCDR1の残基28及び29は、HA1の残基329の主鎖カルボニル及びHA2の1つおいて隣の残基Leu−2と主鎖アミド水素結合を形成しており、したがって、結合は切断部位に及んでいる。LCDR1のPhe−27Dは、隣接する遠位右側HA2のLeu−2と疎水的に接触するのに対し、側鎖ヒドロキシルのTyr−29は、隣接する遠位右側HA1鎖の主鎖カルボニルの残基325と水素結合する。H1及びH3 HAとHCDR3との相互作用がいずれも非常に類似しているのとは対照的に、LCDR1と、隣接する切断された遠位右側H3 HAモノマーに由来する「融合ペプチド」との相互作用は、未切断のH1 HAと形成される相互作用と比較して非常に弱いものであった(図3、挿入図B)。Phe−27Dは、HA2の脂肪性部位のLys−39と再度相互作用するものの、Tyr−29は、隣接する遠位右側HA2の主鎖カルボニルのAla−7(未切断のH1 HA中の残基329ではない)と、水素結合により接触する可能性がある。
対照的に、接触面積が114Åとより小さい(H1 HAにおける320Å2と比較)ことを考慮すると、LCDR1ループと、切断したH3 HAの「融合ペプチド」との間には主鎖による接触が存在しない。HA前駆体の切断によりH3 HAが生成されることで、FI6変異体3が、FI6変異体3/H3及びFI6変異体3/H1複合体においてHAに対しわずかに異なった配向をすることも観察される。FI6変異体3 VH及びVL鎖と切断されたH3ホモ三量体HAとの界面で接触する残基を表9に報告する。FI6変異体3 VH及びVL鎖と未切断のH1ホモ三量体HAとの界面で接触する残基を表10に報告する。
交差反応性の2つの抗体CR6261及びF10(第1群に特異的)の構造は、これまでに、H5及びH1 HAの複合体として報告されている。CR6261及びF10抗体によるHAへの結合は、VHドメインによってのみ介在され、HAに対して互いにおおよそ同じように配向するものの、いずれの抗体もFI6変異体3に対しては著しく回転しており、HAの膜近位端に5〜10Å近かった(図3、D及びE)。
ここに表されるFI6変異体3/H1及びFI6変異体3/H3からも、3つの抗体のHA結合部位は広範にオーバーラップしているものの、FI6変異体3によりなされる相互作用の性質はCR6261及びF10抗体によりなされるものと顕著に異なっていることが明らかである。FI6変異体3とHAの疎水性の溝との相互作用が長鎖HCDR3によってのみ介在されるのに対し、CR6261及びF10に関しては、全部で3つのHCDRが結合に関与しているという点が最も大きな違いである。
第2群のH7、H10及びH15 HAと同様、H3 HAがAsn−38(HA1)でグリコシル化されているのに対し、第1群のすべてのHAに共通のH1がグリコシル化されていないという点が、FI6変異体3/H1複合体とFI6変異体3/H3複合体との間の重要な違いである。未結合の状態のH3では、この糖側鎖は、Asn−38残基を含有するHA1のβ鎖から同じHAサブユニットのHA2のヘリックスAに向かって突出しており、FI6変異体3のフットプリントとオーバーラップする(図5A)。糖側鎖はウイルス糖タンパク質の抗原性に影響を与えることが知られていることから、このオーバーラップにより、HAの膜に近位な領域を標的とする他の第1群の交差反応性の抗体から、第2群のHAに対する結合性が欠如していることに起因することが示唆された。しかしながら、オリゴ糖を再配向させて、HA表面から約80°離して回転させ、新たにHCDR2ループのAsp−53及びAsn−55と接触させることにより、FI6変異体3をH3 HAに結合させることができる(図5B)。
糖側鎖のAsn−38での柔軟性によりFI6変異体3がH3 HAに結合することを考慮し、我々は、H3 HAがCR6261又はF10に結合しない理由は、グリコシル化部位にあるのではないかとの疑問を持った。糖側鎖の配向において同様の変更を加えることで、交差反応性の抗体のCR6261とは結合を示すものの、F10とは結合しないことが単純なモデリングにより示唆される。F10のVH残基73〜77を包含しているβターンは、FI6変異体3/H3複合体に採用される配向で、Asn−38連結糖鎖により立体障害を受ける。この場合に、糖鎖が、F10により結合を受ける結合部位から更に離れるよう回転し得るのかは不明である。しかしながら、グリコシル化部位(Asn−38)を除去したCR6261又はF10のいずれもH7偽ウイルス(A/chicken/Italy/99)を中和することができなかったことから(IC50:50μg/ml超)、グリカンの関係する立体障害は、第2群のHAに対するCR6261及びF10抗体の結合を予防する、構造面での制約にとどまらないことが示唆された。
Asn−38のグリコシル化に加えて、第1群及び第2群のHA間のFサブドメイン構造が、群に特有のHA2 Trp−21の環境及び配向に関与するという点が最も顕著に異なる。第1群のHAでは、Trp−21は、Fサブドメインの表面に対しおおよそ平行であるのに対し、第2群のHAは、表面に対して大体垂直に配向している(図5、C及びD)。3つの抗体(FI6変異体3、CR6261及びF10)のすべてが、主にフェニルアラニン側鎖(FI6変異体3ではPhe−100D、CR6261ではPhe−54及びF10ではPhe−55)によりTrp−21と接触する(図5、C及びD)。FI6変異体3について言えば、HCDR3ループにおける局所的な再編成により、Phe−100Dが、H1複合体の疎水性の溝の、H3複合体の場合の位置と比較しておよそ2Å深い位置に存在し、したがって、いずれの場合にもTrp−21により類似する接触距離を維持することを意味する。
H1 HAとの複合体形成において、第1群に特異的な2つの抗体のPhe−54(CR6261)及びPhe−55(F10)の位置はFI6変異体3のものと類似していた。しかしながら、Phe−54(CR6261)及びPhe−55(F10)が、2つの隣接する逆平行ストランドを連結する短いループHCDR2上に配置された場合、疎水性の溝から離れ第2群のTrp−21を収容するようなフェニルアラニンの移動に関する柔軟性は、FI6変異体3と比較して減少するようである。したがって、第2群HAに対するCR6261及びF10の結合は、HCDR2フェニルアラニンとTrp−21との間の立体障害によりブロックされるようである。
要約すると、得られた構造データにより、ヘリックスAのコアエピトープはCR6261及びF10により認識されるものと類似しているものの、FI6変異体3は異なる角度で結合し、更に5〜10Åほど膜から遠位にあり、かつヘリックスAを包含し隣接する遠位右側モノマーの切断及び未切断形態の融合ペプチドまで延びるより大きな領域に対して接触することが示される(図6)。FI6変異体3の結合は、VH及びVL CDRの両方により介在され、特に、群特異的なTrp−21ループの立体構造が異なる長鎖HCDR3と、重度に変異を加えられたLCDR1とにより介在される。VH及びVK鎖と、長鎖HCDR3との両方の使用は、天然に選択される抗体に特徴的なものであり、VH鎖のみを使用して結合するCR6261及びF10などのファージ由来の抗体のもつ特性とは対照的である。FI6変異体3 VH及びVKにおいて接触する残基を図7に記す。
実施例5.FI6変異体3の生体内における予防効果
A型インフルエンザウイルスの感染に関するマウスモデルにより、FI6変異体3のもつ予防効果について生体内試験を行った。6週齢及び8週齢の雌性BALB/cマウスに、1〜16mg/kgの濃度で濃度を変えて精製抗体を静脈内注射(i.v.)した。3時間後、マウスを昏睡させ、10 MLD50(マウスの50%致死量)のH1N1 A/PR/8/34を鼻腔内投与(i.n.)した。治療の設定として、マウスには鼻腔内投与から1、2又は3日後に抗体を投与した。マウスの生存及び体重の減少について、感染後(p.i.)14日目まで毎日モニタリングした。実験開始時から体重が25%以上減少したマウスは、動物実験プロトコルを順守し安楽死させた。
ウイルスの複製に対するFI6変異体3の影響を評価するため、10 MLD50のH1N1 A/PR/8/34を投与したマウスに対し、異なる時点で抗体を投与し、4日後に屠殺して肺と脳を採取した。抗生物質−抗かび剤溶液(インビトロジェン)を添加したLeibovitz L−15培地(インビトロジェン)に組織をホモジナイズし、10%(w/v)組織懸濁液を調製した。MDCK細胞に対し組織均質液の用量設定を行い、ウイルス力価を測定した。予防用の設定では、FI6変異体3は完全に予防性を有し、4mg/kgで投与した場合にはある程度予防的であり(生存率80%)、2mg/kgで投与した場合には、マウスは第1群H1N1 A/PR/8/34ウイルスに感染した(図8)。FI6変異体3で処理したマウスでは、感染から4日後の肺ウイルス力価は、感染当日又は1日後と比較しておよそ100分の1にまで減少していた(図9)。更に、FI6変異体3は、第2群H3N2 HK−x31ウイルスに感染させたマウスの体重の減少も予防した(図8)。
実施例6.FI6変異体3によるウイルスの中和機序
FI6抗体のもつ予防効果を評価することを目的とした生体内試験に際し、我々は、補体結合(FI6−v2 KA)又は補体及びFcR結合(FI6−v2 LALA)を欠損しているFI6変異体2 Fc変異体を作製した。これらの抗体は、FI6変異体2と同様の結合及び生体外中和特性、並びに生体内試験に匹敵する半数致死期間を示した(FI6−v2、FI6−v2 KA及びFI6−v2 LALAの平均半数致死期間は、それぞれ、3.3、3.4及び3.5日間)。致死的にA/Puerto Rico/8/34(H1N1)ウイルスを感染させたマウスにおいてこれらの抗体の予防効果を試験した。FI6.v2は、4mg/kgで投与した場合にはマウスの死亡を完全に予防し、2mg/kgで投与した場合にはマウスのうち80%の死亡を予防した(図8F)。10mg/kgで投与した場合、FI6−v2及びFI6−v2 KAは完全に予防したのに対し、FI6−v2 LALAの活性はかなり減少し、40%のマウスでのみ予防することができた(図8F)。この効果の減少は、特に抗体変異体を3mg/kgの限界濃度で投与した場合に顕著であった(図8G)。
FI6変異体3の中和活性に寄与する機序を調査するため、モル濃度15倍のFI6変異体3、FE17、非特異的mAb(HBD85)又はmAb不含有のPBS溶液中で、NC/99バキュロウイルス由来HA(Protein Sciences社)を37℃で40分間インキュベートした。TPCKにより処理したトリプシンを、最終濃度2.5μg/mLになるよう各試料に添加し、37℃で5、10及び20分間消化を行った。各時点で、SDS及びDTTを含有させた緩衝液を添加し、95℃で5分間煮沸して消化を停止させた。次に試料を12%トリス−グリシンポリアクリルアミドゲルに充填した。iBlotブロッティングシステム(インビトロジェン)により、タンパク質をPVDF膜に転写した。10%無脂肪乾燥乳のTBS−Tween溶液により、PVDF膜を30間ブロッキングした。HA0に対する一次抗体(所内でビオチン化したFO32)の、0.5μg/mL濃度のTBS−Tween溶液により、4℃で一晩インキュベートした。PVDF膜をTBS−Tweenにより3回洗浄し、室温で一時間HRP標識ストレプトアビジン(Sigma)とインキュベートした。
PVDF膜をTBS−Tweenで3回洗浄し、ECL Plus(商標)ウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア)及びLAS4000 CCDカメラシステムにより陽性バンドを検出した。図10のデータは、FI6変異体3が、TPCK−トリプシンによるHA0の切断を阻害することを示す。この切断により、少なくともこれらのウイルスについては、細胞外で切断が生じる場所において、抗体軽鎖が未切断のHA0に結合して感染をブロックすることが示唆される。
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