JP2020048469A - 分化誘導用繊維シート担体 - Google Patents

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拓 貝塚
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雅章 川部
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Abstract

【課題】分化誘導の再現性が高く、分化細胞の収量が高い分化誘導用担体を提供する。より好ましくは、前記特徴に加え、分化細胞を担体から容易に剥離可能な分化誘導用担体を提供する。【解決手段】前記分化誘導用担体は、繊維シートの表面上に存在している細胞を分化誘導するために使用するものであって、前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満である。好ましくは、前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における平均孔径が5μm未満である。【選択図】なし

Description

本発明は、分化誘導用繊維シート担体に関する。
ナノサイズの繊維シート担体上でES細胞又はiPS細胞を、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、又は外胚葉系細胞へと分化誘導する方法が公知である(特許文献1)。また、前記方法に用いることのできる、静電紡糸法により紡糸したポリアミドナノファイバー繊維シートでコートした96ウェルプレート(Corning(登録商標)Ultra−Web(登録商標)96 well plate; Corning Inc.)が知られている。再生医療や細胞移植に用いる細胞を培養・分化誘導するために、従来よりシャーレ等の平面担体が使用されているが、後述の参考例に示すように、特許文献1に記載の方法によれば、平面担体上でES、iPS細胞を目的の細胞に分化誘導を行う場合より、分化誘導効率を向上できる一方、分化効率にばらつきがあり、分化誘導の再現性や分化細胞の収量に満足のいくものではなかった。
また、体外での細胞培養や組織再生用の細胞足場材料として、繊維径が1〜200nmのナノファイバーを含む細胞足場材料が公知である(特許文献2)。特許文献2には、ナノファイバー同士が集合してバンドル構造を形成し、ナノファイバー束を形成するため、束の間に細胞が入り込むことができることが開示されている。しかしながら、再生医療や細胞移植に用いる場合には、分化した細胞を培養担体から容易に剥離できることが必要であり、剥離容易性の点で満足のいくものではなかった。
特開2011−115161号公報 特開2006−254722号公報
従って、本発明の課題は、分化誘導の再現性が高く、分化細胞の収量が高い分化誘導用担体を提供することにあり、より好ましくは、分化細胞を担体から容易に剥離可能な分化誘導用担体を提供することにある。
前記課題は、以下の本発明により解決することができる:
[1]繊維シートの表面上に存在している細胞を分化誘導するために使用する、繊維シートからなる分化誘導用担体であって、前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満である、分化誘導用担体。
[2]前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における平均孔径が5μm未満である、[1]の分化誘導用担体。
本発明の[1]の分化誘導用担体によれば、繊維シートの、少なくとも細胞が接触する表面における繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満であるため、均一な繊維表面構造を有する分化誘導用担体を提供することができる。前記分化誘導用担体は、均一な繊維表面構造を有するため、分化誘導の再現性が高く、分解細胞の収量も高い。
また、本発明の好適態様である[2]の分化誘導用担体によれば、繊維シートの、少なくとも細胞が接触する表面における平均孔径が5μm未満であるため、通常の真核細胞(直径:5〜100μm)は繊維シート内に入り込むことなく、前記繊維シート表面において増殖と分化誘導を行う。一定数まで増殖後、充分に分化した細胞は、繊維シートの表面上に存在するため、再生医療や細胞移植に用いる際に、前記分化細胞を担体から容易に剥離することができる。
実施例1で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例2で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例3で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例4で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例5で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例6で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 比較例1で調製した、繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。 分化細胞の収量を評価した結果である。
本発明の分化誘導用担体は、繊維シートからなる。前記繊維シートとしては、細胞を分化誘導するための担体として使用できるシート状の繊維構造体であれば、特に限定されるものではなく、例えば、織物、編物、繊維ウェブ、不織布などを挙げることができ、細胞が実在している生体内構造に近いことから繊維シートとして不織布を用いるのが好ましい。
前記繊維シートを構成する繊維は、細胞を分化誘導するための担体として使用できる繊維シートを形成することができれば限定するものではなく、例えば、有機系繊維または無機系繊維のいずれか、あるいは、有機系繊維および無機系繊維を採用できる。また、繊維シートの構成繊維は、不溶化処理が施された有機樹脂で構成された繊維であっても良い。
有機系繊維の構成成分としては、例えば、ポリアミドポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン、ポリブリレンサクシネート、あるいはタンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン)、水溶性ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ナフィオン)、汎用ポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA))などを単独で、あるいは、混合して使用することができる。
特に、分化誘導の再現性が高く、分化細胞の収量が高い分化誘導用担体を提供し易いことから、ポリアミドポリマー繊維で構成された繊維シートからなる分化誘導用担体であるのが好ましい。
無機系繊維の構成成分としては、例えば、SiO、Al、B、TiO、ZrO、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができ、これらの一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。
繊維シートが組成の異なる二種類以上の繊維から構成されている場合、各種繊維が混在してなる繊維シートであっても良いし、互いに組成の異なる繊維層を備えた繊維シートであっても良い。また、上述した有機系繊維と無機系繊維が混在してなる繊維シートであっても、有機系繊維層と無機系繊維層を備えた繊維シートであってもよい。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートは、少なくとも細胞が接触する繊維シート表面において、その構成繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満である。
繊維シートが様々な繊維径の繊維から構成されている場合、細胞が接触する繊維シート表面の構造は不均一な状態となっている。本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートは、少なくとも細胞が接触する繊維シート表面において、その構成繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満であるため、均一な繊維表面構造を有する分化誘導用担体を提供することができる。前記分化誘導用担体は、均一な繊維表面構造を有するため、分化誘導の再現性が高く、分解細胞の収量も高い。
前記変動係数が小さいほど、均一性の高い繊維表面構造をとることができるため、0.47未満であって、好ましくは0.46以下であり、好ましくは0.40以下であり、より好ましくは0.30以下であり、更に好ましくは0.26以下である。なお、前記変動係数の下限は、理論的には0である。
本明細書において「細胞が接触する繊維シート表面」とは、繊維シートを分化誘導用担体として用いた場合、すなわち、前記繊維シート上で細胞を培養、増殖、分化誘導する場合、細胞が存在している側の表面を意味する。すなわち、本発明の分化誘導用担体においては、繊維シートの、少なくとも細胞が接触する表面における平均孔径が好ましくは5μm未満であるため、通常の大きさの真核細胞(直径:5〜100μm)であれば、繊維シート内に入り込むことができず、繊維シートの表面上でのみ、増殖、分化誘導などを行うことになる。従って、細胞が増殖、分化誘導などを行う繊維シート表面が「細胞が接触する繊維シート表面」となる。
なお、「細胞が接触する繊維シート表面」と対をなす表面は、例えば、96ウェルプレートなどの培養容器と接触する繊維シート表面であるが、前記繊維シートを培養容器と接触させない状態で使用する場合(例えば、繊維シートを網状支持体の上に載置して使用する場合、繊維シートの外縁を適当な支持枠で保持して垂直に立てて使用する場合など)のように、繊維シートの両面が「細胞が接触する繊維シート表面」となる場合がある。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートにおいては、少なくとも細胞が接触する繊維シート表面において、その構成繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満であれば、例えば、「細胞が接触する繊維シート表面における構成繊維」以外の繊維の平均繊維径の変動係数や、「細胞が接触する繊維シート表面における構成繊維」と、それ以外の構成繊維とを合わせて算出した平均繊維径の変動係数(例えば、繊維シートを構成する全繊維の平均繊維径の変動係数)は、特に限定されるものではない。
例えば、二種類の異なる繊維シート層A,Bを重ねて一体化した繊維シートを例にとると、繊維シート層Aの露出表面(すなわち、繊維シート層Bと接触している表面とは反対の表面)が「細胞が接触する繊維シート表面」となり、繊維シート層Bの露出表面が培養容器と接触する表面となる場合、繊維シート層Aの露出表面における平均繊維径の変動係数が0.47未満であれば、繊維シート層Bの構成する繊維の平均繊維径の変動係数は特に限定されるものではない。
本明細書において、或る数値に関する「変動係数」とは、標準偏差を平均値で除することにより算出される値である。
本明細書において「繊維の平均繊維径」は、繊維シートを撮影した、5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の構成繊維における各繊維径の算術平均値をいう。
また、「細胞が接触する繊維シート表面における繊維の平均繊維径」は、シート表面を撮影した、5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の構成繊維における各繊維径の算術平均値をいう。
なお、構成繊維の繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。
また、構成繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
また、繊維シートがその全体に亘って実質的に均一な繊維構造体である場合には、「細胞が接触する繊維シート表面における繊維の平均繊維径」と「繊維シートを構成する繊維の平均繊維径」が同じであると判断できる。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートは、少なくとも細胞が接触する繊維シート表面における平均孔径が5μm未満であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることが更に好ましい。
少なくとも細胞が接触する繊維シート表面における平均孔径が5μm未満であると、通常の真核細胞(直径:5〜100μm)は繊維シート内に入り込むことなく、前記繊維シート表面において増殖と分化誘導を行う。一定数まで増殖後、充分に分化した細胞は、繊維シートの表面上に存在するため、再生医療や細胞移植に用いる際に、前記分化細胞を担体から容易に剥離することができるからである。
なお平均孔径は、ASTM−F316に規定されている方法により得られる平均流量孔径の値をいい、ポロメータ[Polometer、コールター(Coulter)社製]を用いて、ミーンフローポイント法により測定することができる。
そして、測定へ供した繊維シートがその全体に亘って実質的に均一な繊維構造体である場合には、該測定値を繊維シートにおける、細胞が接触する繊維シート表面の平均孔径とみなす。
また、測定へ供した繊維シートが組成の異なる複数の層を有している場合、繊維シートにおける細胞が接触する側の繊維層から試料を取得し、該試料を測定へ供することで得られた測定値を繊維シートにおける、細胞が接触する繊維シート表面の平均孔径とみなす。
なお、繊維シートにおける細胞が接触する側の繊維層から試料を取得できない場合には、繊維シートにおける細胞が接触する側の主面の5000倍の電子顕微鏡写真をもとに、互いに隣接する繊維同士に囲まれ形成された細孔50点の面積を各々測定し、各測定値の算術平均値を算出する。そして、算出された値と同じ面積を有する円の直径を、繊維シートにおける、細胞が接触する繊維シート表面の平均孔径とみなす。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートの繊維長は、細胞を分化誘導するための担体として使用できる繊維シートを形成することができれば、特に限定されるものではないが、不織布中に存在する繊維端部数が少なく、また、繊維が水平方向に寝て配向しやすいことから表面平滑により細胞の繊維シート内への進入を防止しやすい点で、連続長繊維であることが好ましく、特には構成繊維が連続長繊維のみである不織布(例えば、直接紡糸法を用いて製造する静電紡糸不織布)が好ましい。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートの平均繊維径は、細胞を分化誘導するための担体として使用できる繊維シートを形成することができれば、特に限定されるものではないが、600nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。平均繊維径が600nm以下であると、均一な繊維表面構造を有すると共に、細胞が接触する表面における平均孔径が5μm未満の繊維シートを実現し易い。また、通常細胞が実在している生体内構造に近い構造を供えた繊維シートを実現できる。その結果、分化誘導の再現性が高く、分解細胞の収量も高い分化誘導用担体を提供でき好ましい。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートの目付は、細胞を分化誘導するための担体として使用できる繊維シートを形成することができれば、特に限定されるものではないが、低目付であるほど、顕微鏡によって細胞観察を行いやすいため、20g/m以下であるのが好ましく、10g/m以下であるのがより好ましく、5g/m以下であるのが更に好ましく、2.5g/m以下であるのが最も好ましい。一方、目付の下限は特に限定するものではないが、0.1g/m以上であるのが好ましい。なお、本発明における「目付」は、最も面積の広い面の面積及び質量を測定し、この面積と質量から、面積1m当たりの質量に換算した値をいう。
更に、分化誘導用担体に用いる繊維シートの厚さは細胞を分化誘導するための担体として使用できる繊維シートを形成することができれば、特に限定するものではないが、100μm以下であることができ、50μm以下であることができ、25μm以下であることができ、20μm以下であることができ、10μm以下であることができる。一方、厚さの下限は特に限定するものではないが、0.1μm以上であるのが好ましい。なお、本発明における「厚さ」は最も面積の広い面と、前記広い面に対向する面との長さを、マイクロメーター法[直径14.3mmの円に0.5Nの荷重を作用させた]で測定した、20箇所における算術平均値をいう。
繊維シートの製造方法は適宜選択できるが、例えば、スパンボンド法やメルトブロー法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011−32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。
これらの製造方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、例えばネットあるいはドラムやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成できる。
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009−287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が細いと共にその変動係数が0.47未満の、連続長繊維のみで構成された繊維シートを調製できるため好ましい。
なお、繊維シートは熱処理、プレス処理、繊維間接着処理などの後処理によって、任意の物性に調整したものであってもよい。
本発明の分化誘導用担体に用いる繊維シートは、適宜、各種処理を施すことができる。
例えば、細胞培養基材への表面コート剤として一般的に使用されるα−ポリリジンや細胞外マトリックス(コラーゲン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリンなど)などを繊維シートにコーティングしてもよい。本コーティング処理によって繊維シートへの細胞の接着性を向上できる。また、細胞外マトリックスは、目的の細胞への分化誘導効率を向上させるための、直接的、間接的な分化誘導因子となる場合もある。これらは単独で使用しても良いし、2種類以上で使用してもよい。
また、上述したコーティング処理の他に、プラズマ法やUV法などの物理的処理を繊維シートへ施してもよく、コーティング処理と物理的処理を組み合わせて、繊維シートへ施してもよい。
また、上述のようにして調製した繊維シートをそのまま分化誘導用担体として使用してもよいが、剛性を有し取り扱い性に優れる分化誘導用担体を提供するためなど、利便性に優れる分化誘導用担体を提供するため、繊維シートに別の多孔体(例えば、繊維シートなど)、フィルム、発泡体などの構成部材を積層する、また、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工するなどの各種二次工程を経て分化誘導用担体を調製してもよい。
以下、参考例、実施例、比較例、およびこれらを用いた試験例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
(参考例)
本参考例では、未処理の一般的なポリスチレン製96ウェルプレート(以下、汎用平面担体と称する)と、静電紡糸法により紡糸されたポリアミドナノファイバー繊維シート(Corning(登録商標)Ultra−Web(登録商標);Corning Inc.、以下、Ultra−Webと称する)を汎用平面担体のウェル底面に設けたものを用意した。
次いで、ウェル底面に設けられたUltra−Web、および、汎用平面担体におけるウェル底面に、10μg/mLのポリLリジン溶液(シグマアルドリッチ)を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ポリLリジン溶液上清を除き、10μg/mLのラミニン溶液を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ラミニン溶液上清を除くことで、Ultra−Webおよび汎用平面担体におけるウェル底面にラミニン処理を施した。
そして、各ウェルへマウスES細胞を播種することで、汎用平面担体(ウェル底面)上とUltra−Web上にマウスES細胞を配置し、マウスES細胞の膵β細胞への分化誘導を実施した。なお、分化誘導は、STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE 2014;3:114−127に記載の方法により実施した。
マウスES細胞の膵β細胞への分化誘導17日目において、汎用平面担体上とUltra−Web上でのインスリン遺伝子発現量を比較した。その結果、汎用平面担体上でのインスリン遺伝子発現量を1.00としたとき、Ultra−Web上でのインスリン遺伝子発現量は560.75であり、Ultra−Webは、汎用平面担体と比較して高い分化誘導効率を示した。また、Ultra−Web上での測定値の変動係数は2.53であり、各ウェルにおける測定値に大きなばらつきが認められた。
なお、各測定は、n=4(汎用平面担体),8(Ultra−Web)で実施した。
(実施例1)
ポリアミド樹脂(宇部興産製UBEナイロン1015B)を15wt%の濃度となるように蟻酸に溶解し、紡糸液を調整した。前述の紡糸液を用い、静電紡糸法により平均繊維径105nmのポリアミド連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.57g/m、厚み:5μm)を調製した。なお、繊維密度は、20cmの繊維シート片を切り出し、その質量を測定することにより決定した。
得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図1(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(実施例2)
ポリアミド樹脂を20wt%の濃度としたこと以外は、実施例1と同様の方法で平均繊維径296nmのポリアミド連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.49g/m、厚み:5μm、以下、PA300と称することがある)を調製した。得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図2(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(実施例3)
ポリアミド樹脂を25wt%の濃度としたこと以外は、実施例1と同様の方法で平均繊維径594nmのポリアミド連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.67g/m、厚み:4μm)を調製した。得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図3(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(実施例4)
ポリアクリロニトリル樹脂(シグマアルドリッチ)を7wt%の濃度となるようにN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、紡糸液を調整した。前述の紡糸液を用い、静電紡糸法により、平均繊維径102nmのポリアクリロニトリル連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.35g/m、厚み:12μm)を調製した。得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図4(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(実施例5)
ポリアクリロニトリル樹脂を10wt%の濃度としたこと以外は、実施例4と同様の方法で平均繊維径306nmのポリアクリロニトリル連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.50g/m、厚み:15μm)を調製した。得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図5(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(実施例6)
ポリアクリロニトリル樹脂を12.5wt%の濃度としたこと以外は、実施例4と同様の方法で平均繊維径608nmのポリアクリロニトリル連続長繊維からなる繊維シート担体(繊維密度:1.23g/m、厚み:11μm)を調製した。得られた繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図6(左:10,000倍、右:1,000倍)に示す。
(比較例1)
比較用の繊維シート担体として、Ultra−Webを用意した。用意した繊維シート担体の走査電子顕微鏡(SEM)写真を図7(10,000倍)に示す。
(繊維シート担体の物性測定)
実施例1〜6で調製した繊維シート担体と、比較例1で用意したUltra−Webの各種物性を測定した。
なお、比較例1の平均孔径は特許公開公報(特開2011−115161)に記載されている値を、平均流量孔径とみなした。
結果を表1に示す。
実施例1〜6における平均繊維径の変動係数は、0.26以下であり、比較例1よりも均一な繊維表面構造を有することがわかった。
(分化誘導の再現性の評価)
実施例1〜3で調製した繊維シート担体および比較例1で用意したUltra−Webを、汎用平面担体の各ウェル底面に設けた。
次いで、ウェル底面に設けられた各担体に、10μg/mLのポリLリジン溶液(シグマアルドリッチ)を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ポリLリジン溶液上清を除き、10μg/mLのラミニン溶液を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ラミニン溶液上清を除くことで、Ultra−Webおよび汎用平面担体におけるウェル底面にラミニン処理を施した。
なお、このようにしてラミニン処理を施した、実施例1〜3で調製した繊維シート担体およびUltra−Webにおける各種物性値は測定上変化のないものであった。
以上の処理を施したウェル底面に設けられた各担体の、露出する主面上にマウスES細胞を播種し、膵β細胞への分化誘導を実施した。なお、分化誘導は、STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE 2014;3:114−127に記載の方法により実施した。
分化培地での培養を開始してから17日目(すなわち、分化17日目)に、分化誘導の指標となるインスリン遺伝子発現量を測定し、変動係数を比較することにより分化誘導の再現性を評価した。
結果を表2に示す。
評価結果から、実施例1〜3におけるインスリン遺伝子発現量の変動係数は比較例1よりも低く、細胞の分化誘導のばらつきが少なかった。このことは、細胞の分化誘導の再現性が高いことを示している。なお、平均繊維径が比較例1よりも細い実施例1、平均繊維径が比較例1よりも太い実施例2〜3のいずれにおいても、インスリン遺伝子発現量の変動係数は比較例1よりも低いものであった。
以上から、分化誘導の再現性は、繊維シート担体の平均繊維径の変動係数に依存するものであり、細胞が接触する表面における繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満である繊維シート担体であることによって、分化誘導の再現性が高い分化誘導用担体を提供できることが判明した。
(分化細胞の収量の評価)
実施例2の繊維シート担体(PA300)を汎用平面担体のウェル底面に備える96ウェルプレート、比較例1のUltra−Webを汎用平面担体のウェル底面に備える96ウェルプレート、及び、汎用平面担体(Normal)を用意した。
次いで、ウェル底面に設けられた各担体、および、汎用平面担体におけるウェル底面に、10μg/mLのポリLリジン溶液(シグマアルドリッチ)を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ポリLリジン溶液上清を除き、10μg/mLのラミニン溶液を付与し、37℃ COインキュベータで一晩放置した。その後、ラミニン溶液上清を除くことで、Ultra−Webおよび汎用平面担体におけるウェル底面にラミニン処理を施した。
そして、各ウェルへマウスES細胞を播種することで、実施例2の繊維シート担体(PA300)上とUltra−Web上、および、汎用平面担体(ウェル底面)上にマウスES細胞を配置し、膵β細胞への分化誘導を実施した。なお、分化誘導は、STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE 2014;3:114−127に記載の方法により実施した。
分化培地での培養を開始してから17日目(すなわち、分化17日目)に、分化誘導の指標となるPdx1遺伝子を発現している細胞数をフローサイトメトリーにより測定し、全細胞に対する分化細胞の割合を算出することにより、分化細胞の収量を評価した。なお、測定値が高いほど分化細胞の収率が高いことを意味する。
結果を図8に示す。縦軸に示すPdx1遺伝子発現細胞の割合が、汎用平面担体(Normal)ではわずか1.7%であるのに対して、Ultra−Webでは7.5%まで向上したが、本発明の繊維シート担体(PA300)は更にUltra−Webの約2倍にまで向上しており、分化細胞の収率が高く、収量の点で優れていることがわかった。
以上から、本発明にかかる構成を備える繊維シート担体によって、分化細胞の収量が高い分化誘導用担体を提供できることが判明した。
本発明の分解誘導用担体は、再生医療や細胞移植に用いる細胞を培養・分化誘導するための担体として利用することができる。

Claims (2)

  1. 繊維シートの表面上に存在している細胞を分化誘導するために使用する、繊維シートからなる分化誘導用担体であって、前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における繊維の平均繊維径の変動係数が0.47未満である、分化誘導用担体。
  2. 前記繊維シートの、少なくとも細胞が接触する前記表面における平均孔径が5μm未満である、請求項1に記載の分化誘導用担体。
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